説明

プラズマ溶融炉

【課題】 アスベストを含む廃棄物を1500℃程度の高温により溶融無害化する処理設備において、有害なアスベスト塵灰を含む排ガスの排出量を抑えると共に、アスベストが完全に溶融したスラグのみを排出し、アスベストを確実に無害化することができるプラズマ溶融炉を提供する。
【解決手段】 金属板等で密閉された耐火物製の炉容器1の上部から挿入されたプラズマ電極3に形成されるアークプラズマにより廃棄物を溶融するプラズマ溶融炉であって、隔壁5により仕切られ連通路8で連通されている主槽6と副槽7にスラグ溶湯を貯留し、投入口2から投入した廃棄物の量に応じてスラグ流出路12からオーバーフローするスラグ溶湯を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アークプラズマにより廃棄物等を溶融処理を行う溶融炉に関し、特にアスベストを溶融無害化処理するプラズマ溶融炉に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストは、その高い耐熱性や断熱性、絶縁性、扱いやすい機械的特性などのため建造物や自動車部品、家庭内機器などに広く利用されてきた。しかし、アスベストは、その結晶形態が非常に細かい繊維状であるため飛散しやすく、飛散した微細結晶を吸入することにより、長い潜伏期間を経て中皮腫や肺ガンを引き起こすため非常に危険視され、その使用が大幅に制限されるようになった。これにより、膨大な量のアスベストが突如、廃棄物として処理業者に持ち込まれるようになった。
【0003】
しかし、アスベストの廃棄に際しては有害物質として認定施設で適切に取り扱われなければならない。例えば埋め立て処分する際は耐水性の袋で二重に梱包し管理型の最終処分場に埋め立てるよう規定されている。したがって、限りある処分場の利用を節約し、廃棄コストが嵩むことによる不法投棄の横行を回避するため、アスベスト処理施設の整備が急務になっている。
【0004】
アスベストは、1500℃程度の高温で処理することにより、溶融してその微細繊維状の結晶形態を失い、無害化する。そこで、産業廃棄物や下水汚泥等を溶融処理するために使用されているアークプラズマ溶融炉を応用し、構造物から解体されたアスベストを含む構造物廃棄物をプラズマによる高温で溶融して無害化処理することが考案されている。
【0005】
特許文献1には、下水汚泥、都市ゴミ、産業廃棄物、自動車シュレッダーダスト等の廃棄物を酸化雰囲気で燃焼を伴って溶融する溶融炉が開示されている。図5に示したとおり、炉本体の上部から挿入されているプラズマ電極で形成されるアークプラズマにより、ホッパから投入される廃棄物を高温溶融する。廃棄物の溶湯が溜まったスラグ槽からオーバーフローしたスラグは排ガスに暖められながらスラグ排出口から流出し、冷却固化されてコンベアから外部に搬送される。排ガスは誘導筒に規制されてスラグと併流した後、煙道から排ガス処理装置に誘導される。
【0006】
特許文献1に開示されたプラズマ溶融炉では、酸化雰囲気で廃棄物を燃焼を伴って処理しているため、この溶融炉をアスベストの処理に利用すると、有害なアスベストの塵灰を含む燃焼ガスが大量に発生する。したがって、燃焼ガスからアスベストを取り除くために、後工程で厳密な濾過処理や再燃焼処理が必要となり、燃焼ガスの処理コストが嵩む。
【0007】
また、アスベストを溶融処理する際には投入した未溶融のアスベストがスラグ溶湯に浮遊するが、開示発明の溶融炉をアスベストの溶融に使用すると、浮遊しているアスベストがオーバーフローするスラグ溶湯に混入し、未溶融のアスベストが溶融したスラグと共に炉から排出されてしまう。このため、開示発明の溶融炉では、処理済みスラグ粒にアスベストが混入し、構造物廃棄物に含まれるアスベストを適切に無害化処理することができなかった。
【特許文献1】特開平6−300234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、アスベストを含む廃棄物を1500℃程度の高温により溶融無害化する処理設備において、有害なアスベスト塵灰を含む排ガスの排出量を抑えると共に、アスベストが完全に溶融したスラグのみを排出し、アスベストを確実に無害化することができるプラズマ溶融炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のプラズマ溶融炉は、還元雰囲気で内容物をアークプラズマにより高温溶融するものであって、耐火物製の隔壁によりスラグ槽が主槽と副槽に仕切られていて、主槽にアークプラズマを発生するプラズマ電極および内容物を投入する投入口が設けられており、副槽にオーバーフローによりスラグを排出するスラグ排出口が備わっており、スラグ排出口より低位に主槽と副槽を連通する連通路が設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明のプラズマ溶融炉は、投入口から廃棄物を主槽に投入し、プラズマ電極からプラズマアークを発生させて廃棄物を加熱し溶融する。投入口から連続的に廃棄物を投入して溶融を進め、溶湯の水位がスラグ排出口に達したのち、さらに廃棄物を投入すると、廃棄物の投入量に応じてスラグ排出口からスラグがオーバーフローして炉外に排出される。排出されたスラグ溶湯は、炉外で冷却固化され、スラグ粒として回収される。
【0011】
本発明のプラズマ溶融炉は、特に、飛散性の廃アスベストを溶融により無害化処理するために使用される。溶融炉は、炉容器を耐火煉瓦の外から鉄板を貼って密封し、炉に接続した排気口に備わるファンにより負圧にコントロールして運転する。これにより、廃棄物がアスベストの塵灰などを含む有害ガスを放出する場合でも、有害ガスが大気に漏れ出すのを防いでいる。また、炉内への酸素流入を阻止して廃棄物を還元雰囲気で燃焼を伴わずに溶融処理するため、燃焼ガスの発生が抑制される。そのため、排ガス処理設備を小型化し、排ガスの処理コストを削減することができる。
【0012】
本発明のプラズマ溶融炉は、廃棄物を投入し、溶融する主槽と、スラグ溶湯が排出される副槽が隔壁により仕切られ、主槽と副槽が溶湯面より低位に設けられた連通路で連通している。このため、未溶融の廃棄物がスラグ溶湯上に浮遊していても、隔壁に遮断されて浮遊物がスラグ排出口に達せず、スラグ排出口からは完全に溶融したスラグ溶湯のみが排出される。したがって、未処理の廃棄物が混入していない安全なスラグ粒を回収することができる。
【0013】
このスラグ粒は、アスベストが十分に溶融され、有害物質が含まれていても溶出しないため無害化された状態である。そのため、安定型最終処分場に埋め立てることができるし、建築骨材や道路舗装材等として再利用することもできる。
【0014】
本発明のプラズマ溶融炉は、副槽を保温する加熱装置を備えることが好ましい。スラグ排出口から流出するスラグ流が冷却されると、スラグ溶湯の粘度が増してスラグ排出口付近に固着し、スラグ溶湯が流れなくなるおそれがある。また、主槽と副槽を連通する連通路を流通するスラグ流の温度が低下すると、連通路内でスラグが固着し、連通路が閉塞するおそれがある。そのため、加熱装置によりスラグ排出口および副槽を保温し、スラグ溶湯の流動性を確保する。加熱装置は、燃焼式のものでもよいが、燃焼ガスが発生すると炉内を負圧にコントロールすることが難しくなるため、ガスを発生しない電気ヒータ等が適している。
【0015】
また、スラグ排出口を導電性物質で形成し、加熱装置に誘導加熱コイルを使用してもよい。スラグ排出口の導電性物質から発生する誘導熱によりスラグ排出口および副槽を保温する。この場合、誘導加熱コイルからの加熱を停止し、さらに誘導加熱コイルに冷却水を流すことによってスラグ排出口を冷却してスラグ流を冷却し、スラグをスラグ排出口に固着させてスラグ排出口を閉止することができる。したがって、スラグ排出口を開閉制御するために使用することもできる。
【0016】
さらに、本発明のプラズマ溶融炉は、スラグ排出口の下流にスラグ排出管が接続され、スラグ排出管の他端をスラグパン等に接続してスラグを回収する後工程を備えてもよい。この場合、スラグパンを水封することで溶融炉の気密を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について実施例に基づき図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の第1実施例におけるプラズマ溶融炉の側面断面図であり、図2は平面断面図である。金属板等で密閉された耐火物製の炉容器1の上部に投入口2が開口しており、炉内にプラズマ電極3が挿入されている。炉容器1の側面には排気口4が備わっており、排気口4には図示しない排気ファンが設けられている。炉内は耐火物製の隔壁5により主槽6と副槽7に仕切られており、隔壁5には連通路8が設けられている。スラグ溶湯9は連通路8により主槽6と副槽7に連通して溜められる。副槽7の端部上面にスラグ流出路12が溝状に設けられておりスラグ排出口13にスラグ溶湯9がオーバーフローするようになっている。副槽7の上方には加熱バーナ14が備わり、側部にのぞき窓15が開口している。
【0019】
本実施例のプラズマ溶融炉は、排気口4から排気ガスを吸引し、−100mmH2O程度の負圧で運転される。炉全体が気密になっているため、酸素は運転の開始段階で消費され、炉内は常に還元雰囲気になってる。必要に応じて窒素充填等を行い、能動的に還元雰囲気を作成、維持してもよい。また、通常時は1500℃程度のスラグ溶湯9がスラグ流出路12の高さまで満たされた状態で連続運転される。
【0020】
スラグ溶湯9が満たされた状態で、投入口2からアスベストを含む固体廃棄物を連続的に投入する。投入された固体廃棄物10はしばらくスラグ溶湯9上に浮遊するが、プラズマ電極3から放出されるアークプラズマにより高温に熱せられ、溶融してスラグ溶湯9と同化する。同時に、投入された固体廃棄物10の重量に応じてスラグ溶湯9が副槽7からオーバーフローし、スラグ流出路12からスラグ排出口13に流出する。流出したスラグ溶湯9は後工程で水冷により粒状に固化され、スラグ粒として回収される。
【0021】
スラグ溶湯9上に浮遊している未溶融の固体廃棄物10は、比重がスラグ溶湯9より大幅に小さいため、スラグ溶湯9に沈降し混入することがない。そのため、スラグ溶湯9の溶湯面下に設けられた連通路8に達することができない。したがって、固体廃棄物が完全に溶融したスラグ溶湯9だけが連通路8を流通している。また、主槽6のスラグ溶湯9上に浮遊している未溶融の固体廃棄物10は隔壁5に遮断されて副槽7に流入することがないため、副槽7内には完全に溶融したスラグ溶湯9しか流入しない。そのため、スラグ排出口13から排出されるスラグ溶湯9は、未溶融のアスベスト等が混入せず、完全に溶融処理済みの安全な物質として回収することができる。
【0022】
本実施例のプラズマ溶融炉では、副槽7を加熱バーナ14により加熱し、プラズマ電極3から離れている副槽7内やスラグ流出路12、スラグ排出口13でもスラグ溶湯9を保温し、流動性を十分に確保している。そのため、スラグ溶湯9が固着し、スラグ溶湯9の円滑な排出を阻害することがない。投入口2から固体廃棄物を連続的に投入すると、一定量のスラグ溶湯9が連続的に排出され、連続的にスラグ粒を得ることができる。したがって、後工程での処理を連続的に行うことができ、取り扱いに優れている。
【0023】
また、主槽6と副槽7を連通する連通路8内でもスラグ溶湯9が固着する恐れがないため、連通路8の太さや形態を自由に設計することができる。例えば、連通路8を細くすることにより未溶融の固体廃棄物10が副槽7に流入することを、より確実に防止することができる。
【0024】
さらに、本実施例のプラズマ溶融炉では、固体廃棄物の溶融処理を還元雰囲気で行うため、固体廃棄物から燃焼ガスが発生することがない。さらに、炉内を負圧にしているため、固体廃棄物から放出される有害ガスを大気に放出せず、安全に後工程の排ガス処理設備に配送することができる。したがって、飛散性アスベストを含む廃棄物など、発生する気体成分も適切に処理しなければならない物質の処理を適切に行うことができる。また、焼却を伴わないことから発生するガスの量が少ないため、排ガスの処理設備を小型化し、コストを節約することができる。
【実施例2】
【0025】
図3は本発明の第2実施例におけるプラズマ溶融炉の側面断面図である。副槽7に加熱ヒータ20が設けられており、加熱ヒータ20から発生するジュール熱により副槽7、スラグ流出路12、スラグ排出口13を保温するようになっている。
【0026】
また、スラグ排出口13の下方に排出管21が接続され、他端がスラグパン22に連絡している。スラグパン22には水が満たされ、排出管21を水封している。排出管21の側面には水噴ノズル23が設置され、スラグパン22の下側面には抜取り弁24が設けられている。
【0027】
スラグ排出口13から流出したスラグ溶湯9は水噴ノズル23から発射される水スプレーにより急冷され、粒状に固化してスラグパン22に貯留される。スラグパン22に一定量のスラグ粒が蓄積したら、抜取り弁24からスラグ粒を抜き取り、後工程で乾燥して埋め立て処分もしくは再利用する。
【0028】
本実施例のプラズマ溶融炉によれば、副槽7を加熱ヒータ20により保温するため、加熱に際してガスが発生せず、炉内の負圧コントロールがさらに容易になる。また、スラグ排出口13の下流で排出管21が水封されているため、確実に炉の気密を保持することができる。
【実施例3】
【0029】
図4は本発明の第3実施例におけるプラズマ溶融炉の側面断面図である。スラグ流出路12が導電性物質で円筒状に形成されており、スラグ流出路12を取り囲むように電磁誘導コイル30が配置されている。スラグ排出口13は下流が排出管31に接続され、排出管31の他端はシールゲート32を介してスラグパン33に接続している。スラグパン33は昇降台車34に載置されている。
【0030】
本実施例のプラズマ溶融炉では、導電性物質で形成されたスラグ流出路12に電磁誘導コイル30から誘導電力を印加してスラグ流出路12を発熱させることにより、スラグ流出路12および副槽7、スラグ排出口13を保温している。この形態によると、電磁誘導コイル30からの誘導電力を停止し、さらに電磁誘導コイル30に冷却水を流通させることにより、スラグ流出路12を冷却しスラグ溶湯9を固着させて、スラグ流出路12を閉止することができる。閉止後、電磁誘導コイル30から誘導電力を印加すれば、固着したスラグ溶湯9が溶融して再びスラグ流出路12が開通する。したがって、電磁誘導コイル30からの印加電力を制御することによってスラグ排出口13からのスラグの排出をon−offすることができる。
【0031】
本実施例では、この特徴を利用し、昇降台車34に載置したスラグパン33に一定量のスラグ粒が蓄積したら、スラグ流出路12を閉止し、シールゲート32を閉止して炉の気密を保持してスラグパン33を後工程に搬送できるようにした。その後、新たに空のスラグパン33を接続してシールゲート32およびスラグ流出路12を開放することで、円滑にスラグパン33を交換することができる。
【0032】
以上、詳細に説明したとおり、本発明のプラズマ溶融炉によれば、アスベストを含む廃棄物を、有害なアスベスト塵灰を含む排ガスの排出量を抑えると共に、アスベストが完全に溶融したスラグのみを排出し、アスベストを確実に無害化することができるプラズマ溶融炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施例におけるプラズマ溶融炉の側面断面図であるである。
【図2】本発明の第1実施例におけるプラズマ溶融炉の平面面断面図であるである。
【図3】本発明の第2実施例におけるプラズマ溶融炉の側面断面図であるである。
【図4】本発明の第3実施例におけるプラズマ溶融炉の側面断面図であるである。
【図5】従来技術のプラズマ溶融炉の側面断面図であるである。
【符号の説明】
【0034】
1 炉容器
2 投入口
3 プラズマ電極
4 排気口
5 隔壁
6 主槽
7 副槽
8 連通路
9 スラグ溶湯
10 固体廃棄物
12 スラグ流出路
13 スラグ排出口
14 加熱バーナ
15 のぞき窓
20 加熱ヒータ
21、31 排出管
22、33 スラグパン
23 水噴ノズル
24 抜取り弁
30 電磁誘導コイル
32 シールゲート
34 昇降台車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元雰囲気で廃棄物をアークプラズマにより高温溶融してスラグ化するプラズマ溶融炉であって、耐火物製の隔壁によりスラグ槽が主槽と副槽に仕切られ該主槽と該副槽を連通する連通路が設けられていて、該主槽が前記アークプラズマを発生するプラズマトーチおよび前記廃棄物を投入する投入口を備え、該副槽がオーバーフローによりスラグを排出するスラグ排出口を備えており、前記連通路は該スラグ排出口より低位に設けられていることを特徴とするプラズマ溶融炉。
【請求項2】
前記副槽に加熱装置を備え、該副槽内のスラグを保温することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ溶融炉。
【請求項3】
前記加熱装置がジュール熱により発熱する電気ヒータであることを特徴とする請求項2に記載のプラズマ溶融炉。
【請求項4】
前記スラグ排出口が導電性物質で形成されており、前記加熱装置が誘導加熱コイルであることを特徴とする請求項2に記載のプラズマ溶融炉。
【請求項5】
前記スラグ排出口の下流がスラグ排出管に接続しており、スラグ排出管の他端が水封されていることを特徴とする請求項1から4に記載のプラズマ溶融炉。
【請求項6】
前記廃棄物がアスベストを含むことを特徴とする請求項1から5に記載のプラズマ溶融炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−249220(P2008−249220A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89895(P2007−89895)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(308007505)カワサキプラントシステムズ株式会社 (51)
【Fターム(参考)】