説明

ポリオレフィン系樹脂成形体の光触媒コーティング方法

【課題】二酸化チタン等の光触媒がポリオレフィン系樹脂成形体のコーティングに使用するバインダー成分中に埋もれるのを防ぎ、かつ表面に光触媒が緻密にかつ強く結合された、高活性で剥離の少ない光触媒材料の製造を可能とする、ポリオレフィン系樹脂成形体の光触媒コーティング方法を提供する。
【解決手段】プライマー物質の塗布によって表面ゼータ電位を正(+)又は負(−)に調整したポリオレフィン系樹脂成形体を、光触媒/水の重量比が0.0005から0.1の混合溶液に浸漬して成形体の表面ゼータ電位とは反対の負(−)又は正(+)の電位を有する光触媒を静電的に結合させ、ついで水分除去を行うことを特徴とする光触媒のコーティング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタン、他元素をドープした二酸化チタン、金属又は金属化合物を担持した二酸化チタン、及び前記各物質を各種無機化合物に複合化した光触媒微粒子等をポリオレフィン系樹脂成形体表面に高密度に固定化することを可能にし、空気や水中に存在する各種汚染物質の分解をはじめとする機能材料の製造に有用な光触媒のコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は通常の触媒とは異なり、光を吸収することにより電子−正孔への電荷分離や結晶構造の変化により超親水性現象を起こし、汚染物質の分解、抗菌、殺菌、セルフクリーニング、防曇など、人の生活環境の改善に役立てることができるいくつかの機能を発現する。現在用いられている光触媒はほとんどが二酸化チタン(TiO2)で、これは粒径が数ナノ〜数十ナノメートルの白色の微粒子である。微粒子は空気中では飛散しやすく、また溶液中で用いた場合には最終的に分離しなければならないので、そのままの状態で使われることはまれで、多くの場合適当な基材の表面に固定して用いられている。
【0003】
基材がセラミックス、ガラス、金属などの無機系材料の場合には、二酸化チタン表面に生じて反応を誘起させる活性酸素種(OHラジカル、O2-ラジカル等)が基材を分解することがないので、光触媒を直接コーティングすることができる(通常は、二酸化チタンを水、溶剤、バインダー、PH調整剤などと混ぜた組成物として基材表面に塗布する)。
しかし、基材が高分子の場合には、前記の方法で塗布すると高分子が活性酸素種により分解されてしまうので、基材表面に保護(バリアー)層を設ける必要がある。このような、保護層には、無機および有機系のシリカやフッ素化合物がよく利用されている。
【0004】
これまでに、バリアー層物質を含む液と光触媒組成物の2液を使うコーティング法やバリアー物質、光触媒、その他の物質を含む1液コーティング法が、高分子基材用に開発されている。(例えば、特許文献1〜4参照)
【特許文献1】特開2000−318089号公報
【特許文献2】特開2001−277418号公報
【特許文献3】特開2001−89708号公報
【特許文献4】特開2005−35198号公報
【0005】
ところが従来技術によると、他の物質と一緒に光触媒微粒子を高分子基材表面に塗布するため、微粒子がバインダー成分中に埋もれて本来の高い活性が得られないことが多い。また、繊維や不織布の場合に光触媒微粒子が剥離したり水洗浄を繰り返すと光触媒が取れて失われたりする。光触媒を高分子基材中に練りこむ方法の場合には、表面に露出している光触媒微粒子の割合が非常に少ない。このため、従来の方法に代わる、光触媒活性が高くしかも安定に維持される新規コーティング方法の開発が強く望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、 本発明はこれら従来技術の問題点を解決して、二酸化チタン等の光触媒がポリオレフィン系樹脂成形体のコーティングに使用するバインダー成分中に埋もれるのを防ぎ、かつ表面に光触媒が緻密にかつ強く結合された、高活性で剥離の少ない光触媒材料の製造を可能とする、ポリオレフィン系樹脂成形体の光触媒コーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明等は鋭意検討した結果、ポリオレフィン系樹脂成形体の表面に静電力により光触媒を結合することにより上記課題が解決されることを発見し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は次の1〜4の構成を採用するものである。
1.プライマー物質の塗布によって表面ゼータ電位を正(+)又は負(−)に調整したポリオレフィン系樹脂成形体を、光触媒/水の重量比が0.0005から0.1の混合溶液に浸漬して成形体の表面ゼータ電位とは反対の負(−)又は正(+)の電位を有する光触媒を静電的に結合させ、ついで水分除去を行うことを特徴とする光触媒のコーティング方法。
2.ポリオレフィン系樹脂成形体の表面に塗布するプライマー物質として、ポリシロキサン又はポリ酢酸ビニル系樹脂を使用することを特徴とする1に記載の光触媒のコーティング方法。
3.ポリオレフィン系樹脂としてポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を使用することを特徴とする1又は2に記載の光触媒のコーティング方法。
4.光触媒として二酸化チタン系光触媒を使用することを特徴とする1〜3のいずれかに記載の光触媒のコーティング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリオレフィン系樹脂成形体の光触媒コーティング方法によれば、二酸化チタン等の光触媒がコーティングに使用するバインダー成分中に埋もれるのを防ぎ、光触媒が緻密にかつ強く結合された、高活性で剥離の少ないポリオレフィン系樹脂成形体光触媒材料の製造が可能となる。このような光触媒材料は、空気や水中に存在する各種汚染物質の分解や殺菌等に使用する機能材料として有用であり、しかも基材となるポリオレフィン系樹脂成形体が光触媒により劣化しないので、極めて実用的価値の高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、活性酸素種による分解劣化の問題が無くかつ高い光触媒活性を示すポリオレフィン系樹脂成形体光触媒材料を製造するため、樹脂表面に塗布するプライマー物質として正(+)又は負(−)のゼータ電位を与えるポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル系樹脂、その他の物質で樹脂表面との親和性が強くかつ活性酸素種により分解されにくいものを使用して塗布・乾燥処理し、これを成形体の表面ゼータ電位とは反対の負(−)又は正(+)の電位を有する光触媒と水との混合液に接触させて光触媒を静電的に該塗膜に結合させ、ついで好ましくは0〜40℃の温度で水分除去を行う。
一般の二酸化チタン光触媒微粒子は、水分散液のPHが酸性側になるような比較的高濃度領域では正(+)に荷電したゼータ電位を有することが知られている。また、窒素ドープした二酸化チタンの場合には、逆にアルカリ性を示し、負(−)に荷電したゼータ電位を示す。本発明では、光触媒微粒子のゼータ電位が正(+)の場合にはポリオレフィン系樹脂成形体表面にできるだけ負(−)又は等電点近くのゼータ電位を与えるポリシロキサン、ポリ塩化ビニル−ポリ酢酸ビニル共重合体のようなプライマー物質を塗布することにより、また光触媒微粒子のゼータ電位が負(-)の場合には樹脂成形体表面にできるだけ正(+)又は等電点近くのゼータ電位を与える物質を塗布することによって、静電的に光触媒微粒子を樹脂表面に固定するものである。
【0010】
光触媒と水の混合液としては、光触媒:水の重量比が0.0005〜0.1:1、特に0.001〜0.01:1の溶液又は分散液を使用することが好ましい。また、混合液のPHは、樹脂表面のゼータ電位が負(-)の場合にはできるだけ7.0以下になるような光触媒微粒子を使用することが好ましく、反対に樹脂表面のゼータ電位が負(+)の場合にはできるだけ7.0以上になるような光触媒微粒子を使用することが好ましい。本発明によれば、光触媒/水混合液中の光触媒微粒子を、ポリオレフィン系樹脂成形体の表面に塗布したプライマー物質が静電的に引きつけて強く結合するので、ポリオレフィン系樹脂成形体表面に光触媒微粒子を高密度に固定することができる。この光触媒微粒子は、従来技術に見られるようにバインダー物質或いは基材を構成する樹脂によりその表面が被覆されていないので、高い光触媒活性を発揮することができる。
【0011】
プライマー層を構成する材料としては、表面がマイナス荷電をもつと考えられるポリシロキサンやポリ酢酸ビニル系樹脂が好適に使用される。ポリシロキサンは、バリアー層の役目も果たし、オルガノシラン又はゾルーゲル法やポリシラザンを用いて樹脂表面に合成できる。また、ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、有機酸(アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸など)エステル/酢酸ビニル共重合体などが挙げられるが、特に光触媒微粒子の結合が樹脂表面上に均一にできかつ耐久性も優れている塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を使用することが特に好ましい。共重合体中の塩化ビニル、酢酸ビニルの割合は、90:10〜30:70程度、特に90:10〜50:50程度のものを使用することが好ましい。
表面にプラスの荷電を与えるものとしては、ポリアミノアルキルメタクリレート(アクリルアミドとの共重合体を含む)ポリエチレンイミン、キトサン等が挙げられる。なお、ポリシロキサン上に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を塗布すると、より一層耐久性のある材料を製造することができるが、ポリプロピレンの場合にはポリシロキサンだけの方が光触媒の固定が良くできる。
【0012】
本発明で使用する好適な光触媒としては、二酸化チタン(TiO2);窒素、硫黄、炭素などをドープしたTiO2;金属や金属化合物を担持したTiO2;前記各物質を各種無機化合物に複合化したもののような二酸化チタン系光触媒を使用することができる。光触媒を複合化する無機化合物担体としては、シリカゲル、ゼオライト、炭素系物質(活性炭、カーボンクラスター、カーボンナノチューブ)、アパタイト、珪藻土、各種粘土から選択された無機化合物担体が挙げられる。これらの光触媒としては、市販品を使用することもできる。
【0013】
光触媒の分散に用いる液体は純水が適しており、特に酸やアルカリ試薬を用いて光触媒と水との混合液のPHを変える必要はない。混合液のPHは、光触媒の種類と濃度によって自動的に変り、通常の二酸化チタンでは光触媒/水の重量比が0.0005以上になるとPHが酸性側に、ゼータ電位も正(+)となり、負(−)或いは負(−)寄りの荷電を有する樹脂表面に静電コーティングが可能となる。
本発明で光触媒コーティング方法の対象となるポリオレフィン系樹脂成形体としては、ポリエチレン或いはポリエチレン共重合体、ポリプロピレン或いはポリプロピレン共重合体が好適に使用でき、成形体の形態としては、例えば繊維、不織布、メッシュ、フィルム等及びこれらの加工品が挙げられる。
【実施例】
【0014】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
縦6cm、横11cm、厚さ1.8cmのポリプロピレン不織布を用意し、これをゾル-ゲル法による無機シリカコーティング剤(株式会社エクセブン製、「SG-コート」、溶媒:イソプロピルアルコール)に浸して表面処理を行った。液が不織布の繊維表面に満遍なく付いたら、これを小型の遠心機に移して回転させ(1000rpm以上)、余分な液を取り除いた。その後、硬化を早めるため70℃の乾燥機中で1時間加熱した。これによって、ポリプロピレン不織布の繊維表面に負(−)のゼータ電位を有するポリシロキサン膜を築くことができた。
【0015】
このようにしてプライマー処理した不織布にさらに次の処理操作を行い、光触媒をポリプロピレン繊維表面に固定化した。0.2〜0.3gの二酸化チタン微粒子(日本アエロジル製、「P25」)をビーカーに採り、これに30〜40mlの純水を加えてよく混合した。混合には超音波発生装置を用いた。この分散液(PH 3.3)にプライマー処理の済んだ前記不織布を浸すと、二酸化チタンが不織布のポリプロピレン繊維上のポリシロキサン(負(-)のゼータ電位をもつ)に強く引き寄せられ、よく結合した。ついで、光触媒の付いた不織布から遠心機を用いて余分な液を除き、一晩室温(21℃)で乾燥した。繊維表面の水分は、基材が高分子であるので比較的短時間で除去できた。
ポリプロピレン不織布の繊維表面に結合した二酸化チタンのSEM写真を図1に示す。図1の上の写真は低倍率で撮ったもので、二酸化チタンが満遍なく繊維に固定されている。また、下の写真は高倍率で撮ったもので、凝集した二酸化チタンが黒く見えるポリシロキサン表面に高密度に露出して結合している。図1の上の写真から二酸化チタンが繊維に挟まっているのではなく、表面にしっかり結合していることが、下の写真から二酸化チタンが表面に露出して結合していることが分かる。また、本発明の方法でコーティングした繊維状ポリプロピレン光触媒材料は、2ヶ月間水に浸しておいても光触媒の剥離は起こらなかった。このことから、本発明でコーティングした光触媒は、水処理にも十分使え、活性を維持できるものと考えられる。
【0016】
(空気浄化性能試験)
上記実施例1で得られた繊維状ポリプロピレン光触媒材料を縦5cm、横10cmの大きさに切って、空気浄化性能を測定した。試験は、幅5.5cm、長さ30cm、高さ約4cmの空間を有するアクリル製の光照射反応装置を用い、流通法で行った。装置の上面は、紫外線照射ができるように石英製の窓板にした。この反応器の中央に前記の光触媒材料を置き、ガスが入り口側から厚さ5mmの空気層を通って材料の上面から材料の下面を経て出口に至るように、材料の両側にアクリル板を置いた。試験は、光源として波長300〜400nmのブラックライト(1mW/cm)照射下で行い、トルエン1ppmを含む空気が材料を通過することによりどれだけトルエン濃度が減少するかを測る方法で行った。分析にはガスクロマトグラフ(GC)を用い、濃度減少割合は除去率(%)で示した。図2に実施例1で得られたポリプロピレン不織布光触媒材料を用いた結果を示す。
最初光触媒材料にトルエンを吸着飽和させた後に、0分のところで紫外光照射を開始し、195分で照射を停止した。紫外光照射後に、トルエン濃度が1ppmから0.37ppmまで急速に低下した(トルエン除去率:63%)。この場合、TiO2が繊維表面に露出しているため、トルエンの光触媒分解が高い効率で起こっている。
【0017】
従来の光触媒とバインダー等を含む溶液をスプレーコート、浸漬、塗布等によりコーティングする方法では、図3のAにみられるように、光触媒粒子がバインダー等の他の物質中に埋もれてしまい高い光触媒活性を得ることが困難となる。
これに対して、本発明の光触媒コーティング方法(実施例1)では、図3のBにみられるように、基材となるポリプロピレン繊維上に形成したプライマー(メチルシリコン)層の表面に、光触媒が露出した状態で静電的に強固に結合されているために、高い光触媒活性を得ることが可能となる。
【0018】
(実施例2)
約20cm角のポリエチレン(PE)フィルムを複数枚用意して、静電コーティング法の適用性を調べた。フィルムの場合には、プライマー物質の塗布を繊維の場合と同様に浸漬法で行うと材料の平面性が失われるので、バーコーティング法で行った。最初、ポリエチレンフィルムにゾル-ゲル法による無機シリカコーティング剤(株式会社エクセブン製、「SG-コート」、溶媒:イソプロピルアルコール)をバーコーティング法で均一に塗布し、ポリシロキサン膜を築いた。
次に、膜が乾燥したことを確認の上、次の処理操作を行い、光触媒をフィルム表面に固定化した。0.2〜0.3gの二酸化チタン微粒子(日本アエロジル製、「P25」)をビーカーに採り、これに30〜40mlの純水を加えてよく混合した。混合にはスターラーを用いた。この分散液(PH 3.3)にプライマー処理の済んだポリエチレンフィルム(5cmx10cmにカットしガラス面にテープで固定した)を浸すと、二酸化チタンがポリシロキサン(負(-)寄りのゼータ電位をもつ)に強く引き寄せられ、よく結合した。処理したフィルムは、その後室温(21℃)で乾燥させた。この時、フィルム上には実際に結合していない余分な二酸化チタンが存在している。そのため、フィルム表面を精製水でよく洗浄し、その後室温で乾燥させた。水分は、基材が高分子であるので比較的短時間で除去できた。
【0019】
(実施例3)
実施例2において、ポリエチレンフィルムに代えてポリプロピレンフィルムを使用した以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレンフィルムに二酸化チタンをコーティングした。
【0020】
(実施例4)
プライマーとして塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を用い、上記実施例2とほぼ同様の方法でポリエチレンフィルム上に、二酸化チタンをコーティングした。
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体として、これを主成分とする市販の雨どい修理用接着剤(三菱樹脂、ヒシボンドLR)を用いた。この接着剤1gを40mlのメチルエチルケトン(メチルイソブチルケトンでも可)に溶解し、この溶液をバーコーティング法でポリエチレンフィルム表面に均一に塗布した。ついで、実施例2と同様にして二酸化チタンをコーティングした。本静電コーティング法によると、ポリエチレンフィルム上には二酸化チタンが満遍なく結合し、これらは精製水での洗浄後も剥離せずに残った。ポリエチレンフィルム表面に結合した二酸化チタンのSEM写真を図4に示す。図4によれば、フィルム上に形成したプライマー(塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体)層の表面に、光触媒が露出した状態で静電的に強固に結合されている。このため、実施例1の場合と同様に高い光触媒活性を得ることができる。
プライマーとして塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を用いた場合には、最後の水分除去温度は重要であり、40℃を超える乾燥温度では、活性の低下が起こる。
【0021】
(比較例1)
実施例4において、ポリエチレンフィルムに代えてポリプロピレンフィルムを使用した以外は実施例4と同様にして、ポリプロピレンフィルムに二酸化チタンをコーティングしたが、この場合には、二酸化チタンがフィルム表面に結合しなかった。この結果は、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を用いた処理を行うと、二酸化チタンの結合に適したゼータ電位差の範囲外となってしまうようである。
【0022】
(比較例2)
ポリエチレンフィルムの表面に、市販の二酸化チタン光触媒(石原産業製、「ST-01」)の組成物(バインダー及び溶剤を含む)を用いて、従来のスプレーコーティング法により光触媒を結合させた。ポリエチレンフィルム表面に結合した二酸化チタンのSEM写真を図5に示す。その結果は、図5にみられるように、光触媒粒子がバインダー等の他の物質中に埋もれてしまい、高い光触媒活性を得ることが困難となる。
【0023】
(参考例1)
本発明の液相静電コーティング現象について知見を得るため、タイプの異なる4種類の光触媒について、水分散液濃度近くの条件でゼータ電位測定を行った。通常の二酸化チタンとして、日本アエロジル(株)製の「P25」及び石原産業(株)の「ST-01」を用いた。また、可視光応答型光触媒として開発されたエコデバイス(株)製のN-ドープ二酸化チタン「PW-25」及び石原産業(株)製の「MPT-623」についても測定を行った。表1にゼータ電位と液のPHの測定結果を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
P25の場合、希釈条件で測定するとゼータ電位が正(+)から負(−)になる等電点がPH:6.3のあたりにある。表1の測定値は希釈液(PH:5.1)で+18.1であり、PHが小さな酸性側ではさらに大きな+の電位になるはずである。このP25は、PPにポリシロキサンを塗布した場合及びPEにポリシロキサン又は塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を塗布した場合に表面に近づいて良く結合する。したがって、負(−)のゼータ電位を持つ樹脂表面が結合に適していると考えられる。ST-01の場合は、ゼータ電位が+であるが等電点に近い値である。また、MPT623では、コーティング用分散液の濃度ではゼータ電位測定ができていないが、PH値から推定して等電点近くと考えられる。これらタイプの異なる2種類の光触媒は、ポリシロキサン又は塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を塗布したPEフィルム表面に良く結合した。一方、N-ドープ二酸化チタンの場合には、ゼータ電位が負(−)であるので、負(−)の荷電を持っていると考えられるポリシロキサン及び塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を塗布した表面には結合しなかった。以上より、液相静電コーティング法では、正(+)と正(+)の組み合わせ又は、負(−)と負(−)の組み合わせでは光触媒がコーティングできないと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1で得られた光触媒材料のSEM写真である。
【図2】実施例1で得られた光触媒材料を使用して、空気浄化性能試験を行った結果を示す図である。
【図3】本発明と従来の光触媒コーティングの違いを説明する模式図である。
【図4】実施例4で得られた光触媒材料のSEM写真である。
【図5】比較例2で得られた光触媒材料のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマー物質の塗布によって表面ゼータ電位を正(+)又は負(−)に調整したポリオレフィン系樹脂成形体を、光触媒/水の重量比が0.0005から0.1の混合溶液に浸漬して成形体の表面ゼータ電位とは反対の負(−)又は正(+)の電位を有する光触媒を静電的に結合させ、ついで水分除去を行うことを特徴とする光触媒のコーティング方法。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂成形体の表面に塗布するプライマー物質として、ポリシロキサン又はポリ酢酸ビニル系樹脂を使用することを特徴とする請求項1に記載の光触媒のコーティング方法。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂としてポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒のコーティング方法。
【請求項4】
光触媒として二酸化チタン系光触媒を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒のコーティング方法。










【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−142636(P2008−142636A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333335(P2006−333335)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度環境省委託研究「自動車由来有害大気汚染物質の光分解除去に関する研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】