説明

プロテインキナーゼインヒビターとして有用な組成物

本発明は、プロテインキナーゼインヒビターの有用な化合物に関する。本発明はまた、上記化合物を含有する薬学的に受容可能な組成物を提供する。本発明はまた、種々の疾患、状態または障害の処置において上記組成物を使用する方法を提供する。本発明の化合物、およびこれらの薬学的に受容可能な組成物が、ERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、Srcプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、およびGSK3プロテインキナーゼのうちの1以上のインヒビターとして有効であることが、見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
この出願は、2003年3月13日に出願された米国仮特許出願第60/454,405号に対して優先権を主張し、その内容は、本明細書中で参考として援用する。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は、プロテインキナーゼのインヒビターとして有用な化合物に関する。本発明はまた、本発明の化合物を含有する薬学的に受容可能な組成物および種々の障害の処置においてこの組成物を使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
新規治療剤の調査は、疾患に関連する酵素の構造および他の生体分子の構造のよりよい理解によって、近年、大いに助けられてきた。大規模な研究の主題である、酵素の中の1つの重要なクラスは、プロテインキナーゼである。
【0004】
プロテインキナーゼは、構造的に関連する酵素の大きな群を構成し、これらの酵素は、細胞内における種々のシグナル伝達プロセスの制御を担っている(Hardie,GおよびHanks,S.The Protein Kinase Facts Book,IおよびII,Academic Press,San Diego,CA:1995を参照のこと)。プロテインキナーゼは、それらの構造および触媒的な機能の保存により、共通の祖先の遺伝子から進化してきたと考えられている。ほとんどすべてのキナーゼは、類似の250〜300個のアミノ酸触媒ドメインを含む。これらのキナーゼは、それらがリン酸化する基質によってファミリーに分類され得る(例えば、プロテイン−チロシン、プロテイン−セリン/トレオニン、脂質など)。配列モチーフは、一般的にこれらのキナーゼのファミリーの各々に対応することが同定された(例えば、Hanks,S.K.,Hunter,T.,FASEB J.1995,9,576頁〜596頁;Knightonら,Science 1991,253,407頁〜414頁;Hilesら,Cell 1992,70,419頁〜429頁;Kunzら,Cell 1993,73,585頁〜596頁;Garcia−Bustosら,EMBO J.1994,13,2352頁〜2361頁を参照のこと)。
【0005】
一般的に、プロテインキナーゼは、ヌクレオシド三リン酸塩からシグナル伝達経路に関係するタンパク質受容体へのホスホリルの移動を行うことによって、細胞内のシグナル伝達を行う。これらのリン酸化の事象は、分子オン/オフスイッチとして働き、これらのスイッチは、標的となるタンパク質の生物学的な機能を調節するかまたは調整し得る。これらのリン酸化の事象は、究極的には、種々の細胞外の刺激および他の刺激に応答して誘発される。そのような刺激の例としては、環境性ストレスシグナルおよび化学的ストレスシグナル(例えば、浸透圧性ショック、熱ショック、紫外線照射、細菌内毒素、およびH)、サイトカイン(例えば、インターロイキン−1(IL−1)および腫瘍壊死因子α(TNF−α))、ならびに増殖因子(例えば、顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)および線維芽細胞増殖因子(FGF))が挙げられる。細胞外の刺激は、細胞増殖、移動、分化、ホルモンの分泌、転写因子の活性化、筋肉の収縮、グルコースの代謝、タンパク質合成の制御、および細胞周期の調整に関連する1以上の細胞応答に影響を与え得る。
【0006】
多くの疾患は、上に記載されたようなプロテインキナーゼが介在する事象によって誘発される異常な細胞応答と関連している。これらの疾患としては、自己免疫疾患、炎症性疾患、骨の疾患、代謝疾患、神経学的疾患および神経変性疾患、癌、心臓血管の疾患、アレルギーおよび喘息、アルツハイマー病、ならびにホルモンが関連する疾患が挙げられるが、これらに限定されない。従って、医化学においては、プロテインキナーゼインヒビターが治療剤として有効であることがわかるのに相当の努力がされた。
【0007】
(ERKキナーゼ)
ERK2は、Thr183およびTyr185の両方が上流MAPキナーゼキナーゼであるMEK1によってリン酸化されるときに、最大の活性を達成する、広く分布したプロテインキナーゼである(Andersonら,1990,Nature 343,651頁;Crewsら,1992,Science 258,478頁)。活性化される際に、ERK2は、多くの調節性タンパク質をリン酸化し、これらの調節性タンパク質には、プロテインキナーゼRsk90(Bjorbaekら,1995,J.Biol.Chem.270,18848頁)、およびMAPKAP2(Rouseら、1994、Cell 78,1027)および転写因子(例えば、ATF2(Raingeaudら,1996,Mol.Cell Biol.16,1247頁)、Elk−1(Raingeaudら,1996)、c−Fos(Chenら,1993 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90,10952頁)、およびc−Myc(Oliverら,1995,Proc.Soc.Exp.Biol.Med.210,162頁))が挙げられる。ERK2はまた、Ras/Raf依存性経路の下流標的であり(Moodieら,1993,Science 260,1658頁)、そしてこれらの腫瘍を形成する可能性のあるタンパク質からのシグナルを中継する。ERK2は、乳癌細胞の負の増殖制御において役割を演じることが示されており(FreyおよびMulder,1997,Cancr Res.57,628頁)、そしてヒトの乳癌におけるERK2の過剰発現が報告されている(Sivaramanら,1997,J Clin.Invest.99,1478頁)。活性化されたERK2はまた、エンドセリン刺激性気道平滑筋細胞の増殖に関係しており、このことは、このキナーゼについての喘息における役割を示唆している(Whelchelら,1997,Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.16,589頁)。
【0008】
レセプターチロシンキナーゼ(例えば、EGFRおよびErbB2)(Arteaga CL,2002,Semin Oncol.29,3頁〜9頁;Eccles SA,2001,J Mammary Gland Biol Neoplasia 6:393頁〜406頁;Mendelsohn J&Baselga J,2000,Oncogene 19,6550頁〜6565頁)、ならびにRas GTPaseタンパク質中の活性化変異(Nottage M&Siu LL,2002,Curr Pharm Des 8,2231頁〜2242頁;Adjei AA,J Natl Cancer Inst 93,1062頁〜1074頁)またはB−Raf変異体(Davies Hら,2002,Nature 417,949頁〜954頁;Broseら,2002,Cancer Res 62,6997頁〜7000頁)の過剰発現は、ヒトの癌への主要な寄与事項である。これらの遺伝的変化は、臨床上の予後が粗末であることと相関しており、そして広いパネルのヒトの腫瘍におけるRaf−1/2/3−MEK1/2−ERK1/2シグナル伝達カスケードの活性化をもたらす。活性化されたERK(すなわち、ERK1および/またはERK2)は、中心的シグナル伝達分子であって、増殖、分化、足場から独立した細胞の生存、および新脈管形成の制御に関連しており、悪性腫瘍の形成および進化に関して重要ないくつかのプロセスに貢献している。これらのデータは、ERK1/2インヒビターが、多面発現性活性(アポトーシス誘発効果、抗増殖効果、抗転移効果および抗脈管形成効果を含む)を発揮し、そして非常に幅広いパネルのヒトの腫瘍に対して、治療の機会を提供することを示す。
【0009】
選択された癌の腫瘍形成挙動におけるERK MAPK経路の構成的活性化と関係する証拠が非常に増えてきている。Rasの活性化変異は、すべての癌のうちの約30%において見出され、いくつか(例えば、膵臓癌(90%)および結腸癌(50%))については、特に高い変異率を有していた。Ras変異はまた、黒色腫のうちの9〜15%において同定されたが、構成的活性化を与えるB−Raf体細胞ミスセンス変異は、より頻繁であり、悪性黒色腫の60〜66%において見出された。Ras、RafおよびMEKの活性化された変異は、線維芽細胞をインビトロで腫瘍形成的に形質転換し得、そして腫瘍サプレッサ遺伝子(例えば、p16INK4A)の損失と関連しているRas変異またはRaf変異は、インビボでの自発的な腫瘍の発達を引き起こし得る。増大したERK活性は、これらのモデルで実証され、そして適切なヒトの腫瘍で広く報告もされてきた。黒色腫においては、B−Raf変異またはN−Ras変異またはオートクライン増殖因子活性化のいずれかから生じる高い基礎ERK活性は、よく実証されており、そして急速な腫瘍増殖、増加する細胞生存およびアポトーシスに対する耐性と関連する。さらに、ERK活性化は、黒色腫の非常に転移性の挙動の裏にある主要な推進力であると考えられており、この挙動は、細胞外基質分解プロテアーゼおよび侵入を促進するインテグリンの両方の増加した発現、ならびに通常、ケラチノサイト相互作用を仲介してメラノサイトの増殖を制御するE−カドヘリン接着分子のダウンレギュレーションと関連する。これらのデータは一緒になって、ERKが、現在処置不可能な疾患である黒色腫の処置のための有望な治療学上の標的であることを示している。
【0010】
(Auroraキナーゼ)
セリン/トレオニンキナーゼのAuroraファミリーは、細胞の増殖にとって不可欠である[Bischoff,J.R&Plowman,G.D.(The Aurora/IP11P−related kinase family:regulators of chromosome segregation and cytokinesis)Trends in Cell Biology 9,454頁〜459頁(1999);Giet,R.およびPrigent,C.(Aurora/Ip11p−related kinase,a new oncogenic family of mitotic serine−threonine kinases)Journal of Cell Science 112,3591頁〜3601頁(1999);Nigg,E.A.(Mitotic kinase as regulators of cell Division and its checkpoints)Nat.Rev.Mol.Cell Biol.2,21頁〜32頁(2001);Adams,R.R,Carmena,M.,およびEarnshaw,W.C.(Chromosomal passengers and the (aurora) ABC of mitosis)Trends in Cell Biology 11,49頁〜54頁(2001)]。従って、Auroraキナーゼファミリーのインヒビターは、すべての腫瘍型の増殖を妨げる可能性を有する。
【0011】
全てのAuroraファミリーのメンバーの上昇したレベルは、幅広い種類の腫瘍細胞株において観測される。Auroraキナーゼは、多くのヒトの腫瘍において過剰発現され、そしてこのことは、乳腺腫瘍内における染色体の不安定性と関連していると報告されている(Miyoshiら 92:370頁,2001)。
【0012】
3つの公知である哺乳動物のファミリーのメンバーであるAuroraA(「1」)、AuroraB(「2」)、AuroraC(「3」)は、染色体分離、有糸分裂紡錘体機能および細胞質分裂を担う相同性の高いタンパク質である。Aurora発現は、休止細胞においては低いかまたは検知できず、発現および活性は、細胞周期が回っている細胞におけるG2期および有糸分裂期の間にピークに達する。哺乳動物細胞において、Auroraについての提唱された基質としては、ヒストンH3(染色体縮合に関与するタンパク質)、CENP−A、ミオシンII調節性軽鎖、タンパク質ホスファターゼ1、TPX2が挙げられ、これらはすべて細胞分裂に必要とされる。
【0013】
1997年におけるその発見以来、哺乳動物のAuroraキナーゼファミリーは、腫瘍形成に密接に関わってきた。これに関する最も無視できない証拠は、AuroraAの過剰発現が、齧歯動物繊維芽細胞を形質転換するということである(Bischoff,J.R.ら A homologue of Drosophila Aurora kinase is oncogenic and amplified in human colorectal cancers. EMBO J.17:3052頁,1998)。このキナーゼのレベルが上昇した細胞は、多数の中心体および多極性の紡錘体を含み、急速に異数体となる。Auroraキナーゼの腫瘍形成活性は、このような遺伝子の不安定性の発生と関連している可能性が高い。実際、Aurora−A座の増幅と、乳腺腫瘍および胃の腫瘍における染色体の不安定性との間の相関が、観察されてきた(Miyoshi,Y.,Iwao,K.,Egawa,C.およびNoguchi,S. Association of centrosomal kinase STK15/BTAK mRNA expression with chromosomal instability in human breast cancers. Int.J.Cancer 92,370頁〜373頁(2001)。(Sakakura,C.ら Tumor−amplified kinase BTAK is amplified and overexpressed in gastric cancers with possible involvement in aneuploid formation. British Journal of Cancer 84:824頁 2001)。
【0014】
Auroraキナーゼは、幅広い範囲のヒト腫瘍において、過剰発現されることが報告されている。AuroraAの高い発現は、結腸直腸の腫瘍(Bischoff,J.R.ら A homologue of Drosophila aurora kinase is oncogenic and amplified in human colorectal cancers. EMBO J.17:3052頁,1998)(Takahashi,T.ら Centrosomal kinase,HsAIRk1 and HsAIRK3,are overexpressed in primary colorectal cancers. Jpn.J.Cancer Res.91:1007頁,2000)、卵巣の腫瘍(Gritsko,T.M.ら Activation and overexpression of centrosome kinase BTAK/Aurora−A in human ovarian cancer. Clinical Cancer Research 9:1420頁,2003)、および胃の腫瘍(Sakakura,C.ら Tumor−amplified kinase BTAK is amplified and overexpressed in gastric cancers with possible involvement in aneuploid formation. British Journal of Cancer 84:824頁 2001)のうちの50%以上において検出され、そして乳房の侵襲性腺管癌のうちの94%において検出された(Tanaka,T.ら Centrosomal kinase AIK1 is overexpressed in invasive ductal carcinoma of the breast. Cancer Research.59:2041頁,1999)。さらに、高レベルのAurora−Aはまた、腎臓の腫瘍細胞株、頸部の腫瘍細胞株、神経芽細胞腫の細胞株、黒色腫の細胞株、リンパ腫の細胞株、膵臓の腫瘍細胞株および前立腺の腫瘍細胞株において報告されている(Bischoff,J.R.ら A homologue of Drosophila aurora kinase is oncogenic and amplified in human colorectal cancers. EMBO J.17:3052頁,1998)(Kimura,M.,Matsuda,Y.,Yoshida,T.およびOkano,Y. Cell cycle−dependent expression and centrosomal localization of a third human Aurora/Ipll−related protein kinase, AIK3. Journal of Biological Chemistry 274:7334頁,1999)(Zhouら Tumour amplifiec kinase STK15/BTAK induces centrosome amplification, aneuploidy and transformation Nature Genetics 20:189頁,1998)(Liら Overexpression of oncogenic STK15/BTAK/Aurora−A kinase in human pancreatic cancer Clin Cancer Res.9(3):991頁,2003)。
【0015】
Aurora−Aの増幅/過剰発現は、ヒトの膀胱癌において観察されており、そしてAurora−Aの増幅は、異数性および攻撃的な臨床的挙動に関連している(Sen S.ら Amplification/overexpression of a mitotic kinase gene in human bladder cancer J Natl Cancer Inst.94(17):1320頁,2002)。さらに、aurora−A座(20q13)の増幅は、結節陰性乳癌の患者に関する予後が粗末であることと相関している(Isola,J.J.ら Genetic aberrations detected by comparative genomic hybridization predict outcome in node−negative breast cancer. American Journal of Pathology 147:905頁,1995)。Aurora−Bは、多数のヒト腫瘍細胞株(白血病細胞を含む)において高く発現される(Katayamaら Human AIM−1:cDNA cloning and reduced expression during endomitosis in megakaryocyte−lineage cells. Gene 244:1頁〜7頁)。この酵素のレベルは、原発性結腸直腸癌におけるDukeステージの関数として上昇する(Katayama,H.ら Mitotic kinase expression and colorectal cancer progression. Journal of the National Cancer Institute 91:1160頁,1999)。Aurora−C(通常は生殖細胞においてのみ見出される)はまた、高いパーセンテージの原発性結腸直腸癌において、および種々の腫瘍細胞株(子宮頚部腺癌細胞および乳癌細胞を含む)において過剰発現される(Kimura,M.,Matsuda,Y.,Yoshioka,T.およびOkano,Y. Cell cycle−dependent expression and centrosomal localization of a third human Aurora/Ipll−related protein kinase,AIK3. Journal of Biological Chemistry 274:7334頁,1999)(Takahashi,T.ら Centrosomal kinases,HsAIRK1 and HsAIRK3,are overexpressed in primary colorectal cancers. Jpn.J.Cancer Res.91:1007頁,2000)。
【0016】
Auroraキナーゼの公知の機能に基づくと、それらの活性の阻害は、有糸分裂を混乱させ、細胞周期の停止に至らせるはずである。従って、インビボでは、Auroraインヒビターは、腫瘍増殖を遅らせ、そして退行を誘発する。
【0017】
Aurora−2は、多数のヒトの腫瘍細胞株において高く発現され、レベルは、原発性結腸直腸癌におけるDukeのステージの関数として上昇する(Katayama,H.ら (Mitotic kinase expression and colorectal cancer progression) Journal of the National Cancer Institute 91:1160頁,1999)。Aurora−2は、有糸分裂の間の染色体の正確な分離を制御する役割を担っている。細胞周期の誤った調節は、細胞増殖および他の異常をもたらし得る。ヒトの結腸癌組織においては、Aurora−2タンパク質は過剰発現される(Bischoffら,EMBO J.,17:3052頁,1998;Schumacherら,J.Cell Biol.,143:1635頁,1998;Kimuraら,J Biol.Chem.,272:13766頁,1997)。Aurora−2は、形質転換された細胞の大多数において過剰発現される。Bischoffらは、肺腫瘍、結腸腫瘍、腎臓腫瘍、黒色腫および乳房腫瘍に由来する細胞株のうちの96%において高いレベルのAurora−2を見出した(Bischoffら EMBO J.17:3052頁,1998)。2つの大規模な研究は、結腸直腸腫のうちの54%および68%(Bischoffら EMBO J.17:3052頁,1998)(Takahashiら Jpn J Cancer Res.91:1007,2000)において高いAurora2を示し、乳房の侵襲性腺管癌のうちの94%において高いAurora−2を示した(Tanakaら 59:2041頁,1999)。
【0018】
Aurora−1の発現は、結腸、乳房、肺、黒色腫、腎臓、卵巣、膵臓、中枢神経系(CNS)、胃管および白血病の腫瘍に由来する細胞株において高められる(Tatsukaら 58:4811,1998)。
【0019】
高いレベルのAurora−3は、いくつかの腫瘍細胞株において検出されているが、それは、通常の組織では、精巣に限られる(Kimuraら 274:7334頁,1999)。結腸直腸癌の高いパーセンテージ(約50%)におけるAurora3の過剰発現もまた、説明されている(Takahashiら Jpn J Cancer Res.91,1007頁,2000)。対照的に、Auroraファミリーは、大多数の通常の組織においては、低いレベルで見出され、例外は、高い割合の分裂細胞を有する組織(例えば、胸腺および精巣)である(Bischoffら EMBO J.17:3052頁,1998)。
【0020】
Auroraキナーゼが増殖障害において担う役割のさらなる総説については、Bischoff,J.R.&Plowman,G.D.(The Aurora/Ipllp kinase family:regulators of chromosome segregation and cytokinesis) Trends in Cell Biology 9,454頁〜459頁(1999);Giet,R.およびPrigent,C.(Aurora/Ipllp−related kinases,a new oncogenic family of mitotic serine−threonine kinases) Journal of Cell Science 112,3591頁〜3601頁(1999);Nigg,E.A.(Mitotic kinases as regulators of cell division and its checkpoints) Nat.Rev.Mol.Cell Biol.2,21頁〜32頁(2001);Adams,R.R,Carmena,M.,およびEarnshaw,W.C.(Chromosomal passengers and the (aurora) ABCs of mitosis) Trends in Cell Biology 11,49頁〜54頁(2001);およびDutertre,S.,Descamps,S.,&Prigent,P.(On the role of aurora−A in centrosome function)Oncogene 21,6175頁〜6183頁(2002)を参照のこと。
【0021】
(グリコーゲンシンターゼキナーゼ)
グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)は、それぞれ別個の遺伝子によってコードされたαアイソフォームおよびβアイソフォームからなるセリン/トレオニンプロテインキナーゼである(Coghlanら,Chemistry&Biology,7:793,2000;KimおよびKimmel,Curr.Opinion Genetics Dev.,10:508,2000)。GSK−3は、種々の疾患に関係しており、これらの疾患には、糖尿病、アルツハイマー病、CNS障害(例えば、双極性障害および神経変性疾患)、および心筋細胞肥大が挙げられる(例えば、WO99/65897;WO00/38675;KaytorおよびOrr,Curr.Opin.Neurobiol.,12:275頁,2000;Haqら、J.Cell Biol.,151:117,2000;Eldar−Finkelman,Trends Mol.Med.,8:126,2002を参照のこと)。これらの疾患は、GSK−3が役割を担っている特定の細胞シグナル伝達経路の異常な働きに関連している。
【0022】
GSK−3は、多くの調節タンパク質をリン酸化し、これらの活性を調節することが見出されている。これらとしては、グリコーゲンシンターゼ(グリコーゲン合成に必要な律速酵素)、微小管結合タンパク質タウ、遺伝子転写因子β−カテニン、翻訳開始因子e1F−2B、およびATPシトレートリアーゼ、アキシン、熱ショック因子−1、c−Jun、c−myc、c−myb、CREB、およびCEPBαが挙げられる。これらの種々の標的は、細胞代謝、細胞増殖、細胞分化および細胞発達の多くの局面において、GSK−3と関係する。
【0023】
II型糖尿病の処置に関連するGSK−3媒介経路においては、インスリン誘導性シグナル伝達は、細胞のグルコース摂取およびグリコーゲン合成をもたらす。GSK−3は、この経路においては、インスリン誘導性シグナルの負のレギュレーターである。通常、インスリンの存在は、GSK−3媒介リン酸化の阻害およびグリコーゲンシンターゼの不活性化をもたらす。GSK−3の阻害は、グリコーゲン合成の増加およびグルコースの摂取の増加をもたらす(Kleinら,PNAS,93:8455頁,1996;Crossら,Biochem.J.,303:21頁,1994;Cohen,Biochem.Soc.Trans.,21:555頁,1993;およびMassillonら,Biochem.J.299:123頁,1994;CohenおよびFrame,Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.,2:769頁,2001)。しかしながら、インスリン反応が、糖尿病患者において損なわれている場合、グリコーゲン合成およびグルコース摂取は、比較的高い血中レベルのインスリンの存在にも関わらず、増加しない。このことは、異常に高いグルコースの血中レベルをもたらすとともに、最終的には心臓血管疾患、腎不全および失明に至る、急性の影響および慢性の影響をもたらす。そのような患者においては、GSK−3の正常なインスリン誘導性阻害は、起こらない。また、GSK−3が、II型糖尿病の患者において過剰発現されることが報告されている[WO00/38675]。従って、GSK−3の治療学的インヒビターは、インスリンへの反応が損なわれていることに苦しむ糖尿病患者を処置するために有効である。
【0024】
アポトーシスは虚血性脳損傷の病態生理学に関係している(Liら,1997;Choiら,1996;Charriaut−Marlangueら,1998;GrahmおよびChen,2001;Murphyら,1999;Nicoteraら,1999)。最近の出版物は、GSK−3βの活性化がアポトーシスの機構に関連し得ることを示している(KaytorおよびOrr,2002;Culbertら,2001)。中大脳動脈閉塞(MCAO)によって誘発される虚血性発作のラットモデルにおける研究は、GSK−3β発現の増加が、虚血の後に起こっていることを示した(Wangら,Brain Res,859:381頁,2000;Sasakiら,Neurol Res,23:588頁,2001)。線維芽細胞成長因子(FGF)は、ラットにおける永久中大脳動脈閉塞(MCO)後の虚血性脳損傷を低減させた(Fisherら.1995;Songら.2002)。実際、ラットにおける虚血のモデルにおいて説明されるFGFの脳保護効果は、GSK−3βの、PI−3キナーゼ/AKT依存性不活性化によって媒介され得る(Hashimotoら,2002)。従って、大脳虚血性事象後のGSK−3βの阻害は、虚血性脳損傷を改善し得る。
【0025】
GSK−3はまた、心筋梗塞に関連している。Jonassenら,Circ Res,89:1191頁,2001(再潅流時のインスリン投与による心筋梗塞の低減は、Akt依存性シグナル伝達経路を経由して媒介される);Matsuiら,Circulation,104:330頁,2001(Akt活性化は、インビボでの一過性心臓虚血後における心臓の機能を保持し、心筋細胞損傷を防止する);Miaoら,J Mol Cell Cardiol,32:2397頁,2000(インビボでの虚血−再潅流損傷後の、心臓における冠動脈内アデノウイルス媒介性Akt遺伝子伝送は、全体の梗塞のサイズを低減する);およびFujioら,Circulation,101:660頁,2000(Aktシグナル伝達は、インビトロでの心筋細胞アポトーシスを阻害し、マウスの心臓において虚血−再潅流損傷から保護する)を参照のこと。
【0026】
GSK−3活性は、頭部外傷において役割を担う。Noshitaら,Neurobiol Dis,9:294頁,2002(Akt/PI3キナーゼ経路のアップレギュレーションは、外傷性脳損傷後の細胞生存に関して極めて重要となり得る)およびDietrichら,J Neurotrauma,13:309頁,1996(外傷後のbFGFの投与は、外傷性脳損傷のラットのモデルにおいて、損傷した皮質ニューロンおよび総挫傷体積を顕著に低下させた)を参照のこと。
【0027】
GSK−3はまた、精神医学上の障害において役割を担うことが知られている。Eldar−Finkelman,Trends Mol Med,8:126頁,2002;Liら,Bipolar Disord,4:137,2002(抗精神病性抗躁鬱病薬物である、LiClおよびバルプロ酸は、GSK3活性を低下させ、β−カテニンを増加させる)およびLijamら,Cell,90:895頁,1997(取り乱したKOマウスは、異常な社会的行為および不完全な感覚運動ゲーティングを示した。WNT経路に関連する取り乱した細胞質タンパク質は、GSK3βの活性を阻害する)を参照のこと。
【0028】
リチウムおよびバルプロ酸によるGSK3阻害は、軸索の再造形を誘発し、シナプスの接合性を変化させることが、示されてきた。Kaytor&Orr,Curr Opin Neurobiol,12:275頁,2002(GSK3のダウンレギュレーションは、微小管結合タンパク質:タウ、MAP1&2に変化をもたらす)およびHallら,Mol Cell Neurosci,20:257頁,2002(リチウムおよびバルプロ酸は、軸索に沿った成長円錐様構造の形成を誘発する)を参照のこと。
【0029】
GSK−3活性はまた、アルツハイマー病と関連している。この疾患は、周知のβ−アミロイドペプチドの存在および細胞内神経細線維もつれの形成によって特徴づけられる。この神経細線維もつれは、過剰にリン酸化されたタウタンパク質を含有しており、このタウタンパク質において、タウは異常な部位でリン酸化される。GSK−3は、細胞中においておよび動物のモデル中において、これらの異常な部位をリン酸化することが示されている。さらに、GSK−3の阻害は、細胞中におけるタウの過剰なリン酸化を防止することが示されている(Lovestoneら,Curr.Biol.,4:1077頁,1994;およびBrownleesら,Neuroreport 8:3251頁,1997;KaytorおよびOrr,Curr.Opin.Neurobiol.,12:275頁,2000)。トランスジェニックマウスにおいては、GSK3の過剰発現、顕著に増加したタウ過剰リン酸化およびニューロンの異常なモルホロジーが観測された(Lucasら,EMBO J,20:27頁,2001)。活性なGSK3は、もつれる前の(pretangled)ニューロンの細胞質内に集まり、このことは、ADの患者の脳内の神経細線維もつれをもたらし得る(Peiら,J Neuropathol Exp Neurol,58:1010頁,1999)。従って、GSK−3の阻害は、神経細線維もつれの発生を遅くするか、または停止させ、従って、アルツハイマー病を処置するか、またはアルツハイマー病の重症度を低減する。
【0030】
アルツハイマー病においてGSK−3が担う役割についての証拠は、インビトロで示されている。Aplinら,J Neurochem 67:699頁,1996;Sunら,Neurosci Lett 321:61頁,2002(GSK3bは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の細胞質ドメインをリン酸化し、GSK3b阻害は、APPがトランスフェクトされた細胞におけるAb40の分泌およびAb42の分泌を低減させる);Takashimaら,PNAS 95:9637頁,1998;Kirschenbaumら,2001,J Biol Chem 276:7366頁,2001(GSK3bは、プレセニリン−1と錯体を形成し、これをリン酸化する。このことは、APPからのAbの合成におけるγ−セクレターゼの活性と関連する);Takashimaら,Neurosci Res 31:317頁,1998(Ab(25−35)によるGSK3bの活性化は、海馬のニューロンにおけるタウのリン酸化を促進する。この観測は、Abと、ADのもう一つの病理学的特徴である過剰にリン酸化されたタウから構成される神経細線維もつれとの間の関連を提供する);Takashimaら,PNAS 90:7789頁,1993(GSK3b発現またはGSK3b活性の遮断は、皮質の初代培養および海馬の初代培養のAb誘導性神経変性を防止する);Suharaら,Neurobiol Aging.24:437頁,2003(細胞内Ab42は、Akt/GSK−3bシグナル伝達依存性機構の活性化を妨げることにより、内皮細胞に対して毒性を有する);De Ferrariら,Mol Psychiatry 8:195頁,2003(リチウムは、N2A細胞および主要な海馬のニューロンをAb原線維誘導性細胞傷害性から保護し、b−カテニンの核転座/不安定化を低減する);Piginoら,J Neurosci,23:4499頁,2003(アルツハイマーのプレセニリン1における変異は、GSK−3の活性を調整から解放し、これを増加させ得、このことは、結果としてニューロンにおける軸索移動を低下させる。影響を受けたニューロンにおける軸索移動の継続した低下は、最終的には神経変性をもたらし得る)を参照のこと。
【0031】
アルツハイマー病においてGSK−3が担う役割についての証拠は、インビボで示されている。Yamaguchiら,Acta Neuropathol 92:232頁,1996;Peiら,J Neuropath Exp Neurol 58:1010頁,1999(GSK3b免疫反応性は、AD脳の感受性の高い領域において上昇する);Hernandezら,J Neurochem 83:1529頁,2002(条件的GSK3b過剰発現を有するトランスジェニックマウスは、ADのトランスジェニックAPPマウスのモデルにおけるのと同様の認知欠損を示す);De Ferrariら Mol Psychiatry 8:195頁,2003(長期にわたるリチウム処置は、Ab原線維の海馬内への注入によって引き起こされる神経変性および行動欠陥(Morrisの水迷路)を救済した);McLaurinら,Nature Med,8:1263頁,2002(ADのトランスジェニックモデルにおけるAbを用いた免疫処置は、AD様神経病理学および空間記憶欠陥の両方を低減した);およびPhielら Nature 423:435頁,2003(GSK3は、ADtgマウスにおけるγセクレターゼの直接的な阻害を通して、アミロイド−βペプチド生産を調節する)を参照のこと。
【0032】
プレセニリン−1およびキネシン−1はまた、最近、Pigino,G.らによって、Journal of Neuroscience(23:4499頁,2003)において記載されているように、GSK−3に関する基質であり、そしてアルツハイマー病においてGSK−3が担う役割についての別の機構に関連する。GSK3βは、キネシン−I軽鎖をリン酸化し、これにより、キネシン−1は膜で囲まれた小器官から放出され、軸索の速い前向性移動の低下をもたらす(Morfiniら,2002)ことが見出されている。この著者らは、PS1における変異は、GSK−3の活動を調整から解放し、これを増加させ得、このことは、結果としてニューロンにおける軸索移動を低下させることを示唆している。影響を受けたニューロンにおける軸索移動の継続した低下は、究極的には神経変性をもたらす。
【0033】
GSK−3はまた、筋萎縮性側索硬化症(ALS)にも関連している。WilliamsonおよびCleveland,1999(軸索移動は、mSOD1マウスにおいて、ALSの非常に早い段階で妨げられる);Morfiniら,2002(GSK3は、キネシン軽鎖をリン酸化し、前向性軸索移動を阻害する);Waritaら,Apoptosis,6:345頁,2001(脊髄の運動ニューロンの大多数は、早期の前兆的段階において、PI3−KおよびAktの両方に関する免疫反応性を失い、これは、ALSについての、このSOD1tg動物モデルにおけるニューロンの顕著な損失に優先した);およびSanchezら,2001(PI−3Kの阻害は、GSK3の活性化によって引き起こされる軸索後退を誘発する)を参照のこと。
【0034】
GSK−3活性はまた、脊髄損傷および末梢神経損傷に関連している。リチウムおよびバルプロ酸によるGSK3阻害は、軸索の再造形を誘発し、そしてシナプスの接合性を変化させ得る。Kaytor&Orr,Curr Opin Neurobiol,12:275頁,2002(GSK3のダウンレギュレーションは、微小管結合タンパク質:タウ、MAP1&2に変化をもたらす)およびHallら,Mol Cell Neurosci,20:257頁,2002(リチウムおよびバルプロ酸は、軸索に沿った成長円錐様構造の形成を誘発する)を参照のこと。また、Grotheら,Brain Res,885:172頁,2000(FGF2は、軸索成長の間のシュヴァン細胞の増殖を刺激し、そして髄鞘形成を阻害する);GrotheおよびNikkhah,2001(FGF−2は、神経圧挫の後5時間以内に近位の神経断端および遠位の神経断端においてアップレギュレートされる);およびSanchezら,2001(PI−3Kの阻害は、GSK3の活性化によって引き起こされる軸索後退を誘発する)を参照のこと。
【0035】
GSK−3の別の基質は、β−カテニンであり、これは、GSK−3によるリン酸化後分解する。β−カテニンの低下したレベルが、分裂病患者において報告されており、またニューロンの細胞死の増加に関連する他の疾患とも関連している(Zhongら,Nature,395:698頁,1998;Takashimaら,PNAS,90:7789頁,1993;Peiら,J Neuropathol.Exp,56:70頁,1997;およびSmithら,Bio−org.Med.Chem.11:635頁,2001)。さらに、β−カテニンおよびTcf−4は、脈管の平滑筋細胞アポトーシスを阻害し、そして増殖を促進することによって、脈管の再造形において、二重の役割を担う(Wangら,Circ Res,90:340頁,2002)。従って、GSK−3は、脈管形成障害に関連する。Liuら,FASEB J,16:950頁,2002(GSK3の活性化は、肝細胞成長因子を減少させ、このことは、内皮細胞バリア機能の変更および脈管の完全性の低下をもたらす)およびKimら,J Biol Chem,277:41888頁,2002(GSK3β活性化は、マトリゲル(Matrigel)プラグアッセイを用いたインビボでの新脈管形成を阻害する:GSK3βシグナル伝達の阻害は、毛細管形成を増加させる)も参照のこと。
【0036】
GSK−3とハンティングトン病との間の関連が示されてきた。Carmichaelら,J Biol Chem.,277:33791頁,2002(GSK3β阻害は、b−カテニンおよびその関連する転写経路の増加を通して、細胞を、ポリグルタミン誘導性ニューロン細胞死および非ニューロン細胞死から保護する)を参照のこと。GSK3の過剰発現は、熱ショック転写因子−1および熱ショックタンパク質HSP70の活性化を低下させた(Bijurら,J Biol Chem,275:7583頁,2000)。熱ショックタンパク質HSP70は、インビトロでのHDモデルにおいて、ポリ−(Q)集合体と細胞死との両方を減少させることが示されている(Wyttenbachら,Hum Mol Genet,11:1137頁,2002)。
【0037】
GSK−3は、FGF−2のレベルに影響を与え、そしてそれらのレセプターは、脳の集合体培養の再髄鞘形成がラットの脳の再髄鞘形成を行う間、増加する。Copelmanら,2000,Messersmithら,2000;およびHinksおよびFranklin,2000を参照のこと。また、FGF−2は、希突起膠細胞が再髄鞘形成においてFGFを関与させることにより、プロセスの生成を誘発し(OhおよびYong,1996;Gogateら,1994)、そしてFGF−2遺伝子治療は、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)のマウスの回復の改善を示した(Ruffiniら,2001)ことが見出されていた。
【0038】
GSK−3はまた、毛の成長に関連している。なぜなら、Wnt/β−カテニンシグナル伝達は、毛包の形態発生および毛包の分化において、主要な役割を担うことが示されているからである(Kishimototら,Genes Dev,14,1181頁,2000;Millar,J Invest Dermatol,118:216頁,2002)。皮膚におけるWntシグナル伝達のインヒビターの構成的な過剰発現を有するマウスは、毛包を発達させることができないことが見出されていた。Wntシグナルは、毛包の初期の発達に必要であり、そしてGSK3は、β−カテニンを阻害することによって、構成的にWnt経路を調節する(Andlら,Dev Cell 2:643頁,2002)。過渡的なWntシグナルは、上皮の毛包前駆体においてβ−カテニンおよびTCF調節性遺伝子転写を活性化させることによって、新たな毛の成長循環の開始のための決定的な初期刺激を提供する(Van Materら,Genes Dev,17:1219頁,2003)。
【0039】
GSK−3活性は、精子の運動性に関連しているので、GSK−3阻害は、男性用避妊薬として有効である。精子のGSK3活性の衰退は、ウシおよびサルの精巣における精子の運動性発達に関連していることが示された(Vijayaraghavanら,Biol Reprod,54:709頁,1996;Smithら,J Androl,20:47,1999)。さらに、GSK3のチロシンおよびセリン/トレオニンリン酸化は、雄ウシの非運動性精子においてよりも運動性精子において高い(Vijayaraghavanら,Biol Reprod,62:1647頁,2000)。この効果はまた、ヒトの精子でも説明された(Luconiら,Human Reprod,16:1931頁,2001)。
【0040】
(Srcファミリーキナーゼ)
特に興味深い別のキナーゼファミリーは、キナーゼのSrcファミリーである。これらのキナーゼは、癌、免疫系機能不全および骨の再造形疾患に関連している。一般的な概説については、ThomasおよびBrugge,Annu.Rev.Cell Dev.Biol.1997,13,513頁;LawrenceおよびNiu,Pharmacol.Ther.1998,77,81頁;TatosyanおよびMizenina,Biochemistry(Moscow)2000,65,49頁〜58頁;Boschelliら,Drugs of the Future 2000,25(7),717頁を参照のこと。
【0041】
Srcファミリーのメンバーとしては、哺乳類においては以下の8つのキナーゼが挙げられる:Src、Fyn、Yes、Fgr、Lyn、Hck、Lck、およびBlk。これらは、非レセプタープロテインキナーゼであり、分子の大きさは、52kD〜62kDにわたる。すべては、共通する構造的組織によって特徴付けられており、この組織は、6つの別個の機能ドメインから成っている:Src相同性ドメイン4(SH4)、ユニークドメイン、SH3ドメイン、SH2ドメイン、触媒性ドメイン(SH1)、およびC末端調節性ドメイン。Tatosyanら,Biochemistry(Moscow)2000,65,49頁〜58頁。
【0042】
公開された研究に基づいて、Srcキナーゼは、種々のヒトの疾患のための潜在的な治療標的として考えられている。Srcを欠くマウスは、破骨細胞による骨吸収の低下のため、骨化石症、すなわち骨の増強化を発達させる。このことは、異常に高い骨吸収から引き起こされる骨粗鬆症が、Srcを阻害することによって処置され得ることを示唆する。Sorianoら,Cell 1992,69,551頁およびSorianoら,Cell 1991,64,693頁。
【0043】
関節炎性骨破壊の抑制は、リウマチ様の滑膜細胞および破骨細胞において、CSKの過剰発現によって達成される。Takayanagiら,J.Clin.Invest.1999,104,137頁。CSK、すなわちC末端Srcキナーゼは、リン酸化し、これによって、Src触媒性活性を阻害する。このことは、Src阻害が、慢性関節リウマチに苦しむ患者に特徴的な関節の破壊を防止し得ることを意味する。Boschelliら,Drugs of the Future 2000,25(7),717頁。
【0044】
Srcはまた、B型肝炎ウイルスの複製において、役割を担う。ウイルスによりコードされた転写因子HBxは、ウイルスの繁殖に必要な段階においてSrcを活性化する。Kleinら,EMBO J.1999,18,5019頁、およびKleinら,Mol.Cell.Biol.1997,17,6427頁。
【0045】
多数の研究が、Src発現を、癌(例えば、結腸癌、乳癌)、肝臓癌および膵臓癌、特定のB細胞白血病ならびにリンパ腫と関連付けてきた。Talamontiら,J.Clin.Invest.1993,91,53頁;Lutzら,Biochem.Biophys.Res.1998 243,503頁;Rosenら,J.Biol.Chem.1986,261,13754頁;Bolenら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1987,84,2251頁;Masakiら,Hepatology 1998,27,1257頁;Biscardiら,Adv.Cancer Res.1999,76,61頁;Lynchら,Leukemia 1993,7,1416頁。さらに、卵巣腫瘍細胞および結腸腫瘍細胞において発現されるアンチセンスSrcは、腫瘍の成長を阻害することが示された。Wienerら,Clin.Cancer Res.,1999,5,2164頁;Staleyら,Cell Growth Diff.1997,8,269頁。
【0046】
他のSrcファミリーキナーゼもまた、潜在的な治療標的である。Lckは、T細胞シグナル伝達において役割を担う。Lck遺伝子を欠くマウスは、胸腺細胞を発達させる能力に乏しい。T細胞シグナル伝達の積極的な活性化剤としてのLckの機能は、Lckインヒビターが、自己免疫疾患(例えば、慢性関節リウマチ)の処置に有効であり得ることを示唆している。Molinaら,Nature,1992,357,161頁。Hck、FgrおよびLynは、骨髄性白血球において、インテグリン信号の重要な媒体として認識されている。Lowellら,J.Leukoc.Biol.,1999,65,313頁。従って、これらのキナーゼ媒体の阻害は、炎症を処置するために有効である。Boschelliら,Drugs of the Future 2000,25(7),717頁。
【0047】
(JNKキナーゼ)
JNKは、マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼファミリーのメンバーである。MAPキナーゼ(MAPK)は、種々の信号(例えば、成長因子、サイトカイン、UV照射、およびストレス誘導性薬剤)によって、活性化される。MAPKは、セリン/トレオニンキナーゼであり、そしてそれらの活性化は、活性化ループ内のThr−X−Tyr区域におけるトレオニンおよびチロシンの二重のリン酸化により起こる。MAPKは、種々の基質(例えば、転写因子)をリン酸化し、結果、特異的な組の遺伝子の発現を調節し、従って、刺激に対する特異的な反応を媒介する。
【0048】
3つの異なる遺伝子、JNK1、JNK2、JNK3が、このキナーゼファミリーについて確認されており、そして少なくとも10種の異なるJNKのスプライシングアイソフォームが哺乳動物の細胞に存在する(Guptaら,EMBO J.15:2760頁,1996)。JNKファミリーのメンバーは、炎症性サイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子−α(TNFα)およびインターロイキン−1β(IL−1β))によって、および環境性ストレス(例えば、アニソマイシン、UV照射、低酸素、および浸透圧性ショック)によって活性化される(Mindenら,Biochemica et Biophysica Acta 1333:F85頁,1998)。
【0049】
JNKの下流基質としては、転写因子c−Jun、ATF−2、Elk1、p53、および細胞死ドメインタンパク質(DENN)が挙げられる(Zhangら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1998,95,2586頁〜91頁)。各JNKアイソフォームは、これらの基質と、異なる親和力で結合する。このことは、インビボでの異なるJNKの基質特異性によるシグナル伝達経路の調節を示唆する(Guptaら,前出)。
【0050】
JNK、および他のMAPKは、癌、トロンビン誘導性血小板凝集、免疫不全障害、自己免疫疾患、細胞死、アレルギー、骨粗鬆症および心臓病に対する細胞応答を仲介する役割を担うことに関連している。JNK経路の活性化に関連する治療標的としては、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性関節リウマチ、喘息、変形性関節炎、虚血、癌、および神経変性疾患が挙げられる。
【0051】
いくつかの報告は、肝臓疾患または肝臓虚血のエピソードに関連するJNK活性化の重要性を詳細に述べている(Behren,A.ら,Nat.Genet.1999,21,326頁〜9頁;Onishi,I.ら,FEBS Lett.1997,420,201頁〜4頁;Parola,M.ら,J.Clin.Invest.1998,102,1942頁〜50頁;Zwacka,R.M.ら,Hepatology 1998,28,1022頁〜30頁)。従って、JNKのインヒビターは、種々の肝臓障害を処置するために有効となり得る。
【0052】
また、心臓血管疾患(例えば、心筋梗塞またはうっ血性心不全)におけるJNKの役割も報告されており、JNKは、種々の形態の心臓ストレスに対する肥大性応答を媒介することが示されている(Adam,J.W.ら,Circ.Res.1998,83,167頁〜78頁;Kim,S.ら,Circulation 1998,97,1731頁〜7頁;Liang,F.ら,J.Biol.Chem.1997,272,28050頁〜6頁;Bogoyevitch,M.A.ら,Circ.Res.1996,79,162頁〜73頁;Force,T.ら,Circ.Res.1996,78,947頁〜53頁;Xu,Q.ら,J.Clin.Invest.1996,97,508頁〜14頁)。
【0053】
JNKカスケードはまた、T細胞の活性化(IL−2プロモータの活性化が挙げられる)において役割を担うことが実証されている。従って、JNKのインヒビターは、病理学的免疫応答を変更する場合において治療学的価値を有し得る(Kempiak,S.ら,J.Immunol.1999,162,3176頁〜87頁;vanSeventer,G.A.ら,Eur.J.Immunol.1998,28,3867頁〜77頁;Dubois,B.ら,J.Exp.Med.1997,186,941頁〜53頁;Wilson,D.J.ら,Eur.J.Immunol.1996,26,989頁〜94頁)。
【0054】
種々の癌におけるJNK活性化についての役割もまた、確立されており、このことは、癌におけるJNKインヒビターの潜在的な使用を示唆する。例えば、構成的に活性化されたJNKは、腫瘍形成を媒介するHTLV−1に関連している(Xu,X.ら,Oncogene 1996,13,135頁〜42頁)。JNKは、カポージ肉腫(KS)において役割を担い得る。なぜなら、KS細胞におけるbFGFおよびOSMの増殖効果は、JNKシグナル伝達経路についてのそれらの活性化によって媒介されると考えられているからである(Groopman,J.E.ら,J.Clin.Invest.1997,99,1798頁〜804頁)。KS増殖に関係する他のサイトカインの他の増殖効果(例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、IL−6およびTNFα)もまた、JNKによって媒介され得る。さらに、p210BCR−ABLによって形質転換された細胞におけるc−jun遺伝子の調節は、JNKの活性に対応し、このことは、JNKインヒビターの、慢性骨髄性白血病(CML)のための処置における役割を示唆する(Burgess,G.M.ら,Blood 1998,92,2450頁〜60頁)。
【0055】
JNK1およびJNK2は、種々の組織において広く発現されている。対照的に、JNK3は、脳において選択的に発現され、そしてこれより少ない程度で、心臓および精巣において選択的に発現される(Guptaら,前出;Mohitら,Neuron 1995,14,67頁〜78頁;Martinら,Brain Res.Mol.Brain Res.1996,35,47頁〜57頁)。JNK3は、カイニン酸によって引き起こされるニューロンのアポトーシスと関連しており、このことは、JNKの、グルタミン酸神経毒性の病因における役割を示す。成人の脳において、JNK3の発現は、CA1、CA4および海馬の鉤状回域内ならびに新皮質の層3および層5における錐体ニューロンの亜集団に局在化している(Mohitら,前出)。急性低酸素症の患者のCA1ニューロンは、典型的な患者の脳組織に由来する海馬ニューロンの、最小のびまん性細胞質染色と比較して、強い核JNK3免疫反応性を示した(Zhangら,前出)。従って、JNK3は、海馬内のCA1ニューロンの低酸素性損傷および虚血性損傷に関連しているようである。
【0056】
さらに、JNK3は、アルツハイマー病に脆弱なニューロンと免疫化学的に共局在化(co−localize)する(Mohitら,前出)。JNK3遺伝子の破壊は、興奮毒性グルタミン酸レセプターアゴニストであるカイニン酸に対するマウスの抵抗(発作活性、AP−1転写活性および海馬ニューロンのアポトーシスに関する効果が挙げられる)をもたらした。このことは、JNK3シグナル伝達経路が、グルタミン酸神経毒性の病因における重要な構成要素であることを意味する(Yangら,Nature 1997,389,865頁〜870頁)。
【0057】
これらの発見に基づく場合、JNKシグナル伝達、特にJNK3のシグナル伝達は、アポトーシスによって引き起こされる神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、てんかんおよび発作、ハンティングトン病、外傷性脳損傷、ならびに虚血性発作および出血性発作)に関連している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0058】
従って、プロテインキナーゼのインヒビターとして有効な化合物を開発するという大きな必要性が存在する。特に、ERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、Srcプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、およびGSK3プロテインキナーゼのインヒビターとして、特にこれらのプロテインキナーゼの活性化に関連する障害の大部分について今日利用できる不適切な処置から見て有用である化合物を開発することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0059】
(発明の要旨)
本発明の化合物、およびこれらの薬学的に受容可能な組成物が、ERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、Srcプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、およびGSK3プロテインキナーゼのうちの1以上のインヒビターとして有効であることが、現在見出された。これらの化合物は、一般式I:
【0060】
【化12】

【0061】
またはこれらの薬学的に受容可能な塩を有し、ここで、環A、Z、Z、T、m、U、R、およびRは以下に定義される通りである。
【0062】
これらの化合物、およびこれらの薬学的に受容可能な組成物は、種々の疾患、障害または状態を処置するか、または予防するために有効であり、これらの疾患、障害または状態としては、癌、心臓病、糖尿病、アルツハイマー病、免疫欠損障害、炎症性疾患、アレルギー疾患、自己免疫疾患、破壊性骨障害(例えば、骨粗鬆症)、増殖性障害、感染性疾患、免疫媒介性疾患、神経変性障害もしくは神経障害、またはウイルス性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。これらの組成物はまた、細胞死および過形成を予防するための方法において有効であり、従って、発作における再潅流/虚血、心臓発作、および器官低酸素症を処置するか、または予防するために使用され得る。これらの組成物はまた、トロンビン誘導性血小板凝集を予防するための方法において有効である。
【0063】
本発明によって提供される化合物はまた、生物学的事象および病理学的事象におけるキナーゼの研究;これらのようなキナーゼによって媒介される細胞内シグナル伝達経路の研究;および新規キナーゼインヒビターの比較評価のために有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
(発明の詳細な説明)
(1.本発明の化合物の一般的記載)
本発明は、式I:
【0065】
【化13】

【0066】
の化合物、または、その薬学的に受容可能な塩に関連し、ここで、
環Aは、1位において必要に応じてRで置換され、かつ
(i)2つのR基、および
(ii)QR
で置換された、ピロール環であり;
は、R、C(O)R、C(O)OR、またはSORであり;
各Rは、必要に応じて置換されたC〜C脂肪族基、Ar、CN、NO、ハロゲン、N(R)、SR、またはORから独立して選択され、但し、両方のR基は、同時にはArでなく;
およびZは、それぞれ、NまたはCRから独立して選択され;
各Rは、R、ハロゲン、CN、NO、OR、SR、N(R)、C(O)R、またはCORから独立して選択され;
Uは、原子価結合、−O−、−S−、−N(R)−、またはC〜Cアルキリデン鎖から選択され、ここで、Uの2つまでのメチレン単位は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−N(R)SO−、−SON(R)−、−N(R)−、−CO−、−CO−、−N(R)CO−、−N(R)C(O)O−、−N(R)CON(R)−、−N(R)SON(R)−、−N(R)N(R)−、−C(O)N(R)−、または−OC(O)N(R)−によって、必要に応じてかつ独立して置換され;
Tは、原子価結合またはC〜Cアルキリデン鎖であり;
mは、0または1であり;
は、CN、ハロゲン、OR、SR、N(R)R、またはRから選択され;
Qは、原子価結合、−C(O)N(R)−、−SON(R)−、−SO−、−N(R)C(O)N(R)−、−N(R)C(O)−、−N(R)SO−、−N(R)SON(R)−、−N(R)C(O)O−、−C(O)−、または−C(O)O−から選択され;
は、ハロゲン、CN、(CH、(CHCH(R、(CHCH(R)CH(R、(CHN(R、またはN(R)(CHN(Rから選択され;
yは、0〜6であり;
各Arは、0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された3員〜7員の飽和単環式環、0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された3員〜7員の部分不飽和単環式環、または0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された3員〜7員の完全不飽和単環式環、あるいは0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された8員〜10員の飽和二環式環、0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された8員〜10員の部分不飽和二環式環、または0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された8員〜10員の完全不飽和二環式環から独立して選択され、該単環式環のへテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され、該二環式環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され;
は、R、Ar、(CHCH(R)R、CN、(CHCH(R)CH(R、または(CHCH(R)N(Rから選択され;
各Rは、水素または必要に応じて置換されたC〜C脂肪族基から独立して選択されるか、あるいは:
同じ窒素原子上の2つのRは、該Rに結合している窒素原子と一緒になって、1個〜4個のヘテロ原子を有する4員〜8員の飽和環、1個〜4個のヘテロ原子を有する4員〜8員の部分不飽和環または1個〜4個のヘテロ原子を有する4員〜8員の完全不飽和環を形成し、該環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され;
各Rは、R、C(O)R、CO、CON(R、SOから独立して選択され;
各Rは、R、OR、CO、(CHN(R、N(R、N(R)C(O)R、N(R)CON(R、CON(R、SO、N(R)SO、C(O)R、CN、またはSON(Rから独立して選択され;
各Rは、RまたはArから独立して選択され;
は、R、(CHOR、(CHN(R、または(CHSRから選択され;そして
各wは、0〜4から独立して選択され;
但し、Rが水素であり、Uが−NH−であり、かつRが必要に応じて置換されたフェニル環である場合、Qは、原子価結合以外である。
【0067】
(2.化合物および定義)
本発明の化合物としては、一般的に上に記載される化合物が挙げられ、そして本明細書中で開示されるクラス、サブクラス、および種によりさらに例示される。本明細書中において使用される場合、他に示されない限り、以下の定義が適用される。本発明の目的のために、化学元素は、Periodic Table of the Elements,CAS version、Handbook of Chemistry and Physics、第75版に従って指定される。さらに、有機化学の一般的な原理は、「Organic Chemistry」、Thomas Sorrell,University Science Books,Sausalito:1999、および「March’s Advanced Organic Chemistry」、第5版、Smith,M.B.およびMarch,J.,John Wiley&Sons編、New York:2001に記載され、それらの全内容は本明細書に参考として援用される。
【0068】
本明細書中に記載される場合、本発明の化合物は、必要に応じて、1個以上の置換基(例えば、一般的に上で例証されている置換基、または本発明の特定のクラス、サブクラス、および種により例示される置換基)で置換され得る。句「必要に応じて置換された」は、句「置換または非置換の」と互換可能に使用されるということが理解される。一般的に、用語「置換された」は、用語「必要に応じて」に先行されていようがいまいが、所定の構造における水素ラジカルを特定の置換基のラジカルと置換することをいう。他に示されなければ、必要に応じて置換された基は、上記基の置換可能な各位置に、置換基を有し得、そして任意の所定の構造における1個より多くの位置が、特定の基より選択される1個より多くの置換基で置換され得る場合、この置換基は、全ての位置において、同一であっても別個であってもよい。本発明により構想される置換基の組み合わせは、好ましくは、安定な化合物または化学的に実現可能な化合物の形成を生じる組み合わせである。本明細書中で用いられる場合、用語「安定な」とは、本明細書に開示される1つ以上の目的のための、化合物の生産、検出、ならびに、好ましくは回収、精製、および使用を可能にする条件に供した場合に、実質的に交換されない化合物をいう。いくつかの実施形態において、安定な化合物または化学的に実現可能な化合物は、少なくとも1週間、湿気または他の化学的に反応性の条件の非存在下で40℃以下の温度に保たれた場合、実質的に変更されない化合物である。
【0069】
本明細書で使用される場合、用語「脂肪族」または「脂肪族基」は、完全に飽和されているか、または1個以上の不飽和単位を含む、直鎖(すなわち、非分枝鎖の)または分枝鎖の、置換または非置換の炭化水素鎖、あるいは、完全に飽和されているかまたは1個以上の不飽和単位を含むが芳香族ではない、単環式炭化水素または二環式炭化水素(本明細書中で「炭素環式」「脂環式」もしくは「シクロアルキル」とも呼ばれる)であり、この分子の残部に対して、単一の結合点を有する単環式炭化水素または二環式炭化水素を意味する。他に明示されなければ、脂肪族基は、1個〜20個の脂肪族炭素原子を含む。いくつかの実施形態では、脂肪族基は、1個〜10個の脂肪族炭素原子を含む。他の実施形態では、脂肪族基は、1個〜8個の脂肪族炭素原子を含む。さらに他の実施形態では、脂肪族基は、1個〜6個の脂肪族炭素原子を含み、そしてさらに他の実施形態では、脂肪族基は、1個〜4個の脂肪族炭素原子を含む。いくつかの実施形態では、「脂環式」(または、「炭素環」もしくは「シクロアルキル」)とは、完全に飽和されているか、または1個以上の不飽和単位を含むが芳香族ではない、単環式C〜C炭化水素または二環式C〜C12炭化水素であり、この分子の残部に対して、単一の結合点を有する単環式C〜C炭化水素または二環式C〜C12炭化水素をいい、ここで、上記二環式環系における任意の個々の環は、3員〜7員を有する。適切な脂肪族基としては、直鎖または分枝鎖の、置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびそれらのハイブリッド(例えば、(シクロアルキル)アルキル、(シクロアルケニル)アルキル、または(シクロアルキル)アルケニル)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
本明細書中で用いられる場合、用語「ヘテロ脂肪族」は、1個または2個の炭素原子が、独立して、1個以上の酸素、硫黄、窒素、リン、またはケイ素に置換された脂肪族基を意味する。ヘテロ脂肪族基は、置換であっても非置換であってもよく、分枝していても分枝していなくてもよく、環式であっても非環式であってもよく、そして、これらとしては、「複素環」基、「ヘテロシクリル」基、「複素環式脂肪族」基、または「複素環式」基が挙げられる。
【0071】
本明細書中で用いられる場合、用語「複素環」、「ヘテロシクリル」、「複素環式脂肪族」または「複素環式」は、1以上の環員が、独立して選択されるヘテロ原子である、非芳香族環系、単環式環系、二環式環系または三環式環系を意味する。いくつかの実施形態において、「複素環」基、「ヘテロシクリル」基、「複素環式脂肪族」基または「複素環式」基は、1個以上の環員が酸素、硫黄、窒素、またはリンより独立して選択されるヘテロ原子である、3個〜14個の環員を有し、そして上記系における各環は3個〜7個の環員を含む。
【0072】
用語「ヘテロ原子」は、1以上の酸素、硫黄、窒素、リンあるいはケイ素(窒素、硫黄、リン、もしくはケイ素の任意の酸化形態;任意の塩基性窒素の四級化形態、または;複素環式環の置換可能な窒素(例えば、(3,4−ジヒドロ−2H−ピロリルにおけるような)N、(ピロリジニルにおけるような)NHもしくは(N−置換ピロリジニルにおけるような)NRが挙げられる)を意味する。
【0073】
本明細書中に用いられる場合、用語「不飽和の」は、部分が1個以上の不飽和単位を有することを意味する。
【0074】
本明細書中で使用される場合、用語「アルコキシ」または「チオアルキル」とは、前に定義されるように、酸素原子を通して主炭素鎖に結合されたアルキル基(「アルコキシ」)または硫黄原子を通して主炭素鎖に結合されたアルキル基(「チオアルキル」)をいう。
【0075】
用語「ハロアルキル」、「ハロアルケニル」および「ハロアルコキシ」は、アルキル、アルケニル、またはアルコキシを意味し、場合によっては、1個以上のハロゲン原子で置換され得る。用語「ハロゲン」は、F、Cl、Br、またはIを意味する。
【0076】
単独で使用されるか、または「アラルキル」、「アラルコキシ」もしくは「アリールオキシアルキル」におけるより大きな部分の一部として使用される用語「アリール」とは、総計5個〜14個の環員を有する、単環式環系、二環式環系、および三環式環系をいい、ここで、この系における少なくとも1以上の環は、芳香族であり、ここで、この系における各環は、3個〜7個の環員を含む。この用語「アリール」は、用語「アリール環」と互換可能に使用され得る。用語「アリール」はまた、本明細書中の以下に記載されるヘテロアリール環系をいう。
【0077】
単独で使用されるか、または「ヘテロアラルキル」もしくは「ヘテロアリールアルコキシ」におけるより大きな部分の一部として使用される用語「ヘテロアリール」は、総計5個〜14個の環員を有する、単環式環系、二環式環系、および三環式環系をいい、ここで、この系における少なくとも1つの環は、芳香族であり、この系における少なくとも1個の環は、1個以上のヘテロ原子を含み、ここで、この系における各環は、3個〜7個の環員を含む。用語「ヘテロアリール」は、用語「ヘテロアリール環」または用語「ヘテロ芳香族」と互換可能に使用され得る。
【0078】
アリール(例えば、アラルキル、アラルコキシ、アリールオキシアルキルなど)またはヘテロアリール(例えば、ヘテロアラルキルおよびヘテロアリールアルコキシなど)基は、1以上の置換基を含み得る。アリール基またはヘテロアリール基の不飽和炭素原子上の適切な置換基は、ハロゲン;R;OR;SR;1,2−メチレン−ジオキシ;1,2−エチレンジオキシ;必要に応じてRで置換されたフェニル(Ph);必要に応じてRで置換された−O(Ph);必要に応じてRで置換された(CH1〜2(Ph);必要に応じてRで置換されたCH=CH(Ph);NO;CN;N(R;NRC(O)R;NRC(O)N(R;NRCO;−NRNRC(O)R;NRNRC(O)N(R;NRNRCO;C(O)C(O)R;C(O)CHC(O)R;CO;C(O)R;C(O)N(R;OC(O)N(R;S(O);SON(R;S(O)R;NRSON(R;NRSO;C(=S)N(R;C(=NH)−N(R;または(CH0〜2NHC(O)Rから選択される。ここで、それぞれの独立したRの存在は、水素、必要に応じて置換されたC1〜6脂肪族基、非置換5員〜6員のヘテロアリール環、もしくは非置換5員〜6員の複素環式環、フェニル、O(Ph)、またはCH(Ph)から選択されるか、あるいは上記定義にかかわらず、同じ置換基もしくは異なる置換基上の、2つの独立したRの存在は、各R基が結合している原子と一緒になって、3員〜8員のシクロアルキル環、3員〜8員のヘテロシクリル環、3員〜8員のアリール環もしくは3員〜8員のヘテロアリール環を形成し、これらの環は、窒素、酸素もしくは硫黄から独立して選択される0個〜3個のヘテロ原子を有する。Rの脂肪族基上の任意の置換基は、NH、NH(C1〜4脂肪族基)、N(C1〜4脂肪族基)、ハロゲン、C1〜4脂肪族基、OH、O(C1〜4脂肪族基)、NO、CN、COH、CO(C1〜4脂肪族基)、O(ハロC1〜4脂肪族基)、またはハロC1〜4脂肪族基から選択され、ここで、上述したRのC1〜4脂肪族基の各々は、非置換である。
【0079】
脂肪族基もしくはヘテロ脂肪族基、または非芳香族性複素環式環は、1以上の置換基を含み得る。脂肪族基もしくはヘテロ脂肪族基の飽和炭素、または非芳香族性複素環式環の飽和炭素上の適切な置換基は、アリール基またはヘテロアリール基の不飽和炭素について上に列挙された置換基から選択され、そしてさらに以下:=O、=S、=NNHR、=NN(R、=NNHC(O)R、=NNHCO(アルキル)、=NNHSO(アルキル)、または=NRを含み、ここで、各Rは、水素または必要に応じて置換されたC1〜6脂肪族基から独立して選択される。Rの脂肪族基上の任意の置換基は、NH、NH(C1〜4脂肪族基)、N(C1〜4脂肪族基)、ハロゲン、C1〜4脂肪族基、OH、O(C1〜4脂肪族基)、NO、CN、COH、CO(C1〜4脂肪族基)、O(ハロC1〜4脂肪族基)、またはハロ(C1〜4脂肪族基)から選択され、ここで、上述したRのC1〜4脂肪族基の各々は、非置換である。
【0080】
非芳香族性複素環式環の窒素上の任意の置換基は、R、N(R、C(O)R、CO、C(O)C(O)R、C(O)CHC(O)R、SO、SON(R、C(=S)N(R、C(=NH)−N(R、またはNRSOから選択され;ここで、Rは、水素、必要に応じて置換されたC1〜6脂肪族基、必要に応じて置換されたフェニル基、必要に応じて置換されたO(Ph)、必要に応じて置換されたCH(Ph)、必要に応じて置換された(CH1〜2(Ph);必要に応じて置換されたCH=CH(Ph);または酸素、窒素もしくは硫黄から独立して選択される1個〜4個のヘテロ原子を有する、非置換5員〜6員のヘテロアリール環もしくは非置換5員〜6員の複素環式環であるか、あるいは上記定義にかかわらず、同じ置換基もしくは異なる置換基上の、2つの独立したRの存在は、各R基が結合している原子と一緒になって、3員〜8員のシクロアルキル環、3員〜8員のヘテロシクリル環、3員〜8員のアリール環もしくは3員〜8員のヘテロアリール環を形成し、これらの環は、窒素、酸素もしくは硫黄から独立して選択される0個〜3個のヘテロ原子を有する。Rの脂肪族基またはフェニル環上の任意の置換基は、NH、NH(C1〜4脂肪族基)、N(C1〜4脂肪族基)、ハロゲン、C1〜4脂肪族基、OH、O(C1〜4脂肪族基)、NO、CN、COH、CO(C1〜4脂肪族基)、O(ハロC1〜4脂肪族基)、またはハロ(C1〜4脂肪族基)から選択され、ここで、上述したRのC1〜4脂肪族基の各々は、非置換である。
【0081】
用語「アルキリデン鎖」は、直鎖炭素鎖または分岐炭素鎖を指し、これらの鎖は、完全に飽和であるか、または1以上の不飽和の単位を有し、そしてその分子の残りへの2つの結合の点を有する。
【0082】
上で詳細に説明したように、いくつかの実施形態において、2つの独立したR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される他のあらゆる可変体)の存在は、各可変体が結合している原子と一緒になって、3員〜8員のシクロアルキル環、3員〜8員のヘテロシクリル環、3員〜8員のアリール環もしくは3員〜8員のヘテロアリール環を形成し、これらの環は、窒素、酸素もしくは硫黄から独立して選択される0個〜3個のヘテロ原子を有する。2つの独立したR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される他のあらゆる可変体)の存在が、各可変体が結合している原子と一緒になる場合に形成される典型的な環としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:a)2つの独立したR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される他のあらゆる可変体)の存在であって、これらは同じ原子に結合し、そしてその原子と一緒になって、環を形成する(例えば、N(R(ここでは、両方のRの存在が、窒素原子と一緒になって、ピペリジン−1−イル基、ピペラジン−1−イル基、またはモルホリン−4−イル基を形成する));およびb)2つの独立したR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される他のあらゆる可変体)の存在であって、これらは異なる原子に結合し、そしてそれらの原子の両方と一緒になって、環を形成する(例えば、フェニル基が、ORの2つの存在で置換された
【0083】
【化14】

【0084】
である場合、これらのRの2つの存在は、それらが結合している酸素原子と一緒になって、縮合6員環の酸素を含む環:
【0085】
【化15】

【0086】
を形成する)。2つの独立したR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される他のあらゆる可変体)の存在が、各可変体が結合している原子と一緒になる場合、種々の他の環が形成され得ることが理解され、そして上で詳細に説明した例は、限定することを意図しないことが理解される。
【0087】
記述されていない限り、本明細書中で描かれている構造はまた、その構造のすべての異性形態(例えば、鏡像異性形態、ジアステレオ形態、および幾何形態(すなわち配座形態)を含むことを意味する;例えば、各非対称中心についてのR立体配置およびS立体配置、(Z)二重結合異性体および(E)二重結合異性体、ならびに(Z)配座異性体および(E)配座異性体。従って、単一の立体化学的異性体、および本化合物の鏡像異性混合物、ジアステレオ混合物、および幾何(すなわち、配座)混合物は、本発明の範囲内である。記述されていない限り、本発明の化合物のすべての互変異性体は、本発明の範囲内である。さらに、記述されていない限り、本明細書中で描かれている構造はまた、1以上の同位体濃縮された原子の存在においてのみ異なる化合物を含むことを意味する。例えば、水素がジュウテリウムもしくはトリチウムで置換されていることを除いては本構造を有する化合物、または炭素が13C−濃縮炭素もしくは14C−濃縮炭素で置換されていることを除いては本構造を有する化合物は、本発明の範囲内である。このような化合物は、例えば、生物学的アッセイにおける分析ツールまたは分析プローブとして、有用である。
【0088】
(3.例示的な化合物についての記載)
1つの実施形態によれば、本発明は、式Iの化合物に関連し、ここで、Zは、窒素であり、そしてZは、CRであり、従ってピリミジン環を形成する。従って、本発明は式I−a:
【0089】
【化16】

【0090】
の化合物、またはその薬学的に受容可能な塩に関連し、ここで、環A、U、R、T、m、R、およびRは、上で定義される通りである。
【0091】
別の実施形態によれば、本発明は、式Iの化合物に関連し、ここで、ZおよびZは、それぞれCRであり、従ってピリジン環を形成する。従って、本発明は式I−b:
【0092】
【化17】

【0093】
の化合物、もしくはその薬学的に受容可能な塩に関連し、ここで、環A、U、R、T、m、R、およびRは、上で定義される通りである。
【0094】
さらに別の実施形態によれば、本発明は、式Iの化合物に関連し、ここで、ZおよびZは、それぞれ窒素であり、従って1,2,5−トリアジン環を形成する。従って、本発明は式I−c:
【0095】
【化18】

【0096】
の化合物、もしくはその薬学的に受容可能な塩に関連し、ここで、環A、U、T、m、R、およびRは、上で定義される通りである。
【0097】
特定の実施形態において、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式におけるR基は、水素、OH、もしくはハロゲンから、独立して選択される。
【0098】
他の特定の実施形態において、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式におけるR基はそれぞれ、水素である。
【0099】
1つの実施形態によれば、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式におけるT(m)基は、水素、N(R)R、OR、3〜6員炭素環、あるいは、C〜C脂肪族または5〜6員アリール環(このアリール環は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有する)から選択される必要に応じて置換された基から、選択される。Rが必要に応じて置換されたフェニルもしくはC〜C脂肪族基である場合、フェニルもしくはC〜C脂肪族基における例示的な置換基としては、R、ハロ、ニトロ、OR、およびアミノが挙げられる。本発明の別の実施形態は、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式の化合物に関連し、ここでT(m)は水素、メチル、エチル、プロピル、シクロプロピル、シクロヘキシル、フェニル、ピリジル、CHOCH、CHOH、NH、NHCH、NHAc、NHC(O)NHCH、もしくはCHNHCHである。
【0100】
特定の実施形態において、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式のT部分は、原子価結合である。
【0101】
他の実施形態において、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式のT部分は、−CH−である。
【0102】
本発明の他の実施形態は、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式の化合物に関連し、ここでRは水素、3〜7員の炭素環もしくは必要に応じて置換された基であり、その必要に応じて置換された基はC〜C脂肪族、3〜6員複素環式環(窒素、酸素もしくは硫黄から独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を有する)、または5〜6員アリール環もしくはヘテロアリール環(窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を有する)から選択される。このような基の例として、メチル、エチル、プロピル、シクロプロピル、シクロヘキシル、ベンジル、イソキサゾリル、テトラヒドロフラニル、およびイソプロピルが挙げられる。他の実施形態によれば、Rが必要に応じて置換されたフェニルである場合、そのフェニル環における置換基としてハロゲン、R、OR、N(R、SON(Rが挙げられる。このような置換基の例として、ハロアルキル、Oベンジル、Oフェニル、OCF、OH、SONHおよびメチレンジオキシが挙げられる。
【0103】
式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式におけるR部分がCH(R)Rである場合、このような基の例として、CH(CHOH)フェニル、CH(CHOH)エチル、CH(CHOH)、CH(CHOH)イソプロピル、およびCH(CHOH)CHシクロプロピルが挙げられる。
【0104】
式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式におけるR部分が、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を有する3〜6員の複素環式環である場合、このような基の例として、ピペラジン−1−イル、モルホリン−4−イル、もしくはピペリジン−1−イルが挙げられる。
【0105】
他の実施形態によれば、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式におけるU基は、原子価結合、−CH−、−O−、−NR−、−NHCO−、もしくは−NHCO−である。
【0106】
本発明の特定の実施形態において、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式におけるU基は、原子価結合である。
【0107】
本発明の他の実施形態において、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式におけるU基は、−NH−である。
【0108】
本発明のさらに別の実施形態は、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式において、Uが−O−である化合物に関連する。
【0109】
別の実施形態は、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式の化合物に関連し、ここでRは、(CH、(CHCH(R、(CHCH(R)CH(R、もしくは(CHN(Rより選択される。別の実施形態によれば、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式のR基は、(CH、(CHCH(R、もしくは(CHCH(R)CH(Rである。
【0110】
がRである場合、R基として、必要に応じて置換された5〜6員の飽和環、部分不飽和環、もしくは完全不飽和環(窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有する)、あるいは必要に応じて置換された9〜10員の飽和環、部分不飽和環、もしくは完全不飽和環(窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有する)が挙げられる。このような基の例は、ピロリジン−1−イル、モルホリン−4−イル、ピペリジン−1−イル、およびピペラジン−1−イル、4−メチル[1,4]ジアゼパン−1−イル、4−フェニル−ピペラジン−1−イルであり、ここでそれぞれの基は必要に応じて置換される。
【0111】
が(CH、(CHCH(R、もしくは−N(Rである場合、R基は、ピリジン−3−イル、ピリジン−4−イル、イミダゾリル、フラン−2−イル、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、テトラヒドロフラン−2−イル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、CHOH、(CHOH、およびイソプロピルからさらに選択され、ここでそれぞれの基は必要に応じて置換される。Rにおける置換基の例として、OH、ピリジル、ピペリジニル、および必要に応じて置換されるフェニルが挙げられる。
【0112】
が(CHCH(Rである場合、R基は、R、OR、CO、(CH)N(R、もしくはCNから選択される。式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式のR部分のR基はまた、R、OR、CO、(CH)N(R、CN、必要に応じて置換された5〜6員の飽和環、部分不飽和環、もしくは完全不飽和環(窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有する)、または必要に応じて置換された9〜10員の飽和環、部分不飽和環、もしくは完全不飽和環(窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有する)からも、独立して選択される。このようなR基の例としては、フェニル、ピリジル、モルホリン−4−イル、イミダゾリル、OH、およびCHOHから選択される、必要に応じて置換された基が挙げられる。
【0113】
が(CHCH(R)CH(Rである場合、R基は、R、(CHOR、もしくは(CHN(Rから選択される。別の実施形態によれば、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式におけるR部分のR基は、Rもしくは(CHORから選択される。さらに別の実施形態によれば、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式におけるR部分のR基は、OH、CHOH、(CHOHから選択される。(CHCH(R)CH(R部分のR基は、R、OR、Ar、CO、(CHN(R、もしくはCNから独立して選択される。別の実施形態によれば、上記のR基は、R、OR、CO、(CHN(R、CN、必要に応じて置換された5〜6員の飽和環、部分不飽和環、もしくは完全不飽和環(窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有する)、または必要に応じて置換された9〜10員の飽和環、部分不飽和環、もしくは完全不飽和環(窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有する)から、独立して選択される。このようなR基の例として、フェニル、ピリジル、モルホリン−4−イル、イミダゾリル、OH、およびCHOHから選択される、必要に応じて置換された基が挙げられる。
【0114】
別の実施形態によれば、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式のR基は、C〜C脂肪族もしくはArから独立して選択され、ここでArは、必要に応じて置換された3〜6員の単環式の飽和環、部分不飽和環、もしくは完全不飽和環(窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有する)、または必要に応じて置換された9〜10員の二環式の飽和環、部分不飽和環、もしくは完全不飽和環(窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有する)である。別の実施形態は、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式の、R基がC〜C脂肪族もしくはArから選択される化合物に関連し、ここでArは、必要に応じて置換された5〜6員の単環式の飽和環、部分不飽和環、もしくは完全不飽和環(窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有する)である。このような基の例としては、フェニル、ピリジル、メチル、シクロヘキシル、シクロペンチル、もしくはエチルが挙げられる。
【0115】
本発明の別の実施形態は、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式の化合物に関連し、ここでRとしては、水素、必要に応じて置換されたC〜C脂肪族、C(O)R、およびC(O)ORが挙げられる。別の実施形態によれば、Rは、水素、メチル、エチル、C(O)Me、C(O)OCHフェニル、およびCHフェニルである。さらに別の実施形態によれば、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式のR基は、水素である。
【0116】
1つの実施形態によれば、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式のQ基は、−C(O)N(R)−および−C(O)O−から選択される。別の実施形態によれば、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式のQ基は、−C(O)N(H)−および−C(O)O−から選択される。
【0117】
1つの実施形態によれば、本発明は、Qが−C(O)N(H)−である、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式の化合物に関連する。
【0118】
別の実施形態によれば、本発明は、Qが−C(O)O−である、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式の化合物に関連する。
【0119】
さらに別の実施形態によれば、本発明は、T(m)が水素以外である、式I、式I−a、式I−b、もしくは式I−cのうちの任意の式の化合物に関連する。
【0120】
別の実施形態によれば、本発明は、式II:
【0121】
【化19】

【0122】
の化合物、もしくはその薬学的に受容可能な塩に関連し、Z、Z、Z、Q、U、R、R、R、およびRは、上で定義された通りである。
【0123】
式IIのZ基、Z基、Z基、Q基、U基、R基、R基、R基、およびR基に関連する実施形態、およびその下位の実施形態は、式Iの化合物に関して上で述べたものである。
【0124】
別の実施形態によれば、本発明は、式III:
【0125】
【化20】

【0126】
の化合物、もしくはその薬学的に受容可能な塩に関連し、ここでZ、Z、Z、U、R、R、R、およびRは、上で定義された通りである。
【0127】
式IIIのZ基、Z基、Z基、U基、R基、R基、R基、およびR基に関連する実施形態、およびその下位の実施形態は、式Iの化合物について上で述べたものである。
【0128】
別の実施形態によれば、本発明は、式IV:
【0129】
【化21】

【0130】
の化合物、もしくはその薬学的に受容可能な塩に関連し、ここでZ、Z、Z、U、R、R、R、RおよびRは、上で定義された通りである。
【0131】
式IVのZ基、Z基、Z基、U基、R基、R基、R基、R基およびR基に関連する実施形態、およびその下位の実施形態は、式Iの化合物について上で述べたものである。
【0132】
式Iの代表的な化合物は、以下の表1に示される。
表1.式Iの化合物の例
【0133】
【化22】

【0134】
【化23】

【0135】
【化24】

【0136】
【化25】

【0137】
【化26】

【0138】
【化27】

【0139】
【化28】

【0140】
(4.本化合物を提供する一般的な方法)
本発明の化合物は、類似した化合物に関して当業者に公知であり、以下の一般的なスキームIおよびスキームIIに、そしてその後に続く調製実施例に例示される合成法および/もしくは偽合成法により、一般的に調製もしくは単離され得る。
【0141】
(スキームI)
【0142】
【化29】

【0143】
(試薬および条件:(a)Br,CHCl,0℃;(b)NaOMe,MeOH;(c)アミン保護;(d)ビス(ピナコレート)ジボロン,KOAc,Pd触媒,80℃;(e)ジクロロピリミジン,ジクロロピリジン,またはジクロロトリアジン,Pd(PPh,85℃;(f)R−U−H,エタノール,80℃;(g)脱保護およびケン化;(h)HOBt,EDCl,TEA,R−NH,DMF)。
【0144】
上のスキームIは、式Iの化合物(ここで、Qは、−C(O)NH−である)を調製するための一般的方法を示す。工程(a)で、ピロール化合物1は、臭素化されて中間体化合物2が形成される。化合物2のトリクロロアセチル基は、メトキシドで処理されてメチルエステル化合物3が形成される。工程(c)で、ピロール環の−NH基は、適切なアミノ保護基で保護される。当業者は、種々の保護基が上の反応に適していることを認識する。アミノ保護基は、当該分野で周知であり、Protecting Groups in Organic Synthesis,Theodora W.GreeneおよびPeter G.M.Wuts,1991,John Wiley and Sons(出版)(この全体が、本明細書によって参考として援用される)に詳細に記載される。
【0145】
保護されたピロリル化合物4は、ビス(ピナコレート)ジボロンで処理されて、化合物5が形成され、次いで、この化合物5は、Pd(PPh存在下で適切な二塩化物で処理されて、ピロリル化合物6が形成される。化合物6のクロロ基は、工程(f)で、種々の基によって容易に置換されて、一般的式7の化合物が形成される。当業者は、多種多様な−U−R基が、工程(f)でのクロロ基を置換することを受けて化合物7が形成されることを認識する。あるいは、当業者は、化合物6のクロロ基が他の脱離基(例えば、I、OTs、OTfなど)によって容易に置換され、次いで、これらは、本発明の−U−R基によって置換され得ることを認識する。工程(g)で、上記ピロリル保護基が除去され、このエステルは、ケン化されて化合物8が形成される。次いで、化合物8のカルボキシル部分は、種々のアミンとカップリングされて本発明の化合物(ここで、Qは、−C(O)NH−である)が形成され得る。あるいは、当業者は、本発明の種々の化合物が、カルボン酸化合物8から容易に得られることを認識する。例えば、化合物8は、種々のアミンとカップリングされて、示されるアミド化合物が調製されるか、あるいは、種々のアルコールとカップリングされて、本発明の化合物(ここで、Qは、−C(O)O−である)が調製される。
【0146】
(スキームII)
【0147】
【化30】

【0148】
(試薬および条件:(a)Brederick’s試薬,THF,50℃;(b)R−グアニジン,NaOEt,EtOH,80℃;(c)NaOH,MeOH,80℃;(d)HOBt,EDCl,TEA,R−NH,DMF;(e)R−OH、標準カップリング条件)。
【0149】
上のスキームIIは、本発明の特定の化合物(ここで、Uは、−NH−であり、Zは、Nであり、そしてZは、CHである)を調製するための一般的方法を示す。上記ピロール化合物10は、Brederick’s試薬で処理されて、エナミン化合物11が形成され、次いで、このエナミン化合物11は、所望のグアニジン誘導体で処理されて、ピリミジン化合物12が形成される。化合物12のエステル部分は、ケン化され、そして生じるカルボキシレート(13)は、式R−NHのアミンとカップリングされて化合物14が形成される。当業者は、カルボキシレート化合物13から本発明の種々の化合物が、当該分野で公知の方法を使用して容易に得られることを認識する。例えば、カルボン酸化合物13は、種々のアミンでカップリングされて、式14のアミド化合物が調製されるか、あるいは、種々のアルコールでカップリングされて、式15の化合物が調製される。当業者はまた、これらのカップリング反応が、当該分野で公知の種々の条件を使用して達成され得ることを認識する。
【0150】
特定の例示的な実施形態が、本明細書中上記に示され、そして記載されるが、本発明の化合物は、当業者に一般的に利用可能な方法によって適切な出発物質を使用した、概して上記の方法に従って調製され得ることが、理解される。
【0151】
(5.使用、処方および投与)
(薬学的に受容可能な組成物)
上で考察されるように、本発明は、プロテインキナーゼのインヒビターである化合物を提供し、従って本発明の化合物は、疾患、障害、および状態(癌、自己免疫障害、神経変性障害および神経障害、精神分裂病、骨関連障害、肝疾患、および心臓障害を含むが、これらに限定されない)の処置に有用である。従って、本発明の別の局面において、薬学的に受容可能な組成物が、提供され、ここで、これらの組成物は、本明細書中に記載されるような任意の化合物を含有し、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリア、アジュバントまたはビヒクルを含有する。特定の実施形態において、これらの組成物は、必要に応じて、1つ以上のさらなる治療剤をさらに含有する。
【0152】
また、本発明の特定の化合物は、処置のための自由な形態または、適切な場合には、これらの薬学的に受容可能な誘導体として存在し得ることが理解される。本発明に従うと、薬学的に受容可能な誘導体としては、薬学的に受容可能な、塩、エステル、このようなエステルの塩、または投与が必要な患者に投与する際に本明細書中で他に記載されるような化合物あるいはこれらの代謝産物もしくは残留物を直接的もしくは間接的に提供し得る任意の他の付加物もしくは誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0153】
本明細書中で使用される場合、用語「薬学的に受容可能な塩」とは、健全な医療判断の範囲内で、過度の、毒性、刺激、アレルギー応答などなくしてヒトおよび下等動物の組織との接触における使用に適しており、かつ適切な利点/危険の比の釣り合っている塩をいう。「薬学的に受容可能な塩」とは、本発明の化合物(これは、レシピエントへ投与する際に、本発明の化合物またはこれらの阻害的に活性な、代謝産物もしくは残留物を直接的または非直接的のいずれかで提供し得る)の任意の無毒性の、塩またはエステルの塩を意味する。本明細書中で使用される場合、用語「これらの阻害的に活性な、代謝産物または残留物」とは、これらの代謝産物または残留物がまた、ERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、またはGSK3プロテインキナーゼの、インヒビターであることを意味する。
【0154】
薬学的に受容可能な塩は、当業者に周知である。例えば、S.M.Bergeらは、J.Pharmaceutical Sciences,1977,66,1−19(本明細書中に参考として援用される)に薬学的に受容可能な塩を詳細に記載している。本発明の化合物の薬学的に受容可能な塩としては、適切な無機酸および無機塩基ならびに有機酸および有機塩基に由来する塩が挙げられる。薬学的に受容可能な無毒性酸付加塩の例は、当該分野で使用される他の方法(例えば、イオン交換)を使用することによって、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸および過塩素酸)または有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸またはマロン酸)で形成されるアミノ基の塩である。他の薬学的に受容可能な塩としては、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンホスルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素塩、2−ヒドロキシ−エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩などが挙げられる。適切な塩基由来の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩およびN(C1−4アルキル)塩が挙げられる。本発明はまた、本明細書中に開示される化合物の任意の塩基性窒素含有基の四級化を想定する。水溶性もしくは油溶性または分散可能な生成物が、このように四級化することによって得られ得る。代表的なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。さらに薬学的に受容可能な塩としては、適切な場合に、対イオン(例えば、ハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸塩およびアリールスルホン酸塩)を使用して形成される、無毒性のアンモニウムカチオン、四級アンモニウムカチオン、アミンカチオンが挙げられる。
【0155】
上記のように、本発明の薬学的に受容可能な組成物は、さらに、薬学的に受容可能な、キャリア、アジュバント、またはビヒクル(本明細書中で使用される場合、所望される特定の投薬形態に適しているような、任意および全ての溶媒、希釈剤または他の液体ビヒクル、分散助剤または懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、防腐剤、固体結合剤、滑沢剤などが挙げられる)を含有する。Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16版,E.W.Martin(Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1980)は、薬学的に受容可能な組成物を処方する際に使用される、種々のキャリアおよびこれらを調製するための公知の技術を開示する。任意の慣用的なキャリア媒体が、例えば、任意の望ましくない生物学的効果をもたらすか、または別なようにして有害な様式で薬学的に受容可能な組成物の任意の他の成分と相互作用させることにより本発明の化合物と不適合である範囲を除いて、その使用は、本発明の範囲内であることが企図される。薬学的に受容可能なキャリアとして役立ち得る物質のいくつかの例としては、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)、緩衝物質(例えば、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸またはソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質(例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩)、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、ロウ、ポリエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、羊毛脂、糖(例えば、ラクトース、グルコースおよびスクロース)が、が挙げられるが、これらに限定されず;デンプン(トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプン);セルロースおよびその誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース);粉末トラガカントゴム;麦芽;ゼラチン;滑石;賦形剤(例えば、カカオバター)および坐剤ロウ(例えば、ピーナッツ油、綿実油などの油);ベニバナ油;ゴマ油;オリーブ油;トウモロコシ油およびダイズ油;グリコール;例えば、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール;エステル(例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル);寒天;緩衝化剤(例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム);アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張生理食塩水;リンガー溶液;エチルアルコール、およびリン酸緩衝液ならびに他の無毒性適合性滑沢剤(ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム)ならびに着色剤、解除剤、コーティング剤、甘味剤、香料添加剤および芳香剤、防腐剤および酸化防止剤もまた、処方者の判断に従って、組成物中に存在し得る。
【0156】
(化合物および薬学的に受容可能な組成物の使用)
さらに別の局面において、癌、自己免疫障害、神経変性障害もしくは神経障害、精神分裂病、骨関連障害、肝疾患、または心臓障害を処置またはこれらの重篤度を軽減するための方法が、提供され、この方法は、本発明の化合物、または本発明の化合物を含有する薬学的に受容可能な組成物の有効量を、その投与が必要な被験体に投与する工程を包含する。本発明の特定の実施形態において、化合物または薬学的に受容可能な組成物の「有効量」とは、疾患状態、または癌、自己免疫障害、神経変性障害もしくは神経障害、精神分裂病、骨関連障害、肝疾患、または心臓障害から選択される状態を処置するか、またはこれらの重篤度を軽減するのに有効な量である。本発明の方法に従うと、上記化合物および組成物は、癌、自己免疫障害、神経変性障害もしくは神経障害、精神分裂病、骨関連障害、肝疾患、または心臓障害を処置するか、またはこれらの重篤度を軽減するのに有効な任意の量および任意の投与経路を使用して投与され得る。必要とされる正確な量は、被験体によって異なり、被験体の種、年齢、および一般的状態、感染の重篤度、特定の薬剤、投与のその様式などに依存する。本発明の化合物は、好ましくは、投与の容易さおよび投薬の均一性のために投薬単位形式で処方される。本明細書中で使用される場合、表現「投薬単位形態」とは、処置される患者に対して適切な薬剤の物理学的に不連続な単位をいう。しかしながら、本発明の化合物および組成物の1日合計の用法は、健全な医療判断の範囲内で医師に診察してもらうことによって決定されることが理解される。任意の特定の患者または生物の特定の有効な用量レベルは、種々の因子(処置される障害および障害の重篤度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成物;患者の、年齢、体重、全身の健康、性別および食事;使用される特定の化合物の、投与時間、投与経路、および排泄速度;処置期間;私用される特定の化合物と、組み合わせて、または同時に使用される薬物、ならびに医学分野において周知の同様の因子が挙げられる)に依存する。本明細書中で使用される場合、用語「患者」は、動物、好ましくは、哺乳動物、および最も好ましくは、ヒトを意味する。
【0157】
本発明の薬学的に受容可能な組成物は、処置される感染の重篤度に依存して、経口的に、直腸に、非経口的に、槽内に、腟内に、腹腔内に、局所的に(散剤、軟膏剤、または点滴剤によるように)、口腔粘膜に、経口噴霧剤または経鼻噴霧剤として、などにより、ヒトおよび他の動物に投与され得る。特定の実施形態において、本発明の化合物は、1日あたり被験体の体重の、約0.01mg/kg〜約50mg/kgおよび好ましくは、約1mg/kg〜約25mg/kgの投薬レベルで、1日に1度以上で経口的に、または非経口的に、投与されて、所望の治療効果が得られ得る。
【0158】
経口投与についての液体投薬形態としては、薬学的に受容可能な、エマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップおよびエリキシルが挙げられるが、これらに限定されない。上記活性化合物に加え、上記液体投薬形態は、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤などで、当該分野で一般的に使用される不活性希釈剤(例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚油、オリーブ油、ヒマシ油、ゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにこれらの混合物)を含み得る。不活性希釈剤に加え、上記経口用組成物はまた、アジュバント(例えば、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、甘味剤、矯味矯臭剤、および芳香剤)を含み得る。
【0159】
注射用調製物(例えば、滅菌した注射用の、水溶性懸濁液または油性懸濁液)は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用して、公知技術に従って処方され得る。滅菌した注射用調製物はまた、無毒の非経口的に受容可能な希釈剤または溶媒の滅菌した注射用の、溶液、懸濁液またはエマルジョン(例えば、1,3−ブタンジオールの溶液として)であり得る。使用され得る受容可能なビヒクルおよび溶媒には、水、リンガー溶液U.S.P.および等張性塩化ナトリウム溶液がある。さらに、滅菌した不揮発性油は、溶媒または懸濁媒体として慣例的に使用される。この目的にために、任意のブレンド不揮発性油(合成モノグリセリドまたはジグリセリドが挙げられる)が、使用され得る。さらに、脂肪酸(例えば、オレイン酸)は、注射液の調製物中に使用される。
【0160】
注射用処方物は、例えば、細菌保持フィルターでの濾過、使用前に滅菌水または他の滅菌注射媒体中に溶解または分散され得る滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を組込むことによって滅菌され得る。
【0161】
本発明の化合物の効果を持続させるために、しばしば、皮下注射または筋肉内注射からの化合物の吸収を遅延することが好ましい。これは、水への低い溶解度を有する結晶性物質または非晶質物質の液体懸濁液の使用によって達成され得る。次いで、上記化合物の吸収速度は、さらに結晶サイズおよび結晶形態に依存し得る溶解速度に依存する。あるいは、非経口的に投与される化合物形態の遅延吸収は、油のビヒクル中に化合物を溶解または懸濁させることによって達成される。注射用の貯蔵形態は、生分解性ポリマー(例えば、ポリ乳酸−ポリグリコリド)中に化合物のマイクロカプセル化マトリックスを形成することによって作製される。化合物とポリマーとの比および使用される特定のポリマーの性質に依存して、化合物の放出速度は制御され得る。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。貯蔵注射用処方物はまた、体組織と適合性であるリポソームまたはマイクロエマルジョン中に化合物を包括することによって調製される。
【0162】
直腸投与または膣投与のための組成物は、好ましくは、本発明の化合物と適切な非刺激性の、賦形剤またはキャリア(例えば、カカオ脂、ポリエチレングリコールまたは座剤ロウ(周囲温度で固体であるが、体温では液体であり、故に直腸腔または膣腔で融解し、活性化合物を放出する))とを混合することによって調製され得る坐剤である。
【0163】
経口投与のための固体投薬としては、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、および顆粒剤が挙げられる。このような固体投薬形態において、上記活性化合物は、少なくとも1つの不活性の薬学的に受容可能な賦形剤またはキャリア(例えば、クエン酸ナトリウムまたは第二リン酸カルシウム)および/またはa)充填剤または増量剤(例えば、デンプン、ラクトース、ショ糖、グルコース、マンニトールおよびケイ酸)、b)結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギナート、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、ショ糖、およびアラビアゴム)、c)湿潤剤(例えば、グリセロール)、d)崩壊剤(例えば、寒天−寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプンまたはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウム)、e)溶液遅延剤(例えば、パラフィン)、f)吸収促進剤(例えば、四級アンモニウム化合物)、g)湿潤剤(例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなど)、h)吸収剤(例えば、カオリン粘土およびベントナイト粘土)、ならびにi)潤滑剤(例えば、滑石、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびこれらの混合物)と混合される。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合、投薬形態はまた、緩衝化剤を含み得る。
【0164】
同様の型の固体組成物はまた、ラクトースまたは乳糖および高分子量のポリエチレングリコールなどのような賦形剤を使用して、軟質充填ゼラチンカプセル剤および硬質充填ゼラチンカプセル剤中の充填剤として使用され得る。錠剤、糖剤、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤の固体投薬形態が、コーティングおよびシェル(例えば、腸溶コーティングおよび薬学的処方技術で周知の他のコーディング)を用いて調製され得る。これらはまた、必要に応じて、乳白剤を含み得、また必要に応じて、遅延様式で、腸管の特定の部分のみか、または優先的に腸管の特定の部分において、活性成分を放出する組成物であり得る。使用され得る包埋組成物の例としては、重合体物質およびロウが挙げられる。同様の型の固体組成物はまた、ラクトースまたは乳糖および高分子量のポリエチレングリコールなどのような賦形剤を使用して、軟質充填ゼラチンカプセル剤および硬質充填ゼラチンカプセル剤中の充填剤として使用され得る。
【0165】
この活性型化合物はまた、上記のように、1以上の賦形剤を含むマイクロカプセル形態であり得る。錠剤、糖剤、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤の固体の投薬形態は、コーティングおよび外皮(例えば、腸溶コーティング、放出制御性コーティングおよび製薬処方の分野で周知の他のコーティング)と共に調製され得る。このような固体の投薬形態において、この活性型化合物は、少なくとも1種の不活性希釈剤(例えば、スクロース、ラクトースまたはデンプン)と混合され得る。このような投薬形態はまた、通常の慣行として、不活性希釈剤以外の追加の物質(例えば、錠剤の潤滑剤および他の錠剤の補助物(例えば、ステアリン酸マグネシウムおよび微結晶性セルロース))を含み得る。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合において、この投薬形態はまた、緩衝剤を含み得る。これらは、必要に応じて不透明化剤を含み得、そしてまた腸管の特定の部分のみ、または腸管の特定の部分に優先的に、必要に応じて遅延性の様式で活性成分を放出する組成物であり得る。使用され得る包埋組成物の例としては、ポリマー物質およびロウが挙げられ得る。
【0166】
本発明の化合物の局所投与または経皮投与のための投薬形態としては、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、粉末、溶液、スプレー、吸入またはパッチが挙げられる。この活性型構成要素は、無菌条件下で、必要とされ得るように、薬学的に受容可能なキャリアおよび任意の必要とされる防腐剤または緩衝剤と混合される。眼用処方物、点耳剤および点眼剤もまた、本発明の範囲内として企図される。加えて、本発明は経皮パッチの使用を企図し、経皮パッチは、身体への化合物の制御性送達を提供するというさらなる利点を有する。このような投薬形態は、適切な媒体中に化合物を溶解するか、または調剤することによって作製され得る。吸収促進剤はまた、皮膚を通過する化合物の流動を増加させるために使用され得る。この速度は、速度制御膜を提供することか、またはポリマーマトリックスもしくはゲル中に化合物を調剤することかのどちらかによって、制御され得る。
【0167】
概括的に上に記載されるように、本発明の化合物は、プロテインキナーゼのインヒビターとして有用である。一つの実施形態において、本発明の化合物および組成物は、1以上のERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、またはGSK3プロテインキナーゼのインヒビターである。従って、任意の特定の理論によって束縛されることを望まないが、この化合物および組成物は、1以上のERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、もしくはGSK3プロテインキナーゼの活性化が、その疾患、状態、または障害に関連する疾患、状態または障害の重症度を処置するか、あるいは減少させるために、特に有用である。ERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、またはGSK3プロテインキナーゼの活性が、特定の疾患、状態、または障害に関連する場合、その疾患、状態、または障害はまた、「ERK2媒介性、JNK3媒介性、SRC媒介性、Aurora2媒介性、もしくはGSK3媒介性の疾患」、状態、または疾患症状として称され得る。従って、別の局面において、本発明は、1以上のERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、もしくはGSK3プロテインキナーゼの活性化が、上記の疾患、状態、もしくは障害に関連する、疾患、状態または障害の重症度を処置するか、あるいは減少させるための方法を提供する。
【0168】
本発明においてERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、またはGSK3プロテインキナーゼのインヒビターとして利用される化合物の活性は、インビトロ、インビボまたは細胞株においてアッセイされ得る。インビトロアッセイは、活性型のERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、もしくはGSK3プロテインキナーゼのリン酸化活性かまたはATPase活性のどちらかの阻害を決定するアッセイを含む。代替的なインビトロアッセイは、このインヒビターがERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、またはGSK3プロテインキナーゼに結合する能力を定量する。インヒビター結合は、結合の前にこのインヒビターを放射性標識し、インヒビター/ERK2複合体、インヒビター/JNK3複合体、インヒビター/SRC複合体、インヒビター/Aurora2複合体、またはインヒビター/GSK3複合体を単離し、そして放射性標識結合の量を決定することによって測定され得る。あるいは、インヒビター結合は、競合実験を行うことによって決定され得る。この競合実験において、新規のインヒビターが、公知の放射性リガンドに結合されたERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、またはGSK3プロテインキナーゼと一緒にインキュベートされる。
【0169】
本明細書で使用される場合、用語「測定可能に阻害する」は、上記の組成物とERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、もしくはGSK3プロテインキナーゼとを含むサンプルと、上記の組成物の非存在下でERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、もしくはGSK3プロテインキナーゼを含む等量のサンプルとの間でのERK2プロテインキナーゼ活性、JNK3プロテインキナーゼ活性、SRCプロテインキナーゼ活性、Aurora2プロテインキナーゼ活性、またはGSK3プロテインキナーゼ活性の測定可能な変化を意味する。プロテインキナーゼ活性のこのような測定は、当業者に公知であり、本明細書中で下に記載される方法を含む。
【0170】
別の実施形態に従って、本発明は、本発明の化合物、または上記化合物を含有する組成物を、上記の患者に投与する工程を包含する、患者におけるERK2プロテインキナーゼ活性、JNK3プロテインキナーゼ活性、SRCプロテインキナーゼ活性、Aurora2プロテインキナーゼ活性、またはGSK3プロテインキナーゼ活性を阻害する方法に関する。
【0171】
本明細書中で使用される場合、用語「ERK媒介性状態」または「ERK媒介性疾患」は、ERKが役割を果たすことが公知である、任意の疾患または他の有害な状態を意味する。用語「ERK媒介性状態」または「ERK媒介性疾患」はまた、ERKインヒビターで処置することによって緩和される疾患または状態を意味する。このような状態としては、癌、脳卒中、糖尿病、肝腫大、心臓血管疾患(心臓肥大を含む)、アルツハイマー病、嚢胞性線維症、ウイルス性疾患、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、乾癬、アレルギー性障害(喘息、炎症、神経性障害およびホルモン関連性疾患を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。用語「癌」は、以下の癌:乳癌、卵巣癌、子宮頚部癌、前立腺癌、精巣癌、尿生殖器癌、食道癌、喉頭癌、神経膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、胃癌、皮膚癌、角化棘細胞腫、肺癌、類表皮癌、大細胞癌、小細胞癌、肺腺癌、骨癌、結腸癌、腺腫、膵臓癌、腺癌、甲状腺癌、濾胞状癌、未分化癌、乳頭状癌、精上皮腫、黒色腫、肉腫、膀胱癌、肝臓癌および胆管癌、腎臓癌、骨髄性障害、リンパ系障害、ホジキン病、毛様細胞癌、口腔前庭癌および咽頭(口腔)癌、唇癌、舌癌、口腔癌、咽頭癌、小腸癌、結腸直腸癌、大腸癌、直腸癌、脳癌および中枢神経系癌、または白血病を含むが、これらに限定されない。
【0172】
従って、本発明の別の実施形態は、ERKが役割を果たすことが公知の、1以上の疾患の重症度を処置することか、または減少させることに関する。詳細には、本発明は、癌、脳卒中、糖尿病、肝腫大、心臓血管疾患(心臓肥大を含む)、アルツハイマー病、嚢胞性線維症、ウイルス性疾患、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、乾癬、アレルギー性障害(喘息、炎症を含む)、神経性障害およびホルモン関連性疾患から選択される疾患もしくは状態の重症度を処置するかまたは減少させる方法であって、上記方法が、本発明に従う組成物を必要とする患者にこれらを投与する工程を包含する方法に関する。
【0173】
別の実施形態に従って、本発明は、乳癌、卵巣癌、子宮頚部癌、前立腺癌、精巣癌、尿生殖器癌、食道癌、喉頭癌、神経膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、胃癌、皮膚癌、角化棘細胞腫、肺癌、類表皮癌、大細胞癌、小細胞癌、肺腺癌、骨癌、結腸癌、腺腫、膵臓癌、腺癌、甲状腺癌、濾胞状癌、未分化癌、乳頭癌、精上皮腫、黒色腫、肉腫、膀胱癌、肝臓癌および胆管癌、腎臓癌、骨髄性障害、リンパ系障害、ホジキン癌、毛様細胞癌、口腔前庭癌および咽頭(口腔)癌、唇癌、舌癌、口癌、咽頭癌、小腸癌、結腸直腸癌、大腸癌、直腸癌、脳癌および中枢神経系癌、ならびに白血病から選択される癌を処置する方法に関する。
【0174】
別の実施形態は、癌の処置を必要とする患者の黒色腫、乳癌、結腸癌、または膵臓癌を処置する方法に関する。
【0175】
本明細書中で使用される場合、用語「Aurora−2媒介性疾患」または「Aurora−2媒介性状態」は、Auroraが役割を果たすことが公知である任意の疾患または他の有害な状態を意味する。用語「Aurora−2媒介性疾患」または「Aurora−2媒介性状態」はまた、Aurora−2インヒビターでの処置によって緩和される疾患または状態を意味する。従って、本発明の別の実施形態は、Aurora−2が役割を果たすことが公知の、1以上の疾患の重症度を処置することか、または減少させることに関する。詳細には、本発明は、黒色腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、白血病、または結腸癌、乳癌、肺癌、腎臓(kidney)癌、卵巣癌、膵臓癌、腎(renal)癌、中枢神経系(CNS)の癌、子宮頚部癌、前立腺癌もしくは胃管(gastric tract)癌から選択される癌から選択される疾患もしくは状態の重症度を処置するか、あるいは減少させる方法に関する。
【0176】
本明細書中で使用される場合、用語「GSK3媒介性疾患」または「GSK3媒介性状態」は、GSK3が役割を果たすことが公知である、任意の疾患または他の有害な状態を意味する。従って、本発明の別の実施形態は、GSK3が役割を果たすことが公知である、1以上の疾患の重症度を処置するかまたは減少させることに関する。詳細には、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、代謝性障害、精神医学的障害、糖尿病、脈管形成障害、タウオパシー(tauopothy)、神経性障害もしくは神経変性障害、脊髄損傷、緑内症、禿頭症または心臓血管疾患から選択される疾患あるいは状態の重症度を処置するか、あるいは減少させる方法であって、上記の方法が、本発明に従う組成物を必要とする患者に投与する工程を包含する方法に関する。
【0177】
別の実施形態に従って、本発明は、アレルギー、喘息、糖尿病、アルツハイマー病、ハンティングトン病、パーキンソン病、AIDS関連性痴呆、筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルーゲーリング病)、多発性硬化症(MS)、頭部外傷による損傷、精神分裂病、不安、双極性障害、タウオパシー、脊髄損傷もしくは末梢神経損傷、心筋梗塞、心筋肥大、緑内症、注意欠陥障害(ADD)、鬱病、睡眠障害、再灌流/虚血、脳卒中、脈管形成障害、もしくは禿頭症から選択される疾患または状態の重症度を処置するか、あるいは減少させる方法であって、それを必要とする患者に本発明の化合物またはこれらの組成物を投与する工程を包含する方法に関する。
【0178】
一つの実施形態に従って、本発明の方法は、脳卒中の重症度を処置するかまたは減少させることに関し、ここで上記方法は、それを必要とする患者に本発明の化合物またはこれらの組成物を投与する工程を包含する方法に関する。
【0179】
別の実施形態に従って、本発明の方法は、神経変性障害もしくは神経性障害の重症度を処置するかまたは減少させることに関し、ここで上記方法は、それを必要とする患者に本発明の化合物またはこれらの組成物を投与する工程を包含する方法である。
【0180】
本発明のさらに別の実施形態は、鬱病を処置する方法であって、上記方法は、それを必要とする患者に本発明の化合物またはこれらの組成物を投与する工程を包含する方法に関する。
【0181】
本発明の別の局面は、男性患者の精子の運動性を減少させる方法であって、それを必要とする患者に本発明の化合物またはこれらの組成物を投与する工程を包含する方法に関する。
【0182】
本明細書中で使用される場合、用語「JNK媒介性状態」は、JNKが役割を果たすことが公知である任意の疾患または他の有害な状態を意味する。従って、本発明の別の実施形態は、JNKが役割を果たすことが公知である、1以上の疾患の重症度を処置するかまたは減少させることに関する。詳細には、本発明は、炎症性疾患、自己免疫疾患、破壊性骨障害、増殖性障害、癌、感染症、神経変性疾患、アレルギー、脳卒中における再灌流/虚血、心臓発作、脈管形成障害、器官低酸素症、血管過形成、心臓肥大、トロンビン誘導性血小板凝集、およびプロスタグランジンエンドペルオキシダーゼシンターゼ−2に関連する状態から選択される疾患または状態の重症度を処置するか、あるいは減少させる方法に関する。
【0183】
「JNK媒介性状態」はまた、脳卒中における虚血/再灌流、心臓発作、心筋虚血、器官低酸素症、血管過形成、心臓肥大、肝臓虚血、肝臓疾患、うっ血性心不全、病理学的免疫応答(例えば、T細胞の活性化によって引き起こされる)およびトロンビン誘導性血小板凝集が挙げられる。
【0184】
加えて、本発明のJNK構成要素は、誘導性炎症誘発性タンパク質の発現を阻害し得る。従って、本発明の化合物によって処置され得る他の「JNK媒介性状態」としては、水腫、痛覚脱失症、熱および痛み(例えば、神経筋痛、頭痛、癌疼痛、歯痛および関節痛)が挙げられる。
【0185】
本明細書中で使用される場合、用語「Src媒介性疾患」または「Src媒介性状態」は、Srcが役割を果たすことが公知である、任意の疾患または他の有害な状態を意味する。用語「Src媒介性疾患」または「Src媒介性状態」はまた、Srcインヒビターでの処置によって緩和される疾患または状態を意味する。従って、本発明の別の実施形態は、Srcが役割を果たすことが公知である、1以上の疾患の重症度を処置することか、または減少させることに関する。詳細には、本発明は、高カルシウム血症、骨粗鬆症、変形性関節症、癌、骨転移の対処療法、および、およびパジェット病から選択される疾患または状態の重症度を処置するか、あるいは減少させる方法に関する。
【0186】
他の実施形態において、本発明は、グリコーゲン合成および/またはグルコースの血中レベルの低下を必要とする患者において、グリコーゲン合成および/またはグルコースの血中レベルの低下を促進する方法であって、本発明の化合物を含有する組成物の治療的有効量を、上記の患者に投与する工程を包含する方法に関する。この方法は、糖尿病患者のために、特に有用である。
【0187】
さらに別の実施形態において、本発明は、過剰リン酸化Tauタンパク質の生成を必要とする患者において、過剰リン酸化Tauタンパク質の生成を阻害する方法であって、本発明の化合物を含有する組成物の治療的有効量を、上記の患者に投与する工程を包含する方法に関する。この方法は、アルツハイマー病の進行を停止するか、または遅らせる際に特に有用である。
【0188】
さらに別の実施形態において、本発明は、β−カテニンのリン酸化の阻害を必要とする患者においてβ−カテニンのリン酸化を阻害する方法であって、本発明の化合物を含有する組成物の治療的有効量を、上記の患者に投与する工程を包含する方法に関する。この方法は、精神分裂病を処置するために特に有用である。
【0189】
本発明の化合物および薬学的に受容可能な組成物が併用療法で適用され得ることもまた、認識される。すなわち、この化合物および薬学的に受容可能な組成物は、1以上の他の所望の治療または医療手順と同時に、前に、あるいは後に投与され得る。併用レジメンに適用するための特定の治療(治療薬または手順)の併用は、所望の治療薬および/または手順の適合性と、達成されるべき所望の治療効果を考慮する。適用される治療が、同じ障害に対する所望の効果を達成し得る(例えば、同じ障害を処置するために使用される別の薬剤と同時に投与され得る)か、または適用される治療が異なる効果(例えば、任意の副作用の制御)を達成し得ることがまた、認識される。本明細書中で使用される場合、特定の疾患もしくは状態を処置するか、または予防するために通常投与される追加の治療剤は、「処置される疾患または状態のために適切である」として公知である。
【0190】
例えば、化学療法剤または他の抗増殖剤は、本発明の化合物と併用され、増殖性疾患および癌を処置し得る。公知の化学療法剤の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない;例えば、本発明の抗癌剤と併用して使用され得る他の治療または抗癌剤として以下が挙げられる。手術、放射線治療(ほんの数例において、いくつか例を挙げると、γ放射線、中性子線放射線治療、電子線放射線治療、プロトン治療、近接照射療法、および全身性放射性同位体である)、内分泌治療、生物的反応修飾物質(いくつか例を挙げると、インターフェロン、インターロイキン、および腫瘍壊死因子(TNF)である)、高体温および寒冷療法、任意の副作用を弱める薬剤(例えば、制吐剤)、ならびに他の承認された化学療法剤(アルキル化剤(メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド(Cyclophosphamide)、メルファラン(Melphalan)、イホスファミド(Ifosfamide))、代謝拮抗剤(メトトレキセート(Methotrexate))、プリンアンタゴニストおよびピリミジンアンタゴニスト(6−メルカプトプリン(6−Mercaptopurine)、5フルオロウラシル(5−Fluorouracil)、シタラビン(Cytarabile)、ジェムシタビン(Gemcitabine))、紡錘体毒(ビンブラスチン(Vinblastine)、ビンクリスチン(Vincristine)、ビノレルビン(Vinorelbine)、パクリタキセル(Paclitaxel))、ポドフィロトキシン(エトポシド(Etoposide)、イリノテカン(Irinotecan)、トポテカン(Topotecan))、抗体(ドキソルビシン(Doxorubicin)、ブレオマイシン(Bleomycin)、マイトマイシン(Mitomycin))、ニトロソ尿素類(カルムスチン(Carmustine)、ロイプロリド(Lomustine))、無機イオン(シスプラチン(Cisplatin)、カルボプラチン(Carboplatin))、酵素(アスパラギナーゼ(Asparaginase))、ならびにホルモン(タモキシフェン(Tamoxifen)、ロイプロリド(Leuprolide)、フルタミド(Flutamide)、およびメゲストロール(Megestrol))、GleevecTM、アドリアマイシン、デキサメタゾン、およびシクロホスファミドが挙げられるが、これらに限定されない)。更新された癌治療のより包括的な議論としては、http://www.nci.nih.gov/、http://www.fda.gov/cder/cancer/druglistframe.htmにおけるFDA承認の腫瘍薬物のリスト、およびThe Merck Manual(第17版1999年)を参照のこと。これらの全ての内容は、本明細書によって参考として援用される。
【0191】
本発明のインヒビターの薬剤の他の例はまた、以下と限定なしに併用され得る:アルツハイマー病のための処置(例えば、Aricept(登録商標)およびExcelon(登録商標));パーキンソン病のための処置(例えば、L−DOPA/カルビドパ、エンタカポン、ロピンロール(ropinrole)、プラミペキソール、ブロモクリプチン、ペルゴリド、トリヘキセフェンディル(trihexephendyl)、およびアマンタジン);多発性硬化症(MS)を処置するための薬剤(例えば、βインターフェロン(例えば、Avonex(登録商標)およびRebif(登録商標))、Copaxone(登録商標)、およびミトキサントロン);喘息のための処置(例えば、アルブテロールおよびSingulair(登録商標);精神分裂病を処置するための薬剤(例えば、ジプレキサ、リスペルダル、セロクエル、およびハロペリドール;抗炎症剤(例えば、コルチコステロイド、TNF遮断剤、IL−1 RA、アザチオプリン、シクロホスファミド、およびスルファサラジン);免疫調節剤および免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、ラパマイシン、ミコフェノール酸モフェチル、インターフェロン、コルチコステロイド、シクロホスファミド、アザチオプリン、およびスルファサラジン);神経栄養因子(例えば、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、MAOインヒビター、インターフェロン、抗痙攣剤、イオンチャネル遮断剤、リルゾール、および抗パーキンソン病薬剤);心臓血管性疾患を処置するための薬剤(例えば、β遮断剤、ACEインヒビター、利尿剤、硝酸塩、カルシウムチャネル遮断剤、およびスタチン);肝臓疾患を処置するための薬剤(例えば、コルチコステロイド、コレスチラミン、インターフェロン、および抗ウイルス剤);血液疾患を処置するための薬剤(例えば、コルチコステロイド、抗白血病剤、および増殖因子);ならびに免疫欠損障害を処置するための薬剤(例えば、γグロブリン)。
【0192】
本発明の組成物中に存在するさらなる治療剤の量は、その治療剤を唯一の活性薬剤として含む組成物において、通常投与される量以下である。好ましくは、ここで開示される組成物中のさらなる治療剤の量は、その薬剤を唯一の治療活性薬剤として含む組成物中に通常存在する量の約50%〜100%の量の範囲にある。
【0193】
代替の実施形態では、さらなる治療剤を含まない組成物を利用する本発明の方法は、上記患者にさらなる治療剤を別個に投与するというさらなる工程を包含する。これらのさらなる治療剤が別個に投与される場合、それらは、本発明の組成物の投与の前に、本発明の組成物の投与と連続して、または本発明の組成物の投与の後で、患者に投与され得る。
【0194】
本発明の化合物またはそれらの薬学的に受容可能な組成物はまた、移植可能医療用デバイス(例えば、プロテーゼ、人工弁、脈管移植片、ステントおよびカテーテル)をコーティングするための組成物に組込まれ得る。従って、別の局面では、本発明は、移植可能デバイスをコーティングするための組成物を包含し、その組成物は、上に、そして本明細書中のクラスおよびサブクラスに一般的に記載されたような本発明の化合物、ならびに上記移植可能デバイスをコーティングするために適切なキャリアを含む。さらに別の局面では、本発明は、上に、そして本明細書中のクラスおよびサブクラスに一般的に記載されたような本発明の化合物、ならびに上記移植可能デバイスをコーティングするために適切なキャリアを含む組成物でコーティングされた移植可能デバイスを包含する。
【0195】
例えば、脈管ステントは、再狭窄(損傷後の脈管壁の再狭窄化)を克服するために使用されている。しかしながら、ステントまたは他の移植可能デバイスを使用する患者は、血塊形成または血小板活性化の危険を冒している。これらの望ましくない効果は、そのデバイスを、キナーゼインヒビターを含む薬学的に受容可能な組成物で予備コーティングすることにより予防され得、または軽減され得る。適切なコーティングならびにコーティングされた移植可能デバイスの一般的調製は、米国特許第6,099,562号;同第5,886,026号;および同第5,304,121号に記載されている。そのコーティングは、代表的には、生体適合性ポリマー材料(例えば、ヒドロゲルポリマー、ポリメチルジシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、エチレン酢酸ビニル、およびこれらの混合物)である。そのコーティング物は、その組成物における制御された放出特性を賦与するために、必要に応じて、フルオロシリコーン、多糖、ポリエチレングリコール、リン脂質またはこれらの組合せの適切なトップコートで、さらにコーティングされ得る。
【0196】
本発明の別の局面は、生物学的サンプルまたは患者において、JNK3プロテインキナーゼ活性、SRCプロテインキナーゼ活性、Aurora2プロテインキナーゼ活性またはGSK3プロテインキナーゼ活性を阻害する工程に関し、その方法は、その患者に、本発明の化合物または上記化合物を含む組成物を投与する工程、またはその生物学的サンプルを本発明の化合物または上記化合物を含む組成物と接触させる工程を包含する。用語「生物学的サンプル」としては、本明細書中で使用される場合、限定なしに、細胞培養物およびその抽出物;哺乳動物から得られた生検物質またはその抽出物;ならびに血液、唾液、尿、糞便、精液、涙もしくは他の体液またはこれらの抽出物が挙げられる。
【0197】
生物学的サンプルにおけるJNK3プロテインキナーゼ活性、SRCプロテインキナーゼ活性、Aurora2プロテインキナーゼ活性またはGSK3プロテインキナーゼ活性の阻害は、当業者に公知の種々の目的のために有用である。そのような目的の例としては、輸血、器官移植、生物学的標本の保存、および生物学的アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0198】
(合成実施例)
本明細書中で使用される場合、用語「R(分)」とは、その化合物に関連するHPLC保持時間(分単位)をいう。そうではないと示されない限り、報告する保持時間を得るために利用したHPLC方法は、以下の通りである。
【0199】
カラム:YMC ODS−AQ、5ミクロン シリカ、3×100mm
勾配:水中の10〜90%アセトニトリル 重量/0.1%TFA
流量:1.5mL/分
そうではないと示されない限り、各H NMRをCDCl中、500MHzで得、化合物番号は、表1に列挙した化合物番号に対応する。
【0200】
(実施例1)
(4−(3−ジメチルアミノ−アクリロイル)−3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸エチルエステル)
THF(15mL)を含む乾燥フラスコ中に、4−アセチル−3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸エチルエステル(2.0g、9.3mmol)、次いでBredereckの試薬(5mL)を添加した。この反応物を、50℃で20時間攪拌した。この反応の間に生成した得られた沈殿を濾過により取り除き、そしてヘキサンで洗浄した。このエナミノンを黄色固体(2.2g)として回収した。HPLC R=4.0分;FIA、ES+=265.1。
【0201】
(実施例2)
(4−(2−イソプロピルアミノ−ピリミジン−4−イル)3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸エチルエステル(I−48))
エタノール(10mL、無水)を含む乾燥フラスコ中に、4−(3−ジメチルアミノ−アクリロイル)−3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸エチルエステル(509mg、1.93mmol)、イソプロピルグアニジン塩酸塩(1.5当量、292mg、2.9mmol)およびナトリウムエトキシド(3当量、515mg、5.8mmol)を添加した。この反応混合物を、80℃で24時間加熱し、次いで周囲温度まで冷却し、メタノール洗浄液とともにセライト(登録商標)を通して濾過した。粗生成物を分取HPLC(アセトニトリル/水)で精製し、表題化合物(32mg)を固体として得た。HPLC R=4.98分;FIA、ES+=303.2。
【0202】
(実施例3)
(4−(2−イソプロピルアミノ−ピリミジン−4−イル)−3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸(I−67))
メタノール(1mL)を含む小フラスコ中に、4−(2−イソプロピルアミノ−ピリミジン−4−イル)−3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸エチルエステル(20mg、66μmol)、ついで水酸化ナトリウム(1N、0.3mL)を添加した。この反応混合物を、80℃で5時間加熱した。そのpHを、塩酸(1N)で約2に調整し、溶媒を乾燥までエバポレートし、表題化合物を得た。HPLC R=3.8分;FIA、ES+=275.1、ES−=273.2。
【0203】
(実施例4)
(4−(2−イソプロピルアミノ−ピリミジン−4−イル)−3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸[1−(S)−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシエチル]−アミド(I−49))
DMF(無水、1mL)を含む小フラスコ中に、4−(2−イソプロピルアミノ−ピリミジン−4−イル)−3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸(66μmol)、ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(1.1当量、10mg、73μmol)、ジイソプロピルエチルアミン(3当量、35μL、0.2mmol)およびEDCI(1.3当量、17mg、86μmol)を添加した。この反応混合物を、15分間攪拌した。この溶液に、2−アミノ−2−(S)−(3−クロロフェニル)エタノール塩酸塩(1.2当量、17mg、79μmol)を添加した。周囲温度での8時間の攪拌の後、粗生成物を、分取HPLC(アセトニトリル/水)で精製し、表題化合物を固体として得た(7.5mg)。HPLC R=4.99分;FIA、ES+=428.1、ES−=426.6。H NMR(MeOH−d4):8.05(d,1H),7.4(s,1H),7.2−7.3(m,3H),7.05(d,1H),5.1(m,1H),3.85(m,2H),2.55(2× s、6H),1.3(2× s、6H)。
【0204】
(実施例5)
(4−[2−(S)−(1−ヒドロキシメチル−プロピルアミノ)−ピリミジン−4−イル]−3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸エチルエステル(I−50))
表題化合物を、実施例2について記載された方法に実質的に類似の方法により調製した。
【0205】
(実施例6)
(4−[2−(S)−(1−ヒドロキシメチル−プロピルアミノ)−ピリミジン−4−イル]−3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸(I−68))
表題化合物を、実施例3について記載された方法に実質的に類似の方法により調製した。
【0206】
(実施例7)
(4−[2−(S)−(1−ヒドロキシメチル−プロピルアミノ)−ピリミジン−4−イル]−3,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボン酸[1−(S)−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシエチル]−アミド(I−51))
表題化合物を、実施例4について記載された方法に実質的に類似の方法により調製した。
M−=456.5;M+=458;H NMR(MeOH−d4):8.05(d,1H),7.0−745(4× m,5H),5.15(m,1H),3.55−4.3(m,5H),2.6(2× s、6H),1,5−1.8(2× m、2H),1.0(t、3H)。
【0207】
(実施例8)
本発明の他の化合物を、上の実施例1〜7に記載される方法に実質的に類似の方法、スキームIおよびスキームIIに図解する方法、および当該分野で公知の方法により調製した。これらの化合物に対する特徴付けデータを、以下の表2にまとめ、それらのデータはMSデータ、HPLC保持時間データ、およびH NMRデータを含む。表2における化合物番号は、表1に列挙された化合物番号に対応する。
【0208】
【化31】

【0209】
(実施例9)
(Aurora−2阻害アッセイ)
化合物を、それらのAurora−2を阻害する能力について、標準的な結合酵素アッセイ(coupled enzyme assay)(Foxら、Protein Sci.1998,7,2249)を用いて、以下の方法でスクリーニングした。
【0210】
0.1M HEPES 7.5、10mM MgCl、1mM DTT、25mM NaCl、2.5mM ホスホエノールピルベート、300mM NADH、30mg/ml ピルベートキナーゼ、10mg/ml 乳酸デヒドロゲナーゼ、40mM ATP、および800μMペプチド(American Peptide,Sunnyvale,CA)を含むアッセイストック緩衝溶液に、本発明の化合物のDMSO溶液を、30μMの最終濃度まで添加した。 得られた混合物を30℃で10分間インキュベートした。この反応を、10μlのAurora−2ストック溶液を、アッセイにおいて最終濃度70nMを与えるために添加することにより開始した。反応速度を、340nmでの吸光度を、30℃で、BioRad Ultramark plate reader(Hercules,CA)を用いて、5分の読み取り時間にわたってモニタリングすることにより得た。K値を、速度データから、インヒビター濃度の関数として決定した。
【0211】
本発明の化合物が、Aurora2プロテインキナーゼのインヒビターであることを見出した。特定の実施形態では、化合物が、5μM未満でAurora2プロテインキナーゼを阻害することを見出した。他の実施形態では、化合物が、1μM未満でAurora2プロテインキナーゼを阻害することを見出した。
【0212】
(実施例10)
(GSK−3阻害アッセイ)
本発明の化合物を、それらのGSK−3β(AA1−420)活性を阻害する能力について、標準的な結合酵素アッセイ(coupled enzyme assay)(Foxら、Protein Sci.1998,7,2249)を用いて、スクリーニングした。反応を、100mM HEPES(pH7.5)、10mM MgCl、25mM NaCl、300μM NADH、1mM DTTおよび1.5%DMSOを含む溶液中で実施した。このアッセイにおける最終基質濃度は、20μM ATP(Sigma Chemicals、St Louis、MO)および300μMペプチド(American Peptide,Sunnyvale,CA)であった。反応を、30℃および20nM GSK−3βで実施した。この結合酵素系(coupled enzyme system)の成分の最終濃度は、2.5mM ホスホエノールピルベート、300μM NADH、30μg/ml ピルベートキナーゼおよび10μg/ml 乳酸デヒドロゲナーゼであった。
【0213】
ATPおよび本発明の試験化合物を除くすべての上に列挙した試薬を含むアッセイストック緩衝剤溶液を調製した。このアッセイストック緩衝剤溶液(175μl)を、96ウェルプレートで、5μlの本発明の試験化合物とともに、0.002μM〜30μMにわたる最終濃度で、30℃で10分間、インキュベートした。代表的には、12点の滴定を、娘プレートに、DMSOで本発明の試験化合物の系列希釈(10mM化合物ストックから)を調製することにより実施した。反応を、20μlのATP(最終濃度20μM)の添加により開始した。反応速度を、一定時間にわたる340nmでの吸光度変化を、Molecular Devices Spectramaxプレートリーダー(Sunnyvale,CA)を、30℃で10分間にわたって使用して得た。K値を、速度データから、インヒビター濃度の関数として決定した。
【0214】
本発明の化合物が、GSK3プロテインキナーゼのインヒビターであることを見出した。特定の実施形態では、化合物が、5μM未満でGSK3キナーゼを阻害することを見出した。他の実施形態では、化合物が、1μM未満でGSK3キナーゼを阻害することを見出した。
【0215】
(実施例11)
(JNK3阻害アッセイ)
化合物を、JNK3の阻害について、分光測光結合酵素アッセイ(spectrophotometric coupled−enzyme assay)により、アッセイした。このアッセイでは、固定濃度の活性化JNK3(10nM)を、種々の濃度の、DMSOに溶解した本発明の化合物とともに、0.1M HEPES緩衝剤(pH7.5)、10mM MgCl、2.5mM ホスホエノールピルベート、200μM NADH、150μg/ml ピルベートキナーゼ、50μg/ml 乳酸デヒドロゲナーゼ、および200μM EGFレセプターペプチドを含む溶液中で、30℃で10分間インキュベートした。EGFレセプターは、JNK3触媒性キナーゼ反応におけるホスホリルアクセプターである。この反応を、10μM ATPの添加により開始し、このアッセイプレートを、30℃に維持した分光光度計のアッセイプレートの画分に挿入した。340nMでの吸光度の減少を、時間の関数としてモニタリングした。インヒビター濃度の関数としての速度データを、競合阻害速度論モデル(competitive inhibition kinetic model)に適合させ、Kを決定した。
【0216】
本発明の特定の化合物は、このJNK3阻害アッセイにおいて、5.0マイクロモル濃度(μM)未満のKを有する。特定の好ましい実施形態では、以下の化合物は、このJNK3阻害アッセイにおいて、1.0μM以下のKを有する:
本発明の化合物が、JNK3プロテインキナーゼのインヒビターであることを見出した。特定の実施形態では、化合物が、5μM未満でJNK3キナーゼを阻害することを見出した。他の実施形態では、化合物が、1μM未満でJNK3キナーゼを阻害することを見出した。
【0217】
(実施例12)
(SRC阻害アッセイ)
本発明の化合物を、放射能ベースのアッセイまたは分光測光アッセイのいずれかを用いて、ヒトSrcキナーゼのインヒビターとして評価した。
【0218】
(SRC阻害アッセイA:放射能ベースのアッセイ)
本発明の化合物を、バキュロウイルス細胞から発現し精製した全長組換え型ヒトSrcキナーゼ(Upstate Biotechnology製、カタログ番号14−117)のインヒビターとしてアッセイした。Srcキナーゼ活性を、ATPから、組成物(Glu:Tyr=4:1(Sigma、カタログ番号P−0275))のランダムポリGlu−Tyrポリマー基質のチロシンへの33Pの取り込みを追跡することによりモニタリングした。このアッセイ成分の最終濃度は以下の通りである:0.05M HEPES(pH7.6)、10mM MgCl、2mM DTT、0.25mg/ml BSA、10μM ATP(1反応あたり1〜2μCi 33P−ATP)、5mg/ml ポリGlu−Tyr、および1〜2単位の組換え型ヒトSrcキナーゼ。代表的なアッセイでは、ATPを除くすべての反応成分を予備混合し、アッセイプレートのウェルにアリコートに分けた。本発明の化合物を、DMSO中に溶解し、そのウェルに添加し、2.5%の最終DMSO濃度を得た。そのアッセイプレートを30℃で10分間インキュベートし、その後、反応を33P−ATPで開始した。20分の反応後、この反応物を、150μlの、20mM NaPOを含む10%トリクロロ酢酸(TCA)でクエンチした。クエンチしたサンプルを、次いで、フィルタープレートの真空マニホールドに取り付けられた96ウェルのフィルタープレート(Whatman、UNI−Filter GF/Fガラス繊維フィルター、カタログ番号7700−3310)に移した。フィルタープレートを、20mM NaPOを含む10%TCAで4回、次いでメタノールで4回洗浄した。200μlのシンチレーション流体を、次いで各ウェルに添加した。これらのプレートを封止し、そのフィルターに関連する放射能の量をTopCountシンチレーション計数管で定量した。取り込まれた放射能を本発明の化合物の濃度の関数としてプロットした。このデータを競合阻害速度論モデル(competitive inhibition kinetics model)に適合させ、本発明の化合物についてK値を得た。
【0219】
(Src阻害アッセイB:分光測光アッセイ)
ポリGlu−Tyr基質のヒト組換え型Srcキナーゼ触媒性リン酸化によりATPから産生したADPを、結合酵素アッセイ(coupled enzyme assay)(Foxら、Protein Sci.1998,7,2249)を用いて定量した。このアッセイでは、このキナーゼ反応で産生したADPのあらゆる分子について、1分子のNADHをNADへ酸化した。NADHの消失を340nmで便利に追跡した。
【0220】
アッセイ成分の最終濃度は以下の通りである:0.025M HEPES(pH7.6)、10mM MgCl、2mM DTT、0.25mg/ml ポリGlu−Tyr、および25nMの組換え型ヒトSrcキナーゼ。この結合酵素系(coupled enzyme system)の成分の最終濃度は、2.5mM ホスホエノールピルベート、200μM NADH、30μg/ml ピルベートキナーゼおよび10μg/ml 乳酸デヒドロゲナーゼであった。
【0221】
代表的なアッセイでは、ATPを除くすべての反応成分を予備混合し、アッセイプレートのウェルにアリコートに分けた。DMSO中に溶解した本発明の化合物を、そのウェルに添加し、2.5%の最終DMSO濃度を得た。そのアッセイプレートを30℃で10分間インキュベートし、その後、反応を100μM ATPで開始した。一定時間にわたる340nmでの吸光度変化を、モレキュラーデバイスプレートリーダーでモニタリングした。このデータを競合阻害速度論モデル(competitive inhibition kinetics model)に適合させ、本発明の化合物についてK値を得た。
【0222】
本発明の化合物が、Srcプロテインキナーゼのインヒビターであることを見出した。特定の実施形態では、化合物が、5μM未満でSrcキナーゼを阻害することを見出した。他の実施形態では、化合物が、1μM未満でSrcキナーゼを阻害することを見出した。
【0223】
(実施例13)
(ERK2阻害アッセイ)
化合物を、ERK2の阻害について、分光測光結合酵素アッセイ(spectrophotometric coupled−enzyme assay)(Foxら、(1998)Protein Sci 7,2249)により、アッセイした。このアッセイでは、固定濃度(10nM)の活性化ERK2を、DMSO中の種々の濃度の上記化合物(2.5%)とともに、10mM MgCl、2.5mM ホスホエノールピルベート、200μM NADH、150μg/ml ピルベートキナーゼ、50μg/ml 乳酸デヒドロゲナーゼ、および200μM エルクチド(erktide)ペプチドを含む0.1M HEPES緩衝剤(pH7.5)中で、30℃で10分間インキュベートした。この反応を、65μl ATPの添加により開始した。340nMでの吸光度の減少速度を、モニタリングした。IC50を、速度データから、インヒビター濃度の関数として評価した。
【0224】
本発明の化合物が、ERK2プロテインキナーゼのインヒビターであることを見出した。特定の実施形態では、化合物が、5μM未満でERK2キナーゼを阻害することを見出した。他の実施形態では、化合物が、1μM未満でERK2キナーゼを阻害することを見出した。
【0225】
本出願人らは、本発明の多くの実施形態を記載したが、本出願人らの基礎となる実施例は、改変され得、本発明の化合物および本発明の方法を利用する他の実施形態を提供し得ることが明らかである。それ故に、本発明の範囲は、例として示された特定の実施形態によるよりはむしろ、添付の特許請求の範囲により規定されるべきであることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

の化合物、またはその薬学的に受容可能な塩であって、
環Aは、1位において必要に応じてRで置換され、かつ
(i)2つのR基、および
(ii)QR
で置換された、ピロール環であり;
は、R、C(O)R、C(O)OR、またはSORであり;
各Rは、必要に応じて置換されたC〜C脂肪族基、Ar、CN、NO、ハロゲン、N(R)、SR、またはORから独立して選択され、但し、両方のR基は、同時にはArでなく;
およびZは、それぞれ、NまたはCRから独立して選択され;
各Rは、R、ハロゲン、CN、NO、OR、SR、N(R)、C(O)R、またはCORから独立して選択され;
Uは、原子価結合、−O−、−S−、−N(R)−、またはC〜Cアルキリデン鎖から選択され、ここで、Uのメチレン単位のうちの2つまでは、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−N(R)SO−、−SON(R)−、−N(R)−、−CO−、−CO−、−N(R)CO−、−N(R)C(O)O−、−N(R)CON(R)−、−N(R)SON(R)−、−N(R)N(R)−、−C(O)N(R)−、または−OC(O)N(R)−によって、必要に応じてかつ独立して置換され;
Tは、原子価結合またはC〜Cアルキリデン鎖であり;
mは、0または1であり;
は、CN、ハロゲン、OR、SR、N(R)R、またはRから選択され;
Qは、原子価結合、−C(O)N(R)−、−SON(R)−、−SO−、−N(R)C(O)N(R)−、−N(R)C(O)−、−N(R)SO−、−N(R)SON(R)−、−N(R)C(O)O−、−C(O)−、または−C(O)O−から選択され;
は、ハロゲン、CN、(CH、(CHCH(R、(CHCH(R)CH(R、(CHN(R、またはN(R)(CHN(Rから選択され;
yは、0〜6であり;
各Arは、0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された3員〜7員の飽和単環式環、0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された3員〜7員の部分不飽和単環式環、または0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された3員〜7員の完全不飽和単環式環、あるいは0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された8員〜10員の飽和二環式環、0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された8員〜10員の部分不飽和二環式環、または0個〜4個のヘテロ原子を有する必要に応じて置換された8員〜10員の完全不飽和二環式環から独立して選択され、該単環式環のへテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され、該二環式環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され;
は、R、Ar、(CHCH(R)R、CN、(CHCH(R)CH(R、または(CHCH(R)N(Rから選択され;
各Rは、水素または必要に応じて置換されたC〜C脂肪族基から独立して選択されるか、あるいは:
同じ窒素原子上の2つのRは、該Rに結合している窒素原子と一緒になって、1個〜4個のヘテロ原子を有する4員〜8員の飽和環、1個〜4個のヘテロ原子を有する4員〜8員の部分不飽和環または1個〜4個のヘテロ原子を有する4員〜8員の完全不飽和環を形成し、該環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され;
各Rは、R、C(O)R、CO、CON(R、SOから独立して選択され;
各Rは、R、OR、CO、(CHN(R、N(R、N(R)C(O)R、N(R)CON(R、CON(R、SO、N(R)SO、C(O)R、CN、またはSON(Rから独立して選択され;
各Rは、RまたはArから独立して選択され;
は、R、(CHOR、(CHN(R、または(CHSRから選択され;そして
各wは、0〜4から独立して選択され;
但し、Rが水素であり、Uが−NH−であり、かつRが必要に応じて置換されたフェニル環である場合、Qは、原子価結合以外である、
化合物またはその薬学的に受容可能な塩。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物、またはその薬学的に受容可能な塩であって、該化合物は、式II:
【化2】

の化合物である、化合物またはその薬学的に受容可能な塩。
【請求項3】
請求項2に記載の化合物であって、
は、水素、N(R、OR、3員〜6員のカルボシクリル、または必要に応じて置換された基から選択され、該必要に応じて置換された基は、C〜C脂肪族基もしくは0個〜4個のヘテロ原子を有する5員〜6員のアリール環から選択され、該アリール環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され;
は、(CH、(CHCH(R、(CHCH(R)CH(R、または(CHN(Rから選択され;
は、水素、CH(R)R、3員〜7員のカルボシクリル、または必要に応じて置換された基から選択され、該必要に応じて置換された基は、C〜C脂肪族基、1個〜3個のヘテロ原子を有する3員〜6員の複素環式環、または1個〜3個のヘテロ原子を有する5員〜6員のアリール環もしくは1個〜3個のヘテロ原子を有する5員〜6員のヘテロアリール環から選択され、該複素環式環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され、該アリール環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され、該ヘテロアリール環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され、;そして
Uは、原子価結合、−CH−、−O−、−NR−、−NHCO−、または−NHCO−から選択される、
化合物。
【請求項4】
請求項3に記載の化合物であって、Rは、(CH、(CHCH(R、または(CHCH(R)CH(Rである、化合物。
【請求項5】
請求項3に記載の化合物であって、Qは、−C(O)N(R)−または−C(O)O−である、化合物。
【請求項6】
請求項2に記載の化合物であって、Rは、3員〜7員のカルボシクリル、または必要に応じて置換された基であり、該必要に応じて置換された基は、C〜C脂肪族基、1個〜3個のヘテロ原子を有する3員〜6員の複素環式環、または1個〜3個のヘテロ原子を有する5員〜6員のアリール環もしくは1個〜3個のヘテロ原子を有する5員〜6員のヘテロアリール環から選択され、該複素環式環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され、該アリール環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択され、該ヘテロアリール環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される、化合物。
【請求項7】
請求項2に記載の化合物であって、Rは、CH(R)Rである、化合物。
【請求項8】
請求項2に記載の化合物であって、Rは、1個〜3個のヘテロ原子を有する3員〜6員の複素環式環であり、該環のヘテロ原子は、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される、化合物。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物、またはその薬学的に受容可能な塩であって、該化合物は、式III:
【化3】

を有する、化合物またはその薬学的に受容可能な塩。
【請求項10】
請求項1に記載の化合物、またはその薬学的に受容可能な塩であって、該化合物は、式IV:
【化4】

を有する、化合物またはその薬学的に受容可能な塩。
【請求項11】
請求項1に記載の化合物であって、該化合物は、
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

からなる群から選択される、化合物。
【請求項12】
有効量の請求項1に記載の化合物と薬学的に受容可能なキャリア、アジュバントまたはビヒクルとを含有する、組成物。
【請求項13】
請求項2に記載の組成物であって、該組成物は、ERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、またはGSK3プロテインキナーゼの活性を測定できる程度に阻害するのに十分な量にて前記化合物を含有する、組成物。
【請求項14】
請求項12に記載の組成物であって、該組成物は、治療剤をさらに含有し、該治療剤は、化学療法剤もしくは抗増殖剤、抗炎症剤、免疫調節剤もしくは免疫抑制剤、神経学的障害を処置するための薬剤、心臓血管疾患を処置するための薬剤、破壊性骨障害を処置するための薬剤、肝臓疾患を処置するための薬剤、抗ウイルス剤、血液障害を処置するための薬剤、糖尿病を処置するための薬剤、または免疫不全障害を処置するための薬剤から選択される、組成物。
【請求項15】
生物学的サンプルにおいてERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、SRCプロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、またはGSK3プロテインキナーゼの活性を阻害する方法であって、該方法は、該生物学的サンプルを
a)請求項12に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物
と接触させる工程を包含する、方法。
【請求項16】
患者においてERK2プロテインキナーゼ、JNK3プロテインキナーゼ、Aurora2プロテインキナーゼ、またはGSK3プロテインキナーゼの活性を阻害する方法であって、該方法は、該患者に対して
a)請求項12に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物
を投与する工程を包含する、方法。
【請求項17】
疾患、状態もしくは障害を処置するかまたは疾患、状態もしくは障害の重症度を軽減することを必要としている患者において、該処置をするかまたは軽減をする方法であって、該疾患、状態もしくは障害は、増殖性障害、心臓障害、神経変性障害、自己免疫障害、器官移植に関連する状態、炎症性障害、免疫媒介性障害、または骨障害から選択され、該方法は、該患者に対して、
a)請求項12に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物
を投与する工程を包含する、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、該方法は、前記患者に対してさらなる治療剤を投与するさらなる工程を包含し、該さらなる治療剤は、化学療法剤もしくは抗増殖剤、抗炎症剤、免疫調節剤もしくは免疫抑制剤、神経栄養因子、心臓血管疾患を処置するための薬剤、破壊性骨障害を処置するための薬剤、肝臓疾患を処置するための薬剤、抗ウイルス剤、血液障害を処置するための薬剤、糖尿病を処置するための薬剤、または免疫欠損障害を処置するための薬剤から選択され、
(a)該さらなる治療剤は、処置される疾患にとって適切であり;かつ、
(b)該さらなる治療剤は、単一の投薬形態として前記組成物と一緒に投与されるか、または複数投薬形態の一部として前記組成物とは別に投与される、
方法。
【請求項19】
疾患、障害もしくは状態を処置するかまたは疾患、障害もしくは状態の重症度を軽減することを必要としている患者において、該処置または軽減をするための方法であって、該疾患、障害もしくは状態は、癌、喘息、糖尿病、脳卒中、精神分裂病、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、心筋梗塞、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病、または筋萎縮性側索硬化症から選択され、該方法は、該患者に対して請求項12に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、前記疾患、障害または状態は、乳癌、卵巣癌、子宮頚部癌、前立腺癌、精巣癌、尿生殖器癌、食道癌、喉頭癌、神経膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、胃癌、皮膚癌、角化棘細胞腫、肺癌、類表皮癌、大細胞癌、小細胞癌、肺腺癌、骨癌、結腸癌、腺腫、膵臓癌、腺癌、甲状腺癌、濾胞状癌、未分化癌、乳頭状癌、精上皮腫、黒色腫、肉腫、膀胱癌、肝臓癌および胆管癌、腎臓癌、骨髄性障害、リンパ系障害、ホジキン病、毛様細胞癌、口腔前庭癌および咽頭(口腔)癌、唇癌、舌癌、口腔癌、咽頭癌、小腸癌、結腸直腸癌、大腸癌、直腸癌、脳癌および中枢神経系癌、または白血病から選択される癌である、方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法であって、前記疾患、障害または状態は、黒色腫であるか、または乳癌、結腸癌もしくは膵臓癌から選択される癌である、方法。
【請求項22】
請求項19に記載の方法であって、前記疾患、障害または状態は、黒色腫、リンパ腫、神経芽細胞腫もしくは白血病であるか、または結腸癌、乳癌、肺癌、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、腎癌、中枢神経系癌、子宮頚部癌、前立腺癌から選択される癌、または胃管癌である、方法。
【請求項23】
請求項19に記載の方法であって、前記疾患、障害、または状態が、脳卒中である、方法。
【請求項24】
高カルシウム血症、骨粗鬆症、変形性関節症、癌、骨転移の対症療法、またはパジェット病を処置するかあるいは高カルシウム血症、骨粗鬆症、変形性関節症、癌、骨転移の対症療法またはパジェット病の重症度を軽減することを必要としている患者において、該処置をするかまたは軽減をする方法であって、該方法は、該患者に対して、
a)請求項12に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物、
を投与する工程を包含する、方法。
【請求項25】
グリコーゲン合成の増強を必要としている患者において該増強をする方法であって、該方法は、該患者に対して、
a)請求項12に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物、
を投与する工程を包含する、方法。
【請求項26】
過剰リン酸化されたTauタンパク質の生産の阻害を必要としている患者において該阻害をする方法であって、該方法は、該患者に対して、
a)請求項12に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物、
を投与する工程を包含する、方法。
【請求項27】
β−カテニンのリン酸化の阻害を必要としている患者において、該阻害をする方法であって、該方法は、該患者に対して、
a)請求項12に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物、
を投与する工程を包含する、方法。
【請求項28】
男性患者において精子の運動性を低下させる方法であって、該方法は、該患者に対して、
a)請求項12に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物、
を投与する工程を包含する、方法。
【請求項29】
鬱病の処置を必要としている患者において該処置をする方法であって、該方法は、該患者に対して、
a)請求項12に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物、
を投与する工程を包含する、方法。

【公表番号】特表2006−520386(P2006−520386A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507111(P2006−507111)
【出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2004/007540
【国際公開番号】WO2004/083203
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(598032106)バーテックス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (414)
【氏名又は名称原語表記】VERTEX PHARMACEUTICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】130 Waverly Street, Camridge, Massachusetts 02139−4242, U.S.A.
【Fターム(参考)】