説明

マイクロ流体送液装置

【課題】マイクロ流路を形成するのに可撓性材料を必要とせず、比較的長い距離に渡りマイクロ流体を確実に搬送することが可能であり、製造工程の簡略化を可能とするマイクロ流体送液装置を提供する。
【解決手段】マイクロ流体送液装置1は、基板10と、複数の電気浸透流ポンプPとを備えている。基板10には、マイクロ流体が搬送されるマイクロ流路11が形成されている。複数の電気浸透流ポンプPは、マイクロ流路11の流路方向Dにおいて、マイクロ流路11の相互に異なる部位にそれぞれ接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分析や生化学分析等において微小サイズのマイクロ流体を搬送するためのマイクロ流体送液装置に関し、より詳細には、基板内に設けられたマイクロ流路においてマイクロ流体を搬送するためのマイクロ流体送液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土壌中の金属イオンの分析や、血液中の各種成分を分析するためのデバイスとして、マイクロ流体装置が提案されている。マイクロ流体装置は、携帯し得る程度の大きさの基板を有する。この基板内に、流路幅が10μm〜1000μm程度のマイクロ流路が形成されており、該マイクロ流路内を、1nL〜1μLの容量のマイクロ流体が搬送される。このようなマイクロ流体装置では、微量の検体から各種含有成分等を分析することができる。また、該マイクロ流体装置とは手で携帯し得る大きさである。従って、臨床検査などの現場において簡便にかつ敏速に分析作業を完了することができる。
【0003】
マイクロ流体装置において、希釈や分析等の様々な作業を行うには、ある程度の長さのマイクロ流路が必要である。そのため、従来、長いマイクロ流路内においてマイクロ流体を搬送するための送液装置が種々提案されている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、積層基板内にマイクロ流路が形成されており、該マイクロ流路の流路壁の一部が弾性膜からなる送液用構造が開示されている。ここでは、弾性膜の外側に、マイクロ流路の流路方向に沿って複数の磁気コイル素子が分散配置されている。前記弾性膜と複数の磁気コイル素子との間に、磁性流体が配置されている。ここでは、複数の磁気コイル素子を上流側の磁気コイル素子側から順に駆動することにより、磁性流体が上流側から下流側に移動される。その結果、磁性流体に接触されている弾性膜が蠕動運動を引き起こす。それによって、マイクロ流路内のマイクロ流体が下流側に搬送される。
【0005】
他方、下記の特許文献2に記載の送液装置においても、特許文献1に記載の構造と同様に、可撓性を有する流路壁を有するマイクロ流路が基板内に形成されている。ここでは、マイクロ流路を挟んで対向するように設けられた複数対の圧電アクチュエータが用いられている。複数対の圧電アクチュエータは、マイクロ流路の上流側から下流側に向って順に配置されている。マイクロ流路の両側に配置されている一対の圧電アクチュエータを駆動することにより、マイクロ流路の流路壁を流路中心側に突出するように変形させ、それによって、マイクロ流路の流路幅が部分的に狭くされている。従って、上流側から下流側に向って各対の圧電アクチュエータを駆動することにより、マイクロ流路内のマイクロ流体を下流側に搬送することができる。
【特許文献1】特開平9−287571号公報
【特許文献2】特開2004−316445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載のマイクロ流体送液装置では、いずれも、マイクロ流路の流路壁の少なくとも一部が可撓性とされている。すなわち、上記磁気コイル素子からなる流路壁変形手段、あるいは上記圧電アクチュエータからなる流路壁変形手段を用いることにより、上流側から下流側に向って流路壁を順に変形させることにより、マイクロ流体が搬送されている。
【0007】
従って、マイクロ流路の流路壁の少なくとも一部を、弾性膜のような可撓性材料で形成しなければならなかった。よって、基板を構成する材料と異なる材料を用いて流路壁の少なくとも一部を形成しなければならなかった。そのため、マイクロ流体送液装置を構成する材料の種類も多くなり、製造工程が煩雑であった。
【0008】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、マイクロ流路を形成するのに可撓性材料を必要とせず、比較的長い距離に渡りマイクロ流体を確実に搬送することが可能であり、製造工程の簡略化を可能とするマイクロ流体送液装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るマイクロ流体送液装置は、基板と、複数の電気浸透流ポンプとを備えている。基板には、マイクロ流体が搬送されるマイクロ流路が形成されている。複数の電気浸透流ポンプは、マイクロ流路の流路方向において、マイクロ流路の相互に異なる部位にそれぞれ接続されている。
【0010】
本発明のある特定の局面では、基板には、複数の電気浸透流ポンプのそれぞれとマイクロ流路とを接続しており、マイクロ流路側の端部がマイクロ流路よりも細い接続流路がさらに形成されている。この構成によれば、マイクロ流体が接続流路側へと流入することを効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明の他の特定の局面では、接続流路のマイクロ流路側の端部の横断面形状が、対向し合う一対の辺の長さがa、対向し合う残りの一対の辺の長さがbである矩形であり、マイクロ流路を搬送されるマイクロ流体のマイクロ流路の流路壁に対する接触角をθ(度)、表面張力をγ(N/m)、マイクロ流体の搬送圧力をP(Pa)としたときに、
(2γ・cosθ)×(a+b)/(a×b)≧P ………式(1)
を満たすように、(a+b)/(a×b)が設定されている。この構成によれば、マイクロ流体が接続流路側へと流入することをさらに効果的に抑制することができる。
【0012】
本発明の別の特定の局面では、複数の電気浸透流ポンプを駆動する駆動部をさらに備えており、駆動部は、マイクロ流路の上流側に接続されている電気浸透流ポンプから順番に駆動する。
【0013】
本発明のさらに他の特定の局面では、駆動部は、マイクロ流路の電気浸透流ポンプが接続されている部分よりも下流側にまでマイクロ流体が搬送された後に該電気浸透流ポンプを駆動する。
【0014】
本発明のさらに別の特定の局面では、接続流路には、接続流路のマイクロ流路側の端部よりも流路面積が広い空気溜まりが形成されている。この構成によれば、マイクロ流路には、空気溜まりに溜められた空気が流入する。よって、電気浸透流ポンプにより押出される液体がマイクロ流路に流入することが抑制される。従って、搬送されるマイクロ流体と電気浸透流ポンプにより押出される液体とが混じることが抑制される。
【0015】
本発明のまたさらに他の特定の局面では、電気浸透流ポンプは、液体が溜められている液溜め及び液溜めと外部とを連通させる連通流路とが形成されているポンプ本体と、連通流路内に配置された電気浸透材と、連通流路の流路方向において電気浸透材を狭持する一対の電極とを有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るマイクロ流体送液装置では、基板内にマイクロ流路が形成されており、複数の電気浸透流ポンプが、マイクロ流路の流路方向において、マイクロ流路の相互に異なる部位にそれぞれ接続されているため、上流側の電気浸透流ポンプから下流側の電気浸透流ポンプを順に駆動するだけで、マイクロ流路の上流側部分から順に、搬送されるマイクロ流体の後方にマイクロ流体を送液するためのガスや液体などの流体を供給することができる。従って、上流側の電気浸透流ポンプから下流側の電気浸透流ポンプを順に駆動することにより、マイクロ流体を長い距離に渡り搬送することができる。
【0017】
本発明に係るマイクロ流体送液装置は、電気浸透流ポンプを用いるものであるため、マイクロ流路の流路壁を可撓性材料で形成する必要がない。従って、基板内にマイクロ流路を容易に形成することができ、製造コスト及び製造工程の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0019】
本実施形態では、例えば、後述するようなマイクロ流体デバイスに組み込まれ、マイクロ流体を送液する部分として使用されるマイクロ流体送液装置を例に挙げて本発明の実施形態の一例について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るマイクロ流体送液装置の模式的構成図である。図2は、マイクロ流路の流路方向に沿った基板の断面図である。図1に示すように、本実施形態のマイクロ流体送液装置1は、基板10と、複数の電気浸透流ポンプP〜Pと、制御部9とを備えている。なお、電気浸透流ポンプP〜Pの数量nは特に限定されないが、通常、3以上であり、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。
【0021】
基板10の構成は特に限定されず、内部に形成する流路の形状などに応じて適宜設定できる。図2に示すように、本実施形態では、基板10は、適宜の合成樹脂、セラミックスまたは金属などにより形成された第1〜第5のプレート10a〜10eの積層体により構成されている。
【0022】
基板10の内部には、マイクロ流体が搬送されるマイクロ流路11が形成されている。具体的には、マイクロ流路11は、第4のプレート10dに形成された貫通孔によって構成されている。なお、本実施形態では、マイクロ流路11が直線状に形成されている例について説明する。但し、本発明においてマイクロ流路11の形状は特に限定されず、マイクロ流路11は、例えば、蛇行状、ミアンダ状またはスパイラル状などの形状に形成されていてもよい。
【0023】
マイクロ流路11は、マイクロ流路11内を流れるマイクロ流体にマイクロ効果が発現する形状寸法に形成された流路である。本実施形態では、マイクロ流路11の横断面形状は矩形とされており、マイクロ流路11の幅寸法は50μm〜1000μm程度、マイクロ流路11の深さ寸法は50μm〜1000μm程度とされている。なお、マイクロ流路11の横断面形状は矩形に限定されず、例えば、円形、楕円形または長円形などであってもよい。
【0024】
図2に示すように、基板10には、供給流路12が形成されている。供給流路12は、マイクロ流路11の上流側端部に接続されている。マイクロ流路11を搬送されるマイクロ流体は、図示しないポンプやスポイトなどのマイクロ流体供給手段により、この供給流路12からマイクロ流路11の上流側端部に供給される。なお、この供給流路12も後述する接続流路14と同様に、マイクロ流路11よりも細く形成されている。
【0025】
図1に示すように、マイクロ流路11には、複数の電気浸透流ポンプP〜Pが接続されている。複数の電気浸透流ポンプP〜Pは、マイクロ流路11の流路方向Dにおけるマイクロ流路11の相互に異なる部位にそれぞれ接続されている。なお、以下の説明において、「電気浸透流ポンプP〜P」を「電気浸透流ポンプP」と総称することがある。
【0026】
本発明において、電気浸透流ポンプとは、界面動電現象を利用したポンプ一般を意味する。図3に本実施形態における電気浸透流ポンプPの略図的断面図を示す。図3に示すように、電気浸透流ポンプPは、ポンプ本体25を備えている。ポンプ本体25には、電気浸透流ポンプPによって押出される液体が溜められている液溜め24と、液溜め24と外部とを連通させる連通流路20とが形成されている。
【0027】
連通流路20には、電気浸透材22が配置されている。電気浸透材22は、多数の微細孔を有する部材である。電気浸透材22は、例えば、多孔質体や連通流路20の流路方向に沿って設けられた複数のファイバーの束などにより構成される。電気浸透材22の材質は特に限定されないが、電気浸透材22は、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、TiO等の酸化物や、高分子材料により形成することができる。
【0028】
連通流路20の流路方向における電気浸透材22の両側には、第1及び第2の電極21,23が設けられている。電気浸透材22は、これら第1及び第2の電極21,23によって挟持されている。第1及び第2の電極21,23には、複数の開孔が形成されている。このため、液溜め24内に溜められた液体は、電気浸透材22並びに第1及び第2の電極21,23を透過可能である。
【0029】
電気浸透流ポンプPでは、第1及び第2の電極21,23間に電圧が印加されると、電気浸透材22の内部に形成された多数の微細孔において界面動電現象が発生する。その結果、液溜め24内の液体が電気浸透材22並びに第1及び第2の電極21,23を経由して電気浸透流ポンプP外へと押し出される。
【0030】
なお、電気浸透流ポンプPによって押し出される液体は、界面動電現象が発生する種類の液体である限りにおいて特に限定されない。電気浸透流ポンプPによって押し出される液体は、例えば、水、プロパノールなどのプロトン性溶媒などであってもよい。
【0031】
図1に示すように、本実施形態では、複数の電気浸透流ポンプP〜Pは、基板10に形成された複数の接続流路14によりマイクロ流路11に接続されている。図2に示すように、マイクロ流路11は、第1〜第3のプレート10a〜10cに形成された厚み方向に延びる貫通孔により形成されている。
【0032】
図1及び図2に示すように、各接続流路14には、空気溜まり16が形成されている。空気溜まり16は、接続流路14のマイクロ流路11側の端部よりも広い流路面積を有する。電気浸透流ポンプPによりマイクロ流体送液用の液体が接続流路14に押し出され、空気溜まり16に流入すると、空気溜まり16内にあった空気が空気溜まり16から押し出され、マイクロ流路11内に流入する。これにより、空気がマイクロ流路11内に供給される。
【0033】
接続流路14のマイクロ流路11側の端部は、マイクロ流路11よりも細く形成されている。これにより、マイクロ流路11内において輸送されるマイクロ流体が接続流路14側に流入することが効果的に抑制されている。
【0034】
具体的には、本実施形態では、接続流路14は、長さがaの一対の辺と、長さがbの残りの一対の辺を有する矩形状に形成されている。そして、接続流路14は、以下の式(1)を満たすように形成されている。すなわち、以下の式(1)を満たすように(a+b)/(a×b)が設定されている。
【0035】
(2γ・cosθ)×(a+b)/(a×b)≧P ………式(1)
但し、
θ(度):マイクロ流路11を搬送されるマイクロ流体の接続流路14の流路壁に対する接触角、
γ(N/m):表面張力、
P(Pa):マイクロ流体の搬送圧力
である。
【0036】
これにより、マイクロ流体が接続流路14側に流入することがより効果的に抑制されている。これは、以下の理由による。
【0037】
マイクロ流体が接続流路に流入するか否かは、マイクロ流路におけるマイクロ流体の搬送圧力(P)と、接続流路における毛細管力によるラプラス圧(ΔP)との関係により決定される。具体的には、接続流路における毛細管力によるラプラス圧(ΔP)が、マイクロ流路におけるマイクロ流体の搬送圧力(P)以上である場合にはマイクロ流体が接続流路に流入しない。一方、接続流路における毛細管力によるラプラス圧(ΔP)が、マイクロ流路におけるマイクロ流体の搬送圧力(P)未満である場合には、マイクロ流体が接続流路に流入する。
【0038】
ここで、接続流路における毛細管力によるラプラス圧力ΔPは、下記の式(2)で表される。
ΔP=(2・γ・cosθ)/r ………式(2)
ここで、
γ:マイクロ流体の表面張力(N/m)、
θ:マイクロ流体と流路壁との接触角(deg)、
r:接続流路の等価半径、
である。
【0039】
接続流路の等価半径は接続流路の等価直径の2分の1の値である。接続流路の等価直径は、任意の断面形状の接続流路に対して想定される等価な等価円管の直径に相当する。接続流路の等価直径(deq)は、接続流路の横断面積をK、接続流路の横断面の周長をLとしたときに、以下の式(3)により定義される。
deq=4K/L ………式(3)
【0040】
例えば、接続流路の横断面形状が長さがaの一対の辺と、長さがbの残りの一対の辺を有する矩形である場合は、接続流路の横断面積(K)と、接続流路の横断面の周長(L)とは以下の式(4)及び式(5)により表される。
K=a×b ………式(4)
L=2a+2b ………式(5)
【0041】
これら式(3)〜(5)を上記式(2)に代入することにより下記式(6)が導出される。この式(6)を、マイクロ流体が接続流路に流入しない条件ΔP≧Pに代入することにより、上記の式(1)が導出される。
ΔP=(2γ・cosθ)×(a+b)/(a×b) ………式(6)
【0042】
例えば、マイクロ流体が水であり、流路壁がアクリル樹脂からなる場合、水の表面張力は20℃で72.8mN/mであり、アクリル樹脂板に対する接触角は63度である。従って、マイクロ流体の搬送圧力1kPaとした場合、a=40μmとすると、b≦66μmの条件を満たすときに接続流路にマイクロ流体が流入しない。ここで、マイクロ流体の搬送圧力が1kPaとなるのは、マイクロ流路におけるマイクロ流体の流速が数μL程度であるときであるから、マイクロ流路におけるマイクロ流体の流速が数μL程度である場合は、a=40μmとすると、b≦66μmの条件を満たすように接続流路を形成することが好ましい。
【0043】
図1に示すように、複数の電気浸透流ポンプP〜Pのそれぞれは、電気浸透流ポンプ制御ユニットなどにより構成される制御部9に接続されている。複数の電気浸透流ポンプP〜Pは、この制御部9により駆動される。本実施形態における制御部9は、具体的には、電気浸透流ポンプP〜Pのうち、マイクロ流路11の上流側に接続されている電気浸透流ポンプから順番に駆動する。より具体的には、マイクロ流路11の電気浸透流ポンプPが接続されている部分よりも下流側にまでマイクロ流路が搬送された後にその電気浸透流ポンプPを駆動する。
【0044】
次に、本実施形態のマイクロ流体送液装置1の動作を図4〜図6を参照して詳細に説明する。なお、図4〜図6では、説明の便宜上、制御部9の描画を省略している。
【0045】
まず、図4に示すように、供給流路12からマイクロ流路11の上流側部分にマイクロ流体15が供給される。供給流路12から供給されたマイクロ流体15は、マイクロ流路11の上流側端部に位置する。この状態において、図1に示す制御部9によって第1の電気浸透流ポンプPが駆動される。これにより、図5に示すように、第1の電気浸透流ポンプPから液体が空気溜まり16aに押し出される。その結果、空気溜まり16a中の空気がマイクロ流路11に供給され、マイクロ流体15が下流側へと移動する。
【0046】
第2の電気浸透流ポンプPが接続されている接続流路14bよりも下流側にマイクロ流体15が移動すると、次に第2の電気浸透流ポンプPが駆動される。これにより、図6に示すように、第2の電気浸透流ポンプPから液体が空気溜まり16bに押し出される。その結果、空気溜まり16b中の空気がマイクロ流路11のマイクロ流体15よりも上流側部分に供給され、マイクロ流体15が下流側にさらに移動する。
【0047】
このように、マイクロ流体15がマイクロ流路11の接続流路14が接続されている部分を通過した後に、その接続流路14に接続されている電気浸透流ポンプPが駆動され、マイクロ流路11のマイクロ流体15よりも上流側部分にガスが供給される。それによって、マイクロ流体15がマイクロ流路11の下流側に順次搬送される。
【0048】
以上説明したように、本実施形態では、上流側の電気浸透流ポンプPから下流側の電気浸透流ポンプPを順に駆動するだけで、マイクロ流路11の上流側部分から順に、搬送されるマイクロ流体15の後方にマイクロ流体15を送液するためのガスを供給することができる。従って、マイクロ流体15を長い距離に渡り搬送することができる。
【0049】
実際に、本願発明者の実験によれば、本実施形態のマイクロ流体送液装置1を用いれば、長さが1m〜5m程度の非常に長いマイクロ流路11において、10個〜50個のマイクロポンプを上流側から下流側に接続することにより、マイクロ流体を確実に搬送し得ることが確かめられた。
【0050】
また、本実施形態のように、複数の電気浸透流ポンプP〜Pを用いたマイクロ流体送液装置1では、マイクロ流路11の流路壁を可撓性材料により構成する必要がない。従って、基板10を可撓性材料以外の材料により構成することもできる。また、製造工程の低減を果たすことができる。
【0051】
なお、上流側から下流側に複数の電気浸透流ポンプP〜Pを順に駆動する具体的な方法としては、例えば、マイクロ流路11の形状寸法、マイクロ流体15の特性などに基づいて予め定められたシークエンスに従って駆動する方法が挙げられる。また、別の方法として、カメラなどの検出手段によりマイクロ流体15の位置を検出し、検出されたマイクロ流体15の位置に基づいて駆動する方法などが挙げられる。
【0052】
上記実施形態のマイクロ流体送液装置は、様々なマイクロ流体デバイスに用いることがでる。マイクロ流体送液装置を用いたマイクロ流体デバイスの一例を図7に示す。図7に示すマイクロ流体デバイス32は、一体の濃縮ユニット33に接続されている。濃縮ユニット33では、検体を含むマイクロ流体の濃縮が行われる。なお、濃縮ユニット33も、マイクロ流体デバイス32内に一体に形成されていてもよい。
【0053】
濃縮ユニット33は、マイクロ流体デバイス32の接続ポート34に接続されている。濃縮ユニット33において濃縮された検体は、接続ポート34からマイクロ流体デバイス32に供給される。
【0054】
接続ポート34には、希釈ユニット35が接続されている。この希釈ユニット35では、検体を含むマイクロ流体の希釈が行われる。希釈ユニット35において希釈されたマイクロ流体は、マイクロ流路11Aに供給される。マイクロ流路11Aは蛇行しており、単位面積当たり大きな長さを有するように形成されている。
【0055】
このマイクロ流路11Aには、上記実施形態と同様に、複数の電気浸透流ポンプPが接続流路を介して接続されている。具体的には、6つの電気浸透流ポンプP〜Pがマイクロ流路11Aに接続されている。これにより、長いマイクロ流路11A内を、希釈されたマイクロ流体を搬送させることができる。
【0056】
なお、ここでは、長いマイクロ流路11において、複数のヒータ36,37が配置されており、イムノPCRが行われる増幅ユニットが形成されている。
【0057】
このように、上記実施形態のマイクロ流体送液装置は、希釈ユニットや増幅ユニットなどが形成されているような適宜のマイクロ流体デバイスに形成された長いマイクロ流路において、マイクロ流体を搬送するのに好適に用いることができる。
【0058】
(変形例)
上記実施形態では、接続流路14に空気溜まり16を形成する例について説明したが、空気溜まり16に替えて油溜まりを接続流路に形成してもよい。また、接続流路に空気溜まりや油溜まりを接続流路に形成せず、接続流路内に油滴を配置してもよい。
【0059】
上記実施形態では、基板とは別に電気浸透流ポンプを設ける例について説明した。但し、電気浸透流ポンプは、基板内に一体に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】マイクロ流体送液装置の模式的構成図である。
【図2】マイクロ流路の流路方向に沿った基板の断面図である。
【図3】電気浸透流ポンプの略図的断面図である。
【図4】マイクロ流体の送液態様を説明するためのマイクロ流体送液装置の略図的構成図である。
【図5】マイクロ流体の送液態様を説明するためのマイクロ流体送液装置の略図的構成図である。
【図6】マイクロ流体の送液態様を説明するためのマイクロ流体送液装置の略図的構成図である。
【図7】マイクロ流体送液装置が組み込まれたマイクロ流体デバイスの模式的平面図である。
【符号の説明】
【0061】
1…マイクロ流体送液装置
9…制御部
10…基板
10a〜10e…プレート
11…マイクロ流路
12…供給流路
14…接続流路
15…マイクロ流体
16…空気溜まり
20…連通流路
21…第1の電極
22…電気浸透材
23…第2の電極
25…ポンプ本体
32…マイクロ流体デバイス
33…濃縮ユニット
34…接続ポート
35…希釈ユニット
36,37…ヒータ
P…電気浸透流ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体が搬送されるマイクロ流路が形成されている基板と、
前記マイクロ流路の流路方向において、前記マイクロ流路の相互に異なる部位にそれぞれ接続されている複数の電気浸透流ポンプとを備える、マイクロ流体送液装置。
【請求項2】
前記基板には、前記複数の電気浸透流ポンプのそれぞれと前記マイクロ流路とを接続しており、前記マイクロ流路側の端部が前記マイクロ流路よりも細い接続流路がさらに形成されている、請求項1に記載のマイクロ流体送液装置。
【請求項3】
前記接続流路の前記マイクロ流路側の端部の横断面形状が、対向し合う一対の辺の長さがa、対向し合う残りの一対の辺の長さがbである矩形であり、前記マイクロ流路を搬送されるマイクロ流体のマイクロ流路の流路壁に対する接触角をθ(度)、表面張力をγ(N/m)、前記マイクロ流体の搬送圧力をP(Pa)としたときに、
(2γ・cosθ)×(a+b)/(a×b)≧P ………式(1)
を満たすように、(a+b)/(a×b)が設定されている、請求項2に記載のマイクロ流体送液装置。
【請求項4】
前記複数の電気浸透流ポンプを駆動する駆動部をさらに備えており、前記駆動部は、前記マイクロ流路の前記上流側に接続されている電気浸透流ポンプから順番に駆動する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロ流体送液装置。
【請求項5】
前記駆動部は、前記マイクロ流路の前記電気浸透流ポンプが接続されている部分よりも下流側にまで前記マイクロ流体が搬送された後に該電気浸透流ポンプを駆動する、請求項4に記載のマイクロ流体送液装置。
【請求項6】
前記接続流路には、前記接続流路の前記マイクロ流路側の端部よりも流路面積が広い空気溜まりが形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のマイクロ流体送液装置。
【請求項7】
前記電気浸透流ポンプは、液体が溜められている液溜め及び前記液溜めと外部とを連通させる連通流路とが形成されているポンプ本体と、前記連通流路内に配置された電気浸透材と、前記連通流路の流路方向において前記電気浸透材を狭持する一対の電極とを有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のマイクロ流体送液装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−66096(P2010−66096A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231969(P2008−231969)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】