説明

ミシン

【課題】刺繍枠に保持された加工布に刺繍縫製可能なミシンにおいて、刺繍縫いの実行中に糸切れが発生した場合に、スムーズに針落ち点の調整を行う機能を提供する。
【解決手段】糸切れが発生して縫製が停止された場合に、針元近傍の画像を撮像する。そして、撮像した針元近傍の画像と、針落ち点を1針進めるための一針前進キー122と、針落ち点を1針戻すための一針後退キー123とを同時に表示させたステップF/B画面120を液晶ディスプレイ15に表示する。ユーザはこのステップF/B画面により、針元近傍の画像を確認しながら、針落ち点の調整を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに関し、詳細には、糸切れが発生した場合に針元近傍を撮像して、撮像された画面を確認しながら縫針の針落ち点を調整することが可能なミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、縫針の針落ち点近傍、即ち、針元近傍を撮像装置で撮像する刺繍縫製可能なミシンが知られている。このミシンは、ディスプレイを備え、撮像装置が撮像した針元近傍の画像をディスプレイに表示する場合と、その他の通常画面をディスプレイに表示する場合とを切り替えることができる。この画面の切り替えは、画像撮像始動釦が操作されることにより行われる。通常画面が表示されている場合に、画像撮像始動釦が押されると、撮像装置が針元近傍を撮像する。そして、撮像された画像は、ディスプレイに表示される。このとき、撮像された画像と、針落ち点を示す表示とが、重ね合わされてディスプレイに表示される。これにより、作業者は、針元近傍に顔を近づけることなく針落ち点や縫製状態を確認することができる。そして、撮像された画像が表示されている状態で、画像撮像始動釦が押された場合には、再び通常画面が表示される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来、糸切れが発生した場合に、自動でミシン頭部の駆動を停止する多頭形刺繍ミシンが知られている。この多頭形刺繍ミシンは、糸切れセンサにより糸切れを検出すると、制御装置によりミシン頭部の駆動を停止する(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、従来、刺繍枠を1針、又は複数針分後退又は前進させる為の操作キーを表示する刺繍縫製可能なミシンが知られている。このミシンは、糸切れなどのトラブルを検出して刺繍縫いを中断した場合に、ヘルプキーが操作されると、「1針」「10針」「100針」の針数入力キーと、「前進」「後退」の表示とを、タッチパネル式のディスプレイに表示する。そして、作業者は、針数入力キーを操作することで、所望の針数だけ針落ち点を前進又は後退させることができる。これにより、刺繍模様の所望の位置から刺繍を再開することができる(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−71287
【特許文献2】特開平6−101156
【特許文献3】特開平5−137864
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来のミシンにおいて、糸切れが発生した場合、ミシン頭部の駆動が停止されるまでの間に縫製が進行する。つまり、加工布に縫目が形成されないまま、針落ち点が前進する。このため、作業者が糸を掛け直して縫製を再開する場合、針落ち点を糸切れが発生した所まで戻さなくてはならない。
【0007】
しかしながら、上記従来のミシンで針落ち点を戻す作業を行う場合、作業者は、針元を目視で確認しつつ、ディスプレイに表示された操作キーを操作して、糸切れが発生した所まで針落ち点を戻す操作を行っていた。つまり、針元とディスプレイとに視線を何度も移動させる必要があった。このため、糸切れが発生してから、針落ち点を調整する作業をスムーズに行えないという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、刺繍縫いの実行中に糸切れが発生した場合に、スムーズに針落ち点の調整を行うことができるミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明のミシンは、画像と各種の刺繍情報とを表示可能な表示装置を備え、刺繍枠に保持された加工布に刺繍縫製可能なミシンであって、縫製中の糸切れの発生を検出する検出手段と、少なくとも縫針の針落ち点近傍を撮像可能な撮像手段と、前記検出手段が糸切れの発生を検出した場合に、前記撮像手段により撮像された画像と、前記刺繍枠を1針又は複数針分後退又は前進させるための操作キーとを前記表示装置に表示させる表示制御手段と、前記操作キーが操作されることにより指定された指定針数に基づいて、前記刺繍枠を指定針数分後退又は前進させる縫製制御手段とを備えている。
【0010】
また、請求項2に係る発明のミシンは、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記縫製制御手段が前記刺繍枠を1針後退又は前進させる毎に、前記撮像手段は縫針の針落ち点近傍を撮像し、前記表示制御手段は、前記撮像手段が撮像した画像を前記操作キーと共に前記表示装置に表示させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明のミシンによれば、糸切れが発生した場合に、撮像手段により縫針の針落ち点近傍が撮像される。そして、前記撮像手段により撮像された画像と、刺繍枠を1針又は複数針分後退又は前進させるための操作キーとが、表示制御手段により画像表示装置に表示される。このため、前記画像表示装置の画面に表示された針落ち点近傍の画像を確認しながら、前記操作キーにより刺繍枠を複数針分後退又は前進させることができる。このため、針落ち点を調整する作業をスムーズに行うことができる。
【0012】
請求項2に係る発明のミシンによれば、前記刺繍枠を1針後退又は前進させる毎に、前記撮像手段は縫針の針落ち点近傍を撮像し、前記表示制御手段は、前記撮像手段が撮像した画像を前記操作キーと共に前記表示装置に表示させる。このため、針落ち点が移動する毎に、針落ち点近傍の画像を確認することができるので、請求項1に記載の発明の効果に加え、さらにスムーズに針落ち点を調整する作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】刺繍枠34を備えるミシン1の斜視図である。
【図2】針棒6、縫針7、押え棒45及び押え足47の近傍を示す要部左側面図である。
【図3】糸切れセンサ60の後ろ斜め上からの斜視図である。
【図4】フォトインタラプタ65によりシャッター64が検出されない状態になった場合の糸切れセンサ60の縦断面図である。
【図5】フォトインタラプタ65によりシャッター64が検出された状態になった場合の糸切れセンサ60の縦断面図である。
【図6】ミシン1の電気的構成図である。
【図7】ROM72に設けられている記憶エリアを示す模式図である。
【図8】RAM73に設けられている記憶エリアを示す模式図である。
【図9】刺繍縫製処理のフローチャートである。
【図10】ステップフォワード/バック処理のフローチャートである。
【図11】加工布100上の例示刺繍模様110を表した図である。
【図12】図11に示す例示刺繍模様110を縫製するための例示模様データ111を表したデータテーブルである。
【図13】ステップF/B画面120を表した図である。
【図14】ステップF/B画面120を表した図である。
【図15】ステップF/B画面120を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、ミシン1の構成について、図1及び図2を参照して説明する。なお、図1において、紙面の手前側をミシン1の前方、紙面の奥行き側をミシン1の後方とし、紙面の上下方向をミシン1の左右方向とする。また、紙面の左右方向をミシン1の上下方向とする。
【0015】
図1に示すように、ミシン1は、左右方向に長いミシンベッド11と、ミシンベッド11の右端部から上方へ立設された脚柱部12と、脚柱部12の上端から図1における左方へ延びるアーム部13と、アーム部13の左先端部に設けられた頭部14とを有する。ミシンベッド11には、ミシンベッド11上面に配設された針板(図示せず)と、この針板の下側に設けられ、縫製を施そうとする加工布を所定の送り量で移送するための送り歯(図示せず)と、この送り歯を駆動する布送り機構(図示せず)と、送り量を調整する送り量調整用パルスモータ(図示せず)と、釜機構(図示せず)とが設けられている。
【0016】
ミシンベッド11の上側には、加工布100を保持する刺繍枠34が配置されている。刺繍枠34の内側の領域は、刺繍模様の縫目が形成可能な刺繍領域となっている。この刺繍枠34を移送する刺繍枠移送装置92は、ミシンベッド11に対して着脱可能に装着されている。刺繍枠移送装置92の上部には、前後方向に伸長するキャリッジカバー35が設けられる。このキャリッジカバー35の内部には、刺繍枠34を着脱可能に装着するキャリッジ(図示せず)をY方向(前後方向)に移送するY軸移送機構(図示せず)が設けられている。前記キャリッジの右方には、刺繍枠34を装着する装着部(図示せず)が設けられ、この装着部は、キャリッジカバー35の右側面よりも右方に突出するように配設されている。この装着部に、刺繍枠34の左側に設けられる取り付け部(図示せず)が装着される。また、キャリッジ、Y軸移送機構、及びキャリッジカバー35は、刺繍枠移送装置92の本体内に設けられるX軸移送機構(図示せず)により、X方向(左右方向)に移送するように駆動される。これにより、刺繍枠34が、X方向に移送するように駆動される。そして、前記X軸移送機構とY軸移送機構は、夫々、X軸モータ86(図6参照)及びY軸モータ87(図6参照)により駆動される。このように、刺繍枠34をX方向及びY方向に移送させながら針棒6(図2参照)や釜機構(図示せず)を駆動させることにより、刺繍枠34に保持された加工布100に対して所定の縫目や所定の刺繍模様等を形成する模様形成動作が実行される。また、刺繍模様ではない通常模様の縫製を行う際には、この刺繍枠移送装置92をミシンベッド11から取外して、送り歯により加工布を移動させながら通常縫製を行う。
【0017】
脚柱部12の前面には、縦長の長方形形状を有する液晶ディスプレイ15が設けられている。この液晶ディスプレイ15には、種々の模様を設定・編集したり、縫製作業を制御したりするのに必要な各種のコマンドを実行させるコマンド名及びイラスト及び操作キーが表示される他、縫製に関わる各種設定値や各種のメッセージや、後述するステップF/B画面120等が表示される。
【0018】
この液晶ディスプレイ15の前面には、液晶ディスプレイ15に表示される、複数の刺繍模様や、各種の機能を実行させる機能名や、各種設定を行う操作キー等の表示位置に対応するように、タッチパネル26が設けられている。このため、これらの液晶ディスプレイ15に表示された画面の模様表示部や各種キーに対応するタッチパネル26を、指や専用のタッチペンを用いて押圧操作することにより、縫製に供する模様の選択や機能の指示や数値設定等を実行することができる(以下、この操作を「パネル操作」と言う。)。
【0019】
次に、アーム部13の構成について説明する。アーム部13には、その上部側を開閉する開閉カバー16が取り付けられている。この開閉カバー16はアーム部13の長手方向に設けられ、アーム部13の上後端部に左右方向向きの軸回りに開閉可能に軸支されている。この開閉カバー16を開けた状態の、アーム部13の上部中央近傍には、ミシン1に上糸17(図3参照)を供給する糸駒20を収容するための凹部である糸収容部18が設けられている。この糸収容部18の脚柱部12側の内壁面には、頭部14に向かって突出し、糸駒20を装着するための糸立棒19が配設され、糸駒20は、糸駒20が備える挿入孔(図示せず)が糸立棒19に挿入されて装着される。この糸駒20から延びる上糸17は、頭部14に設けられた糸張力を調整する糸調子器(図示せず)、糸取りバネ61の糸掛部613(図3〜図5参照、後述)、上下に往復駆動して上糸17を引き上げる天秤27等を経由して、針棒6に装着された縫針7(図2参照)に供給される。また、針棒6は、頭部14内に設けられる針棒上下動機構(図示せず)により、上下動するように駆動される。この針棒上下動機構は、ミシンモータ85(図6参照)により回転駆動される主軸(図示せず)により駆動される。
【0020】
図1に示すように、このアーム部13の前面下部には、ミシン1の運転を開始する、即ち、縫製開始を指示する縫製開始スイッチ21、加工布を通常とは逆方向である後方から前方へ送るための返し縫いスイッチ22、針棒6(図2参照)の停止位置を上下に切り換える針上下スイッチ23、押え足47(図2参照)を昇降させる動作を指示する押え足昇降スイッチ24等が設けられている。さらに、アーム部13の前面下部の中央には、針棒6(図2参照)を上下方向に駆動させる際の速度、即ち主軸の回転速度を調整する速度調整摘み32が設けられている。
【0021】
なお、ミシン1には、他にも、押え足47(図2参照)が上昇位置にあることを検出する押え足センサ(図示せず)、糸絡み等によりミシンモータ85(図6参照)がロックしたことを検出する過負荷センサ(図示せず)などの各種センサが備えられており、各種エラーを検出することができる。
【0022】
次に、図2を参照して、針棒6、縫針7、押え棒45及び押え足47の近傍について説明する。頭部14の下側には、針棒6と押え棒45とが設けられている。これらのうち、針棒6の下端部には縫針7が固定されている。また、押え棒45の下端部には加工布を押えるための押え足47が固定されている。また、イメージセンサ50が、縫針7の針落ち点を含む針元近傍の位置を撮像できるように取り付けられている。そして、押え足47の下端部47aは、押え足47の下側の加工布や縫目が撮像可能なように透明樹脂で形成されている。なお、針落ち点とは、縫針7が針棒上下動機構により下方に移動され、加工布に刺さる点を指している。イメージセンサ50は、CMOSセンサ及び制御回路を備えており、CMOSセンサで画像を撮像する。本実施の形態では、図2に示すように、ミシン1の図示しないフレームに支持フレーム51が取り付けられており、その支持フレーム51にイメージセンサ50が固定されている。
【0023】
次に、図3〜図5を参照して、糸取りバネ61及び糸切れセンサ60について説明する。但し、これらは周知の構成(例えば特開2000−386号公報に記載)であるので、簡単に説明する。図3における紙面の右斜め上側を前方、左斜め下側を後方、右斜め下側を左方、左斜め上側を右方とする。また、紙面の上側を上方、下側を下方とする。ミシン1の頭部14の内部には、天秤27(図1参照)の上下揺動等のための隔壁(図示略)が形成されている。その隔壁の下部に連なって、図3〜図5に示す鉛直壁部28が一体形成されている。図3〜図5に示すように、糸取りバネ61は、捩じりバネ部611と、この捩じりバネ部611から径方向外側へ屈曲させたレバー部612と、そのレバー部612の先端部分を屈曲させて形成された糸掛部613とを有している。糸掛部613は、鉛直壁部28の左側面に配置され、天秤27へ至る上糸17を引っ掛けて天秤27と略同期して軸心aを中心として上下に揺動する。捩じりバネ部611は、鉛直壁部28の左側に配置され糸掛部613を下方揺動側へ回動付勢する。糸切れセンサ60は、糸掛部613と一体的に揺動する揺動部材62と、鉛直壁部28の右側において揺動部材62から延出するように設けられた被検出部であるシャッター64と、鉛直壁部28の右側に設けられシャッター64を検出可能な検出センサであるフォトインタラプタ65とで構成されている。また、揺動部材62及びシャッター64は、軸心aを中心として糸掛部613と一体的に揺動する。また、フォトインタラプタ65は、上下に発光部と受光部とを有している。シャッター64がフォトインタラプタ65の発光部と受光部間を遮蔽すると、シャッター64が検出された状態になる。
【0024】
また、図4及び図5に示すように、鉛直壁部28の左面部には、レバー部612の基端部分を係止し糸掛部613の下方揺動を規制する第一揺動規制部28aと、糸掛部613を係止し糸掛部613の上方揺動を規制する第二揺動規制部28bとが左方突出状に一体形成されている。従って、糸掛部613は、鉛直壁部28の略左面に沿って上下に揺動するが、その揺動範囲は、第一揺動規制部28aと第二揺動規制部28bとにより規制される。
【0025】
ミシン1の縫製作動中、上糸17が切れていない場合には、天秤27が上方へ揺動すると、天秤27へ至る上糸17が上方へ引っ張られて上糸17にテンションが付与され、その上糸17が引っ掛けられた糸掛部613が捩じりバネ部611の回動付勢力に抗して上方へ揺動し、第二揺動規制部28bに当接する。このとき、揺動部材62及びシャッター64は糸掛部613と一体的に揺動する。このため、糸掛部613が上方へ揺動した場合、図4に示すように、シャッター64がフォトインタラプタ65の発光部と受光部間から離れ、フォトインタラプタ65によりシャッター64が検出されない状態になる。
【0026】
また、天秤27が下方へ揺動すると、天秤27へ至る上糸17が弛み、糸掛部613は捩じりバネ部611の回動付勢力により下方へ揺動する。このとき、揺動部材62及びシャッター64は糸掛部613と一体的に揺動する。これにより図5に示すように、シャッター64がフォトインタラプタ65の発光部と受光部間を遮蔽し、フォトインタラプタ65によりシャッター64が検出された状態になる。
【0027】
このように、上糸17が切れていない場合、つまり縫製が正常に行われている場合には、フォトインタラプタ65により所定時間毎(1針毎)にシャッター64の検出と非検出とが繰返され、これにより、糸切れが発生していないと判断される。
【0028】
一方、上糸17が切れている場合には、天秤27が上方へ揺動しても、天秤27へ至る上糸17にテンションが付与されないため、糸掛部613は上方へは揺動しない。このため、図5に示すように、糸掛部613は捩じりバネ部611の回動付勢力により、そのレバー部612の基端部分が第一揺動規制部28aに当接し、シャッター64がフォトインタラプタ65の発光部と受光部を遮蔽している位置で停止している状態となる。これにより、一定時間(つまり、複数針分)連続的にフォトインタラプタ65によりシャッター64が検出された状態になり、糸切れが発生したと判断される。
【0029】
次に、図6を参照して、ミシン1の電気的構成について説明する。図6に示すように、このミシン1の装置本体70は、CPU71、ROM72、RAM73、入力インターフェイス74、出力インターフェイス75等で構成され、これらは、バス76で相互に接続されている。そして、入力インターフェイス74には、タッチパネル26、糸切れセンサ60、イメージセンサ50、縫製開始スイッチ21が接続されている。なお、返し縫いスイッチ22、針上下スイッチ23、押え足昇降スイッチ24、速度調整摘み32、押え足センサ、過負荷センサ等は図示を省略する。
【0030】
一方、出力インターフェイス75には、ミシンモータ85を駆動させる駆動回路81、液晶ディスプレイ15を駆動させる駆動回路82、刺繍枠34を移送させるX軸モータ86及びY軸モータ87を夫々駆動する駆動回路83,84が電気的に接続されている。
なお、送り量調整用パルスモータとその駆動回路等は図示を省略する。
【0031】
CPU71は、ミシン1の主制御を司り、読み出し専用の記憶素子であるROM72のプログラムデータ記憶エリア721(図7参照)に記憶された制御プログラムに従って、各種演算及び処理を実行するものである。RAM73は、任意に読み書き可能な記憶素子であり、CPU71が演算処理した演算結果を収容する各種記憶領域が必要に応じて設けられている。縫製開始スイッチ21はボタン式スイッチである。
【0032】
次に、図7を参照して、ROM72に設けられている記憶エリアについて説明する。図7に示すように、ROM72には、プログラムデータ記憶エリア721、模様データ記憶エリア722、及びその他の記憶エリアが設けられている。
【0033】
これらのエリアのうち、プログラムデータ記憶エリア721には、CPU71(図6参照)が刺繍模様の縫製処理等(図9及び図10参照)を実行するために必要なプログラムデータが記憶されている。また、模様データ記憶エリア722には、複数の刺繍模様の各々の模様データが模様の種類ごとに分類されて格納されている。各刺繍模様の模様データは、図12に示す例示模様データ111のように、針落ち位置を移動させる順番を指示する縫製カウンタNと、各縫製カウンタNの値に割り当てられて、針落ち点の座標を指示する座標データ(X,Y)とからなる。図12に示す例示模様データ111については、後述する。
【0034】
次に、図8を参照して、RAM73に設けられている記憶エリアについて説明する。図8に示すように、RAM73には、選択模様データ記憶エリア731、撮像情報記憶エリア732、縫製カウンタ記憶エリア733、縫製カウンタ終了値記憶エリア734及びその他の記憶エリアが設けられている。
【0035】
これらのエリアうち、選択模様データ記憶エリア731には、ROM72の模様データ記憶エリア722(図7参照)に記憶されている模様データのうち、ユーザによるパネル操作により選択された刺繍模様の模様データ(例えば、図12の例示模様データ111参照、後述)が読み出され、記憶される。また、撮像情報記憶エリア732には、イメージセンサ50による撮像の結果得られる針元近傍の画像の情報が記憶される。また、縫製カウンタ記憶エリア733には、縫製カウンタNの値が記憶される。また、各模様データ(例えば、図12の例示模様データ111参照、後述)における縫製カウンタNの最後の値、即ち、各刺繍模様の最後の針落ち点における縫製カウンタNの値を「縫製カウンタ終了値M」と呼ぶ。縫製カウンタ終了値記憶エリア734には、この縫製カウンタ終了値Mが記憶される。
【0036】
次に、具体例を示しながら、図9及び図10に示すフローチャートを参照して、本実施の形態のミシン1の動作を説明する。
【0037】
具体例として、図11に示すような「ABC」の3文字からなる刺繍模様を縫製する場合について述べる。縫製を開始してから、「ABC」のうち、「A」の刺繍縫製は終了し、「B」の刺繍縫製の途中で糸切れが発生したとする。そして、糸切れが発生した後、針落ち点の調整を行う。このとき針落ち点を15針戻した後、2針進めてから、縫製を再開したとする。
【0038】
図9に示すように、本実施の形態の刺繍縫製処理では、まず初期処理が行われる(S1)。S1の初期処理では、ROM72、RAM73、液晶ディスプレイ15等の各構成部品の初期化が行われる。次に、縫製カウンタNが「0」に設定され、RAM73の縫製カウンタ記憶エリア733(図8参照)に記憶される(S2)。
【0039】
次に、刺繍模様選択処理が行われる(S3)。S3の刺繍模様選択処理では、まず、液晶ディスプレイ15上に複数の刺繍模様が表示される。この処理では、CPU71は、ROM72の模様データ記憶エリア722(図7参照)に記憶されている複数の刺繍模様を読み出し、駆動回路82を制御して液晶ディスプレイ15に表示させる(S3)。ユーザによる模様の選択は、液晶ディスプレイ15に表示された複数の刺繍模様のうち、所望の刺繍模様が、パネル操作により選択されることにより行われる。どの刺繍模様がユーザにより選択されたかの情報は、タッチパネル26(図6参照)により検出され、CPU71に認識される(S3)。なお、図示、及び説明は省略するが、S3における刺繍模様選択処理を行う画面から、他のモードに移行したり、ミシン1の使用を終了したりすることができる。
【0040】
具体例の場合では、複数の刺繍模様の中から、ユーザにより、図11に示すような「ABC」の3文字で構成された刺繍模様が選択されたとする(S3)。図11については、後述する。
【0041】
刺繍模様が選択されたら(S3)、続いて、縫製開始位置の設定、刺繍模様の大きさの設定、刺繍模様の角度の設定等が行われる(S4)。S4の処理では、CPU71により、刺繍縫製をする位置を設定するための位置調整キー(図示せず)、刺繍模様の大きさを設定するための大きさ調整キー(図示せず)、刺繍模様の角度を調整するための回転キー(図示せず)などが液晶ディスプレイ15に表示される。また、これらのキーにより調整された調整後の刺繍模様が同時に表示される。さらに、刺繍位置、刺繍模様の大きさ、刺繍模様の角度等を調整した後に、縫製する刺繍模様を決定するための模様決定キー(図示せず)が同時に表示される。
【0042】
ユーザはこれらのキーをパネル操作により押下して、任意に縫製開始位置の設定、刺繍模様の大きさの設定、刺繍模様の角度の設定等を行うことができる。ユーザにより押下されたキーは、タッチパネル26により検出され、CPU71に認識される。位置調整キーが押下された場合には、CPU71により、タッチパネル26の検出結果に基づいて、液晶ディスプレイ15に表示された刺繍模様の位置が移動される。ユーザはこの画面を確認しながら、加工布100上の刺繍縫製を行う位置を設定する。また、大きさ調整キー及び角度調整キーが押下された場合には、CPU71により、タッチパネル26の検出結果に基づいて、刺繍模様の大きさ及び角度が調整され、調整後の刺繍模様が液晶ディスプレイ15に表示される。そして、ユーザにより模様決定キーが押下されると、ROM72の模様データ記憶エリア722(図7参照)から読み出された模様データ(デフォルトの模様データ)が、上記調整処理後の刺繍模様を縫製するために必要な模様データ(例えば、図12の例示模様データ111を参照。)として変換されて、RAM73の選択模様データ記憶エリア731(図8参照)に記憶される。そして、刺繍縫製の最後の針落ち点における縫製カウンタNの値である縫製カウンタ終了値Mが設定され、縫製カウンタ終了値記憶エリア734に記憶される。以上により、S4の処理では加工布100に縫製される刺繍模様が確定される。
【0043】
具体例の場合では、S3の処理で選択された「ABC」の3文字で構成された刺繍模様が、図11に示すように、角度が45度傾けられ、刺繍枠34の中央よりやや右後部(図11における右上部)に刺繍縫製が行われるように調整されたとする(以下、この調整後の刺繍模様を例示刺繍模様110という。)(S4)。そして、ユーザのパネル操作により模様決定キーが押下されると、ROM72の模様データ記憶エリア722に記憶されている「ABC」の3文字で構成された刺繍模様の模様データ(デフォルトの模様データ)が読み出される。そして、上記調整処理後の例示刺繍模様110を縫製するために必要な模様データである例示模様データ111(図12参照)に変換されて、RAM73の選択模様データ記憶エリア731に記憶される(S4)。また、図12の例示模様データ111における刺繍縫製の最後の針落ち点の縫製カウンタNの値である「1500」が、縫製カウンタ終了値Mとして設定され、RAM73の縫製カウンタ終了値記憶エリア734(図8参照)に記憶される(S4)。
【0044】
ここで、図12に示す例示模様データ111について説明する。例示模様データ111は、例示刺繍模様110を刺繍縫製するために使用される模様データの一例である。図12に示すように、例示模様データ111は、針落ち点を移動させる順番を指示する縫製カウンタNと、各縫製カウンタNの値に割り当てられて、針落ち点の座標を指示する座標データ(X,Y)とからなる。なお、座標データ(X,Y)は、実際には、具体的な座標位置を示したデータであるが、ここでは、簡略化して「座標データ(X,Y)」と表している。また、座標データ(X,Y)の「X」は、図11における刺繍枠34の左右方向における針落ち点の位置を表し、「Y」は、図11における刺繍枠34の前後方向における針落ち点の位置を表している。
【0045】
図12に示す例示模様データ111に基づいて刺繍縫製を行う場合には、縫製カウンタNが「0,1,2,3,・・・」と1ずつ増加される(図9のS10、後述)。そして、針落ち点が、縫製カウンタNの値に対応した座標データ(X,Y)の位置になるように刺繍枠34が移動され(図9のS6、後述)、縫製が行われる(図9のS7、後述)。縫製カウンタNが「0〜1500」までの縫製が行われると、図11に示す例示刺繍模様110が完成する。ここで、縫製カウンタNが「0〜499」の刺繍縫製が行われると刺繍模様「A」が完成し、縫製カウンタNが「500〜999」の刺繍縫製が行われると刺繍模様「B」が完成し、縫製カウンタNが「1000〜1500」の刺繍縫製が行われると刺繍模様「C」が完成するとする。
【0046】
図9に示すフローチャートの説明に戻る。縫製開始位置の設定、刺繍模様の大きさの設定、刺繍模様の角度の設定等が行われたら(S4)、続いて、縫製開始スイッチ21が押下されたか否かが判断される(S5)。縫製開始スイッチ21が押下されていない場合には(S5:NO)、S5に戻る。つまり、縫製開始スイッチ21が押下されるまでは、待機している。
【0047】
縫製開始スイッチ21が押下された場合には(S5:YES)、縫製を行う位置に、刺繍枠34が移動される(S6)。S6の処理では、RAM73の選択模様データ記憶エリア731(図8参照)に記憶された例示模様データ111(図12参照)が読み出される。そして、針落ち点が、縫製カウンタNの値に対応した、座標データ(X,Y)の位置になるように、刺繍枠34が移動される。この刺繍枠34の移動は、CPU71が駆動回路83及び駆動回路84を制御し、X軸モータ86及びY軸モータ87を駆動させることで行われる(図6参照)。最初のS6の処理では、縫製カウンタNは「0」なので、針落ち点が、座標データ(X,Y)の位置になるように、刺繍枠34が移動される。
【0048】
次に、1針分の縫製が行われる(S7)。S7の処理では、CPU71により、駆動回路81が制御され、ミシンモータ85が駆動される(図6参照)。そして、ミシンモータ85により針棒上下動機構(図示せず)が駆動され、針棒上下動機構により針棒6(図2参照)が上下動するように駆動される。これにより、1針分の縫製が行われる。
【0049】
次に、縫製終了か否かが判断される(S8)。S8の処理では、縫製カウンタNと縫製カウンタ終了値Mとが等しいか否かが判断され、縫製カウンタNと縫製カウンタ終了値Mとが等しければ、縫製終了と判断される。具体例の場合は、1針目は、縫製カウンタNは「0」あり、縫製カウンタ終了値Mは「1500」である。したがって、縫製カウンタNは縫製カウンタ終了値Mと等しくない。このため、縫製終了ではないと判断される(S8:NO)。
【0050】
縫製終了でないと判断された場合には(S8:NO)、続いて、各種のエラーが発生したか否かが判断される(S9)。S9の処理では、上糸17が切れたことが検出される糸切れエラー、誤操作により押え足47が上昇位置に切替えられたことが検出される押え足エラー、糸絡み等によりミシンモータ85がロックしたことが検出される過負荷エラー等のいずれかが発生したことが検出される。各種エラーが発生していない場合には(S9:NO)、続いて、RAM73の縫製カウンタ記憶エリア733(図8参照)に記憶されている縫製カウンタNが1増加(インクリメント)され、縫製カウンタ記憶エリア733に記憶される(S10)。続いて、S6に戻り処理を繰り返す。つまり、縫製が継続される。
【0051】
具体例の場合では、1針目はまだ各種エラーが発生していないので(S9:NO)、続いて、縫製カウンタNが「0」から「1」に増加され、縫製カウンタ記憶エリア733に記憶される(S10)。続いて、S6に戻り、縫製を継続する。
【0052】
具体例の場合で、縫製が継続され、縫製カウンタNが「510」のときまでは、正常に縫製が行われ、縫製カウンタNが「511」のときに、上糸17が切れたとする。このとき、例示刺繍模様110の「ABC」のうち、「A」の刺繍模様は完成し、「B」の刺繍縫製をしている途中に糸が切れたとする。上述したように、図3〜図5において、上糸17が切れた場合には、天秤27が上方へ揺動しても、天秤27へ至る上糸17にテンションが付与されないため、糸掛部613は上方へは揺動しない。このとき、糸掛部613は捩じりバネ部611の回動付勢力により、そのレバー部612の基端部分が第一揺動規制部28aに当接し、シャッター64がフォトインタラプタ65の発光部と受光部を遮蔽している位置で停止する(図5参照)。これにより、一定時間(複数針分)連続的にフォトインタラプタ65によりシャッター64が検出された状態になる。一定時間連続的にフォトインタラプタ65によりシャッター64検出されている信号が、糸切れセンサ60により、CPU71に伝達され(図6参照)、糸切れエラーが発生したと判断される。
【0053】
このように、上糸17が切れてから、糸切れエラーが発生したと判断されるまでには、一定時間連続的にフォトインタラプタ65によりシャッター64が検出された状態になることが必要である。このため、上糸17が切れてから、糸切れエラーが発生したと判断されるまでに、一定時間経過し、その間に複数針分の縫製が進行する。つまり、上糸17が切れているので、加工布100に縫目が形成されないまま、針落ち点が前進する。具体例の場合では、10針の縫製が進行したとする。つまり、縫製カウンタNが「511」のときに上糸17が切れ、縫製カウンタNが「520」の時に、糸切れエラーが発生したと判断されたとする。
【0054】
糸切れエラーが発生したと判断された場合には(S9:YES)、続いて、縫製停止処理が行われる(S11)。なお、糸切れエラー以外のエラーが発生したと判断された場合にも(S9:YES)、縫製停止処理が行われる(S11)。S11の縫製停止処理では、CPU71は、駆動回路81と駆動回路83と駆動回路84とに停止命令を送り、ミシンモータ85とX軸モータ86とY軸モータ87との動作を停止させる。これにより、刺繍縫製が停止される。
【0055】
具体例において、実際に上糸17が切れたときの縫製カウンタNは「511」であり、糸切エラーが発生したと判断され(S9:YES)、縫製が停止されたとき(S11)の縫製カウンタNは「520」であるので、縫製カウンタNが「511」から「520」までの間は、加工布100に縫目が形成されていない。このため、糸切れが発生した場合には、縫製を再開するために、ユーザは、上糸17を再度糸通しすると共に、針落ち点を戻さなくてはならない。
【0056】
次に、エラーの種類が糸切れエラーであるか否かが判断される(S12)。仮に、押え足エラー、過負荷エラー等の糸切れエラー以外のエラーが発生していたとする。糸切れエラー以外のエラーだった場合には(S12:NO)、続いて、エラー画面(図示せず)が液晶ディスプレイ15に表示される(S17)。S17の処理では、例えば過負荷エラーが発生した場合には、例えば「糸が絡んでいませんか?」などのメッセージ(図示せず)と、エラー画面の表示を終了するための「CLOSE」と表示されたキーである第一クローズキー(図示せず)とを表示したエラー画面が液晶ディスプレイ15に表示される。このエラー画面は、ROM72のプログラムデータ記憶エリア721(図7参照)に記憶されており、CPU71により読み出されて液晶ディスプレイ15に表示される。ユーザは、エラー画面に表示されたメッセージを確認して、例えば、糸絡みを直すなどのしかるべき処置を行う。
【0057】
エラー画面が表示されたら(S17)、次に、第一クローズキーが押下されたか否かが判断される(S18)。第一クローズキーが、押下されていない場合は(S18:NO)、続いて、S18に戻り処理を繰り返す。つまり、第一クローズキーが、ユーザによるパネル操作により押下されるまでは、待機している。
【0058】
ユーザによるパネル操作により、第一クローズキーが押下された場合には(S18:YES)、エラー画面の表示が終了される(S19)。S19の処理は、CPU71により、液晶ディスプレイ15のエラー画面の表示が停止されることで行われる。続いて、S5に戻り処理を繰り返す。
【0059】
S12の処理において、具体例の場合には、糸切れエラーが発生しているので(S12:YES)、続いて、糸切れエラー画面(図示せず)が表示される(S13)。糸切れエラー画面には、糸切れエラーが発生した旨のメッセージの表示と、糸切れエラー画面の表示を終了するための「CLOSE」と表示されたキーである第二クローズキーとが表示される。糸切れエラー画面は、ROM72のプログラムデータ記憶エリア721(図7参照)に記憶されており、CPU71により読み出されて液晶ディスプレイ15に表示される。ユーザは、この糸切れエラー画面を確認することで、糸切れエラーが発生したことを確認することができる。
【0060】
糸切れエラー画面が表示されたら(S13)、続いて、第二クローズキーが押下されたか否かが判断される(S14)。第二クローズキーが、押下されていない場合には(S14:NO)、続いて、S14に戻り処理を繰り返す。つまり、液晶ディスプレイ15に表示された第二クローズキーが、ユーザによるパネル操作により押下されるまで、糸切れエラー画面を表示したまま待機している。
【0061】
第二クローズキーが、ユーザにより押下された場合には(S14:YES)、続いて、糸切れエラー画面の表示が終了される(S15)。S15の処理は、CPU71により、液晶ディスプレイ15の糸切れエラー画面の表示が停止されることで行われる。
【0062】
次に、ステップフォワード/バック処理(以下、ステップF/B処理という。)が行われる(S16)。S16のステップF/B処理では、縫針7の針落ち点の近傍、即ち、針元近傍が、イメージセンサ50により撮像されて、液晶ディスプレイ15に表示される(図13〜図15参照)。ユーザは、撮像された画面を確認しながら、縫針7の針落ち点を調整することができる。
【0063】
ここで、図10に示すフローチャートを参照して、ステップF/B処理について説明する。図10に示すステップF/B処理では、まず、針元近傍の画像が取得される(S161)。S161の処理では、イメージセンサ50(図2及び図6参照)により、針元近傍の画像が撮像され、RAM73の撮像情報記憶エリア732(図8参照)に記憶される。
【0064】
次に、撮像情報記憶エリア732に記憶された針元近傍の画像と、「1針進む」と表示されたキーである一針前進キー122と、「1針戻る」と表示されたキーである一針後退キー123とが液晶ディスプレイ15に表示される(S162)。この表示をステップF/B画面120という(図13参照)。S161及びS162の処理は、ユーザが釦を押下するなどの操作をすることなく、糸切れエラーが発生した場合は、自動で行われ、ステップF/B画面120が表示される。ユーザは、現在の針落ち点を、針元を覗きこんで確認することなく、ステップF/B画面120に表示された針元近傍の画像を見て確認することができる。
【0065】
ここで、図13を参照して、図10のS162の処理により表示されるステップF/B画面120について説明する。図13において、紙面の上側を液晶ディスプレイ15の上側、紙面の下側を液晶ディスプレイ15の下側、紙面の右側を液晶ディスプレイ15の右側、紙面の左側を液晶ディスプレイ15の左側とする。また、紙面の手前側を液晶ディスプレイ15の前側とし、紙面の奥行き側を液晶ディスプレイ15の奥側とする。
【0066】
図13に示すように、液晶ディスプレイ15の前面には、タッチパネル26が備えられている。液晶ディスプレイ15の略上半分には、画像表示領域121が表示されている。画像表示領域121には、イメージセンサ50により撮像された針元近傍の画像が表示されている。具体例における針元近傍の画像については、後述する。また、画像表示領域121の下側、かつ液晶ディスプレイ15の左部には、針落ち点を一針分進める場合に、ユーザがパネル操作により押下するための、「1針進む」と表示されたキーである一針前進キー122が表示されている。また、一針前進キー122の右側には、針落ち点を一針分戻す場合に、ユーザがパネル操作により押下するための、「1針戻る」と表示されたキーである一針後退キー123が表示されている。さらに、一針後退キー123の下側には、ステップF/B画面120の表示を終了する場合に、ユーザがパネル操作により押下するための、「CLOSE」と表示されたキーである第三クローズキー124が表示されている。
【0067】
具体例の場合における、画像表示領域121に表示される針元近傍の画像について、図13を参照して説明する。なお、図13の画像表示領域121に表示された画像において、ミシン1の構成部品は縫針7のみを記載し、縫針7の他の部品、例えば押え足47等は記載を省略している。撮像された針元近傍の画像の略中央には、加工布100上の針落ち点を「+」マークで表した針落ち点マーク125が表示されている。
【0068】
具体例の場合では、図13に示すように、例示刺繍模様110(図11参照)の「ABC」のうち、「A」の刺繍模様は完成し、「B」の刺繍縫製をしている途中で糸切れが発生している。縫製カウンタNが「500〜520」のときの縫針7の針落ち点を、例示針落ち点500〜520とする。図13において、例示刺繍模様110の「ABC」のうち「A」の刺繍縫製は終了し、「B」の刺繍縫製は例示針落ち点500から始まっている。画像表示領域121に表示された加工布100には、例示針落ち点500〜510までは、Bの縫製済みの縫目である例示縫目126が形成されている。しかし、例示針落ち点511の位置に縫針7が刺される前に、糸切れが発生している。上述したように、糸切れが発生してから、糸切れエラーが検出されて(図9のS8)、縫製が停止されるまでの間に(図9のS11)、針落ち点が520まで進んでいる。このため、例示針落ち点511〜520には、縫目が形成されていない。このため、縫製を再開する場合、ユーザは、刺繍縫製を再開するために、上糸17を再度糸通しすると共に、針落ち点を戻さなくてはならない。以下の説明では、ユーザはすでに上糸17の糸通しを行ったものとする。なお、図13において、例示針落ち点511〜520は、「・」で表している。また、縫製が停止された例示針落ち点520の位置には、針落ち点マーク125が表示されている。
【0069】
図10に示すフローチャートの説明に戻る。図10に示すS162の処理で、液晶ディスプレイ15にステップF/B画面120(図13参照)が表示されたら、続いて、一針前進キー122が、ユーザによるパネル操作により押下されたか否かが判断される(S163)。
【0070】
一針前進キー122が押下されていない場合には(S163:NO)、続いて、一針後退キー123が、ユーザによるパネル操作により押下されたか否かが判断される(S164)。
【0071】
一針後退キー123が押下されていない場合には(S164:NO)、続いて、第三クローズキー124が、ユーザによるパネル操作により押下されたか否かが判断される(S170)。
【0072】
第三クローズキー124が押下されていない場合には(S170:NO)、続いて、S163に戻り処理を繰り返す。つまり、一針前進キー122、一針後退キー123、第三クローズキー124のいずれかが、ユーザによるパネル操作により押下されるまでは、ミシン1は、ステップF/B画面120を表示したまま待機している。
【0073】
具体例の場合において、針落ち位置を15針分後退させる場合、ユーザは、一針後退キー123を15回押下する。
【0074】
まず、一針後退キー123が1回押下された場合について述べる。一針後退キー123が押下された場合には(S164:YES)、続いて、縫製カウンタNが1減少(デクリメント)される(S165)。S165の処理では、CPU71により、RAM73の縫製カウンタ記憶エリア733(図8参照)に記憶されている縫製カウンタNがデクリメントされ、縫製カウンタ記憶エリア733に記憶される。これにより、具体例の場合では、縫製カウンタNが「520」から「519」にデクリメントされ、縫製カウンタ記憶エリア733に記憶される。
【0075】
次に、縫製カウンタNの値に対応した図12に示す座標データ(X,Y)の位置に、刺繍枠34が移動される(S166)。S166の処理では、CPU71により、RAM73の選択模様データ記憶エリア731(図8参照)に記憶されている例示模様データ111(図12参照)において、縫製カウンタNの値に対応した座標データ(X,Y)が読み出される。そして、CPU71により、駆動回路83及び駆動回路84が制御され、X軸モータ86及びY軸モータ87が駆動され(図6参照)、針落ち点が座標データ(X,Y)の位置になるように、刺繍枠34が移動される。
【0076】
具体例の場合では、縫製カウンタNは「519」なので、針落ち点の位置が座標データ(X519,Y519)の位置になるように、刺繍枠34が移動される。これにより、針落ち点は、図12に示す例示針落ち点520の位置から、例示針落ち点519の位置に移動する。つまり、針落ち点が一針分戻る。
【0077】
次に、図10において、針元近傍の画像が取得される(S167)。S167の処理では、S161での処理と同様に、イメージセンサ50により、針元近傍の画像が撮像され、RAM73の撮像情報記憶エリア732(図8参照)に記憶される。
【0078】
具体例の場合では、針落ち点が、例示針落ち点519の位置に移動した後の針元近傍の画像が、イメージセンサ50により撮像され、RAM73の撮像情報記憶エリア732に記憶される。
【0079】
次に、画像表示領域121(図13参照)に表示されている針元近傍の画像が更新される(S168)。S168の処理では、S167の処理で撮像された針元近傍の画像が、画像表示領域121に表示される。つまり、画像表示領域121に表示されている針元近傍の画像が、更新される。
【0080】
具体例の場合では、画像表示領域121の画像が更新され、刺繍枠34の移動により針落ち点マーク125が例示針落ち点519の位置に移動した後の画像が表示される。これにより、ユーザは、現在の針落ち点を、画像表示領域121に表示された針元近傍の画像で確認することができる。
【0081】
次にS163に戻る。ユーザにより、一針前進キー122、一針後退キー123、第三クローズキー124のいずれかが押下されるまでは、一針前進キー122が押下されず(S163:NO)、一針後退キー123が押下されず(S164:NO)、第三クローズキー124が押下されていないので(S170:NO)、S163及びS164及びS170の処理を繰り返す。つまり、ミシン1は、ステップF/B画面120を表示したまま待機している。
【0082】
ユーザにより、一針後退キー123がさらに14回押下されると、S163〜S168の処理が14回繰り返される。これにより、縫製カウンタNは「505」になり(S165)、針落ち点が座標データ(X505,Y505)の位置になるように、刺繍枠34が移動される(S166)。そして、イメージセンサ50により針元近傍の画像が撮像され(S167)、画像表示領域121には、針落ち点マーク125が例示針落ち点505の位置に移動した画像が表示される(図14参照)(S168)。
【0083】
そして、次に、ユーザにより、一針前進キー122、一針後退キー123、第三クローズキー124のいずれかが押下されるまでは、一針前進キー122が押下されず(S163:NO)、一針後退キー123が押下されず(S164:NO)、第三クローズキー124が押下されていないので(S170:NO)、ミシン1はステップF/B画面120を表示したまま待機している。
【0084】
図14に、針落ち点マーク125が例示針落ち点505の位置に移動した場合のステップF/B画面120を示す。具体例において、ユーザは、図14に示すステップF/B画面120を確認し、針落ち位置を2針分前進させると判断したとする。
【0085】
ユーザにより、一針前進キー122が押下されると(S163:YES)、続いて、縫製カウンタNが1増加(インクリメント)され、RAM73の縫製カウンタ記憶エリア733(図8参照)に記憶される。(S169)。これにより、縫製カウンタNは「505」から「506」に増加する。
【0086】
次に、針落ち点が座標データ(X506,Y506)の位置になるように、刺繍枠34が移動される(S166)。これにより、針落ち点は、例示針落ち点505の位置(図14参照)から、例示針落ち点506の位置に移動する。つまり、針落ち点が一針分前進する。
【0087】
次に、イメージセンサ50により、針元近傍の画像が取得され(S167)、画像表示領域121には、針落ち点マーク125が、例示針落ち点505から例示針落ち点506の位置に移動した後の画像が表示される(S168)。そして、ユーザにより、一針前進キー122、一針後退キー123、第三クローズキー124のいずれかが押下されるまでは、一針前進キー122が押下されず(S153:NO)、一針後退キー123が押下されず(S154:NO)、第三クローズキー124が押下されていないので(S170:NO)、ミシン1はステップF/B画面を表示したまま待機している。
【0088】
次に、ユーザにより、再び一針前進キー122が押下されると(S163:YES)、縫製カウンタNがインクリメントされ「506」から「507」となり(S169)、針落ち点が座標データ(X507,Y507)の位置になるように、刺繍枠34の位置が移動される(S166)。そして、イメージセンサ50により、針元近傍の画像が撮像され(S167)、画像表示領域121に表示されている針元近傍の画像が更新される(S168)。これにより、図15に示すように、画像表示領域121には、針落ち点マーク125が例示針落ち点507の位置に移動した画像が表示される。そして、ユーザにより、一針前進キー122、一針後退キー123、第三クローズキー124のいずれかが押下されるまでは、一針前進キー122が押下されず(S163:NO)、一針後退キー123が押下されず(S164:NO)、第三クローズキー124が押下されていない(S170:NO)。このため、ミシン1は、ステップF/B画面120を表示したまま待機している。
【0089】
次に、具体例において、ユーザは、図15に示す、針落ち点マーク125が例示針落ち点507の位置に移動した画像を確認し、例示針落ち点507の位置から縫製を再開すると判断したとする。このとき、ユーザは第三クローズキー124を押下して、ステップF/B画面120の表示を終了させる。第三クローズキー124が押下されると(S170:YES)、ステップF/B画面120の表示が終了される(S171)。S171の処理は、CPU71により、駆動回路82が制御され(図6参照)、液晶ディスプレイ15でのステップF/B画面120の表示が停止されることで行われる。
【0090】
次に、図9に示すフローチャートに戻る。ステップF/B処理(S16)が終了すると、続いて、S5に戻る。ユーザは、縫製を再開するために、縫製開始スイッチ21を押下する。ユーザにより縫製開始スイッチ21が押下されるまでは、縫製開始スイッチ21は押下されていないので(S5:NO)、続いて、S5に戻り処理を繰り返す。つまり、縫製開始スイッチ21が押下されるまでは、待機している。
【0091】
具体例において、ユーザにより、縫製開始スイッチ21が押下されると(S5:YES)、針落ち点が座標データ(X507,Y507)の位置になるように、刺繍枠34が移動される(S6)。縫製を再開してから一針目の縫製では、すでに、図10に示すS166の処理により、針落ち点の位置が座標データ(X507,Y507)の位置になるように、刺繍枠34が移動している。このため、実際には刺繍枠34は移動していない(S6)。次に、一針分の縫製が行われる(S7)。さらに、このときの縫製カウンタNは「507」であり、縫製カウンタ終了値Mの「1500」とは等しくなく(S8:NO)、エラーも発生していない(S9:NO)。このため、縫製カウンタNはインクリメントされ「507」から「508」に増加する(S10)。次にS5に戻り、処理を繰り返す。つまり、縫製が継続される。
【0092】
各種エラーが発生することなく縫製が継続されると、縫製カウンタNは、図12に示す縫製カウンタNの最後の値である「1500」となり(S10)、針落ち点が座標データ(X1500,Y1500)の位置になるように、刺繍枠34が移動され(S6)、縫製が行われる(S7)。そして、縫製カウンタNは「1500」であり、縫製カウンタ終了値Mの「1500」と等しいので(S8:YES)、つぎにS2に戻り、縫製カウンタNが「0」に設定される(S2)。これにより、例示刺繍模様110(図11参照)の刺繍縫製が終了される。そして、刺繍模様選択処理の画面が表示される(S3)。ユーザは、刺繍模様選択処理の画面により、他の刺繍模様の選択をしたり、他のモードに移行したり(図示せず)、ミシン1の使用を終了したりすることができる(図示せず)。
【0093】
以上の実施の形態で示した制御が、ミシン1において行われる。糸切れが発生した場合、仮に、一針前進キー122、一針後退キー123、第三クローズキー124などの操作キーのみが、液晶ディスプレイ15に表示され、イメージセンサ50により撮像された針元近傍の画像が表示されなかったとする。この場合、ユーザは、針元を目視で確認しつつ、液晶ディスプレイ15に表示された操作キーを操作して針落ち点を調整し、糸切れが発生した所まで針落ち点を戻す作業を行わなければならない。つまり、針元と液晶ディスプレイ15とに何度も視線を移動させなくてはならない。
【0094】
本実施の形態では、糸切れが発生した場合、一針前進キー122、一針後退キー123、第三クローズキー124などの操作キーと、イメージセンサ50により撮像された針元近傍の画像とが自動で液晶ディスプレイ15に表示される。これにより、ユーザは、液晶ディスプレイ15のみを確認しながら、糸切れが発生した所まで針落ち点を戻す作業を行うことができる。このため、糸切れが発生してから、針落ち点の調整を行う作業をスムーズに行うことができる。
【0095】
本実施の形態において、ミシン1が本発明の「ミシン」に相当し、液晶ディスプレイ15が本発明の「表示装置」に相当する。また、刺繍枠34が本発明の「刺繍枠」に相当し、加工布100が本発明の「加工布」に相当する。また、糸切れセンサ60が本発明の「検出手段」に相当し、イメージセンサ50が本発明の「撮像手段」に相当する。また、図10に示すS162、及びS168において、ステップF/B画面120を表示させる制御を行ったCPU71が本発明の「表示制御手段」に相当する。また、図10に示すS166において、刺繍枠34を移動させる制御を行ったCPU71が、本発明の「縫製制御手段」に相当する。
【0096】
なお、本実施の形態に示される構成は例示であり、本発明は各種の変形が可能なことはいうまでもない。例えば、本実施の形態では、一針前進キー122または、一針後退キー123が押下された場合に、イメージセンサ50により撮像した画像を更新していたが、これに限定されるものではない。例えば、イメージセンサ50により、動画を撮影し、常に液晶ディスプレイ15に表示させてもよいし、糸切れエラーにより縫製が停止された最初の一回のみ画像を撮像し、液晶ディスプレイ15に表示させてもよい。
【0097】
また、本実施の形態では、一針前進キー122と一針後退キー123とを使用して針落ち点を調整したが、例えば「10針進む」「10針戻る」「100針進む」「100針戻る」などの、針落ち点を複数針後退又は前進させるキーを液晶ディスプレイ15に表示し、針落ち点を調整できるようにしてもよい。また、本実施の形態では、液晶ディスプレイ15に、一針前進キー122と一針後退キー123と第三クローズキー124とを表示して、ユーザがパネル操作できるようにしていたが、それらのキーに対応するボタン式スイッチをミシン1に設けて、針落ち点を調整できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 ミシン
7 縫針
15 液晶ディスプレイ
17 上糸
26 タッチパネル
34 刺繍枠
50 イメージセンサ
60 糸切れセンサ
71 CPU
72 ROM
73 RAM
81 駆動回路
82 駆動回路
83 駆動回路
84 駆動回路
85 ミシンモータ
100 加工布
120 ステップF/B画面
121 画像表示領域
122 一針前進キー
123 一針後退キー
721 プログラムデータ記憶エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像と各種の刺繍情報とを表示可能な表示装置を備え、刺繍枠に保持された加工布に刺繍縫製可能なミシンにおいて、
縫製中の糸切れの発生を検出する検出手段と、
少なくとも縫針の針落ち点近傍を撮像可能な撮像手段と、
前記検出手段が糸切れの発生を検出した場合に、前記撮像手段により撮像された画像と、前記刺繍枠を1針又は複数針分後退又は前進させるための操作キーとを前記表示装置に表示させる表示制御手段と、
前記操作キーが操作されることにより指定された指定針数に基づいて、前記刺繍枠を指定針数分後退又は前進させる縫製制御手段と
を備えた事を特徴とするミシン。
【請求項2】
前記縫製制御手段が前記刺繍枠を1針後退又は前進させる毎に、前記撮像手段は縫針の針落ち点近傍を撮像し、前記表示制御手段は、前記撮像手段が撮像した画像を前記操作キーと共に前記表示装置に表示させることを特徴とする請求項1に記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−233753(P2010−233753A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83838(P2009−83838)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】