説明

ポリオレフィン積層多孔性フィルムの製造方法およびポリオレフィン積層多孔性フィルム

【課題】
機械的強度、通気性および層間接着性に優れた、ピンホールのないポリオレフィン積層多孔性フィルムを製造する方法を提供する。
【解決手段】
2枚の樹脂フィルムを熱圧着するための一対の成形工具であって、各々の成形工具が他方の成形工具の熱圧部との間でフィルム同士を重ね合わせ、加圧して接着する熱圧部を有する成形工具を用いて、メルトインデックスが0.1g/10分以下であるポリオレフィン樹脂100重量部に対し、充填剤を80〜300重量部含むポリオレフィン樹脂組成物からなる1層以上の層からなる2枚のフィルムを前記成形工具の熱圧部間で熱圧着して積層することによりポリオレフィン積層フィルムを形成し、該ポリオレフィン積層フィルムを延伸することにより該ポリオレフィン積層フィルムに微細孔を形成して多孔性フィルムとするポリオレフィン積層多孔性フィルムの製造方法であって、前記積層の際に、前記各成形工具の熱圧部の表面温度を、ポリオレフィン樹脂の融点よりも5〜25℃高い温度に調節するポリオレフィン積層多孔性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度、通気性および層間接着性に優れた、ピンホールのないポリオレフィン積層多孔性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂からなる多孔性フィルムは、衣類、フィルター、電池セパレータ等、様々な分野において使用されている。特に電池セパレータとして使用する際には、通常高い機械的強度が求められることから、強度が高い樹脂、即ちMIの低い樹脂からなる多孔性フィルムが用いられているが、近年の電池の高容量化に伴い、さらなる高強度、高イオン透過性等の高性能化の要求に応じた多孔性フィルムの開発が進められている。
【0003】
一般的なポリオレフィン樹脂からなる積層多孔性フィルムを製造する方法としては、例えば多層押出成形した積層フィルムを延伸して多孔化する方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながらこの方法では、積層フィルム成形時に異物の混入やフィッシュアイが発生すると、該積層フィルムを多孔化するとフィルム厚み方向に貫通したピンホールが発生するという問題があった。また、多層押出成形可能なポリオレフィン樹脂は通常MIが2〜100程度であり、このようなポリオレフィン樹脂からなる積層多孔性フィルムは強度が弱いという問題があった。
そこで低MI樹脂、すなわち超高分子量樹脂からなる積層多孔性フィルムを得る方法として、例えば、超高分子量ポリエチレンからなる単層の多孔膜と該多孔膜を1.3倍延伸した多孔性フィルムとを加熱ロールで熱融着する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−79806号公報
【特許文献2】特開平6−182918号公報
【0005】
しかしながらこの方法は、多孔性フィルム同士を積層するため、通気性と層間の接着性とが両立しないという問題点があった。即ち、孔が閉塞しないような低い温度で積層すると、接着強度が不十分となり層が剥離してしまうという問題があり、十分な接着強度となるように高い温度で熱融着して積層すると孔が閉塞して通気性に劣るという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する問題点に鑑みて、機械的強度、通気性および層間接着性に優れた、ピンホールのないポリオレフィン積層多孔性フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、2枚の樹脂フィルムを熱圧着するための一対の成形工具であって、各々の成形工具が他方の成形工具の熱圧部との間でフィルム同士を重ね合わせ、加圧して接着する熱圧部を有する成形工具を用いて、メルトインデックスが0.1g/10分以下であるポリオレフィン樹脂100重量部に対し、充填剤を80〜300重量部含むポリオレフィン樹脂組成物からなる1層以上の層からなる2枚のフィルムを前記成形工具の熱圧部間で熱圧着して積層することによりポリオレフィン積層フィルムを形成し、該ポリオレフィン積層フィルムを延伸することにより該ポリオレフィン積層フィルムに微細孔を形成して多孔性フィルムとするポリオレフィン積層多孔性フィルムの製造方法であって、前記積層の際に、前記各成形工具の熱圧部の表面温度を、ポリオレフィン樹脂の融点よりも5〜25℃高い温度に調節するポリオレフィン積層多孔性フィルムの製造方法である。また本発明は、前記製造方法で得られたポリオレフィン積層多孔性フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、機械的強度、通気性および層間接着強度に優れたピンホールのないポリオレフィン積層多孔性フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂の種類は特に限定されるものではなく、例えば、低密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン−α−オレフィン共重合体)、高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(ブテン−1)、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
ポリオレフィン樹脂は単独で用いてもよく、2種類以上の樹脂を使用してもよい。
【0010】
本発明で使用されるポリオレフィン樹脂は、メルトインデックス(以下MIという)が0.1g/10分以下の樹脂である。このようなポリオレフィン樹脂を用いて得られたポリオレフィンフィルムは、突刺強度のような機械的強度に優れるものであり、このようなポリオレフィンフィルムを積層し、多孔化したポリオレフィン積層多孔性フィルムもまた、機械的強度に優れたものである。
本発明の方法では、熱圧着による積層に供するフィルムが0.1g/10分以下のMIによって示されるように溶融粘度が高いポリオレフィン樹脂を含有しているので、表面温度がポリオレフィン樹脂の融点よりも5〜25℃高い温度に調節された熱圧着用成形工具で加熱されてもフィルム表面が荒れることがない。また、ポリオレフィン樹脂の融点よりも5〜25℃高い温度で熱圧着が行われるために、高い層間接着性が達成される。
本発明におけるMIとは、JIS K7210に準じて測定されるものであり、温度200℃、荷重2.16kgの条件下で、10分間あたりに所定形状のオリフィスから吐出される樹脂重量のことをいい、単位はg/10分で表される。
ポリオレフィン樹脂を2種類以上使用する場合には、使用する割合で溶融混練したポリオレフィン樹脂組成物のMI値が0.1g/10分以下である。
【0011】
本発明におけるポリオレフィン樹脂は、分子鎖長が2850nm以上のポリオレフィンを好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上含むポリオレフィン樹脂である。このようなポリオレフィン樹脂を用いて製造されたポリオレフィン積層多孔性フィルムは機械的強度が極めて高いフィルムとなる。
【0012】
本発明におけるポリオレフィン樹脂の分子鎖長とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の分子鎖長であり、具体的には以下の手順で求められる値である。
【0013】
GPC測定の移動相には、測定するポリオレフィン樹脂および分子量既知の標準ポリスチレンのいずれも溶解することができる溶媒を用いればよく、通常オルトジクロロベンゼンが使用される。測定温度は、測定する樹脂が溶媒に溶解する温度であればよいが、通常140℃で測定を行なう。
まず、分子量が異なる複数種の標準ポリスチレンのGPC測定を行い、各標準ポリスチレンの保持時間を求める。ポリスチレンのQファクターを用いて各標準ポリスチレンの分子鎖長を求め、これにより、各標準ポリスチレンの分子鎖長とそれに対応する保持時間を知る。尚、標準ポリスチレンの分子量、分子鎖長およびQファクターは下記の関係にある。
分子量=分子鎖長×Qファクター
次に標準ポリスチレンの測定条件と同じ条件で、分子鎖長を求めるポリオレフィン樹脂のGPC測定を行い、保持時間−溶出成分量曲線を得る。標準ポリスチレンのGPC測定において、保持時間Tであった標準ポリスチレンの分子鎖長をLとするとき、ポリオレフィン樹脂のGPC測定結果において保持時間Tであった成分の分子鎖長を、ポリスチレン換算の分子鎖長Lとする。この関係を用いて、ポリオレフィン樹脂の保持時間−溶出成分量曲線を、ポリオレフィン樹脂のポリスチレン換算の分子鎖長−溶出成分量曲線に変換することができ、これにより当該ポリオレフィン樹脂のポリスチレン換算の分子鎖長分布が明らかになる。
【0014】
本発明において、ポリオレフィン樹脂中の分子鎖長が2850nm以上のポリオレフィン量は、上記の方法で求めた分子鎖長−溶出成分量曲線を全範囲について積分した値に対する、分子鎖長2850nm以上に該当する範囲について積分した値の割合として求めることができる。
【0015】
本発明におけるポリオレフィン樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、充填剤を80〜300重量部含むものである。
充填剤の含有量が80重量部未満では、延伸後のポリオレフィン積層多孔性フィルムの通気性が不十分であり、300重量部を越える場合には、通気性は優れるものの突刺強度のような機械的強度が弱いものとなる。
【0016】
充填剤としては、通常使用される無機および有機の充填剤を用いることができる。充填剤は1種類または2種類以上の充填剤を使用してもよく、無機充填剤と有機充填剤とを混合して使用してもよい。
使用される無機充填剤の例としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪酸、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、ガラス粉、酸化亜鉛などが挙げられる。
【0017】
有機充填剤としては、種々の樹脂粒子を使用することができ、例としてスチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の重合体、メラミン、尿素などの重縮合樹脂などの粒子が挙げられる。
延伸して得られたポリオレフィン積層多孔性フィルムから充填剤を除去する場合には、充填剤として炭酸カルシウムまたは珪酸を使用することが好ましい。
【0018】
ポリオレフィン樹脂組成物は、界面活性剤や安定化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤などの他の添加剤を含有してもよい。
【0019】
本発明は、前述したようなポリオレフィン樹脂および充填剤を含むポリオレフィン樹脂組成物からなる2枚のフィルムを熱圧着して積層し、更に延伸してポリオレフィン積層多孔性フィルムを製造する方法である。
ここで、本発明の方法における熱圧着による積層に用いるフィルム(以下、積層用フィルムと記すことがある)について説明する。
【0020】
積層用フィルムを構成するポリオレフィン樹脂組成物は、通常の混練装置を用いて前記ポリオレフィン樹脂と充填剤とを混練することにより製造することができる。使用される混練装置としては、例えば押出機、ロール型またはバンバリー型混練機が挙げられる。
【0021】
本発明の方法では、前記ポリオレフィン樹脂組成物からなる単層フィルム同士を積層するだけでなく、単層フィルムと、2枚以上の単層フィルムから形成された多層フィルムとを積層することや、多層フィルム同士を積層することもできる。
まず、前記ポリオレフィン樹脂組成物からなる単層フィルムの製造方法を説明する。
単層フィルムは、前記ポリオレフィン樹脂組成物を用いて、低MIのポリオレフィン樹脂をフィルム化する公知の方法により製造することができる。単層フィルムを製造する方法としては、例えば、圧延ロールやカレンダーロールを用いる方法、スカイフ法(切削)などが挙げられる。好ましくは略同周速度で回転する一対の圧延ロールを有する圧延ロール装置を用いる方法である。この方法により、表面が平滑かつ美麗で、膜厚精度に優れた単層フィルムを得ることができる。
【0022】
本発明の方法によって、ポリオレフィン樹脂組成物からなる単層フィルムと、ポリオレフィン樹脂組成物の2層以上からなる多層フィルムとを積層することができる。この場合に用いられる多層フィルムは、予め本発明の方法における熱圧着による積層の工程を実施することにより製造することができる。
また、本発明の方法によって、ポリオレフィン樹脂組成物の2層以上からなる多層フィルム同士を積層してもよい。この場合の多層フィルムも、予め本発明の方法における熱圧着による積層の工程を実施することにより製造することができる。
本発明の方法では、押出成形などで形成された積層用フィルムを巻き取ることなく積層工程に直接導くことができる。また、積層用フィルムを一旦巻き取ってロールとし、そのロールを解巻しつつ積層工程に導いてもよい。積層用フィルムとして、押出成形されたフィルムを巻き取ることなく本発明の方法の積層工程に用いることがフィルム生産効率の観点から好ましい。
【0023】
本発明の方法では、まず2枚の積層用フィルムを一対の成形工具により熱圧着させて、積層フィルムを得る。
ポリオレフィン積層フィルムを製造する際に用いる一対の成形工具の各々は、他方の成形工具の熱圧部との間でフィルム同士を重ね合わせ、加圧して接着する熱圧部を有する。このような一対の成形工具を備えた装置としては、例えば圧延ロール、連続プレス、カレンダーロール等の装置を挙げることができ、略同周速度で回転する一対のロールで圧延することのできる圧延ロール装置を用いることが好ましい。このような圧延ロール装置を用いることにより、表面が平滑かつ美麗で、膜厚の均一な積層フィルムを製造することが容易になる。圧延ロール装置により積層用フィルムを積層するとき、該装置の両ロールの周速度は必ずしも厳密に同一周速度である必要はなく、両ロールの周速度の差が±5%程度あってもよい。また、圧延ロール装置は圧延部位(熱圧部)を複数箇所有していてもよい。
【0024】
積層用フィルム同士を積層する際には、上記一対の成形工具の熱圧部の表面温度を積層用フィルムに含まれるポリオレフィン樹脂の融点よりも5〜25℃高い温度とする。成形工具の熱圧部の表面温度をポリオレフィン樹脂の融点よりも5℃高い温度より低温とした場合には、積層用フィルム同士の接着性が悪く、剥離してしまう。一方、ポリオレフィン樹脂の融点よりも25℃高い温度より高い温度にすると、一方の積層用フィルムが異物混入等の欠陥を有する場合、積層の際にもう一方の積層用フィルムにも該欠陥が伝播してしまい、後の延伸工程で積層フィルムの厚み方向に貫通したピンホールが発生してしまう。成形工具の表面温度を調節する方法は特に限定されるものではなく、例えば該成形工具内部に内蔵したヒータで調節する方法、成形工具内に熱水あるいは蒸気などの熱媒を送って調節する方法、成形工具周辺を外部から加熱して調節する方法が挙げられる。
【0025】
本発明におけるポリオレフィン樹脂の融点とは、DSC(示差走査熱量測定)におけるピーク温度のことである。ポリオレフィン樹脂が複数の成分からなる場合など、複数のピークがある場合は、最も高温側にあるピーク温度を、該ポリオレフィン樹脂の融点とする。DSC測定は、昇温速度5℃/分で行なう。
【0026】
また一方の積層用フィルムの接着面を構成するポリオレフィン樹脂組成物が、他方の積層用フィルムの接着面を構成するポリオレフィン樹脂組成物と異なる場合には、成形工具の熱圧部の表面温度の基準となるポリオレフィン樹脂の融点は、両ポリオレフィン樹脂組成物中のポリオレフィン樹脂のうち、融点が最も高いポリオレフィン樹脂の融点とする。
【0027】
成形工具として圧延ロールを用いて積層用フィルム同士を積層する例を図1、2に基づき具体的に説明する。
図1は、予め成形した積層用フィルムと、押出成形された直後の積層用フィルムとを圧延ロールにより積層する方法の概略図である。
まず、MIが0.1g/10分以下であるポリオレフィン樹脂100重量部に対し、充填剤を80重量部含むポリオレフィン樹脂組成物からなる積層用フィルムAを予め製造する。
【0028】
次に、ホッパーXにポリオレフィン樹脂100重量部、充填剤80重量部を投入し、押出機Y中で溶融混練を行なってポリオレフィン樹脂組成物Bを得る。ポリオレフィン樹脂組成物BをTダイスZよりシート状で押出しロール1およびロール2により圧延し、ポリオレフィン樹脂組成物Bからなる単層の積層用フィルムCを成形しながら、フィルムAを、ロール2およびロール3の間に挿入してフィルムCと熱圧着し、積層フィルムDを得る。このとき、ロール2およびロール3の表面温度はポリオレフィン樹脂の融点よりも5〜25℃高い温度であり、さらにロール1の表面温度もポリオレフィン樹脂の融点よりも5〜25℃高い温度であることが好ましい。ロール1、ロール2およびロール3の表面温度は、温度制御が容易であることから同じ温度であることがより好ましい。
図2は、予め製造した積層用フィルムEおよびFを圧延ロールにより積層する方法の概略図である。まず、MIが0.1g/10分以下であるポリオレフィン樹脂100重量部に対し、充填剤を80重量部含むポリオレフィン樹脂組成物からなる積層用フィルムEおよびFを予め製造する。
積層用フィルムEおよびFを、表面温度をポリオレフィン樹脂の融点よりも5〜25℃高い温度としたロール5およびロール6の間に挿入して熱圧着し、積層フィルムGが得られる。
【0029】
次に得られた積層フィルムを延伸することにより微細孔を形成し多孔性フィルムとする。延伸には公知の方法、例えばテンターやロールを用いて延伸する方法を適用することができる。
延伸は、延伸倍率が2〜10倍となるように行なうことが好ましく、4〜6倍がより好ましい。延伸倍率が低すぎると通気性が悪くなる傾向があり、高すぎると孔が粗大となる傾向がある。
延伸は通常、ポリオレフィン樹脂の軟化点以上融点以下の温度で行なう。また延伸後はヒートセットを行なうことが好ましい。ヒートセットはポリオレフィン樹脂の融点未満の温度で行なうことがより好ましい。
【0030】
本発明のポリオレフィン積層多孔性フィルムの製造方法では、積層用フィルム同士を積層した後に延伸する。この方法によれば、たとえ積層する前の各積層用フィルムが異物やフィッシュアイを含んでいたとしても、延伸によって発生するこれらを起因とするクラックは、積層前の各積層用フィルムの厚み分に渡って生じるのみである。したがって本発明の製造方法によって得られたポリオレフィン積層多孔性フィルムには、該積層多孔性フィルムの厚み方向に貫通したピンホールが含まれることはない。
【0031】
本発明の製造方法によって得られたポリオレフィン積層多孔性フィルムは、膜厚1〜100μm、ガーレー値10〜600秒/100cc、突刺強度200gf以上であることが好ましい。このようなポリオレフィン積層多孔性フィルムは、電池セパレータとして好適に使用される。
【0032】
また、本発明の製造方法で得られたポリオレフィン積層多孔性フィルムを酸またはアルカリで処理することにより、該ポリオレフィン積層多孔性フィルム中の充填剤を抽出し、充填剤を含まないポリオレフィン積層多孔性フィルムとすることができる。充填剤を除去した多孔性フィルムは、シャットダウン性に優れた電池セパレータとして好適に使用することができる。
【0033】
本発明の製造方法によって得られたポリオレフィン積層多孔性フィルムは、機械的強度、通気性および層間接着強度に優れるため、衣類、フィルター等の用途に使用され、電池セパレータとして好適に使用される。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を更に具体的に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0035】
[MI測定]
測定方法はJIS K7210に準じて行なった。測定装置にはタカラ工業社製 メルトインデクサーを用い、オリフィスとして径D=2.095mm、長さL=8.00mmのものを使用した。測定温度200℃、荷重2.16kg。
【0036】
[GPCによる分子鎖長および分子量の測定]
測定装置としてウォーターズ社製ゲルクロマトグラフAlliance GPC2000型を使用した。測定条件は以下に示すとおりであった。
カラム :東ソー社製TSKgel GMHHR−H(S)HT 30cm×2
TSKgel GMH6 −HTL 30cm×2
移動相 :o−ジクロロベンゼン
検出器 :示差屈折計
流 速 :1.0mL/分
カラム温度:140℃
注入量 :500μL
試料30mgをo−ジクロロベンゼン20mLに145℃で完全に溶解した後、その溶液を孔径0.45μmの焼結フィルターでろ過し、該ろ液を用いて測定を行なった。
なお、較正曲線は、分子量既知の16種の標準ポリスチレンを用いて作成した
。ポリスチレンのQファクターとして41.3を用いた。
【0037】
[ガーレー値]
多孔性フィルムのガーレー値(秒/100cc)はJIS P8117に準じてB型デンソメーター(東洋精機)にて測定した。
【0038】
[突刺強度]
直径12mmのワッシャーに固定したフィルムに、直径1mm、針先曲率半径0.5mmの金属性の針を、200mm/分の速さで垂直に突刺し、孔が開いた瞬間の荷重を突刺強度とした。
【0039】
[ピンホールの有無]
目視およびバブルポイントの測定(ASTM F316)により、多孔性フィルム中のピンホールの有無を確認した。
【0040】
[層間接着性]
積層多孔性フィルムを、15mm(フィルム幅方向)×70mm(フィルム押出し方向)の短冊状に切り出し、試験サンプルを作製した。
この試験サンプルの両面に17mm×90mmの粘着テープを、試験サンプル面を覆うように張り、島津製作所(株)製オートグラフAGS―500型引張試験機を使用して、粘着テープの端を300mm/分の引張速度で上下180°に引張り、試験サンプルを剥離させた。
試験サンプルの剥離面が界面破壊であった場合には層間の接着性が弱い、すなわち接着性不良であり、凝集破壊であった場合には層間の接着性が強い、すなわち接着性良好であるとした。
【0041】
[実施例1]
(i)ポリエチレン粉末70重量%(ハイゼックスミリオン340M、三井化学(株)製、MI=0.01g/10分以下、重量平均分子鎖長17000nm、重量平均分子量300万、融点136℃)と、(ii)ポリエチレン粉末30重量%(ハイワックス110P、三井化学(株)製、重量平均分子量1000、融点110℃)とを混合したポリエチレン混合物(MI=0.01g/10分以下)を2軸押出機にて混練し、該ポリエチレン混合物100重量部に対して120重量部の炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製、ピゴット10、平均粒子径0.1μm)を上記2軸押出機の途中から添加して230℃で溶融混練し、ポリオレフィン樹脂組成物(B−1)を得た。このポリオレフィン樹脂組成物(B−1)は、ポリオレフィン樹脂中分子鎖長2850nm以上のポリエチレンを27重量%含有するものであった。また該ポリオレフィン樹脂組成物(B−1)のMIは0.01g/10分であった。
該ポリオレフィン樹脂組成物(B−1)を、同周速度で回転する表面温度150℃の一対のロールを用いて圧延し、厚さ約40μmの単層のポリオレフィンフィルム(A−1)を作製した。得られた単層のポリオレフィンフィルム(A−1)を用いて、図1に示す方法でポリオレフィン積層フィルム(D−1)を製造した。すなわち、前記ポリオレフィン樹脂組成物(B−1)を表面温度150℃のロール1およびロール2で圧延してポリオレフィンフィルム(C−1)とし、該ポリオレフィンフィルム(C−1)とポリオレフィンフィルム(A−1)とをロール2およびロール3(いずれも表面温度150℃)で熱圧着して、ポリオレフィンフィルム(A−1)とポリオレフィンフィルム(C−1)とが積層されたポリオレフィン積層フィルム(D−1)を得た。該ポリオレフィン積層フィルム(D−1)をテンターによって110℃で5.5倍に延伸した後120℃でヒートセットを行い、ポリオレフィン積層多孔性フィルムを得た。
該ポリオレフィン積層多孔性フィルムを界面活性剤入りの酸水溶液で洗浄し、炭酸カルシウムを除去した後、70℃の熱ロールの間を通して乾燥し、充填剤の無いポリオレフィン積層多孔性フィルムを得た。
【0042】
[実施例2]
実施例1で使用したものと同じ(i)ポリエチレン粉末60重量%、(ii)ポリエチレン粉末28重量%、(iii)線状ポリエチレン12重量%(住友化学工業(株)製FV201、融点121℃)を混合したポリエチレン混合物(MI=0.01g/10分以下)を2軸押出機にて混練し、該ポリエチレン混合物樹脂(MI=0.01g/10分以下)100重量部に対して120重量部の炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製、ピゴット10、平均粒子径0.1μm)を上記2軸押出機の途中から添加して230℃で溶融混練しポリオレフィン樹脂組成物(B−2)を得た。該ポリオレフィン樹脂組成物(B−2)のMIは0.02g/10分であった。このポリオレフィン樹脂組成物(B−2)を用いて、実施例1と同様にロール表面温度150℃として厚さ約40μmの単層のポリオレフィンフィルム(A−2)を作製した。その後、ポリオレフィンフィルム(A−1)の替わりにポリオレフィンフィルム(A−2)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィンフィルム(C−1)とポリオレフィンフィルム(A−2)とが積層されたポリオレフィン積層フィルム(D−2)を得た。該ポリオレフィン積層フィルム(D−2)をテンターによって110℃で5.5倍に延伸した後120℃でヒートセットを行い、ポリオレフィン積層多孔性フィルムを得た。
【0043】
[実施例3]
実施例1で使用した炭酸カルシウムの代わりに平均粒子径0.15μmの炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製、スターピゴット15A)を使用した以外は実施例1とにおけるポリオレフィン樹脂組成物(B−1)の調製方法と同様にしてポリオレフィン樹脂組成物(B−3)を得た。このポリオレフィン樹脂組成物(B−3)のMIは0.01g/10分であった。該ポリオレフィン樹脂組成物(B−3)を用いて、実施例1と同様にロール表面温度150℃として厚さ約40μmのポリオレフィンフィルム(A−3)を作製した。その後、ポリオレフィンフィルム(A−1)の替わりにポリオレフィンフィルム(A−3)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィンフィルム(C−1)とポリオレフィンフィルム(A−3)とが積層されたポリオレフィン積層フィルム(D−3)を得た。該ポリオレフィン積層フィルム(D−3)をテンターによって110℃で5.5倍に延伸した後120℃でヒートセットを行い、ポリオレフィン積層多孔性フィルムを得た。
【0044】
[比較例1]
実施例1で製造した単層のポリオレフィンフィルム(A−1)同士を、図2のような方法で表面温度110℃の一対のロールにより積層してポリオレフィン積層フィルム(D−4)を得た。その後、該ポリオレフィン積層フィルム(D−4)をテンターによって110℃で5.5倍に延伸した後120℃でヒートセットを行い、ポリオレフィン積層多孔性フィルムを得た。
[比較例2]
市販のポリオレフィン多孔性フィルムの通気度、膜厚、突刺強度を測定した。結果を表1に示す。
該ポリオレフィン多孔性フィルムはポリエチレン40重量%(MI=2g/10分)と炭酸カルシウム(平均粒子径1.25μm)60重量%からなる樹脂組成物をTダイ成形機により製膜した後、ロール延伸機により延伸して製造されており、GPC測定による分子鎖長2850nm以上のポリエチレンの含有量は1%未満であった。
【0045】
実施例1〜3および比較例1で得られたポリオレフィン積層多孔性フィルムのピンホール、および層間接着性の評価結果を表1に示す。
また実施例1〜3で得られたポリオレフィン積層多孔性フィルム、実施例1で得られた充填剤の無いポリオレフィン積層多孔性フィルム及び比較例2のポリオレフィン多孔性フィルムの突刺強度、ガーレー値、膜厚の測定結果を表2に示す。
【0046】
【表1】



表1の結果から、実施例1〜3で得られたポリオレフィン積層多孔性フィルムは、層間接着性に優れ、かつピンホールの無いものであった。
【0047】
【表2】



表2に示すように、実施例1〜4で得られたポリオレフィン積層多孔性フィルムは、比較例2の市販のポリオレフィン多孔性フィルムに比べて突刺強度が非常に高く、かつ十分な通気性(ガーレー値が低い)を有するポリオレフィン積層多孔性フィルムであった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ポリオレフィン積層フィルムの製造方法の1例を示す図面
【図2】ポリオレフィン積層フィルムの製造方法の1例を示す図面
【符号の説明】
【0049】
A : ポリオレフィンフィルム
B : ポリオレフィン樹脂組成物
C : ポリオレフィンフィルム
D : ポリオレフィン積層フィルム
E : ポリオレフィンフィルム
F : ポリオレフィンフィルム
G : ポリオレフィン積層フィルム
X : ホッパー
Y : 押出機
Z : Tダイス
1 : ロール
2、3: 表面温度をポリオレフィン樹脂の融点より5〜25℃高い温度としたロール
4 : ロール
5、6: 表面温度をポリオレフィン樹脂の融点より5〜25℃高い温度としたロール
7 : ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の樹脂フィルムを熱圧着するための一対の成形工具であって、各々の成形工具が他方の成形工具の熱圧部との間でフィルム同士を重ね合わせ、加圧して接着する熱圧部を有する成形工具を用いて、
メルトインデックスが0.1g/10分以下であるポリオレフィン樹脂100重量部に対し、充填剤を80〜300重量部含むポリオレフィン樹脂組成物からなる1層以上の層からなる2枚のフィルムを前記成形工具の熱圧部間で熱圧着して積層することによりポリオレフィン積層フィルムを形成し、
該ポリオレフィン積層フィルムを延伸することにより該ポリオレフィン積層フィルムに微細孔を形成して多孔性フィルムとするポリオレフィン積層多孔性フィルムの製造方法であって、
前記積層の際に、前記各成形工具の熱圧部の表面温度を、ポリオレフィン樹脂の融点よりも5〜25℃高い温度に調節するポリオレフィン積層多孔性フィルムの製造方法。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂が、分子鎖長2850nm以上のポリオレフィンを10重量%以上含むポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン積層多孔性フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で製造されたことを特徴とするポリオレフィン積層多孔性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2004−284356(P2004−284356A)
【公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−60316(P2004−60316)
【出願日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(000002093)住友化学工業株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】