説明

マイクロ流路チップ

【課題】 鋳型などの原型を使用することなく製造されたマイクロチャネルを有するマイクロ流路チップを提供する。
【解決手段】 少なくとも第1の基板と第2の基板とからなり、該第1の基板と第2の基板とが接着されているマイクロ流路チップにおいて、少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の、媒体により除去可能な材料層が形成されており、該媒体により除去可能な材料層の少なくとも一方の端部は大気に向かって開口するポートに接続されているマイクロ流路チップ。材料層を媒体で除去すると、材料層が存在していた箇所に非接着状態の微小隙間が生じる。この微小隙間を膨隆させることによりマイクロチャネルとして機能可能な空隙を発現させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ流路チップ及びその製造方法に関する。更に詳細には、本発明は液体又は気体などの媒体の流路となるべきマイクロチャネルを鋳型などの原型を使用することなく形成することができるマイクロ流路チップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、マイクロ・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内に所定の形状の流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は総称して「マイクロ流路チップ」又は「マイクロ流体デバイス」などと呼ばれる。
【0003】
マイクロ流路チップは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロ流路チップは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。
【0004】
従来のマイクロ流路チップ100は、例えば、図8A及び図8Bに示されるように、合成樹脂などの材料からなる上面基板102に少なくとも1本の、中空状のマイクロチャネル104が形成されており、この中空状マイクロチャネル104の少なくとも一端には入出力ポートとなるべきポート105,106が形成されており、基板102の下面側に透明又は不透明な素材(例えば、ガラス又は合成樹脂フィルム)からなる下面基板108が接着されている。この下面基板108の存在により、ポート105,106及びマイクロチャネル104の底部が封止される。
【0005】
図8A及び図8Bに示されるようなマイクロ流路チップの材質や構造及び製造方法は例えば、特許文献1及び特許文献2などに提案されている。その中で、エラストマータイプのシリコン樹脂であるポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いたことを特徴とする一連のマイクロ流路チップが開発されている。PDMSはチャネルなどの微細構造を有するマスター(鋳型)に対する良好なモールド転写性や透明性、耐薬品性、生体適合性などを有し、マイクロ流路チップの構成部材として特に優れた特徴を有している。
【0006】
図9は図8A及び図8Bに示されるようなマイクロ流路チップ100の製造方法の一例を示す工程図である。この製造方法は、半導体の製造に多用される、いわゆるリソグラフィー法を応用した製造方法である。先ず、ステップ(a)において、最終製品のマイクロ流路チップ100のサイズ(例えば、20mmx20mm又は20mmx30mm)と概ね同じサイズのシリコンウエハ200を準備する。シリコンウエハ200は予め乾燥させたり、表面処理などの所望の前処理を施すこともできる。その後、ステップ(b)において、適当なレジスト材料(例えば、ネガティブフォトレジストSU−8など)を2000rpm〜5000rpmの回転速度で数秒間〜数十秒間にわたってスピン塗布し、オーブン中で乾燥させ、所望の厚さのレジスト膜220を形成する。次いで、ステップ(c)において、このレジスト膜220上にマスク240を通して、適当な露光装置(図示されていない)で露光する。マスク240はマイクロ流路チップ100におけるチャネル104に対応するレイアウトパターンを有する。その後、ステップ(d)において、適当な現像液(例えば、1−メトキシ−2−プロピル酢酸)中で現像し、上面にチャネル104に対応する微細構造260を有するマスター(鋳型)280を生成する。所望により、このマスター280を有機溶媒(例えば、イソプロピルアルコール)及び蒸留水で洗浄することができる。更に、マスター280の表面をトリフルオロメタンの存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理することができる。このトリフルオロメタン存在下の反応性イオンエッチング処理は、後のステップにおいて、PDMSのマスター280からの離型性を改善する。次いで、ステップ(e)において、前記のマスター280の上面に、PDMSプレポリマーと硬化剤を適度な割合で混合し、脱気したPDMSプレポリマー混合液を流し込む。この際、型枠を使用し、鋳込み型とし、その中にPDMSプレポリマー混合液を流し込んで型取りすることが好ましい。PDMSプレポリマー混合液としては、例えば、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERが好適に使用できる。これは液状のPDMSプレポリマーと硬化剤を10対1の割合で混合するものである。塗布後、常温で十分な時間放置するか、又は、例えばオーブン中で65℃で1時間加熱するか若しくは135℃で15分間加熱して硬化させ、PDMS中間基板300を生成させる。PDMS中間基板300は透明性の高いゴム状の樹脂であり、マスター280の微細構造260が転写されている。その後、ステップ(f)において、PDMS中間基板300をマスター280から剥離し、PDMS中間基板300の上面から下部の中空状マイクロチャネル104に連通するポート105(106)をパンチ320で穿設することによりにPDMS基板102を得る。次いで、ステップ(g)において、対面基板108に、PDMS基板102をチャネル104形成面を下側にして貼り合わせる。最後に、ステップ(h)において、完成されたマイクロ流路チップ100を回収する。
【0007】
しかし、図9に示されるようなリソグラフィー法を実施する場合、原型となるべきマスター(鋳型)280を製造するために先ず露光用マスクを製造しなければならない。このマスク製造のために高価な製造装置を使用しなければならない。更に、マスクを通してレジストを露光させるために、高価な露光装置を使用しなければならない。また、露光後に現像装置が必要となるばかりか、使用済み現像液の廃棄処理も必要となる。従って、マスター(鋳型)280の作製には極めて多大な労力、手間及びコストがかかり、最終製品のマイクロ流路チップ100のコストを増大させる原因となっていた。しかも、レジスト鋳型の場合、硬質なため、耐久性及び密着性が悪く、比較的簡単に破損してしまうことがあった。よって、その都度、前記のような手順によりレジスト製マスター(鋳型)280を作り直さなければならなかった。このため、マイクロ流路チップ100の製造コストが益々増大してしまう結果を招き、使い捨てチップを安価に供給することが困難であった。
【0008】
また、特許文献3には、少なくとも一部が弾性体で形成された容器から構成され、前記容器内には、流路で連結又は連結可能に配置された複数の室が形成され、前記容器外から前記弾性体に外力を加えることにより前記流路又は前記室あるいは両者にある物体を移動させて化学反応を行う化学反応用カートリッジであって、前記流路及び前記室の少なくとも何れか一方は、前記流体状物質が流入される前において容積がゼロである化学反応用カートリッジが記載されている。流体状物質が流入される前において容積がゼロである流路及び室は、弾性体を接着する前に該当する流路及び室部分に非接着部を形成することにより形成される。この非接着部は例えば、プラズマ処理時に該当領域をマスクするか又はプラズマで活性化しない物質を塗布することによち形成される。
【0009】
しかし、特許文献3の発明では、プラズマ処理時にマスクされた部分は経時的に非接着性を失い、上下の基板同士が接着し、流路が塞がれてしまう。また、プラズマで活性化しない物質を塗布すると言っても、殆どの物質はプラズマで活性化され、分解を受ける。更に、塗布された物質が実際の分析の際に、結果に悪影響を及ぼす危険性も否定できない。従って、特許文献3の発明では経時的に確実に容積ゼロの流路及び室を形成することができず、分析結果の信頼性も損なわれる。
【特許文献1】特開2001−157855号公報
【特許文献2】米国特許第5965237号明細書
【特許文献3】特開2005−313065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、鋳型などの原型を使用することなく製造されたマイクロチャネルを有するマイクロ流路チップを提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、液体又は気体などの媒体の流路となるべきマイクロチャネルを有するマイクロ流路チップにおいて、鋳型などの原型を使用することなくマイクロ流路チップを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための手段として、請求項1における発明は、少なくとも第1の基板と第2の基板とからなり、該第1の基板と第2の基板とが接着されているマイクロ流路チップにおいて、少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の、媒体により除去可能な材料層が形成されており、該媒体により除去可能な材料層の少なくとも一方の端部は大気に向かって開口するポートに接続されているマイクロ流路チップである。
【0013】
この発明によれば、マイクロチップを使用する前に、ポートを介して媒体を送入し、材料層を除去することにより、該材料層が存在していた箇所に、非接着状態の微小な隙間を発生させる。次いで、ポートより陽圧を印加することにより、非接着状態の微小隙間部分を膨隆させ、マイクロチャネルとして機能し得る空隙を生じさせることができる。その結果、一方のポートから液体及び/又は気体を、膨隆により生じた空隙内に送入することが可能となる。非接着状態の微小隙間部分の両端が大気に向かって開口するポートに接続されていれば、一方のポートから他方のポートへ液体及び/又は気体を移送することができる。また、使用の形態によっては、非接着状態の微小隙間部分は開閉弁又はマイクロバルブとしての機能を果たすこともできる。
【0014】
前記課題を解決するための手段として、請求項2における発明は、前記媒体により除去可能な材料層がその途中に、円形、楕円形、矩形及び多角形状からなる群から選択される少なくとも一種類の平面形状をした拡大領域層を一個以上更に有することを特徴とする請求項1記載のマイクロ流路チップである。
【0015】
この発明によれば、材料層を除去した後、拡大領域部分は膨隆時に液溜めとして機能することができ、この液溜め部分を利用してPCR増幅などの作業を効率的に実施することができる。
【0016】
前記課題を解決するための手段として、請求項3における発明は、媒体により除去可能な材料層が交差して形成されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流路チップである。
【0017】
この発明によれば、例えば、媒体により除去可能な材料層を2本交差して形成することにより、材料層を媒体で除去した後、電気泳動に使用可能なマイクロ流路チップが簡単に得られる。
【0018】
前記課題を解決するための手段として、請求項4における発明は、媒体により除去可能な材料層が第2の基板の接着面側に形成され、ポートが第1の基板側に形成されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のマイクロ流路チップである。
【0019】
この発明によれば、ポートと媒体により除去可能な材料層を別々に形成することができる。
【0020】
前記課題を解決するための手段として、請求項5における発明は、媒体により除去可能な材料層が第1の基板の接着面側に形成され、ポートが第1の基板側に形成されていることを特徴とする請求項1、2、又は3記載のマイクロ流路チップである。
【0021】
この発明によれば、ポートと媒体により除去可能な材料層を一方の基板側だけに形成することができるので、他方の基板側は唯貼り合わせるだけでよい。
【0022】
前記課題を解決するための手段として、請求項6における発明は、媒体により除去可能な材料層が第1の基板の接着面側及び第2の基板の接着面側の両方に形成され、ポートが第1の基板側に形成されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のマイクロ流路チップである。
【0023】
この発明によれば、材料層を媒体で除去した後に生じる微小隙間が両基板間に生じるので、微小隙間自体をマイクロチャネルとして使用できるばかりか、第2の基板と第1の基板との非接着性が更に確実となり、陽圧を印加したときに微小隙間部分が一層膨隆し易くなる。
【0024】
前記課題を解決するための手段として、請求項7における発明は、前記媒体により除去可能な材料層に対応する位置に物質スポット層が更に形成されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流路チップである。
【0025】
この発明によれば、空気中の水分、酸素、微生物類などにより分解されたり浸襲されやすい材料類又は衝撃や環境圧により移動されやすい材料類を使用直前まで、これらから安定的に密閉又は遮蔽し、安全に保存又は保護することができる。
【0026】
前記課題を解決するための手段として、請求項8における発明は、前記物質スポット層は前記媒体により除去可能な材料層に対応する位置であって、これら材料層が配設されていない基板側に形成されている請求項7に記載のマイクロ流路チップである。
【0027】
この発明によれば、物質スポット層を媒体により除去可能な材料層と別々に形成することができる。
【0028】
前記課題を解決するための手段として、請求項9における発明は、前記物質スポット層は、化学反応試薬類、溶質類、塩類、糖類、抗原類、抗体類、生理活性物質、内分泌攪乱物質、糖鎖類、糖蛋白、ペプチド、タンパク質類、アミノ酸類、DNA類、RNA類、微生物類、酵母類、菌類、胞子類、植物断片組織、動物断片組織、薬剤類、ガラス粒子、レジン粒子、磁性体粒子、金属粒子、ポリマー、膨潤ゲル及び固化ゲルからなる群から選択される少なくとも一種類の物質から形成される請求項7又は8の何れかに記載のマイクロ流路チップである。
【0029】
この発明によれば、非固形物及び固形物の両方の物質とも物質スポット層形成材料とすることができる。
【0030】
前記課題を解決するための手段として、請求項10における発明は、前記第1の基板がポリジメチルシロキサン(PDMS)からなり、第2の基板がポリジメチルシロキサン(PDMS)又はガラスからなることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流路チップである。
【0031】
この発明によれば、接着剤を使用することなく、第1の基板と第2の基板を相互に恒久接着させることができる。
【0032】
前記課題を解決するための手段として、請求項11における発明は、請求項1〜10の何れかに記載のマイクロ流路チップの製造方法であって、少なくとも一方の基板の接着面側に、所望のパターンに従って、媒体により除去可能な材料をコーティング又は堆積させることからなるマイクロ流路チップの製造方法である。
【0033】
この発明によれば、マスクパターンに従った媒体により除去可能な材料層を少なくとも一方の基板の接着面側に簡単に形成することができる。従来の鋳型を使用する方法に比べて、製造コストが安価であるばかりか、量産性にも優れている。
【0034】
前記課題を解決するための手段として、請求項12における発明は、前記媒体により除去可能な材料層が、水溶性、水不溶性、有機溶媒可溶性及び有機溶媒不溶性からなる群から選択される粒径が10μm以下の粉体を主たる成分とする材料から形成されることからなる請求項11に記載のマイクロ流路チップの製造方法である。
【0035】
この発明によれば、水溶性、水不溶性、有機溶媒可溶性又は有機溶媒不溶性の粒径が10μm以下の粉体を主たる成分とする材料を使用することにより、マイクロ流路チップを使用する前に、目詰まりなどを起こすことなく、迅速に材料層を除去することができる。
【0036】
前記課題を解決するための手段として、請求項13における発明は、前記媒体により除去可能な材料のコーティング又は堆積は、該材料の塗布、噴霧及び印刷からなる群から選択される何れかの手段により行われることからなる請求項11に記載のマイクロ流路チップの製造方法である。
【0037】
この発明によれば、媒体により除去可能な材料のコーティング又は堆積が、塗布、噴霧又は印刷などの安価な常用手段で実施できるので、従来の鋳型を使用する方法に比べて、マイクロ流路チップの製造コストが更に一層安価になるばかりか、量産性の点でも非常に優れている。
【0038】
前記課題を解決するための手段として、請求項14における発明は、少なくとも第1の基板と第2の基板とからなり、該第1の基板と第2の基板とが接着されているマイクロ流路チップにおいて、少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の、媒体により除去可能な材料層が形成されており、該媒体により除去可能な材料層の少なくとも一方の端部は大気に向かって開口するポートに接続されているマイクロ流路チップの使用方法であって、
一方のポートから媒体を送入することにより前記材料層を除去し、該材料層が存在していた箇所に非接着状態の微小隙間を発生させ、前記ポートから陽圧を印加することにより該微小隙間を膨隆させるか、又は膨隆させずにマイクロチャネルとして使用することからなるマイクロ流路チップの使用方法である。
【0039】
この発明によれば、マイクロ流路チップとして使用するまでは、サンプルを流すためのマイクロチャネルは存在しないが、材料層を媒体で除去すれば、マイクロチャネルとして機能可能な非接着状態の微小隙間を容易に形成することができる。従って、従来の鋳型で形成された矩形の凹型マイクロチャネルに比べて、マイクロチャネルが大気中の異物により汚染される可能性が低く、良好な分析結果を得ることができる。
【0040】
前記課題を解決するための手段として、請求項15における発明は、前記材料層を除去するための媒体は液体又は気体であることからなるマイクロ流路チップの使用方法である。
【0041】
この発明によれば、液体又は気体の何れの媒体を用いても材料層を除去できるので、使い勝手に優れている。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、一方の基板面に媒体により除去可能な材料層を形成し、両基板を貼り合わせることにより作製されたマイクロ流路チップにおいて、使用直前に材料層を媒体で除去すれば、材料層が存在していた箇所に非接着状態の微小な隙間が形成されるので、この微小隙間を加圧膨隆させることにより、従来の鋳型を用いて作製されたマイクロチャネルと同等に使用することができる。その結果、従来のリソグラフィー法によりマイクロ流路チップを製造していたのに比べて、極めて簡単にマイクロ流路チップを大量生産することができるばかりか、非常に安価にマイクロ流路チップを提供することができる。また、微小隙間は媒体により除去された材料層の厚さに相当する高さを有しているので、公知文献3のような表面改質処理により非接着状態を発現させるのに比べて、経時的に接着状態に変化していくような事態を起こしにくい。
【0043】
従来のマイクロチャネルを有するマイクロ流路チップに比べて、本発明の媒体により除去可能な材料層を有するマイクロ流路チップの別の効果は、従来のマイクロチャネルは送液の際、気泡が混入し易かったのに対して、本発明のマイクロ流路チップの場合、材料層を媒体で除去することにより生じた非接着状態の微小隙間を膨隆させなければマイクロチャネルとして機能する空隙が生じないため、送液時に気泡が混入することが殆ど無いことである。マイクロチャネルに気泡が混入すると以後の送液が困難となるばかりか、気泡の除去も非常に困難であった。従って、従来のマイクロチャネルを有するマイクロ流路チップでは、送液の際、気泡が混入しないように細心の注意を払いながら実施しなければならず、送液作業に無駄な時間が費やされていた。本発明のマイクロ流路チップによれば、送液作業に無駄な労力を費やす必要は無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
図1Aは本発明によるマイクロ流路チップの一例の概要平面図であり、図1Bは図1Aにおける1B−1B線に沿った断面図である。本発明によるマイクロ流路チップは、従来のマイクロ流路チップと同様に、第1の基板3と第2の基板5とからなり、第1の基板3には液体又は気体などの媒体の入出力口となるべきポート7及び9が配設されている。第1の基板3と第2の基板5は、媒体で除去可能な材料層11及びポート7,9以外の部分では、互いに接着している。媒体で除去可能な材料層11は下記で詳細に説明するように、除去された後に、従来のマイクロ流路チップにおけるマイクロチャネルとなるべき部分である。しかし、通常は、ポート7とポート9は媒体で除去可能な材料層11により遮断されているので、そのままでは液体又は気体などのサンプルを一方のポートから他方のポートに送ることはできない。使用前に、材料層11を液体又は気体などの媒体で除去すると、基板間に非接着状態の微小な隙間が形成され、この微小な隙間を膨隆させることにより、又は膨隆させずそのままでも、従来のチャネルと同様な作用及び機能を発揮させることができる。何処かの箇所で材料層除去用媒体を材料層と共にチップ外へ排出させることができれば、ポート9は必ずしも存在しなくてもよい。
【0045】
図2は本発明のマイクロ流路チップ1の使用形態の一例を示す部分概要断面図である。本発明のマイクロ流路チップ1では、図2(A)に示されるように、液体又は気体の導入部となるべきポート7の開口部にアダプター14を配設し、このアダプター14に送入チューブ16を接続する。言うまでもなく、アダプター14の形状は図示されたものに限定されない。ポート内に一部挿入される形態でなく、第1の基板3に直接固着される形態でもよい。別法として、アダプター14を使用せず、各ポートに送入チューブ16を直接接続する形態も実施可能である。送入チューブ16から媒体(液体又は気体)を数kPa〜数十kPaの圧力で送入する。これにより、図2(B)に示されるように、媒体で除去可能な材料層11に対応する第1の基板部分だけが僅かに膨隆し、送入媒体と材料層11が接触する。媒体が水19であり、材料層11が水溶性材料で形成されている場合、材料層11は水19に溶け、他端のポート(図示されていない)から排出される。その後、媒体を空気などに換えて送入し続けることによりチャネル内を乾燥させると、図2(C)に示されるように、第1の基板3と第2の基板5との間に材料層11の厚さに相当する高さを有する微小な隙間32が形成される。この微小な隙間32が非接着部分となる。その後、送入チューブ16から気体(例えば、空気)を高圧(例えば、1kPa〜100kPa)で送入するか、又は、ポート7内に目的の液体を陽圧を印加しながら注入すると、図2(D)に示されるように、微小な隙間32に対応する第1の基板3の部分だけが僅かに膨隆し、マイクロチャネルとして機能し得る空隙18が生じ、ポート7内の液体及び/又は気体をポート9に移送することができる。
【0046】
媒体で除去可能な材料層11としては、水溶性材料又は有機溶媒可溶性材料などが使用できるが、水不溶性材料又は有機溶媒不溶性材料も同等に使用することができる。水溶性材料は例えば、澱粉、寒天、ゼラチン、糊、ポリエチレングリコール、メチルメタクリレートなどである。有機溶媒可溶性材料は例えば、スチレン、メチルメタクリレートなどである。有機溶媒としてはアルコール系溶媒が好ましい。水不溶性材料は例えば、タルク、金属ナノコロイド、炭酸カルシウム、酸化チタンなどである。有機溶媒不溶性材料は例えば、参加アルミニウム、硫酸バリウムなどである。媒体は液体類などの溶媒に限定されない。気体(例えば、空気、炭酸ガス、、窒素ガスなど)なども媒体として使用できる。例えば、前記水溶性、水不溶性、有機溶媒可溶性又は有機溶媒不溶性の材料を気体で吹き飛ばして除去することもできる。
【0047】
媒体で除去可能な材料は、粒径が10μm以下の粉体を主たる成分とする材料であることが好ましい。粉体の粒径が10μm超の場合、材料層を形成する際のコーティング又は堆積作業が円滑に進まない、或いは溶解速度が遅くなったり、不溶性材料の場合には、チャネル内に詰まりを生じる可能性がある。
【0048】
媒体で除去可能な材料層11のパターン自体は図示された直線状に限定されない。目的及び/又は用途などを考慮して、目的及び/又は用途などを考慮して、Y字、L字、S字、X字、十字形状などの様々なパターンの材料層11を採用することができる。また、媒体で除去可能な材料層11は、線状部分の他に、円形、楕円形、矩形、多角形状などの任意の平面形状をした拡大形状部分を有することもできる。下記で詳細に説明するように、拡大形状部分は膨隆時に反応室や液溜めとして機能することができ、この反応室や液溜め部分を利用してPCR増幅などの作業を効率的に実施することができる。媒体で除去可能な材料層11は1本だけでなく複数本形成することができる。複数本の、媒体で除去可能な材料層11は並行配置又は交差配置など任意の形態で配置することができる。交差配置は従来のクロスインジェクション方式の電気泳動用チップとして有用である。
【0049】
媒体で除去可能な材料層11の幅は、従来のマイクロ流路チップにおけるマイクロチャネルの幅と概ね同一であるか又はこれよりも大きいか若しくは小さいことができる。一般的に、媒体で除去可能な材料層11の幅は、10μm〜3000μm程度である。この幅は用途に応じて適宜選択することができる。例えば、チャネル自体として使用する場合には、10μm〜数百μm程度であり、反応室や液体貯留室として使用する場合には、数百μm〜3000μm程度の幅又は内径を有することができる。
【0050】
媒体で除去可能な材料層11の膜厚は、使用される材料層形成方法に応じて変化するが、一般的に、10nm〜300μmの範囲内であることが好ましい。媒体で除去可能な材料層11の膜厚が10nm未満の場合、媒体で除去可能な材料層11が均一に形成されず、接着部位と非接着部位が島状に点々と生じてマイクロチャネルとして機能させることが困難になる。一方、媒体で除去可能な材料層11の膜厚が300μm超の場合、除去に多大な時間がかかったり、詰まりを生じる可能性がある。コーティング法による場合、媒体で除去可能な材料層11の膜厚は50nm〜300μmの範囲内、好ましくは、80μm〜200μmの範囲内、一層好ましくは、100nm〜100μmの範囲内である。印刷法による場合、媒体で除去可能な材料層11の膜厚は500nm〜100μmの範囲内、好ましくは、800nm〜80μmの範囲内、一層好ましくは、1μm〜50μmの範囲内である。
【0051】
図3は本発明のマイクロ流路チップ1の製造方法の一例の工程説明図である。先ず、ステップ(a)において、所定のチャネルデザインのパターンが形成されたマスク20を準備する。マスクは厚さが0.01mm〜1mm程度の合成樹脂フィルム(例えば、PETフィルム、塩化ビニルフィルム等)又は金属箔などで形成することができる。従って、フィルム又は金属箔を金型で打ち抜くか、刃物でカッティングするか、又はレーザなどで放電加工或いはフライスによる機械加工することにより所望の貫通パターンを有するマスクを製造することができる。ステップ(b)において、マスク20を第2の基板5となるべき基材(例えば、PDMS)の上面に吸着などの現象を利用して貼り合わせるか、又は接着により貼り合わせる。ステップ(c)において、マスク20の上面から、媒体により除去可能な材料を噴霧するか又は刷毛塗り、ロールコートなどの公知慣用の方法でコーティング又は堆積する。ステップ(d)において、マスク20を剥がすと、第2の基板5の上面にチャネルデザインに対応するパターンの媒体で除去可能な材料層11が残る。媒体で除去可能な材料層11は乾燥させても良いが、未乾燥のままでも良い。ステップ(e)において、第2の基板5の媒体で除去可能な材料層11が存在する上面及びポート7,9のための貫通孔が開設された第1の基板3の下面側を表面改質処理する。表面改質処理することにより各基板間の接着強度を高めることができる。表面改質処理方法としては、酸素プラズマ処理法又はエキシマUV光照射処理法などを使用することができる。酸素プラズマ処理法は、酸素存在下でプラズマ放電処理装置により実施することができる。エキシマUV光照射処理法は誘電体バリヤ放電ランプにより大気圧の空気雰囲気下で実施できるので処理コストが安価である。次いで、ステップ(f)において、表面改質処理された面同士を貼り合わせ、第1の基板3と第2の基板5とを恒久接着させる。各ポートに送入チューブを直接接続させる場合には、この段階で本発明のマイクロ流路チップ1が完成したことになる。しかし、所望により、最後に、ステップ(g)において、ポート7,9の各部位に、送入チューブ接続用のアダプター14を固着させ、本発明のマイクロ流路チップ1を得ることもできる。
【0052】
図4A及び図4Bは別の実施態様のマイクロ流路チップ1Aの製造方法の一例の工程説明図である。図4A及び図4Bの製造方法も、図3に示される製造方法と基本的に同じである。先ず、ステップ(a)において、所定のチャネルデザインを有するマスク20Aを準備する。このマスクは図3のマスク20と異なり、液溜め部位を形成するための貫通孔22を有する。ステップ(b)において、マスク20Aを第2の基板5となるべき基材(例えば、PDMS)の上面に吸着などの現象を利用して貼り合わせるか、又は接着により貼り合わせる。ステップ(c)において、マスク20Aの上面から、媒体により除去可能な材料を噴霧するか又は刷毛塗りなどの公知慣用の方法でコーティング又は堆積する。ステップ(d)において、マスク20Aを剥がすと、第2の基板5の上面にチャネルデザインに対応するパターンの、媒体で除去可能な材料層11Aが残る。この媒体で除去可能な材料層11Aは、図3の媒体で除去可能な材料層11と異なり、液溜め部位となるべき拡大領域24を有する。ステップ(e)において、第2の基板5の媒体で除去可能な材料層11Aが存在する上面及びポート7,9のための貫通孔が開設された第1の基板3の下面側を表面改質処理する。次いで、ステップ(f)において、表面改質処理された面同士を貼り合わせ、第1の基板3と第2の基板5とを恒久接着させる。ステップ(g)において、ポートとして兼用できる所定の厚み(例えば、1mm)の、ポート部位2箇所と、液溜め部位24の形状と同じ形状(例えば、直径5mmの円)の貫通孔26が形成されたシリコーンゴムシート28の下面側と、前記ステップ(f)で得られた積層体の上面側を表面改質処理する。貫通孔26の直径は液溜め部位24の直径と同じか又は大きいことが好ましい。最後に、ステップ(h)において、シリコーンゴムシート28の貫通孔7A,9Aと第1の基板3のポート7,9を位置合わせして、恒久接着により貼り合わせ、目的のマイクロ流路チップ1Aを完成させる。図示されていないが、所望により、シリコーンゴムシート28の貫通孔7A,9Aに送入チューブ接続用のアダプター14を固着させることもできる。シリコーンゴムシート28の表面改質処理は本発明の必須要件ではない。シリコーンゴムシート28を表面改質処理せず、第1の基板3に自己吸着させるだけでもよい。
【0053】
前記各製造方法において、媒体で除去可能な材料層11,11Aは第2の基板側でなく、第1の基板側に配設することもできる。この場合、ポート及び媒体で除去可能な材料層などの微細構成要素が全て第1の基板側に配設されるので、第2の基板は何の微細加工も必要無くなり、マイクロ流路チップの製造が一層単純化される。
【0054】
また、別の実施態様として、媒体で除去可能な材料層11,11Aは第2の基板側及び第1の基板側の両方に配設することもできる。この場合、材料層11,11Aを媒体で除去した後に形成される隙間の高さが2倍になり、第2の基板と第1の基板との非接着性が更に確実となる。その結果、陽圧を印加したときに微小隙間32部分が一層膨隆し易くなるという利点がある。あるいは、加圧膨隆させなくても、微小隙間32自体をマイクロチャネルとして使用することも可能になる。
【0055】
媒体で除去可能な材料層11は前記以外の方法でも形成することができる。例えば、媒体で除去可能な材料層11を第2の基板5の上面に印刷により形成することができる。印刷は例えば、ロール印刷、シルク印刷、パターン印刷、転写、静電複写、など様々な公知慣用の印刷方法を採用することができる。媒体で除去可能な材料層11を印刷法で形成する場合、媒体で除去可能な材料層11の形成材料としては、粒径が10μm以下の金属微粒子(例えば、Al、As、Au、B、Bi、Ca、Cd、Cr、Co、Cu、Fe、Ga、Ge、Hg、In、Li、Mg、Mn、Mo、Na、Ni、Pb、Pt、Rh、Sb、Se、Si、Sn、Ti、V、W、Y、ZnまたはZrなどの単一金属微粒子又はこれらの2種類以上の合金微粒子、若しくはこれらの単一金属又は合金の酸化物微粒子(例えば、ITO微粒子など)及びこれらの有機金属化合物微粒子など)、導電インク、絶縁インク、カーボン微粒子、シラン剤、パリレン、塗料、顔料、染料、水性染料インク、水性顔料インク、油性染料インク、油性顔料インク、溶剤性インク、ソリッドインク、ゲルインク、ポリマーインクなどが好適に使用できる。これらのうちから好適な材料を選択するには、気体又は液体などの媒体で除去可能であるか否かを基準として選択する。
【0056】
本発明によるマイクロ流路チップ1における第1の基板3は弾性及び/又は可撓性を必ずしも有する必要は無いが、一般的に、ポリマー又はエラストマーであることが好ましい。第1の基板3が弾性及び/又は可撓性を有する材料から形成されていない場合、媒体で除去可能な材料層11の部分を、従来のマイクロ流路チップにおけるマイクロチャネルとなるように変形させることが不可能又は困難となる。従って、第1の基板3の形成材料としては例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのようなシリコーンゴムの他、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ノルボルネンゴム、熱可塑性エラストマーなどが好ましい。ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのようなシリコーンゴムが特に好ましい。
【0057】
第1の基板3の厚さは一般的に、10μm〜5mmの範囲内であることが好ましい。第1の基板3の厚さが10μm未満の場合、低い圧力でも媒体で除去可能な材料層11の部分が膨隆してマイクロチャネルを出現させ易いが、反面、破れ易くなる危険性がある。一方、第1の基板3の厚さが5mm超の場合、材料層11の部分を膨隆させて媒体で除去するために非常に高い圧力が必要となるので好ましくない。
【0058】
本発明によるマイクロ流路チップ1における第2の基板5は弾性及び/又は可撓性を必ずしも有する必要は無いが、第1の基板3と強固に接着可能であることが好ましい。この“強固な接着”とは、媒体で除去可能な材料層以外の接着部分が、媒体で除去可能な材料層部位の膨隆変形によりチャネル構造の出現を可能とする接着力をいう。更には、媒体で除去可能な材料層部位の膨隆変形により生じたチャネル構造内には、液体、気体、蒸気又はポリマーやゲル状物質などを加圧充填し、加圧移動或いは扱き移動させることがあり、この加圧や扱きに耐え得る接着強度が必要である。第1の基板3がポリジメチルシロキサン(PDMS)である場合、第2の基板5がPDMS又はガラスであれば、第1の基板3と第2の基板5とは、相互に強固に接着することができる。この現象は一般的に、「恒久接着(パーマネント・ボンディング)」と呼ばれている。ここでいう恒久接着とは、基板を構成する成分にSiを含んだ基板同士の表面をある種の表面改質を行うだけで、接着剤無しで基板と基板とを相互に接着することができる性質のことであり、マイクロ流路チップにおける微細構造の良好な封止性を発揮させることができる。PDMS基板の恒久接着では、貼り合わせ面を適宜表面改質処理した後、両方の基板の貼り合わせ面を密着して重ね合わせ、一定時間放置することで、容易に接着が行えるものである。換言すれば、媒体で除去可能な材料層11を除去した後に生じた微小隙間32が存在する部分は恒久接着せず、非接着の状態に維持されているので、圧力などにより風船状に膨隆変形して流路用の空隙を出現させることができる。また、この微小隙間32が存在する部分以外の箇所は恒久接着しているため、膨隆部分に通される液体又は気体などが他の部位に漏出することも無い。
【0059】
PDMS第1の基板3と恒久接着可能であれば、PDMS又はガラス以外の材料からなる第2の基板5も当然使用できる。例えば、セルロースエステル基体、ポリエステル基体、ポリカーボネート基体、ポリスチレン基体、ポリオレフィン基体、等で、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルローストリアセテート、セルロースナイトレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル、ポリアリレートなどが挙げられる。また、ポリ乳酸樹脂、ポリブチレンサクシネート、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ノルボルネンゴム、熱可塑性エラストマーなども第2の基板5の形成材料として使用できる。これらの素材は単独であるいは適宜混合されて使用することもできる。
【0060】
さらに、これらの素材が単独で恒久接着できない場合は、接着面に表面処理を施して恒久接着を行う。この表面処理剤として好ましくは、珪素化合物やチタン化合物で、具体的には、ジメチルシラン、テトラメチルシラン、テトラエチルシランなどのアルキルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランなどの珪素アルコキシシランの有機珪素化合物、モノシラン、ジシランなどの珪素水素化合物、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシランなどのハロゲン化珪素化合物、ヘキサメチルジシラザンなどのシラザン、又、ビニル、エポキシ、スチリル、メタクリロキシ、アクリロキシ、アミノ、ウレイド、クロロプロピル、メルカプト、スルフィド、イソシアネートなど官能基が導入されている珪素化合物、などが挙げられる。これらの表面処理剤は単独で使用することもできるが、二種類以上を適宜混合して使用することもできる。
【0061】
第2の基板5の厚さは一般的に、300μm〜10mmの範囲内であることが好ましい。第2の基板5の厚さが300μm未満の場合、マイクロ流路チップ1全体の機械的強度を維持することが困難となる。一方、第2の基板5の厚さが10mm超の場合、マイクロ流路チップ1に必要な機械的強度が飽和し、不経済となるだけである。
【0062】
図5A及び図5Bは本発明によるマイクロ流路チップの別の実施態様を示す平面図と断面図である。図示されているように、メインの媒体で除去可能な材料層11と交差してサブの媒体で除去可能な材料層11Bが形成されている。言うまでもなく、媒体で除去可能な材料層11の形成方法、膜厚、線幅及びパターンなどに関する前記説明は、媒体で除去可能な材料層11Bに対しても同等に適用可能である。このマイクロ流路チップ1Bはクロスインジェクション方式の電気泳動用チップとして特に好適である。例えば、マイクロ流路チップ1Bを電気泳動用チップとして使用する必要が生じた場合、ポート9からポート7及び7B、9Bに向かって、材料層11を除去するための媒体を送入し、材料層11を除去し、非接着部分となるべき微小隙間32(図2C参照)を形成させる。次いで、微小隙間を膨隆させながら、ポート9からポート7及び7B、9Bに向かってゲル電解質を充填し、マイクロ電気泳動路として電気泳動を行う。ポート9から充填した該ゲル電解質がポート7及び7B、9Bに溢れ出たのを確認後、ポート7及び7B、9B内にも該ゲル電解質を充填する。次いで、ポート7B内に電気泳動すべき検体を注入し、ポート7及び9、7B、9Bに電極を浸漬する。始めに、ポート7Bとポート9Bの両電極間に電圧を印加する。この電圧印加により、ポート7Bの検体はポート9Bに向かい、材料層11Bが除去されることにより生じたチャネル内を泳動されていく。適当な光学的検出手段(図示されていない)により、検体が、材料層11Bが除去されることにより生じたチャネルと、材料層11が除去されることにより生じたチャネルとの交差点にまで泳動されたことを確認し、電圧の印加を、ポート7とポート9の電極間に切り換える。この電圧印加の切換により、前記交差点に存在する検体はポート9に向かって泳動していくので、ポート9付近で適当な光学的検出手段(図示されていない)により所定の検出処理を行うことができる。従来技術によれば、このような電気泳動用のマイクロ流路チップは複雑なリソグラフィー法等で製作されてきたが、本発明によれば、前記のような簡単な方法で安価に大量生産することができる。
【0063】
図6A、図6B及び図6Cは本発明によるマイクロ流路チップの別の実施態様を示す平面図と断面図である。この実施態様におけるマイクロ流路チップ1Cでは、媒体で除去可能な材料層11に対応する位置に物質スポット層30が存在する。この実施態様におけるマイクロ流路チップ1Cの利点は、空気中の水分、酸素、微生物類などにより分解又は浸襲されやすい材料を使用直前まで、これら水分、酸素、微生物類などから密閉又は遮蔽して、安全に保存又は保護できることである。また、本発明のマイクロ流路チップ1Cは、従来の矩形チャネルではチップに与えられる衝撃や環境圧の変化などにより移動し易く、チャネル内の所定箇所に留めて置くことが困難である材料についても、風圧や外部衝撃などから保護し、使用直前まで所定箇所に留めて置くことが出来る。
【0064】
図6A、図6B及び図6Cにおいて、物質スポット層30は1個だけでなく、所望の個数を存在させることができる。また、物質スポット層30は媒体で除去可能な材料層11に対応する位置だけでなく、図4A及び図4Bに示されるような、液溜め部位となるべき拡大領域24に対応する位置にも存在させることができる。物質スポット層30は第2の基板5側に形成することができる。図6Cに示されるように、材料層11が媒体により除去された後、第2の基板の上面に物質スポット層30が残置される。しかし、この態様に限定されない。物質スポット層30を第1の基板3側に設けることもできる。第2の基板5がガラス製である場合、物質スポット層30をガラス基板の上面に形成し、媒体で除去可能な材料層11を第1の基板3の下面側に設けることができる。
【0065】
物質スポット層30を形成するための材料としては、液体又は固体の任意の材料を使用できる。液体の場合、そのままでも使用できるが、塗布し乾燥させ被膜状にして使用することもできる。このような材料は例えば、化学反応試薬類、溶質類、塩類、糖類、抗原類、抗体類、生理活性物質、内分泌攪乱物質、糖鎖類、糖蛋白、ペプチド、タンパク質類、アミノ酸類、DNA類、RNA類、微生物類、酵母類、菌類、胞子類、植物断片組織、動物断片組織、薬剤類、ガラス粒子、レジン粒子、磁性体粒子、金属粒子、ポリマー、膨潤ゲル及び固化ゲルなどであることができる。これらの材料は単独で使用することもできるが、二種類以上を併用することもできる。
【0066】
従って、物質スポット層30は例えば、PCR増幅反応用のオリゴマー(すなわち、PCR用プライマー)であることもできるし、あるいは、抗原抗体反応又は酵素免疫測定(ELISA)法における抗原類又は抗体類であることもできる。ELISA法には直接吸着法とサンドイッチ法の二種類があるが、直接吸着法の場合には、ガラス基板5の固相表面に、抗原30(例えば、HIV抗原)を例えば、アミノカップリング法、表面チオールカップリング法又はリガンドチオールカップリング法などの方法により付着させることができる。また、サンドイッチ法の場合には、抗原の代わりに一次抗体をガラス基板5の固相表面に結合させることができる。直接吸着法の場合、ポート7から被検サンプル(例えば、血清)を注入する。サンプル中に抗体(例えば、抗HIV抗体)があれば、抗原30と反応し、結合する。その後、発色試薬などをポート7から注入することにより抗原抗体反応を確認することができる。サンドイッチ法の場合、目的物質(例えば、タンパク質)を含む溶液をポート7から注入すると、溶液中の抗原が「抗原抗体反応」によりガラス基板5上の一次抗体に結合する。その後、ポート7から酵素標識二次抗体を注入し、一次抗体に結合していた目的物質を定性及び定量することができる。また、物質スポット層30が例えば、磁性体粒子からなる場合、ポート7から被検サンプルを注入する。サンプル中にDNAがあれば、DNAは磁性体粒子に吸着される。その後、磁性体粒子を適当な溶離剤で洗浄すれば、目的のDNAだけを分離することができる。
【0067】
物質スポット層30は手作業で塗布形成することもできるし、あるいは自動塗布装置で形成することもできる。自動塗布装置は例えば、日立ハイテクノロジーズ社から市販されている全自動のマイクロアレイヤー(例えば、Proteogen CM-1000)などを使用することができる。この装置の特徴は、ガラス基板上に抗原を付着させるために、ガラス基板上に「プロリンカー」と呼ばれる固定化試薬を予め固着させておくことである。この装置によれば、25.4mmx76.2mmのスタンダードフォーマットスライドガラスを使用して、スポット径100〜300μm、スポットピッチ10μm、スポット密度最大4900スポット/cmで、化学反応試薬類を自動塗布することができる。物質スポット層30が固形物類からなる場合、当該固形物類を適当な溶媒類などに懸濁させ、この懸濁液をガラス基板上に塗布し、必要に応じて乾燥処理を行うことにより定着させることができる。言うまでもなく、物質スポット層30は、材料層11を除去するための媒体により、材料層11と共に除去されてはならない。
【0068】
図7Aは本発明によるマイクロ流路チップの他の実施態様を示す概要断面図である。図示された実施態様におけるマイクロ流路チップ1Dは、従来の鋳型を使用するリソグラフィー法で作成された中空状マイクロチャネル104を有し、この中空状マイクロチャネル104を分断又は連結するように媒体で除去可能な材料層11が配設されている。
【0069】
図7Bは、図7Aにおけるマイクロ流路チップ1Dにおいて、媒体で除去可能な材料層11を除去することにより生じた非接着状態の微小隙間部分だけが僅かに膨隆することにより空隙18が生じ、その結果、媒体で除去可能な材料層11の両側の、中空状マイクロチャネル104が連通された状態を示す部分概要断面図である。液体又は気体の導入部となるべきポート7の開口部にアダプター14を配設し、このアダプター14に送入チューブ16を接続する。送入チューブ16から材料層11を除去するための媒体を送入すると、材料層11は除去され、その結果、材料層11が存在していた部分に、材料層11の膜厚に相当する、非接着状態の微小な隙間が生じる。ポート7から空気などの気体を加圧送入すると、微小隙間部分が膨隆し、空隙18が生じ、その結果、微小隙間両端側の、中空状マイクロチャネル104が連通される。従って、この実施態様によれば、材料層11が除去された結果生じた微小隙間はマイクロチャネル自体として機能することができるばかりか、従来の光リソグラフィ方法で作製された中空状マイクロチャネル間の開閉弁又はマイクロバルブとしての機能を果たすこともできる。
【実施例1】
【0070】
(1)マイクロ流路チップの作製
厚さ0.025mmのPETフィルムの表面に線幅400μmの刻線をL字状に貫通形成したマスクを準備した。このマスクを厚さ3mmのPDMS製第2の基板の上面に載置し、自己吸着によりPDMS製第2の基板に貼着させた。この積層物の上面から、粒径が10μm以下の澱粉をロールコーティングした。その結果、PDMS製第2の基板の上面に、厚さ10μmの澱粉薄膜パターンがL字状に形成されていた。この薄膜パターンは媒体で除去可能な材料層となるべき部分である。澱粉薄膜パターンが形成されているPDMS製第2の基板の上面側と、内径2mmのポート用貫通孔を所定の位置に有する厚さ0.1mmのシリコーンゴム製第1の基板の下面側を、プラズマ放電処理装置内で酸素プラズマにより表面改質処理した。処理後、澱粉薄膜パターンが形成されているPDMS製第2の基板の上面側にシリコーンゴム製第1の基板の下面側を貼り合わせたところ、PDMS製第2の基板とシリコーンゴム製第1の基板は恒久接着した。シリコーンゴム製第1の基板のポート部位に、内径2mmの貫通孔を有する厚さ5mmの矩形状アダプターを前記と同様な表面改質処理を行った後に、恒久接着させた。
(2)澱粉薄膜除去
一方のポートから水を加圧注入した。他方のポートから排出された水を採取し、沃素水を滴下した。その結果、澱粉が検出された。この検査を暫く続けると、その後、澱粉は検出されなくなった。この時点で、澱粉からなる材料層11が除去されたものと判断した。更に、乾燥空気を送り込み、材料層11が存在していた部分を乾燥させた。
(2)送液試験
前記(1)で作製されたマイクロ流路チップにおいて、一方のポートから他方のポートに液体を送液できるか試験した。ポート9側にDNA染色液であるサイバー・グリーンI(Cyber Green I)を1μL入れ、顕微鏡で蛍光の有無を観察した。この時点では、DNAが存在しないため、何の蛍光も観察されなかった。ポート7側に、TEに溶解されているヒトゲノム(DNA)溶液を10μL入れ、アダプターの貫通孔にシリンジを接続してポート7内の溶液に空気圧(陽圧)を印加した。圧力を徐々に増大させていくと、50kPaを越えた時点で、微小隙間32からなる非接着部分が膨隆してマイクロチャネルとして機能すべき空隙が発生し、ポート7側の溶液がポート9側に送液され、DNA溶液は蛍光試薬と混合された。蛍光顕微鏡下で観察すると、DNAにインターカレートされた蛍光試薬が蛍光を発している様が観察できた。これにより、材料層11を除去した後に生じた微小隙間32からなる非接着部分はマイクロチャネルとして機能できることが立証された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上、本発明のマイクロ流路チップの好ましい実施態様について具体的に説明してきたが、本発明は開示された実施態様にのみ限定されず、様々な改変を行うことができる。例えば、媒体で除去可能な材料層11を碁盤の目状に形成し、個々の交点を押圧閉塞封止する機構と組み合わせて使用することにより、何通りものチャネル送液が可能となる。また、媒体で除去可能な材料層11を有する基板を複数枚積重することにより、立体的な上下送液も可能となる。
【0072】
本発明によれば、マイクロ流路チップを極めて容易かつ安価に製造することができるので、その実用性及び経済性が飛躍的に向上される。その結果、本発明のマイクロ流路チップは、医学、獣医学、歯科学、薬学、生命科学、食品、農業、水産、警察鑑識など様々な分野で好適に有効利用することができる。特に、本発明のマイクロ流路チップは、蛍光抗体法、in situ Hibridization等に最適なマイクロ流路チップとして、免疫疾患検査、細胞培養、ウィルス固定、病理検査、細胞診、生検組織診、血液検査、細菌検査、タンパク質分析、DNA分析、RNA分析などの広範な領域で安価に使用できる。
【0073】
また、ここに述べたチャネル作製方式によれば、除去可能な材料層を媒体により除去すると、チャネル内の壁面は貼り合わせた基板の表面となる。チャネル内の上面と下面が同じ材質であることが望ましい化学反応においてはこの方式で作製されたマイクロ流路チップが有効である。この媒体による材料層除去方式以外にチャネル内の上面、下面を同じ素材で形成するには、炭素、六方晶系、六員環を材料層として用い、上面基板及び下面基板の貼り合わせ表面をプラズマ処理した後、貼り合わせる。大気に向かって開口するポートから空気を加圧注入すると、材料層と基板との貼り合わせ部分ではなく、材料層自体が水平方向に劈開し、2つに分かれる。従って、更に加圧すると、劈開面を境にして膨隆し、チャネルを形成することができる。この際、チャネル内の上面、下面は同じ材料層により覆われた状態を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1A】本発明によるマイクロ流路チップの一例の概要平面図である。
【図1B】図1Aにおける1B−1B線に沿った断面図である。
【図2A】本発明のマイクロ流路チップの使用形態の一例を示す部分概要断面図である。
【図2B】図2Aにおけるマイクロ流路チップにおいて、材料層11を媒体で除去している状態を示す部分概要断面図である。
【図2C】図2Bで示されるように材料層11を媒体で除去した結果、材料層11が存在していた箇所に非接着状態の微小隙間が生じている状態を示す部分概要断面図である。
【図2D】図2Cに示された微小隙間を膨隆させてチャネル18を発現させた状態を示す部分概要断面図である。
【図3】本発明の或る実施態様のマイクロ流路チップの製造方法の一例を説明する工程図である。
【図4A】本発明の別の実施態様のマイクロ流路チップの製造方法の一例を説明する工程図である。
【図4B】図4Aに示された本発明の別の実施態様のマイクロ流路チップの製造方法の続きの工程を説明する工程図である。
【図5A】本発明によるマイクロ流路チップの別の実施態様の概要平面図である。
【図5B】図5Aにおける5B−5B線に沿った断面図である。
【図6A】本発明によるマイクロ流路チップの他の実施態様の概要平面図である。
【図6B】図6Aにおける6B−6B線に沿った断面図である。
【図6C】図6Bに示された本発明のマイクロ流路チップの使用形態の一例を示す部分概要断面図である。
【図7A】本発明によるマイクロ流路チップの他の実施態様の概要平面図である。
【図7B】図7Aにおけるマイクロ流路チップ1Dにおいて、媒体で除去可能な材料層11を除去した後の非接着状態の微小隙間部分だけが僅かに膨隆することにより空隙18が生じ、その結果、非接着状態の微小隙間両側の、中空状チャネル104が連通された状態を示す部分概要断面図である。
【図8A】従来のマイクロ流路チップの一例の概要平面図である。
【図8B】図8Aにおける8B−8B線に沿った断面図である。
【図9】図8A及び図8Bに示されたマイクロ流路チップの従来の製造方法の一例を説明する工程図である。
【符号の説明】
【0075】
1,1A,1B,1C 本発明によるマイクロ流路チップ
3 第1の基板
5 第2の基板
7,7A,7B,9,9A,9B ポート
11,11A 媒体で除去可能な材料層
14 アダプター
16 送入チューブ
18 空隙
19 水(媒体)
20,20A マスク
22 貫通孔
24 拡大領域層
26 貫通孔
28 PDMSシート
30 化学反応試薬スポット層
32 微小隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の基板と第2の基板とからなり、該第1の基板と第2の基板とが接着されているマイクロ流路チップにおいて、少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の、媒体により除去可能な材料層が形成されており、該媒体により除去可能な材料層の少なくとも一方の端部は大気に向かって開口するポートに接続されているマイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記媒体により除去可能な材料層がその途中に、円形、楕円形、矩形及び多角形状からなる群から選択される少なくとも一種類の平面形状をした拡大領域層を一個以上更に有することを特徴とする請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
媒体により除去可能な材料層が交差して形成されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
媒体により除去可能な材料層が第2の基板の接着面側に形成され、ポートが第1の基板側に形成されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
媒体により除去可能な材料層が第1の基板の接着面側に形成され、ポートが第1の基板側に形成されていることを特徴とする請求項1、2、又は3記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
媒体により除去可能な材料層が第1の基板の接着面側及び第2の基板の接着面側の両方に形成され、ポートが第1の基板側に形成されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
前記媒体により除去可能な材料層に対応する位置に物質スポット層が更に形成されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項8】
前記物質スポット層は前記媒体により除去可能な材料層に対応する位置であって、これら材料層が配設されていない基板側に形成されている請求項7に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項9】
前記物質スポット層は、化学反応試薬類、溶質類、塩類、糖類、抗原類、抗体類、生理活性物質、内分泌攪乱物質、糖鎖類、糖蛋白、ペプチド、タンパク質類、アミノ酸類、DNA類、RNA類、微生物類、酵母類、菌類、胞子類、植物断片組織、動物断片組織、薬剤類、ガラス粒子、レジン粒子、磁性体粒子、金属粒子、ポリマー、膨潤ゲル及び固化ゲルからなる群から選択される少なくとも一種類の物質から形成される請求項7又は8の何れかに記載のマイクロ流路チップ。
【請求項10】
前記第1の基板がポリジメチルシロキサン(PDMS)からなり、第2の基板がポリジメチルシロキサン(PDMS)又はガラスからなることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載のマイクロ流路チップの製造方法であって、少なくとも一方の基板の接着面側に、所望のパターンに従って、媒体により除去可能な材料をコーティング又は堆積させることからなるマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項12】
前記媒体により除去可能な材料層が、水溶性、水不溶性、有機溶媒可溶性及び有機溶媒不溶性からなる群から選択される粒径が10μm以下の粉体を主たる成分とする材料から形成されることからなる請求項11に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項13】
前記媒体により除去可能な材料のコーティング又は堆積は、該材料の塗布、噴霧及び印刷からなる群から選択される何れかの手段により行われることからなる請求項11に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項14】
少なくとも第1の基板と第2の基板とからなり、該第1の基板と第2の基板とが接着されており、少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の、媒体により除去可能な材料層が形成されており、該媒体により除去可能な材料層の少なくとも一方の端部は大気に向かって開口するポートに接続されているマイクロ流路チップの使用方法であって、
一方のポートから媒体を送入することにより前記材料層を除去し、該材料層が存在していた箇所に非接着状態の微小隙間を発生させ、前記ポートから陽圧を印加することにより該微小隙間を膨隆させるか、又は膨隆させずにマイクロチャネルとして使用することからなるマイクロ流路チップの使用方法。
【請求項15】
前記材料層を除去するための媒体は液体又は気体であることからなるマイクロ流路チップの使用方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−47438(P2009−47438A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210953(P2007−210953)
【出願日】平成19年8月13日(2007.8.13)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】