説明

メタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法

【課題】 熱処理時に外筒から放出される窒素による外筒とハニカム構造体との間の拡散接合不良の発生を防止することができるメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法の提供。
【解決手段】 熱処理炉3にはアルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス等の不活性ガスの注入口31と、排出口32が設けられていて、熱処理中は、注入口31から不活性ガスを注入し、排出口32から排出させることにより、熱処理炉3内に不活性ガスの流れを作り、この不活性ガスがメタル担体Mに常に注がれた状態となるようにして拡散接合を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムを含有するステンレス鋼よりなる平板又は小波板と大波板とを重ねて巻回し、若しくは交互に積層したハニカム構造体を外筒内に圧入した状態で、熱処理炉内において外筒とハニカム構造体との間を拡散接合させるようにしたメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法においては、ハニカム構造体を外筒内に圧入した状態で、熱処理炉内において外筒とハニカム構造体との間を拡散接合させる場合に、熱処理炉内を高真空状態、若しくは不活性ガス充填状態とすることにより、拡散接合の際に、加熱雰囲気中の微量酸素とアルミニウムが反応してアルミニウム酸化被膜が形成され、拡散が阻害されることを防止するようにしている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−99218号公報
【特許文献2】特開平2−182333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来例のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法にあっては、熱処理炉内には気体の流れがないため、以下に述べるような問題点があった。
即ち、炉内にメタル担体をおいて加熱処理を開始して熱処理炉内の温度が拡散接合温度である1100℃より低温である500〜600℃になると、図6(拡散接合処理時における窒素放出温度を示すタイムチャート)に示すように、大気中に置かれている間に空気中の窒素が大量に吸収された外筒から窒素が放出され、この窒素がメタル担体の周囲に停滞し、これがハニカム構造体のアルミニウム成分と反応してハニカム構造体の表面に拡散接合を阻害する窒化アルミニウムが形成され、このため、窒化アルミニウムが形成された部分の拡散接合が行われなくなるという問題がある。
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、熱処理時に外筒から放出される窒素による外筒とハニカム構造体との間の拡散接合不良の発生を防止することができるメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため請求項1記載のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法は、アルミニウムを含有するステンレス鋼よりなる平板又は小波板と大波板とを重ねて巻回し、若しくは交互に積層したハニカム構造体を外筒内に圧入し、熱処理炉内において不活性ガスを注入・排出させた状態で前記平板又は小波板と大波板との間及び前記外筒とハニカム構造体との間を拡散接合させるようにしたことを特徴とする手段とした。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法では、上述のように、熱処理炉内において不活性ガスを注入・排出させた状態で前記平板又は小波板と大波板との間及び前記外筒とハニカム構造体との間を拡散接合させるようにしたことで、大気中に置かれている間に空気中の窒素が大量に吸収された外筒から、高温熱処理時に放出される窒素をメタル担体から不活性ガスの流れで吹き払って熱処理炉外に排出させることができ、これにより、ハニカム構造体のアルミニウム成分と窒素とが反応して窒化アルミニウムが形成されることを確実に防止することができるようになる。
【0008】
従って、熱処理時に外筒から放出される窒素による外筒とハニカム構造体との間の拡散接合不良の発生を防止することができるようになるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下にこの発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、この実施例1のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法を図面に基づいて説明する。
図1はこの実施例1のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法が適用されるメタル担体を示す一部切欠斜視図、図2は同メタル担体の断面図である。
【0011】
この実施例1のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法が適用されるメタル担体Mは、ハニカム構造体1と、外筒2とで構成されている。
さらに詳述すると、上記ハニカム構造体1は、アルミニウムを含有する数十ミクロンのステンレス鋼よりなる大波板(波板)11と小波板(小波板または平板)12を交互に重ね、小波板12を外側にして多重に巻回したハニカム状に形成されたもので、このハニカム通路(セル通路)表面には、後述する拡散接合処理後にアルミナ等からなる触媒担持体層が形成され、この触媒担持体層に触媒金属が担持されることにより、排ガス浄化触媒とされ、外筒2内に収容されたその前後にハニカム通路内を排気ガスが流れるように前後に排気ガスパイプを連結することで内燃機関の排気経路に配置されることにより、排気ガス中のHC、CO、NOx等を浄化させる働きをする。
【0012】
上記外筒2は、1〜2mmの板厚のSUS430のフェライト系ステンレス板材等で円筒又はレーストラック形状に形成され、この外筒2内にハニカム構造体1を圧入した状態で、小波板12と大波板11との間及び外筒2とハニカム構造体1との間を拡散接合する処理が行われる。
【0013】
次に、この実施例1のメタル担体Mの外筒−ハニカム間拡散接合方法を図面に基づいて説明する。
図3は熱処理工程を示す断面図であり、この図に示すように、以上の状態に組み付けられた複数個(3個)のメタル担体Mを、非酸化雰囲気下の熱処理炉3内で拡散接合温度である約1100℃以上の温度(約1300℃)まで加熱することにより、大波板11と小波板12との間、及びハニカム構造体1の外周面である小波板12の外面と外筒2の内面との間を拡散接合させる。
【0014】
即ち、この熱処理炉3にはアルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス等の不活性ガスGの注入口31と、排出口32が設けられていて、熱処理中は、注入口31から不活性ガスGを注入し、排出口32から排出させることにより、熱処理炉3内に不活性ガスGの流れを作り、この不活性ガスGがメタル担体Mに常に注がれた状態となるようになっている。
なお、注入口31から注入される不活性ガスGに微量な窒素が混在する場合にはその濃度を3ppm(parts per milion)以下とする。
また、各メタル担体Mを通過する不活性ガスGの流量を100ml/min以上とすることで、後述する外筒2から放出される窒素Tを確実に吹き払う。
さらに、注入口31を通過する不活性ガスGの流量を一定となるように制御する一方、排出口32を通過するガス(窒素T及び不活性ガスG)の圧力を一定にするように制御することで、熱処理炉3内の真空度を保つようにする。
【0015】
次に、この実施例1の作用・効果を説明する。
この実施例1では、上述のように、熱処理炉3内において不活性ガスを注入・排出させた状態で小波板12と大波板11との間及び外筒2とハニカム構造体1との間を拡散接合させるようにしたことで、大気中に置かれている間に空気中の窒素が大量に吸収された外筒2から、高温熱処理時に放出される窒素Tを、メタル担体Mから不活性ガスGの流れで吹き払って排出口32から熱処理炉3外に排出させることができ、これにより、ハニカム構造体1のアルミニウム成分と窒素Tとが反応して窒化アルミニウムが形成されることを確実に防止することができるようになる。
【0016】
従って、熱処理時に外筒2から放出される窒素Tによる外筒2とハニカム構造体1との間の拡散接合不良の発生を防止することができるようになるという効果が得られる。
【0017】
次に、他の実施例について説明する。この他の実施例の説明にあたっては、前記実施例1と同様の構成部分については図示を省略し、もしくは同一の符号を付けてその説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
【実施例2】
【0018】
この実施例2は、上記実施例におけるメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法の変形例を示すものであり、図4の断面図に示すように、不活性ガスGの注入口31と排出口32を、メタル担体Mの数だけ設けた点が前記実施例1とは相違したものである。
【0019】
即ち、この実施例2の熱処理炉3では、炉内に置かれた各メタル担体Mのハニカム通路の一端と他端にそれぞれ不活性ガスGの注入口31と排出口32が同軸上に設けられることにより、高温熱処理時に外筒2から放出される窒素の吹き払い効果を高めることができるようになる。即ち、外筒2の内面と、それに接触するハニカム構造体1の外周部の窒素Tが効率的に吹き払われるようになる。
【実施例3】
【0020】
この実施例3は、上記実施例におけるメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法の変形例を示すものであり、図5の断面図に示すように、各メタル担体Mごとに熱処理炉3が設けられ、不活性ガスGの注入口31から注入した不活性ガスGをメタル担体Mの排気ガス流れ方向に効率的に吹き付けて、窒素Tを確実に吹き払って排出口32から排出させるようにしている点が前記実施例1、2とは相違したものである。
【実施例4】
【0021】
この実施例4は、ハニカム構造体1と外筒2との間の一部分だけを拡散接合させる場合の実施例である。
即ち、車両に適用されたメタル担体Mには、エンジンスタートと共に、入口から高温の排気ガスが注入してくる。その際、ハニカム構造体1は、外筒2よりも熱容量が小さいためハニカム構造体1が素早く高温に加熱される一方、外筒2は外気への放熱作用があるため、ハニカム構造体1と外筒2との間に温度差が生じる。このような現象はエンジンスタートのみならず運転中の加速時においてもより高温の排気ガスが注入し、同様な触媒温度プロフィルを生じる。
【0022】
一方、減速時においては、空気に近い排気組成の低温排気ガスが注入してくる。その際は、エンジンスタート時および加速時と同様のメカニズムにより中心部が早く冷却されることになる。
【0023】
このような温度履歴を受けているハニカム構造体1の内部に発生する応力は、特に外筒2と接合されている外周部位に集中する。その理由は、外筒2の温度に比べ、内部温度が高くハニカム構造体1の中心部から外筒2に向かって膨張しようとするハニカム構造体1が外筒2に拘束され外周部が圧縮されると共に、冷却時にはハニカム構造体1の中心部分から縮小し、外筒2と接合している即ち拘束されている外周部が引き伸ばされることになる。
【0024】
また、ハニカム構造体1と外筒2との間では軸方向において両者の熱膨張・収縮量に差が出るため、軸方向に熱応力(剪断応力)が作用する、このように外筒2とハニカム構造体1の接合部位は圧縮、引っ張り剪断の繰り返し応力を受けるため、熱疲労破損が発生し易い部位となる。
【0025】
このため、マニホールド直下コンバータ等のように熱入力が高い部分に適用される場合には、ハニカム構造体1と外筒2との間には、特に熱条件の厳しい上流側におけるハニカム構造体1と外筒2との間を接合させずに分離させていることが望ましい。
【0026】
そこで、このような場所に適用される場合には、接合させたくない部分に拡散接合防止剤を塗布するか、又は酸化処理した状態で熱処理を行うようにした点が上記実施例とは相違したものである。それにより、外筒2とハニカム構造体1の熱容量差による伸びの差違による歪みが開放されるため、耐久性を高めることができる。
なお、ハニカム構造体1の排気ガス流れ方向の全体を外筒2と接合させた場合でも、エンジンから離れた車両床下位置に取り付けられている場合は熱条件が比較的厳しくないため十分な耐久性が得られる。
【0027】
以上本実施例を説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、実施例では、ハニカム構造体1として、波板(波板)11と小波板(小波板または平板)12を交互に重ね、小波板12を外側にして多重に巻回したハニカム状に形成したものをしめしたが、平板又は小波板と大波板とを交互に積層した構造のハニカム構造体であってもよい。
【0028】
また、実施例では、小波板12を用いたが、平板であってもよい。
また、実施例では、小波板(小波板または平板)12側を外側にして巻回したが、波板(波板)11側を外側にして巻回した構造のハニカム構造体にも本発明を適用することができる。
【0029】
また、不活性ガスの注入口31をメタル担体Mの外筒2とハニカム構造体1の外周部近傍のハニカム部分に流れるように近接させ、外筒形状に沿って並べて設けて、注入された不活性ガスを一端から他端へ流すようにしてもよく、このようにすることにより、少量の不活性ガスで効率的に窒素Tを吹き払うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法が適用されるメタル担体を示す一部切欠斜視図である。
【図2】実施例1のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法が適用されるメタル担体を示す断面図である。
【図3】実施例1のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法における熱処理工程を示す断面図である。
【図4】実施例2のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法における熱処理工程を示す断面図である。
【図5】実施例3のメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法における熱処理工程を示す断面図である。
【図6】拡散接合処理時における窒素放出温度を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0031】
G 不活性ガス
M メタル担体
T 窒素
1 ハニカム構造体
11 大波板(波板)
12 小波板(小波板または平板)
2 外筒
3 熱処理炉
31 注入口
32 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含有するステンレス鋼よりなる平板又は小波板と大波板とを重ねて巻回し、若しくは交互に積層したハニカム構造体を外筒内に圧入し、熱処理炉内において不活性ガスを注入・排出させた状態で前記平板又は小波板と大波板との間及び前記外筒とハニカム構造体との間を拡散接合させるようにしたことを特徴とするメタル担体の外筒−ハニカム間拡散接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−346746(P2006−346746A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101287(P2006−101287)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】