説明

プラズマ処理用マグネトロン電極

【課題】異常放電が少なく、長時間安定的に放電可能なプラズマ処理用マグネトロン電極、及び異常放電に伴うダスト発生を抑制した成膜方法を提供する。
【解決手段】カソードケース101の開口部にバッキングプレート103を設け、その上にターゲット102が設けられ、カソードケースの中央部に主磁石105がターゲット側がS極の向きで設けられ、主磁石を取り囲むように補助磁石106がN極向きで設けられる。第二電極104を、第一電極101,102,103の外側磁極111の内側端部よりも外側か、または磁束密度の低い部分にのみ設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理用マグネトロン電極に関する。
【背景技術】
【0002】
真空薄膜成膜法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法などいろいろな成膜方法があり、要求膜特性と生産性の兼ね合いなどにより最適な成膜方法が選択される。中でも合金系材料の成膜や、大面積に均質な膜を成膜したい要求がある場合などには、一般的にスパッタ法が用いられることが多い。スパッタ法は他の成膜方法に比べて成膜速度を上げにくく、生産性が低いと言う大きな欠点があったが、マグネトロンスパッタ法などのプラズマ高密度化技術の確立などにより成膜速度向上が図られている。
【0003】
非特許文献1にマグネトロン放電のしくみがわかりやすく解説されている。簡単に言えば磁束のループで電子をトラップしてプラズマを高密度化させる技術である。この技術をスパッタ電極に応用したマグネトロンスパッタ法は、高密度プラズマがスパッタリングを促進するので成膜速度を向上させることが出来る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】菅井秀郎他著、「プラズマエレクトロニクス」、オーム社出版、平成12年8月発行、p99〜101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
背景技術の項で述べたように、マグネトロンスパッタ技術は成膜速度向上のキー技術であるものの、現実の装置運用においては様々な課題がある。なかでもアーク放電等の異常放電は、ダストの発生を招いてワークに品質上の欠点を生じさせる懸念があるため、様々な工夫を施して異常放電抑制を図りつつ運用している。異常放電抑制のための検討実験において発明者らは、マグネトロンプラズマ電極の磁気回路において比較的磁場が強い部分にアノード電位となる部材が存在するとき、その部材が異常放電を誘発し易くなるという知見を得た。本発明の目的は、その異常放電を抑制できる構成を確立し、異常放電の少ない安定したマグネトロン電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、放電面を有する第一電極と、前記第一電極の放電面側にマグネトロン用磁気回路を構成する磁石と、前記第一電極との間に電位差を付与できるように前記第一電極から電気的に絶縁された第二電極とを少なくとも備えたプラズマ処理用マグネトロン電極であって、前記第二電極は前記第一電極から放電面に垂直な方向に隙間を持って前記第一電極の放電面を覆うように配設され、前記第二電極の内側端部は、前記磁気回路の外側磁極の内側端面よりも外側で、かつ前記第一電極の外側端面よりも内側に存在するプラズマ処理用マグネトロン電極を提供する。
【0007】
また、本発明の好ましい形態は、前記第二電極の前記第一電極と反対側の表面において、前記第二電極に対して垂直方向の磁束密度が20ミリテスラを超えない位置に前記第二電極を配設してなるプラズマ処理用マグネトロン電極を提供する。
【0008】
また、本発明の別の形態は、放電面を有する第一電極と、前記第一電極の放電面側にマグネトロン用磁気回路を構成する磁石と、前記第一電極との間に電位差を付与できるように前記第一電極から電気的に絶縁された第二電極とを少なくとも備えたプラズマ処理用マグネトロン電極であって、前記第二電極の前記第一電極と反対側の表面において、前記第二電極に対して磁束密度が20ミリテスラを超えない位置に前記第二電極を配設し、かつ、前記第二電極の内側端部は、前記第一電極の外側端面よりも内側に存在するプラズマ処理用マグネトロン電極を提供する。
【0009】
また、本発明の好ましい形態は、前記磁気回路の外側磁極の内側端面に補助磁石を配設してなるプラズマ処理用マグネトロン電極を提供する。
【0010】
また、本発明の好ましい形態は、前記第一電極と前記第二電極との隙間から前記第一電極の放電面近傍の放電空間にガスを放出するよう構成したプラズマ処理用マグネトロン電極を提供する。
【0011】
また、本発明の好ましい形態は、前記第一電極から隙間を空けて前記第一電極の放電面以外を取り囲むように絶縁体を配設し、前記第一電極の放電面の反対側の前記絶縁体部材にチャンバーを設け、前記チャンバーへガスを導入し、前記チャンバーと接続された前記第一電極と前記絶縁体との隙間をガス流路とし、前記第一電極と前記第二電極との隙間から前記第一電極の放電面近傍の放電空間に前記ガスを放出するよう構成したプラズマ処理用マグネトロン電極を提供する。
【0012】
また、本発明の別の形態は、上記のプラズマ処理用マグネトロン電極を用いたスパッタ電極であって、前記第一電極はターゲットとバッキングプレートとを少なくとも有し、前記バッキングプレートは冷却水によって冷却され、前記ターゲットは前記バッキングプレートに接触することにより冷却され、前記ターゲットと前記バッキングプレートとは脱着可能に組み立てられているマグネトロンスパッタ電極を提供する。
【0013】
また、本発明の好ましい形態は、真空槽内に配設されたスパッタ電極を用いて基材に薄膜を付与する成膜方法であって、前記スパッタ電極として上記のマグネトロンスパッタ電極を用いる成膜方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異常放電が少なく、長時間安定的に放電可能なプラズマ処理用マグネトロン電極が出来る。このことにより、異常放電に伴うダストの発生と、ダストがワークに付着して品質欠陥となるリスクを抑制したプラズマ処理方法や成膜方法、成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるDCマグネトロンスパッタリング用電極の概略断面図である。
【図2】図1に示すDCマグネトロンスパッタリング用電極を放電面側から見た概略平面図である。
【図3a】本発明の別形態である、カソードケースを設けない構造の例の概略断面図である。
【図3b】本発明の別形態である、補助磁石を用いない構造の例の概略断面図である。
【図3c】本発明の別形態である、別タイプの磁気回路の一例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の最良の実施形態の例をDCマグネトロンスパッタリング用電極に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明によるDCマグネトロンスパッタリング用電極の概略断面図である。また図2は図1に示すDCマグネトロンスパッタリング用電極を放電面側から見た概略平面図である。
【0018】
カソードケース101の開口部にフタをするようにバッキングプレート103を設け、バッキングプレート103上にターゲット102が設けられている。カソードケース101の幅方向中央部には主磁石105がターゲット102の側がS極になる向きでカソードケースの長手方向に直列に設けられ、カソードケース101の内壁に沿って主磁石105との間に隙間を設けた状態で、主磁石105を取り囲むように補助磁石106がターゲット102の側がN極になるよう設けられており、通水経路108に冷却水を流すことにより主磁石105と補助磁石106およびバッキングプレート103を介してターゲット102を冷却する構造となっている。この構造は、磁石の熱減磁を防ぐための冷却構造とターゲット冷却のための冷却構造とを兼ねられる利点があり、また大きな冷却面積を稼ぐことが出来るので冷却性能に優れる利点がある。なお、磁石の極性は、バッキングプレート103の厚み方向が磁石の着磁方向と同一であり、かつ主磁石105のターゲット側の極性と補助磁石106のターゲット側の極性とが同じでなければ良く、例示した配置方法に限定されるものではない。また主磁石105の放電面側の面が内側磁極112である。カソードケース101の外側に図示しないスペーサを介して隙間を持って固定された絶縁ブロック107を設け、その先端にアノード104が配設された構成となっている。真空チャンバー内において、適正なガス圧のもとでアノード104とカソードケース101との間に電圧を印加することにより、ターゲット102の放電面側にマグネトロン用磁気回路を構成し、すなわち、マグネトロン効果により高密度化されたプラズマを発生させ、高効率にスパッタリングを行う装置である。ここで図1および図2に示す構成の電極においては、カソードケース101、ターゲット102、バッキングプレート103は電気的につながっているためすべて同じカソード電位となり、これらは請求項の「第一電極」にあたる。またアノード104は「第二電極」にあたる。
【0019】
図1に示す断面図においては、マグネトロン用の磁気回路が主磁石105と補助磁石106により構成されており、カソードケース101は磁性材料でも非磁性材料でもかまわない。カソードケース101を磁性材料で構成してヨークとすると、磁気回路を閉じることが出来、ターゲット102上の磁束を効率的に強くすることが出来る。この場合は外側磁極111はカソードケース101の外壁の放電面側の面と補助磁石106の放電面側の面を足した面となる。カソードケース101の材質としては、例えば鉄、ニッケルなどの磁性金属の他に、炭素鋼やフェライト系もしくはマルテンサイト系のステンレス鋼などが好適に用いられ、特にフェライト系もしくはマルテンサイト系のステンレス鋼は耐食性を有する磁性材料としてより好適である。図3aにカソードケース101を設けない構造の例の概略断面図を示す。このようにヨーク109でターゲット102の反対面側の磁束を閉じて構成することも考えられる。この場合はカソードケース101を設けなくても良く、設ける場合でも磁性体である必要はなく、非磁性材料でカソードケース101を製作することが可能である。この場合は外側磁極111は補助磁石106の放電面側の面となる。
【0020】
またカソードケースをヨークとして磁気回路を構成することにより補助磁石106を用いなくてもマグネトロンが成立するケースがあり、部品点数が削減されコストダウンにつながる。図3bは補助磁石106を用いない構造の例の概略断面図である。この場合は外側磁極111はカソードケース101の外壁の放電面側の面となる。
【0021】
主磁石105は、例えばサマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石、フェライト磁石などの永久磁石が好適に用いられる。主磁石105には大きな残留磁束密度が求められる場合が多く、そのような場合には廉価なネオジム磁石を用いるのが好ましいが磁石性能の温度依存性が強いため、熱的な環境が厳しい場合は高価ではあるがサマリウムコバルト磁石が好適に用いられる。
【0022】
補助磁石106にも同様にサマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石、フェライト磁石などの永久磁石が好適に用いられる。ただしカソードケース101がヨークとなるようなケースの場合の補助磁石106の機能は、主磁石から放出された磁束が大きく回り込み過ぎないようにある程度吸引することであるため、さほど大きな残留磁束密度を必要としないケースが多い。そのため残留磁束密度は小さいが廉価で磁石性能の温度依存性の比較的小さいフェライト磁石が好適に用いられる。
【0023】
図3cに別タイプの磁気回路の一例の概略構成図を示す。これまで述べてきた構成はいずれもターゲット102の放電面と反対側に磁石を設けてターゲット102の放電面側に磁気回路を構成した例であるが、図3cに示すようにターゲット102の放電面側に磁石を設けて磁気回路を構成することも可能である。この場合の磁石の極性は、向かい合う面同士が反発方向でなければ良く、例示した配置方法に限定されるものではない。
【0024】
ターゲット102は、成膜する膜の要求特性に応じて適宜材料選定されるものである。金属材料の場合はバッキングプレート103とともにカソードケース101と電気的に接続され同電位となる。
【0025】
バッキングプレート103は、ターゲット102が受けるプラズマ熱、ジュール熱、スパッタ熱を、通水経路108を流れる冷却水に放熱する熱交換機能と、カソードケース101と電気的に接続されて同電位となる機能とを有する。このため熱伝導率と導電率の大きい銅やアルミ、またはその合金が好適に用いられる。ただし冷却水や異種金属と接触した状態で電気を流すため、腐食が発生する可能性が高い部材でもあるため、銅合金を用いるのが好ましい。またバッキングプレート103はカソードケース101の蓋という機能も合わせ持っており、組み立てることにより通水経路107を形成する。通水経路107に冷却水を通水することにより、バッキングプレート103の大きな面積を直接冷却するため、冷却性能が良い。バッキングプレート103の通水経路107の反対側の面にターゲット102を載せて接触させることにより、ターゲット102の熱はバッキングプレート103を介して冷却水に放熱される。このときターゲット102はバッキングプレート103にボンディングされていても良いが、この場合はターゲットを使いきった際にバッキングプレートごと交換することとなるため、ターゲットとバッキングプレートとが脱着可能に組み立てられていて、ターゲットのみを交換できるようにするのが好ましい。さらにバッキングプレート103をカソードケース101に取り付けるための締結部材と、バッキングプレート103にターゲット102を接触させるための締結部材とを分けた構造にしてターゲット102をバッキングプレート103から取り外してもバッキングプレート103とカソードケース101は組み立てられた状態を維持出来るような構成にすると、ターゲット交換時にカソードケース101内の冷却水を排出する必要がなく、効率的にターゲット交換できるため、より好ましい。
【0026】
絶縁ブロック107は、アノード104をカソードケース101から電気的に絶縁する機能とあわせて、カソードケース101との間に隙間を形成する機能を有する。この隙間は、放電に用いるガス流路として機能し、アノード104とターゲット102の間から幅方向に均一に放電空間にガスを供給することが出来る。他の方法として、放電空間の近傍からガスノズルにより直接供給する方法があるが、ガスノズルの形状により比較的給気ムラを生じやすい。これに対し本発明の方法によればガスの給気ムラを低減できるため好適である。さらにガス流路中にチャンバーを設けることによりさらなるムラ低減が可能となり、より好ましい。絶縁ブロック107の材質としては、絶縁体であれば何でも良いが、セラミックなどは高価で重い上に脆く割れ易いため、ポリ塩化ビニルやナイロンのようないわゆる汎用樹脂をはじめ、超高分子量ポリエチレンやポリアセタールのような汎用エンジニアリングプラスチックといった各種の樹脂が好適に用いられる。中でも比較的熱に強いポリイミドやポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレンなどのスーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれるような材料は、プラズマなどの熱源近くで使用する材料としてはより好ましい。
【0027】
アノード104は、放電面側から見てバッキングプレート103、またはターゲット102の外周を覆うように配設され、中央部はスパッタ粒子の飛翔を妨げないように開口部が設けられており、バッキングプレート103、またはターゲット102との間に電圧を印加するための対向電極として機能する。そのためターゲット102とアノード104とは電気的に絶縁されている必要があり、隙間を設けて配設している。放電面側から見てターゲット102の外周が見える程度に、ターゲット102のさらに外側にアノード104を配設する方法は、アノード104とターゲット102の隙間にダストが付着した際に異常放電が発生するため好ましくなく、放電面に垂直な方向に隙間を設けるのが好ましい。その隙間が広すぎる場合はスパッタ粒子をアノード104のターゲット102側の面にトラップしてしまうので異常放電の原因となり易く、また狭すぎる場合は万が一ダストが入り込んだ場合に異常放電の原因となるため、発明者らの実験の知見によれば、ターゲット102表面からアノード104のターゲット102側の面までの隙間は1mm〜7mmの範囲とするのが好ましい。電気特性と材料特性の観点から種々の金属材料が適宜選定されるが、熱伝導率と導電率が高い銅または銅合金を用いるのが好ましい。またプラズマ熱やジュール熱を受けるため、冷却構造を設けるのが好ましい。
【0028】
アノード104の開口部は、電力ロスやガスの整流効果や放電空間に効率的にガスを供給することを考えると、ターゲット102のエロージョン領域のみを開口させる程度に狭い方が良いのは自明であるが、本発明において発明者らは、マグネトロンプラズマ電極の磁気回路において比較的磁場が強い部分にアノード電位となる部材が存在するとき、その部材が異常放電を誘発し易くなるという知見を得た。また、アノード104の開口エッジ部が、カソード外側端面よりも外側にある場合は、長時間放電させることによりカソード側面がスパッタカス等の付着により汚染され、異常放電が誘発されやすくなってくるという知見も得られた。
【0029】
これらの異常放電を抑制する対策としては、アノード開口エッジ部を外側磁極の内側端面よりも外側で、かつカソードの外側端面、すなわちカソードケース101とバッキングプレート102とターゲット103のいずれかで最も外側にある面よりも内側とするのが好ましく、さらに、アノードに対して垂直方向の磁束密度が20ミリテスラを超えないようにするのがより好ましい。また、アノードに対して垂直方向の磁束密度が20ミリテスラを超えないようにすれば、アノード開口エッジ部をカソードの外側端面より内側にすることにより、同等の異常放電抑制効果が得られるため好ましい。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
本発明によるマグネトロンスパッタ電極のうち、マグネトロン用磁気回路の構成および磁界強度を変更したもの、アノード開口幅を変更したものをそれぞれ製作し、異常放電の発生状況を比較する実験を実施したので、その結果を実施例として、また本発明によらないマグネトロンスパッタ電極を用いて同様の実験をした結果を比較例として紹介する。
【0031】
まずは文章で具体的な構造について詳しく説明し、後ほど構造の違いと異常放電の発生状況の違いを一覧表で示す。
【0032】
まず請求項1に対応する、図3bの断面図に示す電極について説明する。カソードケースはフェライト系ステンレス鋼SUS430にて製作した。カソードケース凹部の内寸は幅82mm、長さ272mm、深さ20mmとした。外寸は幅108mm、長さ298mm、高さ24.5mmとした。すなわち、外側磁極の幅は片側13mmとした。カソードケース凹部中央に、長さ40mm×幅10mm×高さ20mmで高さ方向に着磁したネオマグ社製ネオジム磁石(Grade:N40)を、カソードケース開口部の方向がS極となるように長手方向に並べて主磁石として配置し、補助磁石は用いないこととした。このネオジム磁石の表面磁束密度は520ミリテスラであった。カソードケース凹部を塞ぐようにバッキングプレートを取り付け、Oリングシールを施した。バッキングプレートは無酸素銅C1020を用い、幅108mm、長さ298mm、厚さ3mmとした。バッキングプレートとカソードケースとの固定は皿ネジを用い、ネジ頭をバッキングプレートに埋め込むようにした。バッキングプレート表面にターゲットを乗せ、ターゲット押さえでターゲットをバッキングプレートに押し当てる構造とした。ターゲットは無酸素銅C1020を用い、幅82mm、長さ290mm、厚さ8mmとした。ターゲット押さえはオーステナイト系ステンレス鋼SUS304を用い、幅13mm、長さ290mm、厚さ8mmのものを2本用い、ターゲットの長手の2辺を引っかけ、カソードケースにネジ止めすることによりターゲットをバッキングプレートに押さえつけるよう構成した。ネジ頭が出っ張ると電界集中を招くため、皿ネジにしてターゲット押さえに埋め込むようにした。ターゲット表面から4mmの隙間をあけてアノードを設置した。アノードは無酸素銅C1020を用い、幅158mm、長さ348mm、厚さ3mmとした。開口部は中心基準で幅98mm、長さ289mmとした。すなわち、アノードの内側端部は、外側磁極の内側端面よりも8mm外側で、カソードの外側端面である外側磁極の外側端面よりも5mm内側にくるようにした。
【0033】
以上のように構成したマグネトロンスパッタ電極のアノードの内側端部表面におけるアノードに垂直な方向の磁束密度を測定した。測定はKANETSU社製ガウスメータTM−201を用い、プローブ先端の測定部をアノードの電極長さ方向中央部(図2のPで示す点)の開口部先端に直接コンタクトさせて行った。以上の方法で実施例1,2,3および比較例について測定した結果を、カソード外側磁極の内側端部からのアノードの内側端部までの距離と合わせて表1に示す。
【0034】
次に放電テスト条件について説明する。放電テストは、マグネトロンスパッタ電極を真空チャンバー内に設置し、ENI社製DCパルス電源RPG−100を接続して実施した。真空条件は、まず2.0×10−2Pa以下になるまで真空引きを行った後、1.0Paまで調圧バルブを用いて調圧した。電源のパルス発振条件は周波数250kHz、反転時間1.6μsecとし、出力電力は4kWとした。スパッタ用ガスは酸素を用い、流量は200sccmとし、電極のアノードとカソードの間からターゲット表面の放電空間に流した。
【0035】
以上で説明した放電条件は共通として、実施例1,2,3および比較例の構造の電極を用いて放電実験を行い、異常放電の発生状況を比較した結果を表1に示す。異常放電の発生状況は、プラズマが消失する程度の異常放電が発生するような状況を×、プラズマ放電が維持できる程度のスモールアーク放電が時々発生する程度の状況を○、スモールアーク放電も含めて異常放電がほとんど発生しない状況を◎と分類して表現した。また放電開始から3時間経過後の異常放電発生状況も同表に示す。
[実施例2]
実施例1の電極の磁気回路を変更したものである。具体的には、カソードケースの幅方向中央に配置した長さ40mm、幅10mm、高さ20mmで高さ方向に着磁したネオジム磁石を、長さ50mm、幅10mm、高さ10mmのネオマグ社製ネオジム磁石(Grade:N35)を着磁方向を高さ方向に向けてカソードケース開口部の方向がS極となるように長手方向に並べて主磁石として配置し、補助磁石は用いないこととした。このネオジム磁石の表面磁束密度は390ミリテスラであった。その他の電極構成は実施例1の構成と同一であり、実験結果は同様に表1に示す。また放電開始から3時間経過後の異常放電発生状況も同表に示す。
[実施例3]
実施例1の電極の磁気回路を変更し、図1の断面図に示す電極構造となるようにしたものである。具体的には、カソードケースの幅方向中央に配置した主磁石はそのままで、カソードケース外側磁極内面に補助磁石として長さ65mm、幅4mm、高さ19mmの相模化学金属社製異方性フェライト磁石を、カソードケース開口部の方向がN極となるように設けた。この異方性フェライト磁石の表面磁束密度は140ミリテスラであった。その他の電極構成は実施例1の構成と同一であり、実験結果は同様に表1に示す。また放電開始から3時間経過後の異常放電発生状況も同表に示す。
[比較例1]
実施例1の電極のアノード開口部寸法を変更したものである。具体的には、アノード開口部は中心基準で幅80mm、長さ271mmとした。すなわち、カソード外側磁極の内側端面よりも1mm内側に入っており、本発明の請求項の範囲から外れるものである。その他の電極構成は実施例1の構成と同一であり、実験結果は同様に表1に示す。なお、異常放電が多発したので放電開始から3時間経過後の放電テストは実施していない。
[比較例2]
実施例1の電極のアノード開口部寸法を変更したものである。具体的には、アノード開口部は中心基準で幅111mm、長さ301mmとした。すなわち、カソード外側端面よりも外側にアノード端面を配置するものであり、本発明の請求項の範囲から少しではあるが外れるものである。その他の電極構成は実施例1の構成と同一である。
【0036】
この電極で放電実験を行ったところ、放電初期においては実施例1と遜色のない放電性能を有していたが、放電開始から3時間経過後にはカソード側面が汚染され、カソード側面での異常放電が多発するようになった。これは実施例1、実施例2、実施例3においては見られなかった現象であった。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、DCマグネトロンスパッタ電極を例示して詳細な説明をしたが、これに限らず、RFスパッタ電極やプラズマによる表面改質処理用電極、プラズマCVD用電極としても応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0039】
101:カソードケース
102:ターゲット
103:バッキングプレート
104:アノード
105:主磁石
106:補助磁石
107:絶縁ブロック
108:通水経路
109:ヨーク
111:外側磁極
112:内側磁極
P:垂直磁束密度測定点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電面を有する第一電極と、前記第一電極の放電面側にマグネトロン用磁気回路を構成する磁石と、前記第一電極との間に電位差を付与できるように前記第一電極から電気的に絶縁された第二電極とを少なくとも備えたプラズマ処理用マグネトロン電極であって、前記第二電極は前記第一電極から放電面に垂直な方向に隙間を持って前記第一電極の放電面を覆うように配設され、前記第二電極の内側端部は、前記磁気回路の外側磁極の内側端面よりも外側で、かつ前記第一電極の外側端面よりも内側に存在することを特徴とするプラズマ処理用マグネトロン電極。
【請求項2】
前記第二電極の前記第一電極と反対側の表面において、前記第二電極に対して垂直方向の磁束密度が20ミリテスラを超えない位置に前記第二電極を配設してなることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理用マグネトロン電極。
【請求項3】
放電面を有する第一電極と、前記第一電極の放電面側にマグネトロン用磁気回路を構成する磁石と、前記第一電極との間に電位差を付与できるように前記第一電極から電気的に絶縁された第二電極とを少なくとも備えたプラズマ処理用マグネトロン電極であって、前記第二電極の前記第一電極と反対側の表面において、前記第二電極に対して磁束密度が20ミリテスラを超えない位置に前記第二電極を配設し、かつ、前記第二電極の内側端部は、前記第一電極の外側端面よりも内側に存在することを特徴とするプラズマ処理用マグネトロン電極。
【請求項4】
前記磁気回路の外側磁極の内側端面に補助磁石を配設してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ処理用マグネトロン電極。
【請求項5】
前記第一電極と前記第二電極との隙間から前記第一電極の放電面近傍の放電空間にガスを放出するよう構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理用マグネトロン電極。
【請求項6】
前記第一電極から隙間を空けて前記第一電極の放電面以外を取り囲むように絶縁体を配設し、前記第一電極の放電面の反対側の前記絶縁体部材にチャンバーを設け、前記チャンバーへガスを導入し、前記チャンバーと接続された前記第一電極と前記絶縁体との隙間をガス流路とし、前記第一電極と前記第二電極との隙間から前記第一電極の放電面近傍の放電空間に前記ガスを放出するよう構成したことを特徴とする請求項5に記載のプラズマ処理用マグネトロン電極。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のプラズマ処理用マグネトロン電極を用いたスパッタ電極であって、前記第一電極はターゲットとバッキングプレートとを少なくとも有し、前記バッキングプレートは冷却水によって冷却され、前記ターゲットは前記バッキングプレートに接触することにより冷却され、前記ターゲットと前記バッキングプレートとは脱着可能に組み立てられていることを特徴とするマグネトロンスパッタ電極。
【請求項8】
真空槽内に配設されたスパッタ電極を用いて基材に薄膜を付与する成膜方法であって、前記スパッタ電極として請求項7に記載のマグネトロンスパッタ電極を用いることを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公開番号】特開2012−188751(P2012−188751A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−33621(P2012−33621)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】