説明

ラジコン模型のロール角制御装置及びラジコン模型二輪車

【課題】操縦者の操縦操作を容易にすることができ、広い速度域で模型本体の姿勢を安定させることができる、ラジコン模型のロール角制御装置の提供。
【解決手段】ロール角制御装置21は、車体2に、ラジコン受信機と、操舵用モータ13を有する前輪操舵部20とが設けられ、車体20が前輪操舵部20の動作に応じてロールするとともに、操舵用モータ13に対する操作量が中立状態にある場合にはロール角がほぼ0°となる自律安定性を有しているラジコン模型に用いられるものであって、車体2のロール角を検出するロール角検出手段35と、ロール角検出手段35からのロール角θi(検出値)とラジコン受信機からのロール角目標値との偏差に基づき操舵用モータ13に対する操作量を出力してロール角θiをロール角目標値に近付ける制御手段とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、模型本体が自律安定性を有しているラジコン模型に用いられるロール角制御装置、及びそれを備えたラジコン模型二輪車に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
主にホビー用として普及しているラジコン(ラジオコントロールの略、すなわち無線操縦のこと:以下同意である)模型には、四輪車や二輪車のように陸上を走行するもの、飛行機やヘリコプタのように空中を飛行するもの、及び船舶のように水上を航行するもの等がある。これらのラジコン模型においては、模型本体(四輪車や二輪車では車体、飛行機やヘリコプタでは機体、船舶では船体)にラジコン受信機と、操舵用アクチュエータを有する操舵部とが搭載されており、操縦者がラジコン送信機の操作スティックを操作すると、その操作に応じて動く操舵用アクチュエータにより操舵部が駆動され、走行(飛行,航行)している模型本体が旋回等をするようになっている。
【0003】
ところで、例えば二輪車の操舵部は通常、車体(フレーム)の前部に所定のキャスタ角で後傾して支持された操舵軸と、この操舵軸を中心として左右に回動するフロントフォークと、このフロントフォークの下端部に回転自在に支持された前輪等から構成されている。そして、例えば直進走行状態から左へ旋回する場合には、ハンドルを介し操舵軸を右へ回して前輪を僅かに右に向けると、遠心力により車体が左に傾く(ロールする)ので、この状態から前輪を左に向けて適宜なロール角を保つようにすれば、二輪車は前記ロール角と車速とによって決まる旋回半径で左に旋回しながら走行することになる。このように二輪車では、操舵部の動作に応じ車体がロールして旋回するようになっている。
また、操舵軸に加えていたトルクを無くすと、前輪まわりのアライメント(キャスタ角,トレール量等)による復原力がはたらき、車体は略直立状態(ロール角がほぼ0°の状態)まで起き上がって、直進走行に移行する。そして、一定以上の車速で直進走行しているときに、車体を傾けようとする風等の外乱が入った場合には、前記アライメント及び前輪が有するジャイロ効果により、その外乱に抗して車体を直立させようとする力がはたらき、自転車で所謂「手離し運転」をしているときと同様に、車体は自律的に安定して直進走行状態を保持する。このような性質を「自律安定性」という。模型二輪車であっても、前輪まわりのアライメントが適切で、車体(模型本体)の左右の重量バランスも取れている場合には、実車を縮小したような寸法及び形状で、大まかな自律安定性が得られる。
【0004】
模型本体が前記のような自律安定性を有しているのは二輪車に限ったことではなく、例えば主翼に上反角が付けられた模型飛行機では、飛行中に機体が左右に傾くと、左右のエルロン(操舵部)が中立状態のままでも、傾いた機体を水平姿勢に戻そうとする力が生じる。したがって、こうした模型飛行機の機体(模型本体)も自律安定性を有していると言える。
【0005】
他方、例えば実用新案登録第2577593号公報にはラジコン模型二輪車の姿勢制御に係る技術が開示されている。この従来技術においては、二輪車の車体のロール軸回りの回転角速度(倒れ角速度)を検出する角速度センサを設けるとともに、前輪の舵角(方向角度)を変化させるアクチュエータ(具体的にはサーボモータ)を設け、ラジコン受信機で受信した前輪の舵角(目標値)と実際の前輪の舵角とを一致させるように、車体の倒れ角速度を制御する制御信号をアクチュエータに対して出力している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来技術では、前輪の舵角をラジコン送信機から直接指令しているため、車体の旋回半径を操縦者の思い通りに決められる反面、その旋回半径と車速及びロール角とをバランスさせる制御が困難で、走行状態が不安定になったり、操縦者の操縦操作が極めて困難になったりするおそれがあった。
また、フロントフォークが操舵軸を中心として自由に回動できれば、前記前輪まわりのアライメントや前輪が有するジャイロ効果により、外乱に抗して車体を略直立状態に保持する「自律安定性」が発揮されるのであるが、前記従来技術では、サーボモータ(アクチュエータ)で前輪を強制的に操舵(位置制御)する構成によって、フロントフォークの自由な回動を阻害し、自律安定性を殺してしまっていた。そのため、車体に加わる外乱には電気的な制御動作のみで対応するようになっており、例えば直進走行中の車体に急に強い横風が吹き付けたような場合には、制御動作が対応しきれずに、車体が転倒してしまうおそれもあった。
さらに、一般的に振動ジャイロ等で構成される角速度センサでは、温度変化等に起因するドリフト誤差の発生が不可避であり、一定時間ごとに角速度センサ検出値のドリフト誤差補正(ゼロ点調整)を行なう必要がある。それに対し、前記従来技術では、ラジコン模型二輪車を走行させながらドリフト誤差を補正することができなかったので、長時間連続して走行させると、角速度センサのドリフト誤差が次第に大きくなってゆき、制御に支障をきたすという弊害が生じることになった。そのため、定期的にラジコン模型二輪車を停止させ、車体を静止状態に保持した上で、ドリフト誤差補正作業を行なう必要があった。
【0007】
一方、従来のラジコン模型飛行機では、ラジコン送信機の操作スティックの操作角度とエルロン(操舵部)の舵角とを比例させる制御を行なうことが一般的であったので、操縦者は常に機体(模型本体)のロール角を目視して所望のロール角となるように操作しなければならず、やはり操縦操作が容易であるとは言えなかった。
【0008】
本発明者は、以上のような従来技術の問題点を解決するために、ラジコン模型の制御装置について種々研究を重ねた結果、上述した模型二輪車や模型飛行機のように模型本体が自律安定性を有しているラジコン模型においては、操舵部の舵角ではなく模型本体のロール角を制御量とすることにより安定した姿勢制御が行なえることを知得して、本発明を完成させるに至ったものである。
すなわち、本発明の目的は、操縦者の操縦操作を容易にすることができ、しかも低速から高速までの広い速度域で模型本体の姿勢を安定させることができる、ラジコン模型のロール角制御装置を提供することにある。
また、本発明は、前記目的に加えて、模型本体を走行、飛行、又は航行させながら角速度センサのドリフト誤差に起因する弊害を排除することが可能なラジコン模型のロール角制御装置を提供することを目的としている。
さらに、本発明は、車体のロール角を制御することにより、広い速度域で直進時も旋回時も安定した走行が可能なラジコン模型二輪車を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明に係るラジコン模型のロール角制御装置は、模型本体に、ラジコン受信機と、操舵用アクチュエータを有する操舵部とが設けられ、前記模型本体が前記操舵部の動作に応じてロールするとともに、前記操舵用アクチュエータに対する操作量が中立状態にある場合にはロール角がほぼ0°となる自律安定性を有しているラジコン模型に用いられるロール角制御装置であって、前記模型本体のロール角を検出するロール角検出手段と、このロール角検出手段からのロール角検出値と前記ラジコン受信機からのロール角目標値との偏差に基づき前記操舵用アクチュエータに対する操作量を出力して前記ロール角検出値を前記ロール角目標値に近付けるように制御する制御手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0010】
また、前記構成において、ロール角検出手段が、模型本体のロール軸回りの回転角速度を検出するための角速度センサと、この角速度センサから得られる角速度検出値を積分して前記模型本体のロール角を算出する積分手段とから構成されており、さらに、ラジコン受信機が受信したロール角目標値が0°であるか否かを判定する目標値判定手段と、この目標値判定手段がロール角目標値は0°であると判定しているときに前記角速度センサから得られる角速度検出値が減少するようにゼロ点調整し、同時に前記積分手段の積分値を減少させる補正を行なう誤差補正手段とを備えているものである。
【0011】
また、本発明に係るラジコン模型二輪車は、車体と、この車体に搭載されたラジコン受信機と、前記車体の前部に所定のキャスタ角で後傾して支持された操舵軸と、前輪を支持するとともに前記操舵軸を中心として左右に回動するフロントフォークと、前記操舵軸又は前記フロントフォークに正逆方向の回転トルクを印加可能な操舵用アクチュエータと、前記車体の後部側に設けられ原動機により回転駆動される後輪と、前記車体のロール角を制御するロール角制御装置とを備え、前記操舵用アクチュエータは、少なくとも当該アクチュエータに対する操作量が中立状態にある場合には、前記前輪から得られる自律安定性に起因する前記フロントフォークの回動を実質的に妨げない構成とされており、前記ロール角制御手段は、前記車体のロール角を検出するロール角検出手段と、このロール角検出手段からのロール角検出値と前記ラジコン受信機からのロール角目標値との偏差に基づき前記操舵用アクチュエータに対する操作量を出力して前記ロール角検出値を前記ロール角目標値に近付けるように制御する制御手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0012】
また、前記構成において、ロール角検出手段が、車体のロール軸回りの回転角速度を検出するための角速度センサと、この角速度センサから得られる角速度検出値を積分して前記車体のロール角を算出する積分手段とから構成されており、さらに、ラジコン受信機が受信したロール角目標値が0°であるか否かを判定する目標値判定手段と、この目標値判定手段がロール角目標値は0°であると判定しているときに前記角速度センサから得られる角速度検出値が減少するようにゼロ点調整し、同時に前記積分手段の積分値を減少させる補正を行なう誤差補正手段とを備えているものである。
【0013】
なお、本明細書において「ロール角」とは、図4に符号θrで示す、鉛直線と模型本体(車体2)の縦方向の中心線とがなす角度のことをいう。また、「ロール軸回りの回転角速度」とは、模型本体(車体2)のロール方向への倒れ角速度のことをいう。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態に係るラジコン模型のロール角制御装置を、この制御装置を備えたラジコン模型二輪車とともに説明する。
図1における符号1は、この実施形態に係るラジコン模型二輪車を全体的に示している。ラジコン模型二輪車1は、車体2(模型本体)と、この車体2に搭載されたラジコン受信機3と、車体2の前部に所定のキャスタ角で後傾して回動自在に支持された操舵軸4と、この操舵軸4の下方に連設され操舵軸4を中心として左右に回動するフロントフォーク5と、このフロントフォーク5の下端部に回転自在に支持された前輪6と、車体2の後部にリヤアーム7を介して回転自在に支持された後輪8と、この後輪8をギヤボックス(不図示),駆動側スプロケット9,駆動チェーン10,及び被駆動側スプロケット11を介して回転駆動する走行用モータ12(原動機)とを備えている。
【0015】
また、符号13は車体2に搭載された操舵用モータ(操舵用アクチュエータ)を示している。操舵用モータ13のモータ軸にはピニオンギヤ14が固設されるとともに、このピニオンギヤ14と噛み合う扇形の減速ギヤ15が、支持軸16を介して水平軸心回りに回動自在に車体2に枢支されている。減速ギヤ15にはアーム部17が一体形成される一方、操舵軸4の上端部には板状のハンドルアーム18が固着され、このハンドルアーム18と前記アーム部17とがボールリンク19を介して連結されている。図3からわかるように、ボールリンク19は、内側が球面状のすべり面となった球受け部19aを両端に有する棒状のリンク本体19bと、このリンク本体19bの両端にそれぞれ配置され、球受け部19aと嵌合して球関節を構成する球状体19cによりリンク本体19bに角変位自在に連結された一対の固定部19dとで構成されている。そして、一端側の固定部19dが前記アーム部17に、他端側の固定部19dが前記ハンドルアーム18に、それぞれ固定されている。
以上のような各部材により、操舵用モータ13が正逆方向に回転すると、アーム部17が図1に矢印イで示す方向に揺動し、これに伴いハンドルアーム18の先端部が図2に矢印ロで示す方向に揺動して、操舵軸4,フロントフォーク5,及び前輪6を操舵軸4の軸心回りに左右に回動させる前輪操舵部20(操舵部)が構成されている。
【0016】
なお、操舵用モータ13としては、モータに流れる電流値と発生する回転トルクとがほぼ比例し、且つ、界磁石によるトルクむらがなく、電流が流れていないときには外部からの力でモータ軸が軽く回る直流モータが採用されている。
また、モータ軸のピニオンギヤ14と減速ギヤ15とのギヤ比は、操舵軸4を回動するのに必要なトルクが得られ、且つ、逆に前輪6側から操舵軸4を介してトルクが加わると操舵用モータ13が軽く回るようなギヤ比に設定されている。これにより、操舵用モータ13から前記減速ギヤ15,ボールリンク19,ハンドルアーム18等を介して操舵軸4に正逆方向の回転トルクを印加可能であるとともに、操舵用モータ13に電流が流れていない場合(すなわち、後述する制御手段からの操舵用モータ13に対する操作量が中立状態にある場合)には、操舵用モータ13が抵抗となって操舵軸4及びフロントフォーク5の回動を実質的に妨げることのない構成となっている。
したがって、例えば、直進走行中に入った外乱により車体2が左へ傾いた(ロールした)場合に前輪6が自らのジャイロ効果で左に切れたり、また、左右に切れた前輪6が当該前輪6まわりのアライメント(キャスタ角,トレール量等)によって直進状態(舵角0°)に戻ったりする。
【0017】
以上のことから、車体2は、操舵用モータ13に対する操作量が中立状態にある場合にはロール角θrがほぼ0°となる自律安定性を有していると言える。
なお、ピニオンギヤ14と減速ギヤ15とのギヤ比を前記したようなギヤ比に設定することで、衝突時にボールリンク19や減速ギヤ15等が壊れにくくなるという副次的な効果も得られる。
【0018】
図1の符号21は、車体2のロール角を制御するロール角制御装置を示している。このロール角制御装置21は、車体2のロール軸回りの回転角速度を検出するための角速度センサ22(この実施形態では振動ジャイロが用いられている)と、後述する直流アンプ,マイクロコンピュータ,及び操舵用アンプ等(図1では図示省略)とを備えている。また、図1の符号23は操縦者が操作するラジコン送信機(不図示)からの操縦信号を受信するためにラジコン受信機3に付設された受信アンテナを、24はラジコン受信機3からの信号に基づき走行用モータ12へ駆動電流を出力する走行用アンプを、25は電源として車体2に搭載された電池を、それぞれ示している。さらに、図4の符号Gはラジコン模型二輪車1が走行する地面(路面)を示している。なお、この実施形態ではラジコン送信機として、速度調節用とロール角調節用との、2つの操作スティックを備えた2チャンネルの送信機が用いられる。
【0019】
次いで、図5を参照しつつ、ラジコン模型二輪車1の走行制御(速度制御及びロール角制御)に係るハードウェア構成を説明する。
ラジコン受信機3は、図外のラジコン送信機からの操縦信号を受信し、この受信した信号に応じ、速度目標値を走行用アンプ24へ、ロール角目標値をロール角制御装置21へ、それぞれPWM(パルス幅変調)信号26,27として出力するように構成されている。
そして、走行用アンプ24は、ラジコン受信機3からの速度目標値に応じた電流を走行用モータ12へ出力し、この出力に応じて走行用モータ12が後輪8を回転駆動し、車体2を速度目標値に応じた速度で走行させるようになっている。この速度制御には開ループ制御が採用されている。
【0020】
一方、ロール角制御装置21は、前記角速度センサ22と、この角速度センサ22の出力信号を増幅する直流アンプ28と、この直流アンプ28及びラジコン受信機3からの入力信号に基づき所定の演算処理を行なうマイクロコンピュータ29と、このマイクロコンピュータ29の出力信号に応じて操舵用モータ13へ電流を出力する操舵用アンプ30とを備えている。
角速度センサ22の出力は電圧(アナログ値)であり、これが直流アンプ28で増幅された後、マイクロコンピュータ29へ入力される。
マイクロコンピュータ29は、CPU以外に、ROMやRAM等のメモリ、入出力ポート、タイマ、AD(アナログ−デジタル)変換器、DA変換器の一種であるPWM出力部等を1つのチップ上に集積したワンチップ・マイコンで構成されており、前記ROMには後述する図7のフローチャートに示される処理手順(アルゴリズム)を当該マイクロコンピュータ29で実行するためのプログラムが予め記憶されている。そして、直流アンプ28を経て入力される角速度センサ22の出力と、ラジコン受信機3からPWM信号27として入力されるロール角目標値とに基づいて生成した制御信号を前記PWM出力部から操舵用アンプ30へ出力するようになっている。
【0021】
図6は、ロール角制御装置21によるラジコン模型二輪車1のロール角制御動作の概略を説明するブロック線図であって、図中、符号31,32は加え合せ点を、33は引出し点を、A1,A2は比例定数を、それぞれ示している。また、符号34は角速度センサ22の出力から得られた角速度ω(検出値)を積分して車体2のロール角θiを算出する積分手段を示している。積分手段34の積分動作はマイクロコンピュータ29で所定のプログラムを実行することにより実現され、この積分手段34及び角速度センサ22により本発明にいうロール角検出手段35が構成されている。
この図6に基づいてロール角制御動作の概略を説明すると以下のようになる。すなわち、先ずラジコン受信機3により入力されたロール角目標値から前記ロール角検出手段35で検出されたロール角θiを減算することにより、ロール角θi(検出値)と前記ロール角目標値との角度偏差37を得る。次いで、この角度偏差37に比例定数A1を乗じて得られた角速度目標値38から角速度ω(検出値)を減算して角速度偏差39を得る。そして、この角速度偏差39に比例定数A2を乗じて得られた電流40を操舵用モータ13に出力する。これにより前輪操舵部20を介して前輪6が操舵され、それに応じて車体2がロールする。この際の車体2のロール軸回りの回転角速度を角速度センサ22で検出し、角速度ω(検出値)を加え合せ点32へフィードバックするとともに、角速度ωを積分して得たロール角θi(検出値)を加え合せ点31へフィードバックする。
このように、ロール角制御は、加え合せ点31から操舵用モータ13,前輪操舵部20,車体2,角速度センサ22,及び積分手段34を経由して加え合せ点31へ戻る角度制御ループ41と、加え合せ点32から操舵用モータ13,前輪操舵部20,車体2,及び角速度センサ22を経由して加え合せ点32へ戻る角速度制御ループ42との、2つの閉ループを有するフィードバック制御となっている。
【0022】
次いで、図7のフローチャートに沿って、ロール角制御装置21の動作を詳細に説明する。
ラジコン送信機(不図示)及びラジコン受信機3に電源を投入する(又は電源リセットを行なう)と、先ずステップS1でデータ等の初期化が行なわれる。
ステップS2では、ラジコン送信機(この時点では各操作スティックが中立位置にある)から送信される信号を受信したラジコン受信機3が、ロール角0°を指示するロール角目標値をPWM信号27として出力するとともに、マイクロコンピュータ29が、前記出力されたPWM信号27のパルス幅(ロール角目標値が0°である場合のパルス幅:以下「中立パルス幅」という)を当該マイクロコンピュータ29内のタイマで読み取り、メモリに記憶する。
【0023】
中立パルス幅がメモリに記憶された後、操縦者はラジコン送信機の各操作スティックを操作して、ラジコン模型二輪車1の操縦を開始する。同時に、角速度センサ22の出力が直流アンプ28を経由してマイクロコンピュータ29に入力され始める。マイクロコンピュータ29では、直流アンプ28からのアナログ入力を例えば1/500秒といった一定周期ごとにAD変換する。
ステップS3では、直流アンプ28を経て入力された角速度センサ22の出力がAD変換済みであるか否かを判定する。そして、まだAD変換が済んでいなければステップS3に留まり、AD変換済みであればステップS4へ進む。
【0024】
ステップS4では、車体2のロール軸回りの回転角速度ωを算出する。具体的には、直流アンプ28を経て入力された角速度センサ22出力のAD変換値から補正値(マイクロコンピュータ29内のメモリに記憶されている)を減じて得た値を角速度ω(検出値)とする。なお、ここでAD変換値から補正値を減算するのは、実際に車体2の角速度がゼロである場合でも、角速度センサ22の出力電圧はゼロではなくて、常にある程度の出力(オフセット)を有しており、このオフセット相当分を取り除く必要があるからである。
【0025】
ステップS5では、前記ステップS4で算出(検出)された角速度ωを積分して、車体2のロール角θiを算出する(積分動作)。また、このステップS5で得られたロール角θi(積分手段34の積分値)を、マイクロコンピュータ29内のメモリに記憶する。
続くステップS6では、その時点でラジコン受信機3から出力されているロール角目標値に係るPWM信号27のパルス幅を読み取り、これが前記ステップS2で記憶した中立パルス幅と等しいか否か(すなわち、ラジコン受信機3が受信しているロール角目標値が0°であるか否か)を判定する(目標値判定動作)。そして、パルス幅が中立パルス幅と相違していると判定された場合はステップS7へ進み、中立パルス幅と等しいと判定された場合はステップS9へ進む。
【0026】
ステップS7及びステップS8では、前記ステップS5で得たロール角θiとラジコン受信機3からのロール角目標値との偏差に基づき操舵用モータ13に対する操作量を出力して、ロール角θi(検出値)をロール角目標値に近付けるように制御する制御動作が実行される。
すなわち、先ずステップS7で、操舵用モータ13に対する操作量(出力電流値)を算出する。ここでは、前記図6の説明でも述べたように、先ずロール角目標値からロール角θiを減じて角度偏差を算出する。次いで、この角度偏差に比例定数A1を乗じて角速度目標値を算出する。そして、この角速度目標値から前記ステップS4で得た角速度ωを減じて角速度偏差を算出し、さらに、この角速度偏差に比例定数A2aを乗じて出力電流値を算出して、この出力電流値に対応する信号をマイクロコンピュータ29から操舵用アンプ30へ出力する。続くステップS8では操舵用アンプ30が、前記ステップS7で出力された信号に応じた電流値の電流(操作量)を操舵用モータ13に対して出力し、ステップS3へ戻る。
【0027】
なお、図7における比例定数A2aはマイクロコンピュータ29内での計算に用いられるものであって、この比例定数A2aに、マイクロコンピュータ29内でのDA変換時の利得と、操舵用アンプ30の利得とを掛け合わせたものが、前記図6に示した比例定数A2となる。
【0028】
ところで、角速度センサ22が、その出力にドリフト誤差を生じず、オフセットが常に一定であるという理想的な出力特性を有するものであれば、角速度センサ22の出力に基づいて検出(算出)されるロール角θiは実際の車体2のロール角θr(図4参照)とほぼ等しくなるので、ロール角θi(検出値)を実際のロール角θrと見なした閉ループ制御が問題なく行なえる。しかしながら、一般に角速度センサは温度変化等に伴うドリフト誤差を有しており、特に、この実施形態で角速度センサ22として用いている振動ジャイロではドリフトによってオフセットが大きく変化するので、前記ステップS4における補正値が一定であると、同ステップで得られる角速度ω(検出値)が次第に誤差を含むようになる。また、その角速度ωを積分するステップS5で得られるロール角θi(検出値)は、角速度ωに含まれている誤差が積算される結果、より大きな誤差を含むものとなる。こうしてロール角θiが実際のロール角θrから次第に離れてゆき、やがて操縦不能に陥るおそれがある。
【0029】
そのため、この制御では、ラジコン模型二輪車1が直進走行中にステップS9に示す誤差補正動作を実行することにより、前記ドリフト誤差に起因する弊害が生じることを防止している。すなわち、ステップS6で、ラジコン受信機3からのPWM信号27のパルス幅が中立パルス幅と等しい(ラジコン受信機3が受信しているロール角目標値が0°である)と判定される状態では、車体2は前輪6から得られる自律安定性により、原則としてロール角θrがほぼ0°の直立状態を保ったまま直進走行しているものと考えられる。したがって、この状態からステップS9へ進んで、角速度センサ22の出力から得られる角速度ω(検出値)をゼロに近付けるとともに、ロール角θi(積分手段34の積分値)を0°に近付ける、以下のような誤差補正動作が実行される。
【0030】
先ず、角速度ωに関しては、ドリフトによる角速度センサ22出力のオフセットの変化に応じてオフセットを取り除くための補正値を変化させる、「ゼロ点調整」を行なう。具体的には、前回のステップS4で用いられた補正値に、予め設定されている所定値αを加減算する。ここで、所定値αを加算するか減算するかは、ステップS4で得られた角速度ωの絶対値|ω|を減少させる方向に基づいて決められる。すなわち、所定値αを加算すれば絶対値|ω|が減少する場合には、元の補正値に所定値αを加算し、反対に所定値αを加算すれば絶対値|ω|が増加する場合には、元の補正値から所定値αを減算する。そして、こうした加減算により得られた値を新たな補正値としてマイクロコンピュータ29内のメモリに記憶する。このようにして、次回のステップS4で算出される角速度ωが減少する方向へゼロ点をずらすのである。
なお、所定値αは、角速度センサ22のドリフトに起因する角速度ωの変化の速さよりも、ゼロ点調整により角速度ω(絶対値|ω|)が減少してゆく速さの方が、若干速くなる程度の値に設定される。これにより、ステップS9及びステップS4を何回か通過するうちに、角速度ωが徐々にゼロに近付いてゆく。
【0031】
一方、ロール角θiに関しては、ステップS5で算出されたロール角θi(積分値)に、予め設定されている所定値βを加減算する。ここで、所定値βを加算するか減算するかは、ステップS5で得られたロール角θiの絶対値|θi|を減少させる方向に基づいて決められる。すなわち、所定値βを加算すれば絶対値|θi|が減少する場合には、元のロール角θiに所定値βを加算し、反対に所定値βを加算すれば絶対値|θi|が増加する場合には、元のロール角θiから所定値βを減算する。そして、こうした加減算により得られた値を新たなロール角θiとしてマイクロコンピュータ29内のメモリに記憶する。
なお、所定値βは、その時点において角速度センサ22のドリフトに起因して積分手段34に蓄積されつつある角速度ωの検出値と、当該誤差補正動作に入る以前から既に積分手段34に蓄積されている誤差とを、徐々に排除できるような値に設定される。これにより、ステップS9を何回か通過するうちに、ロール角θiが徐々に0°に近付いてゆく。
【0032】
さらに、図7では図示を省略したが、ステップS9でソフトウェア上での誤差補正動作が行なわれるのと同時に、図5に符号43で示した、マイクロコンピュータ29から直流アンプ28へのドリフト・オフセット補正出力が、ハードウェア上で行なわれる。この動作は、マイクロコンピュータ29が有するアナログ出力機能と、直流アンプ28が有するゼロ点補正機能とにより実現されるもので、直流アンプ28の出力に含まれるバイアス成分を低減して、マイクロコンピュータ29側の入力飽和を防ぐ目的で行なわれる、精度の粗い補正動作である。
【0033】
ステップS9で、前記のようにして補正値及びロール角θiを変更した後は、ステップS7に進み、前記ステップS6から直接ステップS7へ進んだ場合と同様に操作量の算出を行ない、さらにステップS8を経てステップS3へ戻る。
【0034】
この実施形態のラジコン模型二輪車1に搭載されたロール角制御装置21は、以上のように、前輪6の舵角ではなく車体2のロール角を制御量とし、これを目標値に近付ける制御を行なうものであるため、前記した比例定数A1及び比例定数A2(A2a)に適切な値が設定されてさえいれば、ラジコン模型二輪車1を安定的に制御することが可能である。
すなわち、例えば直進走行状態にあるラジコン模型二輪車1を左旋回させる場合には、操縦者がラジコン送信機のロール角調節用の操作スティックを所望の角度だけ左に倒せば、操舵用モータ13から操舵軸4に、先ず前輪6を右へ向けて車体2を左へ倒す向きのトルクが印加され、また、車体2がロール角目標値を超えて左へ倒れようとしたときには前輪6を左へ向けて車体2が倒れる動きを止める向きのトルクが印加され、最終的には車体2のロール角θiがロール角目標値と一致した角度に収束するように制御される。これにより、車体2は図4に示したようにロール角θr(≒θi)で左(正面側から見れば右)にロールし、このロール角θrと車速とから自動的に決まる旋回半径で左に旋回走行することになる。
【0035】
また、この実施形態のロール角制御装置21は角度制御ループ41に加えて角速度制御ループ42も備えており、この角速度制御ループ42によりフィードバックされた角速度ω(検出値)を用いて算出した角速度偏差に応じた操作量を操舵用モータ13へ出力するので、角度偏差の大きさに応じて車体2のロール角速度ωを適切に増減させる動的安定性が得られる。そして、この作用と、前輪6が有するジャイロ効果とにより、車体2のロール軸回りの発振(ハンチング)が防止される。
【0036】
因みに、この実施形態ではラジコン模型二輪車1の旋回半径(前輪6の舵角)それ自体は直接には制御しておらず、且つ、ロール角制御動作にラジコン模型二輪車1の車速を反映させることもしていない。しかしながら、前輪6のジャイロ効果が車速に比例して大きくなるため、操舵用モータ13へ出力される電流(すなわち操舵軸4に印加される回転トルク)に対する前輪6の舵角の変化量(利得)が車速に反比例して小さくなるのに対し、前輪6の舵角変化に対する車体2のロール軸回りの角速度の変化量(利得)は車速に比例して大きくなり、これら2つの利得の車速による変化が相殺し合うことになるため、実際に車速を検知・勘案しなくても、広い車速域で安定した姿勢制御が行なえる。
したがって、前記従来技術のように旋回半径,車速,及びロール角をバランスさせる困難な制御を行なう必要がなく、制御装置の構成を簡潔にすることができるとともに、操縦者の操縦操作も容易になるという利点が得られる。
【0037】
一方、例えば前記した左旋回状態からラジコン送信機のロール角調節用の操作スティックを中立位置に戻した場合には、ロール角目標値が0°となって車体2のロール角θiとの間に角度偏差が生じる。このため、操舵用モータ13から操舵軸4に、先ず前輪6を左へ向けて車体2を起こす向きのトルクが印加され、また、車体2が直立状態を超えて右へ倒れようとしたときには前輪6を右へ向けて車体2が倒れる動きを止める向きのトルクが印加され、最終的には車体2のロール角がほぼ0°の直進走行状態に収束するように制御される。
そして、この直進走行状態においては、風等の外乱が入って車体2が傾くと、ロール角目標値(0°)とロール角θiとの間に偏差が生じ、傾いた車体2を元の直立状態に戻そうとする制御がロール角制御装置21によって行なわれるとともに、前輪6が有するジャイロ効果及び前輪6まわりのアライメントによる自律安定性も発揮される。そのため、例えば直進走行中の車体2に急に強い横風が吹き付けて、ロール角制御装置21の制御動作がこれに対応しきれないような場合でも、自律安定性(特に前輪6のジャイロ効果)による復原力がはたらくことにより、車体2が転倒するような事態は回避される。
【0038】
さらに、ロール角目標値が0°の状態では、車体2は自律安定性により原則としてロール角θrがほぼ0°の直立状態を保とうとするので、これを利用して前記図7のステップS9で説明した誤差補正動作が自動的に実行される。これにより、ラジコン模型二輪車1を停止させることなく、走行させながら角速度センサ22のドリフト誤差に起因する弊害を防止できる。そのため、ラジコン模型二輪車1を長時間連続して走行させることが可能になるとともに、誤差補正動作を実行するか否かを判定するために車体2の直立状態を検出(保証)するセンサ等を別途設ける必要がないという利点が得られる。
【0039】
なお、前記ステップS9の誤差補正動作において、角速度ωを徐々にゼロに近付けるとともに、ロール角θiを徐々に0°に近付ける構成としているのは、以下のような理由による。すなわち、前記の説明からもわかるように、ロール角目標値が0°(パルス幅が中立)であっても、外乱による車体2の傾きのため、実際の角速度やロール角θrがゼロになっていない場合もある。しかし、この場合でもロール角目標値が0°であればステップS6から自動的にステップS9の誤差補正動作に入るので、ここで角速度ωを一気にゼロにするとともに、ロール角θiを一気に0°とするような補正を行なうと、実際の角速度及びロール角θrと、補正後の角速度ω及びロール角θiとの間に、かえって誤差が生じてしまう事態も起こり得る。
また、ステップS9で角速度ω及びロール角θiを強制的にゼロにすると、次のステップS7で、角度偏差、角速度偏差が共にゼロになる結果、算出される操舵用モータ13への操作量(出力電流値)もゼロとなり、ロール角制御装置21は直進走行中に入った急な外乱に対応して直進安定性を助長する制御動作を行なうことができなくなる。
【0040】
それに対し、この実施形態にようにステップS9で用いる所定値αを、角速度センサ22のドリフトに起因する角速度ωの変化よりも若干速い程度の誤差補正動作が行なわれるような比較的小さな値とし、また、所定値βも必要以上に大きくしないで、このステップS9を何回か通過(ループ)するうちに角速度ω及びロール角θiを徐々にゼロに近付けてゆく構成とすることにより、その間に加わった一時的な外乱による車体2の傾きが平均化される結果、前記したように誤差補正動作でかえって誤差を生じさせるという事態を回避することができる。
また、ステップS9を一回通過するごとの補正値(ステップS4で用いられる補正値)及びロール角θiの変化幅は小さいので、ロール角目標値が0°の直進走行中に車体2を急速に傾けるような外乱が入った場合は、ステップS9での誤差補正動作が追い付けずに、角速度ω及びロール角θiは前段のステップS4,S5で算出された値と大差ない値のままで、ステップS9を通過してステップS7に進む。これにより、ステップS6から直接ステップS7へ進んだ場合とほぼ同様に操作量を算出することができ、したがって、ロール角制御装置21は誤差補正動作を行ないながら、同時に直進走行中に入った急な外乱に対応して車体2の角速度を抑え、ロール角を0°に戻そうとする、直進安定性を助長する制御動作を実行することができる。
【0041】
ところで、以上の実施形態では、ラジコン受信機3が受信しているロール角目標値が0°であるときのみ誤差補正動作に入るようにしたが、例えば図6において、角速度センサ22の出力側にハイパスフィルタを介装するとともに、積分手段34の積分値から常時所定値を減算して不完全積分とするように構成した場合でも、角速度センサ22のドリフトに起因する制御上の弊害を防止することが可能であり、こうした構成はアナログ回路でも実現できる利点がある。ただし、この場合はゆっくりとした角速度を検出することができないので、旋回している車体が自律安定性により徐々に起き上がってくるという傾向が生じる。
【0042】
また、前記ではロール角検出手段35を角速度センサ22と、この角速度センサ22の出力から得られる角速度ωを積分する積分手段34とから構成したが、例えば図8に示すように、ロール角検出手段として、車体2のロール角を直接検出する角度センサ45を角速度センサ22とは別個に設け、この角度センサ45が検出したロール角θiを加え合せ点31へフィードバックする角度制御ループ46を構成しても、広い車速域で安定した姿勢制御が行なえるという効果は得られる。
なお、角速度センサ22としては、前記した振動ジャイロ以外に、例えば光ファイバジャイロ、機械式ジャイロ、ガスレートジャイロ等を用いることも考えられる。
さらに、例えば図9に示すように、角速度センサ22に代えて角度センサ45が検出したロール角θiを微分する微分手段47を設け、この微分手段47で算出された角速度ωを加え合せ点32へフィードバックする角速度制御ループ48を構成しても、前記図8の場合とほぼ同様の効果が得られる。
【0043】
また、本発明に係るラジコン模型二輪車の構成も前記実施形態に限定されることはなく、例えば前記では前輪操舵部20が操舵用モータ13の回転トルクを操舵軸4に印加する構成としたが、回転トルクをフロントフォーク5に印加する構成であってもよい。
また、前記では操舵用アクチュエータとして操舵用モータ13を用いたが、モータ以外の操舵用アクチュエータを採用しても、もちろん構わない。
さらに、操舵用アクチュエータの力を操舵軸4又はフロントフォーク5に伝達する機構も前記したものに限られず、フロントフォーク5の回動を妨げないという条件さえ満たしていれば、どのような機構を採用しても構わない。
【0044】
また、前記ではロール角制御装置21をラジコン模型二輪車1に適用した例を示したが、本発明に係るロール角制御装置は、模型本体が自律安定性を有しているものであれば、例えば模型飛行機や模型船舶等、二輪車以外のラジコン模型にも適用できることは言うまでもない。
図10は本発明のロール角制御装置を適用可能な模型の一例としてのラジコン模型飛行機101を示している。同図において、符号102はラジコン模型飛行機101の機体(模型本体)を、103L,103Rは左右の主翼を、104L,104Rは左右のエルロン(操舵部)を、それぞれ示している。
補助翼とも呼ばれるエルロン104L,104Rは、それぞれ主翼103L,103Rの後部に上下回動可能に枢支されている。また、図示を省略するが、左右のエルロン104L,104Rを互いに反対の上下方向へ回動させる操舵用アクチュエータが設けられており、この操舵用アクチュエータによって、例えば図10(c)に示すように、左側のエルロン104Lを上向きに、右側のエルロン104Rを下向きに、それぞれ回動させると、機体102は図中の矢印ハで示す向きにロールするようになっている。
また、図10(b)に示すように、左右の主翼103L,103Rには上反角γが付けられており、この上反角γにより、例えば図10(d)に示すように機体102が左へ傾くと、左側の主翼103Lの揚力が増し、エルロン104L,104Rが中立状態でも機体102は図中の矢印ニで示す向きに回動して水平状態(ロール角が0°の状態)に戻るようになっている。したがって、このラジコン模型飛行機101の機体102は自律安定性を有していると言える。
【0045】
このようなラジコン模型飛行機101に前記ロール角制御装置21とほぼ同様のロール角制御装置(不図示)を搭載すれば、機体102のロール角(検出値)をラジコン送信機から送信したロール角目標値に近付ける制御が自動的に行なわれるので、従来のように操縦者が機体のロール角を目視しながら所望のロール角となるように操作する必要がなく、操縦者の操縦操作が容易になり、機体102の姿勢も安定するという効果が得られる。
また、機体102が自律安定性を有しているため、ロール角目標値が0°の状態(この状態では原則としてエルロン104L,104Rが中立位置にある)を判定し、この状態で前記ロール角制御装置21の場合と同様に、角速度センサのドリフト誤差に起因する弊害を防止するための誤差補正動作(角速度センサのゼロ点調整動作及び積分手段の積分値を減少させる動作)を行なうことができる。これにより、長時間連続して飛行させることが可能となる。
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るロール角制御装置によれば、模型本体のロール角を検出し、このロール角の検出値をロール角目標値に近付ける制御が行なわれるので、ラジコン操縦者の操縦操作を容易にすることができ、しかも低速から高速までの広い速度域で模型本体の姿勢を安定させることが可能となる。
【0047】
また、ロール角目標値が0°であると判定されたときに自律安定性を利用した誤差補正動作が実行されるので、模型本体を停止させることなく角速度センサのドリフト誤差に起因する制御上の弊害を防止することが可能となる。また、模型本体の直立状態を検出するセンサ等を別途設ける必要がないという利点も得られる。
【0048】
また、本発明に係るラジコン模型二輪車によれば、前輪から得られる自律安定性が操舵用アクチュエータにより妨げられることがないので、風等の外乱が入って車体が傾くと、傾いた車体を直立状態に戻そうとする制御がロール角制御装置によって行なわれるとともに、自律安定性により車体を直立状態に戻す復原力もはたらき、極めて安定した走行状態が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るロール角制御装置を備えたラジコン模型二輪車の側面図である。
【図2】主に前輪操舵部を示すラジコン模型二輪車の要部拡大概略平面図である。
【図3】ボールリンクの構造を示す要部斜視図である。
【図4】旋回走行状態を示すラジコン模型二輪車の正面図である。
【図5】ラジコン模型二輪車の走行制御に係るハードウェアの概略構成図である。
【図6】ロール角制御装置によるロール角制御動作の概略を説明するブロック線図である。
【図7】ロール角制御装置の動作を示すフローチャート図である。
【図8】ロール角制御装置の別の実施形態を説明するブロック線図である。
【図9】ロール角制御装置のさらに別の実施形態を説明するブロック線図である。
【図10】ラジコン模型飛行機を示す図であって、図10(a)は平面図、図10(b)は正面図、図10(c)はエルロンによる機体のロール状態を説明する正面図、図10(d)は自律安定性による機体の復原状態を説明する正面図である。
【符号の説明】
1 ラジコン模型二輪車
2 車体(模型本体)
4 操舵軸
5 フロントフォーク
6 前輪
13 操舵用モータ(操舵用アクチュエータ)
20 前輪操舵部(操舵部)
21 ロール角制御装置
22 角速度センサ
34 積分手段
35 ロール角検出手段
45 角度センサ(ロール角検出手段)
101 ラジコン模型飛行機
102 機体(模型本体)
104L,104R エルロン(操舵部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
模型本体に、ラジコン受信機と、操舵用アクチュエータを有する操舵部とが設けられ、前記模型本体が前記操舵部の動作に応じてロールするとともに、前記操舵用アクチュエータに対する操作量が中立状態にある場合にはロール角がほぼ0°となる自律安定性を有しているラジコン模型に用いられるロール角制御装置であって、
前記模型本体のロール角を検出するロール角検出手段と、このロール角検出手段からのロール角検出値と前記ラジコン受信機からのロール角目標値との偏差に基づき前記操舵用アクチュエータに対する操作量を出力して前記ロール角検出値を前記ロール角目標値に近付けるように制御する制御手段とを備えてなることを特徴とするラジコン模型のロール角制御装置。
【請求項2】
ロール角検出手段が、模型本体のロール軸回りの回転角速度を検出するための角速度センサと、この角速度センサから得られる角速度検出値を積分して前記模型本体のロール角を算出する積分手段とから構成されており、さらに、ラジコン受信機が受信したロール角目標値が0°であるか否かを判定する目標値判定手段と、この目標値判定手段がロール角目標値は0°であると判定しているときに前記角速度センサから得られる角速度検出値が減少するようにゼロ点調整し、同時に前記積分手段の積分値を減少させる補正を行なう誤差補正手段とを備えている請求項1に記載のラジコン模型のロール角制御装置。
【請求項3】
車体と、この車体に搭載されたラジコン受信機と、前記車体の前部に所定のキャスタ角で後傾して支持された操舵軸と、前輪を支持するとともに前記操舵軸を中心として左右に回動するフロントフォークと、前記操舵軸又は前記フロントフォークに正逆方向の回転トルクを印加可能な操舵用アクチュエータと、前記車体の後部側に設けられ原動機により回転駆動される後輪と、前記車体のロール角を制御するロール角制御装置とを備え、
前記操舵用アクチュエータは、少なくとも当該アクチュエータに対する操作量が中立状態にある場合には、前記前輪から得られる自律安定性に起因する前記フロントフォークの回動を実質的に妨げない構成とされており、前記ロール角制御手段は、前記車体のロール角を検出するロール角検出手段と、このロール角検出手段からのロール角検出値と前記ラジコン受信機からのロール角目標値との偏差に基づき前記操舵用アクチュエータに対する操作量を出力して前記ロール角検出値を前記ロール角目標値に近付けるように制御する制御手段とを備えてなることを特徴とするラジコン模型二輪車。
【請求項4】
ロール角検出手段が、車体のロール軸回りの回転角速度を検出するための角速度センサと、この角速度センサから得られる角速度検出値を積分して前記車体のロール角を算出する積分手段とから構成されており、さらに、ラジコン受信機が受信したロール角目標値が0°であるか否かを判定する目標値判定手段と、この目標値判定手段がロール角目標値は0°であると判定しているときに前記角速度センサから得られる角速度検出値が減少するようにゼロ点調整し、同時に前記積分手段の積分値を減少させる補正を行なう誤差補正手段とを備えている請求項3に記載のラジコン模型二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−20652(P2006−20652A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−382921(P2001−382921)
【出願日】平成13年12月17日(2001.12.17)
【出願人】(501485009)
【Fターム(参考)】