説明

モータの制御装置、及びモータの制御方法

【課題】モータ内におけるロータの位置を推定せずに、コンプレッサの振動及び騒音を低減できるモータの制御装置及びモータの制御方法を提供する。
【解決手段】制御装置は、周期的に変動する負荷トルクを有する負荷を駆動するモータを指令回転数で動作させるように制御するモータの制御装置であって、前記モータを駆動する駆動部と、前記駆動部により前記モータを駆動する際にモータ巻線に流す相電流を検出する検出部と、前記検出部により検出された相電流に応じた値の変動成分を抽出する抽出部と、前記抽出部により抽出された前記値の変動成分に基づいて、前記負荷トルクの変動特性を推定する推定部と、前記推定部により推定された負荷トルクの変動特性を用いて、前記駆動部の制御信号を生成する制御部とを備え、前記駆動部は、前記制御部により生成された制御信号に従って、前記モータを駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御装置、及びモータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンプレッサの圧縮機構には、シングルロータリ、ツインロータリ、スクロールなどの方式がある。これらコンプレッサは、その構造上、吸入・圧縮・排出行程での負荷トルクの変動が大きく、その動作時に振動及び騒音が発生しやすい。コンプレッサの振動及び騒音を低減するためには、負荷トルクの変動に電気トルクを追従させるトルク制御を行い、ロータリピストンや旋回スクロールを回転させるためのモータ内におけるロータの加速度を小さくする必要がある。
【0003】
コンプレッサの負荷トルクは、モータ内におけるロータの位置に応じて変動する。このため、従来のトルク制御では、ロータの位置を検出したうえで、その位置により求められる負荷トルクを算出して、算出された負荷トルクに追従するように電気トルクを制御している。具体的には、トルク制御の方法として、以下の2つの方法が知られている。
【0004】
1つ目の方法は、120°通電方式である。120°通電方式では、モータ内の各巻き線に対する通電を切り替え、各巻き線がロータの回転半周期180°のうち120°の期間に通電状態になり残りの60°の期間に非通電状態になるように制御する。この非通電状態である60°の期間に誘起電圧を検出し、誘起電圧からロータの位置を推定する。そして、予め用意しておいたロータの位置と負荷トルクとの関係のテーブルから、ロータの位置に対応する負荷トルクを求めて、その負荷トルクに追従するように電気トルクを制御する。
【0005】
2つ目の方法は、ロータの軸誤差を推定する方式である。ロータの軸誤差を推定する方式では、モータ電流を検出して、固定座標系におけるモータ電流から回転座標系におけるIq、Id電流へ座標変換してロータの位置を推定する。そして、制御装置の内部で仮定しているロータの位置と推定したロータの位置との誤差(軸誤差)を推定し、推定した軸誤差から負荷トルクの変動を演算し、その負荷トルクに追従するように電気トルクを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−180605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
120°通電方式とロータの軸誤差を推定する方式とは、いずれも、モータ内におけるロータの位置を推定することが前提となっている。
【0008】
120°通電方式では、非通電状態の60°の期間において、ロータの位置を推定するために誘起電圧を検出するが、各巻き線が非通電状態になり電気トルクを負荷トルクに追従させることができないため、コンプレッサの振動及び騒音を低減することが困難になる。
【0009】
また、120°通電方式では、トルク制御する場合、負荷トルク波形に応じてインバータ電圧の波形を変える(負荷トルクの変動位相に応じて電圧レベルを変える)ためのテーブルを調整する場合に、多数のパラメータを考慮する必要があり、テーブルの調整に時間がかかる傾向にある。
【0010】
ロータの軸誤差を推定する方式では、ロータの位置を推定するためにベクトル制御が使用され、固定座標系から回転座標系への座標変換、回転座標系におけるロータの位置の推定、軸誤差の推定、モータ定数の変動の対策等を行うため、計算負荷が重くなる。これにより、高性能なマイコンが必要となるので、モータの制御装置の製造コストが増大する傾向にある。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、モータ内におけるロータの位置を推定せずに、コンプレッサの振動及び騒音を低減できるモータの制御装置及びモータの制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるモータの制御装置は、周期的に変動する負荷トルクを有する負荷を駆動するモータを指令回転数で動作させるように制御するモータの制御装置であって、前記モータを駆動する駆動部と、前記駆動部により前記モータを駆動する際にモータ巻線に流す相電流を検出する検出部と、前記検出部により検出された相電流に応じた値の変動成分を抽出する抽出部と、前記抽出部により抽出された前記値の変動成分に基づいて、前記負荷トルクの変動特性を推定する推定部と、前記推定部により推定された負荷トルクの変動特性を用いて、前記駆動部の制御信号を生成する制御部とを備え、前記駆動部は、前記制御部により生成された制御信号に従って、前記モータを駆動することを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるモータの制御装置は、上記の発明において、前記抽出部は、前記検出部により検出された相電流に応じた値として電力を演算し、前記電力の変動成分を抽出し、前記制御部は、前記抽出部により抽出された前記電力の変動成分を用いて、前記駆動部の制御信号を生成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるモータの制御装置は、上記の発明において、前記制御部は、前記推定部により推定された負荷トルクの変動特性に電気トルクが追従するように、前記駆動部の制御信号を生成することを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるモータの制御装置は、上記の発明において、前記抽出部は、前記値の変化から回転数成分である第1の基本波を前記値の変動成分として求め、前記第1の基本波の減少方向のゼロクロス点を特定し、前記推定部は、前記ゼロクロス点を始点とするとともに前記回転数を有する第2の基本波を、前記モータの負荷トルクの変動特性として推定することを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかるモータの制御装置は、上記の発明において、前記コンプレッサは、ツインロータリコンプレッサであり、前記抽出部は、前記値の変化から回転数を抽出し、前記回転数の2倍の回転数を有する第3の基本波を前記値の変動成分として求め、前記第3の基本波の減少方向のゼロクロス点を特定し、前記推定部は、前記ゼロクロス点を始点とするとともに前記回転数の2倍の回転数を有する第4の基本波を、前記モータの負荷トルクの変動特性として推定することを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかるモータの制御装置は、上記の発明において、前記制御部は、前記指令回転数及び前記値の少なくとも一方に応じて前記推定部により推定された負荷トルクに対するゲインを変更し、前記推定部により推定された負荷トルクに前記変更されたゲインを乗じて、電気トルクを負荷トルクに追従させるためのトルク補償値を求め、前記トルク補償値に応じて前記駆動部の制御信号を生成することを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかるモータの制御装置は、上記の発明において、前記ゲインは、前記推定部により推定された負荷トルクから電圧指令に対する振幅補償値を求める際の第1のゲインを含み、前記制御部は、前記推定部により推定された負荷トルクに前記変更された前記第1のゲインを乗じて、電圧指令に対する振幅補償値を前記トルク補償値として求め、前記振幅補償値により補償された電圧指令に応じて前記駆動部の制御信号を生成することを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかるモータの制御装置は、上記の発明において、前記ゲインは、前記推定部により推定された負荷トルクから電圧指令に対する位相補償値を求める際の第2のゲインを含み、前記制御部は、前記推定部により推定された負荷トルクに前記変更された前記第2のゲインを乗じて、電圧指令に対する位相補償値を前記トルク補償値として求め、前記位相補償値により補償された電圧指令に応じて前記駆動部の制御信号を生成することを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかるモータの制御方法は、周期的に変動する負荷トルクを有する負荷を駆動するモータを指令回転数で動作させるように制御するモータの制御方法であって、前記モータを駆動する際にモータ巻線に流す相電流を検出し、前記検出された相電流に応じた値の変動成分を抽出し、前記抽出された前記値の変動成分に基づいて、前記モータの負荷トルクの変動特性を推定し、前記推定された負荷トルクの変動特性を用いて、前記モータを駆動するための制御信号を生成し、前記生成された制御信号に従って、前記モータを駆動することを特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかるモータの制御装置は、上記の発明において、前記抽出では、前記検出された相電流に応じた電力を演算し、前記電力の変動成分を抽出し、前記生成では、前記抽出された前記電力の変動成分を用いて、前記モータを駆動するための制御信号を生成することを特徴とする。
【0022】
また、本発明にかかるモータの制御装置は、前記生成では、前記推定された負荷トルクの変動特性に電気トルクが追従するように、前記モータを駆動するための制御信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかるモータの制御装置及びモータの制御方法は、モータ内におけるロータの位置を推定せずに、コンプレッサの振動及び騒音を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施形態にかかるモータの制御装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、実施形態における負荷トルクの変動特性を推定する原理を示す図である。
【図3】図3は、実施形態における負荷トルクの変動特性を推定する原理を示す図である。
【図4】図4は、実施形態におけるトルク制御の原理を示す図である。
【図5】図5は、実施形態におけるゲインテーブルの構成を示す図である。
【図6】図6は、実施形態にかかるモータの制御方法を示すフローチャートである。
【図7】図7は、実施形態の変形例にかかるモータの制御装置の構成を示す図である。
【図8】図8は、実施形態の変形例におけるゲインテーブルの構成を示す図である。
【図9】図9は、実施形態の他の変形例にかかるモータの制御装置の構成を示す図である。
【図10】図10は、実施形態の他の変形例におけるゲインテーブルの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明にかかるモータの制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0026】
実施形態にかかるモータMの制御装置100の構成について、図1を用いて説明する。図1は、モータMの制御装置100の構成を示すブロック図である。
【0027】
制御装置100は、例えば予め設定された指令回転数で動作するように、コンプレッサのモータMを制御する。モータMは、そのロータがコンプレッサのロータリピストンや旋回スクロールにシャフトで連結されており、コンプレッサのロータリピストンや旋回スクロールを回転させる。
【0028】
制御装置100は、駆動部60、検出部70、抽出部30、推定部40、及び制御部50を備える。
【0029】
駆動部60は、例えば3相の交流電力をモータMへ出力することにより、モータMを駆動する。具体的には、駆動部60は、インバータ2を有する。インバータ2は、制御信号を制御部50から受けて、制御信号に応じて、直流電源Eから供給された直流電力を3相の交流電力に変換してモータMへ出力する。
【0030】
検出部70は、駆動部60によりモータMを駆動する際にモータ巻線に流す相電流(モータ電流)を検出する。具体的には、検出部70は、電流検出器3を有する。電流検出器3は、インバータ2から出力された相電流(例えば、3相の電流)を検出して抽出部30へ出力する。
【0031】
抽出部30は、検出部70により検出された相電流に応じた値の変動成分を抽出する。具体的には、抽出部30は、電力演算器13、回転数成分演算器14、ゼロクロス演算器15、及び記憶装置16を有する。
【0032】
電力演算器13は、検出された相電流の値を電流検出器3から受け、電圧指令を制御部50から受ける。電力演算器13は、検出された相電流の値と電圧指令とから電力を演算して回転数成分演算器14へ出力する。
【0033】
回転数成分演算器14は、演算された電力の値を電力演算器13から受ける。回転数成分演算器14は、演算された電力の値の変動から、回転数成分(いわゆる基本波)を抽出する。具体的には、バンドパスフィルタ等により、回転数設定器5の回転数と同じ回転数の波(回転数成分)を抽出する。そして、回転数成分演算器14は、その回転数成分である第1の基本波(例えば、正弦波)を電力の変動成分として求めてゼロクロス演算器15へ出力する。
【0034】
ゼロクロス演算器15は、電力の変動成分として抽出された波形、すなわち第1の基本波を回転数成分演算器14から受ける。ゼロクロス演算器15は、第1の基本波における減少方向(極性が正から負へ向かう方向)のゼロクロス点の位相を特定して記憶装置16へ出力する。
【0035】
記憶装置16は、第1の基本波における減少方向のゼロクロス点の位相をゼロクロス演算器15から受けて(例えば、起動時に1回)記憶する。
【0036】
推定部40は、抽出部30により抽出された電力の変動成分に基づいて、モータMの負荷トルクTLの変動特性を推定する。具体的には、推定部40は、基本波発生器17を有する。基本波発生器17は、第1の基本波と位相が180°ずれた逆相となる第2の基本波を求める。すなわち、基本波発生器17は、第1の基本波における減少方向のゼロクロス点の位相を記憶装置16から読み出して、ゼロクロス点の位相を始点とするとともに第1の基本波と同じ回転数を有する第2の基本波(例えば、正弦波)を、モータMの負荷トルクTLの変動特性として推定する。基本波発生器17は、推定された第2の基本波を制御部50へ出力する。
【0037】
制御部50は、推定部40により推定された負荷トルクTLの変動特性を用いてトルク制御を行い、駆動部60の制御信号を生成する。具体的には、制御部50は、回転数設定器5、積分器6、位相ゲインテーブル18、掛算器19、加算器4、変調器7、電圧調節器9、振幅ゲインテーブル20、掛算器21、加算器10、掛算器8、キャリア発生器12、及びコンパレータ11を有する。
【0038】
回転数設定器5には、予め指令回転数が設定されている。回転数設定器5は、指令回転数を積分器6、位相ゲインテーブル18、及び振幅ゲインテーブル20へ出力する。
【0039】
積分器6は、指令回転数を回転数設定器5から受ける。積分器6は、指令回転数をモータMの極数に応じ電気周波数に変換し、その電気周波数に応じた電気位相を発生させ加算器4へ出力する。
【0040】
位相ゲインテーブル18は、指令回転数を回転数設定器5から受ける。位相ゲインテーブル18は、予め実験的に取得されたテーブル180(図5(a)参照)を参照して指令回転数に応じた位相ゲインを決定し掛算器19へ出力する。すなわち、位相ゲインテーブル18は、指令回転数に応じて位相ゲインを変更し掛算器19へ出力する。
【0041】
掛算器19は、第2の基本波を基本波発生器17から受け、位相ゲインを位相ゲインテーブル18から受ける。掛算器19は、第2の基本波に位相ゲインを乗じて、電圧指令に対する位相補償値をトルク補償値として求める。トルク補償値は、トルク制御における補償値であって、電気トルクを負荷トルクに追従させるための補償値である。掛算器19は、位相補償値を加算器4へ出力する。
【0042】
加算器4は、電気位相を積分器6から受け、位相補償値を掛算器19から受ける。加算器4は、電気位相に位相補償値を加算することにより、負荷トルクの変動特性に電気トルクが追従するように位相変調を行う。加算器4は、加算結果、すなわち変調後の位相を変調器7へ出力する。
【0043】
変調器7は、位相変調後の位相を加算器4から受ける。変調器7は、位相変調された電圧指令(例えば、3相の正弦波)を発生させて掛算器8へ出力する。
【0044】
電圧調節器9は、Vf一定制御等により演算された電圧振幅を加算器10へ出力する。あるいは、電圧調節器9は、電圧−電流位相差を一定に制御するモータ制御方式により演算された電圧振幅を加算器10へ出力する。
【0045】
振幅ゲインテーブル20は、指令回転数を回転数設定器5から受ける。振幅ゲインテーブル20は、予め実験的に取得されたテーブル200(図5(b)参照)を参照して指令回転数に応じた振幅ゲインを決定し掛算器21へ出力する。すなわち、振幅ゲインテーブル20は、指令回転数に応じて振幅ゲインを変更し掛算器21へ出力する。
【0046】
掛算器21は、第2の基本波を基本波発生器17から受け、振幅ゲインを振幅ゲインテーブル20から受ける。掛算器21は、第2の基本波に振幅ゲインを乗じて、電圧指令に対する振幅補償値をトルク補償値として求める。掛算器21は、振幅補償値を加算器10へ出力する。
【0047】
加算器10は、電圧振幅を電圧調節器9から受け、振幅補償値を掛算器21から受ける。加算器10は、電気振幅に振幅補償値を加算することにより、負荷トルクの変動特性に電気トルクが追従するように振幅変調を行う。加算器10は、加算結果、すなわち変調後の振幅を掛算器8へ出力する。
【0048】
掛算器8は、位相変調された電圧指令を変調器7から受け、変調後の振幅の加算器10から受ける。掛算器8は、電圧指令に変調後の振幅を乗じて、振幅変調された電圧指令を生成しコンパレータ11及び電力演算器13へ出力する。
【0049】
なお、制御装置100の制御部50は、振幅変調及び位相変調の両方を行わずにいずれか一方を行ってもよい。位相変調を行わずに振幅変調を行う場合、制御部50は、位相変調を行うための構成(位相ゲインテーブル18、掛算器19、加算器4)が省略された構成であってもよい。また、振幅変調を行わずに位相変調を行う場合、制御部50は、振幅変調を行うための構成(振幅ゲインテーブル20、掛算器21、加算器10)が省略された構成であってもよい。
【0050】
キャリア発生器12は、PWMキャリア(例えば、三角波)を発生してコンパレータ11へ出力する。
【0051】
コンパレータ11は、電圧指令を掛算器8から受け、PWMキャリアをキャリア発生器12から受ける。コンパレータ11は、電圧指令とPWMキャリアとのコンパレート演算を行い、演算結果を、インバータ2を駆動するための制御信号としてインバータ2へ出力する。
【0052】
次に、抽出部30及び推定部40の動作原理について図2及び図3を用いて説明する。図2及び図3は、周期的に変動する負荷トルクの変動特性を推定する原理を示す図である。図2では、負荷トルクの変動特性、ロータの回転速度の変動成分、軸の位相(ロータの回転位置)の変動成分、インバータ出力の電力の変動成分が、それぞれ、実線、一点鎖線、二点差線、破線で示されている。
【0053】
コンプレッサの振動は、ロータ加速度(ロータの回転速度の変動)により生じる。負荷トルクをTL、電気トルクをTE、ロータの回転速度をω(ロータ加速度はdω/dt)、慣性モーメントをJとしたとき、
TE−TL=Jdω/dt・・・(1)
となる。TE=TLの場合、ロータの回転速度ωは、一定(ロータ加速度はゼロ)となり、振動は発生しない。負荷トルクTLは吸入・圧縮・排出行程で周期的に変動する。この変動を、回転数ωの正弦波として仮定するとき、Ksinωtを負荷トルクの変動成分、TLを負荷トルクの平均値として、
TL=TL+Ksinωt・・・(2)
と表すことができる。ここで、電気トルクTEは負荷トルクTLの変動に応じて従属的に発生されるものである。すなわち、負荷トルクTLが大きいときは電気トルクTEを大きくし、負荷トルクTLが小さいときは電気トルクTEも小さくする。このように電気トルクTEを制御することで、コンプレッサの振動は低減される。
【0054】
すなわち、電気トルクTEを負荷トルクTLと同位相で変動させると、
TE=TE+TE’=TE+K’sinω
とすると、上記(1)式は
(TE+K’sinωt)−(TL+Ksinωt)
=Jdω/dt・・・(3)
となる。変動分のみを考慮してTE=TL=0とすると、
K’sinωt−Ksinωt=Jdω/dt・・・(4)
(K’−K)sinωt =Jdω/dt
K”sinωt =Jdω/dt・・・(5)
となる。(5)式の微分方程式を解くと
ω=(K”/J)cosωt + c・・・(6)(cは、積分定数)
となる。数式(6)、(2)に示されるように、ロータの回転速度ωの変動成分(K”/J)cosωtは、負荷トルクTLの変動成分Ksinωtに対して90°位相進みとなる。すなわち、ロータの回転速度ωの変動成分を示す図2の一点鎖線の波形は、負荷トルクTLの変動成分を示す図2の実線の波形に対して90°位相が進んだものとなっている。
【0055】
軸の位相(ロータの回転位置)をθとすると、dθ/dt=ωとなるから、この式を数式(6)のωへ代入して積分すると以下の(7)式が得られる。
θ=(K”/J)sinωt +ct+c’・・・(7)(c′は、積分定数)
数式(7)、(2)に示されるように、軸の位相変動成分(K”/J)sinωtの位相ωtは、負荷トルクTLの変動成分Ksinωtの位相ωtと同位相となっている。すなわち、軸の位相変動成分を示す図2の二点差線の波形は、負荷トルクTLの変動成分を示す図2の実線の波形に対して同位相となっている。
【0056】
負荷トルクTLの変動成分は、軸の位相変動成分と同位相になるので、軸の位相変動成分(K”/J)sinωtの位相ωtが電気的に測定できれば、負荷トルクTLの変動成分の位相ωtを推定することができる。そして、得られた負荷トルクTLの変動成分の位相と同位相で電気トルクTEを変動させれば、ロータ加速度を小さくすることができる。
【0057】
そこで、インバータ電圧Vを一定に制御(すなわち、モータMへ印加される3相の交流電圧の振幅と回転数とを一定に制御)した場合に、負荷トルクTLの変動成分の位相ωtを推定するために、軸の位相変動成分の位相ωtを電気的に測定する方法について述べる。
【0058】
誘起電圧EMFは、ロータが回転することで発生する。従って、軸の位相θに位相変動成分が発生すると、誘起電圧EMFの位相も同じ位相変動成分を発生する。誘起電圧EMFに位相変動成分が発生した時のインバータ電圧Vと誘起電圧EMFとをベクトル図に描くと図3のようになる。すなわち、誘起電圧EMFは軸の位相変動成分とともに変化し、ωt=0、ωt=90°、ωt=180°、ωt=270°のときのベクトル図は、それぞれ、図3(b)、図3(a)、図3(b)、図3(c)のように変化する。
【0059】
図3(b)は、ωt=0、ωt=180°で軸の位相変動成分と同様に誘起電圧EMFの位相変動成分が0となっている場合を示している。このとき、インバータ電圧Vと誘起電圧EMFとの電圧差(差電圧ΔV)のインバータ電圧Vに対する垂直成分V、平行成分Vによりモータ電流Iが流れる。モータMのインピーダンスをリアクタンス成分と考えると、電圧に対して電流は位相が90°遅れるので、垂直成分の電圧差Vに対して、平行成分の電流Iが流れ、平行成分の電圧差Vに対し、垂直方向の電流Iが流れる。このときの電流を基準電流とする。
【0060】
図3(a)は、ωt=90°で軸の位相変動成分と同様に誘起電圧EMFの位相変動成分は正となり、位相変動成分が0の場合(図3(b)参照)と比べて進み位相となる。このとき、インバータ電圧Vと誘起電圧EMFとの差電圧ΔVは小さくなり、その差電圧ΔVのインバータ電圧Vに対する垂直成分Vは小さくなる。平行成分Vの変化は少ないので無視する。そうすると、モータ電流Iの変化は、差電圧ΔVの垂直成分Vにより発生する。モータMのインピーダンスをリアクタンス成分と考えると、電圧に対して電流は位相が90°遅れるので、モータ電流Iは、平行成分の電流Iが小さくなることになる。
【0061】
図3(c)は、ωt=270°で軸の位相変動成分と同様に誘起電圧EMFの位相変動成分は負となり、位相変動成分が0の場合(図3(b)参照)と比べて遅れ位相となる。このとき、インバータ電圧Vと誘起電圧EMFとの差電圧ΔVは大きくなり、その差電圧ΔVのインバータ電圧Vに対する垂直成分Vは大きくなる。平行成分Vの変化は少ないので無視する。そうすると、モータ電流Iの変化は、差電圧ΔVの垂直成分Vにより発生する。モータMのインピーダンスをリアクタンス成分と考えると、モータ電流Iは、平行成分の電流Iが大きくなることになる。
【0062】
このように、誘起電圧EMFの位相変動成分の位相ωtがωt=0、ωt=90°、ωt=180°、ωt=270°と変化したとき、モータ電流Iは、平行成分の電流Iが、ωt=0で基準電流となり、ωt=90°で基準電流より小さい電流となり、ωt=180°で基準電流となり、ωt=270°で基準電流より大きい電流となる。このモータ電流Iの変動は、負荷トルクTLの変動成分が正弦波とすると、その正弦波に対して位相が180°ずれた正弦波となり逆相になる。すなわち、インバータ電圧Vを一定に制御した場合におけるモータ電流Iの変動成分を示す図2の破線の波形は、負荷トルクTLの変動成分を示す図2の実線の波形に対して180°位相がずれた逆相となっている。
【0063】
従って、軸の位相変動成分の位相ωt、すなわち負荷トルクTLの変動成分の位相ωtは、インバータ電圧Vに対するモータ電流Iの平行成分Iの電流変動を検出することで検出することができる。すなわち、インバータ電圧Vに対するモータ電流Iの平行成分Iの電流変動を検出し、電流変動に対応した電力(有効電力)の変動の逆相の波形を求めることで、軸の位相変動成分の位相ωt、すなわち負荷トルクTLの変動成分の位相ωtを推定できる。
【0064】
なお、本実施形態では、差電圧ΔVのインバータ電圧Vに対する平行成分Vの変化が無視できるため、インバータ出力の電力をV・I+V・I+V・Iとして求めている。VはR相の相電圧、IはR相の相電流、VはS相の相電圧、IはS相の相電流、VはT相の相電圧、IはT相の相電流である。
【0065】
モータMは、同期モータであれば、一度運転した後に電気位相(インバータ電圧Vの位相)と機械位相(軸の位相)とが変化しない。軸の位相変動成分の位相は、上記の電流変動又は電力変動の逆位相であるので、波形の減少方向のゼロクロス点の電気位相を記憶し、この位相を0にして正弦波を生成することによって、軸の位相変動成分の位相ωtと同位相の正弦波を生成することができる。負荷トルクTLの変動の位相と軸の位相変動成分の位相とは、同位相であるので、負荷トルクTLの変動成分の位相ωtを推定することができる。
【0066】
なお、負荷トルクTLの変動成分の振幅はコンプレッサの構造により決まるため、事前に実験的に求めておけばよい。
次に、制御部50におけるトルク制御の原理について図4及び図5を用いて説明する。図4(a)は、インバータ電圧Vの振幅を変化させる振幅変調を行った場合のベクトル図である。図5(b)は、振幅変調を行うためのテーブル200のデータ構造を示す図である。図4(b)は、インバータ電圧Vの位相を変化させる位相変調を行った場合のベクトル図である。図5(a)は、位相変調を行うためのテーブル180のデータ構造を示す図である。
【0067】
モータM内におけるロータの速度変動は、数式(1)より、負荷トルクTLと電気トルクTEとの差を小さくすることにより少なくすることができる。この電気トルクTEにロータの回転速度ωをかけたω・TEは、ロータの回転エネルギーに相当し、この回転エネルギーは電力としてモータに供給される。ここで、ロータの回転速度ωの変動(ロータ加速度dω/dt)が十分少なければ、モータに供給される電力の変動は、電気トルクTEの変動に相当することとなる。
【0068】
すなわち、負荷トルク変動成分の位相ωtと同位相で電力を変動させることにより、電気トルクTEを負荷トルクTLと同位相で変動させることができる。従って、負荷トルクTLと電気トルクTEとの差が小さくなり、ロータの回転速度ωの変動を少なくすることができる。
【0069】
例えば、図4(a)に示すように、インバータ電圧Vの振幅をVからV’へ増加させる場合、インバータ電圧Vと誘起電圧EMFとの差電圧(ΔV→ΔV’)は、垂直成分が不変(V≒V’)で、平行成分が増加する(V<V’)。モータ電流Iは、垂直成分が増加し(I<I’)、平行成分が不変となる(I≒I’)。電力の変化は、電圧の平行成分Vと電流の平行成分Iとにより生成される。すなわち、
電力の変化=電圧の平行成分(増加)×電流の平行成分(不変)
となり、電力を変化させることができる。
【0070】
従って、電圧振幅を、上記のように推定した軸の位相変動成分の位相ωtと同位相となるように変化させることによって、トルク制御が実現できる。なお、軸の位相変動成分の位相ωtすなわち負荷トルクTLの変動成分の位相ωtと同位相となるように電圧振幅を変化させるための振幅ゲインは、コンプレッサの構造により決まるため、図5(b)に示すように、事前に実験的に求めておけばよい。
【0071】
図5(b)に示すテーブル200は、予め実験的に取得されたテーブルである。テーブル200は、回転数欄201及び振幅ゲイン欄202を含む。回転数欄201には、指令される可能性のある指令回転数の候補N1、N2、・・・が記録されている。振幅ゲイン欄202には、指令回転数に対する、負荷トルクTLと電気トルクTEとの差が小さくなるように電圧振幅を変化させるための振幅ゲインAG1、AG2、・・・が記録されている。すなわち、テーブル200を参照することにより、指令回転数に応じて、電気トルクを負荷トルクに追従させるためのトルク補償値としての振幅ゲインを特定することができる。
【0072】
例えば、図4(b)に示すように、インバータ電圧Vの位相をVからV’へ進めた場合、インバータ電圧Vと誘起電圧EMFとの差電圧(ΔV→ΔV’)は、垂直成分が増加し(V<V’)、平行成分が不変である(V≒V’)。モータ電流Iは、垂直成分が不変(I≒I’)で、平行成分が増加する(I<I’)。電力の変化は、電圧の平行成分Vと電流の平行成分Iとにより生成される。すなわち、
電力の変化=電圧の平行成分(不変)×電流の平行成分(増加)
となり、電力を変化させることができる。
【0073】
従って、電圧位相を、上記のように推定した軸の位相変動成分の位相ωtと同位相になるように変化させることによっても、トルク制御が実現できる。なお、軸の位相変動成分の位相ωtすなわち負荷トルクTLの変動成分の位相ωtと同位相となるように電圧位相を変化させるための位相ゲインは、コンプレッサの構造により決まるため、図5(a)に示すように、事前に実験的に求めておけばよい。
【0074】
図5(a)に示すテーブル180は、予め実験的に取得されたテーブルである。テーブル180は、回転数欄181及び位相ゲイン欄182を含む。回転数欄181には、指令される可能性のある指令回転数の候補N1、N2、・・・が記録されている。位相ゲイン欄182には、指令回転数に対する、負荷トルクTLと電気トルクTEとの差が小さくなるように電圧位相を変化させるための位相ゲインPHG1、PHG2、・・・が記録されている。すなわち、テーブル180を参照することにより、指令回転数に応じて、電気トルクを負荷トルクに追従させるためのトルク補償値としての位相ゲインを特定することができる。
【0075】
次に、モータMの制御の流れについて、図6を用いて説明する。図6は、モータMの制御方法を示すフローチャートである。
【0076】
ステップS1では、検出部70が、駆動部60によりモータMを駆動する際にモータ巻線に流す相電流(モータ電流)を検出する。具体的には、検出部70は、電流検出器3を有する。電流検出器3は、インバータ2から出力された相電流(例えば、3相の電流)を検出して抽出部30へ出力する。
【0077】
ステップS2では、抽出部30が、検出部70により検出された相電流に応じた値の変動成分を抽出する。
【0078】
具体的には、電力演算器13は、検出された相電流の値を電流検出器3から受け、電圧指令を制御部50から受ける。電力演算器13は、検出された相電流の値と電圧指令とから電力を演算して回転数成分演算器14へ出力する。
【0079】
回転数成分演算器14は、演算された電力の値を電力演算器13から受ける。回転数成分演算器14は、演算された電力の値の変動から、回転数成分を抽出する。具体的には、バンドパスフィルタ等により、回転数設定器5の回転数と同じ回転数の波(回転数成分)を抽出する。そして、回転数成分演算器14は、その回転数を有する第1の基本波(例えば、正弦波)を電力の変動成分として求めてゼロクロス演算器15へ出力する。
【0080】
ゼロクロス演算器15は、電力の変動成分として抽出された波形、すなわち第1の基本波を回転数成分演算器14から受ける。ゼロクロス演算器15は、第1の基本波における減少方向(極性が正から負へ向かう方向)のゼロクロス点の位相を特定して記憶装置16へ出力する。
【0081】
記憶装置16は、第1の基本波における減少方向のゼロクロス点の位相をゼロクロス演算器15から受けて(例えば、起動時に1回)記憶する。
【0082】
ステップS3では、推定部40が、抽出部30により抽出された電力の変動成分に基づいて、モータMの負荷トルクTLの変動特性を推定する。具体的には、推定部40は、基本波発生器17を有する。基本波発生器17は、第1の基本波と位相が180°ずれた逆相となる第2の基本波を求める。すなわち、基本波発生器17は、第1の基本波における減少方向のゼロクロス点の位相を記憶装置16から読み出して、ゼロクロス点の位相を始点とするとともに第1の基本波と同じ回転数を有する第2の基本波(例えば、正弦波)を、モータMの負荷トルクTLの変動特性として推定する。基本波発生器17は、推定された第2の基本波を制御部50へ出力する。
【0083】
ステップS4では、制御部50が、推定部40により推定された負荷トルクTLの変動特性を用いてトルク制御を行い、駆動部60の制御信号を生成する。
【0084】
ステップS1及びステップS2の処理は、制御装置100の起動後に1回行われてもよいし、制御装置100の起動後に定期的に繰り返し行われてもよい。ステップS3及びステップS4の処理を繰り返し行うことにより、電気トルクがモータMの負荷トルクTLに追従するように電気トルクを制御する。
【0085】
以上のように、実施形態によれば、負荷トルクTLの変動特性の位相ωtをモータ電流に応じた電力により直接推定し、推定した負荷トルクTLの変動特性を用いてトルク制御を行う。これにより、モータ内におけるロータの位置を推定せずに、コンプレッサの振動及び騒音を低減できる。
【0086】
この結果、120°通電方式に比べて、ロータの位置を推定するためにモータMが非通電状態になる期間を設ける必要がないため、電気トルクを負荷トルクに追従させることが容易であるので、コンプレッサの振動及び騒音を低減することが容易である。
【0087】
また、ロータの軸誤差を推定する方式に比べて、ロータの位置を推定するための座標変換、回転座標系におけるロータの位置の推定、軸誤差の推定などの複雑な計算が不要となるため、演算量を大幅に省略することができ、マイコンの負荷を大幅に減らすことができる。
【0088】
さらに、モータの内部定数を使用しなくても済むため、運転中のパラメータの変化にもロバストなトルク制御を実現することができる。
【0089】
また、実施形態によれば、電力の変化から回転数を抽出し、その回転数を有する第1の基本波を電力の変動成分として求め、第1の基本波の減少方向のゼロクロス点を特定した後、そのゼロクロス点を始点とし第1の基本波と同じ回転数を有する第2の基本波を、モータの負荷トルクの変動特性として推定する。これにより、複雑な計算を行わずにモータの負荷トルクの変動特性を推定することができる。
【0090】
また、実施形態によれば、指令回転数に応じてゲインを変更し、上記のように推定された負荷トルクに変更後のゲインを乗じて、電気トルクを負荷トルクに追従させるためのトルク補償値を求めてトルク制御を行う。これにより、動的に変化する動作条件に対しても対応しながらトルク制御を行うことができる。
【0091】
例えば、予め実験的に取得されたテーブルを参照し、指令回転数に応じて振幅ゲインを変更し、上記のように推定された負荷トルクに変更後の振幅ゲインを乗じて、電圧指令に対する振幅補償値をトルク補償値として求めてトルク制御を行う。これにより、複雑な計算を行わずに、トルク制御を行うことができる。
【0092】
また、振幅ゲインを変更するための予め実験的に取得されたテーブルは、正弦波に対するゲインのテーブルであるため、120°通電方式に比べて少ないパラメータを考慮すれば十分であり、テーブルの調整にかかる時間を低減できる。
【0093】
あるいは、例えば、予め実験的に取得されたテーブルを参照し、指令回転数に応じて位相ゲインを変更し、上記のように推定された負荷トルクに変更後の位相ゲインを乗じて、電圧指令に対する位相補償値をトルク補償値として求めてトルク制御を行う。これにより、複雑な計算を行わずに、トルク制御を行うことができる。
【0094】
また、位相ゲインを変更するための予め実験的に取得されたテーブルは、正弦波に対するゲインのテーブルであるため、120°通電方式に比べて少ないパラメータを考慮すれば十分であり、テーブルの調整にかかる時間を低減できる。
【0095】
あるいは、例えば、上記の振幅補償値と位相補償値との両方をそれぞれ求めて両者を用いたトルク制御を行う。これにより、複雑な計算を行わずに、トルク制御の精度を向上することができる。
【0096】
なお、モータMは、ツインロータリコンプレッサのモータであっても良い。この場合、モータMは、そのロータがツインロータリコンプレッサの2つのロータリピストンにシャフトで連結されている。ツインロータリコンプレッサでは、2つのロータリピストンがシャフトに対して異なる方向に偏心しており、モータMのロータの1回点に対して吸入・圧縮・排出を含むサイクルが2回行われる。
【0097】
これに応じて、抽出部30の回転数成分演算器14は、電力演算器13により演算された電力の値から、回転数成分を抽出する。そして、回転数成分演算器14は、その回転数の2倍の回転数を有する第3の基本波(例えば、正弦波)を電力の変動成分として求めてゼロクロス演算器15へ出力する。
【0098】
ゼロクロス演算器15は、第3の基本波を回転数成分演算器14から受け、第3の基本波の減少方向のゼロクロス点を特定して記憶装置16へ出力する。
【0099】
記憶装置16は、第3の基本波における減少方向のゼロクロス点の位相をゼロクロス演算器15から受けて(例えば、起動時に1回)記憶する。
【0100】
推定部40の基本波発生器17は、第3の基本波と位相が180°ずれた逆相となる第4の基本波を求める。すなわち、基本波発生器17は、第3の基本波における減少方向のゼロクロス点の位相を記憶装置16から読み出して、ゼロクロス点の位相を始点とするとともに第3の基本波と同じ回転数を有する第4の基本波(例えば、正弦波)を、モータMの負荷トルクTLの変動特性として推定する。
【0101】
これにより、ツインロータリコンプレッサのような、ロータの1回転中に2回トルク変動がある場合にも、トルク制御を行うことができる。
【0102】
あるいは、制御装置100は、電力演算器13が省略された構成であってもよい。すなわち、電圧指令による電圧の値がほぼ一定に安定した状態であれば、回転数成分演算器14は、電流検出器3により検出された相電流の値の変動波形から、回転数成分を抽出してもよい。この場合、モータMの負荷トルクTLの変動特性を推定するための処理をさらに簡略化することができる。
【0103】
あるいは、制御装置100の制御部50は、電圧振幅変調、電圧位相変調のいずれか一方を用いてトルク制御を行ってもよい。電圧振幅変調を用いてトルク制御を行う場合、制御部50は、電圧位相変調を行うための構成(位相ゲインテーブル18、掛算器19、加算器4)が省略された構成であってもよい。また、電圧位相変調を用いてトルク制御を行う場合、制御部50は、電圧振幅変調を行うための構成(振幅ゲインテーブル20、掛算器21、加算器10)が省略された構成であってもよい。
【0104】
あるいは、制御装置100iの制御部50iは、指令回転数に応じてトルク制御のゲインを変更する代わりに、負荷トルクTLに対応した値として演算された電力(又は検出された相電流)に応じてトルク制御のゲインを変更してもよい。具体的には、制御部50iは、図7に示すように、位相ゲインテーブル18i及び振幅ゲインテーブル20iを有する。
【0105】
位相ゲインテーブル18iは、例えば電力を電力演算器13から受ける。位相ゲインテーブル18iは、予め実験的に取得されたテーブル180i(図8(a)参照)を参照して電力に応じた位相ゲインを決定し掛算器19へ出力する。図8(a)に示すテーブル180iは、予め実験的に取得されたテーブルである。テーブル180iは、電力欄183i及び位相ゲイン欄182iを含む。電力欄183iには、電力の候補PW1、PW2、・・・が記録されている。位相ゲイン欄182iには、電力に対する、負荷トルクTLと電気トルクTEとの差が小さくなるように電圧位相を変化させるための位相ゲインPHG1’、PHG2’、・・・が記録されている。すなわち、テーブル180iを参照することにより、電力に応じて、電気トルクを負荷トルクに追従させるためのトルク補償値としての位相ゲインを特定することができる。
【0106】
振幅ゲインテーブル20iは、例えば電力を電力演算器13から受ける。振幅ゲインテーブル20iは、予め実験的に取得されたテーブル200i(図8(b)参照)を参照して電力に応じた振幅ゲインを決定し掛算器21へ出力する。図8(b)に示すテーブル200iは、予め実験的に取得されたテーブルである。テーブル200iは、電力欄203i及び振幅ゲイン欄202iを含む。電力欄203iには、電力の候補PW1、PW2、・・・が記録されている。振幅ゲイン欄202iには、電力に対する、負荷トルクTLと電気トルクTEとの差が小さくなるように電圧振幅を変化させるための振幅ゲインAG1’、AG2’、・・・が記録されている。すなわち、テーブル200iを参照することにより、電力に応じて、電気トルクを負荷トルクに追従させるためのトルク補償値としての振幅ゲインを特定することができる。
【0107】
あるいは、制御装置100jの制御部50jは、指令回転数と電力(又は相電流)との両方に応じてトルク制御のゲインを変更してもよい。具体的には、制御部50jは、図9に示すように、位相ゲインテーブル18j及び振幅ゲインテーブル20jを有する。
【0108】
位相ゲインテーブル18jは、指令回転数を回転数設定器5から受け、例えば電力を電力演算器13から受ける。位相ゲインテーブル18jは、予め実験的に取得されたテーブル180j(図10(a)参照)を参照して指令回転数及び電力の両方に応じた位相ゲインを決定し掛算器19へ出力する。図10(a)に示すテーブル180jは、予め実験的に取得されたテーブルである。テーブル180jは、回転数欄181j、電力欄183j及び位相ゲイン欄182jを含む。回転数欄181jには、指令される可能性のある指令回転数の候補N1、N1、・・・、N2、・・・が記録されている。電力欄183jには、電力の候補PW1、PW2、・・・、PW1、・・・が記録されている。位相ゲイン欄182jには、指令回転数及び電力に対する、負荷トルクTLと電気トルクTEとの差が小さくなるように電圧位相を変化させるための位相ゲインPHG11、PHG12、・・・、PHG21、・・・が記録されている。すなわち、テーブル180jを参照することにより、指令回転数及び電力の両方に応じて、電気トルクを負荷トルクに追従させるためのトルク補償値としての位相ゲインを特定することができる。
【0109】
振幅ゲインテーブル20jは、指令回転数を回転数設定器5から受け、例えば電力を電力演算器13から受ける。振幅ゲインテーブル20jは、予め実験的に取得されたテーブル200j(図10(b)参照)を参照して指令回転数及び電力の両方に応じた振幅ゲインを決定し掛算器21へ出力する。図10(b)に示すテーブル200jは、予め実験的に取得されたテーブルである。テーブル200jは、回転数欄201j、電力欄203j及び振幅ゲイン欄202jを含む。回転数欄201jには、指令される可能性のある指令回転数の候補N1、N1、・・・、N2、・・・が記録されている。電力欄203jには、電力の候補PW1、PW2、・・・、PW1、・・・が記録されている。振幅ゲイン欄202jには、指令回転数及び電力に対する、負荷トルクTLと電気トルクTEとの差が小さくなるように電圧振幅を変化させるための振幅ゲインAG11、AG12、・・・、AG21、・・・が記録されている。すなわち、テーブル200iを参照することにより、指令回転数及び電力の両方に応じて、電気トルクを負荷トルクに追従させるためのトルク補償値としての振幅ゲインを特定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
以上のように、本発明にかかるモータの制御装置は、コンプレッサのモータを制御することに有用である。
【符号の説明】
【0111】
100、100i、100j 制御装置
30 抽出部
40 推定部
50、50i、50j 制御部
60 駆動部
70 検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に変動する負荷トルクを有する負荷を駆動するモータを指令回転数で動作させるように制御するモータの制御装置であって、
前記モータを駆動する駆動部と、
前記駆動部により前記モータを駆動する際にモータ巻線に流す相電流を検出する検出部と、
前記検出部により検出された相電流に応じた値の変動成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記値の変動成分に基づいて、前記負荷トルクの変動特性を推定する推定部と、
前記推定部により推定された負荷トルクの変動特性を用いて、前記駆動部の制御信号を生成する制御部と、
を備え、
前記駆動部は、前記制御部により生成された制御信号に従って、前記モータを駆動する
ことを特徴とするモータの制御装置。
【請求項2】
前記抽出部は、前記検出部により検出された相電流に応じた値として電力を演算し、前記電力の変動成分を抽出し、
前記制御部は、前記抽出部により抽出された前記電力の変動成分を用いて、前記駆動部の制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のモータの制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記推定部により推定された負荷トルクの変動特性に電気トルクが追従するように、前記駆動部の制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のモータの制御装置。
【請求項4】
前記抽出部は、前記値の変化から回転数成分である第1の基本波を前記値の変動成分として求め、前記第1の基本波の減少方向のゼロクロス点を特定し、
前記推定部は、前記ゼロクロス点を始点とするとともに前記回転数を有する第2の基本波を、前記モータの負荷トルクの変動特性として推定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のモータの制御装置。
【請求項5】
前記コンプレッサは、ツインロータリコンプレッサであり、
前記抽出部は、前記値の変化から回転数を抽出し、前記回転数の2倍の回転数を有する第3の基本波を前記値の変動成分として求め、前記第3の基本波の減少方向のゼロクロス点を特定し、
前記推定部は、前記ゼロクロス点を始点とするとともに前記回転数の2倍の回転数を有する第4の基本波を、前記モータの負荷トルクの変動特性として推定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のモータの制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記指令回転数及び前記値の少なくとも一方に応じて前記推定部により推定された負荷トルクに対するゲインを変更し、前記推定部により推定された負荷トルクに前記変更されたゲインを乗じて、電気トルクを負荷トルクに追従させるためのトルク補償値を求め、前記トルク補償値に応じて前記駆動部の制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項3に記載のモータの制御装置。
【請求項7】
前記ゲインは、前記推定部により推定された負荷トルクから電圧指令に対する振幅補償値を求める際の第1のゲインを含み、
前記制御部は、前記推定部により推定された負荷トルクに前記変更された前記第1のゲインを乗じて、電圧指令に対する振幅補償値を前記トルク補償値として求め、前記振幅補償値により補償された電圧指令に応じて前記駆動部の制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項6に記載のモータの制御装置。
【請求項8】
前記ゲインは、前記推定部により推定された負荷トルクから電圧指令に対する位相補償値を求める際の第2のゲインを含み、
前記制御部は、前記推定部により推定された負荷トルクに前記変更された前記第2のゲインを乗じて、電圧指令に対する位相補償値を前記トルク補償値として求め、前記位相補償値により補償された電圧指令に応じて前記駆動部の制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項6に記載のモータの制御装置。
【請求項9】
周期的に変動する負荷トルクを有する負荷を駆動するモータを指令回転数で動作させるように制御するモータの制御方法であって、
前記モータを駆動する際にモータ巻線に流す相電流を検出し、
前記検出された相電流に応じた値の変動成分を抽出し、
前記抽出された前記値の変動成分に基づいて、前記モータの負荷トルクの変動特性を推定し、
前記推定された負荷トルクの変動特性を用いて、前記モータを駆動するための制御信号を生成し、
前記生成された制御信号に従って、前記モータを駆動する
ことを特徴とするモータの制御方法。
【請求項10】
前記抽出では、前記検出された相電流に応じた電力を演算し、前記電力の変動成分を抽出し、
前記生成では、前記抽出された前記電力の変動成分を用いて、前記モータを駆動するための制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項9に記載のモータの制御方法。
【請求項11】
前記生成では、前記推定された負荷トルクの変動特性に電気トルクが追従するように、前記モータを駆動するための制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項9又は10に記載のモータの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−210061(P2012−210061A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73688(P2011−73688)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000006611)株式会社富士通ゼネラル (1,266)
【Fターム(参考)】