説明

プロジェクタ

【課題】入射側偏光板に加わる光束の負荷を低減して温度上昇を抑制し、光学特性の劣化を抑えて長寿命化を図るプロジェクタを提供する。
【解決手段】プロジェクタは、光源から射出された光束を、偏光方向が互いに直交する第1の直線偏光光と第2の直線偏光光とに分離し、第1の直線偏光光を有する偏光光に揃えて射出する偏光変換素子223と、偏光変換素子223から射出された第1の直線偏光光を透過し、第2の直線偏光光を吸収する入射側偏光板252と、入射側偏光板252を透過した偏光光を画像情報に応じて変調する光変調装置とを備える。偏光変換素子223と入射側偏光板252との間には、第1の直線偏光光を透過し、第2の直線偏光光を吸収する吸収型偏光子で構成された偏光子224が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光変換素子を備えたプロジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光源から射出された光束を光変調装置により画像情報に応じて変調し、変調された画像光を前方側に配置されたスクリーン等に投射するプロジェクタが知られている。
このプロジェクタには、ランダムな偏光方向を有する光束を特定の直線偏光光に揃える偏光変換素子と、特定の直線偏光光のみを透過させる入射側偏光板と、入射側偏光板を透過した光束を変調する光変調装置としての液晶パネルとが備えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の技術では、偏光変換素子は、光源から射出された光束を2種類の直線偏光光(S偏光光、P偏光光)に分離し、分離した2種類の直線偏光光を略1種類の直線偏光光(S偏光光)に揃えて射出する。入射側偏光板には、偏光変換素子で揃えられた略1種類の直線偏光光が入射する。入射側偏光板は、その1種類の直線偏光光を透過し、それ以外の偏光光を吸収して液晶パネルに射出する。
【0004】
【特許文献1】特開2007−249184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、偏光変換素子は、全ての光束を1種類の直線偏光光(S偏光光)に揃えて射出することができず、その他の直線偏光光(P偏光光)を僅かに射出することが考えられる。この僅かに射出されたP偏光光は、入射側偏光板で吸収され、入射側偏光板を発熱させて熱劣化させる恐れがある。
【0006】
本発明の目的は、入射側偏光板に加わる光束の負荷を低減して温度上昇を抑制し、光学特性の劣化を抑えて長寿命化を図るプロジェクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプロジェクタは、光源から射出された光束を、偏光方向が互いに直交する第1の直線偏光光と第2の直線偏光光とに分離し、前記第1の直線偏光光を有する偏光光に揃えて射出する偏光変換素子と、前記偏光変換素子から射出された第1の直線偏光光に対応する偏光光を透過し、前記偏光変換素子で揃えられずに射出された第2の直線偏光光に対応する偏光光を吸収する入射側偏光板と、前記入射側偏光板を透過した偏光光を画像情報に応じて変調する光変調装置とを備えたプロジェクタであって、前記偏光変換素子と前記入射側偏光板との間の光路上には、前記第1の直線偏光光を透過し、前記第2の直線偏光光を吸収する吸収型偏光子、または、前記第1の直線偏光光および前記第2の直線偏光光のいずれか一方を透過し、他方を反射して前記第1の直線偏光光を前記入射側偏光板に向けて射出する反射型偏光子で構成された偏光子が配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、偏光子は、光路上において、偏光変換素子と入射側偏光板との間に配置されている。偏光子は、第2の直線偏光光を吸収する吸収型偏光子、または、第1あるいは第2の直線偏光光を反射する反射型偏光子で構成されている。
偏光子が吸収型偏光子で構成されている場合には、偏光変換素子から射出された第2の直線偏光光を吸収して入射側偏光板に射出される第2の直線偏光光の光量を減少させることができる。
偏光子が第1の直線偏光光を反射する反射型偏光子の場合には、偏光変換素子から射出された第1の直線偏光光のみを入射側偏光板に向けて反射することができる。
偏光子が第2の直線偏光光を反射する反射型偏光子の場合には、偏光変換素子から射出された第2の直線偏光光を反射して入射側偏光板に射出される第2の直線偏光光の光量を減少させることができる。
このように、偏光子は、偏光変換素子から射出された第2の直線偏光光の光量を減少させて入射側偏光板に向けて射出することができる。このため、入射側偏光板に吸収される光量が減り、入射側偏光板は、発熱が低減されて光学特性の劣化が抑制され、プロジェクタの長寿命化を図ることが可能となる。
【0009】
このプロジェクタにおいて、前記偏光変換素子から射出された光束を複数の色光に分離する色分離光学装置を備え、前記入射側偏光板および前記光変調装置は、前記複数の色光に対応して複数設けられ、前記偏光子は、前記偏光変換素子と前記色分離光学装置との間の光路上に配置されていることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、偏光子は、光路上において、偏光変換素子と色分離光学装置との間に配置されている。偏光子が色分離光学装置の後に配置される場合には、偏光子は、各色光に対応して複数で構成する必要がある。これに対して本発明の偏光子は、色分離光学装置によって複数の色光に分離される前の光路上に配置されているので、1つで、簡略な構成で配置されることが可能となる。
【0011】
このプロジェクタにおいて、前記偏光子は、前記吸収型偏光子で構成され、前記第1の直線偏光光の透過率をThs、前記第2の直線偏光光の透過率をThpとした場合に、Ths≧95%でかつThp≧50%の特性を有していることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、偏光子は、偏光変換素子から射出された第1の直線偏光光を95%以上透過するので、適切な光量を入射側偏光板に射出して、投射画像の輝度を確保することができる。また、偏光子は、偏光変換素子から射出された第2の直線偏光光を50%以上透過するので、入射側偏光板とで分散して第2の直線偏光光を吸収する。これによって、偏光子および入射側偏光板の発熱温度がバランスよく低減されてプロジェクタの長寿命化が図れる。
【0013】
このプロジェクタにおいて、前記偏光子は、前記第1の直線偏光光を透過し、前記第2の直線偏光光を反射する反射型偏光子で構成され、前記第1の直線偏光光の透過率をTrs、前記第2の直線偏光光の透過率をTrpとした場合に、Trs≧93%でかつ、Trp≧5%の特性を有していることが好ましい。
【0014】
本発明によれば、偏光子は、偏光変換素子から射出された第2の直線偏光光を反射する反射型偏光子で構成されているので、吸収型偏光子に比べて透過率を下げても吸収する光量が少なく、コントラストの高い偏光子を選択することが可能となる。これにより、入射側偏光板の発熱温度をさらに低く抑えることが可能となる。また、偏光子は、偏光変換素子から射出された第1の直線偏光光を93%以上透過し、第2の直線偏光光を5%以上透過する素子を選択すれば、偏光子および入射側偏光板の発熱温度がバランスよく低減されてプロジェクタの長寿命化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔プロジェクタの主な構成〕
図1は、第1実施形態におけるプロジェクタの概略構成を模式的に示す平面図である。
プロジェクタは、光源から射出される光束を画像情報に応じて変調して画像光を形成し、この画像光をスクリーン等に拡大投射する。
図1に示すように、プロジェクタ1は、光学ユニット2、投射光学装置としての投射レンズ3、これらの機器本体を収納し外装を構成する筐体10等を備える。
なお、図1において、具体的な図示は省略したが、筐体10内において、光学ユニット2および投射レンズ3以外の空間には、プロジェクタ1内部の各構成部材を冷却する冷却ファン等を備えた冷却ユニット、プロジェクタ1内部の各構成部材に電力を供給する電源ユニット、およびプロジェクタ1内部の各構成部材を制御する制御装置等が配置されるものとする。
【0016】
光学ユニット2は、制御装置による制御の下、光源211から射出された光束を光学的に処理して画像情報に対応した画像光を形成するユニットである。光学ユニット2は、光源装置21と、照明光学装置22と、色分離光学装置23と、リレー光学装置24と、光学装置25と、これら各光学部品21〜25を所定位置に配置する光学部品用筐体26とを備える。
【0017】
光源装置21は、光源211およびリフレクタ212等を備える。そして、光源装置21は、光源211から射出された光束がリフレクタ212によって射出方向が揃えられ、照明光学装置22に向けて光束を射出する。
【0018】
照明光学装置22は、第1レンズアレイ221、第2レンズアレイ222、偏光変換素子223、偏光子224および重畳レンズ225を備える。そして、光源装置21から射出された光束は、第1レンズアレイ221によって複数の部分光束に分割され、第2レンズアレイ222の近傍で結像する。第2レンズアレイ222から射出された各部分光束は、その中心軸(主光線)が偏光変換素子223の入射面に垂直となるように入射する。偏光変換素子223に入射した光束は、特定の偏光方向である第1の直線偏光光を有する偏光光に揃えられて射出される。偏光変換素子223から射出された偏光光は、偏光子224にて、第1の直線偏光光が透過し、第1の直線偏光光に直交する第2の直線偏光光が吸収される。偏光子224から射出され、重畳レンズ225を介した複数の部分光束は、光学装置25の後述する3つの液晶パネル251上で重畳する。
なお、偏光変換素子223および偏光子224の構成については、後で詳細に説明する。
【0019】
色分離光学装置23は、2枚のダイクロイックミラー231,232、および反射ミラー233を備え、照明光学装置22から射出された複数の部分光束を赤、緑、青の3色の色光に分離する機能を有する。
リレー光学装置24は、入射側レンズ241、リレーレンズ243、および反射ミラー242,244を備え、色分離光学装置23で分離された色光、例えば、青色光を光学装置25の後述する青色光側の液晶パネル251Bまで導く機能を有する。
【0020】
光学装置25は、入射した光束を画像情報に応じて変調して画像光を形成するものである。この光学装置25は、図1に示すように、3つの光変調装置としての液晶パネル251(赤色光側の液晶パネルを251R、緑色光側の液晶パネルを251G、青色光側の液晶パネルを251Bとする)と、各液晶パネル251の光路前段側に配置される入射側偏光板252と、各液晶パネル251の光路後段側に配置される射出側偏光板253と、色合成光学装置としてのクロスダイクロイックプリズム254とを備える。
【0021】
3つの入射側偏光板252は、色分離光学装置23で分離された各光束のうち、第1の直線偏光光のみを透過させ、第2の直線偏光光を吸収するものであり、透光性基板上に偏光膜が貼付されて構成されている。
3つの液晶パネル251は、一対の透明なガラス基板に電気光学物質である液晶が密閉封入された構成を有し、前記制御装置からの駆動信号に応じて、前記液晶の配向状態が制御され、入射側偏光板252から射出された偏光光の偏光方向を変調する。
3つの射出側偏光板253は、入射側偏光板252と略同様の機能を有し、液晶パネル251を介して射出された光束のうち、一定方向の偏光光を透過し、その他の光束を吸収する。
【0022】
クロスダイクロイックプリズム254は、射出側偏光板253から射出された色光毎に変調された各色光を合成して画像光を形成する。このクロスダイクロイックプリズム254は、4つの直角プリズムを貼り合わせた平面視略正方形状をなし、直角プリズム同士を貼り合わせた界面には、2つの誘電体多層膜が形成されている。これら誘電体多層膜は、液晶パネル251Gから射出され射出側偏光板253を介した色光を透過し、液晶パネル251R,251Bから射出され射出側偏光板253を介した各色光を反射する。このようにして、各色光が合成されて画像光が形成される。
【0023】
投射レンズ3は、複数のレンズを組み合わせた組レンズとして構成され、光学ユニット2にて形成された画像光をスクリーン上に拡大投射する。
【0024】
〔偏光変換素子および偏光子の構成〕
偏光変換素子223および偏光子224の構成について詳細に説明する。
図2は、偏光変換素子223の断面図である。
図2に示すように、偏光変換素子223は、偏光ビームスプリッタ2231とλ/2板2232とを備えている。
偏光ビームスプリッタ2231は、断面が平行四辺形の柱状の透光性部材が複数張合わされた形状を有している。界面には、偏光分離膜2231aと反射膜2231bとが交互に設けられている。偏光分離膜2231aは、第1の直線偏光光としてのS偏光光を反射し、第2の直線偏光光としてのP偏光光を透過する。反射膜2231bは、S偏光光を反射する。
λ/2板2232は、有機の延伸フィルムを有して構成されている。λ/2板2232は、偏光ビームスプリッタ2231の射出側に、光束が偏光分離膜2231aを通過する部位に接着などによって固定されている。λ/2板2232は、直線偏光光の偏光方向を変える機能を有し、S偏光光をP偏光光に、P偏光光をS偏光光にそれぞれ変換する。
【0025】
偏光ビームスプリッタ2231に入射した光束は、偏光分離膜2231aにて、S偏光光が反射され、P偏光光が透過して2つの直線偏光光に分離される。偏光分離膜2231aにて分離されたS偏光は、反射膜2231bにて反射して偏光ビームスプリッタ2231から射出される。一方、偏光分離膜2231aを透過したP偏光は、偏光ビームスプリッタ2231を透過してλ/2板2232に入射する。λ/2板2232に入射したP偏光光は、λ/2板2232にて、S偏光光に変換されて射出される。
このように、偏光変換素子223は、入射した光束を、S偏光光を有する偏光光に揃えて射出する。
【0026】
偏光子224は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)を主成分とするPVA系フィルムに二色性の高い直接染料を拡散吸着させた後、一方向に延伸したPVA・染料系偏光フィルムと、セルローストリアセテート(TAC)シートとが積層された構成を有している。そして、偏光子224は、特定の偏光方向の直線偏光光(透過偏光光)を透過し、その特定の偏光方向の直線偏光光に略直交する方向の直線偏光光(吸収偏光光)を吸収する。
【0027】
偏光子224は、染料の濃度を変更することによって、透過偏光光の透過率、および吸収偏光光の吸収率すなわち透過率が変わる。また、透過偏光光の透過率と吸収偏光光の透過率とは、お互いに相関がある。
図3は、一般的な偏光子の透過偏光光の透過率と、吸収偏光光の透過率との関係を示すグラフであり、横軸は透過偏光光の透過率(Ths)を示し、縦軸は吸収偏光光の透過率(Thp)を示す。
図3に示すように、透過偏光光の透過率が上がると吸収偏光光の透過率も上がる。
本実施形態の偏光子224は、Ths=95%、Thp=50%の偏光子を採用している。
【0028】
次に、偏光変換素子223および偏光子224によって第2レンズアレイ222から射出された光束が変換される様子について詳細に説明する。
図4は、偏光変換素子223から入射側偏光板252までの偏光光の状態を示す模式図である。
偏光子224は、偏光変換素子223の射出側に、偏光変換素子223から射出されたS偏光光が透過偏光光として入射するように配置されている。つまり、偏光子224は、第1の直線偏光光を透過し、第2の直線偏光光を吸収するように配置されている。したがって、透過偏光光の透過率(Ths)は、第1の直線偏光光の透過率、吸収偏光光の透過率(Thp)は、第2の直線偏光光の透過率をそれぞれ示す。
図4に示すように、第2レンズアレイ222から射出された光束Lは、偏光変換素子223、偏光子224を経て、入射側偏光板252に入射する。なお、図4は、偏光子224と入射側偏光板252との間の光学部品が省略されており、入射側偏光板252は、1つの色光に対応して配置された1つのみを示す。
【0029】
図4に示すように、光束Lは、ランダムな偏光方向を有する光束である。
光束Lは、前述したように、偏光変換素子223にて、S偏光光を有する偏光光に揃えられて射出される。偏光変換素子223は、光束L全てをS偏光光に揃えて射出することができず、僅かにP偏光光も射出する。そして、偏光変換素子223からは、S偏光光である偏光光S11と、P偏光光である偏光光P11とが射出される。
【0030】
偏光変換素子223から射出された光束は、偏光子224にて、偏光光S11が95%、偏光光P11が50%、それぞれが透過して偏光光S12,P12として射出される。
偏光子224には、透過しなかった偏光光S11の5%、偏光光P11の50%が吸収される。
【0031】
偏光子224から射出された偏光光S12,P12は、色分離光学装置23にて、3色に分離されて各入射側偏光板252に入射する。1つの入射側偏光板252には、偏光光S12,P12がそれぞれ略1/3の光量の偏光光S13,P13となって入射する。
入射側偏光板252に入射した光束のうち、偏光光S13は透過して液晶パネル251に射出され、偏光光P13は吸収される。しかし、全ての偏光光S13は透過せず、一部は入射側偏光板252に吸収される。また、全ての偏光光P13は吸収されず、一部は透過する。そして、偏光光S13,P13は、それぞれ偏光光S14,P14として射出される。
このように、偏光子224および入射側偏光板252は、S偏光光およびP偏光光の一部を吸収することによって発熱する。
【0032】
〔偏光子および入射側偏光板の発熱温度の近似〕
先ず、入射側偏光板252の発熱温度について説明する。
各入射側偏光板252が光束を吸収することによる発熱は、次のように近似される。
本発明の偏光子224が配置されない場合には、各入射側偏光板252に吸収される光束の吸収率(入射側偏光板吸収率、以下式において「Kn」で示す)は、以下の式(1)の通りである。
なお、偏光変換素子223から射出される光束の内、S偏光光の割合をS、P偏光光の割合をPとし、入射側偏光板のS偏光光の透過率をTnsとし、入射側偏光板のP偏光光の透過率をTnpとする。
【0033】
〔数1〕
Kn=S×(1−Tns)/3+P×(1−Tnp)/3・・・(1)
【0034】
一方、本発明の偏光子224を配置した場合の各入射側偏光板252に吸収される光束の吸収率(Kn)は、以下の式(2)の通りである。
【0035】
〔数2〕
Kn=S×Ths×(1−Tns)/3+P×Thp×(1−Tnp)/3・・・(2)
【0036】
式(1)、(2)を比較すると、Ths<1、Thp<1なので明らかに、偏光子224を配置した場合の光束の吸収率(Kn)の方が配置しない場合より小さくなる。つまり、入射側偏光板252は、偏光子224を配置した方がしない場合より、吸収される光量が小さく、発熱温度も低くなる。
【0037】
具体的に、本実施形態で採用している偏光子224を用いて、数値で比較する。
偏光変換素子223が一般的な偏光変換素子とし、入射側偏光板252が一般的な入射側偏光板として、S=95%、P=5%、Tns=90%,Tnp=0.05%を採用する。
偏光子224を配置しない場合の入射側偏光板吸収率(Kn)は、式(1)から、約5%となる。
入射側偏光板252の発熱温度は、温度測定結果から、約50℃である。つまり、約5%の光束の吸収は、約50℃の発熱温度に相当する。すなわち、約1%の光束の吸収率は、約10℃の発熱温度に相当する。
一方、偏光子224を配置した場合、前述したように、Ths=95%,Thp=50%なので、入射側偏光板吸収率(Kn)は、式(2)から、約3.8%となる。
入射側偏光板吸収率(Kn)が約3.8%ということは、前述した光束の吸収率と発熱温度との相関から、入射側偏光板252の発熱温度は、約38℃に相当する。この発熱温度は、偏光子224を追加しない場合の発熱温度約50℃に比べて、約12℃低くなっており、熱の負荷が軽減される。
【0038】
次に、偏光子224の発熱温度について説明する。
偏光子224に吸収される光束の吸収率(偏光子吸収率、以下式において「Kh」で示す)は、以下の式(3)の通りである。
【0039】
〔数3〕
Kh=S×(1−Ths)+P×(1−Thp)・・・(3)
【0040】
式(3)から偏光子吸収率(Kh)は、約7.3%となる。
偏光子吸収率(Kh)が7.3%ということは、前述した相関から、偏光子224の発熱温度は、約73℃に相当する。この発熱温度は、20℃環境においては、約93℃に相当する温度であり、偏光子224の耐熱温度に近い温度である。
なお、偏光子224の耐熱温度は約100℃であり、この温度を超えると偏光光の透過、吸収の特性が低下し、画像品質を劣化させる。
さらに、Ths>95%の範囲内においては、図3からThp>50%となるので、式(3)からKhは、7.3%以下となる。このため、偏光子224の発熱温度は、約73℃以下に相当し、偏光子224をさらに低い温度で使用することができる。
【0041】
一方、本発明とは異なる透過率の偏光子224を用いた場合の偏光子224の発熱温度について説明する。
例えばThs=94%の偏光子224を用いた場合には、図3からThp≒23%である。
式(3)から偏光子吸収率(Kh)は、約9.6%となる。この吸収率は、発熱温度に換算すると約96℃で、20℃環境においては、約116℃となってこの偏光子224の耐熱温度を超えてしまう。さらに、Thsが低い場合には、Thpも低いため、式(3)からKhは9.6%を上回り、さらに偏光子224の耐熱温度を超える。
以上のことから、偏光子224は、Ths≧95%、Thp≧50%の範囲内において、耐熱温度以下で使用されることができる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態のプロジェクタ1によれば、以下の効果を得ることができる。
偏光子224は、光路上において、偏光変換素子223と入射側偏光板252との間に配置されている。偏光子224は、偏光変換素子223から射出されたP偏光光を吸収する。これによって、入射側偏光板252には、偏光変換素子223から射出されたP偏光光が入射する光量が減少する。このため、入射側偏光板252に吸収される光量が減り、入射側偏光板252は、発熱が低減されて光学特性の劣化が抑制される。したがって、投射画像の画質を安定に確保することができ、長寿命化を図ることが可能となる。
【0043】
偏光子224は、色分離光学装置23によって複数の色光に分離される前の光路上に配置されているので、1つで、簡略な構成で配置されることが可能となる。
【0044】
偏光子224は、偏光変換素子223から射出されたS偏光光を95%以上透過するので、適切な光量を入射側偏光板252に射出して、投射画像の輝度を確保することができる。また、偏光子224は、偏光変換素子223から射出されたP偏光光を50%以上透過するので、入射側偏光板252とで分散してP偏光光を吸収する。これによって、偏光子224および入射側偏光板252の発熱温度がバランスよく低減されてプロジェクタ1の長寿命化が図れる。
【0045】
偏光子224は、入射側偏光板252だけでは吸収できなかった不要な偏光成分を吸収するので、投射画像の高コントラスト化を図ることができる。
【0046】
偏光変換素子223は、長期使用によってλ/2板2232や、偏光ビームスプリッタ2231とλ/2板2232との固定等が劣化し、偏光光を変換する機能が低下して不要な偏光成分が徐々に増加する。
偏光子224は、この不要な偏光成分を吸収するので、長期に亘って投射画像のコントラストを確保することができる。
【0047】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。
以下の説明では、第1実施形態と同様の構造および同一部材には同一符号を付し、その詳細な説明は省略または簡略化する。
本実施形態は、第1実施形態に対して偏光子224が異なる。
【0048】
本実施形態の偏光子224は、S偏光光を透過し、P偏光光を反射する反射型偏光子で構成されている。
この偏光子224は、ガラス基板の表面にアルミニウム等の微細な線状リブが多数平行に形成されている。そして、偏光子224は、線状リブが延出している方向に、垂直な偏光方向の直線偏光光(垂直偏光光)は透過し、平行な偏光方向の直線偏光光(平行偏光光)は反射する機能を有している。また、偏光子224は、平行偏光光の全てを反射することができず、その一部を透過する。偏光子224は、線状リブの厚み等を変更することによって、垂直偏光光および平行偏光光の透過率が変わる。垂直偏光光の透過率(Trs)と平行偏光光の透過率(Trp)とは、第1実施形態の偏光子224と略同様の相関がある(図3参照)。
本実施形態の偏光子224は、Trs=93%、Trp=5%の反射型偏光子を採用している。
【0049】
図5は、第1実施形態の図4と同様に、偏光変換素子223から入射側偏光板252までの偏光光の状態を示す模式図である。
偏光子224は、偏光変換素子223の射出側に、偏光変換素子223から射出されたS偏光光が垂直偏光光として入射するように配置されている。つまり、偏光子224は、第1の直線偏光光を透過し、第2の直線偏光光を反射するように配置されている。したがって、垂直偏光光の透過率(Trs)は、第1の直線偏光光の透過率、平行偏光光の透過率(Trp)は、第2の直線偏光光の透過率をそれぞれ示す。
【0050】
偏光変換素子223から射出された光束は、偏光子224にて、偏光光S11が93%、偏光光P11が5%、それぞれ透過して偏光光S12、偏光光P12として射出される。偏光光P11のほとんどは、偏光子224にて反射される(偏光光P21)。しかし、全ての偏光光を反射することはできず、材質による限界が存在する。そのため、平行偏光光(P偏光光)の一部を吸収するが、この吸収率は垂直偏光光(S偏光)の吸収率とほぼ等しい。
偏光子224から射出された光束は、第1実施形態と同様の光路を通って各入射側偏光板252に入射する。
入射側偏光板吸収率(Kn)は、以下の式(4)の通りである。
【0051】
〔数4〕
Kn=S×Trs×(1−Tns)/3+P×Trp×(1−Tnp)/3・・・(4)
【0052】
前述したように、Trs=93%、Trp=5%なので、式(4)から入射側偏光板吸収率(Kn)は、約3%となる。そして、入射側偏光板252の発熱温度は、前述した相関関係から約30℃となる。この発熱温度は、偏光子224を追加しない場合の発熱温度約50℃に比べて、約20℃低いため、入射側偏光板252に加わる熱の負荷はさらに軽減される。
偏光子吸収率(Kh)は、以下の式(5)の通りである。
【0053】
〔数5〕
Kh=(S+P)×(1−Trs)・・・(5)
【0054】
式(5)から偏光子吸収率(Kh)は、7%となる。
この吸収率は、同様に、約70℃の発熱温度に相当し、20℃環境においては、約90℃になる温度である。偏光子224の使用限界に近い温度である。
なお、この偏光子224の使用限界温度は約100℃であり、この温度を超えるとガラス基板の熱歪の影響が顕著になり、偏光光の透過、反射の特性が低下し、画像品質を劣化させる。
さらに、Trs>93%の範囲内においては、式(5)からKhは、7%以下となるため、偏光子224の発熱温度は、約70℃以下に相当し、偏光子224をさらに低い温度で使用することができる。
【0055】
一方、本発明とは異なる透過率の偏光子224を用いた場合、例えばTrs=92%の偏光子224の発熱温度は、次のようになる。
式(5)から偏光子吸収率(Kh)は、約8%となる。この吸収率は、温度上昇に換算すると約80℃で、20℃環境においては、約100℃となる。この温度は、偏光子の耐熱温度と略同じになり、品質を保つための余裕がなくなってしまう。
これらのことから、偏光子224は、Trs≧93%、Trp≧5%の範囲内において、耐熱温度以下で使用することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態のプロジェクタ1によれば、以下の効果を得ることができる。
偏光子224は、偏光変換素子223から射出されたP偏光光を反射する反射型偏光子で構成されているので、吸収型偏光子に比べて透過率を下げても吸収する光量が少なく、入射側偏光板252の発熱温度をさらに低く抑えることが可能となる。また、偏光子224は、偏光変換素子223から射出されたS偏光光を93%以上透過し、P偏光光を5%以上透過するので、コントラスト(Trs/Trp)の高い偏光子224を選択することが可能となる。
【0057】
〔実施形態の変形〕
本発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態の偏光子224は、偏光変換素子223と重畳レンズ225との間に配置されているが、この位置に限らない。例えば、偏光変換素子223の射出側に取り付けられていてもよいし、ダイクロイックミラー231の入射側の面に取り付けられていてもよい。偏光子224は、光路上において、偏光変換素子223と入射側偏光板252との間に配置されていればよい。なお、偏光子224を偏光変換素子223の射出側に取り付ける場合には、偏光子224から伝達される熱による劣化を防止するために、λ/2板2232として水晶等の無機材料にて形成することが好ましい。
【0058】
前記実施形態の反射型偏光子は、P偏光光を反射し、S偏光光を透過して入射側偏光板に向けて射出するように構成しているが、P偏光光を透過し、S偏光光を反射して入射側偏光板に向けて射出するように構成してもよい。
【0059】
偏光子224と入射側偏光板252との間にλ/2板等の位相差板を配置するように構成してもよい。例えば、緑色光の入射側偏光板252の入射側にλ/2板を配置し、緑色光の入射側偏光板252をP偏光光、つまり、偏光変換素子223から射出されたS偏光光に対応する偏光光を透過するように配置する。これによって、緑色光は、クロスダイクロイックプリズム254の誘電体多層膜を効率良く透過することができる。
【0060】
前記実施形態では、S偏光光を第1の直線偏光光として構成しているが、P偏光光を第1の直線偏光光として構成してもよい。
【0061】
偏光子224に用いられる偏光フィルムとしては、前述した構成に限らず、例えば、PVA系フィルムを一方向に延伸し、ヨウ素を吸着・分散させた偏光フィルム、化学処理を施し二色性を持たせたPVAフィルムを一方向に延伸した偏光フィルム、PVA系フィルムに金、銀、銅、水銀、鉄等の金属を吸着させたPVA・金属系偏光フィルム、PVA系フィルムをヨウ化カリとチオ硫酸ソーダを含むホウ酸溶液で処理した近紫外偏光フィルム、および分子内にカチオン基を含有する変成PVAからなるPVA系フィルムの表面および内部の少なくとも一方に二色性染料を有する偏光フィルム等を採用してもよい。
【0062】
また、偏光子224には、無機の吸収型偏光板を用いることができる。例えば金、銀、銅、ニッケルなどの金属微粒子をガラス内部または表面で所定の方向に整列させた偏光素子、誘電体を積層させた偏光素子等を採用してもよい。無機の偏光素子は、寿命的な耐熱温度は有機フィルムよりも高いものの、ガラス基材の熱歪の影響から100℃未満で使用することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、入射側偏光板に加わる光束の負荷を低減して温度上昇を抑制し、光学特性の劣化を抑えて長寿命化を図っているので、プレゼンテーションや、映画鑑賞等の種々に用いられているプロジェクタに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1実施形態におけるプロジェクタの概略構成を模式的に示す平面図。
【図2】偏光変換素子の断面図。
【図3】偏光子の第1の直線偏光光の透過率と第2の直線偏光光の透過率との関係を示すグラフ。
【図4】第1実施形態における偏光変換素子から入射側偏光板までの偏光光の状態を示す模式図。
【図5】第2実施形態における偏光変換素子から入射側偏光板までの偏光光の状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0065】
1…プロジェクタ、23…色分離光学装置、211…光源、223…偏光変換素子、224…偏光子、252…入射側偏光板、251,251R,251B,251G…液晶パネル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から射出された光束を、偏光方向が互いに直交する第1の直線偏光光と第2の直線偏光光とに分離し、前記第1の直線偏光光を有する偏光光に揃えて射出する偏光変換素子と、前記偏光変換素子から射出された第1の直線偏光光に対応する偏光光を透過し、前記偏光変換素子で揃えられずに射出された第2の直線偏光光に対応する偏光光を吸収する入射側偏光板と、前記入射側偏光板を透過した偏光光を画像情報に応じて変調する光変調装置とを備えたプロジェクタであって、
前記偏光変換素子と前記入射側偏光板との間の光路上には、前記第1の直線偏光光を透過し、前記第2の直線偏光光を吸収する吸収型偏光子、または、前記第1の直線偏光光および前記第2の直線偏光光のいずれか一方を透過し、他方を反射して前記第1の直線偏光光を前記入射側偏光板に向けて射出する反射型偏光子で構成された偏光子が配置されていることを特徴とするプロジェクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のプロジェクタにおいて、
前記偏光変換素子から射出された光束を複数の色光に分離する色分離光学装置を備え、前記入射側偏光板および前記光変調装置は、前記複数の色光に対応して複数設けられ、
前記偏光子は、前記偏光変換素子と前記色分離光学装置との間の光路上に配置されていることを特徴とするプロジェクタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプロジェクタにおいて、
前記偏光子は、前記吸収型偏光子で構成され、前記第1の直線偏光光の透過率をThs、前記第2の直線偏光光の透過率をThpとした場合に、Ths≧95%でかつThp≧50%の特性を有していることを特徴とするプロジェクタ。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のプロジェクタにおいて、
前記偏光子は、前記第1の直線偏光光を透過し、前記第2の直線偏光光を反射する反射型偏光子で構成され、前記第1の直線偏光光の透過率をTrs、前記第2の直線偏光光の透過率をTrpとした場合に、Trs≧93%でかつ、Trp≧5%の特性を有していることを特徴とするプロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−157210(P2009−157210A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337009(P2007−337009)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】