説明

ポリフェニレンスルフィド系半導電性シート、ポリフェニレンスルフィド系半導電性シームレスベルトおよび電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材

【解決課題】耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性、耐オゾン性、機械的特性、易加工性、耐屈曲性、耐クリープ性などのポリフェニレンスルフィド系樹脂の優れた特性を損なうことなく、電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材として使用したときに部材の表面平滑性を保持し画像の劣化を抑制できるポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトおよび電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材を提供する。
【解決手段】樹脂組成物全体の質量を基準として77.0質量%以上92.0質量%以下のポリフェニレンスルフィド系樹脂と、7.0質量%以上16.0質量%以下の導電性カーボンブラックと、0.05質量%以上5.00質量%以下の二硫化モリブデンと、を含む樹脂組成物により形成されたポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトおよびこれらから形成される電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が傷つき難いポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトおよび電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材に関する。本明細書において、電荷制御部材とは、電子写真方式画像形成装置に用いられる帯電ロールもしくはベルト、現像ロール、転写ロールもしくはベルトなどの静電気を制御する部材をいう。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の分野において、静電気を精密に制御することができる樹脂材料が求められている。例えば、電子写真方式の複写機やファクシミリ、レーザービームプリンターなどの画像形成装置(電子写真複写機、静電記録装置など)においては、帯電、露光、現像、転写、定着、除電の各工程を経て画像が形成されるが、これら各工程では静電気を精密に制御することが必要である。具体的には、電子写真方式画像形成装置においては、一般に、(1)感光体ドラム表面を均一且つ一様に帯電する工程、(2)露光により感光体ドラム表面に静電潜像(静電荷像)を形成する工程、(3)現像剤(トナー)によって静電潜像を可視像(トナー像)に現像する工程、(4)感光体ドラム上のトナーを転写材(例えば、転写紙)上に転写する工程、(5)転写材上のトナーを加圧加熱して融着する定着工程、及び(6)感光体ドラム上に残留するトナーを清掃するクリーニング工程などの各工程によって、画像が形成される。また、インクジェット方式のプリンターにおいては、高画質化と高速化とを達成する目的で、抵抗値を制御したベルトを用いて印刷用紙を支持させたり、インク像を樹脂製のベルトやロールの表面に形成させてから印刷用紙に転写したりする印刷方法が試みられている。
【0003】
このような画像形成装置に装着されているベルト又はロールは、1×105〜5×1013Ωcm程度の体積抵抗率を有することが要求される。例えば、帯電ロールやベルトを用いた帯電方式では、電圧を印加した帯電ロール又はベルトを感光体ドラムに接触させて、直接、感光体ドラム表面に電荷を与え、一様且つ均一に帯電させる。現像ロールを用いた現像方式では、現像ロールとトナー供給ロールとの間の摩擦力により、トナーを現像ロールの表面に帯電状態で付着させ、これをトナー層厚規制ブレードで一様にならした後、感光体ドラム表面の静電潜像に対して電気吸引力により飛翔させて現像する。転写ロール又はベルトを用いる転写方式では、転写ロール又はベルトにトナーと反対の極性を有する電圧を印加して電界を発生させ、この電界によりベルト上に静電気を発生させたり除電させたりすることによって、感光体上のトナーを転写材上に転写する。
【0004】
ところで、電子写真方式画像形成方法には、マグネットローラー(トナー担持体)を用いた磁気による現像剤供給方法である「磁性現像法」が主に用いられている。この磁性現像法には、(1)トナー内部に磁性体を含有させた磁性トナーを使用する「一成分現像法」と、(2)非磁性トナーと磁性体粉末(一般にキャリアと呼ばれる)の混合物をマグネットローラーに供給して、磁性体粉末のみを回収する「二成分現像法」とがある。
【0005】
「二成分現像法」は、トナーの平均粒子径を小さくすることが可能であることから、解像度の高い画像を得るのに適している。さらに、トナー自体に磁性体を含まないことからカラートナーに良好に用いられる現像法である。
【0006】
ところが、「二成分現像法」に用いられるキャリアは、硬く(素材は鉄分など磁性体が使用される)、粒子径が大きい(粒子径は10〜100μm程度、トナーの粒子径は1〜10μm程度)ために、このキャリアが回収されずに転写ベルト上に飛散すると、転写ベルトと接触している各種ローラー間でキャリアがベルトに押し付けられ、ベルト表面を凹凸に傷つけてしまう問題が生じていた。
【0007】
このような用途に使用されるシートやベルト又はチューブの素材として、ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略記する)は、耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性、耐オゾン性、機械的特性、易加工性、耐屈曲性、耐クリープ性などの面で優れており、帯電ロール又はベルト、現像ロール、転写ロール又はベルトなどの電荷制御部材の用途に好適であろうと期待されている。ところが、PPS樹脂は、他の多くの樹脂と同様に、体積抵抗率が大きく半導電性ではなく、またロール又はベルトなどの電荷制御部材としての使用中にロール又はベルトの表面に傷がつき易いため、転写される画像の質が低下するという欠点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性、耐オゾン性、機械的特性、易加工性、耐屈曲性、耐クリープ性などのPPS樹脂の優れた特性を損なうことなく、電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材として使用したときに部材の表面平滑性を保持し画像の劣化を抑制できるポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトおよび電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリフェニレンスルフィド系樹脂と導電性カーボンブラックと二硫化モリブデンとを適量ブレンドした樹脂組成物から成形した半導電性シートまたは半導電性シームレスベルトが表面平滑性を良好に維持できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明によれば、樹脂組成物全体の質量を基準として77.0質量%以上92.0質量%以下のポリフェニレンスルフィド系樹脂と、7.0質量%以上16.0質量%以下の導電性カーボンブラックと、0.05質量%以上5.00質量%以下の二硫化モリブデンと、を含む樹脂組成物により形成されたポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトが提供される。
【0011】
前記樹脂組成物は、樹脂組成物全体の質量を基準として1.0質量%以上10.0質量%以下の改質剤をさらに含むことがポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトの脆性を改善する上で特に好ましい。
【0012】
また、樹脂組成物に含まれる二硫化モリブデンは、フィッシャー法で測定した場合の平均粒径が0.10μm以上3.00μm以下の粉末であり、導電性カーボンブラックは、DBP(ジブチルフタレート)吸油量が80ml/100g以上300ml/100gの範囲にある導電性カーボンブラックであることが特に好ましい。
【0013】
また、前記改質剤は、ポリオレフィンと、エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体を主鎖とするグラフトポリマーと、の混合物であることが好ましい。
また、本発明によれば、本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトから形成される電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートによれば、耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性、耐オゾン性、機械的特性、易加工性、耐屈曲性、耐クリープ性などのPPS樹脂の優れた特性を損なうことなく、電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材として使用したときに使用後の表面平滑性を保持し画像の劣化を抑制できる。
【0015】
また、本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトから形成される電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材は、キャリアなどの影響により表面が傷つきにくいものである。このようにキャリアなどの影響で電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材を傷つきにくくするためには、(1)キャリアが押し付けられて表面が変形しても復元する弾性を有する、(2)キャリアが押し付けられても表面が変形しない硬度を有する、(3)キャリアが押し付けられた凹部分の周辺が、クレーター状に凸になり難いなどの性質を付与する必要があると考えられるが、本発明においては特に(3)の機構が作用していると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトは、特定量のポリフェニレンスルフィド系樹脂に、特定量の導電性カーボンブラック及び特定量の二硫化モリブデンおよび場合によっては改質剤を添加してなる樹脂組成物により形成されたものである。
【0017】
まず、上記樹脂組成物について説明する。
樹脂組成物に必須成分として用いられるポリフェニレンスルフィド系樹脂としては、例えば、下記一般式で表される繰り返し単位からなる樹脂などが挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、Qはハロゲン原子またはメチル基を示し、mは1〜4の整数を示す。)
これらの中でも特に、下記繰り返し単位からなる樹脂が好ましく用いられる。
【0020】
【化2】

【0021】
本発明で使用することができるPPSは、溶融粘度(温度310℃、剪断速度1200/sec)が好ましくは80〜1000Pa・sの範囲であり、より好ましくは100〜800Pa・sの範囲である。PPSの溶融粘度が低すぎると、シートまたはシームレスベルトに押出加工することが困難になり、PPSの溶融粘度が高すぎると、押出成形時にポリマー分子鎖に配向が生じ、得られるシートまたはシームレスベルトの縦方向と横方向の物性に差(異方性)が生じやすい。
【0022】
樹脂組成物に必須成分として用いられる導電性カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、オイルファーネスブラックなどがあるが、これらの中でもアセチレンの熱分解法により製造されたアセチレンブラックが好ましい。導電性カーボンブラックの使用に際しては単独で用いることができる他、二種以上混合して用いてもよい。
【0023】
導電性カーボンブラックの中には、水分を主成分とする揮発分を比較的多量に含有するものがある。揮発分を多量に含有すると加熱成形時の膨張が大きくなるので好ましくない。本発明で使用する導電性カーボンブラックは、導電性カーボンブラック中の揮発分が好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下であることが望ましい。
【0024】
また、本発明で用いる導電性カーボンブラックは、好ましくは80 ml/100g〜300ml/100gの範囲、より好ましくは100ml/100g〜200ml/100gの範囲のDBP(ジブチルフタレート)吸油量を有することが望ましい。導電性カーボンブラックのDBP吸油量が低すぎると、半導電性シートの導電性が不足する場合があり、逆に高すぎると、ポリフェニレンスルフィド樹脂への分散性が低下する場合があるので、上記範囲内とするのが好ましい。
【0025】
導電性カーボンブラック(以下、「CB」と略記する場合もある)は、顕微鏡で直接測定した一次粒子の粒径が好ましくは10〜300nmの範囲、より好ましくは15〜60nmの範囲にある粉末形態であることが望ましい。
【0026】
また、本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトを形成する樹脂組成物に必須成分として用いられる二硫化モリブデンは、好ましくは0.1μm〜3.0μmの範囲、より好ましくは0.1μm〜1.5μmの範囲、最も好ましくは0.45μmの平均粒径を有する粉末形態であることが望ましい。二硫化モリブデンを含有する樹脂組成物から形成されることによって、本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトは、押圧による変形状態がなだらかな凸状となり、表面平滑性が改善される。
【0027】
また、本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトを形成する樹脂組成物は、場合によっては改質剤を含み得る。改質剤としては、ポリオレフィンと、エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体を主鎖とするグラフトポリマーと、の混合物を好ましく用いることができる。
【0028】
改質剤を構成するポリオレフィンとしては、低密度ポリオレフィン(以下、LDPEという)、直鎖状低密度ポリオレフィン(以下、LLDPEという)、超低密度ポリオレフィン(以下、VLDPEという)、高密度ポリオレフィン(以下、HDPEという)、メタロセン触媒を用いて重合させたポリエチレン(以下、MTL-PEという)からなる群より選択される少なくとも1種のポリエチレン系樹脂が好ましく、中でもMTL-PEが好ましい。
【0029】
改質剤を構成するエポキシ基含有α−オレフィン系共重合体を主鎖とするグラフトポリマーとしては、α−オレフィンとグリシジル基含有不飽和単量体の共重合体とを少なくとも1種のエチレン系不飽和単量体をラジカル(共)重合性有機過酸化物をラジカル重合開始剤として高圧重合して得られるグラフト化前駆体を100℃〜300℃に加熱することにより得られたグラフトポリマーであることが好ましい。α−オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンを挙げることができるが、中でもエチレンが好ましい。グリシジル基含有不飽和単量体としては、例えばアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、マレイン酸モノグリシジルエステル、フマール酸モノグリシジルエステルなどのグリシジルエステル類、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類を挙げることができる。エチレン系不飽和単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレンなどのビニル芳香族単量体、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜7のアルキルエステルなどの(メタ)アクリル酸エステル単量体、α、β−不飽和酸のグリシジルエステル単量体、(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル単量体、酢酸ビニルなどのビニルエステル単量体などを挙げることができ、中でもα、β−不飽和酸のグリシジルエステル単量体、ビニル芳香族単量体および不飽和ニトリル単量体の何れか1種以上を主成分とするものが好ましい。
【0030】
上記樹脂組成物における各成分の配合割合は、樹脂組成物全体の質量を基準として77.0質量%以上92.0質量%以下のポリフェニレンスルフィド系樹脂、7.0質量%以上16.0質量%以下の導電性カーボンブラック、0.05質量%以上5.00質量%以下の二硫化モリブデン、および場合によっては1.0質量%以上10.0質量%以下の改質剤である。より好ましい配合割合は、77.0質量%以上87.0質量%以下のポリフェニレンスルフィド系樹脂、7.0質量%以上10.5質量%以下の導電性カーボンブラック、0.10質量%以上5.00質量%以下の二硫化モリブデン、および2.0質量%以上10.0質量%以下の改質剤である。特に好ましい配合割合は、77.0質量%以上86.0質量%以下のポリフェニレンスルフィド系樹脂、7.0質量%以上10.0質量%以下の導電性カーボンブラック、約1質量%の二硫化モリブデン、および6.0質量%以上10.0質量%以下の改質剤である。
【0031】
本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトを形成する樹脂組成物を構成する各成分を上記範囲内とすることにより、所望の耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性、耐オゾン性、機械的特性、易加工性、耐屈曲性、耐クリープ性などのPPSの優れた特性を損なうことなく、電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材として好ましい体積抵抗率を実現し、脆性などの機械的物性を改良し、表面平滑性を維持することができる。
【0032】
本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトを形成する樹脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、半導電性シートもしくはシームレスベルト用の樹脂組成物に通常用いられる他の樹脂や汎用の添加剤を添加することができる。他の樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、液晶ポリマーなどの他のスーパーエンプラ;高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、メタロセンポリエチレンなどのオレフィン樹脂などを挙げることができる。通常、他の樹脂の配合率は、樹脂組成物全体に対して20質量%未満、好ましくは10質量%未満、更に好ましくは6質量%未満である。また、汎用の添加剤としては、酸化防止剤、可塑剤、有機顔料、無機顔料、紫外線吸収剤、界面活性剤、無機酸、有機酸、pH調整剤、架橋剤、カップリング剤などを挙げることができる。
【0033】
本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトを形成する樹脂組成物は、特に制限はなく公知の方法および設備を用いて調製することができる。例えば、各成分原料をヘンシェルミキサー、タンブラーなどの混合機により予備混合し、単軸又は二軸の押出機を使用して混練して押出し、成形用ペレットとすることができる。あるいは、構成成分の一部を最初にマスターバッチとして調製し、残りの成分と混合する方法や、各成分の分散性を高めるために、使用する原料の一部を粉砕し平均粒径を揃えてから混合し溶融押出しを行なう方法を用いてもよい。
【0034】
次に、本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトについて説明する。
本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトは、上述の樹脂組成物から形成される。本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトは、上記樹脂組成物をプレス成形法、溶融押出し法、射出成形法などの各種成形法を用いて成形加工することにより製造することができるが、連続溶融押出し成形法が特に好ましい。シートの連続溶融押出し成形法としては、単軸または二軸スクリュー押出機とT型ダイとを用い、溶融状態の樹脂組成物をリップから直下に押出し、冷却ロール上にエアーナイフなどにより密着させつつ冷却固化する方法を好ましく採用することができる。シームレスベルトの連続溶融押出し成形法としては、単軸スクリュー押出機とスパイラル環状ダイス(環状ダイ)を用いて、環状ダイのリップから直下に溶融押出し、内部冷却マンドレル方式によって内径を制御しながら引き取る方法を好ましく採用することができる。
【0035】
いずれの場合にも、押出機内の樹脂組成物の温度(樹脂温度)は、好ましくは260℃〜370℃、より好ましくは270℃〜340℃、最も好ましくは280℃〜310℃の範囲内のダイ温度となるように制御することが望ましい。
【0036】
T型ダイ及び環状ダイのリップクリアランスは、好ましくは0.1mm〜1.0mm、より好ましくは0.2mm〜0.7mm、特に好ましくは0.3mm〜0.6mm、最も好ましくは0.4mm〜0.5mmの範囲内である。ダイリップからドローダウンした溶融状態の樹脂組成物を引き取ってシート状またはシームレスベルト状に成形するが、その際、引き取り速度を制御してシートまたはシームレスベルトの厚みを所望範囲に調整することができる。また、リップクリアランスを小さくすることにより、溶融状態のシートまたはシームレスベルトの変形が小さくなり、厚みムラと体積低効率のムラが少なく、機械的物性における異方性のない半導電性シートまたはシームレスベルトを得ることができる。リップクリアランスが小さすぎると樹脂組成物の押出量が減少したり、樹脂組成物の圧力が高くなりすぎたりすることがあるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0037】
溶融状態のシートまたはシームレスベルトを冷却する際に接触させる冷却ロール又は冷却マンドレルの温度は、好ましくは60℃〜160℃、より好ましくは70℃〜120℃、更に好ましくは80℃〜100℃の範囲内である。冷却温度が高すぎると樹脂組成物の結晶化が進み半導電性シートまたはシームレスベルトが脆くなり易い場合があり、一方、冷却温度が低すぎると冷却が不均一になり、良好な表面平滑性を有する半導電性シートまたはシームレスベルトを得ることが困難となる場合があるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0038】
本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートまたはシームレスベルトの平均厚みは、好ましくは20μm〜250μm、より好ましくは20μm〜150μm、更に好ましくは30μm〜110μm、最も好ましくは40μm〜80μmの範囲である。薄すぎるとシートまたはシームレスベルトの厚みを均一にするのが難しくなり、熱すぎると柔軟性が低下する場合があるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0039】
本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートまたはシームレスベルトが均一な電荷制御部材として機能するためには、シートまたはシームレスベルトの厚みのばらつきが小さいことが望ましい。具体的に本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートまたはシームレスベルトは、その厚みの最大値が最小値の好ましくは1.0〜1.3倍、更に好ましくは1.0〜1.2倍以内、最も好ましくは1.0〜1.1倍の範囲内である。
【0040】
本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートまたはシームレスベルトは、1×105Ωcm〜1×1013Ωcmの範囲の体積抵抗率を有することが好ましく、特に転写ベルトとして使用する場合には好適である。本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートまたはシームレスベルトは、より好ましくは1×107Ωcm〜1×1012Ωcmの範囲、更に好ましくは1×108Ωcm〜1×1011Ωcmの範囲の体積抵抗率を有することが望ましい。
【0041】
また、本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトには、本発明の目的を阻害しない範囲内で、通常用いられる他の添加剤を含有させることができる。他の添加剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、マイカ、フェライト、チタン酸カリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ニッケル、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス粉、石英粉末、金属粉、有機金属塩などの粒状又は粉末状フィラー;炭素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化珪素繊維、ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維などの繊維状フィラー;などが挙げられる。
【0042】
次に、本発明の電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材について説明する。
本発明の電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材は、上述の本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトから形成される帯電ロールもしくはベルト、現像ロール、転写ロールもしくはベルトなどの静電気を制御する部材である。これらをシートから形成する場合には、まず、加熱シーム、インパルスシーム、接着剤などの公知の手段を用いてシームベルトに形成する。シートを加熱シームする場合、加熱箇所(再溶融箇所)は1部分でもシート全体でもよい。このようにして形成されたシームベルトまたは本発明のシームレスベルトを2次加工により所望の電荷制御部材形態とすることができる。たとえばシームベルトまたはシームレスベルトを必要に応じて、裁断、研磨、コーティングなどの公知の2次加工により所望形態の電荷制御部材に加工することができる。特に、打ち抜き加工、スリットまたは裁断でブレード状(短冊)に加工して、ロールやベルトのクリーニングブレード、帯電ブレード、除電ブレードなどに用いることができる。
【0043】
本発明の電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材は、好ましくは1×105Ωcm以上1×1013Ωcm以下の範囲にある体積抵抗率を有する。より好ましくは1×107Ωcm〜1×1012Ωcmの範囲、更に好ましくは1×108Ωcm〜1×1011Ωcmの範囲の体積抵抗率を有することが望ましい。
【0044】
また、本発明の電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材は、使用後と使用前とのJIS-B0601で測定した表面平滑性Rzの差が0.7μm以下であり、好ましくは0.6μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下であり、最も好ましくは0.4μm以下である。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各実施例および比較例における物性の測定法は以下のとおりである。
[厚み測定]
厚みは、ダイヤルゲージ厚み計((株)小野測器製、商品名「DG−911」)で測定した。
[体積抵抗率]
体積抵抗率は、リング方プローブ(商品名:URSプローブ、三菱化学(株)製、内側の電極の外径5.9mm、外側の電極の内径11.0mm、外側電極の外径17.8mm)と測定ステージ(商品名:レジテーブルUFL、三菱化学(株)製)の導電面との間に測定試料を挟み、約3kg重の圧力で押さえつけながら、プローブの内側電極と測定ステージとの間に100Vの電圧を印加して、抵抗率測定装置(商品名:ハイレスタUP、三菱化学(株)製)により求めた。測定試料の表面積1m2あたり任意に選んだ20点の測定点について測定し、その平均値(算術平均)を求めた。
[折り曲げ試験]
JIS P-8115に準拠し、幅15mmの短冊形試験片を用い、MIT耐柔疲労試験機により屈曲角度135度〔左右〕、折り曲げ速度175CPS、荷重9.8Nの条件で測定した。測定個数N=5として算術平均を求めた。
[引張り破断伸び]
JIS K 7113に準拠し、幅10mmおよび長さ100mmの短冊形試験片を用い、引張り試験機(オートグラフAGS-J型、(株)島津製作所製)により引張り速度50mm/分及びチャック間距離50mmの条件で測定した。測定個数N=5として算術平均を求めた。
[表面粗さRz]
測定試料の表面粗さは、JIS B 0601に準拠し、表面粗さ形状測定機(サーフコム554A、(株)東京精密社製)を用いて測定し、10点平均粗さ(Rz)を求めた。
[表面観察]
使用前後を模した測定試料のプレス処理前後の断面をデジタルマイクロスコープ(VH8000)、高解像度ズームレンズVH-Z450((株)キーエンス社製)を用いて観察した。
〔実施例1〜13、比較例1〜5〕
PPS((株)クレハ製、PPS-W312(180Pa・S))、二硫化モリブデン((株)ダイゾー製、M-5パウダー:平均粒径0.45μm、Cパウダー:平均粒径1.2μm、Tパウダー:平均粒径4μm)、導電性カーボンブラック(電気化学工業(株)製アセチレンブラック:平均粒径42nm、DBP吸油量190ml/100g)、改質剤(LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン):ダウケミカル製アフィニティーPF1140、EGMA-g-AS(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−グラフト−アクリロニトリル−スチレン共重合体):日本油脂(株)製モディパーA4400)を表1に示す配合割合で配合した樹脂組成物を混合機((株)カワタ製、商品名:スーパーフローターSFC-50)に投入して、回転数60rpm、ボトムアジテータ40Hzで約7分間充分に撹拌混合した。
【0046】
得られた混合物(樹脂組成物)を二軸スクリュー押出機(池貝鉄鋼(株)製、型式:PCM45)で直径約3mm程度にペレット化した。このペレットを単軸スクリュー押出機((株)プラ技研製、型式:PEX40)に投入して、290℃に制御したT型ダイのリップから溶融状態の樹脂組成物を直下に押出し、100℃の冷却ロールに密着させながら冷却固化して、厚さ0.05mmのシートを得た。得られたシートの物性を測定した。
【0047】
得られたシート(140mm×140mm)の全面に研磨紙(#240、三共理化学(株)製)を重ね合わせて、プレス成型機(AF-50、(株)神藤金属工業所製)を用いて、圧力50MPa、室温23℃で2分間加圧し、使用後のシート状態を模した。模擬使用後シートについて、表面粗さを測定した。
【0048】
測定結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から、樹脂組成物全体の質量を基準として77.0質量%以上92.0質量%以下のポリフェニレンスルフィド系樹脂、7.0質量%以上16.0質量%以下の導電性カーボンブラック、0.05質量%以上5.00質量%以下の二硫化モリブデン、および場合によっては1.0質量%以上10.0質量%以下の改質剤を含む樹脂組成物から形成した本発明のポリフェニレンスルフィド系半導電性シートは、電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材として好適な体積抵抗率(1.0×107Ωcm〜4.4×1012Ωcm)、優れた耐屈曲性(3550回〜184200回折り曲げ可能)、優れた引張り破断伸び(3〜230%)を呈すると同時に、使用前後での表面粗さの差が0.7μm以下と表面平滑性を維持することができることがわかる。
【0051】
一方、二硫化モリブデンを含まない比較例1および2では使用前後の表面粗さの差が1.9(2.0-0.1)および1.4(1.5-0.1)と非常に大きく表面平滑性の維持が困難である、すなわちキャリアなどによる押圧力により表面が変形しやすく、電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材として適さないことがわかる。
【0052】
また、粒径0.45μmの二硫化モリブデンを樹脂組成物全体の質量を基準として6.0質量%含む比較例3では、粒径0.45μmの二硫化モリブデンを5.0質量%含む実施例5と対比して表面平滑性の維持は同等であるものの耐屈曲性が非常に劣り、電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材として適さないことがわかる。
【0053】
さらに、二硫化モリブデンの平均粒径を4μmとした比較例5では、二硫化モリブデンの平均粒径を0.45μmとした実施例4と対比して使用前にすでに表面粗さが0.9μmと大きく且つ耐屈曲性が非常に劣り、電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材として適さないことがわかる。
【0054】
以上のことから、本発明の所定配合割合の樹脂組成物から形成されるポリフェニレンスルフィド系半導電性シートもしくはシームレスベルトは、非常に優れた電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材として利用し得るといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物全体の質量を基準として77.0質量%以上92.0質量%以下のポリフェニレンスルフィド系樹脂と、7.0質量%以上16.0質量%以下の導電性カーボンブラックと、0.05質量%以上5.00質量%以下の二硫化モリブデンと、を含む樹脂組成物により形成されたポリフェニレンスルフィド系半導電性シート。
【請求項2】
前記二硫化モリブデンは、平均粒径0.10μm以上3.00μm以下の粉末である、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド系半導電性シート。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、樹脂組成物全体の質量を基準として1.0質量%以上10.0質量%以下の改質剤をさらに含む、請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド系半導電性シート。
【請求項4】
前記改質剤は、ポリオレフィンと、エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体を主鎖とするグラフトポリマーと、の混合物である、請求項3に記載のポリフェニレンスルフィド系半導電性シート。
【請求項5】
前記導電性カーボンブラックは、DBP(ジブチルフタレート)吸油量が80ml/100g以上300ml/100gの範囲にある導電性カーボンブラックである、請求項1〜4の何れか1項に記載のポリフェニレンスルフィド系半導電性シート。
【請求項6】
1×105Ωcm以上1×1013Ωcm以下の範囲にある体積抵抗率を有する、請求項1〜5の何れか1項に記載のポリフェニレンスルフィド系半導電性シート。
【請求項7】
樹脂組成物全体の質量を基準として77.0質量%以上92.0質量%未満のポリフェニレンスルフィド系樹脂と、7.0質量%以上16.0質量%以下の導電性カーボンブラックと、0.05質量%以上5.00質量%以下の二硫化モリブデンと、を含む樹脂組成物により形成されたポリフェニレンスルフィド系半導電性シームレスベルト。
【請求項8】
前記二硫化モリブデンは、平均粒径0.10μm以上3.00μm以下の粉末である、請求項7に記載のポリフェニレンスルフィド系半導電性シームレスベルト。
【請求項9】
前記樹脂組成物は、樹脂組成物全体の質量を基準として1.0質量%以上10.0質量%以下の改質剤をさらに含むた、請求項7または8に記載のポリフェニレンスルフィド系半導電性シームレスベルト。
【請求項10】
前記改質剤は、ポリオレフィンと、エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体を主鎖とするグラフトポリマーと、の混合物である、請求項9に記載のポリフェニレンスルフィド系半導電性シームレスベルト。
【請求項11】
前記導電性カーボンブラックは、DBP(ジブチルフタレート)吸油量が80ml/100g以上300ml/100gの範囲にある導電性カーボンブラックである、請求項7〜10の何れか1項に記載のポリフェニレンスルフィド系半導電性シームレスベルト。
【請求項12】
1×105Ωcm以上1×1013Ωcm以下の範囲にある体積抵抗率を有する、請求項7〜11の何れか1項に記載のポリフェニレンスルフィド系半導電性シームレスベルト。
【請求項13】
請求項1〜6の何れか1項に記載のポリフェニレンスルフィド系シートもしくは請求項7〜12の何れか1項に記載のポリフェニレン系シームレスベルトから形成される、電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材。
【請求項14】
1×105Ωcm以上1×1013Ωcm以下の範囲にある体積抵抗率を有する、請求項13に記載の電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材。
【請求項15】
使用後と使用前とのJIS-B0601で測定した表面平滑性Rzの差が0.7μm以下である、請求項13または14に記載の電子写真方式画像形成装置用電荷制御部材。

【公開番号】特開2007−176986(P2007−176986A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374181(P2005−374181)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】