説明

ポリ乳酸樹脂用可塑剤、ポリ乳酸樹脂組成物及びポリ乳酸樹脂成形体

【課題】低い金型温度でも優れた成形性のポリ乳酸樹脂組成物を調製することができ、またかかる組成物から優れた耐熱性、耐衝撃性及び耐ブリード性のポリ乳酸樹脂成形体を得ることができるポリ乳酸樹脂用可塑剤、かかる可塑剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物及びかかる樹脂組成物を成形して得られるポリ乳酸樹脂成形体を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂用可塑剤として、特定の硬化ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物及び/又はその誘導体を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸樹脂用可塑剤、ポリ乳酸樹脂組成物及びポリ乳酸樹脂成形体に関する。近年、自然環境保護の見地から、自然環境のなかで分解する生分解性樹脂が注目され、なかでも農産物を原料とする製造技術が確立している上、溶融成形性や耐熱性に優れるため、ポリ乳酸樹脂が最も注目されている。しかし、ポリ乳酸樹脂は、もともと脆く、硬く、可撓性に欠ける特性のため、その利用は硬質成形品の分野に限られ、射出成形体等で成形される軟質又は半硬質の分野にまでは広がっていないのが現状である。またポリ乳酸樹脂は結晶化速度が遅く、その成形品は通常非晶状態となり、しかもガラス転移温度(Tg)が60℃と低く、その成形品は耐熱性に劣るというのが現状である。本発明は、ポリ乳酸樹脂の利用を、軟質又は半硬質の分野にまで問題なく広げることができるポリ乳酸樹脂用可塑剤、かかる可塑剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物及びかかる組成物を成形して得られるポリ乳酸樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ乳酸樹脂を含有する組成物から得られる成形品の柔軟性を向上させるため、可塑剤を用いる方法が知られており(例えば特許文献1及び2参照)、またポリ乳酸樹脂を含有する組成物から得られる成形品の耐熱性を向上させるため、結晶核剤を用いて結晶化させる方法が知られている(例えば特許文献3及び4参照)。しかし、これらの従来法では、ポリ乳酸樹脂を含有する組成物の成形性、かかる組成物から得られる成形品の耐熱性や耐衝撃性等が依然として不充分という問題があり、更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−335060号公報
【特許文献2】特開平11−241008号公報
【特許文献3】WO2005/068554号公報
【特許文献4】WO2005/097894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、低い金型温度でも優れた成形性のポリ乳酸樹脂組成物を調製することができ、またかかる組成物から優れた耐熱性、耐衝撃性及び耐ブリード性のポリ乳酸樹脂成形体を得ることができるポリ乳酸樹脂用可塑剤、かかる可塑剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物及びかかる組成物を成形して得られるポリ乳酸樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、ポリ乳酸樹脂用の可塑剤として特定の硬化ヒマシ油誘導体を用いることが、正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記の化1で示される硬化ヒマシ油誘導体から成ることを特徴とするポリ乳酸樹脂用可塑剤に係る。また本発明は、かかる可塑剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物及びかかる組成物を成形して得られるポリ乳酸樹脂成形体に係る。


【0007】
【化1】

【0008】
化1において、
,R,R:水素原子、炭素数1〜20の脂肪族アシル基又は分子中に炭素数2〜4のオキシアルキレン単位で構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する炭素数2〜200の(ポリ)オキシアルキレングリコールから一方の水酸基を除いた残基(但し、R〜Rのうちで少なくとも一つは炭素数2〜22の脂肪族アシル基)
,R,R:分子中に炭素数2〜4のオキシアルキレン単位で構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する炭素数2〜200の(ポリ)オキシアルキレングリコールからすべての水酸基を除いた残基
p,q,r:0又は1の整数(但し、p〜rのうちで少なくとも一つは1)
【0009】
先ず、本発明に係るポリ乳酸樹脂用可塑剤(以下、単に本発明の可塑剤という)について説明する。本発明の可塑剤は、前記したように化1で示される硬化ヒマシ油誘導体から成るものである。化1で示される硬化ヒマシ油誘導体には、1)硬化ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物、2)硬化ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物のモノエステル、3)硬化ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物のジエステル、4)硬化ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物のトリエステル等が挙げられるが、なかでも硬化ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物のモノエステル、硬化ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物のジエステル、硬化ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物のトリエステルが好ましい。これらは、1種を用いても、又は2種以上を用いてもよい。
【0010】
化1中のR、R及びRは、1)水素原子、2)アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、ヘキサデセノイル基、オクタデセノイル基、エイコセノイル基等の炭素数2〜22の脂肪族アシル基、又は3)分子中にオキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位等の炭素数2〜4のオキシアルキレン単位で構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する炭素数2〜200の(ポリ)オキシアルキレングリコールから一方の水酸基を除いた残基である。但し、R〜Rのうちで少なくとも一つは、炭素数2〜22の脂肪族アシル基である。なかでもR〜Rとしては、水素原子又はアセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、ヘキサデセノイル基、オクタデセノイル基、エイコセノイル基等の炭素数2〜22の脂肪族アシル基が好ましい。
【0011】
また化1中のR、R及びRは、分子中にオキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位等の炭素数2〜4のオキシアルキレン単位で構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する炭素数2〜200の(ポリ)オキシアルキレングリコールからすべての水酸基を除いた残基であり、p、q及びrは0又は1の整数である。但し、p〜rのうちで少なくとも一つは1である。なかでもR〜Rとしては、分子中にオキシエチレン単位及び/又はオキシプロピレン単位で構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する炭素数2〜200の(ポリ)オキシアルキレングリコールからすべての水酸基を除いた残基が好ましく、分子中にオキシエチレン単位及び/又はオキシプロピレン単位で構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する炭素数2〜100の(ポリ)オキシアルキレングリコールからすべての水酸基を除いた残基がより好ましい。
【0012】
次に、本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物(以下、単に本発明の組成物という)及びポリ乳酸樹脂成形体(以下、単に本発明の成形体という)について説明する。本発明の組成物は、ポリ乳酸樹脂と前記した本発明の可塑剤とを含有して成るものであるが、更に有機核剤及び/又は無機充填剤を含有して成るものが好ましい。
【0013】
本発明の組成物に供する本発明の可塑剤、有機核剤及び無機充填剤の含有量について特に制限はないが、ポリ乳酸樹脂100質量部当たり本発明の可塑剤を1〜30質量部の割合で含有するものが好ましく、ポリ乳酸樹脂100質量部当たり本発明の可塑剤を1〜30質量部及び有機核剤を0.01〜10質量部の割合で含有して成るものがより好ましく、ポリ乳酸樹脂100質量部当たり本発明の可塑剤を1〜30質量部、有機核剤を0.01〜10質量部及び無機充填剤を1〜30質量部の割合で含有して成るものが特に好ましい。
【0014】
本発明の組成物に供する有機核剤の種類について特に制限はなく、これにはアミド化合物、脂肪酸エステル化合物、アミド化合物の金属塩、ヒドラジド化合物、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、フェニルホスホン酸金属塩、リン酸エステル金属塩、メラミン化合物、ウラシル類、尿素類等が挙げられるが、なかでもフェニルホスホン酸金属塩、芳香族カルボン酸アミドの金属塩、芳香族スルホン酸ジアルキルエステル金属塩、リン酸エステル金属塩、ロジン酸類の金属塩、ロジン酸アミド、カルボヒドラジド類、N−置換尿素類、メラミン化合物の塩及びウラシル類から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、フェニルホスホン酸金属塩、芳香族スルホン酸ジアルキルエステル金属塩がより好ましい。
【0015】
また本発明の組成物に供する無機充填剤の種類について特に制限はなく、これには通常熱可塑性樹脂の強化に用いられる繊維状、板状、粉末状のものを用いることができる。具体的には、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、アスベスト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硼素繊維及び硼素繊維等の繊維状無機充填剤、ガラスフレーク、非膨潤性雲母、膨潤性雲母、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、有機変性ベントナイト、モンモリロナイト、有機変性モンモリロナイト、ドロマイト、スメクタイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバーン、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト及び白土等の板状や粒状の無機充填剤が挙げられるが、なかでも炭素繊維、ガラス繊維、ワラステナイト、タルク、マイカ及びカオリンから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、タルク、マイカがより好ましい。
【0016】
本発明の組成物に供するポリ乳酸樹脂の光学純度について特に制限はないが、なかでもL−乳酸又はD−乳酸の光学純度が80〜100%の範囲にあるものが好ましく、96〜100%の範囲にあるものがより好ましい。本発明の組成物に供するポリ乳酸樹脂としては、前記した光学純度の双方の混合物からなるステレオコンプレックスポリ乳酸を用いることもできる。この場合、その混合比は、L−乳酸単位が豊富なポリ乳酸(PLLA)とD−乳酸単位が豊富なポリ乳酸(PDLA)が、(PLLA)/(PDLA)=10/90〜90/10(重量比)の範囲にあるものを用いることができる。ステレオコンプレックスポリ乳酸を構成する各ポリ乳酸(PLLA及びPDLA)に使用することができる乳酸以外の共重合成分としては、分子中に2個以上の官能基を有するジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられ、また分子中に2個以上の未反応のカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有するポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0017】
ポリ乳酸樹脂の光学純度は、「ポリオレフィン等合成樹脂製食品容器包装等に関する自主基準 第3版改訂版 2004年6月追補 第3部 衛生試験法 P12−13」に記載のD体含有量の測定方法によって求めることができる。具体的には、ポリ乳酸樹脂の光学純度の測定方法は以下の通りである。
【0018】
すなわち、精製したポリ乳酸樹脂に水酸化ナトリウム/メタノールを加え、65℃に設定した水浴振とう器にセットして、樹脂分が均一溶液になるまで加水分解を行い、さらに加水分解が完了したアルカリ溶液に希塩酸を加えて中和し、その分解溶液を純水にて定溶した後、一定容量をメスフラスコに分液して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)移動相溶液により希釈し、pHが3〜7の範囲になるように調整してメスフラスコを定量し、メンブレンフィルター(0.45μm)によりろ過する。HPLCにてこの調整溶液のD−乳酸、L−乳酸を定量することによってポリ乳酸樹脂の光学純度を求めることができる。
【0019】
尚、HPLCの測定は以下の条件で行うことができる。
カラム:光学分割カラム(例えば、住化分析センター社製の商品名スミキラルOA6100(46mmφ×150mm、5μm))
プレカラム:光学分割カラム(例えば、住化分析センター社製の商品名スミキラルQA6100(4mmφ×10mm、5μm))
カラム温度:25℃
移動相:2.5%メタノール含有1.5mM硫酸銅水溶液
移動相流量:1.0ml/分
検出器:紫外線検出器(UV254μm)
注入量:20μl
【0020】
本発明の組成物に供するポリ乳酸樹脂それ自体は、公知の方法で合成できる。これには例えば、特開平5−48258号公報、特開平7−33861号公報、特開昭59−96123号公報、高分子討論会予稿集第44巻の3198−3199頁に記載されているような、1)乳酸を直接脱水縮合反応する方法、2)乳酸のラクチドを開環重合する方法等が挙げられる。前記1)の方法では、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸又はこれらの混合物のいずれの乳酸を用いてもよい。前記2)の方法では、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソ−ラクチド又はこれら混合物のいずれのラクチドを用いてもよい。原料のラクチドの合成、精製及び重合方法にも、公知の方法を適用できる。これには例えば、米国特許4057537号明細書、欧州特許出願公開第261572号明細書、Polymer Bulletin,14,491−495(1985)、Macromol.Chem.,187,1611−1628(1986)等に記載されている方法が挙げられる。
【0021】
本発明の組成物に供するポリ乳酸樹脂の質量平均分子量(ゲルパーミエーショクロマトグラフ分析によるポリスチレン換算値、以下同じ)に特に制限はないが、50000〜400000としたものが好ましく、100000〜200000としたものがより好ましく、110000〜200000としたものが特に好ましい。ポリ乳酸樹脂の質量平均分子量が50000未満では得られる成形体の強度や弾性率等の機械特性が不充分となり易く、質量平均分子量が高くなるほどこのような機械的特性が向上する傾向を示す。またポリ乳酸樹脂の質量平均分子量が400000以下であると、成形に都合の良い流動性を示す。
【0022】
本発明の組成物に供するポリ乳酸樹脂は、これに含まれる残存モノマーを5000mg/L以下としたものが好ましく、2000mg/L以下としたものがより好ましく、500mg/L以下としたものが特に好ましい。ポリ乳酸樹脂中の残存モノマー量が5000mg/Lを超えると、残存モノマーが加水分解の触媒として作用するため、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物、イソシアネート系化合物等の既知の加水分解抑制剤を添加してもその効果が充分に発揮されず、耐湿熱老化性及び耐熱性が不充分となり易い。ポリ乳酸中の残存モノマーは低くなるほど耐湿熱老化性及び耐熱性が向上する傾向を示す。
【0023】
本発明の組成物は、剛性、柔軟性、耐熱性、耐久性等の物性向上の観点から、その他の樹脂を含有することもできる。かかるその他の樹脂の具体例としては、合成樹脂としてはポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンスルフィド、ABS樹脂、AS樹脂、HIPS等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリアミド等を挙げることができる。これらは単独でもしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでもポリ乳酸樹脂との相溶性の観点から、分子中にエステル結合、カーボネート結合等のカルボニル基を含む結合を有する樹脂が好ましく、ABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートがより好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、合目的的に他の添加剤を含有することもできる。かかる他の添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、帯電防止剤、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌・抗カビ剤等が挙げられる。
【0025】
以上説明した本発明の組成物は、公知の方法で調製できる。これには例えば、1)粉末又はペレット状のポリ乳酸樹脂と、有機結晶核剤と、要すれば他の添加剤とを、同時にドライブレンドし、溶融混練した後、液体注入型の液体供給装置等にて本発明の可塑剤を添加して更に溶融混練する方法、2)粉末又はペレット状のポリ乳酸樹脂を溶融混練しつつ、サイドフィードにて有機結晶核剤と、要すれば他の添加剤を添加し、更に本発明の可塑剤を液体注入型の液体供給装置等にて添加する方法等が挙げられる。前記のドライブレンドの装置としては、ミルロール、バンバリーミキサー、スーパーミキサー等が挙げられる。また溶融混練機としては、単軸又は二軸の押出機等が挙げられる。溶融混練機の混練温度は、通常120〜240℃程度とする。ポリ乳酸樹脂の重合段階で、結晶核剤や要すれば他の添加剤を加えることもでき、また結晶核剤や要すれば他の添加剤を高濃度で含有するマスターバッチを作製しておき、これをポリ乳酸樹脂に加えることもできる。
【0026】
本発明に係るポリ乳酸樹脂成形体(以下、単に本発明の成形体という)は、前記した本発明の組成物を成形して得られるものである。成形方法に特に制限はないが、射出成形機等により本発明の組成物を140℃以下の金型に充填して成形する方法が挙げられる。金型温度は、30℃〜120℃とするのが好ましく、70℃〜110℃とするのがより好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の可塑剤を用いると、低い金型温度でも優れた成形性を示すポリ乳酸樹脂組成物を調製でき、またかかる組成物から優れた耐熱性、耐衝撃性及び耐ブリード性を有するポリ乳酸樹脂成形体を得ることができる。
【0028】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【実施例】
【0029】
試験区分1(ポリ乳酸樹脂用可塑剤の合成)
・実施例1(ポリ乳酸樹脂用可塑剤(A1)の合成)
エチレンオキサイド用の計量槽の付いた10Lの攪拌回転式オートクレーブ中に、硬化ヒマシ油を3000g及び水酸化カリウムを7.2g仕込み、窒素置換を行った後、120℃に昇温し、30.0kPaで1時間脱水を行った。次に、150℃に昇温し、エチレンオキサイドを3.0kg/cmの圧力で2959gオートクレーブ中に導入し、圧力が低下して一定になるまで反応させた。反応終了後、温度を低下させて合成したサンプルを抜き出した。抜き出したサンプルを10Lフラスコに移し、リン酸を加えて中和した後、脱水を行い、析出した塩を濾過して5950gの硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド付加物を得た。
【0030】
前記の硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド付加物2313g、オレイン酸702g、メタンスルホン酸25g及びジ亜リン酸7.5gを1Lのフラスコに仕込み、撹拌装置を用いて攪拌しながら反応温度120℃で1時間反応させ、更に145℃の減圧下で1時間熟成した。反応終了後、メタンスルホン酸及びオレイン酸を水酸化ナトリウム水溶液で中和し、生成した塩を水洗により除去した後、水分を減圧留去して、化1で示される硬化ヒマシ油誘導体(硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド付加物のオレイン酸ジエステル)を得た。この硬化ヒマシ油誘導体をポリ乳酸樹脂用可塑剤(A1)とした。
【0031】
・実施例2〜4(ポリ乳酸樹脂用可塑剤(A2〜A4)の合成)
実施例1のポリ乳酸樹脂用可塑剤(A1)の合成と同様にして、実施例2〜4のポリ乳酸樹脂用可塑剤(A2〜A4)を合成した。合成したポリ乳酸樹脂用可塑剤(A1〜A4)の内容を表1にまとめて示した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1において、
〜R:化1中の記号に相当(尚、A1〜A4のp、q及びrは1)
*1:炭素数14のポリオキシエチレングリコールから一方の水酸基を除いた残基
*2:炭素数33のポリオキシプロピレングリコールから一方の水酸基を除いた残基
*3:炭素数6のポリオキシエチレングリコールから一方の水酸基を除いた残基
*4:炭素数48のポリオキシエチレングリコールから一方の水酸基を除いた残基
A1:硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド付加物のオレイン酸ジエステル
A2:硬化ヒマシ油のプロピレンオキサイド付加物のラウリン酸トリエステル
A3:硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド付加物
A4:硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド付加物
【0034】
試験区分2(ポリ乳酸樹脂の合成)
・ポリ−L−乳酸樹脂(L1)の合成
L−ラクチド(武蔵野化学研究所社製)100部に、ステアリルアルコールを0.1部及びオクチル酸スズを0.005部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機中にて、190℃で2時間反応させた後、減圧して残存するラクチドを除去し、チップ化して、ポリ−L−乳酸樹脂(L1)を得た。得られたポリ−L−乳酸樹脂(L1)の質量平均分子量は13万、光学純度は98.6%、ガラス転移点(Tg)は60℃、融点は168℃であった。
【0035】
・ポリ−D−乳酸樹脂(L2)の合成
D−ラクチド(武蔵野化学研究所社製)100部に、ステアリルアルコールを0.1部及びオクチル酸スズを0.005部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機中にて、190℃で2時間反応させた後、減圧して残存するラクチドを除去し、チップ化して、ポリ−D−乳酸樹脂(L2)を得た。得られたポリ−D−乳酸樹脂(L2)の質量平均分子量は15万、光学純度は98.5%、ガラス転移点(Tg)は60℃、融点は167℃であった。
【0036】
・ポリ−L−乳酸樹脂(L3)の合成
L−ラクチド(武蔵野化学研究所社製)100部に、ステアリルアルコールを0.1部及びオクチル酸スズを0.005部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機中にて、190℃で2時間反応させた後、減圧して残存するラクチドを除去し、チップ化して、ポリ−L−乳酸樹脂(L3)を得た。得られたポリ−L−乳酸樹脂(L3)の質量平均分子量は18万、光学純度は95.5%、ガラス転移点(Tg)は60℃、融点は148℃であった。
【0037】
・ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂(L4)の合成
前記のポリ−L−乳酸樹脂(L1)50部、前記のポリ−D−乳酸樹脂(L2)50部及び二オクタデカン酸カルシウム0.5部を攪拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、250℃で溶融混練し、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂(L4)を得た。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂(L4)の質量平均分子量は16万、融点は217℃であった。
【0038】
試験区分3(ポリ乳酸樹脂組成物の調製)
実施例5(ポリ乳酸樹脂組成物(N−1)の調製)
前記のポリ―L―乳酸樹脂(L1)100部、有機核剤として5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウム塩0.9部及び無機充填剤としてタルク(日本タルク社製の商品名MicroAceP−6)10部をドライブレンドし、混合材料を得た。この混合材料をホッパーに投入して、200℃に設定された二軸混練押出機にて溶融混練し、更にポリ乳酸樹脂用可塑剤(A1)10部を液体注入型の液体供給装置から添加して溶融混練した後、口金よりストランド状に押出し、水で急冷してストランドを得た。このストランドをストランドカッターで切断して、ペレット状のポリ乳酸樹脂組成物(N−1)を得た。
【0039】
実施例6〜16及び比較例1〜7(ポリ乳酸樹脂組成物(N−2〜N−12、m−1〜m−7)の調製)
実施例5のポリ乳酸樹脂組成物(N−1)の調製と同様にして、実施例6〜16のポリ乳酸樹脂組成物(N−2)〜(N−12)及び比較例1〜7のポリ乳酸樹脂組成物(m−1)〜(m−7)を調製した。調製したポリ乳酸樹脂組成物(N−1〜N−12、m−1〜m−7)の内容を表2にまとめて示した。
【0040】
【表2】

【0041】
表2において、
使用量:質量部
L1:ポリ−L−乳酸樹脂(光学純度98.6%、重量平均分子量13万)
L2:ポリ−D−乳酸樹脂(光学純度98.5%、重量平均分子量15万)
L3:ポリ−L−乳酸樹脂(光学純度95.5%、重量平均分子量18万)
L4:ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂(PLLA光学純度98.6%、PDLA光学純度98.5%、PLLA/PDLA=50/50、重量平均分子量16万)
A1〜A4:表1に記載のもの
a1:ヒマシ硬化油(伊藤製油社製の商品名ヒマシ硬化油)
a2:ヒマシ油のエチレンオキサイド10モル付加物(伊藤製油社製の商品名SURFRIC CO−10)
a3:ジグリセリンテトラアセテート(理研ビタミン社製の商品名リケマールPL−710)
a4:グリセリンジアセトモノカプレート(理研ビタミン社製の商品名リケマールPL−019)
a5:ブチルアセチルリシノレート(伊藤製油社製の商品名リックサイザーC401)
B1:フェニルホスホン酸亜鉛(日産化学社製の商品名エコプロモート)
B2:5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウム塩
B3:オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド(アデカ社製の商品名T−1287N)
C1:タルク(日本タルク社製の商品名MicroAceP−6)
C2:マイカ(ヤマグチマイカ社製の商品名CS−325DC)
【0042】
試験区分4(ポリ乳酸樹脂組成物の評価)
・成形性の評価
試験区分3で調製した各例のポリ乳酸樹脂組成物を100℃で2時間除湿乾燥し、絶乾状態にした後、シリンダー温度を200℃に設定した射出成形機(FANUC社製の商品名ROBOSHOT S−2000i50B)を用いて、表3に示す金型温度で射出成形し、テストピース(127mm×12.7mm×3mm)の離形に必要な金型保持時間を下記の基準で評価し、結果を表3に示した。
【0043】
金型温度110℃の場合の成形性の評価基準
3:テストピースに変形が無く、取り出しが容易と判断される時間が20秒未満であった。
2:テストピースに変形が無く、取り出しが容易と判断される時間が20秒以上40秒未満であった。
1:テストピースに変形が無く、取り出しが容易と判断される時間が40秒以上60秒未満であった。
0:テストピースに変形が無く、取り出しが容易と判断される時間が60秒以上であった。
【0044】
金型温度80℃の場合の成形性の評価基準
3:テストピースに変形が無く、取り出しが容易と判断される時間が40秒未満であった。
2:テストピースに変形が無く、取り出しが容易と判断される時間が40秒以上60秒未満であった。
1:テストピースに変形が無く、取り出しが容易と判断される時間が60秒以上120秒未満であった。
0:テストピースに変形が無く、取り出しが容易と判断される時間が120秒以上であった。
【0045】
・耐熱性の評価
試験区分3で調製した各例のポリ乳酸樹脂組成物を100℃で2時間除湿乾燥し、絶乾状態にした後、ラボプラストミルにて240℃で5分間混練したときの発煙を、下記の基準で目視にて評価し、結果を表3に示した。
2:発煙なし。
1:発煙が認められる。
【0046】
・耐衝撃性の評価
試験区分3で調製した各例のポリ乳酸樹脂組成物を100℃で2時間除湿乾燥し、絶乾状態にした後、シリンダー温度を200℃に設定した射出成形機(FANUC社製の商品名ROBOSHOT S−2000i50B)を用いて、110℃の金型温度で射出成形してテストピース(127mm×12.7mm×3mm)を得た。このテストピースを用いて、JIS−K7110に基づき、ノッチなし試験片を作製し、アイゾット(Izod)衝撃強度を測定して、下記の基準で評価し、結果を表3に示した。
3:アイゾット衝撃強度が20KJ/m以上であり、耐衝撃性は非常に良好であった。
2:アイゾット衝撃強度が15KJ/m以上20KJ/m未満であり、耐衝撃性は良好であった。
1:アイゾット衝撃強度が12KJ/m以上15KJ/m未満であり、耐衝撃性は概ね良好であった。
0:アイゾット衝撃強度が12KJ/m未満であり、耐衝撃性は悪かった。
【0047】
・耐ブリード性の評価
試験区分3で調整した各例のポリ乳酸樹脂組成物1kgを、金属製の容器(100cm×30cm×5cm)に入れ、80℃で24時間熱風乾燥して、可塑剤のブリード性について下記の基準で評価し、結果を表3に示した。
3:ポリ乳酸樹脂組成物のペレット及び金属製の容器の双方に可塑剤由来の濡れがなく、耐ブリード性は非常に良好であった。
2:金属製の容器に可塑剤由来の濡れが認められたが、ポリ乳酸樹脂組成物のペレットに可塑剤由来の濡れは無く、耐ブリード性は良好であった。
1:ポリ乳酸樹脂組成物のペレット及び金属製の容器の双方に可塑剤由来の濡れが認められたが、ペレット同士が可塑剤の濡れにより結着して塊状になっていることはないため、耐ブリード性は概ね良好であった。
0:ポリ乳酸樹脂組成物のペレット及び金属製の容器の双方に可塑剤由来の濡れが認められ、ペレット同士が可塑剤由来の濡れにより結着して塊状になっていたため、耐ブリード性は悪かった。
【0048】
【表3】

【0049】
表3の結果からも明らかなように、本発明の可塑剤を用いると、低い金型温度でも優れた成形性を示すポリ乳酸樹脂組成物を調製することができ、またかかる組成物から優れた耐熱性、耐衝撃性及び耐ブリード性のポリ乳酸樹脂成形体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化1で示される硬化ヒマシ油誘導体から成ることを特徴とするポリ乳酸樹脂用可塑剤。
【化1】

{化1において、
,R,R:水素原子、炭素数2〜22の脂肪族アシル基又は分子中に炭素数2〜4のオキシアルキレン単位で構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する炭素数2〜200の(ポリ)オキシアルキレングリコールから一方の水酸基を除いた残基(但し、R〜Rのうちで少なくとも一つは炭素数2〜22の脂肪族アシル基)
,R,R:分子中に炭素数2〜4のオキシアルキレン単位で構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する炭素数2〜200の(ポリ)オキシアルキレングリコールからすべての水酸基を除いた残基
p,q,r:0又は1の整数(但し、p〜rのうちで少なくとも一つは1)}
【請求項2】
化1中のR、R及びRが水素原子又は炭素数2〜22の脂肪族アシル基である請求項1記載のポリ乳酸樹脂用可塑剤。
【請求項3】
ポリ乳酸樹脂と、請求項1又は2記載のポリ乳酸樹脂用可塑剤とを含有して成ることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
更に有機核剤及び/又は無機充填剤を含有して成る請求項3記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
有機核剤が、フェニルホスホン酸金属塩、芳香族カルボン酸アミドの金属塩、芳香族スルホン酸ジアルキルエステル金属塩、リン酸エステル金属塩、ロジン酸類の金属塩、ロジン酸アミド、カルボヒドラジド類、N−置換尿素類、メラミン化合物の塩及びウラシル類から選ばれる1種又は2種以上である請求項4記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
無機充填剤が、炭素繊維、ガラス繊維、ワラステナイト、タルク、マイカ及びカオリンから選ばれる1種又は2種以上である請求項4又は5記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
ポリ乳酸樹脂100質量部当たり、ポリ乳酸樹脂用可塑剤を1〜30質量部の割合で含有する請求項3〜6のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
ポリ乳酸樹脂100質量部当たり、有機核剤を0.01〜10質量部の割合で含有する請求項4〜7のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項9】
ポリ乳酸樹脂100質量部当たり、無機充填剤を1〜30質量部の割合で含有する請求項4〜8のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項10】
ポリ乳酸樹脂が、L−乳酸又はD−乳酸の光学純度が80〜100%の範囲にあるものである請求項3〜9のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項11】
ポリ乳酸樹脂が、L−乳酸又はD−乳酸の光学純度が96〜100%の範囲にあるものである請求項3〜9のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項12】
請求項3〜11のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物を成形して得られるポリ乳酸樹脂成形体。

【公開番号】特開2012−167219(P2012−167219A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30438(P2011−30438)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】