説明

ポリ乳酸組成物

【課題】
本発明は、ポリ乳酸組成物およびそれからなる成形品に関するものであり、詳しくは、流動性および成形性に優れるポリ乳酸樹脂を含むポリ乳酸組成物およびそれからなる成形品を供給することを課題とする。
【解決手段】
(A)ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸からなるポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(B)流動性改良剤を0.01〜50重量部配合してなるポリ乳酸組成物であって、流動性改良剤としては、3つ以上の官能基を有する化合物、アクリル系化合物、分岐状ポリマー、液晶ポリマー、低分子量直鎖状ポリエステル、低分子量直鎖状ポリカーボネート、芳香族系低分子化合物から選択されるいずれか一つが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸組成物およびそれからなる成形品に関するものであり、詳しくは、流動性および成形性に優れるポリ乳酸樹脂を含むポリ乳酸組成物およびそれからなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、透明性に優れた溶融成型可能な高分子であり、生分解性の特徴を有することから使用した後は自然環境中で分解して炭酸ガスや水として放出される生分解性プラスチックとしての開発が進められてきた。一方、近年では、ポリ乳酸自身が二酸化炭素や水を起源とする再生可能資源(バイオマス)を原料としているため、使用後に二酸化炭素が放出されたとしても地球環境中における二酸化炭素は増減しないというカーボンニュートラルの性質が注目され、環境低負荷材料としての利用が期待されている。さらに、ポリ乳酸のモノマーである乳酸は微生物を利用した発酵法により安価に製造されつつあり、石油系プラスチック製の汎用ポリマーの代替素材としても検討されるようになってきた。しかしながら、ポリ乳酸は、石油系プラスチックに比較すると耐熱性や耐久性が低く、結晶化速度が小さいため生産性にも劣っており、実用化の範囲は大幅に限定されているのが現状である。
【0003】
このような問題点を解決する手段の一つとして、ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸樹脂の利用が注目されている。ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸樹脂はは光学活性なポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合することにより形成され、この融点はポリ乳酸ホモポリマーの融点170℃に比較して50℃高い220℃に達する。このため、高融点および高結晶性の繊維、フィルムおよび樹脂成型品としての適用が試みられている。
【0004】
しかしながら、ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸樹脂は融点が大きく向上することにより、成形加工温度も比例して高く設定することが必要となるため、成形加工時の熱分解という新たな課題が発生した。熱分解によりガスの発生や分子量の低下が生じることにより、成形品の外観や機械物性の低下などが懸念される。また、成形時の加工温度を下げることにより熱分解は抑制される方向となるが、溶融粘度の上昇により金型への充填が不十分となり、目的とする成形品を得られることができないため、ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸樹脂の溶融粘度の低下による流動性の向上が求められている。
【0005】
特許文献1では、流動性改良剤として分岐状ポリマー、液晶ポリマー、低分子量直鎖状ポリエステル、低分子量直鎖状ポリカーボネート、芳香族系低分子化合物、アクリル系化合物または3つ以上の水酸基またはアミノ基などの官能基を、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、またはステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸樹脂に添加した樹脂組成物に関する記載が本文中にされているが、流動性改良剤の添加量に関する記載は一切なく、また実施例では全て流動性改良剤は添加されていないことから、効果は不明確であった。
【0006】
特許文献2には、ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸樹脂に液晶ポリマーを添加したポリ乳酸樹脂組成物に関する記載がされているが、流動性および成形性に関する記載は一切なく、流動性および成形性の向上については全く示唆されていない。
【0007】
特許文献3には、ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸樹脂からなるマトリックスに樹状ポリエステルを0.1〜1.0重量%添加した繊維に関する記載が本文中にされているが、実施例はPETおよびポリ−L−乳酸の記載だけであり、ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸樹脂における効果に関しては一切記載されていない。また、溶融紡糸時の流動性向上に関する記載はあるものの、成形性に関する記載は一切なく、成形性の向上については全く示唆されていない。
【0008】
特許文献4には、表面処理が施された難燃剤を、ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸樹脂に添加することで、流動性が向上するポリ乳酸樹脂組成物に関する記載がされているが、表面処理が施されていない難燃剤に比べ流動性は向上するものの、効果は不十分であった。また、実施例はポリ−L−乳酸の記載だけであり、ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸樹脂における効果に関しては一切記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−155489号公報
【特許文献2】特開2010−180374号公報
【特許文献3】特開2009−52160号公報
【特許文献4】特開2010−70722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ポリ乳酸組成物およびそれからなる成形品に関するものであり、詳しくは、流動性および成形性に優れるポリ乳酸樹脂を含むポリ乳酸組成物およびそれからなる成形品を供給することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、(A)ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸からなるポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(B)流動性改良剤を0.01〜50重量部配合することにより、従来の知見では成し得ることができなかった、優れた流動性、および優れた成形性を有するポリ乳酸組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕(A)ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸からなるポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(B)流動性改良剤を0.01〜50重量部配合してなるポリ乳酸組成物
〔2〕DSC測定において、樹脂組成物を250℃まで昇温して3分間恒温状態にした後、冷却速度20℃/分で降温した際の恒温結晶化温度が120℃以上であり、30℃まで降温後、さらに昇温速度20℃/分で250℃まで昇温した際のステレオコンプレックス結晶の融点が200℃以上であることを特徴とする前記〔1〕に記載のポリ乳酸組成物
〔3〕(A)ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量が10万以上であり、かつ(B)流動性改良剤を配合した後の溶融粘度が、(B)流動性改良剤を配合する前の溶融粘度から10%以上低下することを特徴とする前記〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のポリ乳酸組成物
〔4〕(A)ポリ乳酸樹脂が、ポリ−L−乳酸からなるセグメントとポリ−D−乳酸からなるセグメントから構成されるブロック共重合体であることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のポリ乳酸組成物
〔5〕(A)ポリ乳酸樹脂が、ポリ−L−乳酸からなるセグメントとポリ−D−乳酸からなるセグメントから構成されるブロック共重合体において、ポリ−L−乳酸からなるセグメントの重量平均分子量とポリ−D−乳酸からなるセグメントの重量平均分子量の比が1.5以上30未満であり、全体の分子量が10万以上であることを特徴とする前記〔4〕に記載のポリ乳酸組成物
〔6〕(B)流動性改良剤が、3つ以上の官能基を有する化合物、アクリル系化合物、分岐状ポリマー、液晶ポリマー、低分子量直鎖状ポリエステル、低分子量直鎖状ポリカーボネート、芳香族系低分子化合物から選択されるいずれか一つを含有することを特徴とする前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のポリ乳酸組成物
〔7〕(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(C)結晶化促進剤を1〜100重量部配合してなる前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のポリ乳酸組成物
〔8〕(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(D)充填剤を1〜100重量部配合してなる前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のポリ乳酸組成物
〔9〕(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(E)耐衝撃性改良剤を1〜100重量部配合してなる前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のポリ乳酸組成物
〔10〕(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(G)難燃剤を1〜100重量部配合してなる前記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のポリ乳酸組成物
〔11〕前記〔1〕〜〔10〕のいずれか1項に記載のポリ乳酸組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、流動性および成形性に優れるポリ乳酸樹脂を含むポリ乳酸組成物およびそれからなる成形品を供給することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のポリ乳酸組成物について具体的に説明する。
【0015】
<ポリ乳酸樹脂(A)>
本発明のポリ乳酸樹脂(A)とは、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを溶融混練、またはL−乳酸由来の単位が70%以上であるポリ−L−乳酸からなるセグメントとD−乳酸由来の単位が70%以上であるポリ−D−乳酸からなるセグメントから構成されるブロック共重合体のことを示す。
【0016】
ここで、ポリ−L−乳酸とは、L−乳酸を主成分とする重合体であり、L−乳酸単位を70モル%以上含有していることが好ましく、90モル%以上含有していることがより好ましく、95モル%以上含有していることがさらに好ましく、98モル%以上含有していることが特に好ましい。
【0017】
また、ポリ−D−乳酸とは、D−乳酸を主成分とする重合体であり、D−乳酸単位を70モル%以上含有していることが好ましく、90モル%以上含有していることがより好ましく、95モル%以上含有していることがさらに好ましく、98モル%以上含有していることが特に好ましい。
【0018】
本発明において、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸は、得られるポリ乳酸樹脂の性能を損なわない範囲で、他の成分単位を含んでいてもよい。L−乳酸またはD−乳酸単位以外の他の成分単位としては、多価カルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類またはそれらの誘導体、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンまたはペンタエリスリトールにエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを付加した多価アルコール、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類またはそれらの誘導体、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類、およびグリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などが挙げられる。
【0019】
本発明で用いるポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、9万以上であることが、機械物性の点で好ましい。12万以上であることがさらに好ましく、14万以上であることが成形性および機械物性の点で特に好ましい。また、ポリ乳酸ブロック共重合体の分散度は、1.5〜3.0の範囲が機械物性の点で好ましい。分散度の範囲が1.8〜2.7であることがさらに好ましく、2.0〜2.4であることが成形性および機械物性の点で特に好ましい。なお、重量平均分子量および分散度とは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールまたはクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート換算の値である。
【0020】
さらに、本発明で用いるポリ乳酸樹脂は、ステレオコンプレックス形成によりステレオコンプレックス結晶に基づく融点を190〜230℃の範囲で有する。ステレオコンプレックス結晶由来の融点の好ましい範囲は200℃〜230℃であり、205℃〜230℃の温度範囲がさらに好ましく、210℃〜230℃の温度範囲が特に好ましい。また、150℃〜185℃の範囲でポリ−L−乳酸単独結晶およびポリ−D−乳酸単独結晶に基づく融点を有する場合もある。
【0021】
また、ポリ乳酸樹脂はステレオコンプレックス形成率(Sc)が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、75〜100%であることがさらに好ましく、90〜100%であることが特に好ましい。ここで、ステレオコンプレックス形成率とは、ポリ乳酸中の全結晶におけるステレオコンプレックス結晶の占める割合である。具体的には示差走査型熱量計(DSC)で測定した際のポリ−L−乳酸単独結晶およびポリ−D−乳酸単独結晶の結晶融解に基づく熱量をΔHl、ステレオコンプレックス結晶の結晶融解に基づく熱量をΔHhとすると下記式(1)で算出することができる。
Sc=ΔHh/(ΔHl+ΔHh)×100 (1)
【0022】
本発明において、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のそれぞれの合計の重量比は、80:20〜20:80であることが好ましく、75:25〜25:75であることがより好ましく、さらには70:30〜30:70であることが好ましく、特に60:40〜40:60であることが最も好ましい。L−乳酸単位からなるセグメントの重量比がそれぞれ20重量%未満であるか、あるいは80重量%を越えると、得られるポリ乳酸樹脂の融点の上昇が小さくなり、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成しにくくなる傾向を生じる。
【0023】
次に、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の重合方法について詳細に説明する。
【0024】
開環重合にてポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸を得る方法としては、例えば、L−ラクチドまたはD−ラクチドのいずれか一方を触媒存在下で開環重合を行う方法を挙げることができる。
【0025】
開環重合法で用いられるL−ラクチドおよびD−ラクチドの光学純度は90%ee以上であることがポリ乳酸ブロック共重合体の結晶性および融点を向上できる点で好ましい。さらに好ましくは95%ee以上であり、98%ee以上であることが特に好ましい。
【0026】
開環重合法でポリ乳酸ブロック共重合体を得る場合、高分子量体を得るという観点から反応系内の水分量はL−ラクチドおよびD−ラクチドの合計量に対して4mol%以下であることが好ましい。さらに好ましくは2mol%以下であり、0.5mol%以下が特に好ましい。なお、水分量とはカールフィッシャー法を用いて電量滴定法により測定した値である。
【0027】
開環重合法によりポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を製造する際の重合触媒としては、金属触媒と酸触媒が挙げられる。金属触媒としては錫化合物、チタン化合物、鉛化合物、亜鉛化合物、コバルト化合物、鉄化合物、リチウム化合物、希土類化合物などの金属触媒が挙げられる。化合物の種類としては、金属アルコキシド、金属ハロゲン化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酸化物などが好ましい。具体的には、錫粉末、塩化錫(II)、塩化錫(IV)、臭化錫(II)、臭化錫(IV)、エトキシ錫(II)、t−ブトキシ錫(IV)、イソプロポキシ錫(IV)、酢酸錫(II)、酢酸錫(IV)、オクチル酸錫(II)、ラウリン酸錫(II)、ミリスチン酸錫(II)、パルミチン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)、リノール酸錫(II)、アセチルアセトン錫(II)、シュウ酸錫(II)、乳酸錫(II)、酒石酸錫(II)、ピロリン酸錫(II)、p−フェノールスルホン酸錫(II)、ビス(メタンスルホン酸)錫(II)、硫酸錫(II)、酸化錫(II)、酸化錫(IV)、硫化錫(II)、硫化錫(IV)、酸化ジメチル錫(IV)、酸化メチルフェニル錫(IV)、酸化ジブチル錫(IV)、酸化ジオクチル錫(IV)、酸化ジフェニル錫(IV)、酸化トリブチル錫、水酸化トリエチル錫(IV)、水酸化トリフェニル錫(IV)、水素化トリブチル錫、モノブチル錫(IV)オキシド、テトラメチル錫(IV)、テトラエチル錫(IV)、テトラブチル錫(IV)、ジブチルジフェニル錫(IV)、テトラフェニル錫(IV)、酢酸トリブチル錫(IV)、酢酸トリイソブチル錫(IV)、酢酸トリフェニル錫(IV)、二酢酸ジブチル錫、ジオクタン酸ジブチル錫、ジラウリン酸ジブチル錫(IV)、マレイン酸ジブチル錫(IV)、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、塩化トリブチル錫(IV)、二塩化ジブチル錫、三塩化モノブチル錫、二塩化ジオクチル錫、塩化トリフェニル錫(IV)、硫化トリブチル錫、硫酸トリブチル錫、メタンスルホン酸錫(II)、エタンスルホン酸錫(II)、トリフルオロメタンスルホン酸錫(II)、ヘキサクロロ錫(IV)酸アンモニウム、ジブチル錫スルフィド、ジフェニル錫スルフィドおよび硫酸トリエチル錫、フタロシアニン錫(II)等の錫化合物が挙げられる。また、チタニウムメトキシド、チタニウムプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムブトキシド、チタニウムイソブトキシド、チタニウムシクロヘキシド、チタニウムフェノキシド、塩化チタン、二酢酸チタン、三酢酸チタン、四酢酸チタン、酸化チタン(IV)等のチタン化合物、ジイソプロポキシ鉛(II)、一塩化鉛、酢酸鉛、オクチル酸鉛(II)、イソオクタン酸鉛(II)、イソノナン酸鉛(II)、ラウリン酸鉛(II)、オレイン酸鉛(II)、リノール酸鉛(II)、ナフテン酸鉛、ネオデカン酸鉛(II)、酸化鉛、硫酸鉛(II)等の鉛化合物、亜鉛粉末、メチルプロポキシ亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛(II)、ナフテン酸亜鉛、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸亜鉛等の亜鉛化合物、塩化コバルト、酢酸コバルト、オクチル酸コバルト(II)、イソオクタン酸コバルト(II)、イソノナン酸コバルト(II)、ラウリン酸コバルト(II)、オレイン酸コバルト(II)、リノール酸コバルト(II)、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト(II)、炭酸第一コバルト、硫酸第一コバルト、酸化コバルト(II)等のコバルト化合物、塩化鉄(II)、酢酸鉄(II)、オクチル酸鉄(II)、ナフテン酸鉄、炭酸鉄(II)、硫酸鉄(II)、酸化鉄(II)等の鉄化合物、プロポキシリチウム、塩化リチウム、酢酸リチウム、オクチル酸リチウム、ナフテン酸リチウム、炭酸リチウム、硫酸ジリチウム、酸化リチウム等のリチウム化合物、トリイソプロポキシユウロピウム(III)、トリイソプロポキシネオジム(III)、トリイソプロポキシランタン、トリイソプロポキシサマリウム(III)、トリイソプロポキシイットリウム、イソプロポキシイットリウム、塩化ジスプロシウム、塩化ユウロピウム、塩化ランタン、塩化ネオジム、塩化サマリウム、塩化イットリウム、三酢酸ジスプロシウム(III)、三酢酸ユウロピウム(III)、酢酸ランタン、三酢酸ネオジム、酢酸サマリウム、三酢酸イットリウム、炭酸ジスプロシウム(III)、炭酸ジスプロシウム(IV)、炭酸ユウロピウム(II)、炭酸ランタン、炭酸ネオジム、炭酸サマリウム(II)、炭酸サマリウム(III)、炭酸イットリウム、硫酸ジスプロシウム、硫酸ユウロピウム(II)、硫酸ランタン、硫酸ネオジム、硫酸サマリウム、硫酸イットリウム、二酸化ユウロピウム、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化サマリウム(III)、酸化イットリウム等の希土類化合物が挙げられる。その他にも、カリウムイソプロポキシド、塩化カリウム、酢酸カリウム、オクチル酸カリウム、ナフテン酸カリウム、炭酸tert−ブチルカリウム、硫酸カリウム、酸化カリウム等のカリウム化合物、銅(II)ジイソプロポキシド、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、オクチル酸銅、ナフテン酸銅、硫酸銅(II)、炭酸二銅等の銅化合物、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、オクチル酸ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル(II)、酸化ニッケル等のニッケル化合物、テトライソプロポキシジルコニウム(IV)、三塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム(II)、炭酸ジルコニウム(IV)、硫酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム(II)等のジルコニウム化合物、トリイソプロポキシアンチモン、フッ化アンチモン(III)、フッ化アンチモン(V)、酢酸アンチモン、酸化アンチモン(III)等のアンチモン化合物、マグネシウム、マグネシウムジイソプロポキシド、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物、ジイソプロポキシカルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム等のカルシウム化合物、アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、オクチル酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物、ゲルマニウム、テトライソプロポキシゲルマン、酸化ゲルマニウム(IV)等のゲルマニウム化合物、トリイソプロポキシマンガン(III)、三塩化マンガン、酢酸マンガン、オクチル酸マンガン(II)、ナフテン酸マンガン(II)、硫酸第一マンガン等のマンガン化合物、塩化ビスマス(III)、ビスマス粉末、酸化ビスマス(III)、酢酸ビスマス、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス等のビスマス化合物なども挙げることができる。また、錫酸ナトリウム、錫酸マグネシウム、錫酸カリウム、錫酸カルシウム、錫酸マンガン、錫酸ビスマス、錫酸バリウム、錫酸ストロンチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸コバルト、チタン酸亜鉛、チタン酸マンガン、チタン酸ジルコニウム、チタン酸ビスマス、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの2種以上の金属元素からなる化合物なども好ましい。また、酸触媒としては、プロトン供与体のブレンステッド酸でもよく、電子対受容体であるルイス酸でもよく、有機酸および無機酸のいずれでもよい。具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、オクチル酸、ノナン酸、イソノナン酸、トリフルオロ酢酸およびトリクロロ酢酸などのモノカルボン酸化合物、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸およびマロン酸などのジカルボン酸化合物、クエン酸およびトリカリバリル酸などのトリカルボン酸化合物、ベンゼンスルホン酸、n−ブチルベンゼンスルホン酸、n−オクチルベンゼンスルホン酸、n−ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジブチルベンゼンスルホン酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、p−アミノベンゼンスルホン酸、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5−アミノ−2−メチルベンゼンスルホン酸、3,5−ジアミノ−2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸、p−クロルベンゼンスルホン酸、 2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、クメンスルホン酸、キシレンスルホン酸、o−クレゾールスルホン酸、m−クレゾールスルホン酸、p−クレゾールスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、イソプロピルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,7−ナフタレンジスルホン酸、4,4−ビフェニルジスルホン酸、アントラキノン−2−スルホン酸、m−ベンゼンジスルホン酸、2,5−ジアミノ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、アニリン−2,4−ジスルホン酸、アントラキノン−1,5−ジスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、n−オクチルスルホン酸、ペンタデシルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、1,3−プロパンジスルホン酸、アミノメタンスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸、シクロペンタンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸およびカンファースルホン酸、3−シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸などの脂環式スルホン酸などのスルホン酸化合物、アスパラギン酸やグルタミン酸などの酸性アミノ酸、アスコルビン酸、レチノイン酸、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、リン酸モノドデシルおよびリン酸モノオクタデシルなどのリン酸モノエステル、リン酸ジドデシルおよびリン酸ジオクタデシルなどのリン酸ジエステル、亜リン酸モノエステルおよび亜リン酸ジエステルなどのリン酸化合物、ホウ酸、塩酸、硫酸なども挙げられる。また、酸触媒としては、形状は特に限定されず、固体酸触媒および液体酸触媒のいずれでもよく、例えば、固体酸触媒としては、酸性白土、カオリナイト、ベントナイト、モンモリロナイト、タルク、ケイ酸ジルコニウムおよびゼオライトなどの天然鉱物、シリカ、アルミナ、チタニアおよびジルコニアなどの酸化物またはシリカアルミナ、シリカマグネシア、シリカボリア、アルミナボリア、シリカチタニアおよびシリカジルコニアなどの酸化物複合体、塩素化アルミナ、フッ素化アルミナ、陽イオン交換樹脂などが挙げられる。
【0028】
本発明において、生成されるポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸の分子量を考慮した場合、重合触媒としては金属触媒が好ましく、中でも錫化合物、チタン化合物、アンチモン化合物、希土類化合物がより好ましく、生成されるポリ乳酸の融点を考慮した場合には、錫化合物およびチタン化合物がより好ましい。さらに、生成されるポリ乳酸の熱安定性を考慮した場合、錫系の有機カルボン酸塩あるいは錫系のハロゲン化合物が好ましく、特に酢酸錫(II)、オクチル酸錫(II)、および塩化錫(II)がより好ましい。
【0029】
重合触媒の添加量については特に限定されるものではなく、使用する原料(L−乳酸、D−乳酸など)100重量部に対して0.001重量部以上、2重量部以下が好ましく、とくに0.001重量部以上、1重量部以下がより好ましい。触媒量が0.001重量部未満では重合時間の短縮効果が低下し、2重量部を越えると最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の分子量が大きくなりにくい傾向を生じる。また、触媒を2種類以上併用する場合は、合計添加量が上記の範囲内であることが好ましい。
【0030】
重合触媒の添加時期については特に限定されるものではないが、ラクチドを加熱溶解後、触媒を添加することが触媒を系内に均一分散し、重合活性を高める点で好ましい。
【0031】
ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸に含有するラクチド量およびオリゴマー量は、それぞれ5%以下であることが好ましい。さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。また、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸に含有する乳酸量は、2%以下であることが好ましい。さらに好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0.5%以下である。
【0032】
また、直接重合法を利用してポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を製造する際の重合触媒としては、開環重合法と同様の金属触媒と酸触媒が挙げられる。
【0033】
直接重合法を利用して生成されるポリ乳酸の分子量を考慮した場合、錫化合物、チタン化合物、アンチモン化合物、希土類化合物、および酸触媒が好ましく、生成されるポリ乳酸の融点を考慮した場合に、錫化合物、チタン化合物、およびスルホン酸化合物がより好ましい。さらに、生成されるポリ乳酸の熱安定性を考慮した場合、金属触媒の場合は、錫系の有機カルボン酸塩あるいは錫系のハロゲン化合物が好ましく、特に酢酸錫(II)、オクチル酸錫(II)、および塩化錫(II)がより好ましく、酸触媒の場合は、モノおよびジスルホン酸化合物が好ましく、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、プロパンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、および2−アミノエタンスルホン酸がより好ましい。また、触媒は1種類でもよく、2種類以上併用してもよいが、重合活性を高める点から考えて、2種類以上を併用することが好ましく、着色も抑制することが可能となるという点で、錫化合物から選択される1種類以上および/またはスルホン酸化合物から選択される1種類以上を用いることが好ましく、さらに生産性に優れるという点で、酢酸錫(II)および/またはオクチル酸錫(II)と、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸のいずれか一種類以上との併用がより好ましく、酢酸錫(II)および/またはオクチル酸錫(II)と、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンジスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸のいずれか一種との併用がさらに好ましい。
【0034】
重合触媒の添加量については特に限定されるものではなく、使用する原料(L−乳酸、D−乳酸など)100重量部に対して0.001重量部以上、2重量部以下が好ましく、とくに0.001重量部以上、1重量部以下がより好ましい。触媒量が0.001重量部未満では重合時間の短縮効果が低下し、2重量部を越えると最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の分子量が大きくなりにくい傾向を生じる。また、触媒を2種類以上併用する場合は、合計添加量が上記の範囲内であることが好ましく、錫化合物から選択される1種類以上および/またはスルホン酸化合物から選択される1種類以上を併用する場合は、高い重合活性を維持し、かつ着色を抑制することが可能であるという点で、錫化合物とスルホン酸化合物の重量比が1:1〜1:30であることが好ましく、生産性に優れるという点で、1:2〜1:15であることがより好ましい。
【0035】
重合触媒の添加時期については特に限定されるものではないが、特に直接重合法でポリ乳酸を重合する場合においては、酸触媒を原料または原料を脱水する前に添加することが生産性に優れるという点で好ましく、金属触媒については原料を脱水した後に添加することが重合活性を高める点から考えて好ましい。
【0036】
また、直接重合法にて得られたポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸をさらに高分子量化するために、その融点より低い温度で固相重合を行うことが好ましい。
【0037】
固相重合工程を実施する際には、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸が結晶化していることが必要であり、溶融重合工程終了後かつ固相重合工程開始前に結晶化処理を行う。
【0038】
結晶化させる方法としては窒素、空気などの気相中または水やエタノールなどの液相中において結晶化温度で熱処理する方法、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を溶媒に溶解させ溶液とした後に溶媒を揮発させる方法、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を溶媒に接触させる方法、および溶融状態のポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を延伸または剪断の操作を行いながら冷却固化させる方法などが挙げられる。上記の方法の中でも、窒素の気相中おいて結晶化温度で熱処理する方法、および溶融状態のポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を延伸または剪断の操作を行いながら冷却固化させる方法が好ましい。また、上記の複数の方法を組み合わせてもよい。
【0039】
溶融状態のポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を延伸または剪断の操作を行いながら冷却固化させる場合の冷却方法は、水冷が好ましく、水に接触させる時間としては10分以内が好ましく、5分以内がより好ましく、3分以内がさらに好ましい。また、冷却から固相重合までの時間は12時間以内が好ましく、6時間以内がより好ましく、3時間以内がさらに好ましい。
【0040】
ここでいう結晶化温度とは、溶融重合工程で得ることができるポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸のガラス転移温度より高く、融点よりも低い温度範囲であれば特に限定されるものではないが、予め示差走査型熱量計(DSC)により測定した昇温結晶化温度および降温結晶化温度の範囲内であることがより好ましく、高分子量体を効率的に得ることができるという点で、70〜130℃であることが好ましく、75〜130℃であることがさらに好ましく、80〜130℃であることが最も好ましい。
【0041】
また、結晶化工程の温度は、1段階でもよいが、2段階以上の多段階とすることが好ましく、反応の進行とともに温度を段階的に上げることがより好ましく、例えば、80〜100℃の温度で反応を行った後、100〜130℃の温度で反応を行う方法などが挙げられる。なお、段毎の温度上昇幅は30℃以下が好ましく、25℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。
【0042】
また、結晶化させる際の時間については1〜7時間が好ましく、1.5〜5時間がより好ましい。なお、結晶化処理における圧力条件は、減圧、常圧および加圧のいずれの条件でもよいが、中でも常圧が好ましい。
【0043】
また、結晶化工程の温度を2段階以上の多段階で行う場合は、例えば、第1段階として70〜100℃の温度で1〜4時間、第2段階として100〜130℃の温度で1〜4時間で行う方法が挙げられ、第1段階として70〜90℃の温度で1〜3時間、第2段階として90〜110℃の温度で1〜3時間、第3段階として110〜130℃の温度で1〜3時間で行うことがより好ましい。なお、温度を2段階以上の多段階で行う場合であっても、結晶化工程の反応時間の合計は、1〜7時間が好ましい。
【0044】
なお、上記のような各段階で温度を一定に維持する方式の多段階で昇温するのではなく、連続的に昇温してもよい。例えば、140℃から160℃まで20時間かけて、すなわち毎時1℃で昇温させた後に160℃で維持する方法などが挙げられる。連続的に昇温する場合の昇温速度は毎時10℃以下であることが好ましい。
【0045】
本発明において、結晶化処理させる際のポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸の形状は、特に限定されるものではなく、塊状、フィルム、ペレットおよび粉末などいずれでもよいが、効率的に結晶化できるという点で、ペレットまたは粉末を用いることが好ましい。ペレットにする方法としては、溶融状態のポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を、ストランド状に押出し、ストランドカッターでペレタイズする方法、滴下ノズルを用いて液滴状に滴下し、気体または液体と接触させて、ペレット化する方法、口金から気体又は液体中に押出とともにカッティングする方法などが挙げられる。また、粉末にする方法としては、ミキサー、ブレンダー、ボールミルおよびハンマー粉砕機を用いて粉砕する方法が挙げられる。粉末の場合は、効率的に結晶化できるという点で、平均粒子径0.01〜5mmであることが好ましく、0.1〜1mmであることがより好ましい。
【0046】
また、固相重合工程を少なくとも下記の2段階を含む条件で連続的に行うことが好ましい。
条件1 130℃〜155℃
条件2 155℃〜165℃
【0047】
本発明において、固相重合工程は、直接重合終了後のポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸の融点以下の温度で行うことが好ましく、高分子量体を効率的に得ることができるという点で、130〜165℃の温度で行うことが好ましく、135〜165℃の温度で行うことがより好ましく、140〜165℃の温度で行うことがさらに好ましい。中でも最終温度は155〜165℃であることが好ましく、160〜165℃がより好ましい。
【0048】
また、固相重合工程の温度は、1段階でもよく、2段階以上の多段階でもよいが、短時間で高分子量化しやすいという点で、2段階以上の多段階とすることが好ましく、反応の進行とともに温度を段階的に上げることがより好ましく、例えば、130〜155℃の温度で反応を行った後、155〜165℃の温度で反応を行う方法などが挙げられる。なお、段毎の温度上昇幅は15℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、5℃以下がさらに好ましい。
【0049】
本発明において、高分子量体を効率的に得ることができるという点で、固相重合工程は、1〜100時間の反応時間で行うことが好ましく、5〜50時間の反応時間で行うことがより好ましく、10〜30時間の反応時間で行うことがさらに好ましい。
【0050】
また、固相重合工程の温度を2段階以上の多段階で行う場合は、例えば、第1段階として130〜150℃の温度で1〜50時間、第2段階として150〜165℃の温度で1〜50時間で行う方法が挙げられ、短時間で高分子量化しやすいという点で、第1段階として120〜140℃の温度で5〜20時間、第2段階として140〜155℃の温度で5〜20時間、第3段階として155〜165℃の温度で10〜30時間で行うことがより好ましい。なお、温度を2段階以上の多段階で行う場合であっても、固相重合工程の反応時間の合計は、1〜100時間である。
【0051】
なお、上記のような各段階で温度を一定に維持する方式の多段階で昇温するのではなく、連続的に昇温してもよい。例えば、140℃から160℃まで20時間かけて、すなわち毎時1℃で昇温させた後に160℃で維持する方法などが挙げられる。連続的に昇温する場合の昇温速度は毎時10℃以下であることが好ましい。
【0052】
本発明において、固相重合工程は、圧力条件は特に限定されることはなく、減圧条件、常圧条件および加圧条件のいずれでもよいが、高分子量体を効率的に得ることができるという点で、減圧条件または常圧条件であることが好ましい。減圧条件で行う場合には、0.13〜1300Paの圧力で行うことが好ましい。また、1〜1000Paの圧力で行うことが好ましく、10〜900Paの圧力で行うことがより好ましく、100〜800Paの圧力で行うことがさらに好ましく、500〜700Paの圧力で行うことが特に好ましい。また、固相重合工程の圧力は、1段階でもよく、2段階以上の多段階でもよいが、2段階以上の多段階とすることが好ましく、例えば、700〜1300Paの圧力で反応を行った後、0.13〜700Paの圧力で反応を行う方法などが挙げられる。常圧条件で行う場合には、乾燥窒素などの不活性気体気流下で行うことが好ましく、流量としては直接重合終了後のポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸1kgあたり0.01〜200L/分が好ましく、0.1〜150L/分がさらに好ましく、0.5〜100L/分が特に好ましい。
【0053】
本発明において、固相重合工程を実施する際にはポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸の形状は、特に限定されるものではなく、塊状、フィルム、ペレットおよび粉末などいずれでもよいが、固相重合を効率的に進めることができるという点で、ペレットまたは粉末を用いることが好ましい。ペレットにする方法としては、溶融状態のポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を、ストランド状に押出し、ストランドカッターでペレタイズする方法、滴下ノズルを用いて液滴状に滴下し、気体または液体と接触させて、ペレット化する方法などが挙げられる。また、粉末にする方法としては、ミキサー、ブレンダー、ボールミルおよびハンマー粉砕機を用いて粉砕する方法が挙げられる。粉末の場合は、効率的に固相重合できるという点で、平均粒子径0.01〜5mmであることが好ましく、0.1〜1mmであることがより好ましい。
【0054】
本発明において、固相重合工程は、回分法でも連続法でもよく、また、反応槽は、撹拌槽型反応槽、ミキサー型反応槽および塔型反応槽などを用いることができ、これらの反応槽は2種以上組み合わせて使用することができる。また、生産性の点からは連続法で行うことが好ましい。
【0055】
混合に用いるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の結晶化については特に限定されず、結晶化したポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合してもよいし、溶融状態のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合することもできる。混合に用いるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の結晶化を行う場合、具体的な方法として気相中または液相中において結晶化温度で保持する方法および溶融状態のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を融点−50℃〜融点+20℃の溶融機内でせん断を付与しながら滞留する方法および溶融状態のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を融点−50℃〜融点+20℃の溶融機内で圧力を付与しながら滞留する方法などが挙げられる。
【0056】
ここでいう結晶化温度とは、ガラス転移温度より高く、前記で混合したポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸のうち、低い融点を有するポリ乳酸の融点よりも低い温度範囲であれば特に限定されるものではないが、予め示差走査型熱量計(DSC)により測定した昇温結晶化温度および降温結晶化温度の範囲内であることがより好ましい。
【0057】
気相中または液相中において結晶化させる際には、減圧、常圧または加圧のいずれの条件でもよい。
【0058】
また、気相中または液相中において結晶化させる際の時間については特に限定されるものではないが、3時間以内であれば十分に結晶化されており、2時間以内でも好ましい。
【0059】
前記の溶融機内でせん断または圧力を付与することでポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を結晶化する方法において、溶融機はせん断あるいは圧力を付与することができれば限定されず、重合缶、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、射出成形機などを用いることができ、好ましくは単軸押出機、二軸押出機である。
【0060】
溶融機内でせん断または圧力を付与することで結晶化する方法において、結晶化の温度は混合するポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の融点−50℃〜融点+20℃の範囲が好ましい。結晶化温度のより好ましい範囲は融点−40℃〜融点であり、特に好ましくは融点−30℃〜融点−5℃の温度範囲である。溶融機の温度は通常、樹脂が溶融して良好な流動性を発現するために融点+20℃以上を設定するが、融点+20℃を超える温度で滞留した場合には、仮に結晶が生成したした場合でも再融解してしまうため好ましくなく、融点−50℃以下で滞留して結晶化した場合には流動性が著しく低下するため好ましくない。ここで、融点とは、示差熱走査型測定を用いて、昇温速度20℃/分で30℃から240℃まで昇温した際の結晶融解温度のことである。
【0061】
また、結晶化時間は0.1分〜10分であることが好ましく、より好ましくは0.3〜5分、特に好ましくは0.5分〜3分の範囲である。結晶化時間が0.1分以下の場合には結晶化が不十分となるため好ましくなく、10分を超える場合には処理により熱分解を生じやすくなるため好ましくない。
【0062】
溶融機内でせん断を付与することで溶融樹脂の分子が配向する傾向があり、その結果、著しく結晶化速度を大きくすることができる。このときのせん断速度は10〜400/秒の範囲が好ましい。せん断速度が10/秒未満の場合は結晶化速度が小さくなるため好ましくない。一方、せん断速度が400/秒を超える場合にはせん断発熱により樹脂温度が上昇して熱分解を生じやすくなるため好ましくない。
【0063】
圧力を付与した場合においても結晶化が促進する傾向が見られ、特に0.05〜10MPaの範囲のときに良好な流動性と結晶性を併せ持つ結晶化ポリ乳酸を得ることができるため好ましい。圧力が0.05MPa未満および10MPa以上の時には結晶化速度が小さくなるため好ましくない。
【0064】
さらにせん断速度10〜400/秒のせん断と0.05〜10MPaの圧力を同時に付与して処理した場合には結晶化速度がより大きくなるため特に好ましい。
【0065】
次に、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合方法について詳細に説明する。
【0066】
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合方法としては特に限定されるものではなく、例えばポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のうち、融点の高い方の成分の融解終了温度以上で溶融混練する方法、溶媒中で混合した後に溶媒を除く方法、あるいは溶融状態のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の少なくとも一方を、あらかじめ融点−50℃〜融点+20℃の温度範囲内で溶融機内にてせん断を付与しながら滞留させた後、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸からなる混合物の結晶が残存するように混合する方法などが挙げられる。
【0067】
ここで、融点とは、示差走査型熱量計で(DSC)により測定したポリ乳酸単独結晶融解ピークにおけるピークトップの温度のことを指し、また融解終了温度とは示差走査型熱量計で(DSC)により測定したポリ乳酸単独結晶融解ピークにおけるピーク終了温度のことを指す。
【0068】
融解終了温度以上で溶融混練する方法としては、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を回分法もしくは連続法で混合する方法が挙げられ、いずれの方法で混合してもよく、混練装置としては例えば、一軸押出機、二軸押出機、プラストミル、ニーダー、および減圧装置付き撹拌槽型反応機が挙げられ、均一かつ十分に混練できる観点においては一軸押出機、二軸押出機を用いることが好ましい。
【0069】
融解終了温度以上で溶融混練する際の温度条件については、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のうち、融点の高い方の成分の融解終了温度以上で行うことが好ましい。好ましくは140℃〜250℃の範囲であり、さらに好ましくは160℃〜230℃であり、特に好ましくは180〜210℃である。混合温度が250℃を超えると混合物の分子量低下が大きくなるため好ましくなく、140℃以下であると流動性が著しく低下するため好ましくない。
【0070】
また、混合する時間条件については、0.1分〜10分の範囲が好ましく、0.3分〜5分がより好ましく、0.5〜3分の範囲が特に好ましい。混合時間が0.1分以下の場合は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合が不均一であるため好ましくなく、10分を超える場合には、混合により熱分解を生じやすくなるため好ましくない。
【0071】
混合する圧力条件については特に限定されるものではなく、大気雰囲気下または窒素などの不活性気体雰囲気下のいずれの条件でもよい。
【0072】
溶融機内でせん断または圧力を付与することでポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を結晶化したポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合する具体的な方法としては、回分法もしくは連続法で混合する方法が挙げられ、いずれの方法で混合してもよいが、溶融状態のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の内、融点の低い方のポリ乳酸の融点−50℃〜融点+20℃の溶融機内でせん断を付与しながら滞留する方法および溶融状態のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の内、融点の低い方のポリ乳酸の融点−50℃〜融点+20℃の溶融機内で圧力を付与しながら滞留する方法が、混合後におけるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物のステレオコンプレックス形成率を制御できるという観点で特に好ましい。
【0073】
ここで、ステレオコンプレックス形成率とは、ポリ乳酸中の全結晶におけるステレオコンプレックス結晶の占める割合である。具体的には示差走査型熱量計(DSC)で測定した際のポリ−L−乳酸単独結晶およびポリ−D−乳酸単独結晶の結晶融解に基づく熱量をΔHl、ステレオコンプレックス結晶の結晶融解に基づく熱量をΔHhとすると下記式(2)で算出することができる。
Sc=ΔHh/(ΔHl+ΔHh)×100 (2)
【0074】
ステレオコンプレックス形成率(Sc)は、X線回折で測定したポリ乳酸の単独結晶とステレオコンプレックス結晶の割合から算出することも可能であるが、本発明では、上記のDSCで測定した結晶融解熱量から求めた値を用いる。
【0075】
混合する温度条件については、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物の融点−50℃〜融点+20℃の範囲が好ましい。混合温度のより好ましい範囲は融点−40℃〜融点であり、特に好ましくは融点−30℃〜融点−5℃の温度範囲である。溶融機の温度は通常、樹脂が溶融して良好な流動性を発現するために融点+20℃以上を設定するが、融点+20℃を超える温度で処理した場合には、仮に結晶が生成したした場合でも再融解してしまうため好ましくなく、融点−50℃以下で処理して結晶化した場合には流動性が著しく低下するため好ましくない。ここで融点は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度20℃/分で30℃から240℃まで昇温した際の、結晶融解温度のことを指す。
【0076】
混合する圧力条件については特に限定されるものではなく、大気雰囲気下または窒素などの不活性気体雰囲気下のいずれの条件でもよい。
【0077】
押出機を用いた混練において、ポリ乳酸の供給方法は特に限定されず、樹脂供給口からポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を一括して供給する方法や、必要に応じてサイド供給口を利用し、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を樹脂供給口とサイド供給口にそれぞれ分けて供給する方法が可能である。また、混練機へのポリ乳酸の供給は、ポリ乳酸製造工程から直接溶融状態で行うことも可能である。
【0078】
押出機におけるスクリューエレメントは、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が均一に混合してステレオコンプレックス形成できるように、混合部にニーディングエレメントを備えるのが好ましい。
【0079】
混合工程において、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸とD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸の混合重量比は、80:20〜20:80であることが好ましく、75:25〜25:75であることがより好ましく、さらに70:30〜30:70であることが好ましく、特に60:40〜40:60であることが好ましい。L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸の重量比がそれぞれ20重量%未満であるか、あるいは80重量%を越えると、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の融点の上昇が小さくなり、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成しにくくなる傾向を生じる。ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合重量比を50:50以外にする場合は、重量平均分子量の大きい方のポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を多く配合することが好ましい。
【0080】
この混合工程において、次の固相重合を効率的に進めるために、混合物に、触媒を含有させることが好ましい。このとき触媒は、ポリ−L−乳酸および/またはポリ−D−乳酸を製造する際の触媒の残留分であってもよいし、混合工程においてさらに触媒を添加することもできる。
【0081】
混合後におけるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物の重量平均分子量(Mw)は、混合物の機械物性の点から9万以上であることが好ましい。12万以上がさらに好ましく、14万以上であることが特に好ましい。
【0082】
また、混合後におけるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物の分散度は1.5〜4.0の範囲が好ましい。さらに好ましくは1.8〜3.5の範囲であり、特に好ましくは2.0〜3.0の範囲である。ここで、分散度とは、混合物の数平均分子量に対する重量平均分子量の割合のことをいい、具体的には溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールまたはクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート換算の値である。
【0083】
ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸に含有するラクチド量およびオリゴマー量は、それぞれ5%以下であることが好ましい。さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。また、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸に含有する乳酸量は、2%以下であることが好ましい。さらに好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0.5%以下である。
【0084】
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物を結晶化させる方法については特に限定されるものではなく、公知の方法を利用することができる。例えば、気相中または液相中において結晶化温度で保持する方法およびポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の溶融混合物を延伸または剪断の操作を行いながら冷却固化させる方法などが挙げられ、操作が簡便であるという観点においては、気相中または液相中において結晶化温度で保持する方法が好ましい。
【0085】
ここでいう結晶化温度とは、ガラス転移温度より高く、前記で混合したポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸のうち、低い融点を有するポリ乳酸の融点よりも低い温度範囲であれば特に限定されるものではないが、予め示差走査型熱量計(DSC)により測定した昇温結晶化温度および降温結晶化温度の範囲内であることがより好ましい。
【0086】
結晶化させる際には、減圧、常圧または加圧のいずれの条件でもよい。
【0087】
また、結晶化させる際の時間については特に限定されるものではないが、3時間以内であれば十分に結晶化されており、2時間以内でも好ましい。
【0088】
次に、ポリ乳酸ブロック共重合体の重合方法について詳細に説明する。
【0089】
開環重合にてポリ乳酸ブロック共重合体を得る方法としては、例えば、L−ラクチドまたはD−ラクチドのいずれか一方を触媒存在下で開環重合を行い、次いで他方の光学異性体であるラクチドを添加して開環重合を行うことでポリ乳酸ブロック共重合体を得る方法を挙げることができる。
【0090】
開環重合法で用いられるL−ラクチドおよびD−ラクチドの光学純度は90%ee以上であることがポリ乳酸ブロック共重合体の結晶性および融点を向上できる点で好ましい。さらに好ましくは95%ee以上であり、98%ee以上であることが特に好ましい。
【0091】
開環重合法でポリ乳酸ブロック共重合体を得る場合、高分子量体を得るという観点から反応系内の水分量はL−ラクチドおよびD−ラクチドの合計量に対して4mol%以下であることが好ましい。さらに好ましくは2mol%以下であり、0.5mol%以下が特に好ましい。なお、水分量とはカールフィッシャー法を用いて電量滴定法により測定した値である。
【0092】
開環重合法によりポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を製造する際の重合触媒としては、金属触媒と酸触媒が挙げられる。金属触媒としては錫化合物、チタン化合物、鉛化合物、亜鉛化合物、コバルト化合物、鉄化合物、リチウム化合物、希土類化合物などの金属触媒が挙げられる。化合物の種類としては、金属アルコキシド、金属ハロゲン化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酸化物などが好ましい。具体的には、錫粉末、塩化錫(II)、塩化錫(IV)、臭化錫(II)、臭化錫(IV)、エトキシ錫(II)、t−ブトキシ錫(IV)、イソプロポキシ錫(IV)、酢酸錫(II)、酢酸錫(IV)、オクチル酸錫(II)、ラウリン酸錫(II)、ミリスチン酸錫(II)、パルミチン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)、リノール酸錫(II)、アセチルアセトン錫(II)、シュウ酸錫(II)、乳酸錫(II)、酒石酸錫(II)、ピロリン酸錫(II)、p−フェノールスルホン酸錫(II)、ビス(メタンスルホン酸)錫(II)、硫酸錫(II)、酸化錫(II)、酸化錫(IV)、硫化錫(II)、硫化錫(IV)、酸化ジメチル錫(IV)、酸化メチルフェニル錫(IV)、酸化ジブチル錫(IV)、酸化ジオクチル錫(IV)、酸化ジフェニル錫(IV)、酸化トリブチル錫、水酸化トリエチル錫(IV)、水酸化トリフェニル錫(IV)、水素化トリブチル錫、モノブチル錫(IV)オキシド、テトラメチル錫(IV)、テトラエチル錫(IV)、テトラブチル錫(IV)、ジブチルジフェニル錫(IV)、テトラフェニル錫(IV)、酢酸トリブチル錫(IV)、酢酸トリイソブチル錫(IV)、酢酸トリフェニル錫(IV)、二酢酸ジブチル錫、ジオクタン酸ジブチル錫、ジラウリン酸ジブチル錫(IV)、マレイン酸ジブチル錫(IV)、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、塩化トリブチル錫(IV)、二塩化ジブチル錫、三塩化モノブチル錫、二塩化ジオクチル錫、塩化トリフェニル錫(IV)、硫化トリブチル錫、硫酸トリブチル錫、メタンスルホン酸錫(II)、エタンスルホン酸錫(II)、トリフルオロメタンスルホン酸錫(II)、ヘキサクロロ錫(IV)酸アンモニウム、ジブチル錫スルフィド、ジフェニル錫スルフィドおよび硫酸トリエチル錫、フタロシアニン錫(II)等の錫化合物が挙げられる。また、チタニウムメトキシド、チタニウムプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムブトキシド、チタニウムイソブトキシド、チタニウムシクロヘキシド、チタニウムフェノキシド、塩化チタン、二酢酸チタン、三酢酸チタン、四酢酸チタン、酸化チタン(IV)等のチタン化合物、ジイソプロポキシ鉛(II)、一塩化鉛、酢酸鉛、オクチル酸鉛(II)、イソオクタン酸鉛(II)、イソノナン酸鉛(II)、ラウリン酸鉛(II)、オレイン酸鉛(II)、リノール酸鉛(II)、ナフテン酸鉛、ネオデカン酸鉛(II)、酸化鉛、硫酸鉛(II)等の鉛化合物、亜鉛粉末、メチルプロポキシ亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛(II)、ナフテン酸亜鉛、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸亜鉛等の亜鉛化合物、塩化コバルト、酢酸コバルト、オクチル酸コバルト(II)、イソオクタン酸コバルト(II)、イソノナン酸コバルト(II)、ラウリン酸コバルト(II)、オレイン酸コバルト(II)、リノール酸コバルト(II)、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト(II)、炭酸第一コバルト、硫酸第一コバルト、酸化コバルト(II)等のコバルト化合物、塩化鉄(II)、酢酸鉄(II)、オクチル酸鉄(II)、ナフテン酸鉄、炭酸鉄(II)、硫酸鉄(II)、酸化鉄(II)等の鉄化合物、プロポキシリチウム、塩化リチウム、酢酸リチウム、オクチル酸リチウム、ナフテン酸リチウム、炭酸リチウム、硫酸ジリチウム、酸化リチウム等のリチウム化合物、トリイソプロポキシユウロピウム(III)、トリイソプロポキシネオジム(III)、トリイソプロポキシランタン、トリイソプロポキシサマリウム(III)、トリイソプロポキシイットリウム、イソプロポキシイットリウム、塩化ジスプロシウム、塩化ユウロピウム、塩化ランタン、塩化ネオジム、塩化サマリウム、塩化イットリウム、三酢酸ジスプロシウム(III)、三酢酸ユウロピウム(III)、酢酸ランタン、三酢酸ネオジム、酢酸サマリウム、三酢酸イットリウム、炭酸ジスプロシウム(III)、炭酸ジスプロシウム(IV)、炭酸ユウロピウム(II)、炭酸ランタン、炭酸ネオジム、炭酸サマリウム(II)、炭酸サマリウム(III)、炭酸イットリウム、硫酸ジスプロシウム、硫酸ユウロピウム(II)、硫酸ランタン、硫酸ネオジム、硫酸サマリウム、硫酸イットリウム、二酸化ユウロピウム、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化サマリウム(III)、酸化イットリウム等の希土類化合物が挙げられる。その他にも、カリウムイソプロポキシド、塩化カリウム、酢酸カリウム、オクチル酸カリウム、ナフテン酸カリウム、炭酸tert−ブチルカリウム、硫酸カリウム、酸化カリウム等のカリウム化合物、銅(II)ジイソプロポキシド、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、オクチル酸銅、ナフテン酸銅、硫酸銅(II)、炭酸二銅等の銅化合物、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、オクチル酸ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル(II)、酸化ニッケル等のニッケル化合物、テトライソプロポキシジルコニウム(IV)、三塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム(II)、炭酸ジルコニウム(IV)、硫酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム(II)等のジルコニウム化合物、トリイソプロポキシアンチモン、フッ化アンチモン(III)、フッ化アンチモン(V)、酢酸アンチモン、酸化アンチモン(III)等のアンチモン化合物、マグネシウム、マグネシウムジイソプロポキシド、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物、ジイソプロポキシカルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム等のカルシウム化合物、アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、オクチル酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物、ゲルマニウム、テトライソプロポキシゲルマン、酸化ゲルマニウム(IV)等のゲルマニウム化合物、トリイソプロポキシマンガン(III)、三塩化マンガン、酢酸マンガン、オクチル酸マンガン(II)、ナフテン酸マンガン(II)、硫酸第一マンガン等のマンガン化合物、塩化ビスマス(III)、ビスマス粉末、酸化ビスマス(III)、酢酸ビスマス、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス等のビスマス化合物なども挙げることができる。また、錫酸ナトリウム、錫酸マグネシウム、錫酸カリウム、錫酸カルシウム、錫酸マンガン、錫酸ビスマス、錫酸バリウム、錫酸ストロンチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸コバルト、チタン酸亜鉛、チタン酸マンガン、チタン酸ジルコニウム、チタン酸ビスマス、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの2種以上の金属元素からなる化合物なども好ましい。また、酸触媒としては、プロトン供与体のブレンステッド酸でもよく、電子対受容体であるルイス酸でもよく、有機酸および無機酸のいずれでもよい。具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、オクチル酸、ノナン酸、イソノナン酸、トリフルオロ酢酸およびトリクロロ酢酸などのモノカルボン酸化合物、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸およびマロン酸などのジカルボン酸化合物、クエン酸およびトリカリバリル酸などのトリカルボン酸化合物、ベンゼンスルホン酸、n−ブチルベンゼンスルホン酸、n−オクチルベンゼンスルホン酸、n−ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジブチルベンゼンスルホン酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、p−アミノベンゼンスルホン酸、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5−アミノ−2−メチルベンゼンスルホン酸、3,5−ジアミノ−2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸、p−クロルベンゼンスルホン酸、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、クメンスルホン酸、キシレンスルホン酸、o−クレゾールスルホン酸、m−クレゾールスルホン酸、p−クレゾールスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、イソプロピルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,7−ナフタレンジスルホン酸、4,4−ビフェニルジスルホン酸、アントラキノン−2−スルホン酸、m−ベンゼンジスルホン酸、2,5−ジアミノ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、アニリン−2,4−ジスルホン酸、アントラキノン−1,5−ジスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、n−オクチルスルホン酸、ペンタデシルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、1,3−プロパンジスルホン酸、アミノメタンスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸、シクロペンタンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸およびカンファースルホン酸、3−シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸などの脂環式スルホン酸などのスルホン酸化合物、アスパラギン酸やグルタミン酸などの酸性アミノ酸、アスコルビン酸、レチノイン酸、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、リン酸モノドデシルおよびリン酸モノオクタデシルなどのリン酸モノエステル、リン酸ジドデシルおよびリン酸ジオクタデシルなどのリン酸ジエステル、亜リン酸モノエステルおよび亜リン酸ジエステルなどのリン酸化合物、ホウ酸、塩酸、硫酸なども挙げられる。また、酸触媒としては、形状は特に限定されず、固体酸触媒および液体酸触媒のいずれでもよく、例えば、固体酸触媒としては、酸性白土、カオリナイト、ベントナイト、モンモリロナイト、タルク、ケイ酸ジルコニウムおよびゼオライトなどの天然鉱物、シリカ、アルミナ、チタニアおよびジルコニアなどの酸化物またはシリカアルミナ、シリカマグネシア、シリカボリア、アルミナボリア、シリカチタニアおよびシリカジルコニアなどの酸化物複合体、塩素化アルミナ、フッ素化アルミナ、陽イオン交換樹脂などが挙げられる。
【0093】
本発明において、生成されるポリ乳酸の分子量を考慮した場合、重合触媒としては金属触媒が好ましく、中でも錫化合物、チタン化合物、アンチモン化合物、希土類化合物がより好ましく、生成されるポリ乳酸の融点を考慮した場合には、錫化合物およびチタン化合物がより好ましい。さらに、生成されるポリ乳酸の熱安定性を考慮した場合、錫系の有機カルボン酸塩あるいは錫系のハロゲン化合物が好ましく、特に酢酸錫(II)、オクチル酸錫(II)、および塩化錫(II)がより好ましい。
【0094】
重合触媒の添加量については特に限定されるものではなく、使用する原料(L−乳酸、D−乳酸など)100重量部に対して0.001重量部以上、2重量部以下が好ましく、とくに0.001重量部以上、1重量部以下がより好ましい。触媒量が0.001重量部未満では重合時間の短縮効果が低下し、2重量部を越えると最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の分子量が大きくなりにくい傾向を生じる。また、触媒を2種類以上併用する場合は、合計添加量が上記の範囲内であることが好ましい。
【0095】
重合触媒の添加時期については特に限定されるものではないが、ラクチドを加熱溶解後、触媒を添加することが触媒を系内に均一分散し、重合活性を高める点で好ましい。
【0096】
次に、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合後、固相重合によりポリ乳酸ブロック共重合体を得る方法について説明する。
【0097】
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合後、固相重合によりポリ乳酸ブロック共重合体を製造する場合には、固相重合後の重量平均分子量とステレオコンプレックス形成率が高くなる点で、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸のうちいずれか一方の重量平均分子量が60,000〜300,000以下であり、もう一方の重量平均分子量が10,000〜50,000以下であることが好ましい。さらに好ましくは、一方の重量平均分子量が100,000〜270,000、もう一方の重量平均分子量が15,000〜45,000である。特に好ましくは、一方の重量平均分子量が150,000〜240,000、もう一方の重量平均分子量が20,000〜40,000である。また、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の重量平均分子量の組み合わせとしては混合後の重量平均分子量が90,000以上となるよう、適宜選択することが好ましい。ここで、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の製造方法については、開環重合法および直接重合法のいずれの方法も用いることができる。
【0098】
ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸に含有するラクチド量およびオリゴマー量は、それぞれ5%以下であることが好ましい。さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。また、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸に含有する乳酸量は、2%以下であることが好ましい。さらに好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0.5%以下である。
【0099】
ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸の酸価は、それぞれ600eq/ton以下であることが好ましい。より好ましくは300eq/ton以下であり、さらに好ましくは150eq/ton以下であり、特に好ましくは100eq/ton以下である。
【0100】
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合後、固相重合によりポリ乳酸ブロック共重合体を製造する場合、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物の形状は、特に限定されるものではなく、塊状、フィルム、ペレットおよび粉末などいずれでもよいが、固相重合を効率的に進めるという観点においては、ペレットまたは粉末を用いることが好ましい。ペレットにする方法としては、混合物をストランド状に押出し、ペレタイズする方法、混合物を水中に押出し、アンダーウォーターカッターを用いてペレット化する方法が挙げられる。また、粉末にする方法としては、ミキサー、ブレンダー、ボールミルおよびハンマーミルなどの粉砕機を用いて粉砕する方法が挙げられる。この固相重合工程を実施する方法については特に限定されるものではなく、回分法でも連続法でもよく、また、反応容器は、撹拌槽型反応器、ミキサー型反応器および塔型反応器などを用いることができ、これらの反応器は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0101】
この固相重合工程を実施する際には、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物が結晶化していることが好ましい。本発明において、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合工程で得られた混合物が結晶化状態である場合は、固相重合工程を実施する際にポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物の結晶化は必ずしも必要ないが、結晶化を行うことで固相重合の効率をさらに高めることもできる。
【0102】
結晶化させる方法については特に限定されるものではなく、公知の方法を利用することができる。例えば、気相中または液相中において結晶化温度で保持する方法およびポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の溶融混合物を延伸または剪断の操作を行いながら冷却固化させる方法などが挙げられ、操作が簡便であるという観点においては、気相中または液相中において結晶化温度で保持する方法が好ましい。
【0103】
ここでいう結晶化温度とは、ガラス転移温度より高く、前記で混合したポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸のうち、低い融点を有するポリ乳酸の融点よりも低い温度範囲であれば特に限定されるものではないが、予め示差走査型熱量計(DSC)により測定した昇温結晶化温度および降温結晶化温度の範囲内であることがより好ましい。
【0104】
結晶化させる際には、減圧、常圧または加圧のいずれの条件でもよい。
【0105】
また、結晶化させる際の時間については特に限定されるものではないが、3時間以内であれば十分に結晶化されており、2時間以内でも好ましい。
【0106】
この固相重合工程を実施する際の温度条件としては、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物の融点以下の温度であり、具体的には、100℃以上、220℃以下が好ましく、さらに固相重合を効率的に進めるという観点においては、110℃以上、210℃以下であることがより好ましく、さらには、120℃以上、200℃以下であることが最も好ましい。
【0107】
また、固相重合の反応時間を短縮するために、反応の進行とともに温度を段階的に上げるかあるいは連続的に上げることが好ましい。固相重合時に段階的に昇温するときの温度条件としては、第一段階として120〜145℃で1〜15時間、第二段階として135〜160℃で1〜15時間、第三段階として150〜175℃で10〜30時間と昇温するのが好ましく、さらには第一段階として130〜145℃で2〜12時間、第二段階として140〜160℃で2〜12時間、第三段階として155〜175℃で10〜25時間と昇温するのがより好ましい。固相重合時に連続的に昇温するときの温度条件としては、130℃〜150℃の初期温度より1〜5℃/分の速度で150〜175℃まで連続的に昇温するのが好ましい。また、段階的な昇温と連続的な昇温を組み合わせることも固相重合を効率的に進行する観点から好ましい。
【0108】
また、この固相重合工程を実施する際には、真空下または乾燥窒素などの不活性気体気流下で行うことが好ましい。真空下で固相重合を行う際の真空度は、150Pa以下であることが好ましく、75Pa以下であることがさらに好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。不活性気体気流下で固相重合を行う際の流量は、混合物1gに対して0.1〜2000ml/分の範囲が好ましく、0.5〜1000ml/分の範囲がさらに好ましく、1.0〜500ml/分の範囲が特に好ましい。
【0109】
次に、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を融点の高い方の成分の融解終了温度以上で長時間溶融混練を行うことで、L−乳酸単位のセグメントとD−乳酸単位のセグメントをエステル交換反応させたポリ乳酸ブロック共重合体を得る方法について説明する。
【0110】
本方法にてポリ乳酸ブロック共重合体を得るためには、溶融混練後にステレオコンプレックス形成率が高くなる点で、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸のうちいずれか一方の重量平均分子量が60,000〜300,000以下であり、もう一方の重量平均分子量が10,000〜50,000以下であることが好ましい。さらに好ましくは、一方の重量平均分子量が100,000〜270,000、もう一方の重量平均分子量が15,000〜45,000である。特に好ましくは、一方の重量平均分子量が150,000〜240,000、もう一方の重量平均分子量が20,000〜40,000である。また、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の重量平均分子量の組み合わせとしては混合後の重量平均分子量が90,000以上となるよう、適宜選択することが好ましい。ここで、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の製造方法については、開環重合法および直接重合法のいずれの方法を用いることができる。
【0111】
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合方法としては特に限定されるものではなく、例えばポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のうち、融点の高い方の成分の融解終了温度以上で溶融混練する方法が挙げられる。
【0112】
融解終了温度以上で溶融混練する方法としては、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を回分法もしくは連続法で混合する方法が挙げられ、いずれの方法で混合してもよく、混練装置としては例えば、一軸押出機、二軸押出機、プラストミル、ニーダー、および減圧装置付き撹拌槽型反応機が挙げられ、均一かつ十分に混練できる観点においては一軸押出機、二軸押出機を用いることが好ましい。
【0113】
混合する温度条件については、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のうち、融点の高い方の成分の融解終了温度以上で行うことが重要である。好ましくは140℃〜250℃の範囲であり、さらに好ましくは160℃〜230℃であり、特に好ましくは180〜210℃である。混合温度が250℃を超えると混合物の分子量低下が大きくなるため好ましくなく、140℃以下であると流動性が著しく低下するため好ましくない。
【0114】
混合する時間条件については、0.1分〜30分の範囲が好ましく、0.3分〜20分がより好ましく、0.5分〜10分の範囲が特に好ましい。混合時間が0.1分以下の場合は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合が不均一であるため好ましくなく、30分を超える場合には、混合により熱分解を生じやすくなるため好ましくない。
【0115】
混合する圧力条件については特に限定されるものではなく、大気雰囲気下または窒素などの不活性気体雰囲気下のいずれの条件でもよい。
【0116】
混合するL−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸とD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸の混合重量比は、80:20〜20:80であることが好ましく、75:25〜25:75であることがより好ましく、さらに70:30〜30:70であることが好ましく、特に60:40〜40:60であることが好ましい。L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸の重量比がそれぞれ20重量%未満であるか、あるいは80重量%を越えると、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の融点の上昇が小さくなり、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成しにくくなる傾向を生じる。
【0117】
この混合工程において、L−乳酸単位のセグメントとD−乳酸単位のセグメントのエステル交換を効率的に進めるために、混合物に、触媒を含有させることが好ましい。このとき触媒は、ポリ−L−乳酸および/またはポリ−D−乳酸を製造する際の触媒の残留分であってもよいし、混合工程においてさらに触媒を添加することもできる。
【0118】
触媒の含有量は、特に限定されるものではなく、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物100重量部に対して0.001重量部以上、1重量部以下が好ましく、とくに0.001重量部以上、0.5重量部以下がより好ましい。触媒量が0.001重量部未満では、混合物のエステル交換の頻度が低下し、1重量部を越えると混合物のエステル交換の頻度が大きいため最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の分子量が低くなる傾向を生じる。
【0119】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂を得た後に触媒失活剤を添加することが好ましい。重合触媒が残存している場合、その残存触媒により溶融混練時および溶融成形時にポリ乳酸ブロック共重合体が、熱分解することがあり、触媒失活剤を添加することにより、熱分解を抑制でき、熱安定性を向上することができる。
【0120】
本発明でいう触媒失活剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、チオエーテル系化合物、ビタミン系化合物、トリアゾール系化合物、多価アミン系化合物、ヒドラジン誘導体系化合物、リン系化合物などが挙げられ、これらを併用して用いてもよい。中でもリン系化合物を少なくとも1種含むことが好ましく、ホスフェート系化合物、ホスファイト系化合物であることがさらに好ましい。
【0121】
ヒンダードフェノール系化合物の具体例としては、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、1,4−ブタンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、N,N’−ビス−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオニルヘキサメチレンジアミン、N,N’−テトラメチレン−ビス−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェノール)プロピオニルジアミン、N,N’−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニル]ヒドラジン、N−サリチロイル−N’−サリチリデンヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、N,N’−ビス[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]オキシアミド、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド等をあげることができる。好ましくは、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイドである。ヒンダードフェノール系化合物の具体的な商品名としては、ADEKA製“アデカスタブ”AO−20,AO−30,AO−40,AO−50,AO−60,AO−70,AO−80,AO−330、チバスペシャリティケミカル製“イルガノックス”245,259,565,1010,1035,1076,1098,1222,1330,1425,1520,3114,5057、住友化学工業製“スミライザー”BHT−R、MDP−S、BBM−S、WX−R、NW、BP−76、BP−101、GA−80、GM、GS、サイアナミド製“サイアノックス”CY−1790などが挙げられる。
【0122】
チオエーテル系化合物の具体例としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−オクタデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)などが挙げられる。チオエーテル系化合物の具体的な商品名としては、ADEKA製“アデカスタブ”A0−23、AO−412S、AO−503A、チバスペシャリティケミカル製“イルガノックス”PS802、住友化学工業製“スミライザー”TPL−R、TPM、TPS、TP−D、エーピーアイコーポレーション製DSTP、DLTP、DLTOIB、DMTP、シプロ化成製“シーノックス”412S、サイアミド製“サイアノックス”1212などが挙げられる。
【0123】
多価アミン系化合物の具体例としては、3,9−ビス[2−(3,5−ジアミノ−2,4,6−トリアザフェニル)エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、エチレンジアミン−テトラアセチックアシッド、エチレンジアミン−テトラアセチックアシッドのアルカリ金属塩(Li,Na,K)塩、N,N’−ジサリシリデン−エチレンジアミン、N,N’−ジサリシリデン−1,2−プロピレンジアミン、N,N’’−ジサリシリデン−N’−メチル−ジプロピレントリアミン、3−サリシロイルアミノ−1,2,4−トリアゾールなどが挙げられる。
【0124】
ヒドラジン誘導体系化合物の具体例としては、デカメチレンジカルボキシリックアシッド−ビス(N’−サリシロイルヒドラジド)、イソフタル酸ビス(2−フェノキシプロピオニルヒドラジド)、N−ホルミル−N’−サリシロイルヒドラジン、2,2−オキザミドビス−[エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ハイドロオキシフェニル)プロピオネート]、オギザリル−ビス−ベンジリデン−ヒドラジド、ニッケル−ビス(1−フェニル−3−メチル−4−デカノイル−5−ピラゾレート)、2−エトキシ−2’−エチルオキサニリド、5−t−ブチル−2−エトキシ−2’−エチルオキサニリド、N,N−ジエチル−N’,N’−ジフェニルオキサミド、N,N’−ジエチル−N,N’−ジフェニルオキサミド、オキサリックアシッド−ビス(ベンジリデンヒドラジド)、チオジプロピオニックアシッド−ビス(ベンジリデンヒドラジド)、ビス(サリシロイルヒドラジン)、N−サリシリデン−N’−サリシロイルヒドラゾン、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、N,N’−ビス[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキ
シ〕エチル]オキサミドなどが挙げられる。
【0125】
リン系化合物としては、例えば、ホスファイト系化合物、ホスフェート系化合物が挙げられる。かかるホスファイト系化合物の具体例としては、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,6−ヘキサメチレン−ビス(N−ヒドロキシエチル−N−メチルセミカルバジド)−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,10−デカメチレン−ジ−カルボキシリックアシッド−ジ−ヒドロキシエチルカルボニルヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,10−デカメチレン−ジ−カルボキシリックアシッド−ジ−サリシロイルヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−ジ(ヒドロキシエチルカルボニル)ヒドラジド−ジホスァイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−N,N’−ビス(ヒドロキシエチル)オキサミド−ジホスファイトなどが挙げられるが、少なくとも1つのP−O結合が芳香族基に結合しているものがより好ましく、具体例としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチル−フェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノおよびジ−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)などが挙げられ、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスホナイトなどが好ましく使用できる。ホスファイト系化合物の具体的な商品名としては、ADEKA製“アデカスタブ” C、PEP−4C、PEP−8、PEP−11C、PEP−24G、PEP−36、HP−10、2112、260、522A、329A、1178、1500、C、135A、3010、TPP、チバスペシャリティケミカル製“イルガフォス”168、住友化学工業製“スミライザー”P−16、クラリアント製“サンドスタブ”PEPQ、GE製“ウエストン”618、619G、624などが挙げられる。
【0126】
ホスフェート系化合物の具体例としては、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェートなどが挙げられ、中でも、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェートが好ましい。ホスフェート系化合物の具体的な商品名としては、チバスペシャリティケミカル製“イルガノックス”MD1024、イーストマン・コダック製“インヒビター”OABH、ADEKA製“アデカスタブ”CDA−1、CDA−6、AX−71などを挙げることができる。
【0127】
具体例のさらなる好ましい例としてはPEP−8(ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト)、ADEKA製“アデカスタブ”AX−71(ジオフタデミルホスフェート)、PEP−36(サイクリックネオペンタテトライルビス(2,6―t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト)である。
【0128】
触媒失活剤の添加量は、特に限定されないが、熱安定性に優れるという点で、ポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対して、0.001〜2重量部であることが好ましく、0.01〜1重量部であることがより好ましく、0.05〜0.5重量部であることがさらに好ましく、0.08〜0.3重量部であることが最も好ましい。
【0129】
触媒失活剤の添加時期は、高分子量体を保持できる点でポリ乳酸樹脂を得た後が好ましい。
【0130】
<流動性改良剤(B)>
本発明で使用する(B)流動性改良剤とは、(A)ポリ乳酸樹脂に配合することにより、熱可塑性樹脂の溶融粘度を大幅に低減させる働きを有するものであり、具体的には、3つ以上の官能基を有する化合物、アクリル系化合物、分岐状ポリマー、液晶ポリマー、低分子量直鎖状ポリエステル、低分子量直鎖状ポリカーボネート、芳香族系低分子化合物から選択されるいずれか一つを含むものである。なお、これらは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0131】
本発明で用いる3つ以上の官能基を有する化合物は、本発明のポリ乳酸樹脂の流動性を向上させるために必要な成分である。成分としては、分子中に3つ以上の官能基を有するものであれば限定はされず、低分子化合物であってもよいし、重合体であってもよい。また、成分としては、3官能性化合物、4官能性化合物および5官能性化合物などの3つ以上の官能基を有する化合物であれば、いずれでもよいが、流動性および機械物性が優れるという点で、3官能性化合物または4官能性化合物であることがより好ましく、4官能性化合物であることがさらに好ましい。
【0132】
本発明において、流動性および機械特性に優れるという点で、成分としては、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、官能基を有する末端構造の少なくとも一つが式(1)で表される構造である化合物であることが好ましく、特に流動性および機械特性に優れるという点で、成分が、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、官能基を有する末端構造の二つ以上が式(1)で表される構造である化合物であることがより好ましく、成分中の官能基を有する末端構造の三つ以上が式(1)で表される構造である化合物であることがさらに好ましく、成分中の官能基を有する末端構造の全てが式(1)で表される構造である化合物であることが最も好ましい。
【0133】
【化1】

【0134】
ここで、Rは、炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは、1〜10の整数を表し、Xは、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、スルホ基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、オキサジン基、エステル基、アミド基、シラノール基、シリルエーテル基から選択される少なくとも1種の官能基を表す。
【0135】
本発明においては、流動性、および機械物性などが優れるという点で、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜7の整数を表し、Xは、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、エステル基、アミド基から選択される少なくとも1種の官能基を表すことが好ましく、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜5の整数を表し、Xは、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、グリシジル基、エステル基から選択される少なくとも1種の官能基を表すことがより好ましく、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜4の整数を表し、Xは、水酸基、アミノ基、グリシジル基、エステル基から選択される少なくとも1種の官能基を表すことがさらに好ましく、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜3の整数を表し、Xは、水酸基であることが特に好ましい。なお、本発明において、Rが、アルキレン基の場合、式(1)で表される構造は、アルキレンオキシド単位を含有する構造を示す。
【0136】
本発明において、成分中の官能基は、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、スルホ基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、オキサジン基、エステル基、アミド基、シラノール基、シリルエーテル基から選択された少なくとも1種類以上であることが好ましく、成分中の官能基は、これらの中から同一あるいは異なる3つ以上の官能基を有していることが好ましい。また、本発明において、成分が、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、官能基を有する末端構造の二つ以上が式(1)で表される構造である化合物である場合には、官能基としては、上記の中の同一のものでもよく、あるいは異なるものでもよいが、流動性、機械物性、および生産性の点で、同一のものであることが好ましい。
【0137】
3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−へキサントリオール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、トリエタノールアミン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、スクロース、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンなどの炭素数3〜24の多価アルコールやポリビニルアルコールなどのポリマーが挙げられる。なかでも、流動性、機械物性の点から分岐構造を有するグリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが好ましい。
【0138】
3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がカルボン酸基の場合は、プロパン−1,2,3−トリカルボン酸、2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸、ナフタレン−2,5,7−トリカルボン酸、ピリジン−2,4,6−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,7,8−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸などの多価カルボン酸やアクリル酸、メタクリル酸などのポリマーが挙げられ、それらの酸無水物も使用できる。なかでも、流動性の点から分岐構造を有するプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸およびその酸無水物が好ましい。
【0139】
3つ以上の官能基を有する化合物の官能基がアミノ基の場合は、3つ以上の置換基のうち少なくとも1つは1級または2級アミンであることが好ましく、いずれも1級または2級アミンであることがさらに好ましく、いずれも1級アミンであることが特に好ましい。
【0140】
3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がアミノ基の場合は、1,2,3−トリアミノプロパン、1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、1,2,4−トリアミノブタン、1,2,3,4−テトラミノブタン、1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、1,2,3−トリアミノシクロヘキサン、1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、1,2,3−トリアミノベンゼン、1,2,4,5−テトラミノベンゼン、1,2,4−トリアミノナフタレン、2,5,7−トリアミノナフタレン、2,4,6−トリアミノピリジン、1,2,7,8−テトラミノナフタレン、1,4,5,8−テトラミノナフタレン等が挙げられる。なかでも、流動性の点から分岐構造を有する1,2,3−トリアミノプロパン、1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好ましい。
【0141】
3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がグリシジル基の場合は、トリグリシジルトリアゾリジン−3,5−ジオン、トリグリシジルイソシアヌレートなどの単量体や、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−g−ポリメチルメタクリレート、グリシジル基含有アクリルポリマー、グリシジル基含有アクリル/スチレンポリマーなどのポリマーが挙げられる。
【0142】
3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がイソシアネート基の場合は、ノナントリイソシアネート(例えば4−イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート(TIN))、デカントリイソシアネート、ウンデカントリイソシアネート、ドデカントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0143】
3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がエステル基の場合は、上記3つ以上水酸基を有する化合物の脂肪族酸エステルまたは芳香族酸エステルや、上記3つ以上カルボン酸基を有する化合物のエステル誘導体などが挙げられる。
【0144】
3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がアミド基の場合は、上記3つ以上カルボン酸基を有する化合物のアミド誘導体などが挙げられる。
【0145】
また、流動性、機械物性の点から、3つ以上の官能基を有する化合物がアルキレンオキシド単位を一つ以上含むことが好ましい。なお、本発明において、成分が、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、官能基を有する末端構造の少なくとも一つが式(1)で表される構造である化合物であり、式(1)中のRが、アルキレン基の場合、式(1)で表される構造は、アルキレンオキシド単位を含有する構造を示すものであり、特に流動性に優れるという点で、成分としては、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、アルキレンオキシド単位を含有する多官能性化合物であることが最も好ましい。本発明において、アルキレンオキシド単位の好ましい例として、炭素原子数1〜4である脂肪族アルキレンオキシド単位が有効であり、具体例としてはメチレンオキシド単位、エチレンオキシド単位、トリメチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、テトラメチレンオキシド単位、1,2−ブチレンオキシド単位、2,3−ブチレンオキシド単位若しくはイソブチレンオキシド単位などを挙げることができ、本発明においては、特に、流動性に優れるという点で、アルキレンオキシド単位としてエチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位が含まれる化合物を使用するのが好ましい。
【0146】
本発明で用いる成分において、3つ以上の官能基を有する化合物に含まれるアルキレンオキシド単位数については、流動性に優れるという点で、1官能基当たりのアルキレンオキシド単位が0.1〜20であることが好ましく、0.5〜10であることがより好ましく、1〜5であることがさらに好ましい。
【0147】
アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、(ポリ)オキシメチレングリセリン、(ポリ)オキシエチレングリセリン、(ポリ)オキシトリメチレングリセリン、(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシテトラメチレングリセリン、(ポリ)オキシメチレンジグリセリン、(ポリ)オキシエチレンジグリセリン、(ポリ)オキシトリメチレンジグリセリン、(ポリ)オキシプロピレンジグリセリン、(ポリ)オキシメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシトリメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシテトラメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシメチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシトリメチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシトリメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシテトラメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシメチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシトリメチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシメチレングルコース、(ポリ)オキシエチレングルコース、(ポリ)オキシトリメチレングルコース、(ポリ)オキシプロピレングルコース、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレングルコース、(ポリ)オキシテトラメチレングルコース等を挙げることができる。
【0148】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がカルボン酸の場合は、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸等を挙げることができる。
【0149】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がアミノ基の場合は(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン等を挙げることができる。
【0150】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がエステル基の場合は、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上水酸基を有する化合物の脂肪族酸エステルまたは芳香族酸エステルや、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上カルボン酸基を有する化合物のエステル誘導体などが挙げられる。
【0151】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物の好ましい例として、官能基がアミド基の場合は、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上カルボン酸基を有する化合物のアミド誘導体などが挙げられる。
【0152】
流動性の点からアルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物の特に好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、(ポリ)オキシエチレングリセリン、(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシエチレンジグリセリン、(ポリ)オキシプロピレンジグリセリン、(ポリ)オキシエチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンジペンタエリスリトールが挙げられ、官能基がカルボン酸の場合は、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸が挙げられ、官能基がアミノ基の場合は(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼンが挙げられる。
【0153】
本発明で用いる3つ以上の官能基を有する化合物は、(A)ポリ乳酸樹脂と反応し、(A)成分の主鎖および側鎖に導入されていても良く、(A)ポリ乳酸樹脂と反応せずに、配合時の構造を保っていても良い。
【0154】
本発明で用いる、3つ以上の官能基を有する化合物の粘度は、25℃において15000m・Pa以下であることが好ましく、流動性、機械物性の点から5000m・Pa以下であることがさらに好ましく、2000m・Pa以下であることが特に好ましい。下限は特にないが、成形時のブリード性の点から100m・Pa以上であることが好ましい。25℃における粘度が15000m・Paよりも大きいと流動性改良効果が不十分であるため好ましくない。
【0155】
本発明で用いる、3つ以上の官能基を有する化合物の分子量または重量平均分子量(Mw)は、流動性の点で、50〜10000の範囲であることが好ましく、150〜8000の範囲であることがより好ましく、200〜1000の範囲であることがさらに好ましい。本発明において、3つ以上の官能基を有する化合物のMwは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0156】
本発明で用いる、3つ以上の官能基を有する化合物の含水分は1%以下であることが好ましい。より好ましくは含水分0.5%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下である。成分の含水分の下限は特にない。含水分が1%よりも高いと機械物性の低下を引き起こすため好ましくない。
【0157】
本発明において、分岐状ポリマーとは、枝分かれ構造を有するポリマーのことであり、詳しくは多分岐構造を有するポリマーのことをいい、枝分かれ構造としては、中心のコアから放射状に複数の直鎖状セグメントを分岐鎖として有するスターポリマー、幹となる直鎖状ポリマー鎖に多数の分岐点を有しそこから枝鎖となるポリマーが導入された構造を有するグラフトポリマー、3次元的に枝分かれを有し、繰り返し単位に枝分かれ構造を有するハイパーブランチポリマーおよびさらに分子量分布や分岐度を精密に制御したデンドリマーなどが挙げられ、工業的に生産しやすいという点で、スターポリマーおよびハイパーブランチポリマーが好ましく、流動性の点で、ハイパーブランチポリマーがより好ましい。なお、本発明の分岐状ポリマーは、流動性改良効果が大きいという点で、共有結合等の化学結合による架橋構造を有しない枝分かれ構造を有するポリマーであることが好ましい。
【0158】
本発明において分岐状ポリマーとしては、枝分かれ構造を有するポリマーであれば、特に限定されないが、流動性の点で、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリカーボネート、ポリエステルポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスチレン、ポリフェニレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィドおよびポリウレタンから選択されるいずれか一つを含むものであることが好ましく、機械特性の点で、ポリエステルおよびポリカーボネートがより好ましく、芳香環を有する芳香族系ポリマーであることがさらに好ましく、アルキレンテレフタレート構造を有するものであることが特に好ましい。
【0159】
本発明において、分岐状ポリマーの製造方法は、特に限定されない。スターポリマーの場合であれば、分岐鎖となる直鎖状セグメントを合成した後、コアにグラフト化するarm−first法およびコアとなる成分として多官能性開始剤を合成した後、分岐鎖となる直鎖状セグメントを合成するco−first法のいずれでもよい。デンドリマーの場合であれば、コアから段階的反応を繰り返し、分岐を増やしていくDivergent法および外側の殻の成分を段階的反応を繰り返し、最後にコアに結合させるConvergent法のいずれでもよい。ハイパーブランチポリマーの場合であれば、1分子中に2種類の置換基を合計3個以上有する化合物を用い逐次反応的に自己重縮合する方法、二官能性化合物および三官能性化合物を用い逐次反応的に重縮合する方法、開始剤部位を有するビニルモノマーを用い連鎖反応的に自己重縮合する方法および環状モノマーを用い連鎖反応的に開環重合する方法のいずれでもよく、流動性の点で、分子中に2種類の置換基を合計3個以上有する化合物を用い逐次反応的に自己重縮合する方法および二官能性化合物および三官能性以上の化合物を用い逐次反応的に重縮合する方法が好ましい。
【0160】
本発明において、分岐状ポリマーがハイパーブランチポリマーである場合には、原料モノマーとしては、上記製造方法を実施可能なものであれば、特に限定されない。具体例として、1分子中に2種類の置換基を合計3個以上有する化合物としては、ジフェノール酸、5−(2−ヒドロキシエトキシ)イソフタル酸、5−アセトキシイソフタル酸、5−フェノキシイソフタル酸、3,5−ヒドロキシ安息香酸、3,5−アセトキシ安息香酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸メチル、3,5−ビス(トリメチルシロキシ)安息香酸クロリド、4,4−(4’−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、4,4−(4’−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸メチル、3,5−ジブロモフェノール、5−(ブロモメチル)−1,3−ジヒドロキシベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、3,5−ビス(4−アミノフェノキシ)安息香酸、5−アミノイソフタル酸、フェノール−3,5−ジグリシジルエーテル、(3,5−ジブロモフェニル)ボロン酸、6−ブロモ−1−(4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルイル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、13−ブロモ−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシ−4’’−p−ターフェニルイル)トリデカン、13−ブロモ−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−[4−(6−ヒドロキシ−2−ナフタレニルイル)フェニル]トリデカンなどが挙げられ、流動性、機械特性の点で、5−(2−ヒドロキシエトキシ)イソフタル酸、5−アセトキシイソフタル酸、3,5−アセトキシ安息香酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸メチル、3,5−ビス(トリメチルシロキシ)安息香酸クロリド、4,4−(4’−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、3,5−ビス(4−アミノフェノキシ)安息香酸、13−ブロモ−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシ−4’’−p−ターフェニルイル)トリデカンが好ましい。二官能性化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなど、あるいは分子量200〜100000の長鎖グリコール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFおよびこれらのエステル形成性誘導体などのジオール成分、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミンなどのジアミン成分、三官能性以上の化合物としては、トリメシン酸、トリメリト酸、ピロメリト酸、メリト酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、1,3,5−ベンゼントリオール、トリス(4−アミノフェニル)アミン、1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられ、芳香環を有する化合物を少なくとも1種以上用いればよく、流動性、機械特性の点で、テレフタル酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールから選択される1種以上のジオール成分を用いることが好ましく、その場合は、分岐状ポリマーにアルキレンテレフタレート構造を有するものを得ることができる。開始剤部位を有するビニルモノマーとしては、3−(1−クロロエチル)スチレン、4−クロロメチルスチレンなどが挙げられる。環状モノマーとしては、2−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−1,3−オキサゾリンなどが挙げられる。
【0161】
本発明で用いる分岐状ポリマーの分子量は、特に限定されないが、流動性の点で、数平均分子量(Mn)が300〜30000の範囲であることが好ましく、500〜10000の範囲であることがより好ましく、800〜5000の範囲であることがさらに好ましく、1000〜3000の範囲であることが特に好ましく、重量平均分子量(Mw)が300〜150000の範囲であることが好ましく、500〜50000の範囲であることがより好ましく、800〜30000の範囲であることがさらに好ましく、1000〜10000の範囲であることが特に好ましい。
【0162】
本発明で用いる分岐状ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、流動性の点で、1〜5の範囲であることが好ましく、1〜4の範囲であることがより好ましく、1〜3の範囲であることがさらに好ましい。
【0163】
なお、分子量は以下の条件で、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)法により測定した値である。
カラム : K−806M(2本)、K−802(1本)(昭和電工)
溶媒 : ペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量%)
流速 : 0.8mL/min
試料濃度: 0.08%(wt/vol)
注入量 : 0.200mL
温度 : 23℃
検出器 : 示差屈折率(RI)検出器(東ソー製RI−8020)
校正曲線: 単分散ポリスチレンによる校正曲線を使用。
【0164】
本発明で用いる分岐状ポリマーの分岐度(DB)は、特に限定されないが、流動性の点で、0.1〜1.0の範囲であることが好ましく、0.2〜0.9の範囲であることがより好ましく、0.3〜0.9の範囲であることがさらに好ましい。本発明において、DBは下記式より求めることができ、それぞれのユニット数は、核磁気共鳴(NMR)による測定から求めることができる。
DB=(D+T)/(D+L+T)
D:デンドリティックユニット数
L:リニアーユニット数
T:ターミナルユニット数。
【0165】
本発明で用いる分岐状ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、流動性の点で、−60〜200℃の範囲であることが好ましく、0〜150℃の範囲であることがより好ましく、50〜120℃の範囲であることがさらに好ましい。本発明において、Tgは、示差走査熱量計(DSC)による測定から求めることができる。
【0166】
本発明で用いる分岐状ポリマーの融点(Tm)は、特に限定されないが、流動性の点で、0〜300℃の範囲であることが好ましく、30〜250℃の範囲であることがより好ましく、50〜200℃の範囲であることがさらに好ましい。本発明において、Tmは、示差走査熱量計(DSC)による測定から求めることができる。
【0167】
本発明において、液晶ポリマーとは、直鎖状の異方性溶融相を形成し得る樹脂であり、エステル結合を有するものが好ましい。例えば、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、あるいは、上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルアミドなどが挙げられ、具体的には、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステルなど、また、液晶性ポリエステルアミド樹脂としては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位以外にさらにp−アミノフェノールから生成したp−イミノフェノキシ単位を含有した異方性溶融相を形成するポリエステルアミドなどである。また、流動性の点で、液晶ポリマーとしては、分岐構造を有することが好ましい。このような特徴を有するポリマーとしては、例えば、特表平8−503503号公報、米国特許第4410683号公報などに記載の方法により得ることができる。
【0168】
これらの液晶ポリマーのうち、流動性および機械特性の点で、直鎖状の液晶性ポリエステルが好ましく、中でもp−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステルがより好ましく、中でもp−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位の液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位の液晶性ポリエステルがさらに好ましい。
【0169】
本発明において使用する液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドなどの液晶ポリマーの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法により製造できる。
例えば、液晶性ポリエステルの製造としては、次の製造方法が好ましく挙げられる。
【0170】
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0171】
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0172】
(3)p−ヒドロキシ安息香酸フェニルエステルおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸のジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0173】
(4)p−ヒドロキシ安息香酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量の炭酸ジフェニルを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0174】
(5)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマー、オリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で(1)または(2)の方法により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0175】
本発明で用いる液晶ポリマーの液晶開始温度(TN)は、特に限定されないが、流動性の点で、0〜300℃の範囲であることが好ましく、100〜250℃の範囲であることがより好ましく、150〜230℃の範囲であることがさらに好ましい。本発明において、TNは、剪断応力加熱装置(CSS−450)により剪断速度1000/s、昇温速度5℃/分、対物レンズ60倍において測定し、視野全体が流動開始する温度のことをいう。
【0176】
本発明で用いる液晶ポリマーの融点(Tm)は、特に限定されないが、流動性の点で、0〜350℃以下であることが好ましく、100〜300℃以下であることがより好ましく、180〜250℃以下であることがさらに好ましい。なお、本発明において、Tmは、示差走査熱量計(DSC)による測定から求めることができ、昇温速度20℃/分の条件で測定した値である。
【0177】
本発明で用いる液晶ポリマーの溶融粘度は、特に限定されないが、流動性の点で、0.5〜200Pa・sの範囲であることが好ましく、1〜100Pa・sの範囲であることがより好ましく、1〜50Pa・sの範囲であることがさらに好ましい。なお、本発明において、液晶ポリマーの溶融粘度は、キャピログラフによる測定から求めることができ、液晶ポリマーのTm+10〜50℃の条件で、剪断速度1000/sの条件で測定した値である。
【0178】
本発明で用いる低分子量直鎖状ポリエステルとは、重量平均分子量(Mw)が500〜30000の範囲にある直鎖状ポリエステルのことである。流動性、機械特性およびブリードアウトの点で、Mwは1000〜25000の範囲であることが好ましく、1500〜10000の範囲であることがより好ましく、3000〜5000の範囲であることがさらに好ましい。本発明において、低分子量直鎖状ポリエステルのMwは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0179】
また、本発明で用いる低分子量直鎖状ポリエステルとは、(イ)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体、(ロ)ヒドロキシカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体、(ハ)ラクトンから選択された一種以上を主構造単位とする重合体または共重合体であり、流動性および機械特性の点で、(イ)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体であることが好ましい。また、ポリエステルとしては、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、脂環族ポリエステルのいずれでもよい。
【0180】
本発明で用いる低分子量直鎖状ポリカーボネートとは、重量平均分子量(Mw)が500〜30000の範囲にある直鎖状ポリカーボネートのことである。流動性、機械特性およびブリードアウトの点で、Mwは1000〜25000の範囲であることが好ましく、5000〜20000の範囲であることがより好ましく、7000〜10000の範囲であることがさらに好ましい。本発明において、低分子量直鎖状ポリエステルのMwは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0181】
また、本発明で用いる低分子量直鎖状ポリカーボネートとは、ジオールと炭酸ジエステルを反応させることにより得られるカーボネート結合を有する重合体または共重合体であり、流動性の点で、両末端が水酸基であるポリカーボネートジオールであることが好ましい。本発明において、ジオールとしては、芳香族ジオール、脂肪族ジオール、脂環族ジオールのいずれでもよく、炭酸ジエステルとしては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニルなどのいずれでもよい。なお、原料のジオールは、得られるポリカーボネートの両末端が水酸基となるように、炭酸ジエステルに対して0.5〜5.0倍モルの範囲で用いることが好ましく、0.8〜2.0倍モルがより好ましく、0.9〜1.5倍モルがさらに好ましい。
【0182】
本発明で用いる芳香族系低分子化合物とは、芳香環を有し、数平均分子量(Mn)が50以上かつ1000未満である化合物のことである。本発明においては、流動性の点で、芳香環を有するカルボン酸もしくはエステル結合を有する化合物であることが好ましく、Mnは、100〜900の範囲であることが好ましく、300〜800の範囲であることがより好ましい。
【0183】
本発明で用いるアクリル系化合物とは、構成成分の30モル%以上が(メタ)アクリル酸系単量体で構成される直鎖状の化合物である。本発明においては、流動性の点で、(メタ)アクリル酸系単量体が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。本発明において、(メタ)アクリル酸系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
【0184】
本発明で用いるアクリル系化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、流動性、機械特性およびブリードアウトの点で、Mwが1000〜30万の範囲であることが好ましく、1000〜20万の範囲であることがより好ましく、1000〜10万の範囲であることがさらに好ましい。
【0185】
本発明で用いるアクリル系化合物の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を用いることができる。重合時の温度条件は特に限定されないが、耐熱性の点で、−30〜100℃が好ましく、0〜90℃がより好ましく、30〜80℃がさらに好ましい。
【0186】
本発明において、(B)流動性改良剤の配合量は、(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、0.01〜50重量部であり、流動性および成形性の点で、0.1〜30重量部が好ましく、0.5〜20重量部がより好ましく、1〜10重量部がさらに好ましい。
【0187】
<結晶化促進剤(C)>
本発明において、(C)結晶化促進剤の種類としては、熱可塑性樹脂に対して公知のものを使用することができ、具体的には、合成マイカ、クレー、タルク、ゼオライト、酸化マグネシウム、硫化カルシウム、窒化ホウ素、酸化ネオジウムなどの無機系結晶化促進剤を挙げることができ、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。また、有機系結晶化促進剤として、安息香酸ナトリウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ソルビトール系化合物、フェニルホスホネートの金属塩、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェートなどのリン化合物金属塩、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビス−12−ジヒドロキシステアリン酸アミドおよびトリメシン酸トリシクロヘキシルアミドなどの有機アミド系化合物等を挙げることができる。これらの結晶化促進剤を配合することで、機械特性、成形性に優れたポリ乳酸樹脂組成物および成形品を得ることができる。
【0188】
本発明において、(C)結晶化促進剤の配合量は、(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、0.1〜100重量部であり、流動性および成形性の点で、0.5〜50重量部が好ましく、0.5〜40重量部がより好ましく、0.5〜30重量部がさらに好ましい。
【0189】
<充填剤(D)>
本発明において、(D)充填剤の種類としては、繊維状、板状、粉末状、粒状などのいずれの充填剤も使用することができる。具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填剤、マイカ、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウムなどの粉状、粒状あるいは板状の充填剤が挙げられ、なかでもガラス繊維が好ましい。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の(D)充填剤は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の(D)充填剤はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0190】
本発明で用いる(D)充填剤は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆または集束処理されていてもよく、アミノシランやエポキシシランなどのカップリング剤などで処理されていても良い。
【0191】
本発明において、(D)充填剤の配合量は、(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、1〜100重量部であり、流動性および成形性の点で、5〜50重量部が好ましく、5〜40重量部がより好ましく、5〜30重量部がさらに好ましい。
【0192】
<耐衝撃性改良剤(E)>
本発明において、(A)ポリ乳酸樹脂の機械強度その他の特性を付与するために、(E)耐衝撃性改良剤を配合することが好ましい。(E)耐衝撃性改良剤の配合量は(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、1〜100重量部の範囲で配合することが流動性および機械物性の点から好ましく、1〜70重量部の範囲で配合することがより好ましく、1〜50重量部の範囲で配合することがさらに好ましい。
【0193】
本発明において、(E)耐衝撃性改良剤としては、熱可塑性樹脂に対して公知のものを使用することができ、具体的には、天然ゴム、低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンなどのポリエチレン、ポリプロピレン、耐衝撃改質ポリスチレン、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエン共重合体、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/メチルアクリレート共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエチレンテレフタレート/ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体などのポリエステルエラストマー、MBSなどのブタジエン系コアシェルエラストマーまたはアクリル系のコアシェルエラストマーが挙げられ、これらは1種または2種以上使用することができる。ブタジエン系またはアクリル系のコアシェルエラストマーとしては、三菱レイヨン製“メタブレン”、カネカ製“カネエース”、ローム&ハース製“パラロイド”などが挙げられる。
【0194】
<難燃剤(F)>
本発明において、(A)ポリ乳酸樹脂の難燃性その他の特性を付与するために、(F)難燃剤を配合することが好ましい。(F)難燃剤の配合量は(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、1〜100重量部の範囲で配合することが流動性および機械物性の点から好ましく、1〜70重量部の範囲で配合することがより好ましく、1〜50重量部の範囲で配合することがさらに好ましい。
【0195】
本発明において、(F)難燃剤としては、熱可塑性樹脂に対して公知のものを使用することができ、具体的には、赤リン、ブロム化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、水酸化マグネシウム、メラミンおよびシアヌール酸またはその塩、シリコン化合物が挙げられ、これらは1種または2種以上使用することができる。
【0196】
本発明で用いるポリ乳酸樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤を添加することができる。
【0197】
本発明で用いるポリ乳酸樹脂組成物に添加可能な添加剤の例としては、紫外線吸収剤(レゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、熱安定剤(ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、滑剤、離形剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料(ニグロシンなど)および顔料(硫化カドミウム、フタロシアニンなど)を含む着色剤、着色防止剤(亜リン酸塩、次亜リン酸塩など)、導電剤あるいは着色剤(カーボンブラックなど)、摺動性改良剤(グラファイト、フッ素樹脂など)、帯電防止剤などが挙げられ、1種または2種以上を添加することができる。
【0198】
本発明で用いるポリ乳酸樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロースエステルなど)または熱硬化性樹脂(例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂など)または軟質熱可塑性樹脂(例えば、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体など)などの少なくとも1種以上をさらに含有することができる。
【0199】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物においては、流動性の点で、(A)ポリ乳酸樹脂の融点+15℃、剪断速度100mm/分における溶融粘度が、50〜150Pa・sの範囲であることが好ましく、50〜140Pa・sの範囲であることがより好ましく、50〜130Pa・sの範囲であることがさらに好ましく、50〜120Pa・sの範囲であることが特に好ましい。なお、本発明において、樹脂組成物の溶融粘度は、キャピログラフにより測定することができる。
【0200】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物においては、流動性および機械物性の点で、(A)ポリ乳酸樹脂の融点+15℃、剪断速度100mm/分における溶融粘度/重量平均分子量×10000が、4〜9の範囲であることが好ましく、4〜8の範囲であることがより好ましく、4〜7の範囲であることがさらに好ましく、4〜6の範囲であることが特に好ましい。
【0201】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、通常公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用でき、フィルムとしては、未延伸、一軸延伸、二軸延伸などの各種フィルムとして、繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができる。特に、本発明においては、流動性に優れる点を活かして、厚み0.01〜1.0mmの薄肉部位を有する射出成形品に加工することができ、また、流動性および外観性が必要とされる大型成形品にも加工することが可能である。
【0202】
本発明において、上記各種成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。
【実施例】
【0203】
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。ここで、実施例中の部数は重量部を示す。また、使用した原料および表中の符号を以下に示す。
【0204】
(A)ポリ乳酸樹脂
A−1:製造例1(ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合樹脂)
A−2:製造例2(ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のブロック共重合体)
A−3:製造例3(ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合樹脂)
A−4:製造例4(ポリ−L−乳酸)。
【0205】
(B)流動性改良剤
B−1:3つ以上の官能基を有する化合物(トリメチロールプロパン:分子量134、ALDRICH)
B−2:3つ以上の官能基を有する化合物(ペンタエリスリトール:分子量136、東京化成)
B−3:3つ以上の官能基を有する化合物(ポリオキシエチレンジグリセリン、分子量410、1官能基当たりのアルキレンオキシド単位数1.5、阪本製薬製SC−E450)
B−4:3つ以上の官能基を有する化合物(オキシエチレントリメチロールプロパン:分子量266、日本乳化剤製TMP−30U)
B−5:3つ以上の官能基を有する化合物(ポリオキシエチレンペンタエリスリトール:分子量400、日本乳化剤製PNT−60U)
B−6:製造例5(分岐状ポリマー:ハイパーブランチ芳香族ポリエステル)
B−7:製造例6(液晶性ポリマー:液晶性ポリエステル)
B−8:製造例7(低分子量直鎖状ポリエステル:脂肪族ポリエステル)
B−9:製造例8(低分子量直鎖状ポリカーボネート:脂肪族ポリカーボネート)
B−10:芳香族系低分子化合物(トリメリット酸トリー2−エチルヘキシル、大八化学工業製TOTM、分子量547、Tm−30℃)
B−11:(アクリル系化合物:ポリブチルアクリレート(綜研化学製‘’アクトフロー‘’UMB−1001、重量平均分子量1500)
B−12:製造例9(アクリル系化合物:トリブロック共重合体(ポリメチルメタクリレート−ポリブチルアクリレート−ポリメチルメタクリレート、重量平均分子量6.2万、ポリブチルアクリレート含有量50wt%))。
【0206】
(C)結晶化促進剤
C−1:タルク(日本タルク製‘’ミクロエース‘’P−6)
C−2:エチレンビスステアリン酸アマイド(花王製‘’カオーワックス‘’EB−FF)
C−3:リン酸金属塩(アデカ製‘’アデカスタブ‘’NA−11)。
【0207】
(D)充填剤
D−1:ガラス繊維(日東紡績製CS3J948)。
【0208】
(E)耐衝撃改良剤
E−1:最外層にグリシジル基を含有するコアシェル型ゴム(ロームアンドハース社製「パラロイドEXL2314」(コア:アクリル酸ブチルゴム、シェル:メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体))。
【0209】
(F)難燃剤
F−1:水酸化マグネシウム(ALDRICH)。
【0210】
[製造例1](A−1の製造例)
撹拌装置と還流装置を備えた反応容器中に、90%L−乳酸水溶液を50部入れ、温度を150℃にした後、徐々に減圧して水を留去しながら3.5時間反応した。その後、窒素雰囲気下で常圧にし、酢酸スズ(II)0.02部を添加した後、170℃にて13Paになるまで徐々に減圧しながら7時間重合反応を行い、ポリ−L−乳酸(PLLA1)を得た。PLA1の重量平均分子量は1.8万、分散度は1.5、融点は149℃、融解終了温度は163℃であった。得られたPLLA1を、窒素雰囲気下110℃で1時間結晶化処理を行った後、60Paの圧力下、140℃で3時間、150℃で3時間、160℃で18時間固相重合を行い、ポリ−L−乳酸(PLLA2)を得た。PLA2の重量平均分子量は20.3万、降温結晶化温度は96℃、融点は170℃であった。次に、撹拌装置と還流装置を備えた反応容器中に、90%D−乳酸水溶液を50部入れ、温度を150℃にした後、徐々に減圧して水を留去しながら3.5時間反応した。その後、窒素雰囲気下で常圧にし、酢酸スズ(II)0.02部を添加した後、170℃にて13Paになるまで徐々に減圧しながら7時間重合反応を行い、ポリ−D−乳酸(PDLA1)を得た。PLA1の重量平均分子量は1.7万、融点は148℃、融解終了温度は161℃であった。得られたPDLA1を、窒素雰囲気下110℃で1時間結晶化処理を行った後、60Paの圧力下、140℃で3時間、150℃で3時間、160℃で14時間固相重合を行い、ポリ−L−乳酸(PDLA2)を得た。PLA3の重量平均分子量は15.8万、降温結晶化温度は97℃、融点は168℃であった。
【0211】
次に、PLLA2とPDLA2を、あらかじめ窒素雰囲気下で温度110℃、2時間結晶化処理を行っておき、PLLA2/PDLA2=50/50重量部になるように原料を配合し、触媒失活剤(アデカ製、‘’アデカスタブ‘’AX−71)をPLLA2とPDLA2の合計100重量部に対し0.5重量部をドライブレンドした後、シリンダー温度を240℃、スクリュー回転数を100rpmに設定した、2ヶ所のニーディングブロック部を有するPCM30二軸押出機で溶融混練し、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化することで、ペレット状のポリ乳酸樹脂A−1を得た。ポリ乳酸樹脂A−1の重量平均分子量は18.2万、溶融粘度は135Pa・s、降温結晶化温度は121℃、ステレオコンプレックス融点は214℃であった。なお、圧力13.3Pa、110℃で2時間結晶化処理を行った後、物性測定を実施した。
【0212】
[製造例2](A−2の製造例)
製造例1で得られたPDLA1を、窒素雰囲気下110℃で1時間結晶化処理を行った後、60Paの圧力下、140℃で3時間、150℃で3時間、160℃で6時間固相重合を行い、ポリ−D−乳酸(PDLA3)を得た。PDLA3の重量平均分子量は4.2万、降温結晶化温度は98℃、融点は158℃であった。
【0213】
製造例1で得られたPLLA2とPDLA3を、あらかじめ窒素雰囲気下で温度110℃、2時間結晶化処理を行っておき、PLLA2をTEX30α二軸押出機(日本製鋼所製)の樹脂供給口より添加し、PDLA3をL/D=30の部分に設けたサイド供給口より添加し溶融混練を行った。二軸押出機は、樹脂供給口よりL/D=10の部分に温度180℃に設定した可塑化部分を設け、L/D=30の部分にはニーディングディスクを備えてせん断付与できるスクリューとしてせん断付与下で混合できる構造をしており、PLLA2とPDLA3の混合はせん断付与下、混合温度200℃で行った。ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化することで、ペレット状のポリ乳酸溶融混練樹脂a−1を得た。得られたポリ乳酸溶融混練樹脂を真空乾燥機中、110℃にて圧力13.3Paで2時間乾燥後、140℃にて圧力13.3Paで4時間固相重合を行い、次いで150℃に昇温して4時間、さらに160℃に昇温して10時間固相重合を行い、ポリ乳酸ブロック共重合体を得た。次いで、触媒失活剤(アデカ製、‘’アデカスタブ‘’AX−71)を得られたポリ乳酸ブロック共重合体100重量部に対し0.5重量部をドライブレンドした後、シリンダー温度を240℃、スクリュー回転数を100rpmに設定した、2ヶ所のニーディングブロック部を有するPCM30二軸押出機で溶融混練し、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化することで、ペレット状のポリ乳酸樹脂A−2を得た。ポリ乳酸樹脂A−2の重量平均分子量は16.6万、溶融粘度は121Pa・s、降温結晶化温度は137℃、ステレオコンプレックス融点は213℃であった。なお、圧力13.3Pa、110℃で2時間結晶化処理を行った後、物性測定を実施した。
【0214】
[製造例3](A−3の製造例)
製造例1で得られたPLLA1を、窒素雰囲気下110℃で1時間結晶化処理を行った後、60Paの圧力下、140℃で3時間、150℃で3時間、160℃で10時間固相重合を行い、ポリ−L−乳酸(PLLA3)を得た。PLA2の重量平均分子量は10.3万、降温結晶化温度は98℃、融点は171℃であった。次に、製造例1で得られたPDLA1を、窒素雰囲気下110℃で1時間結晶化処理を行った後、60Paの圧力下、140℃で3時間、150℃で3時間、160℃で10時間固相重合を行い、ポリ−D−乳酸(PDLA4)を得た。PLA3の重量平均分子量は9.8万、降温結晶化温度は97℃、融点は168℃であった。次に、PLLA3とPDLA4を、あらかじめ窒素雰囲気下で温度110℃、2時間結晶化処理を行っておき、PLLA3/PDLA4=50/50重量部になるように原料を配合し、触媒失活剤(アデカ製、‘’アデカスタブ‘’AX−71)をPLLA3とPDLA4の合計100重量部に対し0.5重量部をドライブレンドした後、シリンダー温度を240℃、スクリュー回転数を100rpmに設定した、2ヶ所のニーディングブロック部を有するPCM30二軸押出機で溶融混練し、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化することで、ペレット状のポリ乳酸樹脂A−3を得た。ポリ乳酸樹脂A−3の重量平均分子量は9.2万、溶融粘度は59Pa・s、降温結晶化温度は127℃、ステレオコンプレックス融点は225℃であった。なお、圧力13.3Pa、110℃で2時間結晶化処理を行った後、物性測定を実施した。
【0215】
[製造例4](A−4の製造例)
製造例1で得られたPLLA2を、あらかじめ窒素雰囲気下で温度60℃、2時間結晶化処理を行っておき、触媒失活剤(アデカ製、‘’アデカスタブ‘’AX−71)をPLLA4の100重量部に対し0.5重量部をドライブレンドした後、シリンダー温度を190℃、スクリュー回転数を100rpmに設定した、2ヶ所のニーディングブロック部を有するPCM30二軸押出機で溶融混練し、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化することで、ペレット状のポリ乳酸樹脂A−3を得た。ポリ乳酸樹脂A−3の重量平均分子量は19.8万、溶融粘度は163Pa・s、降温結晶化温度は97℃であった。なお、圧力13.3Pa、60℃で2時間結晶化処理を行った後、物性測定を実施した。
【0216】
[製造例5](B−6の製造例)
攪拌翼および留出管を備えた500mLの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸66.3g(0.48モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル8.38g(0.045モル)、テレフタル酸7.48g(0.045モル)、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト14.41g(0.075モル)、トリメシン酸31.52g(0.15モル)を加えておよび無水酢酸62.48g(フェノール性水酸基合計の1.00当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた。その後、280℃まで昇温し、3時間攪拌し、理論留出量の91%の酢酸が留出したところで加熱および攪拌を停止し、内容物を冷水中に吐出した。
【0217】
得られた樹状ポリエステルを、乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥した後、ブレンダーを用いて粉砕し、得られた樹状ポリエステル粉末を、真空加熱乾燥機を用いて100℃で12時間加熱真空乾燥した。
【0218】
乾燥後の樹状ポリエステル粉末70gと、オルト酢酸エチル31.4g(0.19モル)を、撹拌翼を備えた500mLの反応容器に仕込み、200℃に昇温した。200℃で20分撹拌した後、内容物を冷水中に吐出し、真空加熱乾燥機を用いて100℃で12時間加熱真空乾燥することで、分岐状ポリマーとして、芳香族ハイパーブランチ芳香族ポリエステル(B−6)を得た。B−6を分析した結果、数平均分子量2200、重量平均分子量は4900であった。
【0219】
[製造例6](B−7の製造例)
撹拌翼、留出管を備えた反応容器にp−アセトキシ安息香酸90部、固有粘度が0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト110部を仕込み、窒素気流下、280℃で1時間反応させた後、290℃、67kPaで2時間重縮合させ、液晶ポリマーとして液晶性ポリエステル(B−4)を得た。B−7を分析した結果、液晶開始温度170℃、融点200℃であった。
【0220】
[製造例7](B−8の製造例)
撹拌翼、冷却器を備えた反応容器を窒素置換した後、アジピン酸65部、1,4−シクロヘキサンジメタノール20部、1,4−ブタンジオール20部およびエチレングリコール10部を仕込み、窒素気流下、200℃、150kPaで1時間反応させ、さらに、220℃、40kPaで3時間反応させ、低分子量直鎖状ポリエステルとして、脂肪族ポリエステル(B−8)を得た。B−8を分析した結果、重量平均分子量5750であった。
【0221】
[製造例8](B−9の製造例)
撹拌翼、冷却器を備えた反応容器を窒素置換した後、1,6−ヘキサンジオール56部、炭酸ジメチル43部を仕込み、窒素気流下、120℃で撹拌しながら15分間保持した後、テトラブトキシチタン0.1gを添加し、窒素気流下、190℃、10kPaで5時間反応し、さらに200℃、67Paで5時間反応させ、低分子量直鎖ポリカーボネートとして脂肪族ポリカーボネート(B−9)を得た。B−9を分析した結果、重量平均分子量2850、ヒドロキシル末端基量95モル%、メチルカーボネート末端基量5モル%であった。
【0222】
[製造例9](B−12の製造例)
三方コックを取り付けた2Lの三口フラスコに磁石を封入しテフロン(登録商標)等でコーティングした攪拌子を投入し、ドライヤーで炙りながら真空ポンプにて脱気したのち、アルゴンガスにて置換する作業を3回繰り返し、フラスコ内の水分の除去を行った。該三口フラスコにトルエン600g、1,2−ジメトキシエタン56g、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム16.8mmol、およびsec−ブチルリチウム3.2mmolを加え、窒素雰囲気下で10分間マグネチックスターラーにて撹拌を行った。その後、メタクリル酸メチル32gを加え、室温下にて90分重合反応を行った(第一ブロック)。引き続き、重合液の内部温度を−40℃に設定し、あらかじめ−40℃に冷却したアクリル酸n−ブチル64gを360分かけて連続滴下した(第二ブロック)。さらに引き続き、メタクリル酸メチル32gを加えて重合液の内部温度を常温に戻し、600分撹拌を継続し重合反応を行った(第三ブロック)。この重合液を15Lのメタノール中に投入し、重合停止とともにポリマーの再沈殿を行った。再沈殿後のポリマーを回収し、60℃設定真空乾燥機にて一昼夜乾燥を行うことで、ブロック構造を有するアクリル系化合物(B−12)を得た。得られたアクリル系化合物(B−12)のGPCを測定した結果、重量平均分子量6.2万であった。さらに、1H−NMRにて組成分析を行った結果、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)=50重量%であり、アクリル酸n−ブチル重合体(PnBA)=50重量%であった。これらのことから、アクリル系化合物(B−12)は、PMMA(25重量%)−PnBA(50重量%)−PMMA(25重量%)のトリブロック共重合体であることが判明した。
【0223】
また、実施例などで使用する評価方法を以下にまとめて示す。
【0224】
(1)重量平均分子量
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量の値である。GPCの測定は、検出器にWATERS社示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにWATERS社MODEL510を用い、カラムにShodex GPC HFIP−806MとShodex GPC HFIP−LGを直列に接続したものを用いて行った。測定条件は、流速0.5mL/minとし、溶媒にヘキサフルオロイソプロパノールを用い、試料濃度1mg/mLの溶液を0.1mL注入した。
【0225】
なお、分岐状ポリマーの重量平均分子量、数平均分子量は、以下の条件で、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)法により測定した。
カラム : K−806M(2本)、K−802(1本)(昭和電工)
溶媒 : ペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量%)
流速 : 0.8mL/min
試料濃度: 0.08%(wt/vol)
注入量 : 0.200mL
温度 : 23℃
検出器 : 示差屈折率(RI)検出器(東ソー製RI−8020)
校正曲線: 単分散ポリスチレンによる校正曲線を使用。
【0226】
(2)溶融粘度
東洋精機社製キャピログラフ1C型(ダイス径φ1mmダイス長5mm)を用いて、融点+10℃、剪断速度100/分にて測定した。
【0227】
(3)溶融粘度低下率
下記一般式にて溶融粘度低下率を測定した
(流動性改良剤添加前の溶融粘度−流動性改良剤添加後の溶融粘度)/(流動性改良剤添加前の溶融粘度)×100(%)
【0228】
(4)熱特性
降温結晶化温度、ステレオコンプレックス融点は、パーキンエルマー社示差走査型熱量計(DSC)により測定した。測定条件は、試料10mg、窒素雰囲気下中、昇降温速度20℃/分である。
【0229】
但し、ステレオコンプレックス融点は、190℃以上250未満に現れるステレオコンプレックス結晶の結晶融解温度とする。
【0230】
(5)成形性
12.7mm×127mm×3mmの短冊を成形し、下記基準により判定した。
◎:問題なく、成形品を得ることができる。
○:バリもしくは未充填がわずかにある成形品を得ることができる。
×:バリもしくは未充填が大きく、成形品を得ることができない。
【0231】
(6)耐衝撃性
ASTM D256に従って、3mm厚ノッチ付き成形品のアイゾット衝撃強度を測定した。
【0232】
[実施例1〜21、比較例1〜3]
表1,表2に示すように(A)ポリ乳酸樹脂および(B)流動性改良剤を配合し、PCM30二軸押出機を用い、シリンダー温度240℃、回転数100rpmの条件で溶融混練を行いペレット状の樹脂組成物を得た。
【0233】
得られた樹脂組成物を住友重工業製射出成形機SG75H−MIVを用い、シリンダー温度を融点+15℃、金型温度90℃で、成形性を評価した。
【0234】
[比較例4、5]
表2に示すように(A)ポリ乳酸樹脂および(B)流動性改良剤を配合し、PCM30二軸押出機を用い、シリンダー温度190℃、回転数100rpmの条件で溶融混練を行いペレット状のポリ乳酸組成物を得た。
【0235】
得られた樹脂組成物を住友重工業製射出成形機SG75H−MIVを用い、シリンダー温度を融点+15℃、金型温度90℃で、成形性を評価した。
【0236】
評価結果を表2に示す。
【0237】
【表1】

【0238】
【表2】

【0239】
表1,表2の結果より以下のことが明らかである。
【0240】
実施例1〜21と比較例1〜5との比較から、(A)ポリ乳酸樹脂および(B)流動性改良剤を配合してなるポリ乳酸組成物は、流動性および成形性に優れていることがわかる。特に、(A)ポリ乳酸樹脂がポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸からなり、(B)流動性改良剤が、3つ以上の官能基を有する化合物、アクリル系化合物、分岐状ポリマー、液晶ポリマー、低分子量直鎖状ポリエステル、低分子量直鎖状ポリカーボネート、芳香族系低分子化合物のいずれかであることが好ましいことがわかる。
【0241】
[実施例22〜39、比較例6〜11]
表3,表4に示すように(A)ポリ乳酸樹脂および(B)流動性改良剤を配合し、PCM30二軸押出機を用い、シリンダー温度240℃、回転数100rpmの条件で溶融混練を行いペレット状の樹脂組成物を得た。
得られたポリ乳酸樹脂組成物を住友重工業製射出成形機SG75H−MIVを用い、シリンダー温度を融点+15℃、金型温度90℃で、成形性を評価した。
【0242】
評価結果を表3,表4に示す。
【0243】
【表3】

【0244】
【表4】

【0245】
表3,表4の結果より以下のことが明らかである。
【0246】
実施例22〜39と比較例1〜5との比較から、(A)ポリ乳酸樹脂、(B)流動性改良剤、および(C)結晶化促進剤を配合してなるポリ乳酸組成物は、流動性および成形性に優れていることがわかる。特に、(A)ポリ乳酸樹脂がポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸からなり、(B)流動性改良剤が、3つ以上の官能基を有する化合物、アクリル系化合物、分岐状ポリマー、液晶ポリマー、低分子量直鎖状ポリエステル、低分子量直鎖状ポリカーボネート、芳香族系低分子化合物のいずれかであることが好ましいことがわかる。
【0247】
[実施例40〜45、比較例12〜17]
表5に示すように(A)ポリ乳酸樹脂、(B)流動性改良剤、(C)結晶化促進剤に加え、(D)充填剤、(E)耐衝撃性改良剤、(F)難燃剤を適宜配合し、PCM30二軸押出機を用い、シリンダー温度240℃、回転数100rpmの条件で溶融混練を行いペレット状の樹脂組成物を得た。
【0248】
得られた樹脂組成物を住友重工業製射出成形機SG75H−MIVを用い、シリンダー温度を融点+15℃、金型温度90℃で、成形性を評価した。
評価結果を表5に示す。
【0249】
【表5】

【0250】
表5の結果より以下のことが明らかである。
実施例40〜45と比較例12〜17との比較から、(A)ポリ乳酸樹脂、(B)流動性改良剤、(C)結晶化促進剤、(D)充填剤、(E)耐衝撃性改良剤、および(F)難燃剤を配合してなるポリ乳酸組成物は、流動性および成形性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸からなるポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(B)流動性改良剤を0.01〜50重量部配合してなるポリ乳酸組成物。
【請求項2】
DSC測定において、樹脂組成物を250℃まで昇温して3分間恒温状態にした後、冷却速度20℃/分で降温した際の恒温結晶化温度が120℃以上であり、30℃まで降温後、さらに昇温速度20℃/分で250℃まで昇温した際のステレオコンプレックス結晶の融点が200℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸組成物。
【請求項3】
(A)ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量が10万以上であり、かつ(B)流動性改良剤を配合した後の溶融粘度が、(B)流動性改良剤を配合する前の溶融粘度から10%以上低下することを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のポリ乳酸組成物。
【請求項4】
(A)ポリ乳酸樹脂が、ポリ−L−乳酸からなるセグメントとポリ−D−乳酸からなるセグメントから構成されるブロック共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸組成物。
【請求項5】
(A)ポリ乳酸樹脂が、ポリ−L−乳酸からなるセグメントとポリ−D−乳酸からなるセグメントから構成されるブロック共重合体において、ポリ−L−乳酸からなるセグメントの重量平均分子量とポリ−D−乳酸からなるセグメントの重量平均分子量の比が1.5以上30未満であり、全体の分子量が10万以上であることを特徴とする請求項4に記載のポリ乳酸組成物。
【請求項6】
(B)流動性改良剤が、3つ以上の官能基を有する化合物、アクリル系化合物、分岐状ポリマー、液晶ポリマー、低分子量直鎖状ポリエステル、低分子量直鎖状ポリカーボネート、芳香族系低分子化合物から選択されるいずれか一つを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸組成物。
【請求項7】
(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(C)結晶化促進剤を1〜100重量部配合してなる請求項1〜6のいずれかに記載のポリ乳酸組成物。
【請求項8】
(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(D)充填剤を1〜100重量部配合してなる請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸組成物。
【請求項9】
(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(E)耐衝撃性改良剤を1〜100重量部配合してなる請求項1〜8のいずれかに記載のポリ乳酸組成物。
【請求項10】
(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、(F)難燃剤を1〜100重量部配合してなる請求項1〜9のいずれかに記載のポリ乳酸組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリ乳酸組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2012−177011(P2012−177011A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39809(P2011−39809)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】