説明

モータ制御装置およびシステム

【課題】回生電力の消費処理を小規模でかつ低容量の回生抵抗器を使用して行うことができるモータ制御装置を得ること。
【解決手段】母線電圧を生成するコンバータ回路と、両端に印加される前記母線電圧を任意の大きさおよび周波数の交流電圧に変換してモータへ供給するインバータ回路と、前記インバータ回路に並列に接続されて両端に前記母線電圧が印加される回生抵抗器および回生トランジスタの直列回路を備える回生回路と、前記モータからの回生電力により前記母線電圧が所定値を超えたときに、該回生電力を前記回生抵抗器に消費させるため、前記回生トランジスタをオンさせる制御手段とを備えたモータ制御装置において、前記制御手段は、前記回生トランジスタのオン時間割合を、前記回生回路の状態である回生負荷率に応じて可変制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ方式でモータを駆動制御するモータ制御装置および前記モータ制御装置の複数台を互いの母線が共通母線となるように接続したモータ制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータは、高速運転から減速運転になると、発電機として動作する。そのため、インバータ方式でモータを駆動制御するモータ制御装置では、モータからの回生電力により母線電圧が上昇するのを抑制するために、正極母線と負極母線との間に、モータからの回生電力を消費処理する回生回路を設けている。この回生回路は、両端に母線電圧が印加される回生トランジスタおよび回生抵抗器の直列回路を備えている。また、回生回路の動作電圧として、回生トランジスタをオンさせると判断する母線電圧(回生トランジスタのオン電圧と称されている)と、回生トランジスタをオフさせると判断する母線電圧(回生トランジスタのオフ電圧と称されている)とを定めている。
【0003】
ここで、従来のモータ制御装置において行われている回生電力の消費処理方法は、母線電圧が回生トランジスタのオン電圧になると、母線電圧が回生トランジスタのオフ電圧以下になるまで、回生トランジスタを連続してオンさせる方法である。
【0004】
また、モータからの回生電力の消費処理は、複数台のモータ制御装置を互いの母線が共通母線となるように接続したモータ制御システムにおいても必要であり、種々の提案がなれている(例えば、特許文献1〜3等)。
【0005】
特許文献1に記載された回生電力の消費処理方法は、モータ制御システムを制御するためのシステムコントローラが備えられており、前記システムコントローラが各モータ制御装置から転送される回生負荷情報より、回生負荷の大きいモータ制御装置の回生回路の動作レベルを上げ、回生負荷の小さいモータ制御装置の回生回路の動作レベルを下げることによって、各モータ制御装置の回生回路の動作レベルを均等にする方法である。
【0006】
特許文献2に記載された回生電力の消費処理方法は、互いの母線が並列に接続された複数台のモータ制御装置間で、回生トランジスタのオン、オフの状態を示す回生トランジスタの駆動信号の状態を送受信し、いずれか1台でもオン信号が存在すれば、並列に接続された複数台のモータ制御装置全ての回生トランジスタをオンさせることで、回生回路の負荷を均等にする方法である。
【0007】
特許文献3に記載された回生電力の消費処理方法は、回生回路の状態に応じてモータ制御装置の回生回路を構成する回生トランジスタのオン電圧をそれぞれのモータ制御装置において独立して可変とする方法であり、コントローラや他のモータ制御装置との間の信号伝送を不要にして回路構成の簡略化を可能にするとともに、各モータ制御装置の回生抵抗による消費電力を均等化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−89285号公報
【特許文献2】特開2005−253213号公報
【特許文献3】特開2010−110139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来のモータ制御装置での回生電力の消費処理方法では、回生抵抗器に連続して回生電流が流れるので、回生抵抗器の小規模化、低容量化が困難であり、コストの低減が困難である。
【0010】
また、特許文献1や特許文献2に記載された従来技術は、何れも各モータ制御装置の回生負荷を均等化するために、システムコントローラとモータ制御装置との間、または、各モータ制御装置の相互間で情報のやりとりが必要であり、信号伝送システム等の回路構成が複雑になるという問題があった。特許文献3に記載された従来技術は、これらの回路構成の簡略化を可能にするとともに、各モータ制御装置の回生トランジスタのオン電圧を独立して可変とすることにより回生負荷の均等化を実現している。
【0011】
しかし、特許文献3に記載の方法では、複数台のモータ制御装置を共通母線にて接続するシステム構成において、例えば、複数台のモータ制御装置の回生回路のうち1つの回生回路の負荷が100%となった場合に、他モータ制御装置の回生回路に余力を持たせたまま保護機能が作動する場合がある。
【0012】
例えば、母線電圧を部品のばらつきにより一番高く検出してしまうモータ制御装置(仮にAとする)では、回生電力がモータから返ってきたときに一番早く回生処理を行い、回生負荷率が上昇し、回生トランジスタのオン電圧レベルを上げる処理が行われる。また、モータ制御装置A以外の回生動作を行っていないモータ制御装置は、回生負荷率が低下するため、回生トランジスタのオン電圧レベルは低下し、回生処理が行われやすくなる。
【0013】
但し、この場合に、モータから返ってきている回生電力が、システム内の全ての回生回路の回生トランジスタをオンしてもモータ制御装置Aの回生トランジスタのオン電圧レベルとして設定できる最大値以下に母線電圧が下がらない電力であった場合、モータ制御装置Aおよび残りの全てのモータ制御装置で同時に回生処理が行われる。しかし、モータ制御装置Aを含む全てのモータ制御装置の回生回路ではまだ回生負荷率に余力がある状態であるにも関わらず、モータ制御装置Aの回生負荷率が保護レベルとなり、保護機能が作動してしまう場合がある。
【0014】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、回生電力の消費処理を小規模でかつ低容量の回生抵抗器を使用して行うことができるモータ制御装置を得ることを目的とする。
【0015】
また、本発明は、上記発明によるモータ制御装置を用いて全ての回生回路の能力を最大限に使用して回生電力の消費処理が行えるモータ制御システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるモータ制御装置は、母線電圧を生成するコンバータ回路と、両端に印加される前記母線電圧を任意の大きさおよび周波数の交流電圧に変換してモータへ供給するインバータ回路と、前記インバータ回路に並列に接続されて両端に前記母線電圧が印加される回生抵抗器および回生トランジスタの直列回路を備える回生回路と、前記モータからの回生電力により前記母線電圧が所定値を超えたときに、該回生電力を前記回生抵抗器に消費させるため、前記回生トランジスタをオンさせる制御手段とを備えたモータ制御装置において、前記制御手段は、前記回生トランジスタのオン時間割合を、前記回生回路の状態である回生負荷率に応じて可変制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、回生抵抗器には、回生電流が連続して流れずに断続して流れるので、回生電力の消費処理を小規模でかつ低容量の回生抵抗器を使用して行うことができる。したがって、モータ制御装置のコストの低減が図れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1によるモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、回生電力の消費処理動作を説明するタイムチャートである。
【図3】図3は、本発明の実施の形態2によるモータ制御システムの構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態3として、回生トランジスタのオン時間割合を回生回路の状態である回生負荷率に応じて可変制御する方法の他の例を説明する特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明にかかるモータ制御装置およびシステムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるモータ制御装置の構成を示すブロック図である。図1において、モータ制御装置2の交流入力端子L1、L2、L3には三相交流電源1が接続され、出力端子U、V、Wには負荷としてモータ10が接続されている。
【0021】
モータ制御装置2は、コンバータ回路3と、回生回路6と、電圧型インバータ回路9と、母線電圧検出回路11と、回生トランジスタ駆動回路12と、インバータ駆動回路13と、演算部14とを備えている。
【0022】
コンバータ回路3は、ダイオードスタック4と、主回路コンデンサ5とで構成される。ダイオードスタック4は、交流入力端子L1、L2、L3から給電される三相交流電圧を直流電圧へ変換する。ダイオードスタック4の正極出力端に正極母線Pが接続され、ダイオードスタック4の負極出力端に負極母線Nが接続される。主回路コンデンサ5は、正極母線Pと負極母線Nとの間に接続され、ダイオードスタック4の出力電圧を平滑し、正極母線Pと負極母線Nとの間に所定の母線電圧を形成する。
【0023】
電圧型インバータ回路9は、正極母線Pと負極母線Nとの間に、上下アームスイッチング素子の3組が並列に接続され、各スイッチング素子がインバータ駆動回路13からの駆動信号により母線電圧をスイッチングすることで、母線電圧を任意の大きさおよび周波数の交流電圧へ変換し、出力端子U、V、Wからモータ10へ駆動信号を出力する。
【0024】
モータ10は、力行動作と回生動作とを行う。モータ10が回生動作を行う場合には、その回生電力が電圧型インバータ回路9を介して主回路コンデンサ5を充電し母線電圧を上昇変化させる。
【0025】
回生回路6は、正極母線Pと負極母線Nとの間に直列に接続された回生トランジスタ7および回生抵抗器8を備えている。この実施の形態1では、回生トランジスタ7は、モータ10からの回生電力により母線電圧が所定の上昇変化をした場合、回生トランジスタ駆動回路12から供給されるオン時間幅が変化する駆動信号によりオン・オフ駆動される。これによって、モータ10からの回生電力が回生抵抗器8で消費される。
【0026】
母線電圧検出回路11は、母線電圧を検出し演算部14に出力する。回生トランジスタ駆動回路12は、演算部14からのこの実施の形態1による駆動指令信号に従ってオン時間幅が変化する駆動信号を生成し回生トランジスタ7をオン・オフ駆動する。インバータ駆動回路13は、演算部14からのPWM電圧指令に従って電圧型インバータ回路9の各スイッチング素子にスイッチング動作を行わせる。
【0027】
演算部14は、モータ10の運転を制御する制御手段として、検出されたモータ10の回転速度や電流値といったフィードバック情報からPWM電圧指令を演算しインバータ駆動回路13に与える処理を行う。
【0028】
また、演算部14は、回生電力を消費する処理を行う制御手段として、母線電圧に対する回生回路6の動作電圧である回生トランジスタ7のオン電圧およびオフ電圧が予め定められていて、母線電圧検出回路11にて検出された母線電圧の変化を予め定められた回生回路6の動作電圧と比較し、母線電圧が回生トランジスタ7のオン電圧を超えると、回生トランジスタ7をオンさせて回生電力を回生抵抗器8に消費させる処理(母線電圧を回生トランジスタ7のオフ電圧以下に引き下げる処理)を行う。
【0029】
一般に行われている回生電力の消費処理方法は、回生トランジスタ7を、母線電圧が回生トランジスタ7のオフ電圧以下に降下するまでの間、継続してオン動作させ、母線電圧が回生トランジスタ7のオフ電圧以下に降下するとオフ動作させる方法である。
【0030】
これに対しこの実施の形態1による回生電力の消費処理方法は、母線電圧が回生トランジスタ7のオフ電圧以下に降下するまでの間、回生トランジスタ7の導通時間(オン時間割合)を回生回路6の状態である回生負荷率に応じて可変させる方法である。この実施の形態1による演算部14は、そのような内容の駆動指令信号を生成し回生トランジスタ駆動回路12に与える。
【0031】
ここで、回生負荷率は、例えば、予め設定されている回生トランジスタ7のオン電圧と回生トランジスタ7のオン時間幅とに基づき算出される。また、回生トランジスタ7のオン時間割合は、回生処理動作を規定する単位時間の幅を100%として決定する。
【0032】
以下、図2を参照して、この実施の形態による回生電力の消費処理動作について具体的に説明する。図2は、回生電力の消費処理動作を説明するタイムチャートである。図2では、(1)母線電圧に対する回生回路の動作電圧と、(2)回生回路の状態である回生負荷率と、(3)回生トランジスタのオン(ON)・オフ(OFF)状態と、が示されている。等間隔で示す時刻t0〜t7は、それぞれ回生電力を消費する処理動作を規定する単位時間の開始/終了と回生トランジスタ7のオン時間割合とを決定する時刻である。この例において、時刻t0は、回生電力の処理動作開始時刻であり、時刻t6は、回生電力の処理動作の終了を認識する時刻である。
【0033】
図2(1)において、回生電力の処理動作開始時刻t0以前における母線電圧21は、母線にモータ10から回生電力から返ってきていない場合の母線電圧である。時刻t0〜t7における母線電圧22は、母線にモータ10から返ってきた回生電力による母線電圧である。母線電圧22は、時刻t0の直前で母線電圧21から急上昇し、時刻t0以降、この実施の形態1による消費処理により降下変化するパターンで示されている。
【0034】
そして、図2(1)に示すように、回生回路6の動作電圧として、回生トランジスタ7のオフ電圧23が、母線電圧21よりも高い所定電圧に設定されている。回生トランジスタ7のオン電圧24は、オフ電圧23よりも高い所定電圧であり、回生回路6の回生電力処理能力やモータ10から返って来る回生電力の大きさなどを勘案して定められる。
【0035】
図2(2)では、回生電力の消費処理に用いる回生負荷率として、大きさ(%)が、第1の判定負荷率26<第2の判定負荷率28<第3の判定負荷率30の関係にある3つの判定負荷率26,28,30を用いる例が示されている。
【0036】
さて、図2(1)(2)(3)において、回生電力の処理動作開始時刻t0までは、回生トランジスタ7はオフしていて回生負荷率25は0%である。この状態で、モータ10から回生電力が返ってきて、母線電圧21が回生トランジスタ7のオン電圧24を超える母線電圧22に上昇したことが検出されると、時刻t0にて回生トランジスタ7をオンさせ回生電力の消費処理動作が開始される。回生負荷率25は、回生抵抗器8が有する熱時定数と流れた電流値とにより上昇する。なお、第1の判定負荷率26は、例えば60%である。判定負荷率26になると、単位時間当たりのオン時間割合が例えば80%になるように制御される。このときの制御方法は図2(3)に示すように連続してオンし80%の場合もあれば、PWM信号のようにさらに細分化して単位時間当たりのオン時間割合が合計80%の場合もある。また、オン時間割合は、前述したように、時刻t0〜t7のタイミングで判断される。回生トランジスタ7がオンしている間での母線電圧22は、オン電圧24からオフ電圧23に向かって降下していく。
【0037】
図2(2)において、時刻t0,t1,t2の演算タイミングにおける回生負荷率25は、第1の判定負荷率26を超えていない。したがって、図2(3)に示すように、時刻t0,t1間と、時刻t1,t2間と、時刻t2,t3間との各単位時間では回生トランジスタ7のオン時間割合は100%となる。次に、回生トランジスタ7のオン時間割合を決定する時刻t3において第1の判定負荷率26を超えているため、時刻t3にて演算される回生トランジスタ7のオン時間割合は80%となる。
【0038】
時刻t3,t4間の単位時間内では、例えば母線電圧22は回生電力の影響を受け続けているため、回生トランジスタ7がオフすると、母線電圧22が上昇に転ずる。一方、回生負荷率25は、降下していき、時刻t4では負荷率27に低下する。
【0039】
処理動作を規定する時刻t4において母線電圧22は、未だオフ電圧23以下になっておらず、負荷率27は予め定めた第2の判定負荷率28(例えば70%)を超えているため、時刻t4,t5間における回生トランジスタ7のオン時間割合は例えば70%と決定され回生処理が実施される。これによって、次の時刻t4,t5間の単位時間内では、母線電圧22は下降に転ずる。一方、回生負荷率25は、負荷率27から上昇する。
【0040】
時刻t4,t5間の単位時間内では、母線電圧22は未だ回生電力の影響を受け続けているため、回生トランジスタ7がオフすると、母線電圧22が上昇に転ずる。一方、回生負荷率25は、降下していき、時刻t5では負荷率29に低下する。
【0041】
処理動作を規定する時刻t5のタイミングにおいては、母線電圧22は、未だオフ電圧23以下になっておらず、負荷率29は予め定めた第3の判定負荷率30(例えば80%)を超えているため、時刻t5,t6間における回生トランジスタ7のオン時間割合は例えば50%と決定され回生処理が実施される。これによって、次の時刻t5,t6間の単位時間内では、母線電圧22は下降に転ずる。図示例では、母線電圧22はオフ電圧23以下に降下している。
【0042】
処理動作を規定する時刻t6のタイミングにおいて母線電圧22がオフ電圧23以下になっているため、回生電力の消費処理を終了したと判断し、回生トランジスタ7をオンさせずオフ状態を継続する。回生負荷率25は、降下していく。
【0043】
以上のように、この実施の形態1では、母線電圧が回生トランジスタ7のオン電圧を超えると、回生トランジスタ7のオン時間割合を、回生負荷率が小さい場合は大きくし、回生負荷率が大きい場合は小さくする制御が行えるように、複数の判定負荷率を用意し、検出された母線電圧に応じて選択し、判定負荷率間の大きさに応じて回生トランジスタ7のオン時間割合を可変させることで、回生電力の消費処理を行う。
【0044】
なお、回生トランジスタのオン時間割合を回生回路の状態である回生負荷率に応じて可変制御する方法は、図2に示す方法に限定されるものではない。例えば、後述する図4に示す方法なども可能である。
【0045】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2によるモータ制御システムの構成を示すブロック図である。図3では、複数台のモータ制御装置を互いの母線が共通母線となるように接続したモータ制御システムの一例として、2台のモータ制御装置54,55を、互いの正極母線Pおよび負極母線N同士を接続した構成例が示されている。
【0046】
図3において、モータ制御装置54の動作電源は、交流入力端子L1、L2、L3に接続される三相交流電源41である。モータ制御装置54の出力端子U、V、Wには負荷としてモータ52が接続されている。モータ制御装置54は、コンバータ回路42と、回生回路44と、電圧型インバータ回路47と、母線電圧検出回路48と、回生トランジスタ駆動回路49と、インバータ駆動回路50と、演算部51とを備えている。なお、各構成要素は、符号は変えてあるが、図1に示したモータ制御装置2の同一名称要素と同じ働きを行う。
【0047】
モータ制御装置55の動作電源は、三相交流電源41ではなく、互いの正極母線Pおよび負極母線N同士を接続した共通母線の母線電圧である。モータ制御装置55の出力端子U、V、Wには負荷としてモータ66が接続されている。モータ制御装置55は、コンバータ回路56と、回生回路60と、電圧型インバータ回路65と、母線電圧検出回路61と、回生トランジスタ駆動回路62と、インバータ駆動回路63と、演算部64とを備えている。なお、各構成要素は、符号は変えてあるが、図1に示したモータ制御装置2の同一名称要素と同じ働きを行う。
【0048】
但し、図3に示す構成では、モータ制御装置55のコンバータ回路56におけるダイオードスタック67は、省略可能である。3台以上となる場合には、追加するモータ制御装置は前段の母線電圧を動作電源とする構成である。
【0049】
図3に示すシステムでは、モータ制御装置54の演算部51と、モータ制御装置55の演算部64とが、互いに独立に、回生トランジスタ46,58の各オン時間割合をそれぞれの回生負荷率に応じて可変制御することにより、回生電力の消費処理を互いに独立して行う。具体的には、図2にて説明した方法や後述する図4に示す方法で回生トランジスタ46,58の各オン時間割合をそれぞれの回生負荷率に応じて可変制御することで、回生電力の消費処理を行う。
【0050】
この実施の形態2によれば、システムを構成している全ての回生回路に負荷が分散し、特定の回生回路への負荷集中が防止され回生過負荷状態を回避することができ、全ての回生回路の能力を最大限に使用することができる。したがって、従来技術のように、上位コントローラとモータ制御装置間またはモータ制御装置の相互間で信号をやりとりする必要がなくなり、簡単な回路構成で、母線共通システムを実現できる。
【0051】
また、従来、回生処理能力値や回生抵抗値の異なった回生回路を搭載するモータ制御装置を用いて共通母線システムを構成した場合、回生処理能力や許容回生電力消費量が低い回生回路が過負荷状態になるため、保護機能が動作し、システム全体が停止する問題があった。従来、この問題に対して、全てのモータ制御装置の回生回路、又は、回生処理能力の低い一部のモータ制御装置の回生回路を無効化し、別付けの回生回路を付属することによって解決していた。
【0052】
この問題に対し実施の形態2によれば、回生処理能力の低いモータ制御装置の回生トランジスタのオン時間割合が短くなることで回生負荷率の上昇を防ぎ、したがって保護機能が動作せず、他のモータ制御装置の回生回路にて残回生電力を処理していくため、特別な調整や付加装置が必要とならない。
【0053】
さらに、共通母線システムが適用されるアプリケーション、例えば、産業装置においては、複数軸の各モータを対応する各モータ制御装置が独立して駆動しており、全てのモータが同時に動き出し、同時に止まる(回生電力を返す)運転パターンは稀であり、全軸の稼動タイミングが違う運転パターンが一般的である。
【0054】
このようなアプリケーションにおいては、その運転パターンの内容から発生する回生電力の実効値は容易に算出することができる。この実効電力値が、共通母線システムを構成している複数台のモータ制御装置の回生処理能力の合算値以下であった場合、実効回生電力が消費できる回生能力値になるように、予め不要な回生回路を除去すること、又は、回生能力の低い回生抵抗器を使用することが可能であり、コストの低減効果をもたらすことができる。
【0055】
実施の形態3.
図4は、本発明の実施の形態3として、回生トランジスタのオン時間割合を回生回路の状態である回生負荷率に応じて可変制御する方法の他の例を説明する特性図である。図3において、縦軸は回生トランジスタのオン時間割合であり、横軸は回生負荷率である。
【0056】
縦軸では、オン時間割合100%と保護用オン時間割合DRとが示されている。オン時間割合100%は、回生処理動作の単位時間の時間幅と等しい時間割合である。保護用オン時間割合DRは、回生処理動作の単位時間の時間内において過回生として保護機能が動作しない所定時間割合である。保護用オン時間割合DRは、予め設定された消費可能電力値と回生トランジスタのオン電圧と既知である回生抵抗器の値とを式(1)に適用して算出される。
【0057】
DR=消費可能電力値÷{(回生トランジスタのオン電圧)/回生抵抗値}}
…(1)
【0058】
また、横軸では、第1の負荷率LIPと第2の負荷率LCPとが示されている。第1の負荷率LIPは、回生抵抗器にて消費することができる回生電力の許容値以内の所定負荷率である。第2の負荷率LCPは、回生トランジスタのオン時間割合を100%に維持できる限界の負荷率である。
【0059】
図4において、モータ制御装置の演算部は、回生トランジスタのオン時間割合を、回生負荷率が第2の負荷率LCPになるまで単位時間の幅と等しい100%の時間割合とすることを継続し、回生負荷率が第2の負荷率LCPから第1の負荷率LIPになるまでの間100%の時間割合から保護用オン時間幅DRに向かって関数的に減少させ、回生負荷率が第1の負荷率LIPになると、保護用オン時間割合DRとする、または、保護用オン時間割合DR以下の所定時間幅にする制御を行う。
【0060】
この実施の形態3による回生トランジスタのオン時間幅の制御方法によれば、回生電力の消費処理を回生回路で消費することができる回生電力の許容値を超えないように実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明にかかるモータ制御装置は、回生電力の消費処理を小規模でかつ低容量の回生抵抗器を使用して行うことができるモータ制御装置として有用であり、特に、共通母線構成のモータ制御システムに適用して、全ての回生回路の能力を最大限に使用して回生電力の消費処理が行えるモータ制御システムを構築するのに適している。
【符号の説明】
【0062】
1,41 三相交流電源
2,54,55 モータ制御装置
3,42,56 コンバータ回路
4,53,67 ダイオードスタック
5,43,57 主回路コンデンサ
6,44,60 回生回路
7,45,59 回生抵抗器
8,46,58 回生トランジスタ
9,47,65 電圧型インバータ
10,52,66 モータ
11,48、61 母線電圧検出回路
12,49,62 回生トランジスタ駆動回路
13,50,63 インバータ駆動回路
14,51,64 演算部
21 回生電力が返っていないときの母線電圧
22 回生電力が返ってきたときの母線電圧
23 回生トランジスタのオフ電圧(回生トランジスタをオフさせると判断する母線電圧)
24 回生トランジスタのオン電圧(回生トランジスタをオンさせると判断する母線電圧)
25 回生負荷率
26,28,30 判定負荷率
P 正極母線
N 負極母線
DR 保護用オン時間割合
LIP 第1の回生負荷率
LCP 第2の回生負荷率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母線電圧を生成するコンバータ回路と、
両端に印加される前記母線電圧を任意の大きさおよび周波数の交流電圧に変換してモータへ供給するインバータ回路と、
前記インバータ回路に並列に接続されて両端に前記母線電圧が印加される回生抵抗器および回生トランジスタの直列回路を備える回生回路と、
前記モータからの回生電力により前記母線電圧が所定値を超えたときに、該回生電力を前記回生抵抗器に消費させるため、前記回生トランジスタをオンさせる制御手段と
を備えたモータ制御装置において、
前記制御手段は、
前記回生トランジスタのオン時間割合を、前記回生回路の状態である回生負荷率に応じて可変制御する
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記回生トランジスタのオン時間割合を、前記回生負荷率が小さい場合は大きくする制御を行い、前記回生負荷率が大きい場合は小さくする制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記回生抵抗器で消費できる回生電力の許容値に近い第1の負荷率と該第1の負荷率よりも小さい第2の負荷率とを定め、かつ、過回生として保護機能が起動されない所定時間割合を前記回生トランジスタの保護用オン時間割合に設定し、
前記回生トランジスタのオン時間割合を、前記回生負荷率が前記第2の負荷率になるまで前記単位時間の割合と等しい100%の時間割合とすることを継続し、前記回生負荷率が前記第2の負荷率から前記第1の負荷率になるまでの間前記100%の時間割合から前記保護用オン時間割合に向かって関数的に減少させ、前記回生負荷率が前記第1の負荷率になると前記保護用オン時間割合とする、または、前記保護用オン時間割合以下の所定時間割合にする
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
複数台のインバータ方式モータ制御装置を互いの母線が共通母線となるように接続したモータ制御システムにおいて、
前記複数台のインバータ方式モータ制御装置は、それぞれ請求項1に記載のモータ制御装置であり、
前記複数台のモータ制御装置における前記制御手段は、それぞれ独立に、
前記回生トランジスタのオン時間割合を、前記回生回路の状態である回生負荷率に応じて可変制御する
ことを特徴とするモータ制御システム。
【請求項5】
前記複数台のモータ制御装置における前記制御手段は、それぞれ独立に、
前記回生トランジスタのオン時間割合を、前記回生負荷率が小さい場合は大きくする制御を行い、前記回生負荷率が大きい場合は小さくする制御を行う
ことを特徴とする請求項4に記載のモータ制御システム。
【請求項6】
前記複数台のモータ制御装置における前記制御手段は、それぞれ独立に、
前記回生抵抗器で消費できる回生電力の許容値に近い第1の負荷率と該第1の負荷率よりも小さい第2の負荷率とを定め、かつ、過回生として保護機能が起動されない所定時間幅を前記回生トランジスタの保護用オン時間割合に設定し、
前記回生トランジスタのオン時間割合を、前記回生負荷率が前記第2の負荷率になるまで前記単位時間の割合と等しい100%の時間割合とすることを継続し、前記回生負荷率が前記第2の負荷率から前記第1の負荷率になるまでの間前記100%の時間割合から前記保護用オン時間割合に向かって関数的に減少させ、前記回生負荷率が前記第1の負荷率になると前記保護用オン時間割合とする、または、前記保護用オン時間割合以下の所定時間割合にする
ことを特徴とする請求項4に記載のモータ制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−175871(P2012−175871A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37646(P2011−37646)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】