説明

ボイラ制御装置のボイラ動特性整形装置およびボイラ制御方法

【課題】ガバナで発電出力を、燃料で主蒸気圧力を、給水流量で1次過熱器入口エンタルピを、互いに影響されずにそれぞれ独立に最適に制御することを可能とするようにボイラの動特性を整形すること。
【解決手段】主蒸気経路に設けたガバナで発電出力を制御し、ボイラに投入する燃料で主蒸気圧力を制御し、ボイラへの給水で1次過熱器入口エンタルピを制御するボイラの制御装置であって、発電出力の偏差52、主蒸気圧力の偏差62、及び1次過熱器入口エンタルピの偏差72がそれぞれガバナの開度、ボイラ投入の燃料量、及び給水の流量を操作する制御ループを形成し、さらに、3つの偏差が3つの操作量に互いに外乱を及ぼさないように補償要素1011,1012,1021,1022,1031,1032を互いの制御ループに設けてボイラの動特性を整形すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラの制御装置に係わり、特に、高負荷変化率における発電出力と蒸気圧力と蒸気温度の追従性能を同時に向上させるに適したボイラの動特性整形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のボイラにおける蒸気圧力制御を含む制御装置について、図10と図11を用いて説明する。図10は従来のボイラ・タービン系における発電出力、主蒸気圧力、主蒸気温度の制御装置全般を示すブロック図である。図11は従来のボイラ・タービン系における制御装置の信号系統を示す図である。以下の説明は、本発明の実施形態に係るボイラの動特性整形装置の前提となる技術である。
【0003】
図10において、給水はポンプ11によりボイラに導入され、節炭器12を経て水壁14以降に流入する。分岐点22でその一部は1次スプレ23、2次スプレ24として使われる。水壁14は火炉13中にあり、燃料の燃焼により昇温された燃焼ガスから流体への熱移動によって水が加熱される。加熱された水はケージ15、汽水分離器16を経て蒸気となり、図示例では、1次過熱器17、2次過熱器18および3次過熱器19にて順次に過熱蒸気発生がなされる。過熱蒸気はガバナ20を経てタービン21(図10では高圧タービンのみ示す)にて発電を行った上で、さらに再熱ループ(図10では不図示)に流入する。
【0004】
一方、ボイラ・タービン系の制御について説明すると、負荷要求MWD50により関数発生器Fxを介して主蒸気圧力60と1次過熱器入口エンタルピ70の設定値がそれぞれ生成される。これら3つの要求又は設定値に追従すべき量は、それぞれ発電出力51(高圧タービン側のみ図示)、主蒸気圧力61及び1次過熱器入口エンタルピ71である。これらの要求又は設定値と追従すべきプロセス量との差を符号52,62および72として表す。すなわち、負荷要求50から発電出力51を減算した偏差が52、主蒸気圧力設定60から主蒸気圧力61を減算した偏差が62、また1次過熱器入口エンタルピ設定値70から1次過熱器入口エンタルピ71を減算した偏差が72である。
【0005】
これらの偏差52,62及び72は、それぞれの信号伝達の後流側にあるPI制御器53,63及び73に適切な無次元化の上で入力され、フィードバック調節量111,112及び113が算定される。発電出力偏差のPI調節値111はガバナ20への指令信号となってガバナ20の開度を操作する。また、主蒸気圧力偏差のPI調節量112は、負荷要求50と加算されボイラ入力指令(BID)200となる。このBID200は一方では関数発生器Fxにより給水流量の先行信号201を、また一方では同様の関数発生器Fxにより燃料流量の指令値202を、それぞれ生成する。給水流量先行信号201は、1次過熱器入口エンタルピ偏差のPI調節値113と加算され、給水流量の指令信号301となって給水ポンプ11の駆動操作を指示する。また、燃料流量の指令値202は、火炉13への燃料流量の投入操作を指示する。
【0006】
ここで、制御系の信号の流れに着目して図示したものが図11である。すなわち、図11はフィードバック調節量がボイラ・タービン系にどのように作用し、どのような結果を出力するか、に着目したものである。図11において、ボイラ・タービン系2000は、フィードバック調節量111,112および113を入力して、発電出力51、主蒸気圧力61および1次過熱器入口エンタルピ71を出力するブロック2000として表されている。
【0007】
図11の構成によると、発電出力偏差の調節量111は、ボイラ・タービン系2000中にて経路2011により発電出力51に作用し、経路2012により主蒸気圧力61に作用し、さらに、経路2013により1次過熱器入口エンタルピ71に作用する。すなわち、本来制御したい経路は調節量111から経路2011を経て経路51に至る経路であるが、それのみならず、ガバナの操作によって得られる調節量111によって本来変動することが望ましくはない主蒸気圧力61、1次過熱器入口エンタルピ71への経路も存在する。ここで、ガバナ開度大/小により主蒸気圧力が下降/上昇という物理特性が自明であるため、調節量111から主蒸気圧力61の経路2012の結合は強い。一方、ガバナ開度の大小が直接にエンタルピに効果を持つことはないため、経路2013は弱い結合しか持たない。
【0008】
また、主蒸気圧力偏差のフィードバック調節量112はボイラ入力BID200を決めるため、燃料と給水あるいは空気量の変化を引き起こす。このため調節量112の変化は圧力とエンタルピいずれにも強い作用を及ぼし、このため経路2022,2023はいずれも強い結合を持つ。さらに、圧力とエンタルピの増減により蒸気流量の増減が導かれ、このためこれらの物理量の定性的には積である発電出力も影響を受ける。したがって、2次的な効果ではあるが、調節量112から発電出力51への経路2021の結合も無視できない。
【0009】
また、フィードバック調節量113は給水流量を決めるため、対応する出力である1次過熱器エンタルピ71のみならず、発電出力51にも主蒸気圧力61にも強い影響を及ぼす。すなわち、経路2031,2032と2033はいずれも強い作用あるいは結合を持つ。
【0010】
また、蒸気発生器における蒸気圧力と蒸気温度に対する制御装置の従来技術として、例えば、特許文献1に示す制御装置が提案されている。この特許文献1によると、燃料の燃焼が出力目標に対して遅延すること、また、供給水質量流量が蒸発器伝熱面を通過するに際しての時間遅れ、の両者に対して、制御装置内の2つの遅延要素を用いることによって補正しようとする技術が開示されている。
【特許文献1】特許第2563099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図11に示す従来技術においては、フィードバック調節量111,112,113が発電出力51,主蒸気圧力61及び1次過熱器入口エンタルピ71に及ぼす相互影響が制御系に取り入れられていないため、上述したとおり、望ましくない変動が、調節量111から主蒸気圧力61と1次過熱器入口エンタルピ71、調節量112から発電出力51と1次過熱器入口エンタルピ71、また、調節量113から発電出力51と主蒸気圧力61の経路上に発生する。
【0012】
この結果として、1次過熱器入口エンタルピ71を設定70に追従することが、主蒸気圧力61を設定60に追従されることへの外乱として作用することになる。他の経路が互いに外乱として作用することも自明である。このような互いに外乱として作用する制御ループが並存する場合には、それぞれの制御ループを最適化することが非常に困難になる、すなわち、制御定数の最適化の手法として確立しているものは、操作量も制御出力もいずれも1個の場合に限定されている。このため、各ループの制御定数をどのように設定するかの指針を立てることが困難になる。このため、たとえば発電出力、主蒸気圧力と主蒸気温度の負荷変動下での同時最適化が非常に困難になるという課題が生じる。
【0013】
また、上記の特許文献1の技術においては、給水でセパレータ出口エンタルピひいては主蒸気温度を制御する一方で、蒸気圧力は燃料操作によって制御されることが開示されている。このため、蒸気圧力制御にとっては、2つの課題が発生する。すなわち、一つは、蒸気圧力制御にとって主蒸気温度の給水制御ループが外乱になること、もう一つは、燃料操作が原理的に遅い応答となることである。要は、特許文献1では、発電出力の制御、蒸気温度の制御及び蒸気圧力の制御において、互いの制御の関連性に着目した全体制御に対する観点の配慮に欠けている。しかも、蒸発器内部での蒸発の様態は負荷に依存した2相流となるため、1次もしくは2次遅れのパラメータ値が固定される場合にあっては時間遅れの模擬精度が悪化するという課題が生じ得る。
【0014】
本発明の目的は、ガバナで発電出力を、燃料で主蒸気圧力を、さらに給水流量で1次過熱器入口エンタルピ(主蒸気温度)を、互いに影響されずにそれぞれ独立に最適に制御することが可能となるボイラ制御装置の動特性整形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
主蒸気経路に設けたガバナで発電出力を制御し、ボイラに投入する燃料で主蒸気圧力を制御し、ボイラへの給水で1次過熱器入口エンタルピを制御するボイラの制御装置であって、前記発電出力の偏差、前記主蒸気圧力の偏差、及び前記1次過熱器入口エンタルピの偏差がそれぞれ前記ガバナの開度、前記ボイラ投入の燃料量、及び前記給水の流量を操作する制御ループを形成し、さらに、前記3つの偏差が前記3つの操作量に互いに外乱を及ぼさないように補償要素を互いの制御ループに設けてボイラの動特性を整形する構成とする。
【0016】
また、主蒸気経路に設けたガバナで発電出力を制御し、ボイラに投入する燃料で主蒸気圧力を制御し、ボイラへの給水で1次過熱器入口エンタルピを制御するボイラの制御装置であって、前記発電出力の偏差、前記主蒸気圧力の偏差、前記1次過熱器入口エンタルピの偏差がそれぞれ前記ガバナの開度、前記ボイラ投入の燃料量、前記給水の流量を操作する制御ループを形成し、前記3つの偏差のいずれか2以上の偏差の組み合わせが入力され、且つ前記ガバナの開度指令、前記ボイラへの燃料指令、前記給水の流量指令のいずれか2以上の前記入力に対応した指令の組み合わせが出力されるボイラ動特性整形装置を設け、前記ボイラ動特性整形装置から出力される2以上の指令に互いに外乱を及ぼさないように補償要素を互いの制御ループに設けてボイラの動特性を整形する構成とする。
【0017】
また、前記ボイラ制御装置の動特性整形装置において、前記ボイラ動特性整形装置に入力される2つの偏差を選択し、前記選択された偏差から補償要素により演算された演算値を非選択の偏差に加算して出力する構成とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、給水で蒸気温度を制御し温度応答を向上させる制御装置において蒸気圧力および発電出力への外乱を抑制できる。同様に、発電出力を調整するガバナに因る蒸気圧力とエンタルピへの制御ループへの外乱と、給水流量に因る発電出力と蒸気圧力への制御ループへの外乱を抑制できる。これによって発電出力を蒸気圧力、蒸気温度と同時に最適に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態に係るボイラ制御装置におけるボイラ動特性整形装置について、図面を参照しながら以下説明する。図1は本発明の実施形態に係るボイラ・タービン系における発電出力、主蒸気圧力、主蒸気温度に関する制御装置の全体構成を示すブロック図である。図2は本実施形態に係るボイラ・タービン系における制御装置の信号系統を示す図である。
【0020】
本発明の実施形態を示す図1について、従来技術を図示した図10との相違点を説明し、図10との共通点については図10の説明を援用する。発電出力のフィードバック調整量111、主蒸気圧力のフィードバック調整量112及び1次過熱器入口エンタルピのフィードバック調整量113はボイラ動特性整形装置1000に入力され、演算処理がされた後に、信号101,102及び103が出力される。これらの信号出力は、それぞれ、ガバナ開度指令101として作用し、また、ボイラ入力のフィードバック成分102として負荷要求50と加算され、ボイラ入力指令200として作用し、さらに、給水流量のフィードバック成分103として先行値201と加算されて給水流量指令301として作用する。
【0021】
次に、本実施形態に関するボイラ動特性整形装置1000とボイラ・タービン系2000における信号系統を示す図2を用いて、ボイラ動特性整形装置の機能乃至作用について説明する。図2において、ボイラ動特性整形装置1000には6個の補償要素1011,1012,1021,1022,1031,1032が設けられている。発電出力偏差のフィードバック調整量111は、従来技術にあってはそのままガバナ開度指令として作用するが、本実施形態にあっては、この調整量111に1011と1012という二つの補償要素からの出力が加算されて信号101となって、ボイラ動特性整形装置1000から出力し、ボイラ・タービン系2000にガバナ開度指令として作用する。図2に示した二つの補償要素はDpBとDpFであるが、まず、DpBは主蒸気圧力偏差のフィードバック調整量112を入力とし、次に、DpFは1次過熱器入口エンタルピ偏差のフィードバック調整量113を入力とする。すなわち、フィードバック調整量112から発電出力への影響すなわち外乱と、フィードバック調整量113から発電出力への影響すなわち外乱とを、二つの補償要素DpB,DpFを介することで除去している。
【0022】
同様に、DBp1021とDBF1022は、主蒸気圧力偏差のフィードバック調整量112から主蒸気圧力への信号の伝達経路に発生する外乱を除去する。また、DFp1031とDFB1032は1次過熱器入口エンタルピ偏差のフィードバック調整量113から1次過熱器入口エンタルピへの信号の伝達経路に発生する外乱を除去する。
【0023】
以上説明した補償要素DpB1011からDFB1032の構成と作用について、補償要素DpB1011を代表的な例として説明する。まずはじめに、補償要素DpBとの比較のため、従来技術と本実施形態においても適用されるPI制御器53の機能乃至作用について図5を用いて説明する。図5は本実施形態に適用される、制御偏差に対するPI制御装置の動作特性を示す図である。図5において、符号501は制御偏差であり、図2の偏差52,62,72に相当する量である。この制御偏差501がPI制御器502に入力され、次の演算がされて出力503が算出される。
【0024】
503=PI×制御偏差=K×(1+1/Ts)×501
ここで、Kは比例定数(無次元量)、Tは積分定数(時間の次元を持つ)でありそれぞれ試運転結果と実績値を勘案して設定される。また、sはラプラス変換に現れるラプラス変数である。
【0025】
同様に、図6は本実施形態に係るボイラ動特性整形装置内の補償要素DpBの動作特性を示す図である。ここで留意すべきは、補償要素DpBが次式に示すようにラプラス変数の多項式の比であって、
603=(D+Ds+D)/(E+E+Es+E)×601
となることである。このラプラス変数の多項式の次数は補償要素により異なることもあり(上記式の例では分子の次数は2次で分母の次数は3次である)、上記の多項式は一例である。補償要素DpB602の分子のD〜Dと分母のE〜Eは試運転結果を用い、図2に示す発電出力へのフィードバック調整量112と113の影響、また、主蒸気圧力へのフィードバック調整量111と113の影響、さらに、1次過熱器入口エンタルピへのフィードバック要素111と112の影響、のいずれもが除去される条件から一意的に設定される。このとき同時に、補償要素DpB以外の5個の補償要素についても図6に相当した形で算出される。
【0026】
本実施形態の特徴を表す補償要素について敷衍して説明すると、図10に示すボイラ・タービン系の制御装置に、図1と図2に示す補償要素を設けたボイラ動特性整形装置1000を組み込んでおき、すなわち、補償要素のラプラス変数多項式の分子のD〜Dと分母のE〜Eについて運転実績や経験値に基づいて初期値を定めておき、この補償要素を適用した試運転を実施する。図2に示す各制御ループの制御偏差52,62,72を変化させて、他の制御ループへの影響を検出しながら、他への影響がなるべく少なくなるD〜DとE〜Eを設定していく。
【0027】
実際には、ボイラ・タービン系の試運転結果を用いる代わりに、ボイラ・タービン系のシミュレーションを用いて実施し、補償要素のD〜DとE〜Eを設定してもよい。さらに、シミュレーションの結果と実機の試運転結果とを比べて差異があれば、シミュレーションの補正を行うようにしてもよい。
【0028】
また、図2においては、発電出力偏差52、主蒸気圧力偏差62、1次過熱器入口エンタルピ偏差(主蒸気温度偏差)の3つの制御ループが互いに他の制御ループからの影響を除去する(外乱となる部分を除去する)ボイラ動特性整形装置について図示しているが、これに限らず、ボイラ動特性整形装置への入力が、発電出力偏差、主蒸気圧力偏差、主蒸気温度偏差のいずれか2以上の組み合わせであり、前記ボイラ動特性整形装置からの出力が、ガバナ開度指令、ボイラ入力指令、給水流量指令のいずれか2以上の組み合わせであってもよい。例えば、ボイラ動特性整形装置への入力を2つ選択し、選択された2つの入力から補償要素により演算された演算値を非選択の入力に加算して出力するボイラ動特性整形装置としてもよい。
【0029】
上述したようなフィードバック調整量の除去について、簡単化のために、図2に示す3入力3出力の代わりに、2入力2出力のモデル系を用いてその概念を説明すると以下のようになる。図7は本実施形態に関するボイラ動特性整形装置を説明するための2入力2出力モデル系の信号系統を示す図である。
【0030】
図7に示すモデル系によると、出力y1(711)がその設定値y1sv(701)に追従するように偏差e1(721)をPI調節した操作量731と、出力y2(712)がその設定値y2sv(702)に追従するように偏差e2(722)をPI調節した操作量732が、最終的に系700に入力されるように構成されている。その系700の前に補償要素D21(801)とD12(802)からなる動特性整形装置800が設けられている。
【0031】
次に、図8と図9を用いて、図7に示す設定値y1svのみをステップ上昇させた場合に、そのステップ上昇の影響が出力711と出力712にどのように及ぶかについてモデル系の各部位における操作量又は出力をもとに以下説明する。設定値y1svをステップ上昇させた時のトレンド(特性、傾向)を図8に示す。図8は図7に示すモデル系における第1の制御ループy1の信号波形を示す図である。図8(a)の操作量731は系700に作用して図8(e)の出力751を生成するが、一方で同じ操作量731は図8(b)から(c)に補償要素D12(802)により変換され、系700への作用結果が図8(f)の出力754のとおりとなる。図8の(e)と(f)の総和(出力751+出力754)がy1の出力であり、その出力は図8(d)に示す実線のとおりであって、破線で示す設定値y1svによく追従している。
【0032】
一方、図7に示すモデル系におけるもう一つの出力y2は、図9に示すとおりのトレンドとなる。図9は図7に示すモデル系における第2の制御ループy2の信号波形を示す図である。すなわち、図9で(a)(b)(c)は図8のものと全く同一の量の再提示であるが、図9(a)又は(b)の操作入力は系700において図9(e)の出力753のトレンドを生成する。一方で、補償要素D12で変換された信号(c)は系700に作用して図9(f)の出力752を生成する。図9の(e)と(f)のトレンドの総和(出力752+出力753)が出力y2であって、この出力は図9(d)の実線又は破線の通り、ほぼゼロを保持する。これによって、y1svの設定変更による外乱がy2には及んでいないことが判る。全く同様に、補償要素D21(801)を前置きしているためy2svの設定変更に対しても同様の傾向が得られている。
【0033】
次に、上述した機能を有する補償要素1011,1012,1021,1022,1031,1032によって構成されるボイラ動特性整形装置を設置することで、ボイラの負荷変化下の性能が向上する例を図3と図4に示す。図3は本実施形態に係るボイラ制御装置における3つの制御ループの負荷上昇時の制御偏差を従来技術との比較で説明する図である。図4は本実施形態に係るボイラ制御装置における3つの制御ループの負荷下降時の制御偏差を従来技術との比較で説明する図である。
【0034】
図3と図4において、(a)〜(c)が従来技術、(d)〜(f)が本実施形態の構成を適用したときの負荷変化下のトレンド(特性)である。図3が負荷上昇、図4が負荷下降のトレンドである。(a)と(d)は発電出力偏差52を、(b)と(e)は主蒸気圧力偏差62を示す。また、(c)と(f)は1次過熱器入口エンタルピ偏差72を示す。また、物理量は時間を除いてすべて無次元化したものである。
【0035】
図3と図4に示すトレンド(特性、傾向)を参照すると、本実施形態に係るボイラ動特性整形装置を採用することによって、偏差が飛躍的に低減せられていることが分かる。すなわち、図3と図4に示す(a)(b)(c)における従来技術では、ΔPやΔTが+側又は−側の一方に偏って偏差が現れるのに対して、本実施形態では変動はあるがその偏差は平均的には零となっている。
【0036】
以上説明したように、本発明の実施形態に係るボイラ制御装置のボイラ動特性整形装置の特徴は、各制御ループ(発電出力、主蒸気圧力、1次過熱器入口エンタルピ(主蒸気温度))の相互に外乱となる部分を除去することである。これにより、発電出力偏差のフィードバック調整量はガバナを介して発電出力のみを操作し、また、主蒸気圧力偏差のフィードバック調整量はボイラ入力を介して主蒸気圧力のみを操作し、さらに、1次過熱器入口エンタルピ偏差のフィードバック調整量は給水流量を介して1次過熱器入口エンタルピを操作し、この3つの操作が互いに他に外乱を及ぼすことなく行えることになる。このような制御系の構成を行えば、各ループの制御定数は、1入力1出力系の制御定数の確立された調整ルールを適用して、最適化を行うことが可能となる。
【0037】
換言すると、本実施形態によれば、ガバナで発電出力を、またボイラ入力で主蒸気圧力を、さらに給水流量で1次過熱器入口エンタルピを、それぞれ独立に最適に制御することができる。したがって、ガバナ操作の圧力制御への外乱、ボイラ入力の発電出力あるいは1次過熱器入口エンタルピへの外乱、さらに給水操作の発電出力あるいは圧力制御への外乱が抑制されているため、発電出力、主蒸気圧力とエンタルピの応答性、制御性は飛躍的に向上し、これらの負荷変化下での追従性の両立を果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係るボイラ・タービン系における発電出力、主蒸気圧力、主蒸気温度に関する制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に係るボイラ・タービン系における制御装置の信号系統を示す図である。
【図3】本実施形態に係るボイラ制御装置における3つの制御ループの負荷上昇時の制御偏差を従来技術との比較で説明する図である。
【図4】本実施形態に係るボイラ制御装置における3つの制御ループの負荷下降時の制御偏差を従来技術との比較で説明する図である。
【図5】本実施形態に適用される、制御偏差に対するPI制御装置の動作特性を示す図である。
【図6】本実施形態に関するボイラ動特性整形装置内の補償要素DpBの動作特性を示す図である。
【図7】本実施形態に関するボイラ動特性整形装置を説明するための2入力2出力モデル系の信号系統を示す図である。
【図8】図7に示すモデル系における第1制御ループの信号波形を示す図である。
【図9】図7に示すモデル系における第2制御ループの信号波形を示す図である。
【図10】従来のボイラ・タービン系における発電出力、主蒸気圧力、主蒸気温度の制御装置全般を示すブロック図である。
【図11】従来のボイラ・タービン系における制御装置の信号系統を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
11 給水ポンプ
17 1次過熱器
20 ガバナ
21 タービン
50 負荷要求
51 発電出力
52 発電出力偏差
60 主蒸気圧力設定値
61 主蒸気圧力
62 主蒸気圧力偏差
70 1次過熱器入口エンタルピ設定値
71 1次過熱器入口エンタルピ
72 1次過熱器入口エンタルピ偏差
111 発電出力偏差のPI調整量
112 主蒸気圧力偏差のPI調整量
113 1次過熱器入口エンタルピ偏差のPI調整量
200 ボイラ入力指令
201 給水流量先行信号
202 燃料流量指令値
301 給水流量指令信号
1000 ボイラ動特性整形装置
1011,1012,1021,1022,1031,1032 補償要素
2000 ボイラ・タービン系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主蒸気経路に設けたガバナで発電出力を制御し、ボイラに投入する燃料で主蒸気圧力を制御し、ボイラへの給水で1次過熱器入口エンタルピを制御するボイラの制御装置であって、
前記発電出力の偏差、前記主蒸気圧力の偏差、及び前記1次過熱器入口エンタルピの偏差がそれぞれ前記ガバナの開度、前記ボイラ投入の燃料量、及び前記給水の流量を操作する制御ループを形成し、さらに、前記3つの偏差が前記3つの操作量に互いに外乱を及ぼさないように補償要素を互いの制御ループに設けてボイラの動特性を整形する
ことを特徴とするボイラ制御装置の動特性整形装置。
【請求項2】
主蒸気経路に設けたガバナで発電出力を制御し、ボイラに投入する燃料で主蒸気圧力を制御し、ボイラへの給水で1次過熱器入口エンタルピを制御するボイラの制御装置であって、
前記発電出力の偏差、前記主蒸気圧力の偏差、前記1次過熱器入口エンタルピの偏差がそれぞれ前記ガバナの開度、前記ボイラ投入の燃料量、前記給水の流量を操作する制御ループを形成し、
前記3つの偏差のいずれか2以上の偏差の組み合わせが入力され、且つ前記ガバナの開度指令、前記ボイラへの燃料指令、前記給水の流量指令のいずれか2以上の前記入力に対応した指令の組み合わせが出力されるボイラ動特性整形装置を設け、
前記ボイラ動特性整形装置から出力される2以上の指令に互いに外乱を及ぼさないように補償要素を互いの制御ループに設けてボイラの動特性を整形する
ことを特徴とするボイラ制御装置の動特性整形装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記ボイラ動特性整形装置に入力される2つの偏差を選択し、前記選択された偏差から補償要素により演算された演算値を非選択の偏差に加算して出力する
ことを特徴とするボイラ制御装置のボイラ動特性整形装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記選択された2つの入力が前記主蒸気圧力偏差と前記1次過熱器入口エンタルピ偏差であり、前記主蒸気圧力偏差から補償要素により演算された演算値および前記1次過熱器入口エンタルピ偏差から補償要素により演算された演算値を前記発電出力偏差に加算して出力する
ことを特徴とするボイラ制御装置のボイラ動特性整形装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記選択された2つの入力が前記発電出力偏差と前記1次過熱器入口エンタルピ偏差であり、前記発電出力偏差から補償要素により演算された演算値および前記1次過熱器入口エンタルピ偏差から補償要素により演算された演算値を前記主蒸気圧力偏差に加算して出力する
ことを特徴とするボイラ動特性整形装置。
【請求項6】
請求項3において、
前記選択された2つの入力が前記発電出力偏差と前記主蒸気圧力偏差であり、前記発電出力偏差から補償要素により演算された演算値および前記主蒸気圧力偏差から補償要素により演算された演算値を前記1次過熱器入口エンタルピ偏差に加算して出力する
ことを特徴とするボイラ制御装置のボイラ動特性整形装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つの請求項において、
前記補償要素はラプラス変数の多項式からなら演算手段を有することを特徴とするボイラ制御装置のボイラ動特性整形装置。
【請求項8】
主蒸気経路に設けたガバナで発電出力を制御し、ボイラに投入する燃料で主蒸気圧力を制御し、ボイラへの給水で1次過熱器入口エンタルピを制御するボイラの制御方法において、
前記発電出力の偏差、前記主蒸気圧力の偏差、及び前記1次過熱器入口エンタルピの偏差がそれぞれ前記ガバナの開度、前記ボイラ投入の燃料量、及び前記給水の流量を操作するとともに、前記3つの偏差が前記3つの操作量に互いに外乱を及ぼさないように補償要素を互いの制御ループに設けてボイラの動特性を整形する
ことを特徴とするボイラの制御方法。
【請求項9】
主蒸気経路に設けたガバナで発電出力を制御し、ボイラに投入する燃料で主蒸気圧力を制御し、ボイラへの給水で1次過熱器入口エンタルピを制御するボイラの制御方法であって、
前記発電出力の偏差、前記主蒸気圧力の偏差、前記1次過熱器入口エンタルピの偏差の3つの偏差のいずれか2以上の偏差の組み合わせが入力され、前記ガバナの開度指令、前記ボイラへの燃料指令、前記給水の流量指令のいずれか2以上の前記入力に対応した指令に互いに外乱を及ぼさないように補償要素を互いの制御ループに設けてボイラの動特性を整形して出力する
ことを特徴とするボイラ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−85442(P2009−85442A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252120(P2007−252120)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】