説明

マイクロ波発振器

【課題】90度ハイブリッド回路を用いて、低周波の基本周波数から位相雑音特性に優れた高周波出力信号を効率よく取り出すことができるマイクロ波発振器を提供する。
【解決手段】第1の発振器1から基本周波数の第1の発振信号を出力し、第2の発振器2から第1の発振信号に対して逆位相となる基本周波数の第2の発振信号を出力する。90度ハイブリット回路HYB1が、第1の発振器1から出力された第1の発振信号と第2の発振器2から出力された第2の発振信号とを同位相で合成し、出力ポートP5から基本周波数f1の4倍周波数の高周波信号を出力する。このとき、基本周波数f1、2倍の周波数f2、及び3倍の周波数f3の振幅はゼロとなって出力されない。よって、基本周波数f1の4倍周波数の高周波信号は低位相雑音となって出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高周波用の無線機器や通信機器等に用いられるマイクロ波発振器に係り、とくには、基本波に対して偶数倍の周波数の高周波信号を生成するマイクロ波発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波発振器等においては出力周波数の近傍に不要なエネルギが発生し、これが位相雑音信号となる。一方、マイクロ波通信等で用いられる局所信号は優れた位相雑音特性が必要とされる。したがって、低い位相雑音特性の高周波出力が必要なマイクロ波発振器を構成するための発振素子としては、位相雑音特性に影響する1/f雑音の少ないシリコントランジスタが用いられることが多い。ところが、シリコントランジスタの素子としての発振可能周波数には限界があり、現状の製造プロセスでは、大凡10GHz程度の発振周波数が発振素子として使用可能な周波数の限界である。したがって、マイクロ波通信等で用いられる局所信号の周波数が10GHzを超えるような場合には、マイクロ波発振器を逓倍器と共に使用することとなる。つまり、一般的なマイクロ波発振器は、シリコントランジスタを用いて低周波の発振回路を構成し、その発振信号を逓倍器によって逓倍して所望の高周波信号を得ている。
【0003】
このようなマイクロ波発振器では、低周波の発振回路と逓倍器の構成以外に、逓倍器が動作する信号レベルまで発振信号を増幅させる増幅回路や、不要な高調波成分を抑圧するためのフィルタ等が必要となり、その結果、マイクロ波発振器の回路構成が複雑かつ大規模になってしまう。言い換えると、低周波の発振回路と逓倍器とを組み合わせたマイクロ波発振器の回路構成では、部品点数が多くなって回路規模が複雑になることでコスト高になると共に、構成コンポーネントの電気的特性のばらつきによって出力特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
ところで、特許文献1には、2つの発信器を逆相で動作させるプッシュプッシュ発信器が開示されている。
【特許文献1】特開2000−223944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、プッシュプッシュ発信器が本来目的としている2倍波を効率良く取り出す方法を提唱しているだけであり、本願が解決しようとする課題、すなわち、回路構成の簡略化と高周波出力の効率化を実現しようとする課題との関連性は低い。
【0006】
この発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、90度ハイブリッド回路を用いた単純な回路構成により、低周波の基本周波数から位相雑音特性に優れた高周波出力信号を効率よく取り出すことができるマイクロ波発振器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明の構成は、基本周波数の発振信号を用いて基本周波数より高い周波数の高周波信号を生成するマイクロ波発振器に係り、2系統の基本周波数の発振信号を90度ハイブリット回路によって同位相で合成し、基本周波数の4倍周波数の高周波信号を生成するように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
この発明の構成によれば、90度ハイブリッド回路の出力ポートには、第1の発振器で発振した基本周波数f1の4倍の周波数成分の信号を効率よく取り出すことができる。この際、基本周波数(f1)、2倍の周波数(2×f1)、及び3倍の周波数(3×f1)の周波数成分の信号はいずれも逆位相の合成になってキャンセルされ、90度ハイブリッド回路の出力ポートにはそれらの成分の信号は現われない。
【0009】
さらに、低位相雑音も実現できる。この理由は、この発明の回路構成を採ることにより、90度ハイブリッド回路の出力ポートの出力信号は、2つの入力ポートからの信号が同位相で合成されているため、1つの発振器の出力信号に比べて電圧振幅が2倍、電力換算で6dB上昇していることになる。
【0010】
一方、雑音電力は、入出力信号に相関をもたない熱雑音がその主原因であることから、90度ハイブリッド回路の出力ポートの出力信号は1つの発振器の信号レベルの無相関での加算となる、つまり電力換算で3dBの上昇となる。
【0011】
したがって、信号対雑音比である位相雑音特性は、1つの発振器での出力信号にくらべて3dB改善されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
好適な実施形態としては、基本周波数の第1の発振信号を出力する第1の発振器と、第1の発振信号に対して逆位相となる基本周波数の第2の発振信号を出力する第2の発振器と、第1の発振器から出力された第1の発振信号と第2の発振器から出力された第2の発振信号とを同位相で合成し、基本周波数の4倍周波数の高周波信号を出力する90度ハイブリット回路とを備えている。
【0013】
すなわち、この実施形態のマイクロ波発振器は、基本周波数の発振信号を出力する発振回路2つを基本周波数で位相関係が逆位相となるように回路構成し、それぞれの出力信号を基本周波数の90度ハイブリット回路で合成することにより、基本周波数及びその2倍と3倍の周波数成分の信号を抑圧し、基本周波数の4倍周波数の高周波信号を効率的に取り出すことができる。
【0014】
前記90度ハイブリット回路は、前記基本周波数の近傍のみにおいて、前記第1の発振信号の2系統の分配信号の位相差、及び前記第2の発振信号の2系統の分配信号の位相差が、それぞれ90度となる狭帯域の周波数特性を有している。
【0015】
前記90度ハイブリット回路は、前記第1の発振信号と前記第2発振信号とを同位相で合成することにより、前記基本周波数の信号の振幅、該基本周波数の2倍周波数の信号の振幅、及び該基本周波数の3倍周波数の信号の振幅を、それぞれゼロにする。
【実施形態1】
【0016】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、同一の構造要素は同一の符号を付して示し、かつ重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、この発明の第1の実施形態に係るマイクロ波発振器の回路構成図である。このマイクロ波発振器は、第1の発振器1、第1の発振器1と逆位相で発振する第2の発振器2、及び90度ハイブリット回路HYB1を備えて構成され、負荷抵抗R1に接続されている。
【0018】
第1の発振器1の部分は次のように構成されている。すなわち、発振素子であるトランジスタTR1のコレクタが接地され、トランジスタTR1のベース−エミッタ間はコンデンサC1と接続されている。また、トランジスタTR1のエミッタには、他方が接地されたコンデンサC2及び他方が発振信号の出力側のポートP1となるコンデンサC3に接続されている。さらに、トランジスタTR1のベースには、他方が負荷抵抗R1に接続されるポートP2となるインダクタンスL1が接続されている。
【0019】
また、第2の発振器2の部分の構成は第1の発振器1と同じ構成であり、その構成素子も第1の発振器1のそれぞれの素子と同じである。すなわち、トランジスタTR2=TR1、コンデンサコンデンサC4=C1、コンデンサC5=C2、コンデンサC6=C3、インダクタンスL2=L1となる素子であり、また、ポートP3=P1、ポートP4=P2に相当するポートである。
【0020】
また、第1の発振器1と第2の発振器2は、ポートP2とポートP4が片側接地された負荷抵抗R1に接続され、ポートP1とポートP3は、基本周波数f1での90度ハイブリット回路HYB1へ、それぞれ、ポートP1が端子Q1に接続され、ポートP4が端子Q2に接続されている。さらに、90度ハイブリット回路HYB1の端子Q3と端子Q4は、90度ハイブリット回路HYB1の信号の出力ポートP5へ接続されている。
【0021】
ここで、90度ハイブリット回路HYB1は周波数特性が狭いものを選ぶものとする。具体的には、90度ハイブリット回路HYB1の分配信号Q1→Q3と分配信号Q1→Q4の位相差90度が成立するのが基本周波数f1の近傍のみであり、基本周波数f1のN倍の周波数(高周波)においては、位相差がN×90度というように位相差が90度よりかなり大きくなっているものとする。
【0022】
以上のような構成を採ることにより、90度ハイブリット回路HYB1の信号の出力ポートP5から第1の発振器1及び第2の発振器2で発振している基本周波数f1の4倍の周波数成分の信号のみを効率よく取り出すことが可能となる。その詳細な理由については以下の動作説明のところで説明する。
【0023】
次に、図1に示すマイクロ波発振器の動作について詳細に説明する。先ず、図1に示すマイクロ波発振器の中で基本となる発振器の動作状態について説明する。図2は、図1に示すマイクロ波発振器の基本発振回路となるコルピッツ型発振器の基本回路及び等価回路の構成図である。
【0024】
図2(a)は、コルピッツ型発振器における基本発振回路の構成図である。図2(a)に示すように、コルピッツ型発振器の基本回路は、発振素子であるトランジスタTR1のベース−エミッタ間にコンデンサC1が接続され、コレクタ−エミッタ間にコンデンサC2が接続され、さらに、コレクタ−ベース間にインダクタL1が接続された構成となっている。
【0025】
図2(a)の構成においてトランジスタTR1のコレクタを接地した場合の等価回路は図2(b)で表現される。このようなコレクタ接地型のコルピッツ型発振器の発振条件について説明するために、発振素子のトランジスタTR1を等価回路として、入力抵抗Riと電流源Icからなる回路とした場合のモデルを図2(c)に示す。
【0026】
さらに、図2(d)は、図2(c)の回路を解析のために理解を容易にするために表現した等価回路である。すなわち、図2(d)に示す等価回路は、発振状態でのトランジスタTR1の電流増幅率hFEが回路の電流帰還係数Ic/Ibと等しくなる条件にて発振を行う。
【0027】
図2(d)において、電流Ibと電流Icの分流比は計算により求められ、式(1)が導かれる。
Ib=−Ic/{(1−ω^2×L1×C2)+j(C1+C2−ω^2×C1×C2×L1)×ω×Ri}………(式1)
ここで、コンピュータ計算式に従って、ω^は、ωのベキ乗であり、また、ω^2は、ωである。
【0028】
この(式1)を変形すると、式(2)のようになる。
Ic/Ib=(ω^2×L1×C2−1)−j(C1+C2−ω^2×C1×C2×L1)×ω×Ri}………(式2)
【0029】
したがって、発振条件は、式(3)及び式(4)のようになる。
ω^2×L1×C2!!1=hFE………(式3)
C1+C2−ω^2×C1×C2×L1)×ω×Ri=0………(式4)
【0030】
したがって、上記の(式4)より発振周波数ωが求まり、そのωにおいて(式3)が成立する場合に発振が可能となる。
【0031】
これに対して、図1における第1の発振器1及び第2の発振器2は、ポートP2及びポートP4がそれぞれ接地状態にあると考えた場合は図2(b)と等価な発振回路となる。なお、コンデンサC3とポートP1、及びコンデンサC6とポートP3は、それぞれ、発振器の信号を取り出すための結合コンデンサ及び信号出力ポートであり、発振器の発振条件に対して影響を与えないような疎な結合の構成であるものとする。
【0032】
ここで、図1の第1の発振器1と第2の発振器2が相互に位相相関なく発振した場合は、ポートP2及びポートP4にはそれぞれ終端抵抗2×R1が接続されているように見えることとなる。
この場合において、負荷抵抗R1の値を適切な値とすることで、終端抵抗2×R1が接続された状態では、発振条件を満たさないようにすることが可能となる。
【0033】
なお、上記の(式1)において、L1→L1!!j(2×R1/ω)とした解析は可能であるが、計算が複雑になるためここでは詳細な説明は割愛する。
【0034】
一方、図1において、第1の発振器1及び第2の発振器2が同じ周波数でかつ逆位相で動作している場合は、ポートP2及びポートP4は仮想接地されていることとなり、その場合の発振周波数は負荷抵抗R1の値に関わらず(式3)及び(式4)にて求められる周波数となる。
【0035】
以上のような理由により、図1の構成をとったマイクロ波発振器の回路においては、第1の発振器1と第2の発振器2とが同一周波数かつ逆位相で動作していることになる。なお、このときの発振周波数を基本周波数f1とする。
【0036】
このとき、一般的に発振器の出力波形は歪を含んだパルス波形に近い形をしていることから、その出力信号のスペクトラムは基本発振周波数f1の高次の成分を多く含んでいることを考慮すると、ポートP1とポートP3における出力信号の位相差について、基本発振周波数f1の成分が逆位相(位相差180°)である場合には、2次の高調波f2に関しては同位相(位相差180°×2=360°)、以下同様に3次の高調波f3は逆相、4次の高調波f4は同位相の関係にあると考えることができる。
【0037】
したがって、図1で示すマイクロ波発振器の回路において、ポートP1及びポートP3の出力信号が上述したような周波数・位相関係にあり、かつ、それぞれのポートP1、P3が、90度ハイブリット回路HYB1の分配信号Q1→Q3と分配信号Q2→Q4の位相差90度が成立するのが基本周波数f1の近傍のみであるような90度ハイブリット回路HYB1に接続されている場合は、90度ハイブリット回路HYB1の出力端子Q3、Q4及びそれを合成したポートP5での出力信号の周波数成分ごとの位相間関係を計算すると、図3で示した図表のようになる。なお、図3は、図1のマイクロ波発振器の回路構成における、各ポートでの発振信号の周波数成分ごとの振幅・位相の関係を示す図表である。
【0038】
図3の図表を考察すると、90度ハイブリット回路HYB1において周波数n×f1における各端子Q1、Q2、Q3、Q4の分配特性は、分配信号Q1→Q3と分配信号Q2→Q4は、それぞれ、振幅1/2で、位相+βであるが、分配信号Q1→Q4と分配信号Q2→Q3は、それぞれ、振幅1/2で、位相+β+n×90°となる。
【0039】
そこで、基本周波数f1は、P1→Q1の信号が振幅A、位相αのとき、90度ハイブリット回路HYB1の動作によって、分配信号Q1→Q3は振幅A/2、位相α+β、分配信号Q1→Q4は振幅A/2、位相α+β+90°となる。また、P3→Q2の信号が振幅A、位相α+180°のとき、90度ハイブリット回路HYB1の動作によって、分配信号Q2→Q3は振幅A/2、位相α+β+270°、分配信号Q2→Q4は振幅A/2、位相α+β+180°となる。
【0040】
したがって、90度ハイブリット回路HYB1の端子Q3の信号は振幅A/√2、位相α+β−45°、端子Q4の信号は振幅A/√2、位相α+β+135°となるので、端子Q3の信号と端子Q4の信号が合成されたポートP5の信号は振幅が0となる。
【0041】
また、基本周波数f1の2倍の周波数(2×f1)の成分は、P1→Q1の信号が振幅A、位相αのとき、90度ハイブリット回路HYB1の動作によって、分配信号Q1→Q3は振幅A/2、位相α+β、分配信号Q1→Q4は振幅A/2、位相α+β+180°となる。一方、P3→Q2の信号が振幅A、位相αのとき、90度ハイブリット回路HYB1の動作によって、分配信号Q2→Q3は振幅A/2、位相α+β+180°、分配信号Q2→Q4は振幅A/2、位相α+βとなる。
【0042】
したがって、90度ハイブリット回路HYB1の端子Q3の信号は振幅0、端子Q4の信号は振幅0となるので、端子Q3の信号と端子Q4の信号が合成されたポートP5の信号は振幅が0となる。
【0043】
また、基本周波数f1の3倍の周波数(3×f1)の成分は、P1→Q1の信号が振幅A、位相αのとき、90度ハイブリット回路HYB1の動作によって、分配信号Q1→Q3は振幅A/2、位相α+β、分配信号Q1→Q4は振幅A/2、位相α+β+270°となる。一方、P3→Q2の信号が振幅A、位相α+180°のとき、90度ハイブリット回路HYB1の動作によって、分配信号Q2→Q3は振幅A/2、位相α+β+90°、分配信号Q2→Q4は振幅A/2、位相α+β+180°となる。
【0044】
したがって、90度ハイブリット回路HYB1の端子Q3の信号は振幅A/√2、位相α+β+45°、端子Q4の信号は振幅A/√2、位相α+β+225°となるので、端子Q3の信号と端子Q4の信号が合成されたポートP5の信号は振幅が0となる。
【0045】
さらに、基本周波数f1の4倍の周波数(4×f1)の成分は、P1→Q1の信号が振幅A、位相αのとき、90度ハイブリット回路HYB1の動作によって、分配信号Q1→Q3は振幅A/2、位相α+β、分配信号Q1→Q4は振幅A/2、位相α+βとなる。一方、P3→Q2の信号が振幅A、位相αのとき、90度ハイブリット回路HYB1の動作によって、分配信号Q2→Q3は振幅A/2、位相α+β、分配信号Q2→Q4は振幅A/2、位相α+βとなる。
【0046】
したがって、90度ハイブリット回路HYB1の端子Q3の信号は振幅A、位相α+β、端子Q4の信号は振幅A、位相α+βとなるので、端子Q3の信号と端子Q4の信号が合成されたポートP5の信号は振幅が2×A、位相がα+βとなる。
【0047】
このような図3の図表の計算結果により、出力ポートP5においては基本周波数成分f1とその高調波成分2×f2及び3×f3は、逆位相の関係で合成されることにより、信号成分がキャンセルされて出力としては現われず、基本波周波数f1の4倍の周波数の高調波4×f1の成分のみが効率よく取り出されていることが分かる。
【実施形態2】
【0048】
図1に示した第1の実施形態に係るマイクロ波発振器の回路構成は、発振周波数条件の計算等の説明を簡単にするために、RF(Radio Frequency)的に影響する素子のみが記述されており、バイアス回路等の部分の素子は省略されている。そこで、第2の実施形態では、実用上の回路に合わせてバイアス回路等を含め、さらに周波数可変が可能となるように共振回路の部分に、可変容量ダイオードであるバラクタダイオードを付け加えた回路構成について説明する。
【0049】
図4は、この発明の第2の実施形態に係るバイアス回路を含んだマイクロ波発振器の回路構成図である。このマイクロ波発振器は、第1の発振器1a、第2の発振器2a、及び90度ハイブリット回路HYB1を備えて構成され、負荷抵抗R1に接続されている。なお、第1の発振器1aと第2の発振器2aは同じ構成である。
【0050】
ここで、コンデンサC11とインダクタンスL11及びコンデンサC21とインダクタンスL21はトランジスタTR1、TR2のコレクタへのバイアス供給回路であり、コンデンサC12及びコンデンサC22はRF電圧(高周波電圧)をショートし、DC電圧をブロックする役割を果たすコンデンサである。
【0051】
また、抵抗R11及び抵抗R21はトランジスタTR1、TR2のベースへのバイアス供給抵抗であり、インダクタンスL12及びインダクタンスL22はDC電圧がショートで、RF電圧がオープンとなるインダクタンスであり、コンデンサC31はRF電圧をショートするコンデンサである。また、X1及びX2はバラクタダイオード(可変容量ダイオード)となっている。
【0052】
また、図1におけるL1に相当するインダクタンスは、図4におけるコンデンサC13とインダクタL1’とバラクタダイオードX1とによる合成インダクタンスとなる。さらに、図1におけるL2に相当するインダクタンスは、図4におけるコンデンサC23とインダクタL2’とバラクタダイオードX2とによる合成インダクタンスとなる。
【0053】
さらに、マイクロ波領域でこの実施形態のマイクロ波発振回路を実現させる場合は、浮遊容量の影響や自己共振周波数の影響により実現の難しい集中定数部分を分布定数回路に置き換える必要がある。図5は、図4に示す第2の実施形態のマイクロ波発振器を分布定数回路に置き換えた回路構成図である。
【0054】
図5において、スタブS1及びスタブS4は、それぞれ、図4のコンデンサC12及びコンデンサC22に相当し、スタブS2及びスタブS5は、それぞれ、図4のインダクタンスL1’及びインダクタンスL2’に相当する。また、スタブS3及びスタブS6は、それぞれ、図4のコンデンサC2及びコンデンサC5に相当し、カップラK1及びカップラK2は図4のコンデンサC3及びコンデンサC6に相当する。
【0055】
さらに、トランジスタTR1及びトランジスタTR2の素子自体に内在するベース−エミッタ間の浮遊容量は図4のコンデンサC1及びコンデンサC2に相当する。図5に示すように、コルピッツ型発振器は、回路素子を分布定数に置き換えて回路を構成することができる。
【0056】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
この発明のマイクロ波発振器は、マイクロ波通信やミリ波通信における局所信号のような、高周波数かつ低位相雑音特性が必要とされる信号を発生させることができるので、コストと性能の両面で優位性をもって無線機器や高周波通信機器等に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明の第1の実施形態に係るマイクロ波発振器の回路構成図である。
【図2】図1に示すマイクロ波発振器の基本発振回路となるコルピッツ型発振器の基本回路及び等価回路の構成図である。
【図3】図1のマイクロ波発振器の回路構成における、各ポートでの発振信号の周波数成分ごとの振幅・位相の関係を示す図表である。
【図4】この発明の第2の実施形態に係るバイアス回路を含んだマイクロ波発振器の回路構成図である。
【図5】図4に示す第2の実施形態のマイクロ波発振器を分布定数回路に置き換えた回路構成図である。
【符号の説明】
【0059】
1、1a 第1の発振器
2、2a 第2の発振器
HYB1 90度ハイブリッド回路
TR1、TR2 トランジスタ
C1、C2、C3、C4、C5、C6 コンデンサ
C11、C12、C13 コンデンサ
C21、C22、C23、C31 コンデンサ
L1、L2、L1’,L2’ インダクタンス
L11、L12、L21、L22 インダクタンス
R1、R11、R12 抵抗
X1、X2 バラクタダイオード
P1、P2、P3、P4 ポート
Q1、Q2、Q3、Q4 端子
S1、S2、S3、S4、S5、S6 スタブ
K1、K2 カップラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本周波数の発振信号を用いて該基本周波数より高い周波数の高周波信号を生成するマイクロ波発振器であって、
2系統の前記基本周波数の発振信号を90度ハイブリット回路によって同位相で合成し、該基本周波数の4倍周波数の高周波信号を生成する
ことを特徴とするマイクロ波発振器。
【請求項2】
基本周波数の発振信号を用いて該基本周波数より高い周波数の高周波信号を生成するマイクロ波発振器であって、
前記基本周波数の第1の発振信号を出力する第1の発振器と、
前記第1の発振信号に対して逆位相となる前記基本周波数の第2の発振信号を出力する第2の発振器と、
前記第1の発振器から出力された第1の発振信号と前記第2の発振器から出力された第2の発振信号とを同位相で合成し、前記基本周波数の4倍周波数の高周波信号を出力する90度ハイブリット回路と
を備えてなることを特徴とするマイクロ波発振器。
【請求項3】
前記90度ハイブリット回路は、前記基本周波数の近傍のみにおいて、前記第1の発振信号の2系統の分配信号の位相差、及び前記第2の発振信号の2系統の分配信号の位相差が、それぞれ90度となる狭帯域の周波数特性を有していることを特徴とする請求項2記載のマイクロ波発振器。
【請求項4】
前記90度ハイブリット回路は、前記第1の発振信号と前記第2発振信号とを同位相で合成することで、前記基本周波数の信号の振幅、該基本周波数の2倍周波数の信号の振幅、及び該基本周波数の3倍周波数の信号の振幅が、それぞれゼロに設定されることを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロ波発振器。
【請求項5】
前記第1の発振器及び前記第2の発振器は、それぞれコルピッツ型発振器からなることを特徴とする請求項2、3又は4記載のマイクロ波発振器。
【請求項6】
前記コルピッツ型発振器は、バイアス回路と共振周波数を可変させるための可変容量ダイオードとからなることを特徴とする請求項5記載のマイクロ波発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−246567(P2009−246567A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88843(P2008−88843)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】