説明

ミシンの気体搬送糸通し装置

【課題】ワンタッチでルーパに糸通しするに当たり、気体供給ポンプの気体供給動作中にルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への異常切換を禁止する。
【解決手段】ミシンモータMからの動力を縫目形成時にルーパ7、8、9を含む縫目形成装置30を駆動する駆動軸5又はルーパ糸通し時に気体供給ポンプ41にそれぞれ伝達するためのクラッチ60と、ルーパ糸通し時に縫目形成装置への動力伝達を遮断して気体供給ポンプに動力を伝達し、縫目形成時に縫目形成装置に動力を伝達して気体供給ポンプへの動力伝達を遮断するようにクラッチを切換えるためのルーパ糸通し/縫目形成切換機構90と、気体供給ポンプの気体供給動作中にルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への異常切換を禁止するための切換禁止機構160とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミシンの気体搬送糸通し装置に係わり、特に縁かがりミシン、二重環縫いミシン、偏平縫いミシン等のルーパに加圧気体を利用して自動的に糸を通すためのミシンの気体搬送糸通し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、縁かがりミシン、二重環縫いミシン、偏平縫いミシン等において、ルーパ糸を差し入れる糸導入部からルーパの剣先のルーパ糸案内出口までを連通する中空のルーパ糸案内で連結し、中空のルーパ糸案内に供給される加圧気体の流れを利用してルーパ糸を送る気体搬送糸通し装置が知られている。
【0003】
この気体搬送糸通し装置により、複雑な糸掛けを不要とし、操作性よく糸通しを行なうことができ、このため糸通しを間違えたり、途中で糸がはみ出し、挿通されたルーパ糸が他の糸と絡んだりすることがなく、極めて簡単な操作で一気に糸通しをすることができる。
【0004】
このような気体搬送糸通し構造においては糸通しのための経路がかなり単純となり糸通し作業が容易となり、糸絡みや糸切れの発生をなくすことができる。
【0005】
しかしながら、このような気体搬送糸通し構造では、一方の手でストッパー(位置決めピン)を停止位置決め板に対して押圧させながら、他方の手でプーリを手動回転させることにより縫目形成装置をロックさせるとともに糸通し連結装置を連結させなければならないので、ミシンに精通していない未熟練オペレータにとって、この糸通し装置の使い方がオペレータに理解されにくく、両手を同時に使って行なう糸の挿通作業はかなり面倒であって、そのためのトレーニングを要する。
【0006】
このため、ルーパ糸を気体搬送するための加圧気体を、縫目形成装置を駆動するミシンモータを切換えて動作する気体供給ポンプで生成し、ワンタッチでルーパに糸通しができるミシンの気体搬送糸通し装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4741701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この気体搬送糸通し構造は、気体供給ポンプの気体供給動作中は、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構がルーパ糸通し状態から縫目形成状態へ遷移するのを回避するためのクラッチ切換制限機構を備えているが、このクラッチ切換制限機構は気体供給ポンプから気体供給される空圧アクチュエータ(エアーダンパー)を利用しているので、第1に、構成上、部品点数が多くなり煩瑣な構造となってしまう、第2に、品質上、空圧アクチュエータの嵌め合い精度、リターダの空気漏れ量の安定化を図るための精度を維持することが煩わしいという難点がある。
【0009】
本発明は、これらの難点を解決するためになされたもので、ルーパ糸を気体搬送するための加圧気体を、縫目形成装置を駆動するミシンモータを切換えて動作する気体供給ポンプで生成し、ワンタッチでルーパに糸通しが可能であり、ルーパ糸通し/縫目形成切換が片手で安全、かつ確実にでき、構造が簡素化され、高品質のミシンの気体搬送糸通し装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するため、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置は、ルーパ糸入口からルーパ剣先糸出口まで中空構造にされた少なくとも1つのルーパと、ルーパに導かれるルーパ糸を差し入れるルーパ糸導入機構と、ルーパ糸導入機構からルーパ糸入口まで延在しルーパ糸案内出口を有する中空ルーパ糸案内と、ルーパ糸をルーパ糸導入機構から中空ルーパ糸案内を通ってルーパ糸案内出口へ気体搬送によりルーパ糸通しする気体供給ポンプと、ミシンモータからの動力を縫目形成時にはルーパを含む縫目形成装置を駆動する駆動軸に、ルーパ糸通し時には気体供給ポンプにそれぞれ伝達するためのクラッチと、ルーパ糸通し時に縫目形成装置への動力伝達を遮断して気体供給ポンプに動力を伝達し、縫目形成時に縫目形成装置に動力を伝達して気体供給ポンプへの動力伝達を遮断するようにクラッチを切換えるためのルーパ糸通し/縫目形成切換機構と、気体供給ポンプの気体供給動作中にルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への異常切換を禁止するための切換禁止機構とを備えている。
【0011】
また、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置において、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構のルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部は、ミシンのフロントカバーで開閉成自在に隠蔽され、
ルーパ糸通し時にはフロントカバーを開成してルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部をルーパ糸通し状態へ切換操作し、
縫目形成時にはルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部を縫目形成状態へ切換操作した後に、フロントカバーを閉成して縫目形成装置を動作させるものである。
【0012】
また、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置において、切換禁止機構は、サブフレームに枢着されフロントカバーの開閉を検知して前面カバーに形成される枢軸に枢着されるフロントカバー開閉検知片と、サブフレームに固定された禁止能動アーム取付台にバネの弾撥に抗して枢動自在に取付けられフロントカバー開閉検知片の枢動に応じて枢動される禁止能動アームと、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構に固定され禁止能動アームの枢動に応じてフロントカバーの開成中にルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への異常切換を禁止する禁止従動アームとから構成され、
ルーパ糸通し時にはフロントカバーが開成され、フロントカバーの内面に形成される押圧端の押圧解除によってフロントカバー開閉検知片が禁止能動アームの押圧を解除し、禁止能動アームがバネで枢動され、禁止従動アームの舌片が禁止能動アームの先端平面部に係止され、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部がルーパ糸通し状態へ切換操作され、プーリを手動回転させることにより縫目形成装置をロックさせるとともに糸通し連結装置を作動し、禁止従動アームが禁止能動アームの先端平面部から側面部に係止されてルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への異常切換を禁止し、
縫目形成時にはルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部を縫目形成状態へ切換操作した後に、フロントカバーを閉成してフロントカバーの内面に形成される押圧端の押圧によって枢動されるフロントカバー開閉検知片が枢動され、禁止能動アームが枢動され、禁止従動アームが禁止能動アームの側面部から先端平面部上に解放されてルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への切換を能動とし、縫目形成装置を動作させるものである。
【0013】
また、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置において、クラッチは、気体供給ポンプへ動力伝達するポンプ駆動体と、駆動軸の一端に固着されて縫目形成装置へ動力伝達する縫目形成駆動体との一方に、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部の手動操作に応じてクラッチ切換バネを介して接離自在に移動されるとともにその接離状態が保持されてミシンモータからの動力が伝達されているクラッチ摺動子を有するピンクラッチで構成されている。
【0014】
また、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置において、ルーパ糸案内出口とルーパ糸入口は、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部の手動操作に応じて、ルーパ糸通し時及び縫目形成時にそれぞれ接離自在に配設される糸通し連結装置を備えている。
【0015】
また、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置において、駆動軸の一端に固着されているプーリを手動回転させることにより、ルーパ糸案内出口とルーパ糸入口が水平方向に整致したとき中空ルーパ糸案内のルーパ糸案内出口とルーパのルーパ糸入口とを接続する位置決め装置を備えている。
【0016】
また、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置において、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構は、ルーパ糸通し時に、気体供給ポンプに動力を伝達するようにクラッチを切換える手段と、中空ルーパ糸案内のルーパ糸案内出口とルーパのルーパ糸入口とを接続する位置決め装置の位置決めを準備し、ルーパ糸通し時及び縫目形成時にそれぞれ接離自在に配設される糸通し連結装置の連結を準備して、駆動軸の一端に固着されているプーリを手動回転させることにより、位置決め装置が作動して縫目形成装置への動力伝達を遮断され、糸通し連結装置が作動してルーパ糸案内出口とルーパ糸入口が連結される手段とを有し、縫目形成時に、縫目形成装置へ動力伝達するようにクラッチを切換える手段と、位置決め装置の位置決めを解除し、糸通し連結装置の連結を解除し、ルーパ糸案内出口とルーパ糸入口が離間される手段とを有する。
【0017】
また、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置において、位置決め装置は、駆動軸に同軸に取付けられ、ルーパ糸案内出口、ルーパ天秤に形成された天秤孔及びルーパ糸入口が水平方向に整致する周方向停止位置に切り欠きを有する停止位置決め板と、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部をルーパ糸通し側に切換手動操作したルーパ糸通し時に、プーリを手動回転させて切り欠きに嵌合する位置決めピンとを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のミシンの気体搬送糸通し装置によれば、ルーパ糸を気体搬送するための加圧気体を、縫目形成装置を駆動するミシンモータを切換えて動作する気体供給ポンプで生成し、ワンタッチでルーパに糸通しが可能であり、ルーパ糸通し/縫目形成切換が片手で安全、確実にでき、かつ構造が簡素化され、高品質の気体搬送糸通しが達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置を適用した3本針6本糸縁かがりオーバーロックミシン(二重環縫いミシン)の斜視図である。
【図2】本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置を適用した3本針6本糸縁かがりオーバーロックミシン(二重環縫いミシン)のブロックダイアグラムである。
【図3】本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用される糸通し連結装置、中空ルーパ糸案内、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構を示す部分斜視図で、(a)は糸通し準備状態、(b)は糸通し状態を示す。
【図4】本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用される糸通し連結装置、中空ルーパ糸案内、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構を示す斜視図で、(a)は縫目形成状態、(b)は糸通し状態を示す。
【図5(A)】本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用される糸通し連結装置、中空ルーパ糸案内、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構を示す分解斜視図である。
【図5(B)】本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用される位置決め装置を示す分解斜視図である。
【図6】本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用されるルーパ糸導入機構を示す説明図である。
【図7】本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用される気体供給ポンプ及びそれにより気体供給されるルーパ糸導入機構を示す斜視図である。
【図8】(a)は本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用されるクラッチと、クラッチを介して駆動される気体供給ポンプと、気体供給ポンプにより気体供給されるルーパ糸導入機構とを示す分解斜視図、(b)は気体供給ポンプで使用される逆流止バルブの説明図である。
【図9】(a)、(b)はそれぞれ縫目形成時、ルーパ糸通し時における本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用されるクラッチ及び位置決め装置を示す斜視図である。
【図10】(a)、(b)はそれぞれ縫目形成時、ルーパ糸通し時における本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用されるルーパ糸通し/縫目形成切換機構を示す斜視図である。
【図11】(a)は本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用されるルーパ糸通し/縫目形成切換機構及びクラッチ切換伝達子を示す分解斜視図、(b)はルーパ糸通し/縫目形成切換機構で使用されるルーパ糸通し/縫目形成切換カムを示す斜視図である。
【図12】本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用されるクラッチ及び位置決め装置を示す分解斜視図である。
【図13】(a)、(b)、(c)はそれぞれ縫目形成時、ルーパ糸通し準備状態時、ルーパ糸通し時における本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用されるルーパ糸通し/縫目形成切換機構及び位置決め装置を示す斜視図である。
【図14】本発明によるミシンの気体搬送糸通し装置で使用される切換禁止機構を示す分解斜視図である。
【図15】(a)、(b)はそれぞれフロントカバーが閉じた状態及び開いた状態でルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部を縫目形成状態に切換操作した場合おけるルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部、切換禁止機構及び安全スイッチとの関係を示す図である。
【図16】(a)、(b)はそれぞれフロントカバーが開いた状態でルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部をルーパ糸通し状態に切換操作した場合におけるルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部、切換禁止機構及び安全スイッチとの関係を示す図であって、(b)は(a)の状態からプーリを手動回動させた状態を示す。
【図17】(a)、(b)はそれぞれフロントカバーが開いた状態及び閉じた状態でルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部を縫目形成状態に切換操作した場合おけるルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部、切換禁止機構及び安全スイッチとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の気体搬送糸通し装置を3本針6本糸縁かがりオーバーロックミシン(二重環縫いミシン)に適用した好ましい実施の形態例について図面を参照して詳述する。
【0021】
図1、図15(a)、(b)〜図17(a)、(b)に示すように、オーバーロックミシン1は、ベッドとアームを形成するメインフレーム2で構成されている。メインフレーム2は、サブフレーム2a−2bを有している。オーバーロックミシン1は、その前面においてフロントカバー161がメインフレーム2に固着される前面カバー171の下端に開閉成自在に枢着されている。
【0022】
ミシンモータMはサブフレーム2bに装着され、駆動軸5はメインフレーム2に沿って水平方向に延びている(図2、図7〜図9(a)、(b)、図12〜図13(a)、(b)、(c))。駆動軸5は、後述するように、ミシンモータMによってタイミングベルトMBによりクラッチ60を介して回転駆動される(図9(a)、(b))。
【0023】
図1、図2に示すように、オーバーロックミシン1は、駆動軸5と同期して上下運動する針留11に固定され針板3を貫通して上下運動する針11a、11b、11c、これらの針11a、11b、11cを駆動する針駆動機構12、針板3上で布25を押える布押え機構19、針板3の下側で針11a、11b、11cの軌跡と交叉するように円弧状の軌跡を描いて往復運動する下ルーパ8、針板3の側方で下ルーパ8の軌跡と交叉するとともに針板3の上側で針11a、11b、11cの軌跡と交叉するように楕円弧状の軌跡を描いて往復運動する上ルーパ7、二重環ルーパ9、布25を1目毎に歩進させる布送り機構4で縫目形成装置30を形成している。
【0024】
上ルーパ7、下ルーパ8及び二重環ルーパ9はそれぞれルーパ駆動機構10によって駆動される。
【0025】
縫目形成装置30の針駆動機構12、布送り機構4及びルーパ駆動機構10は駆動軸5によって駆動されるが、その具体的構造及び動作は公知又は周知であるので、その詳細は説明を省略する。
【0026】
3本針6本糸縁かがりオーバーロックミシン1によれば、針11a、11bに挿通される針糸17a、17bと、下ルーパ8に挿通された下ルーパ糸16bと、上ルーパ7に挿通された上ルーパ糸16aとを交叉して布25にオーバーロック縫いを形成するものである。なお、二重環ルーパ9はそれに挿通された二重環ルーパ糸16cと針11cに挿通される針糸17cとを交叉して布25に二重環縫いを形成し、所謂インターロック縫いを行なうものである。
【0027】
このオーバーロックミシン1において、各ルーパ糸16a、16b、16cを、糸調子器18を介して上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9に気体搬送によりルーパ糸通しするにあたり、上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9は、ルーパ糸入口7a、8a、9aからルーパ剣先糸出口7b、8b、9bまで中空構造にされている(図4(a)、(b)、図5(A))。ここで、「中空構造」とは、ルーパ自体をルーパ糸入口7a、8a、9aからルーパ剣先糸出口7b、8b、9bまで中空構造にしてもよく、ルーパにルーパ糸入口7a、8a、9aからルーパ剣先糸出口7b、8b、9bまで溝を形成し、そこに中空パイプを埋め込む構造にしてもよい。この場合、その構造の断面は円、多角形であってもよく、その一部が欠ける、例えば断面C字形であってもよい。
【0028】
この目的のため、オーバーロックミシン1は、上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9に導かれる各ルーパ糸を差し入れるルーパ糸導入機構110と、ルーパ糸導入機構110からルーパ糸入口7a、8a、9aまで延在しルーパ糸案内出口7d、8d、9dを有する中空ルーパ糸案内7e、8e、9eと、各ルーパ糸をルーパ糸導入機構110から中空ルーパ糸案内7e、8e、9eを通ってルーパ糸案内出口7d、8d、9dへ気体搬送によりルーパ糸通しする気体供給源40とを備えている(図1、図3(a)、(b)、図4(a)、(b)、図6、図7、図8)。
【0029】
図6に示すように、ルーパ糸導入機構110は、各ルーパ糸を差し入れる広口ルーパ糸差入口113a、113b、113c及び広口ルーパ糸差入口113a、113b、113cに連通するルーパ糸吸入領域114と、気体供給源40から加圧気体が供給される気体バッファ領域115と、ルーパ糸吸入領域114に一端部116aで嵌合し、他端部116bで中空ルーパ糸案内7e、8e、9eに接続されるルーパ糸導入パイプ116とを有している。
【0030】
ルーパ糸吸入領域114とルーパ糸導入パイプ116とは、気体バッファ領域115に連通しルーパ糸吸入領域114の下流部にジェット気流を生成する通気狭隘領域114aを形成している。
【0031】
ルーパ糸吸入領域114のルーパ糸案内出口端114bは傾斜して形成されており、これにより通気狭隘領域114aの下流側に渦流が発生するのを防止している。
【0032】
通気狭隘領域114aの下流でルーパ糸吸入領域114に隣接するルーパ糸導入パイプ116内に絞り部116cが形成されており、このため絞り部116cの下流側の圧力を低下させることにより通気狭隘領域114aにおける気体の流れを促進するとともにルーパ糸吸入領域114に負圧を発生させルーパ糸をルーパ糸導入パイプ116に吸い込ませ中空ルーパ糸案内7e、8e、9eを通って上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9のルーパ剣先糸出口7b、8b、9bへ気体搬送することができる。
【0033】
図7、図8に示すように、ルーパ糸導入機構110はルーパ糸導入台112上に形成されている。また、ルーパ糸導入台112には糸通し釦117が形成されている。糸差込板111には広口ルーパ糸差入口113a、113b、113c及び糸通し釦117が臨むルーパ糸差込み口111a、111b、111c及び糸通し釦穴111dが設けられ、メインフレーム2に固定され、その上面には糸差込板シール111’が貼着されている。
【0034】
糸通し釦117の押下で動作する糸通しスイッチ119bが後述するルーパ糸通し/縫目形成切換機構90のルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部91の操作で動作するルーパ糸通し/縫目形成切換スイッチ119aとともにルーパ糸導入台112及び取付腕118上に設けられている(図7、図8)。
【0035】
後述するように、ルーパ糸案内出口7d、8d、9dとルーパ糸入口7a、8a、9aは、ルーパ糸通し時及びミシン縫製時にそれぞれ接離自在に配設される。
【0036】
縁かがりオーバーロックミシン1は、上記のルーパ糸入口7a、8a、9aからルーパ剣先糸出口7b、8b、9bまで中空構造にされた上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9と、上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9に導かれるルーパ糸を差し入れるルーパ糸導入機構110と、ルーパ糸導入機構110からルーパ糸入口7a、8a、9aまで延在しルーパ糸案内出口7d、8d、9dを有する中空ルーパ糸案内7e、8e、9eとを利用して以下に説明するようにルーパ糸通し及びミシン縫製を行なうものである。
【0037】
図1、図2に示すように、縁かがりオーバーロックミシン1は、各ルーパ糸をルーパ糸導入機構110から中空ルーパ糸案内7e、8e、9eを通ってルーパ糸案内出口7d、8d、9dへ気体搬送によりルーパ糸通しする気体供給源40である気体供給ポンプ41と、ミシンモータMからの動力を縫目形成時に上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9を含む縫目形成装置30を駆動する駆動軸5又はルーパ糸通し時に気体供給ポンプ41にそれぞれ伝達するためのクラッチ60と、ルーパ糸通し時に縫目形成装置30への動力伝達を遮断して気体供給ポンプ41に動力を伝達し、縫目形成時に縫目形成装置30に動力を伝達して気体供給ポンプ41への動力伝達を遮断するようにクラッチ60を切換えるためのルーパ糸通し/縫目形成切換機構90とを備えている。
【0038】
図8(a)、(b)に示すように、気体供給ポンプ41は、ルーパ糸通し時に、クラッチ60(図7、図9、図12)のポンプ駆動体61で回転されるポンプ駆動(偏芯)カム42でポンプ駆動ロッド43が往復運動し、メインフレーム2に固定される支軸56で担持されたポンプ駆動腕44で往復動するピストン48、ピストンキャップ49と、これが気密摺動するポンプシリンダ50と、その逆流止バルブ51とから成る。シリンダ取付部50aはシリンダ取付ピン52で揺動を許容するようにポンプ取付台53でサブフレーム2bに取付けられている。
【0039】
ポンプ駆動バネ46(図8(a))をポンプ駆動腕44のバネ掛け47とクラッチ切換台73のバネ掛け73d(図10(a)、(b)、図11)に張設することにより、気体供給ポンプ41への動力伝達を遮断したとき、ポンプ駆動(偏芯)カム42が常時回転している回転駆動体23との摩擦で空転するのを防止するとともに、ピストン48を加圧(フォワード)工程時に補助する機能を果たす。
【0040】
ピストン48はピストン軸48aに取付けられ、吐出し方向に向かって末広がり状に形成されたシール材であるピストンキャップ49はピストン頭頂部48bに固定されている。
【0041】
逆流止バルブ51はポンプシリンダ50と送出口50bに接続されるバルブハウジング50cに、バネ51bと、バネ51bで押圧される逆流止ボール51aと、バルブハウジング50cに螺着され、リターン(吸入)工程時にバネ51bで押圧されて逆流止ボール51aが着座してバルブが閉成し、加圧(フォワード)工程時に送出加圧空気で逆流止ボール51aが浮いてバルブが開成するバルブシート51cとを備えている。
【0042】
気体供給ポンプ41の作動において、ピストン48のフォワード工程ではピストンキャップ49がポンプシリンダ50の内壁面に気密に接合され、空気は圧縮されて送出口50bからパイプ54を経由してルーパ糸導入機構110の吸入口112a(図6、図8)に圧縮空気として加圧注入され、一方ピストン48のリターン(吸入)工程ではピストンキャップ49がポンプシリンダ50の内壁面に気密に接合されることがなくなるので、空気はピストン48及びピストンキャップ49の外周を経由して吸入され、また送出口50bから送出された空気は逆流止バルブ51の逆流止ボール51aで逆流阻止される。
【0043】
図1、図2、図12に示すように、クラッチ60は、気体供給ポンプ41へ動力伝達するポンプ駆動体61と、駆動軸5の一端に固着されて縫目形成装置30へ動力伝達する縫目形成駆動体64との一方に、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91の手動操作に応じてクラッチ切換バネ67を介して接離自在に移動されるとともにその接離状態が保持されてミシンモータMからの動力が伝達されているクラッチ摺動子62を有する。
【0044】
詳述すれば、クラッチ60は、所謂ピンクラッチで構成され、駆動軸5の軸線上に、ミシンモータMからの動力がタイミングベルトMBにより伝達される駆動軸プーリ21、駆動軸プーリボス22、ポンプ駆動(偏芯)カム42、ポンプ駆動体61、回転駆動体23、クラッチ連結ピン63が同軸に摺動自在に内蔵したクラッチ摺動子62、縫目形成駆動体64、プーリ6が順に設けられる。
【0045】
このように構成されたクラッチ60の作動において、ルーパ糸通し時には、クラッチ摺動子62はポンプ駆動体61側に摺動し、クラッチ連結ピン63が回転駆動体23でポンプ駆動体61の連結ピン穴61aに連結し、ポンプ駆動(偏芯)カム42でポンプ駆動ロッド43により気体供給ポンプ41を駆動可能とする(図9(b))。
【0046】
縫目形成時には、クラッチ摺動子62はプーリ6側に摺動し、クラッチ連結ピン63が回転駆動体23で縫目形成駆動体64の連結ピン穴に連結し、駆動軸5を回転可能とする図9(a))。
【0047】
縁かがりオーバーロックミシン1において、図10(a)、(b)、図11(a)、(b)に示すように、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構90は、ルーパ糸通し時に、気体供給ポンプ41に動力を伝達するようにクラッチ60を切換えるクラッチ切換伝達子70、即ち、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91により回動するルーパ糸通し/縫目形成切換カム94、ルーパ糸通し/縫目形成切換カム94のクラッチ切換連結腕94bに一端が枢着されて往復動するクラッチ切換リンク72、クラッチ切換リンク72の他端がカシメ段ピン69aで蝶着されることにより揺動するクラッチ切換レバー69、クラッチ切換レバー69の切換バネ駆腕69cとクラッチ切換腕65の切換バネ駆腕65c間に張架されるクラッチ切換バネ67によって駆動軸5の軸方向に揺動するクラッチ切換腕65、クラッチ切換腕65に固定され、クラッチ摺動子62の摺動子制御溝62cに嵌合して、クラッチ切換腕65の揺動によりクラッチ摺動子62を駆動軸5の軸方向に摺動させてクラッチ60を切換えるクラッチ切換ピン65aを有する。
【0048】
ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91はサブフレーム2aと切換カム軸受板93に枢着された切換カム軸92の一端部で回転平坦部92bに回転止めされビスでネジ穴92cに螺着されている。ルーパ糸通し/縫目形成切換カム94は切換カム軸92のピン穴92aにピン95を嵌合することにより固定されている。
【0049】
クラッチ切換レバー69はクラッチ切換レバー支台71のクラッチ切換レバー取付腕71aに跨がってクラッチ切換レバー軸68で枢着されている。クラッチ切換バネ67がクラッチ切換レバー69のクラッチ切換レバーバネ掛け69cとクラッチ切換腕65のクラッチ切換腕バネ掛け65c間に張架されている。
【0050】
クラッチ切換腕65にはクラッチ60を切換えるクラッチ切換ピン65aが植設されている。
【0051】
クラッチ切換レバー支台71はメインフレーム2に固着されたクラッチ切換台73の一端に固定されている。
【0052】
クラッチ切換腕65はそのクラッチ切換腕取付穴65bがクラッチ切換台73のクラッチ切換腕支台73aのクラッチ切換腕取付穴73bにクラッチ切換レバー軸66で枢着されている。クラッチ切換台73にはクラッチ切換腕65の揺動に応じてクラッチ切換ピン65aが揺動するのを許容して遊動する貫通穴73cが穿設されている。
【0053】
ここで、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を時計方向B(ルーパ糸通し側)に回動すれば、クラッチ切換リンク72に駆動されてクラッチ切換レバー69が反時計方向に回動し、クラッチ切換腕65がクラッチ切換バネ67で弾撥(引張)され、時計方向に回動して1つの安定状態を保持し、このためクラッチ切換ピン65aが摺動子制御溝62cに嵌合して、クラッチ摺動子62がポンプ駆動体61側に摺動し、クラッチ連結ピン63が回転駆動体23の駆動溝23aを摺動してポンプ駆動体61の連結ピン穴61aに連結し、気体供給ポンプ41を作動可能とし、ルーパ糸通し可能となる(図9(b)、図10(b))。また、このクラッチのルーパ糸通し準備状態が保持される。
【0054】
一方、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を反時計方向A(縫目形成側)に回動して戻すならば、クラッチ切換リンク72に駆動されてクラッチ切換レバー69が時計方向に回動し、クラッチ切換腕65がクラッチ切換バネ67で弾撥(引張)され、反時計方向に回動して他の安定状態を保持し、クラッチ切換バネ67でクラッチ切換ピン65aが摺動子制御溝62cに嵌合してクラッチ摺動子62が縫目形成駆動体64側に摺動し、クラッチ連結ピン63が回転駆動体23の駆動溝23aを摺動して縫目形成駆動体64の連結ピン穴64aに連結し、駆動軸5を回転可能とし、縫目形成可能となる(図9(a)、図10(a))。また、このクラッチの縫目形成準備状態が保持される。即ち、クラッチ切換バネ67は、気体供給ポンプ41へ動力伝達するポンプ駆動体61と、駆動軸5の一端に固着されて縫目形成装置30へ動力伝達する縫目形成駆動体64との一方に、クラッチ摺動子62をルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91の手動操作に応じて接離自在に移動されるとともにその接離状態が保持される機能を果たす。
【0055】
また、ルーパ糸通し/縫目形成切換カム94は、後で説明する位置決めピンを停止位置決め板81に対して進退させるとともに糸通し連結装置120(図1〜図5)を連結させるためのピン進退カム94dと、糸通し連結装置120を解除させてルーパ糸案内出口7d、8d、9dとルーパ糸入口7a、8a、9aを離間させるための解除カム94cとを有する。
【0056】
再言すると、図3(a)、(b)、図5(A)、図11に示すように、縁かがりオーバーロックミシン1は、ルーパ糸案内出口7d、8d、9dとルーパ糸入口7a、8a、9aがルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部91の手動操作に応じて、ルーパ糸通し時及び縫目形成時にそれぞれ接離自在に配設される糸通し連結装置120(図1〜図5)を備えている。
【0057】
糸通し連結装置120において、ルーパ糸案内連結板121、136と、ルーパ糸案内出口支え131、139と、ルーパ天秤糸案内133、139bとが設けられている。これらはサブフレーム2aに固着されている。
【0058】
ルーパ糸導入機構110(図6)から延びている中空ルーパ糸案内130の中空ルーパ糸案内7e、8e、9eはそれぞれ支持穴131b、135a、支持穴121i、136c、バネ受け溝121j、136d、支持穴131a、139a、天秤糸案内133a、139bを経由して中空ルーパ糸案内7f、8f、9fに入れ子式に挿入されてルーパ糸道を形成している。支持穴121i、136cとバネ受け溝121j、136d間には拡圧バネ137が設けられ、留めリングでバネ受け溝121j、136dに係止されて中空ルーパ糸案内7f、8f、9fをルーパ側に弾撥している。したがって、中空ルーパ糸案内7f、8f、9fはそれぞれバネ受け溝121j、136d、支持穴131a、139aで摺動自在に保持されてルーパ糸案内出口7d、8d、9dが上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9のルーパ糸入口7a、8a、9aに接離可能とされている。
【0059】
なお、ルーパ糸案内連結板121、136を支持する連結板案内棒132、138が設けられている。
【0060】
ルーパ糸案内連結板121のバネ掛け121kとルーパ糸案内出口支え131のバネ掛け131c間にはバネ134が張設され、これによってルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を時計方向B(ルーパ糸通し側)に回動することで解除カム94cがルーパ糸案内連結板121のカムホロワ121gを介してルーパ糸道離隔状態を解除して糸通し連結装置120を連結させたとき、中空ルーパ糸案内7f、8f、9fをルーパ側に弾撥してルーパ糸案内出口7d、8d、9dとルーパ糸入口7a、8a、9aを糸道連結させる。
【0061】
また、図2、図3(a)、(b)、図4(a)、(b)、図9(a)、(b)、図12、図13(a)、(b)、(c)に示すように、縁かがりオーバーロックミシン1は、安全装置として機能する位置決め装置80を備えている。
【0062】
位置決め装置80は、駆動軸5に同軸に取付けられ、ルーパ糸案内出口7d、8d、9d及びルーパ糸入口7a、8a、9aが図3(a)、(b)、図4(a)、(b)に示すように水平方向に整致する周方向停止位置に切り欠き81aを有する停止位置決め板81と、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91をルーパ糸通し側に切換手動操作したルーパ糸通し時に、プーリ6を手動回転させて切り欠き81aに嵌合可能で、ルーパ糸通し時及び縫目形成時にそれぞれ接離自在に配設される糸通し連結装置120を連結させる位置決めピン82(図5(A)、図5(B))とを有する。
【0063】
位置決めピン82は、ルーパ糸通し/縫目形成切換カム94のピン進退カム94dに係合するフォロアピン端84aを有するフォロアピン84と、フォロアピン84がフォロアピンバネ83を介在して嵌合する位置決めピン82とを備えている。フォロアピン84はフォロアピンバネ83を介在してガイドピン85により長穴82b内で摺動自在とされている。位置決めピン82は位置決めピン戻しバネ86がガイドピン85とサブフレーム2a間に設けられ、位置決めピン82をルーパ糸通し/縫目形成切換カム94に向かって弾撥している。
【0064】
位置決めピン82は位置決めピン摺動穴2aaを貫通して位置決め板81に向かって延在している。フォロアピン84と、これが嵌合している位置決めピン82はルーパ糸道離隔状態でルーパ糸案内連結板121の長穴121bに続く軸穴121aに嵌合している。
【0065】
さらに、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置は、図1、図10〜図11、図14〜図17(a)、(b)に示すように、気体供給源40(気体供給ポンプ41)の気体供給動作中にルーパ糸通し/縫目形成切換機構90の縫目形成状態への異常切換を禁止するための切換禁止機構160を備えている。
【0066】
本発明のミシンの気体搬送糸通し装置において、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構90のルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91は、ミシンのフロントカバー161(図1、図10、15(a)、(b)〜図17(a)、(b))で開閉成自在に隠蔽され、ルーパ糸通し時にはフロントカバー161を開成(D方向、図10、15(a)、(b)〜図17(a)、(b))してルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91をルーパ糸通し状態(時計方向B、図10)へ切換操作し、縫目形成時にはルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を縫目形成状態(反時計方向A、図10)へ切換操作した後に、フロントカバー161を閉成(C方向、図10、15(a)、(b)〜図17(a)、(b))して縫目形成装置30を動作させるものである。
【0067】
本発明のミシンの気体搬送糸通し装置において、切換禁止機構160は、メインフレーム2に固着される前面カバー171(図14〜図17)の下端に枢着されフロントカバー161の開閉をフロントカバー161の内面に形成される押圧端161aの押圧によって検知してバネ169の弾撥に抗して枢動され前面カバー171に形成した枢軸172に枢着されるフロントカバー開閉検知片162と、サブフレーム2bにクラッチ切換レバー支台71を介して固定された禁止能動アーム取付台164にバネ169の弾撥に抗して段ピン167で枢動自在に取付けられフロントカバー開閉検知片162の枢動に応じて枢動される禁止能動アーム168と、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構90に固定され禁止能動アーム168の枢動に応じてフロントカバーの開成中にルーパ糸通し/縫目形成切換機構90の縫目形成状態への異常切換を禁止する禁止従動アーム170とから構成されている。
【0068】
フロントカバー開閉検知片162の一端162bは安全スイッチ163のアクチュエータを兼ねており、フロントカバー161が閉成されているときは押圧端161aの押圧によってフロントカバー161のフロントカバー開閉検知片162を図1、図14、図15(a)、図17(b)で見て反時計方向に枢動させて安全スイッチ163を介してミシンモータMをON可能状態とし、フロントカバー161が開成されているときはフロントカバー161の押圧端161aの押圧解除によって安全スイッチ163を介してミシンモータMをOFFさせ、フロントカバー開閉検知片162を図1、図14、図15(b)、図16(a)、(b)、図17(a)で見て反時計方向に枢動されていた状態からフリーで時計方向に枢動する。
【0069】
バネ169は、禁止能動アーム取付台164のバネ掛け164aと禁止能動アーム168のバネ掛け168aとの間に掛けられ、禁止能動アーム168を常時図1、図14、図15〜図17で見て反時計方向に枢動させるように弾撥され、禁止能動アーム168のピン168fが禁止能動アーム取付台164の窓164bの上端ストッパー164cに当接して係止されている。
【0070】
禁止従動アーム170はビス170cによってルーパ糸通し/縫目形成切換機構90及びクラッチ切換伝達子70のクラッチ切換腕65に固定されている。
【0071】
この切換禁止機構160によって、ルーパ糸通し時にはフロントカバー161が開成され、フロントカバー161の内面に形成される押圧端161aの押圧解除によってフロントカバー開閉検知片162がフリーで時計方向に枢動し、禁止能動アーム168がバネ169の弾撥で反時計方向に枢動され、禁止従動アーム170の舌片170aが禁止能動アーム168の先端平面部168bに係止され、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91がルーパ糸通し状態(時計方向B)へ切換操作され、プーリ6を手動回転させることにより縫目形成装置30をロックさせるとともに、糸通し連結装置120(図1〜図5)を作動し、禁止従動アーム170の舌片170aが禁止能動アーム168の先端平面部168bから側面部168cに係止されてルーパ糸通し/縫目形成切換機構90の縫目形成状態への異常切換を禁止する。
【0072】
他方、縫目形成時にはルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を縫目形成状態(反時計方向A)へ切換操作した後に、フロントカバー161を閉成して押圧端161aの押圧によってフロントカバー開閉検知片162が枢動され、その押圧突起162aによって禁止能動アーム168の被押圧突起168dが押圧され、禁止能動アーム168がバネ169の弾撥に抗して時計方向に枢動され、禁止従動アーム170の従動子170aが禁止能動アーム168の側面部168cから先端平面部168b上に解放されてルーパ糸通し/縫目形成切換機構90の縫目形成状態(反時計方向A)への切換を能動とし、縫目形成装置30を動作させるものである。
【0073】
このように構成されたミシンの気体搬送糸通し装置の動作について以下、更に詳しく順次説明することにする。
【0074】
いま、ルーパ糸通しを行なうときには、フロントカバー161を開成し、フロントカバー161の内面に形成された押圧端161aの押圧解除によって切換禁止機構160のフロントカバー開閉検知片162を図1、図10、図14、図15〜図17で見て反時計方向に枢動されていた状態からフリーで時計方向に枢動し(図10(b)、図15(b))、フロントカバー開閉検知片162の一端162bの押圧解除によって安全スイッチ163でミシンモータMがOFFし、禁止能動アーム168がバネ169で枢動され、禁止従動アーム170の舌片170aが禁止能動アーム168の先端平面部168bに係止し乗っかっている状態となる。
【0075】
ルーパ糸通し/縫目形成切換機構90のルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を時計方向B(ルーパ糸通し側)に回動する(図10(b)、図13(b)、図16(a))。
【0076】
この状態は、後述するルーパ糸通し/縫目形成切換機構90の縫目形成状態への異常切換を禁止する準備段階となっている。
【0077】
同時に、クラッチ切換伝達子70におけるルーパ糸通し/縫目形成切換カム94の回動角がレバー右回転ストッパー94fで抑止され、ルーパ糸通し/縫目形成切換カム94は切換カム軸92を回転軸として回動し、クラッチ切換連結腕94bに枢着されたクラッチ切換リンク72を押出す(図10(b))。
【0078】
クラッチ切換レバー支台71のクラッチ切換レバー支え腕71aに設けたクラッチ切換レバー取付穴71bにクラッチ切換レバー軸68で取付けられたクラッチ切換レバー69は、クラッチ切換リンク72の押出でカシメ段ピン69aの枢着点により反時計方向に揺動される。
【0079】
クラッチ切換台73のクラッチ切換腕支台73aに設けたクラッチ切換腕取付穴73bにクラッチ切換腕軸66でクラッチ切換腕取付穴65bとで取付けられているクラッチ切換腕65は、クラッチ切換バネ67を介して、時計方向に揺動される。この場合、クラッチ切換ピン65aはクラッチ切換腕支台73aに設けた貫通穴73c内を摺動して左端に位置する(図9(b))。
【0080】
この結果、クラッチ切換ピン65aが摺動子制御溝62cに嵌合して、クラッチ60のクラッチ摺動子62がポンプ駆動体61側に摺動し、縫目形成装置30への動力伝達を遮断し、クラッチ連結ピン63が回転駆動体23の駆動溝23aを摺動してポンプ駆動体61の連結ピン穴61aに連結可能状態とされる。ポンプ駆動(偏芯)カム42でポンプ駆動ロッド43、ポンプ駆動腕44により気体供給ポンプ41のピストン48を往復動駆動可能とする(図7、図8(a)、図9(b)、図12)。
【0081】
クラッチ切換ピン65aはクラッチ切換バネ67により、クラッチ摺動子62がポンプ駆動体61側に摺動して接触し、その接触状態が保持されてルーパ糸通しための気体供給ポンプ41を駆動可能としてポンプ駆動準備状態となる。即ち、クラッチ60はクラッチ切換バネ67の弾性により1つのクラッチ安定状態を保持する。
【0082】
この場合、クラッチ60はピンクラッチであって、クラッチ連結ピン63が回転駆動体23を介してポンプ駆動体61の連結ピン穴61aに容易に嵌合するので、弱い側圧力で、かつスリッピングなしにクラッチ切換ができる。
【0083】
ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を時計方向B(ルーパ糸通し側)に回動すれば、上記のクラッチ60の切換と同時に、ルーパ糸通し/縫目形成切換カム94に設けた解除カム94c(図11(b))がルーパ糸案内連結板121のカムホロワ121gとの係合を解除し、この状態でフォロアピン84とこれが嵌合している位置決めピン82はルーパ糸案内連結板121の軸穴121aに嵌合しており(図3(a))、
ルーパ糸案内連結板121をルーパ側に弾撥している状態で、ピン進退カム94dでフォロアピン84のフォロアピン端84aを押圧するので、位置決めピン摺動穴2aaを貫通して延在している位置決め装置80の位置決めピン82は進行してフォロアピンバネ83、位置決めピン戻しバネ86により位置決め板81の外周面に圧接される(図13(b))。
【0084】
以上の動作によりルーパ糸通し時に接続自在に配設される糸通し連結装置120(図1〜図5)の連結及び位置決め装置80の位置決めが準備される。
【0085】
このようなクラッチ60の切換及び糸通し連結装置120(図1〜図5)の連結及び位置決め装置80の位置決めが準備された状態で、駆動軸5の一端に固着されているプーリ6を手動回転させれば、位置決めピン82はルーパ糸案内出口7d、8d、9d及びルーパ糸入口7a、8a、9a、ルーパ天秤14、13、15の天秤孔14a、13a、15aが水平方向に整致する周方向停止位置(図3(b)、図4(b))で位置決め装置80の位置決め板81の切り欠き81aに嵌入し、この整致位置で駆動軸5はその回転が位置決めピン82でロックされる(図13(c)、図9(b))。
【0086】
位置決め装置80は位置決め板81の作動により駆動軸5はその回転がロックされるので、ルーパ糸通し時に安全装置として機能する。
【0087】
ここで初めて、クラッチ摺動子62がポンプ駆動体61側に摺動するので、クラッチ連結ピン63がポンプ駆動体61の連結ピン穴61a面に当接し連結可能状態となる。そこで広口ルーパ糸差入口113a、113b、113cにルーパ糸16を挿入し、糸通し釦117を押下してミシンモータMがONすると、ミシンモータMからの動力がタイミングベルトMBにより伝達される駆動軸プーリ21、駆動軸プーリボス22を介して固着される回転駆動体23が回転することによりクラッチ連結ピン63がポンプ駆動体61の連結ピン穴61aに一致して嵌入し完全に連結され、クラッチ摺動子62がポンプ駆動体61側に更に摺動するので、クラッチ切換ピン65aもそれに伴なってポンプ駆動体61側に更に移動する。
【0088】
この状態では、クラッチ切換ピン65aの移動にしたがってクラッチ切換腕65の移動とともに切換禁止機構160における禁止従動アーム170の舌片170aがバネ169で上方向に弾撥されている禁止能動アーム168の先端平面部168b上を滑ってその先端平面部168bから側面部168cに係止されるので、後述するように、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構90の縫目形成状態への異常切換を禁止する(図17(a)、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を反時計方向Aに操作した後の操作状態で図示)。
【0089】
また、位置決めピン82が位置決め板81の切り欠き81aに嵌入することにより、糸通し連結装置120(図1〜図5)が作動して位置決めピン82はルーパ糸案内連結板121の軸穴121aから離脱し、バネ134の弾性によりルーパ糸案内連結板121がルーパ側に弾撥されルーパ糸案内連結板121の長穴121bはフォロアピン84を摺動する。この場合、位置決めピン戻しバネ83によりフォロアピン84は長穴121bに嵌合する。
【0090】
同時に、バネ134の弾性によりルーパ糸案内連結板121、136、したがって中空ルーパ糸案内130の中空ルーパ糸案内7e、8e、9eと入れ子式に連結されている中空ルーパ糸案内7f、8f、9fは支持穴131a、139a、天秤糸案内133a、139bを経由して上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9側に移動し、ルーパ糸案内出口7d、8d、9dとルーパ糸入口7a、8a、9aが連結される。この場合、バネ137は中空ルーパ糸案内7f、8f、9fのルーパ糸案内出口7d、8d、9dと上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9のルーパ糸入口7a、8a、9aが連結される際の衝撃を緩衝する。
【0091】
ルーパ糸案内連結板121がルーパ方向へ摺動すると、ルーパ糸案内連結板121のスイッチ作動部121hによって切換えられていたルーパ糸通し/縫目形成切換スイッチ119aが解放されモータコントローラMCをOFFし糸通し釦117をONへ切替える。
【0092】
これによって糸通し連結装置120(図1〜図5)の中空ルーパ糸案内130は連結準備から連結状態となる(図3(b)、図4(b))。
【0093】
糸通し連結装置120(図1〜図5)の連結状態において、必要なそれぞれのルーパ糸を5〜6mm(1/4inch)程度、ルーパ糸導入機構110の広口ルーパ糸差入口113a、113b、113c(図1、図6、図8)に差し込むと共に、ルーパ糸導入台112の糸通し釦117を押下すると、糸通しスイッチ119bがONとなり、ミシンモータMが定速回転制御され、タイミングベルトMBで駆動軸プーリ21、駆動軸プーリボス22、クラッチ60の回転駆動体23からポンプ駆動体61、ポンプ駆動カム42、ポンプ駆動ロッド43、ポンプ駆動腕44により気体供給ポンプ41のピストン48を往復動駆動可能とする(図7、図8、図9(b))。気体供給ポンプ41の作動において、ピストン48のフォワード工程ではピストンキャップ49がポンプシリンダ50の内壁面に気密に接合され、空気は圧縮されて送出口50bからパイプ54を経由してルーパ糸導入機構110の吸入口112a(図6、図8)に圧縮空気として加圧注入され、一方ピストン48のリターン(吸入)工程ではピストンキャップ49がポンプシリンダ50の内壁面に気密に接合されることがなく開状態となるので、空気はピストン48及びピストンキャップ49の外周を経由して吸入され、また送出口50bから送出された空気は逆流止バルブ51の逆流止ボール51aで逆流阻止される。
【0094】
気体供給ポンプ41からの圧縮空気は送出口50bからパイプ54を経由してルーパ糸導入機構110の吸入口112a(図6、図8(a))に加圧注入され、気体バッファ領域115から通気狭隘領域114aを通ってジェット気流を生成する。
【0095】
各ルーパ糸は、このジェット気流に引っ張られてルーパ糸吸入領域114からルーパ糸導入パイプ116に吸い込ませ、中空ルーパ糸案内130の中空ルーパ糸案内7e、8e、9e、糸通し連結装置120の中空ルーパ糸案内7f、8f、9fのルーパ糸案内出口7d、8d、9dを通って上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9のルーパ剣先糸出口7b、8b、9bへ気体搬送することができる。
【0096】
ルーパ糸吸入領域114のルーパ糸案内出口端114bは傾斜して形成されており、これにより通気狭隘領域114aの下流側に渦流が発生するのを防止している。
【0097】
通気狭隘領域114aの下流でルーパ糸吸入領域114に隣接するルーパ糸導入パイプ116内に絞り部116cが形成されており、このため絞り部116cの下流側の圧力を低下させることにより通気狭隘領域114aにおける気体の流れを促進するとともにルーパ糸吸入領域114に負圧を発生させルーパ糸をルーパ糸導入パイプ116に吸い込ませる。
【0098】
このような気体搬送糸通し装置のルーパ糸導入機構110によれば、ルーパ糸を上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9に挿通する作業にあたり、上ルーパ糸16a、下ルーパ糸16b、二重環ルーパ糸16cを糸導入部から差し入れる際に、ルーパ糸導入機構110によって上ルーパ糸16a、下ルーパ糸16b、二重環ルーパ糸16cの糸導入を強力に、かつ確実に行なうことができる。
【0099】
また、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置によれば、上ルーパ糸16a、下ルーパ糸16b、二重環ルーパ糸16cを気体搬送するための加圧気体をミシンモータMで動作する気体供給ポンプ41で生成し、ワンタッチで上ルーパ糸16a、下ルーパ糸16b、二重環ルーパ糸16cに糸通しができる。
【0100】
さらに、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置によれば、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構90によって片手のみで上ルーパ糸16a、下ルーパ糸16b、二重環ルーパ糸16cに糸通しができる。
【0101】
したがって、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置によれば、上ルーパ糸16a、下ルーパ糸16b、二重環ルーパ糸16cの剣先の糸出口7b、8b、9bから糸を差し入れる糸導入部までを連通する中空の糸案内7e、8e、9e、7f、8f、9fで連結したので、複雑な糸掛けを不要とし、操作性よく糸通しを行なうことができ、糸通しを間違えたり、途中で糸がはみ出したり、挿通された上ルーパ糸16a、下ルーパ糸16b、二重環ルーパ糸16cが他の糸と絡んだりすることがなくなるとともに、中空の糸案内手段に供給される加圧気体の流れを利用して糸を送るようにしたので、極めて簡単な操作で一気に糸通しをすることができる。
【0102】
ここで、切換禁止機構160の禁止従動アーム170の舌片170aの側面170bが禁止能動アーム168の側面部168cに係止されている状態では、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構90の縫目形成状態(反時計方向A)へ切換操作しても、クラッチ切換ピン65a、したがってクラッチ切換腕65が縫目形成駆動体64側へ移動することは不可能とされるから、気体供給ポンプの気体供給動作中にルーパ糸通し/縫目形成切換機構90の縫目形成状態(反時計方向A)への特殊の切換操作による異常切換は禁止される(図17(a)、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を反時計方向Aに操作した後の操作状態で図示)。
【0103】
次に、縫目形成を行なうときには、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構90のルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を反時計方向A(縫目形成側)に回動して戻した後(図10(a)、図13(a)、図17(a))、フロントカバー161を閉成すれば、フロントカバー161の押圧端161の押圧によりフロントカバー開閉検知片162を図1、図14、図15(a)、図17(b)で見て反時計方向に枢動されてフロントカバー開閉検知片162の一端162bが安全スイッチ163を作動してミシンモータMをONさせ、フロントカバー開閉検知片162の押圧突起162aによって禁止能動アーム168の被押圧突起168dが枢動されて先端平面部168bを降下させる。禁止従動アーム170の舌片170aが禁止能動アーム168の側面部168cから先端平面部168b上に解放されるので、後述するように、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構90の縫目形成状態(反時計方向A)への切換を能動とし、縫目形成装置30を動作可能とさせるものである(図17(b))。
同時に、ルーパ糸通し/縫目形成切換カム94の回動角がレバー左回転ストッパー94eで抑止され、クラッチ切換伝達子70が上記とは逆に作動し、ルーパ糸通し/縫目形成切換カム94は切換カム軸92を回転軸として回動し、クラッチ切換連結腕94bに枢着されたクラッチ切換リンク72を引込む(図10(a))。
【0104】
クラッチ切換レバー支台71のクラッチ切換レバー支え腕71aに設けたクラッチ切換レバー取付穴71bにクラッチ切換レバー軸68で取付けられたクラッチ切換レバー69は、クラッチ切換リンク72の引込でカシメ段ピン69aの枢着点により時計方向に揺動される。
【0105】
クラッチ切換台73のクラッチ切換腕支台73aに設けたクラッチ切換腕取付穴73bにクラッチ切換腕軸66でクラッチ切換腕取付穴65bとで取付けられているクラッチ切換腕65は、クラッチ切換バネ67を介して、反時計方向に揺動される。この場合、クラッチ切換ピン65aはクラッチ切換腕支台73aに設けた貫通穴73c内を摺動して右端に位置する(図9(a))。
【0106】
この結果、クラッチ切換ピン65aはクラッチ60のクラッチ摺動子62が縫目形成駆動体64側に摺動し、ポンプ駆動体61への動力伝達を遮断し、クラッチ連結ピン63が回転駆動体23で縫目形成駆動体64の連結ピン穴64aに連結される。したがって、駆動軸5へ動力伝達され縫目形成装置30を駆動可能とする(図9(a)、図10(a)、図12)。
この場合、クラッチ60はクラッチ切換バネ67の弾性で他のクラッチ安定状態を保持する。即ち、クラッチ切換バネ67は、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91の手動操作に応じて、駆動軸5の一端に固着されて縫目形成装置30へ動力伝達する縫目形成駆動体64に、クラッチ摺動子62を接離自在に移動されるとともにその接触状態が保持される機能を果たす。
【0107】
よって、ミシンモータMからタイミングベルトMBで駆動軸プーリ21、駆動軸プーリボス22、クラッチ60の回転駆動体23から縫目形成駆動体64により駆動軸5を回転駆動可能とする。
【0108】
また、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構90のルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を反時計方向A(縫目形成側)に回動して戻すことによって、ルーパ糸通し/縫目形成切換カム94に設けた解除カム94c(図11(b))がルーパ糸案内連結板121のカムホロワ121gと係合してルーパ側と反対方向(図5(A)では右方向)へ偏倚させるので、ルーパ糸案内連結板121のスイッチ作動部121hでルーパ糸通/縫目形成切換スイッチ119aが作動されて、糸通し釦117回路がOFFしモータコントローラ(フットコントローラ)MCがONとなり、モータコントローラ(フットコントローラ)MCを介してミシンモータMは可変回転制御される。
【0109】
駆動軸5の回転により、縫目形成装置30の針駆動機構12、布送り機構4及びルーパ駆動機構10が駆動され、針板3上で布押え機構19で布押えされた布25上に、針11a、11b、11c、上記のようにルーパ糸通しされている上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9によって縁かがり縫及び(又は)二重環縫を実行することができる。
【0110】
また、位置決め装置80は、上記とは逆に作動し、ルーパ糸通し/縫目形成切換カム94に設けたピン進退カム94dでフォロアピン84のフォロアピン端84aを押圧することが解除されるので、位置決めピン82は位置決め板81の切り欠き81aから離反するとともに、解除カム94c(図11(b))がルーパ糸案内連結板121のカムホロワ121gと係合してルーパ側と反対方向(図5(A)では右方向)へ偏倚させるので、フォロアピン84と、これが嵌合している長穴121bから位置決めピン82はルーパ糸案内連結板121の軸穴121aに嵌合する。このため糸通し連結装置120は、中空の糸案内7e、8e、9eのルーパ糸案内出口7d、8d、9dと上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9のルーパ糸入口7a、8a、9aが離反される。中空の糸案内7e、8e、9eのルーパ糸案内出口7d、8d、9dと上ルーパ7、下ルーパ8、二重環ルーパ9のルーパ糸入口7a、8a、9aが離反されているので、その間にルーパ天秤14、13、15の天秤孔14a、13a、15aがルーパ糸道として介在することで、ルーパ糸入口7a、8a、9aと天秤糸案内133a、139b間でルーパ天秤機能が実行され、このルーパ糸道離隔状態で縫目形成装置30により縁かがり縫及び(又は)二重環縫が実行される。
【0111】
上述したように、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置では、気体供給ポンプの気体供給動作中にルーパ糸通し/縫目形成切換機構90の縫目形成状態(反時計方向A)への特殊の切換操作による異常切換は禁止される。
【0112】
斯かる異常切換禁止として、一方の手で糸通し釦117を押しながら、ルーパ糸通し完了にて糸通し釦117から指を放すことなく、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を他方の手で操作して反時計方向A(縫目形成側)に回動して戻すという特殊の操作を実行した際にも、このような異常切換は禁止される。
【0113】
さらに、ルーパ糸通し時に糸通し釦117を押し、そしてルーパ糸通し完了にて糸通し釦117から指を離した直後、間髪を容れず即座に、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)91を操作して反時計方向A(縫目形成側)に回動して戻すという特殊の操作を実行した際にも、このような異常切換は禁止される。
【0114】
仮に、これらの特殊の操作を実行したとすると、位置決め装置80の位置決めピン82が位置決め板81の切り欠き81aに嵌入している状態でミシンモータMが駆動され、又は慣性で駆動され続けて駆動軸5が強制的に回転されることになり、その結果、位置決め装置80の位置が狂ってしまいルーパ糸入り口7a、8a、9aとルーパ天秤に形成された天秤孔がルーパ糸案内出口に水平方向に整致しなくなるという事態を惹起する虞があるが、このような異常切換は禁止されるので、斯かる事態を惹起する可能性は皆無となる。
【0115】
以上の説明から明らかなように、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置によれば、ルーパ糸を気体搬送するための加圧気体をミシンモータで動作する気体供給ポンプで生成し、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)によるワンタッチでルーパに糸通しができる。
【0116】
さらに、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置によれば、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)、ルーパ糸通し/縫目形成切換機構によって片手でルーパに糸通しができる。
【0117】
したがって、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置によれば、糸を差し入れる糸導入部からルーパ剣先の糸出口までを連通する中空の糸案内で連結したので、複雑な糸掛けを不要とし、操作性よく糸通しを行なうことができ、糸通しを間違えたり、途中で糸がはみ出したり、挿通されたルーパ糸が他の糸と絡んだりすることがなくなるとともに、中空の糸案内手段に供給される加圧気体の流れを利用して糸を送るようにしたので、極めて簡単な操作で一気に糸通しをすることができる。
【0118】
また、本発明のミシンの気体搬送糸通し装置によれば、特定の切換禁止機構を設けたことにより、気体供給ポンプの気体供給動作中にルーパ糸通し状態から縫目形成状態へ特殊の切換操作は実行されることがなくルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への異常切換は禁止されるので、ルーパ糸通し状態から縫目形成状態へ正常に切換えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明におけるミシンの気体搬送糸通し装置は、ルーパに加圧気体を利用して自動的に糸を通す縁かがりミシン、二重環縫いミシン、偏平縫いミシン等の環縫いミシンに好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0120】
M・・・ミシンモータ
2b・・・サブフレーム
5・・・駆動軸
6・・・プーリ
7a、8a、9a・・・ルーパ糸入口
7b、8b、9b・・・ルーパ剣先糸出口
7、8、9・・・ルーパ
16a、16b、16c・・・ルーパ糸
7d、8d、9d・・・ルーパ糸案内出口
30・・・縫目形成装置
40・・・気体供給源(41・・・気体供給ポンプ)
60・・・クラッチ
90・・・ルーパ糸通し/縫目形成切換機構
91・・・ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部
(ルーパ糸通し/縫目形成切換手動レバー)
110・・・ルーパ糸導入機構
120・・・糸通し連結装置
130・・・中空ルーパ糸案内
(7e、8e、9e、7f、8f、9f・・・中空ルーパ糸案内)
160・・・切換禁止機構
161・・・フロントカバー
161a・・・押圧端
162・・・フロントカバー開閉検知片
164・・・禁止能動アーム取付台
168・・・禁止能動アーム
168b・・・先端平面部
168c・・・側面部
169・・・バネ
170・・・禁止従動アーム
170a・・・舌片
171・・・前面カバー
172・・・枢軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーパ糸入口からルーパ剣先糸出口まで中空構造にされた少なくとも1つのルーパと、前記ルーパに導かれるルーパ糸を差し入れるルーパ糸導入機構と、前記ルーパ糸導入機構から前記ルーパ糸入口まで延在しルーパ糸案内出口を有する中空ルーパ糸案内と、前記ルーパ糸を前記ルーパ糸導入機構から前記中空ルーパ糸案内を通って前記ルーパ糸案内出口へ気体搬送によりルーパ糸通しする気体供給ポンプと、ミシンモータからの動力を縫目形成時には前記ルーパを含む縫目形成装置を駆動する駆動軸に、ルーパ糸通し時には前記気体供給ポンプにそれぞれ伝達するためのクラッチと、ルーパ糸通し時に前記縫目形成装置への動力伝達を遮断して前記気体供給ポンプに動力を伝達し、縫目形成時に前記縫目形成装置に動力を伝達して前記気体供給ポンプへの動力伝達を遮断するように前記クラッチを切換えるためのルーパ糸通し/縫目形成切換機構と、前記気体供給ポンプの気体供給動作中に前記ルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への異常切換を禁止するための切換禁止機構とを備えることを特徴とするミシンの気体搬送糸通し装置。
【請求項2】
前記ルーパ糸通し/縫目形成切換機構のルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部は、ミシンのフロントカバーで開閉成自在に隠蔽され、
前記ルーパ糸通し時には前記フロントカバーを開成して前記ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部をルーパ糸通し状態へ切換操作し、
前記縫目形成時には前記ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部を縫目形成状態へ切換操作した後に、前記フロントカバーを閉成して前記縫目形成装置を動作させることを特徴とする請求項1記載のミシンの気体搬送糸通し装置。
【請求項3】
前記切換禁止機構は、サブフレームに枢着されフロントカバーの開閉を検知して前面カバーに形成される枢軸に枢着されるフロントカバー開閉検知片と、前記サブフレームに固定された禁止能動アーム取付台にバネの弾撥に抗して枢動自在に取付けられ前記フロントカバー開閉検知片の枢動に応じて枢動される禁止能動アームと、前記ルーパ糸通し/縫目形成切換機構に固定され前記禁止能動アームの枢動に応じて前記フロントカバーの開成中に前記ルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への異常切換を禁止する禁止従動アームとから構成され、
前記ルーパ糸通し時には前記フロントカバーが開成され、前記フロントカバーの内面に形成される押圧端の押圧解除によって前記フロントカバー開閉検知片が前記禁止能動アームの押圧を解除し、前記禁止能動アームがバネで枢動され、前記禁止従動アームの舌片が前記禁止能動アームの先端平面部に係止され、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部がルーパ糸通し状態へ切換操作され、プーリを手動回転させることにより前記縫目形成装置をロックさせるとともに糸通し連結装置を作動し、前記禁止従動アームが前記禁止能動アームの先端平面部から側面部に係止されて前記ルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への異常切換を禁止し、
前記縫目形成時には前記ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部を縫目形成状態へ切換操作した後に、前記フロントカバーを閉成して前記フロントカバーの内面に形成される前記押圧端の押圧によって枢動される前記フロントカバー開閉検知片が枢動され、前記禁止能動アームが枢動され、前記禁止従動アームが前記禁止能動アームの前記側面部から前記先端平面部上に解放されて前記ルーパ糸通し/縫目形成切換機構の縫目形成状態への切換を能動とし、前記縫目形成装置を動作させることを特徴とする請求項1記載のミシンの気体搬送糸通し装置。
【請求項4】
前記クラッチは、前記気体供給ポンプへ動力伝達するポンプ駆動体と、前記駆動軸の一端に固着されて前記縫目形成装置へ動力伝達する縫目形成駆動体との一方に、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部の手動操作に応じてクラッチ切換バネを介して接離自在に移動されるとともにその接離状態が保持されて前記ミシンモータからの動力が伝達されているクラッチ摺動子を有するピンクラッチで構成されることを特徴とする請求項1記載のミシンの気体搬送糸通し装置。
【請求項5】
前記ルーパ糸案内出口と前記ルーパ糸入口は、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部の手動操作に応じて、ルーパ糸通し時及び縫目形成時にそれぞれ接離自在に配設される糸通し連結装置を備えることを特徴とする請求項1記載のミシンの気体搬送糸通し装置。
【請求項6】
前記駆動軸の一端に固着されているプーリを手動回転させることにより、前記ルーパ糸案内出口と前記ルーパ糸入口が水平方向に整致したとき前記中空ルーパ糸案内の前記ルーパ糸案内出口と前記ルーパの前記ルーパ糸入口とを接続する位置決め装置を備えることを特徴とする請求項1記載のミシンの気体搬送糸通し装置。
【請求項7】
前記ルーパ糸通し/縫目形成切換機構は、ルーパ糸通し時に、前記気体供給ポンプに動力を伝達するように前記クラッチを切換える手段と、前記中空ルーパ糸案内の前記ルーパ糸案内出口と前記ルーパの前記ルーパ糸入口とを接続する位置決め装置の位置決めを準備し、ルーパ糸通し時及び縫目形成時にそれぞれ接離自在に配設される糸通し連結装置の連結を準備して、前記駆動軸の一端に固着されているプーリを手動回転させることにより、前記位置決め装置が作動して前記縫目形成装置への動力伝達を遮断され、前記糸通し連結装置が作動して前記ルーパ糸案内出口と前記ルーパ糸入口が連結される手段とを有し、縫目形成時に、前記縫目形成装置へ動力伝達するように前記クラッチを切換える手段と、前記位置決め装置の位置決めを解除し、前記糸通し連結装置の連結を解除し、前記ルーパ糸案内出口と前記ルーパ糸入口が離間される手段とを有することを特徴とする請求項1記載のミシンの気体搬送糸通し装置。
【請求項8】
前記位置決め装置は、駆動軸に同軸に取付けられ、前記ルーパ糸案内出口、ルーパ天秤に形成された天秤孔及び前記ルーパ糸入口が水平方向に整致する周方向停止位置に切り欠きを有する停止位置決め板と、ルーパ糸通し/縫目形成切換手動操作部をルーパ糸通し側に切換手動操作したルーパ糸通し時に、前記プーリを手動回転させて前記切り欠きに嵌合する位置決めピンとを有することを特徴とする請求項6記載のミシンの気体搬送糸通し装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−63221(P2013−63221A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204753(P2011−204753)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000156008)株式会社鈴木製作所 (20)
【Fターム(参考)】