説明

マイクロカプセルの水性分散体の製造方法及びマイクロカプセルを用いた架橋性樹脂組成物

【課題】 本発明は、架橋剤を配合しても、増粘しない、ポットライフの長い、感圧式接着剤組成物を得ることを目的とする。
【解決手段】 分散安定剤の水溶液に、架橋剤(b1)、難水溶性であって、単官能モノマー(b4)から形成され得るポリマーを溶解しにくい有機溶剤(b2)、少量の多官能モノマー(b3)、単官能モノマー(b4)及び重合開始剤を含む均一溶液を分散し、特定粒子径のモノマー分散液を得、次いで前記モノマー(b3)、(b4)を重合し、前記モノマー(b3)、(b4)から形成されるポリマーシェル中に、架橋剤(b1)を内包する、特定粒子径のマイクロカプセル(B)の水性分散体を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセルの水性分散体の製造方法に関する。詳しくは、架橋性樹脂組成物、具体的には感圧式接着剤組成物用の架橋剤を内包するのに好適なマイクロカプセルの水性分散体の製造方法に関する。さらに本発明は、マイクロカプセルの水性分散体を用いてなる架橋性樹脂組成物、具体的には感圧式接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料、粘着剤、接着剤、インキ用バインダー、オーバーコートニス、各種機能性表面処理剤などの被覆材料の他、有機・無機顔料等の微粒子分散剤、相溶化剤等、様々な用途において、耐熱性や耐水性などの種々の耐性が要求される。これらの耐性をクリアするための方法の一つとして架橋構造の導入があげられる。架橋構造を導入することにより物性は飛躍的に向上することが多い。
【0003】
架橋構造を導入する方法としては、主剤と架橋剤(硬化剤)とを反応を利用する方法がある。主剤と架橋剤とは反応し得るものであるから、主剤と架橋剤とを混合した後、被覆材料の場合、両者の反応が進行しきらないうちに被塗材に塗布する必要がある。主剤と架橋剤との反応性が良い程、混合後の組成物の粘度は増加しやすく、ポットライフ(主剤と架橋剤とを混合した後の可使時間)は短くなる。例えば、ポリカルボジイミドは、常温でもカルボキシル基との反応性に富む反面、ポットライフは短く、混合後、速やかに使用する必要があった。
【0004】
主剤と架橋剤との速やかな反応性確保と、できるだけ長いポットライフの確保とが長年の課題の1つである。ポットライフをより長くするために、周囲を何らかの隔壁物質で被覆した架橋剤を用いる方法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、ポリカルボジイミド、および界面活性剤に水を加えて乳化させてなる架橋剤エマルションの製造方法、およびポリカルボジイミド、有機溶剤、および界面活性剤に、水を加えて乳化させてなる上記架橋剤エマルションの製造方法が開示されている。(特開2004−277569号公報参照)。
特許文献1に開示される製造方法による架橋剤エマルションは、架橋剤の周囲が界面活性剤で保護されるだけなので、1ヶ月のような長期期間、架橋剤エマルションを保存しておくと、ポリカルボジイミドの一部が水と反応し、失活してしまう。
【0006】
また、特許文献2には、芯物質がリン系硬化促進剤であり、アリルグリシジルエーテルまたはグリシジル(メタ)アクリレートを主重合成分とする重合体を殻壁の主成分とするマイクロカプセル型リン系硬化促進剤、エポキシ樹脂及び架橋剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物及びその硬化物が開示されている(特開平8−73566号公報参照)。
促進剤をマイクロカプセル内に内包することによって、エポキシ樹脂及び架橋剤との反応を遅延する効果を奏すると考察される。しかし、マイクロカプセル型リン系硬化促進剤の平均粒径は0.1〜500μmであることが好ましい旨、特許文献2に記載されているとはいうものの、特許文献2の実施例レベルに具体的に開示されるマイクロカプセルの平均粒子径は30μmであり、このような大きさのマイクロカプセルはそれ自体の安定性が悪く、室温で静置しておくと、1週間程度で沈降してしまう。
【0007】
また、特許文献3には、長期にわたって目的成分を除法、もしくは所定の時期に目的成分を放出できる微粒子を得ることを目的として、分散安定剤の水溶液中に、目的成分、モノマー成分、開始剤及び必要に応じて補助ポリマーを含む混合物を分散させ、懸濁重合を行うことを特徴とする目的成分内包微粒子の製造方法が開示され、[0069]には目的成分の1つとして種々の溶剤が例示される(特開2003−96108号公報参照)。特許文献3に開示される製造方法は、モノマーとして多官能モノマーを必須とし、単官能モノマーの併用も開示するものではあるが、単官能モノマーを併用する具体的な製造方法は一切記載されず、多官能モノマー(架橋性モノマー)のみを用いる場合しか記載されていない。そして、特許文献3に係る発明は、単官能モノマーを用いずに多官能モノマー(架橋性モノマー)のみを用いても、相分離促進剤として機能する補助ポリマーを用いることにより、又は補助ポリマーを用いなくとも、内包される目的物質が特定の性質を具備することにより、多官能モノマー(架橋性モノマー)のみから形成される高強度のシェルを形成し、内部に目的成分を内包し得ることを主張し、特許された(特許文献4:特許第3785440号公報)。
特許文献3、4には、感圧式接着剤組成物用の架橋剤を目的成分として内包する旨の記載はなく、示唆もない。特許文献3、4に開示される製造方法は、多官能モノマー(架橋性モノマー)のみを用いてシェルを形成することを指向するので、仮に目的成分として感圧式接着剤組成物用の架橋剤を内包できたとしても、形成されるシェルの強度が非常に高い。その結果、主剤と混ぜた組成物としてのポットライフは長くなるものの、感圧式接着剤組成物を塗工、乾燥させる一般的な温度、100℃程度では目的成分内包微粒子を簡単には破壊できないので、主剤と架橋剤との反応が生じず、感圧式接着シートを得ることができない。
【0008】
また、特許文献5には、内孔にトルエン等の油性物質を内蔵するポリマー粒子の製造方法が開示されている(特開昭62−127336号公報参照)。特許文献5、第3頁、右下欄には内孔に含まれる油性物質をそのまま内蔵させておくこともできるし、内孔中の油性物質を除去し、中空ポリマー粒子を得た後、各種の目的物質を内孔に吸収させ、カプセル状ポリマー粒子を得ることができる旨、記載されている。そして、中空ポリマー粒子の外部から各種の有用成分を中空ポリマー粒子に封入する手段については、特許文献5、第8頁、右上欄に記載されている。一方、特許文献5、第6頁、右下欄には、カプセル化による物理的保護を必要とする各種成分を、油性物質に溶解させておくことできる旨、記載されている。
しかし、特許文献5は、内孔に内蔵され得るものを単に油性物質と記載するのみであり、感圧式接着剤組成物用の架橋剤の内臓に関し、何ら開示も示唆も与えない。また、特許文献5の製造方法の場合、内孔を有するポリマー粒子を得るために、隔壁を構成するポリマーとは相違する異種ポリマーの存在が必要である。感圧式接着剤組成物にとって、架橋剤以外の成分は不純物となるので、主剤と架橋剤(硬化剤)との反応後の感圧式接着シートの性能に悪影響を与える懸念がある。
【0009】
特許文献6、7には、単官能親水性モノマーと架橋性モノマーと油性物質とを水性媒体に分散させ、重合させて、油性物質を内包するポリマー粒子を得、該ポリマー粒子から内包される油性物質を除去することにより中空ポリマー粒子を得ることができる旨記載されている。しかし、特許文献6、7は、内孔に内蔵され得るものを単に油性物質と記載するのみであり、感圧式接着剤組成物用の架橋剤の内臓に関し、何ら開示も示唆も与えない。
そして、特許文献6の第4頁、左上欄、及び特許文献7の第3頁、上右欄には、それぞれトルエン等の油性物質が開示されている。
さらに、特許文献6の第6頁、下左欄の実施例3には、油性物質として酢酸イソアミルを用い、異種ポリマーを用いない場合が記載され、特許文献7の第4頁、下左欄から始まる実施例1には、油性物質としてトルエンを用い、異種ポリマーを用いない場合が記載されている。
【特許文献1】特開2004−277569号公報
【特許文献2】特開平8−73566号公報
【特許文献3】特開2003−96108号公報
【特許文献4】特許3785440号公報
【特許文献5】特開昭62−127336号公報
【特許文献6】特開平02−255704号公報
【特許文献7】特開昭61−087734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、架橋剤を配合しても、増粘しない、ポットライフの長い、感圧式接着剤組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決すべく、架橋剤をマイクロカプセルに内包することを検討した結果、特定条件下に製造したマイクロカプセルの水性分散体であれば、主剤と混合後も長期にわたり、主剤と架橋剤との反応を抑制し、感圧式接着剤組成物としての粘度増加を抑制できることを見出すと共に、感圧式接着剤組成物として長期保存しても感圧式接着シートとしての性能を確保できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、分散安定剤の水溶液に、架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)、重合性不飽和二重結合を2個以上有する多官能モノマー(b3)、重合性不飽和二重結合を1個有する単官能モノマー(b4)及び重合開始剤を含む均一溶液を分散し、液滴の体積平均粒子径が0.1〜10μmの分散液を得、次いで前記モノマー(b3)、(b4)を重合し、
前記モノマー(b3)、(b4)から形成されるポリマーシェル中に、架橋剤(b1)を内包する、体積平均粒子径が0.1〜10μmのマイクロカプセル(B)の水性分散体の製造方法であって、
<1> 前記架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)、前記多官能モノマー(b3)及び前記単官能モノマー(b4)の合計100重量部に対して、分散安定剤が0.1〜10重量部であり、且つ
<2> 前記架橋剤(b1)が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基と反応し得る官能基を有し、且つ
<3> 前記多官能モノマー(b3)と前記単官能モノマー(b4)との合計100重量%中の多官能モノマー(b3)の含有量が1〜20重量%であり、且つ
<4> 20〜25℃における、100重量部の水に対する有機溶剤(b2)の溶解度が20重量部以下であり、且つ、
<5> 前記単官能モノマー(b4)が、20〜25℃における、100重量部の有機溶剤(b2)に対し、溶解度が1重量部以下のポリマーを形成し得るモノマーである、ことを特徴とするマイクロカプセル(B)の水性分散体の製造方法に関する。
【0013】
本発明は、上記発明に記載の製造方法で得たマイクロカプセル(B)の水性分散体に関する。
【0014】
また、本発明は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋性官能基を有する樹脂(A)、及び上記発明に記載のマイクロカプセル(B)の水性分散体を含有する架橋性樹脂組成物に関し、
架橋性官能基を有する樹脂(A)として、アクリル系樹脂を用いることが好ましい。
アクリル系樹脂のガラス転移温度が−60〜0℃の場合には、上記発明の架橋性樹脂組成物は感圧式接着剤として用いることができる。
【0015】
さらに、本発明は、シート状基材の少なくとも一方の面に、上記発明に記載の感圧式接着剤用架橋性樹脂組成物から形成された感圧式接着剤層を具備する感圧式接着シートに関する。
【0016】
さらに、また本発明は、シート状基材の少なくとも一方の面に、上記発明に記載の感圧式接着剤用架橋性樹脂組成物を塗工し、マイクロカプセル(B)を破壊し得る条件で乾燥し、マイクロカプセル(B)を破壊し、架橋性官能基を有する樹脂(A)と架橋剤(b1)とを反応させることを特徴とする感圧式接着シートの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法による、架橋剤を内包するマイクロカプセルの水性分散体を用いることにより、主剤と混合後も長期にわたり、主剤と架橋剤との反応を抑制し、感圧式接着剤組成物としての粘度増加を抑制できるだけでなく、感圧式接着剤組成物を長期保存しても保存前と遜色のない性能の感圧式接着シートをと得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
架橋剤(b1)を内包するマイクロカプセル(B)の水性分散体の製造方法について説明する。
架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)、重合性不飽和二重結合を2個以上有する多官能モノマー(b3)、重合性不飽和二重結合を1個有する単官能モノマー(b4)及び重合開始剤を混合し、均一溶液を得る。分散安定剤を含む水溶液に、前記均一溶液を分散し、液滴の体積平均粒子径が0.1〜10μmの分散液を得、モノマー(b3)、(b4)を重合する。本発明のマイクロカプセル(B)の水性分散体の製造方法おいて、(b1)〜(b4)等は以下の<1>〜<5>の条件を満たすことが重要である。
【0019】
<1> 架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)、多官能モノマー(b3)及び単官能モノマー(b4)の合計100重量部に対して、分散安定剤は0.1〜10重量部であり、0.5〜8重量部であることが好ましい。
分散安定剤は、(b1)〜(b4)からなる油性成分を水中に粒子状に分散させると共に、重合後のマイクロカプセル(B)を水中に粒子状に分散させる機能を担う。従って、少なすぎると粒子状に分散できない。一方、多すぎると、後述する架橋性樹脂組成物を架橋した後の耐水性が低下する。
【0020】
本発明で用いられる分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリルイミド、ポリエチレンオキシド、ポリ( ハイドロオキシステアリン酸− g− メタクリル酸メチル− c o − メタクリル酸) 共重合体等の高分子分散安定剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。このなかでも、ポリビニルアルコール等の高分子分散安剤が好ましい。
【0021】
<2> 架橋剤(b1)は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基と反応し得る官能基を有する。
後述するように架橋性樹脂組成物を構成する、主剤たる樹脂(A)は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋性官能基を有する。マイクロカプセル(B)は、主剤たる樹脂(A)に対し、架橋剤として機能するものである。よって、マイクロカプセル(B)に内包される架橋剤(b1)は、樹脂(A)と反応し得るように、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基と反応し得る官能基を有する。
【0022】
<3> 多官能モノマー(b3)と単官能モノマー(b4)との合計100重量%中の多官能モノマー(b3)の含有量が1〜20重量%であり、5〜15重量%であることが好ましい。
多官能モノマー(b3)と単官能モノマー(b4)とから形成されるポリマーは、マイクロカプセル(B)のシェル部分として、内包される架橋剤(b1)を保護する。従って、多官能モノマー(b3)が少なすぎると、シェルの強度が不足するので、内包される架橋剤(b1)を長期にわたって保護することができなくなる。一方、多官能モノマー(b3)が多すぎると、マイクロカプセル(B)の水性分散体を製造する際に、分散体全体が凝集してしまう。
【0023】
<4> 有機溶剤(b2)は、20〜25℃において、100重量部の水に対し、20重量部以下しか溶解しないものであり、溶解度は10重量部以下であることが好ましい。
有機溶剤(b2)は、多官能モノマー(b3)及び前記単官能モノマー(b4)から架橋剤(b1)が相分離し、形成されるマイクロカプセルの内部へ移行することを補助する成分と考察されるので、難水溶性に富む必要がある。
そこで、本発明者は、当初、有機溶剤(b2)の水への溶解性が高いと、有機溶剤(b2)が水に拡散してしまい、マイクロカプセル(B)の水性分散体自体が製造できないと考えていた。しかし、メタノールのように水に対する溶解性に富む有機溶剤を使用しても、マイクロカプセルの水性分散体自体は製造でき、しかも、該マイクロカプセルの水性分散体を後述する架橋性官能基を有する樹脂(A)と混合してなる架橋性樹脂組成物を、長期保存しても増粘しないことを見出した。
【0024】
しかし、メタノールのような親水性に富む有機溶剤を用いた場合、架橋性樹脂組成物は粘度安定性には優れるとはいうものの、長期保存後の架橋性樹脂組成物は、長期保存前と同等の性能を発揮することができない。詳細な機構はまだ不明であるが、メタノールを使用した場合、マイクロカプセルの重合中に架橋剤(b1)がマイクロカプセルから水媒体中へと一部移動し、長期保存中に水と架橋剤(b1)が反応することで、マイクロカプセルの破壊強度が増大すると考察される。
よって、マイクロカプセルに内包される架橋剤(b1)の機能を長期にわたって維持し、初期と同様に発揮させるためには、マイクロカプセル製造時に用いる有機溶剤(b2)は、水溶性に富むものではなく、20〜25℃の100重量部の水に対し、多くとも20重量%以下の溶解度を示すものである必要がある。
【0025】
20〜25℃において、100重量部の水に対し、溶解度が20重量部以下の有機溶剤(b)としては、n−ブタノール(7.2重量%)、シクロヘキサン(0.01重量%)、トルエン(0.05重量%)等が挙げられる。
【0026】
<5> 単官能モノマー(b4)は、20〜25℃において、100重量部の有機溶剤(b2)に対し、溶解度が1重量部以下のポリマーを形成し得るモノマーであることが重要である。
多官能モノマー(b3)と単官能モノマー(b4)とから形成されるコポリマーは、マイクロカプセル(B)のシェル部分となるが、該シェル部は、上記<3>に記載されるように前記単官能モノマー(b4)を主成分とするものである。多官能モノマー(b3)を除く、単官能モノマー(b4)のみから形成されるポリマーの有機溶剤(b)に対する溶解し易さが、シェル部分の有機溶剤(b)に対する溶解し易さを決定すると考えられる。また、有機溶剤(b2)は、シェル部の形成を促し、架橋剤(b1)と共にマイクロカプセルの内部に内包されると考えられる。そこで、有機溶剤(b)がシェル部分を溶解し易いと、内包される架橋剤(b1)を十分保護することができなくなり、マイクロカプセルが脆弱になると考えられる。
【0027】
よって、本発明では、シェル部分ができるだけ有機溶剤(b2)に溶解しないように、シェル部形成用の単官能モノマー(b4)として、単官能モノマー(b4)のみから形成されるポリマーが有機溶剤(b2)にできるだけ溶解しないもの、具体的には20〜25℃において、100重量部の有機溶剤(b2)に対し、溶解度が1重量部以下のポリマーを形成し得るモノマーを用いることが重要である。言い換えると、前記<4>の条件を満たす有機溶剤(b2)のうち、単官能モノマー(b4)のみから形成されるポリマーを溶解しにくいものを選択することが重要である。
【0028】
分散安定剤を含む水溶液に、前記<1>〜<5>の条件を満たす、(b1)〜(b4)の均一溶液を分散し、液滴の体積平均粒子径が0.1〜10μmの分散液、好ましくは1〜5μmの分散液を得る。体積平均粒子径が0.1〜10μmの液滴は、常法に従って、撹拌条件等を制御することによって得ることができる。次いで前記モノマー(b3)、(b4)を重合し、体積平均粒子径が0.1〜10μm、好ましくは1〜5μmのマイクロカプセル(B)の水性分散体を得る。
マイクロカプセルの体積平均粒子径が0.1μm未満であると、マイクロカプセルのシェル厚が薄くなり、内包される架橋剤(b1)を十分保護することができなくなり、マイクロカプセルが脆弱になると考えられる。一方、マイクロカプセルの体積平均粒子径が10μmよりも大きいと、マクロカプセルの水性分散体自体を長期保存した場合、架橋性官能基を有する樹脂(A)とマクロカプセルの水性分散体とを混合した架橋性樹脂組成物を長期保存した場合、いずれの場合もマイクロカプセルが沈降してしまう。
【0029】
架橋剤(b1)について説明する。架橋剤(b1)は、後述する架橋性官能基を有する樹脂(A)と反応し得るように、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基と反応し得る官能基を有する。架橋剤(b1)としては、カルボジイミド系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、キレート系架橋剤、メラミン系架橋剤、ヒドラジノ系架橋剤が挙げられる。
【0030】
カルボジイミド系架橋剤としては、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネートを脱炭酸縮合反応させることによって生成した高分子量ポリカルボジイミドも使用できる。
このような化合物としては、以下のジイソシアネートを脱炭酸縮合反応したものが挙げられる。ジイソシアネートとしては、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルエーテルジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1−メトキシフェニル−2,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートの一種又はこれらの混合物を使用することができる。カルボジイミド化触媒としては、1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、あるいはこれらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシドを利用することができる。
【0031】
エポキシ系架橋剤としては、ビスフェノールA−エピクロロヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1、3−ビス(N、N'−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどを挙げられる。
【0032】
アミン系架橋剤としては、脂肪族ジアミン類、脂肪族ポリアミン類、芳香環を含む脂肪族ポリアミン類、脂環式及び環状ポリアミン類、芳香族第一アミン類等が例示される。
【0033】
アジリジン系架橋剤としては、N,N’−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート等が例示される。
【0034】
オキサゾリン系架橋剤としては、2,2'−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2'−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2'−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2'−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2'−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2'−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2'−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2'−エチレン−ビス−(4,4'−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレン−ビス−(4,4'−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等が例示される。
【0035】
キレート系架橋剤としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等のアルミニウムキレート類;チタン、ジルコニウム、銅、コバルト、亜鉛等のアセチルアセトン化合物類;ポリアミン等のアンモニア配位化合物類等が例示される。
【0036】
メラミン系架橋剤としては、トリアジン環を分子内に有する化合物であり、メラミン、ベンゾグアナミン、シクロヘキサンカルボグアナミン、メチルグアナミン、ビニルグアナミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、テトラメトキシメチルベンゾグアナミン等が挙げられる。また、これらの低縮合化物やアルキルエーテル化ホルムアルデヒド樹脂やアミノプラスト樹脂を使用しても良い。
【0037】
ヒドラジノ系架橋剤としては、例えば炭素数が1〜18の多価カルボン酸のジヒドラジド類として、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、トリメリット酸ジもしくはトリヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン等が例示される。
【0038】
多官能モノマー(b3)について説明する。多官能モノマーとしては、重合性不飽和二重結合、具体的にはエチレン性不飽和二重結合を2個以上(特に、2〜4個)有する多官能性モノマーを例示できる。例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。特に、ジビニルベンゼンおよびエチレングリコールジメタクリレートなどが好ましく、最も好ましいのはジビニルベンゼンである。これらは単独であるいは2種以上を混合して使用できる。
【0039】
単官能モノマー(b4)について説明する。単官能性モノマーとしては、例えば、モノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン系単量体、ジオレフィン等が挙げられる。これらは単独であるいは2 種以上を混合して使用できる。
【0040】
モノビニル芳香族単量体としては、モノビニル芳香族炭化水素、低級( 炭素数1 〜 4 ) アルキル基で置換されていてもよいビニルビフェニル、低級( 炭素数1 〜 4 ) アルキル基で置換されていてもよいビニルナフタレン等が挙げられ、具体例としては、スチレン、α− メチルスチレン、ビニルトルエン、α − クロロスチレン、o − クロロスチレン、m − クロロスチレン、p − クロロスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。更に、低級アルキル基で置換されていてもよいビニルビフェニル、低級アルキル基で置換されていてもよいビニルナフタレンとしては、ビニルビフェニル、メチル基、エチル基等の低級アルキル基で置換されているビニルビフェニル、ビニルナフタレン、メチル基、エチル基等の低級アルキル基で置換されているビニルナフタレン等を例示できる。これらモノビニル芳香族単量体は、単独であるいは2 種類以上併用することができる。
【0041】
アクリル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2 − エチルエキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2 − エチルヘキシル、アクリル酸β − ヒドロキシエチル、アクリル酸γ − ヒドロキシブチル、アクリル酸δ − ヒドロキシブチル、メタクリル酸β − ヒドロキシエチル、アクリル酸γ − アミノプロピル、アクリル酸γ − N , N − ジエチルアミノプロピル等が挙げられる。
【0042】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
ビニルエーテル系単量体としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルn − ブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が挙げられる。
モノオレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、ブテン− 1 、ペンテン− 1 、4 − メチルペンテン− 1 等が挙げられる。
ハロゲン化オレフィン系単量体としては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデンが挙げられる。
さらに、ジオレフィン類である、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等も単官能性単量体に含めることができる。これらは単独でまたは2 種以上を混合して用いることができる。
【0043】
モノマー(b3)、(4)の使用量は、マイクロカプセルの平均粒子径、シェルの厚さ、内径等に応じて適宜選択できるが、一般には、架橋剤(b1)及び有機溶剤(b2)との合計100重量部に対して、1〜100重量部であることが好ましく、3〜70重量部程度とするのが好ましく、5〜50重量部であることが特に好ましい。
【0044】
重合開始剤について説明する。本発明で使用する重合開始剤は、上記液滴中で、モノマー成分の重合を開始させるものであり、油溶性の重合開始剤が広く使用できる。例えば、ラジカル重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物や、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−t− ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物等の単量体に可溶なものが挙げられる。また、紫外線等の光により重合開始する光重合開始剤を用いてもよい。このような光重合開始剤としては、油溶性であれば、特に制限されるものではなく、従来から使用されているものが挙げられる。
【0045】
上記重合開始剤の使用量は、モノマー成分の合計100重量部に対して、0.5〜10重量部程度、特に1〜5重量部程度とするのが好ましい。
【0046】
本発明のマイクロカプセル(B)の水性分散体の製造方法をさらに具体的に説明する。
架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)、モノマー成分(b3)、(b4)および重合開始剤を含む均一溶液を得る。
別途、分散安定剤の水溶液を得る。分散安定剤の水溶液における分散安定剤の濃度は、上記均一溶液の液滴が合一しないような濃度となるように適宜選択すればよい。一般には、水100重量部に対し、分散安定剤は0.05〜50重量部程度、特に0.1〜 10重量部程度の範囲に調整するのが好ましい。
【0047】
このような分散安定剤の水溶液100重量部当たり、架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)等を含有する上記均一溶液を、1〜200重量部程度分散することが好ましく、10〜100重量部程度分散することがより好ましい。
【0048】
分散方法としては、ホモジナイザーや膜乳化法など機械的せん断力による分散方法等の公知の方法を種々採用できる。分散の際の温度条件は、使用する目的成分および開始剤の分解に影響する温度以下であれば限定されるものではないが、0〜40℃ 程度であるのが好ましい。
【0049】
分散した液滴の体積平均粒子径は、上記したように0.1〜10μmであり、0.5〜5μmであることが好ましい。架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)、モノマー成分、および開始剤からなる均一溶液の粘度、分散安定剤の使用量、分散安定剤水溶液の粘度、分散方法・分散条件を前記範囲で適宜設定することにより、前記範囲の液滴平均粒子径が得られる。架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)、モノマー成分、および開始剤からなる均一溶液が分散された分散安定剤の水溶液を、懸濁重合に供するには、この水溶液を撹拌しながら加熱すればよい。
【0050】
加熱温度としては、架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)、モノマー成分、および開始剤からなる均一溶液の液滴中で、モノマー成分が開始剤により重合開始されるに足りる温度であれば特に限定されないが、一般には、30〜100℃ 程度、特に40〜90℃ 程度が好ましい。
【0051】
懸濁重合は、所望の目的成分内包微粒子が得られるまで行う。懸濁重合に要する時間は、使用する目的成分、モノマー成分および開始剤の種類等により変動するが、一般には3〜48時間程度である。
【0052】
また、懸濁重合に際しては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0053】
モノマー成分の重合が進行するにつれ、架橋剤(b1)および有機溶剤(b2)の存在により、形成されるポリマーが水相側へ分離され、その結果、シェル、即ち、ポリマーからなるシェルが形成される。一方、コア部には、架橋剤(b1)および有機溶剤(b2)が内包された状態となる。
【0054】
架橋剤(b1)は、室温で固体の場合、重合初期においては、有機溶剤(b2)及びモノマー成分(b3)(b4)中に溶解しているが、モノマー成分の重合が進行するにつれてマイクロカプセル内に析出する傾向がある。
【0055】
次に、前記の製造方法により得られるマイクロカプセル(B)の水性分散体の利用について説明する。
即ち、前記のマイクロカプセル(B)の水性分散体を、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋性官能基を有する樹脂(A)と混合することにより、塗料、接着剤等種々の目的、用途に利用可能な架橋性樹脂組成物を得ることができる。
架橋性官能基を有する樹脂(A)は、マイクロカプセル(B)中の架橋剤(b1)と反応し得る上記官能基を有する樹脂なら公知の樹脂を使用することができる。特に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0056】
上記官能基を有するアクリル樹脂は、上記官能基を有するモノマーを必須成分として重合することにより得られる。
アクリル樹脂としては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などの重合性不飽和カルボン酸またはそれらの無水物、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、アクリロントリル等の(メタ)アクリル酸以外の(メタ)アクリル系モノマーおよび必要に応じてスチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニルなどを乳合重合、溶液重合、塊状重合などの重合法により共重合させて得られるアクリル樹脂が挙げられる。
【0057】
エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂としては、一分子中にエポキシ基を二つ以上持つ化合物ならば特に限定されないが、グリシジルエーテル系のエポキシ樹脂、例えば、ビスフェノールAのグリシジルエーテル、ビスフェノールFのグリシジルエーテル、レゾルシンのグリシジルエーテル、グリセリンのグリシジルエーテル、ポリアルキレンオキサイドのグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAのグリシジルエーテル及びそれらのオリゴマー、さらにフェノールノボラックのグリシジルエーテル等に代表されるような、フェノール類、オルトクレゾール類及び/又はナフトール類等とホルマリン類、脂肪族や芳香族アルデヒト類或はケトン類との縮合体のエポキシ化物、脂環式エポキシ樹脂、例えば、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート等が例示される。
【0058】
ポリエステル系樹脂としては、例えばグリコールまたは末端が水酸基であるポリエステルグリコールとテトラカルボン酸二無水物とを選択的なモノエステル化反応によって鎖延長させてなるポリエステル樹脂が挙げられる。
【0059】
ポリウレタン系樹脂としては、例えばイソシアネート化合物、ポリオール類および/ またはアミノ酸類およびポリオール類から得られるウレタン系プレポリマーを、溶媒および/または水の存在下で塩基性有機化合物および伸長剤と反応し、次いで、減圧下、脱溶媒することによって得られるポリウレタン系樹脂が挙げられる。
【0060】
架橋性官能基を有する樹脂(A)は、有機溶剤に溶解した状態でも、水に溶解ないし分散した状態でも使用可能であるが、マイクロカプセル(B)の水性分散体を混合した後の保存安定性の観点からは水に溶解ないし分散した状態で使用することが好ましい。
【0061】
本発明においては、架橋性官能基を有する樹脂(A)として、アクリル系樹脂を用いることが好ましく、アクリル系樹脂としてガラス転移温度が−60〜0℃のものを用いる場合には、上記発明の架橋性樹脂組成物は感圧式接着剤として用いることができる。
【0062】
本発明の感圧式接着剤用架橋性樹脂組成物を用い、感圧式接着シートを得ることができる。即ち、シート状基材の少なくとも一方の面に、前記の感圧式接着剤用架橋性樹脂組成物を塗工し、マイクロカプセル(B)を破壊し得る条件で乾燥し、マイクロカプセル(B)を破壊し、架橋性官能基を有する樹脂(A)と架橋剤(b1)とを反応させることにより、シート状基材の少なくとも一方の面に、感圧式接着剤層を形成することができる。
本発明の製造方法によるマイクロカプセル(B)の水性分散体中のマイクロカプセル(B)は主として加熱により破壊される。シート状基材に塗工された感圧式接着剤は、多くの場合、100℃前後で、乾燥及び主剤と架橋剤とを反応させ、その後室温付近でさらに主剤と架橋剤との反応を進行させ(エージング)、感圧式接着シートを得る。本発明の製造方法によるマイクロカプセル(B)を用いた感圧式接着剤は、長期保存しても増粘することなく、特別な高温、高圧といった特別な条件を必要とはせず、感圧式接着シートの一般的な製造条件の下、即ち、100℃前後の乾燥、硬化によって、主剤と架橋剤とが反応した感圧式接着シートを提供することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の「部」及び「%」はいずれも重量に基づく値である。
【0064】
実施例1
架橋剤(b1)としてカルボジライトV−05(カルボジイミド系架橋剤、固形分100%、日清紡績株式会社製)108g、有機溶剤(b2)としてn−ブタノール(水に対する溶解度:7.2%):12g、多官能モノマー(b3)としてジビニルベンゼン:3g、単官能モノマー(b4)としてスチレン:27g、及び重合開始剤として過酸化ベンゾイル(純度70%)0.3gを混合し、均一溶液を得た。なお、ポリスチレン(分子量10万)のn−ブタノール100部に対する溶解度は、0.1部未満である。
分散安定剤としてポリビニルアルコール(重合度1700,ケン化度88%):7.5gを水:236.7gに溶解させて得た水溶液に、前記均一溶液を加え、室温にて、ホモジナイザーを用い、攪拌速度8000rpmで5分間、撹拌し、体積平均粒子径が1μmの懸濁液を得た。
【0065】
次いで、懸濁液を窒素ガス雰囲気下で、還流冷却器、攪拌機、温度計、窒素導入管、原料投入口を具備する容積2Lの4つ口フラスコに、懸濁液を入れ、窒素を導入しつつ攪拌しながら80℃に加熱し、6時間懸濁重合させ、体積平均粒子径が1μmのマイクロカプセル(B)の水性分散体を得た(固形分約37%)。
なお、架橋剤(b1)等を含有する重合前の液滴、及び重合後のマイクロカプセル(B)の水性分散体の分散粒子の平均粒子径は、動的光散乱法によって求めた体積平均粒子径である。
【0066】
架橋性官能基を有する樹脂(A)として、カルボキシル基を有するガラス転移温度が−50℃のアクリル系樹脂の水性分散体を固形分で100部用い、これに粘着付与樹脂であるスーパーエステルE650を8.9部、及び作成したマイクロカプセル(B)の水性分散体を固形分で2部となるように配合して、固形分約60%の水性感圧式接着剤組成物を得た。
【0067】
[実施例2〜6]
マイクロカプセル(B)作成に供する原材料を表1に示す配合に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、水性感圧式接着剤組成物を得た。
【0068】
[比較例1]
多官能性モノマー(b3)を全く用いなかった以外は、実施例1と同様にしてマイクロカプセル(B)の水性分散体を得、同様にして水性感圧式接着剤組成物を得た。
【0069】
[比較例2]
全モノマー100重量%中、多官能性モノマー(b3)を70重量%とした以外は、実施例1と同様にしてマイクロカプセル(B)の水性分散体を得ようとしたが、重合反応中に重合安定性が低下し、粒子と粒子が合一、凝集してしまったので、水性感圧式接着剤組成物を得ることができなかった。
【0070】
[比較例3、4]
実施例1で得たマイクロカプセルの水性分散体の代りに、比較例3では、水性分散体の固形分濃度を増大するため、撹拌前に水を半量抜き取り、室温にて、ホモジナイザーを用い、攪拌速度13000rpmで5分間し、撹拌後、抜き取った水を加えて得た体積平均粒子径が0.05μmのマイクロカプセル(B)の水性分散体を、比較例4では、室温にて、ホモジナイザーを用い、攪拌速度2000rpmで5分間して得た体積平均粒子径が50μmのマイクロカプセル(B)の水性分散体を、それぞれを用いた以外実施例1と同様にして水性感圧式接着剤組成物を得た。
【0071】
[比較例5〜7]
実施例1でマイクロカプセルの水性分散体を得る際に用いた、n−ブタノールの代りに、
比較例5では、トルエン(水100部に対する溶解度0.05部、トルエン100部に対するポリスチレン(分子量:10万)の溶解度 10部以上)を、
比較例6では、酢酸イソアミル(水100部に対する溶解度0.2部、酢酸イソアミル100部に対するポリスチレン(分子量:10万)の溶解度 10部以上)を、
比較例7では、メタノール(水100部に対する溶解度 50部より大、メタノール100部に対するポリスチレン(分子量:10万)の溶解度 0.1部未満)を、
それぞれ用いた以外は、実施例1と同様にしてマイクロカプセル(B)の水性分散体を得、同様にして水性感圧式接着剤組成物を得た。
【0072】
[比較例8]
実施例1で得たマイクロカプセルの水性分散体の代りに、カルボジライトV−04(カルボジイミド系水溶性架橋剤、有効成分40%、日清紡績株式会社製)を有効成分量として2部用いた以外実施例1と同様にして水性感圧式接着剤組成物を得た。
【0073】
[比較例9]
実施例1で得たマイクロカプセルの水性分散体を用いなかった用いた以外実施例1と同様にして水性感圧式接着剤組成物を得た。
【0074】
<粘度安定性試験>
水性感圧式接着剤組成物を40℃のオーブンに1ヶ月静置し、粘度変化を調べた。粘度変化のない場合は○、ゲル化した場合は×とした。粘度変化のない場合は、さらに、昇温保持力試験で評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0075】
各実施例、比較例で得られた水性感圧式接着剤組成物をアプリケーターで剥離紙上に乾燥膜厚60g/m2となるように塗工し、100℃の乾燥オーブンで3分間乾燥させ、粘着剤層(1)を形成した。
【0076】
次いで、剥離紙上に設けられた粘着剤層に、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)を貼り合わせ、「剥離紙/粘着剤層(1)/PET」なる構成の積層体を得た。
得られた積層体を23℃−65%RH雰囲気下に24時間以上放置することによりエージングをおこない、粘着剤層(1)の架橋反応を完結させ、粘着シートを得た。
【0077】
[粘着シートの評価]
<初期、40℃×1ヶ月保存後の昇温保持力試験>
得られた粘着シートをそれぞれ幅25mm、長さ100mmの短冊状にカットし、剥離紙を剥がして幅25mm×長さ80mmの部分をステンレス板(以下、「SUS板」と略記する)に貼り合わせ、2Kgのロールにて1往復させて圧着して測定用試料を得た。
得られた測定用試料を23℃−50%RHの雰囲気下で24時間放置し、貼付けられていない部分の粘着シートの端部に310gの錘を吊り下げ、3℃/5分の速度で38℃から152℃まで昇温し、SUS板から剥がれ落ちた温度を計測した。カルボキシル基を有するアクリル系樹脂とマイクロカプセル(B)中の架橋剤(b1)とが感圧式接着シートを得る際に反応すると、感圧式接着剤層中に架橋構造が形成されるので、感圧式接着シートとしての耐熱性を確保できる。以上の評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
比較例9は架橋剤を全く含まない場合であり、長期保存しても水性感圧式接着剤組成物としての粘度変化が来たさないが、長期保存の前・後、いずれの場合においても感圧式接着シートとしての耐熱性を発揮できない。
【0080】
一方、比較例8に示すように、架橋剤を含むと、水性感圧式接着剤組成物を長期保存する前においては、感圧式接着シートを得る際に、感圧式接着剤層中に架橋構造が形成されるので、感圧式接着シートとしての耐熱性を確保できる。しかし、比較例8の場合、本発明のマイクロカプセルとは異なり、架橋剤が保護壁によって保護されていないので、水性感圧式接着剤組成物としての粘度変化が著しく、長期保存した後には、もはや塗工できなくなり、感圧式接着シート自体を得ることができなかった。
【0081】
比較例1は、マイクロカプセルを構成するシェルが多官能モノマー(b3)による架橋構造を有しないので、架橋剤(b1)に対し、保護壁としての機能が弱いく、比較例8と同様の結果を呈する。
【0082】
比較例3は、マイクロカプセルの体積平均粒子径が小さい場合である。マイクロカプセルのシェル厚が薄くなったので、内包される架橋剤(b1)を十分保護することができなくなり、比較例8と同様の結果を呈する。
【0083】
一方、比較例4は、マイクロカプセルの体積平均粒子径が大きい場合である。マイクロカプセルの体積平均粒子径は大きくても、水性感圧式接着剤組成物を長期保存する前においては、感圧式接着シートを得る際に、感圧式接着剤層中に架橋構造が形成されるので、感圧式接着シートとしての耐熱性を確保できる。
しかし、マクロカプセルの水性分散体自体を長期保存した場合、架橋性官能基を有する樹脂(A)とマクロカプセルの水性分散体とを混合した架橋性樹脂組成物を長期保存した場合、いずれの場合もマイクロカプセルが沈降してしまう。沈降した結果、マクロカプセルの水性分散体自体を長期保存した場合は、沈降したマイクロカプセルを再分散することはできず、粘着剤に混ぜることはできない。一方、マクロカプセルの水性分散体とを混合した架橋性樹脂組成物を長期保存した場合、粘着剤中のマイクロカプセルが沈降しているため、粘着剤が部分的にゲル化してしまい、粘着剤をもはや塗工することはできない。
【0084】
比較例5、6は、マイクロカプセルを得る際に、n−ブタノールの代りに水に対する溶解性の小さいトルエンまたは酢酸イソアミルを用いた場合である。有機溶剤(b2)は、重合に伴うシェル形成時に、形成されるマイクロカプセルの内部へ架橋剤(b1)が移行することを補助する機能を担うと考察されるので、トルエンのように難水溶性に富むものが好ましいと考えられる。
しかし、比較例5に示されるように、水性感圧式接着剤組成物を長期保存すると、感圧式接着シートとしての耐熱性を確保できなくなる。架橋剤(b1)を保護していたシェルが保存中に破壊されてしまい、架橋剤(b1)が失活してしまったのかとも考えたが、内包される架橋剤(b1)が長期保存後もシェルによって保護されていることは、粘度変化がないことによって支持される。
【0085】
トルエンのような難水溶性有機溶剤は、マイクロカプセル自体の生成の観点からは、使用し得る。しかし、反面ポリスチレンを主成分とするシェルに対する親和性に富むので、シェルは多官能モノマー(b3)によって架橋されているとはいうものの、内包されるトルエンによってシェルの一部が徐々に溶解され、架橋剤(b1)の一部が外部に漏れ出す。比較例1のように架橋剤(b1)が速やかにマイクロカプセルの外部に漏れ出た場合には、水性感圧式接着剤組成物の著しい粘度増加が観察されるところ、比較例5は架橋剤(b1)が徐々に漏れ出すので、マイクロカプセルの外部に漏れ出たカルボジイミドが水と反応し、その生成物によって逆にシェルが補強されたものと考察される。従って、長期保存後においては、感圧式接着シートを宇得る際の一般的な100℃程度の温度では、マイクロカプセルが破壊されなくなり、感圧式接着シートとしての耐熱性を確保できなくなったものと考察される。
【0086】
比較例7は、マイクロカプセルを得る際に、n−ブタノールの代りに水に対する溶解性に富むメタノールを用いた場合である。マイクロカプセルの生成には、難水溶性有機溶剤が必要であると考えていた。しかし、驚くべきことに、メタノールのように水に対する溶解性に富む有機溶剤を使用しても、マイクロカプセルの水性分散体自体は製造でき、しかも、水性感圧式接着剤組成物を長期保存しても増粘しない。
しかし、長期保存後の水性感圧式接着剤組成物は、長期保存前と同等の性能を発揮することができない。詳細な機構はまだ不明であるが、メタノールを使用した場合、マイクロカプセルの重合中に架橋剤(b1)がマイクロカプセルから水媒体中へと一部移動し、長期保存中に水と架橋剤(b1)が反応することで、マイクロカプセルの破壊強度が増大すると考察される。
【0087】
以上の通りであるから、粘度安定性だけでなく、性能面からも長期保存性に優れる、真の意味でのポットライフの長いマイクロカプセルの水性分散体は、<1>〜<5>の条件を満たす製造方法により得られる、特定の体積平均粒子径を有することが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の製造方法によるマイクロカプセルの水性分散体は、感圧式接着剤組成物用の架橋剤として有用であるほか、その他の接着剤や塗料等、種々の架橋性樹脂組成物にも使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散安定剤の水溶液に、架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)、重合性不飽和二重結合を2個以上有する多官能モノマー(b3)、重合性不飽和二重結合を1個有する単官能モノマー(b4)及び重合開始剤を含む均一溶液を分散し、液滴の体積平均粒子径が0.1〜10μmの分散液を得、次いで前記モノマー(b3)、(b4)を重合し、
前記モノマー(b3)、(b4)から形成されるポリマーシェル中に、架橋剤(b1)を内包する、体積平均粒子径が0.1〜10μmのマイクロカプセル(B)の水性分散体の製造方法であって、
<1> 前記架橋剤(b1)、有機溶剤(b2)、前記多官能モノマー(b3)及び前記単官能モノマー(b4)の合計100重量部に対して、分散安定剤が0.1〜10重量部であり、且つ
<2> 前記架橋剤(b1)が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基と反応し得る官能基を有し、且つ
<3> 前記多官能モノマー(b3)と前記単官能モノマー(b4)との合計100重量%中の多官能モノマー(b3)の含有量が1〜20重量%であり、且つ
<4> 20〜25℃における、100重量部の水に対する有機溶剤(b2)の溶解度が20重量部以下であり、且つ、
<5> 前記単官能モノマー(b4)が、20〜25℃における、100重量部の有機溶剤(b2)に対し、溶解度が1重量部以下のポリマーを形成し得るモノマーである、ことを特徴とするマイクロカプセル(B)の水性分散体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法で得たマイクロカプセル(B)の水性分散体。
【請求項3】
水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋性官能基を有する樹脂(A)、及び請求項2記載のマイクロカプセル(B)の水性分散体を含有する架橋性樹脂組成物。
【請求項4】
架橋性官能基を有する樹脂(A)がアクリル系樹脂であることを特徴する請求項3記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項5】
アクリル系樹脂のガラス転移温度が−60〜0℃であり、感圧式接着剤用であることを特徴とする請求4記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項6】
シート状基材の少なくとも一方の面に、請求項5記載の感圧式接着剤用架橋性樹脂組成物から形成された感圧式接着剤層を具備することを特徴とする感圧式接着シート。
【請求項7】
シート状基材の少なくとも一方の面に、請求項5記載の感圧式接着剤用架橋性樹脂組成物を塗工し、マイクロカプセル(B)を破壊し得る条件で乾燥し、マイクロカプセル(B)を破壊し、架橋性官能基を有する樹脂(A)と架橋剤(b1)とを反応させることを特徴とする感圧式接着シートの製造方法。

【公開番号】特開2009−185218(P2009−185218A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28250(P2008−28250)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】