説明

ホットワイヤレーザ溶接方法と装置

【課題】溶接継ぎ手部の破壊靭性の確保をするために、エレクトロスラグ溶接に比べて大幅に熱入を低減できる20mm程度の極厚鋼板でも接合できる低出力のホットワイヤレーザ溶接方法と装置を提供すること。
【解決手段】レーザ光2の焦点を外して得られるレーザスポット21を一対の母材の開先壁面10,11の間にできるギャップにある母材上に照射して該母材8を溶融し、溶接ワイヤ3と母材8間に通電してワイヤ3をホットワイヤとして母材8の溶融部分に供給して溶融した母材8とワイヤ3からなる溶融プール7を形成し、一対の母材8のいずれか一方の開先壁面10と溶融プール7の境界線を通るようにレーザスポット21を移動させ、次いで母材8の他方の開先壁面11と溶融プール7の境界線を通るようにレーザスポット21を移動させる動作を繰り返して母材8同士を溶接することを特徴とするホットワイヤレーザ溶接方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ溶接とホットワイヤ溶接とを組合せた溶接方法と装置に係わり、特に大型の船体に用いられる肉厚20mm以上の鋼板などの高能率溶接に好適なホットワイヤレーザ溶接方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は高いエネルギーのレーザ光を用い、レーザ光をレンズにより集光してより高いエネルギー密度として、被溶接部である鋼板等の母材に当てることにより母材を溶融するため、通常のアーク溶接に比べて前記母材の肉厚方向において深い溶け込みが得られること、母材の溶融速度が速いことから高速溶接が可能であること、母材の溶融部の外側に生じる溶接熱影響部の範囲が狭くて溶接変形が少なく低歪みの溶接施工が行えることなどの特徴を有する溶接方法である。
【0003】
また、高能率溶接方法である電子ビーム溶接のように被溶接部を真空環境にする必要がないので、高能率溶接法として、各方面で使用されるようになってきている。
但し、レーザ溶接は対象とする溶接材料が中厚板以上になると非常に高価な大出力レーザ発振器が必要となり、溶接可能なギャップ公差は非常に小さいため開先精度や施工精度等の制約から厚板の適用範囲は限定されてしまう。
【0004】
特許文献1には、板厚10mm〜30mmの突合せ継手のレーザ溶接法として,継手両表面にX開先および板中央部にルートフェイス部を設け、ルートフェイス部をレーザ直接照射によって高能率に溶接し、その後、両表面X開先部を仕上げ溶接することによって、低出力のレーザであっても高能率かつて低入熱となる厚板のレーザ溶接法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には狭開先溶接において、レーザ光の照射位置を開先の底部で所定の振幅で進行方向に対して左右方向および開先壁面に対して垂直方向に周期的に揺動する方法、ならびにフィラーワイヤの狙い位置を開先中央に維持する制御、および金属蒸気を排除するための不活性ガスシールドの送給方法を用いることで開先壁面へのフィラーワイヤ溶着、送給不具合、融合不良を防止しつつ、高能率の溶接が可能なレーザ溶接が開示されている。
【0006】
一方、レーザ溶接法では厚板の溶接が難しいことから、従来からエレクトロスラグ溶接法やエレクトロガス溶接法が大型コンテナ船などに使用される極厚鋼板の溶接に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−220293号公報
【特許文献2】特開2011−5533号公報
【非特許文献1】「エレクトロスラグ溶接法および機器」309〜316頁、溶接接学会編、第2版溶接・接合便覧、平成15年2月25日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1や特許文献2記載のレーザ溶接法は、レーザ光を進行方向に対して横方向あるいは垂直方向に振幅することで開先壁面の溶融には効果が高い。その一方で、開先底部は溶融プールを介して加熱されるので、比較的低いレーザ出力で開先内部に溶接ビードを積層した場合,各溶接層間に未溶着欠陥が生じやすくなるという点が課題であった。
【0009】
また、上記特許文献1に代表されるレーザ溶接法は、レーザ光をレンズにより集光して非常に高いエネルギー密度を実現し、キーホールと呼ばれる穴を生成して厚板を高能率かつ低入熱に溶接する一般的なレーザ溶接法の特徴はそのまま維持しながら、低出力レーザ発信器での厚板溶接を試みたものであり、開先精度や施工裕度の改善や立向き溶接への適用などは難しい。
【0010】
上記特許文献2は、一般の溶接でも使用される熱源揺動(ウィービング)を高精度なワイヤ位置制御およびシールド方法と併用して狭開先溶接を高能率に行う方法であり、アークを熱源とする狭開先溶接法の代替を目指したものである。したがって、ワイヤ加熱による高能率化やレーザ反射光を用いた母材溶融による低入熱化および厚板突合せ継手の立向き単層高能率溶接などは実現出来ない。
【0011】
従来は極厚鋼板の立向き接合には、レーザ溶接法を適用するにはかなりの改善の余地があるので、高能率なエレクトロスラグ溶接法やエレクトロガス溶接法が適用されている。これらの溶接法は単層立向き上進の高能率自動溶接法であるが、大入熱溶接のため、溶接継ぎ手部の破壊靭性確保が重要な課題となっており、エレクトロスラグ溶接に比べて大幅に入熱を低減できる溶接方法が求められている。
【0012】
そこで本発明の課題は、20mm程度以上の極厚鋼板突合せ立向き溶接継手部の破壊靭性の確保をするために、エレクトロスラグ溶接やエレクトロガス溶接に比べて大幅に熱入を低減でき、同等以上の施工能率を低出力のレーザ発信器で実現出来るホットワイヤレーザ溶接方法と装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記問題は、次の構成によって解決される。
請求項1記載の発明は、ワイヤトーチから送給される溶接ワイヤを抵抗発熱により加熱してホットワイヤとし、被溶接金属材料(以下、母材と称することがある)をリモートレーザヘッドから照射されるレーザ光により開先内を繰り返し往復させながら単層立向き上進溶接をするホットワイヤレーザ溶接方法において、レーザ光の焦点を外して得られるレーザスポットを一対の母材間にできるギャップ内に照射して該母材を溶融すると共に、前記溶接ワイヤと前記母材間に通電して該溶接ワイヤの抵抗発熱により加熱して溶接ワイヤをホットワイヤとして前記母材の溶融部分に供給して、溶融した母材と溶融したホットワイヤからなる溶融プールを形成し、一対の母材のいずれか一方の溶接開先壁面と溶融プールの境界線を通るようにレーザスポットを移動させ、次いで母材の他方の溶接側開先壁面と溶融プールの境界線を通るようにレーザスポットを移動させる動作を繰り返して母材同士を溶接することを特徴とするホットワイヤレーザ溶接方法である。
【0014】
請求項2記載の発明は、一方の母材の溶接開先壁面と溶融プールの境界線上と他方の母材の溶接開先壁面と溶融プールの境界線上と、前記一対の境界線の互いに反対側の端部同士を結ぶ線上をそれぞれ通るジグザグ線上又は前記一対の境界線の同じ側の端部同士を結ぶ線上をそれぞれ通る矩形線上を前記レーザスポットが通るようにレーザ光を照射することを特徴とする請求項1記載のホットワイヤレーザ溶接方法である。
なお、レーザスポットの移動は、200mm/秒以上の走査速度で高速移動させると安定的に溶融プールが形成され、溶接を続行できるので望ましい。
【0015】
請求項3記載の発明は、リモートレーザヘッドとワイヤトーチを共に上昇させながら常に溶融プールにホットワイヤを連続して供給して一対の母材の開先壁面の間で単層立向き上進溶接を行う請求項1記載のホットワイヤレーザ溶接方法である。
【0016】
請求項4記載の発明は、レーザスポットが一対の母材の各溶接開先壁面と溶融プールの境界線上を通り、かつ母材の各溶接開先壁面に隣接する被溶接金属材料の上面を通らないように母材の各溶接開先壁面の形状に合わせてレーザ光の光学的焦点位置をずらしながらレーザ光を高速で移動させながらレーザ光を照射することを特徴とする請求項1記載のホットワイヤレーザ溶接方法である。
【0017】
請求項5記載の発明は、一対の母材の開先壁面の溶接部へ溶接ワイヤを送給するためのフィラーワイヤ送給ノズルと、ホットワイヤを得るための溶接ワイヤの加熱電源装置と、前記溶接部に形成される溶融プールを監視するために使用される監視カメラと、前記溶接部へ不活性シールドガスを供給するための不活性シールドガス供給装置と、レーザ光の焦点を外して得られるレーザスポットを一対の母材のいずれか一方の溶接開先壁面と溶融プールの境界線を通るように移動させ、次いで母材の他方の溶接側開先壁面と溶融プールの境界線を通るように移動させる動作を繰り返して溶接部にレーザ光を照射するレーザスポット走査機構を有するレーザ装置を備えたホットワイヤレーザ溶接装置である。
【0018】
(作用)
本発明の請求項1,5記載の発明によれば、レーザ光の焦点を外して得られるレーザスポットを一対の母材間にできるギャップ内に照射して該母材を溶融すると共に、前記溶接ワイヤと前記母材間に通電して該溶接ワイヤの抵抗発熱により加熱して溶接ワイヤをホットワイヤとして前記母材の溶融部分に供給して溶融した母材と溶融したホットワイヤからなる溶融プールを形成し、一対の母材のいずれか一方の溶接開先壁面と溶融プールの境界線を通るようにレーザスポットを移動させ、次いで母材の他方の溶接側開先壁面と溶融プールの境界線を通るようにレーザスポットを移動させる動作を繰り返して母材同士を溶接することで両方の母材の開先壁面間の母材溶着促進効果と溶着金属の積層時の溶接欠陥抑制効果がある。
【0019】
このうち、レーザスポットが一方の母材の開先壁面と溶融プールの境界線を通ることで、溶融プール表面で反射したレーザ光線が一方の母材の開先壁面を照射・溶融するので、母材同士の溶着が促進される。
【0020】
また、開先壁面のギャップの中央端部にフィラーワイヤを挿入して溶融プール内でフィラーワイヤを溶融させることで、レーザ光がフィラーワイヤ上を直接照射してフィラーワイヤが過度なレーザ照射によって溶断しないようにしている。
【0021】
仮にフィラーワイヤがレーザで直接照射され、過度に加熱されると、その際、溶融したワイヤが液滴(スパッタ)となり、開先壁面内を上部方向に飛散したり、フィラーワイヤ切断にともなう通電加熱停止が生じて溶接作業の阻害が生じる。また、レーザスポットが開先壁面よりも外側を通る場合、溶融すべき溶接位置にない被溶接金属材料の部位が溶融するので、溶着金属を積層する際の障害となることに加え、溶融プールへのレーザ光の照射が不十分となり溶接作業が阻害される。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、一方の母材の開先壁面と溶融プールの境界線上と他方の母材の開先壁面と溶融プールの境界線上と、前記一対の境界線の互いに反対側の端部同士を結ぶ線上をそれぞれ通るジグザグ線上又は前記一対の境界線の同じ側の端部同士を結ぶ線上をそれぞれ通る矩形線上を前記レーザスポットが通るようにレーザ光を照射することで、常に溶融プールにレーザ光の照射で母材側から溶着金属を供給することができるので溶接欠陥の少ない厚板の溶接が可能となる。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、リモートレーザヘッドとワイヤトーチを共に上昇させながら常に溶融プールにホットワイヤを連続して送給して単層立向き上進溶接を行うことで、船舶などに利用される板厚20mm以上の母材同士を容易に溶接できる。
【0024】
請求項4記載の発明によれば、母材の各開先壁面の形状に合わせてリモートレーザヘッドを用いてレーザ光の光学的焦点位置をずらしてレーザ光を高速に移動させながらレーザ光を照射することで、母材の各壁面の形状が異形であっても溶接が可能となる。
【0025】
請求項5記載の発明によれば、請求項1記載の発明の作用の他に、例えばレーザスキャナと呼ばれる複数の鏡を組み合わせたレーザ装置のレーザスポット走査機構が溶融プール表面において、溶接部近傍に対してレーザスポットを2次元走査するために使用される。
【0026】
溶融プール監視カメラは、レーザ光線照射方向と同じ方向から溶融プールを観察し、レーザスポットの走査範囲を決定するために使用される装置であるが、レーザの光軸とは異なる方向に設置したカメラを用いても良い。
【0027】
フィラーワイヤは、開先壁面ギャップを埋めるための溶着金属形成に使用される。フィラーワイヤには、ホットワイヤ加熱電源装置によって母材との間に電流が流れ、フィラーワイヤがジュール加熱される。これにより、低出力レーザ溶接装置を用いても溶融プールの大きさが保たれる効果がある。
【0028】
フィラーワイヤ供給ノズルは、例えば内部にフィラーワイヤのガイド孔を有する耐熱セラミックからなり、通電加熱によって柔らかくなったフィラーワイヤを溶融プールに導くためのものであり、フィラーワイヤが開先壁面に接触し、付着することで溶接作業が阻害されることを防止する効果がある。前記ガイド孔内部に、不活性シールドガス供給装置からアルゴン、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、あるいはこれらの混合ガスを流通することで高温の溶融プール、高温の溶着金属及びフィラーワイヤの酸化防止効果が得られる。
【0029】
こうして本発明によればエレクトロスラグ溶接方法の代替として、厚板単層立向き溶接の高能率および高品質な継ぎ手が実現可能となった。
【発明の効果】
【0030】
本発明の請求項1,5記載の発明によれば、一対の母材のいずれか一方の開先壁面と溶融プールの境界線を通るようにレーザスポットを移動させ、次いで母材の他方の溶接側開先壁面と溶融プールの境界線を通るようにレーザスポットを移動させる動作を繰り返して母材同士を溶接することで両方の母材の開先壁面間の溶接金属溶着促進効果と溶着金属の積層時の溶接欠陥抑制効果があり、エレクトロスラグ溶接やエレクトロガス溶接法に代わる20mm以上の極厚板金属の溶接が可能になった。
【0031】
請求項2に記載の発明によれば、一方の母材の溶接開先壁面と溶融プールの境界線上と他方の母材の溶接開先壁面と溶融プールの境界線上と、前記一対の境界線の互いに反対側の端部同士を結ぶ線上をそれぞれ通るジグザグ線上又は前記一対の境界線の同じ側の端部同士を結ぶ線上をそれぞれ通る矩形線上を前記レーザスポットが通るようにレーザ光を照射することで、無駄なく常に溶融プールにレーザ光の照射で母材側から溶着金属を供給することができるので溶接欠陥の少ない厚板の溶接が可能となる。
【0032】
請求項3記載の発明によれば、リモートレーザヘッドとワイヤトーチを共に上昇させながら常に溶融プールにホットワイヤを連続して送給できるので単層立向き上進溶接を行うことが可能となる。
【0033】
請求項4記載の発明によれば、母材の各開先壁面の形状に合わせてリモートレーザヘッドを用いてレーザ光の光学的焦点位置をずらしてレーザ光を高速に移動させながらレーザ光を照射するこので、母材の各壁面の形状が異形であっても溶接が可能となる。
【0034】
請求項5記載の発明によれば、溶融金属の開先壁面間の母材溶着促進効果と溶着金属の積層時の溶接欠陥抑制効果があり、エレクトロスラグ溶接やエレクトロガス溶接法に代わる20mm以上の極厚板金属の溶接が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のホットワイヤレーザ溶接装置の概略図である。
【図2】本発明のホットワイヤレーザ溶接に用いるレーザスキャナの概略図である。
【図3】本発明のホットワイヤレーザ溶接実施中の斜視図である。
【図4】本発明のホットワイヤレーザ溶接のレーザ光移動軌跡の平面図である。
【図5】本発明のホットワイヤレーザ溶接のレーザ光移動軌跡の平面図である。
【図6】本発明のホットワイヤレーザ溶接された母剤の溶接部断面の写真である。
【図7】比較例のホットワイヤレーザ溶接のレーザ光移動軌跡の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に添付の図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0037】
図1は、本発明であるホットワイヤレーザ溶接法に使用される溶接装置の構成および溶接中の状況について、溶接進行方向に対して左側面より見た状態を模式的に示している。
【0038】
レーザ発振器15によりレーザ溶接ヘッド1からレーザ光2が溶融プール7に向かって照射される。また、母材8の両開先壁面10,11に水冷された当て板(銅当て板)13を当てがい、母材8とレーザ溶接ヘッド1で支持されるワイヤトーチ16に電極を接続する。ワイヤトーチ16にはワイヤ加熱電源装置5からの電流により抵抗加熱で加熱されている。そしてワイヤトーチ16の先端を母材8の上面の近くに配置することでトーチ16の先端と母材8の上面の間にアークを発生させる。
【0039】
図2に示すようにレーザ溶接ヘッド1にはX軸ミラー31とY軸ミラー32からなるレーザ光線の2次元走査機構、いわゆるレーザスキャナが内蔵されており、レーザ光源30からのレーザ光2をX軸ミラー31とY軸ミラー32により反射して二次元上の照射範囲34に照射する。
【0040】
図3にはレーザ溶接の進行中である母材8の両開先壁面部分の斜視図を示す。レーザ光2の焦点は溶融プール7の表面より上側にずれ、溶融プール7の表面上では約3〜5mm径のレーザスポット21が形成されていることが分かる。
またシールドガス送給ノズル6から溶接部に向けてシールドガス23が噴出する構成になっている。図3では母材8の両開先壁面10,11の幅は10mm×20mmとした。
【0041】
図4に示すように開先壁面10,11と溶融プール7の境界に出力3.5〜4.0kWのレ−ザ光2をスポット径5mmのレーザスポット21として照射させながら開先壁壁面10,11に沿って約200mm/秒の高速で矩形に移動させて、母材8の底部に溶融プ−ル7を形成させて、その溶融プ-ル7にワイヤ送給量8.2mL/分、ワイヤ電流205Aで融点付近まで加熱したホットワイヤ3を挿入しながら図1の上下スライダ22でレ−ザヘッド2とワイヤ3を0.5m/分の速度で上昇させて単層立向き上進溶接を行った。こうして2つの被溶接金属材料(母材)8の間を溶接したときの断面写真を図6に示す。
開先壁面10,11と溶融プール7の境界にレ−ザ光2を照射させなかった場合には母材8の開先壁面10,11が溶融せずに溶着した溶着金属が母材8と結合しなかった。
【0042】
図1に示すようにフィラーワイヤ送給装置26から溶接部に向けてフィラーワイヤ3が送給される。ホットワイヤ加熱電源装置5によって、フィラーワイヤ3と母材8との間に電流を流し、フィラーワイヤ3をジュール熱により加熱する。フィラーワイヤ3は開先底面に形成された溶融プール7に対して5°進行方向後ろ側に倒した状態で固定されており、レーザ照射位置に対して溶接方向後側から送給する。
なお、ホットワイヤ加熱電源装置5とフィラーワイヤ送給装置26は制御装置27で制御されている。
【0043】
シールドガス送給ノズル6として溶融プール7および高温の溶着金属の酸化を防止するために不活性ガスを用いて溶接部に供給した。本実施例では不活性ガスとしてアルゴンガスを使用したが、窒素、炭酸ガス、ヘリウム又はこれらの混合ガスを用いても良い。
【比較例1】
【0044】
また、失敗事例では、デフォ−カスしたレーザスポット21の径約3〜5mmのレ−ザ光2を照射して図7に示す開先壁面10,11と溶融プール7の境界に未照射部ができた場合、母材8の開先壁面10,11が溶融せずに溶着金属が母材8と結合できなかった。
【実施例2】
【0045】
本実施例では、溶融プール7の表面にレーザスポット21(図3参照)が形成されるよう、レーザ光2の焦点位置を溶接部上方とした。レーザ溶接ヘッド1は上下スライダ22で上下方向に移動可能であり、レーザ光2の焦点を上下方向に移動させながら溶融プール7の表面に形成されるレーザスポット21の径を変更することができる。さらに母材8の溶接が進行して溶融プール7の位置を上昇させることができる。
【0046】
例えば、図5に示すようにレーザスポット21の約3〜5mmの径のレ−ザ光2を開先壁面10,11と開先底部に形成される溶融プール7の境界に照射するように開先壁面10,11に沿って約200〜1000mm/秒の走査速度で高速に移動させながら図1の上下スライダ22でレ−ザヘッド1とワイヤ3を上昇させ、レ−ザ光2の出力を可変することにより、レーザスポット21の径を小さくして母材8の突起部8aを含む開先壁面10,11に隣接する母材8の上面にレーザ光2が照射されないように調節しながら単層立向き上進溶接を行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
1 レーザ溶接ヘッド 2 レーザ光
3 フィラーワイヤ 5 ワイヤ加熱電源装置
6 シールドガス送給ノズル 7 溶融プール
8 母材 10,11 開先壁面
13 当て板 15 レーザ発振器
16 ワイヤトーチ 21 レーザスポット
22 上下スライダ 23 シールドガス
26 フィラーワイヤ送給装置 27 制御装置
30 レーザ光源 31 X軸ミラー
32 Y軸ミラー 34 照射範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤトーチから送給される溶接ワイヤを抵抗発熱により加熱してホットワイヤとし、母材をリモートレーザヘッドから照射されるレーザ光により溶接進行方向に繰り返し往復させながら多層盛溶接をするホットワイヤレーザ溶接方法において、
レーザ光の焦点を外して得られるレーザスポットを一対の母材の開先壁面の間にできるギャップ内に照射して該母材を溶融すると共に、前記溶接ワイヤと前記母材間に通電して該溶接ワイヤの抵抗発熱により加熱して溶接ワイヤをホットワイヤとして前記母材の溶融部分に供給して溶融した母材と溶融したホットワイヤからなる溶融プールを形成し、
一対の母材のいずれか一方の溶接開先壁面と溶融プールの境界線を通るようにレーザスポットを移動させ、次いで母材の他方の溶接側開先壁面と溶融プールの境界線を通るようにレーザスポットを移動させる動作を繰り返して母材同士を溶接することを特徴とするホットワイヤレーザ溶接方法。
【請求項2】
一方の母材の溶接開先壁面と溶融プールの境界線上と他方の母材の溶接開先壁面と溶融プールの境界線上と、前記一対の境界線の互いに反対側の端部同士を結ぶ線上をそれぞれ通るジグザグ線上又は前記一対の境界線の同じ側の端部同士を結ぶ線上をそれぞれ通る矩形線上を前記レーザスポットが通るようにレーザ光を照射することを特徴とする請求項1記載のホットワイヤレーザ溶接方法。
【請求項3】
リモートレーザヘッドとワイヤトーチを共に上昇させながら常に溶融プールにホットワイヤを連続して供給して一対の母材の開先壁面の間で単層立向き上進溶接を行う請求項1記載のホットワイヤレーザ溶接方法。
【請求項4】
レーザスポットが一対の母材の各溶接開先壁面と溶融プールの境界線上を通り、かつ母材の各溶接開先壁面に隣接する母材の上面を通らないように各溶接開先壁面の形状に合わせてレーザ光の光学的焦点位置をずらしながらレーザ光を移動させながらレーザ光を照射することを特徴とする請求項1記載のホットワイヤレーザ溶接方法。
【請求項5】
一対の母材の開先壁面の溶接部へ溶接ワイヤを送給するためのフィラーワイヤ送給ノズルと、
ホットワイヤを得るための溶接ワイヤの加熱電源装置と、
前記溶接部に形成される溶融プールを監視するために使用される監視カメラと、
溶接部へ不活性シールドガスを供給するための不活性シールドガス供給装置と、
レーザ光の焦点を外して得られるレーザスポットを一対の母材のいずれか一方の溶接開先壁面と溶融プールの境界線を通るように移動させ、次いで母材の他方の溶接側開先壁面と溶融プールの境界線を通るように移動させる動作を繰り返して溶接部にレーザ光を照射するレーザスポット走査機構を有するレーザ装置
を備えたホットワイヤレーザ溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−206145(P2012−206145A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74315(P2011−74315)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(391018639)バブ日立工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】