説明

プロテーゼ関節修復のための酵素−プロドラッグ治療

本発明は、整形外科的プロテーゼの無菌的弛みの処置における遺伝子治療の使用に関する。本発明は、開放的再置換(revision)手術をすることなくこのようなプロテーゼを再固定する方法を開示する。具体的には、本発明は、界面組織の破壊において同時にか別々にかまたは連続的に使用するためのプロドラッグおよびアデノウイルスベクターを提供し、これらのプロドラッグおよびアデノウイルスベクターは、酵素を変換するプロドラッグをコードする遺伝子を含み、これにより、弛んだプロテーゼを最少侵襲性様式で再セメント化することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、整形プロテーゼの無菌的弛みの処置における遺伝子治療の使用に関する。具体的には、本発明は、開放的再置換(revision)手術をすることなく、このようなプロテーゼを再固定する方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
約100万例の完全股関節置換(完全股関節形成)手術が、毎年世界中で行われており、これらのうちの12万例よりも多くの手術が米国において行われ、そして英国だけで約3万5千例行われる(非特許文献1;非特許文献2)。このことは、今後十年以内に、世界中で毎年約300万例まで増加する可能性が高い。股関節置換は、高齢の患者において非常に頻繁に行われる。そしてこの群の間で、重大な可動性の制限をもたらす片方または両方のプロテーゼ構成要素の弛みが、患者の約3分の1において15年以内に生じる。プロテーゼの弛みが生じる場合、患者は、増大した痛みおよび歩行困難を経験し、そして脱臼および病的骨折の危険性が比較的高い。全ての患者のうちの約10%は、10年以内に、合併症および失敗する確率の高い再置換(revision)手術を必要とする(非特許文献3)。
【0003】
最も一般的な移植の失敗の原因は、粒子誘発性骨溶解の結果としての無菌的弛みである。磨耗粒子(例えば、ポリエチレン粒子、ポリメチルメタクリレート粒子、チタン粒子、コバルトクロム粒子、またはセラミック破片の粒子)は、プロテーゼの型に依存して、プロテーゼ周囲(periprosthetic)骨溶解と称する炎症性反応を刺激する(非特許文献4)。マクロファージによる磨耗粒子の食作用がそれらの磨耗粒子を活性化し、炎症性サイトカインIL−1、TNF−α、およびIL−6の分泌を引き起こす。結果として生じる慢性炎症反応は、最終的には、関節炎関節に特有のパンヌスと類似する肉芽腫性「界面組織」(活性化されたマクロファージ、線維芽細胞、巨細胞、および破骨細胞を含む)の偽膜を生成する。この複雑な炎症性および増殖性の異物反応の最終的な結果は、破骨細胞媒介性骨吸収であり、これは、プロテーゼ移植物の片方または両方の構成要素の弛みを引き起こす。完全股関節形成のためのプロテーゼは、2つの構成要素からなる。人工窩(socket)(すなわち、寛骨臼構成要素)は、骨盤の寛骨臼中の所定の空洞内に配置される。これは、突起に付着する球を含む大腿構成要素と関節を成し、このプロテーゼは、大腿の髄質中の所定の空洞内に導入される。両方の構成要素の多くのバリエーションが存在し、そしてそれらは、セメントを用いてかまたはセメントなしで保持され得る。
【0004】
無菌的弛み(aseptic loosening)は、最終的には、許容できない程の痛み、非可動性または歩行困難および歩行不安定をもたらし、脱臼および病的骨折の危険性が比較的高い。一部の患者において、再置換(revision)手術が、炎症組織を除去してプロテーゼを交換するために行われ得る。しかし、再置換(revision)手術は、非常に高価であり、特に高齢の患者(過半数を占める)において、罹患率および死亡率が高い。心不全を有する患者において、再置換(revision)手術は多くの場合、心筋不全または冠状動脈疾患などのような主要な合併症を有する(非特許文献5)。死亡率が高すぎると考えられるので、多くの患者にとって、再置換(revision)手術は望ましくない。このような患者のための代替的な処置は存在せず、このような患者は、その後、車椅子に束縛される。従って、弛んだプロテーゼの処置のための再置換(revision)手術に対する、相対的に損傷性ではない代替手段についての臨床上の必要性が明らかである。現在、この問題に対する実験的なアプローチは、治療的ではなくむしろ予防的である。無菌的弛み(aseptic loosening)を制御するためのこのような予防的なアプローチの1つは、全身性投薬としてかまたはこのようなプロテーゼを固定するために使用されるセメントの構成要素のいずれかとしての、ビスホスホネート化合物(特に、アレンドロネート)の使用に関与する(特許文献1、特許文献2、非特許文献6、非特許文献7)。しかしながら、ビスホスホネートが、骨格骨密度の増加を生じることは公知であるが、慢性関節リウマチ(これは、プロテーゼ周囲(periprosthetic)骨溶解と多くの類似する病理的特徴を共有する)の処置において重要な効果を有することは示されておらず、そしてまたプロテーゼ周囲(periprosthetic)骨溶解自体に対する重要な効果を有することも示されていない(非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10)。従って、ビスホスホネートが無菌的弛みの予防において果たすべき有用な役割を有するかどうかは、まだ分からないままである。
【0005】
破骨細胞媒介性プロテーゼ周囲(periprosthetic)骨吸収を直接予防する試みにおいて、代替的な予防的アプローチは、記載されているアデノ随伴ウイルスベクター(非特許文献10)によって送達される、破骨細胞抑制タンパク質(オステオプロテゲリン)を使用する遺伝子治療を含む(非特許文献11において概説される)。オステオプロテゲリンは、破骨細胞分化因子の競合インヒビターである核因子κBリガンドのレセプターアクチベーター(RANKL)であり、これは、マクロファージ由来の破骨前駆細胞の表面上で発現されるレセプター(核因子κBのレセプターアクチベーター(RANK)として知られる)と結合する。RANKLは、磨耗粒子のマクロファージ食作用によって開始される炎症反応の初期段階において、破骨細胞、間質細胞、および活性化T細胞によって分泌される(非特許文献12)。RANKへのRANKLの結合は、破骨前駆細胞の活性化、分化、および骨吸収の刺激をもたらす。オステオプロテゲリンによるRANKの結合は、破骨前駆細胞を活性化できず、その結果、オステオプロテゲリンは、RANKLを競合的に阻害する。
【0006】
非特許文献10は、マウスの頭蓋骨吸収モデルにおいてオステオプロテゲリンを発現しかつチタン粒子誘発性吸収を阻害するために、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを使用した。チタン粒子は、頭蓋冠(頭蓋骨の円蓋の骨)上に移植され、そして上記ベクターは、筋肉内注射によって四頭筋へと投与された。従って、オステオプロテゲリンの阻害効果は、全身的であり、血清レベルにおいて検出可能な増加が存在した。これは、無処置コントロールに見られる実験的なチタン誘発性破骨細胞形成および骨吸収の阻害において成功するようであった。興味深いとはいえ、このモデルが、臨床的なプロテーゼ周囲(periprosthetic)骨溶解のための実行可能な予防薬の基礎を成すかどうかはまだ分からない。たとえ有効であっても、血清オステオプロテゲリンレベルにおける持続的な上昇を延長するどのような長期的な全身作用を有し得るかが不明確である。例えば、このようなストラテジーは、骨の再造形における正常な破骨細胞の機能に対する有害な影響の欠如を実証する必要がある。
【0007】
プロテーゼ周囲(periprosthetic)骨溶解の一般的かつ衰弱させるような状態およびその結果として生じる無菌的弛みのための効果的な処置の必要性が依然として存在する。
【0008】
癌を治療するために最も広範に使用されている、病的な細胞を優先的に死滅させる1つのアプローチは、比較的低い毒性のプロドラッグを強力な細胞傷害性薬物へと変換し得る酵素をコードする遺伝子を標的細胞に導入することである。次いで、そのプロドラッグの全身投与が、許容される。なぜならこのプロドラッグは、プロドラッグ変換酵素を発現する細胞によって、例えば腫瘍中で、唯一局所的に毒性誘導体へと変換されるからである。このアプローチは、遺伝子指向性酵素−プロドラッグ治療(GDEPT)としてか、または遺伝子が組換えウイルスベクターによって送達される場合は、ウイルス指向性プロドラッグ治療(VDEPT)として知られている(非特許文献13)。
【0009】
酵素/プロドラッグシステムの一つの例は、ニトロレダクターゼおよびアジリジニルプロドラッグCB1954(5−(アジリジン−1−イル)−2,4−ジニトロベンズアミド)である(非特許文献14)。Walkerラット癌細胞株が特にCB1954に対して感受性であったという知見の後、これは、ラットニトロレダクターゼDTジアフォラーゼの発現が原因であったということが示された。しかし、CB1954は、この酵素のヒト形態にとっての質の悪い基質であるので、ヒトの腫瘍細胞は、CB1954に対する感受性がずっと低い。GDEPTは、標的とされた細胞を感作するために、好ましくはCB1954に対するより大きな活性を伴って、適切なニトロレダクターゼを導入する方法として考えられた。NFSB遺伝子(あるいはNFNB、NFSI、またはDPRAとして知られる)によってコードされるEscherichia coliニトロレダクターゼ(EC1.6.99.7、あるいは酸素非感受性NAD(P)Hニトロレダクターゼまたはジヒドロペテリジンレダクターゼとして知られ、そして多くの場合NTRと略記する)は、この目的のために広範に使用されている(非特許文献15において概説される)。NFSBにコードされたニトロレダクターゼ(NTR)は、2つのフラビンモノヌクレオチド(FMN)補因子分子と結合するホモダイマーである。電子供与体としてNADHまたはNADPHを使用し、そして還元型中間体として結合型FMNを使用して、NTRは、CB1954の2つのニトロ基の一方または他方を還元して、毒性の強い4−ヒドロキシルアミン誘導体かまたは比較的無毒性の2−ヒドロキシルアミンのいずれかを与える。細胞内で、5−(アジリジン−1−イル)−4−ヒドロキシルアミノ−2−ニトロベンズアミドは、おそらくさらなる毒性代謝産物を介して、非常に遺伝子毒性になる(非特許文献16)。引き起こされる損傷の正確な性質は不明であるが、他の因子によって引き起こされるものとは異なる。特に高い確率で鎖間架橋結合が生じ、そしてその損傷は、ほとんど修復されないようであり、その結果、CB1954は、例学的に効果的な抗腫瘍剤である(非特許文献17)。
【0010】
GDEPTの目的は、NTR発現細胞だけでなく、首尾よくトランスフェクトまたは形質導入されていないかもしれないバイスタンダー(bystander)腫瘍細胞もまた死滅させるために、標的細胞において、CB1954のようなプロドラッグの効率的な変換を達成することである。
【0011】
この方法で用いられる別の酵素−プロドラッグシステムは、特許文献3(その全体が本明細書中に援用される)に記載されるような、プロドラッグ変換酵素としてのシトクロムP450と、プロドラッグとしてのアセトアミノフェンとの、酵素−プロドラッグシステムである。多くのシトクロムP450酵素は、肝臓中で自然に発現され(例えば、CYP1A2、CYP2E1およびCYP3A4)、アセトアミノフェンを高度に細胞傷害性の代謝産物(N−アセチルベンゾキノンイミン(NABQI))へと変換し得る。このシステムは、種々の臨床適用(特に癌治療の分野における)について提唱されている。シトクロムP450酵素はまた、いくつかの従来的な細胞傷害性プロドラッグ(例えば、シクロホスファミドおよびイホスファミド)を活性化し得る(非特許文献18)。
【0012】
多くのその他の酵素−プロドラッグシステムが、広範に使用され、HSVチミジンキナーゼおよびガンシクロビル(非特許文献19)、シトシンデアミナーゼおよび5−フルオロシトシン(非特許文献20)を含む。
【0013】
非特許文献21は、単離された培養滑膜細胞にインビトロで感染しそして死滅させるウイルス遺伝子治療アプローチ、および、サルのコラーゲン誘発性関節炎モデル(このモデルにおいて、炎症を生じた関節がコラーゲン注射によって誘導される)においてパンヌス組織を死滅させるウイルス遺伝子治療アプローチを記載する。このような動物のおける炎症を生じた関節は、パンヌスと称する慢性炎症から結果として生じる増殖性組織を含む。
【特許文献1】米国特許第5,972,913号明細書
【特許文献2】国際公開第96/39107号パンフレット
【特許文献3】国際特許出願第00/40271号パンフレット
【非特許文献1】NIH Consensus Statement Online.Total Hip Replacement.(1994)September 12−14 1994,12(5):1−31
【非特許文献2】NHS Centre for Reviews & Dissemination.Total hip replacement.Effective Health Care.(1996)Volume2.Number7.Churchill−Livingstone
【非特許文献3】Hellman,Capello and Feinberg.Omnifit cementless total hip arthroplasty:a 10−year average follow−up.Clin Orthop(1999)364:164−174
【非特許文献4】Goldring,Jasty,Roelke,Rourke,Bringhurst and Harris.Formation of a synovial−like membrane at the bone−cement interface.Its role in bone resorption and implant loosening after total hip replacements.Arthritis Rheum(1986)29:575−584
【非特許文献5】Strehle J,DelNotaro C,Orler R and Isler B,The outcome of revision hip arthroplasty in patients older than than age 80 years.Complications and social outcome of different risk groups.J Arthroplasty(2000)15:690−697
【非特許文献6】Shanbhag,Hasselman and Rubash.The John Charnley Award.Inhibition of wear debris mediated osteolysis in a canine total hip arthroplasty model.Clin Orthop(1997)344:33−43
【非特許文献7】Leung,Scammell,Lyons,Czachur,Gilbert,Freedholm,Malbecq,Miller,Carr and Checkley.Alendronate prevents periprosthetic bone loss − 2 year results.Arthritis Rheum(1999)42(Suppl):S270
【非特許文献8】Ralston,Hacking,Willocks,Bruce and Pitkeathly.Clinical,biochemical and radiographic effects of aminohydroxypropylidene bisphosphonate treatment in rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis(1989)48:396−399
【非特許文献9】Eggelmeijer,Papapoulos,Van Paassen,Dijkmans,Vanlkema,Westedt,Landman,Pauwels and Breedveld.Arthritis Rheum(1996)39:396−402
【非特許文献10】Ulrich−Vinther,Carmody,Goater,Soballe,O’Keefe,and Schwarz.Recombinant adeno−associated virus−mediated osteoprotegerin gene theraphy inhibits wear debris−induced osteolysis.J Bone Joint Surg(2002)84A:1405−1412
【非特許文献11】Wooley PH and Schwarz EM.Aseptic loosening.Gene Therapy(2004)11:402−407
【非特許文献12】Teitelbaum.Bone resorption by osteoclasts.Science(2000)289:1504−1508
【非特許文献13】McNeish,Searle,Young and Kerr.Gene−directed enzyme prodrug theraphy for cancer.Advanced Drug Delivery Reviews(1997)26:173−184
【非特許文献14】Knox RJ,Boland MP,Friedlos F et al,Biochemical Pharmacology(1998)37:4671−4677
【非特許文献15】Grove,Searle,Weedon,Green,McNeish and Kerr.Virus−directed enzyme prodrug theraphy using CB1954.Anti−Cancer Drug Design(1999)14:461−472
【非特許文献16】Knox,Friedlos,Marchbank and Roberts.Bioactivation of CB 1954:reaction of the active 4−hydroxylamino derivative with thioesters to form the ultimate DNA−DNA interstrand crosslinking species.Biochem Pharmacol(1991)42:1691−1697
【非特許文献17】Friedlos,Quinn,Knox and Roberts.The properties of total adducts and interstrand crosslinks in the DNA of cell treated with CB 1954.Exceptional frequency and stability of the crosslink.Biochem Pharmacol(1992)43:1249−1254
【非特許文献18】Chen L and Waxman DJ,Cytochrome P450 gene−directed enzyme prodrug theraphy(GDEPT) for cancer.Curr Pharm Des(2002)8:1405−1416
【非特許文献19】Moolten FL et al,Tumour chemosensitivity conferred by inserted herpes thymidine kinase genes:Paradigm for a prospective cancer control strategy.Cancer Res(1986)46:5276−5281
【非特許文献20】Mullen CA,Kilstrup M and Blaese RM,Transfer of the bacterial gene for cytosine deaminase to mammalian cells confers lethal sensitivity to 5−fluorocytosine:A negative selection system.PNAS USA(1992)89:33−37
【非特許文献21】Goosens PH,Schouten GJ,‘t Hart BA,Brok HP,Kluin PM,Breedveld FC,Valerio D and Huizinga TW(1999).Feasibility of adenovirus−mediated nonsurgical synovectomy in collagen−induced arthritis−affected rhesus monkeys.Hum Gene Ther 10:1139−1149
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、弛んだプロテーゼの処置のための再置換(revision)手術に代わる非外科的代替法を提供することであり、この代替法は、界面組織(ならびに、炎症プロセスおよび骨吸収に関与するその界面組織内の細胞)を破壊して、その移植物を再セメント化することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(発明の要旨)
本明細書中で使用される場合、
「細胞型選択的」は、限定された範囲の組織において優先的に発現を促進することを意味する。好ましくは、このような発現は、単一の組織型または細胞型に実質的に限定される。
【0016】
「作動可能に連結されたプロモーター」とは、実質的に近接したシスの関係にあるプロモーターであり、このプロモーターは、この作動可能に連結されたエレメントの発現を指示する。
【0017】
「プロテーゼ周囲(periprosthetic)」とは、移植されたプロテーゼのいずれかの部分を取り囲む空間に関する。
【0018】
「プロテーゼ周囲(periprosthetic)骨溶解」とは、「無菌的弛み(aseptic loosening)」と同義であり、これは、明白な(frank)感染にも外傷にも関連しない、移植されたプロテーゼのなんらかの進行性弛みに関する。
【0019】
「界面組織(interface tissue)」とは、「骨溶解性膜」と同義であり、これは、プロテーゼ周囲骨溶解に関与する、移植されたプロテーゼの周辺のプロテーゼ周囲空間(periprosthetic space)における炎症組織を意味する。
【0020】
本明細書中で使用され「プロテーゼ(prosthesis)」または「整形外科的移植物(orthopaedic implant)」とは、動物またはヒトの骨構造体中へ外科的に移植された任意の材料またはデバイスを意味する。
【0021】
本発明は、このことを、酵素−プロドラッグ治療ストラテジーを使用することによって達成することを目指す。このストラテジーは、プロドラッグ変換酵素を界面組織中の細胞へと送達し、それによって、それらの細胞を特定のプロドラッグに対して感受性にさせるために、遺伝子治療ベクターを使用する。そのプロドラッグの投与は、標的細胞におけるこのプロドラッグから活性な細胞傷害性薬物への変換を引き起こして、その界面組織を死滅させる。溶解した界面細胞からの活性な細胞傷害性薬物の放出はまた、近隣の界面細胞または炎症細胞を死滅させ得る(「バイスタンダー」死滅(「bystander」killing))。これは、(ウイルスベクターについては形質導入による、または非ウイルスベクターについてはトランスフェクションによる)直接的ベクター送達から逃れる細胞もまた排除されるという点で、有利である。
【0022】
1つのストラテジーにおいて、上記酵素をコードする核酸を保有するウイルスベクターは、関節内空間へと注入され、そして続いて上記プロドラッグが、小さなドリル孔と通して投与される。このドリル孔はまた、セメントを注入してインサイチュでプロテーゼを再固定するためにも使用され得る。あるいは、上記プロドラッグは、関節内注射によって投与され得る。関節造影法は、界面組織が、弛んだプロテーゼの周りに、連続的な閉じた区画を形成することを示した。これは、ベクターおよびプロドラッグの両方の高い局所濃度が、非常に低い全身逸脱(systemic escape)リスクで達成されるのを可能にする。従って、この概念は、癌患者における腫瘍内注射(かなりの臨床実績がある手順である)よりも、効力および安全性の両方に関して都合の良い環境を提供する。少なくともアデノウイルスベクターの場合、関節内空間/プロテーゼ周囲空間中に既に存在する流体を、そのベクターを導入する前に除去することによって、その流体中の中和抗体がそのベクターを不活性化して満足のいくレベルの形質導入を妨げる可能性を減らすことが、好ましいものであり得る。
【0023】
好ましくは、上記プロドラッグの導入と、結果として生じる界面組織の細胞の死滅との後に、この組織は除去される。これは、そのプロドラッグの導入と同時にかまたはその後のいずれかにおいて、その界面組織の細胞外構成要素を消化し得る1つ以上の酵素(例えば、コラゲナーゼ、エラスターゼ、またはヒアルロニダーゼ、マトリックスメタロプロテアーゼまたはカテプシン)の導入によって支援され得る。この目的のために有用な他の化合物としては、キレート剤であるEDTA(エチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸)、およびEGTA(エチレングリコール−ビス−(2−アミノエチル)−N,N,N’,N’−四酢酸)が挙げられる。このような処置は、その界面組織を消化して弛ませ、その結果、その界面組織は、関節内空間へと導入された適切なドリル孔を通ってかまたは太い穴空け針(bore needle)を介して、流し出され得る。
【0024】
次いで、完全に弛みかつ創傷清拭された移植物が、再セメント化されて、弛んだすべての構成要素が強固に再付着され、そして完全に機能的なプロテーゼ関節を回復する。
【0025】
あるいは、全身毒性が非常に低いプロドラッグ(例えば、アセトアミノフェン)は特に、上記プロドラッグ変換酵素(例えば、シトクロムP450)をコードするベクターは、局所的に注入され得、その結果、上記の界面組織/関節区画内の細胞のみが形質導入され、一方、そのプロドラッグが、その後全身的に投与される。
【0026】
本発明の一局面において、上記アプローチは、細胞型に関係なく、上記界面組織内に存在する細胞を死滅させることである。実際には、優勢な細胞は、その組織の多くを構成する細胞外マトリックスタンパク質を生成する役割を担う線維芽細胞、および炎症効果の役割を担う単球系統/マクロファージ系統の細胞である。この場合において、そのベクターによってコードされる酵素の発現は、種々の細胞型および組織型において高いレベルの発現を提供する強力な非細胞型特異的プロモーター(例えば、サイトメガロウイルス極初期プロモーター)によって制御され、そして、細胞傷害性効果は、そのベクターおよび/またはプロドラッグが注入される空間内の物理的制限によってその界面組織の細胞に限定される。安全性の観点から最も関心のある正常な細胞は、骨再生の役割を担う骨芽細胞である。ほとんどの場合において、およびほとんどの遺伝子送達ベクターについて、これらの細胞は、プロテーゼ周囲空間内へ注入されたベクターに接近しにくく、従って、形質導入もトランスフェクトもされず、非細胞型特異的プロモーターをたとえ伴っても上記プロドラッグ変換酵素を発現せず、その結果、その後に上記プロドラッグを投与した際にも死滅されない。
【0027】
このような非細胞特異的プロモーターの例としては、サイトメガロウイルス極初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス長末端反復(RSV LTR)、マウス白血病ウイルスLTR、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーターまたはシミアンウイルス40(SV40)後期プロモーター、単純疱疹ウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(tk)プロモーター、アクチンプロモーターまたはユビキチンプロモーターが挙げられる。
【0028】
いくつかの状況において、より選択的な細胞死滅を達成することが有利であり得、その場合において、上記ベクターによってコードされる酵素は、組織型選択的プロモーターまたは細胞型選択的プロモーターの制御下で発現され得る。このようなプロモーターの使用は、特定の系統の細胞(例えば、線維芽細胞)、単球系統/マクロファージ系統の細胞、またはより具体的には、特定の表現型の細胞(例えば、破骨前駆細胞、または完全に分化した破骨細胞)の選択的死滅を可能にする。
【0029】
単球系統/マクロファージ系統の細胞において遺伝子(例えば、プロドラッグ変化酵素をコードする遺伝子)を優先的に発現するために適切なプロモーターの例としては、c−fesおよびCD68が挙げられる。転写因子PU.1についての1つ以上の結合部位を含むことによって特徴付けられるプロモーターが、一般に適切である(GreavesおよびGordon、2002)。
【0030】
破骨細胞または破骨細胞前駆体において優先的に遺伝子を発現するために適切なプロモーターとしては、酒石酸塩抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)プロモーター、RANKプロモーターおよびカテプシンKプロモーターが挙げられる。小眼球症転写因子ファミリー(MITF、TFE3、TFEBおよびTFEC)についての1つ以上の結合部位(コンセンサス結合配列5’−CA()GTGを含むE−ボックス)を含み、必要に応じて転写因子PU.1についての結合部位も含むことによって特徴付けられるプロモーターが、一般に適切である(Motyckovaら、2001;Manskyら、2002、GreavesおよびGordon、2002)。
【0031】
このような特異的プロモーターの使用によって、上記酵素の発現は、特定の標的細胞(例えば、細胞外マトリックスタンパク質(例えば、コラーゲン)の蓄積を担う細胞(線維芽細胞)、炎症性サイトカインを分泌する役割を担う細胞(例えば、マクロファージ)、または骨吸収を直接担う細胞(破骨細胞))に制限され得、他の細胞型(例えば、新しい骨を沈着する役割を担う骨芽細胞)を保護する。
【0032】
組織選択的発現を伴うかまたは伴わない、ベクターおよび/またはプロドラッグの局所投与の種々の可能な組み合わせは、弛んだプロテーゼの非外科的処置およびその移植物の再セメント合着を可能にする。このことは、ビスホスホネートのような化合物の全身投与またはオステオプロテゲリンのような高度に生物活性な分子の全身発現によってプロテーゼ周囲の弛みを防止することを目的とする従来技術の方法における制限を克服する。
【0033】
従って、本発明は、プロドラッグを活性な細胞傷害性化合物へと変換し得る酵素をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供し、その酵素の発現は、実質的に細胞型選択的な発現を生じる作動可能に連結されたプロモーターによって制御されている。好ましくは、発現は、単球系統/マクロファージ系統の細胞に制限される。このようなプロモーターの好ましい例としては、c−fesおよびCD68のような遺伝子のプロモーターが挙げられる。転写因子PU.1についての1つ以上の結合部位を含むことによって特徴付けられるプロモーターが、一般に適切である。
【0034】
あるいは、発現は、線維芽細胞に制限される。
【0035】
より好ましくは、発現は、破骨細胞または破骨前駆体に制限される。このような発現を提供する適切なプロモーターには、酒石酸塩抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)、核因子Bのレセプターアクチベーター(RANK)、およびカテプシンKなどの遺伝子と天然で機能的に連結されているプロモーターがある。小眼球症転写因子ファミリー(MITF、TFE3、TFEBおよびTFEC)についての1つ以上の結合部位(コンセンサス結合配列5’−CA(T/G)GTGを含むE−ボックス)を含むこと、および必要に応じて転写因子PU.1についての結合部位もまた含むことによって特徴付けられるプロモーターが、一般に適切である。
【0036】
好ましくは、コードされる酵素は、ニトロレダクターゼであり、好ましくは、プロドラッグCB1954(5−(アジリジン−1−イル)−2,4−ジニトロベンズアミド)の活性化のために適切なニトロレダクターゼである。あるいは、その酵素は、シトクロムP450である。他の適切な酵素/プロドラッグシステムとしては、HSVチミジンキナーゼおよびガンシクロビル(Moolten,1986);シトシンデアミナーゼおよび5−フルオロシトシン(Mullenら、1992)が挙げられる。
【0037】
別の局面では、本発明は、上記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。このベクターは、DNAを細胞へと移入することが可能な任意のベクターであり得る。好ましくは、このベクターは、組込みベクターまたはエピソームベクターである。
【0038】
好ましい組込みベクターとしては、組換えレトロウイルスベクターが挙げられる。組換えレトロウイルスベクターは、レトロウイルスゲノムの少なくとも一部分のDNAを含み、この部分は、標的細胞に感染することが可能である。用語「感染」とは、ウイルスが遺伝物質をその宿主または標的細胞へ移入するプロセスを意味するために使用される。好ましくは、本発明のベクターの構築において使用されるレトロウイルスはまた、標的細胞に対するウイルスの複製の影響を除去するために複製欠損性にされる。このような場合、その複製性ウイルスゲノムは、従来技術に従ってヘルパーウイルスによってパッケージングされ得る。一般に、感染性および機能性遺伝子の移入能力に関する上記の基準を満たす任意のレトロウイルスが、本発明の実施において利用され得る。レンチウイルスベクターが、特に好ましい。
【0039】
適切なレトロウイルスベクターとしては、当業者にとって周知である、pLJ、pZip、pWeおよびpEMが挙げられるが、これらに限定されない。複製欠損性レトロウイルスについての適切なパッケージングウイルス株としては、例えば、ΨCrip、ΨCre、Ψ2およびΨAmが挙げられる。
【0040】
本発明において有用な他のベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、SV40ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、HSVベクター、およびポックスウイルスベクターが挙げられる。好ましいエピソームベクターは、アデノウイルスベクターである。アデノウイルスベクターは、当業者にとって周知であり、そして多くの細胞型(気道上皮、骨格筋、肝臓、脳、および皮膚を含む)へ遺伝子を送達するために使用されている(Hittら、1997;Anderson、1998)。
【0041】
さらに好ましいベクターは、アデノ随伴(AAV)ベクターである。AAVベクターは、当業者にとって周知であり、そして遺伝子治療適用のために、ヒトTリンパ球、線維芽細胞、鼻ポリープ、骨格筋、脳、赤血球系および造血幹細胞を安定に形質導入するために使用されている(Phillpら、1994;Russellら、1994;Flotteら、1993;Walshら、1994;Millerら、1994;Emerson、1996)。国際特許出願WO91/18088は、特定のAAVベースのベクターを記載する。
【0042】
他の好ましいエピソームベクターとしては、ウイルス複製起点(例えば、EBV、ヒトパポバウイルス(BK)およびBPV−1由来のウイルス複製起点)に由来する機能を有する、一過性非複製型のエピソームベクターおよび自己複製エピソームベクターが挙げられる。このような組込みベクターおよびエピソームベクターは、当業者にとって周知であり、そして当業者にとって周知の文献中に完全に記載される。特に、適切なエピソームベクターは、WO98/07876に記載される。
【0043】
哺乳動物人工染色体もまた、本発明におけるベクターとして使用され得る。哺乳動物人工染色体の使用は、Calos(1996)によって議論される。
【0044】
さらに好ましい実施形態では、本発明のベクターは、プラスミドである。このプラスミドは、非複製型非組込み型プラスミドであり得る。
【0045】
用語「プラスミド」とは、本明細書中で使用される場合、発現可能な遺伝子をコードする任意の核酸をいい、この用語は、線状の核酸または環状の核酸、および二本鎖核酸または一本鎖核酸を包含する。この核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、そして改変型ヌクレオチドまたは改変型リボヌクレオチドを含み得、そして、メチル化、または保護基を含むこと、もしくはキャップ構造を含むこと、もしくはテール構造を含むことなどの手段によって、化学的に修飾され得る。
【0046】
非複製型非組込み型プラスミドは、宿主細胞中へトランスフェクトされた場合に、複製せずかつその宿主細胞のゲノムへ中へと特異的に組み込まれない(すなわち、高頻度では組み込まれず、かつ特定部位で組み込まれない)、核酸である。
【0047】
複製型プラスミドは、標準的なアッセイ(UstavおよびStenlund(1991)の標準的な複製アッセイが挙げられる)を使用して同定され得る。
【0048】
本発明はまた、上記の単離されたポリヌクレオチドを用いてトランスフェクトされた宿主細胞、または本発明のこのようなポリヌクレオチドを含むベクターを用いてトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。この宿主細胞は、任意の真核生物細胞であり得る。好ましくは、これは哺乳動物細胞である。より好ましくは、これはヒト細胞であり、最も好ましくは、これは、患者に由来しそしてインビボまたはエキソビボのいずれかでトランスフェクトまたは形質導入された自家細胞である。
【0049】
本明細書中に記載されるベクターを細胞へと送達するための多くの技術が公知であり、そして本発明に従って有用である。これらの技術としては、核酸縮合剤の使用、エレクトロポレーション、アスベストとの複合体化、ポリブレン、DEAEセルロース、デキストラン、リポソーム、カチオン性リポソーム、リポポリアミン、ポリオルニチン、粒子ボンバードメント、および直接的マイクロインジェクションが挙げられる(KucherlapatiおよびSkoultchi,1984;Keownら、1990;Weir,1999;NishikawaおよびHuang、2001によって概説される)。
【0050】
本発明のベクターは、ウイルス性送達手段または非ウイルス性送達手段を介して、宿主細胞へと非特異的にかまたは特異的に(すなわち、指定された宿主細胞サブセットへと)送達され得る。ウイルス起源の好ましい送達方法としては、ウイルスパッケージングシグナルが操作された本発明のベクター(例えば、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターおよびパポバウイルスベクター)のためのトランスフェクションレシピエントとしての、ウイルス粒子生成パッケージング細胞株が挙げられる。好ましい非ウイルスベースの遺伝子送達手段および方法もまた、本発明において使用され得、それには、裸の核酸の直接的なインジェクション、核酸縮合ペプチド、および非ペプチド、カチオン性リポソーム、ならびにリポソーム中への封入が挙げられる。
【0051】
組織中へのベクターの直接的送達は、記載されており、そしていくらかの(たいていは、短期間の)遺伝子発現が達成されている。甲状腺へのベクターの直接送達(Skikeら、1994)、黒色腫へのベクターの直接送達(Vileら、1993)、皮膚へのベクターの直接送達(Henggeら、1995)、肝臓へのベクターの直接送達(Hickmanら、1994)、および気道上皮の曝露後のベクターの直接送達(Meyerら、1995)は、従来技術において明確に記述されている。筋肉へのDNAの直接的インジェクションは、長期間にわたる発現をもたらすことが示されている(Wolffら、1990)。
【0052】
ウイルスエンベロープタンパク質のアミノ酸配列に由来する種々のペプチドは、ポリリジンDNA複合体とともに投与される場合、遺伝子移入において使用されている(Plankら、1994;Trubetskoyら、1992;WO91/17773;WO 92/19287)。Mackら(1994)は、カチオン性脂質とのポリリジン結合体の共縮合は、遺伝子移入の効率の改善をもたらし得ることを示唆する。国際特許出願WO95/02698は、カチオン性脂質遺伝子移入の効率を増加することを試みるためのウイルス構成要素の使用を開示する。
【0053】
本発明において有用な核酸縮合剤としては、スペルミン、スペルミン誘導体、ヒストン、カチオン性ペプチド、カチオン性非ペプチド(例えば、ポリエチレインイミン(PEI))およびポリリジンが挙げられる。「スペルミン誘導体」とは、スペルミンのアナログおよび誘導体をいい、国際特許出願WO93/18759(1993年9月30日に公開された)に示されるような化合物を含む。
【0054】
ジスフィルド結合は、送達ビヒクルのペプチド構成要素を連結するために使用されている(Cottenら、1992)。Trubetskoyら(上述)も参照のこと。
【0055】
細胞へのDNA構築物の送達のための送達ビヒクルは、当該分野において公知であり、これには、例えば、WuおよびWu、1998;Wilsonら、1992;および米国特許第5,166,320号において記載されるような、細胞表面レセプターに特異的なDNA/ポリカチオン複合体が挙げられる。
【0056】
本発明に従うベクターの送達は、核酸縮合ペプチドを使用することを企図する。核酸縮合ペプチドは、ベクターを縮合しそしてそのベクターを細胞へと送達するために有用であり、これは、国際特許出願WO96/41606に記載される。官能基が、WO96/41606に記載されるように、本発明に従うベクターの送達に有用なペプチドに結合され得る。これらの官能基としては、特定の細胞型を標的とするリガンド(例えば、モノクローナル抗体、インスリン、トランスフェリン、アシアログリコプロテイン、または糖)が挙げられ得る。従って、このリガンドは、非特異的な様式でかまたは特異的な(すなわち、細胞型に関して制限される)様式で、細胞を標的とし得る。
【0057】
上記の官能基はまた、脂質(例えば、パルミトイル、オレイル、またはステアロイル);中性親水性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、またはポリビニルピロリジン(PVP));膜融合型(fusogenic)ペプチド(例えば、インフルエンザウイルスのHAペプチド);またはリコンビナーゼもしくはインテグラーゼを含み得る。上記の官能基はまた、細胞内輸送タンパク質(例えば、核局在化配列(NLS));エンドソームエスケープ(escape)シグナル(例えば、膜破壊(disruptive)ペプチド);またはタンパク質を直接細胞質へ方向付けるシグナルを含み得る。
【0058】
本発明は、記載されるような本発明の単離されたポリヌクレオチド、ベクターまたは宿主細胞と;薬学的に受容可能な賦形剤、キャリア、または緩衝液と;を含む、薬学的組成物を提供する。
【0059】
別の局面において、本発明は、記載されるような本発明の単離されたポリヌクレオチド、ベクターまたは宿主細胞と;上記ヌクレオチドまたはベクターによってコードされるかあるいは上記宿主細胞によって発現される酵素によって活性な細胞傷害性化合物へと変換され得るプロドラッグと;を含む生成物を、整形外科的移植物(例えば、完全股関節形成術のために使用されるプロテーゼ)の無菌的弛みの処置において同時にか別々にかまたは連続的に使用するための併用医薬として、提供する。この弛みは、寛骨臼構成要素の弛みであっても、または大腿構成要素の弛みであっても、あるいはその両方であってもよい。本発明は、股関節部のプロテーゼには限定されないが、無菌的弛みが起こり得る任意の骨内移植物に適用され得る。従って、膝、肘、肩、または骨格の他の任意の関節の関節形成術において使用されるプロテーゼのための本発明の使用が、具体的には考えられる。
【0060】
このような使用は、ヒトでの使用に限定される必要がない。この方法は、動物(特に、ウマおよびイヌにおける)関節のプロテーゼの弛みにも等しく適用可能である。
【0061】
好ましくは、このような生成物の酵素は、ニトロレダクターゼであり、より好ましくは、CB1954を活性化するために適切なニトロレダクターゼである。最も好ましくは、上記プロドラッグは、CB1954である。
【0062】
あるいは、上記酵素は、本明細書中に記載される型のシトクロムP450である。最も好ましくは、上記プロドラッグは、アセトアミノフェンである。
【0063】
本発明のさらなる局面において、整形外科的移植物の無菌的弛みの処置において同時にか別々にかまたは連続的に使用するための併用医薬の製造のための生成物の使用が提供される。この生成物は、少なくとも1つのベクター(このベクターは、プロドラッグを活性な細胞傷害性化合物に変換し得る酵素をコードする単離されたポリヌクレオチドを含み、この酵素の発現は、作動可能に連結されたプロモーターによって制御されている)と;この酵素によって活性な細胞傷害性化合物へと変換され得るプロドラッグと;の組み合わせを含む。
【0064】
上記プロドラッグ変換酵素の発現を制御するプロモーターは、非細胞型特異的プロモーターであり得る。好ましくは、上記プロモーターは、種々の組織型および細胞型において高レベルの発現を生じる。より好ましくは、上記プロモーターは、CMV極初期プロモーター、RSV LTR、マウス白血病ウイルスLTR、SV40初期プロモーターまたはSV40後期プロモーター、HSV tkプロモーターのうちの少なくとも1つから選択される。さらに好ましい実施形態において、上記プロモーターは、ヒトサイトメガロウイルス極初期プロモーターである。あるいは、上記プロモーターは、マウスサイトメガロウイルス極初期プロモーターである。
【0065】
整形外科的移植物の無菌的弛みの処置において同時にか別々にかまたは連続的に使用するための併用医薬の製造における使用のための代替的な好ましい生成物において、上記酵素の発現は、作動可能に連結されたプロモーターによって制御され、このプロモーターは、実質的に細胞型特異的な発現を提供する。より好ましくは、発現は、単球系統/マクロファージ系統の細胞または線維芽細胞に制限され、その場合において、上記プロモーターは、上記のように、これらの系統のうちの1つの細胞において選択的に発現される遺伝子に天然で連結されており得る。
【0066】
最も好ましくは、発現は、上記のように、破骨細胞または破骨細胞前駆体に制限される。
【0067】
好ましくは、上記酵素は、ニトロレダクターゼであり、そして最も好ましくは、CB1954を活性化するために適切なニトロレダクターゼである。この場合において、上記プロドラッグはCB1954であることが、好ましい。
【0068】
あるいは、上記酵素は、本明細書中に記載されるように、シトクロムP450であり得る。この場合において、上記プロドラッグは、アセトアミノフェンであることが好ましい。あるいは、上記プロドラッグは、従来の細胞傷害性プロドラッグ(特に、シクロホスファミドまたはイホスファミド)であり得る。
【0069】
本発明のさらなる局面は、整形外科的移植物の無菌的弛みを処置する方法を提供し、この方法は、プロドラッグを活性な細胞傷害性化合物に変換し得る酵素をコードするベクターを患者に投与する工程、標的細胞中で上記酵素を発現させる工程、および適切なプロドラッグを投与する工程を包含する。
【0070】
当業者によって理解されるように、投与量は、明確に理解される臨床パラメーターによって決定される。しかしながら、処置される関節1つあたりのウイルス用量は、10pfu〜1012pfuの間、より好ましくは10pfu〜1012pfuの間、さらに好ましくは10pfu〜1012pfuの間、および最も好ましくは10pfu〜1012pfuの間であることが、好ましい。同様に、プロドラッグの用量は、臨床パラメーターに依存する。CB1954の場合において、関節内注射によって与えられる用量は、5mg・m−2〜40mg・m−2の間、好ましくは5mg・m−2〜30mg・m−2の間、さらに好ましくは10mg・m−2〜25mg・m−2の間、より好ましくは15mg・m−2〜25mg・m−2の間、および最も好ましくは24mg・m−2であるべきであることが、好ましい。
【0071】
ウイルスベクターは、ヨウ素含有造影剤とともに同時投与されないことが好ましい。なぜなら、このような造影剤は、標的細胞のウイルス形質導入を阻害し得るからである。その注入が、関節鏡検査による視覚化を用いて方向付けられる場合、空気関節造影(air arthrogram)が行われること、またはウイルス形質導入を阻害しない造影剤が使用されることが、好ましい。
【0072】
好ましくは、上記ベクターは、関節内注射またはプロテーゼ周囲注射によって投与される。
【0073】
上記プロドラッグは、関節内注射またはプロテーゼ周囲注射によって投与されることもまた、好ましい。あるいは、上記プロドラッグは、全身的投与(より好ましくは非経口的投与)され得る。しかしながら、いくつかのプロドラッグ(特に、アセトアミノフェン)は、経口投与され得る。
【0074】
1つの好ましい実施形態において、上記プロドラッグ変換酵素の発現は、非細胞型特異的発現を提供するプロモーターによって制御される。この場合において、発現は、特定の組織型にも細胞型にも制限されない。本明細書中に議論されるように、このようなプロモーターは、種々の細胞型において高レベルの発現を生じることが、好ましい。適切なプロモーターの例としては、サイトメガロウイルス極初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスの長末端反復(RSV LTR)、マウス白血病ウイルスLTR、シミアンウイルス40(SV40)初期またはシミアンウイルス40(SV40)後期プロモーター、単純疱疹ウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(tk)プロモーターが挙げられる。
【0075】
代替的な好ましい実施形態において、上記プロドラッグ変換酵素の発現は、実質的に細胞型特異的な発現を提供するプロモーターによって制御される。好ましくは、この発現は、単球系統/マクロファージ系統の細胞に、実質的に制限される。適切なプロモーターは、本明細書中に記載される。あるいは、上記発現は、線維芽細胞における発現に制限される。より好ましくは、上記発現は、破骨細胞または破骨細胞前駆体に、実質的に制限される。適切かつ好ましいプロモーターとしては、TRAPプロモーター、RANKプロモーター、およびカテプシンKプロモーターが挙げられる。
【0076】
本明細書中に記載されるように、好ましいプロドラッグ変換酵素としては、ニトロレダクターゼ(特に、CB1954を活性化するために適切なニトロレダクターゼ)、およびシトクロムP450酵素(特に、NABQIに対してアセトアミノフェンを活性化するために最も適切なシトクロムP450酵素)が挙げられる。従って、好ましいプロドラッグとしては、CB1954およびアセトアミノフェンが挙げられる。しかしながら、シトクロムP450酵素の場合において、シクロホスファミドのような従来の細胞傷害性プロドラッグもまた、適切である。
【0077】
本発明のさらなる局面において、単離されたポリヌクレオチド、またはそのようなポリヌクレオチドを含むベクター、またはそれらのいずれかを含む宿主細胞は、細胞に対して直接毒性のあるタンパク質またはペプチドをコードし得るかあるいは発現し得る。この場合において、プロドラッグの投与は、必要とされない。界面組織によって囲まれた関節/プロテーゼ周囲空間の自己充足的(self−contained)性質が原因で、この病的空間内の細胞をトランスフェクトまたは形質導入してそれらの細胞に毒性生成物を発現させるように、この病的空間内にベクターを導入することが可能である。この様式においてコードおよび使用され得る毒素には、リシン、アブリン、ジフテリア毒素、Pseudomonas体外毒素、DNase、RNaseおよびボツリヌス毒素がある。
【0078】
好ましくは、このような直接的に毒性の分子の発現は、本明細書中に記載されるような実質的に細胞型特異的な発現を提供するプロモーターの制御下においてである。この様式において、上記毒素の発現は、上記ベクターが導入される空間の物理的な束縛と、トランスフェクトまたは形質導入される細胞の表現型との両方によって規定される、標的細胞に制限される。この様式において、線維芽細胞もしくは炎症細胞(例えば、単球系統/マクロファージ系統の活性化された細胞)または特定の細胞(例えば、骨吸収を直接担う破骨細胞およびそれらの前駆体)が、標的とされる。
【0079】
従って、毒性ペプチドまたは毒性タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドが提供され、ここで、この毒素の発現は、実質的に細胞型特異的な発現を提供するプロモーターによって制御される。好ましくは、この発現は、単球系統/マクロファージ系統の細胞に制限される。あるいは、発現は、線維芽細胞に制限される。より好ましくは、発現は、破骨細胞および破骨前駆細胞に制限される。本明細書中に記載されるように、適切かつ好ましいプロモーターとしては、マクロファージ特異的発現を提供するためのc−fesプロモーターおよびCD68プロモーター;ならびに破骨細胞特異的発現を提供するためのTRAPプロモーター、RANKプロモーターおよびカテプシンKプロモーター;が挙げられる。コードされる適切かつ好ましい毒素としては、リシン、アブリン、ジフテリア毒素、Pseudomonas体外毒素、DNase、RNaseおよびボツリヌス毒素が挙げられる。
【0080】
上記ポリヌクレオチドを含むベクター;およびそれらのいずれかを含む宿主細胞;ならびに本明細書中に記載されるような単離されたポリヌクレオチドまたはベクターと、薬学的に受容可能な賦形剤、キャリア、希釈剤または緩衝液とを含む薬学的組成物;もまた、提供される。
【0081】
さらなる実施形態において、本明細書中に記載されるような毒性ペプチドもしくは毒性タンパク質をコードまたは発現する、単離されたポリヌクレオチド、ベクターまたは宿主細胞を含む生成物が、整形外科的移植物の無菌的弛みの処置のための医薬として提供される。上記発現は、種々の型の細胞において高レベルの発現を生じる非細胞型特異的プロモーターの制御下においてであり得る。好ましくは、上記発現は、本明細書中に記載されるような実質的に細胞型特異的な発現を提供するプロモーターによって制御される。
【0082】
整形外科的移植物の無菌的弛みの処置のための医薬の製造におけるこのような生成物の使用もまた、提供される。
【0083】
さらなる局面において、整形外科的移植物の無菌的弛みの処置のためのキットが提供され、このキットは、
a)薬学的に受容可能な緩衝液中にある、プロドラッグを活性な細胞傷害性化合物に変換し得る酵素をコードする単離されたポリヌクレオチドまたはベクター(上記酵素の発現は、作動可能に連結されたプロモーターによって制御されている);
b)薬学的に受容可能な緩衝液中にある、上記酵素によって活性な細胞傷害性化合物に変換され得るプロドラッグ;
c)薬学的に受容可能な緩衝液中にある、組織消化溶液(コラゲナーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼからなるリストより選択される少なくとも1つの酵素;および/またはEDTA、EGTAなどのキレート剤を含む);
d)上記整形外科的移植物の再固定のために適切なセメント;
を備える。
【実施例】
【0084】
(実施例1 CTL102(Ad5−NTRおよびCB1954)を用いる処置のための手順)
(材料)
薬物製品(CTL102注射剤)は、透明であるかまたは実質的に透明である、滅菌水性水溶液である。この溶液は、pH7.4で緩衝化された、公称平均効力が2×1011粒子ml−1のCTL102ビリオンを含有する。
【0085】
CB1954を、溶媒(N−メチルピロリドン:ポリエチレングリコール)中の滅菌溶液として処方する(2:7v/v;17.8mg CB1954ml−1)。使用の直前に、溶媒中のプロドラッグを、滅菌生理食塩水中に希釈し、CB1954の最高最終濃度を5mgにする。
【0086】
プロテーゼを安定させるために、低粘度の骨セメント(Howmedica Inc(Rutherford,NJ,USA)からのトブラマイシンを含むSimplex(登録商標)P)を使用する。この放射線不透過性の骨セメントは、液体モノマー構成要素(2mlの97.4%メチルメタクリレート、2.6%のN,N−ジメチル−p−トルイジン、75ppmのヒドロキノン)とポリマー粉末(6gのポリメチルメタクリレート、30gのメチルメタクリレート−スチレンコポリマー、4gの硫酸バリウム、1gの硫酸トブラマイシン)との混合物である。これらの構成要素を、使用直前に減圧混合する(0.9バール、1分間)。
【0087】
関節造影のためには、Hexabrix 320(ナトリウムメグルミンイオキサグレード(Guerbet,Roissy Charles de Gaulle Cedex,France))造影剤を使用する。
【0088】
(手順)
中和抗アデノウイルス抗体を含み得る滑液および炎症性滲出液を除去するために関節を注意深く洗った後に、3×10pfuのCTL102を、関節内に注入し、プロテーゼ周囲空間の全体にわたる細胞へのベクター送達をもたらす。48時間後に、標的細胞の形質導入およびニトロレダクターゼ導入遺伝子の発現を可能にするために、CB1954(24mg m−2の投与量)を、関節内に注入する。プロテーゼ周囲空間へのCTL102およびCB1954の自由なアクセスを確実にするために、プロテーゼの周りに造影剤を示す関節造影図を有する患者を選択することが好ましい。従って、患者は、通常3回の関節造影(1回は造影剤のアクセスを確実にするため、1回はウイルスベクターを注入するため、そして1回はCB1954プロドラッグを注入するため)を経験する可能性がある。
【0089】
いくつかの状況において、多くの日数が経った後、死滅した界面組織を、必要に応じて洗い流すことによってかまたは物理的壊死組織切除によって除去し得る。この界面組織を首尾よく減少させた場合に、プロテーゼを再固定する。そのプロテーゼを骨に再固定するために、セメントをプロテーゼ周囲空間中に注入する。プロテーゼ周囲空間を洗い流してセメントを注入するために、骨を貫いてプロテーゼ周囲空間に到る多くの穴を穿孔する。これは、使用されるプロテーゼの設計に依存する。多くの一般的な設計においては、4つの穴が最低限必要である。なぜなら、3つの穴が、三次元空間中で大腿構成要素を固定するために必要であり、そして1つの穴が、寛骨臼を固定するために必要であるからである。骨髄生検はかなり痛くそして骨は局所的には麻酔し得ないので、これらの手順は、全身麻酔または脊椎麻酔の下で行われる。
【0090】
(実施例2 CTL102(Ad5−NTR)の生成)
(材料および方法)
CTL102を、Djehaら(2001)に記載されるように、PerC6ヘルパー細胞における相同組換えによって構築した。この細胞を、90%コンフルエンスにて、移入ベクターpTX0375と、リポフェクタミントランスフェクション試薬(Life Technologies)と複合体を形成した骨格ベクターpPS1160との等モル混合物を使用してトランスフェクトした。
【0091】
pTX0375を二段階で構築した:
(i)NTR遺伝子と融合したCMVプロモーター/エンハンサーを、1.5kbのBamHI−部分的BglII断片としてpTX0340から切除し、これをpSW107の唯一のBamHI部位へとクローン化した。pSW107は、pBluescriptベースのベクター(Stratagene)であり、BamHI部位に近接して、ヒト補体2遺伝子ポリアデニル化配列と融合したヒトβ−グロビンIVS IIを含む。プラスミドpTX0374は、必要な方向にてCMV.NTR断片を含む。このプラスミドを、CMVプロモーター/エンハンサーにアニールするT3プライマー(5’−ATTAACCCTCAC−TAAAG−3’)と、NTRプライマーであるECN2(5’−TCTGCTCGGCCTGTTCC−3’)とを使用するPCRによって同定した。
【0092】
(ii)完全なNTR発現カセットを、2.5kbのSpeI断片としてpTX0374から切除し、そしてE1欠失処理済みアデノウイルス移入ベクターpPS1128の唯一のSpeI部位へと、Ad5配列に対して左→右の方向でクローン化した。pPS1128は、NT3525〜10589に融合した、左側ITR〜ヌクレオチド(nt.)359のAd5配列を含む、PUC19ベースのプラスミドである。
【0093】
pPS1160を構築した。この構築は、PacIでpPS1128を線状化し、XbaI部位を含むPacI適合性アダプター(5’−TACATCTAGATAAT−3’+5’P−TTATCTAGAT−GTA−3’)とライゲーションすることによった。その後、XbaI消化して、Ad5配列3524〜10589を含む7kbのXbaI断片を切り離した。次いで、これを、XbaIで線状化したpPS1022中へクローン化した。pPS1022は、nt10589〜右側ITRのAd5配列を含むが、NT28593〜30470(E3領域)を欠失している、pU9ベースのプラスミドである。必要な方向でこの断片を含む組換え体を、10589にあるXbaIに隣接するプライマー(右方向、5’−TCGAGTCAAATACGTAGTCGT−3’;左方向、5’−TGTTTCCGGAGGAATTTGCAA−3’)を使用するPCRによって同定した。プラスミドpPS1160/18がXbaI断片(pPS1160/18)の単一コピーを含むことを、HindIIIおよびPstIでの消化によって確かめた。
【0094】
トランスフェクトされたPerC6細胞を、(トランスフェクションの約7日間〜約9日間後の)広範囲にわたるCPEの出現の後に収集し、組換えウイルスを、感染培地(DMEM、1%のFCS、2mMのMgCl)における3回の凍結融解サイクルによって放出させた。PerC6細胞上での2ラウンドのプラーク精製の後で、それらのウイルスをラージスケールまで培養し、そしてCsCl密度遠心分離によって精製した。バンド形成したウイルスを、過剰な保存緩衝液(10mMのTris(pH7.4)、140mMのNaCl、5mMのKCl、0.6mMのNaHPO、0.9mMのCaCl、0.5mMのMgCl、および5%のスクロース)に対して透析し、液体窒素中でアリコートの状態で瞬間凍結し、そして−280℃にて保存した。粒子濃度を、BCA Protein Assay Reagent(Pierce,Rockford,IL)を使用し変換率1mg/ml=3.4×1012ウイルス粒子/mlで決定した。感染力価を、プラークアッセイによって決定した。ゲノムDNAを、プロテイナーゼK/SDSを用いる消化、フェノール−クロロホルム抽出、およびエタノール沈殿によって、バンド形成したアデノウイルスから単離し、そして制限酵素消化によって特徴付けした。
【0095】
(実施例3 CTL102およびCB1954による、患者由来の界面組織の死滅)
界面組織を死滅させるためにウイルス送達される酵素−プロドラッグシステムの使用についての実行可能性を実証するために、再置換(revision)手術の間に2人の患者から採取した細胞を、インビトロで培養し、一定範囲のMOIのCTL102とともにインキュベートし、そして引き続きCB1954に曝した。次いで、細胞の生存度を、代謝活性アッセイを使用して決定した。
【0096】
(方法)
(界面組織サンプル)
記載される全ての実験に関して、界面細胞を用いた。整形外科医による再置換(revision)手術中に界面組織をプロテーゼ周囲空間から取り出して、滅菌リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に収集した。結合組織および脂肪を完全に除去し、この界面組織を、少なくとも2時間、37℃で、コラゲナーゼ1A(1mg/ml;Sigma、St Louis、MO、USA)を使用して消化した。次いで、この組織/コラゲナーゼ物質を200μmのフィルター(NPBI、Emmer−Compascuum、The Netherlands)を通して濾過することによって、細胞を収穫した。これらの細胞を、75cmフラスコ(Cellstar、Greiner、Alphen aan de Rijn、The Netherlands)中で、グルタマックス(glutamax)(GibcoBRL、Paisley、UK)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(Boehringer Mannheim、Germany)、ならびに10%ウシ胎仔血清(FCS;GibcoBRL、Paisley、UK)を補充した、Iscove改変Dulbecco培地(IMDM;Biowitthaker、Verviers、Belgium)中で。37℃において5% COにて行った。
【0097】
各実験の前に、0.25%のトリプシン(GibcoBRL、Paisley、UK)を使用して、界面細胞をこのフラスコから脱着した。これらの細胞を、ビュルケル計算板(burker counter)にて計数し、トリパンブルーによって死細胞を取り除いた。細胞を、96ウェルプレート(平底)中に、ウェル1個当たり5,000細胞の密度で接種した。細胞を一晩インキュベートして、底面に付着させた。各実験の前に、これらのウェルを、IMDMを用いて2回洗浄した。この実験のために、2回継代〜4回継代の界面細胞を用いた。光学顕微鏡法は、これらの細胞のうちの95%より多くが界面細胞であることを示した。
【0098】
(形質導入および細胞死滅アッセイのプロトコル)
0日目:2人の患者に由来する界面細胞を、96ウェルプレート中のIMDM(10% FCS)中に、5000細胞/ウェルにて、ウェル1個当たり100μlで、接種した。
【0099】
1日目:0IU/細胞、1IU/細胞、5IU/細胞、25IU/細胞、100IU/細胞、200IU/細胞のCTL102(もしくは希釈物)を用いて、IMDM(10% FCS)中で、ウェル1個当たり50μlで、細胞を感染させた。
【0100】
2日目:細胞を、IMDM(10% FCS)中で2回洗浄し、この後、細胞を、2時間または24時間、0μM、0.1μM、0.5μM、1μM、5μM、および50μMのCB1954(もしくはビヒクル)と共に、IMDM(10% FCS、10% HS)中で、ウェル1個当たり50μlで、インキュベートした。
【0101】
2日目/3日目:細胞を、IMDM(10% FCS)を用いて1回洗浄し、次いで、IMDM(10% FCS、10% HS)中で、ウェル1個当たり5μlで、インキュベートした。
【0102】
4日目:写真を撮影した。培地にIMDM(10% FCS)を補給し、10μlのWST試薬(Roche)を加え、そして、これらのプレートを2時間インキュベートした。この後、415nmでの吸光度を計測した。
【0103】
(結果)
図2Aおよび図2Bにおいて示されるように、ウイルスおよびCB1954の用量依存性死滅を、両方の患者由来の細胞について観察した。重要なことに、診療室において容易に達成し得るウイルスおよびCB1954の用量(200ウイルスpfu/細胞、および50μMのCB1954濃度)を用いた場合に、効率的(90%)な死滅が観察された。
【0104】
これらの結果は、界面細胞が、HAdV−5−ベクターによって形質導入され得、NTR/CB1954アプローチによって死滅させられ得ることを示す。ヒトアデノウイルス5は、広範囲の分裂中のヒト細胞もしくは分裂していないヒト細胞(線維芽細胞およびマクロファージを含む)に感染し得る(Djehaら、2001年)。
【0105】
GDEPTによる細胞の死滅は、種々の細胞株において多様なアプローチを使用して以前に研究されている。NTR/CB1954アプローチは、いくつかの理由に起因して、臨床的評価のために魅力的である:(1)NTR/CB1954アプローチは、分裂中の細胞および分裂していない細胞の両方を死滅させ得る毒性因子を生成する;(2)細胞死の誘導は、p53非依存性機構によって起こる;(3)CB1954は、ヒトにおいて十分に耐容される(Djehaら、2001年)。NTR/CB1954アプローチによる細胞死滅は、種々のヒト癌細胞において効果的であることが証明されている(Chung−Fayeら、2001年;Bilslandら、2003年、Greenら、2003年;McNeishら、1998年;Shibataら、2002年;Weedonら、2000年;Wilsonら、2002年)が、滑膜細胞においても界面細胞においても以前には研究されていない。本研究は、界面細胞が、NTR/CB1954アプローチによって効果的に死滅させられ得ることを示す。
【0106】
本研究に関して、2回継代〜4回継代の界面細胞を用いた。これらの継代物は、培養のアーチファクトを最大限に減少させるために使用した。一方で、非常に少ない回数(0回および1回)の継代物において、混入する細胞(特に、マクロファージ)の存在の危険性がある。この危険性は、より多い回数の継代物を用いることによって減少する。他方で、多い回数の継代物で(特に、4回より多い継代物で)は、かなりのインビトロでの変化/増殖選択の危険性が存在する。本研究において、種々の患者の培養界面細胞を使用した。結果の解釈のために、全ての患者のデータをプールした。しかし、形質導入度(transducibility)に個体差が観察されたことが、留意されねばならない。
【0107】
(実施例4:アデノウイルスベクターによるインタクトな界面組織の効率的な感染)
実施例3において概説される実験は、培養界面細胞がAd5感染性であることを確認した。しかし、細胞がインタクトな組織中に存在する場合、その細胞表面へのこのウイルスの接近は、例えば、細胞外マトリックスによって、およびその細胞外空間を通るウイルス拡散の速度が低いことによって、妨げられ得る。このことを考慮して、新鮮でインタクトな界面組織の感染性(infectability)を、LacZ発現アデノウイルス、およびLacZ発現組織のXgal染色を使用して、試験した。このアプローチを使用して、遺伝子発現のウイルス用量依存性増加が観察された。試験したうちの上から2番目までの高ウイルス用量を用いた場合に、強いレベルの遺伝子発現が観察された(図3)。
【0108】
(方法)
界面組織(LI014)を、慢性関節リウマチ患者の股関節の再置換(revision)手術から得た。この組織を、7片になるように切断し、これらの組織片を、10mlの丸底試験管に入れた。200μlのIMDM/10% FCS中の種々の濃度のAd.CMV.LacZ(0pfu、3.6×10pfu、3.6×10pfu、3.6×10pfu、3.6×10pfu、3.6×10pfu、3.6×10pfu)を加えた。これらの組織を、37℃で2時間インキュベートした。試験管を10分間毎〜15分間毎に振盪した。この後、5mlのIMDM/10% FCSを加えた。一晩のインキュベーションの後、これらの組織を、PBSで3回リンスし、その後、5mlのXgal染色溶液中に入れ、37℃で3.5時間インキュベートした。これらの組織を、PBSで3回リンスして、10%のホルマリン中で固定した。
【0109】
(結果)
最高量のAd.CMV.LacZを添加した組織は、ダークブルーの染色領域を有する。この染色は、3.6×10pfuのAd.CMV.LacZでの感染まで明らかである。このことは、インタクトな界面組織中での細胞の感染が効果的であることを示す。これらの組織の包埋パラフィン切片を、顕微鏡で検査し、染色された感染細胞の存在を確認した。
【0110】
(実施例5:界面組織の形質導入および造影剤の効果)
ヒトアデノウイルス5(HAdV−5)ベースのベクターに対する界面細胞の感受性をさらに試験するために、界面細胞の初代培養物を、HAdV−5ベクターであるAd.CMV.LacZに暴露した。感染の24時間後、これらの細胞をX−gal溶液でβ−ガラクトシダーゼレポーター遺伝子発現について染色した。ベクターの濃度が増加すると共に、形質導入効率が増加した。400プラーク形成単位(pfu)/細胞で、このレポーター遺伝子を発現する細胞の割合は、88%(sd 4.0)であった(図4)。従って、HAdV−5ベクターは、界面細胞に形質導入し得る。
【0111】
(材料および方法)
(アデノウイルスベクター)
Ad.CMV.LacZ(van der Ebら、2002年)ベクターは、CTL 102と同一であるが、E.coli lacZ遺伝子がntr遺伝子の代わりをする。
【0112】
(形質導入アッセイ)
HAdV−5による界面細胞の形質導入度を研究するために、界面細胞を、Ad.CMV.LacZベクター(0pfu/細胞、25pfu/細胞、50pfu/細胞、100pfu/細胞、200pfu/細胞、400pfu/細胞の濃度)を用いて感染させた。感染の24時間後、これらの細胞を、IMDMを用いて2回洗浄して、そして2日間培養した。培地を毎日補充した。3日目に、単層培養物を、PBSを用いて2回洗浄し、PBS中の0.2%のグルタルアルデヒドと2%のホルムアルデヒドとを用いて、4℃で10分間固定した。その後、細胞を、PBSを用いて2回洗浄して、50μlの反応混合液(PBS中の、1mg/mlのX−gal(Eurogentec、Seraing、Belgium)、5mMのフェロシアン化カリウム、5mMのフェリシアン化カリウム、2mMのMgCl)中で、37℃にて2時間、β−ガラクトシダーゼ活性について染色した。光学顕微鏡を使用して少なくとも100個の界面細胞を計数することによって、形質導入された細胞の割合を評価した。全ての条件を、2連で試験した。
【0113】
(界面細胞に対する造影剤の効果)
界面細胞を、96ウェルプレート中に接種した。各々のウェルの中に、50μlのIMDM/20% FCS、および、造影剤と0.9%のNaClとを含む多様な濃度(0%、12.5%、25%、および50%の造影剤)の溶液50μlを加えた。使用した造影剤は、容量オスモル濃度が低い非イオン性ダイマーイオトロラン(Isovist;Schering、Berlin、Germany)であった。この造影剤に対する4時間の曝露の後、これらの細胞をIMDM/10% FCS中で2回洗浄してインキュベートした。培養培地を毎日交換しながら、これらの細胞をさらに3日間培養した。4日目に、WST−1細胞生存度アッセイキット(Roche、Mannheim、Germany)を製造者のプロトコルに従って用いて、細胞生存度を決定した。
【0114】
(界面細胞のHAdV−5形質導入に対する造影剤の効果)
界面細胞を、96ウェルプレート中に接種した。一晩のインキュベーションの後、Ad.CMV.LacZ(0pfu/細胞、25pfu/細胞、100pfu/細胞、および200pfu/細胞の濃度)を用いて、IMDM/20% FCS中で、ウェル1個当たり50μlで、細胞を感染させた。0.9%のNaCl中の50μlのイオトロラン(Isovist)を、0%、25%、50%、および100%の濃度で加えた(培養培地中で希釈された時、これらの濃度は、0%、12.5%、25%、および50%に減少した)。感染の4時間後、これらの細胞をIMDMで2回洗浄して、その日の残りの時間の間、IMDM/10% FCS 中で、37℃、5%のCOでインキュベートした。Ad.CMV.LacZ形質導入細胞を、ベクターおよび造影剤の除去の後に、3日間培養した。その後、これらの細胞を固定して、β−ガラクトシダーゼ活性について染色した。形質導入率を、上記のように評価した。
【0115】
(統計学的分析)
一変量分散分析およびスピアマン相関を使用して、ベクターとプロドラッグとの間の相互作用、およびベクターと造影剤との間の相互作用を研究し、上記の細胞の生存度に対するCB1954の効果を研究した。独立群に関するMann−Whitney検定を行い、造影剤に暴露された細胞と暴露されなかった細胞との間での細胞死滅の差異を決定した。HAdV−5−ベクターの形質導入に対する造影剤への短時間の曝露の効果を研究するための実験において、接触時間と生存度との間、および停滞(delay)時間と生存度との間の、スピアマン相関を検定した。全ての統計学的分析について、p<0.05を統計学的有意性のレベルとした。
【0116】
(結果)
(界面細胞に対する造影剤の効果)
界面細胞に対する造影剤(イオトロラン)の毒性を評価した(図5)。イオトロランは、いずれの濃度においても、細胞の生存率に影響を及ぼさない(p=0.563)。造影剤を界面細胞に4時間にわたって添加することは、この細胞の死滅をもたらさない。
【0117】
(界面細胞のHAdV−5形質導入に対する造影剤の効果)
界面細胞のHAdV5−形質導入に対する造影剤(イオトロラン)の効果を、Ad.CMV.LacZを用いて調査した。この細胞の形質導入度は、HAdV−5ベクターの濃度と共に増加する。しかし、この造影剤は、この形質導入効率に対して抑制効果を有する。より高濃度のイオトロランを用いる場合、このHAdV−5ベクター濃度は、遺伝子移入効率に対して、より少ない効果しか有さない。50%の造影剤濃度では、どの細胞も形質導入されなかった(図6)。この形質導入に対するイオトロランの効果は、統計学的に有意(p<0.001)である。さらに、種々の個体(n=6)由来の細胞間で差異が観察された。NTR/CB1954による細胞死滅に対する造影剤の効果を評価するため、細胞死滅の効率についての上記の実験を、造影剤の存在下において繰り返した。その結果は、造影剤の存在下において、細胞はNTR/CB1954によって死滅させられないことを示した(結果は示さず)。Hexabrix 320造影剤の存在もまた、ウイルス形質導入を阻害した(データは示さず)。要約すると、これらの実験からの結果は、一般的に使用される2種の造影剤の投与と組み合わせたウイルス投与の不適合性を実証する。この不適合性は、これらの造影剤におけるヨウ素の存在に起因し得る。全ての利用可能な造影剤のスクリーニングは、ウイルス形質導入と適合する造影剤の決定を可能にし得る。
【0118】
界面細胞の形質導入に対する、造影剤への短時間の曝露の影響を調査した。界面細胞を、造影剤に0分間〜120分間曝露し、その造影剤の洗浄除去とNTR/CB1954細胞死滅アプローチの実行との間の期間を変化させた。細胞死滅は、接触時間とは相関せず(corr−0.033、p=0.691)、造影剤の洗浄除去とベクターの添加との間の期間の長さとも相関しなかった(corr−0.004、p=0.962)。造影剤に曝露されていない細胞の死滅と、短時間曝露された細胞の死滅とは、同等であった。
【0119】
(考察)
本研究において、NTR/CB1954による細胞死滅に対する造影剤の影響を、将来的な臨床研究を考慮して調査した。結果は、造影剤が、界面細胞に対して何らかの影響を有するとは思われないことを示す。しかし、造影剤の存在下におけるアデノウイルスベクターによるこの細胞の形質導入は、ほとんど無視し得る。このアデノウイルスベクターは、造影剤の存在によって不活化される。想定される臨床研究において、このウイルスベクターは、関節腔(joint space)内に注入される。通常は、関節内での針の位置を確認するために造影剤が使用される。しかし、本研究の結果は、ウイルスベクターと組み合わせた造影剤の使用が、思い止まらされることを示す。従って、臨床研究のために、本発明者らは、「空気−関節造影(air−arthrogram)」を作製するための空気注入のような、針の可視化のための代替的方法が使用されるべきであることを提唱する。
【0120】
結論として、本実施例は、界面細胞がNTR/CB1954酵素−プロドラッグアプローチによって死滅させられ得ることを示す。
【0121】
(実施例6:臨床結果)
データを、弛んだ股関節を有しかつ身体を衰弱させる疼痛および著しい共存症を有する12人の患者のフェーズ1研究からの、最初の2人の患者から、入手可能である。上記のように、1日目に、上記ベクターを股関節内に注入し、そして3日目に、上記プロドラッグを注入した。10日目に、大腿骨に3個、寛骨臼に1個の孔を開けた。プロテーゼ周囲空間から生検を得、低粘度セメント(Osteopal、Biomet Merck、Sjobo、Sweden)を、X線透視の誘導下で注入する。
【0122】
患者1は、82歳の女性であり、両方の股関節プロテーゼの弛みを有し、ASA IV(死亡危険性20.3%(American Society of Anesthesiologists physical status classification、Saklad、1941年))に分類される。ベクター注入(3×10粒子)に由来する有害効果はなく、注入の24時間後に、検出し得るウイルスの排出(shedding)はなかった。プロドラッグ注入の12時間後に、この患者は悪心を経験した(WHOグレード1)。この悪心は、このプロドラッグに対する反応として公知である。また、股関節の疼痛も増大した。このことは、初期治療がさらなる弛みを引き起こすことを意図するので予測されたものであった。16mlのセメントを、プロテーゼ周囲空間内へ注入した(図7Bを参照)。これは、界面組織の著しい破壊が、セメントがここで導入され得る間隙を作ることを示す。この患者は、手術の翌日に歩き回った。
【0123】
セメント注入の2週間後および4週間後に、この患者は、処置された股関節において疼痛を有さず、さらに改善していた。最大歩行距離は、4〜5メートルから30メートルへと増加した。この患者によって評価された主観的な歩行距離(0:0メートル、100:無制限の歩行距離)は、4から66へと増加した。この患者の疼痛スコア(0:疼痛無し、100:耐え難い疼痛)は、術前の81から2へと減少した。加えて、この患者は、今や、疼痛なしに横向きに眠ることが出来た(この患者は、4年間横向きに眠ることが出来なかった)。認識される依存性(0:他者に対して完全に依存性、100:完全に非依存性)に関して、このスコアは95から54へと減少した。
【0124】
患者2は、72歳の女性であり、左股関節プロテーゼの弛みを有し、ASA分類II(死亡危険性2.8%)である。やはり、ベクター注入の24時間後に、検出し得るウイルスの排出(shedding)はなかった。18mlのセメントを、同様の手順に従って注入した(図8B)。処置の4週間後、疼痛スコアは、43から22に減少した(おそらく、術後の血腫の存在を反映しており、この血腫は、消散するまでに4週間〜5週間を要する)。具体的には、股関節関連疼痛は消失した。最大歩行距離は500メートルから2000メートルへと増加した。3ヶ月の追跡調査によって、この血腫が完全に消散し、疼痛スコアは7へとさらに減少した。この患者は歩行性能および他の活動に関して改善し続けている。
【0125】
本研究は、臨床環境における、インビボでの関節内アデノウイルス媒介性遺伝子移入の使用についての、最初の研究である。この予備的な結果は、遺伝子治療、および股関節プロテーゼ再固定のためのセメント注入が、臨床的に可能であることを示唆する。
【0126】
(参考文献)
【0127】
【数1】

【0128】
【数2】

【0129】
【数3】

【0130】
【数4】

【0131】
【数5】

【0132】
【数6】

【0133】
【数7】

【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1は、股関節プロテーゼの無菌的弛みを示す。Aは、インサイチュでの弛んだプロテーゼのX線写真である。Bは、弛んだプロテーゼを含む股関節の関節造影図である。造影剤は、X線透視検査によるガイダンスの下で関節空間に注入される。この写真は、プロテーゼの周囲の領域(プロテーゼ周囲空間)の一部分が、造影剤で満たされていることを示す。このことは、そのプロテーゼが、その領域で弛むことを証明する。Cは、弛んだプロテーゼを含む股関節の模式図を示す。灰色の領域は、関節空間を示し、この空間は、プロテーゼ周囲空間と連続している。流体をこの関節空間に注入した場合、この流体は、この画像中の灰色で印をつけた領域を通って広がる。
【図2A】図2は、2人の再置換(revision)外科手術患者から得られた組織由来の界面細胞に対する、実施例3に記載したようなニトロレダクターゼをコードするアデノウイルスベクターでの感染と、その後の示された濃度のプロドラッグCB1954に対する曝露の死滅効果を示す。図2aは、患者LI003 P3からのデータを示す。
【図2B】図2は、2人の再置換(revision)外科手術患者から得られた組織由来の界面細胞に対する、実施例3に記載したようなニトロレダクターゼをコードするアデノウイルスベクターでの感染と、その後の示された濃度のプロドラッグCB1954に対する曝露の死滅効果を示す。図2bは、患者LI002 P4からのデータを示す。
【図3】図3は、実施例4に記載したように、Lac−Zをコードする種々の用量のアデノウイルスベクターに感染した患者LI014から得られたインタクトな界面組織サンプルのX−Gal染色の結果を示す。番号付けしたウェルは、以下のように処理した組織を含む: 1.非感染界面組織 2.界面組織+3.6×10pfu Ad.CMV.LacZ 3.界面組織+3.6×10pfu Ad.CMV.LacZ 4.界面組織+3.6×10pfu Ad.CMV.LacZ 5.界面組織+3.6×10pfu Ad.CMV.LacZ 6.界面組織+3.6×10pfu Ad.CMV.LacZ 7.界面組織+3.6×10pfu Ad.CMV.LacZ。
【図4】図4は、6種の異なる濃度のAd.CMV.LacZ(0pfu/細胞、25pfu/細胞、50pfu/細胞、100pfu/細胞、200pfu/細胞および400pfu/細胞)とともにインキュベートした後の界面細胞の形質導入を示す。3日後、細胞を固定して、X−gal反応混合物で染色した。形質導入した(青色)細胞の割合を数えた。この図は、12個の独立した実験の平均値および標準偏差を示す。
【図5】図5は、界面細胞に対するイオトロラン(イソビスト(Isovist))造影剤の毒性の欠如を示す。界面細胞は、造影剤(イオトロラン)に4時間曝露された。3日間の細胞培養の後、細胞の生存度を測定した(n=12)。
【図6】図6は、界面細胞のHAdV5形質導入に対するイオトランの効果を示す。細胞は、種々の濃度のAd.CMV.LacZ:((黒三角)0pfu/細胞、(黒四角)25pfu/細胞;(黒丸)100pfu/細胞;(黒菱形)200pfu/細胞(n=4))および造影剤に4時間曝露され、その後、細胞は固定されて、X−galで染色された。形質導入した細胞の割合を、青色の細胞を数えることによって測定した。
【図7】図7は、より大きい転子(trochanteric)領域におけるセメント質量の増加を示す、患者1から得た注射前(A)および注射後(B)の画像を示す。
【図8】図8は、患者2から得た注射前(A)および注射後(B)の画像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整形外科的移植物の無菌的弛みの処置において同時にか別々にかまたは連続的に使用するための併用医薬の製造のための生成物の使用であって、該生成物は、
(a)少なくとも1つのベクターであって、該ベクターは、プロドラッグを活性な細胞傷害性化合物に変換し得る酵素をコードする単離されたポリヌクレオチドを含み、該酵素の発現は、作動可能に連結されたプロモーターによって制御されている、ベクターと;
(b)該酵素によって、活性な細胞傷害性化合物へと変換され得るプロドラッグと;
の組み合わせを含む、使用。
【請求項2】
前記プロモーターは、非細胞型特異的発現を提供する、請求項1に記載の生成物の使用。
【請求項3】
前記プロモーターは、サイトメガロウイルスプロモーターである、請求項2に記載の生成物の使用。
【請求項4】
前記プロモーターは、実質的に細胞型特異的な発現を提供する、請求項1に記載の生成物の使用。
【請求項5】
発現が、単球系統/マクロファージ系統の細胞に実質的に制限される、請求項4に記載の生成物の使用。
【請求項6】
発現が、破骨細胞および破骨前駆細胞に実質的に制限される、請求項5に記載の生成物の使用。
【請求項7】
前記プロモーターは、TRAP、RANK、カテプシンKからなるリストより選択される遺伝子に天然で機能的に連結されている、請求項6に記載の生成物の使用。
【請求項8】
前記酵素が、ニトロレダクターゼである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の生成物の使用。
【請求項9】
前記プロドラッグが、CB1954である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の生成物の使用。
【請求項10】
前記酵素が、シトクロムP450である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の生成物の使用。
【請求項11】
前記プロドラッグが、アセトアミノフェンである、請求項1〜7または請求項10のいずれか1項に記載の生成物の使用。
【請求項12】
整形外科的移植物の無菌的弛みの処置のための方法であって、該方法は、
プロドラッグを活性な細胞傷害性化合物に変換し得る酵素をコードするベクターを患者へ投与する工程、
標的細胞中で該酵素を発現させる工程、および
適切なプロドラッグを投与する工程
を包含する、方法。
【請求項13】
前記ベクターは、関節内注射またはプロテーゼ周囲注射によって投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記プロドラッグは、関節内注射またはプロテーゼ周囲注射によって投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酵素の発現は、非細胞型特異的発現を提供するプロモーターによって制御される、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記酵素の発現は、実質的に細胞型特異的な発現を提供するプロモーターによって制御される、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
発現が、単球系統/マクロファージ系統の細胞に実質的に制限される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
発現が、破骨細胞または破骨前駆細胞に実質的に制限される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記プロモーターは、TRAP、RANK、カテプシンKからなるリストより選択される遺伝子に天然で機能的に連結されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記酵素は、ニトロレダクターゼである、請求項12〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記プロドラッグは、CB1954である、請求項12〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記酵素は、シトクロムP450である、請求項12〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記プロドラッグは、アセトアミノフェンである、請求項12〜19または請求項22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
プロドラッグを活性な細胞傷害性化合物に変換し得る酵素をコードする単離されたポリヌクレオチドであって、該酵素の発現は、単球系統/マクロファージ系統の細胞に実質的に制限される発現を提供するプロモーターによって制御される、ポリヌクレオチド。
【請求項25】
発現が、破骨細胞または破骨前駆細胞に実質的に制限される、請求項24に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項26】
前記プロモーターは、TRAP、RANK、カテプシンKからなるリストより選択される遺伝子に天然で機能的に連結されている、請求項24または25のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項27】
前記酵素は、ニトロレダクターゼである、請求項24〜26のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項28】
前記酵素は、シトクロムP450である、請求項24〜26のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項29】
請求項24〜28のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項30】
請求項29に記載のウイルスベクター。
【請求項31】
アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスからなるリストより選択される、請求項30に記載のウイルスベクター。
【請求項32】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチドまたは請求項6〜8のいずれか1項に記載のベクターを含む、宿主細胞であって、該宿主細胞は、界面組織由来である、宿主細胞。
【請求項33】
請求項24〜28のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチド、請求項29〜31のいずれか1項に記載のベクター、または請求項32に記載の宿主細胞;および
薬学的に受容可能な賦形剤、キャリア、希釈剤または緩衝液;
を含む、薬学的組成物。
【請求項34】
整形外科的移植物の無菌的弛みの処置において同時にか別々にかまたは連続的に使用するための併用医薬としての生成物であって、該生成物は、
a)請求項24〜28のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチド、または請求項29〜31のいずれか1項に記載のベクター、または請求項32に記載の宿主細胞、および;
b)該ポリヌクレオチドまたはベクターによってコードされるかあるいは該宿主細胞によって発現される酵素によって、活性な細胞傷害性化合物へと変換され得る、プロドラッグ
を含む、生成物。
【請求項35】
前記酵素は、ニトロレダクターゼである、請求項34に記載の生成物。
【請求項36】
前記プロドラッグは、CB1954である、請求項35または36のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項37】
前記酵素は、シトクロムP450である、請求項34に記載の生成物。
【請求項38】
前記プロドラッグは、アセトアミノフェンである、請求項34または37のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項39】
毒性ペプチドまたは毒性タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドであって、該毒素の発現は、単球系統/マクロファージ系統の細胞に実質的に制限される発現を提供するプロモーターによって制御される、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項40】
発現が、破骨細胞および破骨前駆細胞に実質的に制限される、請求項39に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項41】
前記プロモーターは、TRAP、RANK、カテプシンKからなるリストより選択される遺伝子に天然で機能的に連結されている、請求項40に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項42】
請求項39〜41のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクオチドであって、前記毒性ペプチドまたは毒性タンパク質は、リシン、アブリン、ジフテリア毒素、Pseudomonas体外毒素、DNase、RNase、およびボツリヌス毒素からなるリストより選択される、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項43】
請求項39〜42のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項44】
請求項39〜42のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチドまたは請求項43に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項45】
請求項39〜42のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチド;
請求項43に記載のベクター;および
薬学的に受容可能な賦形剤、キャリア、希釈剤または緩衝液;
を含む、薬学的組成物。
【請求項46】
整形外科的移植物の無菌的弛みの処置のための医薬としての生成物であって、該生成物は、
請求項39〜42のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチド、請求項43に記載のベクター、または請求項44に記載の宿主細胞
を含む、生成物。
【請求項47】
プロテーゼ工移植物の無菌的弛みの処置のための医薬としてのであって、該生成物は、
毒性ペプチドまたは毒性タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド
を含み、該毒性ペプチドまたは毒性タンパク質の発現は、非細胞型特異的発現を提供するプロモーターによって制御される、生成物。
【請求項48】
整形外科的移植物の無菌的弛みの処置のための医薬の製造における、請求項39〜42のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチド、請求項43に記載のベクター、請求項44に記載の宿主細胞、または請求項46もしくは47のいずれか1項に記載の生成物の、使用。
【請求項49】
整形外科的移植物の無菌的弛みの処置のためのキットであって、該キットは、
a)薬学的に受容可能な緩衝液中にある単離されたポリヌクレオチドまたはベクターであって、該単離されたポリヌクレオチドまたはベクターは、プロドラッグを活性な細胞傷害性化合物に変換し得る酵素をコードし、該酵素の発現は、作動可能に連結されたプロモーターによって制御されている、単離されたポリヌクレオチドまたはベクター;
b)薬学的に受容可能な緩衝液中にあるプロドラッグであって、該酵素によって活性な細胞傷害性化合物へと変換され得る、プロドラッグ;
c)薬学的受容可能な緩衝液中にある組織消化溶液であって、コラゲナーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼからなるリストより選択される少なくとも1つの酵素を含む、組織消化溶液;
d)該整形外科的移植物の再固定のために適切なセメント;
を備える、キット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−527427(P2007−527427A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501343(P2007−501343)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000789
【国際公開番号】WO2005/084713
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(501224615)イノベータ ピーエルシー (1)
【Fターム(参考)】