説明

プーリユニットを用いた動力伝達装置

【課題】 シールド部材を圧入によらずに固定できて、寸法管理が容易な、プーリユニットを用いた動力伝達装置を提供する。
【解決手段】 プーリユニットを用いた動力伝達装置は、プーリユニット1と、プーリユニット1が連結されたプーリユニット連結機器2との間で動力伝達を行う装置である。プーリユニット連結機器2のケース3の一端部に、転がり軸受4を介して動力軸12が支持されている。プーリユニット1が、ケース3の一端部内側に入り込んで動力軸12に連結された軸体14と、軸体14の周囲にプーリ支持手段16,17,18により支持されたプーリ15とを備えている。軸体14側に、ケース3との間をシールするシールド部材30が設けられている。シールド部材30が、転がり軸受4の内輪7の端面(7a)と軸体14の端面(14a)の間に挟まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プーリユニットを用いた動力伝達装置に関し、さらに詳しくは、プーリユニットと、プーリユニットが連結されたプーリユニット連結機器との間で動力伝達を行う装置に関する。
プーリユニット連結機器としては、たとえば、自動車のオルタネータなどが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
自動車では、オルタネータなどの補機にエンジンからベルトを介して動力が伝達されるようになっており、そのために、オルタネータなどにはプーリユニットが連結される。
オルタネータの場合、ケースに保持されたラジアル転がり軸受にロータ軸が回転支持されている。
【0003】
プーリユニットには、オルタネータのロータ軸に連結される軸体が設けられ、軸体の周囲に、支持手段により支持されたプーリが配置される。支持手段として、通常、軸受および一方向クラッチが用いられる。
【0004】
プーリユニットの支持手段は、軸体とプーリの両端部間に設けられたシール部材により防水することができる。プーリの端面はオルタネータのケースの端面に近接させられて、ラビリンス部が形成され、これにより、オルタネータの転がり軸受の部分への異物の侵入が防止されるようになっている。ところが、エンジンに水がかかったような場合、このラビリンス部だけで転がり軸受への水の侵入を防止することはできない。
【0005】
これを解決するため、プーリユニットの軸体の端部外周面にシールド部材を圧入し、シールド部材の外周面をケースに近接させて、ラビリンス部を形成したものが提案されている(たとえば引用文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−073673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにシールド部材が軸体に圧入により装着される場合、軸体の外周とシールド部材の内周の寸法精度を高める必要がある。また、圧入によりシールド部材の外径が変化するので、この変化を予測してシールド部材の寸法を決める必要がある。このため、シールド部材の寸法管理が困難である。さらに、オルタネータのケースの内径が小さくて、軸体の外周面とケースの内周面の径方向隙間が小さい場合、シールド部材の径方向厚さを小さくする必要がある。しかし、圧入により装着できるシールド部材の厚さには限度があり、シールド部材の厚さがあまり小さくなると、圧入による装着が不可能である。
【0008】
プーリユニットが自動車の補機以外の機器に連結される動力伝達装置の場合も、同様の問題がある。
【0009】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、シールド部材を圧入によらずに固定できて、寸法管理が容易な、プーリユニットを用いた動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による装置は、プーリユニットと、プーリユニットが連結されたプーリユニット連結機器との間で動力伝達を行うプーリユニットを用いた動力伝達装置であって、プーリユニット連結機器のケースの一端部に、ラジアル転がり軸受を介して動力軸が支持されており、プーリユニットが、前記ケースの一端部内側に入り込んで前記動力軸に連結された軸体と、この軸体の周囲にプーリ支持手段により支持されたプーリとを備え、前記軸体側に、前記ケースとの間をシールするシールド部材が設けられているものにおいて、前記シールド部材が、前記転がり軸受の内輪の端面と前記軸体の端面の間に挟まれていることを特徴とするものである。
【0011】
シールド部材がプーリユニットの軸体とプーリユニット連結装置の転がり軸受の内輪の端面の間に挟まれているので、シールド部材を軸体に圧入する必要がなく、寸法管理が容易である。また、軸体の外周面とケースの内周面の径方向隙間が小さい場合でも、軸体の外周面からのシールド部材の径方向突出量を小さくするだけで対応できる。
【0012】
たとえば、前記軸体の端面の外周より径方向内側の部分に形成された環状突起が前記転がり軸受の内輪の端面に圧接させられ、前記シールド部材の中心に穴が形成され、前記シールド部材の内周側の部分が、前記環状突起より径方向外側の前記軸体の端面と前記転がり軸受の内輪の端面の間に挟まれている。
【0013】
この場合、軸体の環状突起の端面を転がり軸受の内輪の端面に圧接させることにより、軸体と転がり軸受の軸方向の位置決めができ、環状突起の径方向外側の軸体と転がり軸受の内輪との間にシールド部材を装着するための空間を形成することができる。また、たとえば、シールド部材の内周面を軸体の環状突起の外周面に密着させることにより、シールド部材の径方向の位置決めをすることができ、寸法管理が容易である。
【0014】
たとえば、前記シールド部材が、軸方向延在部と、この軸方向延在部から径方向内側にのびた径方向延在部とからなり、前記径方向延在部の中心に穴が形成され、前記径方向延在部が、前記環状突起より径方向外側の前記軸体の端面と前記転がり軸受の内輪の端面の間に挟まれ、前記軸方向延在部が前記軸体の外周面の外側に位置している。
【0015】
この場合、シールド部材の径方向延在部の軸方向厚さを薄くしても、軸方向延在部の軸方向長さをある程度長くすることで、シール効果を高めることができる。また、軸方向延在部を軸体に圧入する必要がなく、軸体の外周面とケースの内周面の径方向隙間が小さい場合でも、軸方向延在部の径方向厚さを薄くするだけで対応できる。さらに、たとえば、軸方向延在部の内周面を軸体の外周面に密着させることにより、または、径方向延在部の内周面を軸体の環状突起の外周面に密着させることにより、シールド部材の径方向の位置決めをすることができ、寸法管理が容易である。
【0016】
たとえば、前記軸方向延在部の内周面が前記軸体の外周面に接触している。
【0017】
この場合、シールド部材の軸方向延在部の内周面が軸体の外周面に密着することにより、軸方向延在部の径方向の位置決めがなされ、寸法管理が容易である。
【発明の効果】
【0018】
この発明の装置によれば、上記のように、シールド部材をプーリユニットの軸体に圧入する必要がなく、寸法管理が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、この発明の実施形態を示すプーリユニットを用いた動力伝達装置の縦断面図である。
【図2】図2は、図1の一部を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、この発明を自動車のエンジンにより駆動される補機であるオルタネータに適用した実施形態について説明する。
【0021】
図1はプーリユニット(1)およびプーリユニット(1)が連結されたプーリユニット連結機器であるオルタネータ(2)を用いた動力伝達装置の主要部の構成を示し、図2はさらにその一部を拡大して示すものである。以下の説明において、図1の左側を前、右側を後とする。
【0022】
オルタネータ(2)のケース(3)の前寄りの部分に、ラジアル転がり軸受である玉軸受(4)を保持するための穴(5)が形成され、この穴(5)の前側のケース(3)の前端部に内向きフランジ(6)が一体に形成されている。玉軸受(4)は、内輪(7)、外輪(8)、転動体である複数の玉(9)、玉(9)の保持器(10)および両側のシール部材(11)より構成されている。外輪(8)は、ケース(3)の穴(5)の内周に固定されている。内輪(7)には、オルタネータ(2)の動力軸であるロータ軸(12)が一体に回転するように支持されている。ロータ軸(12)の前部はケース(3)より前方に突出し、その前端部に連結用おねじ(13)が形成されている。
【0023】
プーリユニット(1)は、ロータ軸(12)に連結された軸体(14)、軸体(14)の周囲に配置されたプーリ(15)、ならびに軸体(14)とプーリ(15)の間に配置された前後2組の軸受(16)(17)および一方向クラッチ(18)を備えている。軸受(16)および一方向クラッチ(18)は、軸体(14)の周囲にプーリ(15)を支持するプーリ支持手段を構成している。
【0024】
軸体(14)は中空状をなし、その中間部内周に連結用めねじ(19)が形成されている。ロータ軸(12)の前部が軸体(14)の後部内側に挿入され、おねじ(13)とめねじ(19)のねじ合わせによりロータ軸(12)と軸体(14)が連結されている。そして、軸体(14)の後端が、玉軸受(4)の内輪(7)の前端面(7a)に圧接させられている。軸体(14)の前端部内周は、軸体(14)を回転させるための工具(たとえば六角レンチ)がはめ合わされる工具嵌合部(20)となっている。軸体(14)の後端部は、ケース(3)のフランジ(6)の内側に入り込んでいる。
【0025】
プーリ(15)は略円筒状をなし、軸体(14)の周囲に径方向に間隔を開けて配置されている。プーリ(15)の外周に、詳細な図示は省略したベルト(21)がかけられる環状みぞ(22)が形成されている。
【0026】
前側の軸受(16)はラジアル転がり軸受である保持器付きころ軸受であり、軸体(14)が軸受(16)の内輪、プーリ(15)が軸受(16)の外輪となっている。後側の軸受(17)はラジアル転がり軸受である保持器付き玉軸受であり、軸体(14)が軸受(17)の内輪、プーリ(15)が軸受(17)の外輪となっている。
【0027】
一方向クラッチ(18)は、前後の軸受(16)(17)の間において、軸体(14)とプーリ(15)の間の環状空間に配置されている。一方向クラッチ(18)は、円筒状の保持器(23)に保持されて軸体(14)の外周面およびプーリ(15)の内周面を転動する複数のころ(24)、およびころ(24)をロック側に付勢する楕円形のコイルばね(25)を備えている。
【0028】
ころ軸受(16)の前側のプーリ(15)の内周に、軸体(14)との間をシールする前側シール部材(26)が設けられている。玉軸受(17)の後側のプーリ(15)の後端部内周に、軸体(14)との間をシールするシール部材(27)が設けられている。前側シール部材(26)の前側の軸体(14)の前端部外周に、プーリ(15)との間をシールするキャップ兼用シール部材(28)が設けられている。
【0029】
プーリ(15)の後端面はケース(3)の前端面に接近しており、これらの間がラビリンスシール部(29)となっている。ケース(3)内の玉軸受(4)は、軸体(14)の後端部とフランジ(6)の間の環状空間およびラビリンスシール部(29)を介して外部と通じている。
【0030】
図2に詳細に示すように、軸体(14)の後端部とフランジ(6)の間の環状空間において軸体(14)とケース(3)の間をシールするシールド部材(30)が、軸体(14)の後端面(14a)と玉軸受(4)の内輪(7)の前端面(7a)との間に挟まれている。
【0031】
軸体(14)の後端面(14a)の外周より径方向内側の部分である内周部に、後方に突出した環状突起(31)が一体に形成され、この突起(31)の後端面が玉軸受(4)の内輪(7)の前端面に圧接し、軸体(14)の後端面(14a)と内輪(7)の前端面との間に軸方向に隙間が形成されている。
【0032】
シールド部材(30)は、円筒状の軸方向延在部(30a)と、軸方向延在部(30a)の後端から径方向内側にのびた径方向延在部(30b)とからなり、径方向延在部(30b)の中心に円形穴(32)が形成されている。シールド部材(30)の軸方向延在部(30a)が軸体(14)の後端部外周にはまるとともに、径方向延在部(30b)が突起(31)の外周にはまった状態で、径方向延在部(30b)が軸体(14)の後端面(14a)と内輪(7)の前端面との間に挟まれている。シールド部材(30)の軸方向延在部(30a)の外周面とケース(3)のフランジ(6)の内周面との間に微小隙間を有するラビリンスシール部(33)が形成されている。
【0033】
この例では、シールド部材(30)は金属製である。シールド部材(30)の軸方向延在部(30a)の内周面が軸体(14)の外周面に接触し、これにより、シールド部材(30)の径方向の位置決めがされている。この場合、シールド部材(30)の径方向延在部(30b)の穴(32)の内周面は、軸体(14)の突起(31)の外周面に接触していてもよいし、接触していなくてもよい。シールド部材(30)の径方向延在部(30b)は、軸体(14)の後端面(14a)と内輪(7)の前端面(7a)の間に密にはまっていてもよいし、わずかな隙間をあけてはまっていてもよい。
【0034】
シールド部材(30)の径方向延在部(30b)の内周面を軸体(14)の環状突起(31)の外周面に接触させて、シールド部材(30)の径方向の位置決めをするようにしてもよい。その場合、シールド部材(30)の軸方向延在部(30a)の内周面は軸体(14)の外周面から離れていてもよい。
【0035】
シールド部材(30)が金属製であると、強度があり、扱いやすいという利点がある。しかし、シールド部材(30)は合成樹脂製であってもよい。合成樹脂製のシールド部材(30)の場合も、上記と同様の構成を採用することができ、上記と同様に、軸体(14)の後端面(14a)と内輪(7)の前端面(7a)の間に挟んで装着することができる。
【0036】
上記実施形態では、シールド部材(30)が軸方向延在部(30a)と径方向延在部(30b)とからなるので、径方向延在部(30b)を薄くしても、軸方向延在部(30a)をある程度長くすることで、シール効果を高めることができる。
【0037】
しかし、シールド部材の構成はこれに限らない。たとえば、軸方向厚さが一様な穴あき円板状のシールド部材を採用することができる。その場合、シールド部材の内周側の部分が軸体(14)の突起(31)の径方向外側の軸体(14)の後端面(14a)と内輪(7)の前端面(7a)の間に挟まれ、シールド部材の外周部が軸体(14)の外周面より径方向外側に突出する。また、シールド部材の内周面を軸体(14)の突起(31)の外周面に接触させることにより、シールド部材の径方向の位置決めをすることができる。
【0038】
プーリユニット(1)の構成は、上記実施形態のものに限らず、適宜変更可能である。
プーリユニット連結機器も、オルタネータに限らない。
【符号の説明】
【0039】
(1) プーリユニット
(2) オルタネータ
(3) ケース
(4) 玉軸受
(7) 内輪
(7a) 内輪前端面
(12) ロータ軸(動力軸)
(14) 軸体
(14a) 軸体後端面
(15) プーリ
(16) ころ軸受
(17) 玉軸受
(18) 一方向クラッチ
(30) シールド部材
(30a) 軸方向延在部
(30b) 径方向延在部
(31) 環状突起
(32) 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリユニットと、プーリユニットが連結されたプーリユニット連結機器との間で動力伝達を行うプーリユニットを用いた動力伝達装置であって、
プーリユニット連結機器のケースの一端部に、ラジアル転がり軸受を介して動力軸が支持されており、プーリユニットが、前記ケースの一端部内側に入り込んで前記動力軸に連結された軸体と、この軸体の周囲にプーリ支持手段により支持されたプーリとを備え、前記軸体側に、前記ケースとの間をシールするシールド部材が設けられているものにおいて、
前記シールド部材が、前記転がり軸受の内輪の端面と前記軸体の端面の間に挟まれていることを特徴とするプーリユニットを用いた動力伝達装置。
【請求項2】
前記軸体の端面の外周より径方向内側の部分に形成された環状突起が前記転がり軸受の内輪の端面に圧接させられ、前記シールド部材の中心に穴が形成され、前記シールド部材の内周側の部分が、前記環状突起より径方向外側の前記軸体の端面と前記転がり軸受の内輪の端面の間に挟まれていることを特徴とする請求項1のプーリユニットを用いた動力伝達装置。
【請求項3】
前記シールド部材が、軸方向延在部と、この軸方向延在部から径方向内側にのびた径方向延在部とからなり、前記径方向延在部の中心に穴が形成され、前記径方向延在部が、前記環状突起より径方向外側の前記軸体の端面と前記転がり軸受の内輪の端面の間に挟まれ、前記軸方向延在部が前記軸体の外周面の外側に位置していることを特徴とする請求項2のプーリユニットを用いた動力伝達装置。
【請求項4】
前記軸方向延在部の内周面が前記軸体の外周面に接触していることを特徴とする請求項3のプーリユニットを用いた動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−167687(P2012−167687A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26696(P2011−26696)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】