説明

プリント配線板及びプリント回路板

【課題】電子部品をプリント配線板に実装する際に、特殊なはんだ材料を用いることなく、はんだ濡れ性が良好で、はんだウィスカの発生を抑制できる銅配線の表面構成を有する鉛フリーはんだ用プリント配線板及びプリント回路板を提供することにある。
【解決手段】プリント配線板の銅配線の表面構成として、最下層の0.05μm以上5μm以下のNi層上に、SnあるいはSn合金層を、または厚さ0.1μm以上0.5μm以下のCu層を、または厚さ0.01μm以上0.5μm以下のCu層とさらにその上にSnあるいはSn合金層を、または厚さ0.03μm以上1.9μm以下のCu‐Sn合金層とさらにその上にSnあるいはSn合金層の何れかを備えることにより、鉛フリーはんだ材料の使用において良好なはんだ濡れ性が得られ、また、電子部品がはんだ付けにより実装されたプリント回路板でははんだウィスカの発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスクロスエポキシ樹脂基板等のリジッドな単層基板及び多層基板、及び合成樹脂フィルム等を用いたフレキシブル基板に導電材で電子回路を構成する配線が形成されたプリント配線板、及び電子部品が鉛フリーはんだ材料を用いてはんだ付けにより実装されたプリント回路板に関し、特に、銅配線にウィスカの発生を抑制する表面処理がされたプリント配線板および電子部品が実装されたプリント回路板に関する。
【背景技術】
【0002】
錫を主成分とするめっきを使用した電子部品等では、使用中にめっきウィスカが発生することが知られており、種々の対策が成されている。
【0003】
近年、錫を主成分とした鉛フリーはんだ材料を用いて電子部品等をフローはんだ付け、およびリフローはんだ付けした場合においても、使用中にはんだ接合部からはんだウィスカが発生することが公表されている。特に、はんだウィスカは、高温高湿環境においてウィスカの発生が加速されることが知られており、使用環境によってははんだからのウィスカの発生を無視できない。このはんだウィスカの発生により、細密なプリント配線板の回路同士間、および部品電極同士間、さらに配線回路と電極間が、短絡する恐れがあり、ウィスカの発生を回避する技術が望まれている。
【0004】
電子部品等と配線回路のはんだ接合部から発生するウィスカの駆動力は、使用期間中に生じる接合部の内部応力と推定されており、その起源としては、錫の酸化あるいは腐食による錫酸化物の生成と成長に起因する圧力や、錫と回路の銅材との境界に生成する金属間化合物の成長に起因する圧力であるものと推定されている。
【0005】
ウィスカ発生の抑制を目的とした下記の電気電子部品や電気電子材料が提案されている。
【0006】
特許第3475910号公報には、外部電極の最外層に設けられた錫めっき層の錫結晶粒界に、錫めっき層の下層、例えばニッケル層またはニッケル合金層のニッケル原子等の錫と異なる金属原子を拡散することで、高温状態と低温状態が繰り返される環境下においても錫めっき層にウィスカが発生するのを抑制した電子部品(セラミックコンデンサ)が記載されている(特許文献1)。
【0007】
特許第3621365号公報には、芯線導体や基板金属層部分とはんだ接合される電気コネクタの金属端子に、金属端子の接合される部分にニッケル層を設け、ニッケル層の上に銅含有量が0.5〜5質量%である錫−銅合金層を設け、ウィスカの発生しない鉛フリーの接合部を形成した電気コネクタが記載されている(特許文献2)。
【0008】
特許第3880877号公報には、電気電子部品用の銅または銅合金の表面上に、厚さ0.05〜1.0μmのニッケルまたはニッケル合金層を、最表面に錫または錫合金層を形成し、ニッケルまたはニッケル合金層と錫または錫合金層の中間に銅と錫を主成分とする拡散層または銅とニッケルと錫を主成分とする拡散層を1層以上形成する等の表面処理により、はんだ付け性、耐ウィスカ性、耐熱信頼性及び良好な成形加工性を有する表面処理材料の製造方法が記載されている(特許文献3)。
【0009】
特開2004−292944号公報には、表面に錫めっき層を施す際、下地としてニッケルめっき層を厚さ0.5〜5μm、さらにその上に銅めっき層を厚さ0.5〜5μm施すことによりウィスカの発生を防止する電子部品用金属材料が記載されている(特許文献4)。
【0010】
はんだ材料を改良してはんだウィスカを防止する先行技術として、特開2005−288478号公報には、錫、または、鉛を含まない錫基合金に、コバルトを0.1〜1.0重量%含有した無鉛はんだ、または、マンガン、鉄、ニッケルのうち少なくとも1種を0.1〜1.0重量%含有した無鉛はんだと、銅を含有して形成された被はんだ部材と接合部を構成する。この接合部を構成することで接合部における錫と銅の金属間化合物(CuSn)の成長を抑制することができ、これによって接合部の内部応力の増加を抑制して、錫および錫基合金からのウィスカの発生、成長を抑制することができる旨の記載がある(特許文献5)。
【0011】
また、特開2006−289493号公報には、0.003重量%〜5重量%の亜鉛又は亜鉛化合物と、それ以外の残部が基本的に錫又は錫化合物とを含む錫−亜鉛系はんだを用いて銅や銅合金にはんだ付けを行うことにより、錫ウィスカの発生原因である錫−銅化合物の成長を抑制しウィスカの発生を抑制できる。さらに、亜鉛を添加することではんだ表面に亜鉛酸化皮膜(ZnO)が形成されることにより、はんだ中の錫の酸化が防止され、錫の酸化物の生成による内部応力が発生せず、ウィスカの発生を抑制しているとの記載がある(特許文献6)。
【0012】
その他、プリント配線板のスルーホールめっきの先行技術として、特許第2778323号公報には、スルーホールにニッケルめっきを施し、その上にCuめっきを施すことにより、銅めっきのピール強度を増すこと、ニッケルが耐エッチング性を有していること、またニッケルが銅の電食による絶縁性低下を抑えること等で、スルーホール内の信頼性を向上させ、パターン配線密度を向上させる旨の記載がある(特許文献7)。
【0013】
また、特許第2919181号公報には、無電解ニッケルめっきを0.5〜1.0μm析出させ、さらに基板表面を研磨してニッケルめっきをスルーホール内にのみ残す工程を付加し、最終工程でスルーホール内にニッケルめっきと銅めっきから成る二重のめっき皮膜を形成することにより、ソルダ−レジストを塗布した後の乾燥時に発生するレジストとライン銅箔表面の酸化を防止することができ、無電解銅めっきにおいてレジストとライン銅箔表面の剥離が生じない旨の記載がある(特許文献8)。
【0014】
【特許文献1】特許第3475910号公報
【特許文献2】特許第3621365号公報
【特許文献3】特許第3880877号公報
【特許文献4】特開2004−292944号公報
【特許文献5】特開2005−288478号公報
【特許文献6】特開2006−289493号公報
【特許文献7】特許第2778323号公報
【特許文献8】特許第2919181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献4は、電子部品の電極やリードフレームにおいて、表面めっき構成等の改良によってウィスカを防止するとしたものである。しかし、これら文献は電子部品用金属材料の表面めっきにおいて発生するめっきウィスカの防止を目的としたものであり、電子部品をはんだ付けした表面部分から発生するはんだウィスカの防止に対する効果は、これら文献中に記載されていないため不明である。仮にはんだウィスカの防止に効果があったとしても、電子部品をはんだ付けするプリント配線板についてはんだウィスカを防止する方策がこれらの文献中には何も記載されていない。
【0016】
また、特許文献5及び特許文献6は、はんだウィスカの発生を抑制するはんだ組成物に係る提案であり、これらはんだ組成物を用いることにより、はんだウィスカの発生を抑制するものである。しかし、これら文献ではウィスカの発生を銅導体、電子部品が装着されていない銅配線を溶融はんだ付けした試料について検討をしており、実際の電子部品のはんだ付けとは異なっている。また、特殊なはんだ組成物を用いねばならないとの制約があり、プリント配線板や電子部品の表面処理に合わせたはんだ付けやはんだ付け後の信頼性を確認しなければならない。
【0017】
特許文献7及び特許文献8は、プリント基板のスルーホール内部導体に、銅めっきの下地めっきとして金属、例えばニッケル、めっきを施すことにより、または、スルーホール内にニッケルめっきと銅めっきから成る二重のめっき皮膜を形成することにより、配線回路、特にスルーホールの信頼性を改善し、プリント基板の高密度化を図っているが、はんだ付け後、高温高湿環境の下で発生するはんだウィスカに対する効果は、これら文献中に記載されていないため不明である。
【0018】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、特殊なはんだ材料を用いることなく、はんだ濡れ性が良好で、実際に即したはんだウィスカの発生を抑制できる銅配線の表面構成を有する、低コストの鉛フリーはんだ用プリント配線板及び電子部品が実装されたプリント回路板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の発明は、電子部品をはんだ付けする銅配線の表面構成が、厚さ0.5μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の錫あるいは錫合金層であることを特徴とするプリント配線板である。
【0020】
請求項1に記載の発明において、銅配線の表面構成を、ニッケル層が、0.5μm以上5μm以下の厚さとし、その上の錫あるいは錫合金層としたのは、はんだ付け後のはんだウィスカ抑制の効果が十分にあり、はんだ濡れ性を確保できると共に、ニッケル層を形成させるための時間と使用するニッケルの量を抑えられる点で好ましいからである。一方、ニッケル層が厚さ0.5μm未満でははんだ付け後のはんだウィスカ抑制の効果が無くなるためである。また、ニッケル層は5μmを超えると形成させる時間が長く作業効率が悪くなり、かつニッケルめっき材料のコストがかかるため好ましくなく、経済性を考慮するとニッケル層は厚さ5μmが限度である。
【0021】
請求項2に記載の発明は、電子部品をはんだ付けする銅配線の表面構成が、厚さ0.05μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の厚さ0.1μm以上0.5μm以下の銅層であることを特徴とするプリント配線板である。
【0022】
請求項2に記載の発明において、銅配線の表面構成を、厚さ0.05μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の厚さ0.1μm以上0.5μm以下の銅層としたのは、この範囲において、はんだ付け後のはんだウィスカ抑制の効果が十分にあり、はんだ濡れ性を確保できることによる。一方、ニッケル層が厚さ0.05μm未満でははんだ付け後のはんだウィスカ抑制の効果が得られない。銅層は厚さ0.1μm未満でははんだ濡れ性を確保できなく、厚さ0.5μmを超えるとはんだウィスカ抑制の効果が得られない。
【0023】
請求項3に記載の発明は、電子部品をはんだ付けする銅配線の表面構成が、厚さ0.05μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の厚さ0.01μm以上0.5μm以下の銅層と、さらにその上の錫あるいは錫合金層であることを特徴とするプリント配線板である。
【0024】
請求項3記載の発明において、銅配線の表面構成を、厚さ0.05μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の厚さ0.01μm以上0.5μm以下の銅層と、さらにその上の錫あるいは錫合金層としたのは、この表面構成の範囲において、はんだ付け後のはんだウィスカ抑制の効果が十分にあり、かつはんだ濡れ性を確保できるからである。ニッケル層が厚さ0.05μm未満でははんだ付け後のはんだウィスカ抑制の効果が得られない。ニッケル層上の銅層が0.5μmを超えるとはんだウィスカ抑制の効果が得られない。
【0025】
請求項4に記載の発明は、電子部品をはんだ付けする銅配線の表面構成が、厚さ0.05μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の厚さ0.03μm以上1.9μm以下の銅‐錫合金層と、さらにその上の錫あるいは錫合金層であることを特徴とするプリント配線板である。
【0026】
請求項4記載の発明では、銅配線の表面構成を、厚さ0.05μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の厚さ0.03μm以上1.9μm以下の銅‐錫合金層と、さらにその上の錫あるいは錫合金層としたのは、この表面構成の範囲において、はんだ付け後のはんだウィスカ抑制の効果が十分にあり、はんだ濡れ性を確保できるからである。それと共にプリント配線板の絶縁樹脂材料に損傷を与えることのない熱処理により銅‐錫合金層を形成させることができるためである。ニッケル層が厚さ0.05μm未満でははんだ付け後のはんだウィスカ抑制の効果が得られない。銅−錫合金層が1.9μmを超えるような表面構成は、その作製段階において高温・長時間の熱処理を必要とし、プリント配線板を構成する絶縁樹脂材料に損傷を与えるため好ましくない。
【0027】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4いずれか記載のプリント配線板に電子部品をはんだ付けにより実装したことを特徴とするプリント回路板である。
【0028】
請求項5に記載の発明による請求項1乃至4いずれか記載のプリント配線板は、はんだ濡れ性が良好であり、かつはんだウィスカ抑制に十分な効果を持っている。プリント配線板の銅配線にはんだ濡れ性が良くてはんだウィスカを抑制する表面構成を得る際に、ニッケル層を形成させるための時間と、使用するニッケルの量を最小限に抑えることにより、電子部品が実装されたプリント回路板を低コストで製造することができる。
【0029】
請求項6に記載の発明は、はんだ付けに使用されるはんだ材料は、鉛フリーはんだ材料であることを特徴とする請求項5記載のプリント回路板である。
【0030】
請求項6に記載の発明によれば、はんだ付けに使用されるはんだ材料として鉛フリーはんだ材料を用いても、ウィスカの発生を抑制することができるため、高い信頼性の電子部品が実装されたプリント回路板が得られるという効果がある。
【0031】
請求項7に記載の発明は、鉛フリーはんだ材料が錫−銀−銅系はんだ材料であることを特徴とする請求項6記載のプリント回路板である。
【0032】
請求項7に記載の発明によれば、はんだ付けに使用する錫−銀−銅系鉛フリーはんだ材料は、一般によく使用されている鉛フリーはんだ材料であって、入手が容易でプリント配線板の実装性が優れている。また、錫−銀−銅系鉛フリーはんだ材料は使用実績もあるため、電子部品が実装されたプリント回路板の信頼性が高まるという効果がある。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、電子部品はんだ付けによるプリント配線板への実装において、プリント配線板の銅配線の表面構成として、下地の必要最小限厚さ0.05μm以上5μm以下のニッケル層の上に、錫あるいは錫合金層を、または厚さ0.1μm以上0.5μm以下の銅層を、または厚さ0.01μm以上0.5μm以下の銅層とさらにその上に錫あるいは錫合金層を、または厚さ0.03μm以上1.9μm以下の銅‐錫合金層とさらにその上に錫あるいは錫合金層のいずれかを備えることにより、一般的な鉛フリーはんだ材料の使用においてもはんだ濡れ性が良好で作業性が優れたプリント配線板を得ることができる。また、このプリント配線板に電子部品が実装されたプリント回路板では、はんだウィスカの発生を抑制することができ、電子部品が実装されたプリント回路板は高い信頼性を得ることができる。さらに、下地に必要最小限の厚さのニッケル層を採用することにより低コストのプリント配線板およびプリント回路板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下本発明について、実施例に用いて具体的に説明する。はんだ濡れ性検査やはんだウィスカ試験に使用する部品実装基板(実験試料)は、プリント配線板の作成、基板挿入電子部品の装着、はんだ付けの製作工程を経て製作される。
【0035】
プリント配線板の作製について説明する。本実施例では、基板としてガラス布基材エポキシ樹脂基板(FR‐4、厚さ:1.6mm大きさ:10cm×15cm)を使用し、その基板の両面に厚さ35μmの銅箔を、接着剤を用いて張付けてプリント配線基板用銅張り積層板を作成する。
【0036】
銅張り積層板の規定の位置に直径2mmのスルーホールを開けた後、無電解銅めっきを施し直ちに銅を電気めっきしてスルーホール内部に銅めっきを施した。次に、配線部以外の銅箔を除去するために銅箔を除去しない部位にエッチングレジストを施した後、銅箔のエッチングをして銅配線回路を形成した。エッチングレジストを除去して、スルーホールのランド部以外の部位にソルダーレジストを施した。なお、電子部品の実装形態はスルーホールに電子部品のリード部を挿入装着しはんだ付けするものであり、スルーホールの両端部の基板面にランドを設けた。銅配線は各ランド間を適宜接続するように配置し、また、電気めっき用の電極となる引き出し配線(めっきリード)を設けた。
【0037】
次に、プリント配線板の露出している銅配線体(スルーホール内壁、ランド、電気めっき用の引き出し配線部)に対し、規定の表面構成(めっきの順番)で規定の厚さのニッケル(Ni)、錫(Sn)、銅(Cu)、錫−亜鉛(Sn−Zn)の各電気めっきを施した。また、規定の表面構成のプリント配線板を実験に応じて溶融処理を施した。なお、プリント配線板の表面構成の詳細は、実施例1乃至実施例6のそれぞれの表に示した。
【0038】
実験用のプリント配線板は、各表面構成についてそれぞれ2枚ずつ作製し、1枚は電子部品をはんだ付けした後はんだ濡れ性やはんだウィスカ性の状態を検査する試料とした。もう1枚ははんだ付けをせずに配線部分の切断面を検査し、銅配線の表面構成、各層の厚さを測定するための試料とした。
【0039】
実装用電子部品について説明する。規定の表面構成を有するプリント配線板に装着される電子部品は、端子接続用コネクタ2段10極(矢崎総業(株)製、ハウジング−SDLコネクタ、7322−8308−30)、抵抗(コーア(株)製、リード線形抵抗器、CFPS1/4)、リレー(オムロン(株)製、車載用リレー、G8FE−1AP−L)の基板挿入型部品で、プリント配線板1枚に対し、コネクタ1個、抵抗10個、リレー5個を使用した。電子部品のリード(端子)の材質は銅または合金で、コネクタと抵抗のリードには1〜20μmの範囲とした錫めっきを施した。また、Snめっき条をプレス加工して打ち抜き面が素材面であるリレーのリードは、打ち抜き面の濡れ性を改善するために、あらかじめ鉛フリーはんだ(Sn−3Ag−0.5Cu(質量%))による予備はんだ処理を施した。この予備はんだ処理により、材料のSnめっきは溶融はんだに溶解され、リレーのリード全体が1〜20μmの範囲ではんだ被覆される。このはんだ被膜により、リレーは安定したはんだ付けができる状態となる。
【0040】
実験試料の作成(はんだ付け方法及び条件)について説明する。規定の表面構成を有するプリント配線板のスルーホールに、各部品のリードを配線板の表側の面から挿入した後に、フラックス(低残渣タイプのポストフラックス(タムラ化研製、SOLDERITE EC−15−7))を塗布し、一般に使用されている鉛フリーはんだSn−3Ag−0.5Cu(質量%)を用いてフローはんだ付けをして、はんだ濡れ性やはんだウィスカ性を検査する、電子部品をはんだ付けにより実装したプリント回路板(以下部品実装基板という)(実験試料)を作成した。なお、はんだ付け条件は、プリント配線板の搬送速度は1m/分とし、フローはんだ付けの噴流温度は250℃、はんだ付け時間は6秒とした。
【0041】
次に、上記で得られた実験試料おけるはんだ濡れ性の検査方法と評価、及び実験試料のはんだウィスカ試験方法とはんだウィスカ試験後のウィスカの検査方法と評価について説明する。
【0042】
まず、はんだ濡れ性の検査方法と評価について説明する。上記で得られた実験試料におけるはんだ濡れ性は、マイクロスコープを用いて部品実装基板の裏面と表面のはんだフィレットの状態を外観検査した。はんだ濡れ性の評価は、ランドの全面がはんだで覆われている形態のものを濡れ性が良好な状態で○判定、ランドの一部分にはんだが付いてなくランド表面の一部分が露出した状態のものをはんだ濡れ性のやや悪い状態で△判定、ランドの大部分にはんだが付いておらずランド表面の大部分が露出した状態のものをはんだ濡れ性の悪い状態で×判定とした。判定結果を表1乃至表6の“はんだ濡れ性”の欄に該当する判定(○、△、×)を記載した。
【0043】
次に、はんだウィスカ試験方法とはんだウィスカ検査方法と評価について説明する。はんだウィスカは高温高湿において発生、成長しやすいので、上記で得られた部品実装基板(実験試料)を高温高湿槽に投入し、85℃、湿度85%にて2000時間放置するはんだウィスカ加速試験を行った。はんだウィスカの検査は、はんだウィスカ加速試験を実施した部品実装基板の裏面のはんだ付け部を、SEM(走査電子顕微鏡)により、拡大倍率を200倍〜1000倍程度とし、概ね長さ10〜20μm以上のウィスカを計数した。部品実装基板のはんだウィスカの評価は、ウィスカが観測されなかった部品実装基板を◎判定、ウィスカの数が10本以下でその長さが全て100μm以下の実際の使用上影響がない部品実装基板を○判定、ウィスカの数が10本以下で長さが100μmを超えるものが一本でも存在する部品実装基板を△判定、ウィスカの数が10本を超える部品実装基板あるいは長さが100μmを超えるウィスカが5本以上の部品実装基板を×判定とした。判定結果を表1乃至表6の“ウィスカ数”の欄に該当する判定(◎、○、△、×)を記載した。また、最大ウィスカの長さを表1乃至表6の“最大ウィスカの長さ”の欄にその長さを記録した。
【0044】
以下、表面構成が異なる部品実装基板におけるはんだ濡れ性及びはんだウィスカ発生の状態について説明する。
【実施例1】
【0045】
実験試料No.1乃至No.8
以下、実施例1におけるプリント配線板の各実験試料の表面構成を、表1に示す。図1は試料No.5〜9の表面構成の模式図で、1は絶縁基板(ガラスクロスエポキシ樹脂基板)、2は銅配線、3はニッケルめっき、4は錫めっきを示す。
【0046】
【表1】

表面構成を示した表1に、はんだ濡れ性の検査、はんだウィスカ加速試験によるはんだウィスカの検査の結果をともに示す。その結果、はんだ濡れ性が良好(○)であり、かつウィスカ試験結果が若干ウィスカの発生がみられるるが使用上影響のない(○)であるものは、No.8、9の2試料であった。銅配線の上に厚さ1〜5μmのニッケルめっきを施し、その上に厚さ1μmのSnめっきを施した場合において、良好なはんだ濡れ性を有し、かつはんだウィスカが発生しにくい表面構成であることが分かった。なお、実装電子部品のリードは、Snめっきまたははんだ被覆されているが、はんだ濡れ性の検査及びはんだウィスカの検査の結果に差異は認められなかった。
【実施例2】
【0047】
実験試料No.10乃至No.25
実施例2におけるプリント配線板の各実験試料の表面構成を、表2及び図2に示す。図2は表面構成の模式図で、1は絶縁基板、2は銅配線、3はニッケルめっき、5は銅めっきを示す。
【0048】
【表2】

実施例1と同様に、表面構成を示した表2にはんだ濡れ性及びはんだウィスカ発生の状態の結果をともに示す。その結果、はんだ濡れ性が良好(○)であり、かつウィスカ試験結果がウィスカの発生のない(◎)あるいは若干ウィスカの発生がみられるが使用上影響のない(○)であるものは、No.15、16、19、20、23、24の6試料であった。銅配線の上に厚さ0.05〜5μmのニッケルめっきを施し、その上に厚さ0.1〜0.5μmの銅めっきを施した場合において、良好なはんだ濡れ性を有し、かつはんだウィスカが発生しにくい表面構成であることが分かった。
【実施例3】
【0049】
実験試料No.26乃至No.45
実施例3におけるプリント配線板の各実験試料の表面構成を表3及び図3に示す。図3は表面構成の模式図で、1は絶縁基板、2は銅配線、3はニッケルめっき、4は錫めっき、5は銅めっきを示す。
【0050】
【表3】

表面構成を示した表3にはんだ濡れ性及びはんだウィスカ発生の状態の結果をともに示す。 その結果、はんだ濡れ性が良好(○)であり、かつウィスカ試験結果がウィスカの発生のない(◎)あるいは若干ウィスカの発生がみられるが使用上影響のない(○)であるものは、No.31〜34、36〜39、41〜44の12試料であった。銅配線の上に厚さ0.05〜5μmのニッケルめっきを施し、その上に厚さ0.01〜0.5μmの銅めっきを施し、さらにその上に厚さ1〜2μmの錫めっきを施した場合において、良好なはんだ濡れ性を有し、かつはんだウィスカが発生しにくい表面構成であることが分かった。特に、銅配線の上に厚さ0.2〜5μmのニッケルめっきを施し、その上に厚さ0.05〜0.1μmの銅めっきを施し、さらにその上に1μmの錫めっきを施したNo.37、38、42、43の4試料は、良好なはんだ濡れ性を有し、かつはんだウィスカが発生しない表面構成であることが分かった。
【実施例4】
【0051】
実験試料No.46乃至No.65
実施例3と同じ表面構成のプリント配線板(No.26〜45)を加熱炉に入れて、240℃×1分間の錫めっきの溶融処理を実施した。溶融処理後の銅配線上の表面構成を表4及び図4に示す。図4は実施例4の表面構成の模式図で、1は絶縁基板、2は銅配線、3はニッケル層、6は銅−錫合金層、7は錫めっき溶融層を示す。
【0052】
【表4】

表面構成を示した表4にはんだ濡れ性及びはんだウィスカ発生の状態の結果をともに示す。その結果、はんだ濡れ性が良好(○)であり、かつウィスカ試験結果がウィスカの発生のない(◎)あるいは若干ウィスカの発生がみられるが使用上影響のない(○)であるものは、No.51〜65の15試料であった。銅配線の上に厚さ0.05〜5μmのニッケルめっきと、その上の厚さ0.03〜1.9μmの銅−錫合金層と、さらにその上の錫めっき溶融層とからなる表面構成において、良好なはんだ濡れ性を有し、かつはんだウィスカが発生しにくい表面構成であることが分かった。特に、銅配線の上に厚さ0.2〜5μmのニッケルめっきと、その上に厚さ0.15〜1.4μmの銅−錫合金層と、さらにその上に0.8〜1μmの錫めっき溶融層を有するNo.57〜59,62〜64の6試料は、良好なはんだ濡れ性を有し、かつはんだウィスカが発生しない表面構成であることが分かった。
【実施例5】
【0053】
実験試料No.66B乃至No.69B
実施例5におけるプリント配線板の各実験試料の表面構成を表5に示す。表5において、試料No.の添え字Aはめっき状態におけるプリント配線板の表面構成を示し、試料No.の添え字Bは試料No.の添え字Aのプリント配線板を加熱炉に入れ、240℃、1分間の錫めっきの溶融処理を実施したプリント配線板の表面構成を示す。なお、はんだ濡れ性の検査、はんだウィスカ加速試験によるはんだウィスカの検査は、試料No.66B〜69Bの錫めっきの溶融処理を施した試料について実施した。図5は錫めっきの溶融処理を施した試料の表面構成の模式図で、1は絶縁基板、2は銅配線、3はニッケルめっき、5は銅めっき、6は銅―錫合金層、7は錫めっき溶融層を示す。
【0054】
【表5】

表面構成を示した表5にはんだ濡れ性及びはんだウィスカ発生の状態の結果をともに示す。その結果、検査した全試料No.66B、67B,68B、69Bは、はんだ濡れ性は良好(○)であるが、ウィスカ試験結果ではいずれの試料も多くのウィスカの発生(×)が認められた。銅配線の上の表面構成が、下地の厚さ0.01〜5μmのNiめっきと、その上の厚さ0.3μmのCuめっきと、その上の厚さ1.9μmのCu−Sn合金層と、さらにその上のSnめっき溶融層の場合は、はんだ濡れ性は良好であるものの、はんだウィスカの発生を抑制することはできないことが分かった。
【実施例6】
【0055】
実験試料No.70、71B、72B
実施例6におけるプリント配線板の各実験試料の表面構成を表6に示す。プリント配線板の銅配線に厚さ0.05μmのNiめっきを施し、その上にSn‐15Zn(質量%)合金めっきを施した試料(No.70)、及び銅配線に厚さ0.05μmのNiめっきをし、その上に厚さ0.5μmのCuめっきと厚さ1μmまたは2μmのSn‐15Znめっきをしたプリント配線板を加熱炉に入れ、260℃、30秒間の溶融処理を施した試料(No.71B、72B)についてはんだ濡れ性の検査、はんだウィスカの検査を実施した。図6は溶融処理を施した試料の表面構成の模式図で、1は絶縁基板、2は銅配線、3はニッケルめっき、6は銅―錫合金層、8は錫−亜鉛めっき溶融層を示す。
【0056】
【表6】

表面構成を示した表6にはんだ濡れ性及びはんだウィスカ発生の状態の結果をともに示す。検査したNo.70、71B、72Bの3試料において、はんだ濡れ性が良好(○)で、かつ若干ウィスカの発生がみられるが使用上影響のない(○)で、また、発生したウィスカは短くて最大ウィスカの長さが5μmであるという結果が得られた。これより、銅配線の上に厚さ1μmのNiめっき、その上に厚さ1μmのSn‐15Zn合金めっきの表面構成、及び銅配線に厚さ0.05μmのNiめっき、その上に厚さ0.5μmのCuめっきと厚さ1μmまたは2μmのSn‐15Znめっきをした後に溶融処理を施して得られた表面構成は、良好なはんだ濡れ性を有し、かつはんだウィスカが発生しにくいことが分かった。
【0057】
なお、本発明の実施の形態は、上述した各実施例に限られない。例えば、電子部品をはんだ付けする銅配線の表面構成における錫合金層として、Sn−Zn合金のほか、鉛フリーはんだと同様の組成(Sn−Bi合金、Sn−Cu合金、Sn−Ag合金、Sn−Ag−Cu合金など)も適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1のNo.6〜9の試料の表面構成を示す模式図である。
【図2】実施例2の試料の表面構成を示す模式図である。
【図3】実施例3の試料の表面構成を示す模式図である。
【図4】実施例4の試料の表面構成を示す模式図である。
【図5】実施例5のSnめっきに溶融処理を施した試料の表面構成の模式図である。
【図6】実施例6のSn−15Znめっきに溶融処理を施した試料の表面構成の模式図である。
【符号の説明】
【0059】
1:絶縁基板 2:銅配線
3:Niめっき 4:錫めっき
5:銅めっき 6:銅−錫合金層
7:錫めっき溶融層 8:錫−亜鉛めっき溶融層
10:プリント配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品をはんだ付けする銅配線の表面構成が、厚さ0.5μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の錫層あるいは錫合金層であることを特徴とするプリント配線板。
【請求項2】
電子部品をはんだ付けする銅配線の表面構成が、厚さ0.05μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の厚さ0.1μm以上0.5μm以下の銅層であることを特徴とするプリント配線板。
【請求項3】
電子部品をはんだ付けする銅配線の表面構成が、厚さ0.05μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の厚さ0.01μm以上0.5μm以下の銅層と、さらにその上の錫あるいは錫合金層であることを特徴とするプリント配線板。
【請求項4】
電子部品をはんだ付けする銅配線の表面構成が、厚さ0.05μm以上5μm以下のニッケル層と、その上の厚さ0.03μm以上1.9μm以下の銅‐錫合金層と、さらにその上の錫あるいは錫合金層であることを特徴とするプリント配線板。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載のプリント配線板に電子部品がはんだ付けにより実装されたことを特徴とするプリント回路板。
【請求項6】
電子部品のはんだ付けに使用されるはんだ材料は、鉛フリーはんだ材料であることを特徴とする請求項5記載のプリント回路板。
【請求項7】
鉛フリーはんだ材料は、錫−銀−銅系はんだ材料であることを特徴とする請求項6記載のプリント回路板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−10301(P2009−10301A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172694(P2007−172694)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】