説明

モータ制御装置

【課題】使用者が遊び感覚等で電源スイッチのオン/オフの切換操作を繰り返しても、通電相学習処理によるモータ又はモータ駆動回路の発熱を抑えてモータ又はモータ駆動回路の寿命低下や故障を未然に防止する。
【解決手段】電源投入後の初期駆動時に、モータ14の通電相の切り換えを所定のタイムスケジュールで一巡させてエンコーダ61のパルス信号をカウントし、初期駆動終了時のエンコーダカウント値とモータ14の回転角度と通電相との対応関係を通電相学習値として学習し、その後の通常駆動時に、エンコーダカウント値と通電相学習値とに基づいて通電相を決定する。電源スイッチ72のオフ操作後も所定時間が経過するまでECUリレー73をオン状態に維持してレンジ切換ECU20への電源供給を継続し、電源スイッチ72のオフ操作後に電源オン状態を継続する期間に電源スイッチ72がオン操作されても通電相学習処理を実行しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダのパルス信号のカウント値に基づいてモータの回転角度を検出してモータの通電相を順次切り換えることでモータを目標回転角度まで回転駆動するモータ制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車においても、省スペース化、組立性向上、制御性向上等の要求を満たすために、機械的な駆動システムを、モータによって電気的に駆動するシステムに変更する事例が増加する傾向にある。その一例として、特許文献1(特許第3800529号公報)に示すように、車両の自動変速機のレンジ切換機構をモータで駆動するようにしたものがある。このシステムでは、モータに、ロータの回転角度を検出するエンコーダを搭載し、レンジ切換時には、このエンコーダのパルス信号のカウント値(以下「エンコーダカウント値」という)に基づいてモータを目標のレンジに相当する目標回転角度(目標カウント値)まで回転させることで、レンジ切換機構を目標のレンジに切り換えるようにしている。
【0003】
この種のエンコーダ付きのモータは、起動後のエンコーダカウント値に基づいてロータの起動位置からの回転量(回転角度)を検出できるだけであるので、電源投入後に、何等かの方法で、ロータの絶対的な回転角度を検出して、エンコーダカウント値とロータの回転角度(通電相)との対応関係をとらないと、モータを正常に駆動することができない。
【0004】
そこで、特許文献1では、電源投入後の初期駆動時にモータの通電相の切り換えを所定のタイムスケジュールで一巡させることで、いずれかの通電相でロータの回転角度と該通電相とを一致させて該ロータを回転駆動してエンコーダのパルス信号をカウントして初期駆動終了時のエンコーダカウント値とロータの回転角度と通電相との対応関係を学習する通電相学習処理を実行し、その後の通常駆動時に、通電相学習処理で学習した通電相学習値を用いて補正したエンコーダカウント値からロータの回転角度を検出して通電相を決定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3800529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、通電相学習処理(初期駆動)を実行するためにはモータに連続的に通電する必要があるため、モータまたは、モータ駆動回路が発熱しやすい。通常、電源投入後は暫くモータ電源を切断しないため、初期駆動は1回で済むが、使用者が遊び感覚等で電源投入と切断の操作を繰り返すと、短時間に初期駆動が何回も繰り返されて、モータまたは、モータ駆動回路の温度が上昇してしまい、モータまたは、モータ駆動回路の寿命低下や故障の原因となる懸念がある。
【0007】
尚、通電相学習値やエンコーダカウント値を不揮発性メモリに記憶することが考えられるが、電源オフ中にモータが外力等で回転しても、その回転角度を検出できない(エンコーダのパルス信号をカウントできない)ため、電源オフ前に記憶した通電相学習値やエンコーダカウント値を電源再投入後に使用することはできず、電源再投入後に通電相学習処理を再実行する必要がある。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、使用者が遊び感覚等で電源スイッチのオン/オフの切換操作を繰り返しても、通電相学習処理(初期駆動)によるモータまたは、モータ駆動回路の発熱を抑えて、モータまたは、モータ駆動回路の寿命低下や故障を未然に防止できるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、制御対象を回転駆動するモータの回転に伴って所定角度間隔でパルス信号を出力するエンコーダと、電源オン/オフを切り替える電源スイッチと、前記電源スイッチのオン操作による電源オン後に前記モータの通電相をモータ駆動回路により所定のパターンで順次切り換えることで前記エンコーダのパルス信号のカウント値(以下「エンコーダカウント値」という)と前記モータの回転角度と通電相との対応関係を通電相学習値として学習する通電相学習処理を実行する通電相学習手段と、前記通電相学習値と前記エンコーダカウント値を記憶する記憶手段とを備え、前記通電相学習処理後は、前記エンコーダカウント値と前記通電相学習値に基づいて前記モータの通電相を順次切り換えることで前記モータを目標回転角度まで回転駆動するモータ制御装置において、前記電源スイッチのオフ操作後も所定時間が経過するまで電源オン状態を継続する電源継続手段を備え、前記通電相学習手段は、前記電源スイッチのオフ操作後に前記電源継続手段により電源オン状態を継続する期間に前記電源スイッチがオン操作されても前記通電相学習処理を実行しないようにしたものである。
【0010】
この構成では、電源スイッチのオフ操作後も所定時間が経過するまでは、電源継続手段により電源オン状態を継続して記憶手段の記憶データ(通電相学習値とエンコーダカウント値)を保持できると共に、モータが外力等で回転すれば、その回転角度に応じてエンコーダカウント値を更新することができる。これにより、電源スイッチのオフ操作後に電源オン状態を継続する期間は、通電相学習処理(初期駆動)を実行しなくても、記憶手段に記憶された通電相学習値とエンコーダカウント値を用いてモータを目標回転角度まで正しく回転駆動することが可能となり、当該期間に電源スイッチがオン操作されても通電相学習処理(初期駆動)を実行しないようにすることができる。このため、使用者が遊び感覚等で電源スイッチのオン/オフの切換操作を繰り返しても、通電相学習処理(初期駆動)によるモータまたは、モータ駆動回路の発熱を抑えて、モータまたは、モータ駆動回路の寿命低下や故障を未然に防止することができる。
【0011】
この場合、請求項2のように、電源スイッチのオフ操作後に電源オン状態を継続する所定時間は、通電相学習処理で発熱したモータまたは、モータ駆動回路を放熱させるのに必要な時間を確保するように設定すると良い。このようにすれば、電源スイッチのオン/オフの切換操作の繰り返しによりモータまたは、モータ駆動回路が過熱状態になることをより確実に防止できる。
【0012】
また、請求項3のように、モータとしてスイッチトリラクタンスモータを使用するようにしても良い。スイッチトリラクタンスモータは、永久磁石が不要で構造が簡単であるため、安価であり、温度環境等に対する耐久性・信頼性も高いという利点がある。
【0013】
以上説明した請求項1〜3に係る発明は、スイッチトリラクタンスモータ等の同期モータを駆動源とする各種の位置切換装置に適用でき、例えば、請求項4のように、車両の自動変速機のレンジを切り換えるレンジ切換機構を駆動するモータの制御装置に適用しても良い。これにより、信頼性の高いモータ駆動式のレンジ切換装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の一実施例の自動変速機の制御システム全体の構成を概略的に示す図である。
【図2】図2はレンジ切換機構を示す斜視図である。
【図3】図3はモータの構成を説明する図である。
【図4】図4はモータを駆動する回路構成を説明する図である。
【図5】図5はレンジ切換装置の制御システム全体の構成を概略的に示す図である。
【図6】図6はエンコーダのロータリマグネットの構成を説明する平面図である。
【図7】図7はエンコーダの側面図である。
【図8】図8(a)はエンコーダのA相信号とB相信号の波形を示すタイムチャート、同(b)は通電相切り換えパターンを示すタイムチャートである。
【図9】図9はPレンジで通電相学習処理(初期駆動)を行ったときの制御例を示すタイムチャートである。
【図10】図10は電源スイッチのオン/オフ切換操作が繰り返された場合のECUリレーのオン/オフと通電相学習処理の実行時期とモータ温度の挙動との関係を説明するタイムチャートである。
【図11】図11は通電相学習処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を車両のレンジ切換装置に適用して具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいて自動変速システム全体の概略構成を説明する。
エンジン11の出力軸(クランク軸)には自動変速機12の入力軸が連結されている。この自動変速機12内部の構成は図示しないが、エンジン11の出力軸によって回転駆動されるトルクコンバータと、このトルクコンバータの出力軸(タービン軸)に連結された変速歯車機構と、この変速歯車機構を構成する複数の歯車の中から動力を伝達する歯車の組み合わせ(変速比)を切り換える摩擦係合装置と、この摩擦係合装置の動作状態を油圧で切り換える油圧制御回路等が自動変速機12内に設けられている。また、油圧制御回路には、摩擦係合装置を構成するクラッチ、ブレーキ等の各摩擦係合要素に供給する油圧を制御する油圧制御弁13と、シフトレバーのシフト操作に連動してモータ14によって切り換えられるレンジ切換機構15(図2参照)のスプール弁16が設けられている。このスプール弁16は、シフトレバーのシフト操作に連動して切り換えられるいわゆるマニュアルバルブとして機能する。
【0016】
自動変速機12の変速動作を制御する変速制御ECU17は、摩擦係合装置に供給する油圧を油圧センサ18で検出して、その検出油圧と車速センサ19の出力信号等に基づいて油圧制御回路の各油圧制御弁13の開閉動作を制御して各摩擦係合要素に供給する油圧を制御することで変速段を目標変速段に切り換える。
【0017】
一方、レンジ切換ECU20は、シフトレバーの操作位置を検出するシフトレンジ検出装置21の出力信号に基づいてモータ14を駆動制御することで、運転者のレンジ切換操作に応じてレンジ切換機構15のスプール弁16の切換動作を制御する。このレンジ切換ECU20と、変速制御ECU17と、エンジン11の運転状態を制御するエンジンECU22と、表示装置41の表示を制御するメータECU42は、車両に搭載されたバッテリ23(電源)から電源ライン47を介して電力が供給される。また、通信ライン24を通じて、各ECU20,17,22,42は、スロットル開度、点火時期など、必要な情報を相互に送受信する。エンジンECU22には、エンジン11の運転状態を検出する各種センサ(例えばエンジン回転速度を検出するクランク角センサ48等)が接続されている。
【0018】
エンジン11には、始動時にクランク軸を回転駆動(クランキング)するスタータ43が設けられ、運転者がイグニッションキースイッチ44をON位置(IG位置)からSTART位置に操作すると、エンジンECU22によってスタータリレー45がオンされてバッテリ23からスタータ43に通電され、スタータ43が回転してエンジン11がクランキングされて始動され、その後、運転者がイグニッションキースイッチ44をSTART位置からON位置に戻すと、スタータリレー45がオフされ、スタータ43への通電が停止される。
【0019】
次に、図2に基づいてレンジ切換機構15の構成を説明する。
レンジ切換機構15は、自動変速機12のシフトレンジを、例えばパーキングレンジ(P)、リバースレンジ(R)、ニュートラルレンジ(N)、ドライブレンジ(D)に切り換えるためのものである。このレンジ切換機構15の駆動源となるモータ14は、減速機構50(図5参照)を内蔵し、この減速機構50の回転軸に嵌合連結された出力軸25の回転角度を検出する出力軸センサ46(出力軸回転角度検出手段)が設けられ、この出力軸センサ46の出力信号に基づいてシフトレンジが検出される。この出力軸センサ46は、モータ14の減速機構50の出力軸25の回転角度に応じた電圧を出力する回転センサ(例えばポテンショメータ)によって構成され、その出力電圧によって現在のレンジがP、R、N、Dのいずれのレンジであるかを確認できるようになっている。
【0020】
このモータ14の出力軸25には、自動変速機12の油圧制御回路のスプール弁16を切り換えるためのディテントレバー28が固定されている。このディテントレバー28にはL字形のパーキングロッド29が固定され、このパーキングロッド29の先端部に設けられた円錐体30がロックレバー31に当接している。このロックレバー31は、円錐体30の位置に応じて軸32を中心にして上下動してパーキングギヤ33をロック/ロック解除するようになっている。このパーキングギヤ33は、自動変速機12の出力軸に設けられ、このパーキングギヤ33がロックレバー31によってロックされると、車両の駆動輪が回り止めされた状態(パーキング状態)に保持される。
【0021】
また、ディテントレバー28には、スプール弁16のスプール34が連結され、モータ14の出力軸25によってディテントレバー28を回動させることで、スプール弁16の操作量(スプール34の操作位置)を切り換えて、自動変速機12のシフトレンジを、Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ等のいずれかに切り換える。ディテントレバー28には、スプール弁16のスプール34を上記各レンジに対応する位置に保持するための複数の凹部35が形成されている。
【0022】
一方、ディテントレバー28を各レンジに対応する位置に保持するためのディテントバネ36がスプール弁16に固定され、このディテントバネ36の先端に設けられた係合部37がディテントレバー28の目標レンジの凹部35に嵌まり込むことで、ディテントレバー28が目標レンジの回転角で保持されて、スプール弁16のスプール34の位置が目標レンジの位置で保持されるようになっている。これらディテントレバー28とディテントバネ36とからスプール弁16の操作量(スプール34の操作位置)を各レンジの位置に係合保持するためのディテント機構38(節度機構)が構成されている。
【0023】
Pレンジでは、パーキングロッド29がロックレバー31に接近する方向に移動して、円錐体30の太い部分がロックレバー31を押し上げてロックレバー31の凸部31aがパーキングギヤ33に嵌まり込んでパーキングギヤ33をロックした状態となり、それによって、自動変速機12の出力軸(駆動輪)がロックされた状態(パーキング状態)に保持される。
【0024】
一方、Pレンジ以外のレンジでは、パーキングロッド29がロックレバー31から離れる方向に移動して、円錐体30の太い部分がロックレバー31から抜け出てロックレバー31が下降し、それによって、ロックレバー31の凸部31aがパーキングギヤ33から外れてパーキングギヤ33のロックが解除され、自動変速機12の出力軸が回転可能な状態(走行可能な状態)に保持される。
【0025】
次に、図3及び図4に基づいてモータ14の構成を説明する。本実施例では、モータ14として、例えばスイッチトリラクタンスモータ(SRモータ)が用いられている。このモータ14は、ステータコア51とロータ52が共に突極構造を持つモータで、永久磁石が不要で構造が簡単であるという利点がある。円筒状のステータコア51の内周部には、例えば12個の突極51aが等間隔に形成され、これに対して、ロータ52の外周部には、例えば8個の突極52aが等間隔に形成され、ロータ52の回転に伴い、ロータ52の各突極52aがステータコア51の各突極51aと微小ギャップを介して順番に対向するようになっている。ステータコア51の12個の突極51aには、2系統(a系統とb系統)の駆動コイル53,54のU相、V相、W相の各巻線が対称な位置に巻回されている。尚、ステータコア51とロータ52の突極51a,52aの数は適宜変更しても良いことは言うまでもない。以下の説明では、一方の系統(a系統)の駆動コイル53の「U相」、「V相」、「W相」をそれぞれ「Ua相」、「Va相」、「Wa相」と表記し、他方の系統(b系統)の駆動コイル54の「U相」、「V相」、「W相」をそれぞれ「Ub相」、「Vb相」、「Wb相」と表記する。
【0026】
2系統の駆動コイル53,54の各相の巻線の巻回順序は、ステータコア51の12個の突極51aに対して、例えば、Ua相→Va相→Wa相→Ua相→Va相→Wa相→Ub相→Vb相→Wb相→Ub相→Vb相→Wb相の順序で巻回されている。図4に示すように、Ua相、Va相、Wa相の合計6個の巻線と、Ub相、Vb相、Wb相の合計6個の巻線は、2系統の駆動コイル53,54を構成するように結線されている。一方の駆動コイル53は、Ua相、Va相、Wa相の合計6個の巻線をY結線して構成され(同じ相の2個の巻線はそれぞれ直列に接続されている)、他方の駆動コイル54は、Ub相、Vb相、Wb相の合計6個の巻線をY結線して構成されている(同じ相の2個の巻線はそれぞれ直列に接続されている)。2つの駆動コイル53,54は、Ua相とUb相が同時に通電され、Va相とVb相が同時に通電され、Wa相とWb相が同時に通電される。
【0027】
図4に示すように、2系統の駆動コイル53,54は、車両に搭載されたバッテリ23を電源として、それぞれ別個のモータドライバ55,56(モータ駆動回路)によって駆動される。このように、駆動コイル53,54とモータドライバ55,56をそれぞれ2系統ずつ設けることで、一方の系統が故障しても、他方の系統でモータ12を回転させることができるようになっている。
【0028】
図4に示すモータドライバ55,56の回路構成例では、各相毎にトランジスタ等のスイッチング素子57を1個ずつ設けたユニポーラ駆動方式の回路構成としているが、各相毎にスイッチング素子を2個ずつ設けたバイポーラ駆動方式の回路構成を採用しても良い。尚、本発明は、駆動コイルとモータドライバをそれぞれ1系統ずつ設けた構成としても良いことは言うまでもない。
【0029】
モータ14には、ロータ52の回転角度を検出するためのエンコーダ61(図5参照)が設けられている。このエンコーダ61は、例えば磁気式のロータリエンコーダにより構成されており、その具体的な構成は、図6及び図7に示すように、N極とS極が円周方向に交互に等ピッチで着磁された円環状のロータリマグネット62がロータ52の側面に同軸状に固定され、このロータリマグネット62に対向する位置に、2個のホールIC等の磁気検出素子63,64が配置された構成となっている。
【0030】
本実施例では、ロータリマグネット62のN極とS極の着磁ピッチが7.5°に設定されている。このロータリマグネット62の着磁ピッチ(7.5°)は、モータ12の励磁1回当たりのロータ52の回転角度と同じに設定されている。例えば、1−2相励磁方式でモータ12の通電相の切り換えを6回行うと、全ての通電相の切り換えが一巡してロータ52とロータリマグネット62が一体的に7.5°×6=45°回転する。このロータリマグネット62の45°の回転角度範囲に存在するN極とS極の数は、合計6極となっている。
【0031】
このロータリマグネット62に対して2個の磁気検出素子63,64が次のような位置関係で配置されている。A相信号を出力する磁気検出素子63とB相信号を出力する磁気検出素子64は、ロータリマグネット62の着磁部分(N,S)に対向し得る位置の同一円周上に配置されている。A相信号とB相信号を出力する2個の磁気検出素子63,64の間隔は、図8(a)に示すように、A相信号とB相信号の位相差が、電気角で90°(機械角で3.75°)となるように設定されている。ここで、“電気角”はA相・B相信号の発生周期を1周期(360°)とした場合の角度で、“機械角”は機械的な角度(ロータ52の1回転を360°とした場合の角度)であり、A相信号の立ち下がり(立ち上がり)からB相信号の立ち下がり(立ち上がり)までにロータ52が回転する角度がA相信号とB相信号の位相差の機械角に相当する。
各磁気検出素子63,64の出力は、N極と対向したときにハイレベル“1”となり、S極と対向したときにローレベル“0”となる。
【0032】
本実施例では、レンジ切換ECU20がA相信号とB相信号の立ち上がり/立ち下がりの両方のエッジをカウントして、そのエンコーダカウント値に応じてモータ14の通電相を切り換えることでロータ52を回転駆動する。この際、A相信号とB相信号の発生順序によってロータ52の回転方向を判定し、正回転(Pレンジ→Dレンジの回転方向)ではエンコーダカウント値をカウントアップし、逆回転(Dレンジ→Pレンジの回転方向)ではエンコーダカウント値をカウントダウンする。これにより、ロータ52が正回転/逆回転のいずれの方向に回転しても、エンコーダカウント値とロータ52の回転角度との対応関係が維持されるため、正回転/逆回転のいずれの回転方向でも、エンコーダカウント値によってロータ52の回転角度を検出して、その回転角度に対応した相の巻線に通電してロータ52を回転駆動する。
【0033】
図8(b)は、1−2相励磁方式でロータ52を逆回転方向(Dレンジ→Pレンジの回転方向)に回転させたときのエンコーダ61の出力波形と通電相の切換パターンを示している。逆回転方向(Dレンジ→Pレンジの回転方向)と正回転方向(Pレンジ→Dレンジの回転方向)のいずれの場合も、ロータ52が7.5°回転する毎に1相通電と2相通電とを交互に切り換えるようになっており、ロータ52が45°回転する間に、例えば、U相通電→UW相通電→W相通電→VW相通電→V相通電→UV相通電の順序で通電相の切り換えを一巡するようになっている。この際、2系統の駆動コイル53,54の各相の巻線は、同時に通電される。
【0034】
そして、この通電相の切り換え毎に、ロータ52が7.5°ずつ回転して、A相、B相信号用の磁気検出素子63,64に対向するロータリマグネット62の磁極がN極→S極又はS極→N極に変化してA相信号とB相信号のレベルが交互に反転し、それによって、ロータ52が7.5°回転する毎に、エンコーダカウント値が2ずつカウントアップ(又はカウントダウン)する。尚、本明細書では、A相、B相信号がハイレベル“1”となることを、A相、B相信号が出力されると言う場合がある。
【0035】
このようなエンコーダ61付きのモータ14でレンジ切換制御を行う場合は、目標レンジがPレンジからDレンジ方向又はその反対方向に切り換えられる毎に、ロータ52を回転駆動して、エンコーダカウント値に基づいてモータ14の通電相を順次切り換えることでロータ52を目標回転角度に向かって回転駆動するフィードバック制御(以下「F/B制御」と表記する)を実行し、エンコーダカウント値が目標回転角度に応じて設定された目標カウント値に到達した時点で、ロータ52が目標回転角度に到達したと判断してF/B制御を終了し、ロータ52を目標回転角度で停止させるようにしている。
【0036】
ところで、エンコーダカウント値は、レンジ切換ECU20のRAM71(記憶手段)に記憶されるため、レンジ切換ECU20の電源がオフされると、エンコーダカウント値の記憶データが消えてしまう。また、電源オフ中にモータ14が外力等で回転しても、その回転角度を検出できない。これらの事情により、電源投入後にエンコーダカウント値と実際のロータ52の回転角度との関係を調べて、エンコーダカウント値と通電相との対応関係を学習する通電相学習処理が必要となる。
【0037】
そこで、本実施例では、レンジ切換ECU20は、特許請求の範囲でいう通電相学習手段として機能し、電源投入後の初期駆動時に、モータ14の通電相の切り換えを所定のタイムスケジュールで一巡させてエンコーダ61のA相信号及びB相信号のエッジをカウントし、初期駆動終了時のエンコーダカウント値とロータ52の回転角度と通電相との対応関係を通電相学習値として学習する通電相学習処理を実行し、その後の通常駆動時に、エンコーダカウント値と通電相学習値とに基づいて通電相を決定するようにしている。エンコーダカウント値と通電相学習値は、レンジ切換ECU20のRAM71に記憶される。
【0038】
この通電相学習処理(初期駆動)は、具体的には次のようにして行われる。
図9に示すように、Pレンジでレンジ切換ECU20に電源が投入されたときに初期駆動を行う場合は、例えば、W相通電→UW相通電→U相通電→UV相通電→V相通電→VW相通電の順序で通電相の切り換えを所定のタイムスケジュールで一巡し、ロータ52を正回転方向(Pレンジ→Dレンジの回転方向)に駆動する。
【0039】
一方、Dレンジでレンジ切換ECU20に電源が投入されたときに初期駆動を行う場合は、例えば、V相通電→UV相通電→U相通電→UW相通電→W相通電→VW相通電の順序で通電相の切り換えを所定のタイムスケジュールで一巡し、ロータ52を逆回転方向(Dレンジ→Pレンジの回転方向)に駆動する。
【0040】
この初期駆動時には、1相通電の時間T1を2相通電の時間T2よりも短くし、例えばT1=10ms、T2=100msに設定する。初期駆動中にロータ52の回転角度と通電相との同期がとれた後でも、トルクが小さい1相通電では、ロータ52が振動するため、1相通電の時間T1を短くして、できるだけ速やかに次の2相通電に切り換えることで、ロータ52の振動を速やかに停止させてエンコーダ61の出力信号を安定させるようにしている。
【0041】
このように、初期駆動時に通電相の切り換えを一巡させれば、初期駆動が終了するまでに、いずれかの通電相で必ずロータ52の回転角度と通電相とが一致して、それ以後、通電相の切り換えに同期してロータ52が回転して、このロータ52の回転に同期してエンコーダ61からA相信号及びB相信号が出力されるようになる。
【0042】
この初期駆動中に、エンコーダ61のA相信号及びB相信号の立ち上がり/立ち下がりの両方のエッジをカウントする。従って、初期駆動終了時のエンコーダカウント値を見れば、初期駆動が終了するまでにロータ52が実際に通電相の切り換えに同期して回転した角度(回転量)が分かり、それによって、初期駆動終了時のエンコーダカウント値とロータ52の回転角度と通電相との対応関係が分かる。
【0043】
図9の例では、初期駆動時に最初の通電相(W相)からロータ52が回転し、通電相の切り換え毎にロータ52が7.5°ずつ回転してエンコーダカウント値が2ずつカウントアップし、初期駆動終了時にエンコーダカウント値が12となる。
【0044】
これに対し、例えば、初めの3回の励磁(W相通電→UW相通電→U相通電)でロータ52が回転しない場合、つまり4回目以降の励磁(UV相通電→V相通電→VW相通電)でロータ52の回転角度と通電相とが同期してロータ52が3回の励磁分だけ回転する場合は、初期駆動終了時までにロータ52が7.5°×3=22.5°回転して、エンコーダカウント値が2×3=6となる。従って、初期駆動終了時のエンコーダカウント値を見れば、初期駆動が終了するまでにロータ52が実際に通電相の切り換えに同期して回転した角度(回転量)が判明する。
【0045】
初期駆動の最後の通電相は、常にVW相となるが、エンコーダカウント値は、必ずしも12になるとは限らず、例えば8、或は4である場合もある。初期駆動終了後の通常駆動時には、エンコーダカウント値に基づいて通電相が決定されるため、初期駆動によるエンコーダカウント値のずれを修正することにより、通常駆動時に正しい通電相を選択することができる。
【0046】
初期駆動終了後は、通常のモータ制御に移行して、図9に示すように、まず初期駆動終了時の通電相(VW相)と同じ相に例えば10ms通電してロータ52の位置を初期駆動終了時の位置に保持し、その後、フィードバック制御により、その時点のエンコーダカウント値と通電相学習値とに基づいて通電相を切り換えてロータ52を目標回転角度の方向へ回転させる。これにより、ロータ52の回転角度(エンコーダカウント値)が目標回転角度から例えば0.5°以内に到達した時点で、通電相の切り換えを終了してロータ52を停止させ、その後は、同じ相に通電し続けてロータ52の停止状態を保持し、この保持状態を例えば50ms継続する。この後、目標回転角度が変化しなければ、通電を停止する。
【0047】
ところで、通電相学習処理(初期駆動)を実行するためにはモータ14に連続的に通電する必要があるため、モータ14または、レンジ切換ECU20のモータドライバ55,56が発熱しやすい。通常、電源投入後は暫くモータ14の電源を切断しないため、初期駆動は1回で済むが、使用者が遊び感覚等で電源スイッチ72(イグニッションスイッチ)のオン/オフの切換操作を繰り返すと、短時間に初期駆動が何回も繰り返されて、モータ14または、モータドライバ55,56の温度が上昇してしまい、モータ14または、モータドライバ55,56の寿命低下や故障の原因となる懸念がある。
【0048】
そこで、本実施例では、図10に示すように、電源スイッチ72のオフ操作後も所定時間(T1又はT2)が経過するまでECUリレー73(図5参照)をオン状態に維持してレンジ切換ECU20への電源供給を継続し、電源スイッチ72のオフ操作後に電源オン状態を継続する期間に電源スイッチ72がオン操作されても通電相学習処理(初期駆動)を実行しないようにしている。
【0049】
この場合、電源スイッチ72のオフ操作後に電源オン状態を継続する所定時間(T1又はT2)は、通電相学習処理で発熱したモータ14または、モータドライバ55,56を放熱させてモータ14または、モータドライバ55,56の温度を許容温度範囲内に低下させるのに必要な時間を確保するように設定され、通電相学習処理後の最初の電源スイッチ72のオフ操作からの経過時間が所定時間T1に達したか否かを判定しても良いし、或は、電源スイッチ72のオフ状態が継続する時間が所定時間T2に達したか否かを判定しても良い。この所定時間(T1又はT2)は、予め設定した一定の時間としても良いし、モータ14または、モータドライバ55,56の温度等に応じて変化させても良い。モータ14または、モータドライバ55,56の温度は、温度センサで検出しても良いし、初期駆動時のモータ14の通電電流量等に基づいて推定しても良い。
【0050】
以上説明した本実施例の通電相学習処理は、レンジ切換ECU20によって図11の通電相学習処理プログラムに従って実行される。本プログラムは、レンジ切換ECU20への電源供給中(ECUリレー73のオン期間中)に所定周期で繰り返し実行される。本プログラムが起動されると、まずステップ101で、電源スイッチ72がオフ(OFF)からオン(ON)に切り換えられた直後であるか否かを判定し、オンに切り換えられた直後であれば、ステップ102に進み、ECUリレー73がオフ状態であるか否かを判定する。その結果、ECUリレー73がオフ状態であると判定されれば、ステップ103に進み、ECUリレー73をオンして、次のステップ104で、通電相学習処理を実施して、ステップ105に進む。
【0051】
これに対し、上記ステップ101と102のいずれかで「No」と判定された場合、つまり、電源スイッチ72がオンに切り換えられた直後ではない場合、又は、ECUリレー73がオン状態である場合は、ステップ103と104を飛び越して、ステップ105に進む。この場合は、通電相学習処理は実施されない。
【0052】
この後、ステップ105で、電源スイッチ72のオフ操作から所定時間(T1又はT2)が経過したか否かを判定する。この際、通電相学習処理後の最初の電源スイッチ72のオフ操作からの経過時間が所定時間T1に達したか否かを判定しても良いし、或は、電源スイッチ72のオフ状態が継続する時間が所定時間T2に達したか否かを判定しても良い。このステップ105で、電源スイッチ72のオフ操作から所定時間(T1又はT2)が経過していないと判定されれば、そのまま本プログラムを終了する。この場合は、電源スイッチ72のオフ操作後もECUリレー73がオン状態に維持される。このステップ105の処理が特許請求の範囲でいう電源継続手段としての役割を果たす。
【0053】
その後、電源スイッチ72のオフ操作から所定時間(T1又はT2)が経過した時点で、上記ステップ105で「Yes」と判定されて、ステップ106に進み、ECUリレー73をオフしてレンジ切換ECU20への電源供給を遮断する。
【0054】
以上説明した本実施例によれば、電源スイッチ72のオフ操作後も所定時間が経過するまでは、電源オン状態に維持してRAM71の記憶データ(通電相学習値とエンコーダカウント値)を保持できると共に、モータ14が外力等で回転すれば、その回転角度に応じてエンコーダカウント値を更新することができる。これにより、電源スイッチ72のオフ操作後に電源オン状態に維持される期間は、通電相学習処理(初期駆動)を実行しなくても、RAM71に記憶された通電相学習値とエンコーダカウント値を用いてモータ14を目標回転角度まで正しく回転駆動することが可能となり、当該期間に電源スイッチ72がオン操作されても通電相学習処理(初期駆動)を実行しないようにすることができる。このため、使用者が遊び感覚等で電源スイッチ72のオン/オフの切換操作を繰り返しても、通電相学習処理(初期駆動)によるモータ14または、レンジ切換ECU20のモータドライバ55,56の発熱を抑えて、モータ14または、モータドライバ55,56の寿命低下や故障を未然に防止することができる。
【0055】
尚、エンコーダ61は、磁気式のエンコーダに限定されず、例えば、光学式のエンコーダやブラシ式のエンコーダを用いても良い。
また、モータ14は、SRモータに限定されず、エンコーダのパルス信号のカウント値に基づいてロータの回転角度を検出してモータの通電相を順次切り換えるブラシレス型の同期モータであれば、SRモータ以外の同期モータを用いても良い。
【0056】
その他、本発明は、レンジ切換装置に限定されず、SRモータ等のブラシレス型の同期モータを駆動源とする各種の位置切換装置に広く適用して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0057】
11…エンジン、12…自動変速機、13…油圧制御弁、14…モータ、15…レンジ切換機構、16…スプール弁、17…変速制御ECU、20…レンジ切換ECU(通電相学習手段,電源継続手段)、21…シフトレンジ検出装置、22…エンジンECU、23…バッテリ(電源)、28…ディテントレバー、29…パーキングロッド、31…ロックレバー、33…パーキングギヤ、35…凹部、36…ディテントバネ、37…係合部、38…ディテント機構、43…スタータ、46…出力軸センサ、51…ステータコア、52…ロータ、53,54…駆動コイル、55,56…モータドライバ(モータ駆動回路)、61…エンコーダ、62…ロータリマグネット、63…A相信号用の磁気検出素子、64…B相信号用の磁気検出素子、71…RAM(記憶手段)、72…電源スイッチ、73…ECUリレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を回転駆動するモータの回転に伴って所定角度間隔でパルス信号を出力するエンコーダと、電源オン/オフを切り替える電源スイッチと、前記電源スイッチのオン操作による電源オン後に前記モータの通電相をモータ駆動回路により所定のパターンで順次切り換えることで前記エンコーダのパルス信号のカウント値(以下「エンコーダカウント値」という)と前記モータの回転角度と通電相との対応関係を通電相学習値として学習する通電相学習処理を実行する通電相学習手段と、前記通電相学習値と前記エンコーダカウント値を記憶する記憶手段とを備え、前記通電相学習処理後は、前記エンコーダカウント値と前記通電相学習値に基づいて前記モータの通電相を順次切り換えることで前記モータを目標回転角度まで回転駆動するモータ制御装置において、
前記電源スイッチのオフ操作後も所定時間が経過するまで電源オン状態を継続する電源継続手段を備え、
前記通電相学習手段は、前記電源スイッチのオフ操作後に前記電源継続手段により電源オン状態を継続する期間に前記電源スイッチがオン操作されても前記通電相学習処理を実行しないことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記所定時間は、前記通電相学習処理で発熱した前記モータを放熱させるのに必要な時間、または、前記モータの通電相を切り換える前記モータ駆動回路の放熱に必要な時間を確保するように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータは、スイッチトリラクタンスモータであることを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータは、車両の自動変速機のレンジを切り換えるレンジ切換機構を駆動することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−100462(P2012−100462A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247164(P2010−247164)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】