説明

モーメント中心位置推算装置、その装置を備えた車両、及びモーメント中心位置推算方法

【課題】 車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に推定することができ、走行状態における車両の姿勢制御精度を向上させることができる簡易な構造のモーメント中心位置推算装置、該装置を備えた車両、及びモーメント中心位置推算方法を提供する。
【解決手段】 複数の車輪と、車輪に加わる荷重に応じて緩衝部材の長さが変動する懸架装置とを備えた車両の片揺れモーメントの中心位置を推定するモーメント中心位置推算装置において、緩衝部材毎の長さの変動量を検知する検知手段と、検知した変動量に基づいて車輪毎に加わる荷重を推算する荷重推算手段と、推算した荷重に基づいて片揺れモーメントの中心位置を算出する中心位置算出手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動する車両の水平面内における片揺れモーメント(ヨーイングモーメント)の中心座標を推定することができるモーメント中心位置推算装置、該装置を備えた車両、及びモーメント中心位置推算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の電子制御が進展するに伴い、制動装置の動作を制御する電子制御制動装置、車両の走行中の姿勢を制御する車両安定化制御装置(VSC、Vehicle Stability Control)等が開発されている。電子制御制動装置として代表的なシステムはABS(Antilock Brake System)である。ABSは、車輪に回転センサを設けて車輪回転を検出し、ブレーキ圧力が大きいときに車輪回転が停止すると、車輪と路面との間にスリップが存在すると判断して、ブレーキ圧力を断続制御する装置である。一方、車両安定化制御装置(VSC)として代表的な装置は、横すべり防止装置である。横すべり防止装置は、運転者が操作入力する操舵角(ハンドル角度)から、運転者が意図している進行方向を推算し、進行方向を維持することができるよう、駆動装置及び制動装置の動作を制御する装置である。
【0003】
車両姿勢安定化装置(VSC)は、例えば特許文献1に開示されているように、車輪の横すべりの開始点、又は内輪のホイールリフトの開始点を、走行状態における操舵の大きさ、速さ、車両の速度、車両の横移動の速さ、及び車両の向きの変化の速さ(垂直軸まわりの車両の回転角速度であるヨーレイト)を検出して演算することにより予測し、横すべり又はホイールリフトが始まる前に車輪のブレーキ圧力を制御して防止する。
【0004】
車両の姿勢制御では、車両の重心位置が重要なパラメータの1つとなる。しかし、車両の重心は静的に計測することはできるが、走行状態でリアルタイムに計測することが困難である。すなわち積荷の状態、又は乗員の搭乗数及びその着席位置により、車両の物理特性は大きく変動する。そこで、特許文献1では、車輪毎に軸重計を設け、勾配センサと併用することにより、積荷の状態、又は乗員の搭乗数及びその着席位置の変化にリアルタイム的に対応可能な重心高さの推定装置を開示している。
【特許文献1】特開平11−304662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている構成では、積荷の状態、又は乗員の搭乗数及びその着席位置により変動する車両の物理特性に対応した重心高さを正確に推定することはできるが、水平面内での重心位置、特に片揺れモーメントの中心位置を正確に推定することはできない。すなわち、車両の向きの変化の速さ(垂直軸まわりの車両の回転角速度であるヨーレイト)を検出する場合、垂直軸の位置を正確に推定する必要があるのに対して、垂直軸の位置である片揺れモーメント(ヨーイングモーメント)の中心位置を正確に推定することができないことから、重心高さの推定演算の精度を高めることも困難になり、走行状態における車両の姿勢制御の精度を高めることも困難になるという問題点があった。
【0006】
また、車輪毎に高価な軸重計を設けることで、片揺れモーメントの中心位置推定装置自体がコスト高になるという問題点もあった。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に推定することができ、走行状態における車両の姿勢制御精度を向上させることができる簡易な構造のモーメント中心位置推算装置、該装置を備えた車両、及びモーメント中心位置推算方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために第1発明に係るモーメント中心位置推算装置は、複数の車輪と、車輪に加わる荷重に応じて緩衝部材の長さが変動する懸架装置とを備えた車両の片揺れモーメントの中心位置を推算するモーメント中心位置推算装置において、前記緩衝部材毎の長さの変動量を検知する検知手段と、検知した変動量に基づいて前記車輪毎に加わる荷重を推算する荷重推算手段と、推算した荷重に基づいて片揺れモーメントの中心位置を算出する中心位置算出手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、第2発明に係るモーメント中心位置推算装置は、第1発明において、前記検知手段は、緩衝部材の長さ方向に少なくとも一対の感磁素子と磁性体とを備え、前記感磁素子が感知した磁束の変動に伴って生じる電気量の変動量に基づいて、前記緩衝部材の長さの変動量を検知するよう構成してあることを特徴とする。
【0010】
また、第3発明に係るモーメント中心位置推算装置は、第2発明において、前記緩衝部材はコイルバネであり、一対の感磁素子と磁性体とを前記コイルバネの一又は複数のピッチ間に設けてあることを特徴とする。
【0011】
また、第4発明に係るモーメント中心位置推算装置は、第1乃至第3発明のいずれかにおいて、前記中心位置算出手段は、推算した前記車輪毎に加わる荷重と、所与のホイールベース及びトレッドとを用いて片揺れモーメントの中心位置を算出するよう構成してあることを特徴とする。
【0012】
また、第5発明に係るモーメント中心位置推算装置は、第1発明において、前記緩衝部材は、作動液を充填した内筒と、該内筒との間に空気室を形成する外筒と、該内筒に対して移動可能なピストンと、該ピストンの移動により前記内筒から作動液を前記空気室へ誘導するオリフィスと、前記空気室内に配置してあるサーミスタとを有し、前記検知手段は、前記サーミスタの電気量を検出するようにしてあることを特徴とする。
【0013】
また、第6発明に係るモーメント中心位置推算装置は、第5発明において、前記サーミスタは、作動液に浸る度合が大きくなるほど抵抗値が大きくなることを特徴とする。
【0014】
また、第7発明に係る車両は、第1乃至第6発明のいずれかのモーメント中心位置推算装置を備えることを特徴とする。
【0015】
また、第8発明に係るモーメント中心位置推算方法は、複数の車輪と、車輪に加わる荷重に応じて緩衝部材の長さが変動する懸架装置とを備えた車両の片揺れモーメントの中心位置を推算するモーメント中心位置推算方法において、前記緩衝部材毎の長さの変動量を検知し、検知した変動量に基づいて前記車輪毎に加わる荷重を推算し、推算した荷重に基づいて片揺れモーメントの中心位置を算出することを特徴とする。
【0016】
第1又は第8発明では、車両の懸架装置に備えてある緩衝部材毎の長さの変動量を検知し、検知した変動量に基づいて車輪毎にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算し、推算した荷重に基づいて、車両の片揺れモーメントの中心位置を算出する。これにより、走行状態の車輪毎にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することで、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することができ、ヨーレイトを正確に推定することで重心高さの推定演算の精度を高め、走行状態における車両の姿勢制御の精度を高めることが可能となる。また、車両のヨーイング運動を正確に制御することも可能となる。
【0017】
第2発明では、緩衝部材の長さ方向に少なくとも一対の感磁素子と磁性体とを備え、感磁素子が感知した磁束の変動に伴って生じる電気量、例えば電圧、電流等の変動量に基づいて、緩衝部材の長さの変動量を検知する。これにより、大型の軸重計を車輪毎に設けることなく、簡素で軽量である一対の感磁素子と磁性体とを用い、電気量の変動量を検知することで緩衝部材の長さの変動量を検出することができ、簡易な構造で精度良く走行状態の車輪毎にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0018】
第3発明では、緩衝部材としてコイルバネを用い、一対の感磁素子と磁性体とをコイルバネの一又は複数のピッチ間に設ける。これにより、簡素で軽量である一対の感磁素子と磁性体とを用い、電圧の変動量を検知することでコイルバネのピッチの変化量を検出することができ、簡易な構造で精度良く走行状態の車輪毎にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0019】
第4発明では、車輪毎にかかる荷重と、ホイールベース、トレッドを用いてモーメント中心を算出する。これにより、モーメントのレバーを固定値として車輪にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0020】
第5発明では、緩衝部材は、作動液を充填した内筒と、該内筒との間に空気室を形成する外筒と、該内筒に対して移動可能なピストンと、該ピストンの移動により内筒から作動液を空気室へ誘導するオリフィスと、空気室内に配置してあるサーミスタとを有しており、サーミスタの電気量、例えば電流値を検出し、検出した電流値に基づいて作動液の液位を推定し、推定した液位に基づいて車体に加わる荷重を算出する。これにより、安価なサーミスタで検出された電流値等の電気量に基づいて、サーミスタの抵抗値の変動要因である作動液に浸る液位を推定し、推定した液位により、ピストンに加わった荷重、すなわち車輪にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0021】
第6発明では、サーミスタは、作動液に浸る度合が大きくなるほど抵抗値が大きくなる。これにより、ピストンに荷重が加わり、サーミスタがオリフィスから流れ出た作動液に浸る度合が大きくなるほど、電気抵抗値が増大し、電流値が減少する。したがって、ピストンに加わる荷重、すなわち車輪にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0022】
第7発明では、上述したようなモーメント中心位置推算装置を備えることにより、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
第1又は第8発明によれば、走行状態の車輪毎にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することで、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することができ、ヨーレイトを正確に推定することで重心高さの推定演算の精度を高め、走行状態における車両の姿勢制御の精度を高めることが可能となる。また、車両のヨーイング運動を正確に制御することも可能となる。
【0024】
第2発明によれば、大型の軸重計を車輪毎に設けることなく、簡素で軽量である一対の感磁素子と磁性体とを用い、電気量の変動量を検知することで緩衝部材の長さの変動量を検出することができ、簡易な構造で精度良く走行状態の車輪毎にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0025】
第3発明によれば、簡素で軽量である一対の感磁素子と磁性体とを用い、電圧の変動量を検知することでコイルバネのピッチの変化量を検出することができ、簡易な構造で精度良く走行状態の車輪毎にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0026】
第4発明によれば、モーメントのレバーを固定値として車輪にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0027】
第5発明によれば、安価なサーミスタで検出された電流値等の電気量に基づいて、サーミスタの抵抗値の変動要因である作動液に浸る液位を推定し、推定した液位により、ピストンに加わった荷重、すなわち車輪にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0028】
第6発明によれば、ピストンに荷重が加わり、サーミスタがオリフィスから流れ出た作動液に浸る度合が大きくなるほど、電気抵抗値が増大し、電流値が減少する。したがって、ピストンに加わる荷重、すなわち車輪にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0029】
第7発明によれば、上述したようなモーメント中心位置推算装置を備えることにより、上述した効果を奏することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るモーメント中心位置推算装置の構成を示すブロック図であり、図2は、本発明の実施の形態1に係るモーメント中心位置推算装置の一のコイルバネ2に備えた変動量センサ4の概略構成図である。図に示すように、車両の車輪1、1、・・・毎に緩衝部材であるコイルバネ2、2、・・・を備えた懸架装置3を設ける。緩衝部材であるコイルバネ2、2、・・・には、コイルバネ2、2、・・・の変動量をそれぞれ検出する変動量センサ4、4、・・・を設けている。変動量センサ4、4、・・・は、車載LAN6を介してデータ送受信を行うことが可能であるように中心位置演算装置5と接続されている。
【0032】
図2に示すように、コイルバネ2の所定の位置に感磁素子(ホール素子)41を設け、1ピッチ離れたコイルバネ2上の位置に、該ホール素子41で磁力の変化を検出される被検出体である磁性体42を備えている。
【0033】
図3は、ホール素子41を用いたコイルバネ2の長さの変動量の検出原理の説明図である。ホール素子41は、ホール効果を利用した感磁素子である。ホール素子41は、適当な半導体で形成してある厚さdの受感部415に、端子411、412、413、414を設け、入力制御電流Icを端子411、413に流し、外部から磁束密度Bの磁界を受感部415の受感面に垂直に作用させる。これにより、出力端子412、414間には、(式1)で示される電位差Vhが発生する。なお、(式1)において、Rhはホール係数である。
【0034】
Vh=Rh・Ic・B/d ・・・(式1)
【0035】
このようにホール素子41では、制御電流Ic及び外部磁束密度Bの積に比例した出力電圧Vhを得ることができ、磁性体42との距離の変動量、すなわちコイルバネ2の長さの変動量に応じた磁束密度Bの変化を検出することが可能となる。
【0036】
図4は、中心位置演算装置5の概略構成を示すブロック図である。中心位置演算装置5は、少なくとも、MPU51、ROM52、RAM53、車載LAN6と接続する通信インタフェース54、及び上述したハードウェアを接続する内部バス55で構成する。
【0037】
MPU51は、内部バス55を介して中心位置演算装置5の上述したようなハードウェア各部と接続されており、上述したハードウェア各部を制御するとともに、ROM52に記憶されている処理プログラムに従って、種々のソフトウェア的機能を実行する。
【0038】
ROM52は、SRAM、フラッシュメモリ等で構成され、変動量センサ4、4、・・・から取得した電圧の変化量に基づいて、コイルバネ2、2、・・・の長さの変動量を算出するプログラム、算出したコイルバネ2、2、・・・の長さの変動量に基づいて、各車輪1、1、・・・に加わる荷重を算出するプログラム、及び算出した荷重に基づいて、片揺れモーメントの中心位置を算出するプログラム等を記憶してある。
【0039】
RAM53は、SRAM、フラッシュメモリ等で構成され、ソフトウェアの実行時に発生する一時的なデータを記憶する。通信インタフェース54は、内部バス55に接続されており、車載LAN6に接続されることにより、処理に必要とされるデータを送受信する。
【0040】
以下、上述した構成のモーメント中心位置推算装置の動作について説明する。図5は、本発明の実施の形態1に係るモーメント中心位置推算装置の中心位置演算装置5におけるMPU51の処理手順のフローチャートである。
【0041】
MPU51は、車輪1、1、・・・各々に備えた変動量センサ4、4、・・・で検出した出力電圧Vhを取得し(ステップS501)、取得した出力電圧Vhに基づいて、車輪1、1、・・・毎の電圧の変動量を算出する(ステップS502)。
【0042】
算出した電圧の変動量に基づいて、コイルバネ2、2、・・・毎の長さの変動量を算出する(ステップS503)。具体的には、コイルバネ2、2、・・・のピッチPに対応する距離だけホール素子41と磁性体42とが離れている場合に検出される出力電圧値を基準として、ホール素子41と磁性体42とがピッチPに対応する距離より近づいた(離れた)距離に応じた出力電圧Vhの増加(減少)量に基づき、コイルバネ2、2、・・・毎の長さの変動量を算出する。
【0043】
算出したコイルバネ2、2、・・・毎の長さの変動量に基づいて、コイルバネ2、2、・・・毎に加わる荷重を算出する(ステップS504)。車輪1、1、・・・が4輪である場合、コイルバネ2、2、・・・の弾性係数をKi(i=1、2、3、4)とすると、各車輪に加わる荷重Fi(i=1、2、3、4)は、コイルバネ2、2、・・・の長さの変動量ΔLi(i=1、2、3、4)に弾性係数Ki(i=1、2、3、4)を乗じた値となる。
【0044】
そして、算出したコイルバネ2、2、・・・毎に加わる荷重、すなわち各車輪に加わる荷重に基づいて、片揺れモーメントの中心位置を算出する(ステップS505)。車輪1、1、・・・が4輪である場合、各車輪に加わる荷重Fi(i=1、2、3、4)に基づいて算出する片揺れモーメント(ヨーイングモーメント)の釣合により、水平面内での片揺れモーメントの中心位置を算出する。
【0045】
図6は、片揺れモーメントの中心位置を座標値として算出する方法の説明図である。図6での右手方向を車両の前部とし、前輪の左右車輪間隔(以下、前輪トレッドという。)をdf、後輪の左右車輪間隔(以下、後輪トレッドという。)をdr、前後車輪間距離(以下、ホイールベースという。)をLwとする。そして、座標の原点O(0、0)を、前輪トレッドdfの中点と後輪トレッドdrの中点とを結ぶ直線と、ホイールベースの中点を通る該直線と直交する直線との交点とする。
【0046】
そして、算出した各車輪に加わる荷重Fi(i=1、2、3、4)のうち、前輪に加わる荷重をF1、F2、後輪に加わる荷重をF3、F4とした場合、前後方向のモーメントの釣合から、重心位置Gの座標のX座標は、(式2)で算出することができる。
【0047】
X=(Lw/2)・((F1+F2)−(F3+F4))
/(F1+F2+F3+F4) ・・・(式2)
【0048】
同様に、左右方向のモーメントの釣合から、重心位置Gの座標のY座標は、(式3)で算出することができる。
【0049】
Y=((df/2)・(F1−F2)+(dr/2)・(F3−F4))
/(F1+F2+F3+F4) ・・・(式3)
【0050】
以上のように本実施の形態1によれば、走行状態の車輪毎にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することで、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することができ、ヨーレイトを正確に推定することで重心高さの推定演算の精度を高め、走行状態における車両の姿勢制御の精度を高めることが可能となる。また、車両のヨーイング運動を正確に制御することも可能となる。
【0051】
また、大型の軸重計を車輪毎に設けることなく、簡素で軽量である一対の感磁素子と磁性体とを用い、電圧の変動量を検知することで緩衝部材の長さの変動量を検出することができ、簡易な構造で精度良く走行状態の車輪毎にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0052】
なお、上述した実施の形態1では、コイルバネ2の所定の位置に設けた感磁素子(ホール素子)41と磁性体42とを、1ピッチ離れたコイルバネ2上に配置しているが、1ピッチに限定されるものではなく、複数ピッチ離して配置しても良い。
【0053】
また、感磁素子(ホール素子)41と磁性体42とを、コイルバネ2の中心軸方向に離して配置しているが、コイルバネ2上の任意の位置であり、しかも両者を離して配置することができる位置であれば、どのような位置に配置しても良い。
【0054】
図7(a)は、ホール素子41と磁性体42とを、コイルバネ2の任意の位置に配置した場合のコイルバネ2に備えた変動量センサ4の概略構成図であり、図7(b)は、コイルバネ2を上方から見た場合のホール素子41と磁性体42との位置関係を示す図である。図7(a)に示すように、コイルバネ2の所定の位置にホール素子41を設け、コイルバネ2上の他の位置に、該ホール素子41で磁力の変化を検出される被検出体である磁性体42を備えている。
【0055】
ホール素子41と磁性体42とは、図7(b)に示すように中心角θ離れた位置に配置している。例えばホール素子41と磁性体42とが1ピッチ分P以内に配置してある場合、(式4)により両者間の垂直距離D1を求めることができる。
【0056】
D1=P・(θ/360) ・・・(式4)
【0057】
これにより、ホール素子41と磁性体42との間の垂直距離D1を求めることができることから、ホール素子41と磁性体42とを、コイルバネ2の中心軸方向に離して配置している場合と同様、各車輪1、1、・・・に加わる荷重を算出することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【0058】
なお、上述した実施の形態1では、ホール素子41で取得する出力電圧に基づいて緩衝部材の長さの変動量を検出しているが、電気量は電圧に限定されるものではなく、例えば電流値を検出して同様の処理を行うものであっても良い。
【0059】
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2に係るモーメント中心位置推算装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態2では、車輪1、1、・・・ごとに設置してある緩衝部材として、作動液によるハイドロ形式のショックアブソーバ7を用い、伸縮の度合を安価なサーミスタを用いて検出する点に特徴を有する。なお、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することで詳細な説明を省略する。
【0060】
車輪1、1、・・・ごとに設置してあるショックアブソーバ7、7、・・・により、車輪1、1、・・・へ加わる荷重、例えば路面からの荷重を緩衝する。職アブソーバ7は、伸縮度合に応じて出力される電流値を検出する電流検出回路8に接続してあり、電流検出回路8で検出した電流値を受信することが可能に中心位置演算装置5と接続してある。中心位置演算装置5は、車載LAN6を介して、他の演算装置と接続してあり、種々のデータを送受信する。中心位置演算装置5の構成は、実施の形態1と同様である。
【0061】
図9は、本発明の実施の形態2に係るモーメント中心位置推算装置のショックアブソーバ7の構成を示す斜視図である。図に示すように、本実施の形態2に係るモーメント中心位置推算装置のショックアブソーバ7は、略円筒形状のカバー71の内部に、一体としてカバー71と相互に移動可能な外筒72及び内筒73を備えている。内筒73の内部は作動液(例えば作動油)75で充填してあり、外筒72及び内筒73の間に配設してある空気室74との間で作動液75を出し入れする弁機能を有するオリフィス76を備えている。
【0062】
作動液75、カバー71内に設けてあるロッド77の先端部に配設してあるピストン78が押し下がることにより、オリフィス76を押し下げ、空気室74内へと流れ込む。すなわち、空気室74は、オリフィス76を介して押し出された作動液75のリザーバとなっている。図10及び図11は、ピストン78の位置と作動油75の状態との関係を示す部分断面図である。図10はピストン78を押し下げた場合の、図11はピストン78を引き上げた場合に、それぞれの場合の作動油75の空気室74内への流入状態を示している。
【0063】
図10に示すように、ピストン78を押し下げた場合、ピストン78自体に配設してあるオリフィス79を介して、ピストン78が下方へ移動した後の空間へ作動液75が流入し、ピストン78は荷重を緩衝しつつ円滑に移動することができる。また、内筒73に配設してあるオリフィス76を介して、作動液75の一部が空気室74へ流入する。したがって、空気室74内の作動液75の液位が上昇する。
【0064】
図11に示すように、ピストン78を引き上げた場合、ピストン78自体に配設してあるオリフィス79を介して、ピストン78が下方へ移動した後の空間に流入していた作動液75が内筒73へと流入し、ピストン78は荷重を緩衝しつつ円滑に移動することができる。また、内筒73に配設してあるオリフィス76を介して、空気室74内の作動液75が内筒73へと流入する。したがって、空気室74内の作動液75の液位が下降する。
【0065】
空気室74内には、上下動する作動液75の液位を検出するためのサーミスタ30が設けてある。サーミスタ30は、作動液75に浸漬する表面積が大きくなるほど周囲の温度が低下し、抵抗値が大きくなる。したがって、サーミスタ30に一定の電圧を印加している場合、負荷抵抗に流れる電流値の変動に応じて液位を推定することができる。
【0066】
図12は、サーミスタ30の配設状態を模式的に示す図である。ピストン78の上下動に応じて作動液75の液位が上下動し、サーミスタ30が作動液75に浸漬される液位が変動する。電流検出回路8は、一定電圧Vを負荷抵抗Rに印加し、負荷抵抗Rに流れる電流Iを検出する。サーミスタ30は、ピストン78が押し下げられた場合、作動液75の液位が増加し、作動液75に浸漬する表面積が増加する。作動液75に浸漬される表面積が増加するにつれてサーミスタ30の周囲の温度が低下し、サーミスタ30の電気抵抗値が増加する。したがって、負荷抵抗Rに流れる電流Iが減少する。逆に、ピストン78が引き上げられた場合、作動液75の液位が減少し、作動液75に浸漬される表面積が減少する。作動液75に浸漬される表面積が減少するにつれてサーミスタ30の周囲の温度が上がり、サーミスタ30の電気抵抗値が減少する。したがって、負荷抵抗Rに流れる電流Iが増加する。
【0067】
サーミスタ30の抵抗値Rは、サーミスタ定数をB、温度T0での抵抗値をR0とした場合、(式5)に従って変動する。
【0068】
【数1】

【0069】
印加される電圧をVとした場合、電流値をIとすると抵抗値RはR=V/Iであることから、(式6)によりサーミスタ30の温度Tを求めることができる。
【0070】
【数2】

【0071】
したがって、液位hは、温度T0での液位h0を基準に、(式7)で示す実験値として求めることができる。なお、K1は経験値に基づく定数である。
【0072】
【数3】

【0073】
液位hが求まることにより、中心位置演算装置5は、車輪1、1、・・・に加わる荷重を推算する。図13は、本実施の形態に係るモーメント中心位置推算装置の中心位置演算装置5のMPU51の処理手順を示すフローチャートである。
【0074】
中心位置演算装置5のMPU51は、電流検出回路8から負荷抵抗に流れる電流値Iを取得し(ステップS1301)、(式6)及び(式7)に従って液位hを算出する(ステップS1302)。
【0075】
MPU51は、算出した液位hをキー情報として、例えば事前にRAM53に液位hと荷重Fとの関係を荷重テーブルとして記憶しておき、記憶してある荷重テーブルを参照することにより車輪1、1、・・・に加わる荷重Fを算出する(ステップS1303)。MPU51は、推算した車輪1、1、・・・に加わる荷重Fに基づいて、実施の形態1と同様の方法で、片揺れモーメントの中心位置を算出する(ステップS1304)。例えば車輪1、1、・・・が4輪である場合、各車輪に加わる荷重Fi(i=1、2、3、4)に基づいて算出する片揺れモーメント(ヨーイングモーメント)の釣合により、水平面内での片揺れモーメントの中心位置を算出する。
【0076】
なお、算出した液位hに基づいて車輪1、1、・・・に加わる荷重Fを推算する方法は、荷重テーブルを参照する方法に限定するものではなく、例えば実験値に基づく関数として算出する方法であっても良い。
【0077】
以上のように本実施の形態2によれば、安価なサーミスタで検出された電流値等の電気量に基づいて、サーミスタの抵抗値の変動要因である作動液に浸る液位を推定し、推定した液位により、ピストンに加わった荷重、すなわち車輪にかかっている荷重を略リアルタイム的に推算することができ、車両の片揺れモーメントの中心位置を略リアルタイム的に算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態に係るモーメント中心位置推算装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るモーメント中心位置推算装置の一のコイルバネに備えた変動量センサの概略構成図である。
【図3】ホール素子を用いたコイルバネの長さの変動量の検出原理の説明図である。
【図4】中心位置演算装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るモーメント中心位置推算装置の中心位置演算装置におけるMPUの処理手順のフローチャートである。
【図6】片揺れモーメントの中心位置を座標値として算出する方法の説明図である。
【図7】(a)は、ホール素子と磁性体とを、コイルバネの任意の位置に配置した場合のコイルバネに備えた変動量センサの概略構成図であり、(b)は、コイルバネを上方から見た場合のホール素子と磁性体との位置関係を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るモーメント中心位置推算装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るモーメント中心位置推算装置のショックアブソーバの構成を示す斜視図である。
【図10】ピストンの位置と作動油の状態との関係を示す部分断面図である。
【図11】ピストンの位置と作動油の状態との関係を示す部分断面図である。
【図12】サーミスタの配設状態を模式的に示す図である。
【図13】本実施の形態に係るモーメント中心位置推算装置の中心位置演算装置のMPUの処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
1 車輪
2 コイルバネ
3 懸架装置
4 変動量センサ
5 中心位置演算装置
6 車載LAN
7 ショックアブソーバ
8 電流検出回路
30 サーミスタ
41 感磁素子(ホール素子)
42 磁性体
51 MPU
52 ROM
53 RAM
54 通信インタフェース
55 内部バス
71 カバー
72 外筒
73 内筒
74 空気室
75 作動液
76、79 オリフィス
78 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪と、車輪に加わる荷重に応じて緩衝部材の長さが変動する懸架装置とを備えた車両の片揺れモーメントの中心位置を推算するモーメント中心位置推算装置において、
前記緩衝部材毎の長さの変動量を検知する検知手段と、
検知した変動量に基づいて前記車輪毎に加わる荷重を推算する荷重推算手段と、
推算した荷重に基づいて片揺れモーメントの中心位置を算出する中心位置算出手段とを備えることを特徴とするモーメント中心位置推算装置。
【請求項2】
前記検知手段は、緩衝部材の長さ方向に少なくとも一対の感磁素子と磁性体とを備え、前記感磁素子が感知した磁束の変動に伴って生じる電気量の変動量に基づいて、前記緩衝部材の長さの変動量を検知するよう構成してあることを特徴とする請求項1記載のモーメント中心位置推算装置。
【請求項3】
前記緩衝部材はコイルバネであり、一対の感磁素子と磁性体とを前記コイルバネの一又は複数のピッチ間に設けてあることを特徴とする請求項2記載のモーメント中心位置推算装置。
【請求項4】
前記中心位置算出手段は、推算した前記車輪毎に加わる荷重と、所与のホイールベース及びトレッドとを用いて片揺れモーメントの中心位置を算出するよう構成してあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のモーメント中心位置推算装置。
【請求項5】
前記緩衝部材は、
作動液を充填した内筒と、該内筒との間に空気室を形成する外筒と、該内筒に対して移動可能なピストンと、該ピストンの移動により前記内筒から作動液を前記空気室へ誘導するオリフィスと、前記空気室内に配置してあるサーミスタとを有し、
前記検知手段は、前記サーミスタの電気量を検出するようにしてあることを特徴とする請求項1記載のモーメント中心位置推算装置。
【請求項6】
前記サーミスタは、作動液に浸る度合が大きくなるほど抵抗値が大きくなることを特徴とする請求項5記載のモーメント中心位置推算装置。
【請求項7】
請求項1乃至6記載のモーメント中心位置推算装置を備えたことを特徴とする車両。
【請求項8】
複数の車輪と、車輪に加わる荷重に応じて緩衝部材の長さが変動する懸架装置とを備えた車両の片揺れモーメントの中心位置を推算するモーメント中心位置推算方法において、
前記緩衝部材毎の長さの変動量を検知し、
検知した変動量に基づいて前記車輪毎に加わる荷重を推算し、
推算した荷重に基づいて片揺れモーメントの中心位置を算出することを特徴とするモーメント中心位置推算方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−8109(P2006−8109A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125705(P2005−125705)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】