説明

ポリクロロプレン系ラテックス及びその製造方法

【課題】 従来型ポリクロロプレン系ラテックス接着剤のタック性、コンタクト性を大幅に改良したポリクロロプレン系ラテックスを提供する。
【解決手段】 乳化剤としてロジン酸アミン塩を含有することを特徴とするポリクロロプレン系ラテックス、及びポリクロロプレン系ラテックスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクト性が大幅に改良された、ポリクロロプレン系ラテックス及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリクロロプレン(以下CRと略称することがある)をベースとした接着剤、プライマーは、CRの極性、凝集力、可撓性等の特徴を最大限に活かした用途であり、ゴム系接着剤の主流として建材、木工、製靴、車両製造、家庭工作等の広範な分野で重用されている。従来のCR系接着剤は、CR、粘着付与樹脂、酸化亜鉛、酸化防止剤などをトルエン、ヘキサン、酢酸エチル、シクロヘキサンなどの有機溶剤に溶解したタイプが主流だったが、環境問題の高まりから脱溶剤化の要求が年々強まっている。この要求に応えるものとしてCRラテックスが注目されてきたが、従来のCRラテックスはコンタクト性が乏しく、溶剤系CR接着剤を置き換えるには至っていない。コンタクト性とは、被着体に接着剤を塗布、乾燥後、貼り合せた直後に、高い接着強度が発現する特性である。従来のラテックスは、乾燥後のタック性が乏しく、コンタクト性が不十分だった。
【0003】
従来のCRラテックスは、ロジン酸石鹸、アルキル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミン塩、四級アンモニウム塩、ポリビニルアルコールなどの乳化剤を用いてクロロプレン等を水中に乳化した後、過硫酸カリウムなどのラジカル開始剤を添加することによりクロロプレンを重合後、未反応モノマーをスチームストリッピング等の方法で除去する方法により製造されている。従来型ラテックスに含まれるこれらの乳化剤が、従来型CRラテックス接着剤のタック性、コンタクト性を妨げる主要因と考えられる。即ち、ある被着体に従来型CRラテックスをベースとした接着剤を塗布し、乾燥する過程で、CRラテックス粒子表面から脱着した乳化剤及び水中に溶解したフリーな乳化剤が、接着剤皮膜表面又は被着体界面に配向することによって、CR本来のタック性、コンタクト性が阻害されるためと考えられる。
【0004】
上記乳化剤の中で、ロジン酸石鹸は最も一般的な乳化剤だが、ロジン酸アルカリ金属塩を用いた例が殆どであり、ロジン酸アミン塩による乳化重合例、親水性溶剤の添加効果、及び得られたラテックスの特性に関する報告例はなかった(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特表平2004−525991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、従来型CR系ラテックスのコンタクト性が改良された新規なCRラテックスが切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した課題を解決するために鋭意検討した結果、乳化剤として、従来のロジン酸アルカリ金属塩の代わりに、ロジン酸アミン塩を用い、適当量の親水性溶剤共存下でクロロプレン又はクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能なモノマーを乳化重合することによって、コンタクト性が大幅に向上したCRラテックスが安定に得られ、従来の課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、乳化剤としてロジン酸アミン塩を含有することを特徴とするCR系ラテックス及びその製造方法である。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のCR系ラテックスは、乳化剤としてロジン酸アミン塩を含有するものである。ここに、ロジン酸アミン塩とは、カルボン酸の一種であるロジン酸と塩基であるアミンの塩をいい、例えば、ロジン酸トリエチルアミン塩、ロジン酸ジエチルアミノエタノール塩、ロジン酸ジメチルアミノエタノール塩、ロジン酸トリエタノールアミン塩、ロジン酸2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール塩等が挙げられる。
【0011】
CR系ラテックスにおけるロジン酸アミン塩の含有量は、特に限定するものではないが、接着剤としての強度、耐水性を維持するため、CR系ポリマーに対して1〜20重量%であることが好ましく、1〜15wt%であることがさらに好ましい。
【0012】
本発明のCR系ラテックスの製造方法は、親水性溶剤の存在下、ロジン酸アミン塩を用いて水中にクロロプレン等のモノマーを乳化させ、ラジカル開始剤を加えて乳化重合するものであり、従来ラテックスで使用されている汎用乳化剤の代わりにロジン酸アミン塩を用い、乳化重合を安定、且つ速やかに進行させるために適当量の親水性溶剤を添加する他は、従来の乳化重合と同様である。即ち、適当量の親水性溶剤の存在下、クロロプレン又はクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能なモノマー、及び必要に応じてメルカプタン等の分子量調節剤を、ロジン酸アミン塩で水中に乳化する。このモノマー乳化液にラジカル開始剤及び必要に応じて還元剤を添加して重合を行う。CR中の1,2−及び3,4−結合の生成を抑制することによってCRの安定性を維持するため、重合温度は70℃以下であることが好ましい。CRの安定性をより確保するためには、60℃以下が好ましい。目標とするモノマー転化率に到達したところで、重合禁止剤を添加し、重合を停止する。その後、未反応モノマー及び親水性溶剤を減圧留去することにより、CR系ラテックスが得られる。また、重合中又は重合後、ラテックスの安定性向上などを目的として、一般的な乳化剤、分散剤を添加しても良い。但し、これらの乳化剤、分散剤の添加量はCR系ポリマーに対して2wt%以下である。2wt%を超えるとCR系ラテックスのタック性、コンタクト性の低下が顕著になる。乳化剤、分散剤によるタック性、コンタクト性低下を抑制するため、ラテックスに含まれるロジン酸アミン塩以外の乳化剤、分散剤は1wt%以下がより好ましい。
【0013】
ここに、ロジン酸アミン塩を用いて得られたラテックスのコンタクト性が大幅に向上する理由として、ロジン酸アミン塩がラテックス乾燥皮膜表面に配向しないか、又は、配向しても皮膜のタック性を阻害せず寧ろタッキファイヤーとして作用するためと推測される。
【0014】
ロジン酸アミン塩を用いて乳化させる方法としては、ロジン酸アミン塩を添加して用いる方法、ロジン酸とアミンを反応系に添加してロジン酸アミン塩を得て、当該ロジン酸アミンを用いる方法が挙げられる。これらのうち、プロセス簡便性等のために、ロジン酸とアミンを反応系に添加してロジン酸アミン塩を得て、当該ロジン酸アミンを用いる方法が好ましい。
【0015】
上記ロジン酸としては、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、レボピマール酸、パラストリン酸、これらの混合物などのモノカルボン酸系のジテルペン酸の他、マレイン酸変性ロジン、重合ロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、アクリル酸変性ロジン、メタクリル酸変性ロジン、フマール酸変性ロジンなど、ロジン骨格を有するポリカルボン酸等が挙げられる。
【0016】
上記アミンとしては、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等が挙げられる。
【0017】
クロロプレンと共重合可能なモノマーとしては、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、2−シアノ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ブタジエン、イソプレンなどの1,3−ブタジエン類、スチレン、α-メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、p−シアノスチレン、p−アセトキシスチレン、塩化p−スチレンスルホニル、エチルp−スチレンスルホニル、p−ブトキシスチレン、4−ビニル安息香酸、3−イソプロペニル−α,α’−ジメチルベンジルイソシアネートなどのスチレン類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸3−(ジメチルアミノ)プロピル、メタクリル酸2−(イソシアナート)エチル、メタクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、メタクリル酸2,2,3,3−テトラフロロプロピル、メタクリル酸2,2,2−トリフロロエチル、メタクリル酸2,2,3,3,3−ペンタフロロプロピル、メタクリル酸2,2,3,4,4,4−ヘキサフロロブチルなどのメタクリル酸エステル類、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−ブトキシエチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル、アクリル酸2,2,3,3−テトラフロロプロピル、アクリル酸2,2,2−トリフロロエチル、アクリル酸2,2,3,3,3−ペンタフロロプロピル、アクリル酸2,2,3,4,4,4−ヘキサフロロブチルなどのアクリル酸エステル類、その他、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−シアノエチルアクリレート、無水マレイン酸、マレイン酸、無水シトラコン酸、ビニル酢酸、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、モノ2−(メタクリロイルオキシ)エチルフタレート、モノ2−(メタクリロイルオキシ)エチルサクシネート、モノ2−(アクリロイルオキシ)エチルサクシネート、メタクリル酸、アクリル酸、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ジアセトンメタクリレート等があげられる。中でも、クロロプレンとのラジカル共重合性が比較的高い点で、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、2−シアノ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、α−シアノエチルアクリレート、無水マレイン酸、マレイン酸が好ましい。
【0018】
上記分子量調節剤としては、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸等のメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド等のスルフィド類、ヨードホルム等のハロゲン化炭化水素、ジフェニルエチレン、p−クロロジフェニルエチレン、p−シアノジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマー、イオウ等を用いることができる。
【0019】
上記親水性溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、メトキシエタノール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エタノール、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、酢酸エチル等が使用でき、これらを1種以上使用することができる。これらのうち、CRの溶解性が低い親水性溶剤が、乳化重合時のスケール発生が少ないため、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、メトキシエタノールを1種以上使用することが好ましい。これら親水性溶剤の添加量は、特に限定するものではないが、ミセル形成を促進させる効果を維持しつつ、ラテックス粒子の凝集を防ぐため、好ましくはクロロプレン等のモノマーに対して3〜50wt%であり、さらに好ましくは5〜30wt%である。
【0020】
上記ラジカル開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどのパーオキサイド化合物、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート等のアゾ化合物を用いることができる。過酸化物の分解を促進させるための還元剤としては、ハイドロサルファイト、ロンガリット、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸、アニリン等を用いることができる。上記重合禁止剤としては、フェノチアジン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−フェニル−1−ナフチルアミン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−メルカプトベンズイミダゾール、ハイドロキノン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン等を用いることができる。
【0021】
上記一般的な乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤等があげられ、例えば、アニオン性乳化剤としては、ロジン酸アルカリ金属塩、高級脂肪酸塩、アルケニルコハク酸塩、アルキル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸エステルナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、高級脂肪酸アミドのスルホン酸塩、高級脂肪酸アルキロールアミドの硫酸エステル塩、アルキルスルホベタイン等があげられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、高級脂肪酸アルカノールアミド、ポリビニルアルコール等があげられ、カチオン性乳化剤としては、アルキルアミン塩、四級アンモニウム塩等があげられる。分散剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、ポリカルボン酸塩、スチレンスルホン酸共重合体塩等が挙げられる。
【0022】
本発明のCR系ラテックスは、ロジン酸エステル樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂、クマロンインデン樹脂などの粘着付与樹脂、アルキルフェノール樹脂、酸性官能基含有樹脂の塩、シリカ、クレー、アルミペースト、酸化チタン、ゼオライト、炭酸カルシウム、カーボンなどの無機充填材、疎水化セルロース、ポリカルボン酸塩、会合型ノニオン界面活性剤、ポリアルキレンオキサイド、クレーなどの増粘剤、ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、ヒドラジン誘導体、シラン化合物などの硬化剤、酸化亜鉛、ハイドロタルサイド、エポキシ樹脂等の受酸剤、可塑剤、濡れ剤、凍結防止剤、造膜助剤等を配合して、水性接着剤、水性プライマー、シーリング材、バインダー材として使用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明で得られるCR系ラテックスは、コンタクト性が大幅に改良されたCRラテックス系接着剤、プライマーの他、コーティング、シーラント、手袋、糸ゴム等の浸漬用途、気球、ゴムボート等のゴム引き布用途、繊維処理用途、キャパシター及び二次電池電極用バインダー、インク、トナー、磁性塗料等のバインダーの製造を可能にする。
【実施例】
【0024】
本発明をより具体的に説明するため以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
なお、本発明の重合体の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mnは、東ソー(株)製GPC8220により次の条件で測定した(溶離液=テトラヒドロフラン、流速=1.0ml/min、カラム温度=40℃、ピーク検出=示差屈折計、充填カラム=TSK−gel(登録商標、以下同じ)G7000Hxl/GMHxl/GMHxl/ガードカラムH−L、分子量計算=ポリスチレン換算)。重合中のモノマー転化率は、島津製作所ガスクロマトグラフGC−17A(GLサイエンス社製キャピラリーカラムNEUTRABOND−5、水素炎イオン化検出器)を用い、ベンゼンを標準物質として算出した。
【0026】
CR系ラテックスの接着剤としての性能評価は、以下の方法で行った。2枚の9号綿帆布にCR系ラテックスを刷毛で塗布し、オーブン中80℃で5分乾燥(以上の塗布−乾燥の操作を2回繰返した)し目止めした後、更に1回塗布後、常温でオープンタイム(一定時間放置)を取った後、ハンドローラーで圧着した。常温で3日養生後、25mm幅に裁断し、引っ張り速度100mm/minの条件でテンシロン型引っ張り試験機を用いて180°T型剥離試験を行った。コンタクト性は、オープンタイムによる剥離強度及び剥離状態の変化から評価した。即ち、コンタクト性が十分な場合、長いオープンタイムを取っても剥離強度の低下は小さいが、不十分な場合には接着剤界面での剥離(所謂糊分かれ)が顕著になり剥離強度の低下が増大する。
【0027】
実施例1
三方コックを備えた200mlガラスフラスコに、ロジン酸(荒川化学製、ロンジスR)5.03g、アセトン6.31g(モノマーに対して10wt%)、n−ドデシルメルカプタン0.20g、ベンゼン0.30g、トリエチルアミン1.75g(ロジン酸に含まれるカルボキシル基の1.2当量)及びクロロプレン55.85gを仕込み、ロジン酸の溶解を確認後、純水45.66gを添加し、モノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、40℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら9時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は96%であり、スケールの発生は見られなかった。ロータリーエバポレーターで未反応モノマー、アセトン及び水分を留去しCR系ラテックス−Aを得た(固形分48wt%,ラテックス中のロジン酸アミン塩含有量:12.6wt%)。
【0028】
得られたCR系ラテックス−Aを用いて接着性能を評価した結果を表1に示す。比較例のCR系ラテックスと比較して、コンタクト性が著しく優れる(オープンタイムに関らず剥離強度が高い)ことが明らかである。
【0029】
【表1】

実施例2
三方コックを備えた200mlガラスフラスコに、ロジン酸(荒川化学製、ロンジスR)2.48g、アセトン5.00g(モノマーに対して8wt%)、n−ドデシルメルカプタン0.20g、ベンゼン0.30g、トリエタノールアミン0.65g、トリエチルアミン0.43g(ロジン酸に含まれるカルボキシル基の1.2当量)及びクロロプレン55.36gを仕込み、ロジン酸の溶解を確認後、純水45.27gを添加し、モノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、40℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら10時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は94%であり、スケールの発生は見られなかった。ロータリーエバポレーターで未反応モノマー、アセトン及び水分を留去しCR系ラテックス−Bを得た(固形分47wt%,ラテックス中のロジン酸アミン塩含有量:5.6wt%)。
【0030】
得られたCR系ラテックス−Bを用いて接着性能を評価した結果を表1に示す。比較例のCR系ラテックスと比較して、コンタクト性が著しく優れる(オープンタイムに関らず剥離強度が高い)ことが明らかである。
【0031】
実施例3
クロロプレン55.85gの代わりに、クロロプレン50.00g及び2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン5.85gを用いた他は全て実施例1と同じ処方でモノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、30℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら10時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレン及び2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンの重合転化率は93%及び97%であり、スケールの発生は見られなかった。ロータリーエバポレーターで未反応モノマー、アセトン及び水分を留去しCR系ラテックス−Cを得た(固形分47wt%,ラテックス中のロジン酸アミン塩含有量:13.0wt%)。
【0032】
得られたCR系ラテックス−Cを用いて接着性能を評価した結果を表1に示す。比較例のCR系ラテックスと比較して、コンタクト性が著しく優れる(オープンタイムに関らず剥離強度が高い)ことが明らかである。
【0033】
実施例4
三方コックを備えた200mlガラスフラスコに、ロジン変性特殊合成樹脂(ハリマ化成製、ハリマックAS−10)5.00g、アセトン7.00g(モノマーに対して11wt%)、n−ドデシルメルカプタン0.20g、ベンゼン0.30g、トリエチルアミン1.44g(ロジン酸に含まれるカルボキシル基の1.2当量)及びクロロプレン55.46gを仕込み、ロジン酸の溶解を確認後、純水45.25gを添加し、モノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、40℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら10時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は94%であり、スケールの発生は見られなかった。ロータリーエバポレーターで未反応モノマー、アセトン及び水分を留去しCR系ラテックス−Dを得た(固形分47wt%,ラテックス中のロジン酸アミン塩含有量:12.4wt%)。
【0034】
得られたCR系ラテックス−Dを用いて接着性能を評価した結果を表1に示す。比較例のCR系ラテックスと比較して、コンタクト性が著しく優れる(オープンタイムに関らず剥離強度が高い)ことが明らかである。
【0035】
実施例5
三方コックを備えた200mlガラスフラスコに、ロジン酸(荒川化学製、ロンジスR)2.47g、アセトン5.00g(モノマーに対して8wt%)、n−ドデシルメルカプタン0.20g、ベンゼン0.30g、トリエタノールアミン0.65g、トリエチルアミン0.43g(ロジン酸に含まれるカルボキシル基の1.2当量)及びクロロプレン55.58gを仕込み、ロジン酸の溶解を確認後、純水45.50及びナフタレンホルマリン縮合物スルホン酸ナトリウム0.12gを添加し、モノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、40℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら10時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は95%であり、スケールの発生は見られなかった。ロータリーエバポレーターで未反応モノマー、アセトン及び水分を留去しCR系ラテックス−Eを得た(固形分47wt%,ラテックス中のロジン酸アミン塩含有量:5.5wt%)。
【0036】
得られたCR系ラテックス−Eを用いて接着性能を評価した結果を表1に示す。比較例のCR系ラテックスと比較して、コンタクト性が著しく優れる(オープンタイムに関らず剥離強度が高い)ことが明らかである。
【0037】
実施例6
三方コックを備えた200mlガラスフラスコに、ロジン酸(荒川化学製、ロンジスR)2.47g、イソプロパノール7.60g(モノマーに対して12wt%)、n−ドデシルメルカプタン0.20g、ベンゼン0.30g、トリエタノールアミン0.65g、トリエチルアミン0.43g(ロジン酸に含まれるカルボキシル基の1.2当量)及びクロロプレン55.70gを仕込み、ロジン酸の溶解を確認後、純水45.50を添加し、モノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、40℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら9時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は93%であり、スケールの発生は見られなかった。ロータリーエバポレーターで未反応モノマー、イソプロパノール及び水分を留去しCR系ラテックス−Fを得た(固形分47wt%,ラテックス中のロジン酸アミン塩含有量:5.6wt%)。
【0038】
得られたCR系ラテックス−Fを用いて接着性能を評価した結果を表1に示す。比較例のCR系ラテックスと比較して、コンタクト性が著しく優れる(オープンタイムに関らず剥離強度が高い)ことが明らかである。
【0039】
実施例7
ロジン酸(荒川化学製、ロンジスR)10.00g、トリエチルアミン4.23g(ロンジスR中のカルボキシル基の1.5当量)及び純水50.00gを三角フラスコに秤取り、マグネチックスターラーで攪拌しながら溶解させ、ロジン酸トリエチルアミン塩水溶液を得た。
【0040】
三方コックを備えた200mlガラスフラスコに、上記ロジン酸アミン塩溶液16.00g、アセトン5.00g(モノマーに対して9.0wt%)、n−ドデシルメルカプタン0.20g、ベンゼン0.30g、及びクロロプレン55.50gを仕込み、純水42.50及びナフタレンホルマリン縮合物スルホン酸ナトリウム0.12gを添加し、モノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、40℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら10時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は94%であり、スケールの発生は見られなかった。ロータリーエバポレーターで未反応モノマー、アセトン及び水分を留去しCR系ラテックス−Gを得た(固形分47wt%,ラテックス中のロジン酸アミン塩含有量:4.9wt%)。
【0041】
得られたCR系ラテックス−Gを用いて接着性能を評価した結果を表1に示す。比較例のCR系ラテックスと比較して、コンタクト性が著しく優れる(オープンタイムに関らず剥離強度が高い)ことが明らかである。
【0042】
実施例8
ロジン酸(荒川化学製、ロンジスR)10.00g、ジエチルエタノールアミン4.90g(ロンジスR中のカルボキシル基の1.5当量)及び純水50.00gを三角フラスコに秤取り、マグネチックスターラーで攪拌しながら溶解させ、ロジン酸ジエチルアミノエタノール塩水溶液を得た。
【0043】
三方コックを備えた200mlガラスフラスコに、上記ロジン酸アミン塩溶液16.50g、アセトン2.00g(モノマーに対して3.6wt%)、n−ドデシルメルカプタン0.20g、ベンゼン0.30g、及びクロロプレン55.50gを仕込み、純水42.50及びナフタレンホルマリン縮合物スルホン酸ナトリウム0.12gを添加し、モノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、40℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら10時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は95%であり、スケールの発生は見られなかった。ロータリーエバポレーターで未反応モノマー、アセトン及び水分を留去しCR系ラテックス−Hを得た(固形分47wt%,ラテックス中のロジン酸アミン塩含有量:5.8wt%)。
【0044】
得られたCR系ラテックス−Hを用いて接着性能を評価した結果を表1に示す。比較例のCR系ラテックスと比較して、コンタクト性が著しく優れる(オープンタイムに関らず剥離強度が高い)ことが明らかである。
【0045】
比較例1
三方コックを備えた200mlガラスフラスコに、ロジン酸(荒川化学製、ロンジスR)2.44g、n−ドデシルメルカプタン0.20g、ベンゼン0.30g及びクロロプレン54.23gを仕込み、ロジン酸の溶解を確認後、20.42wt%水酸化カリウム水溶液2.31g及び純水46.31gを添加し、モノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、40℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら6時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は96%であり、スケールの発生は見られなかった。ロータリーエバポレーターで未反応モノマー及び水分を留去しCRラテックス−Iを得た(固形分47wt%,ラテックス中のロジン酸含有量:4.7wt%)
得られたCR系ラテックス−Iを用いて接着性能を評価した結果を表1に示す。実施例のCR系ラテックスと比較して、剥離強度が低く、オープンタイムが長いほど剥離強度の低下が顕著である。
【0046】
比較例2
三方コックを備えた200mlガラスフラスコに、ペレックスSSH(花王製、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)5.00g、純水46.00、n−ドデシルメルカプタン0.15g、ベンゼン0.30g及びクロロプレン55.23gを仕込み、モノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、40℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら8時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は95%であり、スケールの発生は見られなかった。ロータリーエバポレーターで未反応モノマー及び水分を留去しCR系ラテックス−Jを得た(固形分47wt%)
得られたCR系ラテックス−Jを用いて接着性能を評価した結果を表1に示す。実施例のCR系ラテックスと比較して、剥離強度が低く、オープンタイムが長いほど剥離強度の低下が顕著である。
【0047】
比較例3
三方コックを備えた200mlガラスフラスコに、ロジン酸(荒川化学製、ロンジスR)2.48g、n−ドデシルメルカプタン0.20g、ベンゼン0.30g、トリエチルアミン0.86g(ロジン酸に含まれるカルボキシル基の1.2当量)及びクロロプレン55.35gを仕込み、ロジン酸の溶解を確認後、純水45.25gを添加し、モノマー乳化液を調製した。ここに開始剤水溶液0.2ml(過硫酸カリウム3.40wt%及びアントラキノンスルホン酸ナトリウム0.10wt%含有)を添加した。1L/分の流量で窒素を30分流して十分脱気した後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、40℃のオイルバスで加熱を開始した。2時間毎に上記開始剤水溶液を0.2ml添加しながら10時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は65%であり、粘稠なスケールが少量発生しており、重合も高転化率まで進まなかった。親水性溶剤を添加しなかったためである。
【0048】
比較例4
アセトンを添加しなかった他は全て実施例7と同じ条件で乳化重合を行った。10時間重合後、フェノチアジン50mgを添加して重合を停止した。クロロプレンの重合転化率は71%であり、粘稠なスケールが発生しており、重合も高転化率まで進まなかった。親水性溶剤を添加しなかったためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤としてロジン酸アミン塩を含有することを特徴とするポリクロロプレン系ラテックス。
【請求項2】
親水性溶剤の存在下、ロジン酸アミン塩を用いて水中にクロロプレン等のモノマーを乳化させ、ラジカル開始剤を加えて乳化重合することを特徴とする請求項1記載のポリクロロプレン系ラテックスの製造方法。
【請求項3】
親水性溶剤が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、メトキシエタノールから選択される1種以上の溶剤であることを特徴とする請求項2に記載のポリクロロプレン系ラテックスの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のポリクロロプレン系ラテックスを含むことを特徴とする接着剤、プライマー。

【公開番号】特開2008−222736(P2008−222736A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58590(P2007−58590)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】