説明

ポリマーフィルムおよび位相差フィルムならびにこれらの製造方法

【課題】 高度な膜厚の均一性および優れた光学的特性を備えた位相差フィルムを提供すること。
【解決手段】 第1の溶剤に第2の溶剤を混合して混合溶剤を得る工程;該混合溶剤にセルロースアシレートを混合してセルロースアシレート溶液を得る工程;および該セルロースアシレート溶液をキャストする工程、を包含するセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供する。このセルロースアシレートフィルムの製造方法において、第1の溶剤はセルロースアシレートに対して良溶剤でありかつ該混合溶剤全体の85〜98重量%であり、第2の溶剤はアルコールでありかつ該混合溶剤全体の2〜15重量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルを含有するポリマーフィルムおよびその製造方法に関するものであり、より詳細には、本発明は、液晶表示用装置などに利用可能なセルロースアシレートフィルムおよび該セルロースアシレートフィルムを用いて形成される位相差フィルムならびにこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムは液晶表示装置などの表示装置に広く使用されている。位相差フィルムとしては、一般に、ポリカーボネートまたは環状ポリオレフィンからなるポリマーフィルムが使用されている。
【0003】
ポリマーフィルムを位相差フィルムなどの光学用フィルムとして用いる場合、フィルム面内の光学的均一性が重要であるため、厚みばらつきの少ないフィルムが特に要求されている。例えば、フィルムの表面に微小な凹凸が存在すると、このような凹凸部分がレンズとして作用し、その結果、画像の歪みが生じる。また、フィルム表面の凹部分と凸部分との間で位相差が異なるため、フィルム全体における位相差のばらつきが生じる。このように、フィルムの微少な厚みばらつきでさえ、位相差フィルムなどの光学用フィルムの欠点となる。特に、大型の液晶表示装置に用いる大面積の位相差フィルムにおいては、大画面において均一な表示を行うために、フィルムの厚みばらつきはさらに微少でなければならない。
【0004】
高輝度のバックライト下において均一な表示を得ることができる位相差フィルムとして、溶融押出法を用いて製膜される厚みばらつきの少ないフィルムが開示されている(特許文献1を参照のこと)。しかし、押出機の材料の押出口が有する凹凸を完全に取り除くことができないため、溶融押出法を用いて製膜したフィルムには、表面に条痕が生じ易い。フィルム表面の条痕は、フィルムの厚みばらつきを増大させる原因となる。このため、溶融押出法を用いて製膜したフィルムは、大面積の光学用フィルムには適していない。
【0005】
大面積の光学用フィルムを製膜するための優れた方法として、溶液流延製膜法が知られている。溶液流延製膜法では、流延(キャスティング)を行った溶液が流動することにより平らで滑らかな表面を形成しようとする性質(レベリング性)が重要である。樹脂を溶解させた溶液のレベリング性は、溶剤に対する樹脂の溶解性に影響を受けることが知られている。例えば、セルロース系の樹脂は単独の溶剤に対しては容易に溶解しないため、セルロース系の樹脂を含む溶液はレベリング性が低い。
【0006】
溶液流延製膜法を用いた、セルロース系のポリマーフィルムの製造方法が、これまでにいくつか報告されている。例えば、特許文献2には、溶液流延製膜法を行う際に、溶液を高速で流延し得かつ得られたセルロースフィルムを首尾よく剥離するための溶液として、塩素系溶剤にセルロースアシレートを溶解し、流延前の24時間以内にアルコールを添加して得られたセルロースアシレート溶液が開示されている。
【特許文献1】特開2005−128360号公報(平成17年5月19日公開)
【特許文献2】特開2003−170447号公報(平成15年6月17日公開)
【特許文献3】特開2000−137116号公報(平成12年5月16日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に記載の方法は、フィルムの厚みばらつきが全く考慮されていない。また、特許文献2に記載の方法では、多量のアルコールが添加されているために溶液がゲル化しやすく、その結果、溶液の保存性が低下する。このように、従来の溶液流延製膜法を用いて製膜するだけでは、大面積の光学用フィルムとして好適に用い得るような、厚みばらつきの少ないフィルムを製膜することはできない。
【0008】
上記課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高度な膜厚の均一性、かつ優れた光学的特性を備えた位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、セルロースアシレート樹脂、セルロースアシレート樹脂に対して良溶剤である有機溶剤、および特定量のアルコールを特定の順番にて混合した溶液を用いてセルロースアシレートフィルムを製造することにより上記課題を克服し得るということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るセルロースアシレートフィルムの製造方法は、第1の溶剤に第2の溶剤を混合して混合溶剤を得る工程;該混合溶剤にセルロースアシレートを混合してセルロースアシレート溶液を得る工程;および該セルロースアシレート溶液をキャストする工程、を包含し、第1の溶剤はセルロースアシレートに対して良溶剤でありかつ該混合溶剤全体の85〜98重量%であり、第2の溶剤はアルコールでありかつ該混合溶剤全体の2〜15重量%であることを特徴としている。
【0011】
特定量のアルコールを添加した溶剤を用いることにより、セルロースアシレートの溶解性が向上し、かつ調製した溶液におけるセルロースアシレートのゲル化が促進される。第1の溶剤(有機溶剤)、第2の溶剤(アルコール)、セルロースアシレートの順で溶解槽に投入することによりセルロースアシレートの溶解性がさらに向上する。セルロースアシレートの溶解性の向上およびゲル化の促進により、本発明は、高度な膜厚の均一性を有するセルロースアシレートフィルムを提供し得るという効果を奏する。
【0012】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムの製造方法において、上記アルコールは炭素原子数1〜4のアルコールであることが好ましい。
【0013】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムの製造方法において、第1の溶剤はメチレンクロライドであることが好ましい。
【0014】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムの製造方法において、上記セルロースアシレートは、セルロースの水酸基がアセチル基および炭素数3以上のアシル基により置換されたセルロースアシレートであり、該セルロースアシレートにおけるアセチル置換度(DSac)および炭素数3以上のアシル基の置換度(DSpr)は2.0≦DSac+DSpr≦3.0であり、かつ1.0≦DSpr<3.0であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係るセルロースアシレートフィルムにおいて、上記炭素数3以上のアシル基の置換度は上記アセチル基の置換度より大きいことがより好ましい。
【0016】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムは、上記の製造方法によって製造されたセルロースアシレートフィルムであることが好ましい。
【0017】
すなわち、本発明に係るセルロースアシレートフィルムは、セルロースアシレートに対して良溶剤でありかつ該混合溶剤全体の85〜98重量%である第1の溶剤に、アルコールからなりかつ該混合溶剤全体の2〜15重量%である第2の溶剤を混合し、得られた混合溶剤に、セルロースアシレートを混合して得られた溶液をキャストすることにより製造されたことを特徴としている。
【0018】
上述したように、本発明において、特定量のアルコールを添加した溶剤が使用されることにより、セルロースアシレートの溶解性が向上し、かつ調製した溶液におけるセルロースアシレートのゲル化が促進される。有機溶剤、アルコール、セルロースアシレートの順で溶解槽に投入することによりセルロースアシレートの溶解性がさらに向上する。セルロースアシレートの溶解性の向上およびゲル化の促進により、本発明に係るポリマーフィルムは、高度な膜厚の均一性を有するという効果を奏する。
【0019】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムにおいて、上記アルコールは炭素原子数1〜4のアルコールであるが好ましい。
【0020】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムにおいて、第1の溶剤はメチレンクロライドであることが好ましい。
【0021】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムにおいて、上記セルロースアシレートは、セルロースの水酸基がアセチル基および炭素数3以上のアシル基によって置換されたセルロースアシレートであり、アセチル置換度(DSac)および炭素数3以上のアシル基の置換度(DSpr)は2.0≦DSac+DSpr≦3.0であり、かつ1.0≦DSpr<3.0であることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係るセルロースアシレートフィルムにおいて、上記セルロースアシレートが、アセチル基および炭素数3以上のアシル基により置換されている場合、炭素数3以上のアシル基の置換度は、アセチル基の置換度よりも大きいことが好ましい。
【0023】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、上記のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一軸方向に延伸または収縮する工程を包含することが好ましい。
【0024】
本発明に係る位相差フィルムは、上記の製造方法によって製造された位相差フィルムであることが好ましい。
【0025】
すなわち、本発明に係る位相差フィルムは、上記のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一軸方向に延伸または収縮してなることが好ましい。
【0026】
本発明に係る位相差フィルムは、波長λnmにおける正面位相差Re(λ)がRe(441.6)<Re(514.5)<Re(632.8)を満たすことが好ましい。
【0027】
本発明に係る位相差フィルムは、Re(514.5)が5〜1000nmであり、かつ光弾性係数が20×10−12/N以下であることが好ましい。
【0028】
本発明に係る位相差フィルムは、厚みばらつきが0.05μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、高度な膜厚の均一性を有し、かつ光学的特性に優れた位相差フィルムを製造することができる。特に、本発明に係るフィルムは、大画面においても均一な表示を行うことが可能な液晶ディスプレイに適用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、膜厚の均一性に優れたセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法を提供する。本発明に係るセルロースアシレートフィルムの製造方法は、第1の溶剤に第2の溶剤を混合して混合溶剤を得る工程;該混合溶剤にセルロースアシレートを混合してセルロースアシレート溶液を得る工程;および、該セルロースアシレート溶液をキャストする工程、を包含し、第1の溶剤はセルロースアシレートに対して良溶剤でありかつ該混合溶剤全体の85〜98重量%であり、第2の溶剤はアルコールでありかつ該混合溶剤全体の2〜15重量%であることを特徴としている。
【0031】
すなわち、本発明に係るセルロースアシレートフィルムは、セルロースアシレートに対して良溶剤である第1の溶剤にアルコールからなる第2の溶剤を混合して得られた混合溶剤に、セルロースアシレートを混合して得られた溶液をキャストすることにより製造され、ここで、第1の溶剤は混合溶剤全体の85〜98重量%であり、第2の溶剤は混合溶剤全体の2〜15重量%であることを特徴としている。このように、本発明においてキャストされる溶液は、第1の溶剤、第2の溶剤、セルロースアシレートの順に溶解槽に投入することにより調製されることを特徴としている。
【0032】
本発明において使用されるセルロースアシレートは、セルロースの水酸基がアシル基によって置換されたものであり、具体的にはセルロースの水酸基がホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基またはバレリル基によって置換されたものである。すなわち、本発明において好適に使用されるセルロースアシレートとしては、セルロースホルミレート、セルロースアセテート、セルロールプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースイソブチレートおよびセルロースバレリレート、ならびにセルロースホルミレートプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースブチレートイソブチレートおよびセルロースイソブチレートバレリレートなどのような複数種のアシル基を有するものが挙げられる。セルロースアセテートまたはセルロースアセテートプロピオネートは安価に製造できるため、本発明において使用されるに特に好ましい。また、当業者であれば、本発明において使用されるセルロースアシレートが、セルロース1分子における全ての水酸基がアシル基によって置換されたセルロースアシレートに限定されないことが容易に理解できる。
【0033】
セルロース分子はグルコースを基本単位として構成され、グルコースはそれぞれ3つの水酸基を有する。本明細書中では、セルロースアシレートが有しているアシル基の量を表すために、用語「置換度」を用いて、基本単位であるグルコースの3つの水酸基のうち、セルロース1分子で平均してどの程度アシル基に置換されているのかを示す。すなわち、本明細書中で使用される場合、セルロースアシレートにおけるアシル基の置換度は0より大きく3以下である。
【0034】
本明細書中において使用される場合、「DSpr」は、炭素数3以上のアシル基の置換度の合計が意図される。例えば、DSprは、プロピオニル基(炭素数3)の置換度、ブチリル基(炭素数4)の置換度、イソブチリル基(炭素数5)の置換度、バレリル基(炭素数5)の置換度などを含み得る。
【0035】
本発明において好適に使用されるセルロースアシレートは、特定のアシル基によって置換されており、該アシル基の置換度が特定の範囲内であることが好ましい。上記特定のアシル基は、アセチル基および炭素数3以上のアシル基であることがより好ましい。具体的には、上記セルロースアシレートの水酸基が、アセチル基およびプロピオニル基により置換されている場合を例に挙げて、以下に説明すると、アセチル置換度(DSac)およびプロピオニル置換度(DSpr)が、
次の(I)式:
2.0≦DSac+DSpr≦3.0 (I)
および(II)式:
1.0≦DSpr<3.0 (II)
を満たすセルロースアシレートが好ましい。
【0036】
セルロースアシレートのアセチル置換度(DSac)およびプロピル置換度(DSpr)は、A.Blumstein,J.Asrar,R.B.Blumstein Liq.Cryst.Ordered Fluids 4.311(1984)に記載の水素核についての核磁気共鳴(H−NMR:H−nuclear magnetic resonance)によるセルロースアセテートの置換度の測定方法を応用することにより求めることができる。以下に測定方法を具体的に説明する。
【0037】
以下の式:
【0038】
【化1】

【0039】
で定義されるセルロース骨格中のプロトンをH−NMRによりスペクトルを検出すると、各プロトンのスペクトルは、結合している原子または結合している数などにより異なる複数のピークを有するグラフとして表わされる。ここで、グラフ中のピークの内、0.8〜1.4ppm、2.0〜2.5ppmおよび3.0〜5.4ppmの範囲にあるピーク領域を、それぞれ領域A、領域Bおよび領域Cとする。このとき、テトラメチルシラン(TMS)基準において、下線aを付したH(以下Ha)は領域A、下線bを付したH(以下Hb)および下線cを付したH(以下Hc)は領域B、1位〜6位の炭素に結合している各H(以下それぞれH1〜H6)は領域Cにそれぞれ帰属される。
【0040】
領域A、領域B、領域Cのピーク群の面積をそれぞれA、B、Cとしたとき、
A=Ha
B=2Hb+3Hc
C=H1+H2+H3+H4+H5+2H6
が成立する。
−OCOCHCH/OCOCH/OH=x/y/zとすると、上式は
3x=A
2x+3y=B
x+y+z=3C/7
と置き換えることができ、x/y/zからDSac、DSprを求める事が出来る。
【0041】
上述の測定方法を用いれば、セルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度およびプロピオニル置換度を測定することができる。また、同様の測定方法を、炭素数4以上のアシル基によって置換されたセルロースアシレートにおけるアシル基の置換度の測定にも適用することができる。H−NMRにより検出されるセルロース骨格中の各プロトンのスペクトルを示すグラフにおいて示されるピークは、置換基がプロピオニル基である場合と炭素数4以上のアシル基である場合との間で異なるので、ピークの面積を算出する式がそれぞれの場合において異なる。しかし、当業者であれば、ピークの違いに応じて上記測定方法を適宜変更することができるので、炭素数4以上のアシル基の置換度を容易に測定することができる。
【0042】
(I)式について、以下に説明する。
【0043】
セルロース分子は、基本単位であるD−グルコースがβ−1,4結合して直鎖状につながった多糖である。(I)式において使用されるDSac+DSprは、このD−グルコース分子中の2位、3位および6位に存在する3個の水酸基が、セルロース分子において平均してどれだけエステル化されているかを表し、それぞれの位置の置換度は均等であっても、いずれかの位置に偏っていてもよい。
【0044】
「置換度=3」は、セルロース分子中の全ての水酸基がエステル化されていることを示す。セルロース分子中の全ての水酸基がアセチル基または炭素数3以上のアシル基のいずれかでエステル化された、DSac+DSpr=3のセルロースアシレートからなるフィルムを一軸延伸すると、延伸方向と直交する方向が遅相軸となる負の光学異方性を有する位相差フィルムとなる。このフィルムの位相差の波長依存性は、長波長であるほど位相差(絶対値)が小さい傾向を示す。
【0045】
DSac+DSprを3より小さくしていくと、延伸による位相差の発現のしやすさは低下し、約2.8〜2.9で延伸しても位相差が殆ど出ないフィルムとなり、さらにDSac+DSprを小さくすると、延伸方向が遅相軸となり、正の光学異方性の位相差フィルムとなる。これに伴い、位相差の波長依存性は、長波長であるほど位相差(絶対値)が大きい傾向を示し、DSac+DSprをさらに小さくすると、この傾向は失われていき、波長に依らずに一定の位相差を示すようになる。このような波長に依らずに一定の位相差を示すDSac+DSprは、DSacとDSprの比によって異なるが、概ね2.0〜2.3の範囲にある。
【0046】
以上の理由により、DSac+DSprは3を超えることはなく、また、位相差の波長依存性の観点から、2以上が適当である。DSac+DSprのより好ましい数値範囲は2.3以上かつ2.9以下であり、さらに好ましくは2.5以上かつ2.8以下である。
【0047】
次いで、(II)式について、以下に説明する。
【0048】
波長依存性の観点によれば、特許文献4に開示されているように、セルロース分子中の水酸基を、アセチル基で置換しても炭素数3以上のアシル基で置換しても目的を達成することができる。しかしながら、溶液流延製膜法で厚みばらつきの少ないフィルムを製膜するためには、高濃度溶液の調製が可能であることが望まれ、さらには、単独の溶剤に高濃度で溶解することが望まれる。このような観点から、アセチル置換度(DSac)の高いセルロースアシレートよりも、炭素数3以上のアシル基の置換度(DSpr)の高いセルロースアシレートの方が遙かに溶剤に対する溶解性が高い。従って、本発明において使用されるセルロースアシレートは、炭素数3以上のアシル基の置換度が高いことが好ましく、炭素数3以上のアシル基の置換度がアセチル置換度より高いほうがより好ましい。具体的には、炭素数3以上のアシル基の置換度(DSpr)は、好ましくは1.0以上かつ3.0以下、より好ましくは2.0以上かつ2.9以下、更に好ましくは2.5以上かつ2.8以下である。
【0049】
本発明において使用されるセルロースアシレートは、既知の方法で製造することができる。例えば、セルロースを強苛性ソーダ溶液で処理してアルカリセルロースとし、これを酸無水物によりアシル化する。得られたセルロースアシレートの置換度はほぼ3であるが、これを加水分解することにより、目的の置換度を有するセルロースアシレートを製造することができる。また、アルカリセルロースのアシル化において反応させる無水酢酸とプロピオン酸無水物の比率を変える事により、目的のプロピオニル置換度を有する製造することができる。
【0050】
更に、本発明において使用されるセルロースアシレートは、アセチル基および炭素数3以上のアシル基以外の置換度を有していてもよい。例えば、ブチレート等のエステル基、アルキルエーテル基、アラアルキレンエーテル基等のエーテル基が挙げられる。
【0051】
本発明に用いられるセルロースアシレートの好ましい数平均分子量は5,000〜100,000であり、より好ましくは10,000〜70,000である。数平均分子量がこの範囲を上回ると、溶剤に対する溶解性の低下、調製した溶液の粘度の上昇等の不利益が生じるため、溶液流延製膜法には適していない。さらに、熱成型を困難にする等の問題を生じる。一方、数平均分子量がこの範囲を下回ると、フィルムの機械的強度を低下させる傾向にあるため、実用化に適していない。
【0052】
溶液に対するセルロースアシレートの含有量は、好ましくは15重量%以上であり、より好ましくは19重量%以上であり、さらに好ましくは22重量%以上である。溶液に対する樹脂の含有量がこの範囲を下回ると、溶液粘度が低下するため、フィルムの機械的強度を低下させる。溶液に対する樹脂の含有量には、特に上限はないが、溶液粘度が高すぎると、溶液の流延時にシャークスキン等が生じてフィルムの平面性が損なわれる場合がある。このため、溶液に対する樹脂の含有量は40質量%以下が好ましい。
【0053】
本発明において用いられる有機溶剤〔第1の溶剤〕としては、セルロースアシレートを首尾よく溶解し得る溶剤であれば特に限定されない。好ましい有機溶剤としては、例えば、メチレンクロライド等の塩素系有機溶剤、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチルやプロピオン酸エチル等のエステル系溶剤が挙げられる。
【0054】
また、溶剤蒸発工程において、乾燥の効率化の観点から有機溶剤の沸点は100℃以下が好ましい。例えば、本発明に使用可能である有機溶剤としては、メチレンクロライド(沸点40.4℃)、アセトン(沸点56.3℃)、テトラヒドロフラン(沸点65℃)、1,3−ジオキソラン(沸点75℃)、酢酸エチル(沸点76.8℃)等が挙げられる。これらの溶剤のうち、溶解性に優れるメチレンクロライドが本発明において使用される有機溶剤として最も好ましい。有機溶剤は、全溶剤に対して85重量%以上含まれていることが好ましく、90重量%以上含まれていることがより好ましい。
【0055】
本発明において使用される溶剤は、上述した有機溶剤(第1の溶剤)に加えて、第2の溶剤(アルコール)を含むことを特徴としている。本発明において使用される溶剤に含まれるアルコールとしては、炭素原子数1〜4のアルコールが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、3−ブタノール等が挙げられる。これらのアルコールのうち、溶液の安定性、比較的低い沸点および高い乾燥性を有し、無毒性であることからエタノールが、本発明において使用される第2の溶剤として最も好ましい。
【0056】
第2の溶剤(アルコール)は、全溶剤に対して2重量%以上、15重量%以下含有されることが好ましく、3重量%以上、10重量%以下含有されることがより好ましい。本発明において使用される溶剤にアルコールが含有されていることにより、溶解工程において、溶剤に対する樹脂の溶解性の向上および溶液の流延工程においてレベリング性を向上させる。また、溶剤蒸発工程においては、有機溶剤の蒸発により溶液中のアルコールの比率が上昇し、ゲル化が促進される。溶液のゲル化の促進により、溶剤蒸発工程の初期段階において溶液はフィルムとしての形状を形成するため、膜厚の均一性に優れた位相差フィルムを製造することができる。
【0057】
本発明において使用される全溶剤に対するアルコール含有量が2重量%に満たない場合、アルコールは、溶剤に対する樹脂の溶解性の向上、溶液のゲル化促進にほとんど寄与しない。また、全溶剤に対するアルコール含有量が15重量%を上回る場合、ゲル化促進の効果が高すぎるため、溶液を放置するとゲル化が進行して溶液の粘度が上昇する。粘度が高い溶液は、膜厚の均一性に優れたフィルムの製造には不向きである。
【0058】
本発明おいて使用される溶液の溶解法は、セルロースアシレートを溶解させることができる方法であればよく、公知の溶解方法を用いることができる。例えば、常圧で行う方法、溶剤の沸点以下で行う方法、溶剤の沸点以上で加圧して行う方法、冷却溶解法で行う方法、高圧で行う方法等などが挙げられる。
【0059】
本発明において使用される溶液の好ましい粘度は1.0〜5.0Pa・sであり、より好ましくは1.5〜4.0Pa・sである。
【0060】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムは、フィルム形成時に存在する水分によるフィルム強度の低下を防止するために、フィルム化の際に用いられる樹脂、ペレット、溶剤などを予め乾燥させておいてもよい。本発明に係るセルロースアシレートフィルムはまた、可塑剤、劣化防止剤等などの添加剤をさらに含有してもよい。
【0061】
本発明において使用される可塑剤は、延伸などの加工特性または靱性を改善する目的で用いられる。好ましい可塑剤としては、例えば、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルなどが挙げられ、リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルフォスフェートおよびトリクレジルホスフェートなどが挙げられる。カルボン酸エステルとしては、例えば、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが挙げられ、フタル酸エステルとしては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジフェニルフタレートおよびジエチルヘキシルフタレートなどが挙げられる。クエン酸エステルとしては、O−アセチルクエン酸トリエチルおよびO−アセチルクエン酸トリブチルが挙げられる。その他のカルボン酸エステルとしては、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルなどが挙げられる。本発明において、フタル酸系またはリン酸系の可塑剤を用いることが好ましい。
【0062】
本発明において使用される劣化防止剤として、酸化による劣化を抑制する酸化防止剤、高温下での安定性を付与する熱安定剤、および/または紫外線による劣化を防止する紫外線吸収剤が使用され得る。また、塩素化した樹脂類および/または可塑剤に対して、分解により発生する遊離酸を吸収させる酸吸収剤が用いられ得る。劣化防止剤としては、可塑剤としても用い得るリン酸エステル化合物以外に、フェノール誘導体、エポキシ系化合物、アミン誘導体などが用いられる。フェノール誘導体としては、オクチルフェノール、ペンタフェノン、ジアミルフェノールなどが挙げられる。アミン誘導体としてはジフェニルアミンなどが挙げられる。
【0063】
本発明は、溶液流延製膜法(キャスト法)を用いてフィルムを成膜することを特徴としている。溶液流延製膜法に用いる好ましい支持体としては、ステンレス鋼のエンドレスベルト、ポリイミドフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのようなフィルム等が挙げられる。また、ポリイミドや二軸延伸ポリエチレンテレフタレートなどのフィルムを支持体として用いる場合は、支持体とセルロースフィルムとの付着性を首尾よく制御するために、支持体表面コーティングや放電処理を施してもよい。詳細には、コーティングや放電処理により、支持体とセルロースフィルムを適度に剥離できる程度に付着性を高めることができる。
【0064】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムを製造する際に、支持体に担持された状態で乾燥を行うことも可能であるが、必要に応じて、予備乾燥したフィルムを支持体から剥離し、さらに乾燥することもできる。フィルムの乾燥には、一般にフロート法、テンター法またはロール搬送法を利用することができる。フロート法の場合、フィルム自体が複雑な応力を受け、光学的特性の不均一が生じやすい。また、テンター法の場合、フィルム両端を支えているピンまたはクリップの距離により、溶剤乾燥に伴うフィルムの幅収縮と自重を支えるための張力を均衡させる必要があり、複雑な幅の拡縮制御を行う必要がある。一方、ロール搬送法の場合、安定なフィルム搬送のための張力は原則的にフィルムの流れ方向(MD方向)にかかるため、応力の方向を一定にしやすい。従って、フィルムの乾燥には、ロール搬送法を用いることが最も好ましい。また、溶剤の乾燥時にフィルムが水分を吸収しないよう、湿度を低く保った雰囲気中で乾燥することは、機械的強度および透明度の高いフィルムを得るには有効な方法である。
【0065】
本発明はまた、上述したセルロースアシレートフィルムを少なくとも一軸方向に延伸または収縮する工程を包含することを特徴とする位相差フィルムの製造方法を提供する。すなわち、本発明に係る位相差フィルムは、上記セルロースアシレートフィルムを少なくとも一軸方向に延伸または収縮してなることが好ましい。
【0066】
本発明に係る位相差フィルムを製造する際に、上記セルロースアシレートフィルムを少なくとも一軸方向に延伸または収縮する工程においては、フィルムを加熱しながら延伸、または収縮する方法を好適に用いることができる。延伸または収縮させる方法は特に限定されないが、自由端一軸延伸により、フィルムの製膜方向に延伸または収縮させる方法を好適に用いることができる。また、ポリマーフィルムの加熱温度は、フィルムのガラス転移温度(Tg)に対して、好ましくは(Tg−30)〜(Tg+30)℃の範囲、より好ましくは(Tg−20)〜(Tg+20)℃の範囲である。温度の上限は該ポリマーフィルムの融点未満であれば特に制限されない。
【0067】
液晶表示装置などに使用される位相差フィルムは、その透明性が重要となる。本発明に係る位相差フィルムの光線透過率は85%以上が好ましく、より好ましくは、90%以上である。また、本発明に係る位相差フィルムのヘイズは2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下である。
【0068】
本発明に係る位相差フィルムの厚みは、10μm〜500μmであり、好ましくは30μm〜300μmであり、さらに好ましくは50μm〜130μmである。フィルムの膜厚が上記範囲を超えると、溶液流延製膜法による生産性が劣る傾向にある。また、フィルムの膜厚が上記範囲を下回ると、フィルムのハンドリング性が劣るばかりでなく、延伸により十分な位相差を得られない場合がある。
【0069】
液晶表示装置などに使用される位相差フィルムは、その厚み均一性が重要となる。特に大面積の位相差フィルムを製造する場合には、より高度な厚み均一性が要求される。ここで、アンリツ株式会社製の触針式連続フィルム厚み計(フィルムシックネステスタKG601Bおよび電子マイクロメータK3001A)を用いてフィルムの厚みを測定する。D(m):フィルムの厚み(μm)、S:フィルムの厚みばらつき(μm)、IHA(m):テスタの触針の移動平均(μm)、IH(k):移動平均に対する厚み偏差(μm)とすると、フィルムの厚みばらつきSは、以下の式:
【0070】
【数1】

【0071】
【数2】

【0072】
【数3】

【0073】
によって求めることができる。本発明に係るポリマーフィルムの厚みばらつきは、0.05μm以下が好ましい。フィルムの厚みばらつきがこの値を上回ると、フィルム表面の凹凸がレンズの役割を果たすため、液晶表示装置に用いた時の画像の歪みの原因となる。また、位相差値はフィルムの複屈折と厚みの積により与えられるため、厚みばらつきは、フィルム面内における位相差値のばらつきの原因にもなる。
【0074】
本発明に係る位相差フィルムの正面位相差は、5nmを超え1000nmまでの間で目的に応じて適宜選択することができる。本明細書中で使用される場合、「正面位相差」とは、フィルム面内において最も屈折率の大きい方向における屈折率をnx、フィルム面内において最も屈折率の大きい方向と直交する方向の屈折率をny、フィルムの厚みをdとしたとき、以下の式:
(nx−ny)×d (VI)
で表される値を示している。また、「正面位相差」を単に「位相差」と記載する場合がある。特に、本発明フィルムを1/4波長板として使用する場合、波長514.5nmにおける位相差値は、好ましくは120〜155nm、より好ましくは125〜150nm、さらに好ましくは130〜145nmである。位相差がこの範囲にあれば、直線偏光を円偏光に変換することができ、本発明に係る位相差フィルムを反射型液晶表示装置などに好適に用いることができる。また、1/4波長板では位相差の波長依存性が重要となり、長波長であるほど高い位相差を有することが求められる。言い換えると、波長λnmにおける正面位相差Re(λ)はRe(441.6)<Re(514.5)<Re(632.8)であることが好ましい。位相差の波長依存性がこの範囲から外れた場合は、可視光領域の直線偏光をこのフィルムに入射した際、得られる偏光状態はある特定の波長では完全な円偏光が得られるものの、それ以外の波長では大きく円偏光から外れてしまうといった問題が生じる場合がある。
【0075】
本発明に係る位相差フィルムの光弾性係数は、20×10−12/N以下であることが好ましい。光弾性係数は、応力負荷を受けた時の複屈折の変化応力による位相値の変化の度合いを示している。液晶表示装置などに使用する位相差フィルムの光弾性係数が大きい場合、いくつかの問題点がある。例えば、液晶層または偏光板との貼合よって生じる貼りムラ、バックライトまたは外部からの熱を受けることによる構成材料間の熱膨張差、あるいは偏光フィルムの収縮等によって生じる応力に起因する位相差変化などが挙げられる。
【0076】
本発明に係る位相差フィルムを得るために、上記で得られたポリマーフィルムを公知の延伸方法により配向処理を行い(すなわち、少なくとも一軸方向に延伸または収縮させる)、均一な位相差を付与することができる。すなわち、本発明は、上記のポリマーフィルムを少なくとも一軸方向に延伸または収縮する工程を包含する位相差フィルムの製造方法を提供する。本方法に従えば、単一のポリマーフィルムのみからなる位相差フィルム、または単一のポリマーフィルムと他のポリマーフィルムを組み合わせてなる位相差フィルムを得ることができる。
【0077】
つまり、本発明の目的は、優れた膜厚の均一性を有し、かつ優れた光学的特性を有する位相差フィルムを提供することであり、該位相差フィルムを製造するために、セルロースアシレートを含有する単一のポリマーフィルムを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した可塑剤および/または溶剤の種類、ポリマーフィルム形成方法、延伸方法などの条件に依存するのではない。したがって、上記単一のポリマーフィルムのみからなる位相差フィルムだけでなく、上記単一のポリマーフィルムを少なくとも一軸方向に延伸または収縮し、その片面または両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を少なくとも一軸方向に加熱延伸または収縮処理して、フィルム製膜方向と直交する方向の収縮力を付与してなる位相差フィルムもまた本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0078】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0079】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0080】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
〔測定方法〕
本明細書中に記載の材料特性値などは、以下の評価法によって得られたものである。
【0082】
(1)位相差の波長依存性
位相差の測定には、顕微偏光分光光度計(オーク製作所製TFM−120AFT)を用いた。回転検光子法により異なる波長を有する3種類の単色光の各々がフィルムを通過する際に生じる位相差を測定した。上記3種類の単色光はそれぞれ、441.6nm、514.5nmまたは632.8nmの波長を有している。Re(441.6)、Re(514.5)またはRe(632.8)はそれぞれ、441.6nm、514.5nmまたは632.8nmの波長を有する単色光に対する位相差値を示している。測定した各々の位相差を比較することにより位相差の波長依存性を決定した。
【0083】
(2)光弾性係数
複屈折の測定には、顕微偏光分光光度計(オーク製作所製TFM−120AFT)を用いた。フィルムを幅1cmの短冊状に切断した。短冊状に切断したフィルムの内、最も面積の広い表面が光軸方向直交するように短冊状に切断したフィルムを配置した。そして、配置したフィルムの短辺側の一端を固定し、もう一端に対して500gの荷重をかけた。514.5nmの波長を有する単色光を測定光として、荷重をかけたフィルムの複屈折を測定した。単位応力当たりの複屈折の変化量を求めることにより、光弾性係数を算出した。
【0084】
(3)フィルムの厚みばらつき
フィルムの厚み測定には、アンリツ株式会社製の触針式連続フィルム厚み計(フィルムシックネステスタKG601Bおよび電子マイクロメータK3001A)を使用した。
【0085】
フィルムの製膜方向を長辺方向とし、200mmの長辺および30mmの短辺を有する長方形となるようフィルムを切り出した。切り出したフィルムの厚みをフィルムの幅方向に沿って連続的に測定した。測定された数値を1mm毎にサンプリングすることによりデータを得た。得られた各々のデータの平均値をフィルムの厚みD(m)とした。ここで、(III)、(IV)および(V)式より厚みばらつきSを求めることができる。
【0086】
〔実施例1〕
アセチル基の置換度が0.1、プロピオニル基の置換度が2.4、数平均分子量25,000であるセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製CAP482−20)220重量部、メチレンクロライド663重量部およびエタノール117重量部を用いた。これらをメチレンクロライド、エタノール、セルロースアセテートプロピオネートの順に溶解槽へ投入して溶解した。溶解槽において溶解させた溶液をガラス板上に流延した。ガラス板上に流延した溶液を70℃にて3分間、90℃にて5分間乾燥させることによりフィルムを作製した。作製したフィルムを152℃に設定した恒温槽内において一軸延伸にて95%延伸することにより厚み130μmの位相差フィルムを得た。
【0087】
〔実施例2〕
アセチル基の置換度が0.1、プロピオニル基の置換度が2.6、数平均分子量75,000であるセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製CAP482−20)220重量部、メチレンクロライド663重量部およびエタノール117重量部を用いた。これらをメチレンクロライド、エタノール、セルロースアセテートプロピオネートの順に溶解槽へ投入して溶解した。溶解槽において溶解させた溶液をガラス板上に流延した。ガラス板上に流延した溶液を70℃にて3分間、90℃にて5分間乾燥させることによりフィルムを作製した。作製したフィルムを150℃に設定した恒温槽内において一軸延伸にて95%延伸することにより厚み99μmの位相差フィルムを得た。
【0088】
〔実施例3〕
アセチル基の置換度が0.1、プロピオニル基の置換度が2.4、数平均分子量25,000であるセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製CAP482−20)220重量部、メチレンクロライド764.4重量部およびエタノール15.6重量部を用いて、実施例1と同様の手順に従って、位相差フィルムを得た。
【0089】
〔実施例4〕
アセチル基の置換度が0.1、プロピオニル基の置換度が2.6、数平均分子量75,000であるセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製CAP482−20)220重量部、メチレンクロライド663重量部およびイソプロパノール117重量部を用いた。これらをメチレンクロライド、イソプロパノール、セルロースアセテートプロピオネートの順に溶解槽へ投入して溶解した。溶解工程の後は、実施例2と同様の手順に従って、位相差フィルムを得た。
【0090】
〔比較例1〕
アセチル基の置換度が0.1、プロピオニル基の置換度が2.6、数平均分子量75,000であるセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製CAP482−20)220重量部、メチレンクロライド780重量部を用いた。これらをメチレンクロライド、セルロースアセテートプロピオネートの順に溶解槽へ投入して溶解した。溶解槽において溶解させた溶液をガラス板上に流延した。ガラス板上に流延した溶液を乾燥させることによりフィルムを作製した。作製したフィルムを152℃で95%延伸することにより位相差フィルムを得た。
【0091】
〔比較例2〕
アセチル基の置換度が0.1、プロピオニル基の置換度が2.6、数平均分子量75,000であるセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製CAP482−20)220重量部、メチレンクロライド624重量部およびエタノール156重量部を用いた。これらをメチレンクロライド、エタノール、セルロースアセテートプロピオネートの順に溶解槽へ投入した。溶解槽に未溶解のセルロースアセテートプロピオネートが残存しており、均一なフィルムを得ることができなかった。
【0092】
〔比較例3〕
溶解工程において、エタノール、セルロースアセテートプロピオネート、メチレンクロライドの順で溶解槽に投入して溶解した以外は、実施例1と同様の材料および手順に従って位相差フィルムを得た。
【0093】
〔比較例4〕
アセチル基の置換度が0.03、プロピオニル基の置換度が1.9、数平均分子量15,000であるセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製CAP504−0.2)60重量部、メチレンクロライド289重量部、エタノール51重量部を用いた。これらを、メチレンクロライド、エタノール、セルロースアセテートプロピオネートの順に溶解槽へ投入して溶解した。溶解槽において溶解させた溶液をガラス板上に流延した。ガラス板上に流延した溶液を乾燥させることによりフィルムを作製した。作製したフィルムを160℃で95%延伸することにより厚み70μmの位相差フィルムを得た。
【0094】
〔結果〕
実施例1〜4において得られたフィルムの厚み、厚みばらつき、Re(441.6)、Re(514.5)、Re(632.8)および光弾性係数を表1Aに示した。また、比較例1、2および4において得られたフィルムの厚み、厚みばらつき、Re(441.6)、Re(514.5)、Re(632.8)および光弾性係数を表1Bに示した。
【0095】
【表1】

【0096】
以上の結果より、実施例1〜4において得られたフィルムはいずれも、厚みばらつきが0.02μm以下であった。また、いずれのフィルムもRe(441.6)<Re(514.5)<Re(632.8)を満たしてことから、実施例1〜4において得られたフィルムは、長波長であるほど位相差が大きくなるような波長依存性を有し、かつ光弾性係数も低いということがわかった(表1A)。このことから、実施例1〜4において得られたフィルムは、厚みばらつきが少なく、かつ優れた光学的特性を有する位相差フィルムである。
【0097】
比較例1〜3において得られたフィルムはいずれも、厚みばらつきが0.06μm以上であった。特に比較例2において得られたフィルムは、樹脂の溶解が不十分であった。比較例4において得られたフィルムは、厚みばらつきが少なかった(0.01μm)が、Re(441.6)<Re(514.5)<Re(632.8)を満たしておらず、光弾性係数も高かった(表1B)。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明を用いれば、厚みばらつきの少ない、大面積の位相差フィルムを提供することができる。さらに、上記の位相差フィルムは、可視光領域において長波長であるほど高い位相差を有する単一フィルムからなるポリマーフィルムから構成されているので、液晶表示装置などの表示装置において幅広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートフィルムの製造方法であって、
第1の溶剤に第2の溶剤を混合して混合溶剤を得る工程;
該混合溶剤にセルロースアシレートを混合してセルロースアシレート溶液を得る工程;および
該セルロースアシレート溶液をキャストする工程
を包含し、
第1の溶剤はセルロースアシレートに対して良溶剤でありかつ該混合溶剤全体の85〜98重量%であり、
第2の溶剤はアルコールでありかつ該混合溶剤全体の2〜15重量%である
ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記アルコールが炭素原子数1〜4のアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第1の溶剤がメチレンクロライドであることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記セルロースアシレートは、セルロースの水酸基がアセチル基および炭素数3以上のアシル基によって置換されたセルロースアシレートであり、該セルロースアシレートにおけるアセチル置換度(DSac)および炭素数3以上のアシル基の置換度(DSpr)が2.0≦DSac+DSpr≦3.0であり、かつ1.0≦DSpr<3.0であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一軸方向に延伸または収縮する工程を包含することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする位相差フィルム。
【請求項8】
波長λnmにおける正面位相差Re(λ)がRe(441.6)<Re(514.5)<Re(632.8)を満たすことを特徴とする請求項7に記載の位相差フィルム。
【請求項9】
Re(514.5)が5〜1000nmであり、かつ光弾性係数が20×10−12/N以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の位相差フィルム。
【請求項10】
厚みばらつきが0.05μm以下であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の位相差フィルム。

【公開番号】特開2007−230104(P2007−230104A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55391(P2006−55391)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】