説明

マンコンベアの非常時運転装置

【課題】 地震、火災などの災害による停電時に急激な減速や停止を行なうことなくマンコンベア運転を持続できるマンコンベアの非常時運転装置を提供する。
【解決手段】 整流回路2とインバーター3との間の直流リンクに、蓄電装置6と、停電を検知して蓄電装置6の充放電を制御する充放電制御部5とを備え、蓄電装置6とインバーター3間に、蓄電装置6の残存容量に応じて電動機4の回転数制御指令を出力するインバーター制御部7を備えたことにより、通常時に蓄電装置6に充電しながら運転を行ない、停電時に充放電制御部5で蓄電装置6を制御して放電し、電動機4の駆動による運転を持続する。蓄電装置6の残存容量が少なくなった場合、インバーター制御部7から電動機4の回転数制御指令を出力し、電動機4の回転数を下げながらエスカレーターを停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターおよび電動道路などのマンコンベア(乗客コンベア)に係り、地震、火災、その他の災害による停電時に非常時運転を行なうマンコンベアの非常時運転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エスカレーターおよび電動道路などのマンコンベアにあっては、運転中に地震、火災、その他の災害により停電した場合、マンコンベアの踏段および移動手すりが急停止し乗客が転倒する恐れがあると共に、建屋の照明も消灯してしまうので乗客の不安を煽るという問題があった。また、上記の停電時にマンコンベアが停止した場合、大勢の乗客が停止中の踏段を建屋の階段の代わりとして利用することがあり、この場合には、大勢の乗客の重さが踏段に加わって電動機を制動する電磁ブレーキの制動限界を超えることにより、踏段が急に動き出して乗客が転倒する可能性があった。
【0003】
そこで従来、建屋に設置された震動感知器と、これに連動してエスカレーターを微速で駆動する非常時運転装置とを備えたエスカレーター運転装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この従来のエスカレーター運転装置にあっては、震動感知器が所定値以上の震動を感知したとき、震動感知器からの信号に基づき非常時運転装置から駆動モータを微速で回転させる指令をインバーターに出力することにより、踏段を通常時の速度から減速して微速で動き続けるので、踏段が急停止したり乗客の重さで急に動いたりすることを防止できる。
【0004】
また、乗客コンベアの欄干上部に複数個の照明灯を設け、建屋の停電時に非常電源により照明灯を点灯する手段を備えた乗客コンベアの非常照明装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この従来の非常照明装置にあっては、建屋の停電時に非常電源により照明灯を点灯させて欄干の上部から踏段を全行程にわたって照らすので、乗客は踏段を踏み外したり転倒したりすることなく安全に踏段上を移動することができる。
【0005】
また、電磁ブレーキの制動時に複数回に分けて制動力を付与すると共に最初の制動力よりも2回目以降の制動力を強める手段を備えた乗客コンベアが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この従来の乗客コンベアにあっては、電磁ブレーキの制動時に、最初の制動力による比較的弱い減速で乗客が異常を感じて移動手すりを握って身構えることができるので、2回目以降の制動力による大きな減速によって乗客が転倒することが少なくなる。
【特許文献1】特開平6−27854号公報(段落番号0009、図1および図2)
【特許文献2】実開平7−24869号公報(段落番号0008、図1)
【特許文献3】特開平10−297863号公報(段落番号0021、0022、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1〜3に記載されている従来技術では、停電時の安全装置がいくつか提案されているが、停電時においても急激な減速や停止を行なうことなく通常と変わらない運転を持続させることは想定していない。特に、高揚程のエスカレーターでは減速したり運転を停止したときに乗客が踏段を一気に上るか、もしくは降りようとすることがあり、この場合、乗客の転倒事故に至る可能性が高いため、停電時にもそのまま運転を持続させる方が安全性は高い。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術を考慮してなされたもので、その目的は、地震、火災、その他の災害による停電時に急激な減速や停止を行なうことなく運転を持続することのできるマンコンベアの非常時運転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の第1の特徴は、無端状に連結された複数の踏段と、これらの踏段と同一方向に移動する移動手すりと、前記踏段および前記移動手すりを駆動する駆動手段とを有し、この駆動手段が、交流電源からの交流電力を直流電力に変換する整流回路と、前記直流電力から所定の周波数の交流電力に変換するインバーターと、このインバーターにより回転動作が制御され、前記踏段および移動手すりを駆動する電動機とを備えたマンコンベアおける停電時に非常時運転を行なう非常時運転装置であって、前記整流回路と前記インバーターとの間の直流リンクに、充放電可能な蓄電装置と、停電を検知して前記蓄電装置の充放電を制御する充放電制御部とを設けたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、地震、火災、その他の災害による停電時に蓄電装置の電力によりマンコンベア運転を持続することができるので、前記の停電時に踏段の急停止に伴う乗客の転倒事故を防止できると共に、乗客が停止中の踏段を建屋の階段の代わりとして利用することもないので、大勢の乗客の重さで電磁ブレーキの制動限界を超えて踏段が急に動き出し乗客が転倒することも防止できる。したがって、災害などによる停電時に乗客の安全性を確保することのできるマンコンベアの非常時運転装置を提供できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係るマンコンベアの非常時運転装置の詳細を図に基づいて説明する。
【0011】
図1は本発明の実施の形態に係るエスカレーターの非常時運転装置を示す説明図、図2は本実施の形態によりエスカレーター運転を行なう際の処理手順を示すフローチャートである。
【0012】
図1に示すエスカレーターの駆動手段8は、三相交流電源1からの交流電力を直流電力に変換する整流回路2と、前記の直流電力から所定の周波数の交流電力に変換するインバーター3と、このインバーター3により回転動作が制御され、図示しない踏段および移動手すりを駆動する電動機4とを備えている。
【0013】
そして、本実施の形態の非常時運転装置9では、整流回路2とインバーター3との間の直流リンクに、充放電可能な蓄電装置6と、停電を検知して蓄電装置6の充放電を制御する充放電制御部5とを備えると共に、蓄電装置6およびインバーター3間に、蓄電装置6の残存容量(放電量)に応じて電動機4の回転数制御指令をインバーター3へ出力するインバーター制御部7を備えている。
【0014】
この実施の形態にあっては、図2に示す一連の処理手順にしたがってエスカレーター運転を行なうようになっている。すなわち、手順S1として通常時運転を行なう際、手順S2として蓄電装置6の充電モードが設定されるので、電動機4の回転によりインバーター3で発生する逆起電力で蓄電装置6が充電し、手順3として整流回路2の出力電圧でエスカレーターを駆動可能かどうか判定する。その結果、整流回路2の出力電圧でエスカレーターを駆動可能である場合、手順S1に戻って通常時運転を継続する。
【0015】
また、例えば地震、火災、その他の災害による停電が発生し、三相交流電源1が遮断された場合、整流回路2の出力電圧が低下するので、手順S4として充放電制御部5の制御により通常時運転から非常時運転に切替えて、手順S5として蓄電装置6の放電モードが設定されるので、蓄電装置6からインバーター3を介して電動機4へ放電する。このとき、エスカレーターが非常時運転状態であることを乗客にアナウンスで伝えると共に、蓄電装置6からの放電により図示しない照明を点灯してエスカレーターを照らし、エスカレーター運転を持続する。
【0016】
その後、手順S6として再び整流回路2の出力電圧でエスカレーターを駆動可能かどうか判定する。この時点までに停電状態から復旧すれば整流回路2の出力電圧でエスカレーター駆動可能であるので、手順S1に戻って非常時運転から通常時運転へ復帰する。一方、依然として停電状態が継続する場合、手順S7として蓄電装置6の出力電圧でエスカレーターを駆動可能かどうか判定し、このとき、蓄電装置6の出力電圧でエスカレーターを駆動可能である場合、手順S4に戻って非常時運転を継続する。
【0017】
また、蓄電装置6の残存容量が少なくなりエスカレーターを駆動できない場合には、手順S8としてインバーター制御部7により蓄電装置6の残存容量に応じて電動機4の回転数制御指令をインバーター3へ出力する。このとき、エスカレーターを停止することを乗客にアナウンスで伝えると共に、インバーター3の制御により電動機4の回転数を下げながらエスカレーターを停止する。次いで、手順S9として再び整流回路2の出力電圧でエスカレーターを駆動可能かどうか判定する。この時点までに停電状態から復旧すれば整流回路2の出力電圧でエスカレーター駆動可能であるので、手順S1に戻って非常時運転から通常時運転へ復帰する。一方、依然として停電状態が継続する場合、手順S10として蓄電装置6が放電しきるまで必要最低限の照明を点灯する。
【0018】
このように構成した本実施の形態では、地震、火災、その他の災害による停電時に、蓄電装置6に蓄えられた電力によりエスカレーター運転を持続することができるので、前記の停電時にエスカレーター急停止による乗客の転倒事故を防止できる。また、乗客が停止中の踏段を建屋の階段の代わりとして利用することもないので、大勢の乗客の重さで電動機4の電磁ブレーキ制動限界を超えて踏段が急に動き出し乗客が転倒することも防止できる。特に、高揚程のエスカレーターで停電時にもエスカレーター運転を持続することにより、乗客の安全性を高めることができる。
【0019】
また、本実施の形態では、停電中に蓄電装置6の残存容量が低下してもインバーター制御部7で電動機4の回転数制御指令を出力して、インバーター3の制御により電動機4の回転数を下げながらエスカレーターを停止するので急停止を避けて安全に減速することができ、この点でも乗客の安全性を高めることができる。
【0020】
また、本実施の形態では、停電時でも蓄電装置6の放電により照明を点灯してエスカレーターを照らすことにより、乗客の不安を減らすことができると共に、乗客が転倒することなく安全に踏段上を移動することができる。
【0021】
なお、上記実施の形態にあっては、エスカレーターの非常時運転装置について説明したが、本発明はこれに限らず、他のマンコンベア、例えば、傾斜型の電動道路や水平に設置された電動道路についても同様に適用することができる。
【0022】
このように構成した本発明では、通常時に制御手段の整流回路とインバーターとの間の直流リンクに備えた蓄電装置により充電しながら通常時運転を行ない、停電を検知したときに充放電制御部により蓄電装置の充電から放電に切替えて、蓄電装置からインバーターを介して電動機へ給電する。これによって、地震、火災、その他の災害による停電時に、蓄電装置に蓄えられた電力によりマンコンベア運転を持続でき、急激な減速や停止を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るエスカレーターの非常時運転装置を示す説明図。
【図2】本実施の形態によりエスカレーター運転を行なう際の処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0024】
1 三相交流電源
2 整流回路
3 インバーター
4 電動機
5 充放電制御部
6 蓄電装置
7 インバーター制御部
8 駆動手段
9 非常時運転装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結された複数の踏段と、これらの踏段と同一方向に移動する移動手すりと、前記踏段および前記移動手すりを駆動する駆動手段とを有し、この駆動手段が、交流電源からの交流電力を直流電力に変換する整流回路と、
前記直流電力から所定の周波数の交流電力に変換するインバーターと、
このインバーターにより回転動作が制御され、前記踏段および移動手すりを駆動する電動機とを備えたマンコンベアにおける停電時に非常時運転を行なう非常時運転装置であって、
前記整流回路と前記インバーターとの間の直流リンクに、充放電可能な蓄電装置と、
停電を検知して前記蓄電装置の充放電を制御する充放電制御部と、
を設けたことを特徴とするマンコンベアの非常時運転装置。
【請求項2】
停電時に前記蓄電装置の放電によって照明を点灯することを特徴とする請求項1記載のマンコンベアの非常時運転装置。
【請求項3】
前記蓄電装置の残存容量に応じて前記電動機の回転数制御指令を前記インバーターへ出力するインバーター制御部を備え、前記蓄電装置の残存容量が少なくなったときにマンコンベアを安全に停止させるようにしたことを特徴とする請求項1記載のマンコンベアの非常時運転装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−182456(P2006−182456A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374509(P2004−374509)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】