説明

プレス配線板及びそのインサート成形方法

【課題】樹脂表面を後処理なしに封止することができるプレス配線板を提供する。
【解決手段】下型4のキャビティ11にプレス配線12をセットする。上型6を型閉し樹脂成形を行う際に、プレス配線12が樹脂充填中に移動・変形しないように、下型4に下型保持ピン5および上型6に上型保持ピン7を設置する。下型保持ピン5および上型保持ピン7は、各ピンの直径aおよびbがキャビティ内に突出するストロークAおよびBより小さく形成されているので、その狭隘部効果によりピン近傍の樹脂の冷却を周辺の樹脂より遅らせることができ、ピン引き抜き後の空隙部に回りからの樹脂の充填が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコントロールユニット等の配線板に係り、特にプレス配線のインサート成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の制御ユニット配線板には被覆配線を使用することが多い。近頃はプレス配線を金型にセットして樹脂成形する方法も採用されているが、成形時の保持ピン抜け後による露出部分は後から接着剤で塞いでいる。
【0003】
インサート品の成形装置には、特許文献1に記載のように、複数の配線からなるインサート品が配置される金型と、該金型に進退自在に設けられインサート品を先端で保持する複数の保持ピンを備えたものが知られている。この装置による樹脂成形はキャビティ内の所定位置にインサート品を保持ピンで保持し、キャビティに溶融樹脂を充填した後、保持ピンをキャビティから後退させ、その後さらに溶融樹脂を充填する。これにより、インサート品の表面全体を樹脂で封止した成形品が得られる。
【0004】
この成形装置により成形を行う場合、保持ピンをキャビティから後退させるタイミングを溶融樹脂の充填が完了する前にすると、保持ピンのピン穴の封止は行われるものの、インサート品が溶融樹脂の動きによって移動してしまう。このため、形成される樹脂成形部の厚さが不均一となって良好な成形品が得られない。逆に、保持ピンをキャビティから後退させるタイミングを溶融樹脂の充填完了後とするとインサート品の移動は少ない。しかし、保持ピン周囲の樹脂が既に冷却固化層を形成しているため、保持ピン周囲から保持ピン穴に流入してきた樹脂が完全に融合せず、インサート品を十分に封止した樹脂成形部を形成できない問題がある。
【0005】
これを解決する方法の一つとして、特許文献2に提案されているように、各保持ピンに電気ヒータを設け、キャビティ内に溶融樹脂が充填されるときにその樹脂の融点以上の温度に保持ピンを加熱する。これによりインサート品の位置を抑制しつつ、保持ピンに起因する未溶融部の残留を抑制して、インサート品を十分に封止した樹脂成形品を形成する。
【0006】
【特許文献1】特開昭55−91642号公報
【特許文献2】特開2003−127185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術はプレス配線板のように多数の保持ピンを必要とするインサート品に適用するには問題がある。特許文献2に記載の技術では、インサート品を十分に封止した樹脂成形品を得ることができる。しかし、保持ピンの進退を自在にした上にヒータを取り付けるため金型構造が複雑になり、コスト高となるので、保持ピンを多数使用するプレス配線板への適用は困難である。
【0008】
本発明の目的は、従来技術の問題点に鑑み、金型構造を複雑にすることなくプレス配線を十分に封止できるインサート成形方法およびプレス配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、複数のプレス配線を金型内のキャビティに並べ、金型上下より挿入した保持ピンにより各プレス配線を保持して樹脂を充填し、充填完了直後に前記保持ピンを引抜くプレス配線のインサート成形方法において、前記キャビティ内に突出する前記保持ピンのストロークが前記保持ピンの径より大きくすることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、保持ピンストロークが保持ピン径よりも大なるため、金型内で溶融樹脂が保持ピンに達した際、保持ピンは溶融樹脂の熱により他のキャビティ部温度以上に加熱され、保持ピン近傍の溶融樹脂の固化を他のキャビティ部の溶融樹脂より抑制しながら充填できる(狭隘部効果)。このため、充填完了時に保持ピンを後退させたときに、その空乏を保持ピン近傍の溶融樹脂が流動して埋め、インサート品の表面全体を樹脂で封止した成形品が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プレス配線を内包する樹脂表面を後処理なしに封止することができるため、信頼性の高いプレス配線板を提供できる効果がある。これにより、被覆配線に比べ量産化に有利なプレス配線板への代替が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施例のインサート品は自動車に搭載されるAT用コントロールユニットの配線板である。コントロールユニットの使用条件は−40〜155℃の温度環境で、かつ、エンジンオイルが付着する個所に取り付けられる。コントロールユニットはアースおよび取り付け強度を保持するため鋼鈑からなるブラケットと、電気信号を伝えるプレス配線と、アースからの電気的隔離およびプレス配線を誘導するための配線板と全体を覆うカバーからなっている。配線板は耐熱性・耐薬品性を考慮して樹脂材料PA66−GF33を使用して射出成形されたものである。配線板は電気的にアースとなるブラケットから隔離するための樹脂部分とプレス配線を内包するための樹脂部分からなっている。
【0013】
図2はインサート成形品であるプレス配線板を模式的に示している。プレス配線1を内包するための樹脂部分2は、プレス配線1を樹脂成形金型にセットし成形を行うインサート成形により製作される。プレス配線が成形時に変形しないように保持ピンを多数備えるため、成形品には保持ピン跡3が多数存在する。
【0014】
図1は一実施例による樹脂成形用の金型を示す部分断面図である。金型は下型4に設けられた下型保持ピン5及び上型6に設けられた上型保持ピン7と、下型保持ピン5及び上型保持ピン7を駆動させるための引抜プレート8と、油圧シリンダー9を有している。引抜プレート8は油圧シリンダー9により楔形のガイドプレート10を介して任意のタイミングで駆動できる。キャビティ11は製品(配線板)の外郭形状に形成されており、キャビティ内には引抜プレート8に連結された下型保持ピン5及び上型保持ピン7が突出するように設けられ、複数のプレス配線12をそれぞれ固定している。
【0015】
図3にキャビティ内の配線プレスの固定状態を模式的に示す。下型4の下型保持ピン5はプレス配線12を固定するために先端を凹形状に形成してある。上型6の上型保持ピン7は下型保持ピン5と対になってプレス配線12を支持し、その横方向への移動を抑止している。たとえば、下型保持ピン5は直径a=1.8mm、引抜ストロークA=2mmであり、上型保持ピン7は直径b=0.8mm、引抜ストロークB=1mmであり、それぞれ保持ピンの直径よりも引抜ストロークが大きくなっている。
【0016】
上記構造を有した金型により樹脂射出成形を行う。図3のように、下型4のキャビティ内にプレス配線12をセットする。下型保持ピン5は引き込み用のテーパが設けられており容易にセットが可能である。次に、型閉を行うことにより、プレス配線12は下型保持ピン5および上型保持ピン7により完全に固定される。次に射出成形を行う。
【0017】
図4は射出成形状態を模式的に示している。成形中のプレス配線12の移動・変形を抑制するために、成形条件は金型温度及び樹脂温度を高く、射出速度を遅く設定することが望ましい。同図のように、充填完了直後の成形樹脂は固化部32と溶融部33に分かれるが、作用の詳細は後述する。
【0018】
充填完了直後に油圧シリンダー9を動作させ保持ピン5,7を後退させる。図5にキャビティ内の保持ピン後退後の状態を模式的に示す。キャビティ11内における下型保持ピン5及び上型保持ピン7の後退により、プレス配線12の周囲に空間21、空間24がそれぞれ生じるが、これと共に成形時の樹脂圧力により空間21および空間24に樹脂が流れ込み、プレス配線12が樹脂により完全に内包される。
【0019】
図6は保持ピンの引き抜き構造を示す模式図で、(a)は引き抜き前、(b)は引き抜き後を示している。製品を形成するためのキャビティ11が上型及び下型からなっている。上型保持ピン7、下型保持ピン5はそれぞれ引抜プレート8に固定され、引抜プレート8は楔型のガイドプレート10に接触している。ガイドプレート10は油圧シリンダ9により前後進される。
【0020】
(a)は引抜プレート10が最も前進した状態で、スプリング13を押しながら引抜プレート8を上型6や下型4に接触させ、引抜プレート8に固定された上型保持ピン7や下型保持ピン5をキャビティ11内に突出させ、プレス配線12を固定している。(b)はガイドプレート10が油圧シリンダ9により後退させられると、引抜プレート8がスプリング13により押し戻され、上型保持ピン7及び下型保持ピン5もキャビティ11外に引き出されて、プレス配線12から離れる。
【0021】
ここで、重要となるのが保持ピンを後退させるタイミングである。動作タイミングは金型キャビティ内に圧力センサもしくは温度センサの所定値で得られる。また、成形機より充填開始やV−P切替位置等の信号で得ることもできる。信号を取得した後、タイマーによりタイミングの微調整ができるほうが良い。
【0022】
本金型構造によれば、保持ピンを後退させた後に生じる空乏内に保持ピン近傍の溶融樹脂が流れ込むので、空乏は埋められて、樹脂表面は完全に封止される。以下にその作用を説明する。
【0023】
本発明の原理は、溶融樹脂充填完了直後における保持ピン周囲の樹脂の温度低下を抑え、樹脂の固化を防止することにある。図4はキャビティ内に樹脂充填を完了した際の樹脂の固化状態を模式的に示したものであるが、本構成の金型によれば充填完了直後の樹脂状態はピンの近傍では溶融し、ピンから離れた部分は固化している。
【0024】
本実施例の金型では、下型保持ピン5の直径aとストロークAの間にはa<A、上型保持ピン7の直径bとストロークBの間にはb<Bの関係が成立している。かつ、下型保持ピン5および上型保持ピン7は下型4および上型6のキャビティ面から凸状に突き出している。これにより狭隘部効果が発生し、ピン部に溶融樹脂の温度が速やかに伝達されて高温状態を保持し、一方、キャビティ面は外部へ熱放散するので樹脂温度が急激に低下する。このため、ピン部近傍の樹脂の高温状態が保持され、充填完了直後には固化部32と溶融部33が図のように形成される。すなわち、下型保持ピン5および上型保持ピン7の近傍は固化層が周囲に比して薄くなり、下型保持ピン5および上型保持ピン7を後退させたとき、溶融樹脂の充填圧力により容易に固化層を破壊して空所が埋められ、樹脂表面が完全に封止される。
【0025】
図7は保持ピンの径とストロークの関係による樹脂の封止状態について実験結果を示したものである。保持ピンの径とストロークの各組み合わせについて、保持ピン引き抜き部の封止状態を確認し、引抜の空乏が樹脂で埋まりプレス配線が封止されているものを○、封止されていないものを×としてプロットした。図中の破線は保持ピンの径とストロークが等しくなる点である。これより、保持ピンの直径が小さいほど、またストロークが長いほど封止されていることが分かる。特に、ストロークが直径より大なる範囲ではプレス配線はほぼ全て封止されている。
【0026】
なお、製品大きさや形状、あるいはゲート位置等の成形条件の影響もあるため、場所によっては完全に封止できないことある。このような場合、封止できなかった保持ピンの引抜ストロークをさらに大きくすることでピン近傍の固化率をより下げることができるので、樹脂表面を完全に封止することができる。
【0027】
本実施例はインサート品にプレス配線板を適用している。しかし、本発明はこれに限らず、インサート品を保持するための保持ピンが多数必要であり、保持ピンを後退させることにより樹脂を流れ込ませる製品に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の金型構造を示す部分断面図。
【図2】本発明のインサート成形品である配線板を示す平面図。
【図3】キャビティ内におけるプレス配線板プレスの固定状態を示す模式図。
【図4】キャビティ内に樹脂充填を完了した際の樹脂の固化状態を示す模式図。
【図5】キャビティ内における保持ピン後退後の状態を示す模式図。
【図6】保持ピンの引抜状態を示す模式図。
【図7】保持ピンの径とストロークの関係による保持ピン引抜部の封止状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0029】
1,12…プレス配線、2…樹脂部分、3…保持ピン跡、4…下型、5…下型保持ピン、6…上型、7…上型保持ピン、8…引抜プレート、9…油圧シリンダー、10…ガイドプレート、11…キャビティ、13…スプリング、21,24…空間、32…固化部、33…溶融部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレス配線を金型内のキャビティに並べ、金型の上下より挿入した保持ピンにより各プレス配線を保持して樹脂を充填し、充填完了直後に前記保持ピンを引抜くプレス配線のインサート成形方法において、
前記キャビティ内に突出する前記保持ピンのストロークが前記保持ピンの径より大きくすることを特徴とするプレス配線のインサート成形方法。
【請求項2】
請求項1において、前記保持ピンの一方側の先端形状を凹状にすることを特徴とするプレス配線のインサート成形方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記保持ピンの引抜はくさび構造のプレートを動作させることを特徴とするプレス配線のインサート成形方法。
【請求項4】
複数のプレス配線を金型内のキャビティに並べ、金型の上下より挿入した保持ピンにより各プレス配線を保持して樹脂を充填し、充填完了直後に前記保持ピンを引抜いて成形されるプレス配線板において、
前記保持ピンの径は前記キャビティ内に突出する前記保持ピンのストロークより小となる関係を有し、前記保持ピンの引き抜き後が前記樹脂によって埋められることを特徴とするプレス配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−327096(P2006−327096A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155761(P2005−155761)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】