説明

マグネトロンスパッタリング装置、成膜方法及び有機電界発光素子の製造方法

【課題】 本発明は、有機電界発光素子作製において、電極、水分吸着膜、環境遮断膜からなる複数の膜を、環境雰囲気に素子特性が影響されずに、容易に連続成膜することが可能なスパッタリング装置及び成膜方法を提供することを課題とした。
【解決手段】
チャンバー内に、筒状のバッキングプレートと、バッキングプレートの高さ方向を回転軸方向とするバッキングプレート回転手段と、バッキングプレートの外面に配置された複数のターゲット設置部と、各ターゲット設置部の背面位置に設置された極性の異なる対のカソードマグネットと、基板と、基板と対向する位置に具備されたターゲットに接続する機構を有するスパッタリング用電源とを有するマグネトロンスパッタリング装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法に用いるスパッタリング装置、これを用いた透明電極形成方法及び有機電界発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜の応用分野は光通信、半導体レーザー、各種ディスプレイ、記録メディア、民生用機器(デジタルカメラ、プロジェクター、携帯電話、レンズ、ミラー、ランプ等)など多様化しており、透明導電膜の製造技術においては歩留まり向上などの量産時の安定性、また多層膜形成時の膜性能について重要な要求項目となってきている。
【0003】
有機電界発光素子は、2つの電極間に有機発光層を挟持した構造を有し、電極間に電流を流すことにより有機発光層を発光させるものであるが、発光した光を取り出すために、どちらか一方の電極を透明にする必要がある。そして、透明電極としてインジウム・錫酸化物(ITO)からなる透明導電膜等を用いることが提案されている(例えば、特許文献1、2、3、4参照)。
【0004】
上部光取り出し(トップエミッション)型の有機電界発光素子は、基材と反対側の電極を透明電極とするものであるが、このとき金属薄膜上に透明導電膜を形成することにより、陰極の保護と配線抵抗の低抵抗化を図ることが提案されている。また、透明導電膜を陰極とするために下地の有機発光層の保護や電子注入障壁低減を目的として、有機発光層と透明導電膜の間にバッファー層を挟持することが提案されている。透明導電膜形成には従来から行われている蒸着法、並びに近年光通信関連で利用されているプラズマやイオンビームによるアシスト蒸着法やイオンプレーティング法、イオンビームスパッタ法などが主に使用されており、その他としてsol/gel法、スプレー法などの湿式法を用いる場合もある。一方、半導体やフラットパネルディスプレイ、電子部品などの薄膜製造工程における量産装置に使用されている方式としてスパッタリング法がある。スパッタリング法は成膜速度や膜組成などが安定しており、また大面積基板への均一な成膜が可能であるため、量産化に適した方式として広く利用されている。更に膜厚及び導電性・透明性の均一性が高く、微細エッチング特性にも優れることから、主流ともなっている。
【0005】
トップエミッション型有機電界発光素子作製において、上部透明電極は有機電界発光素子で一般的に使用される蒸着法では成膜できず、スパッタリング法で成膜される。スパッタリング法は蒸着法と比較して堆積される粒子の運動エネルギーが大きいこと(数十倍〜数百倍)やプラズマ(O、Ar)が発生するため、基板へ形成されている有機電界発光層にダメージが入りやすい(非特許文献1参照)。ダメージが入った有機電界発光素子は駆動電圧が増加し、発光効率の低下、低寿命など様々な問題を引き起こす。そのため、トップエミッション型有機電界発光素子では、いかに有機電界発光層にダメージを与えず透明導電膜を作製するかが一つの技術課題となっている。
【0006】
また、トップエミッション型有機電界発光素子は有機層成膜前に反射電極(陽極)を形成しなければならない。そのため反射電極は反射率が大きいだけではなく、表面平坦性の確保が重要課題になる。
【0007】
蒸着法により基板上に導電膜をパターン形成する場合、蒸着法は熱的なエネルギーのみで基板に粒子を堆積させるため、基板に入射する粒子のエネルギーは0.1eV程度である。これに対し、スパッタリング法にて基板上に透明導電膜をパターン形成する場合、基板に入射する粒子のエネルギーは600eV程度と非常に高い。一般的に基板に入射する粒子のエネルギーが50eV程度以上になると、粒子が基板内に入り込んだり、基板を構成する原子が叩き出されたり、あるいは基板に欠陥を発生させるといった問題が発生する。
【0008】
有機電界発光素子は、電極形成されたガラス基板上に、正孔、電子両キャリアを効率良く注入させるため、機能分離された有機材料(正孔輸送層、発光層、電子輸送層)を積層し、その有機材料上に更に電極形成を行うことで実現する。有機材料に高分子系材料を用いた場合、高分子と電極の界面で電気化学反応により、金属が高分子中に溶解し、イオン伝導性の導電経路が作られるとともに、電極が腐食して破壊に至ることが報告されている。また、金属原子は発光を消光することが知られているが、電極から金属原子が溶解・拡散することによって、発光輝度の初期の急激な低下が起こることも報告されている。その後のゆっくりとした輝度低下は、局所的な絶縁破壊によってポリマーが化学的に劣化するとともに、電極が融解して損傷を受けるためだと考えられている(非特許文献2参照)。
【0009】
高分子系材料では電子注入電極にCaやBaなどの希土類元素を用いる例が多いが、希土類元素は有機層への注入障壁が十分に小さいと考えられており、仕事関数の観点では必ずしもバッファー層の挿入を必要としない。なお、高分子系有機電界発光素子で多く用いられているCa電極は仕事関数の観点から優れた材料であるが、高分子中に拡散してドーパントとなり、ルミネッセンスを消光するといった問題も起こす。このような有機−金属相互作用の問題は高分子と電極の界面に薄い酸化層が存在すると抑制されるが、高分子表面に残留した不純物、あるいはCa電極蒸着時の残留酸素によって、電極の蒸着時にそのような酸化物バッファー層が自然と形成される。従って、必ずしも超高真空下で完全に清浄されたポリマー表面に電極を蒸着するのが良い結果をもたらすとは限らない(非特許文献2参照)。
【0010】
トップエミッション型有機電界発光素子は、有機材料上に電子注入電極を蒸着法により形成した後、スパッタリング法にて透明電極を形成する必要がある。一方で成膜時、導入ガスである酸素による電極酸化、X線等の電磁波入射、更に高エネルギー粒子である反跳Arプラズマ、γ電子、ターゲット粒子などの飛散・衝突により有機薄膜の分子構造が破壊(結合断裂)され、有機発光材料本来の発光ポテンシャルが低下するという問題があり(非特許文献1参照)、これら高エネルギー粒子の飛散・衝突を如何に抑制するかが素子特性向上における重要課題となっていた。
【0011】
また、陰極の酸化や剥離などによるダークスポットの発生は、大気中の酸素や水分に起因する場合が多い。MgAg合金や安定な金属で被覆したCa電極を用いると、大気中で素子を動作させることも可能であるが、素子寿命は短く、特にCa電極を用いたπ共役系高分子有機電界発光素子は大気との接触を避ける手段が必要である。良好な素子特性を得るためには、素子作製において、有機層成膜、電極形成、水分吸着膜形成、環境遮断膜形成を大気遮断下で行うのが望ましい。しかし、一般的な有機電界発光素子作製では、有機層成膜、電極形成、素子封止に関してはグローブボックス、蒸着機、スパッタ装置などがクラスター、若しくはインライン状に連結された装置で行い、環境遮断膜に関してはCVD装置で別途形成を行っていた。このため、素子作製に時間を要すと同時に、特性が雰囲気環境に大きく依存してしまうという懸念があった。
【0012】
以下に公知文献を示す。
【特許文献1】特開2003−901158号公報
【特許文献2】特開2001−250678号公報
【特許文献3】特許第2850906号公報
【特許文献4】特開2005−68501号公報
【非特許文献1】「色変換方式有機ELによるフルカラー化の実現」 工業材料Vol.52 No.4 2004年4月発行
【非特許文献2】「有機EL素子とその工業化最前線」 宮田清蔵 エヌ・ティー・エス 1998年11月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は前記事情を鑑みてなされたものであり、有機電界発光素子作製において、電極、水分吸着膜、環境遮断膜からなる複数の膜を、環境雰囲気に素子特性が影響されずに、容易に連続成膜することが可能なスパッタリング装置及び成膜方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決させるために請求項1に係る発明としては、チャンバー内に筒状のバッキングプレートと、バッキングプレートをその周方向に回転させるバッキングプレート回転手段と、バッキングプレート外面の前記周方向に複数配置されたターゲット設置部と、各ターゲット設置部の背面位置に設置された極性の異なる対のカソードマグネットと、基板及び基板と対向する位置に具備されたターゲットに接続する機構を有するスパッタリング用電源とを有するマグネトロンスパッタリング装置とした。上記筒状とは柱体であってその内部がくり貫かれた空隙を有す形状を意味する。
【0015】
また、請求項2に係る発明としては、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング装置において、基板と、基板と対向する位置に具備されたターゲットとの間に、中心部の極性が同極となるよう外周部に磁石を設けたプラズマ荷電粒子補足用トラップを有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置とした。
【0016】
また、請求項3に係る発明としては、請求項2に記載のマグネトロンスパッタリング装置において、スパッタリング膜の下地、スパッタリング膜の要求性能などにより、プラズマ荷電粒子補足用トラップを、リニアガイドなどの搬送、位置制御手段により、撤去可能にしたことを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置とした。
【0017】
また、請求項4に係る発明としては、請求項1から3のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリング装置において、スパッタリング用電源として、直流電源と、高周波電源を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置とした。
【0018】
また、請求項5に係る発明としては、請求項4に記載のマグネトロンスパッタリング装置において、基板と対向する位置に具備されたターゲットの切り替えに応じて、前記スパッタリング用電源が切り替わる機構を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置とした。
【0019】
また、請求項6に係る発明としては、請求項1から5のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリング装置において、装置設置面に対して基板が垂直となるように構成されていることを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置とした。
【0020】
また、請求項7に係る発明としては、請求項1から6のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリング装置を用いて、スパッタリング法により成膜する成膜方法とした。
【0021】
また、請求項8に係る発明としては、請求項7に記載の成膜方法において、各ターゲット設置部にそれぞれ組成の異なるターゲットを配置し、スパッタリングするターゲットをバッキングプレートの回転により変更し、複数の膜を連続成膜することを特徴とする成膜方法とした。
【0022】
また、請求項9に係る発明としては、請求項8に記載の成膜方法において、ターゲットの導電特性に応じてスパッタリング用電源を切り替えることを特徴とする成膜方法とした。
【0023】
また、請求項10に係る発明としては、基材上に第一電極と有機発光層と第二電極を少なくともこの順に備え、電極間に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機電界発光素子の製造方法において、第二電極を請求項7から9のいずれかに記載の方法によりパターン形成した後、第二電極上に水分吸着膜、環境遮断膜からなる封止膜を請求項6から8のいずれかに記載の成膜方法により連続成膜することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法とした。
【0024】
また、請求項11に係る発明としては、請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法において、前記有機電界発光素子の第一電極が反射電極であり、第二電極が透明電極であることを特徴とするトップエミッション型有機電界発光素子の製造方法とした。
【0025】
また、請求項12に係る発明としては、請求項9または請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法において、有機発光層形成材料を溶媒に溶解または分散させインキとする工程と、該インキを用いてレリーフ印刷法により基材上に有機発光層を形成する工程を備えることを特徴とする有機電界発光素子の製造方法とした。
【発明の効果】
【0026】
本発明のマグネトロンスパッタリング装置では、複数のターゲットをバッキングプレートに設置して、このバッキングプレートが回転することにより、成膜基板に対向するターゲットを目的により変更できるため、複数の層を連続的に成膜することが可能となった。このため、各層の特性が環境雰囲気に影響されることなく、成膜することができる。
【0027】
本願発明であるスパッタリング装置は、金属薄膜若しくは透明導電膜形成に用いる導電性ターゲット用DC電源と、水分吸着膜若しくは環境遮断膜形成に用いる絶縁性ターゲット用RF電源をそれぞれ具備することで、ターゲット面切替の際、ターゲットの導電特性(抵抗率)により、電源も連動し切り替わる機構を有したことで、導電膜、絶縁膜双方のスパッタリング法による積層を可能にした。
【0028】
また、基板とターゲットとの間にプラズマ荷電粒子補足用トラップを設けることにより、トラップ外周部に形成された磁力線にプラズマ荷電粒子中のアクティブなγ電子をラーモア収束により効率よく捕捉し、正電荷であるArイオンについては運動方向を曲げることが可能になる。このため、プラズマ荷電粒子による素子へのダメージを低減することができる。また、磁力線はプラズマ荷電粒子のように極性を有したものを拡散させたり、捕捉したりする効果がある一方で、ターゲット粒子のような準中性粒子には、物理作用を与えないため、成膜レートの低下を引き起こさない。更に、このプラズマ荷電粒子補足用トラップを必要としない場合には、撤去、移送可能なものとすることで、成膜スピードを下げることなくスパッタリングを行えるため、連続成膜する際には好適である。
【0029】
また、基板が垂直に配置されることによって、基板が大型化した際でも、基板自重によるたわみの発生、メタルマスクアライメントずれによる成膜パターンのずれ等を低減することができ、装置の省スペース化も可能になる。
【0030】
また、有機電界発光素子作製において、透明電極から水分吸着膜、環境遮断膜の各層を連続して成膜できるために、環境雰囲気によって有機発光層を劣化させることなく、特性の優れた有機電界発光素子を作製することができる。特に、トップエミッション型の有機電界発光素子においては、スパッタリングによる素子のダメージを低減させて透明電極及び封止体を形成することができるために、好適である。
【0031】
レリーフ印刷法は、シンプルで経済性に優れた印刷法である。レリーフ印刷法の仕組みは、レリーフ刷版(樹脂版)表面に、アニロックスロールと呼ばれるローラーでインキをつけ、更にその版を被印刷基材に押し付けて転写する印刷方式である。アニロックスロール表面につき過ぎたインキはドクターブレードにより掻き落され、常に安定した量のインキが版表面に供給される。レリーフ印刷法を用いて、有機発光層をパターン形成することにより、有機発光層を各色に塗り分けることが可能で、かつレリーフ印刷法は非常に薄く均一なベタ印刷を得意とすることから、数十〜100nmの平坦性のある膜厚を制御するのに好適で、高品質な有機電界発光素子を作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に本発明の実施形態について説明する。
【0033】
<マグネトロンスパッタリング装置>
本発明のマグネトロンスパッタリング装置の構成例の模式図を図1、2に示した。図1は本装置を上部から見た模式図、図2は基板面にあたる本装置正面から見た模式図である。本発明のマグネトロンスパッタリング装置は、スパッタリングチャンバー内に、ターゲット(11)を回転させるためのシャフト(軸)(15)を設けた八角形柱からなるバッキングプレート(14)外面の四面にターゲット(11)が配置され、更にバッキングプレートの内面の各ターゲット背面位置に極性の相異なるカソードマグネット(12、13)が設けられている。更に上記回転機構に設置された各ターゲットのうち、基板(2)に対向したターゲットと、基板(2)の電極には導電性ターゲット用DC(直流)電源(10)及び絶縁性ターゲット用RF(高周波)電源(8)が接続されている。これら電源とターゲットとの接続は、シャフトの回転に応じて各ターゲットに切り替えられる機構となっている。また、ターゲット(11)と基板間にはプラズマ荷電粒子補足用トラップ(3)が設けられている。
【0034】
有機電界発光素子作製における陰極の酸化や剥離などによるダークスポットの発生は、大気中の酸素や水分に起因する場合が多い。MgAg合金や安定な金属で被覆したCa電極を用いると、大気中で素子を動作させることも可能であるが、素子寿命は短く、特にCa電極を用いたπ共役系高分子有機電界発光素子は大気との接触を避ける手段が必要である。良好な素子特性を得るためには、素子作製において、有機層成膜、電極形成、水分吸着膜形成、環境遮断膜形成を大気遮断下で行うのが望ましい。しかし、一般的な有機電界発光素子作製では、有機層成膜、電極形成、素子封止に関してはグローブボックス、蒸着機、スパッタ装置などがクラスター、若しくはインライン状に連結された装置で行い、環境遮断膜に関してはCVD装置で別途形成を行っていた。このため、前述したように、素子作製に時間を要すと同時に、特性が雰囲気環境に大きく依存してしまうというおそれがあった。
【0035】
そこで本装置では、バッキングプレートを筒状とし、中心部にターゲットを回転させるためのシャフト(軸)を設け、その外面に複数のターゲットを配置し、その内面の各ターゲットの背面該当位置に極性の相異なるカソードマグネットをそれぞれ設けたことで、蒸着法では一般的に行われている多層成膜をスパッタリング法でも行うことが可能となった。
【0036】
これにより、同一チャンバー内で電極から水分吸着膜、環境遮断膜形成に至る積層成膜が可能である。例えば、ターゲットの一面に電極形成用の金属酸化物半導体からなる焼結体を、もう一面に水分吸着膜形成用のアルミナ(Al)やシリカ(SiO)などからなる絶縁体焼結体を、更にもう一面に環境遮断膜形成用の窒化シリコン(Si)などからなる絶縁体焼結体をそれぞれ配置することで、上部透明電極及び水分吸着膜、環境遮断膜形成が同一チャンバー内で行えるとともに、有機層成膜から封止に至る有機電界発光素子作製プロセスが大気遮断下で完結される。
【0037】
また、複数の組成の異なるターゲットを予め配置しておくことで、ターゲット交換に関わる作業負荷、具体的には重量の大きいターゲットとバッキングプレートユニットのジャッキアップなどが必要なくなり、ターゲット組成の切り替えが大幅に簡素化される。
【0038】
なお、上記説明から明らかなように、図1、図2に示すスパッタリング装置の構成例は、必ずしもバッキングプレートが八角柱かつターゲットが4面である必要はなく、八角柱等の多角柱形状を有する筒状のバッキングプレートであればよい。このバッキングプレートの外面に配置された複数のターゲット設置部及びターゲット設置部の背面に配置された、カソードマグネットの極性が逆向きで対となっていれば良い。そして、バッキングプレートに接続された回転手段により周方向に回転し、目的とする基板に対してスパッタリング可能な位置にターゲットが配置される機構であればよい。
【0039】
次に、本発明装置のバッキングプレート(14)のターゲットには、スパッタリング用電源が接続される。スパッタリング用電源は、バッキングプレートの回転によって、スパッタリング可能位置に移動した各ターゲットに対して、それぞれ接続可能な機構となっている。更に、このスパッタリング用電源は、金属薄膜もしくは透明導電膜形成に用いる導電性ターゲット用DC電源(10)と、水分吸着膜もしくは環境遮断膜形成に用いる絶縁性ターゲット用RF電源(8)がそれぞれ接続されたものとすることができ、更にシャフト回転に伴うターゲット面切り替えの際、ターゲットの導電特性(抵抗率)により、電源も連動し切替わる機構を有するものとすることができる。
【0040】
また、本発明装置においては、DC電源及びRF電源の二種類のスパッタリング用電源を具備することが好ましい。スパッタリング法では、導電性ターゲットを用いた場合には直流電源を用いるのが一般的であるが、絶縁性ターゲットを用いた場合には高周波電源を用いる。DC電源の場合はターゲット側の電極に負電圧(数kV)を、RF電源の場合は交流電圧(通常は13.56MHz)を加える。高周波を加えてスパッタリングをするのは、プラズマ中のイオンと電子の動きやすさの差によってターゲット電極に直流の負のバイアスが加わるためである。直流スパッタリングにおいて絶縁物をターゲットとすると、ターゲットの表面が入射したイオンでチャージアップされて放電が止まってしまいスパッタリングができないという問題があるからである。本願発明のスパッタリング装置においては、金属薄膜もしくは透明導電膜形成に用いる導電性ターゲット用DC電源と、水分吸着膜もしくは環境遮断膜形成に用いる絶縁性ターゲット用RF電源をそれぞれ具備することによって、シャフト回転に伴うターゲット面切り替えの際、ターゲットの導電特性(抵抗率)に応じて、電源を連動して切替えることが可能となり、導電膜、絶縁膜双方のスパッタリング法による積層ができる。
【0041】
従来スパッタリング用トラップでは、ターゲットと基板間に設けたキャリアトラップ部でトラップ下部にプラズマ荷電粒子を完全に閉じ込めることが不可能であり、更にトラップにメッシュ等を用いた場合、開口率低下による成膜レートの低下、メッシュ等に付着したターゲット粒子がメッシュ材の熱膨張・収縮により滑落し、パーティクルとなってチャンバー内を汚染し、異常放電を引き起こす原因にもなっていた。本願発明であるターゲットと基板間にプラズマ荷電粒子を捕獲するため、ガラス基板よりも大きな金属板の中央部を抜き加工し、中心方向の極性が同極となるよう外周部に磁石を設けたものをトラップとすることで、トラップ外周部に形成された磁力線にプラズマ荷電粒子中のアクティブなγ電子をラーモア収束により効率よく捕捉し、正電荷であるArイオンについては運動方向を曲げることが可能になる。また、磁力線はプラズマ荷電粒子のように極性を有したものを拡散させたり、捕捉したりする効果がある一方で、ターゲット粒子のような準中性粒子には、物理作用を与えないため、成膜レートの低下を引き起こさない。
【0042】
また、本発明装置のプラズマ荷電粒子補足用トラップは、後述するように、透明電極スパッタリング成膜のような有機薄膜へのスパッタリングダメージ抑制が不可欠な成膜の場合はターゲットと基板間に搬送、設置され、水分吸着膜や環境遮断膜形成のようなスパッタリングダメージ抑制の考慮が必要でなく、成膜レートの上昇が重要となる場合は移送、撤去が可能である。
【0043】
また本装置は、装置設置面に対してターゲット面が垂直な位置関係にあり、基板も成膜時、対向して配置することが好ましい。従来のスパッタリング装置はプラナー(平板)型の場合、装置設置面とターゲット面が平行かつ、基板に対してターゲット面が下部側に平行に対向配置されたデポアップ方式を採用しているものが主流であった。デポアップ方式のスパッタリング装置は基板サイズが大型化(5G:1100mm×1300mm以上)した場合、ガラス基板の自重によるたわみ、これによるメタルマスクアライメントのずれなどの問題が顕著になる。本願発明の装置設置面に対して垂直に配置されたターゲット面に対し、基板も成膜時、対向して配置された、いわゆるサイドデポ方式のスパッタリング装置では、ガラス基板のたわみが低減されるともに、装置の省スペース化も可能になる。更にはパーティクル発生(特にノジュール:Inがイオン放射により酸素が遊離してInOとなる)も低下する。
【0044】
ITOは母結晶であるInが完全に化学量論比を満たす単結晶の場合、絶対零度では伝導帯に電子が存在せず、価電子帯は完全に電子で満たされているので絶縁的に振舞い、立方晶に属するbixbyiteと呼ばれる結晶構造を持つ。格子定数1.0118nmの単位格子中にはInが32個、Oが48個存在し電気的に中性を保つ。Inイオンに対して酸素イオンは立方体形に6配位し、2個の酸素欠陥(quasi−anion site)が配位している。この酸素欠陥に酸素を置換型固溶させることで膜抵抗及び光線透過率を制御する。即ち、スパッタ成膜時、酸素ドープを行うことで膜の低抵抗化、光線透過率の最適化を図る。
【0045】
本発明におけるプラズマ(6)とは、気体を構成している原子や分子は原子核の周りに電子が捕まえられた準中性状態であり、このような気体中では放電などにより外部からエネルギーを与えてやると電子は原子核の引力を振り切り自由になり、気体は電子と原子核(正イオン)がバラバラになった状態になる。これがプラズマ(6)である。プラズマ(6)は固体、液体、気体に並ぶ物質の第4状態といわれる。一方、プラズマ(6)中の粒子は電場やローレンツ力(電荷qをもつ粒子が磁界B中を運動するときに受ける力:−qv×B)、圧力勾配、粘性力などが存在するとき加速を受ける。プラズマ(6)は準中性状態を満たすため、一価の正イオンの場合、電子とイオンの密度は等しい。従って、プラズマ(6)の密度を求めるためにはどちらかの密度を調べれば良い。
【0046】
プラズマにおける各種荷電粒子をはじめとするプラズマ諸量測定法として静電短針法(ラングミューアプローブ法)がある。ターゲット粒子のような中性粒子を対象とする場合には分光計測を用いるが、荷電粒子を対象とする場合、ラングミューアプローブ法を用いる。ラングミューアプローブ法で計測可能なプラズマ諸量は、電子温度(T)、電子エネルギー分布関数(EEDF)、電子密度(N)、フローティングポテンシャル(V)、イオン密度(N)、プラズマポテンシャル(V)などである。計測は簡便で、プラズマ中に挿入したプローブユニット先端のプローブチップでの電圧−電流特性を計測することで得られる。この際、電子エネルギー分布関数(EEDF)はMaxwell−Bolzmann分布であることが前提である。
【0047】
プローブ電流すなわち、プラズマ電子電流(I)は熱平衡状態のEEDFをMaxwell−Bolzmann分布であると仮定すると、以下の式で表わされる。
Ie=1/4(e・S・N・C)・exp[(V−V)/T] e:電荷素量、S:プローブチップ表面積、C:電子熱運動平均速度、V:プローブ電圧
上式の係数部はプローブシース表面に達する電子の熱拡散電流を示し、指数部は障壁電界を飛び越えて、プローブチップの表面に到達する電子の割合を示す。
【0048】
物質の第4状態であるプラズマ(6)は物理・化学的に特異な性質を持っている。第一に高温であるので粒子の運動エネルギーが大きい。第二に電荷を持つ粒子の集団であるので導電性があり、金属のように振舞う。第三に化学的に活性であって反応性が高い。例えばメタンガスと水素ガスを混ぜて放電し、壁温を適度に設定すると壁面にダイヤモンドが析出してくる。第四にプラズマ(6)は光るので、光源として利用することができる。例えば、夜の街を彩るネオンサインやナトリウム・水銀などの放電を用いる照明はよく目にするところである。このようなプラズマ(6)の性質はプラズマ内の電子と気体分子との衝突に求めることができる。
【0049】
本発明におけるArイオンは、準中性状態のAr気体を放電などによりプラズマ化させたときに形成される正イオンである。
【0050】
二次電子であるγ電子はプラズマ電子がAr気体やターゲット粒子に衝突した際に放出される高エネルギーな電子である。
【0051】
図3に本発明装置における基板周辺部の説明図を示した。基板(2)はマスク(20)及びマスクフレーム(22)とマグネットホルダー(1)によって挟まれ、密着した構造となっている。基板(2)は、マスク(20)と密着した面に透明導電膜がマスクの開口(20a)形状に応じて、パターニングされる。本発明の透明導電膜形成方法にあっては、透明導電膜形成中に基板がペルチェ素子(19)によって冷却されている。ペルチェ素子(19)はマグネットホルダー(1)上に設けられる。
【0052】
ペルチェ素子(19)はかつ真空下で密着基板上部に据付けることで容易に基板及びマスク冷却が可能となる半導体素子である。ペルチェ素子(19)を設けるにあっては装置の大幅改造が不必要であり、簡単に基板及びマスクを冷却することができる。
【0053】
物質の両端に温度差を与えると、超伝導体以外なら必ず起電力が生じる。この現象をゼーベック(Seebeck)効果と呼び、これらを身近に利用しているのが温度測定に用いられる熱電対(Thermocouple)である。物質の高温端と低温端に外部回路を接続すれば、この熱起電力により電流を発生させ、電力として取り出すことができる。これとは逆に二種の物質を接合して電流を流すと接合点で電流の向きに応じて可逆的に熱が発生または吸収される。これをペルチェ(Peltier)効果と呼び、先述のゼーベック効果とは表裏一体の熱電現象である。電流を反転させるだけで可逆的に加熱と冷却が可能で、応答速度も極めて遅いので、熱電冷却や電子冷熱として、半導体レーザーや高感度の赤外線検出器やCCDなどの冷却、更に半導体製造プロセスや医療機器など精密な温度制御や局所的な急速冷却が要求される分野に広く利用される。ゼーベック効果及びペルチェ効果の二つの熱−電気の変換過程を総称し熱電変換(Thermoelectricconversion)と呼ぶ。
【0054】
ペルチェ素子(19)は、P型半導体(26a)とN型半導体(26b)を用いると、P型の熱電能はプラス、N型の熱電能はマイナスの符号を持ち、その相対熱電能は非常に大きいので、大きな熱電効果が得られる。図4にペルチェ素子の説明断面図を示した。図4に示したように、ペルチェ素子はセラミック基板(24)間にP型半導体(26a)、N型半導体(26b)を金属電極(25)を介して交互にΠ型に配列することにより、冷却または吸熱の能力をもつ素子となる。この素子は電流を流して温度差を起こさせるペルチェ効果を活用しており、ペルチェ素子と呼ばれる。
【0055】
<透明導電膜>
本願発明に用いられる透明導電膜の用途は多岐にわたる。透明導電膜は光に対する透明性と適度な導電性を有する薄膜材料として、光通信関連分野で広く実用化されている。中でもオプトエレクトロニクスデバイス用の電極として使用する場合、種々デバイスの使用条件に応じた要求を満たさなければならない。一方、透明導電膜は赤外線や紫外線を反射、吸収しカットする光学的特性や、電磁波を遮蔽する電磁気的特性を有しているため、熱線反射性、低輻射性、電磁波シールド性などを付加した機能性建材ガラスとしても利用が期待されている。
【0056】
透明導電膜とは、電気導電性が高く(比抵抗が10−3Ωcm以下)、可視光領域(380〜780nm)では透過率80%以上の二つの性質を併せ持つ薄膜のことをいう。高い電気導電性を発現するには、電荷を運ぶキャリアが充分にあり(キャリア濃度が高い)、これらのキャリアが充分に動きやすい(キャリアの移動度が大きい)ことが必要である。エネルギーバンドギャップが3.2eV以上の半導体では電子のバンド間遷移による光吸収は350〜400nm以上のエネルギー紫外光領域で生じ、可視光領域では生じないため透明である。このようにして透明導電膜形成材料としては、表1に示すように金属系、酸化物半導体系を主として様々な材料が開発されてきた。
【0057】
【表1】

【0058】
歴史的にはAu、Ag、Pt、Cu、Rh、Pd、Al、Crなどの金属を3〜15nm程度の薄い膜厚に成膜することにより、ある程度の可視光透過性を持たせた透明導電膜として使用されていた。これらの金属膜は耐久性の向上のために透明の誘電体薄膜で挟み込むように積層して使用されたりもしたが、金属薄膜は吸収が大きく、しかも硬度が低く安定性が悪いなどの本質的な問題があった。現在広く用いられている酸化物系透明導電膜では、化学量論組成から少し還元側にずれることによる酸素空孔などの真性欠陥がドナー準位を形成し、キャリア濃度が10+18〜10+19cm−3程度まで達する。キャリア濃度が10+18cm−3よりも増えるとフェルミ準位が伝導体に達し、縮退と呼ばれる状態になる。伝導体に伝導電子が存在していることから、金属に近い状態といえる。一般に酸化物系透明導電膜は比抵抗が10−1〜10−3Ωcmと低いn型の縮退半導体である。ある程度充分な伝導性を有する代表的な酸化物系透明導電膜としては、In、SnO、ZnO、CdO、CdIn、CdSnO、ZnSnO、In−ZnO系などが報告されている。更にはInにはSn、SnOにはSb、F、ZnOにはIn、Ga、Alなどをドーパントとして添加することによってキャリア濃度を10+20〜10+21cm−3に増加させ、比抵抗を10−3〜10−4Ωcm程度まで低下させることも可能である。
【0059】
これらの不純物ドーパントは、例えばAlをドープしたZnO薄膜の場合ではZnサイトにAlが置換型固溶することにより1原子あたり1個のキャリアを放出することできる。但し、現実には全てのドーパントが置換型固溶するわけではなく、結晶粒内に格子間原子として存在したり中性の散乱中心を形成したり、あるいは結晶粒界や表面に偏析したりする場合があるので、いかに有効なドーパントを置換型固溶させドーピング効率を向上させるかが、より低比抵抗の透明導電膜を作製するための非常に重要な要素となる。
【0060】
現在、液晶表示素子用の透明電極としては、SnをドープしたIn(ITO:Indium Tin Oxide)薄膜が広く用いられている。ITO薄膜は数百nm薄膜で90%以上の可視光透過率と2×10−4Ωcmの以下の比抵抗を持ち、更にウェットエッチングにより電極として加工する際の加工性が良いという利点も併せ持っている。しかし、ITOは還元雰囲気中(H存在下)での使用に対する耐性がやや劣るという欠点がある。また、Inは地殻埋蔵量の少ない希少金属であるため資源枯渇の問題を抱えており、現状でもかなり高価である。この状況はフラットパネルディスプレイや太陽電池などの需要増に伴い悪化の一途をたどると考えられている。そこで、環境を汚染することなく安価に実現できるITO以外の透明導電膜の新規材料の発見とその成膜技術の確立が望まれている。
【0061】
ITOはIndium tin oxideと呼ばれているが、その母結晶はInである。Snを酸化物換算で5〜10wt%添加した組成のITO(In:Sn)は絶縁体のように透明でありながら、導電性が高く(導電率≒10+3S/cm)、吸収も少ない。透明性と導電性は互いに関係があるが、1対1の対応があるわけではない。透明性はIn2O3結晶の構造的な完全性が高く、バンドギャップ内の電子捕獲準位が非常に少ないということであるが、それは結晶内の原子が結晶系の座標点(格子点位置)に正しく、過不足なく位置しているか否かで決まることである。In2O3試薬は黄白色であり、酸素をわずかに含む(分圧で10−1Pa以下)雰囲気中で蒸着またはスパッタ成膜すれば透明導電膜を得る。しかし、化合物としては酸素を手放しやすく、真空中加熱や数%の水素を含むような還元雰囲気中での加熱によって容易に還元され、還元が進めば青黒から黒、更に茶褐色にまで変色していく。導電性は母結晶のIn原子やSn原子で置換してやるか、酸素原子を必要十分に与えない条件の下で成膜することで発現する。
【0062】
ITOの透明性の物理的意味は半導体としてのバンドギャップが可視域の短波長限界400nm付近にあることに帰せられる。しかし、これだけでは不十分で、高い透明性を確保するにはバンドギャップ内に常温で電子が常駐するような準位が少ないか無視できるということである。このようなバンドギャップ内準位は酸素空孔や、In位置に置換したSn原子以外のIn、Sn原子または原子集団(クラスター)による格子欠陥に由来するものであり、母結晶自体が良質の結晶格子を形成しやすいものでなくてはならない。酸化性が極度に弱い雰囲気で成膜しない限り、Inはこの要件を満たす。実際、Inはガラス基板温度を300℃程度にしておけば、酸素がやや不足した雰囲気条件であっても、厚さ数十nmの段階から半値幅の狭い良く整ったX線回折パターンを示す。この結晶化しやすい特徴はSnを添加していっても、数十%程度までは失われない。SnO膜やZnO膜とは大きく異なる特徴である。
【0063】
<スパッタリング法による成膜方法>
次に、本発明における透明導電膜始めとする各種薄膜の成膜方法について説明する。本願発明は、スパッタリング法により基板上に主に透明電極を形成するものであり、スパッタリング法としては、イオンビームスパッタリング法、直流スパッタリング法、高周波スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法等を用いることが可能である。
【0064】
スパッタリング法は高速粒子をターゲットに入射、衝突させることで生ずる現象である。しかし、歴史的にはこの現象は放電管中で発見されたこと、更には簡便であることなどにより、高速粒子としてグロー放電で発生した正イオンを用いることが多い。直流二極スパッタリング法は、グロー放電をそのまま利用した最も簡便な薄膜作製法である。
【0065】
直流グロー放電は10〜10−2Torr程度の低圧力気体中に2枚の対向電極をおき、数百V以上の高電圧を印加したときに両電極間に生ずる冷陰極放電で、そのときの電流密度は10−1〜10+2A/mである。気体中には宇宙線などで自然発生した正イオンや電子が存在している。これらの荷電粒子が電場で加速されて電極に衝突する。正イオンに着目すると、電圧が高ければ正イオンは電極に衝突し二次電子を放出する。二次電子は電圧により加速され陽極に向かう。加速された二次電子のエネルギーが十分大きくなり、しかも気体分子の密度がある程度以上大きければ、それらは気体分子と衝突してイオン化し、イオンと電子を次々に生成し、いわゆるavalancheを生ずる。正イオンと電子は放電空間や電極中で再結合して中和するから、ある状態で定常に達する。このように二次電子の冷陰極放出を基本とする放電がグロー放電と呼ばれ、熱電子放出を基本とするアーク放電と区別される。マクロ的に見ると、生成された正イオンは陰極の周辺に正の空間電荷層を形成している。電圧降下は大部分、この層のところで生ずる。この層に隣接し陽極側に負の空間電荷層が生じている。正イオンの1個1個を見ると、それらは陰極に向かって加速され陰極に定常的に衝突している。このとき、陰極が二次電子を放出し、その他に二次イオン、中性粒子など陰極(ターゲット)物質を放出する。これが直流二極スパッタリングである。二次イオンの量は中性粒子の10−2程度なので、薄膜形成だけを考えるときは通常無視される。陰極から飛び出した中性粒子が基板に凝縮して薄膜を形成する。
【0066】
スパッタリング装置の真空室に放電ガスを導入し、直流電圧を真空室内の電極間に印加すると、印加電圧が一定値以上になると、真空室内に放電が発生する。この場合、放電電圧に必要な火花電圧は電極間の距離lと放電ガスの圧力pとの積p・lの関数で、一般にパッシェンの法則(Paschen‘s law)として知られている。平等電界の平行平板電極では、火花電圧VはV=a[pl/(log[p・l]+b)]で与えられ、p・lが一定値のときに火花電圧は最小になる。ここに、a、bは放電ガス及び電極材料で決まる定数である。通常スパッタリング放電では最小火花電圧より低いガス圧範囲にある。この場合、ガス圧を低くしすぎると、電子とガス分子との衝突が減り、電子による放電ガスの衝突電離が少なくなるから火花放電の発生が困難になる。従って、スパッタリング放電に必要な最低放電ガス圧pmは、pm≒λ/lとなる。ここにλは電子の放電ガス中の平均自由行程を示す。
【0067】
スパッタリング法による薄膜作製法の確立は薄膜応用を広げ、新材料開発に拍車をかけた。更なる改善を図ったスパッタリング法がマグネトロンスパッタリング法である。
マグネトロンスパッタリング装置の電極配置は直流二極、高周波などの装置と変わらない。但し、陰極の背後に磁石が取り付けられ、磁力線は閉じており、少なくとも磁力線の一部が陰極面と平行になるようにできている。陰極(ターゲット)下部に数個の磁石が置かれている。磁場は陰極(ターゲット)上でトロイダル型の一種のトンネルを作り、放電プラズマはほぼこのトンネル周辺に拘束される。磁束密度は200〜500Gs程度のものが多い。なお、磁石材料としてはBa−フェライト、アルニコ合金、Co−希土類合金、Nd系合金などが用いられる。
【0068】
マグネトロンスパッタリング法は平板状陰極面に磁場をかけて放電するマグネトロン放電により膜形成を行うスパッタリング法である。典型的には圧力≒5mTorr(Ar)において、電圧Vd≒600Vで20mA/cm程度の高電流密度の放電が得られる。このとき陰極面上に、数mmの薄い暗部を隔てて明るく輝くドーナツ状の高密度プラズマ(≒10+18m−3)が生成される。このドーナツの大半径R(≒4cm)は磁力線の形状でほぼ決まるが、ドーナツの厚さaは半径Rの位置の磁場(≒200Gs)と加速電圧Vdによって、電子のラーモア半径(ρe≒0.5cm)程度になる。なお、イオンは重くてラーモア半径が大きいので磁場は効かないと考えてよい。このように低い圧力でも高密度のプラズマが生成されるのは、次のような二次電子のE×Bドリフトによる周回運動の効果(マグネトロン効果)による。プラズマ内の正イオンは陰極暗部の電圧降下で加速されて陰極面をたたき、そこから二次電子を放出させる。この二次電子の暗部の電場で加速されてeVd(例えば600eV)程度の高いエネルギーを得る。この高エネルギー電子は無磁場では電極間の距離だけ走って陽極に吸収されて消滅するので、その寿命は短く電離効率が悪い。しかし、マグネトロン放電では陰極面に平行に磁場があるので、二次電子は陰極面上をE×Bドリフトをしながらサイクロイドを描いて、ドーナツに沿う方位角方向にぐるぐる周回する。その結果、二次電子が最終的に陽極に吸われて消滅するまでの寿命が長くなり、数多くの電離を起こしてドーナツ状の高密度プラズマができる。
【0069】
陽極は電子を捕集して電流を流す働きをするだけなので、陰極と対向させて平板状陽極をおく方式の他に、リング状の陽極面を陰極面と同じ平面上におく方式もよく用いられている。このマグネトロンプラズマは電流密度が高く、600eVもの高エネルギーでイオンが電子をたたくので、陰極材料を高速でスパッタする。低圧力なのでスパッタされた粒子の平均自由行程が長く、陰極に対向しておかれた基板上にスパッタ粒子を捕集して薄膜を堆積させることができる。
【0070】
以上のようなことから、マグネトロン方式の放電は、スパッタリングによる種々の薄膜の形成に標準的に用いられている。例えば、Al、W、Tiなどの金属薄膜や酸化膜、窒化膜などの形成に広く利用されている。直流マグネトロンプラズマは直流電流を流す必要があるので、陰極材料(スパッタ材料)は導電性でなければならない。そこで絶縁性の薄膜のスパッタリング成膜やエッチングにはRFマグネトロンプラズマが用いられる。すなわち、陰極にRF電圧をフローティングの状態で印加すると正イオンのチャージアップが打ち消され、陰極表面には直流の自己バイアス電圧が発生する。この電圧によってイオンが加速され、絶縁性の陰極材料もスパッタすることが可能になる。
【0071】
本発明のマグネトロンスパッタリング装置によるスパッタリング成膜では、前述のように、透明導電膜を形成する場合と、アルミナ、シリカ、窒化シリコン等の絶縁性の材料を形成する場合とで、ターゲットに応じてDC電源とRF電源を切り替えられる機構を具備することにより、素子にダメージを与えることなく機能の異なる素子の各層を成膜することが可能である。具体的には、バッキングプレートの回転によってスパッタリングするターゲットが変更した際に、ターゲットの導電特性に応じて、絶縁性のターゲットにはRF電源を使用し、導電性のターゲットの場合にはDC電源に切り替えて使用することで、連続して異なる材料を成膜することができる。
【0072】
ところで、特にRF電源でのスパッタリングにおいては、高エネルギープロセスのため、有機薄膜上へ透明導電膜を成膜する場合、下地の有機薄膜に反跳Arプラズマやγ電子、更には加速されたTarget粒子が衝突し大きなダメージを与えるという問題を有している。
【0073】
そこで本発明の装置を用いた成膜方法においては、高エネルギープロセスであるRF電源使用時には有機薄膜へのダメージを減らすために、前述したようなプラズマ荷電粒子補足用トラップ(3)を具備するものとした。更に、このプラズマ荷電粒子補足用トラップを必要としない場合には、撤去、移送可能なものとすることで、成膜スピードを下げることなくスパッタリングを行えるため、連続成膜する際には好適である。
【0074】
<有機電界発光素子の製造方法>
次に、本発明の有機電界発光素子の製造方法について述べる。本発明の有機電界発光素子においては、基材上に第一電極、有機発光層、第二電極がこの順に設けられている。また、第一電極・第二電極間には発光補助層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層等が必要に応じて設けられる。また、基材上に設けられた第一電極、有機発光層、第二電極は、両電極及び有機発光層等を環境中の水分等から保護することを目的として封止される。封止としては、ガラスキャップ、金属キャップを基材と貼り合わせる方法や、第一電極、有機発光層、第二電極が設けられた基材を、バリア層(環境遮断層)、水分吸着層等からなる封止膜により被覆する方法を用いることができる。
【0075】
また、第一電極及び第二電極の一方は陽極であり、もう一方が陰極となる。有機電界発光素子とは、電極間に電流を流すことにより有機発光層を発光させるものであるが、発光した光を基材側から取り出す方式をボトムエミッション方式、基材と反対側から取り出す方式をトップエミッション方式という。ボトムエミッション方式においては、有機発光層を基準として基材側の層は有機発光層で発光した光を透過させるために透明とする必要がある。すなわち、基材及び第一電極は透明性を有する必要がある。一方、トップエミッション方式の有機電界発光素子においては、有機発光層を基準として基材と反対側の層は有機発光層で発光した光を透過させるために透明とする必要がある。すなわち、第二電極は透明性を有する必要があり、また、封止によって光が遮断されないようにする必要がある。
【0076】
図5にトップエミッション方式の有機電界発光素子の説明断面図を示した。基材(28)上には、第一電極として反射電極(29)がパターン形成され、反射電極(29)間には隔壁(30)が形成され、反射電極(29)上に正孔輸送層(31)、有機発光層(32a、32b、32c)がこの順で設けられ、更に有機発光層(32a、32b、32c)上に電子注入性保護層(35)、第二電極として透明電極(36)が設けられている。そして、反射電極(29)、隔壁(30)、正孔輸送層(31)、有機発光層(32a、32b、32c)、電子注入性保護層(35)、透明電極(36)が設けられた基材は、封止膜(37)、樹脂層(38)、封止基材(39)で封止されている。また、反射電極、隔壁、正孔輸送層、有機発光層、電子注入性保護層、透明電極が設けられた基材を、乾燥剤としてCaOを成膜したガラス基板と直接貼り合わせ、封止しても良い。
【0077】
本発明のトップエミッション型有機電界発光素子において、基材(28)としては、ガラス基材やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。プラスチックフィルムを用いれば、巻き取りにより有機電界発光素子の製造が可能となり、安価に素子を提供できる。そのプラスチックフィルム材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等を用いることができる。また、電極を成膜しない側にセラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物等の他のガスバリア性フィルムを積層しても良い。また、有機電界発光素子をアクティブマトリクス方式の有機電界発光素子とする場合、基板は薄膜トランジスタ(TFT)を備えたTFT基材を用いる必要がある。
【0078】
有機電界発光素子の駆動方法としては、パッシブマトリクス方式とアクティブマトリクス方式があるが、本発明の有機電界発光素子はパッシブマトリクス方式の有機電界発光素子、アクティブマトリクス方式の有機電界発光素子のどちらにも適用可能である。パッシブマトリクス方式とはストライプ状の電極を有機発光層を挟んで直交させるように対向させ、その交点を発光させる方式であるのに対し、アクティブマトリクス方式は画素毎にトランジスタを形成した、いわゆる薄膜トランジスタ(TFT)基板を用いることにより、画素毎に独立して発光する方式である。
【0079】
パッシブマトリクス方式の有機電界発光素子では、走査するストライプ状の電極数が大きくなるほど各画素における点灯時間は短くなるため、ON状態では瞬間発光輝度を大きくする必要がある。瞬間発光輝度を大きくした場合には素子寿命が低下するので、走査するストライプ上の電極数が数百〜千数百本も必要な大容量ディスプレイには適さない。パッシブマトリクス方式の表示エリアは、陽極と陰極による単純マトリクスで構成されており、陰極と陽極が交差した部分で発光可能である。Rowラインすなわち陰極が選択された時のみ点灯するデューティ駆動であり、また駆動用ドライバICは外付け実装する必要がある。有機電界発光素子は応答性が速く、残光特性がないため、パッシブ型のようなデューティ駆動が可能である。
【0080】
アクティブマトリクス方式の有機電界発光素子では、画素毎にスイッチング素子とメモリ素子(アクティブ素子)を設けているため、1回の走査周期の間動作状態を保持することができるため、ディスプレイを大型化しても瞬間発光輝度は小さくても良く、耐久性にも優れる。また、パッシブマトリクス方式に比べ、低電圧駆動なので、消費電力も小さくすることができる。従って、ディスプレイの大面積化や高精細化にはアクティブマトリクス方式の方が優れているといえる。
【0081】
有機電界発光素子は電流駆動であるため、比較的大きな電流を流すことができるTFTが必要である。このため、アクティブマトリクス方式には、移動度が高い低温p−Si TFT基板が採用されている。低温p−Si TFTは安価なガラス基板を用いて製造でき、また周辺ドライバ回路を内蔵することができるため、コンパクトなディスプレイ作製が可能である。アクティブマトリクス方式有機電界発光ディスプレイの応用分野は、TFTを用いたアクティブマトリクス型液晶ディスプレイの応用分野と重なっている。従って、市場規模は巨大であり、将来的に、液晶ディスプレイの置き換えや有機電界発光素子特有の新しい市場開拓ができ、その成長性が大いに期待されている。
【0082】
第一電極である反射電極(29)は、陽極として、Mg、Al、Cr等の金属材料を蒸着法やスパッタリング法といった真空成膜法により形成することができる。また、反射電極としては、Mg、Al、Cr等の反射電極とITO等の透明電極との2層構成としても良い。このとき、ITOは陽極界面層として設けられる。
【0083】
反射電極(29)形成後、反射電極縁部を覆うようにして反射電極間に隔壁(30)が形成される。隔壁(30)は絶縁性を有する必要があり、感光性材料等を用いることができる。感光性材料としてはポジ型であってもネガ型であっても良く、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂等を用いることができ、フォトリソグラフィー法により露光工程、現像工程を経て、隔壁(30)は形成される。
【0084】
そして、反射電極(29)上には、正孔輸送層(31)が設けられる。正孔輸送層形成材料としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)等を用いることができる。PEDOT/PSSは水に溶解させ塗工液とし、スピンコート法等により基板上に塗工され、乾燥される。
【0085】
正孔輸送層(31)上には、有機発光層(32a、32b、32c)が設けられる。有機電界発光素子をフルカラー表示させる場合には、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)、それぞれの発光色を有する有機発光層を画素毎にパターニングする必要があり、図5においては、赤色有機発光層(32a)、緑色有機発光層(32b)、青色有機発光層(32c)を有している。有機発光層形成材料としてはポリパラフェニレンビニレン(PPV)やポリフルオレン(PF)等を用いることができる。これらの有機発光材料は、トルエン等の芳香族系有機溶媒に溶解させインキとし、印刷法を用いることにより、3色にパターニングされる。
【0086】
印刷方法としては、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、レリーフ印刷法等を用いることが可能であるが、中でもレリーフ印刷法は、シンプルで経済性に優れた印刷法であり、有機電界発光素子の作製に好適に使用することができる。図7を基に、レリーフ印刷法における印刷工程について以下に説明する。
【0087】
レリーフ刷版(43)の表面に、アニロックスロール(41)でインキを付け、更にそのレリーフ刷版(43)を圧胴を介して、被転写基板(44)に押し付ける。アニロックスロール(41)表面に付き過ぎたインキはドクターブレード(40)により掻き落され、常に安定した量のインキが版の表面に供給される。
【0088】
レリーフ印刷はアニロックスロール(41)で厚みのある高弾性の樹脂凸版に水性インキまたはUVインキを付け、直接、被印刷体に印刷する。そのため、レリーフ印刷は平滑性の悪い面やフィルム、布等、フレキシブル基材にも対応する。また、非常に薄く均一なベタ印刷を得意とするため、数十〜100nmの平坦性のある膜厚を必要とする有機発光層の形成に好適であり、様々な樹脂や薬品を塗り重ねることにより、更に印刷精度を高めることも可能である。近年、レリーフ印刷の技術革新により、高精緻で精巧な多色表現が可能となっている。また、水性インキがレリーフ印刷に適応していることから、環境性が高いとされ、特に食品、医薬品のパッケージ分野において広く利用されている。更にインキの塗布量が少ないことから、残留溶剤も少ない。
【0089】
次に、有機発光層(32a、32b、32c)上に電子注入性保護層(35)を設ける。電子注入性保護層形成材料としては、CaやBa等の低仕事関数である希土類元素を用いることができ、これらの希土類元素を真空蒸着法により成膜し、電子注入性保護層を形成する。
【0090】
次に、電子注入性保護層(35)上に陰極として透明電極(36)を設ける。透明電極の形成にあっては、先程示した本発明の透明導電膜形成方法を用いることができる。トップエミッション型の有機電界発光素子においては、透明電極を形成する際に本発明の透明導電膜形成方法を好適に用いることができる。本発明の透明導電膜形成方法は、スパッタリング法で成膜する際に、有機発光層といった有機薄膜へのダメージを低減させることができるため、発光特性の優れた有機電界発光素子を得ることができる。また、本発明の透明導電膜形成方法は成膜中のパターニング用マスクの温度上昇を抑えることができる。従って、マスクの熱膨張や熱変形を抑えることができ、透明電極を正確にパターニングすることも可能となる。なお、本発明の有機電界発光素子は、反射電極を陰極、透明電極を陽極としても良い。
【0091】
次に、反射電極(29)、隔壁(30)、正孔輸送層(31)、有機発光層(32a、32b、32c)、電子注入性保護層(35)、透明電極(36)が形成された基材(28)に対し、封止を行う。まず、基材(28)全体に封止膜を形成する。
【0092】
封止膜(37)は、例えば、水分吸着層と、水分吸着層上の環境遮断層からなるものとすることができる。水分吸着層としては、アルミナ、シリカ、酸化カルシウム(CaO)等を用いることができる。また環境遮断層としては、窒化珪素膜、酸化珪素膜、窒化酸化珪素膜等を用いることができる。これらの封止膜を構成する層はスパッタリング法により形成することができる。
【0093】
本発明の有機電界発光素子の製造方法においては、上述の本発明のマグネトロンスパッタリング装置を上記透明電極のパターン及び封止膜の形成に用いる。本発明装置を用いれば、透明電極から水分吸着層、環境遮断層まで、外気に触れることなく、連続的に成膜できる。よって、各層が環境雰囲気に影響されることなく形成することが可能であるために、特性の優れた有機電界発光素子を作製することができる。
【0094】
次に、封止膜(37)が設けられた基材は、樹脂層(38)を介して、封止基板(39)と貼り合わされる。封止基板(39)としては、透明性を有していれば良く、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラスやプラスチック材料を用いることができる。または、上記ガラスにCaOを形成した基材を封止基材として、両者を貼り合わせしても良い。これにより、乾燥剤を挿入せず封止を行うことが可能である。また、ガラスを直接、基材上部に貼り合わせすることから、封止基材での光吸収やキャップ構造のガラスを用いた場合に生じる光路長の変化が起きず、光取り出し効率を向上させることもできる。樹脂層(38)としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を挙げることもできる。
【0095】
貼り合わせ方法については、加熱したロールによる圧着による方法を用いることができる。また、樹脂層として光硬化型接着性樹脂を用いた場合には、紫外光等を照射することにより貼り合わせることができる。
【0096】
また、本発明の有機電界発光素子においては、基材及び封止基材に可とう性のあるプラスチック基材を用いることにより、フレキシブル有機電界発光素子とすることができる。
【0097】
また、本願発明の有機電界発光素子においては、両電極を透明電極とし、基材を透明基材とし、封止を透明材料により行うことにより、透明有機電界発光素子とすることができる。図6に透明有機電界発光素子の説明断面図を示した。図6では、透明基材(28)上に第一電極として透明電極(29)が形成され、更に図5と同様に、隔壁(30)、正孔輸送層(31)、有機発光層(32a、32b、32c)、電子注入性保護層(35)、透明電極(36)が形成されている。更に、透明性を有する封止膜(37)、樹脂層(38)、封止基材(39)によって封止されている。透明有機電界発光素子においては、基板側、基板と反対側の両面から画像を表示することが可能となる。
【実施例】
【0098】
基板としてガラス基板を用い、基板上に陽極である反射電極としてCr、陽極界面層としてITOをスパッタリング法により積層形成した。得られた基板上のCr及びITOの積層膜はフォトリソ法によりパターニングを行い、ストライプパターンとした。次に、ストライプ状のCrの端部を覆うように、ポリイミド材料を用い、フォトリソ法により隔壁を形成した。次に、正孔輸送材料としてPEDOT/PSSを用い、これを水に溶解し塗工液とし、スピンコート法により正孔輸送層を形成した。
【0099】
次に、ポリフルオレン(PF)からなる緑色有機発光材料を用い、この緑色有機発光材料をトルエンに溶解しインキとし、レリーフ印刷法によりストライプ状に有機発光層を形成した。次に、蒸着法により有機発光層上にBa、Alからなる電子注入性保護層を、陽極のCrストライプパターンと直交するようにマスクを用いて成膜した。
【0100】
次に、本発明の透明導電膜形成方法を用いて透明電極を形成した。スパッタリング用トラップ材質にはオーステナイト系ステンレス(SUS316)を用い、スパッタリング装置にはDCマグネトロンスパッタ装置を用いた。また、基板上と接触するようにマスクを設け、マスクはマグネットホルダーにより固定した。また、基板の透明電極成膜面と反対側にはペルチェ素子を設けた。スパッタリング条件は、ガス圧力が1.0Pa、Arガス流量が150sccm、酸素ガス流量が0.7sccm、放電パワーが2.0kW、ターゲット−基板間距離が200mmである。このとき、透明電極であるITOは電子注入性保護層と重なり、反射電極であるCrのストライプパターンと直交し150nmの膜厚となるよう成膜した。なお、スパッタリング成膜中においてのマスク温度は50℃であった。
【0101】
更に有機電界発光素子の発光領域全面に、本願発明のスパッタリング装置のターゲット回転シャフト(15)を回転させ、アルミナ(Al)からなる水分吸着膜を200nmと、窒化シリコン(Si)からなる環境遮断膜を600nm、スパッタリング法により順次形成した。なお、環境遮断膜形成において、CVD法で膜形成した際の基板温度は130℃であったが、本願発明のスパッタリング法で膜形成した場合、基板温度は60℃であった。最後にガラス基板と貼り合わせることにより封止を行い、トップエミッション型有機電界発光素子を得た。
【0102】
得られた有機電界発光素子の素子特性は、最高輝度が10000cdm−2、最大電流効率は3.0cdA−1である。
【0103】
(比較例)
実施例と同様に反射電極、隔壁、正孔輸送層、有機発光層、電子注入性保護層を形成したガラス基板に対し、実施例と同様にDCマグネトロンスパッタリング装置を用い、透明電極の成膜を行った。但し、水分吸着膜形成に蒸着法を用い、環境遮断膜形成にCVD法を用いた。なお、各膜の層構成(組成、膜厚)、更に透明電極形成におけるスパッタリング条件は実施例と同じである。
【0104】
このとき、CVD法にて環境遮断膜形成中の基板温度は130℃であり、実施例1と比較して80℃高い結果となった。また、透明電極が形成された基板に対し、実施例と同様に封止を行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子の最高輝度は2000cdm−2、であり、最大電流効率は1.0cdA−1であった。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は本発明のマグネトロンスパッタ装置の上面側模式図である。
【図2】図2は本発明のマグネトロンスパッタ装置の正面側模式図である。
【図3】図3は透明導電膜形成方法における基板周辺部の説明図である。
【図4】図4はペルチェ素子の説明断面図である。
【図5】図5はトップエミッション型有機電界発光素子の説明断面図である。
【図6】図6は透明有機電界発光素子の説明断面図である。
【図7】図7は本発明のレリーフ印刷法による印刷工程の模式図である。
【符号の説明】
【0106】
1 マグネットホルダー
2 ガラス基板
3 スパッタリング用トラップ
4 トラップ用マグネット
5 磁力線(開放磁場形成)
6 プラズマ
7 磁力線(トロイダル型磁場)
8 RF電源
9 コンデンサー
10 DC電源
11 スパッタリング用ターゲット
12 カソードマグネット(N極)
13 カソードマグネット(S極)
14 バッキングプレート(OFC)
15 ターゲット回転シャフト
16 基板搬送ゲート
17 スパッタリングチャンバー
18 基板搬送方向
19 ペルチェ素子
20 マスク
20a マスクの開口部
22 マスクフレーム
23 リード線
24 セラミック基板
25 金属電極
26a P型半導体
26b N型半導体
28 基材
29 反射電極(第一電極)
30 隔壁
31 正孔輸送層
32a 赤色(R)有機発光層
32b 緑色(G)有機発光層
32c 青色(B)有機発光層
35 電子注入性保護層
36 透明電極(第二電極)
37 封止膜
38 樹脂層
39 封止基材
40 ドクターブレード
41 アニロックスロール
42 版胴
43 レリーフ刷版
44 被転写基材
L 発光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に筒状のバッキングプレートと、バッキングプレートをその周方向に回転させるバッキングプレート回転手段と、バッキングプレート外面の前記周方向に複数配置されたターゲット設置部と、各ターゲット設置部の背面位置に設置された極性の異なる対のカソードマグネットと、基板及び基板と対向する位置に具備されたターゲットに接続する機構を有するスパッタリング用電源とを有するマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング装置において、基板と、基板と対向する位置に具備されたターゲットとの間に、中心部の極性が同極となるよう外周部に磁石を設けたプラズマ荷電粒子補足用トラップを有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のマグネトロンスパッタリング装置において、スパッタリング膜の下地、スパッタリング膜の要求性能などにより、プラズマ荷電粒子補足用トラップを、リニアガイドなどの搬送、位置制御手段により、撤去可能にしたことを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリング装置において、スパッタリング用電源として、直流電源と、高周波電源を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項5】
請求項4に記載のマグネトロンスパッタリング装置において、基板と対向する位置に具備されたターゲットの切り替えに応じて、前記スパッタリング用電源が切り替わる機構を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリング装置において、装置設置面に対して基板が垂直となるように構成されていることを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリング装置を用いて、スパッタリング法により成膜する成膜方法。
【請求項8】
請求項7に記載の成膜方法において、各ターゲット設置部にそれぞれ組成の異なるターゲットを配置し、スパッタリングするターゲットをバッキングプレートの回転により変更し、複数の膜を連続成膜することを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
請求項8に記載の成膜方法において、ターゲットの導電特性に応じてスパッタリング用電源を切り替えることを特徴とする成膜方法。
【請求項10】
基材上に第一電極と有機発光層と第二電極を少なくともこの順に備え、電極間に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機電界発光素子の製造方法において、第二電極を請求項7から9のいずれかに記載の方法によりパターン形成した後、第二電極上に水分吸着膜、環境遮断膜からなる封止膜を請求項7から9のいずれかに記載の成膜方法により連続成膜することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法において、前記有機電界発光素子の第一電極が反射電極であり、第二電極が透明電極であることを特徴とするトップエミッション型有機電界発光素子の製造方法。
【請求項12】
請求項9または請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法において、有機発光層形成材料を溶媒に溶解または分散させインキとする工程と、該インキを用いてレリーフ印刷法により基材上に有機発光層を形成する工程を備えることを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−261031(P2008−261031A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105771(P2007−105771)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】