説明

プロトン伝導体の製造方法および燃料電池の製造方法

【課題】 潮解が抑制されたプロトン伝導体の製造方法および燃料電池の製造方法を提供する。
【解決手段】 プロトン伝導体(30)の製造方法は、物理蒸着法を用いて、AサイトがSnを含みかつBサイトがPであるAB型の電解質からなるプロトン伝導体を成膜する工程、を含む。燃料電池(100)の製造方法は、物理蒸着法を用いて、AサイトがSnを含みかつBサイトがPであるAB型の電解質からなるプロトン伝導体(130)を第1電極(110)上に成膜する成膜工程と、成膜工程後にプロトン伝導体のアノードと反対側の面に第2電極(140)を配置する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導体の製造方法および燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には水素及び酸素を燃料として電気エネルギーを得る装置である。この燃料電池は、環境面において優れかつ高いエネルギー効率を実現できることから、今後のエネルギー供給システムとして広く開発が進められてきている。
【0003】
この燃料電池の電解質膜として、プロトン伝導体が開発されている。例えば、プロトン伝導体としてSnPを用いる技術が開示されている。SnPは、200℃程度の中低温域で高いプロトン導電率を有することで知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−69817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、SnPは潮解性を有する。この場合、燃料電池の発電反応で生じる水によって電解質が溶解するおそれがある。
【0006】
本発明は、潮解が抑制されたプロトン伝導体の製造方法および燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るプロトン伝導体の製造方法は、物理蒸着法を用いて、AサイトがSnを含みかつBサイトがPであるAB型の電解質からなるプロトン伝導体を成膜する工程、を含むことを特徴とするものである。本発明に係るプロトン伝導体の製造方法においては、プロトン伝導体が物理蒸着法によって成膜される。この場合、プロトン伝導体の構成原子が気化してから結晶化することから、PがSnPの結晶構造内に取り込まれる。この場合、Pの偏析が抑制される。それにより、Pの形成が抑制される。その結果、プロトン伝導体の潮解が抑制される。
【0008】
成膜工程において、AB型の電解質をターゲットとして用いてもよい。また、物理蒸着法は、PLD法であってもよい。
【0009】
本発明に係る燃料電池の製造方法は、物理蒸着法を用いて、AサイトがSnを含みかつBサイトがPであるAB型の電解質からなるプロトン伝導体を第1電極上に成膜する成膜工程と、成膜工程後にプロトン伝導体の第1電極と反対側の面に第2電極を配置する工程と、を含むことを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池の製造方法においては、プロトン伝導体の構成原子が気化してから結晶化することから、PがSnPの結晶構造内に取り込まれる。この場合、Pの偏析が抑制されるて、Pの形成が抑制される。それにより、プロトン伝導体の潮解が抑制される。その結果、本発明に係る燃料電池の発電性能低下が抑制される。
【0010】
第1電極は、水素透過性金属からなるものであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、潮解性が抑制されたプロトン伝導体の製造方法および燃料電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るプロトン伝導体の製造方法について説明するための製造工程図である。まず、図1(a)に示すように、電解質材料10および基板20を準備する。基板20は、特に限定されないが、セラミックス、金属等である。電解質材料10は、AB型の電解質からなる。Aサイトは主としてSn(+4価)であり、BサイトはP(+5価)である。SnPは、例えば、HPO水溶液にSnOを添加して焼成することにより得られる。Aサイトの一部は、4価よりも小さい価数を有する金属によって置換されている。本実施の形態においては、一例として、Aサイトの一部をAl(+3価)によって置換する。
【0014】
ここで、PはSnPの結晶構造内に取り込まれている。しかしながら、SnPの結晶からはじき出された余剰Pが存在することがある。この場合、この余剰Pは、電解質材料10内においてアモルファス状のPを形成する(xおよびyは任意の値)。このアモルファス状のPは潮解性を有する。
【0015】
次に、電解質材料10をターゲットとして用いて、物理蒸着法により基板20上にプロトン伝導体30を成膜する。まず、図1(b)に示すように、電解質材料10にエネルギーを与えることによって、電解質材料10を構成する原子が気化する。それにより、図1(c)に示すように、基板20上にプロトン伝導体30が成膜される。物理蒸着法としては、パルスレーザデポジション(PLD)法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビーム法等を用いることができる。
【0016】
プロトン伝導体30は、電解質材料と同様の組成を有する。従って、プロトン伝導体30は、Snの一部がAlによって置換されたSnP型の構造を有する。
【0017】
図2にSnPの結晶構造を示す。図2に示すように、SnPは、正八面体構造のPOが立方格子の各格子点および各面心に配置され、正四面体構造のSnOが各POを接続するように配置された構造を有する。本実施の形態においてはSnの一部が4価よりも小さい価数を有する金属によって置換されていることから、電気中性(価数補償)の原理を保つために電子ホールが形成され、水蒸気とホールとの相互作用によってプロトン伝導体30にプロトンが導入される。したがって、プロトン伝導体30内においてプロトン濃度が増加し、プロトン伝導体30のプロトン導電率が向上する。
【0018】
また、物理蒸着工程においてプロトン伝導体30の構成原子が気化してから結晶化することから、PがSnPの結晶構造内に取り込まれる。この場合、Pの偏析が抑制される。それにより、Pの形成が抑制される。その結果、プロトン伝導体30の潮解が抑制される。
【0019】
物理蒸着工程における雰囲気は、特に限定されないが、例えば酸化雰囲気または真空雰囲気を用いることができる。また、物理蒸着工程における基板温度は、特に限定されないが、プロトン伝導体30が結晶化する温度であることが好ましい。本実施の形態においては、基板温度を650℃程度とすることができる。ただし、基板温度が低くプロトン伝導体30の一部がアモルファス化しても、プロトン伝導体30を燃料電池の発電等に用いる場合にアモルファスを結晶化させることができる。
【0020】
なお、プロトン伝導体30中のP/Sn比は2以下であることが好ましい。余剰Pが低減されてPの偏析が抑制されるからである。また、P/Sn比が1.2を下回ると、プロトン伝導体30のプロトン導電率が急激に低下する。したがって、P/Sn比は、1.2以上の値であることが好ましい。
【0021】
また、本実施の形態においてはプロトン伝導体30と同様の構造を有する電解質をターゲットとして用いたが、それに限られない。例えば、プロトン伝導体30の各構成元素の化合物を、プロトン伝導体30の組成比になるように組み合わせて、ターゲットとして用いてもよい。この場合、P/Sn比が2以下かつ1.2以上になるように各構成元素の化合物を組み合わせることが好ましい。
【0022】
(第2の実施の形態)
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池の製造方法について説明するための製造工程図である。まず、図3(a)に示すように、水素分離膜110を準備する。水素分離膜110は、後述する電解質膜130を支持および補強する支持体として機能するとともに、アノードとしても機能する。
【0023】
水素分離膜110は、緻密な水素透過性金属からなる。本実施の形態に係る水素分離膜110は、水素をプロトンおよび/または水素原子の状態で透過する程度に緻密な構造を有している。水素分離膜110を構成する材料は、緻密で水素透過性および導電性を有していれば特に限定されるものではない。水素分離膜110としては、例えば、Pd(パラジウム)、V(バナジウム)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)等の金属、またはこれらの合金等を用いることができる。水素分離膜110の肉厚は、特に限定されないが、例えば5μm〜100μm程度である。水素分離膜110は、自立膜であってもよく、多孔質状の卑金属板によって支持された薄膜であってもよい。
【0024】
次に、図3(b)に示すように、ターゲット120を準備する。ターゲット120は、図1(a)の電解質材料10と同様のものを用いる。次いで、図3(c)および図3(d)に示すように、ターゲット120にエネルギーを与えて、物理蒸着法により水素分離膜110上に電解質膜130を成膜する。
【0025】
次に、図3(e)に示すように、電解質膜130上にカソード電極140を成膜する。カソード電極140は、触媒活性および導電性を有する電極材料からなる。カソード電極140は、例えば、酸素イオン伝導性セラミックス(例えば、La0.6Sr0.4CoO、La0.5Sr0.5MnO、La0.5Sr0.5FeO等)等からなる。カソード電極140は、例えば物理蒸着法等によって成膜することができる。以上の工程により、燃料電池100が完成する。
【0026】
続いて、燃料電池100の動作について説明する。まず、水素分離膜110に水素を含有する燃料ガスが供給される。燃料ガス中の水素は、プロトンおよび/または水素原子の状態で水素分離膜110を透過する。電解質膜130に到達した水素原子は、水素分離膜110と電解質膜130との界面においてプロトンと電子とに解離する。プロトンは、電解質膜130を伝導して、カソード電極140に到達する。一方、カソード電極140には、酸素を含む酸化剤ガスが供給される。カソード電極140においては、酸化剤ガス中の酸素がプロトンと電子と反応する。以上の動作により、燃料電池100は、発電を行う。
【0027】
この発電に伴い、水が生成される。本実施の形態においては、電解質膜130が物理蒸着法によって成膜されていることから、電解質膜130中のPの偏析が抑制される。この場合、電解質膜130の潮解が抑制される。それにより、燃料電池100の発電性能低下が抑制される。
【0028】
なお、本実施の形態においてはアノードとして水素分離膜を用いたが、アノード活性および導電性を有するものであれば燃料電池100のアノードとして用いることができる。
【0029】
本実施の形態においては、水素分離膜110が第1電極に相当し、カソード電極140が第2電極に相当する。
【実施例】
【0030】
以下、上記実施の形態に係る製造方法によりプロトン伝導体を作製し、その特性について調べた。
【0031】
(実施例)
実施例1においては、第1の実施の形態に係る製造方法を用いてプロトン伝導体を作製した。まず、12%HPO水溶液にSnOおよびAl(OH)を添加し、300℃の温度下で混合した。この混合物を、650℃の温度条件で2.5時間焼成してSn0.95Al0.05の粉末を得た。この粉末を、圧粉成型およびCIP(冷間静水圧プレス)し、直径20mmかつ厚さ2mmのディスク状に成型し、ターゲットとした。このターゲットを用いたPLD法によって、Al基板上に0.1gのSn0.95Al0.05の薄膜を成膜した。
【0032】
(比較例)
比較例においては、PLD法による成膜工程を省略した他は、実施例と同様の工程により0.1gのSn0.95Al0.05を作製した。
【0033】
(分析)
実施例および比較例に係るプロトン伝導体に対して潮解試験を行った。具体的には、75℃の飽和水蒸気雰囲気中に各プロトン伝導体を5時間放置し、放置前後における各プロトン伝導体の重量変化を測定した。結果を表1に示す。表1に示すように、比較例に係るプロトン伝導体においては、重量が0.1001g増加した。これは、PがアモルファスPを形成して潮解したからであると考えられる。一方、実施例に係るプロトン伝導体においては、重量変化がなかった。したがって、物理蒸着法による成膜工程を実施することによって、プロトン伝導体の潮解を抑制できることがわかった。
【0034】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るプロトン伝導体の製造方法について説明するための製造工程図である。
【図2】SnPの結晶構造を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池の製造方法について説明するための製造工程図である。
【符号の説明】
【0036】
10 電解質材料
20 基板
30 プロトン伝導体
100 燃料電池
110 水素分離膜
120 ターゲット
130 電解質膜
140 カソード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理蒸着法を用いて、AサイトがSnを含みかつBサイトがPであるAB型の電解質からなるプロトン伝導体を成膜する工程、を含むことを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
【請求項2】
前記成膜工程において、前記AB型の電解質をターゲットとして用いることを特徴とする請求項1記載のプロトン伝導体の製造方法。
【請求項3】
前記物理蒸着法は、PLD法であることを特徴とする請求項1または2記載のプロトン伝導体の製造方法。
【請求項4】
物理蒸着法を用いて、AサイトがSnを含みかつBサイトがPであるAB型の電解質からなるプロトン伝導体を第1電極上に成膜する成膜工程と、
前記成膜工程後に、前記プロトン伝導体の前記第1電極と反対側の面に第2電極を配置する工程と、を含むことを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項5】
前記第1電極は、水素透過性金属からなることを特徴とする請求項4記載の燃料電池の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−252418(P2009−252418A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96555(P2008−96555)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】