説明

ポリマーナノコンポジット樹脂組成物

【課題】 耐熱性の高さの指標であるガラス転移温度が高く、且つ低吸湿性を実現するポリマーナノコンポジット樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 熱硬化性樹脂2と、硬化剤3と、無機ナノフィラー3と、平均粒径が1μm未満のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノフィラー5とを含んでなるポリマーナノコンポジット樹脂組成物、かかる組成物を硬化してなるポリマーナノコンポジット樹脂硬化物、かかる組成物の製造方法、かかる組成物により封止してなる半導体モジュール、ならびに半導体モジュールの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュールの封止に適用される絶縁性、高耐熱性、低吸湿性、高機械特性などの物性を有するポリマーナノコンポジット樹脂組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量、高電圧環境下でも動作可能なIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などのパワーモジュールが、民生用機器や産業用機器に広範に使用されている。これらの半導体素子を用いる各種のモジュール(以下、「半導体モジュール」という)の中には、搭載している半導体素子によって生成される熱が高温に達するものがある。その理由としては、半導体素子が扱う電力が大きい場合、半導体素子における回路の集積度が高い場合、あるいは回路の動作周波数が高い場合などが挙げられる。この場合、半導体モジュールを構成している絶縁封止樹脂には、発熱温度以上のガラス転移温度(Tg)が必要となる。
【0003】
Tgを向上させるためには樹脂の分子運動を抑制するために、無機フィラーをナノメートルサイズにしたナノフィラーを樹脂に混合させる方法が用いられている。樹脂としてはエポキシ系樹脂が用いられている(特許文献1を参照)。
【0004】
また、無機フィラーと樹脂の結合を強くするために、フィラーに表面改質処理を行うことが知られており、表面改質処理剤として、シランカップリング剤が一般的に用いられている。
【0005】
一方、半導体モジュールの絶縁封止樹脂は、高耐熱性だけでなく、さまざまな特性を同時に有することが求められる。この特性としては、低吸湿性(低含水化)、低熱膨張、密着性、機械的強度などが挙げられる。この中で、特に低吸湿性に関連し、半導体封止材に一般的に用いられるエポキシ樹脂において、低吸湿性を実現するいくつかの技術が知られている(非特許文献1を参照)。
【0006】
非特許文献1には、高Tg化を実現するには、エポキシ樹脂の剛直な骨格や三次元架橋を形成するための官能基数の増加、硬化剤との反応が重要となるが、一方、これらのファクターが吸湿性を下げる要因となることが述べられている。つまり、剛直な骨格や三次元架橋の増加は、分子運動性を拘束し、バルキーな構造となり、Tgを上げることができる。いっぽう、分子間の空隙を多くし、そこに水分が浸入しやすくなるという問題がある。また、反応硬化後のエポキシ樹脂中の水酸基や硬化剤に含まれる水酸基の影響で、吸湿性が高くなる傾向がある。
【0007】
エポキシ当量(エポキシ基に対するエポキシ樹脂の分子量)の少ないエポキシ樹脂を用いて水酸基を少なくすることや、疎水性基を導入することで吸湿性を低く抑えることができる。しかし、Tgとのバランスを取るためにはエポキシ樹脂の種類が限られるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−292866号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】エポキシ樹脂の化学構造と特性の関係(DIC Technical Review No.7 / 2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、耐熱性の高さの指標であるガラス転移温度が高く、且つ低吸湿性を実現するポリマーナノコンポジット樹脂、樹脂硬化物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
半導体モジュールの絶縁性封止樹脂は、高耐熱性を要求されると同時に、低吸湿性(低含水化)、低熱膨張性、密着性、機械的強度など多くの特性が必要とされる。本発明者らは、特に、高Tgと吸湿性の低減に着目した。高Tg、すなわち耐熱性は、高温に繰り返しさらされる絶縁性封止樹脂の、熱疲労による信頼性に影響することが考えられる。また、吸湿性の高い樹脂を用いると、高温動作時に水分が放出される際、基板やチップ、配線(Cu)などとの密着性に影響し、またクラックの原因にもなるおそれがある。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、樹脂成分に対し、表面改質処理された無機ナノフィラーに加えて、ポリテトラフルオロエチレンナノフィラー(以下、PTFEナノフィラーともいう)を添加することを考え、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、一実施形態によれば、ポリマーナノコンポジット樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、無機ナノフィラーと、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノフィラーとを含んでなる。
【0014】
前記PTFEナノフィラーが、表面改質処理されたPTFEナノフィラーを含むことが好ましい。また、表面改質処理されたPTFEナノフィラーが、PTFEナノフィラー表面にコロナ放電処理を施すことにより表面改質処理されたものを含むことが好ましい。
【0015】
また、前記無機ナノフィラーが、結晶シリカ、溶融シリカ、アルミナ、チタニア、窒化アルミ、窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。また、前記無機ナノフィラーが、水酸基、カルボキシル基、アミノ基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基が表面に形成されたものを含むことが好ましい。
【0016】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0017】
本実施形態によるポリマーナノコンポジット樹脂組成物は、半導体封止材として用いることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明は別の実施形態によれば、上記ポリマーナノコンポジット樹脂組成物を硬化させてなる、ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物である。
【0019】
本発明はまた、別の局面によれば、ポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法であって、熱硬化性樹脂と、無機ナノフィラーと、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノフィラーとを、所定の配合割合で混合する混合ステップと、前記無機ナノフィラーと前記PTFEナノフィラーとを分散させる分散ステップと、前記無機ナノフィラーと前記PTFEナノフィラーとを分散させた混合物に、硬化剤を所定の配合割合で添加して、混練する混練ステップとを含む。
【0020】
前記混合ステップに先立って、前記無機ナノフィラーに表面改質処理を行う無機ナノフィラー改質処理ステップ、または前記PTFEナノフィラーに表面改質処理を行うPTFEナノフィラー改質処理ステップ、あるいは前記無機ナノフィラー改質処理ステップおよび前記PTFEナノフィラー改質処理ステップの両方を含むことが好ましい。
【0021】
前記無機ナノフィラー改質処理ステップが、前記無機ナノフィラーと表面改質処理剤とを水中で分散させ、反応させる反応ステップと、反応後の無機ナノフィラーを乾燥させる乾燥ステップとを含むことが好ましい。また、前記表面改質処理剤が、シランカップリング剤であることが好ましい。
【0022】
前記PTFEナノフィラー改質処理ステップが、PTFEナノフィラー表面にコロナ放電処理を施すことにより行われることが好ましい。また、前記コロナ放電処理が、回転式のドラム中でPTFEナノフィラーを動かしながら、コロナ放電を行う処理であることが好ましい。
【0023】
本発明は、さらにまた別の実施形態によれば、半導体モジュールであって、金属ブロックと、前記金属ブロックの一方面に形成された絶縁層と、前記金属ブロックの他方面に実装された回路素子とを含んでなる半導体素子組立体を、前述のポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止してなる。かかる半導体モジュールの製造方法は、金属ブロックの一方面に絶縁層を形成する絶縁層形成ステップと、前記金属ブロックの他方面に回路素子を実装する素子実装ステップと、前記回路素子を実装してなる半導体素子組立体を、前述のポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止する樹脂封止ステップとを含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、半導体モジュールの封止に用いることができる、高いガラス転移温度を保ち、且つ低吸湿性を実現するポリマーナノコンポジット樹脂組成物を得ることができる。これにより、半導体モジュールの基板と封止樹脂との密着性が安定し、長期信頼性に繋がった。特には、コロナ放電処理をしたPTFEナノフィラーを用いた場合、コロナ放電処理によりPTFEナノフィラー表面に極性基を設けることで、ナノフィラーとポリマーとのなじみを良くし、ポリマー内の分散性を向上させることができる。また、硬化反応による熱でPTFEナノフィラーの疎水性を発現させ、使用時の水分の浸入をフッ素成分の役割により抑制させることができる。その結果として、半導体封止材として用いたとき、高温時の水の放出を抑えてクラックや密着性の低下を防ぐ効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。もっとも、本発明は、以下に説明する実施の形態によって、限定されるものではない。
【0027】
本発明は、第一実施の形態によれば、ポリマーナノコンポジット樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、無機ナノフィラーと、PTFEナノフィラーとを含んでなる。
【0028】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂を単独で又は複数組み合わせて使用することができる。特に好ましくは、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂を用いることができる。
【0029】
エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂としては、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、メラミン樹脂などを用いることができる。
【0030】
硬化剤としては、特に限定されないが、アミン硬化剤、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、酸無水物系、フェノールノボラック型、フェノールアラルキル、トリフェノールメタン型フェノール樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂の種類によって、組み合せて用いる硬化剤の種類が異なり、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂にアミン硬化剤、といった好適な組み合わせを挙げることができるが、これらには限定されない。
【0031】
硬化剤の配合割合は、エポキシ樹脂のエポキシ当量及び硬化剤のアミン当量もしくは酸無水物当量から決定することができる。エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を用いる場合にも、同様に、各樹脂の反応当量、硬化剤の反応当量に基づき、配合割合を決定することができる。
【0032】
無機ナノフィラーとしては、溶融シリカ(SiO)、結晶シリカ、アルミナ、チタニア、窒化アルミ、窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも1つであってよいが、これらには限定されない。これらのうち1種、あるいは2種以上を組み合せて用いることができる。無機ナノフィラーは、特に好ましくは、溶融シリカである。
【0033】
本実施形態に係る無機ナノフィラーは、1〜100nmの平均粒径を有することが好ましく、3〜50nmの平均粒径を有することがより好ましく、5〜30nmの平均粒径を有することがさらに好ましい。十分なTg向上効果が得られるためである。本明細書において、無機ナノフィラーの平均粒径とは、レーザー回折散乱法で測定した値をいうものとする。
【0034】
本実施形態において、無機ナノフィラーは、好ましくは表面改質処理がなされたものである。無機ナノフィラーの表面改質処理は、表面改質処理剤、好ましくはシランカップリング剤を用いて行うことができる。シランカップリング剤としては、ポリマーなど有機物と結合する反応性官能基部にはアミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、メルカプト基などを用いることができ、フィラーなど無機物と結合する加水分解性基にはメトキシ基(OCH)のほか、エトキシ基(OC)、などのアルコキシシラン化合物を用いることができるが、これらには限定されない。これらの反応性官能基部と、加水分解性基とで、さまざまな組み合わせが作られる。
【0035】
表面改質処理された無機ナノフィラーの調製は、スラリー法と呼ばれる湿式法で行うことができる。具体的には、水に分散した無機ナノフィラーに、シランカップリング剤を加え、約30分攪拌する。シランカップリング剤の添加量は、無機ナノフィラーの重量を100%として、0.5〜5重量%とすることが好ましい。次いで、濾過を行って余分な溶液を取り除き、例えば、トレー等に広げて、100〜200℃にて約90分乾燥させる。その後、ナノフィラーを粉砕する。粉砕には、例えばボールミルや、円筒状容器内でブレードが高速回転するヘンシェルミキサーを用い、一次粒子径になるまで粉砕することが好ましい。表面改質処理された無機ナノフィラーは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、もしくはこれらの組み合わせを表面に有するものとなっている。
【0036】
表面改質処理された無機ナノフィラーの添加量は、熱硬化性樹脂の重量を100%として、0.1〜10重量%とすることが好ましく、0.5〜5重量%とすることがさらに好ましい。
【0037】
PTFEナノフィラーは、ナノサイズ、すなわち1μm未満の平均粒径を有するものを用いることができる。なお、ここでいう平均粒径とは、動的光散乱式粒子径分布測定法により測定して得られる平均粒径をいう。PTFEナノフィラーの平均粒径は、好ましくは、500nm以下であり、さらに好ましくは100〜300nmである。PTFEナノフィラーの粒径が1μm以上では無機ナノフィラーの粒径に比べて大きく、ポリマーと無機ナノフィラーとが分散している箇所へ接近できない場合があり、吸湿性を防ぐには問題がある。逆に粒径が100nmより小さいPTFEナノフィラーは汎用的なものがなく、またポリマー中で機械的に均一分散させるのが困難となる場合がある。
【0038】
PTFEナノフィラーは好ましくは、表面改質処理がなされたものを含む。表面改質処理としては、コロナ放電処理、サンドブラストによる表面凹凸化等が挙げられるが、これらには限定されない。表面改質処理としては、PTFEナノフィラー表面の濡れ性を向上させる、任意の物理的あるいは化学的処理を行ったものを含むことができる。
【0039】
PTFEナノフィラーは、特に好ましくは、コロナ放電処理により表面改質処理がなされたものを含む。コロナ放電処理を行ったPTFEナノフィラーにおいては、ナノフィラー表面に極性基、例えば、水酸基やカルボニル基等が生成しており、これらの極性基が親水性であるため、PTFEナノフィラーの濡れ特性を向上させることができる。
【0040】
コロナ放電処理により表面改質処理されたPTFEナノフィラーの調製は、回転式のドラムにPTFEナノフィラーを入れ、ナノフィラーを動かしながら、窒素雰囲気下にてコロナ放電処理を行うことにより実施することができる。PTFEナノフィラーに、万遍なく放電処理を行うためである。このとき、ドライタイプの粉末状PTFEナノフィラーを用いることが好ましい。
【0041】
PTFEナノフィラーの配合量は、熱硬化性樹脂の重量を100%として、1.0〜10.0重量%とすることが好ましい。PTFEナノフィラーの配合量が1.0重量%より少ないと十分な効果が発揮できない場合があり、10.0重量%を超えると多すぎてポリマーの偏りが生じ、クラックの原因となる場合がある。
【0042】
次に、本実施形態に係るポリマーナノコンポジット樹脂組成物を製造方法の観点から説明する。ポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法は、熱硬化性樹脂と、無機ナノフィラー及びPTFEナノフィラーとを所定の配合割合で混合するステップと、無機ナノフィラー及びPTFEナノフィラーを分散させるステップと、無機ナノフィラー及びPTFEナノフィラーを分散させた混合物に、硬化剤を所定の配合割合で添加するステップと、さらに混練するステップとを含む。分散させるステップでは、例えば、オリフィス加圧通過型分散機を用いて実施することができる。
【0043】
また、無機ナノフィラー及びPTFEナノフィラーとを所定の配合割合で混合するステップに先立って、無機ナノフィラーに改質処理を行うステップ、またはPTFEナノフィラーに改質処理を行うステップ、あるいはそれらの両方を含んでもよい。無機ナノフィラーに改質処理を行うステップは、無機ナノフィラーと表面改質処理剤とを水中で分散させ、反応させるステップと、表面改質処理剤と反応した無機ナノフィラーを乾燥させるステップとによることができる。好ましく用いられる表面改質処理剤はシランカップリング剤である。いっぽう、PTFEナノフィラーに改質処理を行うステップは、PTFEナノフィラーにコロナ放電を行うステップによることができる。好ましくは、回転式のドラム中で、ナノフィラーを動かしながら、コロナ放電を行うステップを実施する。
【0044】
本実施形態によるポリマーナノコンポジット樹脂組成物及びその製造方法によれば、半導体封止材として好適に用いることができる、組成物およびその製造方法を提供することができる。かかるポリマーナノコンポジット樹脂組成物を、加熱硬化させると、ガラス転移温度が従来よりも向上し、かつ低吸湿性を備えたポリマーナノコンポジット樹脂硬化物が得られる。以下、ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物について説明する。
【0045】
ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物の製造方法は、上記組成物の製造方法に、さらに組成物を加熱硬化するステップを含む。加熱硬化は、一段階で行うこともできるし、二段階に分けて行うこともできる。また、硬化温度及び時間は、熱硬化性樹脂の種類により、当業者が適宜、決定することができるが、例えば、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を使用する場合には、2段階硬化では、50〜100℃で1〜3時間程度、さらに100〜150℃で1〜3時間程度、硬化することができる。
【0046】
硬化して得られたポリマーナノコンポジット樹脂硬化物の一例の模式図を示す。図1を参照すると、一例として示す硬化物は、エポキシ樹脂1と、硬化剤2と、表面改質処理剤4で表面改質処理された無機ナノフィラー3と、PTFEナノフィラー5とで構成された組成物を硬化したものである。
【0047】
硬化物において、エポキシ樹脂1と、フェノール系樹脂硬化剤2とは互いに結合して網目構造の三次元ポリマーを構成している。無機ナノフィラー3は表面に表面改質処理剤4で形成された層を備える。表面改質処理剤4、特にはシランカップリング剤を構成する官能基は、エポキシ樹脂1あるいは硬化剤2の末端官能基と、化学結合6を形成している。いっぽう、PTFEナノフィラー5は、ほかの構成成分とのあいだに化学結合を介することなく配置されている。このようなPTFEナノフィラー5の配置により、網目構造の三次元ポリマーへの水分の浸入を防止し、かつ、高いTgを保持することができると考えられる。
【0048】
半導体素子の封止材として用いられる際、ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物は、半導体モジュールと一体になって製造される。そのような半導体モジュールは、金属ブロックと、前記金属ブロックの一方面に形成された絶縁層と、前記金属ブロックの他方面に実装された回路素子とを含んでなる半導体素子組立体を、前述の実施形態によるポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止してなる。そして、かかる半導体モジュールの製造方法は、金属ブロックの一方面に絶縁層を形成する絶縁層形成ステップと、前記金属ブロックの他方面に回路素子を実装する素子実装ステップと、前記回路素子を実装してなる半導体素子組立体を、前述の実施形態によるポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止する樹脂封止ステップとを含む。本発明に係るポリマーナノコンポジット樹脂組成物を用いて半導体素子を封止することにより、生成される熱が高温に達する半導体素子であっても有効に封止することができ、低吸湿性を達成することができる。
【実施例】
【0049】
作製手順を以下に述べる。なお、本実施例のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物は半導体モジュールの金型への成形ではなく、試験片として作製した。
【0050】
[実施例1]
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を、硬化剤としては、アミン硬化剤を、エポキシ当量と活性水素当量比の配合重量となるよう準備した。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂100%に対し、アミン硬化剤を、60重量%とした。
【0051】
無機ナノフィラーとして溶融シリカ(SiO)の粒子径12nmのものを準備した(日本アエロジル社製 AEROSIL200)。これにシランカップリング剤にて表面改質処理を行った。シランカップリング剤には一般的な反応性官能基部にアミン、加水分解性基にメトキシ基をもつシラン化合物を用いた(東レ・ダウコーニング社製 Z−6011)。シランカップリング剤は無機ナノフィラーの1重量%とした。シランカップリング剤による処理は、スラリー法で実施した。水に分散した無機ナノフィラーにシランカップリング剤溶液を加え、約30分攪拌し、濾過を行い、余分な溶液を取り除いたのち、トレーに広げて、150℃にて約90分乾燥させた。その後、ボールミルを用いて、無機ナノフィラーを平均粒径として12nmにまで粉砕した。
【0052】
シランカップリング剤により表面改質処理した無機ナノフィラーの添加量は、エポキシ樹脂の重量を100%として、5重量%とした。
【0053】
次に、PTFEナノフィラー(平均粒子径200nm:テクノケミカル(株)マイクロディスパース)を準備した。PTFEナノフィラーを回転式のドラムに入れて、フィラーを動かしながら窒素雰囲気下にて、120分にわたって、コロナ放電処理を行った。この表面改質処理により、PTFEナノフィラー表面は、ぬれ張力試験用混合液(和光純薬)における評価において、ぬれ張力が、30mN/mから56mN/mに上昇し、濡れ性の向上が確認された。PTFEナノフィラーの添加量は、上記エポキシ樹脂の重量100%に対し、1重量%とした。
【0054】
エポキシ樹脂に、上記配合量に従って、無機ナノフィラーおよびPTFEナノフィラーを混合し、オリフィス加圧通過型分散機にて混合した。この混合物に上記配合量に従って硬化剤を加え、ポリマーナノコンポジット樹脂組成物を得た。次に、吸湿性試験の試験片金型(縦1×横5×高さ0.2cm)に流し込み、80℃×2時間、後硬化にて150℃×4時間の硬化を行い、実施例1のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物を得た。
【0055】
[実施例2]
上記実施例1におけるPTFEナノフィラーにコロナ放電処理を加えなかったこと以外は上記実施例1と同様にして、実施例2のナノコンポジット硬化物を得た。
【0056】
[比較例]
PTFEナノフィラーを入れなかったこと以外は上記実施例1と同様にして、比較例のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物を得た。
【0057】
[実験例]
実施例1、2と比較例のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物について、吸湿性試験、およびガラス転移温度の測定を行った。吸湿性試験は、半導体における高温高湿試験として一般的なプレッシャークッカーテスト(PCT)を行った。試験は、プレッシャークッカー槽(TPC−412M、ESPEC(株)製)を用い、温度130℃、湿度85%RH、さらし時間100Hr、中間取出し時間25Hr/50Hrの条件で行った。ガラス転移温度の測定は、示差走査熱量計(DSC6200 SII製)を用い、25〜270℃の範囲で10℃/minの昇温速度、Nガス 35ml/min下で測定を行った。表1に結果を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1、2では、高いTgを保持ながら低い吸湿性を実現することができた。実施例2も、十分な低吸湿性を実現することができたが、PTFEナノフィラーのポリマーとのなじみが良くなく、フィラーが滑り凝集する傾向があったことにより、実施例1と比較すると、フッ素配合の効果が十分ではでなかった。比較例はPTFEナノフィラーが入っていないため、吸湿性が明らかに劣る結果となった。
またPTFEナノフィラーを入れたことによるガラス転移温度の低下はなかった。これはPTFEの耐熱性が200℃以上と高いことによると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係るポリマーナノコンポジット樹脂組成物及び硬化物によれば、生成される熱が高温に達する半導体素子であっても有効に封止することができ、また、吸湿性も低く、半導体モジュールの製造に極めて有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 エポキシ樹脂
2 硬化剤
3 無機ナノフィラー
4 表面改質処理剤
5 PTFEナノフィラー
6 化学結合

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機ナノフィラーと、
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノフィラーと
を含んでなるポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項2】
前記PTFEナノフィラーが、表面改質処理されたPTFEナノフィラーを含む、請求項1に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項3】
前記表面改質処理されたPTFEナノフィラーが、PTFEナノフィラー表面にコロナ放電処理を施すことにより表面改質処理されたものを含む、請求項1に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機ナノフィラーが、結晶シリカ、溶融シリカ、アルミナ、チタニア、窒化アルミ、窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機ナノフィラーが、水酸基、カルボキシル基、アミノ基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基が表面に形成されたものを含む、請求項1〜4のいずれかに記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含む、請求項1〜5のいずれかに記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項7】
半導体封止材として用いられる、請求項1〜6のいずれかに記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の組成物を硬化させてなる、ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物。
【請求項9】
熱硬化性樹脂と、無機ナノフィラーと、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ナノフィラーとを、所定の配合割合で混合する混合ステップと、
前記無機ナノフィラーと前記PTFEナノフィラーとを分散させる分散ステップと、
前記無機ナノフィラーと前記PTFEナノフィラーとを分散させた混合物に、硬化剤を所定の配合割合で添加して、混練する混練ステップと
を含むポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記混合ステップに先立って、前記無機ナノフィラーに表面改質処理を行う無機ナノフィラー改質処理ステップ、または前記PTFEナノフィラーに表面改質処理を行うPTFEナノフィラー改質処理ステップ、あるいは前記無機ナノフィラー改質処理ステップおよび前記PTFEナノフィラー改質処理ステップの両方を含む、請求項9に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記無機ナノフィラー改質処理ステップが、
前記無機ナノフィラーと表面改質処理剤とを水中で分散させ、反応させる反応ステップと、
反応後の無機ナノフィラーを乾燥させる乾燥ステップとを含む、請求項10に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記表面改質処理剤が、シランカップリング剤である、請求項11に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記PTFEナノフィラー改質処理ステップが、PTFEナノフィラー表面にコロナ放電処理を施すことにより行われる、請求項10に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記コロナ放電処理が、回転式のドラム中でPTFEナノフィラーを動かしながら、コロナ放電を行う処理である、請求項13に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
金属ブロックと、前記金属ブロックの一方面に形成された絶縁層と、前記金属ブロックの他方面に実装された回路素子とを含んでなる半導体素子組立体を、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止してなる半導体モジュール。
【請求項16】
金属ブロックの一方面に絶縁層を形成する絶縁層形成ステップと、
前記金属ブロックの他方面に回路素子を実装する素子実装ステップと、
前記回路素子を実装してなる半導体素子組立体を、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止する樹脂封止ステップと
を含む半導体モジュールの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−14663(P2013−14663A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147420(P2011−147420)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】