説明

ミシン及び糸調子調整プログラム

【課題】糸調子の判定及び調整を自動で行うことが可能なものにあって、糸調子の判定の正確性を十分に高いものとし、糸調子の調整を良好に行う。
【解決手段】縫目形成直後の加工布の縫目を、上面(表面)側から撮影する第1のカメラ39を頭部5に設けると共に、加工布の縫目を下面(裏面)側から撮影する第2のカメラ40をミシンベッド2に設ける。ミシン本体1の制御装置は、糸調子調整プログラムの実行により、加工布の縫目の糸調子の判定及び自動調整の処理を次のように行う。カメラ39,40により、加工布の表面側及び裏面側の双方から撮影された縫目の画像データを夫々取込み、それら画像データから交絡点に現れた反対側の糸の領域を抽出する。抽出した糸の領域の面積を算出し、糸調子率を判定する。その判定結果に基づいて、糸調子調整機構の糸調子調整用パルスモータを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上糸と下糸とに付与される張力のうち少なくとも一方の張力を調整する糸調子調整手段を備えたミシン、及び、ミシンのコンピュータに糸調子を自動で調整する処理を実行させるための糸調子調整プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、上糸と下糸とにより加工布を縫製(縫目を形成)するミシンにあっては、アーム部の上糸経路中に、上糸の張力を調整するための糸調子装置が設けられている。ユーザがこの糸調子装置を操作して、加工布の種類に応じて上糸と下糸との張力バランスである糸調子を適切なものに調整することにより、良好な縫製作業を行うことができる。従来では、ユーザが、ミシンで実際に縫製(試し縫い)された加工布の縫目を目視にて観察し、糸調子を判断して糸調子装置の調整を行うようにしていた。
【0003】
しかしながら、糸調子の判断基準がユーザの主観に依るので、判断が曖昧になってしまう。また、縫製作業の経験が少ないユーザにとっては、糸調子を的確に判断することが困難である。このため、結局、適切でない糸調子で縫製作業を行ってしまうケースも多くなる。そこで、近年では、例えば特許文献1に示されるように、上糸縫目検出器及び下糸縫目検出器を備え、加工布の布厚に対する縫目の縫合点(交絡点)の深さを光学的に検出し、その結果に基づいて糸調子装置を自動で調整するようにした自動糸調子ミシンが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−313771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1における上糸縫目検出器及び下糸縫目検出器は、光源からのスリット光を、加工布の縫目部分に照射し、その反射光をラインセンサで検出することに基づき、縫目の糸の盛上り高さを検出し、その盛上り高さから縫合点(交絡点)の深さを求めるようにしている。しかしながら、そのような反射式の検出器で糸の盛上り高さを検出するような手法では、周囲の外乱光や、加工布の色柄及び表面の光沢度合等の影響を受けやすい事情があり、交絡点の深さの検出精度を向上させることができず、ひいては、糸調子の判定に関して十分に高い正確性が得られなかった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、糸調子の判定及び調整を自動で行うことが可能なものにあって、糸調子の判定の正確性を十分に高いものとすることができ、糸調子の調整を良好に行うことができるミシン及び糸調子調整プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
図6は、例えばミシンによって加工布Wに形成された縫目の様子(断面図)を模式的に示している。ここで、縫目は、加工布Wの表面(上面)側の上糸NTと、加工布の裏面(下面)側の下糸BTとを、交絡点Sで交絡させながら形成される。このとき、上糸NTと下糸BTとの張力バランスが良好であれば、図6(a)に示すように、それらの交絡部が、加工布Wの厚み方向の中間部に来るようになる。これに対し、上糸NTの張力が適切値より大きい上糸調子の場合には、図6(b)に示すように、上糸NTと下糸BTとの交絡部が加工布Wの上面側に来るようになる。加工布Wの上面側からその縫目を見ると、交絡点Sにおいて、反対側の糸である下糸BTが比較的大きな領域(面積)で現れるようになる。
【0008】
同様に、上糸NTの張力が適切値より小さい(下糸BT側の張力が相対的に大きい)下糸調子の場合には、図6(c)に示すように、上糸NTと下糸BTとの交絡部が加工布Wの下面側に来るようになる。このときには、加工布Wの上面側からその縫目を見ると、交絡点Sにおいて、反対側の糸である下糸BTはほとんど現れることがなく、加工布Wの下面側から縫目を見ると、交絡点Sにおいて、反対側の糸である上糸NTが比較的大きな領域(面積)で現れるようになる。本発明者等は、このような加工布Wの交絡点Sにおける上糸NTと下糸BTとの見え方が、糸調子に応じて相違してくる点に着目し、本発明を成し遂げたのである。
【0009】
即ち、本発明の請求項1のミシンは、加工布を移送する送り手段と、前記送り手段により前記加工布を移送して上糸と下糸とを交絡させながら縫目を形成する縫目形成手段と、前記上糸と前記下糸とに付与される張力の少なくとも一方の張力を調整する糸調子調整手段とを備えたミシンにおいて、前記加工布に形成された縫目を撮影可能な位置に配置され前記加工布の表裏両面側の少なくとも一方から前記縫目を撮影する撮影手段と、前記撮影手段により撮影された前記縫目の画像データから前記上糸と前記下糸との交絡点に現れた反対側の糸の領域を抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された前記糸の領域の面積を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された面積に基づいて前記上糸と前記下糸との張力バランスである糸調子を判定する判定手段と、前記判定手段による判定結果に基づいて前記縫目形成手段により形成される縫目の糸調子を補正するように前記糸調子調整手段を制御する制御手段とを具備するところに特徴を有する。
【0010】
上記構成によれば、送り手段及び縫目形成手段により加工布に縫目が形成されると、
撮影手段により、その加工布の縫目の画像が撮影され、抽出手段により、縫目の画像データから交絡点に現れた反対側の糸の領域が抽出され、算出手段により、前記糸の領域の面積が算出される。ここで、上述のように、この糸の面積は、上糸と下糸との張力のバランスに応じて変動するものとなるから、算出された面積に基づいて、判定手段により糸調子を十分な確かさで判定することができる。そして、判定手段による判定結果に基づいて、制御手段により、糸調子調整手段が制御される。
【0011】
この場合、人の主観によるものではなく、縫目を撮影した画像データに基づいて面積を算出し、その面積に基づいて糸調子の判定を自動で行うものであるから、反射式の検出器で糸の盛上り高さ(交絡点の深さ)を検出するものと異なり、外乱光や加工布の色、材質などの影響を受けにくいものとなり、糸調子の判定の正確性を十分に向上させることができる。これにより、糸調子の調整を良好に行うことができ、しかも例えば縫製作業の途中であっても、糸調子の調整を自動で速やかに行うことができる。
【0012】
本発明においては、縫目を加工布の表裏両面側から撮影することにより、両者の面積の差に基づいて張力バランスを判定することができるが、一方側(例えば上側)からのみ撮影する場合であっても、予め求められた基準となる面積の値(しきい値)を記憶させておき、算出された面積を基準となる面積と比較することに基づいて、糸調子を判定することができる。尚、請求項に記載された「交絡点に現れた反対側の糸」とは、上糸による縫目が形成される加工布の表面(上面)側については、下糸を意味しており、下糸による縫目が形成される加工布の裏面(下面)側については、上糸を意味している。
【0013】
請求項2のミシンは、請求項1の発明において、前記撮影手段は、前記加工布の縫目を表面側及び裏面側の双方に関して撮影し、前記算出手段は、前記抽出手段により抽出された前記糸の領域内の画素数に基づいて面積を夫々算出し、前記判定手段は、前記算出手段により算出された前記面積を比較することにより、前記糸調子を判定するように構成されているところに特徴を有する。
【0014】
請求項3のミシンは、請求項1又は2の発明において、前記判定手段は、一つの画像データ中に含まれた複数個の交絡点に現れた糸の各領域の面積に基づいて、前記糸調子を判定するところに特徴を有する。
【0015】
請求項4のミシンは、請求項1又は2の発明において、前記判定手段は、前記撮影手段の複数回の撮影による複数の画像データの交絡点に現れた糸の各領域の面積に基づいて、前記糸調子を判定するところに特徴を有する。
【0016】
請求項5のミシンは、請求項1から4のいずれかの発明において、各種の縫製情報を表示可能な表示装置と、前記表示装置に、前記判定手段の判定結果を表示すると共に、前記撮影手段による撮影画像を表示する表示制御手段とを備えているところに特徴を有している。
【0017】
請求項6のミシンは、請求項1から5のいずれかの発明において、前記糸調子調整手段は、前記上糸に張力を付与する張力付与手段と、前記張力を調整する調整機構と、前記調整機構を駆動する駆動手段とを備え、前記制御手段は、前記判定手段による判定結果に応じて前記駆動手段を制御するように構成されているところに特徴を有する。
【0018】
本発明の請求項7の糸調子調整プログラムは、請求項1から6のいずれかに記載のミシンの各処理手段として、ミシンに内蔵されたコンピュータを機能させるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1のミシンによれば、糸調子の判定及び調整を自動で行うことが可能なものにあって、加工布に形成された縫目の画像を表裏両面側の少なくとも一方から撮影する撮影手段と、縫目の画像データから交絡点に現れた反対側の糸の面積を算出する算出手段と、算出された面積に基づいて糸調子を判定する判定手段と、判定結果に基づいて糸調子調整手段を制御する制御手段とを具備するので、糸調子の判定の正確性を十分に高いものとすることができ、糸調子の調整を良好に行うことができるという優れた効果を奏する。
【0020】
請求項2のミシンによれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、撮影手段により撮影された加工布の表面側及び裏面側の双方の画像データから、算出手段により交絡点に現れる反対側の糸の画素数が夫々算出され、判定手段がそれら糸の画素数を比較することにより糸調子を判定するように構成されているので、比較的簡単な処理で、高精度に糸調子を判定することができる。
【0021】
請求項3のミシンによれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、判定手段は、一つの画像データ中に含まれた複数個の交絡点に現れた糸の各領域の面積に基づいて、糸調子を判定するように構成されているので、各領域の面積のばらつき、即ち糸調子のばらつきによる影響を低減でき、糸調子の判定の精度をより一層高めることができる。
【0022】
請求項4のミシンによれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、判定手段は、撮影手段の複数回の撮影による複数の画像データの交絡点に現れた糸の各領域の面積に基づいて、糸調子を判定するように構成されているので、例えば周囲の外乱光等による撮影条件のばらつきによる影響を低減でき、糸調子の判定の精度をより一層高めることができる。
【0023】
請求項5のミシンによれば、請求項1から4のいずれかに記載の発明の効果に加え、表示装置の画面に、判定手段の判定結果が表示されると共に、撮影手段による撮影画像をも表示されるように構成されているので、ユーザに対して判りやすい表示を行うことができる。
【0024】
請求項6のミシンによれば、請求項1から5のいずれかに記載の発明の効果に加え、糸調子調整手段が、駆動手段の駆動制御により、調整機構を介して張力付与手段の張力を調整するように構成され、制御手段は、判定手段による判定結果に応じて駆動手段を制御するように構成されているので、駆動手段に対する簡単な制御で、糸調子の調整を良好に行うことができる。
【0025】
請求項7の糸調子調整プログラムによれば、請求項1から6のいずれかに記載のミシンの各処理手段として、ミシンに内蔵されたコンピュータを機能させるように構成されているので、糸調子の判定及び調整を自動で行うことが可能なものにあって、糸調子の判定の正確性を十分に高いものとすることができ、糸調子の調整を良好に行うことができるという優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を示すもので、ミシン本体の外観構成を示す斜視図
【図2】カメラの位置を示すためのミシン本体の左側面図
【図3】糸調子調整機構の構成を示す平面図
【図4】回転釜機構及び送り歯駆動機構部分の斜視図
【図5】ミシンの電気的構成を示すブロック図
【図6】加工布に形成された縫目を、適切な糸調子の場合(a)、上糸の張力が大きい場合(b)、下糸の張力が大きい場合(c)について模式的に示す拡大縦断面図
【図7】加工布の表面側における縫目の様子及び抽出された糸の領域(a)と、加工布の裏面側における縫目の様子及び抽出された糸の領域(b)とを示す図
【図8】制御装置が実行する糸調子調整の全体の処理の手順を示すフローチャート
【図9】図8のステップS3の糸調子判定の処理の手順を示すフローチャート
【図10】図9のステップS12の処理の詳細を示フローチャート
【図11】図9のステップS14の処理の詳細を示フローチャート
【図12】図9のステップS15の処理の詳細を示フローチャート
【図13】図8のステップS4の糸調子調整の処理の手順を示すフローチャート
【図14】補正用データテーブルを示す図
【図15】本発明の他の実施形態を示すもので、表示装置に表示される糸調子判定結果の画面の例を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を、例えば家庭用の電子ミシンに適用した一実施形態について、図1から図14を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るミシンの全体の外観を、正面(ユーザ側)から見た様子を示している。ミシンの本体1は、左右方向に延びるミシンベッド2と、このミシンベッド2の右端部から上方に延びる脚柱部3と、この脚柱部3の上端から図で左方に延びるアーム部4とを一体的に有して構成されている。アーム部4の先端部が、頭部5とされている。尚、ミシン本体1を操作するユーザが位置する側を前方とし、その反対側を後方とする。また、脚注部3が位置する側を右側とし、その反対側を左側とする。
【0028】
図2にも示すように、前記アーム部4の先端の頭部5には、針棒6が上下動及び左右方向への揺動可能に設けられている。この針棒6の下端部には、縫針7が装着されている。また、図2に示すように、前記頭部5には、針棒6(縫針7)の後側に位置して、押え棒8が設けられ、その下端部に、加工布W(図6参照)を後述の針板上に押えるための押え足9が取付けられている。また、図1に示すように、前記アーム部4の上部には、カバー4aが開閉可能に設けられている。カバー4aの内側には、上糸NT(図6参照)を供給する上糸駒10がセットされるようになっている。
【0029】
前記アーム部4の前面部には、前記上糸駒10から引出された上糸NTを、前記縫針7に導く上糸経路を構成する糸案内溝11が縦方向に延びて設けられており、アーム部4内には、糸調子調整手段としての糸調子調整機構12(図3参照)が設けられている。詳しくは後述するように、この糸調子調整機構12は、糸案内溝11内を通された上糸NTに張力を付与すると共に、その張力を自動調整することが可能に構成されている。前記上糸駒10からの上糸NTは、糸案内溝11内を通されて糸調子調整機構12により張力が付与され、さらに、図示しない糸取りばねや天秤を通って、前記縫針7の目孔(図示せず)に通されるようになっている。
【0030】
詳しく図示はしないが、前記アーム部4内には、ミシンモータ13(図5参照)により回転駆動されるミシン主軸が設けられている。アーム部4内には、そのミシン主軸の駆動力により前記針棒6を上下動させる針棒駆動機構や、針振り用パルスモータ15(図5参照)を駆動源として針棒6を左右方向(X方向)に揺動させる針棒揺動機構、天秤駆動機構等が設けられている。前記ミシン主軸部分には、該ミシン主軸の回転角度ひいては針棒6の上下位置を検出する主軸角度検出器16(図5参照)が設けられている。
【0031】
図1に示すように、アーム部4の前面部には、縫製作業の起動と停止を指令する起動・停止キー17aを含む複数個のキースイッチ17が操作可能に設けられている。前記脚柱部3の前面には、大型で縦長形状をなしフルカラー表示が可能な表示装置としての液晶ディスプレイ18が設けられている。この液晶ディスプレイ18の表面にはタッチパネル19(図5参照)が設けられている。液晶ディスプレイ18には、実用模様や刺繍模様等の多数の縫目模様、縫製作業に必要な各種の機能を実行させる機能名、各種のメッセージなどの縫製情報が表示されるようになっている。
【0032】
前記ミシンベッド2の上面には、図1、図4に示すように、前記針棒6に対向して針板20が設けられている。図4に示すように、この針板20には、前記縫針7が貫通する針穴20aや、加工布W(図6等参照)を1ピッチずつ後方に移送するための送り歯21が上下に出没及び前後動作する開口部20bが設けられている。また、図示はしないが。ミシンベッド2内には、前記ミシンモータ13によって前記ミシン主軸と同期駆動される下軸が左右方向に延びて設けられている。
【0033】
そして、図4に示すように、ミシンベッド2内には、前記針板20の下側に位置して、前記縫針7と協働して縫目を形成するための水平釜機構23や、前記針棒6の上下動と同期して送り歯21を駆動させる送り歯駆動機構24が、全体としてほぼ矩形枠状のフレーム25に組付けられてユニット化された状態で設けられる。前記針棒駆動機構や水平釜機構23などから縫目形成手段が構成され、また、送り歯駆動機構24等から送り手段が構成される。
【0034】
前記水平釜機構23は、周知のように、前記下軸の回転がギヤ機構(図示せず)を介して垂直軸周りの回転に変換されて回転駆動される外釜26と、その外釜26内に回転不能に設けられた内釜22とを備えている。図示はしないが、前記内釜22内には、下糸BT(図6等参照)が巻回された下糸ボビンが着脱可能にセットされる。前記内釜22には、板ばね等からなる張力付与部(図示せず)が設けられており、下糸ボビンから引出される下糸BTは、前記張力付与部によって所定の(固定的な)張力が付与された状態で縫製に供されるようになっている。
【0035】
また、詳しい図示及び説明は省略するが、前記送り歯駆動機構24は、周知のように、前記送り歯21を、フレーム25に支持する送り歯支持機構27、この送り歯支持機構27による布送り量を調節する送り調節機構28を備えている。前記送り歯支持機構27は、前記下軸の駆動力を送り歯21の上下方向移動に変換する上下動機構と、前記下軸の駆動力を送り歯21の前後方向移動に変換する前後送り機構とを含んで構成されている。前記送り調節機構28は、送り量調整用パルスモータ29を駆動源として前記送り歯21の布送り量(前後方向移動量)を調整(変更)するように構成されている。
【0036】
これにより、ミシンモータ13が駆動されてミシン本体1の縫製動作が実行されると、ミシンベッド2上の加工布Wが、送り歯21により1ピッチずつ後方(図2で左側)に送られながら、針棒6及び回転釜機構23が駆動されることにより、図6に示すように、加工布Wに対し、上糸NTと下糸BTとを交絡させながら縫目が形成されるのである。このとき、上糸NTと下糸BTとの張力バランスである糸調子は、前記糸調子調整機構12によって調整可能に構成されている。
【0037】
図3は、前記アーム部4内に組込まれる糸調子調整機構12の構成を示している。この糸調子調整機構12は、アーム部4内に設けられた取付板30に組付けられ、前記糸案内溝11の奥部に位置して、該糸案内溝11内に通された上糸NTを、左右から挟み付けることによって張力を付与する張力付与手段たる固定及び可動の2枚の糸調子皿31及び32を有している。これと共に、糸調子調整用パルスモータ33を駆動手段として、それら2枚の糸調子皿31,32による挟み付け力を調整する調整機構を備えて構成される。
【0038】
即ち、前記取付板30は、前後方向を向き左右方向に延びる主部の左端部に、糸案内溝11の左側に臨む位置に、左右方向を向き前方に延びる折曲部30aを有している。折曲部30aの右側面には、糸調子軸34が右方に延びて取付けられている。前記糸調子皿31,32は、中心に糸調子軸34に挿通される穴を有する円板状をなし、そのうち、固定糸調子皿31が糸調子軸34の左端部に固定的に取付けられ、その右側に可動糸調子皿32が、左右方向に移動可能に挿通されている。
【0039】
前記取付板30の前面側には、上面から見てL字状をなす調整板35が、左右方向に移動可能に支持されている。この調整板35の左端部に設けられ、前方に延びるばね受け部35aが、前記糸調子軸34の右端側に挿通されている。糸調子軸34には、前記可動糸調子皿32と、調整板35のばね受け部35aとの間に位置して、圧縮コイルばね36が嵌挿されている。そして、前記取付板30に取付けられた糸調子調整用パルスモータ33の出力軸には、小径のギヤ37が取付けられ、取付板30に回転可能に取付けられた大径の駆動ギヤ38に噛み合っている。
【0040】
詳しく図示はしないが、前記駆動ギヤ38の側面部(図で背面)には、螺旋カム溝が設けられており、この螺旋カム溝に、前記調整板35の右端側に設けられた係合ピンが係合されている。これにて、糸調子調整用パルスモータ33が駆動されると、駆動ギヤ38の回転に伴って、螺旋カム溝内を係合ピンが移動することによって、調整板35が左右方向に位置調整され、これにより、圧縮コイルばね36のばね力(可動糸調子皿32を固定糸調子皿31に向けて押し付ける力)が変動され、もって糸調子が調整されるのである。この場合、例えば、糸調子調整用パルスモータ33がマイナス方向のパルス数で駆動されると、調整板35が右方に変位し、上糸NTの張力が弱まり、プラス方向のパルス数で駆動されると、調整板35が左方に変位し、上糸NTの張力が強くなる。
【0041】
さて、本実施形態では、前記ミシン本体1には、加工布Wに形成された縫目の糸調子を判定し、適切な糸調子(張力バランス)となるように、前記糸調子調整機構12による上糸NTの張力を自動調整するために、図2に示すように、撮影手段としての第1のカメラ39及び第2のカメラ40が設けられる。そのうち第1のカメラ39は、例えば200万画素程度のCMOS型のカメラ(イメージセンサ)からなり、前記頭部5内の底部に、前記押え棒8の後方に位置して下向きに設けられ、前記針棒6及び回転釜機構23によって形成された縫目形成直後の加工布Wの縫目を、上面(表面)側から撮影するようになっている。
【0042】
また、前記第2のカメラ40は、例えば200万画素程度のCMOS型のカメラ(イメージセンサ)からなり、前記ミシンベッド2の上部の針板20の後部に、第1のカメラ39と対向するように上向きに設けられ、前記針棒6及び回転釜機構23によって形成された縫目形成直後の加工布Wの縫目を、下面(裏面)側から撮影するようになっている。図5に示すように、これら第1のカメラ39及び第2のカメラ40により撮影された縫目の画像データは、制御手段としての制御装置41に入力されるようになっている。
【0043】
図5は、本実施形態に係るミシンの電気的構成を、ミシン本体1全体を制御する制御装置41を中心にして概略的に示している。前記制御装置41は、コンピュータ(マイコン)を主体として構成され、CPU42、ROM43、RAM44、EEPROM45、入力インターフェース46、出力インターフェース47などを、バス48により相互に接続して構成されている。前記ROM42には、縫製動作を制御するための制御プログラムや、後述する糸調子調整プログラムが記憶されていると共に、縫製動作に必要な縫目データ、糸調子の補正用データ(図14参照)等の各種のデータが記憶されている。
【0044】
この制御装置41の入力インターフェース46には、前記起動・停止キー17aを含む各種のキースイッチ17、タッチパネル19が接続され、それらの操作信号が入力されるようになっている。これと共に、主軸角度検出器16が接続され、その検出信号が入力されるようになっている。そして、上記のように、入力インターフェース46には、前記第1のカメラ39及び第2のカメラ40が接続され、それらの撮影画像のデータが入力されるようになっている。
【0045】
また、制御装置41の出力インターフェース47には、駆動回路49を介して前記液晶ディスプレイ18が接続されており、制御装置41は液晶ディスプレイ18の表示を制御する表示制御手段として機能する。これと共に、前記出力インターフェース47には、駆動回路50,51,52,53を夫々介して、糸調子調整用パルスモータ33,送り量調整用パルスモータ29,ミシンモータ13,針振り用パルスモータ15が接続され、制御装置41は、それらを制御して縫製動作等を実行するようになっている。
【0046】
そして、本実施形態では、後の作用説明(フローチャート説明)でも述べるように、制御装置41は、そのソフトウエア的構成(糸調子調整プログラムプログラムの実行)により、抽出手段、算出手段、判定手段、制御手段として機能し、加工布Wの縫目における、上糸NTと下糸BTとの張力バランスである糸調子を判定し、適切な糸調子(張力バランス)となるように、前記糸調子調整機構12による上糸NTの張力を自動調整する処理を実行する。尚、この糸調子調整プログラムは、記録媒体(例えば、光ディスク、磁気ディスク、カード型やスティック型の小型メモリ等)を介して外部から与えられるようにしても良い。
【0047】
具体的には、まず、第1及び第2のカメラ39及び40により、加工布Wの表面側及び裏面側の双方から撮影された縫目の画像データを夫々取込む画像取込みのルーチンが実行される。次に、取込まれた加工布Wの表裏両面双方の縫目の画像データから、画像処理により上糸NTと下糸BTとの交絡点Sに現れた反対側の糸の領域を抽出するルーチンが実行される。次いで、抽出された前記糸の領域の面積を算出するルーチンが実行される。本実施形態においては、この面積の算出の処理は、例えば、抽出された糸の領域内の画素数をカウントすることにより行われるようになっている。
【0048】
ここで、図6は、ミシン1によって加工布Wに形成された縫目の様子(断面図)を模式的に示しており、縫目は、加工布Wの表面(上面)側の上糸NTと、加工布の裏面(下面)側の下糸BTとを、交絡点Sで交絡させながら形成される。このとき、図7にも示すように、交絡点Sにおいては、加工布Wの表面(上面)側では、下糸BTが現れ(図7(a)参照)、加工布Wの裏面(下面)側では、上糸NTが現れるようになる(図7(b)参照)。尚、本実施形態では、上糸NTと下糸BTとの色が互いに相違している場合を具体例としており、図6、図7では、上糸NTと下糸BTとの色が異なることを表すために、便宜上、下糸BT側にハッチングを付して示すこととする。
【0049】
従って、交絡点Sに現れた反対側の糸とは、上糸NTによる縫目が形成される加工布Wの表面(上面)側については、下糸BTを意味しており、図7(a)に示すように、第1のカメラ39の加工布Wの表面側の撮影画像データから、交絡点Sに現れる下糸BTの領域が抽出され、面積Iが算出される。下糸BTによる縫目が形成される加工布Wの裏面(下面)側については、上糸NTを意味しており、図7(b)に示すように、第2のカメラ40の加工布Wの裏面側の撮影画像データから、交絡点Sに現れる上糸NTの領域が抽出され、面積Jが算出される。
【0050】
次に、上記算出のルーチンにおいて算出された面積I,Jに基づいて、糸調子を判定するルーチンが実行される。本実施形態では、この糸調子の判定は、表面側の交絡点Sに現れた下糸BTの面積Iと、裏面側の交絡点Sに現れた上糸NTの面積Jとを比較して、糸調子率K(K=J/I)を算出することにより行われる。面積Iと面積Jとが同等(適正範囲)ならば、適切な糸調子であると判定され、面積Iの方が大きい場合には、上糸調子(上糸NTの方の張力が大きい)と判定され、面積Jの方が大きい場合には、下糸調子(下糸BTの方の張力が大きい)と判定される。
【0051】
最後に、その判定結果(糸調子率K)に基づいて、糸調子調整機構12(糸調子調整用パルスモータ33)を制御して、適正な糸調子となるように上糸NTの糸調子を補正するルーチンが実行される。この補正は、予め記憶されている補正用データテーブル(図14)を参照して、求められた糸調子率Kに応じた補正量(パルス数)だけ、糸調子調整用パルスモータ33を駆動することにより行われる。このとき、糸調子率Kが適正範囲よりも小さいときには、上糸NTの張力を弱める方向に補正し、糸調子率Kが適正範囲よりも大きいときには、上糸NTの張力を強める方向に補正することは勿論である。
【0052】
次に、上記構成を備える本実施形態のミシンの本体1の作用について、図8から図14も参照して述べる。尚、本実施形態では、例えば、加工布Wに対する縫製動作の実行時に、常に、糸調子の判定及び糸調子調整機構12による上糸NTの張力の自動調整を行うものとしている。またここでは、例えば白色の加工布Wに対し、互いに色の異なる上糸NTと下糸BTとを用いて縫製を行う場合を例としており、より具体的には、上糸NTが、例えば青色とされ、下糸BTは例えば赤色とされる。
【0053】
図8のフローチャートは、上記した糸調子調整プログラムにより制御装置41が実行する糸調子判定及び糸調子の自動調整の処理の全体の流れを示している。図9のフローチャートは、図8のステップS3における糸調子率判定処理の流れを示しており、また、図10、図11、図12のフローチャートは、夫々、図9におけるステップS12、ステップS14、ステップS15の処理の更に詳細な内容を示している。そして、図13のフローチャートは、図8のステップS4における、糸調子調整用パルスモータ33の駆動処理の流れを示している。
【0054】
図8において、まずステップS1では、縫製動作中かどうか、つまりミシンモータ13の駆動により主軸が回転しているかどうかが判断される。縫製動作中である場合には(ステップS1にてYes)、次のステップS2にて、主軸角度検出器16の検出信号に基づいて、針下検出信号がある(縫針7が加工布Wに刺さる針下位置にある)かどうかが判断される。針下検出信号がある場合には(ステップS2にてYes)、送り歯駆動機構24による布送りがない状態(加工布Wが針板20上で停止しているタイミング)であると判断され、ステップS3に進む。ステップS3では、糸調子の判定(糸調子率Kの算出)の処理が実行される。この糸調子の判定処理は、図9に示す手順で行われる。
【0055】
ここで、本実施形態において用いられる糸調子判定の原理について予め述べておく。図6は、ミシン本体1によって加工布Wに形成された縫目の様子(断面図)を模式的に示している。ここで、縫目は、加工布Wの表面(上面)側の上糸NTと、加工布の裏面(下面)側の下糸BTとを、交絡点Sで交絡させながら形成される。このとき、上糸NTと下糸BTとの張力バランスが良好であれば、図6(a)に示すように、それらの交絡部が、加工布Wの厚み方向の中間部に来るようになる。これに対し、上糸NTの張力が適切値より大きい上糸調子の場合には、図6(b)に示すように、上糸NTと下糸BTとの交絡部が加工布Wの上面側に来るようになる。このとき、加工布Wの上面側から縫目を見ると、交絡点Sにおいて、反対側の糸である下糸BTが比較的大きな領域(面積)で現れるようになる。
【0056】
同様に、上糸NTの張力が適切値より小さい(下糸BT側の張力が相対的に大きい)下糸調子の場合には、図6(c)に示すように、上糸NTと下糸BTとの交絡部が加工布Wの下面側に来るようになる。このときには、加工布Wの上面側から縫目を見ると、交絡点Sにおいて、反対側の糸である下糸BTはほとんど現れることがなく、加工布Wの下面側から縫目を見ると、交絡点Sにおいて、反対側の糸である上糸NTが比較的大きな領域(面積)で現れるようになる。このように、加工布Wの表裏両面の交絡点Sにおける上糸NTと下糸BTとの見え方が、糸調子に応じて相違してくる点を利用して、糸調子の判定が可能となるのである。
【0057】
図9において、まずステップS11では、第1のカメラ39により、加工布Wの表面側の縫目の画像(図7(a)参照)が撮影され、その画像データ(縫目上面画像)が取込まれる。ステップS12では、縫目上面画像から、一つの交絡点Sに現れる下糸BTの領域を抽出し、その領域の面積I(ドット数)を算出する処理が実行される。図10のフローチャートは、上記ステップS12の処理の詳細を示している。
【0058】
この図10において、ステップS21では、取得した縫目上面画像のデータを、1ドット毎のRGB配列に変換する処理が行われる。ここでは、1ドット毎に、RGBの夫々について0〜255の範囲の値が付される。ステップS22では、下糸(赤色)ドット数カウンタIに、0がセットされる。次のステップS23では、1ドット毎に、そのドットが赤色かどうかの判定が行われる。この判定は、しきい値によってフィルタリングすることにより行われ、例えば、Rの値が100以上で且つ、B,Gの値が共に99以下のときに、赤色であると判断される。
【0059】
当該ドットが、赤色であると判断されたときには(ステップS23にてYes)、ステップS24に進み、下糸(赤色)ドット数カウンタIが1だけインクリメントされる。これに対し、上記ドットが赤色と判断されなかったときには(ステップS23にてNo)、そのままステップS25に進む。ステップS25では、全てのドットに関して赤色かどうかの判定が終了したかどうかが判断され、全てが終了していないときには(No)、ステップS23に戻る。全てのドットについての判定が終了した場合には(ステップS25にてYes)、この処理を終了し図9に戻る。この図10の処理により、表面側の交絡点Sに現れた下糸BTの領域の面積I(ドット数)が算出されるのである。
【0060】
図9に戻り、ステップS13では、第2のカメラ41により、加工布Wの裏面(下面)側の縫目の画像(図7(b)参照)が撮影され、その画像データ(縫目下面画像)が取込まれる。ステップS14では、縫目下面画像から、一つの交絡点Sに現れる上糸NTの領域を抽出し、その領域の面積J(ドット数)を算出する処理が、図11に示すように実行される。図11において、ステップS41では、取得した縫目下面画像のデータを、1ドット毎のRGB配列に変換する処理が行われる。ステップS42では、上糸(青色)ドット数カウンタJに、0がセットされる。次のステップS43では、1ドット毎に、そのドットが青色かどうかの判定が行われる。
【0061】
当該ドットが、青色であると判断されたときには(ステップS43にてYes)、ステップS44に進み、上糸(青色)ドット数カウンタJが1だけインクリメントされる。これに対し、上記ドットが青色と判断されなかったときには(ステップS43にてNo)、そのままステップS45に進む。ステップS45では、全てのドットに関して青色かどうかの判定が終了したかどうかが判断され、全てが終了していないときには(No)、ステップS43に戻る。全てのドットについての判定が終了した場合には(ステップS45にてYes)、この処理を終了し、図9に戻る。この図11の処理により、裏面側の交絡点Sに現れた上糸NTの領域の面積J(ドット数)が算出されるのである。
【0062】
図9に戻り、次のステップS15では、上記のように算出された下糸ドット数I及び上糸ドット数Jから、糸調子の判定(糸調子率Kを算出)する処理が実行される。図12は、その処理の具体的な手順を示している。図12において、まずステップS51では、上糸ドット数Jと下糸ドット数Iとの比率である糸調子率Kの算出が行われる。次のステップS52では、糸調子率Kの値が、0.95以上、1.05以下の範囲にあるかどうかが、つまり上糸ドット数Jと下糸ドット数Iとがほぼ均等かどうかが判断される。糸調子率Kの値がその範囲内であれば(ステップS52にてYes)、上記した図6(a)のように、上糸NTと下糸BTとの張力バランスが良好であり、適正な糸調子であると判定される(ステップS53)。
【0063】
これに対し、糸調子率Kの値が、0.95以上、1.05以下の範囲から外れている場合には(ステップS52にてNo)、ステップS54にて、糸調子率Kの値が0.95よりも小さいかどうかが判断される。糸調子率Kの値が0.95よりも小さい場合には(Yes)、下糸ドット数Iの値が大きい、つまり、図6(b)に示した上糸NTの張力が大きい上糸調子であると判定される(ステップS55)。糸調子率Kの値が1.05を越えていた場合には(ステップS54にてNo)、下糸ドット数Iの値が小さい、つまり、図6(c)に示した下糸BTの張力が相対的に大きい下糸調子であると判定される(ステップS56)。
【0064】
このようにして図9に示す糸調子の判定の処理(図8のステップS3の処理)が終了すると、図8に戻って、次のステップS4では、糸調子調整機構12の糸調子調整用パルスモータ33の位置変更処理(糸調子の調整の処理)が行われる。この処理の詳細は、図13に示すように、まずステップS61にて、補正用データテーブル(図14)を参照して、糸調子率Kに応じた糸調子調整用パルスモータ33の移動量(移動パルス数)が取得される。次いで、ステップS62にて、取得した移動量分(パルス数)だけ糸調子調整用パルスモータ33を駆動することが行われる。
【0065】
この場合、図14に示すように、糸調子率Kが、0.95以上、1.05以下の範囲にある場合には、適切な糸調子であるため、補正量(パルス数)は0となる。糸調子率Kが、0.94よりも小さいときには、補正量(パルス数)がマイナス方向(上糸NTの張力を弱める方向)とされ、糸調子率Kが小さいほどマイナスの補正量(パルス数)が大きくなる。糸調子率Kが、1.06よりも大きいときには、補正量(パルス数)がプラス方向(上糸NTの張力を強める方向)とされ、糸調子率Kが大きいほどプラスの補正量(パルス数)が大きくなる。
【0066】
上記のように糸調子の調整(補正)が行なわれることにより、適正範囲から外れていた場合には、糸調子調整機構12による上糸NTの糸調子が適正範囲となる方向に補正される。この図14の処理(図8のステップS4の処理)が終了すると、図8のステップS5にて、送り歯駆動機構24による加工布Wの搬送が行われる。この後、ステップS1に戻って、糸調子の判定の処理及び糸調子の調整の処理が繰返され、適切な糸調子にて縫製作業が行われるようになるのである。
【0067】
このような本実施形態によれば、上糸NTと下糸BTとの張力のバランスに応じて、交絡点Sに現れる反対側の糸の領域の面積が変動することを利用し、ミシン本体1に設けられた第1及び第2のカメラ39及び40によって加工布Wの縫目の画像を撮影し、交絡点Sに現れた反対側の糸の領域を抽出し、その糸の領域の面積を算出することに基づいて、糸調子を十分な確かさで判定することができるようになった。この場合、人の主観によるものではなく、縫目を撮影した画像データに基づいて糸の領域ひいては面積を算出し、その面積に基づいて糸調子の判定を自動で行うものであるから、反射式の検出器で糸の盛上り高さ(交絡点の深さ)を検出するものと異なり、外乱光や加工布Wの色、材質などの影響を受けにくいものとなる。
【0068】
従って、糸調子の判定及び調整を自動で行うことが可能なものにあって、糸調子の判定の正確性を十分に高いものとすることができ、糸調子の調整を良好に行うことができるという優れた効果を得ることができる。特に本実施形態では、2個のカメラ39、40により加工布Wの表面側及び裏面側の双方の縫目を撮影し、表裏両面の交絡点Sに現れる反対側の糸の領域に関し画素数I,Jをカウントしそれらを比較することにより糸調子を判定するようにしたので、比較的簡単な処理で、高精度に糸調子を判定することができる。さらに、糸調子調整機構12の糸調子パルスモータ33に対する簡単な制御で、糸調子の調整を良好に行うことができるといった利点も得ることができる。
【0069】
図15は、本発明の他の実施形態を示すものであり、液晶ディスプレイ18の画面表示の一例を示している。この実施形態では、上記した糸調子の判定処理時(図8のステップS3)に、表示装置としての液晶ディスプレイ18に、糸調子判定結果を表示すると共に、前記カメラ39,40による撮影画像を表示するようにしている。この液晶ディスプレイ18の表示は、表示制御手段としての制御装置41によって制御される。
【0070】
この液晶ディスプレイ18の画面においては、画面の一番右側の欄には、糸調子の判定結果である、糸調子率Kの値がパーセント表示(図の例では「120%」)されていると共に、上段に下糸ドット数I、下段に上糸ドット数J等も併せて表示される。また、この実施形態では画面の左側の欄に、第1のカメラ39及び第2のカメラ40の撮影画像が上下段に表示されると共に、中央の欄に、それら撮影画像から抽出された交絡点Sにおける下糸BT及び上糸NTの領域が上下段に表示されている。これにより、糸調子の判定が行われていることや、その判定結果をユーザに対し判りやすく表示することができる。
【0071】
尚、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、様々な拡張、変更が可能である。
例えば、上記各実施形態では、縫目の1箇所の交絡点Sについて、反対側の糸の領域の面積を算出して糸調子の判定を行うようにしたが、撮影手段の1回の撮影によって複数の交絡点Sを撮影し、一つの画像データ中に含まれたそれら複数個の交絡点Sに現れた糸の各領域の面積に基づいて、糸調子を判定するように構成することができる。或いは、撮影手段の複数回の撮影による複数の画像データの各交絡点Sに現れた糸の各領域の面積に基づいて、糸調子を判定するように構成しても良い。これらによれば、縫製結果に現れる糸調子のばらつきによる影響を低減でき、糸調子の判定の精度を一層高めることができる。尚、この場合、面積の平均を用いるのではなく、中央値(メジアン)を用いる方が好ましい。
【0072】
また、上記した各実施形態では、上糸NTと下糸BTとの色を変えて、糸の色によって糸の領域(面積)を抽出する場合を例として説明したが、モノクロの画像データを用いて、各ドット毎の明暗(濃淡)値を用いて加工布W中の反対側の糸の領域を抽出するようにしても良い。その際の画像処理の手法としても、エッジ検出をおこなって面積を求めるようにすることもできる。これによれば、少なくとも上糸NT及び下糸BTと加工布Wとのコントラストが異なれば、同様に糸調子の判定及び自動調整が可能となり、また、より安価な撮像手段を採用することもできる。
【0073】
上記実施形態では、加工布Wの表裏両面側から縫目を撮影して両者の面積の比較に基づいて張力バランスを判定するようにしたが、加工布Wの表裏のうち一方側からのみ撮影するように構成しても良い。この場合、基準となる面積の値(しきい値)を予め求めておき、その値をROM43に記憶させておく。そして、算出された面積と基準となる面積とを比較することにより、糸調子を判定する。この場合、撮影手段(カメラ)が1個で済み、また判定のために要する処理も簡単に済むことは勿論である。また、撮影手段(カメラ)は、ミシン本体1の外面部に外付けする構成であっても良い。
【0074】
上記実施形態では、ユーザによるミシン本体1の実使用時に糸調子の判定及び自動調整を行う場合を例としたが、ミシンの生産時(工場出荷時)やメンテナンス時においても、同様における糸調子の自動調整を行うことができることは勿論である。その他、ミシン本体の全体の構成や、糸調子調整機構の構成、表示装置に表示する画面構成についても、種々の変更が可能である等、本発明は要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得るものである。
【符号の説明】
【0075】
1 ミシン本体
2 ミシンベッド
4 アーム部
5 頭部
6 針棒
7 縫針
11 糸案内溝
12 糸調子調整機構(糸調子調整手段)
18 液晶ディスプレイ(表示装置)
21 送り歯
23 回転釜機構
24 送り歯駆動機構
31 固定糸調子皿
32 可動糸調子皿
33 糸調子調整用パルスモータ(駆動手段)
35 調整板
36 圧縮コイルばね
39 第1のカメラ(撮影手段)
40 第2のカメラ(撮影手段)
41 制御装置(抽出手段、算出手段、判定手段、制御手段、表示制御手段)
W 加工布
S 交絡点
NT 上糸
BT 下糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工布を移送する送り手段と、前記送り手段により前記加工布を移送して上糸と下糸とを交絡させながら縫目を形成する縫目形成手段と、前記上糸と前記下糸とに付与される張力の少なくとも一方の張力を調整する糸調子調整手段と、を備えたミシンにおいて、
前記加工布に形成された縫目を撮影可能な位置に配置され、前記加工布の表裏両面側の少なくとも一方から前記縫目を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段により撮影された前記縫目の画像データから前記上糸と前記下糸との交絡点に現れた反対側の糸の領域を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記糸の領域の面積を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された面積に基づいて前記上糸と前記下糸との張力バランスである糸調子を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果に基づいて、前記縫目形成手段により形成される縫目の糸調子を補正するように前記糸調子調整手段を制御する制御手段と、
を具備することを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記撮影手段は、前記加工布の縫目を表面側及び裏面側の双方に関して撮影し、
前記算出手段は、前記抽出手段により抽出された前記糸の領域内の画素数に基づいて面積を夫々算出し、
前記判定手段は、前記算出手段により算出された前記面積を比較することにより、前記糸調子を判定することを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記判定手段は、一つの画像データ中に含まれた複数個の交絡点に現れた糸の各領域の面積に基づいて、前記糸調子を判定することを特徴とする請求項1又は2記載のミシン。
【請求項4】
前記判定手段は、前記撮影手段の複数回の撮影による複数の画像データの交絡点に現れた糸の各領域の面積に基づいて、前記糸調子を判定することを特徴とする請求項1又は2記載のミシン。
【請求項5】
各種の縫製情報を表示可能な表示装置と、
前記表示装置に、前記判定手段の判定結果を表示すると共に、前記撮影手段による撮影画像を表示する表示制御手段と、
を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のミシン。
【請求項6】
前記糸調子調整手段は、前記上糸に張力を付与する張力付与手段と、前記張力を調整する調整機構と、前記調整機構を駆動する駆動手段とを備え、
前記制御手段は、前記判定手段による判定結果に応じて前記駆動手段を制御することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のミシン。
【請求項7】
前記請求項1から6のいずれかに記載のミシンの各処理手段として、ミシンに内蔵されたコンピュータを機能させるための糸調子調整プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−184033(P2010−184033A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29942(P2009−29942)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】