説明

モータ駆動用半導体集積回路およびモータ用半導体集積回路

【課題】精度の高い駆動制御を行なうことができるコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を得ること。
【解決手段】モータ駆動用半導体集積回路(200)は、回転駆動される磁気記憶ディスク上の記憶トラックに対して情報のリードを行なう磁気ヘッド(106)をディスク上で移動させるボイスコイルモータ(108)の駆動電流をボイスコイルモータのコイルに流れる駆動電流を検出しながらフィードバック制御により磁気ヘッドの移動を行なう。ボイスコイルモータをフィードバック制御する制御回路は、ボイスコイルモータのコイルに流れる駆動電流を検出する電流検出部、それにより検出された電流と与えられた電流指令値に基づいてボイスコイルモータのコイルに駆動電流を流すドライバ回路に対する駆動制御信号を生成するディジタル回路で構成された制御信号生成部(235)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク記憶装置の制御技術、さらには、回転駆動される磁気記憶ディスク上の記憶トラックに対して情報のリード/ライトを行なう磁気ヘッドを移動させるボイスコイルモータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク記憶装置は、回転駆動される磁気記憶ディスク上の記憶トラックに対して情報のリード/ライトを行なう磁気ヘッドと、この磁気ヘッドを上記ディスク上にて移動させるボイスコイルモータと、上記磁気ヘッドのリード状態を監視しながら上記ボイスコイルモータの駆動電流を制御することにより上記磁気ヘッドの位置決めを行なうボイスコイルモータ駆動制御装置を有する。
【0003】
磁気ディスク記憶装置の情報記憶密度は年々高められているが、これに伴って磁気ヘッドの位置決め制御も非常に高精度が要求される。そこで、上記ボイスコイルモータの駆動電流を当該駆動電流の検出値に基づいてフィードバック制御することにより上記磁気ヘッドの位置決めを行なうフィードバック制御が採用されている。また、磁気ヘッドを移動させるボイスコイルモータの駆動には、当初、ボイスコイルモータの駆動電流量を連続的に変化させるリニア駆動方式が採用されていた。
【0004】
しかしながら、磁気ディスク記憶装置の高速化を実現するためには磁気ヘッドを所望の記憶トラックまで移動させる時間いわゆるシーク時間を短縮させなければならないが、そのためにはボイスコイルモータの駆動電流を増大させる必要がある。しかし、ボイスコイルモータの駆動電流を増大させると特にモータコイルでの電力損失が増大し、これに伴って発熱量が増大する。リニア駆動方式ではシーク時間短縮に伴う電源電流の増加が著しく大きい。一方、磁気ヘッドの移動の際に必要な電源を減らす方法として、パルス幅変調制御(以下、PWM制御と呼ぶ)がある。ただし、PWM制御はリニア駆動方式に比べて低消費電力であるが、高精度の制御が難しいという課題があった。
【0005】
そこで、磁気ヘッドを所定の記憶トラックまで移動させるいわゆるシーク時にはPWM制御でボイスコイルモータを駆動させ、リード・ライトのため磁気ヘッドを所望のトラックに追従させるトラックフォロー時にはリニア駆動方式でボイスコイルモータを駆動させるようにした技術が開発された(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−184137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、シーク動作からトラックフォロー動作へ移る時にPWM駆動からリニア駆動へ切り替える方式にあっては、切り替えを円滑かつ迅速に行なわなくてはならないが、その制御を高精度で行うのが困難であるとともに、PWM駆動のための制御回路とリニア駆動のための制御回路を別々にそれぞれ最適設計しなければならないので、設計負担が大きいとともに回路規模が増大するという不具合がある。そこで、本発明者らは、シーク動作とトラックフォロー動作の両方をPWM制御で行なうことを検討した。
【0008】
ところが、現在、ボイスコイルモータのPWM制御には14ビット前後のDA変換回路が使用されているが、トラックフォローをPWM制御で行なうには16ビット以上のDA変換回路が必要であり、現在の半導体製造技術で主流のCMOSプロセスで16ビット以上のDA変換回路を製造するのは比較的困難であるという課題がある。また、従来、ボイスコイルモータのフィードバック制御のための電流検出には、コイルと直列に接続された抵抗の両端に発生する電圧をリニアアンプで検出する方式が一般に採用されているが、センス抵抗において電力損失が生じたり、サンプリングクロックの持つジッタにより検出誤差が生じたりするなど、種々の課題があることが明らかとなった。
【0009】
本発明の目的は、シーク動作やトラックフォロー動作をPWM制御で行なうことができるとともに、所望の制御精度を有しかつCMOSプロセスで製造することができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、ボイスコイルモータのフィードバック制御のための電流検出を、サンプリングクロックのジッタの影響を受けずかつPWM周期にも依存することなく、高精度に行なうことができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、量子化ノイズを抑えて制御系全体をディジタル回路化することができ、これによってアナログ回路に比べてSN比を向上させることができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を提供することにある。
【0012】
本発明の更に他の目的は、シーク動作やトラックフォロー動作をPWM制御で行なうことができるとともに、PWM駆動で発生するノイズを低減することができるとともに、精度の高い電流制御が可能なボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を提供することにある。
【0013】
本発明の更に他の目的は、製造ばらつきによってドライバ回路に生じる伝播遅延時間や遷移時間のずれを自動調整し、PWM駆動の制御精度の低下を防止するとともにドライバ回路の出力信号の変化によってヘッドにより読み出された信号にノイズが結合して位置情報や記憶情報に誤りが生じるのを防止することができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、センス用抵抗において発生する電力損失を低減することができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、電源電圧の変動により生じるコイルの誤差電流を低減し、精度の高い駆動制御を行なうことができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、消費電力が少なく、読み出しエラーの少ない磁気ディスク記憶装置を提供することにある。
【0017】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記のとおりである。
【0019】
すなわち、本願の第1の発明は、回転駆動される磁気記憶ディスク上の記憶トラックに対して情報のリードを行なう磁気ヘッドを上記ディスク上にて移動させるボイスコイルモータの駆動電流を、前記ボイスコイルモータのコイルに流れる駆動電流を検出しながらフィードバック制御することにより前記磁気ヘッドの移動を行なうボイスコイルモータ駆動回路において、磁気ヘッドのシーク動作やトラックフォロー動作などコントローラからの指令値に基づいて磁気ヘッドを移動させる位置決め制御に必要なボイスコイルモータの駆動電流制御を、PWM駆動で行なうようにしたものである。
【0020】
上記した手段によれば、シーク動作とトラックフォロー動作をPWM駆動のみで行なうため、シーク動作からトラックフォロー動作への移行およびその逆の移行を円滑かつ迅速に実行させることができ、時間的なロスが少ないとともに、PWM駆動のための制御回路とリニア駆動のための制御回路を別々に設計する必要がないので、設計負担が軽減し回路規模も低減する。さらに、PWM駆動はリニア駆動に比べて、出力MOSトランジスタのホットキャリアによる特性劣化を生じにくいため、安価なCMOSプロセスを採用し易く、それによってコストを低減することが可能になる。
【0021】
ここで、望ましくは、磁気ヘッドを退避位置からディスク上へ移動させるロード動作制御もPWM駆動で行なう。さらに、シーク動作からトラックフォロー動作に移行する際のセトリング動作制御もPWM駆動で行なうように構成すると良い。さらに、磁気ヘッドをディスク上から退避位置へ移動させるアンロード動作制御もPWM駆動で行なうようにすることが可能である。
【0022】
本願の第2の発明は、ボイスコイルモータをフィードバック制御するための制御回路全体をディジタル回路で構成するようにしたものである。従来は、ボイスコイルモータの制御回路がアナログ回路により構成されていたため、外部からのノイズに弱くまたオフセットによる誤差を生じ易いとともに、製造ばらつきの影響を受け易いため制御の高精度化が困難であったが、制御回路全体をディジタル回路で構成することによりこれらの問題を解決することができる。
【0023】
ここで、望ましくは、電流指令値と電流検出値との差分信号から出力ドライバを制御する信号を生成する変調回路としてΣΔ(シグマ・デルタ)変調器を用いる。制御回路をディジタル回路で構成した場合、量子化ノイズが問題となるが、ΣΔ変調回路は量子化ノイズを高周波領域に拡散する特性があるため、ボイスコイルモータの位置決め制御に必要な低周波領域でのノイズを低減することができ、SN比を向上させることができる一方、増加した高周波領域のノイズはフィルタ(ディジタルフィルタ等)によって比較的容易に抑制することができる。
【0024】
本願の他の発明は、ボイスコイルモータの制御回路全体をディジタル回路で構成することにより派生する新たな問題点を解決するためのものであり、それには以下のようなものがある。
【0025】
第1に、ΣΔ変調器側において発生した高周波領域のノイズは、通常はフィルタを設けて除去するところを、フィルタを設けずに、制御信号をアナログ信号に変換するD/A変換回路(PWMパルス生成回路等)で生じるノイズと共に、モータのコイルが有する時定数(積分作用)を利用して平均化させることで減衰させるようにしたものである。具体的には、ΣΔ変調器の出力信号を直接D/A変換回路に入力して出力ドライバを制御するPWMパルスもしくはPAMパルスを生成させるようにする。これにより、ΣΔ変調器の後段のフィルタが不要になって制御回路全体を簡略化することができる。
【0026】
ここで、望ましくは、ΣΔ変調器の量子化器として、1ビット量子化器ではなくマルチビット量子化器を用いるようにする。制御回路の高速化にはΣΔ変調器の量子化器として1ビット量子化器を用いる方が良いが、1ビット量子化器を用いると出力駆動回路のスイッチングディレイによってリニアリティが悪化してSN比が劣化したり、出力駆動回路におけるスイッチングロスが増加したりするが、マルチビット量子化器を用いることにより、高周波ノイズの拡散をPWM周波数よりも低い周波数帯域に集中できるため、SN比を向上させ、出力駆動回路におけるスイッチングロスを低減することができる。
【0027】
第2に、ΣΔ変調器の前段に積分型ディジタルフィルタからなる位相補償器を設けるようにしたものである。ボイスコイルモータの制御回路は、負帰還ループであるため系を安定させて発振を防止するために位相補償器を設ける必要があるが、ΣΔ変調器の前段に位相補償器を設けることにより制御回路全体を簡略化することができる。すなわち、電流指令値の更新周波数に比べて高い周波数で動作するΣΔ変調器の前段には、量子化ノイズを減らすためのオーバーサンプリングのための予測器が必要となるが、本発明では制御系全体の位相補償を行なう回路を積分型ディジタルフィルタで構成しΣΔ変調器の前段に設けることによって予測器と兼用させることができ、それによって別途予測器を設ける必要がなくなり制御回路を簡略化することができる。また、予測器で生じる時間遅れを削減できるため、本発明のVCMドライバ回路全体の周波数帯域を向上させることができる。
【0028】
ここで、望ましくは、位相補償器を低周波領域のみ積分特性を有するPI型制御器を用い、ΣΔ変調器の前段に配置する。これにより、ΣΔ変調器およびその後段のD/A変換器で発生する量子化ノイズの出力駆動電流に対する入力換算ノイズの伝達特性に微分特性を持たせることができ、それがΣΔ変調器の微分特性に加算されるため、低周波領域におけるSN比が更に向上する。また、ボイスコイルモータ駆動回路の低周波領域におけるSN比はほぼ電流検出段の精度で決定できるようになり、電流検出段にΣΔ変調型A/D変換回路を用いることで精度を向上させることができる。さらに、望ましくは、位相補償器のフィルタ係数を設定するレジスタを設ける。これにより、ファームウェアの変更で、適用される磁気ディスク記憶装置の仕様に応じて最適な特性となるように、位相補償器を設定することができる。
【0029】
第3に、電流検出段として、コイルに流れる電流(それを再現した電流を含む)を高速サンプルによる積分動作によって平均化した後に量子化(AD変換)する手段を用いるようにしたものである。具体的には、電流検出手段を電流検出用アンプと該アンプで検出されたアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換回路とで構成し、A/D変換回路としてオーバーサンプリング型A/D変換回路を用いる。これにより、サンプリングパルスのジッタによる検出誤差がなくなると共に、PWMパルスのデューティ比が小さい時の平均電流の検出が可能となる。また、量子化の際に行なうサンプリング周期もPWM駆動の周期とは無関係に設定できるため、ボイスコイルモータ駆動回路全体の帯域向上も容易となる。
【0030】
ここで、望ましくは、検出信号をディジタル信号に変換するA/D変換回路として、ΣΔ変調型A/D変換回路を用いる。これにより、量子化ノイズが高周波領域に拡散されるため、ボイスコイルモータの位置決め制御に必要な低周波領域でのノイズを低減することができ、SN比を向上させることができる。なお、通常ΣΔAD変調型A/D変換回路の前段にはオーバーサンプリングを行なうための予測器が必要となるが、本発明ではボイスコイルモータのコイルによる積分特性でこれを代行し、予測器を省略する。つまり、電流検出用アンプから出力された検出信号を直接A/D変換回路に入力させる。これによって、予測器が不要となり制御回路全体を簡略化することができる。
【0031】
また、望ましくは、ΣΔ変調型A/D変換回路の後段に、低域通過および周波数間引き機能を持つデシメーションフィルタを設ける。これにより、電流検出手段としてΣΔ変調型A/D変換回路を用いるによって増加する高周波領域のノイズを抑制することができる。なお、さらに、望ましくは、該デシメーションフィルタの後段には、位相進み補償器を設ける。これにより、本フィルタの遅延によって生じるボイスコイルモータ駆動回路全体の不安定化(ゲインピーキング)を防止することができる。
【0032】
本願のさらに他の発明は、ボイスコイルモータの制御回路全体をディジタル回路で構成するとともに、電流指令値と電流検出値との差分信号から出力ドライバを制御する信号を生成する変調回路としてΣΔ変調器を用い、電流検出手段の出力とΣΔ変調器の入力である高精度の駆動電圧指令信号とに基づいてコイルに生じる逆起電圧を推定する逆起電圧推定回路を設けるようにしたものである。コイルに生じる逆起電圧は、これを直接検出しなくても、ボイスコイルモータ駆動回路の電源電圧と、コイルに流れている電流の大きさ、コイルの駆動電圧が分かれば、コイルインピーダンスのモデルを用いて演算によって求めることができるが、これらのパラメータは上記構成を有する制御回路内にはもともと存在するため、演算によって容易に得ることができる。そのため、複雑な逆起電圧を検出するためのアンプ等を設ける必要がなくなり、回路規模を低減することができ低コスト化が可能となる。
【0033】
本願の更に他の発明は、回転駆動される磁気記憶ディスク上の記憶トラックに対して情報のリードを行なう磁気ヘッドを上記ディスク上にて移動させるボイスコイルモータの駆動電流を、前記ボイスコイルモータのコイルに流れる駆動電流を検出しながらフィードバック制御することにより前記磁気ヘッドの移動を行なうボイスコイルモータ駆動回路において、磁気ヘッドのシーク動作やトラックフォロー動作などコントローラからの指令値に基づいて磁気ヘッドを移動させる電流制御をPWM駆動で行なうとともに、コイルの一方の端子を駆動するドライバ回路とコイルの他方の端子を駆動するドライバ回路のいずれか一方をPWMパルスの1/2周期ごとにPWM駆動し、他方のドライバ回路の制御信号は当該1/2周期の間固定状態にするようにしたものである。
【0034】
上記した手段によれば、PWMパルスの1周期内で発生する駆動電流の変動ムラを小さくすることができるため、PWM駆動で発生するノイズを低減することができる。また、1/2周期ごとに異なる電流指令値を与えることができるため、1周期ごとに電流指令値を与える従来のPWM駆動方式に比べて、より高速応答の電流制御が可能になる。
【0035】
本願の更に他の発明は、ボイスコイルモータ駆動回路のコイルの端子を駆動するドライバ回路の出力電圧の立上がりまたは立下がりのタイミングを検出してドライバ回路を制御する信号の遅延時間を計測する遅延時間計測回路と、ドライバ回路を制御する信号を任意の時間遅延させる可変遅延回路と、上記遅延時間計測回路で計測した時間を可変遅延回路に帰還させて信号の遅延時間を変化させる負帰還制御ループとを設けるようにしたものである。
【0036】
これによって、製造ばらつきや温度変化および電源電圧変動によってドライバ回路に生じる伝播遅延時間のずれを自動調整することができ、これによってPWM駆動制御におけるリニアリティの低下を防止することができる。ここで、上記遅延時間計測回路は、コイルの一方の端子を駆動するドライバ回路とコイルの他方の端子を駆動するドライバ回路の両方に対して共通の回路として設けても良いが、別々に設けることによってより精度の高いPWM駆動制御が保証される。
【0037】
本願の更に他の発明は、ボイスコイルモータ駆動回路のコイル端子を駆動するドライバ回路の出力電圧の立上がりまたは立下がりに要する時間を検出してドライバ回路の出力信号の遷移時間を計測する遷移時間計測回路と、ドライバ回路を制御する信号の変化速度を任意に設定する傾き調整回路と、上記遷移時間計測回路で計測した時間を傾き調整回路に帰還させて信号の遷移時間を変化させる負帰還制御ループとを設けるようにしたものである。
【0038】
これによって、製造ばらつきや温度変化および電源電圧変動によってドライバ回路に生じる遷移時間のずれを自動調整することができ、同遷移時間を高精度に制御できるので、ドライバ回路の出力信号を伝播するケーブルにおいて、ドライバ回路の出力信号の急峻な変化によってヘッドにより読み出された信号にノイズが結合して位置情報や記憶情報に誤りが生じるのを防止することができる。ここで、上記遷移時間の調整は、遷移時間を設定するレジスタを設けて外部のコントローラからレジスタに設定した値に応じて行なうようにしても良いが、コントローラからボイスコイルモータ駆動回路へ供給される電流指令値に基づいて指令値に比例して遷移時間の調整を行なうように構成することも可能である。
【0039】
本願の更に他の発明は、ボイスコイルモータをフィードバック制御するための制御回路全体をディジタル回路で構成するとともに、検出したコイル電流をフィードバックする経路の途中に、制御系全体で生じるオフセットをキャンセルするオフセット校正回路を設けるようにしたものである。制御回路全体をディジタル回路で構成したことにより、従来のアナログ制御系ではさまざまな箇所に必要であったオフセットの校正回路を1箇所に集約して設けることができ、回路規模の増大を抑制することができる。ここで、検出したコイル電流をディジタル信号に変換する回路がΣΔ変調型A/D変換回路とその後段に設けられたデシメーションフィルタとからなる場合には、デシメーションフィルタの後段にオフセット校正回路を設けるのが望ましい。
【0040】
本願の更に他の発明は、ボイスコイルモータのコイルに駆動電流を流すドライバ回路の出力トランジスタと並列に設けられ出力トランジスタの電流に比例した電流を流す所定のサイズ比のセンス用トランジスタを有するコイル電流再現回路と、該コイル電流再現回路により再現された電流をセンス用抵抗に流して発生した電圧降下を増幅する差動アンプとを有する電流検出回路を設けるようにしたものである。従来(特許文献1)のボイスコイルモータ駆動回路においては、モータのコイルと直列に接続したセンス用抵抗において生じた電圧降下を誤差アンプで増幅することでコイル電流を検出するようにしていたためセンス用抵抗において電力損失が発生していたが、本発明によると、モータのコイルと直列に接続するセンス用抵抗が不要となり、別途設けたセンス用抵抗にはコイル電流を比例縮小した電流を流して検出することができ、それによって電力損失を低減することができる。
【0041】
また、前述の特許文献1に記載のボイスコイルモータ駆動回路においては、センス用抵抗において生じた電圧降下を増幅する誤差アンプに抵抗分割した電圧を入力しているが、この抵抗分割に用いる抵抗がオンチップの場合、抵抗値が島電位のバイアス依存性を持つことで電流検出誤差が発生したり、抵抗分割に用いる抵抗の比が製造ばらつきや局所的な温度上昇でマッチングが取れなくなると誤差アンプのCMRR(同相ノイズ除去比)が低下して検出誤差が発生したりするおそれがあったが、本発明によると、誤差アンプへの入力電圧の分圧用抵抗が不要となるため、検出誤差を低減することができるようになる。
【0042】
ここで、望ましくは、電流検出回路に、PWM駆動の電力回生時に出力トランジスタに逆方向の電流が流れる場合でも上記センス用トランジスタに順方向電流が流れるように常時オフセット電流を流す電流付加回路と、検出電流に該オフセット電流が加算されないようにするオフセット電流キャンセル回路とを設ける。さらに、望ましくは、電流検出対象の出力トランジスタの状態がON抵抗領域に無く電流再現回路により正しい電流を再現できないような場合にその状態を判定する判定回路と、検出電流を保持可能なホールド手段とを設け、その間直前の検出電流を保持させるようにする。これによって、誤った電流の検出を回避して、より精度の高い電流検出が可能となる。
【0043】
本願の更に他の発明は、ボイスコイルモータ駆動回路の電源電圧を検出する電源電圧検出回路を設け、基準電圧と比較してそのずれ量に応じて駆動制御信号(PWM駆動パルス)のデューティ比もしくは出力電圧値を変化させるようにしたものである。これにより、電源電圧の変動により生じるコイルの誤差電流を低減することができる。ここで、PWM駆動パルスのデューティ比もしくは出力電圧値を変化させる信号が、ΣΔ変調器で形成されるように構成されている場合には、ΣΔ変調器の入力部に可変利得アンプとして機能する乗算器を設け、該アンプのゲインが電源電圧の変化に反比例するように乗算器を働かせると良い。
【発明の効果】
【0044】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
【0045】
すなわち、本発明に従うと、精度の高い駆動制御を行なうことができるコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明が適用される磁気ディスク記憶装置の概要を示すブロック図である。
【図2】本発明が適用される磁気ディスク記憶装置を構成するボイスコイルモータ駆動回路の構成例を示すブロック図である。
【図3】図2に示したボイスコイルモータ駆動回路とボイスコイルモータを伝達関数で表わした説明図である。
【図4】実施例のボイスコイルモータ駆動回路を構成するデシメーションフィルタの具体例を示す構成図である。
【図5】デシメーションフィルタの周波数特性を示す特性図である。
【図6】実施例のモータ駆動回路の周波数−ゲイン特性を示す特性図である。
【図7】位相進み補償部PGCや位相補償回路223を構成するディジタルフィルタの等価回路を示す構成図である。
【図8】実施例のモータ駆動回路における動作例を示すタイミングチャートである。
【図9】実施例のボイスコイルモータ駆動回路の電流検出段で発生する誤差電流ΔIadcと、出力段で発生する誤差電流ΔIoutと、回路全体の誤差電流ΔIvcmを示す特性図である。
【図10】実施例のボイスコイルモータ駆動回路を構成する出力ドライバと出力制御回路の具体例を示す構成図である。
【図11】実施例のボイスコイルモータ駆動回路の出力ドライバの動作例を示すタイミングチャートである。
【図12】本発明が適用される磁気ディスク記憶装置におけるヘッド側と制御装置側とを接続するケーブルの構成例を示す拡大説明図である。
【図13】ケーブルにより伝達される信号の影響を示す波形図である。
【図14】実施例のボイスコイルモータ駆動回路に備わる電流検出回路と本発明者が先に考え検討した形式のボイスコイルモータ駆動回路における電流検出回路の動作例を示すタイミングチャートである。
【図15】実施例のボイスコイルモータ駆動回路における電流検出回路の具体例を示す構成図である。
【図16】実施例の電流検出回路の動作例を示すタイミングチャートである。
【図17】実施例の電流検出回路の別の状態での動作例を示すタイミングチャートである。
【図18】実施例の電流検出回路におけるコイルの電流の向きと駆動電圧の極性が一致する場合と一致しない場合の出力電圧波形を示す波形図である。
【図19】電流検出回路内に設けられるホールド機能付き誤差アンプの具体例を示す回路図である。
【図20】デッドタイム判定回路の具体例を示す論理構成図である。
【図21】本発明が適用される磁気ディスク記憶装置を構成するボイスコイルモータ駆動回路の他の構成例を示すブロック図である。
【図22】PAM変調制御の図21の実施例のモータ駆動回路における入力指令値と駆動パルスとの関係を、図2のPWM変調制御の実施例のモータ駆動回路における入力指令値と駆動パルスとの関係と比較して示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の好適な実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0048】
図1は本発明の技術が適用された磁気ディスク記憶装置の概要を示す。
【0049】
同図に示す磁気ディスク記憶装置は、磁気記憶ディスク100、該磁気記憶ディスク100を回転駆動させるスピンドルモータ102、上記磁気記憶ディスク100上の記憶トラックに対して情報のリード/ライトを行なう磁気ヘッド(書込み磁気ヘッドおよび読出し磁気ヘッドを含む)104、先端に磁気ヘッド104を有するアーム106、このアーム106を回動させて磁気ヘッド104を上記ディスク100上にて径方向へ移動させるボイスコイルモータ108、このボイスコイルモータ108を駆動するモータ駆動回路200、上記磁気ヘッド104の読出信号から位置情報を読み取る信号処理回路(信号処理IC)110、この信号処理回路110が読み出した位置情報に基づいて上記モータ駆動回路200に駆動電流指令値Icmdを送る制御部300などを有する。
【0050】
ここで、制御部300は、磁気ディスク記憶装置全体の動作を制御するマイクロコンピュータ(CPU)310と、このマイクロコンピュータ310からの位置指令(目標トラック位置情報)と上記信号処理回路110からのヘッド位置情報とに基づいて例えば16ビットのバイナリコードからなる駆動電流指令値Icmdを生成するコントローラ320を有する。このコントローラ320が生成する駆動電流指令値Icmdは、電流の流れる向きを指定できるようにするため2の補数あるいはオフセット・バイナリの形式で上記モータ駆動回路200へ送られる。モータ駆動回路200は、特に制限されるものでないが、この実施例では、単結晶シリコンのような1個の半導体チップに半導体集積回路として形成されている。
【0051】
図2はボイスコイルモータ108を駆動制御するモータ駆動回路200の構成を示す。
【0052】
モータ駆動回路200は、図2に示されているように、上記コントローラ320との間でシリアルにデータの送受信を行なうシリアルポート201と、ボイスコイルモータVCMのコイルLVCMに流される電流に比例した電流が流されるセンス用抵抗Rsnsの両端に発生する電圧を検出する差動アンプ(以下、電流検出用アンプと称する)202と、コイルLVCMの両端子に駆動電圧を印加して所望の電流を流す出力ドライバ211,212が出力する電流に比例した電流がセンス用抵抗Rsnsに流れるように制御する電流検出制御回路203と、上記シリアルポート201を介してコントローラ320から受信した駆動電流指令値Icmdと上記電流検出用アンプ202により検出した駆動電流Ivcmに比例する出力電圧Vsnsとに基づいて上記ドライバ211,212の駆動制御信号を生成するディジタル制御回路220と、該制御回路220において発生するオフセットを校正するオフセットキャリブレーション回路204と、電源電圧VDDの電圧値を検出するための分圧抵抗R1,R2およびAD変換回路205と、ディジタル制御回路220内部の信号に基づいてコイルの逆起電圧Vb-emf(推定値)を演算して速度情報として上記コントローラ320へ供給する逆起電圧推定回路206などから構成されている。図2に示されている回路ブロックや素子は、ボイスコイルモータVCMとセンス抵抗Rsnsを除いて、半導体集積回路化される。
【0053】
逆起電圧推定回路206は、後述の変調回路224内の乗算器VGAの出力をCNT、コイルの電流をIvcm、コイルの寄生抵抗をRL、制御回路の電源電圧VDDの基準値をVDD0とおくと、次式
Vb-emf=Vout−Ivcm・RL
Vout=(2/CNT)・VDD0
によって逆起電圧Vb-emfを簡単に演算することができる。したがって、逆起電圧推定回路206はRL値やVDD0値を保持するレジスタと乗算器と加減算器により構成することができ、従来のアナログ制御システムにおけるような複雑な逆起電圧検出回路が不要となる。
【0054】
逆起電圧推定回路206によって算出された逆起電圧Vb-emfは、シリアルポート201を介してコントローラ320へ送るようにすることができる。コントローラ320は受信した逆起電圧からヘッドの移動速度を認知することができ、例えば磁気ヘッドをランプと呼ばれる退避位置からディスク上へ移動させるヘッドロード時のボイスコイルモータの速度制御に利用することができる。磁気ヘッドの移動速度が速過ぎると磁気ヘッドがディスク表面に接触して傷をつけてしまうおそれがあるが、該速度制御によりそれを回避することが可能となる。
【0055】
ディジタル制御回路220は、上記差動アンプ202の出力信号をディジタル信号に変換するA/D変換回路221と、その後段に設けられたデシメーションフィルタ222と、デシメーションフィルタ222から出力される検出電流値とコントローラ320から送られて来る駆動電流指令値Icmdとの差分に対して位相補償のための演算を行なう位相補償回路223と、位相補償された電流値を所定ビット数(実施例では7ビット)の制御コード信号FCNTに変換する変調回路224と、該変調回路224の出力信号とその符号反転信号に基づいて前記VCMドライバ211,212の駆動制御信号を生成するD/A変換手段としてのPWMパルス生成回路225,226などから構成されている。
【0056】
この実施例においては、上記デシメーションフィルタ222および上記位相補償回路223はロウパスフィルタ特性を有し、共にディジタルフィルタにより構成されている。PWMパルス生成回路225,226はカウンタとコンパレータにより構成することができる。変調回路224は、電流指令値と電流測定値とからPWMパルス生成回路225,226に出力駆動信号のパルス幅に応じた計数値FCNT,−FCNTを与え、PWMパルス生成回路225,226は50MHzのようなクロックφ0によって動作して、上記計数値に応じたデューティ比の駆動電圧VCMP,VCMNがドライバ211,212から出力されるように駆動制御信号(PWM駆動パルス)PL1,PL2を生成して出力する。本実施例では、変調回路224の出力部の量子化器QTZとして7ビット量子化器を用いることにより、出力段のスイッチングロスを適切に保ちながらPWM駆動によるノイズの最適化を図るようにしている。
【0057】
また、ディジタル制御回路220には、上記デシメーションフィルタ(222)と上記位相補償器(223)における演算に必要な係数を保持するレジスタ227,228がそれぞれ設けられており、これらのレジスタ227,228には、イニシャライズ(初期化)時等にコントローラ320から送られて来る値が設定され、保持されるように構成されている。オフセットキャリブレーション回路204は、イニシャライズ時にコントローラ320から出力アンプ211および212をハイインピーダンス状態にする信号が与えられたときに、電流検出回路全体のオフセットによって生じる値を電流検出系のオフセットキャンセル値ACQとしてレジスタ229に設定されるように構成される。
【0058】
本実施例においては、A/D変換回路221としてオーバーサンプリング型A/D変換器の一種である2次のΣΔ変調型A/D変換回路(以下、ΣΔ型A/D変換回路と称する)が、また変調回路224として2次のΣΔ型変調回路が使用されている。ΣΔ型A/D変換回路221は出力部にディジタル出力信号を生成する2ビットのA/D変換器ADC1と、アナログ帰還信号を生成する2ビットのD/A変換器DAC1とが設けられ、25MHzのような周波数のサンプリングクロックφsに同期して動作される。ΣΔ型変調回路224は入力部に可変利得アンプVGAとして機能する乗算器が、また出力部に7ビット量子化器QTZが設けられ、PWM制御の周期(390kHz)に対応してその1/2の周期を有する780kHzのような周波数のクロックφ1に同期して動作されるように構成されている。
【0059】
ΣΔ型変調回路224の入力部の可変利得アンプVGAのゲインKrは、A/D変換回路205から出力される検出電源電圧VDDSと電源電圧VDDの基準値VDD0との比VDD0/VDDS・(1+R1/R2)で決定される。PWM駆動によってドライバ211,212から出力される電圧VCMP,VCMNは、電源電圧VDDに比例するため、電源電圧VDDの変動は出力電圧の歪となり、PSRR(Power Supply Rejection Ratio)を悪化させる。そこで、本実施例では、電源電圧VDDを検出するA/D変換回路204を設けるとともにΣΔ型変調回路224の入力部に可変利得アンプVGAとして機能する乗算器を設けて、該アンプのゲインKrを電源電圧VDDの変化に反比例するように制御することで、高PSRR化を図るようにしている。
【0060】
上記のように、本実施例のモータ駆動回路において、ΣΔ型A/D変換回路とΣΔ型変調回路を用いているのは、ΣΔ型回路の特徴である高周波領域にノイズを拡散させて低周波領域のノイズを減らすことができるノイズシェーピングという特性(雑音整形)を利用するためである。つまり、ボイスコイルモータの駆動回路はその制御帯域が数10kHz以下であり、比較的低いため、ΣΔ型回路を用いることで低周波領域のノイズを減らして制御精度を高めることとした。そして、低周波領域のノイズが減った分増加する高周波領域のノイズは、ΣΔ型A/D変換回路211の後段に、ロウパスフィルタとして機能するデシメーションフィルタ222を設けて抑制することとした。
【0061】
ところで、従来より、A/D変換回路には、逐次比較型やオーバーサンプル型など種々の形式のものが開発されている。一般に、A/D変換回路でアナログ入力信号をディジタル信号に変換する場合、サンプリング周波数を高くすれば、信号周波数近傍のS/N(Signal to Noise Ratio)特性を向上させることができる。オーバーサンプル型A/D変換回路は、オーバーサンプル比を高くすることによりS/N特性を向上させた方式である。
【0062】
オーバーサンプル型A/D変換回路は、Δ変調方式、ΣΔ変調方式、それらの混合方式に大別できる。このうち、ΣΔ変調方式は、出力信号と入力信号との差を積分器で積分し、この積分器の出力が最小となるようにフィードバック制御するものである。このΣΔ変調方式においては、積分の次数すなわち積分器の数を増やすことにより、S/N特性をさらに改善することができる。つまり、積分の次数を1次増やす毎に、周波数に比例したノイズシェーピング特性が期待できる。ただし、積分の次数を高くすると、系の安定性が低下するとともに消費電力が多くなるという不具合がある。本実施例では、ΣΔ型A/D変換回路221とΣΔ型変調回路224をそれぞれ2次の回路とした。
【0063】
本発明者等は、ボイスコイルモータ駆動用ICに内蔵されて、コイル電流を検出するセンスアンプ202の出力信号をディジタル信号に変換してフィードバックするA/D変換回路としては、変換精度および変換速度の点からオーバーサンプリング型A/D変換回路、その中でも特にΣΔ変調方式のA/D変換回路が適していると考えた。ΣΔ変調方式を用いると、通常の16ビットのA/D変換回路として良く知られる逐次比較方式やノイズシェーパを用いないオーバーサンプリング方式を適用した場合に比べて、ノイズシェーピング特性の効果によって量子化ビット数を少なくして回路を簡略化できると共に、電流セル等の製造上のバラツキに対するセルのキャリブレーション無しで安定に高精度を実現できるという利点がある。
【0064】
本電流検出にコイルに流れる電流Ivcmを検出した信号をディジタル変換する回路としてオーバーサンプリング型A/D変換回路の1種であるΣΔ変調方式を用いた他の理由は、PWM駆動の周期よりも短い周期で検出信号のサンプリングを行なうことにより、通常の16ビットのA/D変換回路を用いる場合よりも電流検出誤差を小さくすることができるからである。
【0065】
すなわち、通常の16ビットのA/D変換回路を用いる場合には、例えば図14(a)〜(c)に示すように、PWMパルスの中央におけるコイル電流Ivcmをサンプリングして代表値とする方式が採られると考えられるが、これに用いられるサンプリングクロックφsは、通常VCO(電圧制御発振器)等で生成されるため破線のようにジッタを有することが多く、それによって図14(d)に示すように、検出電流Isnsに誤差ΔIが生じるおそれがある。また、前述の特許文献1のアナログ制御方式の発明においてもPWMパルスの中心点におけるコイル電流Ivcmをサンプリングして代表値とし電流指令値との差をとる方式が採用されている(特許文献1の図3,図4参照)ため、同様な検出電流誤差ΔIが生じるおそれがあった。
【0066】
これに対し、本実施例のボイスコイルモータ駆動回路においては、コイル電流Ivcmの検出信号をディジタル変換する回路としてオーバーサンプリング型A/D変換回路を用い、PWM駆動の周期よりも短い周期で検出信号のサンプリングを行ないΣΔ型A/D変換回路の持つ積分機能で平滑化を行なうため、図14(e)に示すように、クロックジッタによる電流検出誤差が原理上無視できるようになる。
【0067】
なお、ΣΔ型A/D変換回路とΣΔ型変調回路の構成と動作は公知であるので、詳しい説明は省略する。ΣΔ型A/D変換回路221の出力用のA/D変換器ADC1と帰還用のD/A変換器DAC1は、低周波領域のノイズを減らすとともに回路規模の増大を抑えるため2ビットとした。
【0068】
ところで、通常、ΣΔ型変調器の前段にはオーバーサンプリングを行なうための予測器(補間処理)が必要となるが、本実施例ではモータ駆動回路全体の位相補償を行なう位相補償回路223を積分器で構成することによって、これをΣΔ型変調回路224の予測器として代行させるようにしている。また、電流検出のA/D変換回路221側ではPWM駆動時のコイルの積分特性が予測器として働くためコイルを予測器として代用させることで、予測器を省略している。
【0069】
位相補償回路223は、ボイスコイルモータのコイルインピーダンスの1次遅れ特性を補償し、系全体を1次遅れに保つことと、出力段のSN比を向上させるために設けられた回路である。図2の位相補償回路223のブロック内に示されている伝達関数から分かるように、この実施例では位相補償回路223は積分器で構成される。"s"は、ラプラス変換された関数を表すのに用いられる変数である。
【0070】
本実施例では、ボイスコイルモータ駆動回路全体の帰還ループの位相補償を行なう位相補償回路223を、低周波領域において積分特性を有し、高周波領域で比例特性を有するPI型制御器とし、ΣΔ型変調回路224の前段に配置することで、変調器(量子化器)で発生する量子化ノイズの出力駆動電流に対する入力換算ノイズの伝達特性に微分特性を持たせるようにしている。
【0071】
これにより、上記微分特性がΣΔ型変調回路224の微分特性に加算されるため、低周波領域におけるSN比は更に向上し、本実施例のボイスコイルモータ駆動回路200の低周波領域におけるSN比はほぼ電流検出段(A/D変換回路221)の精度で決定されるようになる。しかるに、本実施例では、電流検出段として、ノイズシェーピング効果を有するΣΔ型A/D変換回路221を用いているため、回路全体としてのSN比を低減することができる。
【0072】
図9には、本実施例のボイスコイルモータ駆動回路200の電流検出段で発生する誤差電流ΔIadcと、出力段(位相補償回路、変調回路およびPWM生成回路)で発生する誤差電流ΔIoutと、回路全体の誤差電流ΔIvcmを示す。同図より、電流検出段で発生する誤差電流ΔIadcは出力段で発生する誤差電流ΔIoutよりも大きいが、回路全体の誤差電流ΔIvcmは電流検出段で発生する誤差電流ΔIadcよりも若干大きい程度であることが分かる。なお、図9において、ΔIvcmoは40kHzの帯域を有する理想の16ビットD/A変換器の誤差電流である。また、図9に示されているすべての誤差電流の値は、ΔIvcmo(at f<fvcm)で正規化されている。
【0073】
なお、本実施例の電流検出段の理論SN比は次式(1)で近似することができる。
【0074】
【数1】

【0075】
但し、n:ΣΔ変調の次数
N:ΣΔ変調の量子化bit数
ovsa:オーバーサンプリング比(=fadc/2fvcm)
fadc:電流検出用ADCのサンプリングレート[Hz]
fvcm:本実施例のVCMドライバの帯域[Hz]
であり、入力信号(電流指令値Icmd)はfvcmに帯域制限されていると仮定(即ちナイキスト周波数がfvcmと仮定)した。
【0076】
図3には、ボイスコイルモータVCMと図2の実施例のモータ駆動回路200を伝達関数で現したものが示されている。図3において、"Ksens"は差動アンプ202のゲイン、"Kadc"はA/D変換回路221のゲイン、"QNadc"はA/D変換回路221における量子化ノイズ、"QNout"はPWM変調における量子化ノイズ、"VDD0"は電源電圧の基準、FCNTはPWMパルス生成回路225,226が計数すべきカウント値であり、このカウント値がΣΔ型変調回路224からPWMパルス生成回路225,226へ与えられる。
【0077】
図4には、図2の実施例のモータ駆動回路200におけるデシメーションフィルタ222の具体例が示されている。
【0078】
この実施例のデシメーションフィルタは、それぞれN個(例えばN=16)の遅延段DLYおよび加算器ADDを有しフィルタ係数が「1」のFIR(有限インパルス応答)フィルタFIR1,FIR2とそれらの出力の平均をとる平均化回路AVR1,AVR2とが縦続接続されてなるロウパスフィルタ部LPFと、M個(例えばM=32)の遅延段DLYおよび加算器ADDを有しフィルタ係数が「1」のFIRフィルタFIR3とその出力の平均をとる平均化回路AVR3と、平均化回路AVR3のデータをM個おきに取り出して出力する間引き回路(M:1)とが縦続接続されてなる間引き処理部ELMと、位相進み補償部PGCとから構成されている。
【0079】
位相進み補償部PGCは、(1+S1/ωd)/(1+S1/m・ωd)なる伝達関数で表される演算を行なうディジタルフィルタにより構成し、分子が大きくなるように設定することで位相の進みを大きくすることができる。ここで、ωdはボイスコイルモータの周波数帯域をfvcmとおくと、ωd=3×2・π・fvcmで表される。位相進み補償部PGCを設けているのは、モータ駆動回路200の周波数−ゲイン特性における50kHz近傍でゲインが上昇するのを抑えるためである。以下、その理由を説明する。
【0080】
図5にはデシメーションフィルタの周波数特性が、また図6には実施例のモータ駆動回路200の周波数−ゲイン特性が示されている。位相進み補償部PGCを設けないデシメーションフィルタを用いた場合、ディジタルフィルタはロウパスフィルタ特性を有するため遅延が生じ、ゲインと群遅延時間の周波数特性は、それぞれ図5に点線A1,A2で示すような特性となり、これによってモータ駆動回路200の周波数特性は図6に点線A0で示すように、50kHz近傍にゲインピーキングが発生する。
【0081】
一方、位相進み補償部PGCを設けたデシメーションフィルタを用いた場合、図5に実線B1,B2で示すような特性となり、これによってモータ駆動回路200の周波数特性は、図6に実線B0で示すように、ゲインピーキングのない特性となる。
【0082】
ここで、上記位相進み補償部PGCや位相補償回路223は、図7に示すような等価回路からなるディジタルフィルタにより構成することができ、その伝達特性は、Ki’=(1+bz-1)/(1-az-1)で表わされる。PI型制御器は、Kiの項とKpの項を含む式Ki/s+Kpで表わされ、これは次式
【0083】
Ki/s+Kp=Ki/s(1+Kp・s/Ki)
=Ki/s(1+s・Kp/Ki)
のように、変形することができる。この式は、図2の位相補償回路223のブロック内部に記されている式、Ki/s(1+s・L/RL)と同じ形であることが分かる。図2の実施例のモータ駆動回路の位相補償回路223は、Ki/s(1+s・Kp/Ki)とKi/s(1+s・L/RL)とが同じになるように、図7中のパラメータ"K","a","b"が設計される。
【0084】
次に、本実施例のモータ駆動回路におけるPWMパルス生成回路225,226について説明する。PWMパルス生成回路225,226はそれぞれカウンタとコンパレータからなる回路であり、アナログ式駆動制御回路における三角波生成回路に相当する。PWMパルス生成回路225,226の計数値FCNT,−FCNTがΣΔ型変調回路224からパルス幅を指定する7ビットのバイナリコードとして与えられ、50MHzのクロックφ0でカウント動作して計数値に達すると出力が変化するように構成される。
【0085】
しかも、この実施例においては、ΣΔ型変調回路224からPWMパルス生成回路225,226へ7ビットの計数値が780kHzの周期で与えられる一方、PWMパルス生成回路225,226は計数値FCNT,−FCNTが与えられてもいずか一方のカウンタはハイまたはロウ出力の固定値が継続出力されるように構成されている。PWMパルス生成回路225,226のかかる動作を、図8を用いて説明する。
【0086】
図8において、PWMCNTは計数値FCNT,−FCNTの入力指令と同時に50MHzのクロックφ0で「0」からカウントアップ動作する仮想のカウンタの計数値、PL1はPWMパルス生成回路225から出力ドライバ211に供給される駆動制御信号(PWM駆動パルス)、PL2はPWMパルス生成回路226から出力ドライバ212に供給される駆動制御信号(PWM駆動パルス)で、PL1,PL2はドライバ211,212から出力され、モータのコイル両端をPWM駆動する。モータ両端の駆動電圧VCMP,VCMNはそれぞれPL1およびPL2に同期してGNDレベルと電源電圧VDDをスイッチングする。VCMP−VCMNは、モータのコイルの両端子間に印加される電圧である。
【0087】
図8から分かるように、本実施例においては、PWM駆動パルスPL1,PL2はそれぞれ1周期のうち半周期は固定、つまり半周期毎に交互にハイレベルまたはロウレベルに保持される。PWM駆動におけるカウンタの動作のさせ方としては、図8の下半分に示されているように、パルスPL1,PL2が1周期の間にそれぞれ入力指令値に応じた期間だけハイレベルになるように形成すればよいが、本実施例のように半周期はどちらか一方のパルスを固定し他方のパルスのみ入力指令値で制御することで、コイルの端子間電圧VCMP−VCMNの値をPWM駆動パルスPL1,PL2の半周期毎に更新することができる。これによって、PWM変調の見かけ上の分解能を高め、電流制御精度が高くなるという利点がある。尚、PL1,PL2のどちらを固定するかはFCNTの極性とPWMCNTが前半カウントか後半カウントのいずれの状態にあるかをみて判断する。
【0088】
本実施例においては、パルスPL1とPL2の出力レベルが一致する区間と不一致する区間から構成され、カウンタ値が更新されるタイミングを起点に不一致区間、一致区間の順に並べる。これにより、FCNT値の絶対値が小さくなるトラックフォロー時ほど、PWMによる駆動電流のリップル電流が小さくなり高精度の制御が可能となる。更に本実施例ではFCNT=0のときにDuty=50%のタイミングでPL1およびPL2の極性が切り替わるため出力駆動段の遅延時間および遷移時間による、ゼロクロス歪の発生が無い。
【0089】
上記で述べた本実施例における、Xbit変調器のより具体的なPL1,PL2のファンクション定義は下記のとおりである。
【0090】
(i)FCNT(PL1の指示値)=-FCNT(PL2の指示値)=0 入力のとき
If 0 <= PWMCNT< [2^(X-1)]-1 then PL1=H,PL2=H
If[2^(X-1)] < PWMCNT<= [2^X]-1 then PL1=L,PL2=L
(ii)FCNT=+N, -FCNT=-N (0<N=<2^(X-1)-1) 入力のとき
If 0 <= PWMCNT< N-1 then PL1=H,PL2=L
If N <= PWMCNT< [2^(X-1)]-1 then PL1=H,PL2=H
If[2^(X-1)] < PWMCNT< [2^(X-1)]+N-1 then PL1=H,PL2=L
If[2^(X-1)]+N< PWMCNT<= [2^X]-1 then PL1=L,PL2=L
(iii)FCNT=-N, -FCNT=+N (0<N=<2^(X-1)-1) 入力のとき
If 0 <= PWMCNT< N-1 then PL1=L,PL2=H
If N <= PWMCNT< [2^(X-1)]-1 then PL1=H,PL2=H
If[2^(X-1)] < PWMCNT< [2^(X-1)]+N-1 then PL1=L,PL2=H
If[2^(X-1)]+N< PWMCN<= [2^X]-1 then PL1=L,PL2=L
【0091】
次に、本実施例のモータ駆動回路における電流検出回路を備えた出力ドライバ211,212の具体例とその動作を、図10および図11を用いて説明する。なお、図10には、出力ドライバ211,212のうちP側のドライバ211の構成が示されている。出力ドライバ212は211と同一の構成であるので、図示および説明を省略する。
【0092】
本実施例の出力ドライバ211は、PWMパルス生成回路225から供給される駆動パルスPL1のスイッチングタイミングと、出力制御回路203から供給される制御信号に基づいて調整する波形調整部231と、出力駆動部232とからなる。また、出力制御回路203は、出力ドライバ211の電源電圧VDDと出力電圧VCMPとから出力電圧VCMPの遅延時間と遷移時間を検出する計測部233と、シリアルポート(SIO)201を介してコントローラ320から受け取った制御情報を保持するレジスタ部234と、レジスタ部234に保持されている制御情報と計測部233からの検出信号に基づいて上記波形調整部231に対する制御信号を生成する制御信号生成部235とからなる。
【0093】
図10に示されているように、出力ドライバの出力駆動部232は、電源電圧端子VDDと接地点との間に直列に接続されコイルの一方の端子に駆動電圧VCMPを印加して電流を流す出力MOSトランジスタM11,M21と、M11,M21のゲート端子を駆動する差動アンプAMP1,AMP2と、上記波形調整部231からの信号と出力電圧VCMPを抵抗R9,R10で分圧した電圧とを入力とし上記コイル駆動用差動アンプAMP1,AMP2の入力信号を生成する電圧入力−電流出力型の差動増幅回路(以下、gmアンプと称する)AMP0などから構成されている。
【0094】
また、差動アンプAMP1,AMP2は、自身の出力電圧すなわち出力MOSトランジスタM11,M21と、M11,M21のゲート電圧をそれぞれ抵抗R4とR5またはR7とR8で分圧した電圧が反転入力端子に印加されている。かかる構成の出力ドライバの駆動回路については、特開2003−52194号に類似の回路技術が開示されており、また本発明の要旨ではないので、詳細については説明を省略する。
【0095】
計測部233は、出力駆動部232の出力電圧VCMPと電源電圧VDDより少し低い基準電位とを入力とする電圧比較器CMP1と、出力駆動部232の出力電圧VCMPと接地電位GNDより少し高い基準電位とを入力とする電圧比較器CMP2と、電圧比較器CMP1の出力DLY1又は電圧比較器CMP2の出力DLY2とPWM駆動パルスPL1(PL2)とから出力電圧VCMPの遅延時間Td(図11参照)を検出するカウンタCNT1と、電圧比較器CMP1の出力DLY1と電圧比較器CMP2の出力DLY2とから出力電圧VCMPの遷移時間Tsを検出するカウンタCNT2などから構成されている。
【0096】
制御信号生成部235は、レジスタ部234に保持されている制御情報と計測部233からの検出信号との差分をとる減算器もしくはディジタル比較器SUB1,SUB2と、差分に応じた制御コードCC1,CC2を生成して上記波形調整部231へ出力する補償器CPS1,CPS2などから構成されている。補償器CPS1,CPS2は、ディジタルフィルタで構成する。
【0097】
波形調整部231は、補償器CPS1からの制御コードCC1に応じてPWM駆動パルスPL1を遅延させる遅延カウンタDLCと、直列に接続された一対の定電流源I1,I2およびこれらと直列に設けられたスイッチSW1,SW2と、電流源I1,I2の結合ノードN1と接地点との間に接続された容量素子C3などから構成されている。電流源I1,I2は、上記制御信号生成部235の補償器CPS2からの制御コードCC2に応じて電流値が変化されるようにされている。スイッチSW1とSW2はいずれか一方がオン状態にされるように制御され、スイッチSW1がオンされると電流源I1により容量素子C3が充電されて出力電圧PL1’が上昇し、スイッチSW2がオンされると電流源I2により容量素子C3が放電されることで出力電圧PL1’が下降する。その変化のスピードが電流源I1,I2の電流値で制御されることによって出力の変化速度(スロープ)すなわち遷移時間が調整される。
【0098】
このように、本実施例の出力ドライバ211(212)においては、PWMパルス生成回路225(226)から供給される駆動パルスPL1(PL2)のスイッチングタイミングと、計測部233による計測結果に基づいて波形調整部231において制御され、計測値がコントローラからの設定値に一致するようにフィードバックがかかる。そのため、図11に示されているように、遅延時間Tdと遷移時間Tsが次第に設定値に収束するようになる。なお、この実施例では、電流源I1,I2の電流値の切替えで出力の変化速度(スロープ)を制御するようにしているが、SW1、SW2、I1およびI2からなるスルーレート調整回路を省略しgmアンプAMP0のスルーレートを直接制御して遷移時間Tsを調整するように構成しても良い。
【0099】
本実施例の出力ドライバ211(212)を適用すると、以下のような利点がある。
【0100】
図1に示されているように、磁気ディスク記憶装置においては、ボイスコイルモータ108とモータ駆動用IC(200)との間およびヘッド104を支持するアーム106に搭載してあるリード・ライト用ICと信号処理用IC(110)との間が信号線で接続される。この接続は、一般にFPCと呼ばれるフレキシブルなプリント配線ケーブル(図12参照)で行なわれており、途中で分岐されることでそれぞれの部品に結合される。そのため、このケーブルには、ボイスコイルモータ108とモータ駆動用IC(200)とを接続する配線と、リード・ライト用ICと信号処理用IC(110)とを接続する配線とが互いに隣接して設けられることとなる。
【0101】
磁気ヘッド104により読み出されたヘッドのポジショニング信号はアーム106上のリード・ライト用IC内のプリアンプで増幅され、信号処理回路110へフレキシブルケーブル400の信号線411を介して供給される。また、本実施例の出力ドライバを有するモータ駆動回路200からボイスコイルモータ108への駆動電圧(VCMPとVCMN)の供給も同一のケーブルの信号線431,432で行なわれる。従って、例えば図12に示すように、フレキシブルケーブル(FPC)400の信号線411と431,432との間に存在する浮遊容量Cs1、Cs2によって、ボイスコイルモータの駆動電圧VCMPとVCMNのスイッチングノイズがポジション信号に結合し、位置決め制御精度を悪化させるおそれがある。
【0102】
磁気ディスクのヘッドシーク時は高速動作が要求されるため、ボイスコイルモータの駆動電流Ivcmは大きく(最大2A程度)なるが、比較的、ポジション信号の読み出し精度に関してはトラックフォロー時ほどシビアではない。反対にヘッドのトラックフォロー時はボイスコイルモータの駆動電流Ivcm自体は小さい(数10mA程度)が、オントラック状態を維持するためにポジショニング信号の読み出し精度は厳しい。また、トラックフォロー時はポジショニング信号と読み出しデータ信号が同一配線で時系列に交互に出力されるため、本カップリングノイズの重畳は読み出し信号のエラーレートの悪化をもたらす。さらに、コイル駆動電圧VCMPとVCMNが同時に同一方向に変化すると、ポジション信号に結合するノイズがさらに大きくなるおそれがある。
【0103】
そこで、本実施例では、図13に示すように、電流指令値Icmdが大きいヘッドシーク時はスイッチングロス低減を優先するため、ボイスコイルモータのコイル駆動電圧VCMPとVCMNの変化速度(スロープ)を急峻にし、電流指令値Icmdが小さいトラックフォロー時はカップリングノイズ抑制を優先させるため、ボイスコイルモータの駆動電圧VCMPとVCMNの変化速度(スロープ)を緩やかにするようにしている。このスロープの切り替えによって装置の消費電力の増加を抑えつつ、ケーブルでのカップリングノイズの発生を少なくすることができる実用的なVCMドライバを実現することができる。なお、ヘッドシーク時とトラックフォロー時における駆動電圧のスロープの切り替えは、ボイスコイルモータの駆動電流指示値Icmdの絶対値の大きさに応じて決定してもよいし、位置決め制御系のモード切替信号を利用して行なうようにしても良い。
【0104】
次に、ボイスコイルモータのコイルに流れる電流を検出する電流検出回路の実施例について説明する。図1の実施例のボイスコイルモータ駆動回路は、従来の駆動回路と同様にモータのコイルと直列に接続されたセンス用抵抗で生じる電圧降下を検出することでモニタすることも可能であるが、本実施例では、ドライバ211,212の出力MOSトランジスタ(図10のM11,M21等)に流れる電流をカレントミラー方式で再現し、再現された電流をモータのコイルとは無関係に設けられたセンス用抵抗に流して、この抵抗で生じる電圧降下を検出することでモニタするようにしたコイル電流検出回路をドライバ211,212に設けている。
【0105】
図15に、コイル電流検出回路の具体的な回路例を示す。
【0106】
図15は出力MOSM11,M21,M31,M41からコイルLvcmに電流を供給して駆動するHブリッジ型のモータ回路であり、符号Lvcmが付されているのはボイスコイルモータのコイル、RLはコイルの寄生抵抗成分を示したもので、センス用抵抗Rsnsではない。図15にはセンス用抵抗Rsnsは図示されていない。図10に示されているgmアンプAMP0や誤差アンプAMP1,AMP2も図15には示されていない。図15において、コイルLvcmの右側に示されているのは上側(P側)のドライバ211に対応する電流検出回路、コイルLvcmの左側に示されているのは下側(N側)のドライバ212に対応する電流検出回路である。
【0107】
コイルLvcmの一方の端子(図では右側)にドレイン端子が接続されたMOSトランジスタM11,M21は上側(P側)のドライバ211の出力MOSトランジスタであり、これらの出力MOSトランジスタM11,M21のゲートが、図10の差動アンプAMP1,AMP2の出力電圧VCMPU,VCMPLによって駆動される。また、M31,M41は下側(N側)のドライバ212の出力MOSトランジスタであり、これらの出力MOSトランジスタM31,M41のゲートは、図10のドライバと同様な構成されたドライバの誤差アンプ(AMP1,AMP2に対応)の出力電圧VCMNU,VCMNLによって駆動される。
【0108】
この実施例のコイル電流検出回路は、上記各出力MOSトランジスタM11,M21,M31,M41と並列に設けられそれぞれそれらのゲート端子に印加される電圧VCMPU,VCMPL,VCMNU,VCMNLと同一の電圧がゲート端子に印加されてドレイン電流をモニタするMOSトランジスタM12,M22,M32,M42を備えており、M11とM12、M21とM22、M31とM32、M41とM42はそれぞれサイズ(ゲート幅)がm:1に設定されることにより、M12,M22,M32,M42にはM11,M21,M31,M41に流れるドレイン電流の1/mの大きさのドレイン電流が流れるようにされている。
【0109】
図15から分かるように、上記各出力MOSトランジスタM11,M21,M31,M41にはそれぞれ上記モニタ用MOSトランジスタM12,M22,M32,M42を含む同一構成のモニタ回路が設けられている。そこで、以下、出力MOSトランジスタM11に対応したモニタ回路について説明し、M21,M31,M41に対応したモニタ回路については説明を省略する。
【0110】
モニタ用MOSトランジスタM12には、これと直列にMOSトランジスタM13とM14が接続されているとともに、M11のゲート端子に印加される電圧VCMPU,VCMPL,VCMNU,VCMNLと同一の電圧がゲート端子に印加され、M11と同一サイズを有し同一の電流が流れるMOSトランジスタM15が設けられている。そして、このMOSトランジスタM15と直列にMOSトランジスタM16とM17が接続され、このうちM17はドレインとゲートが結合されたダイオード接続とされているとともに、M17とM14のゲート端子が互いに接続されてカレントミラー回路を構成している。MOSトランジスタM17とM14は同一のサイズとされる。
【0111】
また、上記MOSトランジスタM13,M16のゲート端子には、それぞれ誤差アンプAMP11,AMP12の出力電圧が印加されている。ここで、誤差アンプAMP11は、非反転入力端子にモニタ用MOSトランジスタM12のソース電圧が印加され、反転入力端子には駆動用MOSトランジスタM11のソース電圧よりも所定の電圧Voffだけ低い電圧が印加されている。これにより、MOSトランジスタM12は、誤差アンプAMP11とMOSM13からなる負帰還ループの作用により、そのソース電圧が駆動用MOSトランジスタM11のソース電圧よりもVoffだけ低い電圧になるように制御される。上記動作により駆動用MOSM11の動作状態とモニタ用MOSM12の動作状態が完全に一致し、同MOSトランジスタがON抵抗領域で動作している限りにおいて、精度の良いカレントミラーが形成される。
【0112】
一方、誤差アンプAMP12は、非反転入力端子にMOSトランジスタM15のソース電圧が印加され、反転入力端子には電源電圧VDDよりも所定の電圧(オフセット電圧)Voffだけ低い電圧が印加されている。これにより、MOSトランジスタM16は、誤差アンプAMP12とMOSM16からなる負帰還ループの作用により、そのソース電圧が電源電圧VDDよりもVoffだけ低い電圧になるように制御される。そして、このMOSトランジスタM16のドレイン電流がMOSトランジスタM17に流され、カレントミラーによってMOSトランジスタM14に転写される。その結果、MOSトランジスタM13に流れるドレイン電流とM14に流れるドレイン電流の差分が検出電流Isnsとして出力され、これがセンス抵抗Rsns(図2参照)へ流されるようになっている。
【0113】
上記のように誤差アンプAMP11とMOSトランジスタM13を設けてM12のソース電圧をM11のソース電圧よりもVoffだけ低くしているのは、モータのコイルLvcmをPWM駆動した際の電力回生期間中に出力MOSトランジスタM11のソース電圧が電源電圧VDDよりも高くなって逆向きのドレイン電流が流れるが、モニタ用MOSトランジスタM12は回路構成上、逆向きのドレイン電流を流せないためである。オフセット電圧Voffは、PWM駆動した際の電力回生期間中の出力MOSトランジスタM11に逆向きのドレイン電流が流される状態においても、M12には逆向きの電流が流れないようにできる電圧に設定される。これによって、モニタ用MOSトランジスタM12には出力MOSトランジスタM11にドレイン電流がゼロになる場合にも所定の電流Ioffが流れるようになる。
【0114】
ただし、このままモニタ用MOSトランジスタM12の電流をセンス抵抗Rsnsへ流したのでは、オフセット電圧Voffによって生じる余分な電流(オフセット電流Ioff)が加算されているため、正しい検出電流を流すことができない。そこで、M15とM16と誤差アンプAMP12によってオフセット電圧Voffによって生じるオフセット電流Ioffのみを生じさせ、カレントミラーでMOSトランジスタM14に転写させ、MOSトランジスタM13に流れるドレイン電流からM14に流れるオフセット電流Ioffを差し引いた分を検出電流として出力させることによって、オフセットをキャンセルするようにしている。
【0115】
さらに、この実施例のコイル電流検出回路においては、誤差アンプAMP11,AMP12〜AMP41,AMP42を、イネーブル信号EN,/ENによって所定のタイミングで活性化させることによって、同時に複数の検出回路から検出電流が出力されないようにして、誤ったコイル電流の検出を防止するように構成されている。以下、そのような動作を、図16〜図18を用いて説明する。
【0116】
図16は、実施例のモータ駆動回路において、ドライバ211,212の出力VCMP,VCMNが、コイルに図15の矢印の向きつまり右から左へ向かって電流を流すように出力MOSトランジスタM11,M21,M31,M41がオン・オフ制御されているときのコイルの電流Ivcm、M11,M21,M31,M41のドレイン電流Id、イネーブル信号EN,/EN、検出電流Isnsの変化が示されている。コイル電流Ivcmが図15の矢印の向きに流れるこの制御状態においては、VCMP−VCMN>0の期間に出力MOSトランジスタM11とM41がオンされて、コイルには図15に矢印(1)で示すような方向に有効な駆動電流が流されるが、次にM11がオンのままM41がオンからオフへ、M31がオフからオンへ切り替わると矢印(2)のような電流が流れる。
【0117】
その後、M11がオンのままM41がオフからオンへ、M31がオンからオフへ切り替わってコイルに再び矢印(1)のような有効な駆動電流が流された後、M11がオンからオフへ、M21がオフからオンへ切り替わって矢印(3)のような電流が流れる。それから、M41がオンのままM11がオフからオンへ、M21がオンからオフへ切り替わってコイルに再び矢印(1)のような有効な駆動電流が流れる。ところが、M41がオフからオンへまたM31がオンからオフへ切り替わって電流が(2)から(1)へ切り替わる際にも一瞬M31とM41にリカバリ電流が流れるとともに、M11がオフからオンへまたM21がオンからオフへ切り替わって電流が(3)から(1)へ切り替わる際に一瞬M11とM21にリカバリ電流が流れる。したがって、このようなリカバリ電流が流れているときにその相の電流を検出すると誤差を生じてしまう。
【0118】
そこで、この実施例では、イネーブル信号EN,/ENによってTS1の期間はアンプAMP11,AMP12を、またTS2の期間はアンプAMP41,AMP42をそれぞれ活性化させて、出力駆動トランジスタの電圧が遷移している期間中の電流検出を避け、常にON抵抗状態にある出力駆動トランジスタのみから電流検出を行なうことで正しい電流を検出できるようにしている。しかも期間TS1およびTS2を同一時間とすることによりVCMP側の検出値とVCMN側の検出値の平均化をはかり、VCMP側およびVCMN側の両検出回路間で生じるオフセットと利得のばらつきを低減している。
【0119】
図17は、実施例のモータ駆動回路において、ドライバ211,212の出力VCMP,VCMNが、コイルに図15の矢印と逆の向きつまり左から右へ向かって電流を流すように出力MOSトランジスタM11,M21,M31,M41がオン・オフ制御されているときのコイルの電流Ivcm、M11,M21,M31,M41のドレイン電流、イネーブル信号EN,/EN、検出電流Isnsの変化が示されている。コイル電流Ivcmが図15の矢印と逆の向きに流れる制御状態においては、VCMP−VCMN<0の期間に出力MOSトランジスタM31とM21がオンされて、コイルには矢印(4)のような有効な駆動電流が流されるが、M21がオフからオンへまたM11がオンからオフへ切り替わる際に一瞬M11とM21にリカバリ電流が流れ、M31がオフからオンへまたM41がオンからオフへ切り替わる際に一瞬M31とM41にリカバリ電流が流れる。従って、このようなリカバリ電流が流れているときにその相の電流を検出すると誤差を生じてしまう。
【0120】
そこで、この実施例では、イネーブル信号EN,/ENによってTS3の期間はアンプAMP21,AMP22を、またTS4の期間はアンプAMP31,AMP32をそれぞれ活性化させて、出力駆動トランジスタの電圧が遷移している期間中の電流検出を避け、常にON抵抗状態にある出力駆動トランジスタのみから電流検出を行なうことで正しい電流を検出できるようにしている。しかも期間TS3およびTS4を同一時間とすることによりVCMP側の検出値とVCMN側の検出値の平均化をはかり、VCMP側およびVCMN側の両検出回路間で生じるオフセットと利得のばらつきを低減している。
【0121】
さらに、この実施例の電流検出回路においては、出力MOSトランジスタM11,M21,M31,M41のオン・オフ切替え時に制御信号VCMPU〜VCMNLのわずかなずれで上側のMOSトランジスタM11と下側のM21あるいはM31とM41が同時にオン状態にされると非常に大きな貫通電流が流れてしまうおそれがあるので、M11とM21あるいはM31とM41が同時にオン状態にならないように制御信号VCMPU〜VCMNLのタイミングが調整されている。
【0122】
ただし、このようにすると、例えば出力MOSトランジスタM11とM41がオンされてコイルに図15の(1)のような電流が流れているときにM41がオン状態からオフ状態にされた直後はM31もオフであるため、M41の基体ダイオードを通して電流が流れ、コイルの端子電圧VCMP,VCMNには図18(c),(d)に丸印で示すようなところに、不一致部分が現われる。このような電流が流れてVCMP,VCMNに不一致部分が現われたとしても、コイルの電流の向きと駆動電圧の極性とが一致している場合には、基本的には出力MOSがフルオンしている際の電流検出となるため図15の回路により電流を正しく検出することができる。但し、遷移期間がゆっくりで、期間Ts1および期間Ts2の開始時点で、VCMPおよびVCMNの出力がそれぞれ遷移し終えてない場合は多少の検出誤差を生じる。
【0123】
ところが、本発明の駆動対象となる負荷は誘導性のコイルを前提にしているため、VCMP-VCMNの差動駆動電圧に比べて負荷コイルの駆動電流Ivcmの位相は遅れを生じる。このため、駆動電流の極性を切り替えた直後は一定期間、駆動電圧と駆動電流の極性が反転する。また、負荷がボイスコイルモータのコイルの場合、モータの逆器電圧B-EMFの影響によって駆動電圧と駆動電流の極性が反転する期間が存在する。本極性反転期間中(電圧と電流の極性不一致時)は、出力駆動段の上下の出力MOSトランジスタ切替えのため図18に示すTdtの期間(以下、デッドタイムと称する)は出力段の電位が遷移した後に生じるため、相選択信号としてのイネーブル信号ENの切り替わりと一致してしまう。このため、デッドタイムTdtの間は電流検出相の出力MOSトランジスタがオンせず電流検出が出来ないことが分かった。
【0124】
そこで、この実施例では、図15のコイル電流検出回路内の誤差アンプAMP11,AMP21,AMP31,AMP41を、図19に示すような、制御信号HOLDPまたはHOLDNに応じて出力レベルを保持可能なホールド機能付き誤差アンプで構成し、このアンプを図20に示すような論理回路からの制御信号HOLDPまたはHOLDNによって動作させ所定の期間、直前の検出電流値を保持させるように構成することで、上述したような不具合を回避することができるようにした。図20の論理回路(デッドタイム判定回路)は、図2の出力制御回路203に設けておくようにすることができる。
【0125】
図19の誤差アンプは、定電流源CI1とMOSトランジスタMop1〜Mop4とからなる差動増幅段と、定電流源CI2とMOSトランジスタMop5とからなる出力段との間にゲート端子に制御信号HOLDPまたはHOLDNが入力されるスイッチMOSトランジスタMop6,Mop7が直列に接続されており、制御信号HOLDPまたはHOLDNがハイレベルのときはMop6,Mop7がオン状態になって通常の差動アンプとして動作し、制御信号HOLDPまたはHOLDNがロウレベルのときはMop6,Mop7がオフ状態になって直前の電圧が容量Cc2とCc1に保持されることにより、出力電圧OUTが直前のレベル状態を保持できるようにされる。
【0126】
図20のデッドタイム判定回路は、出力MOSトランジスタM11の制御信号VCMPUとM11が十分オンできるしきい値電圧VthHPとを比較するコンパレータComp1と、出力MOSトランジスタM21の制御信号VCMPLとM21が十分オンできるしきい値電圧VthLPとを比較するコンパレータComp2と、出力MOSトランジスタM41の制御信号VCMNLとM41が十分オンできるしきい値電圧VthLNとを比較するコンパレータComp3と、出力MOSトランジスタM31の制御信号VCMNUとM31が十分オンできるしきい値電圧VthHPとを比較するコンパレータComp4と、前記コンパレータComp1とComp2の出力およびイネーブル信号ENを入力とするNANDゲートG1と、前記コンパレータComp3とComp4の出力およびイネーブル信号ENの反転信号/ENを入力とするNANDゲートG2とから構成されている。
【0127】
図16の各出力MOSトランジスタM11,M21,M31,M41のゲート電圧VCMPUとVCMPLがそれぞれしきい値電圧VthHP,VthLPよりも低く、またVCMNUとVCMNLがVthHN,VthLNよりも低くなると、該当する出力MOSトランジスタがオフ状態にあると判断し、対応するコンパレータの出力はハイレベルになる。そして、コンパレータComp1とComp2とイネーブル信号ENがすべてハイレベルになるとNANDゲートG1の出力HOLDPがロウレベルにされ、図16のアンプAMP11とAMP21がホールド状態となる。
【0128】
また、コンパレータComp3とComp4がハイレベルになりイネーブル信号ENがロウレベル(/ENは"H")になるとNANDゲートG2の出力HOLDNがロウレベルにされ、図16のアンプAMP31とAMP41がホールド状態となる。上記参照値VthHPとVthLP,VthLN,VthHNはそれぞれ、出力制御回路203内に設けられた基準電流源Iref1,Iref2,Iref3と抵抗Rref1,Rref2,Rref3とからなる参照電圧生成回路RVGより与えられ、各出力トランジスタがフルオンできるゲートソース間電圧に相当する参照電圧VthHP,VthLP(=VthLN),VthHNは予め各出力トランジスタのしきい値電圧、相互コンダクタンスおよび駆動電流の設計値に基づいて決定される。
【0129】
なお、図15のコイル電流検出回路内の誤差アンプAMP11,AMP21,AMP31,AMP41を図19のような構成とする代わりに、図2の電流検出用アンプ202の後段に所定のタイミングで検出電流値を保持するホールド回路を設けるとともに、出力制御回路203にデッドタイムTdtの発生を検出する判定回路を設けてホールド回路に制御信号を与えて動作させてデッドタイム直前の検出電流値を保持するように構成しても良い。
【0130】
図21はボイスコイルモータ108を駆動制御するモータ駆動回路200の他の構成例を、また図22にはそのタイミングチャートを示す。
【0131】
この実施例は、図2の実施例のモータ駆動回路におけるPWMパルス生成回路225,226の代わりに、PAM(パルス振幅変調)パルス生成回路225,226を用いるようにしたものである。PAMパルス生成回路225,226は、通常のDA変換器で構成することができる。図2のPWM変調制御のタイミングと比較してPAM変調制御のタイミングを示す図22を参照すると分かるように、PAM変調制御では、PWM変調制御において1/2周期ごとにパルス幅を指定していた指令値で振幅値を表わすこととなる。この振幅指令値に応じて駆動パルスPL1,PL2(パルス幅一定)の振幅が変化され、それによってコイルの両端子間に印加される電圧VCMP-VCMNが変化される。
【0132】
これにより、例えばPWM変調制御では指令値+16,−16でパルスのデューティ25%(振幅は100%)を表わしていたものが、PAM変調制御では指令値+16,−16でパルスの振幅25%(デューティ100%)が表わされるようになる。この実施例のPAM変調制御を適用することにより、コイル駆動電流Ivcmに現われるPAM(PWM)周波数の2倍の周波数成分のノイズを低減することができるという利点がある。
【0133】
前記実施例のモータ駆動回路によれば、シーク動作やトラックフォロー動作、セトリング動作をPWM制御で行なうことができるとともに、所望の制御精度を有しかつCMOSプロセスで製造することができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を得ることができる。
【0134】
また、ボイスコイルモータのフィードバック制御のための電流検出を、サンプリングクロックのジッタの影響を受けずかつPWM周期にも依存することなく、高精度に行なうことができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を得ることができる。
【0135】
さらに、量子化ノイズを抑えて制御系全体をディジタル回路化することができ、これによってアナログ回路に比べてSN比を向上させることができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を得ることができる。
【0136】
さらに、上記のような実施例に従うと、消費電力が少なく、読み出しエラーの少ない磁気ディスク記憶装置を実現することができる。
【0137】
さらに、シーク動作やトラックフォロー動作、セトリング動作をPWM制御で行なうことができるとともに、PWM駆動で発生するノイズを低減することができ、精度の高い電流制御が可能なボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を得ることができる。
【0138】
また、製造ばらつきや温度変化および電源電圧変動によってドライバ回路に生じる伝播遅延時間や遷移時間のずれを自動調整し、PWM駆動の制御精度の低下を防止するとともに、ドライバ回路の出力信号の変化によってヘッドにより読み出された信号にノイズが結合して位置情報や記憶情報に誤りが生じるのを防止することができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を得ることができる。
【0139】
さらに、センス用抵抗において発生する電力損失を低減することができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を得ることができる。
【0140】
また、電源電圧の変動により生じるコイルの誤差電流を低減し、精度の高い駆動制御を行なうことができるボイスコイルモータの駆動制御用半導体集積回路を得ることができる。
【0141】
以上、本発明者によってなされた発明を実施態様にもとづき具体的に説明したが、本発明は上記実施態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、上記実施例においては、ボイスコイルモータ駆動回路によるPWM駆動を磁気ヘッドのシーク時とトラックフォロー時とランプロード時に行なうと説明したが、磁気ヘッドをランプへ退避させるアンロード時にも実施例のボイスコイルモータ駆動回路でコイルのPWM駆動を行なっても良いし、ヘッドのアンロードは比較的ラフな制御でよいので、簡単なリニア駆動回路を別途設けてアンロードを行なうようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0142】
以上の説明では主として本発明者によってなされた発明をその背景となった利用分野であるハードディスクを記憶媒体とする磁気ディスク記憶装置に適用した場合について説明したが、本発明にそれに限定されるものでなく、光ディスクピックアップの位置決め制御、プリンタヘッドの位置決め制御、産業用ACサーボモータのトルク制御等、高精度のトルク制御が必要なアクチュエータ機器全般にも利用することができる。
【符号の説明】
【0143】
100 磁気記憶ディスク
102 スピンドルモータ
104 磁気ヘッド
106 アーム
108 ボイスコイルモータ
110 信号処理回路(信号処理IC)
200 モータ駆動回路
201 シリアルポート
202 電流センス用アンプ
203 出力制御回路
204 オフセットキャリブレーション回路
205 A/D変換器
211,212 ドライバ
220 ディジタル制御回路
221 ΣΔ型A/D変換回路
222 デシメーションフィルタ
223 位相補償器
224 ΣΔ型変調回路
225,226 PWMパルス生成回路
310 コントローラ
320 マイクロコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される磁気記憶ディスク上の記憶トラックに対して情報のリードを行なう磁気ヘッドを前記ディスク上にて移動させるボイスコイルモータの駆動電流を、前記ボイスコイルモータのコイルに流れる駆動電流を検出しながらフィードバック制御することにより前記磁気ヘッドの移動を行なうモータ駆動用半導体集積回路であって、
ボイスコイルモータをフィードバック制御するための制御回路は、前記ボイスコイルモータのコイルに流れる駆動電流を検出する電流検出部と、該電流検出部により検出された電流と与えられた電流指令値とに基づいて前記ボイスコイルモータのコイルに駆動電流を流すドライバ回路に対する駆動制御信号を生成するディジタル回路で構成された制御信号生成部と、を備えることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項2】
請求項1において、前記制御信号生成部は、前記電流指令値と電流検出値との差分信号から前記ドライバ回路を制御する信号を生成する変調回路としてΣΔ変調器を備えることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項3】
請求項2において、前記制御信号生成部は、前記ΣΔ変調器により変調された信号をアナログ信号に変換するD/A変換回路を備え、ΣΔ変調器の出力信号は直接D/A変換回路に入力されて前記ドライバ回路を制御する駆動パルスを生成させるように構成されていることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項4】
請求項2または3において、前記ΣΔ変調器の量子化器としてマルチビット量子化器を用いることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかにおいて、前記ΣΔ変調器の前段に積分特性を持つディジタルフィルタからなる位相補償器を備えることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項6】
請求項5において、前記位相補償器としてPI制御器を用いることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項7】
請求項5において、前記位相補償器のフィルタ係数を設定するレジスタを備えることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項8】
請求項2において、前記電流検出部は、電流検出用アンプと該アンプで検出されたアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換回路を備え、該A/D変換回路としてオーバーサンプリング型A/D変換回路を用いることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項9】
請求項8において、前記A/D変換回路としてΣΔ変調型A/D変換回路を用いることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項10】
請求項9において、前記ΣΔ変調型A/D変換回路の後段に、低域通過、周波数間引き機能を持つデシメーションフィルタを備えることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項11】
請求項10において、上記デシメーションフィルタは位相進み補償器を有することを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項12】
回転駆動される磁気記憶ディスク上の記憶トラックに対して情報のリードを行なう磁気ヘッドを前記ディスク上にて移動させるボイスコイルモータの駆動電流を、前記ボイスコイルモータのコイルに流れる駆動電流を検出しながらフィードバック制御することにより前記磁気ヘッドの移動を行なうモータ駆動用半導体集積回路であって、
ボイスコイルモータをフィードバック制御するための制御回路がディジタル回路で構成されているとともに、与えられた電流指令値と電流検出値との差分信号から生成される位相補償器の出力信号を元に出力ドライバを制御する信号を生成する変調回路としてΣΔ変調器を用い、電流検出手段の出力と前記ΣΔ変調器の入力である駆動電圧指令信号とに基づいてコイルに生じる逆起電圧を推定する逆起電圧推定回路を備えることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項13】
請求項12において、前記制御回路は、前記ボイスコイルモータのコイルに流れる駆動電流を検出する電流検出部と、該電流検出部により検出された電流と前記電流指令値とに基づいて前記ボイスコイルモータのコイルに駆動電流を流すドライバ回路に対する駆動制御信号を生成する制御信号生成部とを備え、
前記制御信号生成部は、前記電流指令値と電流検出値との差分信号から前記ドライバ回路を制御する信号を生成するΣΔ変調器と、前記ΣΔ変調器の前段に設けられた積分特性を持つディジタルフィルタからなる位相補償器と、前記ΣΔ変調器により変調された信号をアナログ信号に変換するD/A変換回路と、を備え、
前記電流検出部は、電流検出用アンプで検出されたアナログ信号をディジタル信号に変換するΣΔ変調型A/D変換回路と、前記ΣΔ変調型A/D変換回路の後段に設けられた低域通過、周波数間引き機能を持つデシメーションフィルタと、を備える
ことを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項14】
請求項12または13のいずれかにおいて、前記制御回路により生成された信号に従って前記ボイスコイルモータのコイルに駆動電流を流すドライバ回路を備えることを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項15】
請求項13において、上記デシメーションフィルタは位相進み補償器を有することを特徴とするモータ駆動用半導体集積回路。
【請求項16】
Hブリッジ型式でコイルに電流を供給して駆動するモータに用いられるものであり上記コイルに電流を供給する為の出力段を駆動制御する為のモータ用半導体集積回路において、
上記モータをフィードバック制御するための制御回路は、
前記モータのコイルに流れる駆動電流を検出する電流検出部と、該電流検出部により検出された電流検出値と与えられた電流指令値との差分信号から上記モータのコイルに駆動電流を流す上記出力段を駆動制御するドライバ回路を制御する信号を生成する変調回路としてΣΔ変調器を有する制御信号生成部と、を備えることを特徴とするモータ用半導体集積回路。
【請求項17】
請求項16において、前記制御信号生成部は、前記ΣΔ変調器により変調された信号をアナログ信号に変換するD/A変換回路に相当するPWM変調器またはPAM変調器を備え、ΣΔ変調器の出力信号は直接D/A変換回路に入力されて前記ドライバ回路を制御する駆動パルスを生成させるように構成されていることを特徴とするモータ用半導体集積回路。
【請求項18】
請求項16又は17において、前記ΣΔ変調器の量子化器としてマルチビット量子化器を用いることを特徴とするモータ用半導体集積回路。
【請求項19】
請求項16ないし18のいずれかにおいて、前記ΣΔ変調器の前段に積分特性を持つディジタルフィルタからなる位相補償器を備えることを特徴とするモータ用半導体集積回路。
【請求項20】
請求項19において、前記位相補償器としてPI制御器を用いることを特徴とするモータ用半導体集積回路。
【請求項21】
請求項19において、前記位相補償器のフィルタ係数を設定するレジスタを備えることを特徴とするモータ用半導体集積回路。
【請求項22】
請求項16において、前記電流検出部は、電流検出用アンプと該アンプで検出されたアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換回路を備え、該A/D変換回路としてオーバーサンプリング型A/D変換回路を用いることを特徴とするモータ用半導体集積回路。
【請求項23】
請求項22において、前記A/D変換回路としてΣΔ変調型A/D変換回路を用いることを特徴とするモータ用半導体集積回路。
【請求項24】
請求項23において、前記ΣΔ変調型A/D変換回路の後段に、低域通過、周波数間引き機能を持つデシメーションフィルタを備えることを特徴とするモータ用半導体集積回路。
【請求項25】
請求項24において、上記デシメーションフィルタは位相進み補償器を有することを特徴とするモータ用半導体集積回路。
【請求項26】
請求項16において、上記制御信号生成部は上記電流検出部の出力と前記ΣΔ変調器の入力である駆動電圧指令信号とに基づいて上記コイルに生じる逆起電圧を推定する逆起電圧推定回路を備えることを特徴とするモータ用半導体集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−65746(P2011−65746A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246322(P2010−246322)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【分割の表示】特願2004−111817(P2004−111817)の分割
【原出願日】平成16年4月6日(2004.4.6)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】