説明

ボールジョイントおよび同ボールジョイントの製造方法

【課題】均一で安定した機械的強度のボールスタッドを効率良く製造することができるボールジョイント、および同ボールジョイントの製造方法を提供する。
【解決手段】ボールジョイントで構成されるタイロッドエンド100は、ボールスタッド110、ハウジング120およびボールシート130を備えている。ボールスタッド110は、炭素含有量が0.2重量%以上かつ0.5重量%以下の炭素鋼材で構成された軸部材であり、軸状に形成されたスタッド部111と略球状に形成されたボール部112と括れ部113を介して一体的に成形されている。ボールシート130は、ボールスタッド110のボール部112より変形し易い素材である樹脂で構成されており、ボール部112を鋳込んだ状態で射出成型されている。ハウジング120は、表面硬化処理がなされていないボール部112をボールシート130とともに鋳込んだ状態で鋳造成形された鋳造品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸状に形成されたボールスタッドにおけるボール部が、ハウジング内においてベアリングシートを介して回転摺動可能な状態で保持された構成のボールジョイントおよび同ボールジョイントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車などの車両におけるサスペンション機構(懸架装置)やステアリング機構(操舵装置)には、軸状の各構成要素を互いに可動的に連結するためにボールジョイントが用いられている。ボールジョイントは、主として、軸状のボールスタッドの先端部に形成された略球状のボール部が、有底円筒状のハウジング内に保持された筒状のベアリングシート内に摺動可能な状態で収容されて構成されている。
【0003】
一般に、鋳込みタイプのボールジョイントにおけるボールスタッドは、軸状に形成されたスタッド部と球面を有するボール部とで求められる機械的特性がそれぞれ異なるため、互いに別素材および別工程で製造された後一体化されて製造されている。例えば、下記特許文献1には、引っ張り強度や硬度が比較的高い炭素鋼(例えば、中炭素鋼)を転造加工して成形したスタッド部と、低炭素鋼を球状に成形した後浸炭焼入れなどの表面硬化処理を施して真球度を向上させたボール部とを溶接加工により一体化したボールジョイントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−278666号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載したボールジョイントにおいては、ボール部は、浸炭焼入れ処理を考慮して含有炭素量が少ない所謂低炭素鋼が選定されるため、円滑で良好な摺動特性が得られ難いという問題がある。また、スタッド部とボール部とがそれぞれ別素材および別工程で製造されているため、製造工数および製造コストが増大するととともに、スタッド部とボール部との溶接加工における溶接精度にバラツキが生じ易く溶接部分における機械的強度が他の構成部分より弱くなることがあるという問題がある。これらにより、従来のボールスタッドにおいては、円滑で良好な摺動特性および均一で安定した機械的強度のボールスタッドを効率良く製造することが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、円滑で良好な摺動特性および均一で安定した機械的強度のボールスタッドを効率良く製造することができるボールジョイント、および同ボールジョイントの製造方法を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に係る本発明の特徴は、軸状に形成されたスタッド部の先端部に球面を有したボール部が形成されたボースタッドと、ボールスタッドにおけるボール部を摺動可能な状態で内包するベアリングシートと、ベアリングシートを内包して固定的に保持するハウジングとを備えるボールジョイントにおいて、ボールスタッドは、スタッド部およびボール部が、炭素含有量が0.2%以上かつ0.5%以下である単一の鋼材を一体的に成形加工した一体成形物であり、ベアリングシートは、ボール部より変形し易い素材で構成されており、ハウジングは、表面硬化処理がなされてないボール部をベアリングシートに内包された状態で鋳込んだ鋳造品であることにある。
【0008】
この場合、請求項2に示すように、前記ボールジョイントにおいて、ボールスタッドは、ボール部の表面粗さがRz値で0.1以上かつ2.5以下に設定するとよい。また、これらの場合、請求項3に示すように、前記ボールジョイントにおいて、さらに、ボールスタッドは、ボール部の硬度がビッカース硬度で240Hv以上かつ450Hv以下に設定するとよい。さらに、これらの場合、請求項4に示すように、前記ボールジョイントにおいて、ボールスタッドは、前記鋼材を鍛造加工、切削加工および研削加工によって成形するようにするとよい。
【0009】
このように構成した請求項1に係る本発明の特徴によれば、ボールジョイントは、ボールスタッドを構成するスタッド部およびボール部が単一の鋼材を一体的に成形加工した一体成形物で構成されている。そして、このボールスタッドにおけるボール部は、表面硬化処理がなされない状態で同ボール部より変形し易い素材で構成されたベアリングシートに内包されてハウジング内に鋳込まれている。すなわち、ボールスタッドにおけるボール部は、同ボール部より変形しやすい素材で構成されたベアリングシートで内包されているため、真球度を従来より低く成形することができる。このため、ボール部における真球度向上のための表面硬化処理を廃して製造工数および製造コストを低減することができる。また、ボール部を構成する素材をスタッド部を構成する素材と同一、すなわち、引っ張り強度や硬度が比較的高い炭素鋼、すなわち、含有炭素量が比較的を高い炭素鋼を用いてスタッド部と一体的に構成することができる。これにより、従来のボールジョイント、すなわち、ボールスタッドにおけるスタッド部とボール部とがそれぞれ別素材および別工程で製造されているボールジョイントに比べて、ボールジョイントの製造工数および製造コストを低減することができるとともに、ボール部の摺動特性を良好にしつつボールスタッドの機械的強度を均一かつ安定的にすることができる。さらに、ハウジングは、ベアリングシートに内包されたボール部を鋳込んだ鋳造品で構成されているため、ボールジョイントの製造工数および製造コストをより低減することができる。
【0010】
さらに、本発明は、ボールジョイントの発明として実施できるばかりでなく、ボールジョイントの製造方法の発明としても実施できるものである。
【0011】
具体的には、請求項5に示すように、軸状に形成されたスタッド部の先端部に球面を有したボール部が形成されたボースタッドと、ボールスタッドにおけるボール部を摺動可能な状態で内包するベアリングシートと、ベアリングシートを内包して固定的に保持するハウジングとを備えるボールジョイントの製造方法において、炭素含有量が0.2%以上かつ0.5%以下である単一の鋼材からスタッド部およびボール部を一体成形物として一体的に成形加工するボールスタッド加工工程と、ベアリングシートを射出成形するベアリングシート加工工程と、鋳型内に表面硬化処理がなされてないボール部をベアリングシートに内包された状態で配置して湯を流し込むことにより、ボール部およびベアリングシートを鋳込んでハウジングを成形するハウジング加工工程とを含むようにする。
【0012】
この場合、請求項6に示すように、前記ボールジョイントの製造方法において、ベアリングシート加工工程は、金型内にボール部を配置して湯を流し込むことによりボール部を鋳込んでベアリングシートを成形するとよい。
【0013】
また、これらの場合、請求項7に示すように、前記ボールジョイントの製造方法において、ボールスタッド加工工程は、鋼材を鍛造加工、切削加工および研削加工を行うことにより、前記スタッド部および前記ボール部を一体成形物として一体的に成形加工するとよい。これらによれば、前記ボールジョイントと同様の作用効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A),(B)は、本発明の一実施形態に係るボールジョイントとしてタイロッドエンドの全体構成の概略を示しており、(A)はタイロッドエンドの正面図であり、(B)は同タイロッドエンドの断面図である。
【図2】図1に示すタイロッドエンドを製造する過程を示したフローチャートである。
【図3】(A)〜(C)は、図1に示すタイロッドエンドにおけるボールスタッドの製造過程を説明するための図であり、(A)は丸棒材を示す正面図であり、(B)はボールスタッドの半加工品を示す正面図であり、(C)はボールスタッドの完成品を示す正面図である。
【図4】(A),(B)は、図1に示すタイロッドエンドの製造過程を説明するための図であり、(A)はボールスタッドのボール部上にボールシートを成形した状態を示すボールスタッドの正面図であり、(B)はボールシートを備えたボールスタッドをハウジングに鋳込んだ状態を示すハウジングの一部破断正面図である。
【図5】本発明の変形例に係るボールジョイントの全体構成の概略を示す一部破断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るボールジョイントの一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1(A),(B)は、本発明に係るボールジョイントとしてのタイロッドエンド100の全体構成の概略を示しており、(A)はタイロッドエンド100の正面図であり、(B)は同タイロッドエンド100の断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。このタイロッドエンドは、自動車などの車両(図示せず)におけるステアリング(操舵)機構において、タイロッドの先端部に設けられてステアリングギアボックス(ハンドルの回転変位を操舵輪の操舵方向に変換する歯車装置)とナックルアーム(操舵輪を保持する部品)とを連結して車両を操舵するための正面視略L字状の部品である。
【0016】
(タイロッドエンド100の構成)
タイロッドエンド100は、主として、ボールスタッド110、ハウジング120、ボールシート130およびダストカバー140によって構成されている。これらのうち、ボールスタッド110は、炭素含有量が0.2重量%以上かつ0.5重量%以下の炭素鋼材で構成された軸部材であり、軸状に形成されたスタッド部111と略球状に形成されたボール部112とが括れ部113を介して一体的に成形されている。本実施形態においては、ボールスタッド110は、炭素含有量が0.45重量%の炭素鋼であるS45C(SC材)で構成されている。
【0017】
スタッド部111の外周部には、タイロッドエンド100を図示しないナックルアームに連結するための雄ねじおよび貫通孔がそれぞれ形成されている。一方、ボール部112の表面は、浸炭焼入れや窒化処理などの表面硬化処理を施さない状態で、ボールシート130との円滑な摺動を確保するため研削加工が施されている。本実施形態においては、ボール部112の表面の硬度がビッカース硬度で約250Hvであり、ボール部112の表面粗さがRz(十点平均高さ)値で約0.2μmに形成されている。
【0018】
ハウジング120は、アルミニウム合金を鋳造して成形されており、略円筒体状に形成されたソケット部121と、同ソケット部121から水平方向に延びて形成された連結部122とから構成されている。これらのうちソケット部121は、円筒体の一方の端部(図示上端部)が開口するとともに他方の端部(図示下端部)がプラグ123によって閉塞された有底円筒状に形成されている。このソケット部121における円筒体の内周部は、前記ボールスタッド110におけるボール部112をボールシート130を介して収容し保持する部分である。
【0019】
プラグ123は、円筒状に形成されたソケット部121の一方の端部を塞ぐための板状部材であり、鋼材を中央部が凹んだ円板状に形成して構成されている。一方、連結部122は、一方(図示左側)の端部側が平板状に形成されてソケット部121に繋がるとともに、他方(図示右側)の端部側が円筒状に形成されている。この円筒状に形成された連結部122の他方の端部側の内周面には、タイロッドエンド100をステアリング機構を構成するタイロッドに連結するための雌ねじが形成されている。
【0020】
ハウジング120におけるソケット部121の内周部には、同内周部に保持されるボールスタッド110のボール部112との間にベアリングシートとしてのボールシート130が設けられている。ボールシート130は、ボールスタッド110におけるボール部112の球面に沿った内周面を有する略円筒状に形成されており、ハウジング120のソケット部121内においてボールスタッド110のボール部112を回動摺動自在に内包した状態で保持する。
【0021】
このボールシート130は、ボールスタッド110におけるボール部112を構成する素材より変形し易い素材、具体的には、ポリミド樹脂(PI)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエステル樹脂(PVC)、ポリウレタン樹脂(PUR)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ナイロン樹脂(66N,UMC)またはポリプロピレン(PP)などの合成樹脂材によって構成されている。本実施形態においては、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)を用いてボールシート130を構成している。この円筒状に形成されたボールシート130における2つの開口部には、内周面を潤滑してボール部112との回転摺動を円滑にするための図示しないグリースがそれぞれ塗布されている。
【0022】
ハウジング120のソケット部121の上部には、ソケット部121の上部および同ソケット部121内に収容されるボールスタッド110のボール部112を覆う状態でダストカバー140が設けられている。ダストカバー140は、弾性変形可能なゴム材または軟質の合成樹脂材などによって構成されており、中央部が膨らんだ略円筒状に形成されている。このダストカバー140は、一方(図示上側)の開口部にボールスタッド110におけるスタッド部111が挿入されて同スタッド部111の下部に弾性力によって固定されている。また、ダストカバー140における他方(図示下側)の開口部は、ソケット部121の外周部上部に嵌め込まれた状態で固定リング141によって固定されている。これにより、ボールシート130内への異物の浸入が防止される。
【0023】
(タイロッドエンド100の製造)
このように構成されたタイロッドエンド100の製造について図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、このタイロッドエンド100の製造工程の説明においては、本発明に直接関わらない製造工程については適宜省略する。
【0024】
まず、作業者は、製造工程1にて、ボールスタッド110を成形する。具体的には、作業者は、図3(A),(B)に示すように、炭素含有量が0.2重量%以上かつ0.5重量%以下の炭素鋼で構成される丸棒材WKを図示しない鍛造機によって鍛造加工することにより、ボールスタッド110におけるスタッド部111、ボール部112および括れ部113をそれぞれ一体的に成形する。本実施形態においては、前記したように、炭素含有量が0.45重量%で、かつ表面硬度がビッカース硬度で約250Hvの炭素鋼を鍛造加工する。この鍛造加工においては、丸棒材WKを段階的に塑性変形させることによりボールスタッド110を少しずつ成形する。この場合、ボールスタッド110におけるボール部112および括れ部113は、所定の削り代を残した所謂粗成形で加工される。
【0025】
次に、作業者は、図3(C)に示すように、ボールスタッド110におけるスタッド部111、ボール部112および括れ部113を切削加工する。具体的には、作業者は、図示しないNC(数値制御)フライスなどの工作機械を用いてスタッド部111の上部に貫通孔を形成するとともに、図示しなしNC(数値制御)旋盤などの工作機械を用いてボール部112および括れ部113の各外周面を切削加工する。この場合、作業者は、ボール部112および括れ部113の外周面を所定の球面形状および曲面形状に加工するとともに、ボール部112の先端部(図示右端部)を平面形状に加工する。また、この場合、ボール部112は、所定の研磨代を残した状態で成形される。
【0026】
そして、作業者は、ボールスタッド110におけるボール部112の外周面を所定の表面粗さに仕上げる。具体的には、作業者は、図示しなし球面研削加工機を用いてボール部112の外周面を研削除去することにより、ボール部112の外周面を所定の表面粗さに仕上げる。本実施形態においては、前記したように、ボール部112の表面粗さをRz(十点平均高さ)値で約0.2μmに形成する。このボールスタッド110の成形工程を含むタイロッドエンド100の製造過程においては、従来一般的に行われていたボール部112の表面硬化処理は行わない。
【0027】
ここで、表面硬化処理とは、ボール部112に浸炭焼入れ処理、窒化処理、高周波焼入れ処理または火炎焼入れ処理などの各種熱処理を施すことにより、ボール部112の表面硬度をビッカース硬度で約450Hvを超える硬度に変化させる処理である。このようなボール部112の表面硬化処理は、従来、主としてボール部112の真球度を向上させるための研削加工上の都合や、ボール部112の耐磨耗性を向上させる目的で行なわれていたものである。本発明においては、ボール部112に対して従来行なわれてきたこの表面処理を行わないことを特徴の一つとしている。
【0028】
次に、作業者は、製造工程2にて、ボールシート130を成形する。具体的には、作業者は、図示しない射出成形機を用いて、ボールシート130を射出成形する。この場合、作業者は、ボールシート130を射出成形する射出成型機の鋳型内に前記製造工程1で成形したボールスタッド110のボール部112を配置した状態で、ボールシート130の素材であるポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)を同鋳型内に注入してボールシート130を射出成型する。すなわち、ボールシート130は、ボールスタッド110のボール部112を鋳込んだ状態で射出成型される。これにより、図4(A)に示すように、ボールスタッド110のボール部112の外周面上に、略円筒状のボールシート130が同ボール部112に対して回転摺動可能な状態で一体的に成形される。
【0029】
なお、このボールシート130の射出成形は、ボールスタッド110のボール部112の球面形状に対応する鋳型または中子を用いて成形することもできる。すなわち、ボールシート130の射出成形においては、必ずしも、ボールスタッド110のボール部112を鋳込んで成形する必要はなく、ボール部112に対応する鋳型または中子を用いてボールシート130を単体で成形することもできる。この場合、作業者は、単体で射出成形したボールシート130をボールスタッド110のボール部112の外周面に嵌め込んでボール部112と一体化する。
【0030】
次に、作業者は、製造工程3にて、ハウジング120を成形する。具体的には、作業者は、図示しない鋳造機を用いて、ハウジング120を鋳造加工(アルミダイキャスト)により成形する。この場合、作業者は、ハウジング120を鋳造する鋳型内にボールシート130に内包されたボールスタッド110のボール部112およびプラグ123を配置した状態で、ハウジング120の素材であるアルミニウム合金を同鋳型内に注入してハウジング120を成型する。すなわち、ハウジング120は、表面硬化処理がなされていないボールスタッド110のボール部112をボールシート130とともに鋳込んだ状態で鋳造成形された鋳造品(アルミダイキャスト)である。
【0031】
これにより、図4(B)に示すように、ボールスタッド110のボール部112、ボールシート130およびプラグ123を内包した状態でハウジング120が一体的に成形される。なお、ハウジング120を鋳造する鋳型内にボールシート130に内包されたボールスタッド110のボール部112およびプラグ123を配置する際、ボールシート130とプラグ123との間にボール部112とボールシート130とを潤滑するための図示しないグリースが塗布される。
【0032】
次に、作業者は、製造工程4にて、予め別工程にて成形したダストカバー140をハウジング120の上端部に取り付ける。具体的には、作業者は、ボールシート130の上側開口部におけるボール部112との境界部分にボール部112とボールシート130とを潤滑するための図示しないグリースが塗布した後、ダストカバー140をハウジング120の上部を覆う状態でボールスタッド110のスタッド部111およびハウジング120におけるソケット部121の上端部にそれぞれ嵌め込む。そして、ソケット部121の上端部に嵌め込まれたダストカバー140の下端部を固定リング141で締め付けて固定する。これにより、タイロッドエンド100が完成する(図1参照)。
【0033】
なお、このように製造されたタイロッドエンド100は、ステアリング機構を構成する一部品として図示しないタイロッドの端部に連結され固定される。具体的には、タイロッドエンド100は、タイロッドの端部に形成された雄ねじがタイロッドエンド100におけるハウジング120の連結部122内に形成された雌ねじに噛合わされてねじ込まれることにより固定されてステアリング機構の一部となる。
【0034】
(タイロッドエンド100の作動)
このように構成されたタイロッドエンド100の作動について説明する。タイロッドエンド100を備えるタイロッドは、図示しない車両におけるステアリング機構においてステアリングギアボックスとナックルアームとを連結する部材として用いられる。そして、車両の走行時においては、運転者のハンドル操作によるステアリングの回転に応じた負荷、具体的には、曲げ、引張り、圧縮、せん断などの各種応力および振動がタイロッドエンド100に作用する。この場合、タイロッドエンド100は、ステアリング機構においてボールスタッド110を一定の方向に回転または揺動させながら車両からの負荷を支える。
【0035】
すなわち、タイロッドエンド100におけるボールスタッド110のボール部112は、ベアリングシート130内おいて回転摺動しながらタイロッドやナックルアームからの負荷を支える。この場合、ベアリングシート130は、ボールジョイント110のボール部112より変形し易い素材で構成されているため、ボール部112の形状に沿って変形して同ボール部112に密着する。これにより、ボール部112の一部がベアリングシート130に過度に摩擦接触する所謂片当りが防止されてベアリングシート130の偏摩耗が防止される。このため、ボールスタッド110におけるボール部112の真球度を従来より低下させてもボール部112とベアリングシート130との円滑な回転摺動を確保することができる。
【0036】
上記作動方法の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、上記作動方法の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、タイロッドエンド100は、ボールスタッド110を構成するスタッド部111およびボール部112が単一の炭素鋼材を一体的に成形加工した一体成形物で構成されている。そして、このボールスタッド110におけるボール部112は、表面硬化処理がなされない状態で同ボール部112より変形し易い樹脂素材で構成されたボールシート130に内包されてハウジング120内に鋳込まれている。すなわち、ボールスタッド110におけるボール部112は、同ボール部112より変形しやすい樹脂素材で構成されたボールシート130で内包されているため、真球度を従来より低く成形することができる。このため、ボール部112における真球度向上のための表面硬化処理を廃して製造工数および製造コストを低減することができる。
【0037】
また、ボール部112を構成する素材をスタッド部111を構成する素材と同一、すなわち、引っ張り強度や硬度が比較的高い炭素鋼、すなわち、含有炭素量が比較的を高い炭素鋼(炭素含有量が0.2%以上かつ0.5%以下)を用いてスタッド部と一体的に構成することができる。これにより、従来のボールジョイント、すなわち、ボールスタッドにおけるスタッド部とボール部とがそれぞれ別素材および別工程で製造されているタイロッドエンドに比べて、タイロッドエンド100の製造工数および製造コストを低減することができるとともに、ボール部112の摺動特性を良好にしつつボールスタッド110の機械的強度を均一かつ安定的にすることができる。さらに、ハウジング120は、ボールシート130に内包されたボール部112を鋳込んだ鋳造品で構成されているため、タイロッドエンド100の製造工数および製造コストをより低減することができる。
【0038】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0039】
例えば、上記実施形態においては、タイロッドエンド100におけるボールスタッド110は、含有炭素量が0.45重量%の炭素鋼であるS45Cで構成した。しかし、ボールスタッド110は、ボール部112の表面硬化処理を不要としつつスタッド部111の機械的強度を確保できる素材、具体的には、炭素含有量が0.2重量%以上かつ0.5重量%以下の低炭素鋼や中炭素鋼などの炭素鋼材であれば広く用いることができ、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。例えば、S45C炭素鋼の他のSC材(機械構造用炭素鋼材)SS材(一般構造用圧延鋼材)またはSCM材(クロムモリブデン鋼)を用いてボールスタッド110を構成することができる。
【0040】
また、上記実施形態においては、タイロッドエンド100におけるボールスタッド110のボール部112の表面粗さをRz(十点平均高さ)値で約0.2μmに形成した。しかし、ボールスタッド110のボール部112の表面粗さは、ベアリングシート130との円滑な回転摺動を確保できれば、必ずしも、上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、ボール部112の表面粗さをRz(十点平均高さ)値で0.2μm未満の表面粗さとしてもよいし、0.2μmを超える表面粗さとすることもできる。この場合、ボール部112の表面粗さは、Rz(十点平均高さ)値で0.1以上かつ2.5以下がベアリングシート130との円滑な回転摺動の観点から好ましい。
【0041】
また、上記実施形態においては、タイロッドエンド100におけるボールスタッド110のボール部112の表面硬度をビッカース硬度で約250Hvとした。しかし、ボールスタッド110のボール部112の表面硬度は、同ボール部112に表面硬化処理を施さない状態の硬度であればよく、上記実施形態に限定されるものではない。具体的には、ボールスタッド110におけるボール部112の表面硬度は、ビッカース硬度で240Hv以上かつ450Hv以下が好ましい。
【0042】
また、上記実施形態においては、タイロッドエンド100におけるボールスタッド110は、鍛造加工、切削加工および研削加工を経て成形した。しかし、ボールスタッド110の加工方法は、当然、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、鋳造加工、切削加工および研削加工によってボールジョイント110を成形するようにしても良いし、切削加工および研削加工からなる切削加工のみによってボールジョイント110を成形しても良い。
【0043】
また、上記実施形態においては、タイロッドエンド100におけるボールスタッド110のボール部112を内包するベアリングシート130は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)で構成した。しかし、ベアリングシート130は、ボールスタッド110のボール部112との円滑な回転摺動を確保しつつ、同ボール部112より変形し易い素材で構成されていればよい。すなわち、ベアリングシート130の素材は、ボール部112を構成する素材に対して相対的に決定されるものである。そして、この場合、ベアリングシート130を構成する素材が上記実施形態のように鋼材で構成されている場合には、上述した樹脂材が好適である。
【0044】
また、上記実施形態においては、本発明に係るボールジョイントをステアリング機構におけるタイロッドエンド100に採用した実施例について説明した。しかし、本発明に係るボールジョイント、当然、これに限定されるものではない。本発明に係るボールジョイントは、自動車などの車両を構成するステアリング機構の他、サスペンション機構を構成するボールジョイントなどにも広く適用できるものである。
【0045】
例えば、図5に示すように、本発明は、サスペンション機構におけるスタビライザーリンク(図示せず)を構成するボールジョイント100に採用することができる。この図5においては、上記実施形態におけるタイロッドエンド100と同様の構成部分に対応する符号を付している。したがって、上記実施形態におけるタイロッドエンド100と同様の構成部分については、その説明は省略する。このボールジョイント100におけるボールスタッド110においては、スタッド部111と括れ部113との間にフランジ状に張り出した鍔部114が形成されている。この鍔部114は、上記実施形態における製造工程1による鍛造加工により一体的に成形されるものである。
【符号の説明】
【0046】
WK…丸棒材、
100…タイロッドエンド、
110…ボールスタッド、111…スタッド部、112…ボール部、113…括れ部、
120…ハウジング、121…ソケット部、122…連結部、123…プラグ、
130…ボールシート、
140…ダストカバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状に形成されたスタッド部の先端部に球面を有したボール部が形成されたボースタッドと、
前記ボールスタッドにおける前記ボール部を摺動可能な状態で内包するベアリングシートと、
前記ベアリングシートを内包して固定的に保持するハウジングとを備えるボールジョイントにおいて、
前記ボールスタッドは、前記スタッド部および前記ボール部が、炭素含有量が0.2%以上かつ0.5%以下である単一の鋼材を一体的に成形加工した一体成形物であり、
前記ベアリングシートは、前記ボール部より変形し易い素材で構成されており、
前記ハウジングは、表面硬化処理がなされてない前記ボール部を前記ベアリングシートに内包された状態で鋳込んだ鋳造品であることを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
請求項1に記載したボールジョイントにおいて、
前記ボールスタッドは、前記ボール部の表面粗さがRz値で0.1以上かつ2.5以下であるボールジョイント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したボールジョイントにおいて、さらに、
前記ボールスタッドは、前記ボール部の硬度がビッカース硬度で240Hv以上かつ450Hv以下であるボールジョイント。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載したボールジョイントにおいて、
前記ボールスタッドは、前記鋼材を鍛造加工、切削加工および研削加工によって成形されているボールジョイント。
【請求項5】
軸状に形成されたスタッド部の先端部に球面を有したボール部が形成されたボースタッドと、
前記ボールスタッドにおける前記ボール部を摺動可能な状態で内包するベアリングシートと、
前記ベアリングシートを内包して固定的に保持するハウジングとを備えるボールジョイントの製造方法において、
炭素含有量が0.2%以上かつ0.5%以下である単一の鋼材から前記スタッド部および前記ボール部を一体成形物として一体的に成形加工するボールスタッド加工工程と、
前記ベアリングシートを射出成形するベアリングシート加工工程と、
鋳型内に表面硬化処理がなされてない前記ボール部を前記ベアリングシートに内包された状態で配置して湯を流し込むことにより、前記ボール部および前記ベアリングシートを鋳込んで前記ハウジングを成形するハウジング加工工程とを含むことを特徴とするボールジョイントの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載したボールジョイントの製造方法において、
前記ベアリングシート加工工程は、金型内に前記ボール部を配置して湯を流し込むことにより前記ボール部を鋳込んで前記ベアリングシートを成形することを特徴とするボールジョイントの製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載したボールジョイントの製造方法において、
前記ボールスタッド加工工程は、前記鋼材を鍛造加工、切削加工および研削加工を行うことにより、前記スタッド部および前記ボール部を一体成形物として一体的に成形加工することを特徴とするボールジョイントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−220462(P2011−220462A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90900(P2010−90900)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】