説明

マスフローメータ、マスフローコントローラ、それらを含むマスフローメータシステムおよびマスフローコントローラシステム

【課題】ガス種等の試料流体の変更にも特別な手間を必要とせずに柔軟に対応することができ、しかも、精度良く流量を測定することができるといった、優れたマスフローメータ等を提供する。
【解決手段】流路1を流れる試料流体Gの流量を検知するセンサ部2と、流体ごとに定められ、前記センサ部2からの出力値に基づいて流量を定めるための流量特性関数であって、指定された試料流体に固有の流量特性関数Kと、その流量特性関数とは独立した、複数の試料流体に対して共通のパラメータであり、マスフローメータごとの器差を補正するための器差補正パラメータαとを設定する設定部4cと、前記流量特性関数Kと前記器差補正パラメータαとに基づいて、前記試料流体Gの流量を算出する流量算出部4dとを具備するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセス等においてガスや液体などの流体の流量を制御するマスフローメータ、それを含むマスフローコントローラ、さらにはそれらを含むマスフローメータシステムおよびマスフローコントローラシステム(以下、これらをマスフローメータ等と称することがある。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、1台の半導体製造装置に対して複数のプロセスチャンバを搭載して複数のプロセスを行うことが多くなるなど、半導体製造プロセスでは、使用するガスや液体といった流体の種類が大幅に増加し、これに応じて数多くのマスフローメータ等が必要とされている。
【0003】
このような中、1台のマスフローメータ等であってもこれを配管等から取り外すことなく、ユーザサイドで、試料流体としてのガス種などの変更やフルスケール流量(最大測定または制御流量)の変更に対応して使用できるようにしたものが提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−94604号公報(12頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者の鋭意研究の結果から、まず次のことがわかってきた。すなわち、ガス種の変更に応じ、そのガス種に対応した流量値を算出するためのものであって、流量を算出するための関数に掛け合わされる係数、いわゆるコンバージョンファクタであっても、それを複数のマスフローメータ等で共通化して高精度な測定を行うためには、それを取得した基準器としてのマスフローメータ等と、実際に使用されるそれぞれのマスフローメータ等との間の器差を補ったものに変更する必要がある。
【0006】
一方マスフローメータ等の器差は、ガス種などの試料流体の種類にも関係すると考えられてきたため、その器差を補うパラメータは、結局それぞれの試料流体を実際に各マスフローメータ等へ流して求められる必要があるのではないかと考えていた。
【0007】
しかしながら、発明者の鋭意研究の結果から、さらに次のこともわかってきた。すなわち、マスフローメータ等の器差は、できるだけハードウェアの各構成を標準化することによって、ハードウェア面から抑制することができる。そして、その器差を抑制したハードウェアにおいては、器差は、複数の試料流体で共通のものとして取り扱っても精度良く流量を測定できる。
【0008】
これらの知見から、ガス種等の試料流体の変更にも特別な手間を必要とせずに好適に対応することができる優れたマスフローメータ等を提供することができるのではないかという発想からなされたのが本発明である。すなわち、本発明の目的は、ガス種等の試料流体の変更にも柔軟に対応することができ、しかも、精度良く流量を測定することができるといった、優れたマスフローメータ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる技術的課題を解決するため、本発明に係るマスフローメータは、流路を流れる試料流体の流量を検知するセンサ部と、流体ごとに定められ、前記センサ部からの出力値に基づいて流量を定めるための流量特性関数であって、指定された試料流体に固有の流量特性関数と、その流量特性関数とは独立した、複数の試料流体に対して共通のパラメータであり、マスフローメータごとの器差を補正するための器差補正パラメータとを設定する設定部と、前記流量特性関数と前記器差補正パラメータとに基づいて、前記試料流体の流量を算出する流量算出部とを具備する。
【0010】
このようなものによれば、器差補正パラメータは、流量特性関数とは独立した、複数の試料流体に対して共通のパラメータであるので、そのマスフローメータ等で計測する試料流体を変更する場合であっても、計測する試料流体に応じた流量特性関数を設定するだけで、変更した試料流体の流量を精度よく測定することができる。
【0011】
すなわち、本発明によれば、同じマスフローメータ等である限り複数の試料流体に対して共通の器差補正パラメータを設定することができる。したがって、当該マスフローメータ等によって測定される試料流体が変更される場合であっても、変更される個々の試料流体を流して当該マスフローメータ等を実際に校正し、試料流体または流量特性関数ごとに固有の器差補正パラメータを求めておかなくとも、たとえば変更される試料流体とは異なる他の試料流体で校正して得られた、当該マスフローメータ等において共通の器差補正パラメータを設定するなどし、さらに、センサ部やバイパスなどのハードウェア構成が実質的に同一のもので共通化された汎用的な流量特性関数をデータベースなどから読み込んできて設定等するだけで、変更された試料流体の流量を容易に精度よく測定することができる。
【0012】
また、前記流量特性関数が、5次の多項式で表されるものであれば、広いレンジにわたって精度よく近似させながら、マスフローメータ等で測定可能な最大流量であるフルスケール流量をさらに広げることができ、よって、そのマスフローメータで測定可能なレンジを所定に可変しても誤差を抑えて、多様なレンジで高精度な測定を実現しうる。
【0013】
前記器差補正パラメータが、試料流体としての基準流体をフルスケール流量で測定する場合に、基準流体に固有の流量特性関数を設定して算出した流量値と、基準となるマスフローメータで前記フルスケール流量を測定したときの流量値との誤差を解消するための係数であれば、当該パラメータは、たとえば、不活性ガスなどの利便性の高い基準流体でフルスケール流量を一点だけ測定して求めることも可能になり、マスフローメータ等の校正作業の煩雑さを軽減しうる。ここで、フルスケール流量とは、流量特性関数よって所定誤差の範囲内で測定可能な最大流量値が好適ではあるが、その最大限測定可能な流量値を所定まで小さく制限した場合の流量値(最大限測定可能な流量値より小さい流量値)であってもよい。
【0014】
前記器差補正パラメータが、窒素ガスを試料流体とし、その試料流体としての基準ガスを実際に測定し求められる係数で、その係数は他の異なる複数の試料ガスに対しても共通のものであれば、毒性や腐食性の強いガスや液体などの試料流体による、個々のマスフローメータ等の校正をできるだけ避け、安全かつ容易に器差補正パラメータたる係数を求めうる。
【0015】
さらに、前記マスフローメータと、前記流路に設けたコントロールバルブと、算出された流量値と流量設定値とを比較演算し、この演算結果に基づいて前記コントロールバルブを制御する制御部と、を含むマスフローコントローラであれば、高精度な流体制御を実現しつつ、半導体成膜プロセスの変更等に応じて、制御対象となる試料流体を容易に変更しうる、汎用性の高いマスフローコントローラを提供しうる。
【0016】
複数のマスフローメータまたは複数のマスフローコントローラと通信するとともに、試料流体と紐付けられた流量特性関数を複数記憶した記憶部と、前記流路に流れる試料流体の指定を受け付ける試料流体受付部と、をさらに備え、前記設定部は、前記受付部によって指定された試料流体に固有の流量特性関数を前記記憶部から受信し、指定された試料流体に固有の流量特性関数を設定するマスフローメータシステムまたはマスフローコントローラシステムのようなものであれば、複数のマスフローメータ等が接続された半導体製造装置や上位のホストコンピュータを設け、試料流体ごとに紐付けて記憶され、ハードウェアが実質的に同一のマスフローメータ等に共通の汎用性の高い流量特性関数を、試料流体の指定に応じて各マスフローメータ等へ電気通信回線を通じて送信することで、各マスフローメータ等の汎用性を向上させつつ、流量特性関数を集中的に管理し、その追加変更等の管理を簡易化しうる。
【発明の効果】
【0017】
このように本発明によれば、ガス種等の試料流体の変更にも柔軟に対応することができ、しかも、精度良く流量を測定することができるといった、優れたマスフローメータ等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るマスフローコントローラシステムを示す全体概略図。
【図2】同実施形態におけるマスフローコントローラの機器構成を示す模式図。
【図3】同実施形態におけるマスフローコントローラシステムを示す機能構成図。
【図4】同実施形態に制御装置の機器構成図。
【図5】同実施形態におけるセンサ出力レンジを説明するための図。
【図6】同実施形態におけるマスフローコントローラの動作を示すフロー図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態のマスフローコントローラシステムAは、マスフローコントローラA1と、このマスフローコントローラA1を制御・管理する別体の制御装置A2とを具備して成るもので、例えば図1に示すように、半導体製造装置におけるチャンバへのガス供給システムに用いられる。以下、具体的に各装置を説明する。
【0021】
マスフローコントローラA1は、図2に模式図を示すように、ガス流路1(本発明の「流路」の一例)と、そのガス流路1内を流れる試料ガスG(本発明の「試料流体」の一例)の流量を測定する流量センサ部2(本発明の「センサ部」の一例)と、その流量センサ部2の例えば下流側に設けた流量制御バルブ3(本発明の「コントロールバルブ」の一例)と、流量設定信号に基づく流量設定値および前記流量センサ部2からの流量測定信号に基づいて算出された流量値(流量測定値)を比較演算し、この演算結果に基づいて流量制御バルブ3を制御する制御部4a(図3参照)を備えた処理部4と、を具備して成るものである。以下、各部を具体的に説明する。なお、マスフローコントローラは、マスフローメータにさらに制御機構を付加したものであるので、マスフローコントローラで両者をあわせて説明し、マスフローメータ単独での説明は省略する。
【0022】
図2に示すようにガス流路1は、上流端を導入ポート11、下流端を導出ポート12としてそれぞれ開口するもので、図1に示すように例えば導入ポート11には、外部配管を介して空圧弁FV、圧力レギュレータPRおよびガスボンベBが接続され、導出ポート12には、外部配管を介して、半導体製造等のためのチャンバ(図示しない)が接続されている。そして、本実施形態では図2に示すように、このガス流路1が、導入ポート11と導出ポート12との間で、2つに分流した後合流するガス分流路1a、1bを有するように構成している。このうち、ガス分流路1aには後述する感熱センサ21を取り付ける一方、ガス分流路1bは層流素子1b1を配置したバイパスとして利用するようにしている。
【0023】
流量センサ部2は、詳細は図示しないが、例えば、ガス流路1に設けられた一対の感熱センサ21(サーマルセンサ)を備えたものである。この流量センサ部2では、試料ガスGの瞬時流量がこの感熱センサ21によって電気信号として検出され、内部電気回路(ブリッジ回路22、増幅回路23、補正回路24)によってその電気信号が増幅等されて、検出流量に応じた流量測定信号(以下、センサ出力ともいうことがある。)として出力される。
【0024】
流量制御バルブ3は、やはり詳細は図示しないが、例えば、その弁開度をピエゾ素子等よりなるアクチュエータによって変化させうるように構成したものであって、外部からの電気信号である開度制御信号を与えられることによって前記アクチュエータを駆動し、その開度制御信号の値に応じた弁開度に調整して試料ガスGの流量を制御するものである。
【0025】
処理部4は、図示しないCPUやメモリ、A/D変換器、D/A変換器等を有したデジタル乃至アナログ電気回路、制御装置A2と通信するための通信インタフェースなどで構成されたもので、専用のものであってもよいし、一部又は全部にパソコン等の汎用コンピュータを利用するようにしたものであってもよい。また、CPUを用いず、アナログ回路のみで前記各部としての機能を果たすように構成してもよいし、物理的に一体である必要はなく、有線乃至無線によって互いに接続された複数の機器からなるものであってもよい。また、ハードウェアは制御装置A2と共通のものであってもよい。
【0026】
そして前記メモリに所定のプログラムを格納し、そのプログラムにしたがってCPUやその周辺機器を協働動作させることによって、この処理部4が、図3に示すように、制御部4a、器差補正パラメータ及び流量特性関数を記憶するMFC側記憶部4b、設定部4c、流量算出部4d及び開度制御信号出力部4eなどとしての機能を少なくとも発揮するように構成している。
【0027】
設定部4cは、CPU及び通信インタフェースを含んで構成され、制御装置A2から送信されてくる試料流体ごとに決定される流量特性関数K(流量特性決定関数(流量特性曲線)の各係数(agas〜fgas)と当該流量特性決定関数に対応して定められる試料流体のフルスケール流量(FSgas)とを含んで構成される)を受信し、前記メモリの所定領域に設定されたMFC側記憶部4bへ格納する。また、設定部4cは、同記憶部4bに記憶されている器差補正パラメータα(詳細は後述する)を読み出すとともに、制御装置A2において指定を受け付けた測定(流量制御)すべき試料流体に応じて、同記憶部4bから流量特性関数Kを読み出す。そして、設定部4cは、それらから流量算出部4dにおいて使用する流量算出式を設定する。すなわち、基準流体としての基準ガスNの流量を算出するための流量算出式(下式P1)が既に設定されている場合は、設定部4cは、測定対象として指定された試料流体(試料ガスG)に応じた流量特性関数Kの部分のみを変更し、試料ガスGの流量を算出するための流量算出式(下式P2)を生成する。
Flow=fN2(x)×FSN2×α ・・・(P1)
ここで、fN2(x)は、fN2(x)=aN2×x+bN2×x+cN2×x+dN2×x+eN2×x+fN2で与えられ、aN2はNの流量特性曲線の5次の項の係数、bN2はNの流量特性曲線の4次の項の係数、cN2はNの流量特性曲線の3次の項の係数、dN2はNの流量特性曲線の2次の項の係数、eN2はNの流量特性曲線の1次の項の係数、fN2はNの流量特性曲線の0次の項の係数、FSN2はNのFS(基準ガスNの流量特性曲線におけるフルスケール流量)、αは器差補正パラメータたる係数(複数の試料ガスに対して共通の係数)、xはセンサ出力を示す。
Flow=fgas(x)×FSgas×α ・・・(P2)
ここで、fgas(x)は、fgas(x)=agas×x+bgas×x+cgas×x+dgas×x+egas×x+fgasで与えられ、agasは試料ガスGの流量特性曲線GCの5次の項の係数、bgasは試料ガスGの流量特性曲線GCの4次の項の係数、cgasは試料ガスGの流量特性曲線GCの3次の項の係数、dgasは試料ガスGの流量特性曲線GCの2次の項の係数、egasは試料ガスGの流量特性曲線GCの1次の項の係数、fgasは試料ガスGの流量特性曲線GCの0次の項の係数、FSgasは試料ガスGのFS(試料ガスGの流量特性曲線におけるフルスケール流量)、αは器差補正パラメータたる係数、xはセンサ出力を示す。
【0028】
MFC側記憶部4bは後述のようにして、たとえば工場出荷前に設定した器差補正係数αを記憶するものであって、前記メモリの所定領域に形成されている。また、MFC側記憶部4bは、前記設定部4cで適時に受け付けた種々の試料ガスGの流量特性関数Kを追加的に記憶していくこともできる。
【0029】
流量算出部4dは、流量測定信号(センサ出力)と前記設定部で生成された流量算出式(P2)を受信する。そして、そのセンサ出力と流量算出式(P2)とに基づいて、ガス流路1を流れる試料ガスGの流量を算出する。流量算出部4dは、この算出した実流量値を、制御部4a及び制御装置A2の表示装置105(図4参照)又はマスフローコントローラに設けられた表示部(図示省略)へ送信する。
【0030】
制御部4aは、前記流量算出部4dから受信した実流量値たる流量測定値と流量設定信号が示す流量設定値とを取得してその流量測定値と流量設定値との偏差εを算出する偏差算出部4a1と、その偏差εに少なくとも比例演算(好適にはPID演算)を施して流量制御バルブ3へのフィードバック制御値を算出する制御値算出部4a2と、を備えたものである。
【0031】
開度制御信号出力部4eは、前記フィードバック制御値に基づく値を有する開度制御信号を生成し、その開度制御信号を流量制御バルブ3に対して出力するものである。
【0032】
制御装置A2は、例えば、半導体製造装置に設けられ、パソコンなどのように一般的な情報処理機能を有するものであって、図4に示すように、CPU101、内部メモリ102、HDDなどの外部記憶装置103、マウスやキーボードなどの入力装置104、液晶ディスプレイなどの表示装置105、マスフローコントローラA1と通信するための通信インタフェース106等を具備している。そして図3に示すように、この制御装置A2が、例えば内部メモリ102に記憶しているプログラムにしたがって、CPU101やその周辺機器を協働動作させることにより、記憶部A21(流量特性関数記憶部の一例)、受付部A22(流量特性関数受付部の一例)、及び送信部A23としての機能を少なくとも発揮するように構成されている。なお、図3では制御装置A2とマスフローコントローラA1とが1対1で対応するようになっているが、通信インタフェース106を含んで構成される送信部を介して、一つの制御装置A2に対して、複数のマスフローコントローラA1が相互通信可能に設けられうる。
【0033】
記憶部A21は、試料流体の種類ごとに規定される複数の流量特性関数Kをデータベース化して記憶するものであって、例えば内部メモリ102や外部記憶装置103の所定領域に形成されている。なお、この制御装置A2における記憶部A21には一つの流量特性関数Kを記憶し、さらにそれと通信可能なホストコンピュータ(図示しない)を設けて複数の流量特性関数Kを記憶したデータベースを構築することもできる。
【0034】
受付部A22は、入力装置104を介して、測定すべき流体の指定や、流量設定値や、測定すべき試料流体の種類を新たに追加する場合にあっては当該試料流体に対応する固有の流量特性関数Kなどを受け付ける。そして、それらパラメータを前記記憶部A21へ格納する。
【0035】
送信部A23は、前記受付部A22で受信し、記憶部A21に格納した流量特性関数Kなどの種々のパラメータを読み出して、マスフローコントローラA1に対して所定のタイミングで送信する。これは、通信インタフェース106を含んで構成されている。
【0036】
ここで、図5に基づいて流量特性関数Kについて補足説明する。流量特性関数Kは、上述の各係数(agas〜fgas)を有する流量特性決定関数GC(流量特性曲線)と当該流量特性決定関数に対応して定められる試料流体のフルスケール流量FP(FSgas)とを含んで構成される。流量特性曲線はたとえば、基準となる一又は複数のマスフローメータを用意し、それぞれの実ガスなどの実流体(測定対象となるべき流体)を実際に流して取得され、センサ出力と流量値との関係を示す近似式に相当する。そして、流量特性曲線が決まれば、それに応じて所定の許容誤差範囲内で測定可能な、たとえば最大流量がフルスケール流量値として規定される。流量特性関数K(流量特性曲線及びフルスケール流量も含む)は、試料流体が異なれば異なるものになりうるが、流量センサ部2や分流路1a、1b及び層流素子などのマスフローメータのハードウェア構成が実質同一のものであれば共通して使用されうるものである。すなわち、この流量特性関数Kは、同一構成(同一種)のマスフローメータに対して汎用性のある関数として規定される。
【0037】
器差補正係数αは、たとえば出荷前に、マスフローコントローラA1ごとに、以下に示す手順でその値を設定し、各マスフローコントローラA1のMFC側記憶部4bにそれぞれ記憶するようにしている。
【0038】
手順1:まず、設定部4cが、MFC側記憶部4bから、測定すべき試料流体としてNなどの不活性ガスを用い、対応する流量特性関数Kを読み出して設定する。
【0039】
手順2:そして、読み出した流量特性関数Kを用いて、マスフローコントローラA1にNを実際に流し、図5に示すフルスケールポイントFP(●印)におけるガス流量を測定する。
【0040】
手順3:手順1、2を、複数(そのうちの一台は基準となるマスフローコントローラを含む)マスフローコントローラA1について行い、各マスフローコントローラA1間での器差(流量誤差)を求め、それを補償する器差補正パラメータを設定する。
【0041】
このように、前記試料ガスGとして不活性ガスなどの基準流体を採用し、特にフルスケールポイントの一点でのみ校正して、比重・粘性・比熱等の物理的性質が近似する複数種の試料ガスGにも適用しうる器差補正パラメータを規定するだけでよいので、実際の半導体プロセスの現場で容易に試料ガスGを別のものに変更することができる。
【0042】
次に上記構成のマスフローコントローラA1の作動について制御部4を中心に図6のフローチャートを参照して説明する。図6に示すように、試料ガスGに変更があると(ステップS101)、設定部4cは、試料ガスGの変更を受信し、当該試料ガスGと対応する流量特性関数Kと変更前の器差補正パラメータαと同じものとで構成される流量算出式(P2)を設定する(ステップS102)。すなわち設定部4cは、流量特性関数のみを、MFC側記憶部4bから読み込出した、変更後の試料ガスGに対応する新たな流量特性関数Kに置き換える。
【0043】
そして、流量センサ部2から流量測定信号が出力されると(ステップS103)、流量算出部4dが、流量算出式(P2)に基づいて、ガス流路1を流れる試料ガスGの流量を算出する(ステップS104)。なお、試料ガスGに変更がなければ、流量算出部4dは、既に設定されている流量算出式に基づいて流量算出を行いうる。これらの算出された流量は、流量値として外部出力(表示)に供される。
【0044】
上述したところまでがマスフローセンサーによる作動になるが、マスフローコントローラA1及びそれを含んだマスフローコントローラシステムAではさらに、制御部4aでの偏差算出部4a1が、流量算出部4dで算出された試料ガスGの流量を示す実流量信号と、制御装置A2から出力されている流量設定信号とを受信すると(ステップS105)、受信した実流量信号の値(流量測定値)と前記流量設定信号の値である流量設定値との差、すなわち偏差εを算出する(ステップS106)。
【0045】
そして制御値算出部4a2が、その偏差にたとえばPID演算を施して流量制御バルブ3へのフィードバック制御値を算出する(ステップS107)。
【0046】
次に、開度制御信号出力部4eが、そのフィードバック制御値に基づいて開度制御信号を生成し(ステップS108)、その開度制御信号を流量制御バルブ3に出力し、その弁開度を変えて流量制御を行う(ステップS109)。
【0047】
したがって、このようなマスフローメータやマスフローコントローラA1を用いたマスフローコントローラシステムAによれば、器差補正パラメータαが、流量特性関数K(ガス特性曲線決定係数とフルスケール係数)に対して独立して取り扱いできるため、制御対象となるガス種の設定変更があった場合でも、流量特性関数Kの変更によってオペレータの煩雑さなく容易に、精度の良い流体制御を実現することができる。
【0048】
また、流量特性関数を構成する流量特性曲線として、5次の多項式のような高次の多項式を採用しているため、好適に近似させながら、フルスケールレンジを大きくとることができ、センサ出力のレンジをその最大側でワイドにして精度良く流量測定を行うことができる。その結果、高精度で流体制御を実現しうる優れたマスフローコントローラA1及びマスフローコントローラシステムAを提供することができる。
【0049】
前記器差補正パラメータαは、窒素ガスなどの利便性の高い不活性ガスを基準ガスにして、その基準ガスによってフルスケールポイントFPを測定して求められるものであり、かつ他の試料ガスGに対しても汎用的に適用しうるものであるため、試料ガス(プロセスガス)の設定変更があっても、使用現場でガス変更に起因する校正作業を行う必要もない。
【0050】
制御装置A2などのマスフローコントローラA1より上位のコンピュータに、多種の流量特性関数を含んだデータベースを設けているので、試料ガスの設定変更を行う場合、そこから対応する流量特性関数を送信し、試料ガスに対する汎用性の高い当該前記器差補正パラメータαと組み合わせることで、使用現場でも容易に測定対象ガスの変更を行うことができる。結果、それぞれのマスフローコントローラ等の試料流体に対する汎用性を極めて高めることができる。
【0051】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。例えば、制御装置A2に、試料流体受付部としての受付部A22及び流量特性関数Kをデータベース化した記憶部A21を設けた例を示しているが、それらをマスフローコントローラA1に設けるなどして、該マスフローコントローラA1をスタンドアローンで用いることができるようにすることもできる。
【0052】
流量特性曲線を5次の多項式としているが、流量特性を決める関数は、4次以下又は6次以上の多項式であってもよいし、また多項式で構成されるものに限られるものではない。
【0053】
また、基準流体としての基準ガスは窒素ガスに限られない。例えば、基準ガスとして他の不活性ガスなどを用いることもできる。流体としては、液体なども想定しうる。
【0054】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1・・・・・・・・・ガス流路(流路)
2・・・・・・・・・流量センサ部(センサ部)
3・・・・・・・・・流量制御バルブ(コントロールバルブ)
4a・・・・・・・・・制御部
4c・・・・・・・・・設定部
4d・・・・・・・・流量算出部
A・・・・・・・・・マスフローコントローラシステム
A1・・・・・・・・マスフローコントローラ
A21・・・・・・・記憶部
A22・・・・・・・受付部(試料流体受付部)
G・・・・・・・・・試料ガス(試料流体)
K・・・・・・・・・流量特性関数
α・・・・・・・・・器差補正パラメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を流れる試料流体の流量を検知するセンサ部と、
流体ごとに定められ、前記センサ部からの出力値に基づいて流量を定めるための流量特性関数であって、指定された試料流体に固有の流量特性関数と、その流量特性関数とは独立した、複数の試料流体に対して共通のパラメータであり、マスフローメータごとの器差を補正するための器差補正パラメータとを設定する設定部と、
前記流量特性関数と前記器差補正パラメータとに基づいて、前記試料流体の流量を算出する流量算出部と、を具備するマスフローメータ。
【請求項2】
前記流量特性関数が、5次の多項式で表されるものである請求項1記載のマスフローメータ。
【請求項3】
前記器差補正パラメータが、試料流体としての基準流体をフルスケール流量で測定する場合に、基準流体に固有の流量特性関数を設定して算出した流量値と、基準となるマスフローメータで前記フルスケール流量を測定したときの流量値との誤差を解消するための係数である請求項1又は2記載のマスフローメータ。
【請求項4】
前記器差補正パラメータが、窒素ガスを試料流体とし、その試料流体としての基準ガスを実際に測定し求められる係数で、その係数は他の異なる複数の試料ガスに対しても共通のものである請求項1乃至3いずれか記載のマスフローメータ。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載のマスフローメータと、
前記流路に設けたコントロールバルブと、
算出された流量値と流量設定値とを比較演算し、この演算結果に基づいて前記コントロールバルブを制御する制御部と、を具備するマスフローコントローラ。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の複数のマスフローメータまたは複数のマスフローコントローラと通信するとともに、試料流体と紐付けられた流量特性関数を複数記憶した記憶部と、
前記流路に流れる試料流体の指定を受け付ける試料流体受付部と、をさらに備え、
前記設定部は、前記受付部によって指定された試料流体に固有の流量特性関数を前記記憶部から受信し、指定された試料流体に固有の流量特性関数を設定するマスフローメータシステムまたはマスフローコントローラシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−216807(P2010−216807A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60319(P2009−60319)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000127961)株式会社堀場エステック (88)
【Fターム(参考)】