説明

マスク、成膜方法、発光装置および電子機器

【課題】例えば、陰極のような線状体を優れた寸法精度で形成することができる気相成膜法で用いられるマスク、かかるマスクを用いて線状体を形成する成膜方法、かかる成膜方法により形成された線状体を備える特性の高い発光装置および電子機器を提供すること。
【解決手段】マスク40は、基板の一方の面側を固定し、他方の面側より気相プロセスにより供給し、ほぼ平行に併設される複数の線状体を、基板の表面に形成するのに用いられ、前記線状体のパターンに対応する複数の開口部42を有するマスク本体41と、開口部42を横断するように設けられ、自重によるマスク本体51の変形を防止する機能を有する補強梁44とを備え、この補強梁44は、開口部42の厚さ方向において、前記他方の面側に偏在するように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク、成膜方法、発光装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陰極と陽極との間に少なくとも蛍光性有機化合物(発光材料)を含む発光層を有する有機半導体層を挟んだ構成となっており、この発光層に電子および正孔(ホール)を注入して再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光させる素子である。
この有機EL素子は、10V以下の低電圧で、100〜100000cd/m2程度の高輝度の面発光が可能であること、また、発光材料の種類を選択することにより、青色から赤色までの発光が可能なこと等の特徴を有し、安価で大面積フルカラー表示を実現し得る表示装置(発光装置)が備える素子として注目を集めている。
【0003】
このような発光装置して、例えば、特許文献1に示されているような、パッシブマトリクス型の発光装置が提案されている。このパッシブマトリクス型の発光装置では、複数の直線状の陽極と陰極とが互いにマトリクス状に交差するように対向するように設けられ、これらの電極同士が交差する位置に対応するように、電極同士の間に、それぞれ、有機半導体層が個別に設けられた構成となっている。そして、互いに交差する電極間のON/OFFをそれぞれ制御することにより、個別に設けられた有機半導体層を独立して発光させることによりフルカラー表示を実現している。
ここで、このような発光装置では、一般的に、基板上に陽極、有機半導体層および陰極とがこの順で積層された構成となっているが、直線状の陰極は、この陰極を形成するのに先立って基板上に設けられた絶縁性の隔壁部で規制することにより形成される。
【0004】
ところが、この隔壁部は、主として感光性樹脂材料で構成され、この隔壁部を形成する際に用いられるフォトリソグラフィー法等により、水分等を含んだ状態で形成される。そのため、この水等により有機半導体層が経時的に変質・劣化して、有機EL素子の発光効率等の特性が低下するという問題がある。
このような問題を解決する方法として、前述したような隔壁部の形成を省略して、直線状の陰極の形状に対応した開口部を有するシャドーマスク(以下、単に「マスク」という。)を用いて、真空蒸着法のような気相成膜法により陰極を形成する方法がある。
【0005】
ところが、陰極の形状に対応した開口部を備えるマスクを形成すると、マスクの基材の剛性が低下することに起因して、開口部に撓みや歪みが生じることとなる。そのため、このようなマスクを用いて形成された陰極は、その形状が開口部と同様に、撓みや歪みを有するものとなる。その結果、発光装置が備える各有機EL素子の発光効率等の特性に、バラツキが生じているのが実情である。
このような問題は、例えば、ほぼ平行に併設される複数の細幅の金属配線を、気相成膜法を用いて一括して形成する場合においても同様に生じている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−315981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、例えば、陰極のような線状体を優れた寸法精度で形成することができる気相成膜法で用いられるマスク、かかるマスクを用いて線状体を形成する成膜方法、かかる成膜方法により形成された線状体を備える特性の高い発光装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のマスクは、基板に一方の面側を固定し、他方の面側より膜材料を気相プロセスにより供給し、ほぼ平行に併設される複数の細幅の線状体を、前記基板の表面に形成するのに用いられるマスクであって、
前記線状体のパターンに対応する複数の開口部を有するマスク本体と、前記開口部を横断するように設けられ、自重による前記マスク本体の変形を防止する機能を有する補強梁とを備え、
前記補強梁は、前記開口部の厚さ方向において、前記他方の面側に偏在するように設けられていることを特徴とする。
これにより、例えば、陰極のような線状体を優れた寸法精度で形成することができる気相成膜法で用いられるマスクとすることができる。
【0009】
本発明のマスクでは、前記マスク本体と前記補強梁とは、一体的に形成されていることが好ましい。
これにより、マスク本体と補強梁とを一括して形成することができるとともに、寸法精度に優れたマスクを形成することができる。すなわち、マスクを形成する際の製造工程の削減を図るとともに、寸法精度に優れたマスクを確実に得ることができる。
本発明のマスクは、主としてシリコンで構成されていることが好ましい。
これにより、マスクを比較的容易に形成することができる。
【0010】
本発明のマスクでは、前記一方の面には、金属層が形成されていることが好ましい。
かかる構成のマスクとすれば、マスクを基板に装着する際に、マスクと基板との間に磁界を付与することにより、マスクの基板への密着性の向上を図ることができる。これにより、マスク本体の自重により、マスクと基板との間に空間(隙間)が形成されるようになるのを確実に防止することができる。
【0011】
本発明のマスクでは、前記金属層は、無電解メッキ法を用いて形成されたものであることが好ましい。
無電解メッキ法によれば、均一な膜厚の金属層をマスク本体上に比較的容易に形成することができる。
本発明のマスクでは、前記金属層は、コバルト、鉄およびニッケルのうちの少なくとも1種を主材料として構成されていることが好ましい。
かかる材料で金属層を構成することにより、基板にマスクを密着性よく装着(付着)させることができる。また、無電解メッキ法により、比較的容易に均一な膜厚の金属層を形成することができる。
【0012】
本発明のマスクでは、前記補強梁は、前記開口部の長手方向に沿って、ほぼ等しい間隔で複数設けられていることが好ましい。
これにより、隔壁部の強度がその長手方向に沿って均一な大きさで増大することから、隔壁部の各部において撓みや歪みが生じるのを確実に防止することができる。
本発明のマスクでは、前記開口部は、その長手方向の途中に、幅が増大した拡幅部を有し、
該拡幅部に前記補強梁が設けられていることが好ましい。
これにより、形成される線状体において、断線が生じるのが確実に防止されるとともに、その膜厚の均一化を図ることができる。
【0013】
本発明のマスクでは、前記補強梁は、その幅が一方の面側から他方の面側に向かってほぼ一定となっていることが好ましい。
これにより、形成される線状体において、断線が生じるのが防止される。
本発明のマスクでは、前記補強梁は、その幅が一方の面側から他方の面側に向かって漸増する部分を有することが好ましい。
これにより、形成される線状体において、断線が生じるのが確実に防止されるとともに、その膜厚の均一化を図ることができる。
【0014】
本発明の成膜方法は、前記膜材料を供給する膜材料供給源に対向し、回転可能に設けられた基板ホルダーに保持された前記基板に本発明のマスクを装着する工程と、
前記膜材料供給源と前記基板との距離とが最大となる第1の位置と、前記第1の位置に対して、前記基板ホルダーの回転中心を中心とした点対称な第2の位置の間で、前記基板を少なくとも1回変位させて、前記膜材料供給源から供給された前記膜材料を、前記開口部を通過させて前記線状体を形成する工程とを有する成膜方法であって、
前記基板ホルダーの回転中心の軸と前記膜材料供給源の中心軸との離間距離をA[cm]とし、前記マスクと前記膜材料供給源の開口部との離間距離をB[cm]とし、前記補強梁の前記開口部の長手方向に沿った方向の最大長さをp[μm]とし、前記基板と前記補強梁との離間距離をr[μm]としたとき、p/r<2A/Bなる関係を満足するように設定したことを特徴とする。
かかる関係を満足することにより、膜材料が補強梁をより確実に周り込むようになり断線のない線状体を基板の表面により確実に形成することができる。
【0015】
本発明の成膜方法では、前記基板の前記第1の位置と前記第2の位置との間での変位は、前記基板ホルダーを回転させることにより行われることが好ましい。
これにより、第1の位置と第2の位置との間を、少なくとも1回変位させて、断線のない線状体を基板の表面により確実に形成することができる。
本発明の成膜方法では、前記基板の回転は、連続的または間歇的に行われることが好ましい。
これにより、第1の位置と第2の位置との間を、少なくとも1回変位させて、断線のない線状体を基板の表面により確実に形成することができる。
【0016】
本発明の発光装置は、本発明の成膜方法を用いて形成された線状体を備えることを特徴とする。
これにより、断線のない線状体を備える発光装置とすることができる。
本発明の発光装置では、前記線状体は、陰極であることが好ましい。
これにより、断線のない陰極を備える発光装置とすることができる。
本発明の電子機器は、本発明の発光装置を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子機器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のマスク、成膜方法、発光装置および電子機器について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<マスク>
まず、本発明のマスクについて説明する。
<<第1実施形態>>
まず、本発明のマスクの第1実施形態について説明する。
図1は、本発明のマスクの第1実施形態を示す斜視図であり、図2は、開口部の他の構成を示す平面図であり、図3は、補強梁の他の構成を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図1および図3中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0018】
本発明のマスクは、基板に一方の面側を固定し、他方の面側より、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法およびイオンプレーティング法等の物理的気相成膜(PVD)法や、化学的気相成膜(CVD)法のような気相成膜法を用いた気相プロセスにより膜材料を供給して、ほぼ平行に併設される複数の細幅の線状体(以下、単に「線状体」という。)を前記基板の表面に形成する際に用いられるものである。
【0019】
このようなマスク40は、マスク本体41と、補強梁44とで構成されている。
マスク本体41には、図1に示すように、形成すべき線状体のパターン(形状)に対応する複数の開口部42が設けられている。
本実施形態では、各開口部42は、平面視で細幅な直線状をなし、互いにほぼ平行、かつ、ほぼ一定間隔で設けられている。これにより、各開口部42同士は、薄板状の隔壁部43により区画されている。
【0020】
ここで、本発明のマスクでは、開口部42を横断するように補強梁44が設けられている。そのため、マスク40を基板に装着した際に、その自重により薄板状に形成された隔壁部43(マスク本体41)に撓みや歪みが生じること、すなわち、隔壁部43の形状に変形が生じることが防止される。その結果、開口部42の変形をも防止できることから、このマスク40を用いることにより、寸法精度の高い線状体が形成されることとなる。
さらに、本発明のマスクでは、この補強梁44は、その厚さが開口部42の高さに対して小さくなっており、このマスク40の一方の面側を前記基板に固定した際に、マスク40の他方の面側に偏在(位置)するように設けたことに特徴を有する。すなわち、補強梁44と前記基板との間に空間を設けたことに特徴を有する。
【0021】
補強梁44をかかる構成とする(開口部42に設ける)ことにより、マスク40を用いて基板上に線状体を形成する際に、形成される線状体が断線することなく連続的に形成することができる。
すなわち、基板の線状体を形成する面から補強梁44を離間させることにより、気相成膜法で線状体を形成する際に用いられる膜材料が、他方の面側から開口部42を通過して前記面に被着する際に、補強梁44の周囲から斜め方向に入射して周り込むことができる。そのため、線状体を断線させることなく連続的に形成することができる。なお、この線状体の成膜方法(成膜条件等)については、後に詳述する。
【0022】
ところで、補強梁44の数および設置位置等は、隔壁部43の強度等に応じて隔壁部43の変形が防止されるように任意に設定するようにすればよいが、本実施形態のように、複数(2つ以上)の補強梁44を設ける場合には、補強梁44は、開口部42の長手方向に沿って、ほぼ等しい間隔で設けられているのが好ましい。これにより、隔壁部43の強度がその長手方向に沿って均一な大きさで増大することから、隔壁部43の各部において撓みや歪みが生じるのを確実に防止することができる。
【0023】
また、本実施形態では、マスク本体41と補強梁44とは一体的に形成されている。かかる構成とすることにより、後述するマスクの形成方法により、マスク本体41と補強梁44とを一括して形成することができるとともに、寸法精度に優れたマスク40を形成することができる。すなわち、マスク40を形成する際の製造工程の削減を図るとともに、寸法精度に優れたマスク40を確実に得ることができる。
なお、開口部42は、本実施形態で説明したように、開口部42の長手方向に沿ってその幅が一定となっているものの他、例えば、図2に示すように、開口部42の長手方向の途中に、幅が増大した拡幅部45を有し、この拡幅部45に補強梁44が設けられている構成のものであってもよい。
【0024】
開口部42をかかる構成とすることにより、前記基板の表面の補強梁44に対応する領域に確実に膜材料を供給する(被着させる)ことができる。すなわち、補強部44と前記基板との離間距離によっては、前記領域における線状体の膜厚が薄くなる恐れが有るが、補強梁44の位置に対応して拡幅部45を設けることにより、この拡幅部45からの膜材料の周り込みを生じさせることができる。その結果、補強梁44が設けられていることによる障害を相殺して、確実に前記領域に膜材料を供給することができる。これにより、形成される線状体において、断線が生じるのを確実に防止できるとともに、その膜厚の均一化を図ることができる。
【0025】
さらに、補強梁44は、本実施形態で説明したように、その幅(開口部42の長手方向に沿った補強梁44の長さ)がほぼ一定となっているものの他、例えば、図3に示すように、その幅が前記一方の面側から前記他方の面側に向かって漸増している半円状のものであってもよい。すなわち、前記幅が、前記一方の面側から前記他方の面側に向かって、漸増する部分を有しているものであってもよい。補強梁44をかかる構成のもの、すなわち、テーパー面を有するものとすることにより、補強梁44の周囲から斜め方向に入射した膜材料のうち、補強梁44に付着する膜材料の量を減少させることができる。その結果、補強梁44をかかる構成のものとすることによっても、前述したような効果を確実に得ることができる。なお、このような補強梁44の形状としては、開口部42の長手方向に沿った縦断面が、図3に示したような半円状のものであってもよいし、台形状、三角形状、六角形状または円状のものであってもよい。
【0026】
以上のような開口部42および補強梁44の構成は、任意の2以上のものと組み合わせることができる。これにより、前述したような効果を相乗的に得ることができる。
また、本実施形態では、マスク本体41の外周部に、マスク40の使用時におけるマスク40の位置決めのためのマスク位置決めマーク46が形成されている。このマスク位置決めマーク46は、結晶異方性エッチング等でマスク本体41の一部を除去することにより得ることができる他、クロムのような金属膜で構成することもできる。
また、マスク40の構成材料としては、各種のものが挙げられ、例えば、シリコンや、石英ガラスのようなガラス材料を用いることができるが、これらの中でも、主としてシリコンで構成されているのが好ましい。これにより、前述したような構成のマスク40を比較的容易に形成することができる。
【0027】
以下、マスク40の形成方法として、マスク40の構成材料が主としてシリコンである場合を一例に説明する。
図4および図5は、図1に示すマスクの形成方法を示す図である。なお、図4は、図1中のA−A線断面に対応する断面を示す縦断面図である。また、図5は、図1中のB−B線断面に対応する断面を示す縦断面図である。また、以下の説明では、図4および図5中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0028】
[1A]まず、シリコン単結晶で構成されたマスク基材50を用意し、このマスク基材50の外表面全体に耐ドライエッチングマスク材料で構成された耐ドライエッチング膜51を形成する。
マスク基材50の厚さは、特に限定されないが、0.01〜1.0mm程度であるのが好ましく、0.02〜0.2mm程度であるのがより好ましい。
【0029】
耐ドライエッチングマスク材料としては、後述するドライエッチングに対して耐性を有するものであればよく、特に限定されないが、例えば、二酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン、炭化シリコン、アルミニウムおよびクロム等を好適に用いることができる。
また、耐ドライエッチング膜51の形成方法としては、各種の成膜方法を用いることができるが、例えば、耐ドライエッチングマスク材料として、二酸化シリコンを用いる場合には、例えば、800〜1200℃程度の水蒸気中にマスク基材50を放置するスチーム熱酸化法を好適に用いることができる。また、耐ドライエッチングマスク材料として、窒化シリコンおよび炭化シリコンを用いる場合には、化学的気相成膜(CVD)法を好適に用いることができる。さらに、耐ドライエッチングマスク材料として、アルミニウムおよびクロムを用いる場合には、真空蒸着法、スパッタリング法のような物理的気相成膜(PVD)法やメッキ法を好適に用いることができる。
このような耐ドライエッチング膜51の厚さは、特に限定されないが、例えば、1μm程度であるのが好ましい。
【0030】
[2A]次に、図4(a)および図5(a)に示すように、形成されたマスク40を基板に装着した際に、基板と接触する側の面50aにおいて、形成すべき開口部42に対応する領域に存在する耐ドライエッチング膜51を除去してマスク基材50の表面を露出させる。
具体的には、フォトリソグラフィー技術等を用いて、面50a側の開口部42に対応する領域に開口部を備えるレジスト層を形成した後、この開口部で露出する耐ドライエッチング膜51を緩衝フッ酸溶液のような酸エッチング液を用いた酸ウェットエッチングにより除去することにより、形成すべき開口部42に対応する領域において、マスク基材50の表面を露出させることができる。
なお、図2に示したような、開口部42に拡幅部45が設けられた構成とする場合には、マスク基材50の表面を、その形状に対応するように、露出させるようにすればよい。
【0031】
[3A]次に、図4(b)および図5(b)に示すように、フォトリソグラフィー技術等を用いて、前記工程[2A]においてマスク基材50の表面を露出させた領域のうち、補強梁44を形成する領域にレジスト層52を形成する。
これにより、開口部42を形成する領域のうち、補強梁44を形成しない領域において、マスク基材50の表面が露出することとなる。
【0032】
レジスト層52の構成材料としては、各種感光性樹脂材料を用いることができ、例えば、ロジン−重クロム酸塩、ポリビニルアルコール(PVA)−重クロム酸塩、セラック−重クロム酸塩、カゼイン−重クロム酸塩、PVA−ジアゾ、アクリル系フォトレジスト等のような水溶性フォトレジスト、ポリケイ皮酸ビニル、環化ゴム−アジド、ポリビニルシンナミリデンアセタート、ポリケイ皮酸β−ビニロキシエチルエステル等のような油溶性フォトレジスト等が挙げられる。
【0033】
なお、図3に示したように、補強梁44の開口部42の長手方向に沿った縦断面を半円状のものとする場合には、このレジスト層52を、その形状が形成すべき補強梁44の形状に対応するように設けるようにすればよい。このような半円状のレジスト層52は、本工程で形成された四角形状のレジスト層52を、150〜200℃程度の温度でポストベークして半固形状とした後、再固化させることにより得ることができる。
【0034】
[4A]次に、図4(c)および図5(c)に示すように、マスク基材50の表面が露出する領域、すなわち、開口部42を形成する領域のうち、補強梁44を形成しない領域のマスク基材(シリコン)50を所定の深さまで均一に除去する。
このシリコンの除去には、特定の方向、すなわち、本実施形態では、マスク基材50の厚さ方向に対してほほ平行な方向に対してシリコンを除去し得る異方性エッチングが好適に用いられる。
【0035】
異方性エッチングとしては、異方性ウェットエッチングや、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching; RIE)、反応性イオンビームエッチング(Reactive Ion Beam Etching; RIBE)、高速原子線エッチング(Fast Atom Beam; FAB)のような異方性ドライエッチングが挙げられるが、これらの中でも、方向選択性および生産性に優れる点から反応性イオンエッチングが好適に用いられる。
【0036】
[5A]次に、図4(d)および図5(d)に示すように、レジスト層52を除去(剥離)する。これにより、開口部42を形成する領域において、マスク基材50の表面が露出することとなる。
このレジスト層52の除去は、レジスト層52の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば、酸素プラズマやオゾンによる大気圧下または減圧下でのアッシング、紫外線の照射、Ne−Heレーザー、Arレーザー、COレーザー、ルビーレーザー、半導体レーザー、YAGレーザー、ガラスレーザー、YVOレーザー、エキシマレーザー等の各種レーザーの照射、レジスト層52を溶解または分解し得る溶剤との接触(例えば浸漬)等により行うことができる。
【0037】
[6A]次に、前記工程[4A]で説明したのと同様にして、図4(e)および図5(e)に示すように、マスク基材50の表面が露出する領域、すなわち、開口部42を形成する領域のマスク基材(シリコン)50を、さらに所定の深さ分だけ均一に除去する。
これにより、前記工程[4A]によりシリコンが除去された(補強梁44を形成しない)領域は、マスク基材50の厚さ方向に対してさらに深く、均一にシリコンが除去される。また、レジスト層52が除去された補強梁44を形成する領域も同様に均一にシリコンが除去される。
すなわち、開口部42を形成する領域において、前記工程[4A]で形成された補強梁44を形成する領域と、補強梁44を形成しない領域とのマスク基材50の表面に設けられた深さの差を維持した状態で、均一にシリコンが除去される。これにより、図4(e)および図5(e)に示すように、マスク基材50に2段階の凹凸が形成される。
【0038】
なお、本工程[6A]において新たにシリコンが除去された領域は、補強梁44が形成される領域であり、面50aから所定の深さまで除去される。そのため、異方性エッチングにより除去されたマスク基材50の深さが、前記基板にマスク40を装着した際の前記基板から補強梁44までの距離と等しくなる。この深さは、5〜200μm程度であるのが好ましく、10〜100μm程度であるのがより好ましい。この深さが、前記下限値未満の場合には、膜材料が補強梁44の周囲から周り込み難くなり、形成される線状体が分断されるおそれがある。また、この深さを、前記上限値を超えて深くすると、前記基板と補強梁44との距離が必要以上に大きくなり、膜材料が前記基板に到達できなくなるおそれがあり、好ましくない。
【0039】
[7A]次に、マスク基材50の外表面に形成された耐ドライエッチング膜51を除去(剥離)し、再度、図4(f)および図5(f)に示すように、マスク基材50の外表面全体に耐ウエットエッチング膜53を形成する。
この耐ドライエッチング膜51の除去は、前記工程[2A]で説明した、緩衝フッ酸溶液のような酸エッチング液を用いた酸ウェットエッチングにより行うことができる。
また、耐ウエットエッチング膜53は、前記工程[1A]で説明した耐ドライエッチング膜51と同様にして形成することができる。
【0040】
[8A]次に、図4(g)および図5(g)に示すように、面50aと反対側の面50bに形成された耐ウエットエッチング膜53のうち、マスク基材50の外周部を除く領域を除去してマスク基材50の表面を露出させる。
このマスク基材50の外周部を除く領域において、耐ウエットエッチング膜53を除去する方法としては、フォトリソグラフィー技術等を用いて、この領域に対応する開口部を有するレジスト層を形成した後、前記工程[2A]で説明した酸ウェットエッチングによりこの開口部で露出する耐ウエットエッチング膜53を除去する方法を用いることができる。
【0041】
[9A]次に、図4(h)および図5(h)に示すように、耐ウエットエッチング膜53から露出するマスク基材(シリコン)50を、面50bから所定の深さまで、マスク基材50の厚さ方向に対して均一に取り除く。
これにより、開口部42を形成する領域のうち補強梁44を形成しない領域において、面50a側から面50b側まで空間が形成されて、連通することとなる。
【0042】
このシリコンの除去には、ウェットエッチング液としてNaOH、KOHのようなアルカリ金属水酸化物の水溶液、Mg(OH)のようなアルカリ土類金属水酸化物の水溶液、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドの水溶液、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系有機溶媒等を用いる異方性ウェットエッチングを用いるのが好ましい。これにより、シリコンを均一な速さでかつ面粗れ無く比較的短時間で一括して除去することができる。
【0043】
なお、シリコンの除去は、このような異方性ウェットエッチングによって行うものに限らず、前述したような異方性ドライエッチングを用いて行うものであってもよい。
また、マスク基材50を面50b側からシリコンを除去するのは、マスク40の厚さを必要最小限に抑えるためであり、マスク基材50の外周部を厚くするのは、マスク40の強度を確保するためである。
【0044】
[10A]次に、図4(i)および図5(i)に示すように、マスク基材50の外表面に形成された耐ウエットエッチング膜53を除去(剥離)する。
これにより、線状体のパターンに対応する開口部42と、この開口部42を横断する補強梁44とを備えるマスク40が形成される。
この耐ウエットエッチング膜53の除去は、前記工程[2A]で説明した、緩衝フッ酸溶液のようなエッチング液を用いたウェットエッチングにより行うことができる。
【0045】
<<第2実施形態>>
次に、本発明のマスクの第2実施形態について説明する。
図6は、本発明のマスクの第2実施形態を示す斜視図である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」という。
以下、第2実施形態について、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図6に示すマスク40は、上側の面に金属層47が設けられている以外は、前記第1実施形態のマスク40と同様である。
【0046】
本実施形態では、図6に示すように、上側の面に、すなわち、基板にマスク40を装着する際に、マスク本体41の基板と接触させる側の面に、金属層47が設けられている。その結果、マスク40を基板に装着する際に、マスク40と基板との間に磁界を付与することにより、マスク40の基板への密着性の向上を図ることができる。これにより、マスク本体41(特に、隔壁部43)の自重により、マスク40と基板との間に空間(隙間)が形成されるようになるのを確実に防止することができる。
【0047】
また、金属層47の構成材料(金属材料)としては、特に限定されないが、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)またはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これにより、基板にマスク40を密着性よく装着(付着)させることができるとともに、後述する無電解メッキ法により、比較的容易に均一な膜厚の金属層を形成することができる。
【0048】
金属層47の厚さは、特に限定されないが、0.01〜100μm程度であるのが好ましく、0.1〜20μm程度であるのがより好ましい。
このような本実施形態のマスク40は、前記第1実施形態のマスク40に対し、マスク本体41上に金属層47を形成することにより得ることができる。
金属層47を形成する方法としては、各種方法を用いることができ、例えば、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着法およびスパッタ等が挙げられるが、これらの中でも、無電解メッキ法を用いるのが好ましい。無電解メッキ法によれば、均一な膜厚の金属層47をマスク本体41上に比較的容易に形成することができる。
【0049】
以下、金属層47を形成する方法として、無電解メッキ法を一例に説明する。
[1B]まず、第1実施形態で得られたマスク40を用意し、このマスク40の外表面全体に耐無電解メッキ材料で構成された耐無電解メッキ膜を形成する。
この耐無電解メッキ膜は、前記工程[1A]で説明した、耐ドライエッチング膜51の形成方法と同様にして形成することができる。耐無電解メッキ膜を形成することにより、後工程[3B]において、マスク40を無電解メッキ液中に浸漬する際に、マスク40の構成材料であるシリコンが無電解メッキ液中に溶解するのを確実に防止することができる。
【0050】
[2B]次に、形成されたマスク40を基板に装着した際に、基板と接触する側の面、すなわち、図4および図5で説明した面50a側に、下地層を形成する。
この下地層の構成材料としては、形成する金属層47の構成材料の種類等に応じて適宜選択され、例えば、Ni、Cu、Au、PtおよびAgが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
またこの下地層は、上述したような構成材料を主材料とする単層体であってもよいし、積層体であってもよい。
具体的には、金属層47が主としてCoで構成される場合、下地層としては、面50a側からCr層とAu層とがこの順で積層された積層体が好適である。
【0051】
[3B]次に、主として金属塩と還元剤とにより構成されるメッキ液中にマスク40を浸漬することにより、下地層上、すなわち面50a側に、金属元素を析出させることにより金属層47を形成する。
金属塩としては、例えば、硫酸塩、硝酸塩等が好適に用いられる。
還元剤としては、例えば、次亜燐酸アンモニウム、次亜燐酸ナトリウム、ヒドラジン等が挙げられるが、これらの中でも、ヒドラジンおよび次亜燐酸ナトリウムの少なくとも一方を主成分とするものが好ましい。還元剤としてこれらのものを用いることにより、金属層47の成膜速度が適正なものとなり、金属層47の膜厚を比較的容易に制御できるようになる。
【0052】
メッキ液における金属塩の含有量(溶媒への金属塩の添加量)は、0.01〜0.5mol/L程度であるのが好ましく、0.1〜0.3mol/L程度であるのがより好ましい。金属塩の含有量が少な過ぎると、金属層47を形成するのに長時間を要するおそれがある。一方、金属塩の含有量を前記上限値を超えて多くしても、それ以上の効果の増大が期待できない。
【0053】
また、メッキ液における還元剤の含有量(溶媒への還元剤の添加量)は、0.05〜2.0mol/L程度であるのが好ましく、0.5〜1.0mol/L程度であるのがより好ましい。還元剤の含有量が少な過ぎると、還元剤の種類等によっては、金属イオンの効率のよい還元が困難になるおそれがある。一方、還元剤の含有量を前記上限値を超えて多くしても、それ以上の効果の増大が期待できない。
このようなメッキ液には、さらにpH調整剤(pH緩衝剤)を混合(添加)するのが好ましい。これにより、無電解メッキの進行に伴って、メッキ液のpHが低下するのを防止または抑制することができ、その結果、成膜速度の低下を効果的に防止することができる。
【0054】
このpH調整剤としては、各種のものが挙げられるが、アンモニア水、トリメチルアンモニウムハイドライド、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび硫化アンモニウムのうちの少なくとも1種を主成分とするものであるが好ましい。これらのものは、緩衝作用に優れるため、これらのものをpH調整剤として用いることにより、前記効果がより顕著に発揮される。
【0055】
また、メッキ液のpHは、8.0〜13.0程度であるのが好ましく、9.5〜10.5程度であるのがより好ましい。
さらに、メッキ液の温度は、70〜95℃程度であるのが好ましく、80〜85℃程度であるのがより好ましい。
メッキ液のpH、温度を、それぞれ前記範囲とすることにより、成膜速度が特に適正なものとなり、均一な膜厚の金属層47を高い精度で形成することができる。
【0056】
<成膜方法>
次に、本発明のマスクを用いて、基板の表面に、線状体を気相成膜法で形成する成膜方法について説明する。
図7は、本発明のマスクを用いて線状体を気相成膜法で形成する成膜方法を示す図である。
なお、基板60の表面に、線状体61を形成する際に用いられる気相成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等の物理的気相成膜(PVD)法やCVD法等の化学的気相成膜(CVD)法が挙げられるが、以下では、真空蒸着法を用いて線状体61を形成する場合を一例として説明する。
【0057】
図7に示す真空蒸着装置600は、チャンバ(真空チャンバ)601と、このチャンバ601内に設置され、基板60を保持する基板ホルダー602と、チャンバ601内に設置され、線状体61を構成する膜材料62を気化させることにより基板60に供給するルツボ(膜材料供給源)603とを有している。
また、チャンバ601には、その内部の気体を排出して圧力を制御する排気ポンプ(減圧手段)604が接続されている。
【0058】
基板ホルダー602は、チャンバ601の天井部に取り付けられている。この基板ホルダー602は、その端部において回転軸605に固定された状態で設置されており、回転軸605を中心軸として、基板ホルダー602は、回転(回動)可能となっている。
また、基板ホルダー602と対向する位置、すなわち、チャンバ601の底部には、ルツボ603が設置されている。
【0059】
また、このルツボ603は、加熱手段(図示せず)を備えており、これにより、ルツボ603内に保持(収納)された膜材料62が加熱、気化(蒸発または昇華)する。
なお、加熱手段による加熱方式は、特に限定されず、例えば、抵抗加熱、電子ビーム加熱等いずれでもよい。
膜材料62としては、形成する線状体61の種類に応じて適宜選択され、特に限定されるものではないが、例えば、Al、Ni、Cu、Mg、Agのような金属材料、MgO、Inのような金属酸化物材料および銅フタロシアニン、(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq)のような金属錯体等が挙げられる。
【0060】
このような構成の真空蒸着装置600を用いて、以下のようにして線状体61が形成(成膜)される。
[1C]まず、マスク40の一方の面を基板60側に向けて、マスク40を基板60に装着する。この際、補強梁44が、マスク40の他方の面側に位置するように装着する。すなわち、マスク40の面50aが基板60と接触するようにする。
そして、マスク40が装着された基板60を、チャンバ601内に搬入し、基板ホルダー602に、基板60とルツボ603との間にマスク40が介在するように設置(セット)する。すなわち、マスク40とルツボ603とが対向するようにマスク40が装着された基板60を基板ホルダー602に設置する。
[2C]次に、排気ポンプ604を動作させ、チャンバ601内を減圧状態にする。
この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−5〜1×10−2Pa程度であるのが好ましく、1×10−4〜1×10−3Pa程度であるのがより好ましい。
【0061】
[3C]次に、回転軸605を回転させることにより基板60を回転させる。
これにより、ルツボ603と基板ホルダー602に装着された基板60(マスク40)との距離が最大となる第1の位置と、前記距離が最小となる第2の位置とにマスク40を連続的に変位(配置)させることができる。なお、この第1の位置に配置したマスク40と第2の位置に配置したマスク40とは、回転軸605(基板60の回転中心)を中心とした点対称な関係となっている。
また、回転軸605の回転数は、1〜50回転/分程度であるのが好ましく、10〜20回転/分程度であるのがより好ましい。これにより、次工程[4C]において、より均一な膜厚の線状体61を形成することができる。
【0062】
[4C]次に、基板60を回転させた状態で、膜材料62が保持されたルツボ603を加熱して、膜材料62を気化(蒸発または昇華)させる。
そして、図7に示すように、気化した膜材料62が、前記他方の面側からマスク40の開口部42を通過して、基板60の表面に被着(到達)することにより線状体61が形成される。
【0063】
ここで、前述したように補強梁44は、開口部42の厚さ方向において、基板60の他方の面側、すなわち、基板60と反対側に位置するように設けられている。そのため、膜材料62は、開口部42を通過する際に、この補強梁44を周り込むことができる。その結果、基板60の開口部42に対応する領域の全面に膜材料62が被着することができ、断線のない線状体61が形成される。
換言すれば、開口部42を横断するように補強梁44を設けたことによる影響を受けることなく成膜し得ることから、基板60の表面に断線のない線状体61を形成することができる。
【0064】
また、図7に示すように、基板ホルダー602の回転軸(基板60の回転中心の軸)605とルツボ603の中心軸との離間距離をA[cm]とし、マスク40とルツボ603の開口部との離間距離をB[cm]とし、補強梁44の開口部42の長手方向に沿った方向の最大長さをp[μm]とし、基板60と補強梁44との離間距離をr[μm]としたとき、下記式1なる関係を満足するように設定するのが好ましい。
p/r<2A/B ……式1
【0065】
かかる関係を満足させることにより、膜材料62が補強梁44をより確実に周り込むようになり断線のない線状体61を基板60の表面により確実に形成することができる。その結果、線状体61として、例えば金属配線を形成した場合、形成される線状体61が薄くなることに起因して、その抵抗値が増大したり、断線したりするのを確実に防止することができる。
ここで、前記式1なる関係を満足するように設定することにより、線状体61を断線させることなく形成し得るのは、以下のような関係式から導き出すことができる。
【0066】
前述したように、線状体61を断線させることなく形成し得るのは、膜材料62が補強梁44を周り込むことに起因する。
この膜材料62が補強梁44を周り込む距離が最大となるのは、前記第1の位置に基板60(マスク40)が配置しているときであり、その周り込む距離が最小となるのは、前記第2の位置に基板60(マスク40)が配置しているときである。
【0067】
そのため、基板60が第1の位置に配位しているときに補強梁44を膜材料62が周り込む距離をs[μm]とし、基板60が第2の位置に配位しているときに補強梁44を膜材料62が周り込む距離をt[μm]としたとき、これらの距離の合計(s+t)が、補強梁44の開口部42の長手方向に沿った方向の最大長さをpよりも大きくなるように設定することにより、線状体61を断線させることなく形成することができる。
すなわち、下記式2なる関係を満足することにより、線状体61を断線させることなく形成することができる。なお、図7に示す拡大図では、図示の都合上、p>s+tとなり、線状体61が断線している場合を例示している。
p<s+t ……式2
【0068】
したがって、膜材料62が補強梁44を周り込む距離がtとなるときにおける膜材料62のルツボ603の中心軸に対する入射角度をαとし、膜材料62が補強梁44を周り込む距離がsとなるときにおける膜材料62のルツボ603の中心軸に対する入射角度をβとしたとき、下記式3の関係が成立つことから、この下記式3を前記式2に代入すると、下記式4となる。
【0069】
t=t・tanα、s=r・tanβ ……式3
p<r・(tanα+tanβ) ……式4
さらに、下記式5なる関係が成立つことから、この下記式5を前記式4に代入することにより、前記式1なる関係を導き出すことができる。
tanα=(A−X)/B、tanβ=(A+X)/B ……式5
【0070】
以上説明したように、式1なる関係を満足する場合、基板60(マスク40)を前記第1の位置と、前記第2の位置との間で少なくとも1回変位させることにより、線状体61を断線させることなく形成することができる。そのため、基板60の回転は、本実施形態で説明したように、連続的に行う場合に限定されず、例えば、基板60を前記第1の位置と前記第2の位置との間の変位を間歇的に行うようにしてもよい。
【0071】
なお、図2に示したように、マスク40が開口部42に拡幅部45を備え、この拡幅部45に補強梁44が設けられたような構成である場合には、本実施形態で説明したように、基板60を連続的に回転させるのが好ましい。これにより、膜材料62が開口部42を通過する際に、拡幅部45側から補強梁44を周り込むようになり、断線のない線状体61を確実に形成することができる。
また、このマスク40は、線状体61を形成する際に、その基板60と反対側の面に積層した膜材料を除去(剥離)することにより、繰り返して使用(再利用)することができる。このようにマスク40を再利用することにより、線状体61を形成(成膜)する際のコストの削減を図ることができる。
【0072】
<発光装置>
次に、本発明の成膜方法により形成された線状体を備える本発明の発光装置として、パッシブマトリクス型表示装置を一例に説明する。
図8および図9は、本発明の発光装置を適用したパッシブマトリクス型表示装置の一例を示す図であり、図8は縦断面図、図9は斜視図である。なお、説明の都合上、図8では、制御回路の記載を、図9では、透明基板2、正孔輸送層4、電子輸送層6および封止部材8の記載をそれぞれ省略している。また、以下の説明では、図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0073】
図8および図9に示すパッシブマトリクス型表示装置(以下、単に「表示装置」という。)10は、透明基板2と、この透明基板2上に設けられた複数の有機EL素子(有機発光素子)1と、透明基板2に対向して各有機EL素子1を封止するように設けられた封止部材8とを有している。
また、表示装置10は、有機EL素子1が備える陽極3および陰極7のON/OFFを制御する制御手段31および制御手段71とをそれぞれ有している。
【0074】
透明基板2は、表示装置10を構成する各部の支持体となるものである。
また、本実施形態の表示装置10は、この透明基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)であるため、透明基板2に透明性が要求される。
このような透明基板2には、各種ガラス材料基板および各種樹脂基板のうち透明なものが選択され、例えば、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料等を主材料として構成される基板を用いることができる。
【0075】
透明基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.2〜30mm程度であるのが好ましく、0.5〜20mm程度であるのがより好ましい。
この透明基板2上に、一対の電極(陽極3および陰極7)と、これらの電極間に陽極3側から順次設けられた、正孔輸送層4と、発光層5と、電子輸送層6とを備える有機EL素子(発光素子)1が複数設けられている。
【0076】
本実施形態では、各陽極3および各陰極7は、それぞれ、直線状(帯状)に設けられ、これらの電極同士がマトリクス状に交差するように対向して配置されている。そして、各陽極3は制御手段31と、各陰極7は制御手段71とに配線により電気的に接続されている。
また、各有機EL素子1の正孔輸送層4および電子輸送層6は、一体的に形成されており、発光層5は、陽極3と陰極7とが交差する交差領域に対応するようにそれぞれ個別に設けられている。
【0077】
なお、有機EL素子1をかかる構成とすることにより、制御手段31および制御手段71により各陽極3および各陰極7のON/OFFを独立して制御でき、所望の位置の交差領域に電圧を印加することができる。そのため、交差領域に対応するように設けられた個別の発光層5を独立して発光させることができる。すなわち、各有機EL素子1を独立して発光させることができる。
また、このような有機EL素子1を備える表示装置10は、単色発光のモノカラー表示のものであってもよく、個別に設けられる発光層5の構成材料(発光材料)を選択することにより、カラー表示のものとすることも可能である。
【0078】
以下、有機EL素子1を構成する各部について説明する。
陽極3は、正孔輸送層4に正孔を注入する電極である。
この陽極3の構成材料(陽極材料)としては、表示装置10が陽極3側から光を取り出すボトムエミッション構造であるため透光性を有し、仕事関数の大きい導電性材料が好適に選択される。
【0079】
このような陽極材料としては、インジウムティンオキサイド(ITO)、フッ素含有インジウムティンオキサイド(FITO)、アンチモンティンオキサイド(ATO)、インジウムジンクオキサイド(IZO)、アルミニウムジンクオキサイド(AZO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素含有酸化スズ(FTO)、フッ素含有インジウムオキサイド(FIO)、インジウムオキサイド(IO)、等の透明導電性材料が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0080】
陽極3の平均厚さは、特に限定されないが、10〜300nm程度であるのが好ましく、50〜200nm程度であるのがより好ましい。
このような陽極3は、その光(可視光領域)の透過率が好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上となっている。これにより、光を効率よく陽極3側から取り出すことができる。
【0081】
一方、陰極7は、電子輸送層6に電子を注入する電極である。
陰極7の構成材料(陰極材料)としては、導電性に優れ、仕事関数の小さい材料が好適に選択される。
このような陰極材料としては、Al、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Cs、Rbまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
特に、陰極材料として合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属元素を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるのが好ましい。かかる合金を陰極材料として用いることにより、陰極7の電子注入効率および安定性の向上を図ることができる。
陰極7の厚さ(平均)は、1nm〜1μm程度であるのが好ましく、100〜400nm程度であるのがより好ましい。
【0082】
陽極3と陰極7との間には、前述したように、正孔輸送層4と、発光層5と、電子輸送層6とが陽極3側からこの順で積層するように設けられている。
正孔輸送層4は、陽極3から注入された正孔を発光層5まで輸送する機能を有するものである。
この正孔輸送層4の構成材料(正孔輸送材料)としては、例えば、ポリアリールアミン、フルオレン−アリールアミン共重合体、フルオレン−ビチオフェン共重合体、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
正孔輸送層4の厚さ(平均)は、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。
【0083】
電子輸送層6は、陰極7から注入された電子を発光層5まで輸送する機能を有するものである。
電子輸送層6の構成材料(電子輸送材料)としては、例えば、1,3,5−トリス[(3−フェニル−6−トリ−フルオロメチル)キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ1)、1,3,5−トリス[{3−(4−t−ブチルフェニル)−6−トリスフルオロメチル}キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ2)のようなベンゼン系化合物、ナフタレン系化合物、フェナントレン系化合物、クリセン系化合物、ペリレン系化合物、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、アクリジン系化合物、スチルベン系化合物、BBOTのようなチオフェン系化合物、ブタジエン系化合物、クマリン系化合物、キノリン系化合物、ビスチリル系化合物、ジスチリルピラジンのようなピラジン系化合物、キノキサリン系化合物、2,5−ジフェニル−パラ−ベンゾキノンのようなベンゾキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)のようなオキサジアゾール系化合物、3,4,5−トリフェニル−1,2,4−トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、オキサゾール系化合物、アントロン系化合物、1,3,8−トリニトロ−フルオレノン(TNF)のようなフルオレノン系化合物、MBDQのようなジフェノキノン系化合物、MBSQのようなスチルベンキノン系化合物、アントラキノジメタン系化合物、チオピランジオキシド系化合物、フルオレニリデンメタン系化合物、ジフェニルジシアノエチレン系化合物、フローレン系化合物、8−ヒドロキシキノリン アルミニウム(Alq)、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする錯体のような各種金属錯体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
電子輸送層6の平均厚さは、特に限定されないが、1〜100nm程度であるのが好ましく、20〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0084】
陽極3と陰極7との間に通電(電圧を印加)すると、正孔輸送層4中を正孔が、また、電子輸送層6中を電子が移動し、発光層5において正孔と電子とが再結合する。そして、発光層5では、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、このエキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。
【0085】
この発光層5の構成材料(発光材料)としては、電圧印加時に陽極3側から正孔を、また、陰極7側から電子を注入することができ、正孔と電子が再結合する場を提供できるものであれば、いかなるものであってもよい。
具体的には、発光材料としては、例えば、1,3,5−トリス[(3−フェニル−6−トリ−フルオロメチル)キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ1)、1,3,5−トリス[{3−(4−t−ブチルフェニル)−6−トリスフルオロメチル}キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ2)のようなベンゼン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン(CuPc)、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、トリス(8−ヒドロキシキノリノレート)アルミニウム(Alq)、ファクトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))のような低分子系のものや、オキサジアゾール系高分子、トリアゾール系高分子、カルバゾール系高分子のような高分子系のものが挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて、目的とする発光色を得ることができる。
なお、発光層は、このような発光材料のうちの1種または2種以上で構成される単層体であってもよいし、積層体であってもよい。
【0086】
発光層5の厚さ(平均)は、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。
また、陽極3と陰極7との間には、正孔輸送層4、発光層5および電子輸送層6以外に、任意の目的の層が設けられていてもよい。
例えば、陽極3と正孔輸送層4との間に、陽極3から正孔輸送層4への正孔の注入効率を向上させる正孔注入層を設けるようにしてもよいし、陰極7と電子輸送層6との間に、陰極7から電子輸送層6への電子の注入効率を向上させる電子注入層を設けるようにしてもよい。
【0087】
正孔注入層の構成材料(正孔注入材料)としては、例えば、銅フタロシアニンや、4,4‘,4‘‘−トリス(N,N‐フェニル‐3‐メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)等が挙げられる。
また、電子注入層の構成材料(電子注入材料)としては、例えば、8−ヒドロキシキノリン、オキサジアゾール、および、これらの誘導体(例えば、8−ヒドロキシキノリンを含む金属キレートオキシノイド化合物)や、LiF、KF、LiCl、KCl、NaClのようなアルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0088】
また、透明基板2と対向するように封止部材8が設けられている。この封止部材8は、凹部81を備え、この凹部811内に上述したような構成の各有機EL素子1が収納されている。
この封止部材8は、有機EL素子1が備える各層3、4、5、6、7を気密的に封止し、酸素や水分を遮断する機能を有する。封止部材8を設けることにより、表示装置10の信頼性の向上や、変質・劣化の防止等の効果が得られる。
封止部材8の構成材料としては、例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス等が挙げられる。
【0089】
また、封止部材8と透明基板2とは、透明基板2の縁部において、接着層(図示せず)を介して接合されている。
この接着層の構成材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルエポキシ系樹脂のような硬化性樹脂等が挙げられる。
なお、有機EL素子1が備える各層3、4、5、6、7を気密的に封止する方法としては、上述したような封止部材8を設ける方法の他、透明基板2上で露出する各層(本実施形態では、正孔輸送層6および陰極7)に保護層を接触させて形成する方法を用いることもできる。保護層を形成する方法を用いることにより、発光装置10のさらなる薄型化を実現することができる。
このような保護層の構成材料としては、例えば、窒化酸化シリコン、二酸化シリコンおよび各種樹脂材料等を用いることができる。
【0090】
このような表示装置10は、例えば、次のようにして製造することができる。
[1D]まず、透明基板2を用意する。
[2D]次に、透明基板2上に、複数の陽極3を直線状に形成する。
この陽極3は、透明基板2上に、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法のような気相成膜法等により、前述したような陽極3の構成材料を主材料として構成される導電膜を形成した後、フォトリソグラフィー法等を用いてパターニングすることにより得ることができる。
【0091】
[3D]次に、各陽極3および各陽極3同士の間で露出する透明基板2上に、正孔輸送層4を形成する。
この正孔輸送層4は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法等を用いた気相プロセスや、スピンコート法(パイロゾル法)、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等を用いた液相プロセス等により形成することができるが、これらの中でも、気相プロセスにより形成するのが好ましい。気相プロセスを用いて正孔輸送層4を形成することにより、得られる正孔輸送層4に水分等が混入するのを確実に防止または低減することができる。その結果、有機EL素子1の特性の経時的劣化が確実に防止または抑制される。
【0092】
[4D]次に、陽極3と次工程[6D]で形成する陰極7とが交差する領域に対応するように、正孔輸送層4上にマトリクス状に複数の発光層5を形成する。
この発光層5も、気相プロセスや液相プロセスにより形成することができるが、前述したのと同様の理由から、気相プロセスにより形成するのが好ましい。
また、発光層5のパターニングは、形成する発光層5の形状に対応する開口部を備えるマスク、すなわち、マトリクス状に開口部が設けられたマスクを、陽極3および正孔輸送層4を備える透明基板2に装着した状態で気相プロセスを施すことにより容易に行うことができる。
また、かかる方法を用いて発光層5のパターンニングを行うことにより、フォトリソグラフィー法等を用いる場合のように、各層3、4、5が水系溶媒等に晒されることがないため、これらの層3、4、5の変質・劣化を確実に防止することができる。
[5D]次に、各発光層5および各発光層5同士の間で露出する正孔輸送層4上に、電子輸送層6を形成する。
この電子輸送層6も、気相プロセスや液相プロセスにより形成し得るが、前述したのと同様の理由から、気相プロセスにより形成するのが好ましい。
【0093】
[6D]次に、陽極3と交差し、かつ、この陽極3と交差する領域が、発光層5が設けられている領域と対応するように、電子輸送層6上に複数の陰極7を直線状に形成する。
この陰極7の形成に、上述した本発明の成膜方法が適用される。これにより、撓みや歪みの発生が確実に阻止された陰極7を形成することができる。
また、本発明の成膜方法を用いて陰極7を形成することにより、複数の細幅の陰極7を1回の気相成膜法で一括して形成し得ることから、気相成膜法を施す回数すなわち製造工程を削減することができ、さらには製造コストの削減を図ることができる。また、マスク位置決めマーク46を用いたマスク40の位置決めも1回行うだけでよいことから、形成される陰極7の位置決め(アライメント)の精度の向上を図ることができる。
【0094】
なお、本実施形態のように、電子輸送層6のような有機層上に、陰極7のような金属配線(線状体)を形成する場合には、本発明の成膜方法に用いる気相成膜法として、真空蒸着法を用いるのが好ましい。真空蒸着法によれば、金属配線の構成材料(膜材料)を、比較的遅い速度で有機層上に被着(到達)させることができ、膜材料が被着する際に有機層が変質・劣化するのを好適に防止または抑制することができる。なお、金属層を形成する時間の短縮を図る場合には、真空蒸着法で有機層と接触する領域に下層を形成し、スパッタリング法等でこの下層上に上層を形成するようにすればよい。
【0095】
また、マスク40を、各層3、4、5、6を備える透明基板2に装着する際には、マスク40が備える補強梁44が、先に形成された陽極3に対応しないように位置決めするのが好ましい。これにより、形成される陰極(線状体)7の補強梁44に対応する位置にその膜厚が薄くなっている薄膜部がたとえ形成されたとしても、この薄膜部が陽極3と交差する位置に形成されるのを確実に防止することができる。これにより、薄膜部における抵抗値が増大することに起因して、陰極7が発熱したとしても、この発熱により各層3、4、5、6が変質・劣化するのを好適に防止または抑制することができる。
【0096】
なお、本発明の成膜方法のように、陰極7の形成にマスク(シャドーマスク)を用いた気相成膜法を選択することにより、陰極7を形成するのに先立って設置される、透明基板2上への陰極7の形状を規制する隔壁部の形成を省略することができる。これにより、製造工程の削減を図ることができるとともに、発光装置10の薄型化を実現することができる。
以上のようにして、透明基板2上に複数の有機EL素子1が形成される。
【0097】
[7D] 次に、凹部81が設けられた封止部材8を用意する。
そして、凹部81内に各有機EL素子1が収納されるように、封止部材8を透明基板2に対向させた状態で、透明基板2と封止部材8とを透明基板2の縁部において接着層を介して接合する。
これにより、各有機EL素子1が封止部材8により封止され、表示装置10が完成される。
【0098】
<電子機器>
このような表示装置10は、各種の電子機器に組み込むことができる。
図10は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピュータ1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述の表示装置10で構成されている。
【0099】
図11は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
携帯電話機1200において、この表示部が前述の表示装置10で構成されている。
【0100】
図12は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0101】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
ディジタルスチルカメラ1300において、この表示部が前述の表示装置10で構成されている。
【0102】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0103】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0104】
なお、本発明の電子機器は、図10のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図11の携帯電話機、図12のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0105】
以上、本発明のマスク、成膜方法、発光装置および電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
また、本発明の成膜方法は、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよい。
さらに、本発明の成膜方法は、上述したパッシブマトリクス型表示装置が備える陰極に適用できる他、例えば、配線基板が備える金属配線等に適用することができる。
【実施例】
【0106】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.マスクの形成
まず、以下に示すようにしてマスク(A)およびマスク(B)を用意した。
<マスク(A)>
<1A>まず、厚さ0.400mmのシリコン単結晶基板を用意し、このシリコン単結晶基板を1050℃の水蒸気中に放置して、この基板の外表面に1μmの二酸化シリコン膜を形成した。
<2A>次に、図4(a)および図5(a)に示したように、フォトリソグラフィー技術を用いて、形成すべき開口部の形状に対応するレジスト層を形成した後、このレジスト層の開口部に存在する二酸化シリコン膜を、緩衝フッ酸溶液を用いて、除去してシリコン単結晶基板の表面を露出させた。
【0107】
<3A>次に、図4(b)および図5(b)に示したように、フォトリソグラフィー技術を用いて、開口部を形成する領域のうち、補強梁を形成する領域にレジスト層を形成した。
<4A>次に、図4(c)および図5(c)に示したように、ドライエッチング装置「Deep−Si−RIE」を用いて、開口部を形成する領域のうち、補強梁を形成しない領域のシリコン単結晶基板を所定の深さまで均一に除去した。
【0108】
<5A>次に、図4(d)および図5(d)に示したように、酸素プラズマによる大気圧下でのアッシングにより、レジスト層を除去して、開口部を形成する領域において、シリコン単結晶基板の表面を露出させた。
<6A>次に、前記工程<4A>と同様にして、図4(e)および図5(e)に示したように、ドライエッチング装置を用いて、開口部を形成する領域のシリコン単結晶基板を、さらに所定の深さ分だけ均一に除去した。
【0109】
<7A>次に、シリコン単結晶基板の外表面に形成された二酸化シリコン膜を、緩衝フッ酸溶液を用いて除去し、再度、図4(f)および図5(f)に示したように、前記工程<1A>と同様にして、シリコン単結晶基板の外表面全体に二酸化シリコン膜を形成した。
<8A>次に、図4(g)および図5(g)に示したように、前記工程<2A>と同様にして、シリコン単結晶基板の前記工程<2A>〜<6A>の処理が施された面と反対側の面に形成された二酸化シリコン膜のうち、シリコン単結晶基板の外周部を除く領域を除去してシリコン単結晶基板の表面を露出させた。
【0110】
<9A>次に、図4(h)および図5(h)に示したように、二酸化シリコン膜から露出するシリコン単結晶基板を、KOHをエッチング液として用いたウェットエッチングにより、シリコン単結晶基板の厚さ方向に対して所定の深さまで均一に取り除いた。
<10A>次に、図4(i)および図5(i)に示したように、緩衝フッ酸溶液により、シリコン単結晶基板の外表面に形成された二酸化シリコン膜を除去した。
以上のような工程を経て、開口部(長さ40mm、幅100μm)と、補強梁の幅pが50μm、基板を装着する側の面から補強梁までの距離rが100μmとなっている補強梁とを備えるマスク(A)を形成した。
【0111】
<マスク(B)>
前記工程<3A>〜<5A>を省略した以外は、前記マスク(A)の形成工程と同様にして、補強梁の形成が省略されたマスク(B)を形成した。
【0112】
2.線状体の形成および評価
(実施例1)
<1B>まず、マスク(A)を石英ガラス基板に装着した後、このマスク(A)が装着された石英ガラス基板をチャンバ内の基板ホルダーにセットした。
そして、ルツボ内に膜材料としてAlをセットした。
この時、基板ホルダーの回転中止の軸とルツボの中心軸との離間距離Aが10.0cm、マスク(A)とルツボの開口部との離間距離Bが20.0cmとなるように設定した。
【0113】
<2B>次に、排気ポンプを動作させて、チャンバ内の圧力を1×10−3Paに設定した。
<3B>次に、基板ホルダーが備える回転軸を回転させることにより石英ガラス基板(マスク(A))を10回転/分の回転数で回転させた。
<4B>次に、石英ガラス基板を回転させた状態で、ルツボを1200℃にまで加熱して、Alを気化させることにより、石英ガラス基板上にAlを主材料とする平均膜厚150nmの線状体を形成した。
【0114】
(実施例2)
前記工程<1B>において、基板ホルダーの回転中止の軸とルツボの中心軸との離間距離Aが6.5cm、マスク(A)とルツボの開口部との離間距離Bが10.0cmとなるように設定した以外は、前記実施例1と同様にして、石英ガラス基板上に線状体を形成した。
【0115】
(比較例)
前記工程<1B>において、マスク(A)に代えてマスク(B)を石英ガラス基板に装着した以外は、前記実施例1と同様にして、前記実施例1と同様にして、石英ガラス基板上に線状体を形成した。
各実施例および比較例において形成された線状体について、それぞれ、その形状を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。
その結果、各実施例では、ほぼ均一な膜厚に線状体が形成されていた。これに対して、比較例では、線状体の形状に歪みが生じており、不均一な膜厚の線状体が形成されていた。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明のマスクの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】開口部の他の構成を示す平面図である。
【図3】補強梁の他の構成を示す縦断面図である。
【図4】図1に示すマスクの形成方法を示す縦断面図である。
【図5】図1に示すマスクの形成方法を示す縦断面図である。
【図6】本発明のマスクの第2実施形態を示す斜視図である。
【図7】本発明のマスクを用いて線状体を気相成膜法で形成する成膜方法を示す図である。
【図8】本発明の発光装置を適用したパッシブマトリクス型表示装置の一例を示す縦断面図である。
【図9】本発明の発光装置を適用したパッシブマトリクス型表示装置の一例を示す斜視図である。
【図10】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図11】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図12】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0117】
31、71……制御手段 40……マスク 41……マスク本体 42……開口部 43……隔壁部 44……補強梁 45……拡幅部 46……マスク位置決めマーク 47……金属層 50……マスク基材 50a、50b……面 51……耐ドライエッチング膜 52……レジスト層 53……耐ウエットエッチング膜 60……基板 61……線状体 62……膜材料 600……真空蒸着装置 601……チャンバ 602……基板ホルダー 603……ルツボ 604……排気ポンプ 605……回転軸 1……有機EL素子 2……透明基板 3……陽極 4……正孔輸送層 5……発光層 6……電子輸送層 7……陰極 8……封止部材 81……凹部 10……表示装置 1100……パーソナルコンピュータ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口 1300……ディジタルスチルカメラ 1302……ケース(ボディー) 1304……受光ユニット 1306……シャッタボタン 1308……回路基板 1312……ビデオ信号出力端子 1314……データ通信用の入出力端子 1430……テレビモニタ 1440……パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に一方の面側を固定し、他方の面側より膜材料を気相プロセスにより供給し、ほぼ平行に併設される複数の細幅の線状体を、前記基板の表面に形成するのに用いられるマスクであって、
前記線状体のパターンに対応する複数の開口部を有するマスク本体と、前記開口部を横断するように設けられ、自重による前記マスク本体の変形を防止する機能を有する補強梁とを備え、
前記補強梁は、前記開口部の厚さ方向において、前記他方の面側に偏在するように設けられていることを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記マスク本体と前記補強梁とは、一体的に形成されている請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記マスクは、主としてシリコンで構成されている請求項2に記載のマスク。
【請求項4】
前記一方の面には、金属層が形成されている請求項3に記載のマスク。
【請求項5】
前記金属層は、無電解メッキ法を用いて形成されたものである請求項4に記載のマスク。
【請求項6】
前記金属層は、コバルト、鉄およびニッケルのうちの少なくとも1種を主材料として構成されている請求項4または5に記載のマスク。
【請求項7】
前記補強梁は、前記開口部の長手方向に沿って、ほぼ等しい間隔で複数設けられている請求項1ないし6のいずれかに記載のマスク。
【請求項8】
前記開口部は、その長手方向の途中に、幅が増大した拡幅部を有し、
該拡幅部に前記補強梁が設けられている請求項1ないし7のいずれかに記載のマスク。
【請求項9】
前記補強梁は、その幅が一方の面側から他方の面側に向かってほぼ一定となっている請求項1ないし8のいずれかに記載のマスク。
【請求項10】
前記補強梁は、その幅が一方の面側から他方の面側に向かって漸増する部分を有する請求項1ないし8のいずれかに記載のマスク。
【請求項11】
前記膜材料を供給する膜材料供給源に対向し、回転可能に設けられた基板ホルダーに保持された前記基板に請求項1ないし10のいずれかに記載のマスクを装着する工程と、
前記膜材料供給源と前記基板との距離とが最大となる第1の位置と、前記第1の位置に対して、前記基板ホルダーの回転中心を中心とした点対称な第2の位置の間で、前記基板を少なくとも1回変位させて、前記膜材料供給源から供給された前記膜材料を、前記開口部を通過させて前記線状体を形成する工程とを有する成膜方法であって、
前記基板ホルダーの回転中心の軸と前記膜材料供給源の中心軸との離間距離をA[cm]とし、前記マスクと前記膜材料供給源の開口部との離間距離をB[cm]とし、前記補強梁の前記開口部の長手方向に沿った方向の最大長さをp[μm]とし、前記基板と前記補強梁との離間距離をr[μm]としたとき、p/r<2A/Bなる関係を満足するように設定したことを特徴とする成膜方法。
【請求項12】
前記基板の前記第1の位置と前記第2の位置との間での変位は、前記基板ホルダーを回転させることにより行われる請求項11に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記基板の回転は、連続的または間歇的に行われる請求項12に記載の成膜方法。
【請求項14】
請求項11ないし13のいずれかに記載の成膜方法を用いて形成された線状体を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項15】
前記線状体は、陰極である請求項14に記載の発光装置。
【請求項16】
請求項14または15に記載の発光装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−186740(P2007−186740A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4249(P2006−4249)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】