説明

モデルベースアンチサージデッドタイム補償を実行する方法及び装置

【課題】圧縮機を含むシステムにおいてモデルベースアンチサージデッドタイム補償を実行する方法及び装置を提供する。
【解決手段】圧縮機110及びアンチサージループ120を含むシステム100において、モデルベースアンチサージデッドタイム補償を実行するための方法及び装置140を提供する。フィールド測定結果とアンチサージ弁130の現在位置とを変数として有する決定論的モデルを使用して推定される予測アンチサージパラメータに基づいてフィールド測定結果から計算されるアンチサージパラメータの値をデッドタイムについて補正することによって、アンチサージループ120上のアンチサージ弁130の新規位置が決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の主題の実施形態は、主に圧縮機を含むシステムにおいてモデルベースアンチサージデッドタイム補償を実行する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油及び天然ガスは、世界経済のかなりの割合において、依然として代替不可能なエネルギー源であることから、新たな生産領域の開発に対する関心が高まり続けている。天然ガスを生産拠点から消費者に搬送するためのパイプライン、精油所、冷却システム、ガスタービン等において、圧縮機が使用されることが多い。圧縮機において、流体流の圧力は、例えば圧縮機の内部のロータ又はインペラの回転を用いて、流体流に運動エネルギー/速度を加えることによって増大する。
【0003】
圧縮機の動作は、サージ現象の発生による影響を受けることがある。サージ現象は、圧縮機がシステムの抵抗に打ち勝つだけの十分なエネルギーを加えることができず、流量及び吐出圧力の急激な低下が生じると起こる。サージの発生は、大きな振動、温度上昇、及び軸推力の急速な変化を伴い、圧縮機の損傷に繋がることがある。繰り返し長期間にわたりサージが生じると、壊滅的な故障に繋がりかねない。圧縮機を含むシステムの多くは、サージの傾向を検出し、このサージの傾向を逆転させるように動作するべく設計されている。例えば、サージ傾向を逆転させるにあたり、圧縮機内を再循環する流体の量を変更することによって、圧縮機を流れる流体流量を調節できる。
【0004】
図1は、圧縮機10を含む従来型システム1の概略図である。システム1は、圧縮機10の出口22における流体流入量の一部分を圧縮機10の入口24まで再循環させる、アンチサージループ20を含む。アンチサージループ20を用いて再循環される流体の量は、アンチサージループ20に沿って位置するアンチサージ弁30のアクチュエータ位置に依存する。アンチサージ制御装置40は、アンチサージ弁30を制御することで、再循環する流体の量を決定する。圧縮機10を流れる流量は、再循環する流体の量を変更することによって変更される。圧縮機10は、エキスパンダ42から流体を受け取る。流体ラインセンサと流体操作部品は、通常はアンチサージループに沿って存在するが、図1では、現在の議論に関する最小限の要素一式を示している。
【0005】
アンチサージ制御装置40が新規位置をアンチサージ弁30に送信する時点と、圧縮機10を流れる流量が実際に変更される時点との間には、時間遅延が生じる。この時間遅延は、通常はアンチサージ応答のデッドタイムとみなされる。デッドタイムは、アンチサージ弁のアクチュエータの非線形性に起因することがあり、アンチサージループ20の流体搬送管に沿って遅延が生じる。デッドタイムの影響としては、スタビリティマージンの減少や、システムの安定性を保つための動的性能に乏しくなること(例えばローゲイン設定)が含まれる。
【0006】
従来型システム1で使用する従来型アンチサージ制御装置の概略図を、図2に示す。従来型アンチサージ制御装置50は、プロセス60と相互に関連する。図2において、プロセス60は、圧縮機(例えば図1の10)とアンチサージ弁(例えば図1における30)を備えたアンチサージループ(例えば図1の20)とを含むシステムを表す。アンチサージ制御装置50は、システムの動作に関する情報(纏めて「フィールド測定結果」と称する)を、プロセス60から受け取る。
【0007】
アンチサージ制御装置50の計算ブロック70は、プロセス60から受け取ったフィールド測定結果を使用して、アンチサージパラメータの値を計算する。アンチサージパラメータの値は、圧縮機を流れる総流量の値に比例するが、これは流体の流入量と再循環流量との合計である。例えば、アンチサージパラメータは、hs×Psd/Psに比例し、hsは圧縮機の吸込側の近傍に位置するフローエレメントを介した差圧、Psdは吸込圧力の設計値、Psは吸込圧力の実測値である。
【0008】
加減ブロック80は、アンチサージパラメータの計算値を、システムの動作にとって安全とみなされるアンチサージパラメータの値であるマージンと比較する。比例積分(PI)制御装置90は、新規位置を決定してこれをアンチサージ弁に出力する。PI制御装置90に先立って、不感帯誤差フィルタリングブロック85は、新規位置に影響を及ぼすアンチサージ弁への信号ノイズを回避するために、PI制御装置90に入力される信号をフィルタリングする。PI制御装置90が新規位置をアンチサージ弁に出力した後、変化量リミッタ95で、新規位置が動作安全値よりも大きく変動しないように、新規位置を調節できる。
【0009】
位置が変更された直後は、デッドタイムが原因で、フィールド測定結果にこの変更が反映されない。したがって、従来型アンチサージ制御装置では、アンチサージ弁に送信される位置が過剰補正又は過小補正される可能性がある。従来型制御装置には、デッドタイムを防止又は補正する措置は設けられていない。図3は、時間に対するアンチサージパラメータ110と位置120のグラフであり、弁の位置の過剰補正又は過小補正による揺動を示す。
【0010】
1〜10秒の範囲になり得るデッドタイムが存在すると、アンチサージループ20が不安定になることがある。この不安定性を回避するために、システム1を(サージ現象が発生する圧縮機を流れる流量に対する、圧縮機全体の圧力比のグラフにおける線であってよい)アンチサージラインに対する追加マージンに基づいて動作させてもよいが、この動作様式では、圧縮機の動作範囲が減少する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そのため、上述の問題及び欠点を回避するシステム及び方法の提供が、望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施例によると、流体搬送システムは、(i)圧縮機から排出されるときの吐出圧力を持たせるべく、サージ圧力で流入する流体を圧縮するように構成された圧縮機と(ii)圧縮機から排出された流体の一部分を再循環させて圧縮機の入口に戻すように構成されたアンチサージループと(iii)アンチサージループに接続されており、アンチサージ弁の位置に基づいて、再循環する流体の一部分を決定するように構成された、アンチサージ弁と(iv)アンチサージ弁に接続されており、流体搬送システムの現在動作に関するフィールド測定結果を受け取り、新規位置を計算してこれをアンチサージ弁に送信するように構成された、アンチサージ弁制御装置と、を含む。新規位置の計算は、(i)現在位置がアンチサージ弁に送信される時点と、(ii)現在位置の影響がフィールド測定結果に反映される時点との間の遅延を補償するために行われる。
【0013】
別の実施形態によると、圧縮機内で圧縮される流体の一部分の再循環を可能にするアンチサージループ上のアンチサージ弁を制御する方法が、(i)圧縮機とアンチサージループとの現在動作に関するフィールド測定結果に基づいて、アンチサージパラメータの未補正値を計算するステップと(ii)フィールド測定結果とアンチサージ弁の現在位置とを変数として有するモデルを使用して、アンチサージパラメータの予測値を推定するステップと(iii)現在位置がアンチサージ弁に送信される時点と、現在位置の影響がフィールド測定結果に反映される時点との間の遅延が補償されたアンチサージパラメータの補正値を、未補正値と補正値を使用して計算するステップと(iv)(a)アンチサージパラメータの限界値であるマージンと(b)アンチサージパラメータの補正値とに基づいて、アンチサージ弁の新規位置を決定するステップと、を含む。
【0014】
別の実施形態によると、アンチサージ制御装置は、(i)圧縮機とアンチサージ弁を備えたアンチサージループとを含むシステムの現在動作に関するフィールド測定結果を受け取り、アンチサージ弁の新規位置を送信するように構成された、インターフェースと(ii)インターフェースに接続され、インターフェースを介して受け取ったフィールド測定結果に基づいてアンチサージパラメータの未補正値を計算するように構成された、第1ユニットと(iii)インターフェースに接続されており、決定論的モデルを使用し、フィールド測定結果とアンチサージ弁の現在位置とに基づいて、アンチサージパラメータの予測値を推定するように構成された、第2ユニットと(iv)第1ユニットと第2ユニットとインターフェースに接続されており、(a)圧縮機にとって安全とみなされる、圧縮機を流れる流量に対応するマージンと(b)未補正値と予測値とに基づいて、現在位置がアンチサージ弁に送信される時点と、現在位置の影響がフィールド測定結果に反映される時点との間の遅延が補償されたアンチサージパラメータの補正値と、に基づいてアンチサージ弁の新規位置を決定するように構成された、第3ユニットと、を含む。
【0015】
本明細書に組み込まれるとともに本明細書の一部を構成する添付図面には、1つ以上の実施形態が示されており、発明を実施するための形態と共にこれらの実施形態を説明している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アンチサージ弁の従来型制御装置を含むシステムの概略図である。
【図2】従来型アンチサージ制御装置の概略図である。
【図3】従来型システムにおける、時間に対するアンチサージパラメータ及びアンチサージ弁位置のグラフである。
【図4】一実施例によるアンチサージ弁の制御装置を含むシステムの概略図である。
【図5】一実施形態によるアンチサージ制御装置の概略図である。
【図6】一実施例によるデッドタイム補正を用いたアンチサージ制御装置の影響を示すグラフである。
【図7】一実施例によるアンチサージ制御装置を含むシステムにおける、時間に対するアンチサージパラメータ及びアンチサージ弁位置のグラフである。
【図8】一実施例による、デッドタイムについての補正を行いながらアンチサージ弁を制御する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
下記の実施形態の説明では、添付図面を参照する。個々の図面において同一の符号は、同一又は同様の要素を示している。下記の発明を実施するための形態が、本発明を限定することはない。むしろ、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により定義される。下記の実施形態では、説明の便宜上、アンチサージループを備えた圧縮機を含むシステムの用語及び構造に関して検討する。但し、続いて検討する実施形態は、これらのシステムに限定されることはなく、アンチサージループのデッドタイムについての補償を必要とするその他のシステムにも適用可能である。
【0018】
本明細書を通じて、「一実施形態」又は「一実施例」という言及は、或る実施形態に関連して記述された特定の特徴、構造、又は特性が、開示の主題の少なくとも1つの実施形態に含まれているという意味である。したがって、本明細書の様々な箇所に見られる「一実施形態」又は「一実施例」という表現が、必ずしも同一の実施形態について言及しているわけではない。また、これらの特定の特徴、構造、又は特性を、1つ以上の実施形態に合わせて如何様にも組み合わせることができる。
【0019】
図4は、一実施形態による、アンチサージ弁の制御装置を含むシステム100の概略図である。システム100は、圧縮機110と、圧縮機110によって流体流入量の一部分を圧縮機110の出口122から圧縮機110の入口124まで再循環させるアンチサージループ120を含む。アンチサージループ120を用いて再循環される流体の量は、アンチサージループ120上のアンチサージ弁130のアクチュエータの位置に依存する。当業者であれば、以下の記述において、アンチサージ弁のアクチュエータの位置が「アンチサージ弁の位置」と称されることが理解できよう。
【0020】
アンチサージ制御装置140は、アンチサージ弁130を制御することによって、再循環する流体の量を決定する。制御装置140は、様々なセンサ及びシステムの操作パネル(図示せず)から、システム110の動作に関する情報を受け取る。圧縮機の動作点が(例えば、マージンに接近するアンチサージパラメータに基づく)サージラインに接近すると、制御装置140は、アンチサージ弁130に新規位置を送信する。新規位置に起因して、アンチサージループ120内を再循環する流体の量と、圧縮機110を通過する流体の量が変更される。
【0021】
一実施例により、図4に示すシステム100に適用可能なアンチサージ制御装置150の概略図を図5に示す。アンチサージ制御装置150は、プロセス160と相互に作用する。プロセス160は、圧縮機(例えば図4の110)とアンチサージ弁(例えば図4の130)を備えたアンチサージループ(例えば図4における120)とを含むシステムを表す。アンチサージ制御装置150は、システムの動作に関する情報(これらの情報を纏めて「フィールド測定結果」と称する)をプロセス160から受け取り、インターフェース165を介してアンチサージ弁の位置をこのプロセスに送信する。フィールド測定結果は、このシステム全体に配置されたセンサによって測定される様々なパラメータの値を含む。ブロック170、172、174、176、178、180、185、190、195、200は、回路、CPU、論理回路、ソフトウェア、又はそれらを組み合わせたものであってよい。
【0022】
アンチサージ制御装置150の計算ブロック170は、プロセス160から受け取ったフィールド測定結果を使用して、アンチサージパラメータを計算する。例えば、アンチサージパラメータは、圧縮機を流れる流量に比例する。別の例では、アンチサージパラメータが、動作点におけるhs×Psd/Psの比率と、動作点と同じ圧縮比のサージライン上のhs×Psd/Psの値であるサージ限界SLであってもよい。このとき、hsは圧縮機の吸込側の近傍に位置するフローエレメントを介した差圧、Psdは吸込圧力の設計値、Psは吸込圧力の実測値である。
【0023】
アンチサージパラメータの予測値は、ブロック172、174、176、178を通じて、フィールド測定結果及びアンチサージ弁の現在位置を変数として有するモデルを使用して計算される。このモデルは決定論的モデルである。即ち、このモデルは、システムの状態を記述する式に基づく。ブロック172は、プロセス160から、送信された最新のアンチサージ弁の位置とフィールド測定結果を受け取る。システムのモデルを使用して、ブロック172では、送信された最新のアンチサージ弁の位置の影響を考慮しながら、アンチサージパラメータの予測値を推定する。言い換えると、ブロック172は、送信期間の後に(即ちデッドタイムの後に)アンチサージ流量を推定した後、こうして推定されたアンチサージ流量を使用して、(流入量と推定アンチサージ流量の合計である)圧縮機を流れる予測総流量を計算する。この予測総流量に対応する差圧hsの値はその後、圧力比(即ちPsd/Ps)に適用され、アンチサージパラメータの予測値が推定される。
【0024】
ブロック172から出力されるアンチサージパラメータの予測値は、遅延回路174及び加減回路176に入力される。遅延回路174は、パデフィルタ(Pade filter)であってよい。加減回路176は、アンチサージパラメータの予測値と、アンチサージパラメータの以前の予測値との差を出力する。このため、アンチサージ弁の位置が変化しない静止状態の場合、アンチサージパラメータの以前の予測値及びアンチサージパラメータの現在の予測値は実質的に同じであるべきなので、補正は実行されない(即ち、同量の加算及び減算が行われる)。しかし、新規位置に応じてアンチサージ弁が開放される場合、アンチサージパラメータの予測値とアンチサージパラメータの以前の予測値との差によって、アンチサージ弁の現在位置の過剰補正が防止される。また、こうした差の使用は、潜在的なモデリング誤差の解消に繋がる。
【0025】
加算回路178は、アンチサージパラメータの予測値とアンチサージパラメータの以前の予測値との差を、ブロック176から受け取ったアンチサージパラメータの計算値に加算し、デッドタイムの影響が補償されたアンチサージパラメータの補正値を出力する。
【0026】
アンチサージパラメータの補正値は、加減ブロック180において、システムの動作にとって安全とみなされるアンチサージパラメータの限界値であるマージンから減算される。この差に対応する信号はその後、ノイズを除去するために不感帯ブロック185によってフィルタリングされ、アンチサージ弁の新規位置を決定してこれを出力する比例積分(PI)ブロック190に入力される。新規位置が動作安全値よりも大きく変動しないように、PIブロック190によって出力される新規位置が変化量リミッタ195によって調節され、新規位置がプロセス160に出力される。
【0027】
また、アンチサージパラメータの補正値が、ブロック180に入力されるマージンを計算するブロック200に入力される。システムが比較的安定しているので、マージンが減少してもよく、圧縮機の動作範囲は、従来型アンチサージ制御装置を使用するときよりもサージラインに近くてもよい。
【0028】
図6は、圧縮機のサージ限界線及びサージ制御線を示すグラフである。グラフのy軸は、圧縮比ρ(吸込圧力に対する吐出圧力)マイナス1に等しい推移圧縮比を表す。x軸は、量hs×Psd/Psを表し、hsは圧縮機の吸込側の近傍に位置するフローエレメントを介した差圧、Psdは吸込圧力の設計値、Psは吸込圧力の実測値である。線210は、サージ現象が生じるサージ限界線(SLL)である。線230は、(サージラインに向かって)これを超えるとアンチサージ制御装置が介入する、サージ制御線(SCL)である。点Aは、正常動作時の圧縮機の動作点を表す。点Aのx座標は、圧縮比ρにおける正常動作時のhs×Psd/Psの値である。x軸に平行な線は、点Bにおいてサージ制御線230と交差し、点Cにおいてサージ限界線210と交差する。このため、点A、点B、点Cは、同じy座標に対応する。即ち、同じ(推移)圧縮比ρ(推移はρ−1)である。点Bのx座標はサージ制御値SC|ρ-1である。即ち、その下方でアンチサージが作動する、圧縮比ρの値hs×Psd/Psである。点Cのx座標はサージ限界値SL|ρ-1、即ちサージが生じる圧縮比ρの値hs×Psd/Psである。動作点Aのサージパラメータは、点Aのx座標(即ち、量hs×Psd/Psの値)とSL|ρ-1との間の比率として計算される。
【0029】
図7に示すように、アンチサージパラメータ310と弁位置320は、一実施形態によるデッドタイムを補償するための新規な制御装置を使用すると、平衡状態に向かって、(もし揺動があるとすれば)小さくて急速に減衰する揺動を有する。
【0030】
図8は、圧縮機内で圧縮された流体の一部分の再循環を可能にするアンチサージループ上のアンチサージ弁を制御する方法(400)の流れ図である。S410において、方法400は、流体搬送システムの現在動作に関するフィールド測定結果に基づいて、アンチサージパラメータの未補正値を計算するステップを含む。S420において、方法400は、モデルを使用し、フィールド測定結果とアンチサージ弁の現在位置に基づいて、アンチサージパラメータの予測値を推定するステップを含む。S430において、方法400は、(1)圧縮機にとって安全とみなされる、圧縮機を流れる流量に対応するマージンと(2)現在位置がアンチサージ弁に送信された時点と、現在位置の影響がフィールド測定結果に反映される時点との間の遅延が補償されたアンチサージパラメータの補正値とに基づいて、アンチサージ弁の新規位置を決定するステップを含む。この補正値は、上記の未補正値及び予測値に基づく。
【0031】
方法400は、アンチサージパラメータの予測値とアンチサージパラメータの以前の予測値との差をアンチサージパラメータの未補正値に加算することによって、アンチサージパラメータの補正値を計算するステップを、更に含み得る。また、方法400は、アンチサージパラメータの補正値に基づいてマージンを計算するステップも含み得る。
【0032】
開示の実施例では、デッドタイムの影響を考慮しながらアンチサージループ上の弁を制御するシステム及び方法を提供した。本説明は、本発明の限定を意図していないことを理解されたい。むしろ、こうした実施例は、改変、変更、等価物も包含し、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の概念及び範囲に含まれることを意図している。また、発明を実施するための形態では、特許を受けようとする発明を包括的に理解できるように、多くの具体的な細目が明記されている。しかし、こうした具体的な細目がなくても実施可能な様々な実施形態を、当業者は想到可能であろう。
【0033】
本明細書に記載の実施例の特徴及び要素は、当該実施例において特定の組み合わせで記述されているが、各々の特徴又は要素を、実施例の別の特徴及び要素を伴うことなく単独で使用することも、各々の特徴又は要素を、本明細書に開示した別の特徴及び要素と一緒に組み合わせて、又は各々の特徴又は要素を、本明細書に開示した別の特徴及び要素と一緒に組み合わせることなく、使用することもできる。
【0034】
本明細書では、任意の装置又はシステムの作製及び使用、並びに任意の付随の方法の実施を含め、当業者が開示の主題を実施できるように、開示の主題の例を用いている。開示の主題の特許請求の範囲は請求項により定義されているが、特許請求の範囲は、当業者が想到可能なその他の例も含み得る。こうしたその他の例も、請求項の範囲内であることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体搬送システム(100)であって、
通過する流体を圧縮するように構成された圧縮機(110)と、
前記圧縮機(110)から排出後の前記流体の一部分を再循環させて前記圧縮機(110)の入口(124)に戻すように構成された、アンチサージループ(120)と、
前記アンチサージループ(120)に接続されたアンチサージ弁(130)であって、該アンチサージ弁(130)の位置に基づいて、前記再循環される流体の前記一部分を決定するように構成された、アンチサージ弁(130)と、
前記アンチサージ弁(130)に接続されており、前記流体搬送システムの現在の動作に関するフィールド測定結果を受け取り、新規位置を計算して前記アンチサージ弁(130)に送信するように構成されたアンチサージ弁制御装置(150)であって、前記新規位置の計算が、(i)現在位置が前記アンチサージ弁(130)に送信される時点と、(ii)前記現在位置の影響が前記フィールド測定結果に反映される時点との間の遅延を補償するために行われる、アンチサージ弁制御装置(150)と、
を備える流体搬送システム(100)。
【請求項2】
前記アンチサージ弁制御装置は、アンチサージパラメータの安全値であるマージンと、前記アンチサージパラメータの補正値との差に基づいて、前記アンチサージ弁の前記新規位置を計算するように構成されており、前記補正値は、受け取った前記フィールド測定結果に基づいて計算され、前記流体搬送システムのモデルを使用して前記遅延が補償される、請求項1に記載の流体搬送システム。
【請求項3】
前記アンチサージ弁制御装置が、(i)前記フィールド測定結果を使用して計算される前記アンチサージパラメータの未補正値と(ii)前記フィールド測定結果及び前記アンチサージ弁の前記現在位置を、モデルに入力される変数として使用する前記アンチサージパラメータの推定値と、を使用して、前記補正値を計算するように構成された、請求項2に記載の流体搬送システム。
【請求項4】
前記アンチサージ弁制御装置が、(i)設計吸込圧力と(ii)前記吸込圧力の現在値との比率によって重み付けされた前記圧縮機の吸込側の近傍に位置するフローエレメントの差圧測定結果に対する割合として、前記アンチサージパラメータの前記未補正値を計算するように構成されており、前記差圧測定結果及び前記吸込圧力の前記現在値が、前記フィールド測定結果に含まれる、請求項3に記載の流体搬送システム。
【請求項5】
前記アンチサージ弁制御装置が、前記アンチサージパラメータの前記推定値と前記アンチサージパラメータの以前の推定値との差を、前記アンチサージパラメータの前記未補正値に加算することによって、前記アンチサージパラメータの前記補正値を計算するように構成された、請求項3に記載の流体搬送システム。
【請求項6】
前記アンチサージ弁制御装置が、前記アンチサージパラメータの前記以前の推定値を提供するための遅延回路としてパデフィルタ(Pade filter)を含む、請求項5に記載の流体搬送システム。
【請求項7】
前記アンチサージパラメータが、前記圧縮機を通過する総流体流量の関数であり、前記総流体流量は、流入量と前記再循環される流体の前記一部分の流量との合計である、請求項2に記載の流体搬送システム。
【請求項8】
前記アンチサージ弁制御装置が、前記アンチサージパラメータの前記補正値に基づいて前記マージンを計算するように構成された、請求項2に記載の流体搬送システム。
【請求項9】
圧縮機(110)内で圧縮された流体の一部分の再循環を可能にするアンチサージループ(120)上のアンチサージ弁(130)を制御する方法(400)であって、
前記圧縮機(110)及び前記アンチサージループ(120)の現在動作に関するフィールド測定結果に基づいて、アンチサージパラメータの未補正値を計算するステップ(S410)と、
前記フィールド測定結果及び前記アンチサージ弁(130)の現在位置を変数として有する決定論的モデルを使用して、前記アンチサージパラメータの予測値を推定するステップ(S420)と、
前記現在位置が前記アンチサージ弁(130)に送信される時点と、前記現在位置の影響が前記フィールド測定結果に反映される時点との間の遅延が補償された前記アンチサージパラメータの補正値を、前記未補正値及び前記予測値を使用して計算するステップ(S430)と、
(i)前記アンチサージパラメータの限界値であるマージンと(ii)前記アンチサージパラメータの前記補正値とに基づいて、前記アンチサージ弁(130)の新規位置を決定するステップ(S440)と、を含む方法。
【請求項10】
前記アンチサージパラメータの前記補正値を計算するステップが、(i)前記アンチサージパラメータの前記予測値と(ii)前記アンチサージパラメータの以前の予測値との差を前記アンチサージパラメータの前記未補正値に加算することによって実行される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アンチサージパラメータの前記補正値に基づいて前記マージンを計算するステップを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
アンチサージ弁制御装置(150)であって、
圧縮機(110)とアンチサージ弁(130)を備えたアンチサージループ(120)とを含むシステム(100)の、現在動作に関するフィールド測定結果を受け取り、新規位置を前記アンチサージ弁(130)に送信するように構成されたインタフェース(165)と、
前記インターフェース(165)に接続され、前記インターフェース(165)を介して受け取った前記フィールド測定結果に基づいてアンチサージパラメータの未補正値を計算するように構成された、第1ユニット(170)と、
前記インターフェース(165)に接続されており、決定論的モデルを使用し、前記フィールド測定結果及び前記アンチサージ弁の現在位置に基づいて、前記アンチサージパラメータの予測値を推定するように構成された第2ユニット(172、174、176、178)と、
前記第1ユニット(170)と前記第2ユニット(172、174、176、178)と前記インターフェース(165)とに接続されており、(i)前記圧縮機(110)にとって安全とみなされる、前記圧縮機(110)を流れる流体に対応するマージンと、(ii)前記未補正値及び前記予測値に基づいて(a)前記現在位置が前記アンチサージ弁(130)に送信される時点と(b)前記現在位置の影響が前記フィールド測定結果に反映される時点との間の遅延が補償された前記アンチサージパラメータの補正値とに基づいて、前記アンチサージ弁(130)の新規位置を決定するように構成された第3ユニット(180、185、190、195)と、を含むアンチサージ弁制御装置(150)。
【請求項13】
前記第1ユニットと前記第2ユニットと前記第3ユニットとの間に接続されており、前記アンチサージパラメータの前記予測値と前記第2ユニットによって出力された前記アンチサージパラメータの以前の予測値との差を、前記第1ユニットによって出力された前記アンチサージパラメータの前記未補正値に追加して、その結果を前記第3ユニットに送信するように構成された加算回路を更に含む、請求項12に記載のアンチサージ弁制御装置。
【請求項14】
前記第2ユニットが、
前記アンチサージパラメータの前記予測値と前記アンチサージパラメータの前記以前の予測値とを受け取り、その差を出力するように構成された加減回路と、
前記アンチサージパラメータの前記以前の予測値を提供するように構成された遅延ユニットと、を含む、請求項13に記載のアンチサージ弁制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−92840(P2012−92840A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234786(P2011−234786)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(505347503)ヌオーヴォ ピニォーネ ソシエタ ペル アチオニ (112)
【Fターム(参考)】