説明

ブレーキ装置

【課題】ストロークシミュレータが正常に作動しないときにも、運転者の意思を反映させて十分な制動効果を得る。
【解決手段】ブレーキバイワイヤの実行時に、ストロークシミュレータ12の閉故障を検出した場合には、マスタシリンダ圧Pmに応じた目標減速度Gpを、最終目標減速度Gtとして算出する。すなわち、ペダルストロークSsに応じた目標減速度Gsは考慮しない。ストロークシミュレータ12が閉故障を起こした場合には、正常時と比較して同一の踏力に対してペダルストロークSsが小さくなる傾向にあることから、マスタシリンダ圧Pmのみを考慮することで、運転者の制動意思よりも制動力が小さくなってしまうのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキバイワイヤを行うブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキバイワイヤを行うブレーキ装置として特許文献1に示すようなものが知られている。特許文献1に示すブレーキ装置は、運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作に対応する状態量として、ブレーキペダルのペダルストローク及びマスタシリンダ圧を検出する。そして、ペダルストローク及びマスタシリンダ圧の夫々から目標減速度を算出し、夫々に算出された目標減速度に重み付けを行い、それらの加重平均として最終目標減速度を算出する構成となっている。
【0003】
また、前記のようなブレーキ装置を搭載した車両では、ストロークシミュレータが設けられており、ブレーキバイワイヤを行う場合には、ストロークシミュレータとマスタシリンダとを連通し、ストロークシミュレータによりペダル反力やペダルストロークなどのペダルフィーリングを発生させている。
【特許文献1】特開平11−301434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のように、ペダルストローク及びマスタシリンダ圧の夫々から算出した目標減速度に重み付けを行い、それらの加重平均により最終目標減速度を算出すると、2つの状態量に基づいて算出するので、運転者の制動操作に対してより正確な最終目標減速度が得られる。しかしながら、ブレーキバイワイヤを行っているときに、ストロークシミュレータに閉故障が生じ、ストロークシミュレータとマスタシリンダとが連通されない状態になってしまった場合、運転者がブレーキペダルを踏み込んでも、ブレーキペダルが正常時ほどストロークしない、場合によってはほとんどストロークしない状態となる。この場合において、前記のように、ペダルストローク及びマスタシリンダ圧の夫々に応じた目標減速度に重み付けを行って最終目標減速度を算出すると、ペダルストロークが本来よりも小さくなる分、運転者が期待しているよりも低めの値が算出されるという問題があった。
本発明は前述の点に鑑みてなされたものであり、その課題は、例えば、ストロークシミュレータが正常に作動しないときにも、運転者の意思を反映させて十分な制動効果を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係るブレーキ装置は、ブレーキペダルの踏み込みに応じて制動流体圧を発生するマスタシリンダと、車輪を制動する制動力を発生するホイルシリンダと、前記マスタシリンダに連通し、ブレーキペダルの踏み込みに応じてペダルフィーリングを発生するストロークシミュレータと、前記マスタシリンダの流体圧及びブレーキペダルの踏み込みストロークに基づき目標制動力を算出し、前記目標制動力に応じて車両の制動力を制御する制御手段と、を備えるブレーキ装置において、前記制御手段は、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとを遮断している状態で、かつ、前記ストロークシミュレータが作動していないと判定すると、前記マスタシリンダの流体圧に基づき算出される目標制動力を最終的な目標制動力とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るブレーキ装置によれば、例えばストロークシミュレータに正常に作動せず、ペダルストロークが本来よりも小さくなってしまう場合にも、マスタシリンダ圧に基づいて最終目標減速度を算出することで、運転者の制動意思を反映させた十分な制動効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
(構成)
図1は、第1実施形態に係るブレーキ装置の概略構成図を示しており、図中符号1はブレーキペダル、符号2はブレーキペダル1の踏込に応じて昇圧されるマスタシリンダである。マスタシリンダ2は、2つの液圧系統を持つタンデムマスタシリンダであり、プライマリ側ピストン2c及びセカンダリ側ピストン2dが直列に配されて、2つの圧力発生室2a,2bを形成している。そして、プライマリ側の圧力発生室2aは、遮断弁(待機時開)3aを介して車輪5aに制動力を発生させるホイルシリンダ6aに連通し、セカンダリ側の圧力発生室2bは、遮断弁(待機時開)3bを介して車輪5bに制動力を発生させるホイルシリンダ6bに連通しており、これらのホイルシリンダ6a,6bに液圧が供給される。また、圧力発生室2a内にはスプリング2eが設置され、圧力発生室2bにはスプリング2fが設置されており、これらに付勢されて、前進したピストン2c,2dがノーマル位置に後退する。
【0008】
各ホイルシリンダ6a〜6dは、ディスクロータをブレーキパッドで挟圧して制動力を発生させるディスクブレーキや、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押圧して制動力を発生させるドラムブレーキに内蔵されている。
また、マスタシリンダ2に並設されたリザーバ8には、液圧発生装置9が接続されている。この液圧発生装置9は、電動モータ9aと当該電動モータ9aによって回転駆動されるポンプ9bとで構成される。
【0009】
そして、液圧発生装置9とホイルシリンダ6a〜6dとは常開電磁弁(待機時開)4a〜4dを介して夫々接続されており、液圧発生装置9から出力される液圧のホイルシリンダ6a〜6dへの供給を制御するように構成されている。さらに、ホイルシリンダ6a〜6dとリザーバ8とは常閉型電磁弁(待機時閉)11a〜11dを介して夫々接続されており、ホイルシリンダ6a〜6dからリザーバ8への液圧の排出を制御するように構成されている。
【0010】
つまり、常開電磁弁4a〜4d及び常閉型電磁弁11a〜11dを非励磁のノーマル位置にしたまま、遮断弁3a,3bを励磁して閉じると共に、液圧発生装置9を駆動することで、リザーバ8のブレーキ液を吸入し、その吐出圧によって、ホイルシリンダ6a〜6dの液圧を増圧することができる。
また、常閉型電磁弁11a〜11dを非励磁のノーマル位置にしたまま、遮断弁3a,3b及び常開型電磁弁4a〜4dを励磁して夫々を閉じることで、ホイルシリンダ6a〜6dからリザーバ8及び液圧発生装置9への各流路を遮断し、ホイルシリンダ6a〜6dの液圧を保持することができる。
【0011】
さらに、常閉型電磁弁11a〜11dを励磁して開くと共に、遮断弁3a,3b及び常開型電磁弁4a〜4dを励磁して夫々を閉じることで、ホイルシリンダ6a〜6dの液圧をリザーバ8に開放して減圧することができる。
さらに、遮断弁3a,3b、常開型電磁弁4a〜4d及び常閉型電磁弁11a〜11dの全てを非励磁のノーマル位置にすることで、マスタシリンダ2からの液圧がホイルシリンダ6a,6bに供給され、通常ブレーキとなる。
【0012】
また、マスタシリンダ2のセカンダリ側には、常閉型(待機時閉)の電磁弁であるストロークシミュレータカット弁13を介してストロークシミュレータ12が接続されている。ブレーキバイワイヤを行っているときは、遮断弁3a,3bが閉じられてマスタシリンダ2とホイルシリンダ6a,6bとを遮断すると共に、ストロークシミュレータカット弁13は開状態となり、マスタシリンダ2とストロークシミュレータ12とが接続され、ストロークシミュレータ12が作動状態となる。このストロークシミュレータ12は、シリンダと、マスタシリンダ2からの液圧に応じてストロークするピストン12aと、そのストロークに応じてピストン12aに弾性力を付与するコイルスプリング12bと、を備えて構成される。そして、上記のようにマスタシリンダ2とホイルシリンダ6a,6bとが遮断されているときに、ペダルストロークに応じてピストン12aがストロークすることで、ブレーキ液をシリンダ内部に吸収してペダルストロークを許容する。また、ストロークに伴ってコイルスプリング12bやシリンダ内部の気体が収縮することで、ホイルシリンダ6a,6bに代わってペダル反力を発生する。
【0013】
前記の遮断弁3a,3b、常開型電磁弁4a〜4d、常閉型電磁弁11a〜11d、ストロークシミュレータカット弁13及び液圧発生装置9は、コントロールユニット30によって駆動制御される。
コントロールユニット30は、例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置を備えて構成されている。そして、通常時には、後述する図2の制動力制御処理を実行することにより、遮断弁3a,3bを閉じた状態で、ストロークセンサ18で検出したペダルストロークSsと、マスタシリンダ圧センサ7a,7bで検出したマスタシリンダ圧Pmとに基づいてブレーキバイワイヤを実行する。このとき、ストロークシミュレータカット弁13は開いた状態とし、ストロークシミュレータ12を作動させる。また、ポンプ故障等のフェールセーフ時には、遮断弁3a,3bを開き、マスタシリンダ2からの液圧をホイルシリンダ6a,6bに伝達して通常ブレーキとする。このとき、ストロークシミュレータカット弁13を閉じることでストロークシミュレータ12にブレーキ液が流入しない構造とする。
【0014】
次に、コントロールユニット30で実行される制動力制御処理を、図2のフローチャートをもとに説明する。この処理は、予め設定された所定時間(例えば、10〜1000msec)毎のタイマ割込み処理として実行される。
まず、ステップS1で各種データを読み込む。具体的には、マスタシリンダ圧センサ7a,7b及びストロークセンサ18の検出値を読込む。
【0015】
続くステップS2では、図3の制御マップを参照し、マスタシリンダ圧Pmに基づき目標減速度Gpを算出する。この制御マップは、横軸をマスタシリンダ圧Pm、縦軸を目標減速度Gpとし、マスタシリンダ圧Pmが0から増加するときに目標減速度Gpが0から比例して増加するように設定されている。
続くステップS3で、図4の制御マップを参照し、ペダルストロークSsに基づき目標減速度Gsを算出する。この制御マップは、横軸をペダルストロークSs、縦軸を目標減速度Gsとし、ペダルストロークSsが0から増加するときに目標減速度Gsが0から増加し、ペダルストロークSsが大きいほど目標減速度Gsの増加率が大きくなるように設定されている。
【0016】
続くステップS4では、最終目標減速度Gtを演算する際の各目標減速度Gp,Gsの寄与度を、ストロークシミュレータ12の作動状態に応じて決定する。
ところで、ブレーキバイワイヤを実行しているときは、ストロークシミュレータカット弁13を開いてストロークシミュレータ12を作動状態とするが、ストロークシミュレータ12に閉故障(ストロークシミュレータカット弁13が閉じたままの状態)が起きることがある。例えば、ストロークシミュレータカット弁13でソレノイドに電流を供給する配線に断線が起こった場合などは、コントロールユニット30から開状態とするための制御信号を出しているにもかかわらず、ストロークシミュレータカット弁13は閉じたままの状態となってしまう。また、ブレーキバイワイヤが実行されている状態では、上述のように遮断弁3a,3bも閉鎖されている。
【0017】
この状態でブレーキペダル1が踏み込まれた場合、ストロークシミュレータカット弁13が開いているときのようにブレーキ液がストロークシミュレータ12内部に吸収されないため、ストロークシミュレータ12が正常に作動する場合と比較して、同一踏力であってもペダルストロークが減少する。したがって、ストロークシミュレータ12が正常に作動しないときに、正常に作動しているときと同様に最終目標減速度Gtを算出すると、正常に作動しているときと比較してペダルストロークが減少した分、同一の踏力に対して最終目標減速度Gtが低く演算されてしまう。
【0018】
そこで、第1実施形態では、ストロークシミュレータ12の作動状態に応じて寄与度の演算方法を変更することで、最終目標減速度Gtの算出値が小さくなってしまうことを防止する。この寄与度の決定処理を、図5のフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS41で、ストロークシミュレータカット弁13から状態検知信号を取得する。ここでは、ストロークシミュレータカット弁13のソレノイドに流れるソレノイド通過電流波形(あるいはこのソレノイド通過電流波形に応じた電圧波形)を取得する。
【0019】
続くステップS42では、ステップS41で取得したストロークシミュレータカット弁13の状態検知信号に基づいて、ストロークシミュレータ12に閉故障が生じているか否かを判定する。ここでは、ストロークシミュレータカット弁13で断線が起こったか否かを判定する。具体的には、上記ソレノイド通過電流波形が、ストロークシミュレータカット弁が開状態であるときに出力される波形であるか否かを判定し、開状態であるときに出力される波形でない場合には断線が生じていると判定する。そして、断線が生じていないと判定した場合(No)にはステップS43に移行し、断線している場合(Yes)にはステップ44に移行して、夫々異なる方法で寄与度を算出する。
【0020】
ステップS43では、ステップS42でストロークシミュレータ12が正常に作動していると判定されたので、図6に示すような制御マップ関数Fα(Pm)を用い、最終目標減速度Gtに対する目標減速度Gpの寄与度αをマスタシリンダ圧Pmに基づき算出する。この制御マップ関数Fα(Pm)は、マスタシリンダ圧Pmを変数とした寄与度αの関数であり、寄与度αが0から1の範囲で、マスタシリンダ圧Pmの増加に応じて増加するように設定されている。また、目標減速度Gpの寄与度αをもとに、下記(1)式に示すように、目標減速度Gsの寄与度βも算出する。
β=1−α ・・・(1)
【0021】
ステップS44では、ステップS42でストロークシミュレータ12が作動していないと判定されたので、正常時とは異なり、目標減速度Gpの寄与度αを1、及び、目標減速度Gsの寄与度βを0(ゼロ)と定数に設定する。
以上のようにして寄与度α及びβを決定すると、図2のステップS5に移行する。ステップS5では、下記(2)式に示すように、目標減速度Gp及びGsと、寄与度α及びβとに基づき最終目標減速度Gtを算出する。
Gt=α・Gp+β・Gs ・・・(2)
【0022】
ここで、前記(2)式によれば、寄与度αが大きいほど、最終目標減速度Gtに対するマスタシリンダ圧Pmの寄与度は大きくなり、寄与度βが大きいほど、ペダルストロークSsの寄与度は大きくなる。
続くステップS6では、最終目標減速度Gtを達成するのに必要な制動力が発生するように、常開型電磁弁4a〜4d、常閉型電磁弁11a〜11d及び液圧発生装置9を駆動制御して、所定のメインプログラムに復帰する。
以上より、図2の制動力制御処理が「制御手段」に対応し、最終目標減速度Gtが「最終的な目標制動力」に対応している。
【0023】
(作用効果)
次に、第1実施形態の動作や作用効果について説明する。
今、通常のブレーキバイワイヤを行っているとする。すなわち、遮断弁3a,3bを閉鎖した状態で、常開型電磁弁4a〜4d、常閉型電磁弁11a〜11d及び液圧発生装置9を駆動制御し、ホイルシリンダ6a〜6dにより運転者のブレーキ操作に基づき算出された最終目標減速度Gtを実現するための制動力を発生させる。
この最終目標減速度Gtは、前述したように、マスタシリンダ圧Pmに基づいた目標減速度GpとペダルストロークSsに基づいた目標減速度Gsとを算出し(ステップS2,S3)、目標減速度Gpの寄与度α及び目標減速度Gsの寄与度βを算出し、これら寄与度α及びβにより目標減速度Gs及びGpに重み付けを行って算出する(ステップS4)。
【0024】
このとき、ストロークシミュレータ12が正常に作動している状態で、ブレーキペダル1が踏み込まれたものとすると、寄与度αは、制御マップ関数Fαに基づきマスタシリンダ圧Pmに応じた値に算出される。また、寄与度βは、寄与度αとの合計が1になるように設定され((1)式)、従って前記(2)式による最終目標減速度Gtは、目標減速度GpとGsの加重平均として求められる。すなわち、最終目標減速度Gtは、寄与度αが大きいほど、マスタシリンダ圧Pmに基づいた目標減速度Gpに近い値に、寄与度αが小さいほど、ペダルストロークSsに基づいた目標減速度Gsに近い値となる。従って、図6の制御マップ関数Fαを用いると、マスタシリンダ圧Pmが小さいほどペダルストロークSs重視で、またマスタシリンダ圧Pmが大きいほど、つまり運転者の制動意思が強く、ブレーキペダル1の踏力が大きいほど、マスタシリンダ圧Pm重視で、最終目標減速度Gtが算出されることになる。
【0025】
このように、ブレーキバイワイヤが実行され、ストロークシミュレータ12が作動状態にあるときには、各ブレーキ装置の特性等を反映した制御マップ関数を用い、マスタシリンダ圧Pmに基づき、マスタシリンダ圧Pm及びペダルストロークSsの寄与度を最適に設定することで、運転者の制動意思を確実に反映させた制動効果を得ることができる。
【0026】
一方、ブレーキバイワイヤの実行時、ストロークシミュレータ12が閉故障を起こしている状態で、ブレーキペダル1が踏み込まれたものとすると、ストロークシミュレータ12の正常時とは異なる方法によって、寄与度α及びβが設定される(ステップS44)。すなわち、マスタシリンダ圧Pmの大きさにかかわらず、寄与度αが1に、寄与度βが0に固定的に設定され、最終目標減速度Gtは、マスタシリンダ圧Pmに応じた目標減速度Gpの値そのままに算出される。つまり、ペダルストロークSsに応じた目標減速度Gsについては、最終目標減速度Gtの算出に用いていない。
【0027】
前述のように、ストロークシミュレータ12が閉故障を起こしているときは、正常時と比較し、同一踏力に対するペダルストロークSsが小さくなるため、目標減速度Gsも小さく算出されてしまう。しかし、第1実施形態では、目標減速度Gsの寄与度βを0とし、マスタシリンダ圧Pmに応じた目標減速度Gpのみに基づいて最終目標減速度を算出しているので、運転者の制動意思よりも最終目標減速度Gtが小さくなるのを防止でき、運転者の意思を確実に反映させた十分な制動効果を得ることができる。
【0028】
以上、第1実施形態について説明したが、本発明の適用は前記の第1実施形態に限定されるものではない。例えば、前記の第1実施形態では、ソレノイド通過電流波形を検出することでストロークシミュレータ12の閉故障を検出しているが、これに限られず、例えば、マスタシリンダ圧Pm−ペダルストロークSs特性の変化に基づいて閉故障を検出してもよい。すなわち、ストロークシミュレータカット弁13の閉故障が起きると、図10に示すように、正常時と比較して、マスタシリンダ圧Pmに対するペダルストロークSsの上昇が少なくなることから、この特性変化が許容範囲内か否かを判定することによっても、閉故障の発生を検出することができる。この特性比較による検出は、前記第1実施形態のステップS41〜S42の検出と併せて、又は、これに代えて行うことができる。
【0029】
また、ストロークシミュレータ12は、図1に示したような構成に限定されるものではない。例えば、マスタシリンダ2と一体的に構成されるものや、マスタシリンダ2のプライマリ側に接続されるものであってもよい。
その他、前記の第1実施形態では、ステップS43の処理で、マスタシリンダ圧Pmのみに基づき寄与度αを算出しているが、これに限定されるものではない。すなわち、ペダルストロークSsのみに基づき寄与度βを算出したり、ペダルストロークSsとマスタシリンダ圧Pmの双方に基づき寄与度α,βを夫々算出したりしてもよい。また、図6の制御マップ関数では、連続的に寄与度αを変化させているが、これに限定されるものではなく、マスタシリンダ圧Pmに基づきステップ状に寄与度αを変化させてもよい。
【0030】
さらに、前記の第1実施形態では、液圧を伝達媒体にしたハイドロリックブレーキを採用しているが、これに限定されるものではなく、圧縮空気を伝達媒体にしたエアブレーキを採用してもよい。
また、前記の第1実施形態では、流体圧を利用したブレーキバイワイヤを行っているが、これに限定されるものではない。ブレーキバイワイヤに関しては制動力制御を行うことができればよいので、電動アクチュエータを駆動制御することで、ディスクロータをブレーキパッドで挟圧したり、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押圧したりする電動ブレーキや、回生モータブレーキ等、電子制御可能なエネルギー源を備えていれば、如何なるブレーキでもよい。
【0031】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
(構成)
第2実施形態に係るブレーキ装置の構成は、図1に示したものと同様であり、コントロールユニット30の動作も図2のフローチャートに示す通りであるが、ステップS4の処理で、ブレーキペダル1踏み込み初期のロスストローク領域を考慮した補正を行っている点で第1実施形態と異なっている。
【0032】
ここで、第2実施形態にいうロスストローク領域は、ブレーキペダル1が踏み込まれてピストン2c,2dが前進する際に、圧力発生室2a又は2bとリザーバ8との連通状態を維持したままストロークする領域である。図7に示す一般的なタンデムマスタシリンダ2では、当該ピストン2c,2d端部に装着されたピストンカップ2g,2hが、ノマール位置から前進し、リザーバ8との連通孔であるリターン・ポート2i,2jを通過して圧力発生室2a,2bとリターン・ポート2i,2jとの連通状態を遮断するまでのストローク領域D1,D2である。このロスストローク領域においては、リザーバ8と圧力発生室2a,2bが連通しているため、圧力発生室2a,2bが大気圧に近い状態に保たれる。このため、ブレーキペダル1の踏み込みに応じてペダルストロークSsが大きくなるものの、ペダルストロークSsに比較してマスタシリンダ圧Pmの上昇が小さい。これは、ストロークシミュレータ12が閉故障を起こしているか否かに関わらず存在する領域であるが、閉故障を起こしている場合、ロスストローク領域を超えてさらにピストン2c,2dが前進すると、マスタシリンダ圧Pm−ペダルストロークSs特性が反転し、逆にペダルストロークSsに比較してマスタシリンダ圧Pmの上昇が大きくなる。
【0033】
そこで、第2実施形態では、第1実施形態の寄与度の算出ステップ(S4)を、図8のフローチャートのように行う。すなわち、ステップS41〜S43は第1実施形態と同様であるが、ステップS42で閉故障を検出した場合(Yes)には、ステップS44′において、目標減速度Gpの寄与度α及び目標減速度Gsの寄与度βを共に‘1’に設定する。従って、閉故障が検出された場合に、ステップS5において算出される最終目標減速度Gtは、下記(3)式に示すように目標減速度GpとGsとを重み付けをせずに加算した値となる。
Gt=Gp+Gs ・・・(3)
そして、ステップS5により算出された最終目標減速度Gtを実現するように、常開型電磁弁4a〜4d、常閉型電磁弁11a〜11d及び液圧発生装置9が駆動制御される(ステップS6)。
【0034】
(作用効果)
次に、第2実施形態を前記のように構成した効果について、図9をさらに参照して説明する。図9は、前記構成のブレーキ装置において、ブレーキバイワイヤを行いかつストロークシミュレータ12に閉故障が生じている状態で、ブレーキペダル1が踏み込まれたときのマスタシリンダ圧Pmに応じた目標減速度Gp、ペダルストロークSsに応じた目標減速度Gs、及び、最終目標減速度Gtを時間変化の例を示したグラフである。
【0035】
図9において、ブレーキペダル1踏み込み当初のロスストローク領域(t1時点以前)では、ペダルストロークSsが増加し、これに伴ってペダルストロークSsに応じた目標減速度Gsも増加している。一方、マスタシリンダ圧Pmはほとんど上昇しておらず、このためマスタシリンダ圧Pmに応じた目標減速度Gpは略ゼロで推移している。この結果、最終目標減速度Gtは、ペダルストロークSsに応じた目標減速度Gsに略等しくなっている。
【0036】
もし、マスタシリンダ圧Pmのみ又はマスタシリンダ圧Pmにも寄与度を分散させた加重平均によって、最終目標減速度Gtを求めると、マスタシリンダ圧Pmはこの領域でほとんど増加しないことから、最終目標減速度Gtが運転者の制動意思よりも低く算出されてしまう。そこで、ペダルストロークSsの寄与度を1とすることで、ロスストローク領域においても運転者の意思を確実に反映した制動効果を得ることができる。
【0037】
一方、運転者の制動意思が大きく、非ロスストローク領域(t1時点より後)までブレーキペダル1が踏み込まれると、t1時点を境にマスタシリンダ圧Pm−ペダルストロークSs特性が反転する。すなわち、t1時点を過ぎると、マスタシリンダ圧Pmは踏力の増加に応じて上昇するものの、ペダルストロークSsの増加は小さくなり、図9の例ではほとんど増加していない。このように特性が急激に変化した状態で、ストロークシミュレータ12の正常時のように、制御マップ関数Fαに基づいて寄与度αを漸次増加させると、t1時点を過ぎてほとんど増加しない目標減速度Gsに寄与度を分散させる分、最終目標減速度Gtが小さく算出されてしまう。このようにして最終目標減速度Gtを算出した場合を図9に破線で示す。これに対し、本発明を適用した場合(図9の実線)には、マスタシリンダ圧Pmに応じた目標減速度Gpをそのまま加算しているので、非ロスストローク領域での踏力の増分が割り引かれずにそのまま最終目標減速度Gtに反映される。従って、運転者の制動意思を反映した十分な制動効果を得ることができる。
【0038】
ところで、ストロークシミュレータ12が正常に作動するときも、ロスストローク領域ではペダルストロークSs重視で、踏力が大きくなる程、マスタシリンダ圧Pm重視で最終目標減速度Gtを算出する。このとき、t1時点を境に急激に寄与度を切り替えることなく、踏力に応じてマスタシリンダ圧Pmの寄与度を漸次増加させることで、踏力が大きくなると制動力も大きくなるという制動効果の線形性を実現している。
【0039】
これに対し、ストロークシミュレータ12が閉故障した場合は、寄与度を漸次増加させているわけではない。しかし、前記(3)式のように算出することで、最終目標減速度Gtは、結果的には、ロスストローク領域及び非ロスストローク領域を通して、踏力に応じて連続的かつ滑らかに変化する値として与えられている。すなわち、図9の例では、ロスストローク領域では踏力に応じてペダルストロークSsが変化し、マスタシリンダ圧Pmはほとんど変化せず、最終目標減速度Gtは目標減速度Gsと略同じ値として求められる。t1時点以後、ペダルストロークSsがほとんど変化しなくなり、マスタシリンダ圧Pmが踏力に応じて変化し始めると、最終目標減速度Gtは、t1時点における目標減速度Gsに、踏力の増加を反映した目標減速度Gpを加えた値として求められる。従って、ロスストローク領域から非ロスストローク領域への切り替え時点で、ロスストローク領域で算出された最終目標減速度Gt(≒Gs)が引き継がれ、これに踏力の増分に応じた目標減速度Gpが加えられていくので、最終目標減速度Gtが切り替え前の値より小さくなるなどの事態を防止できる。すなわち、踏力が大きくなると制動力が大きくなるという線形性が確保され、運転者の制動意思を確実に反映した制動効果を得ることができる。
【0040】
以上、第2実施形態について説明したが、本発明の適用は前記の第2実施形態に限定されるものではない。例えば、前記の第2実施形態のように最終目標減速度Gtの算出に(3)式を用いる場合に限られない。例えば、ロスストローク領域から非ロスストローク領域に切り替わる時点を例えばペダルストロークSsにより判定し、ロスストローク領域のときは最終目標減速度Gtを目標減速度Gsとし、非ロスストローク領域のときは最終目標減速度Gtを目標減速度Gtとして算出してもよい。但し、前記のように(3)式を用いると、ロスストローク領域と非ロスストローク領域の切り替え時点での最終目標減速度Gtの落ち込み等を防ぎ、連続的かつ滑らかな最終目標減速度Gtが得られるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1実施形態に係るブレーキ装置の概略構成図である。
【図2】制動力制御処理を示すフローチャートである。
【図3】目標減速度Gpの算出に用いる制御マップである。
【図4】目標減速度Gsの算出に用いる制御マップである。
【図5】第1実施形態の寄与度の決定処理を示すフローチャートである。
【図6】寄与度の算出に用いる制御マップである。
【図7】ロスストロークを説明する図である。
【図8】第2実施形態の寄与度の決定処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明の作用効果を説明するグラフである。
【図10】マスタシリンダ圧とペダルストロークの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 ブレーキペダル
12 ストロークシミュレータ
12a ピストン
12b コイルスプリング
13 ストロークシミュレータカット弁
17 インプットロッド
18 ストロークセンサ
2 マスタシリンダ
2a,2b 圧力発生室
2c,2d ピストン
2e,2f スプリング
2g,2h ピストンカップ
2i、2j リターン・ポート
3a,3b 遮断弁
4a〜4d 常開型電磁弁
11a〜11d常閉型電磁弁
5a〜5d 車輪
6a〜6d ホイルシリンダ
7a,7b マスタシリンダ圧センサ
8 リザーバ
9 液圧発生装置
9a 電動モータ
9b ポンプ
30 コントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの踏み込みに応じて制動流体圧を発生するマスタシリンダと、
車輪を制動する制動力を発生するホイルシリンダと、
前記マスタシリンダに連通し、ブレーキペダルの踏み込みに応じてペダルフィーリングを発生するストロークシミュレータと、
前記マスタシリンダの流体圧及びブレーキペダルの踏み込みストロークに基づき目標制動力を算出し、前記目標制動力に応じて車両の制動力を制御する制御手段と、を備えるブレーキ装置において、
前記制御手段は、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとを遮断している状態で、かつ、前記ストロークシミュレータが作動していないと判定すると、前記マスタシリンダの流体圧に基づき算出される目標制動力を最終的な目標制動力とすることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ブレーキペダルの踏み込みストロークに基づき算出される目標制動力で、前記最終的な目標制動力を補正することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記補正は、ブレーキペダルの踏み込みに応じ前記マスタシリンダの流体圧が増加し始めるまでのロスストローク領域においては、前記マスタシリンダの流体圧に基づき算出される目標制動力に代わって、前記ブレーキペダルの踏み込みストロークに基づき算出される目標制動力を、最終的な目標制動力において支配的とする補正であることを特徴とする請求項2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記ブレーキペダルの踏み込みストロークに基づき算出される目標制動力を、前記マスタシリンダの流体圧に基づき算出される目標制動力に加算して、前記補正を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記ストロークシミュレータと前記マスタシリンダとの間を開閉するストロークシミュレータカット弁を備え、
前記制御手段は、前記ストロークシミュレータカット弁が開状態にならないときに、前記ストロークシミュレータが作動していないと判定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項6】
ブレーキペダルの踏む込み、及び、マスターシリンダの流体圧に基づき算出される目標制動力から、車両の制動力を制御するブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの踏み込みに応じたペダルフィーリングを発生するストロークシミュレータが作動していないときは、前記マスターシリンダの流体圧に基づき算出される目標制動力を最終的な目標制動力とすることを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−162535(P2008−162535A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356838(P2006−356838)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】