説明

プラズマ電極ならびにそれを用いるプラズマ発生ノズル、プラズマ発生装置およびワーク処理装置

【課題】金属ロッドから成り、マイクロ波発生装置から導波管を介して伝搬されるマイクロ波を前記ロッドの一方側で受信し、他方端側では同心状に形成される接地側の電極との間で放電を行うことでプラズマを発生させるプラズマ電極において、長寿命化を図る。
【解決手段】ロッド状のプラズマ電極40の上方側のアンテナ41の部分が導波管20の導波空間Hに配置されてマイクロ波を受信する一方、前記プラズマ電極40の下方側が内側電極42となり、それに外側電極31が同心状に配置され、それらの間の内部空間32にガス供給孔35から供給される処理ガスを前記マイクロ波でプラズマ化するプラズマ発生ノズル30において、前記内側電極42の下方端421にセラミック溶射層49を形成する。したがって、前記セラミック溶射層49が前記下方端421に密着して該下方端421を安定して覆い、前記放電に対して、金属基材の蒸発や酸化を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ発生装置のプラズマ発生ノズルに用いられるプラズマ電極ならびにそのプラズマ電極を用いる前記のプラズマ発生ノズル、プラズマ発生装置およびワーク処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンなどのマイクロ波発生手段で発生されたマイクロ波を導波管を介して受信し、外部から供給される処理ガスを前記のマイクロ波のエネルギーによってプラズマ化して被処理物へ照射するようにしたプラズマ発生ノズルは、たとえば本件出願人による特許文献1などで提案されている。図8は、その従来技術のプラズマ発生ノズルを簡略化して示す断面図である。それによると、導波管101の底板101aには、ノズルとなる筒状の外側電極102が取付けられ、前記導波管101の天板101bに形成された点検孔101cから、ロッド状の内側電極103が嵌め込まれる。プラズマ電極である前記内側電極103は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などからなる筒状の保持部材104によって、外側電極102との間を絶縁して支持されており、前記点検孔101cのキャップ105を外すことで、保持部材104と一体で内側電極103の交換が可能となっている。前記外側電極102に形成された開口102aからは、外部から前記処理ガスが供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−300283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術は、簡単に内側電極103の交換を行えるようにしたものであるが、内側電極103自体の寿命が短いという問題がある。詳しくは、先ず上記のような電極材料としては、加工が容易で導電性を有する真鍮、アルミ、銀、銅などを選ぶことができる。これらの材料からなるロッド電極によって、プラズマ点火は問題なく行うことができる。しかしながら、放電によって高温となる電極先端部103aが蒸発し、パーティクルが被処理物を汚染してしまうという問題がある。
【0005】
そこで、前記電極材料として、加工は難しくなるけれども、融点や沸点が高いタングステンを使用することで、プラズマの点火性を維持しつつ、金属の蒸発を抑えることができる。しかしながら、今度はタングステンの酸化粉が発生し、依然としてパーティクル量が多く、短時間しかクリーンルームなどでは使用できないレベルにある。
【0006】
本発明の目的は、長寿命化することができるプラズマ電極ならびにそれを用いるプラズマ発生ノズル、プラズマ発生装置およびワーク処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラズマ電極は、接地側の電極との間で放電を行うことでプラズマを発生させるプラズマ電極において、ロッド状に形成され、そのロッドの一方側でマイクロ波を受信し、他方端側で前記放電を行う導電性の基材部と、少なくとも前記他方端側の表層に設けられるセラミック溶射層とを有することを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、セラミック溶射層がロッド状の基材部の他方端側に密着して該他方端側を安定して覆い、前記放電に対して、該基材の蒸発や酸化を抑えることができる。これによって、プラズマ電極を長寿命化することができる。
【0009】
また、本発明のプラズマ電極は、前記基材部がチタンから成り、前記セラミック溶射層がアルミナからなることを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、放電に対して前記基材部の他方端側に密着して該他方端側を安定して覆うことができるセラミック溶射層に対応して、基材部として熱膨張係数の近いチタンを用いる。したがって、高温になるプラズマ電極において、セラミック溶射層の温度ストレスによる損傷を抑え、より長寿命化を図ることができる。
【0011】
さらにまた、本発明のプラズマ電極は、前記基材部の表面にコーティングされ、該基材部よりも高い導電性を有するコート層をさらに備え、前記コート層の上に、前記セラミック溶射層が積層されていることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、マイクロ波を受信してから実際にプラズマ点火するまでに該プラズマ電極内を行き来するマイクロ波電流が、表皮効果によって該プラズマ電極の表層を流れることを考慮して、前記チタンなどの基材部に、該基材部よりも導電性の高い金などの材料からなる層をコーティングした上に、前記セラミック溶射層を積層(被膜形成)している。したがって、プラズマ点火までの該プラズマ電極の損失によるジュール熱の発生を抑えることができる。
【0013】
また、本発明のプラズマ電極では、前記基材部の他方端側の端面中央に、凹所を有することを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、ロッド状の基材部の端面を旋盤などで平面に切削加工すると、その中央に突起が残されてしまうのに対して、前記中央を平面とせずに、凹所となるように彫り込む。
【0015】
したがって、前記突起が残されてしまうと、その部分に電界が集中し、前記セラミック溶射層を損傷する可能性があるのに対して、そのような不具合を無くし、該プラズマ電極のより長寿命化を図ることができる。
【0016】
さらにまた、本発明のプラズマ発生ノズルは、前記のプラズマ電極からなる内側電極と、筒状に形成され、前記内側電極と同心状に配置されるとともに、接地される外側電極と、前記内側電極と外側電極とによって形成される環状のプラズマ吹出し口とを有することを特徴とする。
【0017】
上記の構成によれば、同心状の内側電極と外側電極とを用い、両電極間にマイクロ波による電界を印加することで、アーク放電ではなく、グロー放電を生じさせることができる。したがって、それらの同心状の電極間に外部の供給管から処理ガスを供給することで、その処理ガスをプラズマ化して前記環状のプラズマ吹出し口から被処理物となるワークに照射することができる。
【0018】
また、本発明のプラズマ発生装置は、マイクロ波を発生するマイクロ波発生手段と、前記マイクロ波を伝搬する導波管と、所定の処理ガスに前記マイクロ波のエネルギーを与え、前記処理ガスをプラズマ化して放出する前記のプラズマ発生ノズルとを具備し、前記プラズマ発生ノズルにおいて、前記プラズマ電極の一方端は接地されることを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、導波管内においてアンテナに電界集中部が形成されることはなく、導波管内でのグロー放電を防止することができる。
【0020】
さらにまた、本発明のプラズマ発生装置は、前記アンテナを伝搬するマイクロ波の波長をλとするとき、前記アンテナの接地点から前記他方端までの長さが、(2n−1)λ/4(但し、nは整数)、若しくはその近傍の長さとされていることを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、一方端が接地されたアンテナは、受信するマイクロ波の1/4波長の奇数倍となる長さで電気的に共振する。したがって、前記のようにアンテナの接地点からの長さを、(2n−1)λ/4の長さ若しくはその近傍の長さとすることで、前記他方端における電界強度を高強度とすることができ、プラズマを効率的に発生させることができる。
【0022】
また、本発明のプラズマ発生装置では、絶縁性を有する材料で円筒状に形成され、前記内側電極を前記外側電極内に保持する保持部材と、前記導波管において外側電極が取付けられる壁面とは反対側の壁面に形成され、前記保持部材に保持された内側電極が遊挿可能な点検口と、前記点検口を覆う固定具とをさらに備え、前記保持部材の導波管内における少なくとも一部分は、把持部として、前記導波管の前記反対側の壁面に延びて形成され、前記固定具に前記プラズマ電極の一方端が吊止めされることで、該一方端が前記固定具を介して接地されることを特徴とする。
【0023】
上記の構成によれば、固定具を導波管から取外すことで、保持部材に内側電極を取外すことができ、被照射対象物(ワーク)側から交換を行う場合に比べて、プラズマ発生ノズルが取付けられた導波管を取外したりするような必要はなく、極めて容易に交換を行うことができる。また、作業者は、前記保持部材の延長された把持部を把持して、内側電極に手や工具で触れることなく、該内側電極を交換することができ、該内側電極への傷付きを防止することができるとともに、専用工具を用いることなく交換を行うことができる。そして、内側電極を吊止めしている固定具から、該内側電極を接地することもできる。
【0024】
さらにまた、本発明のワーク処理装置は、前記のプラズマ発生装置と、前記プラズマ発生ノズルで発生したプラズマ化された処理ガスでワークを処理するワーク処理部とを備えることを特徴とする。
【0025】
したがって、長寿命なワーク処理装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のプラズマ電極によれば、セラミック溶射層がロッド状の基材部の他方端側に密着して該他方端側を安定して覆い、放電に対して、基材部の蒸発や酸化を抑えることができる。これによって、プラズマ電極を長寿命化することができる。
【0027】
また、本発明のプラズマ発生ノズルによれば、同心状の電極間に外部の供給管から処理ガスを供給することで、その処理ガスをプラズマ化して環状のプラズマ吹出し口から被処理物となるワークに照射することができる。
【0028】
さらにまた、本発明のプラズマ発生装置によれば、導波管内においてアンテナに電界集中部が形成されることはなく、導波管内でのグロー放電を防止することができる。
【0029】
また、本発明のワーク処理装置は、以上のように、前記のプラズマ発生装置と、前記プラズマ発生ノズルで発生したプラズマ化された処理ガスでワークを処理するワーク処理部とを備える。
【0030】
それゆえ、長寿命なワーク処理装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の一形態に係るワーク処理装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係るプラズマ発生ノズルの断面図である。
【図3】前記のプラズマ発生ノズルの構成要素の分解図である。
【図4】アンテナとマイクロ波との結合関係を示す模式的な図である。
【図5】本発明の実施の他の形態に係るプラズマ発生ノズルの断面図である。
【図6】本発明の実施のさらに他の形態に係るプラズマ発生ノズルの断面図である。
【図7】図1のプラズマ発生ノズルと図6のプラズマ発生ノズルとのプラズマ電極端面の違いを拡大して示す斜視図である。
【図8】典型的な従来技術のプラズマ発生ノズルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の一形態に係るワーク処理装置Sを示す概略構成図である。このワーク処理装置Sは、プラズマ化されたガスを発生するプラズマ発生ユニットPU(プラズマ発生装置)と、前記プラズマ化されたガスが導入されるチャンバーT(ワーク処理部)とから構成されている。前記チャンバーTでは、前記プラズマ化されたガスによって、例えば医療用器具類の滅菌、或いは半導体基板等の有機汚染物の除去や表面改質などを行う。
【0033】
プラズマ発生ユニットPUは、マイクロ波を利用し、常温常圧でのプラズマ発生が可能なユニットであって、大略的に、所定波長のマイクロ波μを発生するマイクロ波発生装置10(マイクロ波発生手段)と、このマイクロ波発生装置10に接続され、前記マイクロ波μを伝搬させる導波管20と、該導波管20に設けられたプラズマ発生ノズル30とを備えて構成されている。
【0034】
マイクロ波発生装置10は、例えば2.45GHzのマイクロ波μを発生し、該マイクロ波μを導波管20の内部へ伝搬させる。このためマイクロ波発生装置10は、マイクロ波を発生するマグネトロン等のマイクロ波発生源と、このマイクロ波発生源にて発生されたマイクロ波の強度を所定の出力強度に調整するアンプと、マイクロ波を導波管20の内部へ放出するマイクロ波送信アンテナとを備える。本実施形態に係るプラズマ発生ユニットPUでは、例えば1W〜3kWのマイクロ波エネルギーを出力できる連続可変型のマイクロ波発生装置10が好適に用いられる。
【0035】
導波管20は、例えば非磁性金属(アルミニウム等)からなり、断面矩形の管状を呈し、マイクロ波発生装置10により発生されたマイクロ波μをプラズマ発生部30へ向けて伝搬させる。導波管20は、例えば金属平板からなる上面板、下面板及び2枚の側面板を用いた角筒状の組み立て体にて構成することができる。このような平板の組み立てによらず、押し出し成形や板状部材の折り曲げ加工等により形成しても良い。また、断面矩形の導波管に限らず、例えば断面楕円の導波管を用いることも可能である。さらに、非磁性金属に限らず、導波作用を有する各種の部材で導波管を構成することができる。
【0036】
プラズマ発生ノズル30は、適宜な処理ガスにマイクロ波μのエネルギーを与え、前記処理ガスをプラズマ化して放出する。プラズマ発生ノズル30は、マイクロ波μを受信するロッド状のプラズマ電極40を備える。プラズマ電極40は、上方側が導波管20の内部に導入されてアンテナ41となり、下方側が導波管20の外部へ突出されて内側電極42となる。このプラズマ発生ノズル30については、図2および図3に基づき、後に詳述する。
【0037】
このようなプラズマ発生ユニットPUには、上記の構成要素の他、マイクロ波μを導波管20の遠端側において反射するスライディングショート、導波管20に放出されたマイクロ波μのうち反射マイクロ波がマイクロ波発生装置10に戻らないよう分離するサーキュレータ、このサーキュレータで分離された反射マイクロ波を吸収するダミーロード、およびインピーダンス整合を行うスタブチューナ等を具備させるようにしても良い。
【0038】
チャンバーTは、ワークWに対する滅菌処理を行うためのチャンバーである。このチャンバーTは、チャンバー本体50と、チャンバー本体50の内部に収納され、ワークWを載置するためのワークトレイ51とを備えている。
【0039】
チャンバー本体50には、プラズマ化されたガスGの導入孔52と、処理後のガスを換気するインレット54およびアウトレット55とが備えられている。ガス導入孔52には、プラズマ発生部30で発生された前記ガスGをチャンバー本体50の内部へ導くためのステンレスチューブ53が接続されている。ワークトレイ51は、例えばメッシュ状の金属トレイからなる。
【0040】
このように構成されたワーク処理装置Sの使用態様の一例は次の通りである。例えば医療用器具などのワークWを、ワークトレイ51に載置してチャンバー本体50内に収納する。その後、マイクロ波発生装置10を起動してマイクロ波μを発生させると共に、プラズマ発生ノズル30へ処理ガスを供給する。ここでの処理ガスとしては、酸素、水素、窒素、アルゴン、フロンなどの励起ガスに、過酸化水素水、アンモニア水、水などの水素成分を有するミストを混合させたものを用いることができる。
【0041】
前記マイクロ波μは、導波管20の内部でプラズマ電極40により受信される。受信されたマイクロ波μのエネルギーは、前記処理ガスのプラズマ化のために消費され、これによりプラズマ発生ノズル30でプラズマ化されたガスGが生成される。このガスGは、ステンレスチューブ53を介してチャンバー本体50内に導入される。プラズマ化によりガスGは高い反応性をもつ水酸基ラジカルや酸素ラジカル等を含み、ワークWに付着している微生物に作用してこれを死滅させる。
【0042】
続いて、プラズマ発生ノズル30の詳細構造について、図2および図3に基づいて説明する。図2は本発明の実施の一形態のプラズマ発生ノズル30の断面図であり、図3はプラズマ発生ノズル30の構成要素の分解図である。プラズマ発生ノズル30は、プラズマ電極40と、外側電極31と、口金25および固定具44とを備えて構成されている。
【0043】
前記プラズマ電極40は、前述のように、そのアンテナ41の側が導波管20の内部空間(導波空間)Hを貫通し、内側電極42の側が導波管20の外部へ突出する態様で配置されている。導波管20は、上下方向で対向する上面板21および下面板22、ならびに左右方向で対向する一対の側面板23,24で構成された、前述のような断面矩形の導波管である。詳細には、プラズマ電極40は、このような導波管20に対し、アンテナ41の側が、導波管20の内部空間Hを貫通すると共に上面板21を貫通して先端が外部へ突出するように、また、内側電極42の側が、下面板22を貫通して外部へ所定長だけ突出し、筒状の外側電極31で外囲されるように各々配置されている。
【0044】
プラズマ電極40は、筒状の保持部材43によって保持されている。この保持部材43は、プラズマ電極40の位置決めの役目、および該プラズマ電極40が後述する接地点P以外の部位で導波管20や外側電極31と接触することを防止する役目を果たす。保持部材43は、マイクロ波透過性の部材であって、絶縁性の材料で形成される。好ましくは、ポリプロピレン樹脂やフッ素樹脂等の耐熱性樹脂、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やセラミック等の低誘電率の絶縁材料を用いることができる。
【0045】
保持部材43は、プラズマ電極40の長手方向の中央付近外周と密着接合している充実部431と、プラズマ電極40のアンテナ41部分の外周に空間433を置いて配置されている中空部432とを備える。充実部431はプラズマ電極40を保持すると共に導波管20の下面板22と接触することを抑止し、中空部432はプラズマ電極40が上面板21および口金25と接触することを抑止している。保持部材43は、導波管20を上下方向に貫通する態様で組み付けられ、その上端434が上面板21から上方へ突出し、下端435が下面板22から下方へ突出している。
【0046】
外側電極31は、金属ブロックからなり、その内部空間32に前記プラズマ電極40の内側電極42が同心状に配置されて前記内側電極42との間に筒状空間を形成し、該筒状空間を通るガス流を形成可能とするものである。導波管20に対して外側電極31は、その上端面33が導波管20の下面板22の外表面と接するように取付けられ、保持部材43の下端435の側が内部空間32の上部に入り込む。
【0047】
外側電極31には、処理ガスを供給するためのガス供給孔35(ガス供給部)が設けられている。ガス供給孔35は、内部空間32と連通しており、図略のガス供給管が接続される。また、外側電極31の側周壁には、図略の冷却管を取り付けるための凹部36が設けられている。前記冷却管は、プラズマの発生により高温となる外側電極31を冷却するためのものである。
【0048】
このように前記のプラズマ電極40を内側電極42とし、同心状に接地された外側電極31を備え、環状のプラズマ吹出し口を有することで、両電極31,42間にマイクロ波μによる電界を印加すると、アーク放電ではなく、グロー放電を生じさせることができる。したがって、それらの同心状の電極31,42間に外部の供給管から処理ガスを供給することで、その処理ガスをプラズマ化して前記環状のプラズマ吹出し口から被処理物となるワークWに照射することができる。
【0049】
口金25は、固定具44を装着させるために設けられ、導波管20の上面板21の外表面に取り付けられている。口金25は、貫通孔251を有する円筒状の部材であり、該貫通孔251には、保持部材43の上端434の側が収納されている。
【0050】
固定具44は、金属材料で形成され、プラズマ電極40の上面板21からの突出部を保持してプラズマ電極40を吊止するための部材である。固定具44は、ビス等で口金25の上面と密着固定される円形のフランジ部441と、前記フランジ部441の中心に突設される支持部442と、前記支持部442を上下方向に貫通する保持孔443と、支持部442の周面に設けられ、保持孔443と連通する止め孔444を備えている。
【0051】
保持孔443には、プラズマ電極40のアンテナ41が摺接状態で挿通されている。止め孔444には図略の止めネジが螺合され、これによりプラズマ電極40のアンテナ41の側が固定具44に対して固定(吊止)される。プラズマ発生ノズル30の組立てに際しては、保持部材43が被着されたプラズマ電極40を予め固定具44に固定しておき、これを導波管20の口金25が装着された部位へ嵌め込み、口金25に固定具44を固着する方法を取ることができる。そして、プラズマ電極40を交換する場合は、口金25から固定具44を取り外し、プラズマ電極40と共に固定具44を抜き出すようにすれば良い。
【0052】
このように構成されたプラズマ発生ノズル30において、本実施形態では、プラズマ電極40のアンテナ41が接地されている。具体的には、図2に模式的に示しているように、プラズマ電極40のアンテナ41の側を吊止固定する固定具44が接地されている。プラズマ電極40は、固定具44による固定部以外の部位において他の導電性部材と接触していない。このためプラズマ電極40は、固定具44による固定部を接地点Pとする、片端接地のアンテナとして機能することとなる。なお、このアンテナ41における接地点は適宜設定しても良く、例えば固定具44による固定部よりも下側の位置において、アンテナ41を導波管20へ導通させることで、接地点を形成しても良い。
【0053】
ここで、プラズマ電極40の接地点Pから内側電極42方向の長さLは、導波管20内の波長λ0のマイクロ波μを受信したプラズマ電極40を伝搬するマイクロ波の波長をλとするとき、3λ/4の長さに選ばれている。
【0054】
図4は、上述のようなプラズマ電極40と、そのプラズマ電極40を伝搬するマイクロ波μとの結合関係を示す模式的な図である。片端が接地されたプラズマ電極40は、受信するマイクロ波の1/4波長の奇数倍となる長さで電気的に共振することになる。このため、プラズマ電極40の長さ方向、つまり接地点Pからの突出方向の電圧分布は、図4に示すように、該接地点Pとλ/2の位置とがゼロとなり、λ/4及び3λ/4の位置で最大となるカーブとなる。このため、前述のようにプラズマ電極40の接地点Pからの長さLを3λ/4の長さとすることで、内側電極42における電界強度を高強度とすることができる。これにより、内側電極42付近を通過する処理ガスに高いエネルギーを与えることができ、プラズマを効率的に発生させることができる。
【0055】
ここで、共振は1/4波長の奇数倍となる長さで表れるので、プラズマ電極40の長さLは、次の一般式により設定することができる。
【0056】
L=(2n−1)λ/4 (但し、nは整数)
なお、上記の一般式で導出される長さLから多少ズレた長さL′であっても、比較的強い電界強度が得られる場合は、プラズマ電極40をその長さL′に設定しても良い。
【0057】
上述の通り構成されたプラズマ発生ノズル30によれば、導波管20内にマイクロ波μが伝搬されると、このマイクロ波μはプラズマ電極40で受信される。その結果、プラズマ電極40の内側電極42の近傍に電界集中部が形成されるようになる。かかる状態で、外側電極31のガス供給孔35から処理ガスが供給されると、内側電極42の近傍で処理ガスが励起されてプラズマ(電離気体)が発生する。このようにしてプラズマ化された処理ガスGは、ガス供給孔35から与えられるガス流によりプルームとして外側電極31の筒状空間32の下端から放射される。
【0058】
以上説明した本実施形態に係るプラズマ発生ノズル30によれば、プラズマ電極40のアンテナ41の側は、導波管20内を伝搬するマイクロ波μを受信するべく導波管20の内部に導入されているが、アンテナ41が接地されることから、導波管20内においてプラズマ電極40に電界集中部が形成されることはない。したがって、導波管20内でグロー放電が生じることは無い。一方、内側電極42は、接地点Pからは突出端となり、該接地点Pからの長さLが3λ/4に選ばれているので、電界集中部となる。このため、処理ガスをプラズマ化するためのエネルギーを、内側電極42において確実に与えることができる。したがって、本来プラズマを発生させるべき内側電極42の側で、確実にプラズマを発生させることができる。また、プラズマ電極40の導波管20への取り付けに際し、導波管内放電を回避するためのシビアな調整管理等を不要とすることができる。
【0059】
また、プラズマ電極40が、絶縁性を有し、円筒状に形成される保持部材43を介して前記外側電極31内に保持され、前記保持部材43の導波管20内における中空部432が把持部となる一方、口金25には点検口となる貫通孔251を形成しておき、その貫通孔251を覆う固定具44にアンテナ41の先端を吊止めすることで、固定具44を導波管20から取外すことで、保持部材43にプラズマ電極40を取外すことができ、被照射対象物(ワークW)側から交換を行う場合に比べて、該プラズマ発生ノズル30が取付けられた導波管20を取外したりするような必要はなく、極めて容易に交換を行うことができる。また、作業者は、前記保持部材43を把持して、プラズマ電極40に手や工具で触れることなく、該プラズマ電極40を交換することができ、該プラズマ電極40への傷付きを防止することができるとともに、専用工具を用いることなく交換を行うことができる。そして、プラズマ電極40を吊止めしている固定具44から、該プラズマ電極40を接地することもできる。
【0060】
上記のように構成されるプラズマ発生ノズル30において、注目すべきは、プラズマ電極40は、ロッド状で導電性を有する基材部401に対して、少なくとも外側電極31との間で放電を行う下方端421の表層に、セラミック溶射層49が形成されてなることである。
【0061】
前記溶射とは、材料を加熱・溶解し、被施工物(基材)に吹き付け、皮膜を形成することで、その表面を処理する方法の一種である。加熱の熱源としては、高温の燃焼炎やプラズマなどを用いることができる。この熱源によって材料(溶射材料)は液滴化され、基材や皮膜上に吹付けられる。なお、基材と溶射粒子との密着強度は、溶接などに比べて小さいので、施工前にブラスト処理によって基材部401の表面を荒し、機械的な噛み合わせによる密着強度の向上を図る必要がある。また、塗装などと同様に、マスキングによって、図2や図3で示すように、対象物の特定の部分のみに施工可能である。
【0062】
このように構成することで、前記セラミック溶射層49が内側電極42の下方端421に密着して該下方端421を安定して覆い、前記放電に対して、基材部401(内側電極42)の蒸発や酸化を抑えることができる。これによって、プラズマ電極40を長寿命化することができる。また、このようなプラズマ発生ノズル30を用いることで、ワーク処理装置Sも長寿命化することができる。
【0063】
好ましくは、基材部401がチタンからなり、前記セラミック溶射層49がアルミナからなる。これは、放電に対して前記内側電極42の下方端421に密着して該下方端421を安定して覆うことができるセラミック溶射層49に対応して、基材部401として、熱膨張係数の近いチタンを用いるためである。このように構成することで、高温になるプラズマ電極40において、セラミック溶射層49の温度ストレスによる損傷を抑え、より長寿命化を図ることができる。
【0064】
具体的には、基材部401として、前述のように真鍮、アルミ、銀、銅などの良導電性の金属を用いた場合に比べて、融点や沸点が高いタングステンを使用することで、電極金属の蒸発が抑えられ、長寿命化を図ることができる。しかしながら、前述のようにタングステンの酸化粉が発生する。そこで、酸化防止の一般的な手法として、タングステン表面に数μm程度炭素を含侵させることで、暫くの間、例えばアンテナ40で受信するマイクロ波のエネルギーが100Wとして、300時間程度は、クラス10以下にパーティクルの発生を抑えることができる。しかしながら、その時間が過ぎると、炭化層が徐々に剥がれ、前記の酸化粉が発生する。
【0065】
これに対して、本実施の形態のように、チタンの基材部401に、アルミナのセラミック溶射層49を形成した場合、2000時間を超える寿命を確保することができた。表1に、本願発明者の実験結果を示す。マイクロ波エネルギーは前述のように100W、使用した処理ガスはクリーンなドライエアで、流量は15LPMであった。評価は、電極先端への付着物の付着の有無である(その付着物がノズルから飛び出し、ワークに付着することになる)。
【0066】
【表1】

【0067】
(実施の形態2)
図5は本発明の実施の他の形態に係るプラズマ発生ノズル30aの断面図である。このプラズマ発生ノズル30aは、前述のプラズマ発生ノズル30に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。注目すべきは、このプラズマ発生ノズル30aでは、プラズマ電極40aが、前記基材部401に、該基材部401よりも導電性の高いコート層402がコーティングされ、さらに前記セラミック溶射層49が積層(被膜形成)されて構成されていることである。
【0068】
これは、前述のようにセラミック溶射層49を形成してパーティクルを抑えることで、2000時間を超えるプラズマ電極40の長寿命化を実現できるものの、プラズマを消灯状態から点火させる際に、マイクロ波μの受信から実際にプラズマ点火するまでに該プラズマ電極40内を行き来するマイクロ波電流が、該プラズマ電極40a内の抵抗成分によってジュール熱となり、保持部材43の劣化(溶融や焦げ付き)を招くためである。
【0069】
前記基材部401は、前述のように溶射層49のアルミナに熱膨張係数の近いチタンであり、前記コート層402は、例えば金層で、1μm以上の厚さにコーティングされる。前記点火までのマイクロ波電流は、表皮効果によって、該プラズマ電極40aの表層、2〜3μmを流れる。このように構成することで、プラズマ点火の繰返しによる保持部材43の劣化を抑え、該プラズマ電極40aの一層の長寿命化を実現することができる。
【0070】
表2に、本願発明者の実験結果を示す。実験条件は前述の表1の場合と同様で、30秒点火すると30秒消灯する動作を加えた。なお、保持部材43の材料には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いている。この実験結果から理解されるように、コーティング無しでは、数十回から焦げ付きが発生し、長く使えたとしても1000回が限界であるのに対して、前記コーティングを施すことで、4000回を超えても変化はなく、著しく耐久性を向上することができる。
【0071】
【表2】

【0072】
(実施の形態3)
図6は本発明の実施のさらに他の形態に係るプラズマ発生ノズル30bの断面図である。このプラズマ発生ノズル30bは、前述のプラズマ発生ノズル30に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。注目すべきは、このプラズマ発生ノズル30bでは、プラズマ電極40bの内側電極42の下方端421の端面中央に、凹所422が形成されていることである。
【0073】
これは、前述のように該プラズマ電極40bの基材部401がチタンからなり、前記内側電極42の下方端421の端面を旋盤などで平面に切削加工すると、図7(a)で拡大して示すように、その中央に突起423が残されてしまうためである。この突起423が残されてしまうと、この部分に電界が集中し、前記アルミナからなるセラミック溶射層49が溶解し、或いは割れを生じる。そこで、図7(b)で拡大して示すように、突起423部分を取り除くために、前記下方端421の端面中央を彫り込み、前記凹所422を形成している。
【0074】
これによって、前記電界集中部は、前記下方端421の外周端縁424に、前記凹所422の端縁425に分散され、該下方端421の温度上昇を抑えて、前記セラミック溶射層49の損傷を防止し、より長寿命化を図ることができる。前記外周端縁424および端縁425は、面取りが施されていてもよい。
【0075】
以上、本発明の一実施形態に係るプラズマ発生ノズル30,30a,30b、プラズマ発生ユニットPU及びワーク処理装置Sについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば下記の実施形態を取ることができる。
(1)上記実施形態では、導波管20に1本のプラズマ発生ノズル30を取り付ける例を示したが、複数本設けるようにしても良い。その場合、直線状の導波管20に複数のプラズマ発生ノズル30も一直線上に配置するのではなく、千鳥状や、並列に2列設けるようにしても良い。このようなノズル配置は、導波管20の幅やプラズマ発生ノズル30の配置ピッチ、マイクロ波の波長等を適正化することで実現可能である。
(2)上記実施形態では、プラズマ発生ユニットPUが適用されるワーク処理装置Sの例として滅菌装置を例示した。この他、プラズマ発生ユニットPUは、他のワーク処理装置、例えば半導体ウェハ等の半導体基板に対するエッチング処理装置や成膜装置、プラズマディスプレイパネル等のガラス基板やプリント基板の清浄化処理装置、タンパク質の分解装置等にも好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
10 マイクロ波発生装置
20 導波管
25 口金
30,30a,30b プラズマ発生ノズル
31 外側電極
32 内部空間
35 ガス供給孔
40,40a,40b プラズマ電極
401 基材部
402 コート層
41 アンテナ
42 内側電極
421 下方端
423 凹所
424 外周端縁
425 端縁
43 保持部材
44 固定具
49 セラミック溶射層
S ワーク処理装置
PU プラズマ発生ユニット(プラズマ発生装置)
T 滅菌チャンバー
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地側の電極との間で放電を行うことでプラズマを発生させるプラズマ電極において、
ロッド状に形成され、そのロッドの一方側でマイクロ波を受信し、他方端側で前記放電を行う導電性の基材部と、
少なくとも前記他方端側の表層に設けられるセラミック溶射層とを有することを特徴とするプラズマ電極。
【請求項2】
前記基材部がチタンから成り、前記セラミック溶射層がアルミナからなることを特徴とする請求項1記載のプラズマ電極。
【請求項3】
前記基材部の表面にコーティングされ、該基材部よりも高い導電性を有するコート層をさらに備え、
前記コート層の上に、前記セラミック溶射層が積層されていることを特徴とする請求項1または2記載のプラズマ電極。
【請求項4】
前記基材部の他方端側の端面中央に、凹所を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラズマ電極。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラズマ電極からなる内側電極と、
筒状に形成され、前記内側電極と同心状に配置されるとともに、接地される外側電極と、
前記内側電極と外側電極とによって形成される環状のプラズマ吹出し口とを有することを特徴とするプラズマ発生ノズル。
【請求項6】
マイクロ波を発生するマイクロ波発生手段と、
前記マイクロ波を伝搬する導波管と、
所定の処理ガスに前記マイクロ波のエネルギーを与え、前記処理ガスをプラズマ化して放出する前記請求項5記載のプラズマ発生ノズルとを具備し、
前記プラズマ発生ノズルにおいて、前記プラズマ電極の一方端は接地されることを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項7】
前記アンテナを伝搬するマイクロ波の波長をλとするとき、
前記アンテナの接地点から前記他方端までの長さが、(2n−1)λ/4(但し、nは整数)、若しくはその近傍の長さとされていることを特徴とする請求項6記載のプラズマ発生装置。
【請求項8】
絶縁性を有する材料で円筒状に形成され、前記内側電極を前記外側電極内に保持する保持部材と、
前記導波管において外側電極が取付けられる壁面とは反対側の壁面に形成され、前記保持部材に保持された内側電極が遊挿可能な点検口と、
前記点検口を覆う固定具とをさらに備え、
前記保持部材の導波管内における少なくとも一部分は、把持部として、前記導波管の前記反対側の壁面に延びて形成され、
前記固定具に前記プラズマ電極の一方端が吊止めされることで、該一方端が前記固定具を介して接地されることを特徴とする請求項6または7記載のプラズマ発生装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載のプラズマ発生装置と、
前記プラズマ発生ノズルで発生したプラズマ化された処理ガスでワークを処理するワーク処理部と、を備えることを特徴とするワーク処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−212226(P2010−212226A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192140(P2009−192140)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000135313)ノーリツ鋼機株式会社 (1,824)
【Fターム(参考)】