説明

プラズマ処理装置

【課題】中密度プラズマ領域のプラズマを用い、高い制御性を得るとともに大口径ウエハにおける処理の均一性を得る。
【解決手段】真空排気手段により排気される真空処理室と、該真空処理室にガスを供給するためのガス供給手段と、プラズマを生成するためのマイクロ波電力供給手段と、ウエハを載置するための基板ステージと、前記基板ステージを介してウエハに高周波バイアス電力を印加するための高周波バイアス電源と、前記真空処理室内に磁場を発生させるためのソレノイドコイルと、ヨークと、中央部あるいは外周部を、他の部分に対して、誘電体中のマイクロ波の波長の略1/4 突出させて形成した誘電体製マイクロ波透過窓とを備えたプラズマ処理装置において、前記誘電体製マイクロ波透過窓は、平板部と、該平板部上に載置された突出部と、該突出部を平板部に位置決めする位置決め用凹凸部を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧した真空容器内部に形成された処理室内にマイクロ波を供給し、供給したマイクロ波による電界を用いてプラズマを生成して半導体ウエハ等の基板状の処理対象である試料を処理するプラズマ処理装置に係り、特に処理室内に供給した磁場との相互作用により形成したプラズマを用いて、ウエハの表面に処理を施すプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの量産工程において、プラズマエッチング、プラズマCVD (Chemical Vapor Deposition)、プラズマアッシング等のプラズマ処理が広く用いられている。プラズマ処理は、減圧した状態の処理用ガスに高周波電力やマイクロ波電力を投入することで発生したイオンやラジカルを、ウエハに照射することで行われる。
【0003】
エッチング用のプラズマ源には、半導体デバイスの微細化に対応して、低ガス圧力領域における良好なエッチング形状制御性と、ウエハ面内における処理の高均一性が求められている。特に、工業周波数である2.45GHzで、電子サイクロトロン共鳴(Electron Cycrotolon Resonance:ECR)を利用した有磁場マイクロ波プラズマ源は、低圧力で高密度のプラズマを生成することができるため、1990年前後から盛んに研究・開発が行われてきた。
【0004】
このようなマイクロ波プラズマ源を用いた処理装置の例として特許文献1、特許文献2が挙げられる。この従来技術の装置は、プラズマ生成室とウエハの処理室とが分離されており、プラズマ生成室でECR効果を用いて発生させたプラズマを磁場を用いて処理室に引き出し、ウエハの処理を行うことが特徴である。マイクロ波は矩形導波管や円形導波管を用いてプラズマ生成室に導入され、導波管とプラズマ生成室の間は石英等のマイクロ波を透過する材質の窓で仕切られ、真空封止されている。
【0005】
このような従来の技術では処理の不均一性が問題となる。これは、矩形導波管の基本モードである矩形TE10モードや円形導波管の基本モードである円形TE11モードでは、電界強度が周辺部に比べ中央部が強くなり、プラズマの密度、強度の分布が不均一になってしまうためである。
【0006】
これを解消するため、特許文献1では、導波管とプラズマ生成室の入り口の間の窓部に凹レンズを設けることで中央部のマイクロ波を広げる技術が開示されている。また特許文献2では、前記窓部の中央部に凹部を、外周部に凸部を設けることで、中央部のマイクロ波電界を広げ、外周部にマイクロ波電界を集中させる技術が開示されている。
【0007】
さらに、この窓部とプラズマ界面からの反射波を逆に利用した技術が、特許文献3に開示されている。特許文献3には、処理室がプラズマ生成室を兼ねており投入した電力を効率的に処理に用いることができる処理装置が開示されている。また、プラズマ生成室の上部に円筒空洞部を設けている。
【0008】
前記円筒空洞部の中心には円形導波管が接続されており、マイクロ波は前記導波管から円形TE11モードで円筒空洞部に導入される。ここで、円筒空洞部の天板から、真空を封止している石英天板とプラズマとの境界面までのマイクロ波に対する等価距離を円形TE01モードの管内波長の1/2の整数倍とすることで、プラズマ境界面からの反射波と円筒空洞部の天板からの反射波が共振し、円筒空洞内に円形TE01モードの定在波が形成される。この結果導入した円形TE11モードと、共振モードであるTE01モードが重畳されたマイクロ波モードが円筒空洞内に発生する。円形TE11モードの電界強度分布は中高分布であり、円形TE01モードは外高分布であるため、円筒空洞内において両者が重畳されたマイクロ波モードの電界強度分布は略均一となる。これにより円筒空洞下部にあるプラズマ生成室(処理室)に均一で安定な高密度プラズマを発生させることができる。
【0009】
さらに特許文献4には、円筒空洞共振部とエッチング処理室との間の、真空封じを行っている石英天板の厚さを、石英中のマイクロ波の波長の約1/2の整数倍とすることにより、ウエハ上のプラズマを高密度にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3−244123号公報
【特許文献2】特開平6−120155号公報
【特許文献3】特開平7−235394号公報
【特許文献4】特開平8−315998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
国際半導体技術ロードマップ(International Technologiy Roadmap for Semiconductors;ITRS)によれば、半導体デバイスの微細化とウエハの大口径化は今後も進み、2014年から2016年の間には22nmノード、450mm(18インチ)ウエハを用いた量産が立ち上がると予想されている。またトランジスタ構造は、現在の主流であるプレーナ型(平面型)から、ダブルゲート型、トライゲート型等の3D構造を有したFinFET型が主流になるものと予想される。これら将来の半導体デバイスの製造に用いられるプラズマ処理装置、特に微細化の要であるエッチング装置には、直径450mmの広範囲に渡っての高い処理均一性と極限の微細加工性能が求められている。
【0012】
特許文献3あるいは特許文献4に記載されているような高密度プラズマを用いる場合のはエッチング速度が速くなりすぎ、制御性、再現性を損なう虞が有る。また、マスク選択比あるいは下地選択比の低下、側壁荒れの問題も顕在化してくる。なお、ここで高密度プラズマとは、プラズマ密度で7.5e10cm−3 (2.45GHzにおける無磁場でのプラズマのカットオフ密度)以上、ウエハ上のイオン電流密度で3mA/cm程度以上のプラズマを指している。
【0013】
特許文献3あるいは特許文献4に記載の技術では、プラズマ密度を下げるためにマイクロ波の電力を下げると、TE11モードに起因したエッチングレートの中高分布となってしまう虞がある。円筒空洞がTE01モードの共振器として作用するためには、石英天板とプラズマとの境界面からの反射波が、ある程度必要になってくる。
【0014】
マイクロ波はカットオフ密度以上の高密度プラズマ中を、無磁場では全く伝播できず、また、有磁場でも十分には伝播できない。このため、前記境界面で相当量が反射されることになる。この反射波と、円筒空洞の上部からの反射波の重ね合わせで、円筒空洞はTE01モードの共振器として作用できる。
【0015】
これに対し、カットオフ密度以下の中密度プラズマ領域では、マイクロ波はプラズマ中を伝播できるため、前記境界面でその一部のみが反射される。その結果、中央部の電界強度が強い円形TE11モードが支配的となり、エッチングレート分布も中高になってしまう。
【0016】
このため、中密度プラズマ領域ではプラズマを均一に維持することができなくなってしまうという問題が有った。ここで中密度プラズマとは、プラズマ密度が概略7.5e10cm−3以下,1.2e10cm−3以上(ウエハ上のイオン電流密度で30mA/cm 程度以下、0.5mA/cm 程度以上。なお、0.5mA/cmは現実的な処理速度が得られる下限値である)のプラズマを指している。
さらには、450mmウエハの処理に対応するために処理室の径や円筒空洞共振器の径を拡大すると、プロセス条件によっては空洞部で共振させたいモードである円形TE01モード以外の高次モード、例えばTM01,TE21,TM11,TE31 等が発生し、処理の均一性を損なったり放電不安定性を引き起こしてしまう虞が有る。
【0017】
また、特許文献3に記載の従来技術では、真空容器からの金属汚染をさけるために耐プラズマ性の材料で形成された円筒状の絶縁物カバーを真空容器内壁に設置している。前記絶縁物カバーは非常に高価な交換部品であり、装置のランニングコストを上昇させてしまう。また、絶縁物カバーは真空容器から真空断熱されてしまうため、その温度制御が難しいという問題もある。
【0018】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、中密度プラズマ領域のプラズマを用い、高い制御性を得るとともに大口径ウエハにおける処理の均一性を得ることのできるプラズマ処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0020】
真空排気手段により排気される真空処理室と、該真空処理室にガスを供給するためのガス供給手段と、プラズマを生成するためのマイクロ波電力供給手段と、ウエハを載置するための基板ステージと、前記基板ステージを介してウエハに高周波バイアス電力を印加するための高周波バイアス電源と、前記真空処理室内に磁場を発生させるためのソレノイドコイルと、ヨークと、中央部あるいは外周部を、他の部分に対して、誘電体中のマイクロ波の波長の略1/4 突出させて形成した誘電体製マイクロ波透過窓とを備えたプラズマ処理装置において、前記誘電体製マイクロ波透過窓は、平板部と、該平板部上に載置された突出部と、該突出部を平板部に位置決めする位置決め用凹凸部を備えた。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以上の構成を備えるため、中密度プラズマ領域のプラズマを用い、高い制御性を得るとともに大口径ウエハにおける処理の均一性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態にかかるプラズマ処理装置を説明する図である。
【図2】ウエハ上のイオン電流密度分布のマイクロ波電力依存性を示す図である。
【図3】図1で示したマイクロ波透過窓と前記透過窓に設けた突出部の拡大図である。
【図4】マイクロ波透過窓側に凸部を設けた例を示す図である。
【図5】第2の実施形態を説明する図である。
【図6】マイクロ波透過窓と突出部の拡大図である。
【図7】突出部の外側のマイクロ波透過窓に凸部を設けた例を示す図である。
【図8】磁場形状とECR面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の第1の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。まず、図1及び図2を用いて概略を説明した後、図3以降で、本実施形態の詳細を示す。
【0024】
図1は、本実施形態にかかるプラズマ処理装置の縦断面図(概略)を示している。図1において、略円筒形の真空処理室1の下部には、ウエハ4を載置する基板ステージ5が備えられており、真空処理室1はコンダクタンス調節バルブ31を介してターボ分子ポンプ32により真空排気される構成となっている。前記真空処理室1の上部には略円板状の突出部9を備えた誘電体製のマイクロ波透過窓6が備えられており、その上部には円筒空洞7が備えられている。円筒空洞7の高さは、円筒空洞中で円形TE01モードのマイクロ波が共振するように調整されている。
【0025】
マイクロ波透過窓6の下部にはシャワープレート8が備えられており、図示しないガス供給系から導入された処理用のガスを真空処理室1に均一に分散させる構成となっている。また、前記円筒空洞7の上部には、円形導波管21を介してマイクロ波導入系が接続されている。
【0026】
本実施形態では、マイクロ波の周波数として、例えば、工業周波数である2.45GHzを用いている。さらに真空処理室1の外部には、1系統ないし3系統の独立して制御、調節された電力が供給されるソレノイドコイル2と、ヨーク3とが備えられている。
【0027】
本実施形態では、真空処理室1にシャワープレート8を介して処理用のガスを導入し、真空処理室1内の圧力をコンダクタンス調節バルブ31により所望の値に調整した後、マイクロ波等の電波源から真空処理室1に電界を投入することで処理用のガスをプラズマ化する。この際、ソレノイドコイル2により真空処理室1内部にECR共鳴を引き起こす強度である875ガウスの磁場を印加しておくことで、0.05Paから5Pa程度の低圧力領域で安定したプラズマを生成することができる。
【0028】
基板ステージ5にはウエハ4に高周波バイアス電力を印加するための手段が備えられており、この電力により基板ステージ5またはウエハ4上面にバイアス電位を形成することでプラズマ中のイオンをウエハ4に引き込みウエハ4の処理の高精度、高速化を図ることができる。
【0029】
内部が略円筒形の真空処理室1はアルミニウム等の金属製であり、側壁の一部は接地されている。また、真空処理室1の内壁は、プラズマ耐性があり、かつデバイスの金属汚染の生起を抑制する絶縁材料、即ち、イットリア(Y2O3)、アルミナ(Al2O3)、フッ化イットリウム(Y2F3)、フッ化アルミニウム(Al2F3)、窒化アルミニウム(AlN)、石英(SiO2)等の材料で、50μmないし500μm程度の厚さでコーティングしてある。
【0030】
また真空処理室1の内部の壁面を温度調節することで、量産時の処理安定性を向上させることができる。真空処理室1の温度の調節は、真空処理室1の内側に液体が流れる流路を形成しておき、チラー等で温調された液体を該流路に流すことで実現できる。なお、真空処理室1の側壁の大気側の箇所にヒーターを具備してもよい。
【0031】
本実施例では、これらの温調手段により真空処理室1は30℃から100℃の間の所望の温度で温調される。また、真空処理室1の金属壁部分に白金温度計等の温度モニタ手段を埋め込み、温度モニタ手段からの出力をフィードバックして真空処理室1の温度を調節することで、さらなる処理の安定化が期待できる。
【0032】
真空処理室1の下方には、ウエハ4を載置するための基板ステージ5が備えられている。基板ステージ5には1系統ないし5系統の温調手段45が設けられている。また基板ステージ5は、図示しない伝熱ガス供給系と静電チャック機能を有しており、プラズマ処理中にウエハ4を静電気力で保持し、ウエハ4裏面にHe等の伝熱ガスを供給することで、ウエハ4の温調を可能としている。温調手段を複数設けることにより、ウエハ4の温度分布をきめ細かく制御することができるため、径が450mmのような大口径のウエハ4の処理に適した構成となっている。
【0033】
さらに、基板ステージ5には、第一の整合器42を介して第一の高周波バイアス電源41が、さらに、第二の整合器44を介して第二の高周波バイアス電源43が備えられている。第一の高周波電源の周波数は第二の高周波バイアス電源の周波数よりも低く設定されており、第一の高周波バイアス電源41の周波数は400kHzないし4MHzの間から、第二の高周波バイアス電源43の周波数は2MHzないし13.56MHzの間から適切に選択される。周波数の異なった2種類の高周波バイアス電源の電力比率を適切に調節することで、ウエハ4に入射するイオンのエネルギー分布を、より細かく制御できる。これにより、マスク選択比や下地選択比の向上が期待できるだけでなく、側壁荒れやノッチ形状、テーパー形状の抑制も期待できる。
【0034】
真空処理室1の上部には、マイクロ波透過窓6を介して円筒空洞7と電界を供給する電波であるマイクロ波の供給手段が連結されている。マイクロ波供給系は、円形導波管21、円偏波発生器22、矩形円形導波管変換部23、矩形導波管24、マイクロ波用自動整合器25、アイソレータ26、マグネトロン27から構成されている。
【0035】
マグネトロン27より発振されたマイクロ波は矩形TE10モードで矩形導波管24を伝播し、矩形円形導波管変換部23で円形TE11モードに変換されて円筒空洞7に導入される。また、円偏波発生器22で円形TE11モードの偏波面を回転させ、右回り円偏波を発生させることにより、周方向での電界分布を均一化することができる。
【0036】
また、マイクロ波用自動整合器25で負荷とのマッチングを取ることにより、マイクロ波電力をプラズマ負荷に効率よく投入し、反射電力を抑えることができる。さらに、アイソレータ26は、整合器25で取りきれなかった反射波がマグネトロンに戻ることを防いでいる。
【0037】
真空処理室1の外部に配置された1系統ないし3系統のソレノイドコイル2と、ヨーク3とにより、真空処理室1内部にECR共鳴を引き起こす強度である875ガウスの磁場が印加される。
【0038】
参考として、図8に磁場形状とECR面の一例を示す。図中の点線101は磁力線を、実線102は875ガウスの等磁束密度面(今後、ECR面と称する)を示している。
【0039】
また、前記ソレノイドコイル2に流れる電流を適宜調節することで、真空処理室1内におけるECR面の高さ、ECR面の形状、磁力線の発散度合い等を調節することができる。 このように、ECR共鳴を用いることにより、微細加工に有利な0.05Paから5Pa程度の低圧力領域にて、安定したプラズマを生成することができる。また、ECR高さECR面の形状、磁力線の発散度合いを制御することにより、真空処理室1内のプラズマ密度分布を制御できる。
【0040】
真空処理室1の上部には、略円板状をした誘電体製のマイクロ波透過窓6が備えられている。該マイクロ波透過窓の直径は前記真空処理室1の内径よりも若干大きくなっており、外周縁部の下面と真空処理室1の側壁の部材の上端部との間をこれらに挟まれたOリング等でシールすることにより、真空処理室1内と外部の大気との間を気密に封止して内部の真空度を所望のものに維持している。マイクロ波透過窓6の材質としては、マイクロ波の損失が小さく、汚染を引き起こさない材質、例えば、石英、アルミナ、イットリア等の材質が望ましい。
【0041】
前記マイクロ波透過窓6の下部には略円板状の誘電体製のシャワープレート8が備えられている。シャワープレート8の材質も、マイクロ波透過窓6の材質と同様に、マイクロ波の損失が小さく、汚染を引き起こさない材質、例えば、石英、アルミナ、イットリア等の材質が望ましい。本実施形態ではマイクロ波透過窓及びシャワープレート8の材質を石英とした。
【0042】
シャワープレート8には直径0.1mmないし0.8mm程度の小孔が、5mmピッチないし20mmピッチ程度の間隔で開けられており、また、その厚さは5mmないし15mmの間で使用者の処理に応じて適切に選択される。シャワープレート8とマイクロ波透過窓6の間には、0.1mmないし1mm程度の図示しないガスバッファ室が設けられており、このガスバッファ室の外周部から導入された処理用のガスはガスバッファ室の全体に充満して行き渡り下方のガス孔から全体的に均等に真空処理室1内に流入させることができる。
【0043】
また、本実施形態ではガスバッファ室とシャワープレートを内周部と外周部の2つの領域に分け、それぞれに別系統のガス供給系(図示せず)を接続し、内周部と外周部に流す処理用のガスの種類、組成、流量を適宜調節することで、ウエハ4に到達するラジカル種の分布を制御することが可能になる。これにより、より高いウエハ4面内の処理均一性を達成することができる。また、処理用のガスとしては、Cl2,HBr,HCl,CF4,CHF3,SF6,BCl3,O2,CH4等の反応性ガスの中から1種類ないしは4種類程度を、被エッチング膜の種類に応じて適切に選び、それぞれの流量や混合比が適切に調節される。また、これらの混合した反応性ガスに、ArやXe等の希釈ガスを適切な流量で加えても良い。
【0044】
本実施形態で用いられる石英製のマイクロ波透過窓6の上面の中央部には、マイクロ波透過窓6と同じ材質である石英で、直径がウエハ4径の1/3から2/3の範囲の値で選択されたもので、高さが石英中を伝播するマイクロ波の波長の1/4にされた略円板状の突出部9が、円筒空洞7及びマイクロ波透過窓6と中心軸を合わせて配置されている。
【0045】
前記突出部9を設けることにより、突出部9を透過して下方に伝播するマイクロ波の透過率を周囲の他の部分と比較し低下させることができる。前述したように、中密度程度のプラズマを想定した場合、円筒空洞7での円形TE01モードの共振が十分に行われないため、中心部の電界強度が強い円形TE11モードが主体となって真空処理室1に伝播する。したがって、本実施形態のように突出部9によってマイクロ波透過窓6の中央部におけるマイクロ波透過率を低減することにより、プラズマに投入されるマイクロ波の電界強度分布を均一化でき、ひいてはプラズマ分布を均一化できる。以下、マイクロ波透過率の調節について説明する。
【0046】
マイクロ波は、ある媒質から他の媒質へと伝播する際には、その界面で必ず一部は反射する。また、両媒質の誘電率が大きく異なるときには、反射はより大きくなることは良く知られている。
【0047】
本実施形態の場合、マイクロ波がプラズマに伝播していく過程の中でマイクロ波の反射界面となるのは、マイクロ波透過窓6及び突出部9の上面と、シャワープレート8の下面(プラズマとの境界面)の2箇所である。マイクロ波透過窓6の厚さを、この2箇所からの反射波を打ち消しあうような厚さ(仮に厚さAとする)に設定すればマイクロ波の透過率は最大となり、また、マイクロ波透過窓6と突出部9の厚さを、前記した2箇所からの反射波が強めあうような厚さ(厚さBとする)に設定すると、突出部9のマイクロ波の透過率は最小となる。ここで、厚さAと厚さBの差の絶対値は、マイクロ波透過窓6の媒質(石英)中のマイクロ波の波長λwの1/4(石英中では16mm)となる。
【0048】
上記の説明では片方のマイクロ波の反射界面をシャワープレート8下面(プラズマとの境界面)としたが、実際はシャワープレート8の上部にはガスバッファ室があり、また、シャワープレート8直下のプラズマ密度も縦方向に分布を持っているため、シャワープレート8下面の反射境界の位置は明確には定まらない。したがって、前記した厚さAと厚さBとの差の絶対値を概ねλw/4とした上で、厚さAを実験的に定めればよい。
【0049】
図2は、ウエハ4上のイオン電流密度分布のマイクロ波電力依存性を示す図であり、図2(a)は突出部を設けない場合、図2(b)は突出部を設けた場合を示す。なお、ウエハ径は300mm、突出部は、マイクロ波透過窓6の中央部にφ150mmの範囲で16mm突出して形成した。事前に行った予備試験の結果、マイクロ波透過窓6の上面からシャワープレート8の下面までの距離は42mmである。
【0050】
また、放電に用いたガスはCl2/HBr混合ガス、圧力は0.4Pa、ECR高さが60mmの磁場条件であり、マイクロ波電力を小(400W、破線), 中(800W、実線),大(1200W、一点破線)と変化させた際の結果である。
【0051】
図2(a)に示したように、突出部を設けない例ではマイクロ波電力が1200Wと大きい条件では比較的均一性は良好であるのに対し、マイクロ波電力を400Wまで下げると著しい凸分布が発生することがわかる。また、投入したマイクロ波電力に対する、イオン電流密度分布のリニアリティーも小さいことがわかる。
【0052】
これに対し図2(b)に示したように、突出部を設けた例ではマイクロ波電力が1200Wから400Wの範囲にてイオン電流密度の均一性は良好であり、また、投入したマイクロ波電力に対する、イオン電流密度分布のリニアリティーも良好であることがわかる。 つまり、イオン電流密度で1mA/cmから3mA/cm程度の中密度領域のプラズマ密度を、マイクロ波パワーにて良好に制御できていることがわかる。
【0053】
図3は、図1で示したマイクロ波透過窓6と前記透過窓に設けた突出部9の拡大図である。突出部9は、マイクロ波透過窓6と一体で形成しても良く、別々の部品であっても良いが、突出部9を容易に交換可能とするため、マイクロ波透過窓6と一体化せず別々の部品としている。このことにより、プロセスに応じたプラズマ分布調整を柔軟に実現できる。しかし、マイクロ波透過窓6と突出部9の中心がずれた場合にはプラズマに偏心が生じ、結果として、例えばレート分布の偏心などプロセス性能を損なうことになる。
【0054】
このため、突出部9を、マイクロ波透過窓6に中心軸を合わせて配置できるように、突出部9の中心軸周りに円柱状の凹部を設け、マイクロ波透過窓6の中心軸周りに凸部を設けておく。そして、マイクロ波透過窓6の上に突出部9を設置する際に、この凹凸部を合わせて設置することで中心軸を合わせることができる。これにより、プラズマの偏芯を抑制することが可能となる。また、突出部9を設置する際の属人的な位置ずれを抑制することができる。
ところで、マイクロ波透過窓6と突出部9はプラズマからの伝熱あるいはヒータ温調された真空処理室1からの伝熱により温度上昇する場合があり、またマイクロ波透過窓6と突出部9との間に空気層があることから温度差が生じ、熱膨張差により凹凸部の隙間が小さくなることが予想される。石英の熱膨張率は5×10−7[K−1]程度であることから、凹凸部の径を10mm、温度差を100Kと想定すると熱膨張差はわずか、5×10−4[mm]であり、熱膨張差を無視できるレベルであり、凹凸部の寸法公差の限界までマイクロ波透過窓6と突出部9の中心軸を合わせることが可能である。また、材質として石英でなく、アルミナやイットリアを採用した場合、熱膨張率は一桁大きくなる。
【0055】
なお、突出部9を設置する際の視認性、作業性を考慮して、図4のように、マイクロ波透過窓6側に凸部を設けることも考えられる。例えば突出部9をはめ込むよう凸部をリング状に製作することができる。また突出部9の位置を一意に決められるように、凸部を3点程度設けることができる。上記同様に、熱膨張差の観点から検討すると、突出部9の径を150mm、温度差を100Kと想定すると熱膨張差はわずか、7.5×10−3[mm]であり、熱膨張率が一桁大きいアルミナやイットリアを採用した場合も含めて、高精度にマイクロ波透過窓6と突出部9の中心軸を合わせることが可能である。
【0056】
図5は、本発明の第2の実施形態を説明する図である。なお、図5において図1に示される部分と同一部分については同一符号を付してその説明を省略する。
【0057】
本実施形態においては、誘電体のマイクロ波透過窓6の中央部に突出部9を設けるとともに、誘電体のマイクロ波透過窓6の外周部に、誘電体内でのマイクロ波の波長の1/4程度の厚さの、略円環状の部材であるリング状突出部10を設ける。リング状突出部10は、その内径がウエハ4の直径よりも大きく、外径がマイクロ波透過窓6とほぼ同一であり、マイクロ波透過窓6と内周及び外周の円の中心が同心となるように配置されている。
【0058】
このようなリング状突出部10を設けることにより、リング状突出部10のマイクロ波透過率を他の部分と比較し低下させることができる、即ち、ウエハ4よりも外側の真空処理室1の内壁近傍の領域のマイクロ波強度を低下させることができ、このような領域で生成されるプラズマ密度を下げることができる。これにより、真空処理室1の内壁へのプラズマからのダメージを抑制し、内壁の消耗を抑制することができ、真空処理室1の寿命を長くすることができる。
【0059】
また、真空処理室1の内側壁の削れに起因したパーティクルあるいは金属汚染の発生を抑制することができる。また、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に誘電体製のマイクロ波透過窓6の中央部に突出部9を設けてあるため、ウエハ4上のプラズマを中密度領域で均一に生成することができる。また、磁場の制御でプラズマ密度分布を制御することができる。
【0060】
このように本実施形態によれば、中密度領域のプラズマを均一に、制御性良く生成できるだけでなく、真空処理室1の内壁の消耗を抑え、パーティクルや汚染の発生を抑制し、真空処理室1の寿命を延ばすことが可能となる。
【0061】
図6は、マイクロ波透過窓6と突出部10の拡大図である。突出部10は、原理的にはマイクロ波透過窓6と同一の誘電体材料で一体で形成しても良く、別々の部品であっても良いが、突出部10を容易に交換可能とし、プロセスに応じたプラズマ分布調整を柔軟に実現できるよう、マイクロ波透過窓6と一体化せず別々の部品としている。
【0062】
また、この図の例では、突出部10が、マイクロ波透過窓6と中心軸を合わせて配置できるように、突出部10の内側で、かつ、マイクロ波透過窓6に凸部を設けている。
【0063】
なお、突出部10をはめ込むよう凸部をリング状に製作することができる。また、突出部10の位置を一意に決められるように、凸部を3点程度設けることができる。なお、突出部9の位置決めのための実施例については図3において詳述しているため、図6では省略する。
【0064】
熱膨張差の観点から検討すると、突出部10の内径を500mm、温度差を100Kと想定すると熱膨張差はわずか、2.5×10−2[mm]であり、この観点からは凹凸部の寸法公差までマイクロ波透過窓6と突出部9の中心軸を合わせることが可能である。ただし、熱膨張率が一桁大きいアルミナやイットリアを採用した場合、2.5×10−1[mm]となる。
【0065】
この場合、設置時に中心合わせをしたとしても、熱膨張時には同等の中心のずれが発生する可能性があり、この場合には、生成されるプラズマに偏心が生じ、結果として、例えばレート分布の偏心などプロセス性能を損なうことがある。
【0066】
そこで、凹凸部の隙間を熱膨張差分としておけば、温度上昇に伴い隙間が狭まることから、従来は、突出部9設置初期に中心軸がずれていたり、初期にずれがなくとも熱膨張の過程でずれたりしても補正できなかったのに対して、言わば自動的に中心軸合わせが可能となる。
【0067】
さらに、図7に示すように、突出部10の外側のマイクロ波透過窓6に凸部を設ければ、熱膨張により外側の凸部と突出部10の隙間は広がることから、常温時の隙間を公差まで小さくしても問題起こらない。また、内側の凸部と突出部10の隙間を熱膨張差分としておけば、前述の通り、高温時には隙間が狭まることによって中心軸合わせが可能となり、低温時には、外側の凸部によって高精度に中心軸合わせが可能となる。
【符号の説明】
【0068】
1 真空処理室
2 ソレノイドコイル
3 ヨーク
4 ウエハ
5 基板ステージ
6 マイクロ波透過窓
7 円筒空洞
8 シャワープレート
9 突出部
10 リング状突出部
21 円形導波管
22 円偏波発生器
23 矩形円形導波管変換部
24 矩形導波管
25 マイクロ波用整合器
26 アイソレータ
27 マグネトロン
31 コンダクタンス調節バルブ
32 ターボ分子ポンプ
41 第一のバイアス高周波電源
42 第一の整合器
43 第二のバイアス高周波電源
44 第二の整合器
45 温調ユニット
101 磁力線
102 ECR面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気手段により排気される真空処理室と、該真空処理室にガスを供給するためのガス供給手段と、プラズマを生成するためのマイクロ波電力供給手段と、ウエハを載置するための基板ステージと、前記基板ステージを介してウエハに高周波バイアス電力を印加するための高周波バイアス電源と、前記真空処理室内に磁場を発生させるためのソレノイドコイルと、ヨークと、中央部あるいは外周部を、他の部分に対して、誘電体中のマイクロ波の波長の略1/4 突出させて形成した誘電体製マイクロ波透過窓とを備えたプラズマ処理装置において、
前記誘電体製マイクロ波透過窓は、平板部と、該平板部上に載置された突出部と、該突出部を平板部に位置決めする位置決め用凹凸部を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、前記位置決め用凹凸部を構成する凸部を平板部の中央に形成し、凹部を前記突出部に形成したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、前記位置決め用凹凸部を構成する凸部を平板部の外周側に形成し、かつ、前記凸部と突出部の隙間を、プラズマ処理時の平板部と突出部の熱膨張差分以上設けたことを特徴としするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−134235(P2012−134235A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283296(P2010−283296)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】