説明

ホイール回転装置のブレーキ構造

【課題】ブレーキ作動流体路(液路)を含めたブレーキ機構をコンパクト化したホイール回転装置のブレーキ構造を提供する。
【解決手段】モータ1、ブレーキ機構3をホイールWの内部に備えたホイール回転装置のブレーキ構造であって、モータ1は、モータハウジング11と、ステータ12と、ロータ13と、を有し、ブレーキ機構3は、ホイールWと一体に回転するディスクロータ35と、ディスクロータ35と接触することで制動力を発生するパッド34,35と、パッド34,35をディスクロータ35に押し付ける押圧力を、ブレーキ液路31aを通って流体圧を伝達するブレーキ作動流体により発生するピストン32と、ピストン32を格納したキャリパ半体31と、パッドを固定する固定部31′と、を有し、前記ブレーキ液路31aは、モータハウジング11の外周壁113内に形成されるとともに、キャリパ半体31に形成されたブレーキ液供給口31aと繋げた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のホイールを回転するホイール回転装置に係り、特に、コンパクト化されたホイール回転装置のブレーキ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のホイールを駆動するインホイールモータは、ホイール内の限られた空間に配置されるので、各種部品のレイアウトが工夫され、コンパクト化およびモータのトルク向上のためにモータの大径化が図られている(例えば、特許文献1参照)。また、ホイール回転装置のブレーキ構造としては、大きな制動力が得られる油圧ブレーキを用いるのが一般的である。
【0003】
特許文献1には、油圧ブレーキ機構を備えたインホイールモータが記載されている。この技術では、ブレーキホースからなるチューブ形状の外付け油圧配管を、車体側に固定される油圧供給源からホイールのブレーキ装置に連結している。このブレーキホースは、モータハウジングの外周を迂回するように配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−114858号公報(請求項1、段落0027、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ブレーキホースがモータハウジングの外周を迂回するように外付けされると、外付け部品用のスペースをモータの外周側に確保しなければならないため、モータ径を大きく採りづらくなり、トルクを稼ぐことができないという問題があった。また、ブレーキホースの取回しもしづらいという問題があった。
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、ブレーキを作動させる流体の流路(ブレーキ作動流体路)を含めたブレーキ機構をコンパクト化したホイール回転装置のブレーキ構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、ホイールの内部に前記ホイールを回転駆動するモータおよび前記ホイールを制動するブレーキ機構を備えるホイール回転装置のブレーキ構造であって、前記モータは、モータハウジングと、このモータハウジング内に固定されるステータと、前記モータハウジング内で前記ステータに対面するように設けられるロータと、を有し、前記ブレーキ機構は、前記ホイールと一体に回転するブレーキロータと、前記ブレーキロータと接触することで制動力を発生する摩擦部材と、前記摩擦部材を前記ブレーキロータに押し付ける押圧力を、ブレーキ作動流体路を通って流体圧を伝達するブレーキ作動流体により発生する押圧力発生部と、前記押圧力発生部を格納した格納部と、前記摩擦部材を固定する固定部と、を有し、前記ブレーキロータはディスクロータであり、前記摩擦部材は前記ディスクロータを挟んで対向する第1摩擦部材および第2摩擦部材であり、前記ブレーキ作動流体路は、前記モータハウジングの壁内に形成されるとともに、前記格納部のブレーキ作動流体供給口と繋がれ、前記第1摩擦部材は前記押圧力発生部に取り付けられ、前記押圧力発生部は前記ディスクロータの回転軸方向に移動可能に前記格納部に格納され、前記格納部は前記モータハウジングと一体に形成され、前記第2摩擦部材は前記固定部に取り付けられ、前記固定部は前記ディスクロータの外周を跨いで前記モータハウジングに取り付けられたことを特徴とする。
【0007】
請求項1に係る発明によれば、流体圧を伝達するブレーキ作動流体は、ブレーキ作動流体路からブレーキ作動流体供給口を経て格納部に送り込まれ、押圧力発生部で押圧力を発生する。これにより、摩擦部材をブレーキロータに押し付け、ホイールを制動することができる。
【0008】
また、ブレーキ作動流体路をモータハウジングの壁内に形成し、従来のブレーキホース等の外付け油圧配管を不用としたので、外付け部品用のスペースを確保する必要がなくなり、モータ径を大きく確保することができる。さらに、従来のブレーキホース等の外付け油圧配管を不用としたので、ブレーキホースの取回しを考慮する必要もなく、部品点数も削減することができる。
【0009】
さらに、請求項1に係る発明によれば、押圧力発生部が充分な強度を有するモータハウジングに一体に形成された格納部に格納されているので、押圧力発生部の反力をモータハウジングで直接受けることができる。また、押圧力発生側と反対側の摩擦部材を固定するブラケット(固定部)を簡素な構造とすることができる。さらに、ディスクロータを扁平で簡素な形状にすることができるので、製造コストを低減することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のホイール回転装置のブレーキ構造において、前記ディスクロータは回転軸方向に移動自在なフローティングディスクであることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、回転軸方向に移動自在なフローティングディスクであるため、対向する摩擦部材に均等に制動力を付与することができるとともに、非制動時のディスクロータと摩擦部材の引きずりを低減することができる。また、軸方向に移動するので、ディスクロータを変形させることなく摩擦面を確保することができ、偏摩耗を低減することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のホイール回転装置のブレーキ構造において、前記モータの回転出力を前記ホイールに伝達するホイール回転部材を備え、前記ホイール回転部材と前記フローティングディスクとの間には、前記ホイール回転部材と前記フローティングディスクとの間の間隔が近接すると、前記ホイール回転部材から前記フローティングディスクを離間する方向に付勢するための弾性部材が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、ホイール回転部材とフローティングディスクとの間の間隔が近接すると、ホイール回転部材からフローティングディスクを離間するように弾性部材が作用する。これにより、摩擦部材が摩耗して厚みが小さくなった際であっても、フローティングディスクとモータハウジング等の他部品との干渉を防止することができる。なお、ホイール回転部材としては、アクスルシャフトやハブが挙げられる。
【0014】
なお、請求項1に記載のホイール回転装置のブレーキ構造において、前記ブレーキロータはディスクロータであり、前記摩擦部材は前記ディスクロータを挟んで対向する第1摩擦部材および第2摩擦部材であり、前記第1摩擦部材は前記モータハウジングに取り付けられ、前記第2摩擦部材は前記押圧力発生部に取り付けられ、前記押圧力発生部は前記ディスクロータの回転軸方向に移動できるように前記格納部に格納され、前記格納部は前記モータハウジングとの間に前記ディスクロータを挟むように前記モータハウジングに取り付けられた構成としてもよい。
【0015】
このような構成により、ホイール回転装置のブレーキ構造は、第1摩擦部材をモータハウジングに取り付けるので、格納部に専用の取付部位を設ける必要がなくなり、ブレーキ機構をディスクロータの回転軸方向に小型化することができる。つまり、第1摩擦部材を格納部に設ける場合は、第1摩擦部材を取り付けた格納部をさらにモータハウジングに取り付けるため、その分、厚みが大きくなる。これに対し、請求項2に係る発明によれば、第1摩擦部材の取付部位を省略して、格納部には第2摩擦部材のみを取り付けられるように構成したので、軸方向の小型化が達成される。また、格納部には、従来のキャリパの半分に相当するキャリパ半体を用いることができるため、コストを低減することができる。
【0016】
さらに、前記した構成のホイール回転装置のブレーキ構造において、前記ブレーキ作動流体路は、前記モータハウジングの前記壁内で直線に形成されるようにしてもよい。
【0017】
このような構成により、ホイール回転装置のブレーキ構造は、作動流体路が直線なので、ブレーキ作動流体路の加工を簡単にすることができ、コストを低減することができる。
【0018】
また、請求項1に記載のホイール回転装置のブレーキ構造において、前記ブレーキロータはドラムロータであり、前記摩擦部材は一端がそれぞれ回動可能に枢支された一対のドラム用摩擦部材であり、一対の前記ドラム用摩擦部材の各他端に前記押圧力発生部が取り付けられ、前記押圧力発生部は前記ドラム用摩擦部材を前記ドラムロータ内周面に摺接する方向に往復可能に前記格納部に格納され、前記格納部は前記モータハウジングに取り付けられている構成としてもよい。
【0019】
このような構成により、ホイール回転装置のブレーキ構造は、自己サーボ効果があり、引きずりが少なく、パッド面積が大きく採れるドラムロータ型ブレーキを採用し、格納部をモータハウジングに直接取り付ける構成としたので、ブレーキ機構をドラムロータの回転軸方向に小型化することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ブレーキを作動させる流体の流路(ブレーキ作動流体路)を含めたブレーキ機構がコンパクト化される。これにより、モータ径を大きく確保することができ、モータのトルクを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施の形態に係るインホイールモータ車の車輪の内部構造を示す分解斜視図である。
【図2】第1の実施の形態に係るホイール回転装置のブレーキ構造の全体構成を車体後方から見た状態を示す縦断面図である。
【図3】モータを示す分解斜視図である。
【図4】減速装置の要部拡大断面図である。
【図5】減速装置の斜視図である。
【図6】減速装置の作用を示す側面図である。
【図7】ブレーキ機構を示す要部拡大断面図である。
【図8】パッドが摩耗した状態のブレーキ機構を示す要部拡大断面図である。
【図9】ディスクロータとアクスルシャフトを示す斜視図である。
【図10】(a)は、ディスクロータとスプリングプレートを示す斜視図、(b)はディスクロータとアクスルシャフトがスプリングプレートを介して係合した状態を示す平面図である。
【図11】変形例に係るホイール回転装置のブレーキ構造の全体構成を車体後方から見た状態を示す縦断面図である。
【図12】第2の実施の形態に係るインホイールモータ車の車輪の内部構造を示す分解斜視図である。
【図13】第2の実施の形態に係るホイール回転装置のブレーキ構造の全体構成を車体後方から見た状態を示す縦断面図である。
【図14】ブレーキ機構を示す要部拡大断面図である。
【図15】車体外側から見たブレーキ機構の作用を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施の形態において同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
[第1の実施の形態]
まず、第1の実施の形態に係るホイール回転装置のブレーキ構造について説明する。図1は、本実施の形態に係るインホイールモータ車の車輪の内部構造を示す分解斜視図である。本実施の形態では、ディスクブレーキに本発明のブレーキ構造を適用した場合について説明する。本発明に係るホイール回転装置のブレーキ構造は、前後左右輪いずれの車輪にも適用することができるが、本実施の形態では、左前輪に適用した場合を例にとって説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態に係るホイール回転装置のブレーキ構造(以下、ブレーキ構造B1という。)では、ホイールWの内側に、ホイールWを回転させる回転力を発生するモータ1(インホイールモータ)と、このモータ1の回転力を減速してホイールWに伝達する減速装置2と(図2参照)、ホイールWを制動するブレーキ機構3とが設けられて構成されている。
【0024】
図2は、本実施の形態に係るホイール回転装置のブレーキ構造の全体構成を車体後方から見た状態を示す縦断面図である。図2においては、右方が車体内側、左方が車体外側である。以下、図2の状態を基準に左右の方向を定めて説明する。
【0025】
<ホイールWと車体側の構成>
まず、図2に示すように、ホイールWには、リムにタイヤTが装着されるとともに、回転軸となるアクスルシャフト40がボルト43とナット44によって連結されている(図1参照)。一方、車体側には、車体側に固定されるナックルKに回転支承部材としてハブホルダHSが連結されている。このハブホルダHSに、ベアリングB40,B40を介して前記アクスルシャフト40が回転可能に内嵌しており、モータ1で発生した回転力は、減速装置2およびアクスルシャフト40を介してホイールWに伝達される。
【0026】
ここで、ナックルKの構成について説明する。ナックルKは、略円盤状に形成されている。ナックルKは、右側面の上部にサスペンションが連結される連結部Kaが設けられ、右側面の下部にロアアームを締結する締結部Kbが設けられている。また、ナックルKの中心部にはハブホルダHSが嵌め込まれる中央孔Kcが形成されている(図3参照)。このナックルKにモータ1のモータハウジング11が取り付けられる。
【0027】
<モータ1の構成>
図3は、モータを示す分解斜視図である。
図2および図3に示すように、モータ1は、モータハウジング11と、このモータハウジング11の内周面に固定されるステータ12と、このステータ12の径方向内側にステータ12と対面するように設けられるロータ13と、を有している。
【0028】
モータハウジング11は、軽量で、かつ、剛性の高い材質(例えば、アルミニウム−マグネシウム合金等)から形成されている。モータハウジング11は、外周壁111(壁部)と底壁112(壁部)とから構成されており、底壁112の中央には開口部113が形成されている。外周壁111の端面は、ナックルKの左側に固定されており、これにより、ナックルKとモータハウジング11の間には、ステータ12、ロータ13、および減速装置2を配置する空間が形成されている。
【0029】
外周壁111および底壁112は所定の厚みを有しており、上側の外周壁111の内部には、ブレーキ液(ブレーキ流体)の液路であるブレーキ液路111a(ブレーキ作動流体路)が左右方向に沿って形成されている。このブレーキ液路111aは、外周壁111を一直線に貫通して形成されており、図2に示すように、右端がジョイントJを介して車体側に設けられた図示しないマスタシリンダ等の液圧発生手段に接続され、左端が後記するブレーキ機構3のブレーキ液供給口31aに繋げられている。なお、ブレーキ液路111aは、一直線に形成されていることで、機械加工が容易である。
【0030】
図2および図3に示すように、底壁112の外面側には、取付凹部112aが形成されている。この取付凹部112aには、後記する内側パッド34(図1参照)が嵌め込まれて取り付けられる。また、底壁112の開口部113の内周面には、内歯27aを有する内歯部材27が設けられている。この内歯部材27は、後記する減速装置2の一構成部品であり、同じく減速装置2を構成する第2ギヤ26(図4,5参照)が噛み合うようになっている。
【0031】
ステータ12は、モータハウジング11の内周面に沿って固定された環状の部材である。ステータ12は、図示しないコイルがコアに巻回されて構成されている。
【0032】
ロータ13は、ステータ12の内側に所定の間隙を設けて相対向するように配置されている。このロータ13は、永久磁石からなり、ステータ12のステータコイルが通電されることで、回転可能になる。このロータ13の回転力は、減速装置2に伝達される。
【0033】
<減速装置2の構成>
図4は、減速装置の要部拡大断面図であり、図5は、減速装置の斜視図である。
図4および図5に示すように、減速装置2は、ロータ13に固定される太陽ギヤ21と、太陽ギヤ21に回転可能に取り付けられる遊星ギヤアッセンブリ22と、を有している。
【0034】
図4および図5に示すように、太陽ギヤ21は、フランジ部21aが形成された円筒状の筒部21bを有している。フランジ部21aは、前記したロータ13に固定されており、筒部21bは、ベアリングB20を介してハブホルダHSに外嵌している。このように太陽ギヤ21はロータ13に固定されていることでロータ13と一体となって、かつ、ハブホルダHS回りに回転可能である。また、筒部21bの左端部側には外歯21cが形成されている。この外歯21cに、後記する遊星ギヤアッセンブリ22の第1ギヤ25が噛み合うことで、太陽ギヤ21の回転に伴って遊星ギヤアッセンブリ22が回転可能になっている。
【0035】
遊星ギヤアッセンブリ22は、ケーシング23と、このケーシング23内に回転自在に設けられる6本のギヤシャフト24と(図5参照)、このギヤシャフト24に設けられる第1ギヤ25および第2ギヤ26と、モータハウジング11に取り付けられた内歯部材27を有している。
【0036】
ケーシング23は、環状のインナケーシング231と、このインナケーシング231にスペーサ部232aを介して一体化されるアウタケーシング232とから構成され、このインナケーシング231とアウタケーシング232を貫通するボルト28(図4の紙面下側)でアクスルシャフト40(図4参照)に固定されている。ケーシング23は、ギヤシャフト24をアクスルシャフト40の軸方向と平行に支持するとともに、ギヤシャフト24に設けられる第1ギヤ25および第2ギヤ26の歯部が外部に露出するように形成されている。
【0037】
ギヤシャフト24は、その両端部がベアリングB21,B22を介してケーシング23に軸支されている。また、このギヤシャフト24には第1ギヤ25および第2ギヤ26がそれぞれ軸方向にずれた位置に固定されている。第1ギヤ25は、その一部がケーシング23の内周側で、前記した太陽ギヤ21の外歯21cに噛み合っている。また、第2ギヤ26は、ケーシング23の外周側で、内歯部材27の内歯27aに噛み合っている。
【0038】
図6は、減速装置の作用を示す側面図である。
以上のように構成された減速装置2は、図6に示すように、ロータ13の回転とともに太陽ギヤ21が回転すると、太陽ギヤ21の外歯21cとギヤシャフト24に固定された第1ギヤ25が噛み合って、ギヤシャフト24を回転させる。つまり、この第1ギヤ25は、太陽ギヤ21の回転によって、ギヤシャフト24自身を自転させる機能を有する。このようにギヤシャフト24が自転すると、ギヤシャフト24に固定された第2ギヤ26と内歯部材27の内歯27aが噛み合って、ギヤシャフト24を内歯部材27の内周面に沿って回転させる。つまり、この第2ギヤ26は、ギヤシャフト24を太陽ギヤ21の軸回りに公転させる機能を有する。これにより、ギヤシャフト24が軸支されたケーシング23が回転し、ケーシング23に固定されたアクスルシャフト40が回転し、このアクスルシャフト40に固定されたホイールW(図2等参照)が回転する。
【0039】
ここで、太陽ギヤ21と第1ギヤ25の歯数の比でギヤシャフト24の自転回数が定められ、第2ギヤ26と内歯部材27の歯数の比でギヤシャフト24の公転回数が定められる。そして、本実施の形態のように、第1ギヤ25を第2ギヤ26より歯数の多いギヤで構成することで、減速比を高めることができるようになっている。
【0040】
<ブレーキ機構3の構成>
図7は、ブレーキ機構を示す要部拡大断面図であり、図8は、パッドが摩耗した状態のブレーキ機構を示す要部拡大断面図である。
図7に示すように、ブレーキ機構3は、アクスルシャフト40を介してホイールWと一体に回転するディスクロータ35と、モータハウジング11に取り付けられたキャリパ半体31(格納部)と、このキャリパ半体31に内蔵されるピストン32(押圧力発生部)と、ディスクロータ35を挟んで両側に配置される外側パッド33および内側パッド34と、を有している。
【0041】
キャリパ半体31は、モータハウジング11の左側面の上部に取り付けられている。このキャリパ半体31は、後記するディスクロータ35の外周を跨ぐようにモータハウジング11に取り付けられており、ディスクロータ35と対向する部位にシリンダ31cを有している。また、キャリパ半体31には、モータハウジング11との取付部位に、ブレーキ液路111aが接続されたブレーキ液供給口31aが形成されており、このブレーキ液供給口31aがブレーキ液路31bを介してシリンダ31cに連通する。これにより、シリンダ31c内には、ブレーキ液路111aからのブレーキ液が充填されるようになっている。なお、キャリパ半体31は、従来のキャリパの半分に相当する部分であるので、この従来品を用いることで、コスト低減を図ることもできる。
【0042】
ピストン32は、有底筒状に形成され、シリンダ31cに内蔵されている。また、ピストン32の外周とシリンダ31cの間には、リング状のシール部材Sが設けられている。シール部材Sの内周側はピストン32に密着しており、これにより、ブレーキ液がシリンダ31cとピストン32との隙間から漏れないようになっている。
ピストン32は、ブレーキ液の液圧が伝達されることでディスクロータ35の軸方向に沿って進退自在となり、これによって、外側パッド33をディスクロータ35に向けて押し付けることができるようになっている。なお、この際、ピストン32の動きに合わせて、シール部材Sのピストン32に密着した部分が変形しながら追従する。従って、ブレーキ液圧が解除されると、シール部材Sがゴムの復元力で元に戻ろうとするが、このとき、ブレーキ液圧の負圧およびゴムの復元力によりピストン32も一緒に引き戻す。これにより、ディスクロータ35と外側パッド33との間の隙間は一定に保たれる。
【0043】
外側パッド33は、外側裏板33aと外側摩擦材33b(摩擦部材)とから構成されており、キャリパ半体31に図示しないリテーナを介装して嵌め合わされている。この外側パッド33をピストン32で押圧することで、外側摩擦材33bがディスクロータ35に押し付けられる。
【0044】
内側パッド34は、内側裏板34aと内側摩擦材34b(摩擦部材)とから構成されており、モータハウジング11の左側面に設けられた取付凹部112aに図示しないリテーナを介装して嵌め合わされている。
【0045】
ディスクロータ35は、ホイールWと一体となって回転するとともに、回転軸方向に移動可能なフローティングディスクである。ディスクロータ35は、外側パッド33に押圧されることで軸方向に移動し、内側パッド34に接触する。そして、このディスクロータ35の摺動面に外側パッド33と内側パッド34が押圧されることで、ディスクロータ35の摺動面と、外側パッド33および内側パッド34の各接触面との間に摩擦力が生じ、ディスクロータ35の回転が制動されるようになっている。ディスクロータ35は、アクスルシャフト40との間にスプリングプレート45(弾性部材)が嵌め合わされることのみでホイールW側に取り付けられている。ここで、ディスクロータ35とアクスルシャフト40の係合関係について説明する。
【0046】
図9は、ディスクロータとアクスルシャフトを示す斜視図である。
図9に示すように、ディスクロータ35は、環状かつ扁平な部材であり、摺動面となる外周部351と、アクスルシャフト40との係合部である内周部352とを有している。
【0047】
外周部351と内周部352とは、軸方向に段差を設けて形成されている(図7参照)。内周部352の内周面には、周方向に沿って6つの係合凹部352aが等間隔で形成されている。
【0048】
一方、アクスルシャフト40は、ハブホルダHS(図2参照)の内側にベアリングB40,B40を介して回転自在に取り付けられるシャフト部41と、ホイールWにボルト43とナット44(図1および図2参照)によって締結される円盤状の締結部42とを有している。
【0049】
締結部42は、中央部421と、この中央部421から径方向に拡がるフランジ部422と、このフランジ部422から突出してかつ周方向に沿って形成される6つの係合凸部423とを有している。中央部421は、ディスクロータ35の内周部352よりも厚みが厚く形成されている(図7参照)。中央部421と内周部352の厚みの差の分だけ、ディスクロータ35が軸方向に移動可能になっている。また、各係合凸部423は、ディスクロータ35の係合凹部352aに対応する位置に設けられている。各係合凸部423には、スプリングプレート45が取り付けられるようになっており、各係合凸部423は、スプリングプレート45が取り付けられた状態で、ディスクロータ35の係合凹部352aに係合される(図7参照)。
【0050】
図10(a)は、ディスクロータとスプリングプレートを示す斜視図、(b)はディスクロータとアクスルシャフトがスプリングプレートを介して係合した状態を示す平面図である。
図10(a)に示すように、スプリングプレート45は、一対の板バネ片46,46と、この板バネ片46,46を連結する連結部47とから構成されている。
【0051】
各板バネ片46は、連結部47に連結される第1片461と、この第1片461から平面視で鋭角に屈曲するとともにヘの字状に形成された第2片462とを有している(図10(b)参照)。
【0052】
各第1片461と連結部47とは、アクスルシャフト40の係合凸部423を三方から挟み込むようになっており、それぞれに形成された係止片461aおよび係止片47aで係合凸部423に係止するようになっている。
【0053】
各第2片462は、図10(b)に示すように、ディスクロータ35とアクスルシャフト40の間に位置するようになっている。板バネ片46は、第1片461と第2片462との間の屈曲点が支点463、第2片462の先端側の屈曲点が作用点464となっており、支点463はアクスルシャフト40のフランジ部422に接触している。
【0054】
スプリングプレート45は、ディスクロータ35が車体内側に回転軸方向に沿って移動すると、図10(b)に破線で示すように、第2片462がディスクロータ35に押されてアクスルシャフト40側に変形する。それから、ディスクロータ35の押圧力が解除されると、支点463を基準に第2片462が弾性力で反発し、作用点464によってディスクロータ35が車体外側に向けて押し戻される。これは、図8に示すように、内側パッド34の内側摩擦材34bが摩耗してパッド厚が少なくなってきた際、ディスクロータ35がモータハウジング11側に寄り過ぎて(例えば、丸で囲ったCの位置等で)干渉するためにディスクロータを押し戻す構造である。
【0055】
<ブレーキ構造B1の作用効果>
本実施の形態に係るブレーキ構造B1の作用について、図7および図8を参照しながら説明する。まず、車両が走行しているときは、図7に示すディスクロータ35はホイールWとともに回転している。そして、この車両を制動する際、本実施の形態に係るブレーキ構造B1には、車体側に設けられた図示しないマスタシリンダ等のブレーキ液圧発生手段から、ブレーキ液が供給されるようになっている。
【0056】
ブレーキ液は、モータハウジング11のブレーキ液路111a、キャリパ半体31のブレーキ液供給口31a、ブレーキ液路31bを介して、シリンダ31cに送り込まれ、ピストン32にブレーキ液圧を伝達する。これにより、ピストン32が車体内側に向けて前進し、外側パッド33をディスクロータ35に押し付ける。また、これと同時に、ディスクロータ35は軸方向に沿って車体内側に向けて移動し、内側パッド34に押し付けられる。そのため、ディスクロータ35は、外側パッド33と内側パッド34との間で摺動し、これによってディスクロータ35の摺動面と、外側パッド33および内側パッド34の各接触面との間に摩擦力が生じることで、ディスクロータ35の回転が制動される。
【0057】
その後、ブレーキ液圧が解除されることで非制動状態になると、ピストン32がシール部材Sの復元力によって引き戻るため、外側パッド33とディスクロータ35の隙間が大きく確保される。一方、ディスクロータ35と内側パッド34の隙間については、以下のように確保される。即ち、再び回転するディスクロータ35が内側パッド34と干渉すると、ディスクロータ35はフローティングディスク構造なので車体外側に向けて移動することができ、これによりディスクロータ35と内側パッド34の隙間が確保される。また、ディスクの移動は、パッドとの隙間を確保する程度のわずかな移動(約0.1〜0.2mm程度)である。
【0058】
なお、使用をしていく過程において、図8に示すように、外側パッド33および内側パッド34の各パッド厚が少なくなってきた場合には、例えば、丸で囲んだC位置などで、ディスクロータ35がモータハウジング11と干渉しないように、スプリングプレート45がディスクロータ35を車体外側へ押し戻すようになっている。
【0059】
以上のように構成されたブレーキ構造B1では、以下の効果を得ることができる。
ブレーキ液路111aをモータハウジング11の外周壁111内に形成し、従来のブレーキホース等の外付け油圧配管を不用としたので、外付け部品用のスペースを確保する必要がなくなり、モータ径を大きく確保することができる。これにより、モータ1のトルクを向上させることができる。
【0060】
また、従来のブレーキホース等の外付け油圧配管を不用としたので、ブレーキホースの取回しを考慮する必要もなく、部品点数も削減することができる。さらに、ブレーキ液路111aが一直線なので、ブレーキ液路111aの加工を簡単にすることができ、コストを低減することができる。
【0061】
内側パッド34をモータハウジング11に一体に取り付けたので、その分、キャリパ半体31の厚みを小さくでき、ブレーキ機構3をディスクロータ35の回転軸方向に小型化することができる。
【0062】
ディスクロータ35が回転軸方向に移動自在なフローティングディスクであるため、対向する外側パッド33および内側パッド34に均等に制動力を付与することができるとともに、非制動時のディスクロータ35と外側パッド33および内側パッド34の引きずりを防止することができる。また、ディスクロータ35が回転軸方向に移動するので、ディスクロータ35を変形させることなく摺動面を確保することができ、偏摩耗を低減することができる。
【0063】
以上、本実施の形態に係るブレーキ構造B1について説明したが、本発明のブレーキ構造は前記実施の形態に限定されるものではなく種々の形態で実施をすることができる。
【0064】
図11は、変形例に係るホイール回転装置のブレーキ構造の全体構成を車体後方から見た状態を示す縦断面図である。
前記実施の形態では、ピストン32をディスクロータ35に対して車体外側に設けたが、ピストンの位置は限定されるものではなく、図11に示すように、ディスクロータ35に対して車体内側に設けるものであってもよい。
具体的には、変形例に係るブレーキ構造では、モータハウジング11の底壁112’に、ピストン32’を内蔵するためのシリンダ112a’が設けられるとともに、底壁112’と外周壁111の内部に、シリンダ112a’に連通するブレーキ液路111a’が形成される。また、底壁112’には、外側パッド33’が取り付けられた固定部31’が、ディスクロータ35の外周を跨ぐように取り付けられている。ディスクロータ35は、ピストン32’に図示しないリテーナを介装して嵌め合わされた内側パッド34’により押圧されることで、車体外側に向けて移動し、この内側パッド34’と外側パッド33’に挟み込まれて制動される。なお、ディスクロータ35は、車体内側からアクスルシャフト40にスプリングプレート45を介して嵌め合わされている。つまり、変形例に係るブレーキ構造では、ディスクロータ35を押圧するピストン32’が第1の実施の形態とは逆側(車体内側)に設けられたことに対応して、スプリングプレート45がディスクロータ35を押し戻す向きも逆になるため、スプリングプレート45の取付の向きも第1の実施の形態とは逆になっている(図2および図11参照)。
これにより、押圧力発生側であるピストン32’とシリンダ112a’と反対側の固定部31’を簡素な構造とすることができ、また、ディスクロータ35を扁平で簡素な形状(扁平板形状)にすることができるので、これらの製造コストを低減することができる。
【0065】
前記実施の形態では、ブレーキ液路111aを一直線に形成したが、ブレーキ液路の形状は特に限定されるものではなく、例えば、曲線で形成されるものであってもよいし、屈曲して形成されるものであってもよい。また、直線と直線で組み合わせるものであってもよい。
【0066】
前記実施の形態では、ブレーキ機構3を1つだけ設ける構成としたが、円周上の反対側にもう1つブレーキ機構を設けてもよい。これにより、ディスクロータ35を軸方向に平行移動させやすくなるので、ディスクロータ35の偏磨耗を低減することができる。
【0067】
前記実施の形態では、ホイール回転部材として、ハブホルダHSに回転自在に内嵌するアクスルシャフト40を採用した場合について説明したが、本発明のホイール回転部材は限定されるものではなく、スピンドル軸に回転自在に外嵌する円筒状のハブを採用するものであってもよい。
【0068】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係るホイール回転装置のブレーキ構造について説明する。図12は、本実施の形態に係るインホイールモータ車の車輪の内部構造を示す分解斜視図である。本実施の形態では、ドラムブレーキに本発明のブレーキ構造を適用した場合について説明する。本発明に係るホイール回転装置のブレーキ構造は、前後左右輪いずれの車輪にも適用することができるが、本実施の形態では、左前輪に適用した場合を例にとって説明する。
【0069】
図12に示すように、本実施の形態に係るホイール回転装置のブレーキ構造(以下、ブレーキ構造B2という。)では、リムにタイヤTが装着されたホイールWの内側に、ホイールWを回転させる回転力を発生するモータ1(インホイールモータ)と、このモータ1の回転力を減速してホイールWに伝達する減速装置2と(図13参照)、ホイールWを制動するブレーキ機構5とが設けられて構成されている。
【0070】
図13は、本実施の形態に係るホイール回転装置のブレーキ構造の全体構成を車体後方から見た状態を示す縦断面図である。従って、図13においては、右方が車体内側、左方が車体外側である。
【0071】
図13に示すように、第2の実施の形態に係るブレーキ構造B2は、図2に示す第1の実施の形態に係るブレーキ構造B1に対し、モータ1のモータハウジング11内におけるブレーキ液路111a、および、ブレーキ機構3を変更しただけであり、その他の基本的な構成についてはブレーキ構造B1と同一である。以下、モータ1のモータハウジング11、ブレーキ機構5について説明する。
【0072】
<モータ1のモータハウジング11の構成>
モータハウジング11は、第1の実施の形態と同様に、外周壁111と底壁112とから構成され、右方が開口した略有底円筒状に形成されている。モータハウジング11は、ナックルKの左側に固定されており、これにより、ナックルKとモータハウジング11の間には、ステータ12、ロータ13、および減速装置2を配置する空間が形成されている。
【0073】
モータハウジング11の外周壁111および底壁112は所定の厚みを有している。そして、上側の外周壁111の内部には、ブレーキ液の液路であるブレーキ液路111bが左右方向に沿って形成され、底壁112の内部には、ブレーキ液路112bが上下方向に沿って形成されている。
【0074】
ブレーキ液路111bは、外周壁111の右端部から一直線に形成されており、ブレーキ液路112bに連通している。また、ブレーキ液路112bは、ブレーキ液路112bとの交点からブレーキ機構5のホイールシリンダ52に対向する位置まで一直線に形成されており、その先端部がブレーキ機構5のブレーキ液供給口52aに繋げられている。ブレーキ液路111b,112bは一直線に形成されていることで、機械加工が容易である。ちなみに、ブレーキ液路112bは、外周壁111の上端部からブレーキ液路111bに接続されるように穿孔した後、穿孔開始部分を閉塞されることで形成されるようになっている。
【0075】
<ブレーキ機構5の構成>
図14は、ブレーキ機構を示す要部拡大断面図であり、図15は、車体外側から見たブレーキ機構の作用を示す側面図である。
図14および図15に示すように、ブレーキ機構5は、ホイールWとアクスルシャフト40との間に取り付けられたドラムロータ51と、モータハウジング11に取り付けられたホイールシリンダ52と、このホイールシリンダ52に内蔵される一対のピストン53と(図14では1つのみ図示)、一対のブレーキシュー54,54(図12参照)と、この一対のブレーキシュー54の間に掛け渡されるスプリング55(図12参照)と、を有している。
【0076】
図14に示すように、ドラムロータ51は、扁平な円筒状に形成されており(図12参照)、ホイールWとアクスルシャフト40との間にボルト43とナット44によって取り付けられている。これによって、ドラムロータ51は、ホイールWと一体となって回転する。
【0077】
ホイールシリンダ52は、モータハウジング11の左側面の上部に取り付けられている。ホイールシリンダ52には、モータハウジング11との取付部位に形成されたブレーキ液供給口52aが形成されており、このブレーキ液供給口52aは、ブレーキ液路52bを介して、シリンダ内部のシリンダ腔部52cに連通する。これにより、シリンダ腔部52cには、モータハウジング11のブレーキ液路111b,112bからのブレーキ液が充填されるようになっている。なお、図14および図15に示す符号52dは、ホイールシリンダ52内の空気を抜いて液密(油密)にするために設けられる空気孔である。
【0078】
ピストン53は、ホイールシリンダ52のシリンダ腔部52cに、一対並列して内蔵されている。各ピストン53は、図15に示すように、その先端部が出力部材53aに連結されており、この出力部材53aがブレーキシュー54に連結されている。
ピストン53は、ブレーキ液の液圧が伝達されることで、出力部材53aをホイールシリンダ52の外方に向けて突出させる。
【0079】
各ブレーキシュー54は、半円弧状に形成されたウェブ54aと、このウェブ54aの外周縁に固定した裏板54bと、この裏板54bの外周縁に固着したライニング54c(摩擦部材)とを有している。
【0080】
一対のウェブ54a,54aは、各下端部がアンカーピンPでそれぞれ回動自在に軸支されている。また、一対のウェブ54a,54aの上端部には、前記した出力部材53a,53aの先端部がそれぞれ連結されている。さらに、一対のウェブ54a,54aの間には、スプリング55が掛け渡されており、各ウェブ54a,54aをモータハウジング11の径方向内側に向けて付勢している。
【0081】
裏板54bおよびライニング54cは、ともにウェブ54aの形状に合わせて半円弧状に形成されている。そして、通常時(非制動時)には、ライニング54cの外周面がドラムロータ51の内周面に非接触で対向している。
【0082】
<ブレーキ構造B2の作用効果>
本実施の形態に係るブレーキ構造B2の作用について、図14および図15を参照しながら説明する。まず、車両が走行しているときは、図14に示すドラムロータ51はホイールWとともに回転している。そして、この車両を制動する際、本実施の形態に係るブレーキ構造B2には、車体側に設けられた図示しないマスタシリンダ等のブレーキ液圧発生手段からブレーキ液が供給されるようになっている。
【0083】
ブレーキ液は、モータハウジング11のブレーキ液路111b,112b、ホイールシリンダ52のブレーキ液供給口52a、ブレーキ液路52bを介して、シリンダ腔部52cに送り込まれ、ピストン53にブレーキ液圧を伝達する。これにより、図15に示すように、ピストン53が出力部材53aをホイールシリンダ52の外方に向けて突出させ、アンカーピンPを支点としてブレーキシュー54,54の上端部をそれぞれ外側へと拡張させる。この結果、ドラムロータ51の内周面にライニング54cの外周面が押し付けられ、ドラムロータ51の摺動面とライニング54cの接触面との間に摩擦力が生じて、ドラムロータ51の回転が制動される。その後、ブレーキ液圧が解除されることで非制動状態になると、スプリング55の復元力およびブレーキ液圧の負圧によって、ウェブ54a,54aは元の位置に戻る。また、図示しないクリアランス自動調整機構によりライニング摩耗時のドラムロータ51とライニング54cのクリアランスは適正に保持される。
【0084】
以上のように構成されたブレーキ構造B2では、以下の効果を得ることができる。
ブレーキ液路111b,112bをモータハウジング11の外周壁111、底壁112内に形成し、従来のブレーキホース等の外付け油圧配管を不用としたので、外付け部品用のスペースを確保する必要がなくなり、モータ径を大きく確保することができる。これにより、モータ1のトルクを向上させることができる。
【0085】
また、従来のブレーキホース等の外付け油圧配管を不用としたので、ブレーキホースの取回しを考慮する必要もなく、部品点数も削減することができる。さらに、ブレーキ液路111b,112bが一直線なので、ブレーキ液路111b,112bの加工を簡単にすることができ、コストを低減することができる。
【0086】
自己サーボ効果があり、パッド面積が大きく採れるドラムブレーキを採用し、ホイールシリンダ52やブレーキシュー54をモータハウジング11に直接取り付けるので、キャリパ半体31を設けた第1の実施の形態よりも、ブレーキ機構5を軸方向に小型化することができる。
【0087】
以上、本実施の形態に係るブレーキ構造B2について説明したが、本発明のブレーキ構造は前記実施の形態に限定されるものではなく種々の形態で実施をすることができる。
【0088】
前記実施の形態では、ブレーキ液路111b,112bを直線に形成したが、ブレーキ液路の形状は特に限定されるものではなく、例えば、曲線状に形成されるものであってもよいし、屈曲して形成されるものであってもよい。
【0089】
前記実施の形態では、モータハウジング11にブレーキ機構5の各部品(ホイールシリンダ52、ブレーキシュー54)を直接取り付ける構成としたが、取付方法はこれに限定されるものではなく、例えば、バックプレートを介して取り付けるものであってもよい。これによれば、モータハウジング11に対するブレーキ機構の取付が容易になる。
【符号の説明】
【0090】
1 モータ
2 減速装置
3 ブレーキ機構
5 ブレーキ機構
11 モータハウジング
12 ステータ
13 ロータ
21 太陽ギヤ
22 遊星ギヤアッセンブリ
23 ケーシング
31 キャリパ半体
31a ブレーキ液供給口
31b ブレーキ液路
31c シリンダ
32 ピストン
33 外側パッド
34 内側パッド
35 ディスクロータ
40 アクスルシャフト
45 スプリングプレート
51 ドラムロータ
52 ホイールシリンダ
52a ブレーキ液供給口
52b ブレーキ液路
53 ピストン
54 ブレーキシュー
55 スプリング
K ナックル
111 外周壁
111a ブレーキ液路
111b ブレーキ液路
112 底壁
112a 取付凹部
112b ブレーキ液路
113 開口部
B1 ブレーキ構造
B2 ブレーキ構造
W ホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールの内部に前記ホイールを回転駆動するモータおよび前記ホイールを制動するブレーキ機構を備えるホイール回転装置のブレーキ構造であって、
前記モータは、
モータハウジングと、
このモータハウジング内に固定されるステータと、
前記モータハウジング内で前記ステータに対面するように設けられるロータと、を有し、
前記ブレーキ機構は、
前記ホイールと一体に回転するブレーキロータと、
前記ブレーキロータと接触することで制動力を発生する摩擦部材と、
前記摩擦部材を前記ブレーキロータに押し付ける押圧力を、ブレーキ作動流体路を通って流体圧を伝達するブレーキ作動流体により発生する押圧力発生部と、
前記押圧力発生部を格納した格納部と、
前記摩擦部材を固定する固定部と、を有し、
前記ブレーキロータはディスクロータであり、
前記摩擦部材は前記ディスクロータを挟んで対向する第1摩擦部材および第2摩擦部材であり、
前記ブレーキ作動流体路は、前記モータハウジングの壁内に形成されるとともに、前記格納部のブレーキ作動流体供給口と繋がれ、
前記第1摩擦部材は前記押圧力発生部に取り付けられ、
前記押圧力発生部は前記ディスクロータの回転軸方向に移動可能に前記格納部に格納され、
前記格納部は前記モータハウジングと一体に形成され、
前記第2摩擦部材は前記固定部に取り付けられ、
前記固定部は前記ディスクロータの外周を跨いで前記モータハウジングに取り付けられたことを特徴とするホイール回転装置のブレーキ構造。
【請求項2】
前記ディスクロータは回転軸方向に移動自在なフローティングディスクであることを特徴とする請求項1に記載のホイール回転装置のブレーキ構造。
【請求項3】
前記モータの回転出力を前記ホイールに伝達するホイール回転部材を備え、前記ホイール回転部材と前記フローティングディスクとの間には、前記ホイール回転部材と前記フローティングディスクとの間の間隔が近接すると、前記ホイール回転部材から前記フローティングディスクを離間する方向に付勢するための弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のホイール回転装置のブレーキ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−75105(P2011−75105A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255179(P2010−255179)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【分割の表示】特願2006−231500(P2006−231500)の分割
【原出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】