説明

マイクロフルイディック・デバイスにおける流体制御方法及びシステム

【課題】マイクロフルイディック・システムにおいて使用するバルブを提供する。
【解決手段】バルブ50は、上流チャネル52の中心軸60に対してある角度をなして配された第1対向壁74によって規定された導管によって合流させた上流チャネル52と下流チャネル54とを規定する基板を含む。感熱物質56の少なくとも一部が、第1対向壁74との衝合によって、導管を遮断する。感熱物質56と熱的に接触状態にある熱源37の作動時に、感熱物質56の開口運動によって導管を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロフルイディック・システムを用いてサンプルを操作するための方法及び構成部品に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロフルイディック・システムは、寸法がナノメートルから100μs程度で、協同して種々の所望の機能を実行する構造を有するデバイスを含む。即ち、マイクロフルイディック・デバイスは、化学的分析又は物理的分析を行う場合のような、材料分析機能や操作機能を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
マイクロフルイディック技術の一種に、物質の連続的な流動ストリームに加えて、サンプルや試薬のような、離散量の物質の操作を可能にするものがある。このようなデバイスは、例えば、2000年5月2日に発行され、"Microscale Devices And Reactions In Microscale Devices" (マイクロスケール・デバイス及びマクロスケール・デバイスにお
ける反応)と題する米国特許第6,057,149号、2000年4月11日に発行され、"Thermal Microvalves in a Fluid Flow Method"(流体流動法における熱微小バルブ)と題する米国特許第6,048,734号、及び2000年10月10日に発行された米国特許第6,130,098号に開示されている。これらのデバイスでは、ガス圧力のような機動力を用いて、物質をデバイスのある領域から別の領域に推進させる。例えば、サンプルを処理チャンバまで推進又は牽引し、処理チャンバ内で、同様にチャンバ内に持ち込まれた試薬と反応させることができる。各デバイスは、他に多くのチャンバ又はチャネルを有することができ、これらが処理チャンバと交差するので、バルブを用いることによって、デバイスの1つの領域にある物質を、デバイスの別の領域から隔離することができる。理想的なバルブの場合、閉鎖すると漏れを防止し、過剰な圧力が閉鎖中のバルブに作用しても閉鎖したままとなっている。
この章又は本願のいずれの章においても、いずれの参考文献の引用又は特定も、このような参考文献が本発明に対する従来技術として使用可能であるとは解釈しないこととする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、マイクロフルイディック・システムにおいて使用するバルブに関し、このバルブは、通路によって合流する上流チャネル及び下流チャネルを規定する基板を備えている。この通路は、第1表面を備え、感熱物質質(TRS)が配されており、バルブが閉鎖状態にあるとき、通路を実質的に遮断する。上流チャネル内にある圧力が、第1表面に対抗してTRSの少なくとも一部を推進する。好ましくは、通路は、中心軸を規定し、第1表面を中心軸に対してある角度をなすように配置する。通路を開放すると、TRSの少なくとも一部が溶融し、下流チャネルに流入することができる。
【0005】
一実施形態では、バルブは更に、TRSと熱的に接触している熱源を備えており、この熱源の作動時に、TRSの開放運動によって、通路を開放する。
通路は更に、縦横軸に対して第2角度をなしている第2表面も備えることができる。通路を遮断するTRSの少なくとも第2部分が、第2表面と接触する。第1及び第2表面は通路に迫り出していてもよい。第1及び第2表面は、それらの間に絞りを形成する。
【0006】
本発明の別の実施態様は、マイクロフルイディック・システム用のバルブの生産方法に関し、マイクロフルイディック・システムの上流チャネル及び下流チャネルを合流させる通路を規定する基板を設けることを含む。通路は、保持面を備えており、塊状の感熱材(TRS)を通路に導入する。バルブが閉鎖状態にあるとき、上流チャネル内の圧力がTRSを保持面に向けて押圧する。
【0007】
本発明の更に別の実施形態は、マイクロフルイディック・システム用のバルブの生産方法に関し、マイクロフルイディック・システムの上流及び下流チャネルを合流させる通路を規定する基板を設け、塊状の感熱物質(又は感温物質)(TRS)を、通路に隣接するリザーバ・チャネル内に導入することからなる。毛細管作用によって、TRSを通路内に引き込み、TRSの表面張力によって、通路内のTRSが上流又は下流チャネルに流入するのを実質的に防止する。
【0008】
本発明の一実施形態は、マイクロフルイディック・システムの上流及び下流チャネル間に通路を設けるバルブに関する。このバルブは、感熱物質(TRS)を備えており、第1温度において、TRSが通路を遮断するように配し、第2温度において、TRSの少なくとも一部が下流チャネルに流入することにより、通路を開放する。
通路を遮断するTRSの少なくとも約75%は、通路の解放時に、下流チャネルに流入することができる。
【0009】
本発明の別の実施形態は、マイクロフルイディック・システムの上流及び下流チャネル間に通路を設けるためのバルブに関する。このバルブは、通路を実質的に遮断するように構成された感熱物質(TRS)と、TRSと熱的に接触して配置された熱源とを備え、熱源の作動時に、TRSの少なくとも一部が下流チャネルに流入することによって、通路を開放する。
【0010】
本発明の別の実施形態は、マイクロフルイディック・システムに関し、処理チャンバ、ソース・チャネル、及び下流チャネルを規定する基板であって、ソース・チャネルが第1地点において処理チャンバと合流し、下流チャネルが第2遅延において処理チャンバと合流する、基板と、処理チャンバと下流チャネルとの間で通路を遮断するように配された感熱物質(TRS)と、TRSと熱的に接触している熱源であって、該熱源の作動時に、TRSの少なくとも一部が下流チャネルに流入することによって、通路を開放する、熱源とを備えている。
【0011】
本発明の別の態様は、マイクロフルイディック・システムにおいて用いるためのバルブに関し、通路によって合流させた上流チャネル及び下流チャネルを規定する基板と、通路を実質的に遮断するように配された感熱物質(TRS)とを備えており、通路を遮断するTRSの長さは、通路に隣接する上流チャネルの幅よりも大きい。熱源が、TRSと熱的に接触しており、該熱源の作動時に、TRSの開放運動によって通路を開放する。
【0012】
本発明の別の実施形態は、マイクロフルイディック・システムにおいて用いるためのバルブに関し、通路によって合流させた第1及び第2チャネルを規定する基板であって、第1チャネル及び通路がそれらの間に開口を規定する、基板と、通路を実質的に遮断するように配された感熱物質(TRS)であって、開口の高さが、開口に隣接する第1チャネルの高さよりも低く、毛細管作用によってTRSを通路に引き込み、TRSの表面張力によって、当該TRSが第1又は第2チャンバに流入するのを実質的に防止するようにした、感熱物質と、TRSと熱的に接触している熱源であって、当該熱源の作動時に、TRSの開放運動によって通路を開放する、熱源とを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるマイクロフルイディック・システムを示す図である。
【図2a】本発明のバルブの閉鎖状態を示す図である。
【図2b】図2aのバルブの開放状態を示す図である。
【図3a】図2aのバルブの斜視断面図である。
【図3b】図3aの断面3bに沿った断面図である。
【図4a】本発明の別のバルブの閉鎖状態を示す図である。
【図4b】図4aのバルブの開放状態を示す図である。
【図5a】本発明の別のバルブの閉鎖状態を示す図である。
【図5b】図5aのバルブの開放状態を示す図である。
【図6a】本発明の別のバルブの閉鎖状態を示す図である。
【図6b】図6aのバルブの開放状態を示す図である。
【図7a】本発明の別のバルブの閉鎖状態を示す図である。
【図7b】図7aのバルブの開放状態を示す図である。
【図8a】本発明の別のバルブの閉鎖状態を示す図である。
【図8b】図8aのバルブの開放状態を示す図である。
【図9a】本発明の別のバルブの閉鎖状態を示す図である。
【図9b】図9aのバルブの開放状態を示す図である。
【図10a】本発明の別のバルブの閉鎖状態を示す図である。
【図10b】図10aのバルブの開放状態を示す図である。
【図11a】本発明の別のバルブの上面図である。
【図11b】図11aのバルブの側面図である。
【図11c】図11aのバルブの斜視切欠図である。
【図11d】図11aのバルブの斜視切欠図である。
【図12a】本発明の毛細管補助負荷バルブの上面図である。
【図12b】本発明の毛細管補助負荷バルブの上面図である。
【図12c】本発明の毛細管補助負荷バルブの上面図である。
【図13a】本発明によるシステムを製造するのに適したフォトリソグラフ・マスクを示す図である。
【図13b】本発明によるシステムを製造するのに適したフォトリソグラフ・マスクを示す図である。
【図13c】本発明によるシステムを製造するのに適したフォトリソグラフ・マスクを示す図である。
【図13d】本発明によるシステムを製造するのに適したフォトリソグラフ・マスクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、マイクロフルイディック・システム用に改良したバルブ、及びこの改良したバルブを備えたマイクロフルイディック・システムに関する。図1を参照すると、本発明のマイクロフルイディック・システム700は、サンプルや試薬のような少量の物質を用いて分析を行うように構成されている。この物質は、システムの異なる領域間で運搬することができる。異なる領域とは、例えば、チャンバ、チャネル及び通路が含まれ、これらについては、以下で論ずることにする。マイクロフルイディック・システム700の重要な特徴の1つは、その異なる領域間における物質の通過を調整できることにある。例えば、システム700は、物質導入チャネル702とチャンバ704との間で物質の通過を調整するバルブ706を含む。バルブ706が開放しているとき、物質をチャンバ704に導入し、物質を濃縮、希釈、混合、又は反応させることによって、処理することができる。一旦所望量の物質を導入したならば、バルブ706を閉鎖して、チャネル702に沿って余分な物質が流入するのを実質的に防止することができる。バルブ706は、多用途バルブとして動作し、性能を低下させることなく、開放及び閉鎖状態の間で切り換えることができる。
【0015】
このような多用途バルブ50の一実施形態を図2a及び図2bに示す。バルブ50は、第1チャネル52と第2チャネル54との間で物質の通過を調整する。バルブ通路68は、バルブを介してチャネルを接続する。図2bの開放状態では、TRS56がバルブ・リザーバ55内に後退しているので、一方のチャネルから他方のチャネルに物質を通過させることができる。図2aの閉鎖状態では、塊状感熱物質(TRS)56が実質的に通路68を遮断する。バルブが閉鎖すると、チャネル52、54間の物質の通過が妨げられる。
【0016】
バルブ開放動作は、好ましくは、熱源37を作動させてTRS56を加熱することによってTRS56を軟化させる等、その物理的又は化学的特性を変化させることを含む。冷却部36が、TRS56の端部30に接触して捕獲されたガス32を冷却する。その結果、ガス32は収縮し、端部30に作用する圧力が減少し、軟化したTRS56をリザーバ55内に後退させる。バルブ50を閉鎖するには、ガス32を加熱し、ガスを膨張させることによって、端部30に作用する圧力を高め、TRS56を通路68全域に膨張させる。
【0017】
本発明のバルブの好適な実施形態では、バルブ通路を遮断するTRSに過剰な圧力が作用しても、バルブからの漏洩を防止するように構成した1つ以上のエレメントを含む。過剰な圧力が発生するのは、バルブの一方側に存在する圧力が、他方側に存在する圧力より
も大きいときである。例えば、過剰な上流圧力は、上流チャネルからバルブの上流側に作用する圧力が、下流チャネルからバルブの下流側に作用する圧力よりも大きいことを意味する。この少なくとも1つのエレメントは、好適には、物質運搬通路に対向して配置された表面である。物質運搬経路は、開放状態のバルブを通過する物質が進む経路のことである。バルブが閉鎖すると、過剰な上流圧力は、対向する表面に向けてTRSを押圧し、遮断された通路を通じた漏洩を引き起こすことはない。
【0018】
図2aに戻り、通路68を遮断するTRSは、リザーバ55からバルブ壁72まで膨張する。リザーバ55は、ある量のTRS57を含み、通路68からずれているので、TRS57はバルブを通る物質の経路を邪魔しない。リザーバ55は、好ましくは、通路の中心軸60に対してバルブ壁72とは逆側に配置する。TRS56の少なくとも第1衝合部(abutting portion)70が壁72に衝合する。ここで用いる場合、「衝合する」とは、TRSの衝合部と閉鎖したバルブの壁との間に空間が残っていても、液体のような物質の通過を実質的に防止する程に小さいことを意味する。好ましくは、壁に衝合するTRSの部分は、壁に接触し、それらの間の空間を本質的に排除する。
【0019】
壁72は、通路の中心軸61に対してある角度をなして配置することが好ましい、第1対向壁部74を含む。バルブ50が閉鎖すると、TRS56の第2衝合部76が、第1対向壁部74に衝合する。第2衝合部76及び第1対向壁部74は、TRS56の上流部81に作用する圧力が、TRS56の下流部78に加えられる圧力を上回るときでも、バルブ50を通じた物質の通過を実質的に防止する。過剰な上流圧力は、第2衝合部76を対向壁面74に対して押圧することによって、バルブ50を一層緊密に閉鎖する。対向壁部がないと、過剰上流圧力は、バルブ通路を遮断するTRSの形状を歪ませ、バルブを通じた物質の漏れという望ましくない事態を招く可能性がある。
【0020】
第1対向壁部74は、通路68を通過する物質が取る経路内に達する壁突出部80と一体であることが好ましい。こうすると、上流側断面区域66を通じて通路68に進入する少なくとも一部の物質は、突出部80に沿って通過しなければならない。例えば、図3a及び図3bは、上流点62から通路68に入る物質運搬経路63が、対向壁部74によって遮断されていることを示す。一般に、物質運搬経路は、サンプルや試薬のような物質が、上流位置から下流位置に進行する際に取る経路である。特定のバルブに関して、上流及び下流という用語は、バルブを介した物質運搬の好ましい方向に関連する。しかしながら、バルブは、バルブの下流側から上流側への物質の通過を、許可又は妨害するように動作可能であることは言うまでもない。
【0021】
突出部80は、第2対向壁面86及び外壁88を含む。第2チャネル54の壁90が、中心軸61に対して外壁88とは逆側に配されている。突出部80が壁72を超えて延出しているので、外壁88と壁90との間の距離82は、上流点62における第1チャネル52の対向する壁間の対応する距離84よりも小さくなっている。下流側の距離82は、上流側の距離84よりも、少なくとも10%小さく、好ましくは少なくとも20%小さく、更に好ましくは30%小さい。したがって、突出部80及び壁90は絞りを構成し、下流側物質運搬経路59の断面積67は、上流側物質運搬経路58の断面積66よりも小さい。バルブに隣接した下流側断面積の方が小さいため、バルブ50の容量が増大し、上流側圧力の上昇にも耐えて、過剰な漏洩を生ずることもない。また、突出部80の存在のために、第2チャネル54の中心軸61が第1チャネル52の中心軸60からずれている。突出部80は概略的に矩形状に示しているが、三角形又は円弧状面を有する形状というような、その他の形状を有する突出部を用いることもできる。
【0022】
バルブ50は、TRS56の温度が第1から第2の、好ましくは高い方の温度に変化すると、通路68を開放又は閉鎖するように動作する。TRS56及び57の少なく共一部
と熱的に接触している熱源47の作動によって、十分な熱エネルギが供給され、TRSの加熱部分の物理的又は化学的特性を変化させる。好ましくは、特性の変化は、少なくともTRS56の通路68に対する運動を可能にする程度の軟化又はサイズの縮小である。バルブ50は、物質56の多大な損失を生ずることなく、また閉鎖しているときのバルブを通じた物質の通過を防止する能力を著しく損なうことなく、開放状態及び閉鎖状態の間で繰り返し切り換えることができる。
【0023】
感熱物質(TRS)とは、第1温度から第2の異なる温度への遷移に際して、少なくとも1つの物理的又は化学的特性の変化を呈する物質のことを言う。バルブの通路を遮断する塊状TRSは、本質的に中実の塊状体、又は協同して通路を遮断する小さな粒子の凝集体とすることができる。TRSの例には、はんだ、ワックス、ポリマ、プラスチック、及びそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定される訳ではない。好ましくは、前述の特性は、硬度の低下又はサイズ縮小の少なくとも一方である。例えば、一実施形態では、TRSは、第1温度からより高い第2温度への遷移に際して溶融する。溶融するTRSは、溶融可能物質であり、例えば、ワックス(例えば、オレフィン)又は共晶合金(例えば、はんだ)が考えられる。第1及び第2温度は、近くにある電子部品やデバイスの基板のような物質に損傷を与える程高くないことが好ましい。第2温度は、好ましくは、40゜〜90℃であり、最も好ましくは50゜〜70℃である。
【0024】
好適な実施形態では、TRSは、溶融時に分散せず、単に軟化するだけである。代替実施形態では、TRSは、遮断される通路を形成する物質とは異なる熱膨張係数を有する物質である。通路及びTRSを加熱又は冷却することにより、TRSは通路に対して膨張又は収縮する。収縮状態では、TRSはチャネルに進入したりチャネルから後退するように作動することができる。これについては以下で説明する。
【0025】
通路という用語は、バルブが完全に閉鎖されているときに、塊状TRSによって遮断されるバルブ内部の領域のことを言う。バルブが完全に開放している場合、通路は、液体のような物質がバルブを通じて上流位置から下流位置に通過できる領域となる。したがって、バルブ・リザーバの表面は通路の一部ではない。何故なら、通路内の物質をリザーバ内に流入させないことが好ましいからである。「塊状TRS」とは、バルブ通路を実質的に遮断することによって、バルブを通じた物質の通過を実質的に防止するのに十分な量のTRSのことを言う。物質の通過を防止すると、バルブの上流に位置する微小水滴の体積に望ましくない減耗を起こす程の量の物質でさえも、その通過を防止する。同様に、物質の通過を防止すると、上流側の物質が、バルブよりも下流に位置する微小水滴に悪影響を及ぼすのを防止する。例えば、下流側水滴の濃度又はpHは、上流側物質が閉鎖したバルブによって遮断されると、本質的に変化しない状態となる。好ましくは、閉鎖したバルブは、バルブに隣接するあらゆる液体又は粒子の通過を完全に防止する。
【0026】
図2bを参照すると、バルブ50の開放状態が示されており、この場合、TRS56は本質的に完全にリザーバ55内部に後退しており、通路68を開放することによって、第1及び第2チャネルの少なくも一方から他方に、バルブ50を通じた物質の通過を可能にする。ほぼ完全に後退することとは、通路68を遮断していたTRS56のほぼ全てがリザーバ55内部に後退し、通路68に残留したり、バルブ50の下流に分散するのではないことを意味する。TRS56を完全に後退させると、約10%以下、好ましくは約5%以下、そして最も好ましくは約2%以下のTRS56が通路68内に残され、バルブ50の下流に分散する。
【0027】
開放運動を生じさせるには、TRS衝合部70に作用する圧力に対して、TRS57の端部30に作用する圧力を減少させることが好ましい。圧力減少は、リザーバ55の作動部34に存在するガス32のような流体を収縮させて発生することが好ましい。ガス32
の収縮は、当該ガスを冷却してガスの温度を低下させ、体積を縮小させることによって得ることができる。ガス32を冷却するには、ガス32と熱的に接触しているペルチェ冷却器(Peltier cooler)のような冷却器を作動させることが好ましい。冷却器は、バルブ50を構成する基板及び熱源36と一体であることが好ましい。しかしながら、冷却器は、別個のデバイス内に配置し、動作中、基板を受け入れるようにすることも可能であることは言うまでもない。
【0028】
バルブ50の好ましい開放状態によって、第1チャネル52から第2チャネル54に運搬されるべき物質の通過が可能となる。TRSの衝合部70から壁72までの開放距離92は、物質が通路を所望の物質運搬速度で通過できる程度に広くなっている。完全な開放状態では、開放距離92は、少なくとも第2チャネル54の距離82と同程度に広いことが好ましい。しかしながら、バルブ50は一部開放状態でも動作可能であり、その場合、開放距離92は距離82よりも小さいことは言うまでもない。
【0029】
バルブ50は、TRS56の閉鎖運動によってTRS衝合部70が通路68を横切って壁72に接するように移動させたときに、通路68を閉鎖するように動作する。閉鎖運動を生じさせるには、端部30に作用する圧力を用いることが好ましい。この圧力は、ガス32のような流体の膨張によって得られる。ガス32の膨張を得るには、ガス32と熱的に接触する熱源36を作動させることによって、ガスの温度を上昇させることが好ましい。熱源36は、バルブ50を構成する基板と一体であることが好ましい。しかしながら、熱源は、動作中、基板を収容する補助デバイス内に配置可能であることは言うまでもない。
【0030】
図4a及び図4bには、異なる開放動作を有するバルブ50’が示されている。バルブ50’の開放を行うには、通路68’を遮断する塊状TRS56’の少なくとも一部の温度を変化させる。熱源37’が、TRS56’と熱的に接触しており、これを作動させることによって熱エネルギを供給し、TRS56’を第1温度から第2の、好ましくはより高い温度に加熱する。第2温度は、TRS56’を溶融又は分散させることによって、通路68’を開放するのに十分であることが好ましい。第2温度に加熱されるTRS56’の部分は、通路68’を開放するのに十分である。
【0031】
リザーバ55’に後退させる代わりに、少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約75%、更に好ましくは約90%のTRS56’は、バルブ50’から下流側にある、第2チャネル54’に進入する。つまり、この形式のバルブ50’は、ゲート型バルブであり、物質がリザーバに後退することによってバルブを開放するバルブ50とは異なる。TRS56’が下流側チャネルに進入する際、TRS56’に対して過剰な上流圧力を加えることによって補助することが好ましい。上流圧力は、上流チャネルと流体連通するガス圧源を用いて供給することができる。
通路68’の開放時にTRS56’の少なくとも一部が下流側チャネルに進入するが、本発明のバルブ50’のようなゲート型バルブは、一旦開放されると、閉鎖状態に戻すことができる。例えば、追加のTRSをゲート・バルブに付随するリザーバから通路内に、少なくとも付随するリザーバを加熱することによって、流入させることができる。
【0032】
熱源37’は、第2チャネル54’の下流側の長さ45’を、分散又は溶融するTRSが第2チャネル54’を遮断するのを防止するのに十分な温度まで加熱するように構成することが好ましい。長さ45’は、TRS56’によって遮断される通路68’の長さの少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%とする。熱源37’は、下流チャネルの隣接部分の壁を加熱し、TRS56’を、度々、溶融又は分散するのに十分な温度にする。したがって、図4bに見られるように、分散又は溶融したTRS56’の一部を、下流チャネルを遮断するには不十分なサイズを有するTRS59’の小さな立体空間内で、下
流チャネル内部に残しておくことができる。また、TRS56’は、溶融することによってではなく、通路68’を開放する物質で形成することもできる。例えば、代替実施形態の1つでは、遮断TRSは、粒子の凝集体で形成する。より高い温度への遷移時に、凝集された粒子が下流に分散することによって、バルブを開放する。
【0033】
バルブ50’は、リザーバ55’を含み、TRS56’及び57’を通路68’及びリザーバ55’にそれぞれ導入させることができる。TRSを通路68’内に装荷するには、通路及びリザーバを、外部熱源等により加熱し、次いでTRSをアクセス・ポート40’に導入する。一旦TRSが通路を遮断したなら、直ちに外部熱源を取り除く。こうして、TRS56’は、バルブ50’の通路68’を遮断する。バルブ50’は、バルブ50と同様に動作し、上流側圧力に応答して漏洩を防止する。
【0034】
熱源37’を作動させるとき、リザーバ55’内にあるTRS57’の温度は、TRS57’を分散又は溶融する程の値まで上昇させないことが好ましい。こうすれば、TRS57’のほぼ全てがリザーバ55’内に停留するので、アクセス・ポート40’は通路68’と流体連通しない。TRS57’の温度を低く保つには、TRS56’に加える熱の期間を制限し、通路68’からのアクセス・ポート40’の距離を増大することによって可能となる。
【0035】
図5aを参照すると、2つの下流側衝合部を有するバルブ150が閉鎖状態で示されている。バルブ150が閉鎖されていると、塊状感熱物質156が、第1及び第2チャネル152、154間の通路168を通じた物質の運搬を遮断する。TRS156の第1衝合部170は、閉鎖バルブ150の壁172に衝合する。壁172は、第1対向壁部174を含み、これは中心軸160及び物質運搬経路158に対してある角度をなして配されている。感熱物質156は、バルブ150が閉鎖されたときに、第2対向壁部174に接触するように配された第2衝合部176を含む。TRS156の第3衝合部200は、バルブ150の対向壁部202に衝合する。対向壁部202は、中心軸160の対向壁部174とは逆側、好ましくはTRSのリザーバ155に隣接して配されている。
【0036】
衝合部176、200及び壁面174、202は、TRS156の上流部181に作用する圧力が下流部178に作用する圧力を上回るときに、バルブ150を通じた望ましくない漏洩を防止するように構成され配置されている。過剰な上流圧力によって、好ましくは、衝合部176及び200をそれぞれ、対向壁部174及び202に向けて押圧することによって、バルブ150を一層確実に閉鎖する。2つの下流対向壁を設けたことによって、TRS156が上流圧力に応答して歪む傾向を緩和する。
【0037】
第1対向壁面174は、第1チャネル152の物質運搬経路158内に達する第1壁突出部180と一体であることが好ましい。突出部180は、第2対向壁部186及び外壁面188を含む。対向壁部202は、第2壁突出部204と一体となっている。第2壁突出部204も物質運搬経路158内に達している。突出部204は、第2対向壁部206及び外壁部208を含む。
【0038】
外壁部188及び190間の距離182は、バルブ150から上流にある地点162における第1チャネル152の対向する壁間の対応する距離184よりも小さいことが好ましい。距離182は、上流側の距離184よりも、少なくとも10%小さく、好ましくは少なくとも20%小さく、更に好ましくは少なくとも30%小さい。したがって、対向壁部174、202又は突出部180、204は、それらの間に絞りを形成する。絞りは、上流点162における断面積よりも小さい断面積を有する。突出部180及び204は、全体的に矩形として示すが、三角形や、円弧状表面を有する形状というようなその他の形状を有する突出部も使用可能である。
【0039】
図5bを参照すると、バルブ150の開放状態が示されており、この場合、TRS156はほぼ完全にリザーバ155内に後退して、通路168を開放することにより、第1及び第2チャネルの少なくとも一方から他方にバルブ150を通じた物質の通過が可能となる。完全な開放状態では、TRSの衝合部170から壁172までの開放距離192は、第2チャネル154の距離182と少なくとも同程度であることが好ましい。その場合、開放距離192は、距離182未満となる。先にバルブ50について論じたように、バルブ150は、物質56の多大な損失を生ずることなく、また閉鎖しているときのバルブを通じた物質の通過を防止する能力を著しく損なうことなく、繰り返し開放状態に再位置決めすることができる。
【0040】
図6a及び図6bに見られるバルブ150’は、閉鎖状態に関しては、バルブ150の場合と同様に動作する。通路168’を開放する際は、バルブ150’は、バルブ50’と同様に動作し、通路168’を遮断している塊状TRS156’が分散又は溶融することによって、通路168’を開放する。分散又は溶融は、TRS156’と熱的に接触している熱源37を作動させることによって生じさせることが好ましい。
【0041】
図7a及び図7bを参照すると、バルブ250は、第1及び第2対向壁部274、286を有する突出部280を含み、これらの壁部が協同して、上流及び下流圧力双方に応答して漏洩を防止する。閉鎖状態では、塊状感熱物質256がバルブ通路268を遮断することにより、第1チャネル252及び第2チャネル254間のいずれの方向においても物質の運搬を防止する。突出部280は、物質運搬経路258と整合しているTRS256の寸法287の中心に位置付けることが好ましい。突出部280は、ほぼ正方形であるように示したが、矩形、三角形、円弧形のように、任意の形状を有する突出部でも使用可能である。
【0042】
TRS256の第1衝合部276が、第1対向壁部274と衝合し、TRS256の第2衝合部277が、第2対向壁部286と衝合する。第1及び第2衝合部276並びにそれぞれの対向壁部274、286は、大きな圧力がTRS256の第1側276又は第2側278のいずれかに加えられたときに、バルブ250を通じた物質の通過を実質的に防止する。例えば、第2側278に大きな上流圧力が作用すると、第2衝合部277を対向壁部286側に押圧することによって、バルブ250を一層確実に閉鎖する。バルブ250は、大きな上流圧力が第1側281に作用するときにも同様に応答する。つまり、バルブ250は、双方向バルブとして動作し、2つの流動方向のいずれからの大きな圧力にも応答して、漏洩を防止する。バルブ250を一層確実に閉鎖するためには、少なくとも第3の衝合部274がバルブ壁270に衝合する。バルブ壁270は、第1チャネル252の中心軸260と整合することが好ましい。
【0043】
本発明の一実施形態では、物質運搬経路と整合した感熱物質の長さは、感熱物質によって遮断される通路の幅、及び上流チャネルの幅の少なくとも一方よりも広い。ここで用いる場合、長さという用語は、物質運搬経路に沿った距離のことをいい、チャネル又は通路の中心軸と整合していることが好ましい。幅という用語は、物質運搬経路又はそれを貫通する中心軸に対向するチャネル又は通路の大きい方の寸法のことを言う。例えば、図7aを参照すると、TRS256の寸法即ち長さ287は、通路268の幅289及び第1チャネル252の幅284よりも大きい。リザーバ255の寸法即ち幅291は、少なくとも長さ287と同程度であることが好ましい。TRS256の寸法287は、第1チャネル252の幅284の少なくとも15%、好ましくは少なくとも25%、更に好ましくは少なくとも30%である。
【0044】
図7bを参照すると、バルブ250の開放状態が示されており、この例では、TRS2
56は、リザーバ255内にほぼ完全に後退し、通路268を開放することにより、バルブ250を通じた物質の通過を可能とする。TRS256は、ほぼ完全にリザーバ255内に後退しており、下流方向に分散したり、通路268内に残留していないので、衝合部276、277は、突出部280の窪み形状を呈し続けることができる。
【0045】
TRS256から突出部280までの最小開放距離292を十分大きく取り、物質が所望の物質運搬速度で通路を通過できるようにする。図7bは、完全に開放状態のバルブ250を示すが、バルブ250は部分的開放状態にも動作可能であることは言うまでもなく、その場合、第3衝合部272が、壁270と衝合する完全閉鎖位置と、第1チャネル壁273と実質的に整合する完全解放位置との間の中間に配される。先に論じたように、バルブ250は、物質256の多大な損失を生ずることなく、また閉鎖しているときのバルブを通じた物質の通過を防止する能力を著しく損なうことなく、繰り返し開放状態に再位置決めすることができる。
【0046】
図8a及び図8bに示したゲート・バルブ250’は、バルブ250と同様に動作してバルブを閉鎖する。通路268’を開放する際は、バルブ250’はバルブ50’と同様に動作して、通路268’を遮断している塊状TRS256’が分散又は溶融し、下流チャネルに流入することによってバルブを開放する。分散又は溶融は、TRS256’と熱的に接触している熱源37を作動させて行われることが好ましい。参照番号252’、254’、257’、260’、272’、274’、277’、280’及び286’によって特定される要素は、本明細書の他の部分に記載される類似の要素と同様に説明されるものである。
【0047】
図9aを参照すると、バルブ350は、第1チャネル352の物質運搬経路360内には達しない対向壁部374を含む。閉鎖状態では、塊状感熱物質356が通路368を遮断する。TRS356の第1衝合部376が、第1対向壁部374に衝合する。TRS356の第1面376に大きな上流圧があると、第1衝合部376を第1対向壁部374に向けて押圧することにより、バルブ350を一層確実に閉鎖する。
バルブ350は、第2対向壁部386を含むことが好ましく、この第2対向壁部386も物質運搬経路360内には達していない。第1及び第2対向壁部374、386は、互いに対向しているので、バルブ350は双方向バルブとして動作する。したがって、TRS356の第2面378に大きな上流圧力があると、TRS356の第2衝合部377を第2対向壁部386に向けて押圧する。
図9bに示したバルブ350の開放状態では、TRS356はリザーバ355内に後退することによって通路368を開放し、これにより物質の通過が可能となる。
【0048】
図10a及び図10bに示したゲート・バルブ350’は、バルブ350と同様に動作して閉鎖する。通路368’を開放する際は、バルブ350’はバルブ50’と同様に動作し、通路368’を遮断している塊状TRS357’が分散又は溶融することによってバルブを開放する。分散又は溶融は、TRS357’と熱的に接触している熱源37を作動させて行われることが好ましい。好ましくは、TRS357’のほぼ全てが、バルブ350’から下流側にある第2チャネル354’に流入する。
【0049】
図11a〜図11dを参照すると、毛細管補助装荷(capillary assisted loading)を行うように構成した表面500を有するバルブ450の一実施形態が示されている。バルブ450は、第1及び第2チャネル452、454間に通路468を規定する。感熱物質は、説明の明確化のために図11a〜図11cには示していないが、先に論じたように、バルブを開放及び閉鎖するように動作する。一実施形態では、例えば、バルブ450の開放は、TRSのリザーバ455への後退運動からなる。好適な実施形態では、通路468の開放は、TRSの分散又は溶融からなり、TRSは少なくとも1つの下流チャネルに流入することによって、通路468を開放する。
【0050】
装荷面500は、TRSが通路468に進入するときに、チャネル452、454に流
入するTRSの量を制限するように構成されている。通路468と第1チャネル452との間にある開口515により、断面積516が規定される。この断面積は、第1チャネル452内部の隣接する断面積518よりも少なくとも40%小さく、好ましくは少なくとも50%小さい。同様に、通路468と第2チャネル454との間にある開口520の断面積は、第2チャネル454内の隣接する断面積よりも小さいことが好ましい。
【0051】
通路開口の断面縮小は、通路の高さを減ずることによって得ることが好ましい。ここで用いる場合のチャネル又は通路の高さとは、チャネル又は通路の最も小さい寸法のことを言う。例えば、装荷面500及び対向面504間の距離502はそれぞれ、第1及び第2チャネル452及び454の対向面間の対応する距離506及び507よりも小さい。距離502は、距離506、507よりも少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、そして、最も好ましくは少なくとも65%小さい。
【0052】
TRSを通路468内に装荷するには、リザーバ及び通路468を十分に加熱し、TRSが内部で運動できるようにする。TRSは、アクセス・ポート40を通じて導入される。毛細管作用によって、TRSを通路468内に引き込む。しかしながら、第1及び第2開口515及び520に到達すると、通路468内のTRSは、低い方の断面積開口から第1及び第2チャネル452、454に移動する際に表面積の拡張に抵抗するTRSの表面張力によって生ずるような抵抗を受ける。したがって、図11dに示すように、装荷面500は、バルブの通路を遮断するには十分であるが、隣接するチャネル452及び454に流入するには不十分な量のTRSの導入を可能にする。
バルブ450は、前述した対向壁部のような、少なくとも1つの対向面を含み、バルブが閉鎖するときにいずれかのチャネルに存在する過剰圧力に応答して漏洩を防止することができる。
【0053】
図12a〜12cを参照すると、バルブ1001は、通路1004からリザーバ1002内にまで達する装荷面1000を有する。説明の明確化のために、熱源及びバルブ1001に付随するTRSは、図12aには示されていない。バルブ1001は、第1及び第2チャネル1006、1008、及び突出部1010を含む。突出部1010は、幅Wだけ通路1004内に迫り出しており、通路の幅Wが第1及び第2チャネル1006、1008の幅Wよりも狭くなっている。幅Wは、幅Wの約50%というように、幅Wの約25%から約75%であることが好ましい。第1及び第2チャネル1006、1008の幅は同一であることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。しかしながら、第1又は第2チャネルの一方を広くすると、その高さを対応して減少させなければならない。リザーバの幅Wは、第1及び第2チャネルの幅W2よりも広くすることも、狭くすることも可能である。
【0054】
装荷面1000は、通路1004及びリザーバ・チャネル1002の装荷部1012の高さを削減する。好ましくは、通路1004及び装荷部1012の高さは、第1及び第2チャネル1006、1008の高さ、並びにリザーバ1002の遠端部1014の高さの約50%というように、これらの高さの約25%〜約75%である。
バルブ1001に装荷するには、TRSの先端が装荷面1000の縁1016に達するまで、ある量のTRSを孔1015を通じて導入する。縁1016に達すると、毛細管作用がTRSを装荷部1012及び通路1004内に引き込む。第1及び第2縁1017及び1018に達すると、表面張力によって、TRSが第1及び第2チャネル1006、1008に流入するのを防止する。図12bに示すように、TRSの一部が突出部1010の表面に接触すると、バルブは閉鎖状態となり、第1及び第2チャネル1006、1008間の物質の通過を防止する。
【0055】
バルブ1001を開放するには、通路1004を遮断しているTRSの温度を上昇させ
、通路1004を遮断しているTRSの少なくとも一部が分散又は溶融して、第1及び第2チャネル1006、1008の少なくとも一方に流入することができるのに十分な温度とする。温度が上昇したならば、空気又は液体の圧力等が、第1及び第2チャネルの一方から、チャネルを遮断しているTRSを変位させることが好ましい。開放動作の間、リザーバ内のTRSの温度は、TRSを分散又は溶融するのに十分な値まで上昇させないことが好ましい。バルブ1001は、リザーバ1002内にあるTRSを加熱することによって、閉鎖状態に戻すことができる。毛細管作用がTRSを通路1004に引き込むのは、先に論じた通りである。
【0056】
バルブ1001は、ある量のTRSがリザーバ1002の遠端部に残っている限り、繰り返し開放及び閉鎖することができる。リザーバの遠端部にあるTRSの量は、通路を開放するときに分散したTRSの量よりも多いことが好ましい。好ましくは、分散したTRSは、第1及び第2チャネルの一方に流入する。リザーバの遠端部にあるTRSの量は、TRSが通路1004を完全に再閉鎖することを確保するためには、装荷部にあるTRSの量よりも多いことが好ましい。
【0057】
リザーバ1002の遠端部1014内にあるTRSの遠端の平均曲率半径(MRC)は、装荷部1000内又は通路1004内にあるTRSの近端のMRCよりも大きいことが好ましい。遠端とは、通路1004から離間したTRSの部分を意味し、近端とは、通路1004に隣接するか、あるいはその内部にあるTRSの部分を意味する。好ましくは、TRSの装荷部の壁との接触角度は、ほぼ一定とする。
また、バルブ1001は、図11a〜図11dに示すような対向面も含み、バルブが閉鎖状態にあるときに、物質の通過を防止するのに役立てるようにすることができる。また、バルブ1001は、毛細管補助装荷バルブとして構成しないことも可能であり、その場合装荷面1000は設けられない。
【0058】
チャネル幅は一定である必要はない。したがって、幅が変化するチャネルも使用することができる。TRSが所定の方向に移動する傾向は、ドロップ(drop)の前面の平均曲率半径と、ドロップの背面の曲率半径との間の比率によって統制される。これらの曲率は、流体の物質との接触角度及びチャネルの寸法に基づく。
【0059】
図1に戻って、マイクロフルイディック・システム700の構造及び動作について更に詳細に説明する。基板701内に規定されているチャンバ704は、内部の物質を用いて少なくとも1つの化学的又は物理的プロセスを実行するように構成することが好ましい。物質には、例えば、流体、セルのような粒子、DNA、ビールス、及び粒子含有流体のようなサンプル及び試薬が含まれる。一実施形態では、チャンバ704は、サンプルを試薬と混合し、化学反応を容易に起こさせるように構成することができる。あるいは、チャンバ704は、サンプルを濃縮又は希釈するように構成することもできる。PCR増幅、濾過等のようなその他のプロセスも可能である。尚、チャンバ704は、チャネルと同じ寸法を有することができる。
【0060】
出口チャネル710が、チャンバ704から過剰なサンプル又は試薬物質を除去する出口として設けられている。チャンバ704の動作の間、バルブ712を開放状態で動作させ、物質がチャネル710を通って、チャンバ704から退出できるようにする。好ましくは、チャネル710は、フィルタのような通過部材(flow through member)を含み、選
択した物質のみを、チャネル710を通ってチャンバ704から排出できるようにする。バルブ714は、チャンバ704内の物質が下流チャネル716に流入するのを防止する。バルブ718は、チャンバ704内の物質を機内圧力源(on-board pressure source)720に流入するのを防止する。機内圧力源720は、先に論じたような、熱作動型とすることが好ましい。圧力源720は、十分なガス圧力及びガス体積を供給し、チャンバ70
4内にある物質を下流チャンバ716内に導入させるようにすることが好ましい。
【0061】
チャンバ704内で行われる何らかのプロセスの完了時に、バルブ712を閉鎖して、いずれの物質をもチャネル710を通じてチャンバ704から出ることを防止する。物質を下流チャネル716に流入させるために、圧力源720並びにバルブ714及び718に付随する熱源を作動させることによって、双方のバルブを開放する。バルブ714の通路を通して物質を下流チャネル716に運搬し、分析又は次の処理を行う。下流処理チャンバは、好ましくは、バクテリア細胞等の細胞を溶解させるチャンバを含むことが好ましい。バクテリアの例には、グループB連鎖球菌属、及びバクテリア髄膜炎に関連するバクテリアが含まれる。当技術分野では公知であるが、細胞を界面活性剤及び/又は緩衝剤のような、溶解剤と接触させることによって細胞を溶解し、その中の核酸を放出することができる。このように、本システムには、チャネルによって溶解チャンバに接続されている緩衝剤のリザーバを備えることが好ましい。第2下流処理チャンバは、溶解した細胞から放出された核酸に対してPCR反応を実行するように構成することが好ましい。PCRチャンバは、核酸の増幅を容易にするのに適した酵素や緩衝剤のような試薬を導入するように構成されたチャネルによって、合体されている。
【0062】
ここでは、バルブの開放及び閉鎖は、コンピュータ制御の下で自動的に行うことが好ましい。システム700は、バルブ、ヒータ、処理チャンバ、バルブ状態を検出するセンサ等のような、種々の機内システム・エレメントとの電気的又は光学的通信を可能にする接点722を含むことが好ましい。熱的に作動するバルブを動作させるための好ましいコンピュータ制御システム及び方法は、2001年3月28日に出願された米国特許出願第09/819,105号に開示されている。その内容全体は、本願にも含まれることとする。
【0063】
チャンバやバルブのような基板を規定するエレメントは、シリコン、クオーツ、ガラス、及びポリマ材等の物質であれば、そのいずれでも形成することができる。基板は、均質であってもよく、また、接合したクオーツ・カバーを有するシリコン基板のように、1つ以上のエレメントを互いに接合して形成することもできる。カバー及び基板は、バルブ、通路、チャネル、ヒータを含むシステムの構造と共に、微細加工によって製作される。微細加工には、フォトリソグラフィのような製造技法、それに続く化学エッチング、レーザ研磨、直接刻印、ステレオ・リソグラフィ、及び射出成形が含まれる。例えば、好ましいマイクロフルイディック・システムは、1又は複数の環状オレフィンからなる基板の射出成形によって製造する。
【0064】
図1中の挿入図を参照すると、バルブ714は、上流及び下流チャネル1030、1031、及びリザーバ1032を含む。説明の明確化のため、バルブ714に付随するTRSは図示されていない。バルブ714は、突出部1034、及び通路1035に伴う対向面1033を含む。
【0065】
図13a〜図13dを参照すると、本発明のシステムを微細加工する際に用いるのに適したフォトリソグラフ・マスクが示されている。フォトリソグラフィは、マイクロフルイディック・システムを製作する一手法を提供する。フォトリソグラフィック・プロセスの一例は、クロム及び金の少なくとも一方のような金属を基板上に堆積することから開始される。蒸着又は電子ビーム・スパッタリングのような技法を用いて、金属層を堆積することができる。チャネル、通路、及びバルブ・エレメントを製作するのに好ましい基板は、厚さ500ミクロンのDow Corning社製7740パイレックス(登録商標)・ウエハである。このウエハに、スピン・コーティング等により、フォトレジスト層を被覆する。微細加工するエレメントを示すフォトリソグラフィック・マスク950をパターンとして用いる。マスクを適所に配して、基板を光源に曝しレジストを現像する。パターニ
ングによって、レジストを基板の区域から除去し、基板にエッチングを行う。
【0066】
酸のようなエッチング材を用いて、レジストが除去されている基板の領域を保護する金属層を除去する。得られた基板の無保護区域を、好ましくは約50ミクロンの深さまで、緩衝されたフッ化水素酸のようなエッチング材を用いてエッチングする。一旦エッチングが完了したなら、残留するレジスト及び金属を除去する。孔を穿設し、前述のような感熱物質の導入を可能にする。
【0067】
ヒータ・エレメントは、厚さ500ミクロンのクオーツ・ウエハのような第2基板上に製作することが好ましい。厚さ2500オングストロームのアルミニウム層のような金属を基板上に堆積し、次いで、レジスト層で被覆する。レジストを除去した基板の区域から、エッチング等により、アルミニウムを除去する。続いて、残留するレジストを剥離して除去する。
低温酸化物層を、基板上に堆積する。クロム−金層のような金属層を、酸化物層の上に堆積する。金属層にレジストを被覆し、第3マスク954を用いてパターニングする。第3マスク954は、貫通部材を受容する凹陥となるパターンを規定することが好ましい。クロム金層をエッチングして、凹陥を形成する。
【0068】
水性フッ化水素酸/硝酸混合物のようなエッチング材を用いて、低温酸化物を約100ミクロンの深さまでエッチングする。レジスト及びクロム金層を除去する。続いて、酸化物層にレジスト層を被覆し、第4マスク956を用いてパターニングする。第4マスク956は、システムに対する電気接点のパターンを規定することが好ましい。緩衝されたフッ水素酸のようなエッチング材を用いて、露出している酸化物をエッチングして完全に除去する。チャネルの位置となるところに直接対向して、第2基板を貫通する孔を穿設する。当技術分野では周知のように、第1及び第2基板を互いに接合する。
【0069】
本発明のシステムを製作するステレオリソグラフィック手法は、試作の効率及びマイクロフルイディック・デバイスの製造における効率を向上させる。高い分解能(約0.004”のスポット・サイズ)のステレオリソグラフィでは、チャネル設計を迅速に作業システム内に形成することが可能である。時間の節約、コスト削減、及びステレオリソグラフィの柔軟性によって、より多くの設計の検査を一層迅速に、しかもこれまでよりも費用をかけずに行うことが可能となる。
【0070】
従来のステレオリソグラフィ・デバイスが用いていたエポキシ系樹脂は、マイクロフルイディック・デバイスでは一部の使用には余り適していない。これらは高温に耐えることができず、流体を(ゆっくりと)吸収し、励起源の下では蛍光性であり、光学的に透明ではない。これらの特性は、基本的な流体工学検査には障害とならないが、デバイス機能性の総合的な検査や製造には障害となり、特性がもっと強健な物質、及びそれを形成する方法が必要である。Topas5013のような、Topasと呼ばれるTicona社(Celanese A.G.の子会社)から発売されている物質系を用いることができる。Topas材は、射出成形プロセスによって形成される。この目的のための半成形体は、ステレオリソグラフィによって生成される。これによって、成型品を作成するのに通常必要な先行期間が短縮する。奥行き(run)が短い部品には、この方法は効果的に機能する
。奥行きが長い場合、鋼鉄の成型品を作成するのが好ましい。射出成形部品は、フォトリソグラフィック・プロセスによってガラスやクオーツ内に作成する部品に対して、劇的なコスト節約をもたらす。
【0071】
以上、本発明についてある好適な実施形態を参照しながら説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されるのではないことに留意されたい。したがって、当業者であれば、これら好適な実施形態の変形を案出することができ、それらは本発明の技術思想の範囲に入る
ものであり、その範囲は特許請求の範囲に規定されている通りである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロフルイディック・システムにおいて用いるバルブであって、
通路によって合流された上流チャネル及び下流チャネルを規定する基板と、
前記バルブが閉鎖状態にあるときに、前記通路を遮断するように設けられた感熱物質と、
前記通路内に突き出した第1の壁及び該第1の壁と反対側の第2の壁を備える突出部であって、上流方向及び下流方向の圧力に応答して、前記第1及び第2の壁が協働して漏洩を防止するように構成されている突出部と、
前記通路に隣接して設けられたリザーバであって、該感熱物質のうち前記通路を遮断しない一部を包含する、リザーバと、
前記感熱物質と熱的に接触した熱源であって、該熱源の作動時に、前記感熱物質の少なくとも一部が前記下流チャネルに入ることによって前記通路を開放するようにするための熱源と
からなることを特徴とするバルブ。
【請求項2】
請求項1記載のバルブにおいて、前記熱源は、前記下流チャネルの少なくとも一部を加熱して、前記下流チャネルに入った前記感熱物質が前記下流チャネルを遮断するのを防止するよう構成されていることを特徴とするバルブ。
【請求項3】
請求項1記載のバルブにおいて、前記熱源は、超微小構造であることを特徴とするバルブ。
【請求項4】
請求項1記載のバルブにおいて、前記基板は平面基板であり、該平面基板上に、前記上流及び下流チャネル並びに前記通路が超微小構造で形成されていることを特徴とするバルブ。
【請求項5】
請求項4記載のバルブにおいて、前記基板はポリマ材で構成され、前記超微小構造は射出成形で形成されていることを特徴とするバルブ。
【請求項6】
請求項4記載のバルブにおいて、該バルブはさらに別の基板を備え、該別の基板の第1の表面に、前記熱源が超微小構造で配置されていることを特徴とするバルブ。
【請求項7】
請求項6記載のバルブにおいて、前記基板は、シリコン、クオーツ、ガラス、ポリマ材から選択された材料で構成されていることを特徴とするバルブ。
【請求項8】
請求項6記載のバルブにおいて、前記熱源は、前記別の基板の前記第1の表面とは反対側の第2の表面に配置されている加熱素子であることを特徴とするバルブ。
【請求項9】
請求項1記載のバルブにおいて、該バルブはさらに、前記リザーバ中のガスを冷却するための冷却手段を備え、該冷却手段の駆動により、前記ガスが収縮し、前記通路を遮断している前記感熱物質の少なくとも一部を前記リザーバに引き込むことにより、前記通路が開放されるように構成されていることを特徴とするバルブ。
【請求項10】
請求項9記載のバルブにおいて、前記冷却手段は、前記ガスと熱的に接触するペルチェ冷却器であることを特徴とするバルブ。
【請求項11】
請求項1記載のバルブにおいて、前記感熱物質は、ワックス又は共融合金で構成されていることを特徴とするバルブ。
【請求項12】
請求項1記載のバルブにおいて、前記感熱物質の前記少なくとも一部は、該感熱物質の75%以上であることを特徴とするバルブ。
【請求項13】
請求項1記載のバルブにおいて、前記突出部は、正方形、長方形、3角形、又はアーチ型の形状を有することを特徴とするバルブ。
【請求項14】
請求項1記載のバルブにおいて、前記突出部は、前記通路に沿った材料移動経路に配置されている前記感熱物質の寸法の中心に位置していることを特徴とするバルブ。
【請求項15】
請求項1記載のバルブにおいて、前記突出部の幅は、前記通路に沿った材料移動経路に整列されている前記感熱物質の寸法の幅よりも狭いことを特徴とするバルブ。
【請求項16】
請求項1記載のバルブにおいて、前記感熱物質は、第1の温度の場合に前記通路を遮断するように配置され、前記感熱物質の前記少なくとも一部が、第2の温度の場合に前記下流チャネルに入り込むよう構成されていることを特徴とするバルブ。
【請求項17】
請求項6記載のバルブにおいて、前記第2の温度は、約40℃〜約90℃の範囲内の温度であることを特徴とするバルブ。
【請求項18】
請求項6記載のバルブにおいて、前記第2の温度は、前記感熱物質の前記少なくとも一部を溶解することができる温度であることを特徴とするバルブ。
【請求項19】
請求項6記載のバルブにおいて、前記感熱物質は、粒状体の塊で構成されており、前記第2の温度は、前記感熱物質の前記少なくとも一部を分散することができる温度であることを特徴とするバルブ。
【請求項20】
請求項1記載のバルブにおいて、該バルブはさらに、前記リザーバを加熱するための外
部熱源を備えていることを特徴とするバルブ。
【請求項21】
請求項1記載のバルブにおいて、前記リザーバはさらに、前記感熱物質を前記通路及び前記リザーバに導入するためのアクセス・ポートを備えていることを特徴とするバルブ。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図11d】
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【図12a】
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【図12b】
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【図12c】
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【図13a】
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【図13b】
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【図13c】
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【図13d】
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【公開番号】特開2010−181031(P2010−181031A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68070(P2010−68070)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【分割の表示】特願2003−517479(P2003−517479)の分割
【原出願日】平成14年3月27日(2002.3.27)
【出願人】(504031078)ハンディラブ・インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】