説明

メッキ方法、メッキ装置および電気メッキが施された電池缶

【課題】 細くて長い有底筒体でも、確実に内面に均一にメッキをすることができるメッキ方法およびメッキ装置を提供し、細長くて底面の内面にも厚いメッキ被膜が形成されたハイブリッド車用電池缶を得られるようにする。
【解決手段】 被メッキ物10の開口部10a側から陰極を兼ねた保持具13の一端部を挿入して被メッキ物10の内面に接触させて被メッキ物10を保持し、保持具13の他端部を回転自在に支持して保持具13の一端部を回動運動させることにより、被メッキ物10をメッキ槽11内で開口部10aを上にしてメッキ液14に浸漬する位置Aおよびメッキ槽14の外で被メッキ物10の開口部10aが底部10bより低くなる位置Bまでの間を往復運動させ、被メッキ物10のメッキ液14への浸漬と被メッキ物10内のメッキ液の排出とを繰り返しながらメッキを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池缶(電池ケース)、とくにハイブリッド車用や電動スクータ用二次電池の単位の発電要素を格納するための電池缶など、有底筒体で奥行きの長いものの内部にも平均的に均一なメッキ膜厚を有するメッキを施すことができるメッキ方法、メッキ装置および電池缶に関する。さらに詳しくは、電池缶などのように防爆のために溝形成による安全弁が容器底部に直接設けられ、バレルメッキなど衝撃のかかるメッキ作業を避けるためにも、また、安全弁の加工時に加工応力や歪みが発生して、腐食しやすい安全弁加工面やその裏面および有底筒体の内面にも充分にメッキを施すことができるメッキ方法、メッキ装置およびそのような電気メッキが施された電池缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有底筒体にメッキをする場合、たとえばバレル内に被メッキ物およびダミーを入れてメッキ液に浸漬してバレルを回転させることによりメッキ液内で被メッキ物を流動移動させながらメッキをするバレルメッキ法、または図10に示されるように、メッキ液54に浸漬する浸漬保持具(陰極)53の支持竿部53aに被メッキ物50を引っ掛けてメッキ液54中に浸漬することによりメッキを行う(たとえば特許文献1参照)方法が知られている。図10において、51はメッキ槽、52はNi板などからなる陽極である。また、有底筒体内をメッキする場合、メッキ液が筒体内で充分に撹拌されないため、メッキ液の濃度が落ちて筒体内のメッキが十分でないことに鑑み、たとえば図11に示されるように、被メッキ物50の筒体内部に陰極53を接触させるだけではなく、陽極補助電極52aを挿入して内面にもメッキを施す方法も知られている。さらに、図12に示されるように、被メッキ物50をメッキ液54から外に出るようにメッキ液54中で回転させることにより、被メッキ物50の上下を反転させて被メッキ物50中のメッキ液を一旦排出して再度メッキ液54中に浸漬させる方法も知られている(たとえば特許文献2参照)。なお、図11および図12で、図10と同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
【特許文献1】特開2001−335993号公報
【特許文献2】特開平10−330989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述のように、有底筒体の内外面にメッキをする場合、種々の方法が試みられているが、筒体の深さが浅い被メッキ物であれば、いずれかの方法を採用することにより被メッキ物の内面にもメッキをすることができる。
【0004】
一方、近年ハイブリッド車の開発が進み、それに用いられるハイブリッド車用駆動二次電池システムの素電池の開発も進められている。このような電池は、鋼板などにより円筒型または角筒型に形成された有底筒体の容器に形成された電池缶内に発電要素が挿入、封印されると共に、有底筒体の底部には、電池内圧が所定の圧力より上昇した際の安全装置として、薄肉にして破断しやすくした安全弁が形成されている。このような安全弁を有する電池缶は従来でもあり、たとえばノートパソコンや携帯電話などのリチウムイオン二次電池缶にも採用されている。この種の電池缶では、電池容量が小さく、機械強度が鋼板製より劣るが、メッキ処理の不要な純アルミニウム系材料が採用されているため、問題は生じていない。
【0005】
しかし、前述のハイブリッド車用駆動二次電池システムの素電池は、たとえば内径が40mmφで深さが130mm程度の有底筒体で、その底面には、ガス排出穴の軌跡に沿ってV字状の切込み溝が加工され、その先端厚さは、0.03〜0.09mm程度に薄くされた安全弁が形成されると共に、非常に長期間(たとえば15年程度)に亘って酸化など腐食の防止が要求されており、有底筒体の内外面に均一なメッキが腐食に耐え得る厚さに施されていることが要求されている。そのため、たとえ有底筒体の内部に棒状の陽極補助電極棒を設けてメッキを行っても、底部内面やコーナ部、筒体中央部に、平均的に均一な所定のメッキ膜厚のメッキを施すことができないという問題がある。
【0006】
そのため、加工する前の板材の状態でメッキを行い、その後に絞り加工により有底筒体を製造する方法が採用されているが、0.4〜1mm程度の厚さの鋼板を絞り加工して前述のような深さが130mm近くで内径が40mmφ程度の有底筒体にしようとすると、絞り加工のプレス負荷が大きく、加工前防錆能の維持、保証は困難で、とくに角部では、極度に薄く、また、微小クラックが発生し、さらに、開口部の切り口もメッキがなく鋼材が露出しており、ハイブリッド車用や電動スクータ用の電池缶のように非常に細長い有底筒体の内外全面に0.4〜1μm以上(最もメッキの薄い部分でも0.4〜1μmであることを意味する)の厚さのニッケルメッキなどを被膜形成することはできないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、細くて長い有底筒体でも、確実に外面同様に内面にも、平均的に均一で、しかも所定のメッキ被膜を得ることができるメッキ方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、有底筒体の内部底面やコーナ部に確実にメッキを行いながら、大量に連続してメッキをすることができるメッキ装置を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、ハイブリッド車用や電動スクータ用の電池缶でも内部底面に充分なメッキ被膜が施され、非常に信頼性を高くすることができる電池缶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、長さが50mm以上、とくに130mm以上もある有底筒体で、安全弁の肉厚が薄い部分を底面に有する有底筒体の表裏両面、とくにコーナ部や安全弁の溝内などメッキの付き難い部分でも少なくとも0.4〜1μm以上のメッキ被膜を有する、たとえばハイブリッド車用または電動スクータ用の電池缶を得るため鋭意検討を重ねた結果、板材でメッキをしてその後に絞り加工をする後加工の方法では、全面に充分なメッキ厚を有する電池缶を得ることはできず、安全弁を有する電池缶の形状に加工した後に、有底筒体内のメッキ液を排出して入れ直したり、陽極補助電極棒の形状を工夫したり、陽極補助電極棒の被メッキ物に対する同心度を正確に合せて中心に設けたり、メッキ液中に被メッキ物を浸漬中に効率よくメッキ液を被メッキ物中に吹き込んで内部の被メッキ物内のメッキ液を循環させたりすることにより、深い有底筒体の底部内面にも数μmの厚さでNiメッキなどのメッキ被膜を設けることができ、非常に信頼性の高い電池缶が得られることを見出して本発明を完成した。
【0011】
本発明によるメッキ方法は、一端が閉塞され他端が開放された有底筒体からなる被メッキ物の内外面に金属被膜のメッキを施すメッキ方法であって、前記被メッキ物の開口部側から陰極を兼ねた保持具の一端部を挿入して該被メッキ物の内面に接触させて前記被メッキ物を保持し、前記保持具の他端部を回転自在に支持して前記保持具の一端部を回動運動させることにより、前記被メッキ物をメッキ槽内で前記開口部を上にしてメッキ液に浸漬する位置およびメッキ槽上部に引き上げたときに、前記被メッキ物の開口部が底部より低くなる位置までの間を往復運動させ、前記被メッキ物のメッキ槽内のメッキ液への浸漬と前記被メッキ物の有底筒体内に入るメッキ液の排出とを繰り返しながら前記メッキ槽内に配置する陽極と前記保持具との間に電圧を印加して前記被メッキ物の内外面に金属被膜のメッキを行うことを特徴とする。望ましくは、被メッキ物の外面および内面に印加する電源は、所定の膜厚を得やすくするため、それぞれ別にすることが好ましい。
【0012】
ここに「回動」とは、たとえば棒状の物の一端部を支点として支持し、他端部が円弧を描いて一定の範囲を往復運動する動きを意味する。
【0013】
前記被メッキ物の中心軸とほぼ一致させて陽極補助電極棒を設け、該陽極補助電極棒の筒体底部側の端部に、外形が前記被メッキ物の底面の外形形状とほぼ相似形の形状で、前記被メッキ物の底部と対向する電極である対向電極を電気的に接続して行うことにより、底部の広い平面部やコーナ部、安全弁部、筒体中央部に対して、均等なメッキ電解が得やすくなるため、これらの部分にも、平均的に均一で、しかも所定のメッキ被膜を形成しやすい。なお、この対向電極はNi板でもよいが、白金や金などの貴金属を用いると、メッキ液中のNiイオンを供給できながら、電界を均一にしやすいため、安定したメッキ被膜の形成に寄与する。この場合、Tiなどの不溶解性金属を用い、その表面の被メッキ物と対向する面に貴金属層を形成することが経済的に好ましい。また、対向電極と被メッキ物の底面との間隔が小さいため、メッキ液も少なくNiイオンは消耗しやすいが、定期的に被メッキ物内のメッキ液を排出して入れ替えているため、メッキ液内のNiイオンの局部的な消耗というような問題は生じない。
【0014】
前記メッキ槽と並んで前処理槽および/または後処理槽の各処理槽を設け、前記各処理槽に沿って前記保持具を平行に移動しながら、該保持具の上下方向の回動運動により、前記被メッキ物の各処理槽内への浸漬および各処理槽の上方での前記被メッキ物内の処理液の排出を行うことにより、前記被メッキ物の表面処理を連続的に行うことができ、自動的に連続して大量の被メッキ物の表面処理をすることができる。
【0015】
前記保持具の他端部を回動自在に支持体により支持し、該支持体を前記メッキ槽の液面に沿って平行に移動させながら、メッキ槽側に設けられる昇降カム板上に前記保持具を摺動移動させることにより前記被メッキ物が上下に回動して往復運動を行うようにすることにより、被メッキ物の上下動を非常に簡単に、しかも一定の間隔で確実に行うことができる。
【0016】
前記保持具を複数個準備し、該複数個の保持具の他端部を、それぞれ回動自在に鉛直方向に一定間隔で支持体により支持し、該支持体を鉛直方向に上下動しながら前記被メッキ物を上下に回動して、被メッキ物の前記メッキ槽内のメッキ液への浸漬と、前記メッキ槽上方での被メッキ物内のメッキ液の排出とを繰り返す、プッシャー方式のエレベータタイプにすることもできる。このような構成にすることにより、保持具を何段も多段に形成することができるため、一度に複数個のメッキ処理をすることができる。
【0017】
前記保持具の回動運動または前記支持体の鉛直方向の上下動により、被メッキ物が前記メッキ槽液面上部に持ち上げ停止している際に、前記保持具に固定された被メッキ物を回転させ、または押すことにより、該被メッキ物に対する前記保持具が接触する位置を移動させることにより、保持具の接触部分にはメッキ被膜を形成することができないが、その位置の移動により、新たにメッキ被膜を形成することができるため好ましい。
【0018】
前記被メッキ物が、ハイブリッド車または電動スクータを駆動する充放電システム用の単位の素電池の発電要素を格納、封印する電池缶であれば、充分なメッキ被膜が内外全面に形成されたハイブリッド車用や電動スクータ用の電池缶を得ることができる。
【0019】
本発明によるメッキ装置は、メッキ液を充填したメッキ槽と、一端部に開口部を有する有底筒体からなる被メッキ物の内面に一端部を接触させて該被メッキ物を固定すると共に、電源の陰極電極に接続される電極棒を有し、他端部が回動自在に支持される保持具と、該保持具の一端部に固定された被メッキ物を前記メッキ槽内で該被メッキ物の開口部を上にしてメッキ液に浸漬する位置およびメッキ槽上部に引き上げたときに、前記被メッキ物の開口部が底部より低くなる位置までの間を回動運動させる回動手段とを有し、前記回動手段により前記保持具の一端部を上下運動させることによりメッキ槽内のメッキ液への浸漬とメッキ槽上部への持ち上げによる被メッキ物内のメッキ液の排出とを繰り返しながらメッキをする装置である。
【0020】
前記保持具を回動自在に支持する支持体と、該支持体を前記メッキ槽に沿って水平方向に移動させる移動手段とをさらに有し、前記回動手段が前記保持具の水平方向の移動経路に沿って設けられる昇降カム板と前記保持具とにより形成され、該昇降カム板上を前記保持具が通過することにより前記被メッキ物を上下に回動させる往復運動をするように、前記昇降カム板が形成されることにより、非常に簡単な構成で、メッキ液への浸漬とメッキ液の排出とを交互に繰り返すことができる。
【0021】
鉛直方向に延び、前記保持具を1個または複数個回動自在に支持すると共に、鉛直方向および水平方向に移動し得るように形成される支持体がさらに設けられ、前記回動手段が前記支持体の他端部へ外力を加える押圧手段と前記支持体とにより支持部を支点として回動するように形成され、該支持体の鉛直方向の移動と共に前記被メッキ物のメッキ液への浸漬と前記被メッキ物内のメッキ液の排出とを繰り返すように形成されてもよい。このような構成にすることにより、少ない占有面積で大量のメッキ処理を同時に行うことができる。
【0022】
前記保持具の中心部に陽極補助電極棒が設けられ、該陽極補助電極棒の先端部に、外形が前記被メッキ物の底面の外形形状とほぼ相似形の形状で、前記被メッキ物の底部と対向する対向電極が設けられ設けられることにより、被メッキ物の底部内面やコーナ部にもメッキをしやすくなる。
【0023】
前記陽極補助電極棒および対向電極の少なくとも前記被メッキ物の底面または側壁と対向する面に貴金属層が設けられることにより、電界の均一性が向上するため、均一なメッキ被膜を形成するのに好ましい。
【0024】
本発明によるメッキ装置の他の形態は、有底筒体からなる被メッキ物の内外両面にメッキをするメッキ装置であって、前記被メッキ物の前記筒体の内側に陽極補助電極棒が挿入され、該陽極補助電極棒の筒体底面側の一端部に、外形が前記被メッキ物の底面の外形形状とほぼ相似形の形状で、前記被メッキ物の底部と対向する対向電極が設けられている。
【0025】
本発明によるハイブリッド車または電動スクータを駆動する充放電システム用二次電池に用いる単位素電池の電池缶は、鋼板材料により円筒または角筒の一端部が閉塞された深さが50mm以上の有底筒体の底面に電池の爆発の際に破裂しやすくする安全弁が形成され、内部に発電要素が格納される二次電池用電池缶であって、板材からプレス絞り加工により前記安全弁を有する有底筒体が形成された後に少なくともニッケルメッキが施されることにより、前記有底筒体の安全弁の内面にも0.4μm以上の厚さのメッキ被膜が形成されている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、筒状部分が長くて深い有底筒体でも、筒体内のメッキ液を定期的に排出して交換できるため、常に充分な濃度で金属イオンを含むメッキ液が筒体内部に供給され、筒体内部にも非常に厚いメッキを施すことができる。この筒体内の中心に同心度よく陽極補助電極棒を設けることなどによりより一層筒体内部に安定したメッキを施すことができる。さらに、その陽極補助電極棒の一端部で有底筒体の底面と対向する部分に、その底面の外形とほぼ相似形の外形を有する対向電極を電気的に接続して設けておくことにより、筒体底面の広い内壁面やコーナ部に平均的に均一なメッキ被膜を形成することができる。その結果、有底筒体の底面で、しかもV字状先端薄膜型ガス排出安全弁の形成による凸凹が形成されていても、非常に安定した厚さのメッキを施すことができる。なお、対向電極は平板上とは限らず、貴金属部分のまたは不溶解性金属部分も含めて、中心部を刳り貫いたドーナツ型にしたり、中心部の被メッキ物の底面との距離を大きくしたラッパ状の形状にしたり、被メッキ物の底面の凹凸に合せた形状にするなどの種々の形状にすることができる。その結果、ハイブリッド車用のメッキ缶であっても、安全弁を有する機械加工を施した後にメッキをすることにより、内外面共に0.4〜1μm以上(メッキが付き難く最も薄い部分でも0.4〜1μmであることを意味する、以下同じ)の所望厚さのメッキ被膜が形成されたものが得られ、ハイブリッド車や電動スクータ用駆動、充放電電池システムにおける単位の素電池缶としての信頼性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
つぎに、図面を参照しながら本発明によるメッキ方法、メッキ装置およびその方法によりメッキが施された電池缶について説明をする。
【0028】
電池缶は、図1にその一例の一部断面の側面図、その底面図、安全弁部分の断面図、およびメッキ後に開口部を封印加工するために施されるネッキング加工後の形状がそれぞれ示されるように、鋼板材料により円筒または角筒(図1に示される例では円筒型)の一端部1aが閉塞された長さLが、たとえば130mm程度の有底筒体1に形成されており、その底面1aに電池の暴発の際に破断しやすくする安全弁1bが形成されている。この電池缶10は、板材からプレス加工により安全弁1bを有する有底筒体が形成された後に、たとえばニッケルメッキが施されることにより、有底筒体の安全弁1bの内面や裏側にも0.4〜1μm以上の厚さのメッキ被膜2が形成されている。なお、図1(a)ではメッキ被膜2が誇張して書かれ、図1(d)では、メッキ被膜が省略されている。
【0029】
この電池缶10は、たとえば0.5mm厚程度の絞り加工用冷間圧延鋼板を絞り加工することにより、図1(a)に示されるように、直径Dが25〜45mmφ、たとえば40mmφ程度で、長さLが50〜150mm、たとえば130mm程度、肉厚が0.45〜0.5mm程度の大きさに形成されている。この絞り加工の際に、同時にその底面に安全弁1bとする肉薄部分(たとえば0.03〜0.9mm程度)が形成されている。この肉薄部分の幅wは、0.5〜1mm程度と非常に狭いため、メッキ被膜2も形成しにくいが、後述するメッキ方法を用いることにより、本発明では、内面にも外面にも2〜6μm程度少なくとも0.4〜1.0μm程度のNiメッキ被膜2が形成されている。このメッキ被膜2が形成された電池缶には、発電要素が格納され、図示しない封口板が被せられた後に図1(d)に示されるように、開口部にネッキング加工が施され、前記発電要素が密閉封印され、ネッキング部1dが形成される。そのため、このようなネッキング加工に対してもメッキ被膜が剥れることなく密着している必要がある。
【0030】
本発明のメッキにより得られる電池缶10は、このように安全弁1bの形成により、非常に細い切込み溝形成に伴う加工応力が溝先端部に集中し、腐食しやすい溝先端部やその裏面、すなわち缶内内側にも、所定の均一なメッキ被膜2が形成され、非常に信頼性の高い電池缶が得られる。なお、電池缶10の形状は、図1に示される円筒型に限らず、たとえば図2に示されるように、板厚が前述と同様に0.5〜1mm厚、4角筒などの多角筒形で、長さが80〜120mm、たとえば80mm、底面が100〜200mm×15〜40mmの4角筒、たとえば101mm×20mm程度の大きさに形成されるものもある。
【0031】
つぎに、このような有底筒状体のメッキ方法およびその装置について説明をする。本発明によるメッキ方法の一番の特徴は、図3にメッキ装置の要部の概要が示されるように、被メッキ物10の開口部10a側から陰極を兼ねた保持具13の一端部を挿入して被メッキ物10の内面に接触させて被メッキ物10を保持し、保持具13の他端部13bを回転自在に支持体16により支持して保持具13の一端部を回動運動させることにより、被メッキ物10をメッキ槽11内で開口部10aを上にしてメッキ液14に浸漬する位置B1およびメッキ槽14の液面上部で被メッキ物10の開口部10aが底部10bより低くなる位置B2までの間を往復運動させ、被メッキ物10のメッキ槽11内のメッキ液14への浸漬と被メッキ物10の有底筒体内に入るメッキ液を排出とを繰り返すと共に、その排出するメッキ液をメッキ槽11に回収して、メッキ槽11内に配置する陽極12と保持具13との間に電圧を印加し、被メッキ物10の内外面に金属被膜のメッキを行うことにある。
【0032】
保持具13は、図4(a)〜(d)に、(b)のA−A断面、(a)のB−B断面、(d)のC−C断面および(a)のD−D断面がそれぞれ示される構造になっている。すなわち、たとえばステンレスなどからなり、太さが4〜10mmφ程度の3本の電極棒131、132、133(図3および4に示される例では、1本の電極棒133の被メッキ物10内に挿入する部分が細く形成され、バネ性が強くなるように形成されている)がほぼ円筒状の被メッキ物10の内壁に後述する接点を介して接するように、電極の保持板134、135により平行に保持されている。この3本の電極棒131、132、133の保持板134、135との取付構造は、図4(d)に示されるように、金属板からなる保持板134、135に直接ステンレスからなる電極棒131、132、133が固着されて同電位になっており、その保持板134、135の周囲は図4(c)に示されるように、絶縁物コーティング材134aにより被覆されて、中心部の陽極補助電極棒15と絶縁されると共に、陽極補助電極棒15は、絶縁部材152、153により保持板134、135の中心部に位置するように固定されている。
【0033】
また、電極棒131、132、133の被メッキ物10内に挿入される部分は、図1(b)に断面図が示されるように、パイプ環136とビス136aとにより固定して中心部の陽極補助電極棒15に対して同心になるように2本の電極棒131、132が固定され、残る1本の電極棒133のバネ性(半径方向外側に付勢される)により被メッキ物10をしっかりと固定しながら、中心部の陽極補助電極棒15との同心度が正確に調整されている。その結果、3本の電極棒に形成された接点132a、132b、133aが被メッキ物10の内壁に接触して被メッキ物10を保持できる構造になっている。図3および図4に示される例では、固定の電極棒131、132には、それぞれ軸方向に2個の突起状の接点132a、132bが形成され、バネ性を有する電極棒133には1個の接点133aが形成されている。なお、図3では、下側のパイプ環136が省略してある。
【0034】
この保持具13に固定された陽極補助電極棒15には、被メッキ物10を挿入する際にその挿入深さを正確に規定できるように、パイプ環136の端面をストッパとして用いられるように正確な位置決めをして電極棒131、132、133とそれぞれ固定されている。このパイプ環136は、被メッキ物10の挿入深さを規定すると共に、被メッキ物10の内壁を電極棒131、132、133と平行に固定できるように形成されている。
【0035】
この陽極補助電極棒15の他端部側には、陽極補助電極固定部材154と保持板137とがネジなどにより固定され、その端部が保持具13の他端部13bとなっている。この陽極補助電極固定部材154と保持板137とは、くの字状に形成された一体物でも構わない。そして、保持板137の端部(保持具13の他端部13b)は、回動し得るように間欠搬送チェーン17に固定された支持体16に支持されている。この保持板137には、カム受板138が取り付けられ、後述する昇降カム板18により保持具13の一端部13aが上下に回動するようになっている。保持板137と陽極補助電極固定部材154とがく字状になる曲げ角度は、保持具13の他端部13b側が水平の状態(支持体16と保持板138とが直線状になる位置)で被メッキ物10がメッキ槽11内のメッキ液14内に浸漬する角度θ1(水平面からの折曲げ角度)に設定され、図3に示される例では、θ1が35°程度に形成されている。
【0036】
図3に示される例では、保持具13の中心部に、チタン材などのメッキ液に対して不溶解性の材料からなり、太さが4〜10mmφ程度の陽極補助電極棒15が設けられており、この補助陽極電極棒15の補助電極として機能する部分(被メッキ物10の内壁と対向する部分)には、3〜5μm程度の厚さの白金箔が貼り付けられている。この陽極補助電極棒15は、被メッキ物10の中心軸に位置していないと被メッキ物10の内面メッキを均一に行うことができない。そのため、本発明では、この陽極補助電極棒15を3本の固定の電極棒131、132、133と共に位置決めをして、しかも電極棒131、132と平行になるように、電極の保持板134、135に挿入して絶縁部材152、153(図4(c)参照)により固定されている。なお、電極棒のうち1本の電極棒133は、被メッキ物10への挿入側では細くして3本の電極棒131、132、133の接点132a、132b、133aなどが共に被メッキ物10の内壁にしっかりと接触して被メッキ物10を保持できるようになっている。
【0037】
本発明では、さらに陽極補助電極棒15の先端部に、たとえば3〜5μm程度の厚さの白金箔を貼り付けたチタン材円板などからなり、外形が被メッキ物10の底面の外形形状とほぼ相似形の形状で、被メッキ物10の底面と対向する電極である対向電極151が接続して設けられている。この対向電極151は、被メッキ物10である有底筒体の底面の内側やコーナ部に平均的に均一で、しかも所定の厚さのメッキ被膜を形成しやすくするため設けられており、たとえばNiメッキをする場合には、Ni板で形成することもできるが、メッキ処理を行うにつれて、次第にやせ細り、陽極としての機能を果たさなくなるばかりか、微細な金属片や溶解残渣が発生し、これがメッキ面に落下してメッキ面に付着し、その上にメッキ被膜が形成されるとメッキ外観やメッキの品質を損なうことになる。そのため、本発明では、図5(a)に拡大図が示されるように、不溶解性のチタン材などにより対向電極151や陽極補助電極棒15を形成し、その表面で被メッキ物10と対向する部分に白金箔151a、15a(3〜5μm程度の厚さ)を貼り付けることにより電界の均一性を確保して均一なメッキ被膜を形成するようにしている。
【0038】
この対向電極151および白金箔151aの形状は図5(a)に示されるような共に円板形状ではなく、図5(b)に示されるような対向電極151は円板状で白金箔151aは中心部をくり抜いたドーナツ形状にしたり(対向電極の全体をドーナツ型にしてもよい)、図5(c)および(d)に示されるように、板状体151および白金箔151a共に中心部を凹ませたすり鉢状、またはその端部を平坦にした形状にしたりすることもでき、被メッキ物の形状との関連で均一なメッキ被膜が形成されるように設定される。このようなドーナツ型や中心部を凹ませることにより、底面中心部の平坦面への電界を弱めて、その分底面周囲、すなわち有底筒体の角部にも電界を行き渡らせることができ、内面全面により均一なメッキ被膜を形成することができる。また、被メッキ物10の底面に凹凸などがある場合に、その凹凸に合せて対向電極151にも凹凸を形成することもできる。
【0039】
また、この対向電極151の形状は、被メッキ物10の底面の外形形状と相似形に形成することが好ましく、前述の例では被メッキ物10が円筒体であるため、円板を用いたが、被メッキ物10が角筒体である場合には、その底面の形状と相似形に形成される。この対向電極151の位置は、被メッキ物10の底面との間隔が7〜25mm程度になるようにまた、外周端と被メッキ物10内側面との間隔は、3〜10mm程度になるような大きさに形成される。できるだけ被メッキ物10の底面と対向する方がよいが、余り大きくするとメッキ液がその裏に入り難く、補助陽極電極板151と被メッキ物10とが短絡しやすくなるからである。厚さは余り制約を受けないが、0.5〜1.5mm程度に形成される。
【0040】
さらに、本発明のメッキ装置には、間欠搬送させながら移動する保持具13がメッキ槽11内に被メッキ物10を浸漬させて停止している状態のときに稼動できるように、メッキ液噴射ノズル19が設けられ、ポンプ20によりメッキ槽11内のメッキ液14を被メッキ物10内に吹き込み、被メッキ物10内のメッキ液を交換できるようにされている。この場合、図3には図示されていないが、前述のパイプ環136の内部に吹き込むように噴射口を向けて噴射ノズル19を設けることにより、被メッキ物10内の底に向かってメッキ液が吹き込まれ、効率よく循環させることができる。
【0041】
支持体16には、一対の給電端子25、26が固定され、それぞれの一端部は、前述の陽極補助電極棒15および電極棒131、132、133と配線28により接続され、給電端子25、26の他端部には、電源27が接続されるようになっている。
【0042】
前述の保持具13の一端部を上下動させるため、前述のように保持具13の他端部13bが回動支点139で支持体16に支持され、保持板137に取り付けられたカム受板138をたとえば昇降カム板18により上下動し得るように構成されている。図3のカム受板138部分の紙面と垂直な方向(間欠搬送チェーン17により水平方向に搬送する方向)に設けられる水平横行カム板181および昇降カム板18により、保持板137に取り付けられたカム受板138が上下動する関係を分りやすく説明するメカニズムが図6に示されている。
【0043】
図3および図6において、保持具13が取り付けられる支持体16が間欠搬送チェーン17により平行移動する経路に沿って、水平横行カム板181に昇降カム板18が一定間隔で設けられており、保持具13に取り付けられたカム受板138が昇降カム板18の形状に沿って上下動する。それに伴って、保持具13の一端部13a(被メッキ物10)は、他端部13bを回動支点として上下動する。すなわち、図6において、カム受板138が図の右側に間欠搬送チェーン17により移動し、CおよびDの水平横行カム板181上の位置にあるときは、保持具13の一端部13aが一番低い位置にあるときで、図3に示される被メッキ物10がメッキ液14に浸漬された状態の位置に存在し、Dの位置に移動してもそのままの高さでメッキ液14の中を水平移動する。そのため、この移動中には、メッキが進行する。
【0044】
つぎに、カム受板138が昇降カム板18の上に乗りだすと保持具13が持ち上げられ、Eの位置にくると図3の上側に書いた保持具13の位置に持ち上げられる。この位置は、被メッキ物10の開口部10aが底部10bよりも低くなる角度、すなわち被メッキ物10内のメッキ液が排出される角度になるように設定されている。この持ち上げる角度(図3のθ2)は、昇降カム板18の形状により自由に設定することができるが、余り高く持ち上げると被メッキ物10がメッキ液から出ている時間が長くなり、長時間メッキ液から露出させると被メッキ物10が酸化して再度浸漬してメッキする際のメッキ状態が悪くなると共に、メッキ効率も悪くなるため好ましくない。そのため、保持具13の傾き角θ2(被メッキ物10の傾き角)は、被メッキ物10内のメッキ液を排出できる角度、すなわち5〜30°程度、好ましくは5〜15°程度が好ましく、図3に示される例では、θ2が10°になるように昇降カム板18が形成されている。
【0045】
このメッキ時間と被メッキ物内のメッキ液排出の時間的関係は、たとえば6.7分程度メッキ液中に浸漬する工程と、12〜16秒間でメッキ液からの持ち上げおよび排出を完了してメッキ液に戻る工程とを、5回程度繰り返すことによりメッキ工程を完了する。なお、この5回のうち、2回程度は、「接点位置ずらし」を排出動作後に行っている。
【0046】
すなわち、本発明では、保持具13を持ち上げて、被メッキ物10がメッキ液14から外に出ている間に、保持具13に対して被メッキ物10を5〜90°回転させることにより、被メッキ物10に電極棒131、132、133の接点の接触位置を変えている。これは、接点の位置では、被メッキ物にメッキ被膜が形成されないため、その位置にメッキ被膜が形成されるようにするばかりではなく、電池缶の円周方向における、内外面に亘り、平均的に均一で、しかも所定の厚さのメッキ被膜を得やすくするためにも行っている。このような被メッキ物10の回転は、たとえば空気圧(5kg/cm2程度)作動機能素子(たとえばSMC(株)製機器)のロータリーテーブルの上にエアチャックを積載して、間欠搬送チェーン17が停止信号にて停止しているときに、被メッキ物10をチャッキングしてロータリーテーブルで、たとえば90°回転し、回転終了後にチャッキングを開放して、ロータリーテーブルを自動復帰させて、つぎの被メッキ物に備えることにより行うことができる。なお、チャック・アンド・ロータリーを行う被メッキ物の位置は、缶内液排出後、再び下降せずにつぎの搬送ピッチの停止位置で、しかもθ1=0°の水平角度で行うのが好ましい。また、四角筒形(図2参照)の場合は、チャック・アンド・ロータリーが困難なので、その代替方法として、エヤシリンダーで、被メッキ物を軸方向に押すことにより、接点位置をずらすことができる。
【0047】
実際にメッキを行う場合には、被メッキ物の前処理とか、メッキ後の水洗などの後処理が行われるが、本発明のメッキ装置では、これらの一連の処理工程を前述の昇降カム板により搬送しながら順次処理を行うことができる。このような処理装置の平面の概略図が図7に示されている。
【0048】
すなわち、図7において、前述の間欠搬送チェーン17が間欠駆動歯車31により駆動されるように設けられ、その周りに、ロードテーブルやアンロードテーブルなどと共に、各処理槽が設けられている。そして、間欠搬送チェーン17に接続された前述の保持具13に被メッキ物10を固定し、間欠駆動歯車31で搬送チェーン17を順次1ピッチ(たとえば76.2mm)づつ移動、停止(浸漬処理)を繰り返しながら、ロード、アルカリ脱脂、水洗、陰極電解脱脂、水洗、陽極電解脱脂、水洗、弱酸浸漬、水洗、Niストライクメッキ、水洗、半光沢Niメッキ、回収、水洗、水きり、水洗、アンロードの順で各処理が行われる。なお、図7では水洗を省略して書いてある。この際、前述のように、処理する間は、被メッキ物10が処理槽内に浸漬するように保持具13の一端部13aが下がり、処理が終ってつぎの処理槽に移動する際には、被メッキ物10が図3の高い位置になるように持ち上げて処理液を回収し、つぎの処理槽へ搬送することができるように、搬送チェーン31に沿って前述の昇降カム板18が設けられている。その結果、メッキの前処理から後処理まで、また、前述のメッキ工程中の被メッキ物内のメッキ液の交換までを連続して自動的に行うことができる。
【0049】
前述の例では、メッキ槽に沿って搬送する際に昇降カム板18上に保持具13を移動させることにより、被メッキ物の回動運動を行ったが、このような方式で複数個同時に行おうとすると、保持具を水平方向に並列に並べる必要があり、メッキ槽の占有面積が大きくなり、処理装置が大掛かりになる。図8は、複数個のメッキ処理を同時に行いながら、占有面積を大きくしないで、被メッキ物の浸漬とメッキ液排出の回動運動を行うことができるメッキ装置の例で、エレベータタイプのプッシャー方式自動搬送メッキ装置の例を示す構成説明図である。
【0050】
すなわち、図8において、保持具13の構成は図3〜4に示される例と同じで、同じ部分には同じ符号を付して(一部は省略)その説明を省略する。この例では、保持具13の他端部13bを回動し得るように支持する支持体16が鉛直方向に延びるように設けられると共に、この支持体16が鉛直方向に上下動し得るように設けられている。そして、この支持体16の鉛直方向に一定間隔をあけて複数個の保持具13(1個の保持具だけでもよい)がシャフト139を回動支点として回動するように支持されると共に、さらに複数個の保持具13の端部(保持板137の端部)が連結リンク板63により連結され、この連結リンク板63が下方に押されることにより、シャフト139を回動支点として保持具13の一端部13a側が上方に持ち上げられ、連結リンク板63の押圧を解除すると保持具13および被メッキ物10の重みにより一端部側が下がり、ストッパ161で止まり所定の角度でメッキ液14中に浸漬する。なお、連結リンク板63の押圧は、たとえば図8に示されるように、エアシリンダ61により押圧作動レバー62を回転させることにより簡単に与えられる。
【0051】
また、支持体16に複数個の保持具16が取り付けられる場合、その分メッキ槽11を深くする必要があり、この押圧により保持具13の一端部13aを持ち上げるときは、支持体16を鉛直方向上方に移動させながら、または移動させた後に行うことが、被メッキ物10内のメッキ液を完全に排出することができるため好ましい。この鉛直方向の移動機構は省略してあるが、この方式で前述のメッキ処理の前処理や後処理も被メッキ物を搬送しながら連続的に行う場合の処理槽を順次移動する場合の概念図が図9に示されるように、たとえば支持体16を昇降ブースバー兼ガイドレール17aに固定しておいて、その昇降ブースバー兼ガイドレール17aを垂直に持ち上げて1送りピッチ送ることにより異なる処理槽の上に来るため、再度下降させることにより、異なる処理槽での処理をすることができる。メッキ処理をする場合には、メッキ槽が長く、前述のように持ち上げて被メッキ物内のメッキ液を排出し、1ピッチ送って再度メッキ液中に浸漬させ、さらに持ち上げて排出するという浸漬および排出を1ピッチづつ送りながら繰り返すことになる。メッキ以外の前処理や後処理を行う場合、処理槽の処理液が異なるが、本発明では、持ち上げたときに被メッキ物内のメッキ液や処理液を排出するため、処理液を持ち出したり、混合したりすることがない。なお、図8において、41は支持体16を鉛直方向にしっかりと保持する保持具ガイド、42は、配電盤を示す。
【0052】
前述のように、本発明によれば、ハイブリッド車用や電動スクータ用の電池缶のように、長い有底筒体でも筒体内のメッキ液の入れ替えを必要最小限の運動(メッキ液から被メッキ物を取り出す運動が被メッキ物内のメッキ液を排出し得る最小限の運動)で行っているため、被メッキ物がメッキ液から外に出されても酸化したり、汚れが付着したりすることがなく、非常に安定したメッキを施すことができると共に、筒体内のメッキ液を定期的に交換しているため、有底筒体内面の底まで充分にメッキを施すことができる。
【0053】
さらに、被メッキ物の保持を3本の金属棒で行うと共に、そのうちの2本を固定し、残る1本にバネ性を持たせて固定しているため、陰極とする金属棒を被メッキ物の軸と同心で設けることができ、その中心に設ける陽極補助電極棒も固定して同心に設けることができるため、より一層内面のメッキを均一に、しかも充分に設けることができる。さらに、その陽極補助電極棒の先端に被メッキ物の底面と対向する対向電極が設けられることにより、深い底の内面やコーナ部にも平均的に均一で、しかも所定の厚さのメッキ被膜を形成することができる。
【0054】
その結果、防爆装置のような安全弁があり、しかも50mm以上の深さがある有底筒体でも、その底面および内側に少なくとも0.4〜1μm以上の厚さのメッキ被膜が形成され、15年以上という非常に長期間に亘って信頼性が要求されるハイブリッド車用の電池缶を、後メッキの方法で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明による電池缶の一実施形態を説明する図である。
【図2】本発明による電池缶の形状変形例を示す図である。
【図3】本発明によるメッキ装置の要部の概要を説明する図である。
【図4】図3の保持具の要部説明図である。
【図5】陽極補助電極棒の先端に取り付けられる対向電極の形状の変形例を示す図である。
【図6】昇降カムによる保持具の上下動を説明する図である。
【図7】本発明によるメッキ装置全体の概要を示す平面説明図である。
【図8】本発明によるメッキ装置の他の実施形態の要部の概要を説明する図である。
【図9】図8に示される装置で被メッキ物を搬送しながら各処理を行う場合の概念図を示す図である。
【図10】従来のめっき装置の一例を示す図である。
【図11】従来のめっき装置の他の例を示す図である。
【図12】従来のめっき装置の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 有底筒体
1a 底面
1b 安全弁
2 メッキ被膜
10 被メッキ物
10a 開口部
10b 底部
11 メッキ槽
12 陽極
13 保持具
131〜133 電極棒
134、135 電極ホルダー板
138 カム受板
14 メッキ液
15 陽極補助電極棒
151 対向電極
16 支持体
17 間欠搬送チェーン
18 昇降カム板
19 噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が閉塞され他端が開放された有底筒体からなる被メッキ物の内外面に金属被膜のメッキを施すメッキ方法であって、前記被メッキ物の開口部側から陰極を兼ねた保持具の一端部を挿入して該被メッキ物の内面に接触させて前記被メッキ物を保持し、前記保持具の他端部を回転自在に支持して前記保持具の一端部を回動運動させることにより、前記被メッキ物をメッキ槽内で前記開口部を上にしてメッキ液に浸漬する位置およびメッキ槽上部に引き上げたときに、前記被メッキ物の開口部が底部より低くなる位置までの間を往復運動させ、前記被メッキ物のメッキ槽内のメッキ液への浸漬と前記被メッキ物の有底筒体内に入るメッキ液の排出とを繰り返しながら前記メッキ槽内に配置する陽極と前記保持具との間に電圧を印加して前記被メッキ物の内外面に金属被膜のメッキを行うメッキ方法。
【請求項2】
前記被メッキ物の中心軸とほぼ一致させて陽極補助電極棒を設け、該陽極補助電極棒の筒体底部側の端部に、外形が前記被メッキ物の底面の外形形状とほぼ相似形の形状で、前記被メッキ物の底部と対向する電極である対向電極を電気的に接続して行う請求項1記載のメッキ方法。
【請求項3】
前記メッキ槽と並んで前処理槽および/または後処理槽の各処理槽を設け、前記各処理槽に沿って前記保持具を平行に移動しながら、該保持具の上下方向の回動運動により、前記被メッキ物の各処理槽内への浸漬および各処理槽の上方での前記被メッキ物内の処理液の排出を行うことにより、前記被メッキ物の表面処理を連続的に行う請求項1または2記載のメッキ方法。
【請求項4】
前記保持具の他端部を回動自在に支持体により支持し、該支持体を前記メッキ槽の液面に沿って平行に移動させながら、メッキ槽側に設けられる昇降カム板上に前記保持具を摺動移動させることにより前記被メッキ物が上下に回動して往復運動を行う請求項1ないし3のいずれか1項記載のメッキ方法。
【請求項5】
前記保持具を複数個準備し、該複数個の保持具の他端部を、それぞれ回動自在に鉛直方向に一定間隔で支持体により支持し、該支持体を鉛直方向に上下動しながら前記被メッキ物を上下に回動して、被メッキ物の前記メッキ槽内のメッキ液への浸漬と、前記メッキ槽上方での被メッキ物内のメッキ液の排出とを繰り返す請求項1ないし3のいずれか1項記載のメッキ方法。
【請求項6】
前記保持具の回動運動または前記支持体の鉛直方向の上下動により、被メッキ物が前記メッキ槽液面から外に出ている際に、前記保持具に固定された被メッキ物を回転させ、または押すことにより、該被メッキ物に対する前記保持具が接触する位置を移動させる請求項1ないし5のいずれか1項記載のメッキ方法。
【請求項7】
前記被メッキ物が、ハイブリッド車または電動スクータを駆動する充放電システム用の単位の素電池の発電要素を格納、封印する二次電池用電池缶である請求項1ないし6のいずれか1項記載の電池缶のメッキ方法。
【請求項8】
メッキ液を充填したメッキ槽と、一端部に開口部を有する有底筒体からなる被メッキ物の内面に一端部を接触させて該被メッキ物を固定すると共に、電源の陰極電極に接続される電極棒を有し、他端部が回動自在に支持される保持具と、該保持具の一端部に固定された被メッキ物を前記メッキ槽内で該被メッキ物の開口部を上にしてメッキ液に浸漬する位置およびメッキ槽上部に引き上げたときに、前記被メッキ物の開口部が底部より低くなる位置までの間を回動運動させる回動手段とを有し、前記回動手段により前記保持具の一端部を上下運動させることによりメッキ槽内のメッキ液への浸漬とメッキ槽上部への持ち上げによる被メッキ物内のメッキ液の排出とを繰り返しながらメッキをするメッキ装置。
【請求項9】
前記保持具を回動自在に支持する支持体と、該支持体を前記メッキ槽に沿って水平方向に移動させる移動手段とをさらに有し、前記回動手段が前記保持具の水平方向の移動経路に沿って設けられる昇降カム板と前記保持具とにより形成され、該昇降カム板上を前記保持具が通過することにより前記被メッキ物を上下に回動させる往復運動をするように、前記昇降カム板が形成されてなる請求項8記載のメッキ装置。
【請求項10】
鉛直方向に延び、前記保持具を1個または複数個回動自在に支持すると共に、鉛直方向および水平方向に移動し得るように形成される支持体がさらに設けられ、前記回動手段が前記支持体の他端部へ外力を加える押圧手段と前記支持体とにより支持部を支点として回動するように形成され、該支持体の鉛直方向の移動と共に前記被メッキ物のメッキ液への浸漬と前記被メッキ物内のメッキ液の排出とを繰り返すように形成されてなる請求項8記載のメッキ装置。
【請求項11】
前記保持具の中心部に陽極補助電極棒が設けられ、該陽極補助電極棒の先端部に、外形が前記被メッキ物の底面の外形形状とほぼ相似形の形状で、前記被メッキ物の底部と対向する対向電極が設けられてなる請求項8ないし10のいずれか1項記載のメッキ装置。
【請求項12】
前記陽極補助電極棒および対向電極の少なくとも前記被メッキ物の底面または側壁と対向する面に貴金属層が設けられてなる請求項11記載のメッキ装置。
【請求項13】
有底筒体からなる被メッキ物の内外両面にメッキをするメッキ装置であって、前記被メッキ物の前記筒体の内側に陽極補助電極棒が挿入され、該陽極補助電極棒の筒体底面側の一端部に、外形が前記被メッキ物の底面の外形形状とほぼ相似形の形状で、前記被メッキ物の底部と対向する対向電極が設けられてなるメッキ装置。
【請求項14】
鋼板材料により円筒または角筒の一端部が閉塞された深さが50mm以上の有底筒体の底面に電池の爆発の際に破裂しやすくする安全弁が形成され、内部に発電要素が格納される二次電池用電池缶であって、板材からプレス絞り加工により前記安全弁を有する有底筒体が形成された後に少なくともニッケルメッキが施されることにより、前記有底筒体の安全弁の内面にも0.4μm以上の厚さのメッキ被膜が形成されてなるハイブリッド車または電動スクータを駆動する充放電システム用二次電池に用いる単位素電池の電池缶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−277634(P2007−277634A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105118(P2006−105118)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(592204886)冨士発條株式会社 (11)
【出願人】(592190486)木田精工株式会社 (26)
【Fターム(参考)】