説明

ラクチド回収装置および回収方法

【課題】シール材の代わりにポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂を利用することでラクチドの回収率を向上させる。
【解決手段】二軸スクリュ押出機の上流側から下流側に向かって、可塑化ゾーン4、第1分解ゾーン6a、第1シール部5a、第1減圧ゾーン7a、第2分解ゾーン6b、第2シール部5b、第2減圧ゾーン7b、第3分解ゾーン6c、第3シール部5c、第3減圧ゾーン7cを配備する。第1ないし第3減圧ゾーンのそれぞれのベント口である第1ないし第3ベント口17a〜17cは、冷却トラップ9の冷却塔18を通して真空ポンプ13により真空吸引してラクチドを冷却トラップ9に回収する。第2および第3分解ゾーン6b、6cにおける上流側近傍部位にそれぞれ配備された供給口である第2および第3供給口にはそれぞれサイドフィーダーが付設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂(以下、「原料樹脂」という。)に分解促進剤を添加してオリゴマーであるラクチドに分解して回収するラクチド回収装置および回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のポリ乳酸を熱分解させてオリゴマーであるラクチドや乳酸モノマーを得る方法について以下に説明する。
【0003】
特開平9−241417号公報には、アルコールと分解触媒の存在下でポリ乳酸を加熱することにより、ポリ乳酸を加アルコール分解させて生成するラクチドを回収する方法が記載されている。
【0004】
特開2005−213302号公報には、プラスチックを溶媒中で酸化剤および触媒と反応させて、ポリマーに分解してリサイクル可能なポリマーにして回収する方法が記載されている。
【0005】
特許第2821986号公報には、ポリ乳酸をスクリュ式押出機内において水および触媒の存在下、200〜400℃に加熱してラクチドに分解し、そのラクチドをさらにアルコール内に通して不純物を除去して回収するラクチド回収方法が記載されている。
【0006】
WO2003−091238号公報には、原料樹脂に触媒を添加して分解温度を下げると同時に、スクリュ押出機の中で分解を進めてベント口を通してラクチドを回収する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平9−241417号公報
【特許文献2】特許第2821986号公報
【特許文献3】特開2005−213302号公報
【特許文献4】WO2003/091238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されている方法では、原料樹脂よりラクチドに分解させるために長時間を要するため、回収効率が極めて悪い。また、触媒として使用するスズ系触媒は有機化すると環境ホルモンとして作用する恐れがあり、アルコール類は可燃物のため、装置を防爆仕様にする必要があるため好ましくない。また、アルコール類の回収に、新たに装置が必要となるので好ましくない。
【0008】
特許文献2に記載された方法は、シンプルな方法ではあるが、ラクチドを効率良く得るためには樹脂温度を高くする必要があり、それに伴ってラセミ化が進行し、Lラクチドの回収率が低下するという問題がある。
【0009】
また、特許文献4に記載された方法は、ラクチドが回収されていくと内容物の量が減少し、やがて推進力を失って連続減圧処理が難しくなったり、多量の触媒が廃棄物となり、その処理に費用がかかったりする問題がある。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するために発明されたものであり、シール材の代わりにポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂を利用することで、シール材を使用せずにLラクチドを効率良く回収できるラクチド回収装置および回収方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のラクチド回収装置は、ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂からラクチドを回収するラクチド回収装置であって、二軸スクリュ押出機の上流側に配備された第1供給口から下流側へ向かって順次、可塑化ゾーン、第1分解ゾーン、第1シール部、第1減圧ゾーン、第2分解ゾーン、第2シール部、第2減圧ゾーン、第3分解ゾーン、第3シール部、第3減圧ゾーンを配備し、前記第1ないし第3減圧ゾーンのそれぞれに配備されたベント口である第1ないし第3ベント口が真空発生源により真空吸引される冷却トラップに配管を介して接続されており、前記第1分解ゾーンの上流側近傍部位に配備された添加口に付設された第1サイドフィーダーと、前記第2分解ゾーンの上流側近傍部位に配備された第2供給口に付設された第2サイドフィーダーと、前記第3分解ゾーンの上流側近傍部位に配備された第3供給口に付設された第3サイドフィーダーと、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明のラクチド回収方法は、上記のラクチド回収装置に、前記第1供給口よりポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂を供給してラクチドに分解させて回収する際に、前記第2供給口から前記第2サイドフィーダーにより、前記第3供給口から前記第3サイドフィーダーにより前記ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂をそれぞれ供給すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上述の通り構成されているので、次に記載するような効果を奏する。
【0014】
ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂に分解促進剤を添加して二軸スクリュ押出機の中で熱分解し、乳酸の環状2量体であるラクチドを回収する際に、二軸スクリュ押出機内の圧力を減圧状態に保つためのシール材を添加せずにラクチドを効率良く回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るラクチドの回収装置および回収方法の実施形態について説明する。
【0016】
図1に示すように、二軸スクリュ押出機Eは、温度調節可能なシリンダー1と、シリンダー1内に回転可能に配備された2本のスクリュ(不図示)と、2本のスクリュを回転させるためのモーター15および減速機16からなる回転駆動機構14とを備えている。シリンダー1の上流側には第1供給口2aが配備されており、第1供給口2aから下流側へ向かって順次、可塑化ゾーン4、第1分解ゾーン6a、第1シール部5a、第1減圧ゾーン7a、第2分解ゾーン6b、第2シール部5b、第2減圧ゾーン7b、第3分解ゾーン6c、第3シール部5c、第3減圧ゾーン7c、ギアポンプ12、調圧手段10、ダイ21が配備されている。
【0017】
第1減圧ゾーン7aの第1ベント口17a、第2減圧ゾーン7bの第2ベント口17b、第3減圧ゾーン7cの第3ベント口17cは、それぞれ配管8を介して冷却トラップ9に通じており、冷却トラップ9の冷却塔18を通して真空ポンプ13により真空吸引することにより、減圧状態にすることが可能である。
【0018】
第1供給口2aには、重量式フィーダー3が付設されており、重量式フィーダー3を介してポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂が供給される。
【0019】
第2供給口2bには第2サイドフィーダー22bが付設されており、第3供給口2cには第3サイドフィーダー22cが付設されている。
【0020】
また、可塑化ゾーン4と第1分解ゾーン6aの間に添加口23が配備され、添加口23に第1サイドフィーダー22aが付設されている。
【0021】
図1に示したラクチド回収装置を用いたラクチド回収方法について以下に説明する。第1供給口2aから重量式フィーダー3を介してポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂(以下、「原料樹脂」という。)を供給し、添加口23から第1サイドフィーダー22aを介して分解促進剤を一定の割合で供給する。
【0022】
供給された原料樹脂および分解促進剤は、可塑化ゾーン4で溶融・混練された後、ポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂が滞留して上流と下流を完全に仕切っている第1シール部5aの上流側の第1分解ゾーン6aで分解され、ラクチドが発生する。そして、ラクチドと分解途中のオリゴマー、未分解のポリ乳酸等は第1シール部5aを乗り越えて、シリンダー内が減圧状態になっている第1減圧ゾーン7aへと移送される。
【0023】
第1減圧ゾーン7aでは、減圧によってラクチドの沸点が低下するため、ポリマーやオリゴマーに混入しているラクチドが沸騰し、第1ベント口17aから配管8を通して冷却トラップ9に回収される。
【0024】
そして、さらに下流側にある第2シール部5bの上流側にある第2分解ゾーン6bにおいて未分解のポリ乳酸の分解が促進されてラクチドが発生すると同時に、その上流側近傍部位に配備された第2供給口2bから第2サイドフィーダー22bにより未溶融のポリ乳酸が供給されて、上流から移送された溶融樹脂等と混ざった状態で第2シール部5bを乗り越えて第2減圧ゾーン7bに移送される。第2減圧ゾーン7bで気化したラクチドは配管8を通して冷却トラップ9に回収される。
【0025】
なお、この時点で回収されるラクチド量は、第1減圧ゾーン7aとほぼ等量のラクチドが回収される。さらに、第3シール部5cの上流側近傍部位に配備された第3供給口2cから第3サイドフィーダー22cによりポリ乳酸が投入されて、その下流にある第3分解ゾーン6cで混練された原料樹脂は第3シール部5cを通過し、第3減圧ゾーン7c内で、原料樹脂中に残されているラクチドがさらに回収される。
【0026】
この際も第3ベント口17cから回収されるラクチド量は第1減圧ゾーン7aおよび第2減圧ゾーン7bから回収される量とほとんど同等の量が回収される。最後にダイ21から排出される未分解のポリ乳酸、ポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂、および分解促進剤は、押出機先端に設置されているバルブ11などの調圧手段10を通して排出され、廃棄物として最終埋め立て処分場に埋め立てに使用したり、燃料として利用することができる。
【0027】
第1減圧ゾーン7aで多量のラクチドが回収された後の原料樹脂は、その量が急激に減少しており、また、その分子量も大きく低下しているため、単独では第2シール部5bのシール機能を満たすことができない。そのため、第2分解ゾーン6bの上流側近傍部位には第1減圧ゾーン7aで除去されたラクチド量に相当するポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂を新たに投入するための第2供給口2bが配備されている。第2供給口2bからポリ乳酸等を供給する方法は、第1供給口2aと同様に、重量フィーダーから定量的に原料を自由落下させて投入しても良いし、シリンダー1にサイドフィーダーを配備し、重量フィーダーから定量的に原料樹脂をサイドフィーダーに供給し、二軸スクリュ押出機内に固体のまま強制的に圧入しても良い。さらには溶融機能を持ったサイドフィーダーを使い、溶融状態で二軸スクリュ押出機に圧入しても良い。しかし、自由落下させる場合は供給量が多い場合、二軸スクリュ押出機へのくい込みが悪くなり、フィードネックを起こす可能性があるため、あまり好ましくない。また、固体の状態でサイドフィードする場合には、原料樹脂を溶融させる機能を持ったスクリュを第2分解ゾーン6bの前または第2分解ゾーン6bに配備する必要がある。
【0028】
第1減圧ゾーン7aで回収されきれなかった低分子量のポリ乳酸、未回収のラクチド、分解促進剤、および場合によっては熱可塑性樹脂は、第2供給口2bから供給された原料樹脂と一緒に第2分解ゾーン6bで混練されて分解し、第2シール部5bを乗り越えて第2減圧ゾーン7bに移送される。第2減圧ゾーン7bにおいても第1減圧ゾーン7aと同様にポリ乳酸の分解に伴って発生したラクチドが第2ベント口17bから系外へと排出されて冷却トラップ9に回収される。
【0029】
第3分解ゾーン6cの上流には、第2分解ゾーン6bの上流側近傍部位に配備されている第2供給口2bと同様のポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂の供給機構が設置されている。
【0030】
第3減圧ゾーン7cでラクチドが除去された後、ごく少量の未回収の低分子量のポリ乳酸、ごく少量の未回収のラクチド、分解促進剤、および場合によっては熱可塑性樹脂は、二軸スクリュ押出機先端に配備されている調圧手段10を通って二軸スクリュ押出機の外へと排出される。調圧手段10は二軸スクリュ押出機内部の圧力を維持できる機構であれば特に制限はなく、例えば、ボールバルブ、ニードルバルブ、ゲートバルブなど、流路の面積を調整することで圧力を制御するバルブ類や、ギアポンプなど、歯車やスクリュの回転速度で圧力を調節する機構でもよい。 また、それらを組み合わせて使用してもかまわない。
【0031】
排出された物質は冷却・固化した後、廃棄しても良いし、破砕して触媒回収のプロセスヘ供給しても良い。また、成形が可能であるならば、ストランドバスやコンベアー状で冷却してストランドカッターでペレット状に切断しても良い。
【0032】
本発明において対象となるポリ乳酸は、乳酸発酵によって得られた乳酸からオリゴマーを経てラクチドをつくり、それを開環重合して得られたものでも、乳酸を直接重縮合して得られたものでもよい。また、乳酸は工業的に合成されたものを使用しても良い。また、ポリ乳酸と混合されている熱可塑性樹脂は特に限定されない。
【0033】
熱可塑性樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ABS(アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体)、AS(アクリルニトリルスチレン共重合体)ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィト、ポリフエニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフオン、ポリエーテルサルフオン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等の2種類以上の混合・混練物(エチレンープロピレン共重合体等)、無水マレイン酸グラフトポリプロピレンのようなグラフト重合物などがあげられる。これらの熱可塑性樹脂は単品でも複数種類の混合物でもかまわない。また、未使用の材料でも良いが、使用済みのリサイクル樹脂材料でもかまわない。ただし、ラクチドの回収の際にこれらの共存樹脂が分解する際に生じる物質が、ラクチドと反応したり、あるいはラクチドと減圧沸点が近いものは、ラクチドの回収率が低下するため好ましくない。また、ポリ乳酸の分解条件で分解が進む樹脂は、ラクチドと共にその樹脂の分解物も多量に回収されるため、ラクチドの回収効率が低下してしまうので好ましくない。
【0034】
分解促進剤としては、本発明においてポリ乳酸の分解を促進するもので、かつ/またはより低温でポリ乳酸の分解が開始するものであれば特に限定しない。しかし、ラセミ化を促進し、得られるラクチドの光学純度を著しく低下させるものは好ましくない。分解促進剤の例としては、塩化第一スズ、酸化スズ、オクチル酸スズ、酸化ジブチルスズ、ゲルマニウムテトラエトキシド、チタンテトラブトキシド、硫酸マンガンアンモニウム、酸化アンチモン、酢酸マンガン、アセトアセチルアルミニウム、酢酸アルミニウム、ジエチル亜鉛等のポリ乳酸の重合触媒を挙げることができる。
【0035】
また、特許文献4によると、ラセミ化を抑えて分解させることができる触媒として、アルカリ土類金属およびその化合物が例示されており、好適に用いられるアルカリ土類金属の化合物として、カルシウムの化合物およびマグネシウムの化合物であるのがよいとされている。好適に用いられるアルカリ土類金属の化合物の具体的な例としては、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水素化カルシウムなどのカルシウム化合物類;炭酸マグネシウム、重炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水素化マグネシウムなどのマグネシウム化合物類;カルシウムとマグネシウムの複合金属化合物類;並びに上記カルシウム化合物類およびマグネシウム化合物類を少なくとも10重量%以上含有する複合化合物などが挙げられている。また、これらのアルカリ土類金属化合物が2種以上混合して用いることもできるとしている。
【0036】
これらの材料は、あらかじめ混合しておいて、ホッパーから一括投入しても良いし、それぞれ別々のフィーダーで計量しながらホッパーに供給しても良い。また、分解促進剤は、一般に粒径が小さく表面積が大きいものほど添加効果が高くなることから、凝集体が形成するのを避けるため、原料樹脂を溶解させた後にサイドフィーダーなどを用いて添加する方法を用いる方が好ましい。また、分解促進剤の添加量が少ない場合は、フィーダーからの供給が不安定になるので、あらかじめ樹脂と均一に混合しておいた物をホッパーから―括投入する方が好ましい。
【0037】
可塑化され、分解促進剤とも均一に混合された原料樹脂は、シール部のスクリュでせき止められた状態でしばらくの間、分解のための熱をシリンダーから受け取る。分解ゾーンのスクリュ形状は、シリンダーから効率良く熱を受け取ることができ、かつ強い剪断がかからないものであれば特に限定されないが、Tip幅の狭いニーディングディスクが好ましい。また、ニーディングの長さは、長すぎるとラセミ化が進行し、光学純度が低下するし、短すぎるとラクチドヘの分解が進まないため、最適な長さにする必要がある。
【0038】
シール部のスクリュは溶融樹脂をせき止めることができるならば特に限定はされないが、逆フライトスクリュやシールリングなどが好ましい。
【0039】
シール部を乗り越えた樹脂やラクチドなどは、減圧ゾーンに移送される。減圧ゾーンのスクリュは、樹脂が薄膜化して表面積を増やし、脱揮効率を向上させるためには、リードの大きいフルフライトスクリュが好ましい。
【0040】
しかし、フルフライトスクリュは輸送能力が高く、減圧環境下に滞在する時間が著しく短くなるため、Tip幅が狭く、剪断のかかりにくい0.5Dの順ニーディングを連続的に配置した箇所を設けることが好ましい。
【0041】
さらに、減圧ゾーンでは、分解に伴って発生するラクチド量が多いため、回収のためのベント口でのガス線速度が上昇し、分解物などの飛沫を同伴し、配管類の閉塞につながる可能性があるため、開口面積の大きいロングベントを使用することが好ましい。
【0042】
ベント口から排出されたガス化したラクチドは、ラクチドの融点以上に加熱された配管を通じてラクチド回収用の冷却トラップで凝集・凝固し、回収される。その際、ポリマー配管の温度は内面の温度がラクチドの融点よりも低い場合はラクチドが凝固し、配管が閉塞するので好ましくない。また、温度が高すぎると壁面でラクチドのラセミ化が生じ、得られるラクチドの光学純度が低下するので好ましくない。したがって、配管の内面温度は98〜180℃が好ましい。
【0043】
また、冷却トラップは、ラクチドが凝集・凝固するものであれば特に限定しない。金属メッシュなどを充填した容器でも良いし、熱交換機で冷却し、液状になったラクチドを容器に回収するタイプの物でもよい。ラクチドの減圧沸点と融点が近いため、冷却トラップ内の流路確保のためには後者がより好ましい。
【0044】
以下、本発明の実施例および比較例を説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
(比較例1)
直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE,日本ポリエチレン(株)製ノバテックUF840)とポリ乳酸(PLLA,三井化学(株)製LACEA H−100)を所定の割合で紙袋に秤取り、十分混合した後、触媒として所定量のMgOを添加し、さらに攪拌して均一化する。
【0045】
所定の温度条件とした二軸スクリュ押出機(日本製鋼所製 TEX30α L/D59.5)に重量フィーダー(日本製鋼所製TSF30)を通して投入し、押出機先端から安定して樹脂が吐出されるようになってから各ベント口を介して減圧し、安定化用ラクチド回収装置でラクチドを回収しながら状態を安定化させる。
【0046】
ラクチド回収ルートを切り替えて、10分間、各ベント口から排出されるラクチドを500ml容量のフラスコに回収する。
【0047】
ラクチド回収ルートを再び「安定化用ラクチド回収装置」に切り替え、各500mlフラスコならびに冷却トラップの重量を測定して回収されたラクチド量を把握する。
【0048】
500mlフラスコに回収されたラクチドは冷凍庫に保管し、連やかに評価分析に供試する。
【0049】
各ベント口に接続したラクチド回収装置でフラスコ内および冷却トラップ内(ドライアイスで冷却したエタノールを冷媒に使用)に10分間の運転で捕集された液体・固体の重量を秤量し、ラクチド回収量とした。
【0050】
各ベント口に接続したラクチド回収装置でフラスコ内および冷却トラップ内に10分間の運転で捕集された液体・固体の重量を秤量し、10分間に押出機に投入されたポリ乳酸量からラクチドの回収率を計算した。
【0051】
なお、計算式は次の通り。
【0052】
【数1】

【0053】
なお、MgOの含有量は少量のため無視した。また、投入されたPLAは100%ラクチドに分解されると仮定した。
【0054】
ラクチド組成の把握は次の方法で行った。回収された物質中のLLラクチド、DDラクチド、mesoラクチドの割合は、光学カラム:varian社製cyclodextrine−β−2361M−19キャピラリーカラム(0、25x50m)を装着した島津製作所製GC−2014を用い、キャリアーガスとしてヘリウムを、インジェクタおよびカラム温度は,それぞれ220〜150℃等温とし、試料約3mgをアセトンlmlに溶解した試料を全量注入して測定を行なった。また、オリゴマーの割合は、回収した物質を重水素クロロホルム(CDCl)に溶解し、JEOL製1H−NMR(INOVA300)を用いて測定し、テトラメチルシランのシグナルを化学シフトδの基準(0ppm)として、比率を算出した。
【0055】
テストの条件を表1に、各減圧ゾーンで10分間に回収されたラクチド量を表2に、回収されたラクチドの光学異性体組成比率を表3に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
ラクチドの回収量は、1時間あたり685.8〜994.2gで、リサイクルの際に最も有用なL,Lラクチドの割合は63.5〜82.4%であった。特に回転数が少なく、樹脂温度が低い比較例2でラクチドの回収率が高く、L,Lラクチドの量も多かった。逆に、回転数が多く樹脂温度が高い比較例3でラクチドの回収量が低く、L,Lラクチドの割合も少なかった。
【実施例】
【0060】
所定量のポリ乳酸(PLLA,三井化学(株)製LACEA H−100)を紙袋に秤取り、触媒として所定量のMgOを添加して均一になるまで攪拌する。
【0061】
所定の温度条件とした二軸スクリュ押出機に重量フィーダーにより投入し、二軸スクリュ押出機先端から安定して原料樹脂が吐出されるようになってからベント口を介して減圧し、図1に示したものと同様のラクチド回収装置でラクチドを回収しながら状態を安定化させる。
【0062】
第2、第3サイドフィーダー(日本製鋼所製TSF−30)からポリ乳酸を所定量供給し、状態を安定化させる。
【0063】
比較例と同様にラクチドを回収し、回収率およびラクチド組成を把握した。
【0064】
テストの条件を表4に、各減圧ゾーンで10分間に回収されたラクチド量を表5に、回収されたラクチドの光学異性体組成比率を表6に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施に用いられる装置のうち、シール材を用い無い一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1 シリンダー
2a 供給口
3 重量フィーダー
4 可塑化ゾーン
5a、5b、5c シール部
6a、6b、6c 分解ゾーン
7a 減圧ゾーン
8 配管
9 冷却トラップ
10 調圧手段
11 バルブ
12 ギアポンプ
13 真空ポンプ
14 冷却塔
15 モーター
16 減速機
17a、17b、17c ベント口
18 ストランドバス
19 ストランドカッター
20 ペレット
21 ダイ
22a、22b、22c サイドフィーダー
23 添加口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂からラクチドを回収するラクチド回収装置であって、
二軸スクリュ押出機の上流側に配備された第1供給口から下流側へ向かって順次、可塑化ゾーン、第1分解ゾーン、第1シール部、第1減圧ゾーン、第2分解ゾーン、第2シール部、第2減圧ゾーン、第3分解ゾーン、第3シール部、第3減圧ゾーンを配備し、
前記第1ないし第3減圧ゾーンのそれぞれに配備されたベント口である第1ないし第3ベント口が真空発生源により真空吸引される冷却トラップに配管を介して接続されており、
前記第1分解ゾーンの上流側近傍部位に配備された添加口に付設された第1サイドフィーダーと、
前記第2分解ゾーンの上流側近傍部位に配備された第2供給口に付設された第2サイドフィーダーと、
前記第3分解ゾーンの上流側近傍部位に配備された第3供給口に付設された第3サイドフィーダーと、を有することを特徴とするラクチド回収装置。
【請求項2】
請求項1に記載のラクチド回収装置に、前記第1供給口よりポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂を供給してラクチドに分解させて回収する際に、前記第2供給口から前記第2サイドフィーダーにより、前記第3供給口から前記第3サイドフィーダーにより前記ポリ乳酸またはポリ乳酸を含有する熱可塑性樹脂をそれぞれ供給すること、を特徴とするラクチド回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−126491(P2010−126491A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303387(P2008−303387)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】