説明

ブレーキ装置

【課題】ブレーキコイルが発生する磁束の影響を受けず、可動鉄心が静止している状態においても、可動鉄心の位置を検出することのできるブレーキ装置を提供する。
【解決手段】固定鉄心2と、固定鉄心2の周囲に巻回されたブレーキコイル5と、ブレーキコイル5が発生する磁束によって固定鉄心2に吸引される可動鉄心3とを備えたブレーキ装置において、固定鉄心2と可動鉄心3との間の距離を自己インダクタンスの変化として検出する検出コイル6を固定鉄心2に備え、検出コイル6は二重環形式で2つのコイルは互いに逆方向に巻回されて直列に接続され、かつ、巻数と面積がブレーキコイル5が発生する磁束との鎖交数が略零になるように構成されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、エレベータ巻上機の電磁ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のブレーキ装置は、ブレーキの開閉状態をモニタするために、可動鉄心のストロークをレバーで拡大し、マイクロスイッチを開閉させて検出している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、固定鉄心と可動鉄心との間のエアギャップの大きさを測定するために、ブレーキコイルが発生する磁束の変化をサーチコイルで検出し、検出信号を信号処理して所望量を得るものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
上記のように構成された従来のブレーキ装置は、機械的あるいは電磁的手段によって、可動鉄心の開閉状態あるいはエアギャップの大きさを検出することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−194076号公報(第5頁、図1)
【特許文献2】特許2004−137060号公報(第8頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のようなブレーキ装置にあっては、マイクロスイッチそのもののコストに加え、レバーやマイクロスイッチを組立調整するために一定の時間を要し、製造コストがかかるという問題点があった。
【0007】
また、機械室レスエレベータ等に用いられる薄型の巻上機においては、レバーやマイクロスイッチの取付けスペースを確保することが設計上困難であるという問題点があった。
【0008】
一方、上記特許文献2のようなブレーキ装置にあっては、磁束の変化が可動鉄心の移動時にしか生じないため、可動鉄心が静止している場合は可動鉄心の位置を検出できず、従ってブレーキの開閉状態をモニタする手段としては用いることができないという問題点があった。
【0009】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、可動鉄心の位置を低コストかつ省スペースな手段によって検出できるブレーキ装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るブレーキ装置は、固定鉄心と、上記固定鉄心の周囲に巻回されたブレーキコイルと、上記ブレーキコイルが発生する磁束によって上記固定鉄心に吸引される可動鉄心とを備えたブレーキ装置において、
上記固定鉄心と上記可動鉄心との間の距離を自己インダクタンスの変化として検出する検出コイルを上記固定鉄心に備え、
上記検出コイルは上記ブレーキコイルが発生する磁束との鎖交数が略零になるように構成されているものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係るブレーキ装置よれば、可動鉄心が静止した状態でも可動鉄心の位置を検出することができ、また、ブレーキコイルが発生する磁束の影響を受けなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明に係るブレーキ装置の実施の形態1を示す斜視図、図2は、図1の平面図(a)及び正面図(b)、図3は、図2のI−I断面図、図4は、図2のII−II断面図、図5は、図1における検出コイルの詳細を示す斜視図である。
【0013】
図に示したように、ブレーキ装置1は、固定鉄心2、可動鉄心3、反発バネ4a、4b、ブレーキコイル5、検出コイル6及び励磁電源(図示せず)を備える。
【0014】
固定鉄心2は略E字状形状を成しており、中央部に突設された内極7と、内極7の両側に突設された2つの外極8a、8b、及び、内極7と外極8a、8bとを接続する継鉄部9とを備える。一方、可動鉄心3は略直方体形状を成しており、その一端面が固定鉄心2の内極7及び外極8a、8bの各端面と接離するように構成されている。
【0015】
内極7の平面には2箇所の円筒状凹部が設けられており、その内部に反発バネ4a、4bが配設されている。また、内極7の側面周囲にはブレーキコイル5が巻回されている。さらに、内極7の平面中央部には深さ0.1mm程度のごく浅い凹部が設けられており、その凹部内に検出コイル6が配設されている。
【0016】
図5に示したように、検出コイル6はフレキシブルプリント配線板(FPC)に形成されており、プリント配線基板6cに形成された検出コイル6の導体部分は二重環形状を成しており、外周部の第1部分コイル6aと内周部の第2部分コイル6bとに分かれている。2つの部分コイル6a、6bの巻回方向は互いに逆方向であり、両者は直列に接続されている。また、2つの部分コイル6a、6bの巻数N、Nと面積S、Sは、ブレーキコイル5が発生する磁束(磁束密度B)によって生じるそれぞれの鎖交磁束Ψ、Ψが互いに略等しくなるように、すなわち下記(式1)が成立するように構成されている。
【0017】
Ψ≒Ψ…(式1)
ここで、Ψ=N∫SBda,Ψ=N∫SBda
【0018】
図6及び図7は、この実施の形態1におけるブレーキ装置の作用を説明するための断面図である。
ブレーキコイル5は直流電源によって励磁される。ブレーキコイル5が励磁されると、図6に示したように、ブレーキ磁束11が「内極7→エアギャップ10→可動鉄心3→エアギャップ10→外極8a、8b→内極7」の順に連なる磁気回路に流れる。このとき生じる電磁力によって可動鉄心3が固定鉄心2に吸引される。逆に、ブレーキコイル5の励磁を解くとブレーキ磁束11と電磁力は消滅し、可動鉄心3は反発バネ4a、4bの作用によって固定鉄心2から離間される。
【0019】
一方、検出コイル6は交流電源によって励磁される。検出コイル6が励磁されると、図7に示したように、検出磁束12が「第2部分コイル6b内部→エアギャップ10→可動鉄心3→エアギャップ10→第1部分コイル6aと第2部分コイル6bの間隙部→内極7→第2部分コイル6b内部」の順に連なる磁気回路に交番して流れる。発生する検出磁束12の大きさは、検出コイル6に流れる電流が一定の場合はエアギャップ10の大きさに逆比例する。したがって、検出コイル6の自己インダクタンスは、エアギャップ10が大きいときは小さくなり、エアギャップ10が小さいときは大きくなる。この自己インダクタンス変化によるインピーダンス変化をブリッジ回路等を用いて検出することによって、エアギャップ10の大きさを検出することができる。
【0020】
なお、検出コイル6が発生する検出磁束12は、ブレーキコイル5が発生するブレーキ磁束11に比較して非常に小さいため、可動鉄心3の動作には影響を及ぼさない。逆に、ブレーキコイル5が発生するブレーキ磁束11によって生じる検出コイル6の鎖交磁束は、第1部分コイル6aの鎖交磁束Ψと第2部分コイル6bの鎖交磁束Ψとが互いに打ち消しあうため、略零になる。したがって、検出コイル6はブレーキ磁束5の変化の影響を受けない。
【0021】
以上の説明のように、この実施の形態1によるブレーキ装置1は以下の特長を有する。 第一に、検出コイル6にフレキシブルプリント配線板を用いることにより、取付けスペースを小さくできる。
第二に、検出コイル6を交流電源でブレーキコイル5と独立して励磁することにより、可動鉄心3が静止している状態でも可動鉄心3の位置を検出することができる。
第三に、第1部分コイル6aと第2部分コイル6bの巻数と面積を適切に設定することにより、ブレーキ磁束5の影響を受けることなく可動鉄心3の位置を検出することができる。
【0022】
実施の形態2.
図8は、この発明に係るブレーキ装置の実施の形態2を示す断面図、図9は、この実施の形態2におけるブレーキ装置の作用を説明するための断面図である。
【0023】
図8に示したように、検出コイル6は、二重環ではなく、別の位置に独立した2個の部分コイル6a、6bで構成する。
【0024】
この実施の形態2では、巻数と面積が同じ部分コイル6a、6bを左右対称位置に配設し、直列接続している。結線の向きは、部分コイル6a、6bが発生する検出磁束が互いに逆向きとなるようになっている。
【0025】
したがって、検出コイル6が発生する検出磁束12は、図9に示したように、「第1部分コイル6a→エアギャップ10→可動鉄心3→エアギャップ10→第2部分コイル6b→内極7→継鉄部9→内極7→第1部分コイル6a」の順に連なる磁気回路を流れ、上記実施の形態1と同様に、ブレーキコイル5が発生するブレーキ磁束11によって生じる検出コイル6の鎖交磁束は、第1部分コイル6aの鎖交磁束Ψと第2部分コイル6bの鎖交磁束Ψとが互いに打ち消しあうため、略零になる。
【0026】
この実施の形態2によれば、同じ部分コイルを使用することができるので、検出コイル6の設計が容易になり、また、取付け箇所の自由度も増す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明に係るブレーキ装置の実施の形態1を示す斜視図である。
【図2】図1の平面図(a)及び正面図である。
【図3】図2のI−I断面図である。
【図4】図2のII−II断面図である。
【図5】図1における検出コイルの詳細を示す斜視図である。
【図6】この実施の形態1におけるブレーキ装置の作用を説明するための断面図である。
【図7】この実施の形態1におけるブレーキ装置の作用を説明するための断面図である。
【図8】この発明に係るブレーキ装置の実施の形態2を示す断面図である。
【図9】この実施の形態2におけるブレーキ装置の作用を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ブレーキ装置、2 固定鉄心、3 可動鉄心、4a,4b 反発バネ、
5 ブレーキコイル、6 検出コイル、6a,6b 部分コイル、7 内極、
8a,8b 外極、9 継鉄部、10 エアギャップ、11 ブレーキ磁束、
12 検出磁束。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定鉄心と、上記固定鉄心の周囲に巻回されたブレーキコイルと、上記ブレーキコイルが発生する磁束によって上記固定鉄心に吸引される可動鉄心とを備えたブレーキ装置において、
上記固定鉄心と上記可動鉄心との間の距離を自己インダクタンスの変化として検出する検出コイルを上記固定鉄心に備え、
上記検出コイルは上記ブレーキコイルが発生する磁束との鎖交数が略零になるように構成されていることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
上記検出コイルは略二重環形状を成す2個の部分コイルから成り、上記2個の部分コイルは、上記ブレーキコイルが発生する磁束との鎖交数がそれぞれ略等しくなるように巻数と面積が設定されており、かつ、上記2個の部分コイルは上記鎖交数の和が略零になるような向きに結線されていること特徴とする請求項1記載のブレーキ装置。
【請求項3】
上記検出コイルは同一形状の2個の部分コイルから成り、上記2個の部分コイルは、上記ブレーキコイルが発生する磁束に対して対称な位置に配設され、かつ、上記2個の部分コイルは、上記鎖交数の和が略零になるような向きに結線されていること特徴とする請求項1記載のブレーキ装置。
【請求項4】
上記検出コイルはフレキシブルプリント配線板に形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−281152(P2008−281152A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127578(P2007−127578)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】