説明

マーカ自動登録方法及びシステム

【課題】近両用マーカの3次元位置と方向の計測と計測結果の記憶の手間を省くと共に計測ミスの発生を低減する。
【解決手段】作業環境の基準となる位置(世界座標系の原点や座標軸上の点)及び適宜な位置に遠近両用マーカ1を貼り付け、作業環境に貼り付けた遠近両用マーカ1を見渡せる位置にビデオカメラ2とレーザ距離計測器3を備えたマーカ自動登録システムを設置して作業環境に貼り付けられた総ての遠近両用マーカ1の3次元位置と方向を計測し、これを世界座標系Wで表された3次元位置と方向に変換して記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡張現実感の運用等に用いるのに好適なマーカの自動登録方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
拡張現実感(Augmented Reality)が原子力発電プラント内で使用することができるようになれば、プラントで働く作業者に対して様々な支援を行なうことが可能となる。
【0003】
拡張現実感を使用するためには、作業者の位置と方向をリアルタイム計測するトラッキング技術が必要であるが、GPS(Global Positioning System)・磁気センサ・超音波センサ・慣性センサ等の既存のトラッキング技術は、単独では、原子力発電プラント内部で使用することができない。
【0004】
そこで、発明者らは、原子力発電プラント内部でも使用可能なトラッキング手法として、カメラと遠近両用マーカを用いたトラッキング手法を開発してきた。
【0005】
カメラと遠近両用マーカを用いたトラッキング手法は、作業環境内に複数のマーカを貼り付け、それらをカメラで撮影し、画像処理と幾何計算によりカメラとマーカの間の相対的な位置関係を求める手法である。
【0006】
この手法は、屋内でも使用可能、金属や騒音の影響を受けない、時間経過による精度低下や安定性低下がない等の利点があるが、事前に複数のマーカを作業環境内に貼り付け、その3次元位置と方向を計測して記憶しておくことが必要である。
【0007】
【特許文献1】再公表W2005−017644号公報
【特許文献2】特開2004−28788号公報
【非特許文献1】L.Quan et al :Linear N−Point Camera Pose Determination,IEEE Trans.on Pattern Analysis and Machine Intelligence,Vol.21,No.7,pp.774−780,1999.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したカメラと遠近両用マーカを用いたトラッキング手法において、貼り付けたマーカの3次元位置と方向を予め計測して記憶させる作業は、手作業で行なってきたが、作業環境が原子力発電プラントであるような場合には、マーカの貼り付け方が複雑になり、非常に手間がかかると共に計測ミスも発生する問題があった。
【0009】
従って、本発明の1つの目的は、遠近両用マーカの3次元位置と方向の計測と計測結果の記憶を自動化することにより手間を省くと共に計測ミスの発生を低減しようとすることにある。
【0010】
本発明の他の目的は、更に、前記マーカの位置と方向を世界座標系の形態で記憶することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のマーカ自動登録方法及びシステムは、小型コンピュータで制御可能なビデオカメラ、レーザ距離計測器、電動雲台等を使用して作業環境に貼り付けられている遠近両用マーカの3次元位置と方向を自動的に計測し、計測結果を登録(記憶)する構成であり、
具体的には、
環境の基準となる位置(世界座標系の原点や座標軸上の点)及び適宜な位置にマーカを貼り付け、ビデオカメラで撮影可能かつレーザ距離計測器で距離を計測可能な範囲にある総てのマーカの世界座標系で表された3次元位置と方向を全自動で計測して記憶する方法において、
ビデオカメラの焦点距離を設定可能な最も短い値に設定する第1のステップと、
ビデオカメラの稼動範囲の総ての領域を最低1回は撮影するように等間隔でビデオカメラの撮影方向を回転させ、各撮影方向において、ビデオカメラを用いてマーカとの間の距離と存在する方向を求めるアルゴリズムを実行することにより、環境に貼り付けられたマーカとの距離と存在する方向を認識して記憶する第2のステップと、
ビデオカメラの焦点距離を最も短い値の2倍の値および3倍の値に設定して前記第2のステップを繰り返す第3のステップと、
第3のステップまでに認識して記憶した個々のマーカに対してレーザ距離計測器を用いてマーカ上の1点の位置を計測するアルゴリズムを実行することにより、認識した総てのマーカの3次元位置と方向を計測して記憶する第4のステップと、
第4のステップで記憶した総てのマーカの3次元位置と方向に対して、マーカの位置と方向を世界座標系に変換するアルゴリズムを適用して世界座標系で表された3次元位置と方向を求めて記憶する第5のステップを行うことを特徴とするマーカ自動登録方法。
【0012】
また、前記マーカとして、四角形の台紙の中心に配置した1つの大円と、台紙の4隅に配置した4つの小円を備え、前記大円は、10個の同型の扇形を円環状に配置し、白色の扇形を0、黒色の扇形を1とすることにより、各マーカのID番号を表現するように構成したものを使用することを特徴とする。
【0013】
また、環境の基準となる位置(世界座標系の原点や座標軸上の点)及び適宜な位置に貼り付けられたマーカのうち、ビデオカメラで撮影可能かつレーザ距離計測器で距離を計測可能な範囲にある総てのマーカの世界座標系で表された3次元位置と方向を全自動で計測して記憶するシステムにおいて、
電動雲台によって向きを変えることができるようにしたビデオカメラと、電動雲台によって向きを変えることができるようにしたレーザ距離計測器と、前記ビデオカメラとレーザ距離計測器電動雲台と接続されてこれらを制御する小型コンピュータとを備え、
前記小型コンピュータは、
前記ビデオカメラの焦点距離を設定可能な最も短い値に設定する第1のステップと、
前記ビデオカメラの稼動範囲の総ての領域を最低1回は撮影するように等間隔でビデオカメラの撮影方向を回転させ、各撮影方向において、前記ビデオカメラを用いてマーカとの間の距離と存在する方向を求めるアルゴリズムを実行することにより、環境に貼り付けられたマーカとの距離と存在する方向を認識して記憶する第2のステップと、
前記ビデオカメラの焦点距離を最も短い値の2倍の値および3倍の値に設定して前記第2のステップを繰り返す第3のステップと、
第3のステップまでに認識して記憶した個々のマーカに対して前記レーザ距離計測器を用いてマーカ上の1点の位置を計測するアルゴリズムを実行することにより、認識した総てのマーカの3次元位置と方向を計測して記憶する第4のステップと、
第4のステップで記憶した総てのマーカの3次元位置と方向に対して、マーカの位置と方向を世界座標系に変換するアルゴリズムを適用して世界座標系で表された3次元位置と方向を求めて記憶する第5のステップを行うプログラムを備えたことを特徴とする。
【0014】
また、前記マーカは、四角形の台紙の中心に配置した1つの大円と、台紙の4隅に配置した4つの小円を備え、前記大円は、10個の同型の扇形を円環状に配置し、白色の扇形を0、黒色の扇形を1とすることにより、各マーカのID番号を表現するように構成したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、遠近両用マーカの3次元位置と方向の計測と計測結果を世界座標系の形態で記憶する処理を自動化することにより手間を省くと共に計測ミスの発生を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、環境の基準となる位置(世界座標系の原点や座標軸上の点)及び適宜な位置に貼り付けられたマーカのうち、ビデオカメラで撮影可能かつレーザ距離計測器で距離を計測可能な範囲にある総てのマーカの世界座標系で表された3次元位置と方向を全自動で計測して記憶するシステムにおいて、
電動雲台によって向きを変えることができるようにしたビデオカメラと、電動雲台によって向きを変えることができるようにしたレーザ距離計測器と、前記ビデオカメラとレーザ距離計測器電動雲台と接続されてこれらを制御する小型コンピュータとを備え、
前記小型コンピュータは、
前記ビデオカメラの焦点距離を設定可能な最も短い値に設定する第1のステップと、
前記ビデオカメラの稼動範囲の総ての領域を最低1回は撮影するように等間隔でビデオカメラの撮影方向を回転させ、各撮影方向において、前記ビデオカメラを用いてマーカとの間の距離と存在する方向を求めるアルゴリズムを実行することにより、環境に貼り付けられたマーカとの距離と存在する方向を認識して記憶する第2のステップと、
前記ビデオカメラの焦点距離を最も短い値の2倍の値および3倍の値に設定して前記第2のステップを繰り返す第3のステップと、
第3のステップまでに認識して記憶した個々のマーカに対して前記レーザ距離計測器を用いてマーカ上の1点の位置を計測するアルゴリズムを実行することにより、認識した総てのマーカの3次元位置と方向を計測して記憶する第4のステップと、
第4のステップで記憶した総てのマーカの3次元位置と方向に対して、マーカの位置と方向を世界座標系に変換するアルゴリズムを適用して世界座標系で表された3次元位置と方向を求めて記憶する第5のステップを行うプログラムを備え、
前記マーカは、四角形の台紙の中心に配置した1つの大円と、台紙の4隅に配置した4つの小円を備え、前記大円は、10個の同型の扇形を円環状に配置し、白色の扇形を0、黒色の扇形を1とすることにより、各マーカのID番号を表現するように構成したものとする。
【実施例1】
【0017】
図1は、この実施例1において使用する遠近両用マーカの平面図である。この遠近両用マーカ1は、四角形の白色の台紙11の中心に配置した1つの大円12と、台紙11の4隅に配置した4つの小円13〜13によって構成し、大円12と小円13〜13の中心を特徴点(画像処理により認識可能であり、トラッキングの基準となる点)とする。
【0018】
大円12の中には、10個の同型の扇形12a〜12jを円環状に配置し、白色の扇形を0、黒色の扇形を1とすることにより、各マーカ1のID番号を表現するようにする。
【0019】
そして、この遠近両用マーカ1は、以下のようにしてトラッキングに使用する。
【0020】
1)作業環境内に複数の遠近両用マーカ1を予め貼り付けて各遠近両用マーカのID番号と作業環境内での3次元位置を計測して記憶しておく。
【0021】
2)遠近両用マーカ1が貼り付けられた作業環境を作業者が装着したカメラで撮影する。
【0022】
3)撮影して得られたカメラ画像データを処理して各遠近両用マーカ1のID番号と特徴点のカメラ撮影画像上での位置を認識する。
【0023】
4)カメラ撮影画像上での特徴点の位置と、作業環境内での各遠近両用マーカ1の3次元位置情報を用いて、PnP問題(Perspective N-Point Problem)(非特許文献1参照)を解いてカメラと遠近両用マーカ1とカメラの間の相対的な位置と方向を求める。
【0024】
このようにして行なうトラッキングにおいて、カメラと遠近両用マーカ1の間の相対的な位置と方向を一意に求めるためには、最低4個の特徴点が同時に認識されることが必要である。遠近両用マーカでは、カメラとマーカの間の距離が長いときには複数のマーカの大円の中心の特徴点を利用し、距離が短いときには、1つの遠近両用マーカの4つの小円の中心の特徴点を利用する。
【0025】
したがって、この手法では、作業環境内に貼り付けた遠近両用マーカの総ての特徴点の3次元位置(もしくは、マーカ上の1点の3次元位置とマーカの方向)を事前に計測して記憶しておくことが必要である。
【0026】
図2は、このような作業環境に貼り付けられた遠近両用マーカを自動的に計測して計測結果を登録するマーカ自動登録システムのハードウエア構成を示す斜視図である。
【0027】
2は小型コンピュータで制御可能な電動雲台を内蔵するビデオカメラ、3はレーザ距離計測器、4はレーザ距離計測器3を載置する電動雲台、5は前記ビデオカメラ2とレーザ距離計測器3と電動雲台4と通信ケーブル6を介して接続されてこれらを制御する小型コンピュータ(携帯用パーソナルコンピュータ)、7は前記ビデオカメラ2と電動雲台4を取り付けて作業環境内に貼り付けられた遠近両用マーカを見渡せる位置に設置する三脚である。
【0028】
ビデオカメラ2は、小型コンピュータ5からの制御信号により、方向,ズーム値,シャッタースピード等が制御される。そして、ビデオカメラ2の撮影画像データは、ビデオキャプチャデバイス(図示省略)を用いて小型コンピュータ5に入力する。
【0029】
レーザ距離計測器3は、小型コンピュータ5からの制御信号により、電動雲台4が制御されることによりレーザ光照射方向を目標である遠近両用マーカ1に向け、この目標の遠近両用マーカ1に向けてレーザ光を照射し、その反射光と照射光の位相差をもとにレーザ距離計測器3と目標の遠近両用マーカ1との間の距離を計測し、計測結果を小型コンピュータ5に伝送する。
【0030】
具体的には、例えば、次のような各機器を使用することにより実現することができる。
【0031】
ビデオカメラ2
メーカ・型:SonyEVI−D30
映像出力 :NTSC
焦点距離 :5.4mm〜64.8mm
回転範囲 :水平±100度、垂直±25度
制御端子 :RS−232C
レーザ距離計測器3
メーカ・型:Leica Geosystems DISTO Pro 4a
測定範囲 :0.3m〜40m
測定精度 :標準±1.5mm 最大±2mm
制御端子 :RS−232C
電動雲台4
メーカ・型:Directed Perception PTU−D46−70
分解能 :0.012857度
最高速度 :60度/秒
回転範囲 :水平±159度、垂直−31度+48度
制御端子 :RS−232C
ビデオキャプチャ
メーカ・型:IO・DATA機器 USB−CAP2
画像入力 :NTSC
解像度 :最大352×288
画像出力 :USB1.1・RGB24bit
取得速度 :30fps
小型コンピュータ5
メーカ・型:ASUS M5N
CPU :Pentium M1.4GHz (Pentiumは登録商標)
メモリ :DDR333 768MB
OS :Microsoft Windows XP Home Edition (Microsoft Windowsは登録商標)
このようにして構成したマーカ自動登録システムは、作業環境に貼り付けられている遠近両用マーカ1の3次元位置と方向を自動的に計測し、計測結果を記憶する構成である。
【0032】
このマーカ自動登録システムを用いて遠近両用マーカを計測して記憶(登録)するための具体的な方法は、次のようになる。
【0033】
ステップS1
作業環境の基準となる位置(世界座標系の原点や座標軸上の点)及び適宜な位置に遠近両用マーカ1を貼り付ける。
【0034】
ステップS2
作業環境に貼り付けた遠近両用マーカ1を見渡せる位置にマーカ自動登録システムを設置する。
【0035】
ステップS3
マーカ自動登録システムを用いて作業環境に貼り付けられた総ての遠近両用マーカ1の3次元位置と方向を計測する。
【0036】
ステップS4
計測結果をファイルに保存し、拡張現実感を使用するシステムに転送する。
【0037】
前記ステップS3における遠近両用マーカ1の計測は、次のようにして自動的に実行する。
【0038】
ステップS31
ビデオカメラ2を稼動範囲全体で等間隔に回転させながら撮影し、ビデオカメラ2に写った遠近両用マーカ1のID番号,大きさ,方向から、どの遠近両用マーカ1がどの位置に貼り付けられているかを画像処理により求める。ここで得られる位置情報には、比較的大きな誤差が含まれる。
【0039】
ステップS32
前記ステップS31において求めた総ての遠近両用マーカ1に対して、より正確な3次元位置と方向を、次のようにして計測する。
【0040】
ステップS321
前記ステップS31において得られた遠近両用マーカ1の位置情報をもとに、ビデオカメラ2の撮影画像の中心に目標の遠近両用マーカ1の映像が写るようにビデオカメラ2の方向とズームを調整制御する。
【0041】
ステップS322
前記ステップS31において得られた遠近両用マーカ1の位置情報をもとに、レーザ距離計測器3のレーザ照射方向を目標の遠近両用マーカ1の方向に向けるように電動雲台4を制御する。
【0042】
ステップS323
レーザ照射前のビデオカメラ2の撮影画像と、レーザ照射後のビデオカメラ2の撮影画像を比較することによりレーザ照射位置(レーザ照射スポットの位置)を認識する。
【0043】
ステップS324
レーザ照射位置が目標の遠近両用マーカ1の中心(大円12の中心と同じ)になるように電動雲台4を制御してレーザ距離計測器3の向きを微調整する。
【0044】
ステップS325
目標の遠近両用マーカ1とレーザ距離計測器3の間の距離を計測する。
【0045】
ステップS326
前記ステップS324で調整したレーザ距離計測器3の向きとステップS325で計測した距離に基づいて、目標の遠近両用マーカ1の3次元位置を求める。
【0046】
ステップS327
前述したステップS322〜ステップS326と同様な方法により、目標の遠近両用マーカ1の4隅の小円近傍の3次元位置を求める。
【0047】
ステップS33
作業環境の基準となる位置に貼り付けた遠近両用マーカ1の3次元位置の情報を用いて、世界座標系を基準とした各遠近両用マーカ1の3次元位置と方向を計算により求める。
【0048】
以上のように、このマーカ自動登録システムは、遠近両用マーカ1を貼り付けた作業環境に設置された後は、全自動で各遠近両用マーカ1の3次元位置と方向を計測するために、計測中に作業員がシステムを操作する必要がなく、多数の遠近両用マーカ1の3次元位置と方向を計測するのに要する労力を大幅に低減することができる。
【0049】
また、各遠近両用マーカ1の計測結果は、最終的には、世界座標系を基準とした値に変換されるために、マーカ自動登録システムを作業環境の何処に置いて使用しても、計測誤差を除いて、常に同じ結果を得ることができる。
【0050】
一方、前記方法では、このマーカ自動登録システムから見えない位置に貼り付けられている遠近両用マーカ1は計測することができないため、入り組んだ環境に貼り付けられた遠近両用マーカ1の総てを一度に計測することはできない。このような場合には、最低4個の遠近両用マーカ1を重複して計測することができることを条件にして、マーカ自動登録システムの設置位置を複数回移動させて遠近両用マーカ1を計測し、重複して計測した遠近両用マーカの位置情報を用いて、それらの計測結果を統合することが可能である。
【0051】
ここで、前述した遠近両用マーカの自動計測を実現するアルゴリズムを説明する。このアルゴリズムは、小型コンピュータ5に組み込んだ制御及び情報処理プログラムを実行することにより実現する。
【0052】
図3は、このマーカ自動登録システムで取り扱う座標系を示している。座標系は、総て右手系とする。
【0053】
世界座標系Wは、拡張現実感を利用する作業環境内に固定され、1番の遠近両用マーカの中心を原点、この1番の遠近両用マーカの中心から2番の遠近両用マーカの中心へ向う方向をX軸とし、1番、2番、3番の遠近両用マーカの中心を含む平面をXY平面とする。
【0054】
レーザ雲台座標系Aは、レーザ距離計測器3を搭載する電動雲台4のチルト(上下)方向の回転軸と、パン(左右)方向の回転軸の交点を原点とし、電動雲台4が初期化されたときの上下方向をZ軸、正面方向をX軸の負の方向とする。レーザ距離計測器座標系Lは、レーザ雲台座標系Aの原点を通る電動雲台4の回転台面に垂直な直線と回転台面の交点を原点とし、電動雲台4が初期化されたときの上下方向をZ軸、正面方向をX軸の負の方向とする。
【0055】
撮影画像(スクリーン)座標系Sは、ビデオカメラ2のCCD素子平面上に設定され、ビデオカメラ2の撮影方向を見て左上隅を原点、右向きをX軸、下向きをY軸とする。
【0056】
カメラ雲台座標系Bは、ビデオカメラ2に内蔵の電動雲台のチルト方向の回転軸と、パン方向の回転軸の交点を原点とし、電動雲台が初期化されたときの上方向をZ軸、正面方向をX軸の負の方向とする。
【0057】
カメラ座標系Cは、ビデオカメラ2の焦点を原点、画像平面の中央を通り、該画像平面に垂直な方向をX軸負の方向、撮影画像座標系SのX軸に平行な方向をY軸とする。
【0058】
ID番号がiの遠近両用マーカ1のマーカi座標系Miは、遠近両用マーカ1の種類の数だけ設定され、遠近両用マーカ1の中心を原点、マーカ面の法線方向をZ軸とし、遠近両用マーカ1の番号を表す扇形12a(〜12j)の最上位ビットと最下位ビットの境界をX軸とする。
【0059】
この説明では、スカラー変数を小文字で表し、ベクトルや行列を大文字で表す。また、各変数の基準座標系(観測座標系)を12のように左上添え字で表す。
【0060】
この実施例では、カメラ雲台座標系Bとカメラ座標系Cの原点は同じであると近似し、レーザ雲台座標系Aとカメラ雲台座標系Bは、各軸が平行になるように予め固定されているものとする。また、レーザ距離計測器3をチルト方向に回転させる際、レーザ距離計測器座標系Lの原点は、回転軸から距離dAL離れた円周上を回転するものとする。
【0061】
マーカ認識アルゴリズムについて説明する。このアルゴリズムは、ビデオカメラ2に写った遠近両用マーカ1のID番号、大円12の特徴点の位置(x,y)、小円13〜13の特徴点の位置(xsi,ysi)(i=0,1,2,3)、大円12の大きさrimage(楕円の長軸半径)を認識するアルゴリズムである。このアルゴリズムは、遠近両用マーカ1を用いてトラッキングするときに用いるアルゴリズムと同じである。
【0062】
ビデオカメラ2から取得したカラー撮影画像データをグレー画像データに変換し、各画素の輝度値を対数変換することにより、高輝度領域と低輝度領域の輝度の変化を強調する。
【0063】
その後、3×3のSobelフィルタを適用し、予め定めた閾値で2値化することにより、画像のエッジ(輝度の変化の大きい部分)を認識する。
【0064】
その後、エッジとして認識された画素間の連結性(隣り合っているかどうか)を調べ、連結していると認識された個々のエッジ群が、楕円にフィッティングできるかどうかを判定する。楕円にフィッティングできると判定されたエッジ群の中の領域を解析し、その領域が遠近両用マーカ1であるかどうかを判定する。遠近両用マーカ1である場合は、このマーカのID番号と大円の長軸を認識すると共に大円と小円の中心を特徴点として認識する。
【0065】
次に、ビデオカメラを用いて遠近両用マーカとの間の距離と存在する方向を求めるアルゴリズムを説明する。このアルゴリズムは、遠近両用マーカ1の大円12の半径rreal、カメラ撮影画像上のマーカの中心座標(x,y)、カメラ撮影画像上の大円の長軸半径rimage、ビデオカメラ2の内部パラメータ(焦点距離f、CCD素子の幅wCCD、画像の解像度wreso、hreso)から、ビデオカメラ2に写った遠近両用マーカ1とビデオカメラ2の間の距離dCMと、カメラ雲台座標系Bで表された遠近両用マーカ1のパン方向θとチルト方向φを求めるアルゴリズムである。
【0066】
ビデオカメラ2のCCD素子の幅と解像度は、ビデオカメラ2とビデオキャプチャデバイスの仕様書から得ることができ、遠近両用マーカ1の大円12の半径は、事前に遠近両用マーカ1を調べておくことにより得ることができる。
【0067】
ステップS41
マーカ認識アルゴリズムを用いてカメラ撮影画像上の遠近両用マーカの中心座標(x,y)と大円の長軸半径rimageを求める。
【0068】
ステップS42
ビデオカメラ2と通信して前記カメラ撮影画像を撮影したときの該ビデオカメラ2のパン方向θ、チルト方向φ、焦点距離fを得る。
【0069】
ステップS43
ビデオカメラ2と遠近両用マーカ1の間の距離dCMを式(数1)により求める。
【0070】
【数1】

ただし、dは、カメラ撮影画像上における撮影画像の中心と遠近両用マーカ1の中心の間の距離である。
【0071】
ステップS44
カメラ雲台座標系Bで表された遠近両用マーカ1のパン方向θ、チルト方向φを式(数2)、(数3)により求める。
【0072】
【数2】

【数3】

ただし、v=2arctan(wCCD/2f)は、ビデオカメラ2の水平方向の画角である。
【0073】
次に、レーザ距離計測器3を用いて遠近両用マーカ1上の1点の位置を計測するアルゴリズムを説明する。このアルゴリズムは、レーザ距離計測器3を搭載する電動雲台4のパン方向Aθ、チルト方向Aφと、レーザ距離計測器3と遠近両用マーカ1上の1点の間の距離dから遠近両用マーカ1上の1点の高精度な3次元位置APを求めるアルゴリズムである。
【0074】
ステップS51
後述する自動化方法により、レーザの照射位置を計測対象となる遠近両用マーカ1上の1点に合わせる。
【0075】
ステップS52
レーザ距離計測器3を制御して該レーザ距離計測器1と計測対象の点の間の距離dlpを得る。
【0076】
ステップS53
レーザ距離計測器1を搭載する電動雲台4から、前記距離を得たときのパン方向θとチルト方向φを得る。
【0077】
ステップS54
計測対象となる遠近両用マーカ1上の1点のレーザ雲台座標系Aで表した3次元位置APを式(数4)により求める。
【0078】
【数4】

ただし、=(−dlp,0,dAL)Tとし、Rθ)およびRφ)は、それぞれ、Z軸を中心にθ、Y軸を中心にφ回転させる回転行列である。
【0079】
次に、1つの遠近両用マーカの位置と方向を自動的に計測するアルゴリズムについて説明する。このアルゴリズムは、ビデオカメラ2に遠近両用マーカ1が写っている状態から、その遠近両用マーカ1の中心の正確な3次元位置AMと方向AMを自動的に計測するアルゴリズムである。
【0080】
ステップS601
ビデオカメラを用いて遠近両用マーカとの間の距離と存在する方向を求めるアルゴリズムを用いて、カメラ雲台座標系Bで表された遠近両用マーカ1のパン方向θ、チルト方向φを求める。
【0081】
ステップS602
前記ステップS601で求めた情報に基づいて、遠近両用マーカ1がビデオカメラ2の撮影画像の中心に写るようにビデオカメラ2の撮影方向を調整する。
【0082】
ステップS603
遠近両用マーカ1の大円12のカメラ撮影画像上での長軸半径rimageが、ビデオカメラ2の縦方向の解像度の30%になるように、ビデオカメラ2の焦点距離を調整する。その際、焦点距離を調整する前の長軸半径rimageが、ビデオカメラ2の縦方向の解像度の20%よりも小さい場合には、一旦、長軸半径rimageがビデオカメラ2の解像度の20%になるように焦点距離を調整した後にステップS601とステップS602を繰り返して、遠近両用マーカ1の中心が再度ビデオカメラ2の撮影画像の中心に来るようにビデオカメラ2の撮影方向を調整し、その後、長軸半径rimageがビデオカメラ2の縦方向の解像度の30%となるように焦点距離を調整する。長軸半径rimageがビデオカメラ2の縦方向の解像度のa%になる焦点距離fa%は、式(数5)により求める。
【0083】
【数5】

ただし、fは、ステップS601において遠近両用マーカ1を認識したときのビデオカメラ2の焦点距離、rは、そのときの遠近両用マーカ1の大円12のカメラ撮影画像上における長軸半径とする。
【0084】
ステップS604
ステップS601とステップS602を繰り返し、遠近両用マーカ1の中心がカメラ撮影画像の中心に来るように再度ビデオカメラ2の撮影方向を調整する。
【0085】
ステップS605
ステップS601を実行し、カメラ雲台座標系Bで表された遠近両用マーカ1の中心へのパン方向θ、チルト方向φ、遠近両用マーカ1とビデオカメラ2の間の距離dCMを求める。このとき、カメラ撮影画像上での遠近両用マーカ1の中心座標(x,y)、4つの小円13の中心座標(xsi,ysi)(i=0,1,2,3)、大円12の短軸半径dを記憶しておく。
【0086】
ステップS606
遠近両用マーカ1の中心の3次元位置ベクトルAMを式(数6)により求める。
【0087】
【数6】

ただし、=(−dCM,0,0)とし、AMは、レーザ雲台座標系Aからカメラ雲台座標系Bへ向かうベクトルであり、事前に計測しておくことが可能である。
【0088】
ステップS607
ステップS606で求めた遠近両用マーカ1の中心の3次元位置ベクトルAM=()から、式(数7)および(数8)を用いて、レーザ雲台座標系Aで表された遠近両用マーカ1の中心のパン方向θとチルト方向φを求め、レーザ距離計測器3の向きを遠近両用マーカ1の中心の方向に向ける。
【0089】
【数7】

【0090】
【数8】

【0091】
ステップS608
ビデオカメラ2のシャッタースピードを短くすることによってカメラ撮影画像の全体的な明るさを下げる。これは、後の処理において、レーザの照射位置の認識を容易にするためである。
【0092】
ステップS609
リーザ距離計測器3によるレーザ照射を止める。
【0093】
ステップS610
カメラ撮影画像データをIoffとして保存する。
【0094】
ステップS611
レーザ距離計測器3によるレーザ照射を再開する。
【0095】
ステップS612
レーザ照射再開後のカメラ撮影画像データをIonとして保存する。
【0096】
ステップS613
カメラ撮影画像データIoffとIonの差分を取り、予め定めた閾値よりも差が大きい画素の面積Sdiffを求める。
【0097】
ステップS614
面積Sdiffが予め定めた閾値(レーザ照射スポットの面積)よりも小さい場合はビデオカメラ2にレーザの照射スポットが写っていないと判断してステップS615へ進み、大きい場合はステップS616へ進む。
【0098】
ステップS615
レーザ照射方向をステップS607で求めた遠近両用マーカ1の3次元位置方向を中心にして螺旋状に等間隔で回転させながら、ステップS609〜ステップS614を繰り返す。ただし、この繰り返し回数が規定の回数を超えた場合は、自動計測が失敗したと判断する。
【0099】
ステップS616
ステップS613の差分計算で得た画素の重心座標G=(x,y)を求める。
【0100】
ステップS617
重心座標GとステップS605で認識した遠近両用マーカ1の中心座標(x,y)の差のベクトルを計算し、その長さがステップS605で認識した遠近両用マーカ1の大円12の短軸半径bの1.5倍よりも小さい場合はステップS618へ進み、大きい場合はステップS615へ戻る。
【0101】
ステップS618
ステップS617で求めたベクトルが予め定めた閾値よりも小さい場合は、レーザが遠近両用マーカ1の中心に照射されていると判断してステップS620へ進み、大きい場合はステップS619に進む。
【0102】
ステップS619
ステップS617で求めたベクトルを用いて、レーザの照射位置を遠近両用マーカ1の中心に近づけた後、ステップS609へ戻る。レーザ距離計測器3を向けるべき方向は、式(数9)および(数10)により求める。
【0103】
【数9】

【数10】

ただし、vは、ステップS612の時点でのビデオカメラ2の水平方向の画角、θ’φ’は、ステップS611の時点でのレーザ距離計測器3の向きである。
【0104】
ステップS620
レーザ距離計測器を用いて遠近両用マーカ上の1点の位置を計測するアルゴリズムを用いて遠近両用マーカ1の中心の正確な3次元位置AMを求める。
【0105】
ステップS621
遠近両用マーカ1の大円12と小円13の間の領域(台紙の白色の領域)の中間点の座標(xlsi,ylsi)(i=0,1,2,3)を式(数11)および(数12)により求める。
【0106】
【数11】

【数12】

ただし、rsrealは小円13の半径、dは小円13の中心と遠近両用マーカ1の中心の間の距離である。
【0107】
ステップS622
ステップS609〜ステップS620と同様の処理をステップS621で求めた4点に対して行い、これらの正確な3次元位置AMi(i=0,1,2,3)を計測する。
【0108】
ステップS623
遠近両用マーカ1のX軸、Y軸、Z軸方向のベクトルを式(数13)〜(数15)により求める。
【0109】
【数13】

【数14】

【数15】

ただし、i=0となる小円13がマーカ座標系上でx>0,y>0の位置にあり、遠近両用マーカ1を正面からみて時計回りに小円の番号が付けられているものとする。
【0110】
ステップS624
の単位ベクトルMuMuMuから式(数16)により遠近両用マーカ1の方向AMを求める。
【0111】
【数16】

【0112】
この1つの遠近両用マーカの位置と方向を自動的に計測するアルゴリズムにおける前記ステップS617において、レーザの照射位置と遠近両用マーカ1の中心位置の距離がカメラ撮影画像上での遠近両用マーカ1の大円12の短軸半径の1.5倍よりも小さいときにのみステップS618を実行するようにしたのは、原子力発電プラント内部のような複雑な環境では、レーザが遠近両用マーカ1の背面を通過する場合があり、カメラ撮影画像上に写し出されたレーザと遠近両用マーカ1の位置関係だけでは、レーザの照射方向をどの方向に変更するべきかが判断できないためである。一方、レーザの照射位置と遠近両用マーカ1の中心位置の間の距離が遠近両用マーカ1の大円12のカメラ撮影画像上での短軸半径の1.5倍よりも小さい場合は、レーザは既に遠近両用マーカ1上に照射していると判断することができ、遠近両用マーカ1は必ず平面であるため、ステップS619により、必ずレーザの照射位置を遠近両用マーカ1の中心に近い方に調整することができる。ここで、短軸半径の1.5倍としたのは、遠近両用マーカ1の周辺には空白の領域があり、その領域も平面であるからである。
【0113】
また、ステップS621以降において、小円13の中心位置を計測するのではなく、小円13と大円12の間の白色の領域を計測するのは、小円13の中心のように黒色の中心は、レーザの反射が弱く、遠近両用マーカ1を斜めから計測した場合に、レーザ距離計測器3では距離を計測することができない場合があるためである。
【0114】
なお、このアルゴリズムを実行する際には、電動雲台を駆動制御した後は、次の処理に移る前に0.5秒〜1秒程度の猶予(動作休止)期間を設けることが必要である(この猶予期間は、電動雲台の動作の大きさに依存する。)。これは、電動雲台を駆動制御すると、システム全体が振動するためで、ビデオカメラ2で取得するカメラ撮影画像データやレーザの照射先(レーザ照射スポット)が静止するのを待つ必要があるためである。
【0115】
次に、マーカの位置と方向を世界座標系に変換するアルゴリズムについて説明する。
【0116】
このアルゴリズムは、前述した1つの遠近両用マーカ1の位置と方向を自動的に計測するアルゴリズムにより得られたレーザ雲台座標系Aで表された遠近両用マーカ1の3次元位置と方向を、世界座標系Wで表された3次元位置と方向に変換するアルゴリズムである。このアルゴリズムを実行するにあたっては、計測対象となる遠近両用マーカ1に加え、1番と2番の遠近両用マーカが世界座標系Wの原点とX軸上の点にそれぞれ貼り付けられており、3番の遠近両用マーカがXY平面上に貼り付けられているものとする。
【0117】
ステップS701
前述した1つの遠近両用マーカの位置と方向を自動的に計測するアルゴリズムを用いて、変換対象の遠近両用マーカ1の3次元位置AMiと方向AMiおよび1番から3番の遠近両用マーカの3次元位置AMj(j=1,2,3)を求める。
【0118】
ステップS702
レーザ雲台座標系Aで表された世界座標系WのX,Y,Z軸方向の単位ベクトルWuWuWuを式(数17)〜(数19)を用いて求める。
【0119】
【数17】

【0120】
【数18】

【0121】
【数19】

【0122】
ステップS703
世界座標系Wからレーザ雲台座標系Aへの回転行列WAを式(数20)により求める。
【0123】
【数20】

【0124】
ステップS704
世界座標系Wからレーザ雲台座標系Aへの平行移動ベクトルWAを式(数21)により求める。
【0125】
【数21】

【0126】
ステップS705
レーザ雲台座標系Aから世界座標系Wへの同次変換行列44AWを式(数22)により求める。
【0127】
【数22】

【0128】
ステップS706
式(数23)により、レーザ雲台座標系Aで表された遠近両用マーカの3次元位置AMiを世界座標系Wで表された3次元位置WMiに変換する。
【0129】
【数23】

【0130】
ステップS707
前述した1つの遠近両用マーカの位置と方向を自動的に計測するアルゴリズムにおけるステップS623の処理の前に、AMi(i=0,1,2,3)を式(数23)で変換することにより、世界座標系Wで表された遠近両用マーカ1の方向WMiを得る。
【0131】
次に、総ての遠近両用マーカの位置と方向を自動的に計測して登録するアルゴリズムを説明する。このアルゴリズムは、ビデオカメラ2で撮影可能かつレーザ距離計測器3で距離を計測可能な範囲にある総ての遠近両用マーカ1の世界座標系Wで表された3次元位置と方向を全自動で計測して記憶(登録)するアルゴリズムである。
【0132】
ステップS801
ビデオカメラ2の焦点距離を設定可能な最も短い値に設定する(ビデオカメラ2を最も広角にする)。
【0133】
ステップS802
ビデオカメラ2の稼動範囲の総ての領域を最低1回は撮影するように等間隔でビデオカメラ2の撮影方向を回転させ、各撮影方向において、前述したビデオカメラを用いて遠近両用マーカとの間の距離と存在する方向を求めるアルゴリズムを実行することにより、作業環境に貼り付けられた遠近両用マーカ1との距離と存在する方向を認識して記憶する。
【0134】
ステップS803
ビデオカメラ2の焦点距離を最も短い値の2倍の値および3倍の値に設定してステップS802を繰り返す。
【0135】
ステップS804
ステップS803までに認識して記憶した個々の遠近両用マーカ1に対して前述したレーザ距離計測器を用いて遠近両用マーカ上の1点の位置を計測するアルゴリズムを実行することにより、認識した総ての遠近両用マーカ1の3次元位置と方向を計測して記憶する。
【0136】
ステップS805
ステップS804で記憶した総ての遠近両用マーカ1の3次元位置と方向に対して、マーカの位置と方向を世界座標系に変換するアルゴリズムを適用して世界座標系Wで表された3次元位置と方向を求めて記憶(登録)する。
【0137】
以上の方法で計測した遠近両用マーカ1の3次元位置と方向は、以下の方法で利用することができる。
【0138】
作業環境である原子力発電プラント内で使用するときには、壁や作業対象機器の周辺に貼り付けられた複数の遠近両用マーカ1について、事前に、前述したようにしてその3次元位置と方向を計測して得た世界座標系Wで表された3次元位置と方向の情報として拡張現実感に取得(記憶)しておく。
【0139】
拡張現実感を使用するときの機器としてHMD(Head Mounted Display)を用いる場合には、ビデオカメラをMHDの前面か作業員のヘルメットの前部に取り付け、PDA(Personal Digital Assistant)等の小型ディスプレイを用いる場合には、ビデオカメラを機器画面の裏側に取り付ける。
【0140】
遠近両用マーカ1と作業員(ビデオカメラ)の間の距離が長いときは、ビデオカメラには多数の遠近両用マーカ1が小さく写ることになり、遠近両用マーカの大円の中心は認識することができるが、4つの小円の中心は認識することが困難である。従って、1つの遠近両用マーカ1からは1つの特徴点しか得ることができないが、複数の遠近両用マーカの特徴点を同時に得ることができるので、遠近両用マーカ1についての記憶情報を参照してトラッキングするのに必要な数の特徴点の認識が可能になる。
【0141】
遠近両用マーカ1と作業員(ビデオカメラ)の間の距離が短いときは、ビデオカメラには少数の遠近両用マーカ1が大きく写ることになり、小円の特徴も認識することができることから、遠近両用マーカ1上の総ての特徴点を認識することが可能となり、1つの遠近両用マーカ1が写るだけでトラッキングするのに必要な数の特徴点の認識が可能になる。
【0142】
このように、この実施例で使用する遠近両用マーカ1は、1つの遠近両用マーカ1が近距離と遠距離の両方で効果的にトラッキングに利用することが可能となり、作業環境に貼り付ける遠近両用マーカ1の数を減らすことができる利点がある。
【0143】
この実施例で例示したマーカ自動登録システムによる計測精度と計測に要する時間に関する実験結果について説明する。
【0144】
この実験は、大型プリンタを用いて図4に示すように9個の遠近両用マーカ1を印刷した紙を壁に貼り付け、前記9個の遠近両用マーカ1の3次元位置と方向を自動登録システムを用いて自動計測して登録する処理における登録結果とそれに要した時間を記録するように行った。
【0145】
遠近両用マーカ1は、大円12の半径を50mm、小円13〜13の半径を6mm、大円12の中心と小円13〜13の中心の間の距離を71mmとした。マーカ自動登録システムの設置位置は、図5に示すように、中央の1番の遠近両用マーカ1から2mの位置と4mの位置、中央の1番の遠近両用マーカ1の法線方向から0°の位置、20°の位置、40°の位置に変化させ(計6箇所)、総ての位置で5回繰り返して総ての遠近両用マーカ1を自動計測して登録した。
【0146】
その結果、総ての場合において、失敗することなく、遠近両用マーカ1を計測することができた。
【0147】
計測に要した時間は、可動範囲全体でビデオカメラ2を回転させて遠近両用マーカ1の位置と方向を認識して記憶する処理(ステップS801〜ステップS803の処理)で平均195秒、レーザ距離計測器3を用いて遠近両用マーカ1の正確な3次元位置と方向を認識して記憶する処理(ステップS804〜ステップS805)では遠近両用マーカ1の1個当たり平均50秒であった。
【0148】
電動雲台を駆動制御した後に振動が収まるまでの猶予期間は、ビデオカメラ2とレーザ距離計測器3を異なる三脚を用いて設置したり、防振部材を用いてシステムの振動を低減する対策を行えば、猶予期間を短縮して所要時間を短縮することが可能となる。
【0149】
表1は、遠近両用マーカ1の計測結果と真値(大型プリンタにより遠近両用マーカ1を印刷する際に設定した遠近両用マーカ1の位置と方向から計算)を比較した結果(座標の規準となる1番〜3番の遠近両用マーカを除く)を示している。
【0150】
マーカ自動登録システムを設置した総ての位置での計測結果の二乗平均誤差(Root Mean Square Error)を求めた結果、位置に関してX,Y,Zの各軸方向に2mm程度の誤差があり、方向に関しては、各軸を中心に1°未満の回転誤差があることが分かった(総ての軸を纏めた場合、位置は3.4mm、方向は1.1°の誤差)。
【0151】
【表1】

【0152】
図6は、遠近両用マーカ1の計測結果(登録情報)を用いて実際にトラッキングを行った際の精度を示している。
【0153】
解像度XVGA、水平画角約33°のトラッキング用ビデオカメラを1番の遠近両用マーカ1の正面約0.5mの位置から約0.5m間隔で約5.0m移動させ、各位置で10回ずつトラッキングを行う処理を、前述した方法で登録した30セットのマーカ配置情報の総てを用いて繰り返し行い、それらの総ての結果に対する平均二乗誤差を求めた。その結果、トラッキング範囲全体で平均二乗誤差が200mm未満であり、危険箇所表示機能等を備えた拡張現実感環境を実現することが可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の実施例1において使用する遠近両用マーカの平面図である。
【図2】作業環境に貼り付けられた遠近両用マーカを自動的に計測して計測結果を登録する本発明の実施例1におけるマーカ自動登録システムのハードウエア構成を示す斜視図である。
【図3】このマーカ自動登録システムで取り扱う座標系を示すものである。
【図4】本発明の実施例1において9個の遠近両用マーカを印刷した紙を壁に貼り付けた状態を示す正面図である。
【図5】本発明の実施例1において壁に貼り付けた遠近両用マーカとシステムの設置位置関係を示す平面図である。
【図6】本発明の実施例1により記憶した遠近両用マーカの計測結果(登録情報)を用いて実際にトラッキングを行った際の精度を示す特性図である。
【符号の説明】
【0155】
1…遠近両用マーカ、11…台紙、12…大円、13〜13…小円、2…ビデオカメラ、3…レーザ距離計測器、4…電動雲台、5…小型コンピュータ、7…三脚。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境の基準となる位置(世界座標系の原点や座標軸上の点)及び適宜な位置にマーカを貼り付け、ビデオカメラで撮影可能かつレーザ距離計測器で距離を計測可能な範囲にある総てのマーカの世界座標系で表された3次元位置と方向を全自動で計測して記憶する方法であって、
ビデオカメラの焦点距離を設定可能な最も短い値に設定する第1のステップと、
ビデオカメラの稼動範囲の総ての領域を最低1回は撮影するように等間隔でビデオカメラの撮影方向を回転させ、各撮影方向において、ビデオカメラを用いてマーカとの間の距離と存在する方向を求めるアルゴリズムを実行することにより、環境に貼り付けられたマーカとの距離と存在する方向を認識して記憶する第2のステップと、
ビデオカメラの焦点距離を最も短い値の2倍の値および3倍の値に設定して前記第2のステップを繰り返す第3のステップと、
第3のステップまでに認識して記憶した個々のマーカに対してレーザ距離計測器を用いてマーカ上の1点の位置を計測するアルゴリズムを実行することにより、認識した総てのマーカの3次元位置と方向を計測して記憶する第4のステップと、
第4のステップで記憶した総てのマーカの3次元位置と方向に対して、マーカの位置と方向を世界座標系に変換するアルゴリズムを適用して世界座標系で表された3次元位置と方向を求めて記憶する第5のステップを行うことを特徴とするマーカ自動登録方法。
【請求項2】
請求項1において、前記マーカとして、四角形の台紙の中心に配置した1つの大円と、台紙の4隅に配置した4つの小円を備え、前記大円は、10個の同型の扇形を円環状に配置し、白色の扇形を0、黒色の扇形を1とすることにより、各マーカのID番号を表現するように構成したものを使用することを特徴とするマーカ自動登録方法。
【請求項3】
環境の基準となる位置(世界座標系の原点や座標軸上の点)及び適宜な位置に貼り付けられたマーカのうち、ビデオカメラで撮影可能かつレーザ距離計測器で距離を計測可能な範囲にある総てのマーカの世界座標系で表された3次元位置と方向を全自動で計測して記憶するシステムであって、
電動雲台によって向きを変えることができるようにしたビデオカメラと、電動雲台によって向きを変えることができるようにしたレーザ距離計測器と、前記ビデオカメラとレーザ距離計測器電動雲台と接続されてこれらを制御する小型コンピュータとを備え、
前記小型コンピュータは、
前記ビデオカメラの焦点距離を設定可能な最も短い値に設定する第1のステップと、
前記ビデオカメラの稼動範囲の総ての領域を最低1回は撮影するように等間隔でビデオカメラの撮影方向を回転させ、各撮影方向において、前記ビデオカメラを用いてマーカとの間の距離と存在する方向を求めるアルゴリズムを実行することにより、環境に貼り付けられたマーカとの距離と存在する方向を認識して記憶する第2のステップと、
前記ビデオカメラの焦点距離を最も短い値の2倍の値および3倍の値に設定して前記第2のステップを繰り返す第3のステップと、
第3のステップまでに認識して記憶した個々のマーカに対して前記レーザ距離計測器を用いてマーカ上の1点の位置を計測するアルゴリズムを実行することにより、認識した総てのマーカの3次元位置と方向を計測して記憶する第4のステップと、
第4のステップで記憶した総てのマーカの3次元位置と方向に対して、マーカの位置と方向を世界座標系に変換するアルゴリズムを適用して世界座標系で表された3次元位置と方向を求めて記憶する第5のステップを行うプログラムを備えたことを特徴とするマーカ自動登録システム。
【請求項4】
請求項3において、前記マーカは、四角形の台紙の中心に配置した1つの大円と、台紙の4隅に配置した4つの小円を備え、前記大円は、10個の同型の扇形を円環状に配置し、白色の扇形を0、黒色の扇形を1とすることにより、各マーカのID番号を表現するように構成したものであることを特徴とするマーカ自動登録システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−78466(P2010−78466A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247348(P2008−247348)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】