説明

ポリマーフィルム、その製造方法、それを用いた偏光板並びに液晶表示装置

【課題】液晶表示装置に組み込んだ際の表示ムラがおきにくく、偏光板加工適性に優れた偏光板保護フィルム用ポリマーフィルムおよびその製造方法、およびこのフィルムを用いた、ムラが発生しにくく、表示品位の高い液晶表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】下記式(1)で表されるフィルムの厚み方向におけるポリマー分子鎖の面外配向度変動率が15%以上80%以下であり、式(2)で表される波長590nmにおける面内レターデーションReの変動率が20%以下であるポリマーフィルムを使用する。
式(1):面外配向度変動率=100×(面外配向度最大値−面外配向度最小値)/面外配向度の厚み方向平均値
式(2):Re変動率=(Re最大値−Re最小値)/Re平均値×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマーフィルム、その製造方法、それを用いた偏光板並びに液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大サイズを中心に液晶テレビ市場が急速に拡大している。これに伴い、液晶表示装置の画質向上に対する要求が一段と高まっている。特に、大サイズ化にともない表示ムラが視認されやすくなるため、温湿度変化にともなうムラ発生については特に改良要求が強い。
【0003】
温湿度変化に伴うムラ発生は、偏光子に用いられる延伸ポリビニルアルコールフィルムと偏光板保護フィルムおよび/あるいは粘着剤の寸度変化が異なるため、応力複屈折により光漏れが生じることが原因と考えられていた。
これに対して、特許文献1には偏光板保護フィルムの弾性率を大きくする方法、特許文献2には偏光板保護フィルムの厚みを大きくする方法が開示されている。しかし、これらの方法では、偏光板カール制御やロール形態での偏光板取り扱い性が難しくなる等の弊害があり、改良が求められていた。
【特許文献1】特開2003−279743号公報
【特許文献2】特開2004−163606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、液晶表示装置に組み込んだ際の表示ムラがおきにくく、偏光板加工適性に優れた偏光板保護フィルム用ポリマーフィルムおよびその製造方法を提供することである。
また本発明の別の目的は、該ポリマーフィルムを用いた、ムラが発生しにくく、表示品位の高い液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリマーフィルム、具体的にはセルロースアシレートフィルム内のセルロースアシレート分子鎖の面外配向を制御することにより、温湿度変化によるムラ発生を低減できることを見出し、本発明を完結するに至った。
すなわち、本発明の上記目的は下記の構成〔1〕〜〔14〕により達成された。
【0006】
〔1〕
下記数式(1)で表されるフィルムの厚み方向におけるポリマー分子鎖の面外配向度変動率が15%以上80%以下であることを特徴とするポリマーフィルム。
数式(1):面外配向度変動率=100×(面外配向度最大値−面外配向度最小値)/面外配向度の厚み方向平均値
〔2〕
下記数式(2)で表される波長590nmにおける面内レターデーションReの変動率が20%以下であることを特徴とする〔1〕に記載のポリマーフィルム。
数式(2):Re変動率=100×(Re最大値−Re最小値)/Re平均値
〔3〕
フィルム表面から深さ10μmまでの領域のポリマー分子鎖の面外配向度のうち、大きい方の値をPs、フィルムの厚み方向中央部のポリマー分子鎖の面外配向度をPcとして、PsとPcが下記数式(3)の関係を満たすことを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載のポリマーフィルム。
数式(3):1.15≦Ps/Pc≦2.00
〔4〕
前記PsとPcが下記数式(4)の関係を満たすことを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載のポリマーフィルム。
数式(4):0.50≦Ps/Pc≦0.95
〔5〕
波長590nmの光における面内レターデーションRe、及び厚み方向のレターデーションRthが、下記数式(5)〜(7)の関係を満たすことを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のポリマーフィルム。
数式(5):20≦Re≦200
数式(6):70≦Rth≦400
数式(7):1≦Rth/Re≦10
〔6〕
フィルムの厚みが20μm以上100μm以下であることを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のポリマーフィルム。
〔7〕
ポリマーと溶剤を含み、ゲル化点が−15℃以下であるドープを支持体上に流延し、乾燥後支持体より剥ぎ取り、剥ぎ取ったフィルムを延伸することを含むポリマーフィルムの製造方法において、延伸開始時の下記数式(8)で表される残留溶剤含量が20%以上140%以下であり、延伸速度が5%/min以上100%/min以下であることを特徴とするポリマーフィルムの製造方法。
数式(8):(残留溶剤含量(質量%))=100×{(フィルム質量(g))−(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))}/(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))
〔8〕
ポリマーと該ポリマーの貧溶剤および良溶剤とを含み、ゲル化点が−15℃以下であるドープを支持体上に流延し、乾燥後支持体より剥ぎ取り、剥ぎ取ったフィルムを延伸することを含むポリマーフィルムの製造方法において、前記数式(8)で表される残留溶剤含量が160%となる時点における、全溶剤に対する貧溶剤の比率が、ドープにおける全溶剤に対する貧溶剤の比率の1.2倍以上であることを特徴とする〔7〕に記載のポリマーフィルムの製造方法。
〔9〕
ポリマーと溶剤を含み、ゲル化点が−10℃以上であるドープを支持体上に流延し、乾燥後支持体より剥ぎ取り、剥ぎ取ったフィルムを延伸することを含むポリマーフィルムの製造方法において、延伸開始時の下記数式(8)で表される残留溶剤含量が20%以上140%以下であり、延伸速度が5%/min以上100%/min以下であることを特徴とするポリマーフィルムの製造方法。
数式(8):(残留溶剤含量(質量%))=100×{(フィルム質量(g))−(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))}/(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))
〔10〕
〔7〕または〔8〕の方法により製造されたことを特徴とする〔1〕〜〔3〕、〔5〕、〔6〕のいずれかに記載のポリマーフィルム。
〔11〕
〔9〕の方法により製造されたことを特徴とする〔1〕、〔2〕、〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載のポリマーフィルム。
〔12〕
前記ポリマーフィルムが、セルロースアシレートを含むことを特徴とする〔1〕〜〔6〕、〔10〕、〔11〕のいずれかに記載のポリマーフィルム。
〔13〕
偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板において、該保護フィルムの少なくとも1枚が、〔1〕〜〔6〕、〔10〕〜〔12〕のいずれかに記載のポリマーフィルムであることを特徴とする偏光板。
〔14〕
液晶セルおよびその両側に配置された2枚の偏光板を有し、その少なくとも1枚の偏光板が〔13〕に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、偏光板加工適性に優れ、液晶表示装置に組み込んだ際の表示ムラが発生しにくく、保護フィルムまたは光学補償フィルムとして有用なポリマーフィルムおよびその製造方法が提供される。
また本発明によれば、該ポリマーフィルムを用いた、高品位の画像を表示することのできる偏光板およびこれを用いた液晶表示装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では本発明のポリマーフィルムとしてとくに好適な、セルロースアシレートを主成分として含むフィルム(セルロースアシレートフィルム)を例にして説明する。
【0009】
<セルロースアシレートフィルム>
本発明に用いられるセルロースアシレートフィルムは、フィルム厚み方向においてセルロースアシレート分子鎖のフィルム厚み方向の配向度の(以下面外配向度)変動率が特定の範囲であることを特徴とする。
本発明において、面外配向度は、フィルムのxz平面およびyz平面と平行な断面について、製膜時の支持体側から空気界面側にかけて5〜10等分して、それぞれの箇所におけるフィルム断面のポリマー分子鎖の配向度を、数μm〜数10μmのX線ビームを用いて測定し、下記数式(9)に基づいて計算することにより求めることができる。
【0010】
数式(9):面外配向度={(xz面におけるセルロースアシレート分子鎖の配向度)+(yz面におけるセルロースアシレート分子鎖の配向度)}/2
数式(9)において、フィルムの延伸方向をx方向、フィルムの厚み方向をz方向、x方向およびz方向の双方と垂直な方向をy方向とする。
【0011】
ポリマー分子鎖の配向度Pは、透過2次元X線測定における2θ=6〜11°のピーク強度の平均値から、下記数式(10)により算出できる。
【0012】
数式(10):
P=(3cosβ−1)/2
ここで、
【0013】
【数1】

【0014】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記数式(1)で表される面外配向度変動率が15%以上80%以下である。
【0015】
数式(1):
面外配向度変動率=100×(面外配向度最大値−面外配向度最小値)/面外配向度の厚み方向平均値
ここで、面外配向度の厚み方向平均値とは、フィルムの厚み方向における面外配向度の平均値を意味し、面外配向度を厚み方向に関して片方の表面から反対側の表面まで5〜10箇所で測定した値の平均値を指すものとする。また、面外配向度最大値及び面外配向度最小値とはフィルムの厚み方向における面外配向度を厚み方向に関して片方の表面から反対側の表面まで5〜10箇所で測定した値の最大値及び最小値を指すものとする。
好ましい面外配向度変動率は20%以上60%以下、更に好ましくは25%以上45%以下である。
【0016】
従来液晶表示装置に使用される偏光板保護フィルムはできるだけ均一な物性、および品質を有するものがムラ低減の点から好ましいと考えられていた。しかし、本発明者らは温湿度変化にともなう表示ムラに対しては、予想外にもフィルム厚み方向における面外配向度変動の大きいフィルムの方が、ムラが発生しにくいことを見出した。
これは、従来の表示ムラの場合、偏光板保護フィルムそのもののムラが原因であったのに対して、温湿度変化にともなう表示ムラの場合は温湿度にともなう偏光子の収縮を偏光板保護フィルムが抑制し偏光板保護フィルムに応力が発生することが原因であることに起因する違いと考えられる。すなわち、温湿度変化にともなう表示ムラの場合、前記応力ひいては、応力にともない偏光板保護フィルムに発生するレターデーションが液晶表示面内で不均一となり、黒表示において応力分布を反映した光漏れパターンが観察されるものである。
したがって、上記温湿度変化にともなう表示ムラを低減するには、偏光子で発生する収縮力の影響が偏光板保護フィルムの全体に伝わらないようにする(偏光子との境界部分近傍にとどめる)ことが重要と考えられる。
上記フィルム厚み方向における面外配向度変動の大きいフィルムは偏光子の収縮力の影響が偏光子との界面近傍のみに限定され表示ムラが低減されると推測できる。
【0017】
一方面外配向度はフィルムの弾性率に影響する要因であり、厚み方向における面外配向度の変動が大きすぎると、フィルムの剛直さが厚み方向で不均一となり、カールが発生しやすくなる。
したがって、本発明において、前記面外配向度変動率が15%以下では、温湿度変化にともなう表示ムラの低減効果が小さい。一方、80%以上ではフィルム単体でのカールが大きくなり、フィルム製造工程および偏光板加工工程での生産性が低下する問題が生じる。
【0018】
本発明のセルロースアシレートフィルムはフィルム厚み方向における面外配向度を所望の分布に調節することにより、偏光板加工適性を損なうことなく、液晶表示装置に組み込んだ際の温湿度変化にともなう表示ムラを低減できるものである。
以下に本発明のセルロースアシレートフィルムのフィルム厚み方向における面外配向度の分布について説明する。
【0019】
本発明のセルロースアシレートフィルムのフィルム厚み方向における面外配向度分布の第1の好ましい例は、フィルム表面から深さ10μmまでの領域のポリマー分子鎖の面外配向度のうち、大きい方の値をPs、フィルムの厚み方向中央部のポリマー分子鎖の面外配向度をPcとして、PsとPcが下記数式(3)の関係を満たすものである(以下分布Aと称する)。
本発明においてフィルム表面とは製膜時に支持体に接していた面および空気側の面を指すものとする。
また、ここで面外配向度は、フィルム表面から深さ10μmまでの領域及びフィルムの厚み方向中央部の面外配向度を5〜10箇所で測定した値の平均値を指すものとする。
数式(3):1.15≦Ps/Pc≦2.00
数式(3)はさらに好ましくは数式(3−2)であり、最も好ましくは数式(3−3)である。
【0020】
数式(3−2):1.20≦Ps/Pc≦1.80
数式(3−3):1.25≦Ps/Pc≦1.60
【0021】
また、本発明のセルロースアシレートフィルムのフィルム厚み方向における面外配向度分布の第2の好ましい例は、前記PsとPcが下記数式(4)の関係を満たすものである(以下分布Bと称する)。
【0022】
数式(4):0.50≦Ps/Pc≦0.95
数式(4)はさらに好ましくは数式(4−2)であり、最も好ましくは数式(4−3)である。
数式(4−2):0.60≦Ps/Pc≦0.90
数式(4−3):0.70≦Ps/Pc≦0.80
【0023】
偏光板に用いられる偏光子の延伸倍率、偏光子の吸収軸とパネル長辺方向のなす角度、偏光子を挟んで反対側の保護フィルムのフィルム物性およびフィルム厚み、粘着剤の種類等の条件に応じて、前記分布Aのフィルムおよび分布Bのフィルムを使いわけることにより、カール等の偏光板加工適性を損なうことなく、液晶表示装置に組み込んだ際の温湿度変化に伴う表示ムラを低減できる。
【0024】
本発明のセルロースアシレートフィルムの、フィルムの厚み方向における面外配向度分布は、製膜時の溶剤の揮散速度と拡散速度の相対関係、ポリマーとの親和性が低い添加剤のフィルムの厚み方向における分布、延伸操作時のフィルム中の残留溶剤含量およびゲル化進行により調節することができる。以下に本発明のセルロースアシレートフィルムについて詳しく説明する。
【0025】
〔セルロースアシレート〕
まず、本発明に用いられるセルロースアシレートについて説明する。
セルロースアシレートの合成方法の基本的な原理は、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。代表的な合成方法は、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相酢化法である。具体的には、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸で前処理した後、予め冷却したカルボン酸化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。上記カルボン酸化混液は、一般に溶媒としての酢酸、エステル化剤としての無水カルボン酸および触媒としての硫酸を含む。無水カルボン酸は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解およびエステル化触媒の一部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩または酸化物)の水溶液を添加する。次に、得られた完全セルロースアシレートを少量の酢化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、50〜90℃に保つことによりケン化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは中和することなく水または希硫酸中にセルロースアシレート溶液を投入(あるいは、セルロースアシレート溶液中に、水または希硫酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理によりセルロースアシレートを得る。
【0026】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、フィルムを構成するポリマー成分が実質的に上記で説明した好ましいセルロースアシレートからなることが好ましい。『実質的に』とは、ポリマー成分の55質量%以上(好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上)を意味する。
フィルム製造の原料としては、セルロースアシレート粒子を使用することが好ましい。使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子径を有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子径を有することが好ましい。セルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度が好ましくは200〜700、より好ましくは250〜550、更に好ましくは250〜400であり、特に好ましくは粘度平均重合度250〜350である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。更に特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。
【0027】
低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低くなるため有用である。低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。なお、低分子成分の少ないセルロースアシレートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造時に使用される際には、セルロースアシレートの含水率は2質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以下であり、特には0.7質量%以下の含水率を有するセルロースアシレートが好ましい。一般に、セルロースアシレートは、水を含有しており2.5〜5質量%であることが知られている。本発明でこのセルロースアシレートの含水率にするためには、乾燥することが必要であり、その方法は目的とする含水率になれば特に限定されない。
本発明のこれらのセルロースアシレートは、その原料綿や合成方法は発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて7頁〜12頁に詳細に記載されている。
【0028】
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについては、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に詳細に記載されており、これらを用いることができるが、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては特にこれらに限定されるものではない。
【0029】
本発明のセルロースアシレートは置換基、置換度、重合度、分子量分布など前述した範囲であれば、単一あるいは異なる2種類以上のセルロースアシレートを混合して用いることができる。
【0030】
(セルロースアシレート置換度)
本発明のセルロースアシレートはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、その置換基はアシル基の炭素原子数が2のアセチル基から炭素原子数が22のものまでいずれも用いることができる。本発明のセルロースアシレートにおいて、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素原子数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTMのD−817−91に準じて実施することが出来る。
【0031】
本発明に用いられるセルロースアシレートは、アセチル化度が2.0以上2.99以下のセルロースアセテートが好ましい。アセチル化度は2.5以上2.96以下がさらに好ましい。
【0032】
また下記数式(11)で表される、グルコース単位の6位の水酸基のアシル基による置換比率が0.31以上であり、全置換度が2.85以下であるセルロースアセテートを使用することがより好ましい。
数式(11):6位の置換比率=6位の置換度/(2位の置換度+3位の置換度+6位の置換度)
【0033】
さらに、本発明に用いることができるもう1つの好ましいセルロースアシレートは、アシル化度が2.0以上2.90以下であり、2種類以上のアシル基を有するものである。アシル基の炭素原子数は2〜6であることが好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基を用いることがさらに好ましい。また本発明のセルロースアシレートフィルムが、アセチル基とそれ以外のアシル基を有する場合、アセチル基の置換度は2.8未満が好ましく、2.7未満がさらに好ましい。
【0034】
セルロースアシレートのアシル化度を調節することにより、ドープのゲル化点を調節することができる。セルロースアセテートをメチレンクロライド/アルコール混合溶剤に溶かしたドープの場合、アシル化度を大きくすることによりドープのゲル化点を低くすることができる。
【0035】
〔セルロースアシレートフィルムの製造〕
本発明のポリマーフィルムの製造方法は、ポリマーと溶剤を含むドープを支持体上に流延し、乾燥後支持体より剥ぎ取り、剥ぎ取ったフィルムを延伸することを含む。該製造方法において、延伸開始時の下記数式(8)で表される残留溶剤含量は20%以上140%以下であり、延伸速度が5%/min以上100%/min以下である。
数式(8):(残留溶剤含量(質量%))=100×{(フィルム質量(g))−(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))}/(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))
【0036】
残留溶剤含量は5cm×10cm前後の面積でフィルムを切り出し、フィルム質量測定後、120℃2時間乾燥したのち、再び質量を測定し、上記数式(8)により算出するものとする。
残留溶剤含量は20%以上100%以下が好ましく、30%以上80%以下がより好ましい。
残留溶剤含量を上記範囲に設定することにより、フィルム表面とフィルム内部の、配向度差を大きくすることができる。
【0037】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ポリマーと溶剤を含むドープを支持体上に流延し、乾燥後、支持体より剥ぎ取り、剥ぎ取ったフィルムを延伸する際のゲル化進行度合いおよび残留溶剤含量によって面外配向度を制御することができる。
【0038】
すなわち、乾燥過程においてゲル化の度合いが小さい、あるいはゲル化がおこっていない場合、延伸後の面外配向度の厚み方向分布は分布A、すなわちフィルム内部よりもフィルム表面の方が面外配向度が高いフィルムが得られる傾向にある。
これは、溶剤分子の拡散が律速でフィルム表面の溶剤濃度がフィルム内部の溶剤濃度より低くなるため、フィルム表面の方が弾性率が高く延伸応力が大きくなるためである。
一方、ゲル化がおきた場合、ポリマー分子鎖の配向は阻害される。乾燥過程において、拡散律速でフィルム表面の方がフィルム内部よりもポリマー濃度が高くなるために、ゲル化はフィルム表面の方がフィルム内部よりも速く進行する。
したがって、ゲル化が進行したフィルムを延伸すると、フィルム内部の面外配向度がフィルム表面よりも高い(分布B)フィルムが得られる傾向にある。
【0039】
本発明において乾燥時のゲル化のしやすさはドープのゲル化点により評価する。本発明においてドープのゲル化点は、レオメーターによる粘弾性測定において、30℃から−15℃まで高温側から低温側に測定温度を下げて測定した際に、貯蔵弾性率と損失弾性率の値が等しくなる温度と定義する。
【0040】
本発明において、分布Aを有するポリマーフィルムを製造するためには、ドープのゲル化点が−15℃以下あるいはゲル化点を有さないドープを流延、剥ぎ取りし、延伸開始時の残留溶剤含量が20%以上140%以下で延伸を開始することが好ましい。この際の残留溶剤含量は20%以上100%以下がさらに好ましく、30%以上80%以下が最も好ましい。
ここで、「ゲル化点が−15℃以下」とは、ゲル化点が−15℃よりも低い、あるいは、レオメーターによる粘弾性測定において、30℃から−15℃まで高温側から低温側に測定温度を下げて測定した際に、ゲル化点が観測されない場合を意味する。
【0041】
また、本発明において分布Aを有するポリマーフィルムは、沸点の低いポリマーに対する良溶剤Aと沸点の高いポリマーに対する貧溶剤Bの混合溶剤を使用し、流延後支持体乾燥時の溶剤の揮散速度とフィルム中の拡散速度との相対関係を調節することによってさらに効果的に製造することができる。
すなわち、共沸比よりも貧溶剤の比率が高い混合溶剤からなるドープを支持体に流延後、支持体上で乾燥する過程において、フィルム表面からの溶剤の揮散速度がフィルム中の溶剤の拡散速度に対して十分小さい場合、乾燥が進行するのに伴い、混合溶剤中の貧溶剤比率はフィルム厚み方向においてフィルム支持体面側ほど高くなる。ポリマーは良溶剤中よりも貧溶剤中の方が、ポリマー同士の相互作用が強くなるため、支持体面側のポリマーの面外配向度が高いフィルムが得られる。
上記に加えて、ポリマーに対する親和性が低く、かつ混合溶剤に対する溶解度も低い添加剤をポリマーに加えることにより、さらに支持体面側のポリマーの配向度を相対的に高めることができる。上記添加剤のフィルム厚み方向における濃度分布はフィルムの乾燥とともに、溶剤濃度の高い支持体面側が高くなる。前記添加剤はポリマーとの親和性が低いため、前記添加剤濃度が高い領域の方が、ポリマー同士が相互作用しやすくなり、結果としてポリマーの面外配向度が高くなるものである。
【0042】
また、本発明の製造方法において、分布Bを有するポリマーフィルムを製造するためにはゲル化点が−10℃以上のドープを支持体上に流延、乾燥後、支持体より剥ぎ取り、剥ぎ取ったフィルムを前記数式(8)で表される残留溶剤含量が20%以上140%以下で延伸を開始することが好ましい。この際の残留溶剤含量は30%以上120%以下がさらに好ましく、40%以上100%以下が最も好ましい。
【0043】
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。
(セルロースアシレート溶液の有機溶媒)
本発明では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムは製造される。本発明の主溶媒として好ましく用いられる有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、および炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0044】
本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては、塩素系のハロゲン化炭化水素を主溶剤(良溶剤)とし、これに炭素原子数が10以下の1価のアルコールを貧溶剤として少なくとも1種類混合して用いることが好ましい。混合するアルコールの炭素原子数、主溶媒に対する混合比を変えることにより、ドープのゲル化点を調節することができる。
さらに、前記良溶剤の沸点が前記貧溶剤の沸点より低く、かつ共沸比よりも貧溶剤濃度が高い混合溶剤で溶解したドープを用い、支持体にドープを流延した後の乾燥を、フィルム表面からの溶剤の揮散速度がフィルム内部の溶剤の拡散速度よりも小さくなる条件でおこなうことにより、支持体面側程貧溶剤比率を高くすることができ、セルロースアシレートの面外配向度を調節することができる。
【0045】
セルロースアセテートに対して主溶剤としてメチレンクロライドを用いたドープの場合、ゲル化点が−15℃以下のドープを得るためには主溶媒に対するアルコールの組成が下記数式(12)の関係式を満たすことが好ましい。
【0046】
数式(12):0≦Σ(Ri・Ci)≦25
ここでRiはi番目のアルコールの炭素原子数、Ciはi番目のアルコールの溶剤全体に対する重量%、Σはドープに添加された全てのアルコールに関する総和をとることを表す。
前記数式(12)は数式(12−1)がさらに好ましく、数式(12−2)が最も好ましい。
【0047】
数式(12−1):0≦Σ(Ri・Ci)≦20
数式(12−2):0≦Σ(Ri・Ci)≦15
また、主溶剤がメチレンクロライドの場合、ゲル化点が−10℃以上のドープを得るためには主溶媒に対するアルコールの組成が下記数式(13)の関係式を満たすことが好ましい。
【0048】
数式(13):15≦Σ(Ri・Ci)≦45
ここでRiはi番目のアルコールの炭素原子数、Ciはi番目のアルコールの溶剤全体に対する質量%、Σはドープに添加された全てのアルコールに関する総和をとることを表す。
前記数式(13)は数式(13−1)がさらに好ましく、数式(13−2)が最も好ましい。
【0049】
数式(13−1):20≦Σ(Ri・Ci)≦40
数式(13−2):25≦Σ(Ri・Ci)≦35
【0050】
(流延)
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、或いは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるがいずれも好ましく用いることができる。また、ここで挙げた方法以外にも従来知られているセルローストリアセテート溶液を流延製膜する種々の方法で実施でき、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することによりそれぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。本発明のセルロースアシレートフィルムを製造するのに使用されるエンドレスに走行する金属支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。本発明のセルロースアシレートフィルムの製造に用いられる加圧ダイは、金属支持体の上方に1基或いは2基以上の設置でもよい。好ましくは1基または2基である。2基以上設置する場合には流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられるセルロースアシレート溶液の温度は、−10〜55℃が好ましく、より好ましくは25〜50℃である。その場合、工程のすべてが同一温度でもよく、あるいは工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
【0051】
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許第2336310号、同第2367603号、同第2492078号、同第2492977号、同第2492978号、同第2607704号、同第2739069号及び同第2739070号の各明細書、英国特許第640731号及び同第736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号及び同62−115035号の各公報に記載がある。バンド又はドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行うことができる。
【0052】
本発明において、支持体上の乾燥は、フィルム表面からの溶剤の揮散速度がフィルム内部における溶剤の拡散速度よりも小さい状態で行われることが好ましい。
このような状態で乾燥がおこなわれることにより、沸点の低い良溶剤と沸点の高い貧溶剤を共沸比よりも貧溶剤の比率が高くなるよう混合した溶剤にポリマーを溶解させたドープを用いた場合、乾燥過程において、支持体面側ほど貧溶剤濃度が高い状態が実現でき、支持体面側のポリマーの面外配向度を大きくすることができる。
本発明において、下記数式(8)で表される残留溶剤含量が160%における良溶剤に対する貧溶剤の比率は、ドープにおける良溶剤に対する貧溶剤の比率に対して1.1倍以上である。さらに好ましくは1.2倍以上である。
数式(8):(残留溶剤含量(質量%))=100×{(フィルム質量(g))−(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))}/(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))
【0053】
本発明において、ドープまたはフィルムにおける貧溶剤と良溶剤の比率は、フィルムまたはドープを、ドープに使用する良溶剤とは別の良溶剤で希釈し、ガスクロマトグラフィーで分析することにより求めることができる。
【0054】
調整したセルロースアシレート溶液(ドープ)を用いて二層以上の流延を行いフィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40%の範囲となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0055】
二層以上の複数のセルロースアシレート液を流延する場合、複数のセルロースアシレート溶液を流延することが可能で、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよい。例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、及び特開平11−198285号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することができる。例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、及び特開平6−134933号の各公報に記載の方法を用いることができる。さらに特開昭56−162617号公報に記載の、高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高・低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押し出すセルロースアシレートフィルムの流延方法を用いることもできる。
【0056】
また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取った後、そのフィルムの支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
【0057】
流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアシレート溶液を用いてもよい。複数のセルロースアシレート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。さらに本発明に用いられるセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
【0058】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには、高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0059】
[延伸処理]
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法において、セルロースアシレートフィルムは延伸処理される。延伸処理によりセルロースアシレートフィルムに所望のレターデーションを付与することが可能である。セルロースアシレートフィルムの延伸方向は幅方向、長手方向のいずれでも好ましいが、幅方向が特に好ましい。
【0060】
幅方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号などの各公報に記載されている。長手方向の延伸の場合、例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。幅方向の延伸の場合、フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。
【0061】
本発明のセルロースアシレートフィルムの延伸倍率は、5%以上200%以下が好ましく、10%以上100%以下がさらに好ましい。
【0062】
本発明のセルロースアシレートフィルムの延伸速度は5%/min以上100%/min以下が好ましく、10%/min以上70%/min以下がさらに好ましく、10%/min以上50%/min以下が最も好ましい。
延伸速度が小さい方がフィルムの厚み方向における面外配向度分布の大きいフィルムを得ることができる。一方延伸速度が小さすぎると、フィルムの延伸ムラが大きくなり、フィルムの面内レターデーション(Re)がフィルム面内で不均一となる問題が生じる。
【0063】
[添加剤]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、配向調節剤、可塑剤、レターデーション発現剤、マット剤微粒子、紫外線吸収剤等の添加剤を含有することが好ましい。
【0064】
(配向調節剤)
本発明のセルロースアシレートフィルムは配向調節剤を用いることが好ましい。本発明において配向調節剤とは、セルロースアシレート分子鎖の配向度を調節する機能を有するものを指すこととする。
本発明の配向調節剤は、ドープ溶剤に対する溶解度が低く、かつセルロースアシレートとの親和性が低いものが好ましい。このような配向調節剤を用いることにより、フィルム厚み方向において支持体面側の方が面外配向度の大きいフィルムを得ることが可能となる。
これは以下の機構によるものと推測している。
乾燥過程初期において、フィルム表面からの揮散速度がフィルム内部の溶剤拡散速度より大きい条件で乾燥すると、フィルム中の溶剤濃度分布は空気界面から近い程低く、支持体面側に近い程高くなる。配向調節剤の濃度が飽和溶解度以上になると、配向調節剤は溶剤濃度の高い支持体側へ移動し、フィルム厚み方向において、配向調節剤濃度は支持体面側の方が高い分布を持つことになる。配向制御剤とセルロースアシレートフィルムの親和性が低いと、セルロースアシレート同士の相互作用が起きやすくなり、セルロースアシレートの面外配向度は高くなる。
本発明の配向調節剤のメチレンクロライド/メタノール=70/30(体積比)に対する添加量は0.1質量%以上40質量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、1質量%以上35質量%以下である。
また、セルロースアシレートに対する添加剤の親和性は添加剤を添加することによるフィルムのガラス転移温度変化により、評価することができる。本発明の配向調節剤を添加したフィルムと本発明の配向調節剤を添加しないフィルムのガラス転移温度の差は添加量1質量%あたり2.5℃以下である。さらに好ましくは添加量1%あたり2.0℃以下である。添加剤の有無によるガラス転移温度変化が小さいほど、ポリマーとの親和性が低い。
フィルムのガラス転移温度は、動的粘弾性測定により求めることができる。すなわち、フィルム試料を、25℃・相対湿度60%で2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA-225(アイティー計測制御株式会社製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜200℃、周波数1Hzで測定する。得られたデータを縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度(℃)をとってプロットし、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少について、固体領域で直線1を引き、ガラス転移領域で直線2を引いたときの直線1と直線2の交点を、ガラス転移温度Tgとする。
【0065】
本発明の配向調節剤としては、少なくとも二つのエステル基を有し、logP値(オクタノール−水分配係数)が6以上14以下の化合物が好ましい。さらに好ましくはlogP値が7以上13以下である。logP値が低すぎると、セルロースアシレートとの親和性が高過ぎて、フィルムの厚み方向支持体面側での面外配向度が低くなる。一方、logP値が高過ぎると、セルロースアシレートとの親和性が低すぎて、ブリードアウト等の面状故障をおこしやすく好ましくない。
【0066】
logP値の測定は、JIS日本工業規格Z7260−107(2000)に記載のフラスコ浸とう法により実施することができる。また、logP値は実測に代わって、計算化学的手法あるいは経験的方法により見積もることも可能である。計算方法としては、Crippen’s fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27,21(1987))、Viswanadhan’s fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,29,163(1989))、Broto’s fragmentation法(Eur.J.Med.Chem.−Chim.Theor.,19,71(1984))などが好ましく用いられるが、Crippen’s fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27,21(1987))がより好ましい。ある化合物のlogPの値が測定方法あるいは計算方法により異なる場合に、該化合物が本発明の範囲内であるかどうかは、Crippen’s fragmentation法により判断することが好ましい。
【0067】
下記一般式(1)で表される化合物は本発明の配向調節剤として好ましく用いることができる。
一般式(1):Ar−L−X−L−Ar
上記一般式(1)において、ArおよびArは、それぞれ独立に、芳香族基である。
本明細書において、芳香族基は、アリール基(芳香族性炭化水素基)、置換アリール基、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基を含む。
アリール基および置換アリール基の方が、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族性へテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性へテロ環は一般に最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子または硫黄原子が好ましく、窒素原子または硫黄原子がさらに好ましい。
芳香族基の芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環およびピラジン環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
【0068】
置換アリール基および置換芳香族性ヘテロ環基の置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、アルキルアミノ基(例、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、ジメチルアミノ基)、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基(例、N−メチルカルバモイル基、N−エチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基(例、N−メチルスルファモイル基、N−エチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基)、ウレイド基、アルキルウレイド基(例、N−メチルウレイド基、N,N−ジメチルウレイド基、N,N,N'−トリメチルウレイド基)、アルキル基(例、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、s−ブチル基、t−アミル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基)、アルケニル基(例、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基)、アルキニル基(例、エチニル基、ブチニル基)、アシル基(例、ホルミル基、アセチル基、ブチリル基、ヘキサノイル基、ラウリル基)、アシルオキシ基(例、アセトキシ基、ブチリルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウリルオキシ基)、アルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基)、アリールオキシ基(例、フェノキシ基)、アルコキシカルボニル基(例、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基(例、フェノキシカルボニル基)、アルコキシカルボニルアミノ基(例、ブトキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基)、アルキルチオ基(例、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基)、アリールチオ基(例、フェニルチオ基)、アルキルスルホニル基(例、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、ペンチルスルホニル基、ヘプチルスルホニル基、オクチルスルホニル基)、アミド基(例、アセトアミド基、ブチルアミド基、ヘキシルアミド基、ラウリルアミド基)および非芳香族性複素環基(例、モルホリル基、ピラジニル基)が含まれる。
【0069】
置換アリール基および置換芳香族性ヘテロ環基の置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキル置換アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基およびアルキル基が好ましい。
アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基およびアルキルチオ基のアルキル部分とアルキル基とは、さらに置換基を有していてもよい。アルキル部分およびアルキル基の置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、アルキルアミノ基、ニトロ、スルホ、カルバモイル、アルキルカルバモイル基、スルファモイル、アルキルスルファモイル基、ウレイド、アルキルウレイド基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アミド基および非芳香族性複素環基が含まれる。アルキル部分およびアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル、アミノ、アルキルアミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニル基およびアルコキシ基が好ましい。
【0070】
一般式(1)において、LおよびLは、それぞれ独立に、−O−CO−または−CO−O−およびそれらの組合せからなる基より選ばれる二価の連結基である。
【0071】
一般式(1)において、Xは、1,4−シクロへキシレン、ビニレンまたはエチニレンである。
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体例を示す。
【0072】
【化1】

【0073】
本発明の配向制御剤の添加量はポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜15質量%、特に好ましくは1〜10質量%である。2種類以上を用いる場合には、その合計量が、上記の範囲を満たしていることが好ましい。
本発明の配向制御剤の添加は予めセルロースアシレートの混合溶液を作製するときに添加してもよいが、セルロースアシレートのドープを予め作製し、流延までのいずれかの時点で添加されてもよい。後者の場合、セルロースアシレートを溶剤に溶解させたドープ液と、配向制御剤と少量のセルロースアシレートとを溶解させた溶液をインライン添加、混合を行うためには、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi-Mixer)等のインラインミキサー等が好ましく用いられる。後添加する配向制御剤には、同時にマット剤を混合しても良いし、レターデーション制御剤、可塑剤、劣化防止剤、剥離促進剤等の添加物を混合しても良い。インラインミキサーを用いる場合、高圧下で濃縮溶解することが好ましく、加圧容器の種類は特に問うところではなく、所定の圧力に耐えることができ、加圧下で加熱、撹拌ができればよい。加圧容器はそのほか圧力計、温度計などの計器類を適宜配設する。加圧は窒素ガスなどの不活性気体を圧入する方法や、加熱による溶剤の蒸気圧の上昇によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。溶剤を添加しての加熱温度は、使用溶剤の沸点以上で、かつ該溶剤が沸騰しない範囲の温度が好ましく例えば30〜150℃の範囲に設定するのが好適である。又、圧力は設定温度で、溶剤が沸騰しないように調整される。溶解後は冷却しながら容器から取り出すか、または容器からポンプ等で抜き出して熱交換器などで冷却し、これを製膜に供する。このときの冷却温度は常温まで冷却してもよいが、沸点より5〜10℃低い温度まで冷却し、その温度のままキャスティングを行うほうが、ドープ粘度を低減できるためより好ましい。
【0074】
(レターデーション発現剤)
レターデーション発現剤としては、特開2001−166144号公報、特開2002−363343号公報および特開2003−344655号公報、特開2005−272685号公報等に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0075】
(紫外線吸収剤)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、紫外線吸収剤を含有してもよい。
紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。本発明のセルロースアシレートフィルムを、偏光板の保護フィルムとして用いる場合、紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、且つ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0076】
本発明に有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0077】
また、市販品として、「チヌビン(TINUVIN)109」、「チヌビン(TINUVIN)171」、「チヌビン(TINUVIN)326」、「チヌビン(TINUVIN)328」{何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製}を好ましく使用できる。
【0078】
(可塑剤)
本発明のフィルム中には可塑剤を含むことが好ましい。用いることのできる可塑剤としては特に限定しないが、リン酸エステル系では、ビフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等、グリコール酸エステル系では、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のセルロースアシレートよりも疎水的なものを単独あるいは併用するのが好ましい。可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。
本発明のセルロースアシレートフィルムに添加する添加剤は、セルロースに対して0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%添加するのがよい。2種類以上を用いる場合には、その合計量が、上記の範囲を満たしていることが好ましい。
【0079】
(マット剤微粒子)
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は、珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0080】
二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、且つ見掛け比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見掛け比重は90〜200g/L以上が好ましく、100〜200g/L以上がさらに好ましい。見掛け比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0081】
マット剤として二酸化珪素微粒子を用いる場合の、その使用量は、セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して0.01〜0.3質量部とするのが好ましい。
【0082】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成するが、フィルム中では1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次粒子の平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下がさらに好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。該平均粒子径が1.5μm以下であればヘイズが強くなりすぎることがなく、また0.2μm以上であればきしみ防止効果が十分に発揮されるので好ましい。
【0083】
微粒子の1次、2次粒子径は、フィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とする。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とする。
【0084】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、「アエロジル」R972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600{以上、日本アエロジル(株)製}などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、「アエロジル」R976及びR811{以上、日本アエロジル(株)製}の商品名で市販されており、使用することができる。
【0085】
これらの中で「アエロジル200V」、「アエロジルR972V」が、1次平均粒子径が20nm以下であり、且つ見掛け比重が70g/L以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0086】
本発明において、2次平均粒子径の小さな粒子を含有するセルロースアシレートフィルムを得るためには、微粒子の分散液を調製する際いくつかの手法が考えられる。例えば、溶媒と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液を予め作製し、この微粒子分散液を、別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子が更に再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶媒に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行いこれを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明においては、これらの方法に限定されるものではないが、二酸化珪素微粒子を溶媒などと混合して分散するときの、二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%が更に好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。
分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1m2当たり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gが更に好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
【0087】
使用される溶媒は、低級アルコール類が挙げられ、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶媒を用いることが好ましい。
【0088】
[セルロースアシレートフィルムの諸特性]
(セルロースアシレートフィルムの厚み)
本発明のセルロースアシレートフィルムの厚みは20μm以上100μm以下が好ましく、30μm以上90μm以下がさらに好ましい。
【0089】
(フィルムのレターデーション)
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基に、以下の式(21)および式(22)よりRthを算出することもできる。
【0090】
【数2】

【0091】
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。
【0092】
数式(21)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dはフィルムの膜厚を表す。
【0093】
【数3】

【0094】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0095】
本発明のセルロースアシレートフィルムのRe(590)は20〜200nmが好ましく、30〜150nmがさらに好ましい。Rth(590)は70〜400nmが好ましく、50〜400nmがより好ましく、100〜300nmがさらに好ましい。
また、Rth(590)/Re(590)比は1以上10以下が好ましく、1.5以上8以下がさらに好ましい。
【0096】
OCB用モード及びTN用モードでは前記レターデーション値を有するセルロースアシレートフィルム上に光学異方性層を塗布して光学補償フィルムとして使用できる。
【0097】
本発明のセルロースアシレートフィルムはReの変動ができるだけ小さい方が、セルロースアシレートフィルム自体に起因する液晶表示装置のムラが少なく好ましい。
本発明において、Reの変動は幅方向1m×長手方向1mのサンプルにおいて、幅方向20cmごとおよび長手方向20cmごとに合計25箇所のReを測定し、その平均値、最大値、最小値から、下記数式(2)に基づいてRe変動率を算出することにより評価することができる。
【0098】
数式(2):Re変動率=100×(Re最大値−Re最小値)/Re平均値
本発明のセルロースアシレートフィルムにおいて、波長590nmにおけるRe変動率は20%以下であることが好ましい。より好ましくは0.1%以上20%以下であり、0.1%以上10%以下がさらに好ましい。
【0099】
(フィルムのヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムのヘイズは0.01〜0.8%であることが好ましい。より好ましくは0.05〜0.7%である。ヘイズが0.8%を超えると液晶表示装置のコントラストの低下が著しい。ヘイズが低いほど光学的性能が優れるが原料選択や製造管理も考慮すると上記範囲が好ましい。
ヘイズの測定は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料40mm×80mmを、25℃、60%RHでヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−7136に従って測定した。
【0100】
[鹸化処理]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、アルカリ鹸化処理することによりポリビニルアルコールとの密着性を付与し、偏光板保護フィルムとして用いることができる。
【0101】
セルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。アルカリ溶液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液が挙げられ、水酸化イオンの規定濃度は0.1〜5.0Nの範囲にあることが好ましく、0.5〜4.0Nの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃の範囲にあることが好ましく、40〜70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0102】
<偏光板>
偏光板は、偏光子およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる。一方の保護膜として、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることができる。他方の保護膜は、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよい。偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光板保護膜として用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースアシレートフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護膜処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護膜で構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
【0103】
本発明のセルロースアシレートフィルムの偏光子への貼り合せ方は、偏光子の透過軸と本発明のセルロースアシレートフィルムの遅相軸を一致させるように貼り合せることが好ましい。なお、偏光板クロスニコル下で作製した偏光板の評価を行なったところ、本発明のセルロースアシレートフィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸(透過軸と直交する軸)との直交精度が1°より大きいと、偏光板クロスニコル下での偏光度性能が低下して光抜けが生じることがわかった。この場合、液晶セルと組み合わせた場合に、十分な黒レベルやコントラストが得られないことになる。したがって、本発明のセルロースアシレートフィルムの主屈折率nxの方向と偏光板の透過軸の方向とは、そのずれが1°以内、好ましくは0.5°以内であることが好ましい。
【0104】
偏光板の単板透過率TT、平行透過率PT、直交透過率CTはUV3100PC(島津製作所社製)を用いた。測定では、380nm〜780nmの範囲で測定し、単板、平行、直交透過率ともに、10回測定の平均値を用いた。偏光板耐久性試験は(1)偏光板のみと(2)偏光板をガラスに粘着剤を介して貼り付けた、2種類の形態で次のように行った。偏光板のみの測定は、2つの偏光子の間に光学補償膜が挟まれるように組み合わせて直交、同じものを2つ用意し測定した。ガラス貼り付け状態のものはガラスの上に偏光板を光学補償膜がガラス側にくるように貼り付けたサンプル(約5cm×5cm)を2つ作製する。単板透過率測定ではこのサンプルのフィルムの側を光源に向けてセットして測定する。2つのサンプルをそれぞれ測定し、その平均値を単板の透過率とする。偏光性能の好ましい範囲としては単板透過率TT、平行透過率PT、直交透過率CTの順でそれぞれ、40.0≦TT≦45、0、30.0≦PT≦40.0、CT≦2.0であり、より好ましい範囲としては41.0≦TT≦44.5、34≦PT≦39.0、CT≦1.3(単位はいずれも%)である。また偏光板耐久性試験ではその変化量はより小さいほうが好ましい。
また、本発明の偏光板は、60℃95%RHに500時間静置させたときの直交単板透過率の変化量ΔCT(%)、偏光度変化量ΔPが下記式(j)、(k)の少なくとも1つ以上を満たしている。
【0105】
(j)−6.0≦ΔCT≦6.0
(k)−10.0≦ΔP≦0.0
ここで、変化量とは試験後測定値から試験前測定値を差し引いた値である。
この要件を満たすことによって偏光板の使用中あるいは保管中の安定性が確保される。
【0106】
本発明に関する偏光板は、保護膜の上に光学異方性層を設けることが好ましい。
光学異方性層は、液晶性化合物、非液晶性化合物、無機化合物、有機/無機複合化合物等、材料は限定されない。液晶性化合物としては、重合性基を有する低分子化合物を配向させた後に光または熱による重合により配向を固定化するものや、液晶性高分子を加熱し配向させた後に冷却しガラス状態で配向固定化するものを使うことができる。液晶性化合物としては円盤状構造を有するもの、棒状構造を有するもの、光学的二軸性を示す構造を有するものを使うことができる。非液晶性化合物としては、ポリイミド、ポリエステル等の芳香族環を有する高分子を使うことができる。
光学異方性層の形成方法は、塗布、蒸着、スパッタリング等種々の手法を使用することができる。
偏光板の保護膜の上に光学異方性層を設ける場合、粘着層は偏光子側からさらに該光学異方性層の外側に設けられる。
【0107】
本発明のフィルム(基材)、それを用いた上述の偏光板以外の光学フィルムとして、例えば、以下のような機能性光学フィルムを構成することもできる。
【0108】
〔機能性光学フィルムの層構成〕
機能性光学フィルムは、透明な基材(支持体とも言う。)上に、目的に応じて必要な機能層を単独又は複数層設けることにより作製することができる。
好ましい一つの態様としては、基材上に光学干渉によって反射率が減少するように屈折率、膜厚、層の数、層順等を考慮して積層された反射防止フィルムを挙げることができる。反射防止フィルムは、最も単純な構成では、基材上に低屈折率層のみを塗設した構成である。更に反射率を低下させるには、反射防止層を、基材よりも屈折率の高い高屈折率層と、基材よりも屈折率の低い低屈折率層を組み合わせて構成することが好ましい。構成例としては、基材側から高屈折率層/低屈折率層の2層のものや、屈折率の異なる3層を、中屈折率層(基材又はハードコート層よりも屈折率が高く、高屈折率層よりも屈折率の低い層)/高屈折率層/低屈折率層の順に積層されているもの等があり、更に多くの反射防止層を積層するものも提案されている。中でも、耐久性、光学特性、コストや生産性等から、ハードコート層を有する基材上に、中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層の順に塗布することが好ましく、例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等に記載の構成が挙げられる。
また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
【0109】
上記反射防止フィルムの好ましい層構成の例を下記に示す。反射防止フィルムは、光学干渉により反射率を低減できるものであれば、特にこれらの層構成のみに限定されるものではない。下記構成において基材フィルムは、フィルムで構成された支持体を指している。
・基材フィルム/低屈折率層
・基材フィルム/帯電防止層/低屈折率層
・基材フィルム/防眩層/低屈折率層
・基材フィルム/防眩層/帯電防止層/低屈折率層
・基材フィルム/ハードコート層/防眩層/低屈折率層
・基材フィルム/ハードコート層/防眩層/帯電防止層/低屈折率層
・基材フィルム/ハードコート層/帯電防止層/防眩層/低屈折率層
・基材フィルム/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/ハードコート層/帯電防止層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/防眩層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/防眩層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/帯電防止層/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・帯電防止層/基材フィルム/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/帯電防止層/防眩層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・帯電防止層/基材フィルム/防眩層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・帯電防止層/基材フィルム/防眩層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
【0110】
また、別の態様として、光学干渉を積極的には用いずに、ハードコート性、防湿性、ガスバリア性、防眩性、防汚性などの付与の目的のために必要な層を設けた機能性光学フィルムも好ましい。
【0111】
上記態様のフィルムの好ましい層構成の例を下記に示す。下記構成において基材フィルムは、フィルムで構成された支持体を指している。
・基材フィルム/ハードコート層
・基材フィルム/ハードコート層/ハードコート層
・基材フィルム/防眩層
・基材フィルム/防眩層/防眩層
・基材フィルム/ハードコート層/防眩層
・基材フィルム/防眩層/ハードコート層
・基材フィルム/帯電防止層
・基材フィルム/帯電防止層/ハードコート層
・基材フィルム/防湿層
・基材フィルム/ガスバリア層
・基材フィルム/ハードコート層/防汚層
・帯電防止層/基材フィルム/ハードコート層
・帯電防止層/基材フィルム/防眩層
・防眩層/基材フィルム/帯電防止層
【0112】
これらの層は、蒸着、大気圧プラズマ、塗布などの方法により形成することができる。生産性の観点からは、塗布により形成することが好ましい。
【0113】
以下各構成層について説明する。
(1)ハードコート層
本発明のフィルムには、フィルムの物理的強度を付与するために、好ましくはその一方の面にハードコート層を設けることができる。ハードコート層は、二層以上の積層から構成されてもよい。
本発明におけるハードコート層の屈折率は、反射防止性のフィルムを得るための光学設計からは、屈折率が1.48〜2.00の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1.52〜1.90であり、更に好ましくは1.55〜1.80である。本発明の好ましい態様である、ハードコート層の上に低屈折率層が少なくとも1層ある態様では、屈折率がこの範囲より小さ過ぎると反射防止性が低下し、大き過ぎると反射光の色味が強くなる傾向がある。
ハードコート層の膜厚は、フィルムに充分な耐久性、耐衝撃性を付与する観点から、ハードコート層の厚さは通常0.5μm〜50μm程度とし、好ましくは1μm〜20μm、さらに好ましくは2μm〜10μm、最も好ましくは3μm〜7μmである。
また、ハードコート層の強度は、鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
さらに、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0114】
ハードコート層は、電離放射線硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成されることが好ましい。例えば、電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーを含む塗布組成物を透明支持体上に塗布し、多官能モノマーや多官能オリゴマーを架橋反応、又は、重合反応させることにより形成することができる。
電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーの官能基としては、光、電子線、放射線重合性のものが好ましく、中でも光重合性官能基が好ましい。
光重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の不飽和の重合性官能基等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
上記の重合性不飽和基を有するモノマーの代わりまたはそれに加えて、架橋性の官能基をバインダーに導入してもよい。架橋性官能基の例には、イソシアナート基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドラジン基、カルボキシル基、メチロール基および活性メチレン基が含まれる。ビニルスルホン酸、酸無水物、シアノアクリレート誘導体、メラミン、エーテル化メチロール、エステルおよびウレタン、テトラメトキシシランのような金属アルコキシドも、架橋構造を有するモノマーとして利用できる。ブロックイソシアナート基のように、分解反応の結果として架橋性を示す官能基を用いてもよい。すなわち、本発明において架橋性官能基は、すぐには反応を示すものではなくとも、分解した結果反応性を示すものであってもよい。これら架橋性官能基を有するバインダーは塗布後、加熱することによって架橋構造を形成することができる。
【0115】
ハードコート層には、内部散乱性付与の目的で、平均粒径が1.0〜15.0μm、好ましくは1.5〜10.0μmのマット粒子、例えば無機化合物の粒子または樹脂粒子を含有してもよい。
ハードコート層のバインダーには、ハードコート層の屈折率を制御する目的で、高屈折率モノマーまたは無機粒子、或いは両者を加えることができる。無機粒子には屈折率を制御する効果に加えて、架橋反応による硬化収縮を抑える効果もある。本発明では、ハードコート層形成後において、前記多官能モノマーおよび/又は高屈折率モノマー等が重合して生成した重合体、その中に分散された無機粒子を含んでバインダーと称する。
【0116】
ハードコート層のヘイズは、機能性光学フィルムに付与させる機能によって異なる。
画像の鮮明性を維持し、表面の反射率を抑えて、ハードコート層の内部及び表面にて光散乱機能を付与しない場合は、ヘイズ値は低い程良く、具体的には10%以下が好ましく、更に好ましくは5%以下であり、最も好ましくは2%以下である。
一方、ハードコート層の表面散乱にて、防眩機能を付与する場合は、表面ヘイズが5%〜15%であることが好ましく、5%〜10%であることがより好ましい。
また、ハードコート層の内部散乱により液晶パネルの模様や色ムラ、輝度ムラ、ギラツキなどを見難くしたり、散乱により視野角を拡大する機能を付与する場合は、内部ヘイズ値(全ヘイズ値から表面ヘイズ値を引いた値)は10%〜90%であることが好ましく、更に好ましくは15%〜80%であり、最も好ましくは20%〜70%である。
本発明のフィルムは、目的に応じて、表面ヘイズ及び内部ヘイズを自由に設定可能である。
【0117】
また、ハードコート層の表面凹凸形状については、画像の鮮明性を維持する目的で、クリアな表面を得る為には、表面粗さを示す特性のうち、例えば中心線平均粗さ(Ra)を0.08μm以下とすることが好ましい。Raは、より好ましくは0.07μm以下であり、更に好ましくは0.06μm以下である。本発明のフィルムにおいては、フィルムの表面凹凸にはハードコート層の表面凹凸が支配的であり、ハードコート層の中心線平均粗さを調節することにより、反射防止フィルムの中心線平均粗さを上記範囲とすることができる。
【0118】
画像の鮮明性を維持する目的では、表面の凹凸形状を調整することに加えて、透過画像鮮明度を調整することが好ましい。クリアな反射防止フィルムの透過画像鮮明度は60%以上が好ましい。透過画像鮮明度は、一般にフィルムを透過して映す画像の呆け具合を示す指標であり、この値が大きい程、フィルムを通して見る画像が鮮明で良好であることを示す。透過画像鮮明度は好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上である。
【0119】
[光開始剤]
光ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類(特開2001−139663号等)、2,3−ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、ロフィンダイマー類、オニウム塩類、ボレート塩類、活性エステル類、活性ハロゲン類、無機錯体、クマリン類などが挙げられる。
これらの開始剤は単独でも混合して用いても良い。
「最新UV硬化技術」,(株)技術情報協会,1991年,p.159、及び、「紫外線硬化システム」 加藤清視著、平成元年、総合技術センター発行、p.65〜148にも種々の例が記載されており本発明に有用である。
市販の光ラジカル重合開始剤としては、日本化薬(株)製のKAYACURE(DETX−S、BP−100、BDMK、CTX、BMS、2−EAQ、ABQ、CPTX、EPD、ITX、QTX、BTC、MCAなど)、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651、184、500、819、907、369、1173、1870、2959、4265、4263など)、サートマー社製のEsacure(KIP100F、KB1、EB3、BP、X33、KT046、KT37、KIP150、TZT)等およびそれらの組み合わせが好ましい例として挙げられる。
光重合開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。
【0120】
[面状改良剤]
支持体上のいずれかの層を作製するのに用いる塗布液には、面状故障(塗布ムラ、乾燥ムラ、点欠陥など)を改良するために、フッ素系及びシリコーン系の少なくともいずれかの面状改良剤を添加することが好ましい。
面状改良剤は、塗布液の表面張力を1mN/m以上変化させることが好ましい。ここで、塗布液の表面張力が1mN/m以上変化するとは、面状改良剤を添加後の塗布液の表面張力が、塗布/乾燥時での濃縮過程を含めて、面状改良剤を添加してない塗布液の表面張力と比較して、1mN/m以上変化することを意味する。好ましくは、塗布液の表面張力を1mN/m以上下げる効果がある面状改良剤であり、更に好ましく2mN/m以上下げる面状改良剤、特に好ましくは3mN/m以上下げる面状改良剤である。
フッ素系の面状改良剤の好ましい例としては、フルオロ脂肪族基を含有する化合物が挙げられる。好ましい化合物の例は、特開2005−115359号、特開2005−221963号、特開2005−234476号に記載の化合物を挙げることができる。
【0121】
(2)防眩層
防眩層は、表面散乱による防眩性と、好ましくはフィルムの耐擦傷性を向上するためのハードコート性をフィルムに寄与する目的で形成される。
防眩性を付与する方法としては、特開平6−16851号記載のような表面に微細な凹凸を有するマット状の賦型フィルムをラミネートして形成する方法、特開2000−206317号記載のように電離放射線照射量の差による電離放射線硬化型樹脂の硬化収縮により形成する方法、特開2000−338310号記載のように乾燥にて透光性樹脂に対する良溶媒の重量比が減少することにより透光性微粒子および透光性樹脂とをゲル化させつつ固化させて塗膜表面に凹凸を形成する方法、特開2000−275404号記載のように外部からの圧力により表面凹凸を付与する方法、特開2000−275404号記載のように外部からの圧力により表面凹凸を付与する方法、特開2005−195819号記載のように複数のポリマーの混合溶液から溶媒が蒸発する過程で相分離することを利用して表面凹凸を形成する方法、などが知られており、これら公知の方法を利用することができる。
【0122】
本発明で用いることができる防眩層は、好ましくはハードコート性を付与することのできるバインダー、防眩性を付与するための透光性粒子、および溶媒を必須成分として含有し、透光性粒子自体の突起あるいは複数の粒子の集合体で形成される突起によって表面の凹凸を形成されるものであることが好ましい。
マット粒子の分散によって形成される防眩層は、バインダーとバインダー中に分散された透光性粒子とからなる。防眩性を有する防眩層は、防眩性とハードコート性を兼ね備えていることが好ましい。
上記マット粒子の具体例としては、例えばシリカ粒子、TiO2粒子等の無機化合物の粒子;アクリル粒子、架橋アクリル粒子、ポリスチレン粒子、架橋スチレン粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子等の樹脂粒子が好ましく挙げられる。なかでも架橋スチレン粒子、架橋アクリル粒子、シリカ粒子が好ましい。マット粒子の形状は、球形あるいは不定形のいずれも使用できる。
また、粒子径の異なる2種以上のマット粒子を併用して用いてもよい。より大きな粒子径のマット粒子で防眩性を付与し、より小さな粒子径のマット粒子で別の光学特性を付与することが可能である。例えば、133ppi以上の高精細ディスプレイに防眩性反射防止フィルムを貼り付けた場合に、「ギラツキ」と呼ばれる表示画像品位上の不具合が発生する場合がある。「ギラツキ」は、防眩性反射防止フィルム表面に存在する凹凸により、画素が拡大もしくは縮小され、輝度の均一性を失うことに由来するが、防眩性を付与するマット粒子よりも小さな粒子径で、バインダーの屈折率と異なるマット粒子を併用することにより大きく改善することができる。
上記マット粒子は、形成された防眩性ハードコート層中のマット粒子量が好ましくは10〜1000mg/m2、より好ましくは100〜700mg/m2となるように防眩層に含有される。
防眩層の膜厚は、1〜20μmが好ましく、2〜10μmがより好ましい。前記範囲内とすることで、ハードコート性、カール、脆性を満足することができる。
一方、防眩層の中心線平均粗さ(Ra)は0.09〜0.40μmの範囲が好ましい。0.40μmを超えると、ギラツキや外光が反射した際の表面の白化等の問題が発生する。また、透過画像鮮明度の値は、5〜60%とするのが好ましい。
防眩層の強度は、鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0123】
(3)高屈折率層、中屈折率層
本発明のフィルムは、高屈折率層、中屈折率層を設け、後述の低屈折率層とともに光学干渉を利用すると反射防止性を高めることができる。
以下の本明細書では、この高屈折率層と中屈折率層を高屈折率層と総称して呼ぶことがある。なお、本発明において、高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層の「高」、「中」、「低」とは層相互の相対的な屈折率の大小関係を表す。また、透明支持体との関係で言えば屈性率は、透明支持体>低屈折率層、高屈折率層>透明支持体の関係を満たすことが好ましい。
また、本明細書では高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層を総称して反射防止層と総称して呼ぶことがある。
【0124】
高屈折率層の上に低屈折率層を構築して、反射防止フィルムを作製するためには、高屈折率層の屈折率は1.55〜2.40であることが好ましく、より好ましくは1.60〜2.20、更に好ましくは、1.65〜2.10、最も好ましくは1.80〜2.00である。
【0125】
支持体から近い順に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層を塗設し、反射防止フィルムを作成する場合、高屈折率層の屈折率は、1.65乃至2.40であることが好ましく、1.70乃至2.20であることがさらに好ましい。中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.55乃至1.80であることが好ましい。
【0126】
高屈折率層および中屈折率層に用いられる無機粒子の具体例としては、TiO2、ZrO2、Al23、In23、ZnO、SnO2、Sb23、ITOとSiO2等が挙げられる。TiO2及びZrO2が高屈折率化の点で特に好ましい。該無機フィラーは、表面をシランカップリング処理又はチタンカップリング処理されることも好ましく、フィラー表面にバインダー種と反応できる官能基を有する表面処理剤が好ましく用いられる。
【0127】
高屈折率層における無機粒子の含有量は、高屈折率層の質量に対し10〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜80質量%、特に好ましくは15〜75質量%である。無機粒子は高屈折率層内で二種類以上を併用してもよい。
高屈折率層の上に低屈折率層を有する場合、高屈折率層の屈折率は透明支持体の屈折率より高いことが好ましい。
高屈折率層に、芳香環を含む電離放射線硬化性化合物、フッ素以外のハロゲン化元素(例えば、Br、I、Cl等)を含む電離放射線硬化性化合物、S、N、P等の原子を含む電離放射線硬化性化合物などの架橋又は重合反応で得られるバインダーも好ましく用いることができる。
【0128】
高屈折率層の膜厚は用途により適切に設計することができる。高屈折率層を後述する光学干渉層として用いる場合、30〜200nmが好ましく、より好ましくは50〜170nm、特に好ましくは60〜150nmである。
【0129】
高屈折率層のヘイズは、防眩機能を付与する粒子を含有しない場合、低いほど好ましい。5%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。高屈折率層は、前記透明支持体上に直接、又は、他の層を介して構築することが好ましい。
【0130】
(4)低屈折率層
本発明のフィルムの反射率を低減するため、低屈折率層を用いることが好ましい。
低屈折率層の屈折率は、1.20〜1.46であることが好ましく、1.25〜1.46であることがより好ましく、1.30〜1.40であることが特に好ましい。
低屈折率層の厚さは、50〜200nmであることが好ましく、70〜100nmであることがさらに好ましい。低屈折率層のヘイズは、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが最も好ましい。具体的な低屈折率層の強度は、500g荷重の鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
また、機能性光学フィルムの防汚性能を改良するために、表面の水に対する接触角が90度以上であることが好ましい。更に好ましくは95度以上であり、特に好ましくは100度以上である。
好ましい硬化物組成の態様としては、(I)架橋性若しくは重合性の官能基を有する含フッ素ポリマーを含有する組成物、(II)含フッ素のオルガノシラン材料の加水分解縮合物を主成分とする組成物、(III)2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーと中空構造を有する無機微粒子を含有する組成物、が挙げられる。
【0131】
(I)架橋性若しくは重合性の官能基を有する含フッ素化合物
架橋性若しくは重合性の官能基を有する含フッ素化合物としては、含フッ素モノマーと架橋性または重合性の官能基を有するモノマーの共重合体を挙げることができる。含フッ素モノマーとしては、例えばフルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール等)、(メタ)アクリル酸の部分または完全フッ素化アルキルエステル誘導体類(例えばビスコート6FM(大阪有機化学製)やM−2020(ダイキン製)等)、完全または部分フッ素化ビニルエーテル類等である。
【0132】
架橋性基付与のためのモノマーとしては、1つの態様としては、グリシジルメタクリレートのように分子内にあらかじめ架橋性官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーを挙げることができる。又別の態様としては、水酸基等の官能基を有するモノマーを用い含フッ素共重合体を合成後、さらにそれら置換基を修飾して架橋性若しくは重合性の官能基を導入するモノマーを使用する方法である。これらモノマーとしては、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホン酸基等を有する(メタ)アクリレートモノマー(例えば(メタ)アクリル酸、メチロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアクリレート等)が挙げられる。後者の態様は特開平10−25388号公報および特開平10−147739号公報により開示されている。
【0133】
上記含フッ素共重合体には、溶解性、分散性、塗布性、防汚性、帯電防止性などの観点から、適宜共重合可能な成分を含むことができる。特に防汚性・滑り性付与のためには、シリコーンを導入することが好ましく、主鎖にも側鎖にも導入することができる。
主鎖へのポリシロキサン部分構造導入方法は、例えば特開平6−93100号公報に記載のアゾ基含有ポリシロキサンアミド(市販のものではVPS-0501、1001(商品名;ワコー純薬工業(株)社製))等のポリマー型開始剤を用いる方法が挙げられる。また、側鎖に導入する方法は、例えばJ. Appl. Polym. Sci. 2000, 78, 1955、特開昭56−28219号公報等に記載のごとく、反応性基を片末端に有するポリシロキサン(例えばサイラプレーンシリーズ(チッソ株式会社製)など)を高分子反応によって導入する方法、ポリシロキサン含有シリコンマクロマーを重合する方法などを挙げることができる。
上記のポリマーに対しては特開2000−17028号公報に記載のごとく適宜重合性不飽和基を有する硬化剤を併用してもよい。また、特開2002−145952号に記載のごとく含フッ素の多官能の重合性不飽和基を有する化合物との併用も好ましい。多官能の重合性不飽和基を有する化合物の例としては、上記の2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーを挙げることができる。また、特開2004−170901号公報に記載のオルガノシランの加水分解縮合物も好ましく、特に(メタ)アクリロイル基を含有するオルガノシランの加水分解縮合物が好ましい。
これら化合物は、特にポリマー本体に重合性不飽和基を有する化合物を用いた場合に耐擦傷性改良に対する併用効果が大きく好ましい。
【0134】
ポリマー自身が単独で十分な硬化性を有しない場合には、架橋性化合物を配合することにより、必要な硬化性を付与することができる。例えばポリマー本体に水酸基を含有する場合には、各種アミノ化合物を硬化剤として用いることが好ましい。架橋性化合物として用いられるアミノ化合物は、例えば、ヒドロキシアルキルアミノ基及びアルコキシアルキルアミノ基のいずれか一方又は両方を合計で2個以上含有する化合物であり、具体的には、例えば、メラミン系化合物、尿素系化合物、ベンゾグアナミン系化合物、グリコールウリル系化合物等を挙げることができる。これら化合物の硬化には、有機酸又はその塩を用いるのが好ましい。
【0135】
これら含フッ素ポリマーの具体例は、特開2003−222702号公報、特開2003−183322号公報等に記載されている。
【0136】
(II)含フッ素のオルガノシラン材料の加水分解縮合物
含フッ素のオルガノシラン化合物の加水分解縮合物を主成分とする組成物も屈折率が低く、塗膜表面の硬度が高く好ましい。フッ素化アルキル基に対して片末端又は両末端に加水分解性のシラノールを含有する化合物とテトラアルコキシシランの縮合物が好ましい。具体的組成物は、特開2002−265866号公報、317152号公報に記載されている。
【0137】
(III)2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーと中空構造を有する無機微粒子を含有する組成物
更に別の好ましい態様として、低屈折率の粒子とバインダーからなる低屈折率層が挙げられる。低屈折率粒子としては、有機でも無機でも良いが、内部に空孔を有する粒子が好ましい。中空粒子の具体例は、特開2002−79616号公報に記載のシリカ系粒子に記載されている。粒子屈折率は1.15〜1.40が好ましく、1.20〜1.30が更に好ましい。バインダーとしては、上記光拡散層の頁で述べた二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーを挙げることができる。
【0138】
低屈折率層には、上記のハードコート層の頁で述べた重合開始剤を添加することが好ましい。ラジカル重合性化合物を含有する場合には、該化合物に対して1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部の重合開始剤を使用できる。
本発明の低屈折率層には、無機粒子を併用することができる。耐擦傷性を付与するために、低屈折率層の厚みの15%〜150%、好ましくは30%〜100%、更に好ましくは45%〜60%の粒径を有する微粒子を使用することができる。
本発明の低屈折率層には、防汚性、耐水性、耐薬品性、滑り性等の特性を付与する目的で、公知のポリシロキサン系あるいはフッ素系の防汚剤、滑り剤等を適宜添加することができる。
【0139】
(5)帯電防止層
本発明においては、帯電防止層を設けることがフイルム表面での静電気防止の点で好ましい。帯電防止層を形成する方法は、例えば、導電性微粒子と反応性硬化樹脂を含む導電性塗工液を塗工する方法、或いは透明膜を形成する金属や金属酸化物等を蒸着やスパッタリングして導電性薄膜を形成する方法等の従来公知の方法を挙げることができる。導電性層は、支持体に直接又は支持体との接着を強固にするプライマー層を介して形成することができる。また、帯電防止層を反射防止膜の一部として使用することもできる。この場合、最表層から近い層で使用する場合には、膜の厚さが薄くても十分に帯電防止性を得ることができる
【0140】
帯電防止層の厚さは、0.01〜10μmが好ましく、0.03〜7μmであることがより好ましく、0.05〜5μmであることがさらに好ましい。帯電防止層の表面抵抗は、10〜1012Ω/sqであることが好ましく、10〜10Ω/sqであることがさらに好ましく、10〜10Ω/sqであることが最も好ましい。帯電防止層の表面抵抗は、四探針法により測定することができる。
【0141】
帯電防止層は、実質的に透明であることが好ましい。具体的には、帯電防止層のヘイズが、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが最も好ましい。波長550nmの光の透過率が、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが最も好ましい。
本発明の帯電防止層は、強度が優れており、具体的な帯電防止層の強度は、1kg荷重の鉛筆硬度で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることがさらに好ましく、4H以上であることが最も好ましい。
【0142】
[塗布溶媒]
上記各構成層のうち、基材フィルムに隣接して塗布される層には、基材フイルムを溶解する少なくとも一種類以上の溶剤と、基材フイルムを溶解しない少なくとも一種類以上の溶剤を含有することが好ましい。このような態様にすることで、基材フィルムへの隣接層成分の過剰な染み込み防止と、隣接層と基材フィルムとの密着性確保の両立を図ることができる。また、基材フイルムを溶解する溶剤のうちの少なくとも一種類が、基材フイルムを溶解しない溶剤のうちの少なくとも一種類よりも高沸点であることがより好ましい。さらに好ましくは、基材フイルムを溶解する溶剤のうち最も沸点の高い溶剤と、基材フイルムを溶解しない溶剤のうち、最も沸点の高い溶剤との沸点温度差が30℃以上であることであり、最も好ましくは40℃以上であることである。
透明基材フイルムを溶解する溶剤の総量(A)と透明基材フイルムを溶解しない溶剤の総量(B)の質量割合(A/B)は、5/95〜50/50が好ましく、より好ましくは10/90〜40/60であり、さらに好ましく15/85〜30/70である。
【0143】
本発明の偏光板の一実施形態は、上記のような機能性光学フィルムを備えてなるものである。図1は、本発明の偏光板と機能性光学フィルムとを複合した構成の一例を説明するための断面図である。図1(A)において、本発明の偏光板5は、偏光子2の一方の面に、保護フィルム1として、本発明のセルロースアシレートフィルムを貼り合わせ、他の面に上記のような機能性光学フィルム3を貼り合わせてなる。また、図1(B)において、本発明の偏光板5は、偏光子2の両方の面に、保護フィルム1a,1bとしてそれぞれ、本発明のセルロースアシレートフィルムを貼り合わせ、保護フィルム1bの、偏光子2とは反対側の面に、粘着層4を介して上記のような機能性光学フィルム3を貼り合わせてなる。
【0144】
〔偏光板を使用する液晶表示装置〕
本発明のセルロースアシレートフィルム、該フィルムからなる光学補償シート、該フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。
【0145】
図2は、本発明の偏光板が使用された液晶表示装置の一例を説明するための図である。図2において、液晶表示装置は、上偏光板6と下偏光板17との間に、液晶分子12を含有する液晶セルを有する構造である。液晶セルには、液晶セル上電極基板10と、液晶セル下電極基板13とがそれぞれ設けられている。また、上偏光板6と液晶セルとの間には、上光学異方性層8が設けられ、下偏光板17と液晶セルとの間には、下光学異方性層15が設けられている。上偏光板吸収軸7、上基板配向制御方向11および上光学異方性層配向制御方向9はそれぞれ平行であり、これらの方向に対し、下偏光板吸収軸18、下基板配向制御方向14および下光学異方性層配向制御方向16は直交している。
【0146】
液晶セルの表示モードとしては、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
【0147】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置である。OCBモードの液晶セルは、米国特許第4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
【0148】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(シャープ技報第80号11頁)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(月刊ディスプレイ5月号14頁(1999年))が含まれる。
【0149】
図3は、本発明の偏光板が使用されたVAモード液晶表示装置の一例を説明するための断面図である。VAモードの液晶表示装置は、VAモード液晶セル31およびその両側に配置された二枚の偏光板30、32からなる。VAモード液晶セル31は、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。観察者側に配置される偏光板30および32は、偏光子34がセルロースアシレートフィルム33に挟持された形態である。液晶セル側に配置された2枚のセルロースアシレートフィルムのうち、少なくとも1枚は本発明のセルロースアシレートフィルムである。
【0150】
本発明の液晶表示装置の別の態様では、液晶セルと偏光子との間に配置される偏光板の透明保護膜として、本発明のセルロースアシレートフィルムからなる光学補償シートが用いられる。一方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)透明保護膜のみに上記の光学補償シートを用いてもよいし、あるいは双方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)二枚の透明保護膜に、上記の光学補償シートを用いてもよい。一方の偏光板のみに上記光学補償シートを使用する場合は、液晶セルのバックライト側偏光板の液晶セル側保護膜として使用するのが特に好ましい。液晶セルへの張り合わせは、本発明のセルロースアシレートフィルムはVAセル側にすることが好ましい。保護膜は通常のセルロースアシレートフィルムでも良く、本発明のセルロースアシレートフィルムより薄いことが好ましい。たとえば、40〜80μmが好ましく、市販のKC4UX2M(コニカオプト株式会社製40μm)、KC5UX(コニカオプト株式会社製60μm)、TD80(富士写真フイルム製80μm)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0151】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に記載するが、本発明はこれら具体例によって何ら限定されることはない。
【0152】
〔セルロースアシレートフィルムの作製〕
実施例1−1:セルロースアセテートフィルム(CAF1)の作製
[セルロースアセテート原液(CAL−1)の調製]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアセテート原液(CAL−1)を調製した。
【0153】
{セルロースアセテート原液(CAL−1)の組成}
セルロースアセテート 100.0質量部
アセチル化度2.83
トリフェニルホスフェート(可塑剤:以下TPP) 7.0質量部
ビフェニルホスフェート(可塑剤:以下BDP) 3.5質量部
メチレンクロリド(第1溶媒) 425.0質量部
メタノール(第2溶媒) 37.0質量部
【0154】
[マット剤溶液(Ma−1)の調製]
下記の組成物を分散機に投入し、撹拌して各成分を溶解し、マット剤溶液(Ma−1)を調製した。
【0155】
{マット剤溶液(Ma−1)組成}
平均粒径20nmのシリカ粒子 2.0質量部
“AEROSIL R972”日本アエロジル(株)製
メチレンクロリド(第1溶媒) 80.6質量部
メタノール(第2溶媒) 7.0質量部
セルロースアセテート原液(CAL−1) 10.3質量部
【0156】
[レターデーション発現剤溶液(Re―1)の調製]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら撹拌して、各成分を溶解し、レターデーション発現剤溶液(Re―1)を調製した。
【0157】
{レターデーション発現剤溶液(Re−1)の組成}
下記レターデーション発現剤A 20.0質量部
メチレンクロリド(第1溶媒) 61.7質量部
メタノール(第2溶媒) 5.4質量部
セルロースアセテート溶液原液(CAL−1) 12.8質量部
【0158】
【化2】

【0159】
[セルロースアセテートフィルム(CAF1)の作製]
上記セルロースアセテート原液(CAL−1)93.7質量部、マット剤溶液(Ma−1)1.3質量部及びレターデーション発現剤溶液(Re−1)5.0質量部をそれぞれ濾過した後に混合し、バンド流延機を用いて流延した。残留溶媒含量75質量%で得られたフィルムをバンドから剥離し、130℃の雰囲気温度下でテンターを用いて、フィルムを延伸速度35%/minで25%横延伸し、(CAF1)を製造した。延伸開始時の残留溶剤含量は60質量%であった。セルロースアセテートフィルムおよびドープ溶剤の組成および延伸条件について、表1および2にその詳細を示す。
【0160】
実施例1−2〜1−12:セルロースアセテートフィルム(CAF2)〜(CAF12)の作製
セルロースアセテートフィルム(CAF1)の作製において、ドープ溶剤組成、セルロースアセテートの種類、添加剤の種類及び添加量、延伸条件を表1および2のものに変更した以外は、同様にしてセルロースアセテートフィルム(CAF2)〜(CAF12)を作製した。
【0161】
比較例1−1〜1−5:セルロースアセテートフィルム(CAF21)〜(CAF−25)の作製
セルロースアセテートフィルム(CAF1)の作製において、ドープ溶剤組成、セルロースアセテートの種類、添加剤の種類及び添加量、延伸条件を表1および2のものに変更した以外は、同様にして比較例のセルロースアセテートフィルム(CAF21)〜(CAF25)を作製した。
【0162】
【表1】

【0163】
【化3】

【0164】
【表2】

【0165】
[ゲル化点の測定]
ゲル化点はレオメーター(Anton Paar社製Physica MCR301)により、30℃から−15℃まで高温側から低温側に測定温度を下げて、貯蔵弾性率と損失弾性率を測定し、両者の値が等しくなる温度として求めた。ゲル化点は、ひずみ1%、周波数1Hzの条件下に10秒間隔で10回測定し、平均値を求め表2に記載した。−15℃まで測定してもゲル化点が観測されないものについては、「観測されず」と記載した。
【0166】
[Tgの測定]
ガラス転移温度(Tg)の測定は、動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA-225(アイティー計測制御株式会社製))により行った。本発明のセルロースアシレートフィルム試料5mm×30mmを、25℃・相対湿度60%で2時間以上調湿した後、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜200℃、周波数1Hzで測定した。得られたデータから縦軸に対数軸で貯蔵弾性、横軸に線形軸で温度(℃)をとったグラフを作成し、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少を固体領域で直線1を引き、ガラス転移領域で直線2を引いたときの直線1と直線2の交点の温度を読み取ることによりTgを求めた。
【0167】
〔フィルム特性値の測定〕
[レターデーションの測定]
試料を幅方向1m×長手方向1mに切り出し、幅方向20cmごとおよび長手方向20cmごとに合計25箇所について自動複屈折率計“KOBRA 21ADH”{王子計測機器(株)製}により25℃、60%RHの温湿度下で、波長590nmにおけるRe及びRthを測定した。
さらに、上記25点の測定値の平均値、最大値、最小値から、下記数式(2)に基づいてRe変動率を算出した。
【0168】
数式(2):Re変動率=100×(Re最大値−Re最小値)/Re平均値
【0169】
[面外配向度測定]
フィルムのxz平面と平行な断面、およびyz面と平行な断面のそれぞれについて、製膜時の支持体側から空気界面側にかけて5等分してそれぞれの箇所のフィルム断面の配向度を、数μm〜数10μmのX線ビームを用いて、面外配向度を測定した。
ブルカー・エイエックスエス(株)製“D8 DISCOVER”により、X線源にはCuターゲットを用いた回転対陰極型を用い、50kV−300mAでX線を発生させた。コリメーターは0.02mmφ、フィルム試料は透過試料台を用いて固定した。また、露光時間は1時間とした。
面外配向度は下記式に基づいて算出した。
数式(9):面外配向度={(xz面におけるセルロースアシレート分子鎖の配向度)+(yz面におけるセルロースアシレート分子鎖の配向度)}/2
【0170】
結果を表3に示す。
【0171】
【表3】

【0172】
〔偏光板の作製〕
実施例2−1〜2−12及び比較例2−1〜2−6
[セルロースアセテートフィルムの鹸化処理]
前記実施例1−1〜1−12及び比較例1−1〜1−5で作製されたセルロースアセテートフィルムを、それぞれ1.4mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で2分間浸漬し、次いで室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.05mol/Lの硫酸を用いて中和した。次ぎに再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに110℃の温風で乾燥した。このようにして、セルロースアセテートフィルムの表面をそれぞれ鹸化した。
【0173】
また市販のセルローストリアセテートフィルム「フジタックTD80UF」および「フジタックT40UZ」{いずれも富士写真フイルム(株)製}を同条件で鹸化し、以下の偏光板試料作製に供した。
【0174】
[偏光子の作製]
延伸したPVAフィルムに、ヨウ素を吸着させて偏光子を作製し、PVA系接着剤を用いて、実施例1−1で作製したセルロースアセテートフィルム(CAF1)を偏光子の片側に貼り付けた。偏光子の透過軸とセルロースアセテートフィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。
【0175】
さらに上記で鹸化処理した「フジタックTD80UF」を、PVA系接着剤を用いて、偏光子の反対側に貼り付けた。このようにして偏光板(P1−1)を作製した。
【0176】
他の本発明のセルロースアセテートフィルムについても、フジタックTD80UFあるいはT40UZと組み合わせて、上記と同様の方法で偏光板(P1−2)〜(P1−12)及び(PR1−1)〜(PR1−7)を作製した。
【0177】
[偏光板カールの評価]
実施例2−1〜2−12、および比較例2−1〜2−6で作製した偏光板を25cm×25cmに切り出し、25℃60%RHの環境下で水平な台の上に静置し、2hr調湿後のカールを以下の基準により評価した。
○:水平な台と偏光板両端部の隙間が0.5cm未満
△:水平な台と偏光板両端部の隙間が0.5cm以上1cm以下
×:水平な台と偏光板両端部の隙間が1cm以上
結果を表4に示す。表4の結果から、本発明の偏光板(P1−1)〜(P1−12)は、比較例の偏光板(PR1−5)に対して、カールが小さく好ましいことがわかった。
【0178】
【表4】

【0179】
実施例3−1
〔VAモード液晶表示装置の作製と評価1〕
図3に示す液晶表示装置を作製した。
すなわち、観察方向(上)から、上側偏光板、VAモード液晶セル(上基板、液晶層、下基板)、下側偏光板を積層し、さらにバックライト光源を配置した。
以下の例では、上側偏光板に市販品の偏光板“HLC2−5618”{(株)サンリッツ製}を用い、下側偏光板に本発明の偏光板を使用している。
【0180】
[液晶セルの作製]
液晶セルは、基板間のセルギャップを3.6μmとし、負の誘電率異方性を有する液晶材料(“MLC6608”メルク社製)を基板間に滴下注入して封入し、基板間に液晶層を形成して作製した。液晶層のレターデーション{すなわち、液晶層の厚さd(μm)と屈折率異方性Δnとの積Δn・d}を300nmとした。なお、液晶材料は垂直配向するように配向させた。
【0181】
上記で得た垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置(図3)の上側偏光板には、市販品の上記スーパーハイコントラスト品“HLC2−5618”を、下側偏光板には、実施例2−1で作製した偏光板(P1−1)を、その一方の保護フィルムである本発明のセルロースアセテートフィルム(CAF1)が液晶セル側となるように、粘着剤を介してそれぞれ液晶セルに貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向に、そして、バックライト側の偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
【0182】
実施例3−2〜3−10および比較例3−1〜3−5
次に実施例2−2、2−4〜2−8、2−10〜2−12及び比較例2−1〜2−3、2−5、2−6で作製した偏光板についても、それを下側偏光板に用い上記と同様にして液晶表示装置1−1〜1−15を作製した。
【0183】
[表示ムラの評価]
実施例3−1〜3−10および比較例3−1〜3−5で作製した液晶表示装置を35℃80%RHの温湿度条件下に500時間連続点灯したのちの、ムラの発生面積を以下の基準により評価した。
○:ムラが視認されない
△:ムラが視認される面積は全体の10%未満
×:ムラが視認される面積は全体の10%以上
結果を表5に示す。表5の結果から本発明の液晶表示装置は高温高湿下に連続点灯してもムラが発生しにくく好ましいことがわかった。
【0184】
【表5】

【0185】
〔VAモード液晶表示装置の作製と評価2〕
[液晶セルの作製]
PVA3質量%水溶液100質量部に、オクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(カップリング剤)を1質量部添加した。これを、ITO電極付のガラス基板上にスピンコートし、160℃で熱処理した後、ラビング処理を施して、垂直配向膜を形成した。ラビング処理は、2枚のガラス基板において反対方向となるようにした。セルギャップ(d)が5μmとなるように2枚のガラス基板を向かい合わせた。セルギャップに、エステル系とエタン系を主成分とする液晶性化合物(Δn:0.08)を注入し、垂直配向液晶セルを作製した。Δnとdとの積(すなわち液晶層のレターデーション)は400nmであった。
【0186】
実施例2−3で作製した偏光板(P1−3、本発明のセルロースアセテートフィルム(CAF3)を用いた偏光板)を、25℃、60%RHの温湿度条件で予め調湿した後、防湿処理を施した袋に包装し、3日間放置した。袋はポリエチレンテレフタレート/アルミ/ポリエチレンの積層構造からなる包装材であり、透湿度は1×10−5g/m・日以下であった。
【0187】
25℃、60%RHの環境下で、偏光板(P1−3)を取り出して、上記で作製した垂直配向液晶セルの両面に、本発明のセルロースアセテートフィルム(CAF3)が液晶セル側となるように、粘着シートを用いて貼り付けて、液晶表示装置を作製した。
本発明の偏光板を用いた液晶表示装置は、35℃80%RHの温湿度条件下に500時間連続点灯してもムラが発生しにくく好ましいことがわかった。
【0188】
〔セルロースアシレートフィルムの作製〕
実施例4−1:セルロースアセテートフィルム(CAF41)の作製
[セルロースアセテート原液(CAL−41)の調製]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアセテート原液(CAL−41)を調製した。
【0189】
{セルロースアセテート原液(CAL−41)の組成}
セルロースアセテート 100.0質量部
アセチル化度2.85
トリフェニルホスフェート(TPP) 7.0質量部
ビフェニルホスフェート(BDP) 3.5質量部
メチレンクロリド(第1溶媒) 401.9質量部
メタノール(第2溶媒) 60.1質量部
【0190】
[マット剤溶液(Ma−41)の調製]
下記の組成物を分散機に投入し、撹拌して各成分を溶解し、マット剤溶液(Ma−41)を調製した。
【0191】
{マット剤溶液(Ma−41)組成}
平均粒径20nmのシリカ粒子 2.0質量部
“AEROSIL R972”日本アエロジル(株)製
メチレンクロリド(第1溶媒) 76.2質量部
メタノール(第2溶媒) 11.4質量部
セルロースアセテート原液(CAL−41) 10.3質量部
【0192】
[添加剤溶液(Ad―41)の調製]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら撹拌して、各成分を溶解し、添加剤溶液(Ad―41)を調製した。
【0193】
{添加剤溶液(Ad―41)の組成}
トリフェニルフォスフェート(TPP) 20.0質量部
メチレンクロリド(第1溶媒) 58.4質量部
メタノール(第2溶媒) 8.7質量部
セルロースアセテート溶液原液(CAL−41) 12.8質量部
【0194】
[セルロースアセテートフィルム(CAF41)の作製]
上記セルロースアセテート原液(CAL−41)93.7質量部、マット剤溶液(Ma−41)1.3質量部及び添加剤溶液(Ad−41)5.0質量部をそれぞれ濾過した後に混合し、バンド流延機を用いて流延した。支持体温度20℃で120の乾燥風をあてながら、支持体上で乾燥した、残留溶剤含量160%における貧溶剤(メタノール)の全溶剤に対する割合は15%であった。残留溶媒含量55質量%で得られたフィルムをバンドから剥離し、140℃の雰囲気温度下でテンターを用いて、フィルムを延伸速度30%/分で、30%横延伸し、(CAF41)を製造した。延伸開始時の残留溶剤含量は60質量%であった。セルロースアセテートフィルムおよびドープ溶剤の組成および延伸条件について、表6および7にその詳細を示す。
【0195】
(残留溶剤中の貧溶剤の全溶剤に対する組成)
貧溶剤の全溶剤に対する組成は、(株)島津製作所製GC−14Aガスクロマトグラフ装置を用いて測定した。カラムは(株)信和化工製Gaskuropack54を用いた。
【0196】
実施例4−2〜4−6:セルロースアセテートフィルム(CAF42)〜(CAF46)の作製
セルロースアセテートフィルム(CAF41)の作製において、ドープ溶剤組成、セルロースアセテートの種類、添加剤の種類及び添加量、延伸条件、貧溶媒比率を表6および7のものに変更した以外は、同様にしてセルロースアセテートフィルム(CAF42)〜(CAF46)を作製した。
【0197】
比較例4−1:セルロースアセテートフィルム(CAF51)の作製
セルロースアセテートフィルム(CAF41)の作製において、ドープ溶剤組成、セルロースアセテートの種類、添加剤の種類及び添加量、延伸条件、貧溶媒比率を表6および7のものに変更した以外は、同様にして比較例のセルロースアセテートフィルム(CAF51)を作製した。
【0198】
【表6】

【0199】
【表7】

【0200】
これらフィルムの実施例1−1〜1−12と同様にして求めたフィルム特性を表8に示す。
【0201】
【表8】

【0202】
上記のようにして作製した本発明のセルロースアセテートフィルム(CAF41〜46)および比較例のセルロースアセテートフィルム(CAF51)について、前記セルロースアセテートフィルム(CAF1)と同様にして、鹸化処理、偏光板加工を行い、実施例3と同様の評価をおこなった。
本発明のセルロースアセテートフィルム(CAF41〜46)を用いた液晶表示装置は比較例のセルロースアセテートフィルム(CAF51)を用いた液晶表示装置に対して、35℃80%RHの温湿度条件下に500時間連続点灯してもムラの発生面積が少なく好ましかった。
特に、残量溶剤含量160%における貧溶剤の比率がドープにおける貧溶剤の比率に対して1.1倍以上の配向調節剤を使用して作製したフィルムを使用した液晶表示装置はほとんどムラが視認されず特に好ましかった。
【図面の簡単な説明】
【0203】
【図1】本発明の偏光板と機能性光学フィルムとを複合した構成の一例を説明するための断面図である。
【図2】本発明の偏光板が使用された液晶表示装置の一例を説明するための図である。
【図3】本発明の偏光板が使用されたVAモード液晶表示装置の一例を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0204】
1、1a、1b:保護フィルム
2:偏光子
3:機能性光学フィルム
4:粘着層
5:偏光板
6:上偏光板
7:上偏光板吸収軸
8:上光学異方性層
9:上光学異方性層配向制御方向
10:液晶セル上電極基板
11:上基板配向制御方向
12:液晶分子
13:液晶セル下電極基板
14:下基板配向制御方向
15:下光学異方性層
16:下光学異方性層配向制御方向
17:下偏光板
18:下偏光板吸収軸
30:上側偏光板
31:VAモード液晶セル
32:下側偏光板
33:セルロースアシレートフィルム
34:偏光子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記数式(1)で表されるフィルムの厚み方向におけるポリマー分子鎖の面外配向度変動率が15%以上80%以下であることを特徴とするポリマーフィルム。
数式(1):面外配向度変動率=100×(面外配向度最大値−面外配向度最小値)/面外配向度の厚み方向平均値
【請求項2】
下記数式(2)で表される波長590nmにおける面内レターデーションReの変動率が20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーフィルム。
数式(2):Re変動率=100×(Re最大値−Re最小値)/Re平均値
【請求項3】
フィルム表面から深さ10μmまでの領域のポリマー分子鎖の面外配向度のうち、大きい方の値をPs、フィルムの厚み方向中央部のポリマー分子鎖の面外配向度をPcとして、PsとPcが下記数式(3)の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のポリマーフィルム。
数式(3):1.15≦Ps/Pc≦2.00
【請求項4】
前記PsとPcが下記数式(4)の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のポリマーフィルム。
数式(4):0.50≦Ps/Pc≦0.95
【請求項5】
波長590nmの光における面内レターデーションRe、及び厚み方向のレターデーションRthが、下記数式(5)〜(7)の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリマーフィルム。
数式(5):20≦Re≦200
数式(6):70≦Rth≦400
数式(7):1≦Rth/Re≦10
【請求項6】
フィルムの厚みが20μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項7】
ポリマーと溶剤を含み、ゲル化点が−15℃以下であるドープを支持体上に流延し、乾燥後支持体より剥ぎ取り、剥ぎ取ったフィルムを延伸することを含むポリマーフィルムの製造方法において、延伸開始時の下記数式(8)で表される残留溶剤含量が20%以上140%以下であり、延伸速度が5%/min以上100%/min以下であることを特徴とするポリマーフィルムの製造方法。
数式(8):(残留溶剤含量(質量%))=100×{(フィルム質量(g))−(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))}/(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))
【請求項8】
ポリマーと該ポリマーの貧溶剤および良溶剤とを含み、ゲル化点が−15℃以下であるドープを支持体上に流延し、乾燥後支持体より剥ぎ取り、剥ぎ取ったフィルムを延伸することを含むポリマーフィルムの製造方法において、前記数式(8)で表される残留溶剤含量が160%となる時点における、全溶剤に対する貧溶剤の比率が、ドープにおける全溶剤に対する貧溶剤の比率の1.2倍以上であることを特徴とする請求項7に記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項9】
ポリマーと溶剤を含み、ゲル化点が−10℃以上であるドープを支持体上に流延し、乾燥後支持体より剥ぎ取り、剥ぎ取ったフィルムを延伸することを含むポリマーフィルムの製造方法において、延伸開始時の下記数式(8)で表される残留溶剤含量が20%以上140%以下であり、延伸速度が5%/min以上100%/min以下であることを特徴とするポリマーフィルムの製造方法。
数式(8):(残留溶剤含量(質量%))=100×{(フィルム質量(g))−(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))}/(120℃2時間乾燥後のフィルム質量(g))
【請求項10】
請求項7または8の方法により製造されたことを特徴とする請求項1〜3、5、6のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項11】
請求項9の方法により製造されたことを特徴とする請求項1、2、4〜6のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項12】
前記ポリマーフィルムが、セルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項1〜6、10、11のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項13】
偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板において、該保護フィルムの少なくとも1枚が、請求項1〜6、10〜12のいずれかに記載のポリマーフィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項14】
液晶セルおよびその両側に配置された2枚の偏光板を有し、その少なくとも1枚の偏光板が請求項13に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−120071(P2008−120071A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256684(P2007−256684)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】