説明

モータ制御装置及び制御方法

【課題】共振系の振動を低減すると共に、動力伝達機構内部や被駆動体に発生する外乱によって生じる振動を低減すること。
【解決手段】フィードバック制御系は、速度制御器13の出力に共振比係数Kを掛け合わせた値を第1の乗算結果として出力する第1の共振比ゲイン付与部14と、ギヤ18の入力側及び出力側のそれぞれの回転角度を検出するための第1、第2の位置検出器20、21と、これらの検出値を用いてギヤ18の捻り量を算出する換算部22及び減算器23とを含む。フィードバック制御系はまた、算出された捻り量から被駆動体19の運動による反力の推定値を算出するゲイン付与部26と、算出された反力の推定値に(1−K)を掛け合わせた値を第2の乗算結果として出力する第2の共振比ゲイン付与部27と、前記第1の乗算結果と前記第2の乗算結果とを足し合わせた値を最終的なトルク指令値としてトルク制御器16に出力する加算器15とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータ制御装置及び制御方法に関し、減速機構、送りネジ機構等の動力伝達機構を備えるモータに適した制御装置及び制御方法に関する。なお、本発明による制御装置及び制御方法はリニアモータにも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
モータのうち、出力軸に動力伝達機構として、例えば機械的な減速機構(以後、ギヤと呼ぶ)を備えるモータでは、ギヤの機械的剛性、モータにおけるロータのイナーシャ、ギヤの出力軸に連結する被駆動体のイナーシャによって、機械共振系が構成される。この機械共振系の共振現象により制御周波数帯域の向上が阻害される。
【0003】
また、この様なモータの制御系は、モータにおけるロータの回転速度あるいは角度を計測してモータの駆動トルクを調整する、いわゆるセミクローズド制御による構成が一般的である。しかしながら、ギヤのバックラッシや伝達誤差などは、モータのロータでは検出し難いことから、ギヤ出力側の運動制御精度の向上は困難である。
【0004】
その為、ギヤ出力側に回転数あるいは角度を検出するセンサを設置し、その検出信号をフィードバックすることにより、上記のようなギヤで生じる運動誤差を低減する提案がこれまでにもなされている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
一方、機械共振系の共振現象を考慮した制御手法として共振比制御手法が知られており、例えば特許文献3には「共振比制御による2慣性共振系の振動抑制装置」が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第2623531号公報
【特許文献2】特開平10−23775号公報
【特許文献3】特開平8−137503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の例では、特に振動成分の低減を目的としており、摩擦抵抗などの低周波数域において発生する問題に対しては有効な対策となっていない。
【0008】
また、特許文献2の例では、ギヤ出力軸に結合される被駆動体のイナーシャを考慮していない構成のため、上記の共振現象に対して有効な対策にはなっていない。
【0009】
一方、共振比制御に関連する技術として、駆動モータと被駆動体とをギヤを介して連結した構成に共振比制御を適用する場合に考えられる制御系を、図2を参照して説明する。
【0010】
図2において、駆動モータ17の出力軸にギヤ18を介して被駆動体19が連結される。駆動モータ17のロータ(図示せず)にはその回転角度θを検出するための角度センサ(図示せず)が設置される。検出された回転角度θは疑似微分器29で微分されることでロータの角速度ωが得られる。
【0011】
第1の減算器12により速度指令器11からの速度指令値ωと疑似微分器29からのロータ角速度ωとの偏差ωが算出される。速度制御器13は偏差ωに基づいてトルクを示す出力τR0を出力する。
【0012】
共振比制御では、外乱オブザーバ31によって駆動モータ17のロータに加わるギヤ18からの反力を推定する。推定した反力に第2の共振比ゲイン付与部32により第2の共振比係数(1−K)を掛けた値と、速度制御器13からの出力τR0に第1の共振比ゲイン付与部14により第1の共振比係数Kを掛けた出力τR1とを加算器15によって足し合わせた値を最終的なトルク指令値τとする。なお、共振比係数Kは正数であり、駆動モータ17のロータと被駆動体19のイナーシャ比に応じて調整する。トルク制御器16はトルク指令値τに基づいて駆動モータ17の駆動を制御する。
【0013】
これにより、疑似微分器29からの角速度計測値のフィードバック信号ωを開いた時の、出力τR0から駆動モータ17のロータ角速度ωまでの開ループ伝達関数は図3に実線で示すように共振周波数が変化し、角速度フィードバックループを閉じた時の被駆動体19の反共振点より高域のゲイン特性が改善される。
【0014】
図2に示す制御系による共振比制御では、被駆動体19の動作による反力を駆動モータ17のロータ回転角度θから推定する。しかし、ギヤ18の摩擦が強いと被駆動体19の動作による反力は、摩擦力によって相殺され、駆動モータ17のロータヘ影響を及ぼさない。この様な場合、外乱オブザーバ31によって被駆動体19の動作による反力を推定できず、よって、上記のような共振比制御の効果が得られない。
【0015】
以上のような状況を鑑みて、本発明は、ギヤ、送りネジ機構等の動力伝達機構が備えられるモータにおいて、動力伝達機構の出力側に設置されたセンサから得られる信号をフィードバックして、モータのイナーシャ、動力伝達機構の剛性、被駆動体のイナーシャによる共振系の振動を低減すると共に、動力伝達機構内部や被駆動体に発生する外乱によって生じる振動を低減することのできるモータの制御装置及び制御方法を提供しようとするものである。
【0016】
本発明はまた、動力伝達機構における摩擦の影響による共振比制御の特性劣化を防止できるモータの制御装置及び制御方法を提供しようとするものである。
【0017】
本発明は更に、上記のモータ制御装置をリニアモータにも適用可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、モータの回転力を、動力伝達部材を介して被駆動体に伝達するようにしたモータの制御装置であって、前記モータに対してトルクを指定する出力トルク信号を出力する速度制御器を含むフィードバック制御系を備えたモータ制御装置に適用される。本発明によるモータ制御装置は、前記フィードバック制御系が、前記速度制御器の出力に共振比係数Kを掛け合わせた値を第1の乗算結果として出力する第1の算出手段と、前記動力伝達部材の入力側及び出力側に設置され、前記動力伝達部材の入力側及び出力側のそれぞれの変位量を検出するための第1、第2のセンサと、前記第1、第2のセンサの検出値を用いて前記動力伝達部材の歪量を算出する第2の算出手段と、算出された歪量から前記被駆動体による反力の推定値を算出する第3の算出手段と、算出された反力の推定値に(1−K)を掛け合わせた値を第2の乗算結果として出力する第4の算出手段と、前記第1の乗算結果と前記第2の乗算結果とを足し合わせた値を最終的なトルク指令値としてトルク制御器に出力する第1の加算手段とを含むことを特徴とする。
【0019】
上記モータ制御装置において、前記動力伝達部材がギヤの場合には、前記第1、第2のセンサは前記ギヤの入力側及び出力側の回転角度を検出するようにされる。また、前記第2の算出手段は、検出された前記ギヤの出力側の回転角度を当該ギヤの入力側回転角度に換算する換算部と、換算された前記入力側回転角度と検出された前記ギヤの入力側の回転角度との差である前記ギヤの捻り量を前記歪量として算出する減算手段とを含み、前記第3の算出手段は、算出された前記捻り量にあらかじめ計測された前記ギヤの捻り剛性Kを掛け合わせて前記被駆動体による反力の推定値を算出する。
【0020】
一方、上記モータ制御装置において、前記動力伝達部材が送りネジ機構の場合には以下のようになる。前記第1、第2のセンサはそれぞれ送りネジの入力側の回転角度、直動部材の直動変位量を検出する。前記第2の算出手段は、検出された前記直動部材の直動変位量を前記送りネジの入力側回転角度に換算する換算部と、換算された前記入力側回転角度と検出された前記送りネジの入力側の回転角度との差である前記送りネジの変形量を前記歪量として算出する減算手段を含み、前記第3の算出手段は、算出された前記変形量にあらかじめ計測された前記送りネジの変形剛性Kを掛け合わせて前記被駆動体による反力の推定値を算出する。
【0021】
上記のモータ制御装置においては、前記フィードバック制御系が更に、前記歪量として算出された前記差を微分して角速度を算出する疑似微分器と、算出された角速度にあらかじめ定められたゲインを掛け合わせ、これを補正値として出力する第5の算出手段と、前記補正値を前記第4の算出手段からの前記第2の乗算結果に足し合わせた加算結果を出力する第2の加算手段とを備えていても良い。この場合、前記第1の加算手段は、前記第1の乗算結果と前記加算結果とを足し合わせた値を前記最終的なトルク指令値として前記トルク制御器に出力する。
【0022】
本発明によればまた、被駆動体に、ギヤを介して駆動力を伝達するモータの制御方法であって、前記モータに対してトルクを指定する出力トルク信号を出力する速度制御器を含むフィードバック制御系によるモータ制御方法が提供される。本発明によるモータ制御方法は、前記速度制御器の出力に共振比係数Kを掛け合わせた値τR1を算出するステップと、前記モータにおけるロータの回転角度θと前記ギヤの出力軸角度θ’とを検出するステップと、検出された出力軸角度θ’から前記ギヤの入力軸換算角度θを算出するステップと、検出された回転角度θと算出された入力軸換算角度θとの差θを算出するステップと、算出された差θに対してあらかじめ計測された前記ギヤの捻り剛性Kを掛け合わせて前記被駆動体による反力の推定値τR2’を算出するステップと、算出された反力の推定値τR2’に対して(1−K)を掛け合わせた値τR2を算出するステップと、算出された値τR1と値τR2とを足し合わせた値を最終的なトルク指令値τとしてトルク制御器に出力するステップとを含む。
【0023】
上記モータ制御方法において、ギヤに代えて送りネジ機構を備える場合には、前記速度制御器の出力に共振比係数Kを掛け合わせた値τR1を算出するステップと、前記モータにおけるロータの回転角度θを前記送りネジ機構における入力側の回転角度として検出すると共に、直動部材の直動変位量を検出するステップと、検出された前記直動部材の直動変位量を前記送りネジ機構における入力側回転角度θに換算するステップと、検出された前記回転角度θと換算された前記入力側回転角度θとの差θを算出するステップと、算出された差θに対して前記送りネジの変形剛性Kを掛け合わせて前記被駆動体による反力の推定値τR2’を算出するステップと、算出された反力の推定値τR2’に対して(1−K)を掛け合わせた値τR2を算出するステップと、算出された値τR1と値τR2とを足し合わせた値を最終的なトルク指令値τとしてトルク制御器に出力するステップとを含むようにされる。
【0024】
上記のいずれのモータ制御方法においても、更に、前記算出された差θを微分して角速度ωを算出するステップと、算出された角速度ωにあらかじめ定められたゲインを掛け合わせて補正値τR3を算出するステップと、算出された補正値τR3を前記算出された値τR2に足し合わせるステップとを含んでも良い。この場合、足し合わされた値(τR2+τR3)を前記値τR1に足し合わせた値を前記最終的なトルク指令値τとする。
【0025】
本発明はまた、被駆動体を駆動するリニアモータの制御装置であって、該リニアモータに対して推力を指定する出力推力信号を出力する速度制御器を含むフィードバック制御系を備えたリニアモータモータ制御装置にも適用され得る。この場合、前記フィードバック制御系は、前記速度制御器の出力に共振比係数Kを掛け合わせた値を第1の乗算結果として出力する第1の算出手段と、前記リニアモータに備えられたリニアエンコーダと、前記被駆動体の位置を検出するためのセンサと、前記リニアエンコーダの検出値と前記センサの検出値との差を算出する第2の算出手段と、算出された差に前記被駆動体の軸受剛性Kを掛け合わせて前記被駆動体による反力の推定値を算出する第3の算出手段と、算出された反力の推定値に(1−K)を掛け合わせた値を第2の乗算結果として出力する第4の算出手段と、前記第1の乗算結果と前記第2の乗算結果とを足し合わせた値を最終的な推力指令値として推力制御器に出力する第1の加算手段とを含む。
【0026】
本発明によるリニアモータ制御装置においては、前記フィードバック制御系が更に、前記算出された差を微分して速度を算出する疑似微分器と、算出された速度にあらかじめ定められたゲインを掛け合わせ、これを補正値として出力する第5の算出手段と、前記補正値を前記第4の算出手段からの前記第2の乗算結果に足し合わせた加算結果を出力する第2の加算手段とを備えても良い。この場合、前記第1の加算手段は、前記第1の乗算結果と前記加算結果とを足し合わせた値を前記最終的な推力指令値として前記推力制御器に出力する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ギヤ、ボールネジ機構等の動力伝達機構が備えられるモータにおいて、動力伝達機構の入力側に設置されたセンサから得られる信号だけでなく、出力側に設置されたセンサから得られる信号をもフィードバックして、いわゆる共振比制御を行うことにより、モータのイナーシャ、動力伝達機構の剛性、被駆動体のイナーシャによる共振系の振動を低減すると共に、動力伝達機構内部や被駆動体に発生する外乱によって生じる振動を低減することができる。
【0028】
本発明によればまた、動力伝達機構における摩擦の影響による共振比制御の特性劣化を防止することができる。例えば、本発明を、動力伝達機構としてギヤを備えるモータに適用した場合には、ギヤの摩擦の影響による共振比制御手法の特性劣化を起こさず、良好にギヤの捻り共振を抑制することが可能となる。これにより、ギヤのバックラッシや伝達誤差に起因するギヤの捻り振動も良好に抑制される。その結果、モータの制御性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1を参照して、本発明によるモータ制御装置の好ましい実施形態について説明する。
【0030】
図1は、図2と同様、駆動モータと被駆動体とをギヤを介して連結した構成に共振比制御を適用する場合の本発明による制御系の一例をブロック図で示す。図1において、図2と同じ構成要素については同じ参照番号を付している。
【0031】
本実施形態の特徴を要約すれば、以下の通りである。
【0032】
1.ギヤ18の入力側及び出力側でそれぞれ、位置検出器20、21による位置(回転角度)検出を行うようにした。
【0033】
2.2つの位置検出器20、21からの検出値を用い、ギヤ18からの反力推定を、図2の外乱オブザーバ31とは異なる、改良された手段により行うようにした。
【0034】
3.新たに、ギヤ18の捻り振動をより良く減衰させるための手段を備えた。
【0035】
図1において、駆動モータ17の出力軸にギヤ18を介して被駆動体19が連結される。駆動モータ17のロータ(図示せず)にはその回転角度θを検出するための位置検出器(第1のセンサ)20が設置される。一方、ギヤ18の出力軸にはその回転角度θ’を検出するための位置検出器(第2のセンサ)21が設置される。検出された回転角度θは疑似微分器29で微分されることでロータの角速度ωが得られる。
【0036】
第1の減算器12により速度指令器11からの速度指令値ωと疑似微分器29からのロータ角速度ωとの偏差ωが算出される。速度制御器13は偏差ωに基づいてトルクを示す出力τR0を出力する。
【0037】
本実施形態による共振比制御では、換算部22によりギヤ18の出力軸角度θ’が入力軸換算角度θに換算される。この換算には、ギヤ18の減速比が用いられる。続いて、第2の減算器23によりロータ回転角度θと入力軸換算角度θとの差θがギヤ18の歪量、ここでは捻り量として算出される。換算部22と第2の減算器23はまとめて第2の算出手段として機能する。算出された捻り量θに対してゲイン付与部(第3の算出手段)26により、あらかじめ計測されたギヤ18の捻り剛性Kを掛け合わせることで被駆動体19による反力の推定値τR2’を算出する。ここで、被駆動体19による反力の推定値というのは、動力伝達部材であるギヤ18を介して駆動モータ17へ伝わる被駆動体19の運動による反力の推定値を意味する。一方、ギヤ18の捻り剛性Kは、ギヤ18に加えられたトルクτと捻り量θとの関係、具体的にはトルクτを横軸とし捻り量θを縦軸とする特性直線(曲線)の傾きから算出される。
【0038】
次に、第2の共振比ゲイン付与部(第4の算出手段)27により反力の推定値τR2’に対して第2の共振比係数(1−K)を掛け合わせた値τR2を算出する。この値τR2と、速度制御器13からの出力τR0に第1の共振比ゲイン付与部(第1の算出手段)14により第1の共振比係数Kを掛け合わせた出力τR1とを加算器(第1の加算手段)15によって足し合わせた値を最終的なトルク指令値τとする。前述したように、共振比係数Kは正数であり、駆動モータ17のロータと被駆動体19のイナーシャ比に応じて調整する。トルク制御器16はトルク指令値τに基づいて駆動モータ17の駆動を制御する。
【0039】
以上のような制御系により、図2の制御系と同様、疑似微分器29からの角速度計測値のフィードバック信号ωを開いた時の、出力τR0から駆動モータ17のロータ角速度ωまでの開ループ伝達関数が図3に実線で示すように共振周波数が変化し、角速度フィードバックループを閉じた時の被駆動体19の反共振点より高域のゲイン特性が改善される。
【0040】
加えて、前述したように、図2の共振比制御では被駆動体19の動作による反力を駆動モータ17のロータ回転角度θのみによって推定しているために、ギヤ18の摩擦が強いと被駆動体19の動作による反力は、摩擦力によって相殺されてしまい、外乱オブザーバ31によって被駆動体19の動作による反力を推定できない。
【0041】
これに対し、本実施形態では被駆動体19の動作による反力の推定に、ギヤ18の出力軸回転角度θ’、つまり被駆動体19の回転角度を用いているので、上記の様な現象は起こらず、常に良好な制御特性を実現できる。ここで、ギヤ18の出力軸回転角度θ’を被駆動体19の回転角度と見なしているのは、ギヤ18と被駆動体19とを連結している出力軸を剛体と見なすことができるからである。換言すれば、この出力軸が剛体と見なせない場合には、被駆動体19自体の回転角度を検出するようにされる。
【0042】
本実施形態では更に、差θ(ギヤ18の捻り量)に対して疑似微分器24により微分を行って角速度ωを算出し、これにゲイン付与部(第5の算出手段)25により適当なゲインを掛けた補正値τR3を加算器(第2の加算手段)28で共振比ゲイン付与部27からの値τR2に足し合わせるようにしている。これにより、ギヤ18の捻り振動をより良く減衰することが可能となる。
【0043】
以上のようにして、本実施形態によれば、ギヤ18の摩擦の影響による共振比制御手法の特性劣化を起こさず、良好にギヤ18の捻り共振を抑制することが可能となる。これにより、ギヤ18のバックラッシや伝達誤差に起因するギヤ18の捻り振動も良好に抑制される。
【0044】
上記の実施形態は、本発明を、駆動モータと被駆動体とをギヤを介して連結した構成に適用した場合であるが、本発明はこれに限らず、例えば駆動モータに動力伝達機構としてボールネジ機構、滑りネジ機構等による送りネジ機構が連結される場合にも適用することができ、同様の効果が得られる。
【0045】
図4を参照して、送りネジ機構としてのボールネジ機構を2つ組み合わせてX−Yステージ装置を構成した例について説明する。図4において、このX−Yステージ装置は、サーボモータ61とボールネジ(送りネジ)62とを組み合わせたX軸ステージ60に、サーボモータ71とボールネジ(送りネジ)72とを組み合わせたY軸ステージ70を積み上げるように構成している。ボールネジ62には、図示していないが、その回転によりX軸方向に駆動される被駆動部材(直動部材)が組み合わされており、この被駆動部材にY軸ステージ70が搭載された構成となっている。そして、Y軸ステージ70のボールネジ72にはトッププレート(直動部材)80が組み合わされ、ボールネジ72の回転によりトッププレート80がY軸方向に駆動される。結果として、X軸ステージ60とY軸ステージ70との組み合わせにより、トッププレート80はX軸方向及びY軸方向に駆動される。63、73はそれぞれ回転量検出用のエンコーダである。
【0046】
このようなX−Yステージ装置の位置制御方式として、トッププレート80の位置を直接検出してフィードバックするフルクローズドループ位置制御方式を採用した場合、高速移動時のボールネジ部分の振動による制御ループの安定性が確保できず、応答性をあげられないという問題があることは前述した通りである。
【0047】
これに対して、図4のX−Yステージ装置に本発明を適用した場合、図1を参照して説明すると以下のようになる。なお、図1の制御系はX軸ステージ60、Y軸ステージ70のそれぞれに適用されるが、以下ではY軸ステージ70に適用した場合について説明する。
【0048】
エンコーダ73(図1の位置検出器20に対応)ではサーボモータ71(図1の駆動モータ17に対応)のロータ回転角度θを検出する。一方、トッププレート80(図1の被駆動体19に対応)の位置が、例えばレーザ干渉計(図示省略)(図1の位置検出器21に対応)により検出され、そのY軸成分がY軸変位量として用いられる。トッププレート80のY軸変位量は換算部22により入力軸換算角度θに換算される。エンコーダ73からの回転角度θとレーザ干渉計のY軸変位量から得られた回転角度θとの差、つまりネジ体の変形量(歪量)に、ゲイン付与部26によりネジ体の変形剛性(歪剛性)Kを掛けることで被駆動体19の動作による反力の推定値が算出される。被駆動体19の動作による反力の推定値というのは、動力伝達部材であるボールネジ機構を介して駆動モータ17へ伝わる被駆動体19の運動による反力の推定値を意味する。ネジ体の変形剛性Kは、ネジ体の捻り変形に対する剛性と、圧縮/引張変形に対する剛性とが合わさった剛性であり、例えばネジ体に加えられたトルクと変形量との関係、具体的にはトルクを横軸とし変形量を縦軸とする特性の傾きから算出される。
【0049】
次に、第2の共振比ゲイン付与部27により反力の推定値に対して第2の共振比係数(1−K)を掛け合わせた値を算出する。この値と、速度制御器13からの出力τR0に第1の共振比ゲイン付与部14により第1の共振比係数Kを掛けた出力τR1とを加算器15によって足し合わせた値を最終的なトルク指令値τとする。共振比係数Kは正数であり、サーボモータ71のロータとトッププレート80のイナーシャ比に応じて調整する。トルク制御器16はトルク指令値τに基づいてサーボモータ71の駆動を制御する。以上の説明は、レーザ干渉計により検出されたトッププレート80の位置のY軸成分に代えてX軸成分を用いる点を除いて、X軸ステージ60についてもまったく同様に当てはまる。
【0050】
以上のような制御系により、上記の実施形態と同様、被駆動体、つまりトッププレート80の反共振点より高域のゲイン特性が改善される。また、ネジ体とこれに組み合わされる直動部材(例えばトッププレート80)との間の摩擦が強い場合であっても、直動部材の動作による反力を推定することができる。これにより、ネジ体の捻り振動も良好に抑制される。
【0051】
本発明による制御系は更に、リニアモータにも適用可能である。例えば、図4に示したX−Yステージ装置におけるX軸ステージ60の駆動源としてボールネジ機構に代えてX軸リニアモータを用い、Y軸ステージ70の駆動源としてボールネジ機構に代えてY軸リニアモータを用いたX−Yステージ装置が提供されている。この種のX−Yステージ装置には、図1の位置検出器20に相当するセンサとしてX軸ステージ、Y軸ステージのそれぞれにリニアエンコーダが備えられ、図1の位置検出器21に相当するセンサとしてはトッププレートに設置されたレーザ干渉計を利用することができる。また、リニアモータの場合、トルクではなく、推力として制御が行われる。本例の場合は図1の換算部22は不要であり、図1のゲイン付与部26における捻り剛性Kに代えて、X軸ステージ、Y軸ステージのそれぞれにおける被駆動体の軸受剛性Kが用いられる。
【0052】
つまり、図1を参照して説明すれば、被駆動体19を駆動するリニアモータの制御装置であって、リニアモータに対して推力を指定する出力推力信号を出力する速度制御器13を含むフィードバック制御系を備えたリニアモータ制御装置である。フィードバック制御系は、速度制御器13の出力に共振比係数Kを掛け合わせた値を第1の乗算結果として出力する第1の共振比ゲイン付与部14と、リニアモータに備えられた上記のリニアエンコーダ(位置検出器20)と、被駆動体19の位置を検出するためのレーザ干渉計(位置検出器21)と、リニアエンコーダの検出値とレーザ干渉計の検出値との差を算出する第2の減算器23と、算出された差に被駆動体19の軸受剛性Kを掛け合わせて被駆動体19による反力の推定値を算出するゲイン付与部26と、算出された反力の推定値に(1−K)を掛け合わせた値を第2の乗算結果として出力する第2の共振比ゲイン付与部27と、前記第1の乗算結果と前記第2の乗算結果とを足し合わせた値を最終的な推力指令値として推力制御器(トルク制御器16に対応)に出力する加算器15とを含む。
【0053】
また、フィードバック制御系は更に、前記算出された差を微分して速度を算出する疑似微分器24と、算出された速度にあらかじめ定められたゲインを掛け合わせ、これを補正値として出力するゲイン付与部25と、前記補正値を第2の共振比ゲイン付与部27からの前記第2の乗算結果に足し合わせた加算結果を出力する加算器28とを備え、加算器15は、前記第1の乗算結果と前記加算結果とを足し合わせた値を前記最終的な推力指令値として推力制御器に出力する。
【0054】
このリニアモータ制御系においても、上記の実施形態と同様の効果が得られる。つまり、リニアモータで直接被駆動体を駆動する時に被駆動体が共振モードを有する場合、その共振による制御特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、本発明によるモータ制御装置の実施形態の構成を示したブロック図である。
【図2】図2は、共振比制御を実現すべく提案されている制御系の構成を示したブロック図である。
【図3】図3は、共振比制御によるゲイン特性の改善について説明するための特性図である。
【図4】本発明が適用される、ボールネジ機構の組み合わせによるX−Yステージ装置の例を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
60 X軸ステージ
61、71 サーボモータ
62、72 ボールネジ
63、73 エンコーダ
70 Y軸ステージ
80 トッププレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転力を、動力伝達部材を介して被駆動体に伝達するようにしたモータの制御装置であって、前記モータに対してトルクを指定する出力トルク信号を出力する速度制御器を含むフィードバック制御系を備えたモータ制御装置において、
前記フィードバック制御系は、
前記速度制御器の出力に共振比係数Kを掛け合わせた値を第1の乗算結果として出力する第1の算出手段と、
前記動力伝達部材の入力側及び出力側に設置され、前記動力伝達部材の入力側及び出力側のそれぞれの変位量を検出するための第1、第2のセンサと、
前記第1、第2のセンサの検出値を用いて前記動力伝達部材の歪量を算出する第2の算出手段と、
算出された歪量から前記被駆動体による反力の推定値を算出する第3の算出手段と、
算出された反力の推定値に(1−K)を掛け合わせた値を第2の乗算結果として出力する第4の算出手段と、
前記第1の乗算結果と前記第2の乗算結果とを足し合わせた値を最終的なトルク指令値としてトルク制御器に出力する第1の加算手段とを含むことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記動力伝達部材はギヤであって、前記第1、第2のセンサは前記ギヤの入力側及び出力側の回転角度を検出するものであり、
前記第2の算出手段は、検出された前記ギヤの出力側の回転角度を当該ギヤの入力側回転角度に換算する換算部と、換算された前記入力側回転角度と検出された前記ギヤの入力側の回転角度との差である前記ギヤの捻り量を前記歪量として算出する減算手段とを含み、
前記第3の算出手段は、算出された前記捻り量にあらかじめ計測された前記ギヤの捻り剛性Kを掛け合わせて前記被駆動体による反力の推定値を算出することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記動力伝達部材は送りネジ機構であって、前記第1、第2のセンサはそれぞれ送りネジの入力側の回転角度、直動部材の直動変位量を検出するものであり、
前記第2の算出手段は、検出された前記直動部材の直動変位量を前記送りネジの入力側回転角度に換算する換算部と、換算された前記入力側回転角度と検出された前記送りネジの入力側の回転角度との差である前記送りネジの変形量を前記歪量として算出する減算手段を含み、
前記第3の算出手段は、算出された前記変形量にあらかじめ計測された前記送りネジの変形剛性Kを掛け合わせて前記被駆動体による反力の推定値を算出することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ制御装置において、
前記フィードバック制御系は更に、前記歪量として算出された前記差を微分して角速度を算出する疑似微分器と、算出された角速度にあらかじめ定められたゲインを掛け合わせ、これを補正値として出力する第5の算出手段と、前記補正値を前記第4の算出手段からの前記第2の乗算結果に足し合わせた加算結果を出力する第2の加算手段とを備え、
前記第1の加算手段は、前記第1の乗算結果と前記加算結果とを足し合わせた値を前記最終的なトルク指令値として前記トルク制御器に出力することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
被駆動体に、ギヤを介して駆動力を伝達するモータの制御方法であって、前記モータに対してトルクを指定する出力トルク信号を出力する速度制御器を含むフィードバック制御系によるモータ制御方法において、
前記速度制御器の出力に共振比係数Kを掛け合わせた値τR1を算出するステップと、
前記モータにおけるロータの回転角度θと前記ギヤの出力軸角度θ’とを検出するステップと、
検出された出力軸角度θ’から前記ギヤの入力軸換算角度θを算出するステップと、
検出された回転角度θと算出された入力軸換算角度θとの差θを算出するステップと、
算出された差θに対してあらかじめ計測された前記ギヤの捻り剛性Kを掛け合わせて前記被駆動体による反力の推定値τR2’を算出するステップと、
算出された反力の推定値τR2’に対して(1−K)を掛け合わせた値τR2を算出するステップと、
算出された値τR1と値τR2とを足し合わせた値を最終的なトルク指令値τとしてトルク制御器に出力するステップとを含むことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項6】
被駆動体に、送りネジ機構を介して駆動力を伝達するモータの制御方法であって、前記モータに対してトルクを指定する出力トルク信号を出力する速度制御器を含むフィードバック制御系によるモータ制御方法において、
前記速度制御器の出力に共振比係数Kを掛け合わせた値τR1を算出するステップと、
前記モータにおけるロータの回転角度θを前記送りネジ機構における入力側の回転角度として検出すると共に、直動部材の直動変位量を検出するステップと、
検出された前記直動部材の直動変位量を前記送りネジ機構における入力側回転角度θに換算するステップと、
検出された前記回転角度θと換算された前記入力側回転角度θとの差θを算出するステップと、
算出された差θに対して前記送りネジの変形剛性Kを掛け合わせて前記被駆動体による反力の推定値τR2’を算出するステップと、
算出された反力の推定値τR2’に対して(1−K)を掛け合わせた値τR2を算出するステップと、
算出された値τR1と値τR2とを足し合わせた値を最終的なトルク指令値τとしてトルク制御器に出力するステップとを含むことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のモータ制御方法において、
更に、前記算出された差θを微分して角速度ωを算出するステップと、
算出された角速度ωにあらかじめ定められたゲインを掛け合わせて補正値τR3を算出するステップと、
算出された補正値τR3を前記算出された値τR2に足し合わせるステップとを含み、
足し合わされた値(τR2+τR3)を前記値τR1に足し合わせた値を前記最終的なトルク指令値τとすることを特徴とするモータ制御方法。
【請求項8】
被駆動体を駆動するリニアモータの制御装置であって、該リニアモータに対して推力を指定する出力推力信号を出力する速度制御器を含むフィードバック制御系を備えたリニアモータモータ制御装置において、
前記フィードバック制御系は、
前記速度制御器の出力に共振比係数Kを掛け合わせた値を第1の乗算結果として出力する第1の算出手段と、
前記リニアモータに備えられたリニアエンコーダと、
前記被駆動体の位置を検出するためのセンサと、
前記リニアエンコーダの検出値と前記センサの検出値との差を算出する第2の算出手段と、
算出された差に前記被駆動体の軸受剛性Kを掛け合わせて前記被駆動体による反力の推定値を算出する第3の算出手段と、
算出された反力の推定値に(1−K)を掛け合わせた値を第2の乗算結果として出力する第4の算出手段と、
前記第1の乗算結果と前記第2の乗算結果とを足し合わせた値を最終的な推力指令値として推力制御器に出力する第1の加算手段とを含むことを特徴とするリニアモータ制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載のリニアモータ制御装置において、
前記フィードバック制御系は更に、前記算出された差を微分して速度を算出する疑似微分器と、算出された速度にあらかじめ定められたゲインを掛け合わせ、これを補正値として出力する第5の算出手段と、前記補正値を前記第4の算出手段からの前記第2の乗算結果に足し合わせた加算結果を出力する第2の加算手段とを備え、
前記第1の加算手段は、前記第1の乗算結果と前記加算結果とを足し合わせた値を前記最終的な推力指令値として前記推力制御器に出力することを特徴とするリニアモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−48539(P2008−48539A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222226(P2006−222226)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】